ニジュク「クロちゃ、まだねてる」 (81)




ニジュク「だからきょうも『だめ』」

サンジュ「そっか」

ニジュク「ねぼすけだ」

サンジュ「きっと、おそくまでおきてたんだよ」

ニジュク「わるいこだ!」

サンジュ「わるいこだね!」

ニジュク「わるいこのねぼすけ、おこさなくちゃ!」

サンジュ「おふとんとって、おこさなくちゃ!」



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ニジュク「でもセンが『だめ』って」

サンジュ「センはいっしょなのにね」

ニジュク「ずるっこだね」

サンジュ「ずっといっしょで、そとにでてこないもんね」

ニジュク「なかで、なんかしてるのかな」

サンジュ「でもクロちゃんはねてるよ?」

ニジュク「じゃあ、いっしょにねてる?」

サンジュ「でもおきてたよね?」

ニジュク「あたしたちも、ねてみたらわかる?」

サンジュ「じゃあきょうは、ずっとねててみよう」

ニジュク「あたしここ!」

サンジュ「あたしはここ!」

ニジュク「おやすみ」

サンジュ「おやすみ」

ニジュク「……」

サンジュ「……」

チョウ「うわあ!?」

チョウ「ああびっくりした……」

ニジュク「ねてたの」

サンジュ「ねれなかったね」

チョウ「頼むから雪の中で寝るのはやめてくれない?」

ニジュク「でもふかふかだったよ?」

サンジュ「ふわふわして、ほわほわしたの」

ニジュク「あれ? サンジュのて、あかいね」

サンジュ「ニジュクもあかいね。ここ、しろいのしかないのに」

チョウ「青くなる前でよかったよ、全く」

チョウ「もう少しで旅立っちゃうところだったんだから」

ニジュク「たび?」

サンジュ「ここでねてたら、たびにでるの?」

チョウ「え? うん、まあ」

ニジュク「どこにいくの?」

サンジュ「クロちゃんも、そこにいる?」

チョウ「クロちゃん? ああ、あの旅人のこと?」

サンジュ「クロちゃん、ここでねたの」

ニジュク「クロちゃ、たびにでちゃったの?」

サンジュ「ここでねたら、クロちゃんにあえる?」

チョウ「……いや、まだここにいるよ。寝てるんでしょ?」

サンジュ「でもクロちゃん、おきないの」

ニジュク「たびにでちゃったから、『だめ』なのかな」

チョウ「大丈夫だって、まだ旅立っちゃいないよ」

ニジュク「ほんと?」

サンジュ「クロちゃん、まだいる?」

チョウ「いるいる」

ニジュク「でもクロちゃ、おきないよ?」

サンジュ「いるのに、いないの?」

チョウ「ああもう……」

チョウ「……まだここにいるけど、もしかしたらいつか旅立っちゃうのかもね……」

ニジュク「?」

サンジュ「クロちゃんおきたら、たびするよ」

ニジュク「いっしょに、たび、するの」

チョウ「そっちじゃなくてさ、うん、そうね……」

チョウ「今『クロちゃん』は、旅の準備をしてるのよ」

サンジュ「!」

ニジュク「!」

サンジュ「じゃあ、もうすぐしゅっぱつ?」

ニジュク「もうすぐあえる?」

チョウ「え」

チョウ「えっと、すごく時間のかかる準備だから、まだかなあ」

ニジュク「なんだー」

サンジュ「そっかー」

ニジュク「とおくにいくのかな」

サンジュ「とおくにいくときは、いつもよりおそいもんね」

チョウ「遠くに、か」

チョウ「行っちゃうのかもしれないけど……」

チョウ「……まだ迷ってるのかもね」

サンジュ「?」

ニジュク「クロちゃ、まいご?」

チョウ「迷子というか……」

サンジュ「どこでまよってるのかな」

ニジュク「なににまよってるのかな」

サンジュ「みちがいっぱいあるのかな」

ニジュク「たいようのほうにも?」

サンジュ「たいようのほうにいっぱいあるの?」

ニジュク「たいようがいっぱいあるの?」

サンジュ「まっくらじゃないのにクロちゃんおきないの?」

チョウ(議題は一つなのに筋道が迷子ね……)

