少女「怖いものは隠さなきゃいけないのにね」 (83)

〜プロローグ〜


男「……」

少女「何か用?」

男「お前が俺に質問をするな」

少女「ふーん。冷たいんだね」

男「俺は刑事。お前は牢獄に閉じ込められ、椅子に縛り付けられた犯罪者。だからだ」

少女「そんなに冷たいと、泣いちゃうかもよ私」


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男「お前がそんな軟な女とは思えないけどな」

少女「こんなか弱くていたいけな女の子を閉じ込めるなんてね」

男「ふん、そんな事はどうだっていい」

少女「あっそう」

男「お前に聞きたいことがある」

少女「あなたが私に質問するな」


男「……」

少女「なんてね」

男「俺はお前に拷問を許されているんだが」

少女「知ってる。私の腕に、足に、口では言えない恥ずかしい場所に」

少女「至る所に繋がれた電極、電線。これってそういうものなんでしょ?」

男「質問を許した覚えはないと言ったはずだが」

少女「ちぇ」


男「俺はお前がどんな罪を犯しここにいるのかなんて知らない」

男「興味もない」

少女「……」

男「だが、俺がお前の監視官になってしまった」

少女「可哀想」

男「言うな、自覚している」

少女「酷いね」

男「こういう性格だ、諦めろ」


少女「前の人はどうなってしまったの」

男「……」

少女「質問には答えない、か」

男「知っているだろう」

少女「頭が狂って自殺、ってところかな」

男「……」

少女「図星なんだ」

男「さあな」


少女「私と普通に会話しているだけだったのにね」

男「……」

少女「本当のお姉さんみたいで優しかったのにな」

男「お前が殺したくせにか」

少女「この暗い部屋で、ずっとこんな状況で、どうやって[ピーーー]の?」

男「人を[ピーーー]のは、何も道具だけじゃない。言葉が人を[ピーーー]こともある」

少女「苛めみたいなものだね。でも私、お姉さんに意地悪なこと言ってない」


少女「私と普通に会話しているだけだったのにね」

男「……」

少女「本当のお姉さんみたいで優しかったのにな」

男「お前が殺したくせにか」

少女「この暗い部屋で、ずっとこんな状況で、どうやって殺すの?」

男「人を殺すのは、何も道具だけじゃない。言葉が人を殺すこともある」

少女「苛めみたいなものだね。でも私、お姉さんに意地悪なこと言ってない」


男「お前は知っているだろう」

少女「何を?」

男「言葉の伝え方を」

少女「んー。あなたが何を言っているのかわからないかな」

男「……例えばの話だ。死ね、と言われて死ぬ人間はいるか」

少女「さあ」

男「答えは、いる、だ」


少女「……」

男「お前はそれをよく知っている。人の騙し方、人の操り方」

男「それを言葉だけでなく、ありとあらゆるコミュニケーション手段を用いて実施する」

少女「なあんだ。あなた、私のことをよく調べているんだ?」

男「最低限はな。仕事だから」

少女「でも、ほら。もう残念。今あなたは私の質問に答えちゃった」

男「……」

少女「確かに私は知っている。私は普通の言葉の使い方を知っている」

男「……」


少女「私はこの人生で一度も刃物を握ったことがない」

少女「せいぜい、フォークとナイフくらいかもね」

少女「でも、私は刃物を常に持っている。それは羽毛の様に柔らかくて、気持ちのいいもの」

少女「そして私は私を知っている。他人から見える私を何より自覚している」

少女「だから私は他人の心が手に取るようにわかる」

少女「今、あなたが私を怖がっていることも」


男「……」

少女「だけど、本当は怖がっていない。ああ、やっぱり餓鬼の言う事ははったりか、なんて思ってる」

男「っ!」

少女「だけど、それは果たして本当にあなた自信が思ったことかな」

