私「学校さぼってみた」 (162)

私(秋は好きだったはずなんだけどな)

私(涼しいし、過ごしやすいし)

私(夏がもっと続いて何もかも溶かしてくれたらよかったのに)

私(学校さぼって変な倉庫の裏に来たはいいけれど)

私(やることないし、寝ようかな)

幼女「おねえちゃんなにしてるの?」

私(うわ最悪だ、人きたよ)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1625956349

幼女「なにしてるの」

私「見てわからないの? 体調悪いから寝てるの」

幼女「家で寝なよ」

私(それが嫌だからここにいるんですけど)

私「心の体調が悪いの」

私「心の体調は外で回復させるものなの」

幼女「そうなんだ」

私「あんた何しに来たの?」

私「すごい大荷物だけど」

幼女「らくがき」

私「は?」

幼女「これ、ぜんぶペンキなの」

幼女「今日はここに描くの」

私「ファンキーすぎでしょ」

ペタペタ

ベタベタ

私(色彩感覚が独特すぎる)

私(小学生とは思えない)

幼女「がっこういかないと タンイがもらえないんじゃないの?」

私「なんでむだに詳しいのよ」

私「関係ないでしょ?」

幼女「いじめられてるの?」

私「なんでそうなるの」

幼女「いじめられてるんでしょ」

私「2回もきかなくていいでしょ」

幼女「ちがうの?」

私「関係ないでしょ」

私(まあ不当な扱い受けてるのは事実だけど)

私(別にそれだけがここにいる理由じゃないし)

私「大人にはいろいろあるものなの」

幼女「おねえちゃん何歳?」

私「15」

幼女「それ大人なの?」

私「うるさいなあ」

私「タバコ吸うよ? 大人だから」

ごそごそ

カジカジ

幼女「おいしい?」

私「くそまずい」

幼女「やめればいいじゃん」

私「別にいいでしょ」

幼女「火つけないの?」

私「つけないよ? 未成年だし」

私「体に悪いんだよ? 知らないの?」

幼女「」

私(すごい哀れそうな視線を向けてくる)

私「ねえ、今私どう見えてるの? かっこいいの?」

幼女「べつに…」

私「タバコってかっこいいとか思う?」

幼女「おねえちゃんはどうおもうの?」

私「全然」

幼女「じゃあなんでタバコ持ってるの」

私「幼馴染の男の子が吸っててね」

私「試してみたけどまずいだけだった」

幼女「背中すごい虫とかついてるけど、だいじょうぶ?」

私「いいの。虫別に平気だから」

私(クラスの子にされてる仕打ちよりましだし)

幼女「たばこおいしくないならこれ食べる?」

私「え、なに、なんかあるの?」

幼女「リュックにたくさんおかしつめてきたの」

私「すご」

私「駄菓子屋さんでも目指してるの?」

幼女「そんなわけないじゃん」

幼女「全然稼げないよ」

私「そこかよ」

幼女「家出セットだよ」

私「理由が思ったよりヘビーだった」

幼女「家中のおかしつめてきたの」

幼女「ここならいくら食べても怒られない」

私「虫歯になってもしらないよ」

幼女「とりあえずこれあげる」

ズボッ

私「ムグッ!」

私「からっ!!!!! くっそからい!!!!!」

私「なにこれ! なにこの味!!」

幼女「わさびあめ」

私「せめて普通の味ないの?」

幼女「あい。全部わさび」

私「家出セットのセンスゼロか!!!」

幼女「わたしは好きなんだけど」

私「…それはごめん」

幼女「なれるとおいしいよ?」

私「なれないとおいしくない飴ってどうなの」

幼女「まあまあ」

ズボッ

私「ポケットに2本目をつっこむな」

幼女「たばこもなれたらおいしいらしいよ」

私「なんであんたがそんなこと知ってるの」

幼女「お兄ちゃんが言ってた」

私「お兄ちゃんいるんだ」

私「どんな人」

幼女「オセロすごく強い」

私(死ぬほどどうでもいい)

私「そうなんだ…ま、まあオセロは私も強いけどね」

幼女「あと最近あんまり家にかえってこないの」

幼女「髪の毛金色だし」

私「クソヤンキーじゃん」

幼女「あとくつのひも結ばなくなった」

私「知らないよ」

幼女「かかともずっとふんでるの」

私「それはたしかに危ないけれど」

私(そういえば、幼馴染のあいつも、髪染めてたな)

私(靴紐も結んでないのやめてほしかった)

幼女「あとおうだんほどう、歩くとき手あげなくなった」

私「もういいよ」

私「あと横断歩道の時て上げるのなんか恥ずかしくなるもんなの」

幼女「そうなの?」

幼女「わたしのクラスではみんな手あげてるよ?」

幼女「いつから恥ずかしくなるの?」

私「さあ、誰かが手を挙げるのやめて」

私「誰かがそれを真似して」

私「それが続いてく感じ」

私「てかさ、あんた家出とか言ってたけど」

私「学校は?」

幼女「行かない」

私「なんで」

幼女「行かないの」

私「いじめられてるの?」

幼女「それはおねえちゃんでしょ」

私「今してるのあんたの話だから」

私「で、いじめられてるの?」

幼女「ちがう」

私「ちがうんだ」

幼女「せんせいがやめちゃうの」

私「せんせい?」

幼女「うん」

私「この時期に?」

幼女「うん」

私「……」

私「それはつらいね」

幼女「ちがうの、ちがうの」

私「なにがちがうの」

ベタベタ

私(急に落書き再開しだした)