ニジュク「さがさないと」

サンジュ「まいごなら、さがさないと」

チョウ「ああだめだめ!」

チョウ「そんなことしてたら、あんた達の方が迷子になりそうだわ」

サンジュ「『だめ』?」

サンジュ「また『だめ』だ」

ニジュク「『だめ』だね」

チョウ「また?」

ニジュク「センが『だめ』って」

サンジュ「クロちゃんのとこ『はいっちゃだめ』だって」

チョウ「成る程、それであんた達は『迷子』になってるのね」

ニジュク「まいご?」

サンジュ「あたしたち、まいご?」

チョウ「……ねえ、たぶん、さ」

チョウ「あんたたちが迷ったら、その『クロちゃん』が見つけてくれるでしょ?」

ニジュク「うん!」

サンジュ「センがくるときもあるけどね」

チョウ「じゃあ今も『クロちゃん』は、あんた達を探しているのかもね」

チョウ「だから待ってて。きっと『クロちゃん』は、あんた達を見つけて、戻ってくるから」

ニジュク「ほんと?」

サンジュ「クロちゃん、もどってくる?」

チョウ「うん、きっと」

サンジュ「じゃあ、まってる!」

ニジュク「クロちゃがくるの、まつ!」

チョウ「うんうん、おとなしくしてなさい」

ニジュク「いつくるかなー」

サンジュ「はやくこないかなー」

チョウ「早く来るといいね」

ニジュク「そうだ!」

チョウ「え?」

ニジュク「まいごのときは、あれやらなきゃ」

サンジュ「そだね、でもいまはない」

ニジュク「とりにいこう」

サンジュ「うん!」

チョウ「え、ちょっと!」

チョウ「……あっという間に行っちゃった」

チョウ「久々に会ってみれば倒れてるし、子供はいるし……」

チョウ「あの子達、あいつらの連れ、なのよね?」

チョウ「ただでさえ変わった見てくれだったけど、並んだら一際ね、きっと」

チョウ「……一目くらい見なきゃね」

チョウ「あ、帰ってきた」

チョウ「何それ?」

サンジュ「まいごのときは、きいろなのー」

ニジュク「きいろー」

サンジュ「はい」

チョウ「? これに火を点けろって?」


< パ ァ ン

セン『!?』

 


 

 
 
サンジュ「きょうも『だめ』」


ニジュク「クロちゃ、まだおきない」

サンジュ「かえってこないね」

ニジュク「もどってこないね」

サンジュ「クロちゃんも、まいごのときにつかうもの、もってたらよかったのに」

ニジュク「そしたら、あたしたちがクロちゃ、みつけられるのにね」

サンジュ「でもセンが、クロちゃんはねてるって」

ニジュク「ねてながら、まいご?」


サンジュ「あのしろいののところでねたら、まいごになるのかな」

ニジュク「まいごのたびにでるのかな」

サンジュ「しょうがないから、さがしにいこう」

ニジュク「でも、それも『だめ』ってゆってたよ」

サンジュ「だってまだおきないんだもん」

ニジュク「あ、まって!」

ニジュク「それで、どこにいくの?」

サンジュ「……さあ?」

少年「暖かくなってきたなー」

少年「あ、ニジュクとサンジュだ。2人で遊んでるってことは、今日もあの旅人は寝てんのかな」

少年「あれ? こっちに来るぞ」

サンジュ「ねえ、ねぼすけクロちゃん、どこにいるの?」

ニジュク「まいごのクロちゃ、どこさがせばいいの?」

少年「……ええと、何それ、なぞなぞ?」

ニジュク「クロちゃ、しろいののうえでねたの」

サンジュ「だから、どこかで、たびをしてるの」

ニジュク「そしたら、クロちゃ、おきないの」

サンジュ「きっと、まいごになったの」

ニジュク「それで、さがしにいこうとしたの」

サンジュ「でも、どこをさがせばいいか、わからないの」

ニジュク「どうしたらいい?」

サンジュ「どうすればいい?」

少年(どうしろってんだこれ)

少年「寝ながら旅をしてるってことか……? なんだそりゃ、夢の話か?」

ニジュク「ゆめ?」

サンジュ「ゆめって、たびのこと?」

少年「そりゃ、中には、旅する夢もあるだろうけど」

ニジュク「じゃあ、ゆめをさがせばいいんだね!」

サンジュ「ゆめをさがせば、クロちゃんにあえる!」

ニジュク「でも、ゆめってどこ?」

サンジュ「どこかな。どこにあるの?」

少年(あ、答え間違えたかな)