少女「私が、あなたがそう思えるように誘導したのかもしれない」

男「何を馬鹿なことを言っている」

少女「……ふふ」

男「……」


少女「これはマインドコントロールってところかな」

男「お前はだから危険なんだ」

少女「知ってる。だからこうして、未成年だって言うのに、少年法にも引っかかる年齢だって言うのにさ」

少女「私は鉄格子の中、牢獄の中、電線と鎖に繋がれて椅子に座っている」

男「……」

少女「自慢だった綺麗な髪の毛もばさばさ、木目細かい白いはだもがさがさ」

男「そうやって、前の監視官の同情を煽ったんだな」

少女「年端もいかない少女がこうして繋がれている。信じられる現象じゃないよね」


男「お前は直接的に殺意のこもった言葉を使わない」

少女「汚いのは嫌いだもの」

男「だから、お前の周りは勝手に死んでいく人間だらけだ」

少女「そうなの」

男「でもな、それでもお前は人殺しだ」

少女「そうだね」

男「言葉という凶器は、同じ言葉でも違う意味を持ってしまうことがある」

少女「……。”こんな世界は残酷だね”」


男「……なんだ。いきなり何を言っている」

少女「私が前のお姉さんに最後に言った言葉だよ」

男「……」

少女「するとお姉さんは泣いて私に謝ったの」

男「そうか」

少女「どうしてか気にならないの?」

男「さあな」


少女「でも、大切な人だったんでしょ?」

男「さあな」

少女「へぇ、しらを切るんだ」

男「ふんっ」

少女「あ、今のちょっと苛っとした。鼻で笑った!」

男「なんだお前、怒ることもあるのか」

少女「さあ? でもね、私が本当に怒っているのかどうかなんてどうやって知るの?」


男「興味はないな、お前がどんな感情であろうと」

少女「つまんない男」

男「こうでもしないと、お前は容易く俺に取り入るだろ」

少女「じゃあいっそのこと話さなければいいのに」

男「そういう訳もいかないんだ」

少女「なんで?」

男「どうしてだろうな」

少女「……どうせ、私の言葉が必要なんでしょ」


男「どうして断言できる」

少女「年端もいかない危険人物を拘束し、更生し、社会に役立たせる」

男「どうだろうな」

少女「ごまかしても無駄。お姉さんから聞いたもの」

男「……嘘だな」

少女「……。私の言葉で、事件の早期解決が可能になるんじゃないか」

男「……」

少女「上のお偉い方は、犯罪者の本当の恐ろしさを知らないから、こうしてあなたが派遣される」


少女「偉い人の考えることは、現実的ではなくて理想的」

少女「その夢物語にすがるように、私に首輪をまいて手綱を握って」

少女「便利な駒の一つにしたいんでしょ」

男「……」

少女「これも全部、あのお姉さんに聞いた話だよ」

男「そうか。俺は知らない話だ」

少女「そして今確信した。この話って本当だったんだ」


男「どうしてそう思った」

少女「あなたの反応が今までのと比較すると、異なったから」

少女「あなた、嘘が下手でも上手い訳でもないんだね」

男「……」

少女「私と会話をするならば、嘘をつこうなんて思わないこと」

少女「あなたが私に何かを聞くことで、私はあなたの何かを知ることができる」

男「詭弁だな」

少女「コミュニケーションっていうのは、こういうことだよ」


男「お前にとってコミュニケーションはどんな意味を持つんだ」

少女「情報の交換。それだけ」

男「そうか」

少女「その中で、あなたを分析して解析する」

男「それは怖いな」

少女「そうでしょ?」


男「さてと、そろそろ隠し事をしても無駄かな」

男「……そうだ。お前の言うとおり、俺たちはお前を利用しようと考えている」

男「でもな、俺個人としてはどうでもいいんだ」

男「俺はお前をとても憎いんでいるから」

男「だから、願わくば一生ここで光のない牢獄で死んでくれないかと思っている」