ボチャン

私(今ペンキの容器に手突っ込んだし)

ベタベタ


私(すごい壁中に手形つけてる…)

幼女「わたし、せんせいのこと」

幼女「きらいって言っちゃったの」

私「…なんで」

幼女「おやすみの日に、こうやってペンキであそんでたら」

幼女「くつに、ペンキがついちゃって」

私「ありゃ」

幼女「それが、すごいかっこいいなって思ったの」

私「ペンキがついたくつが?」

幼女「そうなの」

幼女「そしたら、せんせいそれをきたないって」

幼女「いってきて…」

私(まあ、綺麗好きならそう言うか…)

私(たぶん思ったこととか、はっきり言う人なんだろうなあ)

私(生徒にも、他の職員にも、娘にも)

私(すごく心当たりがある)

私(いつも誰かと喧嘩してたような、そんな人なんだろうな)

私「それで、嫌いって返したんだ」

幼女「それからがっこう、来なくなっちゃって」

私「…その人さ」

私「もともと休みがちだった?」

幼女「え?」

幼女「…うん、よく休んでた」

幼女「なんで知ってるの?」

私「…いや」

私「なんとなくそう思ってさ」

幼女「でも…あんなこと、言わなきゃよかった」

私(何も気にすることないのに)

私(たぶん、辞めるのこの子のせいじゃないし)

私(…まあ、想像するには小さすぎるか)

私(嫌い…か)

私(自分の意にそぐわない時、そう言っちゃうよね)

私(…昔の自分を思い出すな…)

私「ねえ、聞いてもいい?」

幼女「?」

私「本当はなんて言いたかったの?」

幼女「…がっこうで、いつもきれいにそうじするの」

幼女「わたしだけだったの」

私(質問に答えてねえけど、まあいいか。話させとこ)

幼女「みんなよごすのすきだったけど」

幼女「わたしはきれいなのがすきだったの」

幼女「わたしと、掃除してくれてたの」

幼女「せんせいだけだった」

幼女「だいすきだったのに、きたないって…言われちゃって…」

幼女「せんせいなんかに、会わなかったらよかった」

私「なんでそうなるの」

幼女「会わなかったら、こんなに、かなしくならないでしょ?」

私(…それも…そうかもしれないけど)

私(…うまい返しが見つからない)

私(昔幼馴染に、私も嫌いって言っちゃったことあるし)

私(まあ、それから疎遠なんだけど)

私(…ううむ)

私「ねえ」

幼女「なに?」

私「暗くなる前に帰ろっか」

幼女「やだ、ぜったいおこられる」

私「心配してるよ。かえってあげな」

私「誘拐されたり、無差別殺人に巻きこまれたらどうするの?」

幼女「それはいやだ」

私「よし、帰ろう」

帰り道

幼女「あっ!」

私「どしたの」

ダッ

私「ちょ、信号赤だから!」

私「危ないよ!」

幼女「だめなの!」

私「なにが!?」

ガッ

私(横断歩道になんか落ちてたのつかんでる)

タッタッタッ

私(戻ってきた)


幼女「…あぶなかった」

ウネウネ

私「なにこれ」

幼女「スズメガの幼虫」

私「…へえ」

私「助けてあげたんだ」

私「やるじゃん」

私「虫、こわくないの?」

幼女「こわくないよ」

幼女「お兄ちゃんが、よく生き物は大切にしろって言ってたから」

私「へえ」

幼女「スズメガってね、すごいかっこいいんだよ」

幼女「はねのもよう、ドラゴンみたいなの!」

私「うん」

私「知ってる」

幼女「どうして!?」

私「幼馴染が詳しくてね」

私「歩くウィキみたいなやつだった」

幼女「うぃき?」

私「なんでもない」

幼女「かわいいなあ」うっとり

私「超わかる」

私(クラスの子が見たら、みんな逃げ出すんだろうなあ)

私(この子の目、あいつに似てる)

私(好きなもので頭がいっぱいになって)

私(もう無我夢中みたいな)

私(あいつに、嫌いって言ったきっかけ、たしかこんな時だったな)

2年前

私「気持ち悪いからもうやめたら?」

私「虫とか、植物とかさ」

私「あんたのそういうところ、嫌いなの」

私(中1のころか)

私(遠足でみんなからはぐれて)

私(トカゲ捕まえに行ったあいつにそう言っちゃって)

私(たしか、あれが最後の会話か)

私(てか、会話ですらないか)

私(私の、一方的で、わがままな暴言だ)

幼女「どうしたの?」

私「ううん、なんでもない」

私「どっか踏まれないところに逃がしてあげようか」

私「ほら、あそこのススキみたいなの生えてるところとか」

幼女「うん、そうする」

幼女「よしよし」

私「いや早く逃がしなよ」

幼女「ねえ、ここに生えてる草、なんだっけ」

私「だから早く逃がしてあげなって」

幼女「きになるの」

私「ススキじゃないの?」

幼女「たぶんちがう」

私「なんでわかるの」

幼女「おにいちゃんが前に言ってくれてて…」

幼女「パンダなんとか」

私「絶対そんな草…いや、あったかな?」

幼女「あったはず」

私「私の幼馴染なら、すぐに答えられるんだけどな」

幼女「ねえおねえちゃん」

私「なに」

幼女「家出やめる」

幼女「明日は学校にいく」

私「なんでそうなったの」

幼女「なんとなく」

私「気まぐれかよ」

私「まあいいや。がんばってね」

幼女「うん。ばいばい」

そう言って私たちは
それぞれの帰路を進んだ。

テクテク

私「あれ、なんかいる」

ノソノソ

私「…亀か」

私「今日はいろんな生き物によく会うな」

私「踏まないように気を付けよ」

自宅

私「ただいま」

私「……」

私「誰もいないか」

私「郵便受けは…」

ガシャン

私「今年はなにもなしか」

私(毎年誕生日に、誰かが花突っ込んでくれてたんだよね)