少年「いや、夢ってのは好きなように見れるもんじゃないぞ」

ニジュク「えー?」

サンジュ「なんだー」

ニジュク「じゃあ、どうしたらクロちゃにあえる?」

少年「会うもなにも、そこにいるし……」

サンジュ「だってセンが『だめ』って」

少年「ああ、そうか」

少年「……なあ、あいつ、なんの病気なんだ?」

ニジュク「びょうき?」

サンジュ「クロちゃん、びょうきなの?」

少年「違うの? だって、あれ……」

ニジュク「よくわかんない」

サンジュ「びょうきだから、クロちゃん、おきないの?」

少年「あ、いや。違うんならいいんだ、違うなら」

ニジュク「ちがうの?」

サンジュ「さあ。じゃあ、どうしてクロちゃんおきないの?」

少年「えー、そうだなあ」

少年「暖かくなってきたから? とか……なんて」

ニジュク「あったかいのかー」

サンジュ「あったかいからねちゃうのかー」

少年「暖かいと眠くなるからなあ、うん」

ニジュク「あたしたちも、ねるとき『あったかい』なるの」

サンジュ「クロちゃんとあったかくなるの」

少年「そうなんだ」

ニジュク「おはなししてもらうの」

サンジュ「でも、いつもさいしょしかわからないの」

ニジュク「あれ? なんでだろ」

サンジュ「なんでかな」

少年(おいらも少ししか理解しきれないや、この子らの話……)

サンジュ「じゃあクロちゃん、いまあったかくしてもらってるのかな」

ニジュク「だからおきないのかな」

サンジュ「でも、いっしょなのはセンだけだよ?」

ニジュク「センがクロちゃ、あったかいしてる?」

サンジュ「センがクロちゃん、ぎゅってしてる?」

少年「コウモリが!?」

ニジュク「センずるい!」

サンジュ「あたしもクロちゃん、ぎゅってしたい!」

ニジュク「ぎゅってされたい!」

サンジュ「おはなし、まだとちゅうなのに!」

少年「……」

サンジュ「やくそくしたのに」

ニジュク「おはなし、してくれないね」

少年「……それ、どんな話?」

サンジュ「! あのね、カエルのはなし!」

ニジュク「カエルがね、おうじさまなの!」

少年「王子様のカエル?」

ニジュク「まほうでカエルなの!」

サンジュ「まほうでかえたの!」

ニジュク「……」

サンジュ「……」

少年「?」

ニジュク「……つづきは、しらない」

サンジュ「クロちゃんおきなきゃ、わかんない」

少年「あー……、ごめん」

ニジュク「どんなおはなしだろうね」

サンジュ「おうじさま、どうなるのかな」

ニジュク「クロちゃ、はやくおきないかな……」

サンジュ「うん……」

少年「う……」

ニジュク「……」

サンジュ「……」

少年「……あれ?」

ニジュク「うー……」

サンジュ「んんー……」

少年「もしかして、眠い?」

ニジュク「んむー……?」

サンジュ「んー……」

少年「……だめだこりゃ」

サンジュ「あー、また『だめ』……」

ニジュク「『だめ』だ……」

少年「はいはい。わかったから、ここで寝るなよ」

サンジュ「ん……っ」

ニジュク「う……っ」

少年「ん?」

少年「ほら、とりあえずおいらの家で寝なよ、すぐそこだし」

ニジュク「そとでねたら、たびする……」

サンジュ「そとでねたら、クロちゃんにあえる……」

少年「だめだよ、風邪ひいたらどうすんだ。ちゃんと布団で、暖かくしな」

ニジュク「しろいのなくなっても『だめ』……?」

少年「だめ」

少年「……2人が病気になると、『クロちゃん』が心配して、もっと寝込むかもしれないだろ。だから、な」

サンジュ「ん……」

少年「そういうわけだから、2人は今うちにいるよ」

セン『そうか。悪いな、わざわざ』

少年「……お連れさん、早くよくなるといいな」

セン『まあ、そのうちな』

少年「そのうちか。……会いたがってたよ、『クロちゃん』に」

セン『運が良ければ、夢の中で会えるさ』

セン『夢の中じゃ、話の続きは聞こえないだろうがな』

少年「2人は後で送るよ。じゃあ」

セン『おう』

セン『――魔法でカエルにされた王子様、か』

セン『そういや、魔法で100年眠っちまったお姫様の話、なんてのもあったな。どっちも魔法を解く方法は似たようなもんだったが』

セン『……100年か』

セン『コウモリの寿命ってのは、どれくらい持つんだかな』

ねむくなった
おきたらかく

起きた

 

