高木「見果てぬ夢」 黒井「過ぎさりし日の夢」 (17)

――順二朗さん、順二朗さん。

ああ、君か…どうしたんだい?こんな所に。

――あら?冷たいんですね、久々に会いに来たのに。

そうか、そうだな…そんな時期だったか。


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――お元気そうですね。

ああ、お蔭様で…だな。

――ああ、お気になさらず、別に恨み言言おうと思って来た訳じゃありませんから。

どうしたんだ?

――ここはいつも、活気があるわ。こんな私でも元気になる。

そうだな、彼女達のお蔭だ。

――新しいプロデューサー君も、でしょう?

ああ、彼のお蔭で、私もだいぶ楽をさせてもらっているよ。

――お蔭お蔭で、順二朗さんが全然働いてないじゃないですか。

そんな事は無いぞ?私だって敏腕プロデューサーとしてかつては…いや、違うな。

――あら、どうしたんですか?

私が愚かだったから、幾人ものアイドルを潰してきた。

――そういう時代でした、仕方がないですよ。

だが…!

――順二朗さんは、それを罪として見ているのですか?

ああ、償いきれない罪だと思っている。だからこそ、私はこうして…

――そう、あなたは自分の手で叶える事が出来なかった夢を、今も見続けている。

見果てぬ夢かもしれん。

――そうですね…アイドル、人々の羨望の的。その運命は激しくも短いモノ…

線香花火の様なアイドルも居れば、打ち上げ花火の様に、一発で終わるアイドルもいる。使い捨てるように働かせ、消耗させ、人気がなくなれば。

――ポイ、ですか。芸能界の厳しさですね。

だが、私はそれが許せなかった。長く、ファンに愛されるアイドルを、ファンと共に歩むアイドルを…

――ホント、変わりませんね…あの人とは大違いだわ。


黒井か。あいつは、しかしまだアイドルと言う存在への憧れ、夢は持っているのではないかな…?

――ええ。

会って、来たのか?

――これから行こうと思っている所です、向こうからしたら、迷惑な話でしょうけど。

どうかな?案外君にご執心の様だったからな。

――あら、そうなんですか?

さあ、な。本人に聞いてみると良い。

――意地悪いですね。狸みたいな温厚な顔をして。

相変わらず辛辣だな、君も。


――私はもう、変われませんから…一番キラキラしていた時を、あなた達には覚えておいて欲しいから。

そう、だな…君の、輝かしい時代は、私の心の中で、今も息づいている。そして、彼らにもそれを味わってもらいたい。

――あの子達ならすぐですよ。

そうだな…私では見れなかった景色を、見る事が出来るのだろう…羨ましい事だ。

――順二朗さん…私、そろそろ行かないと

ああ、話せて楽しかったよ、私もいつかそちらへ行くよ。


――ふふっ、ゆっくりいらしてください、まだ準備が整っていませんから。

そうか…そうだな、せいぜい、こちらで楽しんでから行くとするよ。

――そうしてください。それでは、また来年にでも。

ああ…また、な。






――長…!社長…!

「高木社長!起きてください!」

「んっ…ああ、音無君か…」

「もうっ、呼んでも応えて頂けないから社長室覗いたら、椅子に座ったまま寝てるんですもの。お疲れですか?」

「あ、ああ…いや、何だろうな」

「そう言えば、寝言を言ってましたよ」

「え?」

「またな、って」

「…ああ、夢を、見ていたようだ」

「そうですか…申し訳ありません、15時から美希ちゃんのロケの付添なんです。事務所をお願いできますか?」

「ああ、分かった。行ってきたまえ」

「はい、それじゃあ…」


「…今日も、皆輝いているよ。君は見ているかな…?」







――黒ちゃん、黒ちゃん。

黒ちゃん言うな!お前は…また来たのか。

――順二朗さんに会ったついでにね。

ついでなら、私の所なんぞに寄らんでも良いだろうに。

――たまには会いたくなるのよ、昔馴染みにね。

よせ、そんな関係じゃない。私とお前は、あくまで所属事務所の担当アイドルと、プロデューサーだった。高木とは違う。

――あら、冷たいのね。あなたがあんまり冷たいから、順二朗さんを好きになっちゃったのよ。

本心じゃないだろう?

