文「つづらは大きい方を貰いますよ」 ミスティア「意外だわ」 (11)


短いですが、よしなに。

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文「ご協力ありがとうございます」

「いやいや、こっちも楽しかったから」

文「そう言っていただけるとこちらも気が楽ですよ」

「じゃあまたね、新聞屋さん!」

文「ええ、機会があればまたお伺いします」

文「…………ふぃぃ」

文(人里での取材も楽じゃないわね。 なまじお得意様なだけに蔑ろにもできないし。 まあ儲かってるんだからいいんだけど)バサバサ

文「でも使わないからなーお金。 ……ん?」

文(蒲焼の香り……、ミスティアのとこか)


文「女将さーん、いまやってます?」ガララ

ミスティア「あら、新聞屋じゃない。 こんな昼間から来るなんて、明日はきっと休刊ね。 ……仕込みもあるからもう少しかかるわよ。 それでもいいなら中で待っててもいいけど」

文「折角ですから、待たせてもらいますよ。 それに、明日は人里の特集が組んでありますからね、ここ最近では一番の売り上げになるかもしれません」

ミスティア「それは重畳。 それならきっと明日は大雨ね」

文「女将さんも変わりませんねえ」

ミスティア「そんなに長い間会ってなかった訳じゃないでしょうに」

文「いえね、人間相手の取材が多くなると、向こうさんの成長の早さを思い知らされますよ。 光陰投石の如しです」

ミスティア「矢じゃないの?」

文「飛ぶ鳥を落とす勢いですから」

ミスティア「なに言ってるんだか」


文「ところで、…………ミスティア」

ミスティア「……なによ」

文「店の方は順調?」

ミスティア「順調も順調よ。 昼間から席をとってるカラスさえいなきゃね」

文「まあそう言わないでよ。 久々に会えるって、楽しみだったんだからさ」

ミスティア「口ばっかりいいんだから」

文「言っちゃって。 ミスティアも嬉しいんじゃないの〜? ん〜?」

ミスティア「もう酔ってるの? ……そりゃあ文に会えるのは嬉しいわよ。 というか、会えない時が寂しいというか」

文「私があっためてあげてもいいんですよ〜?」


ミスティア「はいはい、話を止めないで。 文は取材とか記事とかで忙しいし、私は夕方から外に出れないし。 会えないのも仕方ないと思うけどさ」

文「いっそコラムとかどうかしら。 『人里で人気の鰻屋、その女将の一言』とか」

ミスティア「はぁ、名前が冗長すぎない?」

文「仮の名前なんだし、なんでもいいのよ。 で、どうする? こうしちゃえばいつでも会い放題。 私の匙加減で長い時間いることもできるし」

ミスティア「思いっきり公私混同じゃない。 仕込みの時間もあるし、結構ギリギリなのよ。 客として来てくれた方が真剣に話せるわ」

文「ふむ。 ……では女将、日本酒を二合ほどいただけますかな」

ミスティア「燗は?」

文「あるもので構いませんよ」

ミスティア「じゃあ冷やね」

文「それはあんまりじゃありません?」


ミスティア「大体、なんでその慇懃な喋りに戻ってるのよ」

文「わたくし、清く正しい射命丸文は、今日は客としての立場ですから。 女将に敬語を使ってもおかしくないでしょう?」

ミスティア「まだ開店前なんだけど。 二合、温めておくわね」

文「なんやかんや言って、きっちり対応してくれる女将が私は好きですよ」

ミスティア「知ってるわよ。 あと、そろそろやめてくれないかしら」

文「なにをですか女将」

ミスティア「……アンタ、わかってやってんでしょ」

文「はて、女将になにか失礼を働いてしまいましたかね?」

ミスティア「ハァ……。 その、あれよ」

文「どれです?」


ミスティア「敬語やめて。 あと、な、名前。 名前で呼んで」///

文「ミスティアは本当に可愛いね」

ミスティア「なんっ!」///

文「私はね、心配なの。 私の可愛いミスティアが他の奴に取られるんじゃないかって。 人間相手の商売もやってるんだし、そこらの男に引っかかるんじゃないかって」

ミスティア「引っかかるって……、また嫌な言い回しね。 私は文に引っかかった女って思われるのは嫌よ」

文「言葉のあやや、いえ、言葉の綾です」

ミスティア「やっぱ酔ってんでしょ」

文「ともかく。 接客業で、それも女将なんてやってたら変な男に言い寄られてるんじゃないかって、もしそれで靡いちゃったらと思うと夜も眠れないわけ」

ミスティア「アンタ意外と女々しいのね」

文「自分でもそう思うわよ」


ミスティア「私としては、文のが変な男に引っかかりそうだわ。 ほら、人里でよく取材してんでしょ」

文「ありゃあくまで仕事よ」

ミスティア「私だって仕事よ。 それに、天狗って縦社会なんでしょ? 上司に言い寄られて断れないとか、本当に嫌よ」

文「私は天狗の中でも異端児だからね。 そういう輩もまあいるけど、全部突っぱねてるわよ」

ミスティア「そういうの聞くと余計不安なんだけど」

文「私に限ってそりゃあ無いわ」

ミスティア「はぁ……。 文さあ」

文「なに」

ミスティア「アンタってホント可愛いわよね」

文「はえっ!?」///


ミスティア「なに赤くなってんのよ」

文「ミスティアがいきなり言うからでしょ!」///

ミスティア「文がさっき私に言ったみたいに、私だって、文が誰かに取られるんじゃないかって心配してるのよ。 各地回ってると、それだけ人に会うってことでしょ?」

文「会う人の数ならミスティアも変わらないと思けど」

ミスティア「うちはご新規さんなんて滅多に来ないわよ」

文「そっちの方が問題よ!」

ミスティア「……はい、日本酒。 だいたい上燗くらいよ」

文「ミスティアは私と違って人当たりも愛想もいいし、ミスティア目当ての客がほとんどでしょ」

ミスティア「里で取材受けるのも文狙いよ」

文「みんな興味本意よ、珍しいから寄って来るだけ」


ミスティア「呑まないの?」

文「……いただくわ」トクトク

ミスティア「お互いがお互いの立場に不安になって、嫉妬してるなんて、おかしな話ね」

文「こっちは真剣なんだから」

ミスティア「私だって真剣よ。 文は誰にだって取られたくないわ!」

文「真剣だからこそ喧嘩腰になってるのね、お互い。 ん、ぷぱぁ」キュー

ミスティア「オッサンくさいからやめなさい。 お互い好き合ってるのに、邪推して喧嘩して……、そんなの嫌じゃない。 なにより、私は文を信じてるわ」

文「そりゃあ私だって信じてるけど、不安になるのと信じられるのは同居しちゃうのよ」

ミスティア「私も、不安も不安だわ。 でもだからこそお互い、会いたいって気持ちが強まるんじゃないかしら」

文「……はー」


ミスティア「なによ、茶化してるの?」

文「あやや、そうじゃなくて、ミスティアって大人だなーって」

ミスティア「文の方が何倍も年上でしょうが」

文「精神面というか恋愛観の話よ。 私じゃあそこまで考えらんないわ」

ミスティア「私だって考えて言ってる訳じゃあないわよ。 逃げって言われれば、逃げでしょうね。 マイナスの感情にそれっぽい理由付けてるだけよ」

文「……ねえミスティア」

ミスティア「なによ」

文「今日このあと、二人になれない?」

ミスティア「下準備と仕込みも済ませちゃったんだけど」

文「店は閉めてからでもいいから」

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