私(ちょっと期待してたんだけどな)

私(さて…)

私(手紙でも読み返すか)

リビング

私(静かだなあ)

私(誰もいないってこんな感じなんだ)

私(机の上に朝同様、手紙があるってことは)

私(夢じゃなかったんだな)

娘へ

私はもう疲れました。

多分、色々限界だったんだと思います。

働いても、きっと私は何の役にも立てないし

生きてても仕方がないんです。

こんな私と暮らしていても

あなたは不幸になるばかり。

だから、こういう結論を出すことにしました。

転校手続きはもう済んでいます。

おばあちゃんの家までの旅費は置いておくので、それを使ってお引っ越ししておいてね。

それじゃあね。

誕生日、おめでとう。

私「……はあ」

私「どんな誕生日プレゼントよ」


続く

それではまた明日ノシ

あんまりいい母親ではなかった。

というか最悪だった。

仕事も休みがちになって、家のことも何もできなくなって。

ほとんど私が介護しているようなもので

たまに動くときは酒飲んで仕事の愚痴ばかり言うようになっていた

私(でも、生徒には好かれてたんだな)

私(たぶん、あの女の子の嫌いっていった先生は)

私(私の母親だ)

私(休みがちなくせに行ったら行ったら仕事はきっちりしてたんだな)

私(なんか意外)

私(嫌なら辞めろとか、母親らしくしろとか)

私(結構散々なこと言ってきたな)

私(…最悪)

私「なんかのも」

コポポポ

私(ブラックコーヒーとか初めて飲むな)

ズズッ

私「にがっ!」

私「まずっ!」

私(今度はワインでも飲んでやろう)

コポポポポ

グビッ


私「まっず!!!」

私「もっと甘いもんじゃないの!?」

私(まあいいや。勿体ないし、全部のもう)

ぐびぐび

私(なんかふわふわしてきた)

ポロポロ

私(涙まで出てきた)

私(もういいや、寝よ)

私(ベッド入って、起きたら、全部夢だったらいいのに)

私(部屋に戻ろう)

ガラッ

私「え」

ドンドン!

幼馴染「おーい!」

私「…なんで来てるの」

私「寝よ」

幼馴染「いや寝るなよ! 窓開けてくれよ!」

私「ここ二階だよ、どうやってきたの」

幼馴染「昇ってきたんだよ」

私「サイコすぎでしょ」

私「普通に玄関からきなよ」

幼馴染「サプライズだよ」

私(金髪だっさ)

私(靴紐結べよ)

幼馴染「今年はプレゼント、手渡しがいいと思ってな」

私「プレゼント?」

幼馴染「毎年ポストに花とかつっこんでたんだけどな」

私「あれあんただったんだ」

私「通報していい?」

幼馴染「……」

幼馴染「それは勘弁してくれ」

幼馴染「それよりこれが今年のだ。」

ワサッ

私「ススキ?」

幼馴染「違う、パンパスグラスだ」

幼馴染「別名お化けススキ」

私(また始まった)

幼馴染「でかいやつは2メートル超えるんだよ」

幼馴染「原産はアルゼンチンでな、生態については」

私「わかったわかった。もういいから」

私「あんt何も変わらないんだね」

幼馴染「…ごめん、また喋りすぎた」

私「ていうか、毎年ああいうの持って来てたの何気に引く」

私「ごんぎつねかよ」

幼馴染「それ最期撃ち殺されるじゃねえか」

私「どうせなら食べ物持ってきなよ、うなぎとか」

幼馴染「だからごんぎつねじゃねえか」

幼馴染「てかお前、酒くさいぞ。飲んでるな」

私「悪い? 大人だからいいでしょ」

幼馴染「うるせえよ未成年」

幼馴染「俺にも一杯くれよ」

私「未成年が酒飲むな」

私「体に悪いんだよ、知らないの?」

幼馴染「お前もだろうが」

私「あと家中のボトル全部飲んだからもうないよ」

幼馴染「酒豪じゃねえか」

幼馴染「てか、母ちゃんどうした? 寝たのか?」

私「出てった」

幼馴染「まじか」

私「うん。学校の先生してたんだけど」

私「すごいブラックで、パワハラもあったからね」

私「最後の方泣いて酒飲んでばかりだった」

私「どっかで彼氏でも作って幸せになってたらいいかな」

幼馴染「まじか…」

私「だから私引っ越すから」

幼馴染「え!!!」

幼馴染「じゃ、じゃあお前、もういじめとか、されなくて…」

私「…そういうことだけは知ってるんだ」

幼馴染「もう、あの変な友達とかに絡まれなくて、すむってことかよ」

私「まあ、そうなるね」

私(カースト上位の人達と、最初はつるんでたけど)

私(好みとか全部合わせてたらすごい疲れたんだよね)

