北条加蓮「藍子と」高森藍子「12月中ごろのカフェで」 (35)

――おしゃれなカフェ――

北条加蓮「ねー、藍子」

高森藍子「はい。何ですか?」

加蓮「モバP(以下「P」)さんなんだけど、何か心当たり無い?」

藍子「……ええと?」

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レンアイカフェテラスシリーズ第97話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「冬の始まりのカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「お互いを待つカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「のんびり気分のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「違うことを試してみるカフェで」

藍子「心当たり……って、何の心当たりでしょう?」

加蓮「あはは、ごめん。ちょっと端折りすぎちゃった。実はね――」

加蓮「っと。店員さん」

藍子「あはは……。コーヒー、ありがとうございます」

加蓮「ありがとね。でも、ちょっとタイミングが悪かったかな?」

藍子「あっ、こら、加蓮ちゃんっ」

加蓮「ほらー、藍子がさっき困った顔したの。見逃さなかったよね?」

藍子「大丈夫ですからっ。……もうっ。加蓮ちゃんが変なことを言うから、店員さん、とぼとぼって顔をして帰って行っちゃったじゃないですか!」

加蓮「ふふっ。だって事実だもん。ちょっとくらいは……ね?」

藍子「もう……。はい、加蓮ちゃん。加蓮ちゃんの分」

加蓮「ありがと――って、よくこっちが私の分だって分かったね」

藍子「ふふ。それくらいは分かりますよ~」

加蓮「こっちの、じっと見てても底が見えないほど濃いコーヒーが私の分で」スッ

藍子「こっちの、紅茶と見間違えてしまいそうな綺麗な色をした方が、私の分っ」スッ

加蓮「コーヒーとしか言ってないのにね」

藍子「加蓮ちゃん。気付いていましたか? 店員さん、私と加蓮ちゃんが注文した時に1回、私たちの顔を、じ~、と見比べていたんです」

加蓮「あー、それ気付いてた。すごいじーっと見てくるから何かなって思ってた」

藍子「あれ、きっと私と加蓮ちゃんに合うコーヒーを考えてくれていたんですよ」

加蓮「合うコーヒー?」

藍子「はい。今はどんなコーヒーを出したら喜んでくれるかな? って」

加蓮「んー……」

藍子「あっ。その顔は、信じていないって顔ですね?」ジッ

加蓮「ちょ、こら、顔近すぎっ」グイ

藍子「きゃ」

加蓮「ずず……」

藍子「ずず……」

加蓮「ふうっ。……うん。なんていうか、今の私にぴったりな味っ」

藍子「ふうっ♪ 私もですっ」

加蓮「分かる物なのかな?」

藍子「分かるものなのかもしれませんね」

藍子「……くすっ♪」

加蓮「何」

藍子「ううん。よかったですね、加蓮ちゃん。加蓮ちゃんのことを分かってくださる方が、また1人増えましたっ」

加蓮「……なんていうかさ」

藍子「なんていうか?」

加蓮「私ってそんなに分かりやすい?」

藍子「う~ん……。分かりやすいか、分かりにくいか、っていうお話なら、分かりにくいとは思います」

加蓮「うん」

藍子「私は、加蓮ちゃんと長く一緒にいるから……あはは。どうしても、分かっちゃいます」

加蓮「いやアンタ一緒にいなかった頃からバシバシ見抜いて来てたよね……」

藍子「あ、あはは……。ほらっ。最近の加蓮ちゃん、店員さんとすごく仲良さそうにしているからっ。店員さんもきっと、加蓮ちゃんの好みを分かってきたんだと思いますよ」