男「俺の婚約者を自殺まで追い込んだお前をな」


少女「やっぱりそうだったんだ」

男「気付いていたのか」

少女「私がお姉さんの話を持ち出したときからね」

男「どうしてだ」

少女「頭が狂って自殺した、って言ったときね。あなた、雰囲気が少し変わったもの」

男「そうだったとして、ただの同僚とは思わなかったのか」

少女「どうだろうね。でも、もしかするとこれはただの知ったかぶりかもね」


男「……」

少女「あなたは今、私がどこまで真実を知ることができて、どこまで嘘を言っているのか疑っている」

男「ああ」

少女「でも私は教えない」

男「……」

少女「じゃあね。そろそろ面会の時間は終わりでしょ」

男「……」

ガチャ


少女「えっと、どうしてこっちに入ってくるの」

男「……」

少女「あなたが今、私の首に巻いたものは何かな?」

男「首輪だ」

少女「もう少し別の言い方ってないの?」

男「さあな」

少女「まあいっか」


男「……」

少女「それで、何をしているの」

男「電線と鎖を外している」

少女「どうして?」

男「お前を外に連れ出すためだ」

少女「なんで?」

男「お前を利用するためだ」

少女「はい?」


男「さあ、行くぞ」

少女「あの、ちょっと」

男「何をうろたえている」

少女「さっき言ってたことと矛盾してるんだけど」

男「お前を更生する事なんて出来るか。ならば、さっさと現場で役立てたほうが早い」

少女「……」

男「その首輪は、俺との距離が500mも離れたら爆発する仕組みになっている」

男「あと、電波の届かない場所に行っても同じだ」


少女「……それだけ?」

男「俺はお前が嫌いだ」

男「だけど、お前の力を世間のために役立てたいと言っていたあいつの気持ちを汲んでやりたい」

少女「情熱的だね」

男「黙れよ、糞ガキ」

少女「レディに対して失礼だよ」

男「さあな」


少女「まあいっか。これから宜しくね」

男「……」

少女「またここに戻ってこないように、頑張るよ」

男「そうしろ。役に立たないようなら、さっさと切り捨てるからな」

少女「ふふ。凶悪犯を外に連れ出す刑事さん。世間が知ったらどれだけの大騒ぎになるんだろうね」

男「……」

少女「怖いものは隠さなきゃいけないのにね」




〜プロローグ 終わり〜

のんびり暇つぶし程度に書いていきたいと思う
ワンクールとして12話を目途に書き切りたい。あと、過度な期待はしないで下さい

1話


街中


少女「ねえ、どこに行くの?」

男「俺の家だ」

少女「そうなんだ!」

男「一応、そこが拠点になる。……お前、なんだか機嫌がいいな」

少女「うん。やっと細かい書類の手続きや審査が終わったからね」


男「そうか」

少女「それにね、久しぶりの街中。何年ぶりかな」

男「およそ3年ぶりだろう。知っているのに、どうして俺に聞く」

少女「それはね、あなたとのコミュニケーションだからだよ」

男「……くだらんな」

少女「なんて言いながら、所詮子供の記憶なんてこの程度かなんて思ったくせに」

男「知らんな」


少女「あっ、あの林檎食べたい!」

男「……」

少女「むう」

男「……」

少女「ねえってば!」

男「いいから行くぞ」

少女「へえ、そんな事を言うんだ」


男「……」

少女「私がここで大声で泣き声を上げたらどうなるかな」

男「はぁ?」

少女「めんどくさいことになるんじゃないかな」

男「そう思うならやってみろ」

少女「……やめた」

男「何故だ?」


少女「だってさ、流石にみっともない」

男「知らんな」

少女「その反応は、そうです、って言っているのと同じだよ」

男「ふん」

少女「……もういいもん。諦める」

男「そうしておけ」


少女「……ぐす、林檎ぉ……」

男「……」