私(家ではお母さんの機嫌伺って)

私(学校ではそんな友達もどきのご機嫌取り)

私(地獄だった)

幼馴染「なあ、俺さ」

幼馴染「もう、生き物とか興味ねえから」

私「パンパスグラス持ってくるやつが何言ってるの」

幼馴染「髪も染めてタバコも吸ってる」

幼馴染「もう、ださくねえだろ? 変じゃねえだろ?」

私(誰もそうしろなんて言ってない)

幼馴染「やばい連中とも絡んでるし」

幼馴染「お前、そういう男が好きだろ?」

私(誰もそうしろなんて言ってない)

私(尻尾を振ってる犬みたいなやつだ)

私(こいつは何も知らない)

私(こんな今に、たどり着きたくなかったな)

私「ねえ」

幼馴染「なんだよ」

私「オセロでもしよっか」

私(今だけは、そんなしがらみから)

私(少しでも抜け出したかった)

幼馴染「負けてもなくなよ?」

私「泣かないから」

私「じゃんけんぽん」

幼馴染「おりゃ」

私「私の勝ち」

幼馴染「じゃあお前先攻な」

窓から差し込む月の光は

気まぐれに雲で隠れて

電気のついていない部屋を暗転させる。

オセロの白と黒は

夜の闇に溶けていった。

私(勝ち負けなんてどっちでもいいな)

私(なんか、このままずっと続けばいいのに)

幼馴染「おい、そこひっくり返し忘れてるぞ」

私「わかってるよ。うるさいなあ」

私(まあわかってないけど)

私(たぶん酒で何もわかってないな私)

私(未成年が酒なんて飲むもんじゃない

パチン

私「おいそこ、角とられちゃうでしょ」

幼馴染「そうだな」

私「手加減してるでしょ!」

幼馴染「してねえよ」

私「嘘だ、置きなおせ」

幼馴染「嫌だね」

ファンファンファン

私「なにこれ、パトカー?」

幼馴染「…みたいだな」

私「こんな時間に物騒だね」

幼馴染「…そうだな」

ガラッ

私「ちょ、どこ行くの」

幼馴染「わり、帰るわ」

私「待って待って」

サッ

私「…まだオセロ終わってないのに」

私「片付けもしてないじゃん」

ピンポーン

私「…こんな時間に誰…」

テクテク

ガチャ

警察「警察です。夜分遅くにすいません」

警察「この辺でちょっと人を探しておりまして」

私「…はあ」

警察「…ていう感じで、心当たりは」

私「…まじすか」

ダッ

私「探してきます」

警察「ちょっ!」

私(こんなに走るの久しぶり)

私(あいつが逃げそうなところ…)

私(あ、鍵かけ忘れた)

私(まあいや。今大切な物、家には何もないし)

私(あいつとのオセロの決着の方が大切だ)

数十分後

私(たしかこの用水路、昔あいつと遊んでたな)

私(まさかここに)

チラッ

幼馴染「……」

私「何してんの」

幼馴染「寝てたんだよ」

ジタバタ

私「なにそれ」

幼馴染「亀だよ」

彼は、足首ほどの水位の用水路の中で

亀を抱きかかえて、頭から血を流していた。

私「寝るならベッドで寝なよ」

幼馴染「ベッドで寝るのは子供のすることだよ」

私「大人もベッドで寝るわ」

私「オセロも途中で放り出しといてさ」

バチャッ

彼の軽口に応えながら

用水路に裸足のままゆっくりと降りた。

私(つめたっ!)


それでも、水流に逆らいながら、一歩ずつ

彼に近づく。

私「私さ」

幼馴染「なんだよ」

私「靴の紐はきちんと結んでいた方がいいと思う」

彼の前にたどり着き、しゃがみこむ。

びしょびしょでよれよれになった靴紐を握る。

私「あと、かかとも踏まない方がいいと思う」

幼馴染「まじか」

幼馴染「お前、ちょっと悪い男子好きなんだと思ってた」

私「それ私がみんなに合わせてでっちあげたやつだから」

私「あと、オセロは本気できて」

幼馴染「だから手加減してねえって」

私「負けたら私が切れると思ったんでしょ」

幼馴染「思ってねえよ」

ヌルヌルになった靴紐を

びしょ濡れの手で握り、結ぼうとする。

輪っかを作るのが水流で何度も駄目になる。

かじかみ、アルコールにやられた指先は、不格好にしか動かない。

私「あとさ」

幼馴染「なんだよ」

私「人は殺しちゃだめなんだよ」

続く

また明日。

ノシ

おつ

おつおつ
いい雰囲気だわ

幼馴染「………」

私「もう、全部聞いたから」

私「金髪の中学生が、塾帰りの女子中学生さしたって」

幼馴染「……」

私「…なんか言ってよ」

幼馴染「……」

幼馴染「この亀、ミシシッピアカミミガメって言うんだよ」

幼馴染「小さなころは、ミドリガメとかいう名前で」

幼馴染「昔はペットショップで売られてたんだけど」

幼馴染「異臭問題とか捨てられる問題とかもあって」

幼馴染「今は売られてない」

私「……へえ」

私「かわいそうだね」

私「家の近くにいたやつだわこいつ。今日見たよ」

幼馴染「メスでも探してたんだろうな」

幼馴染「でも、あそこだとたぶん車に轢かれるから」

幼馴染「だから用水路に逃がそうかなって思って」

私「だから頭打ったんだ」

私「間抜けの極みじゃん」

幼馴染「うるせえよ」

彼は苦笑して、亀の甲羅をそっと撫でる。

私「生き物は卒業したとか言ってなかった?」

結びかけの靴ひもから手を離し、私も亀の甲羅に手を乗せる。

雲が月を再び隠す。

訪れた闇は、すべてを黒で包み込む。

世界の境界線が失われたみたいだった。

幼馴染「危ないところにいる生き物は放って置けねえよ」

幼馴染「みんなそんなもんだろ?」

私「あんたくらいだよ」

私(ああ、なんかほっとする)