加蓮「……」ズズ

藍子「……うれしくありませんか?」

加蓮「……そーいうこと聞くの、反則でしょ」

藍子「ふふ。じゃあやめますねっ」

加蓮「ムカつくっ」ズズ

加蓮「話、戻していい?」

藍子「あ、はいっ。Pさんの心当たりですよね。……って結局、何の心当たりなんですかっ」

加蓮「だからそれ言おうとしたら店員さんが来たんだってば。なんかさ、最近Pさんの様子が変なんだよね」

藍子「ふんふん。それは、どういう時に?」

加蓮「話してる時とか。一番最近だと現場に送ってもらった時かな」

加蓮「態度はいつも通りなんだけど、話してる時たまにおかしくなるの……おかしいって程じゃないかも」

加蓮「何かを言おうとして、でもつっかえてるって感じ……? 言いたいことがあるのに言葉が出てこない、って状態?」

藍子「言いたいことがあるのに、言葉が出てこない……」

加蓮「それもさ、プライベートのことじゃないっぽいの」

藍子「そうなんですか?」

加蓮「うん。その現場まで送っていってもらった時だって、その時にプライベートの話しまくったし」

藍子「プライベートのお話を……。どんなお話だったんですか?」

加蓮「それは――あ、こらっ。何さり気なく聞き出そうとしてんの」

藍子「ふふ。ばれちゃいましたっ。とにかく、Pさんがプライベートで悩んでいる、ってことではないんですね?」

加蓮「ったく。そういうこと。まあ確定じゃないけど……。あれはたぶん、仕事のことか私達アイドルのことだと思うんだよね」

藍子「加蓮ちゃんの分析ですから、きっと当たってますねっ」

加蓮「藍子、なんか心当たりない?」

藍子「う~ん……」

加蓮「Pさんの様子がおかしかったとか、変だったとか……あと他の事務所の人と話してたとかっ。何か見てないの!?」

藍子「ほ、他の事務所の方とのお話くらいはすると思いますよ? それも、Pさんのお仕事でしょうから……」

加蓮「……それもそっか」

加蓮「なんか話してると変に不安になっちゃった。もしかしたら他の事務所に……なんてことも、あるかもしれないじゃん」

藍子「……もう。加蓮ちゃん。この前、考え込みすぎたら悩みが大きくなってしまうよって教えてくれたのは、誰ですか?」

加蓮「あ……。あー……。自分がそうなるとなかなか気付けないんだね、こういうの」

藍子「もうっ」

加蓮「ありがと」

藍子「どういたしまして……?」

加蓮「まあ、ほら、本気で思ってた訳じゃないんだし」

藍子「分かってますよ。加蓮ちゃんが、Pさんを信頼してるってことくらい」

加蓮「ごめんってば」

藍子「心当たり……。心当たり。う~ん……」

加蓮「……」ズズ

藍子「最後にPさんとお話をしたのは……。2日前、だったかな? 昨日は、私もPさんもあまり時間がなくて、あいさつくらいしかしていないから……」

加蓮「その時何か話した?」

藍子「そうですね~。確か、年末のLIVEのことだったかな?」

加蓮「年末のLIVE」

藍子「こんなこと言ったら加蓮ちゃんにまた怒られるかもしれませんけれど……。私、やっぱり大舞台に立つ前は、今でも不安に思ってしまって」

藍子「でも、不安を隠したままにするのはよくないから、Pさんに色々相談をしてみたんです」

藍子「LIVEのこととか、段取りのこと、あと、私の演目のこと……。そうそうっ。レッスンが順調かどうかってお話も、すごく詳しいところまで一緒にしましたっ」

加蓮「へー? 最近はPさん、ほとんどレッスン見に来てくれないもんね」

藍子「ですね。信じてもらっている、って考えれば嬉しいことですけれど……」