少女「きっと、甘いんだろうなぁ……くすん……食べたいなぁ……」

男「……」

少女「久しぶりの外なのに、林檎ぉ……」

男「しつこいぞ」

少女「ふえーん」

男「……」


??「ちょっとそこの人」

男「誰だ?」

おばちゃん「その子、林檎が食べたいのよね?」

少女「……うん」

男「いや、こいつは」

おばちゃん「これ、一つあげちゃうわ!」

男「それは」

少女「お兄ちゃん……いいよね……」


男「なっ、おにいっ!?」

おばちゃん「あら、兄妹? 妹は大切にしなきゃ」

おばちゃん「ほら、持っていき! 美味しく食べなさいね!」

少女「ありがとう、おばちゃん!」パァア

男「……」

少女「ばいばーい!」

おばちゃん「ばいばい!」


男「さっきのは何だ」

少女「何が?」

男「あれもお前の思惑通りか」

少女「さあ」

男「きっとそうなんだろうな。つくづく末恐ろしい奴だ」

少女「酷いなぁ。でも、林檎は本当に嬉しい」


男「だが、それをどうやって食べるつもりだ」

少女「あなたの家で、刃物を使うつもり。皮をむいて、切り分けるの」

男「お前、生まれてこのかた刃物を握ったことが無かったんじゃなかったのか」

少女「ない。これも本当」

男「ならばさせる事はできないな」

少女「じゃああなたはあの優しそうなおばちゃんの善意を無駄にするつもり?」


男「……卑怯だな」

少女「ちょっとしたおちゃめ。可愛いものと思わないのかなお兄ちゃん」

男「それを止めろ。虫唾が走る」

少女「ふーん、そう」

男「……」

少女「それにしてもこの林檎、美味しそうだなー」

男「……はぁ」


男自宅


男「……」

少女「なんだか普通のマンションだね」

男「……」

少女「あの死んじゃったお姉さんはもっと広い家って言ってたのにな」

男「っ!」

少女「っ! へぇ、女の子の胸倉掴むとか、あんまり褒められた行動じゃないよ?」


男「お前は覚えておくべきだ。お前の命は俺が握っていることをな」

少女「首輪、爆発するんだっけ?」

男「……」

少女「でも、爆発ってのは嘘。特殊な電気が流れて、私は死ぬ」

少女「街中で爆発なんてさせられるはずないもんね」

男「……」

少女「心臓麻痺のように死んじゃうんだろうな」


少女「それで、私を殺すの?」

男「殺すものか」

少女「っ! お、押し飛ばすなんて暴力的だね」

男「ふんっ」

少女「でも、いいんだよ? もっと酷いことしたって」

男「舐めるなよ、糞ガキ」

少女「ふふふ」


男「……」

少女「さってと、林檎食べようっと!」

男「……」

少女「ねえ、剥いて?」

男「……」

少女「じゃあ刃物を借りるね」

男「いや、だめだ」


少女「どうして?」

男「お前が刃物で俺を殺すかもしれない」

男「だがな」

少女「あなたの心臓が止まったとき、この首輪の装置が動き出すんでしょ」

男「……そうだ」

少女「まるで漫画だね」

少女「人権を踏みにじった漫画みたいな首輪。でも、これがないと私は外に行けなかった」


男「……だが」

少女「もちろん、自殺なんてしないよ。そんなつまらない死に方をするくらいなら」

男「奴隷になっても生きたほうがマシということだな」

少女「……。あ、うん、そう」

男「その反応が演技なのか素なのか俺にはわからない」

男「もしかすると、俺がこういう思考回路になるよう導かれているのかもしれない」

少女「どっちだろうね」


男「お前と接するときは、お前の全てを疑わなければならない」

少女「そういうことだよ」

男「小賢しい糞ガキめ」

少女「本当に口が汚いね」

男「知るか」

少女「まあいいや。ところで、この林檎だけど」

男「……かせ」


少女「わーい」

男「……俺は一体何をしているんだ」

少女「そういうことは考えないほうがいいよ」

男「うるさい」

少女「やだ、黙らない。私、お喋りが大好きだから」