 
 
ニジュク「まだ『だめ』?」


サンジュ「うん、『だめ』」

ニジュク「クロちゃ、はやくおきないかなあ」

サンジュ「つまんないね」

ニジュク「つぎのたび、いつだろ」

サンジュ「またいっしょに、たびしたいね」

ニジュク「どんなところがあるかな」

サンジュ「どんなところにいけるかな」


サンジュ「たのしいところがいいな」

ニジュク「たのしいところー」

サンジュ「あそんだりー」

ニジュク「たんけんしたりー」

サンジュ「はしったりー」

ニジュク「そらもとんで」

サンジュ「あと、おかし!」

ニジュク「おなかすくもんね!」

サンジュ「きれいなところも、いきたい」

ニジュク「きれいなところー」

サンジュ「はながさいてー」

ニジュク「うみがあってー」

サンジュ「きがあってー」

ニジュク「そらがあってー」

サンジュ「いろんないろのものがあるの!」

ニジュク「いろいろないろ!」

サンジュ「いろがあると、たのしいね」

ニジュク「ここも、たくさんあるよ」

サンジュ「そらがあおー」

ニジュク「きがみどりー」

サンジュ「きがみどりなのは『あおい』んだって」

ニジュク「みどりが、あお? あおが、みどり?」

サンジュ「……きがあお?」

ニジュク「そらがみどり?」

サンジュ「たくさんいろがある」

ニジュク「うん、いっぱい」

サンジュ「……クロちゃんがねちゃったときは、なかったね」

ニジュク「しろと、くろと、はいいろばっかりだった」

サンジュ「クロちゃん、そこにいて、たのしいかな」

ニジュク「ずっと、しろと、くろと、はいいろのなかにいるのかな」

サンジュ「ここのほうが、たくさんいろがあるのに」

ニジュク「たくさんいろがあって、たのしいのに」

ニジュク「クロちゃにさわって、くろくなったこと、あった」

サンジュ「あったね」

ニジュク「クロちゃに、いろ、あげれなかった」

サンジュ「しろいの、あげられなかったね」

ニジュク「だから、しろいとこで、しろいのもらってるのかな」

サンジュ「でも、くろいのもあったよ」

ニジュク「あのくろは、クロちゃのくろ?」

サンジュ「あのしろは、クロちゃんのくろをもらってるの?」

ニジュク「じゃあ、クロちゃがおきたら、クロちゃのくろ、しろくなる?」

サンジュ「あたしたちみたく、しろになる?」

ニジュク「そしたら、いろんないろをもらえるね」

サンジュ「はなとか、つちとか、きとか、たくさん!」

ニジュク「たくさんいろがあるから、どんないろもなれるね」

サンジュ「どんないろがにあうかなー」

ニジュク「きの、あお!」

サンジュ「そらの、みどり!」

夫人「なんだか楽しそうな話してるね」

ニジュク「いろがたくさんー」

サンジュ「きがあおいのー」