藍子「そういえば。そのお話をした時にPさんがちょっとだけごめんなさいって顔をして、今度は時間を作って見に来てくれるそうですよ」

加蓮「そうなの? いつ見に来るとか言ってた?」

藍子「さあ、そこまでは……。時間を作って、としか」

加蓮「じゃー抜き打ちチェックって感じかな」

藍子「そ、そういうことではないと思いますよ~」

加蓮「Pさんが来るって分かったら、見せちゃ駄目な姿とか隠さないといけないじゃん?」

藍子「あ~。レッスンを思いっきりやった後、レッスンルームの床に倒れ伏せている加蓮ちゃんとか……」

加蓮「そうそ――待て。待て。こら。なんでそんな具体的なこと言うの」

藍子「Pさん、ちょっぴり怒っていましたよ。また加蓮ちゃんが無茶をしている! って」

加蓮「え……。え、待って、ってことは」

藍子「レッスンを見に来る時に、加蓮ちゃんのことは特に注意して見ておかないと、とも言っていました」

加蓮「……話した?」

藍子「……話の流れで」

加蓮「どんな流れよ! どうせアンタが余計なこと言ったんでしょうが!!」

藍子「わ、私はただ、レッスンの時のみなさんの様子を。トレーナーさんからのお話だけでは分からないところがあるからって聞かれただけでっ」

藍子「か、加蓮ちゃんの話だけじゃないですもん! 未央ちゃんのこととか、歌鈴ちゃんのことも話しましたから!」

加蓮「そういう問題じゃないしそれもっとタチが悪いでしょ!!!」

藍子「ひゃ~っ」

加蓮「なんなの。藍子はスパイか何かなの……」

藍子「スパイもなにも、同じ事務所で同じアイドルをやっている仲間ですっ」

加蓮「そうだけど……。もー」

藍子「それにしても、どうしてまた無茶を……?」

加蓮「……別に。それこそ年末の大舞台が近いし、みんな張り切ってるの見て負けたくないって思っただけだし」

藍子「あ~……」

加蓮「倒れてたのだって限界越えてぶっ倒れてたとかじゃなくて、ちょっと休憩してただけなんだからっ。いつの私を見たのか知らないけどさ……」

藍子「それならいいんですけれど……」

加蓮「それより。Pさんにおかしい様子はなかったんだね?」

藍子「はい。私には、気が付けませんでした」

加蓮「んー……。藍子が見て分かんないってなると、じゃあ原因は私なのかな……」

藍子「原因?」

加蓮「なんていうのかな。これもちょっと直感入るんだけど、Pさんが悩んでるっていうより……いや、Pさんが悩んでるのは間違えないんだけど、こう、Pさん自身のことじゃなさそうっていうか」

藍子「ふんふん」

加蓮「どっちかっていうと……あ、そうだ。私に何か言いにくいことを隠してる感じ!」

藍子「Pさんが加蓮ちゃんに?」

加蓮「うん。私に」

藍子「う~ん……。それなら、私とお話している時のPさんがいつも通りだっていうのも納得できますね。でも、Pさんが加蓮ちゃんに隠しごと……?」

加蓮「1つや2つするんじゃない? 私だって別に全部のことを話してる訳じゃないんだし。ここで藍子と話した内容とか」

加蓮「……まー誰かさんはべらべら喋ってるみたいだけどー?」

藍子「わ、私だってすべてお話してる訳じゃっ」

加蓮「ふふっ。知ってるー」

藍子「……もう」ズズ

藍子「でも、それだと私には原因がわかりませんね……」

加蓮「なんかないの? 私には話せない、話しにくいことだけど他の子になら、って。藍子とPさん、よく私のことをべらべら喋りまくってるんでしょ、お互い」

藍子「こ、言葉に棘がっ」

藍子「でも、本当に心当たりがないんです。Pさんと、加蓮ちゃんのお話をした時も、悩んだり考え込んだりする素振りはなくて……。私が、気づけなかっただけかもしれませんけれど」