私(こいつ、なにも変わってないんだ)

私(好きなもののためなら、なんでもする)

私(何よりも尊くて、美しい)

私(それが、こいつなんだ)

なでなで

私「いやべちゃべちゃの手で撫でないでよ気持ち悪い」

幼馴染「泣いてた気がしたから」

私「泣いてないから」

私「私、変わっちゃったね」

幼馴染「何も変わってねえよ。大丈夫だ」

私(ああ、本当に泣きそうだ)

私(靴紐どこだろ)

私(まだ、結べてない)

私(いや、でも、結べなくてもいいのか)

私(結んだら、この夜が終わるかもしれないし)

私(いやそんなわけはないんだけど)

幼馴染「すげえ煙草今吸いたい」

私「あんなまずいのよく欲しがるね」

幼馴染「お前も吸ったのかよ」

私「ひどい味だった」

幼馴染「かっこつけるために吸ってたんだよ」

私「全然カッコよくないから」

私「こっちの方がいいよ」

ズボッ

幼馴染「からっ! まずっ!」

私「わさび飴だよ」

私「慣れたらおいしいらしいよ」

幼馴染「妹がこの飴好きだわ、たしか」

私「たぶん、今日会ったよ、妹さん」

私「いい子だね。芸術家タイプだ」

幼馴染「ただの生意気なクソガキだよ」

私「あんたによく似てる」

私「じゃあさ、話し戻すけど」

私「なんで殺したの?」

幼馴染「……」

私「なんでこういう時はだまるかなあ、めんどくさい」

私「あの子はたしかに嫌な奴だよ」

私「靴に画びょう入れてくるし、教科書やぶってくるし、給食に洗剤混ぜてくるし」

私(たぶん、きっかけなんてなんでもよかったんだろう)

私(いじめなんてそんなもんだ)

私(テストで私だけが満点とってたりとか)

私(あの子の片思いの男子からチョコをもらったこととか)

私(うちの父親が不倫して母子家庭だったりとか)

私(まあ、とにかくなんでもよかったんだ)

私(お母さんが、職場でパワハラされてたから)

私(同じ道を歩まないために、色々合わせて、ギャルっぽくしたりとかがんばったんだけど)

私(全部裏目に出た)

幼馴染「……そうか」

私「言い訳くらいしろよ」

私「人殺すんだよ?」

私「死体隠すとか、こっそりやるとかさ」

私「もっとやりようあるでしょ」

私「脅すつもりで包丁つきつけて」

私「軽いはずみで深く刺さったとか、そういうパターンでしょ?」

私「だとしても、人の命を奪ったのなんかに変わりはないしさ」

私(ああ、もう何が言いたいんだろ)

私(彼をこんな風にさせてしまったのは、誰のせいだ)

私(…私のせいか)

私(彼を拒絶して、変に空回りしている私を見たこいつが)

私(こんなにこじらせてしまうなんて)

私(…まあ、頭がおかしいのはこいつなんだけどさ)

私「でも、殺しちゃだめなんだよ」

私(理論上の問題を突きつけるしかない)

私(彼をひっぱたくべきだんだろうけど)

私(靴紐がまだ結べてないから手が離せないし)

私(この人殺しとか言って、彼を軽蔑すべきなんだろうけど)

私(その代り今、こいつを抱きしめたいとか)

私(そういうことを考えている私は、こいつと同じくらい頭がおかしい)

私(たぶん、アルコールのせいだろう)

私(そういうことに、しておこう)

タッタッタッ


警察の声「いました! 容疑者と女性、たぶん中学生くらいです!」

警察の声「確保します!」

若い警官は、私と彼と、亀をライトで照らす。

満月が注いでくれた、優しい魔法を打ち消すのには

その光は十分なくらいに眩しくて、冷たかった。

彼はおとなしく両手を上げる。

亀は光におびえ、彼の膝から滑り落ちる。

私は何もできず、ただ下をうつむくだけだった。

数年後

私「……ふわあ」

祖母「あんた、ベッドで寝なさいよ」

私は、祖母の家で暮らしていた。

続く。

また明日ノシ

>>81
>>82
読んでくれてありがとうございます!