男「お前のそれは普通じゃないから怖いんだ」


少女「えへへ」

男「不気味だな、お前という奴は」

少女「……」

男「一見すればただの女の子だ。でも、その頭ん中は人のソレではない」

少女「人を化物扱いしないでよ」

男「……」

少女「でも、まあ、うん。私は化物かもしれないね」


少女「私を知らない人からすれば、私は可憐な女の子」

少女「私を知る人は、知れば知る程、私という人間がどういうものか判らなくなる」

少女「わからないモノは、化物や怪物なんて言われる」

少女「私はきっとそういうもの」

少女「何かを知ることは、知らないものがあることを知ることでもあるんだよ」


男「……」

少女「ふふふ」

男「林檎、剥けたぞ」

少女「わぁーい!」

男「……」

少女「んー、おいしい!」

男「……」

とりあえずここまで
読者少なくても頑張る


数日後 自宅


少女「それでさー、私の仕事っていつ始まるの」

男「事件が起きていない。それは平和ということだ」

少女「そうだけど。まあ、あの牢獄に居た頃に比べるとこっちの方がいいかな」

男「牢獄と俺の家を比較するな」

少女「それもそうだね、ふふ」


prrrr

男「俺だ」

少女「……」

男「……そうか。わかった」ピッ

少女「どうしたの?」

男「喜べ、仕事だ」

少女「やっとだね」


現場 封鎖された裏路地


男「被害者は女性、昨日の帰宅途中に殺害されたんだとさ」

少女「へぇ」

男「これがその現場だ」

少女「血だね。それも、変な死体。……あーあ、化粧道具が辺りに散らばってる」

男「……お前みたいな子供がよくもまあ、そんな風にじっと死体を見続けられるな」

少女「死んだらモノでしょ?」

男「……」


少女「それにしても凄いね。経動脈だけをばっさり。彼女自身の血で服が真っ赤になってる」

男「……」

少女「まるで真紅のドレスをまとった女。それにじゃらじゃらとした装飾品が下品」

男「……ところで、どうしてお前はこちらの被害者を変死体なんて言ったんだ」

少女「簡単だよ。通り魔なのに、殺し方が綺麗過ぎる。普通、腹部を刺すとか背中を刺すとか」

少女「もっとぐちゃぐちゃになってても可笑しくはないと思う」

少女「少なくとも、私なら憎い相手だったらそうする」


男「いちいちお前は怖いな」

少女「その怖いものを外に連れ出した人の方が怖いと思うけれど」

男「どうだか」

少女「ふふふ」

男「……さて、今からお前の仕事の始まりだ」

少女「なあに?」


男「判っているだろう。いちいち説明しなくとも」

少女「ふふ……。私の使い方、ちょこっと判ってきたんだね」

少女「いいよ。してあげる。犯人像のプロファイリングを」

男「……」

少女「えっとね、まず加害者の性別なんだけどね」

男「ああ」


少女「十中八九、女性。それも、華奢でひ弱な女性」

男「……」

少女「さらに人の体にも少し詳しいと思う」

少女「それでいて美人。きっと被害者は、何かこう……綺麗になれるアイテムとかで釣られたんじゃない?」

男「……」

少女「職業は……きっと誰かに化粧を施したりする人だと思う」

少女「性格はすごく穏便で、気遣いができる。絵に描いたような良い人っぽい化物」


男「……」

少女「さてと、そろそろあなたの疑問にも答えてあげるね」

少女「どうして私が此処までプロファイリングをあっさりと進めることができたのか」

男「説明してもらおう。裏づけはあるのか?」

少女「裏づけなんて私の中にしかないよ。それでも聞く?」

男「……ああ」

少女「うん、いい選択だね」


少女「まず、性別についてだけど」

少女「この首の切り傷、粗いんだよね」

男「粗い?」

少女「頑張って精一杯切りました。って感じがすごく伝わるの」

男「なるほど」