加蓮「そっか……」

藍子「気になることがあるのなら……やっぱり、直接聞いてみましょうっ」

加蓮「やっぱりそうなる?」

藍子「はい。1人で聞きづらいのなら、私も手伝っちゃいますよ」

加蓮「じゃー2人して問い詰めに行っちゃおっか」

藍子「と、問い詰めに?」

加蓮「もしくは尋問するとか」

藍子「尋問!?」

加蓮「まずはPさんをどっかに閉じ込めてー、人質を取ってー」

藍子「とじこめっ、人質!? ど、どうやってやるんですか、それっ」

加蓮「お、藍子ちゃんも興味津々って感じ?」

藍子「できないと思いますしやらない方がいいと思います!」

加蓮「なーんだ。今ならついでに、普段は聞きにくいこととか聞き出せるチャンスかもしれないよ? Pさんが藍子のことをどう想ってるか……とか?」

藍子「……、って、そんな言葉には釣られませんから!」

加蓮「ちぇ」


□ ■ □ ■ □


加蓮「送信、っと。藍子ー、送ったよー」

藍子「お疲れ様です、加蓮ちゃんっ」

加蓮「お疲れ。……って、別に全然疲れてないけど」

藍子「そういえば、今回の加蓮ちゃんは悩んだりしないですんなり送りましたよね」

加蓮「まあねー。なんか隠し事してない? って聞くだけだし。……というか今回はって何よ。今回はって」

藍子「え? だって加蓮ちゃん、こういうことがあると、いつも何分も悩んじゃうから……」

加蓮「事あるごとに人の時間を1時間2時間奪ってく藍子には言われたくないわよっ」

藍子「そ、それは今関係ないじゃないですかっ」

加蓮「藍子。何か食べない? お腹減ってきたし」

藍子「私も……わ、いつの間にか1時になってますっ。ここに来たのは、朝の11時頃だったハズなのに」

加蓮「ほら。2時間奪ってる」

藍子「事実かもしれませんけど奪ってるなんて言わなくてもいいじゃないですか!」

加蓮「店員さんもきっと呆れてるよ。あのゆるふわアイドルがまたコーヒーだけで2時間も居座ってるー、って」

藍子「か、加蓮ちゃんこそ。Pさんから聞きましたよ。ファミレスでミーティングをした時、加蓮ちゃんがドリンクバーだけで3時間も粘っていたって!」

加蓮「あれは現場でお昼ご飯を食べた後だったからセーフ。その後Pさんに奢ってもらったしー♪」

藍子「む~……」

加蓮「で、何食べる?」

藍子「そうですね~。ホットケーキやショートケーキは、」

加蓮「あはは……。ちょっとパス」

藍子「お仕事でいっぱい食べていますよね。普通の定食にしましょうか」

加蓮「しよしよ。すみませーんっ」

……。

…………。

「「ごちそうさまでした。」」

加蓮「……思い出したんだけど。Pさんからの返信、全然来ない」

藍子「そういえば……。送ってからもう……1時間くらい経つんでしょうか?」

加蓮「んーと。ああうん、もう2時間経ってる」

藍子「そんなにっ」

加蓮「しかもさ。ほら見てよ藍子。既読ついてる」ズイ

藍子「本当……。メッセージを見ているのに、返信していないんですね。……Pさんが、加蓮ちゃんに……??」

加蓮「よっぽど言いたくないことなのかなぁ」

藍子「きっとPさんも忙しいんですよ。ほら、もしかしたら色んな方から連絡が来ていて、加蓮ちゃんへの返信を忘れちゃってるのかもっ」

加蓮「むー。大事なアイドルをほっぽり投げて?」

藍子「え、ええと……」

加蓮「これはファミレスだけの奢りじゃ足りないなー。クリスマス近いし、何か買ってもらわないとね。ね、藍子」

藍子「あっ……よかった。落ち込んではいないんですね」

藍子「って、私?」

加蓮「そうそう。"加蓮ちゃんを放ったらかしにした罪"を上手いこと"自分の担当アイドルを放ったらかした罪"にすり替えるからさ。藍子も欲しいもの、ねだっちゃいなよ」

藍子「そ、そんなことできません。というより、しなくていいです!」

加蓮「えー」

藍子「そのお話の通りなら、Pさんは私や加蓮ちゃんだけではなくて、他のみなさんにも何か買ってあげないといけなくなっちゃいますよ?」

加蓮「確かにそれだとお金がヤバいことになるね」

藍子「ねっ? Pさんが……その、加蓮ちゃんへ返信していないことは、後で聞くだけにしておきましょう」