おつおつ
テンポよくていいね

私「また寝てたか」

私「何時?」

祖母「夜中の1時よ」

私「また中途覚醒か」

私「眠剤全然効かないなあ」

私「夢見てた」

祖母「どんな夢?」

私「あいつの夢」

祖母「またかい」

私「オセロの続きしてた」

祖母「どっちが勝ったんだい?」

私「忘れた」

私「でもワイン飲んでた」

私「どうせならあいつの分残して一緒に飲めばよかったな」

祖母「未成年が飲むもんじゃないでしょうが」

私「夢ならセーフ」

私「それよりさ、何度も考えちゃうんだよね」

祖母「うん」

私「あいつをさ、あのまま用水路から手を引いて」

私「逃げて、警察降り切ってたら」

私「どうなってたかな、とか」

祖母「あんたはどう思うの?」

私(この人はいつも答えより質問を返してくる)

私(時々難しい質問をしてくるから頭が痛くなる)

私「お母さんのくれた交通費使って、それで遠くに逃げて」

私「働いて…」

私「あ、でも仕事どうしよ」

私「キャバ嬢とか向いてるかな」

祖母「やめときな」

私「失礼な」

私「そもそもさ、あいつとの関係悪くしたの、中学の時の一言じゃん?」

私「もっと私がましなこと言ってれば」

私「いやそもそも、私がギャルっぽい路線で架空の自分なんて作らなきゃ」

私「あいつがこじらせなかったかもしれないし」

私「いやそもそも最初からいじめられてなかったら」

私「あいつも暴走しなくて済んだかもしれないし」

私「いやそもそも」

祖母「そもそもが多いわねあんたは」

私「」

祖母「楽になりたいのはわかるけど」

祖母「それ、続けてて楽になる?」

私「…もしもを考えてたら」

私「現実から逃げられるし」

私「こんな苦しみもいつかは終わるかもしれないじゃん」


祖母「なるほどね」

祖母「なんか飲むかい?」

私「コーヒーちょうだい」

祖母「はいはい」

祖母「余計眠れなくなるのに、あんたは変わってるわね」

私「別にいいでしょ」

ズズ

私「相変わらずまずいね!」

祖母「いれてもらっておいてよく言うねこの子は」

祖母「もうわかってて飲んでるだろ」

私「まあね」

私「ブラックも少しずつ慣れてきたんだよ」

祖母「一つききたいんだけど」

私「なに?」

祖母「彼は人の命を奪ってるわけだろ?」

祖母「そのところあんたはどう思ってるの?」

私(倫理的な正しさとか)

私(宗教的な正しさとか)


私(今それは重要じゃない)

私(私がどうとらえているか)

私「まあうん、なんていうか」

私「よくわかんないね」

私「現実感ないというか、なんというかさ」

祖母「そうかい」

私「じゃ、散歩行くから」

祖母「はいはい、気を付けてね」

最近買い替えたランニングシューズを履いて

私の深夜徘徊は始まった。

私(車全然走ってないな)

私(ど田舎最高)

私(風涼しい)

私(やさしさと切なさが混じった匂い)

ノソノソ

私(田舎特有の亀とか虫がめっちゃいるんだよね、こういうとき)

ソッ

私「危ないから避けとくね」

私(彼のまねごとみないなことを続けてる)

私(恩返しも、お礼の言葉もない)

私(ただの、願掛けだ)

私(コンビについた)

ウィン

私「37番1つ」

店員「未成年には売れないよ」

私「吸わないです。かっこつけるために買うんです」

店員「いや駄目なものは駄目だから」

私「じゃあこれでいいです」

ソッ

店員「なんでわさび飴?」

店員「これ、美味しいかい?」

私「まずいです」

店員「だよね」

私「慣れればいけます」

店員「慣れがいるんだね」

ウィン

店員「ありがとー」

ペロペロ

私「まずいなあ、相変わらずまずい」

私(お母さんの件も、あいつの件も、殺されちゃったいじめてきたあいつも)

私(私が最初からみんなと会わなきゃ、何も起こらなかったのかな)

私(そしたら、こんなに苦しい夜を味わうことも)

私(まずいコーヒー飲んだり飴をなめたりすることも)

私(家に帰って膝を抱えて泣くこともなかっただろうに)

私(歩き続けて足が痛い)

私(なんか明るくなってきたし)

私(こんな夜、何度目だろう)

私(…帰ろ…)

私(高校生活ももう終わり)

私(あいつ、元気にしてるのかな)

私(刑務所ってどんな感じなんだろう)

私(ていうか再会できるのか?)

私(ていうか再会したいのか? お互いに)

私(…なんて言えばいいんだろう)

私(言葉が何も見つからない)

数日後

祖母「はい、はい、そうかい」

私(珍しいな、誰とあんなに長電話してるんだろ)

祖母「はいはい。伝えとくね」

祖母「それじゃあね」


ガチャン

私「誰と電話してたの?」

祖母「お母さんだよ」

私「ああ、お母さんか」

私「…は?」

私「え、ちょ、え!?」

私「生きてたんだ」

二日後

私「えっと」

私「久しぶり」

母「背のびたね」

私「そこかい」

母がいたところは

精神障害の人達が住みこむグループホームだった

また明日
ノシ

>>99
ありがとうございます!

あとちょっとなのでお付き合いください!