少女「そこからまず、筋力のない人だと思った」


少女「次に、どうして美人な人で、化粧品を取り扱っているのか」

少女「それはね、この切り傷なんだけど……。迷うことなく経動脈だけを切り裂いているの」

男「それがどうして化粧品を取り扱う美人な女性に繋がるんだ」

少女「わからない?」

男「さっぱりだな」

少女「やっぱり男の人はだめだね」

男「……」


少女「化粧というのはね、表面だけを見るのが素人なの」

少女「内面まで見て、評価して、その人に合わせた化粧を施すのがプロ」

少女「だから、リンパ液の流れや静脈の位置、もちろん動脈の位置も把握していて当たり前なの」

少女「一流のビューティーアドバイザーならね。そういえばあなた、経動脈を一回で指差して示すことはできる?」

少女「男性ならちょうど喉仏の隣に位置するんだよ? 知ってた?」

男「……」

少女「ふふ。でも、それなら医療に関わる人でも同じ、って言いたそうだね」


男「その通りだ」

少女「……ねえ、この被害者の女性を見て何も思わない?」

男「どういうことだ」

少女「着飾ったドレス、じゃらじゃらした装飾品、そして多種多様の化粧品」

少女「この人、異常なまでに美に対して執着している」

男「……そうだな。でも、それがどう関係してくるんだ」


少女「こういう人を裏路地に連れ出すには、どうすればいい?」

少女「簡単だよ。餌をぶらさげるんだ」

男「……化粧品か」

少女「そう。ここで、加害者が化粧品を取り扱う人だって思ったの」

男「でも、それがどうして美人な人って限定的な解釈になるんだ」

少女「不細工に化粧品を進められても、誰も買おうだなんて思わないでしょ」

男「……」


少女「こういう人を裏路地に連れ出すには、どうすればいい?」

少女「簡単だよ。餌をぶらさげるんだ」

男「……化粧品か」

少女「そう。ここで、加害者が化粧品を取り扱う人だって思ったの」

男「でも、それがどうして美人な人って限定的な解釈になるんだ」

少女「不細工に化粧品を進められても、誰も買おうだなんて思わないでしょ」

男「……」


少女「良い化粧品があると、美人に言われたこの女性はね」

少女「その言葉を信じてこんな裏路地に連れ出されちゃったの」

少女「そして、準備をするからとか言われて被害者が加害者に背を向けたとき」

少女「経動脈をざっくり、ってとこかな」

少女「こんな裏路地まで連れてくるなんて、よっぽど言葉遣いが巧みなんだと思うよ」

男「……無理矢理なプロファイリングだな」

少女「そうかもね。でも、この推理を信じるかどうかはあなた次第」

男「……」


少女「別に信じなくてもいいよ」

少女「正しいのは唯一、結果だけだからね」

少女「私の推理が正しいかどうかなんてさ、結果だけが教えてくれるんだから」

男「……」

少女「……さあ、どうする?」

男「……信じよう」


少女「ふふ、そうでなくっちゃ」

男「……加害者が生息する場所の目安は付いているか?」

少女「さあ? そこまではわかんない」

男「おいっ」

少女「でもまあ、ここからが足の使い所じゃないのかな。刑事さん」

男「……ちっ」


少女「聞き込み、追跡、張り込み、取調べ、事情聴取」

少女「その中で疑わしきを寄せ集め、吟味して、犯人へと繋がる手がかりを洗い出す」

少女「そうでしょ?」

男「ああ、そうだ」

少女「じゃあ私はこれで」

男「もちろんお前も付いてくるんだ」


少女「へ?」

男「忘れたのか? 500mも離れると、その首輪がどかんだ」

少女「……そうだった」

男「お前の望みどおり、足を使ってやろう」

少女「車は?」

男「さあ」

少女「……この鬼畜刑事め」

今日はここまで
ちょこちょこっと書いていくつもり

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