ニジュク「そらがみどりなのー」

夫人「? そうかい、そりゃよかったね」

サンジュ「ほかにはどんないろがあるかな」

ニジュク「どんないろがある?」

夫人「色ねえ」

夫人「例えば太陽なんかは、『木が青い』みたいに、場所によって、赤だったり、橙だったり、黄色だったり、白だったりするんだよ」

ニジュク「たいよう?」

サンジュ「たいよう、いろんないろ?」

夫人「いろんな見え方があるのさ」

夫人「じゃあ、こうやって、手をかざして、太陽を見てごらん」

ニジュク「んー」

サンジュ「ちかちかー」

夫人「光が散らばって、いろんな色に見えるだろ?」

ニジュク「わあ」

サンジュ「たいよう、いっぱいいろ!」

夫人「太陽はね、見方次第で、いろんな姿になるんだ」

夫人「白いときもあれば、色のあるとき。明るいこともあるし、眩むこともある。暖かいし、厳しかったり」

サンジュ「たいよう、すごいね」

ニジュク「あったかいし、いっしょがたのしい」

サンジュ「クロちゃんみたい」

夫人「あんた達の連れのこと? どんな人なんだい」

サンジュ「えっとね」

サンジュ「いっしょにたびしてるの!」

ニジュク「たのしいよ!」

サンジュ「おこるときびしい!」

ニジュク「ぎゅってするとあったかい!」

サンジュ「くろいけど、しろくなるの!」

ニジュク「ひるはみえるけど、よるはわからないの!」

夫人「あはは、なぞなぞみたいだねえ」

サンジュ「だからね、クロちゃんといっしょにたびするの」

ニジュク「いっしょがたのしいの」

サンジュ「はやくおきないかな」

ニジュク「ね」

夫人「……」

夫人「『道に迷った時は太陽について行け』って、わかる?」

サンジュ「まえにセンがゆってた」

ニジュク「ゆってたね」

夫人「『クロちゃん』があんた達の太陽なら、『クロちゃん』の太陽はあんた達かもね」

ニジュク「あたしたち、たいよう?」

夫人「あんた達が、一緒にいて楽しいなら、きっと向こうもそうさ」

夫人「……変わるけど変わらない、家族は、太陽なんだよ」

夫人「だからあんた達が太陽なら、『クロちゃん』はきっとあんた達がわかるよ」

ニジュク「ほんと?」

ニジュク「あたしたち、たいよう?」

サンジュ「あたしたちが、たいよう!」

夫人「そうそう、その笑顔」

 
 
サンジュ「センー」


ニジュク「センー」

セン『あ? もう戻って来たか。駄目だっつったろ』

サンジュ「これはだれだ」

ニジュク「このひとだれだ」

セン『なんだ、なぞなぞ?』

サンジュ「たいよう!」

ニジュク「だれだ!」

セン『は?』

サンジュ「こたえは、クロちゃん!」

ニジュク「こたえは、あたしたち!」

セン『は?』
 


 

 
 