おつ

私「お母さん太った?」

母「薬の副作用でね」

私「へえ…」

私(…来るまで何言おうか考えてたはずなんだけど)

私(いざ会うと何も出てこないもんだな)

母「あのさ」

母「先に言っとくけど」

母「私が出ていったことはさ」

母「あんたがそれまでに何をしていようと、何も変わらなかったから」

母「たぶん、何があろうと、この『今』になってたと思う」

私「…なるほど」

私(めっちゃ謝ってくるかと思ってた)

私(まあ、これくらい堂々としてくれていた方が楽だけど)

私「あのさ」

私「私、中学のころめっちゃいじめられてたんだよね」

母「へえ」

母「自分の話するの、珍しいね」

私(確かに、久しぶりかも)

私「お母さんが自分であろうとして」

私「職場で闘い続けて」

私「結果パワハラじゃん?」

私「だから私は自分を殺してみたの」

私「お母さんみたいに、苦しい未来にならないかなって」

母「結果は?」

私「最初はうまくいってたけど」

私「結局だめだった」

私「いじめられフェロモンみたいなの、あるのかな?」

母「さあ、私にはわかんないな」

母「親子そろって難儀なものね」

私「ほんとにね」

私「転校してからはなくなったよ? 平和だったし」

母「そっかそっか」

母「案外環境によるよねー」

母「私も自殺未遂して、入院して、ここ入って」

母「今は作業所みたいなところでクッキー焼いてるけど」

母「超楽しいよ」

私「クッキーか」

私「おいしそうだね」

母「めっちゃおいしい」

母「あと職員さんもメンバーさんもやさしいからね」

私「なるほど」

私「でもさ、学校の先生大変だったかもしれないけど」

私「慕ってくれてた生徒、いたんじゃない?」

母「あー」

母「一人いたかな」

母「でも余裕ない状況でひどいこと言っちゃったから」

母「たぶん嫌われてるな」

母「まあ、もう二度と会うことはないだろうけど」

私「お母さん、なんか変わったね」

母「そう?」

私「生まれ変わったみたい」

母「そりゃよかった」

私「一人になると色々考えるんだ」

私「世界にもし、私一人しか人間がいなかったら」

私「傷つくことも、傷つけられることもなくなるのかなってさ」

母「そんなの嫌」

私「ほう」

母「だって、作業所のイケメンさんに会えなくなるじゃん」

母「誰かと焼き鳥とビールを楽しめない人生って意味ある?」

私「それって施設の職員さん報告していいやつ?」

母「絶対やめて」

母「ま、あんたも元気そうでよかったよ」

母「卒業したらどうすんの?」

私「急に親っぽいこと聞くね」

母「親だからね」

私「私ね」

私「幼稚園の先生になる」

母「へえ」

母「そうなんだ」

母「いいじゃん」

私「子ども嫌いじゃないなって、思ったからさ」

私「がんばってみる」

母「応援するよ。がんばってね」

私(お母さんがこんなことになるなんて、予想してなかったけど)

私(もっと別のより良い未来があったかもとか、思ったけれど)

私(だけど、その過去があるから)

私(クッキー焼いて)

私(イケメンともあえて)

私(まあ、楽しい人生歩めてるのか)

私(それならそれでありか)

母「でね、そのイケメンさんなんだけどー」

私(私も、彼と一緒に笑う未来がほしかったな)

私(それを捨てたのは、あいつなのか)

私(それとも私なのか)

母「聞いてる?」

私「聞いてる聞いてる」

数年後

園長「仕事お疲れ」

私「疲れました」

私「幼稚園って大変ですね」

園長「大変よー」

私「まあ、やりがいはありますけどね」

園長「あらたくましい」


園長「ところであなた、どうして幼稚園の先生になったの?」

私(進路希望を書いた時)

私(思いだしたのはあの秋の風とわさびの味だった)

私「よく、好きなこと仕事にしろとか、いうじゃないですか」

私「でも、嫌じゃないことも仕事にするのも」

私「選択肢かなって」

園長「なるほどね」

園長「いいじゃない」

園長「いい仕事だと思うわよ」

園長「誰かの未来を作っている感じだからね」

私「たしかに」

私「園長先生かっこいいですね」

園長「それほどでも」

私(毎日毎日)

私(ご立派に私は園児たちに『指導』をする)

私(まあそれが仕事なんだけど)

私(まだ自分の中身が子どもに感じる)

私(なんか、大人ごっこをしてるみたい)

数日後

園児「うわああああん!」

私「うわ、めっちゃ泣いてる」

私「どしたの、何かあった?」

園児「うわああああん!」

ヒョコッ

私(なんか握ってる)

私(あ、ニホントカゲだ)

私「怖かったの?」

園児「みんなに、きもちわるいっていわれた」

私「あら」

園児「これ、ニホントカゲなのに、かっこいいのに」

私「知ってる知ってる」

私「大人になったらシッポが青から茶色に変わるよね」

私「メスの方が背中に線が残りやすくて…」

園児「せんせい、すごいね」

私「…受け売りだよ」

園児「いきものが、すきなの、だめなの? きもちわるいの?」

私「素敵だよ」

園児「すてき?」

私「うん、素敵だよ」

私(自信を持って、明るい声で励ますのが)

私(プロの仕事だ)

私「誰に言われてもさ」

私「気にしなくていいし」

私「無視していいから」

私「素敵なことだよ」

私「いつまでも大切にしていいと思うし」

私「大人になっても、好きなままでいていいからね」

私「みんなきみが羨ましいだけだよ」

思いつくままの、賞賛の言葉を

何度も何度も、そう伝える

なでなで

私「?」

私「なんでなでるの?」

園児「せんせい、ないてるかなって」

私「あはは」

私「ないてないよ」

ポロポロ

私「人の痛みに気づけるんだね」

私「そういうところも素敵だよ」

水をためたコップに穴が開いたみたいに

涙がボタボタと落ち続ける。

滴り落ちる涙が、エプロンを伝い

トカゲを持つ彼の手のひらにぽたりと落ちた。

涙を拭いたら、自分が泣いていることを

認めるみたいで、なにもできなかった。

「ごめん、ごめんね」

言葉が出ると、声が涙と共に上ずってしまう。

素敵だよと伝えても

言えども言えども言い足りない。

私(もうこの子泣いてないじゃん)

私(私しか泣いてないし)

私(なにがプロよ)

私(プロ失格じゃん)

私(前を向くのがつらい)

私(下を向いた方が楽だ)

なでなで

園児「せんせい?」

私「ごめん、ごめんね」

男児は、私の涙が止まるまで

いつまでも私の頭を撫で続けた。

次回、最終回

>>119 読んでくれてありがとうございます!