――ふふっ、どうかしらね?

高木は人が好いからな。

――どういう意味よ?

お前みたいな性悪女、私では手に負えん。


お前みたいな性悪女、私では手に負えん。

――あなたに性悪だなんて言われたくないわ。

私は性根が悪いのではない、高木と違って夢なんぞ見てない、現実を見てるだけだ。

――そう言いながら、芸能界なんて所に居るんだから。

私は自分の力で、芸能界のトップに立つ、その為にはジュピターの連中のみならず、このプロダクションを更に発展させなければならない。

――なぜ、トップになりたいの?

私の力を証明したいからだ。


――アイドル達の力で得た栄光が、イコールであなたの力と言う訳では無いでしょうに。

高木は、そう言って居たな。そう、確かに私がステージで踊ったり、歌ったりしている訳では無い。しかしこのプロダクションを見ろ、レッスン場も完備して、トレーナーも専属の者を雇っている。

――設備や人員が、トップアイドルを生み出す条件なの?

どれだけの才能を持っていようが、芽が出なければ仕方がない。最高の条件と最高の教育、そして当の本人の強い意志が無い限りは、宝の持ち腐れだ。

――順二朗さんは、そうは思っていないようね。アイドル同士やプロデューサーの絆や団結力、これが大事だと。

青臭い理想論だ。確かに765の連中は良い素質を持っている。だが、所詮は慣れあいで持っているだけだ…私に出来る事は、所属アイドルに最大のチャンスと教育を施すことだ。それが、私の役目だ。


――なんだかんだ言って、アイドル思いなのよね、黒ちゃん。

何の用だ。用が無いならさっさと帰れ。

――そう言いながら、良い気持ちでお昼寝中だこと。

煩い!

――あらあら。怒っちゃった…黒井さん、順二朗さんと昔の様には、もう戻れないの?

私とアイツは、相容れない存在だ。

――そうかしら?多分、アイドルと言う存在に夢を抱いていると言う点では、きっと変わらないわ。

そんな事はない。


――でなければ、態々自分で直接プロデュースなんかしないでしょうに。あなたも言ってたじゃない、見ている者を幸せにする、そんなアイドルを育てたいって。

高木がいった事と聞き違っているのだろう。私はそんな事を考えている訳では無い。

――黒ちゃん…

私は、私の為に、芸能界のトップを目指すのだ。お前が、何時までもここに居ると、私は休息がとれん、とっとと帰れ。

――相変わらず素直じゃないわね、黒ちゃん。

だから!

――ふふっ…また来ます。しばらくは私がこっちに来るけど


どうせ私はお前と違う所に行くから問題ない

――あら、それは寂しいわ。

はっ…こちらは清々する。

――…またね、黒井さん。

…ああ…また、な。






―――――長?黒井社長?


「ん…私としたことが…」

「いえ、声がするので何かと思い、勝手に入らせていただきました」

「声?」

「はい、強い口調で煩いだとか清々するとか…」

「この事は他言無用だ。話せば貴様の首を」

「め、滅相もございません!失礼しました!」

「…そう言う時期か、気味の悪いものだ……ふんっ」


「―――高木か?私だ。少し会って話したい。いつものバーで待つ…煩い、そういう事もある!ではな!…後味の悪い夢だ…過ぎた日の夢、だ」




「まったく、変な奴だ……見果てぬ夢、か…私は、その結果を見る事が出来るのかな…?」




――あなた達なら、きっと見れますよ。あなた達の夢のその果てを…私が見せてあげられなかった、景色を…ね?







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