サンジュ「『だめ』?」


ニジュク「うん」

サンジュ「……」

ニジュク「……」

サンジュ「なにする?」

ニジュク「なにしよう」

サンジュ「……」

ニジュク「……」


サンジュ「そらがみどりだね」

ニジュク「でも、きはあおじゃなくなったね」

サンジュ「あっちは、あかい」

ニジュク「こっちは、きいろ」

サンジュ「こうよう、なんだって」

ニジュク「きれいだね」

サンジュ「もっとちかくでみよう」

ニジュク「うん」

サンジュ「いっぱいおちてるね」

ニジュク「ね」

サンジュ「きはあかだけど、おちてるのはちゃいろいね」

ニジュク「きいろも、ちゃいろ」

サンジュ「なんか、みんなちゃいろだ」

ニジュク「ちゃいろい、ばっかり」

サンジュ「あれもちゃいろ」

馬「ヒヒーン」

馬「ブルル」

サンジュ「おうまさんも、こうよう?」

ニジュク「まえは、あかとか、きいろだったの?」

サンジュ「みたことないね」

ニジュク「どんなだろ」

サンジュ「……」

ニジュク「……」



馬「」

爺「!?」

爺「う、馬の毛が真っ赤に……」

馬「」

ニジュク「おうまさん、こうようー」

サンジュ「あかいろにもどしたのー」

爺「おちびさん達の仕業か……新しい遊びかい? だがこりゃ、すぐに戻しちゃくれねえか」

サンジュ「もどしたよ?」

ニジュク「あかにもどしたよ?」

爺「何言ってっか知らんが、この馬は最初から茶色だ」

サンジュ「そうだっけ」

ニジュク「?」

爺「赤毛の馬もまあいるが、こんな趣味の悪い色はしちゃいねえよ……」

ニジュク「あかいの、ちがうの?」

サンジュ「きいろだった?」

爺「茶色だ茶色」

サンジュ「じゃあ、みどり?」

爺「そもそも馬は木と違……」

ニジュク「あお?」

爺「……」

爺「紅葉はああいう木にしか起こらねえよ」

ニジュク「へー」

爺「それに紅葉ってのは、木の葉の色が変わって、木から落ちることを言うのさ。茶色になったら仕舞いだ」

サンジュ「じゃあ、あの、おちてるちゃいろは?」

爺「ありゃ枯葉だ、もう乾いちまってる。元には戻らんよ」

サンジュ「……もどらないの?」

爺「そりゃそうさ、落ちたらもうくっつかないからな」

ニジュク「くっつかないと、もどらないの?」

爺「くっつかないから戻らないのさ」

ニジュク「くっつかないと、もどらない?」

サンジュ「いっしょじゃないと『だめ』?」

爺「木ってのは、そういうもんだ」

ニジュク「じゃあ、なんでこうようするの?」

サンジュ「いっしょじゃないと『だめ』なのに、いっしょじゃなくするの?」

爺「難しい事は知らんよ」

爺「あの木は去年も、今年も、来年も、紅葉して枯れていくのさ」

爺「あれは、そういう木だからな」

サンジュ「クロちゃんは、かれないよね?」

ニジュク「こうようは、くろくならないよね?」

爺「黒い紅葉は聞いたことねえな」

ニジュク「じゃあ、クロちゃといっしょじゃなくなったり、しない?」

サンジュ「クロちゃん、かれない?」

爺「どうだかな」

爺「生きてりゃ、いつかは枯れちまう」

爺「でもまあ、おちびさん達は木じゃねえだろう?」

ニジュク「うん」

爺「人と木は違う、枯れたくれえじゃ落ちたりはしないよ」

サンジュ「ほんと?」

ニジュク「クロちゃ、かれても、いっしょ?」

爺「たぶんな。そんな歳でもねえだろうし」

サンジュ「とし?」

爺「紅葉は秋のもんだ。秋ってのは、こういう老いぼれのことだからな」

ニジュク「?」

爺「それにな、木の葉ってのは、落ちたら終わりってわけじゃない」

爺「冬を越して、春には新しい葉が生える」

爺「また元気になるってこった」
ニジュク「げんきになるの?」

サンジュ「ちゃんと、おきる?」

爺「当り前だ。木も人も、なかなかしぶとく生きてるんだよ」

ニジュク「でも、おちたちゃいろは、どうなるの?」

爺「肥料に……まあ、そうだな」

爺「木にくっついてたときとは違う形だが、木の側で、木の役に立つってとこだろう」

サンジュ「いっしょじゃなくなるけど、いっしょにいられるの?」

ニジュク「すごいね」

サンジュ「よかったね」

爺「……木は凄いな。死んでも、いろんなもんを残せる」

爺「人はおちびさん達に、何ができるだろうなあ」

ニジュク「?」

爺「いや、なんでもないさ」

爺「よし、じゃあおちびさん達、枯葉を集めてくれないかい」

サンジュ「あつめる?」

爺「芋を貰ってな。焼いて食おう」

ニジュク「でも、きといっしょなのに……」

爺「煙になって旅したい奴もいるのさ」

セン『それで焼き芋貰って来たのか』

ニジュク「あまい」

サンジュ「おいしい」

ニジュク「クロちゃは、きじゃなくて、けむりなのかな」

セン『旅をして元の木を探すってか』

セン『あいつは煙ほど自由に流れられちゃいねえよ、不器用なことにな』

ニジュク「……もとの?」

サンジュ「なんかわすれてるきがする」

セン『?』

 
 
 
 
爺「」


馬「」
 


 

 
 