私(結局早上がりしてしまった)

私(まああの子、別に私が泣いたこと言いふらしてはないみたいだし)

私(なんとかプロとしての体裁は保たれたか)

私(…情けない姿見せちゃったなあ)

私(よし、決めた)

私「今日はワインを飲もう」

店員「ありがとうございましたー」

私(結局一番高いワインを買ってしまった)

私(どんな味なんだろう)

私(ワインなんて、あの日の夜以来だ)

私(今でも、あいつの手の感触も、温度も)

私(覚えてる)

ガチャ

私「ただいまー」

私「って、一人暮らしだけど言ってみる」

私「さて、つまみでも探すか」

ごそごそ

ドカッ

私「段ボール邪魔だなあ」

私「引っ越しの片付けまだ全然終われない」

私「せめてこの段ボールだけでも開けてからワイン飲むか」

私「アリクサー、テレビつけて」

アリクサ「かしこまりました」

ピッ

司会「それでは、続いてのゲストは」

私「これで少しにぎやかになる」

ごそごそ

私「あ、オセロだ」

私「…これ、たしか強力マグネットだったから」

私「あいつとのゲームの途中のままか」

私「……」

私「よし、やるか」

トポポポポ

私「よし、ワインもついだ」

私「オセロもおいた」

私「完璧だ」

私「さて」

私「どう置こうか」

私「…このままあいつの誘いに乗って、角を取ってみたらどうなるだろう」

パチン

私「あ」

私「これだとあいつに角とられるのか」

私「うわ、あいつやべえ」

私「手加減どころじゃないじゃん。これあいつの作戦だったんだ」

私「待てよ、じゃあここにおいて…」

パチン

私「それからここに…」

パチン


司会「今日はお越しいただきありがとうございました」

司会「空き家ペンキアートを始めたきっかけは?」

?「そうですね、きっかけは兄の逮捕ですかね」

コマを置くたび、私は彼の立場に立ち、思考する。

一つ置くたび、パチンと乾いた音が部屋に響く。


司会「兄の逮捕?」

?「ええ、ちょっとした事件を起こしまして」

?「おかげで学校に私もいきにくくなったので」

?「ひたすら空き家にペンキで落書きしてました」

数分後

私「…………」

私「終わったああああああ!」

ゴロンゴロン

私(あいつに再会したときに言う言葉は決まった)

私「34対30。私の勝ちだよ」

私(きっと、あいつ悔しがるだろうなあ)

私(指さして笑ってやろ)

私(あいつ、絶対もう1回やるぞとか言うけど)

私(絶対乗ってやらね)

司会「なるほど、色々大変だったんですね」

司会「それでは、今週末の展示会の名前について」

?「はい、私がどうしても伝えたい言葉を名前にしました」

?「あの人に、届いたらいいんですけど」



にやにや笑いながら

寝転んだままワイングラスを口へと運ぶ。


苦さと甘さが適度に入り混じった味が広がり

これ以上にない幸福感で満たされた私は

誰かに乾杯するように、グラスを掲げた。

私「大人最高!!」


?「で、その名前は」

数日後

「もしもしおかあさん?」

「週末暇?」

「なんかさ、面白い展示会やってるんだって」

「一緒に行こうよ」

「たしか、その展示会の名前は」





【わたしのくつは よごれていない】














おしまい

ここまで読んでいただきありがとうございました。

久しぶりのオリジナルSSで書いてて楽しかったです。


愛って尊いものな一方で、空回りしてしまうと大変なことになってしまいがちだよねみたいな

そんなテーマで書いてみました。

またどこかでお会いできたらと思います。

それでは!

ノシ

うまく言葉にできないがいい終わりだ

おつおつ

>>157
ありがとうございます!
私自身もこの話がどういう話なのかいまひとつうまく表現できませんけど、雰囲気だけでも感じてもらえたら何よりです。

また書いて

>>159
そう言ってもらえて何よりです!
過去作ですが良ければ
私「死ぬなら凍死がいい」
http://142ch.blog90.fc2.com/blog-entry-13447.html

僕「僕はカラスなんだ」
http://esusokuhou.blog.jp/archives/26741266.html

姫「イケメンの王子と結婚したい」
https://h616r825.livedoor.blog/archives/55853469.html

ピークォド「動物保護プラットフォームにクワイエットがいる」 MGS
http://elephant.2chblog.jp/archives/52141395.html


新人賞の最終選考で落ちたやつの供養かなんかかと思うくらい面白かったです
まだ速報も捨てたもんじゃないわ

>>161
そういってもらえて嬉しいです
最終選考ではなく一次選考落ちでしたが!!笑
実は毎回落選小説はSSアレンジしてるんです
またよければよろしくお願いします

このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月21日 (木) 02:46:34   ID: S:8uyBnA

今夜セックスしたいですか?ここに私を書いてください: https://ujeb.se/KehtPl

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