ニジュク「きょうは?」


セン『駄目だ』

サンジュ「まだ?」

セン『まだ、だ』

ニジュク「どして?」

サンジュ「なんで?」

セン『どうしても、なんででもだ』

ニジュク「……」

サンジュ「……」

セン『駄目だ』


ニジュク「クロちゃ、いつおきるの?」

セン『さあな』

サンジュ「クロちゃん、いつかえってくるの?」

セン『夢に飽きたらじゃねえの』

ニジュク「クロちゃ、まだしろいとこにいるの?」

セン『こいつはいつでも真っ黒だよ』

サンジュ「クロちゃん、けむりになってまよって……」

セン『しつけえ!』

ニジュク「だって」

セン『だってじゃありません』

ニジュク「つまんない」

サンジュ「まだおはなしもとちゅうだし」

セン『話なあ』

セン『お前らちゃんと聞いてたのか?』

ニジュク「きいてたもん!」

サンジュ「センよりしってるもん!」

セン『じゃあ聞かせてみろ』

ニジュク「……」

サンジュ「……」

ニジュク「……」

サンジュ「……」

セン『泣くな馬鹿』

サンジュ「ないてない!」

ニジュク「ないもん!」

セン『はいはい』

サンジュ「クロちゃんおきないから、わかんないの!」

セン『うんうん』

ニジュク「クロちゃがおきたら、はなせる!」

セン『そうだな』

セン『起きたらまず、その続きからだな』

ニジュク「……うん」

サンジュ「……クロちゃん、いつおきる?」

セン『旅がしたくなったら、起きてくるさ』

セン『それまで待ってられるか?』

ニジュク「うん」

サンジュ「あたしたち、クロちゃんとたびしたいもん」

セン『お前らがそう言うなら、あいつもそうするだろうな』

セン『だから待ってろ。そうすりゃ、そのうち戻ってくる』

サンジュ「なんで、あたしたちからあいにいくの『だめ』なの?」

セン『まあ選ぶのはあいつだからな』

セン『決まりきってるくせに、あの馬鹿はいつまでも悩んでやがるのさ』

ニジュク「まってたら、あえる?」

サンジュ「あえるら、まってる」

ニジュク「クロちゃのおはなしききたい」

サンジュ「クロちゃんとたびしたい」

ニジュク「だから、まつ」

サンジュ「きっとかえってくるよね」

ニジュク「あたしたち、クロちゃのたいようだから」

サンジュ「あたしたち、クロちゃんのきになるから」

 
 


 
 
 
クロ「随分と寝過ごしたな」


セン『まったくだ。おかげで随分と疲れた』

クロ「2人の世話は大変だったかい?」

セン『お前がいない分な。だがその分、いろんな奴に遊んで貰ったらしいぞ』

クロ「なら、寂しくはなかったかな」

セン『そうでもないさ』

セン『あいつらにとっては、お前が太陽で、木らしいからな』

クロ「?」


クロ「……もしあのとき、私が2人を連れ出さなければ」

セン『あん?』

クロ「少し考えてたんだ。どうなっていただろう、と」

セン『どうもねえよ、そのまま旅を続けるだけだ』

クロ「あの2人は、いつまでも『はかせ』を待っていただろうか」

セン『待っただろうな。それしか知らなかったんだからよ』

クロ「辛くなかった、だろうか」

セン『さあな。それも知らなかったんじゃないか』

クロ「知らなければ、か。結局、寒さについては教えないままだったね」

セン『そういや、そうだったな』

クロ「知らないというのは、楽なことなんだろうか」

セン『さあな。オレはいろいろと知ってるから、知らねえよ』

クロ「知れば、後悔すると思うかい?」

セン『後悔ってのは、ずっと先にするもんだ。今聞くな』

クロ「……今より昔のことでも?」

セン『今悩むなら、今のことだろ』

クロ「センの理屈は変わってるね」

セン『お前ほど面倒には考えねえだけだ』

クロ「……そうだね、私は余計なことを考えすぎていたのかもしれない」

セン『お前は元々そんな頭回らねえくせにな』

クロ「センが回り過ぎてるだけだよ。分割されて、頭の回路も増えたんじゃないかな」

セン『千分割の細っこい回路なんざ、すぐ壊れちまうじゃねえか』

クロ「ああ、だから変なのか」

セン『誰が壊れてるって?』

クロ「私は旅をして、たくさんのことを知ったよ」

クロ「知らなかった場所で、知らなかった人に会って、知らなかったものを見て、聞いて」

クロ「私はこの先、それを後悔したくない。……2人にも、後悔して欲しくない」

クロ「知ることを、後悔して欲しくないんだ。たとえそれがどんなことであっても」

セン『オレは元々学者気質だからな、知ることを悪いと思ったことはそうねえけどよ』

セン『もうあいつらだっていろんなことをわかってきてる、お前が寝呆けてた間にもな』

セン『それに、知って後悔するか、知らないで後悔するかは、本人の決めることだ。お前はそれまで待ってりゃいい』

セン『そしてオレの言うことに従うかどうかも自分で選べ』

クロ「そう言われると逆らいたくなるね」

セン『まあとりあえずだ、あいつらが待ったのも、旅をするのも、結局はあいつらが決めたことだ』

クロ「……うん。私は道を知らせただけだ」

セン『お前を待ってたのも、あいつらが決めたことだ』

クロ「そうだね」

セン『けどあいつらにする話は、お前が決めたことだろ』

 
 
ニジュク「あ、クロちゃ。にもつのせいり、おしまい?」


サンジュ「おしまいなら、あったかいして、おはなし!」

 
 
クロ「……うん。そうだね」

 


おわり

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