加蓮「しょうがない。藍子の優しさに免じてあげよう」

藍子「ほっ」

加蓮「ってことでPさんは藍子への感謝として、何か贈ってあげないといけないねー」

藍子「えっ。……加蓮ちゃんはどうしても、そうしたいんですか?」

加蓮「ふふっ。真面目な話、藍子だってその方が嬉しいでしょ? 私だって藍子には何かお礼がしたかったし」

藍子「もう。加蓮ちゃん?」

加蓮「何ー?」

藍子「私はそんなこと――」

藍子「…………、もしも加蓮ちゃんが私に何かお礼をしたいのなら、加蓮ちゃんがしてくださいっ」

加蓮「あーやっぱりそうだよね。なんか直接するのって照れ臭く――」

加蓮「……あ」

加蓮「もしかして私、余計なことを押し付けてた?」

藍子「……言い辛いですけれど。はい」

加蓮「あー……」

加蓮「あー…………」

加蓮「……うぁー」ツップセ

藍子「わ、私は気にしてませんからっ……じゃなくて……ええと――」

加蓮「……」ツップセ

藍子「……うんっ」

藍子「加蓮ちゃん。加蓮ちゃんが、押し付けだけではなくて、私のことを考えてくれたのは分かっていますから」

藍子「その……。自分の嫌いな人と同じことをやってしまったことを、気にする気持――ううん。気にしていることも、分かります」

藍子「でも――」

藍子「ええと……」

藍子「……気にされすぎたら、私の方が、嫌な気持ちになっちゃいますからっ」

加蓮「…………だってさ」

藍子「……」

加蓮「……」

加蓮「…………」

藍子「加蓮ちゃん」

藍子「……、」

藍子「顔を……あ、上げなさいっ。……えいっ」グイ

加蓮「わぷ」

藍子「加蓮ちゃん」ジー

加蓮「……近い」

藍子「じ~」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……落ち込んでる私を見るのも、藍子は好きじゃないよね」

藍子「はい」

加蓮「最後に1回だけ言わせて?」

藍子「何ですか?」

加蓮「ごめん。藍子の気持ちとか無視して余計な世話焼いてた。大っ嫌いな人みたいになろうとしてた」

藍子「はい。加蓮ちゃん。私は、許しますっ」

加蓮「ん……」スワリナオス

加蓮「……たはは」

藍子「?」

加蓮「なんだろ。その……ありがと」

藍子「……えっと?」

加蓮「いや、その、……色々と?」

藍子「……じ~」

加蓮「やだっ。っていうかどうせ知ってるでしょ。具体的になんて言いたくないっ。……さすがにそれは恥ずかしいし!」

藍子「じ~」

加蓮「うぐ……」

藍子「……なんて。恥ずかしいのなら、仕方ありませんね」

加蓮「ふうっ」

藍子「お話、戻しましょ? Pさんが、加蓮ちゃんに返信をしてくれないってお話ですよね」

加蓮「そー。既読無視だよ既読無視。ネタでよく言うけど、実際されるとこう……堪える? ってほどじゃないけど、あれだよね。考え込みすぎちゃうよね」

藍子「考え込みすぎてしまうのも無理ありませんね……」

加蓮「こうやってイライラとか溜まってくんだろーね」

藍子「ふふ。なんだか、人のことみたい」

加蓮「ベタすぎて逆に?」

藍子「でもなんとなくわかりますっ」

加蓮「ねー」

藍子「どうしましょうか。急いで解決をするのなら、私からもPさんに聞いてみましょうか?」

加蓮「んー……。んー、急いでる訳じゃないけど、こう……モヤモヤはしてるっていうか……。私だって、Pさんのことを信じてない訳じゃないんだよ?」

藍子「それは分かっていますよ」

加蓮「藍子の言ってる通りっぽい気もしてるし。年末だし、Pさんもきっと忙しいよね」

加蓮「なのに私の、それもあるかないか分かんないような問題で時間を取らせるのって、ちょっと違わない?」

加蓮「もし本当に緊急のことなら既に話してくれてるだろうし、そうじゃないってことはPさんなりに言いにくいことがあって、急ぎの事件とかじゃないんでしょ」

加蓮「ほら、待てる女はいい女って言うじゃん?」

藍子「ふふ。そうなんですか?」

加蓮「たぶんそうだと思うっ」

藍子「くすっ」

藍子「でも、加蓮ちゃん」

加蓮「ん?」

藍子「相手の理由や事情を考えられて、相手の気持ちになれる加蓮ちゃんは、とても優しい子だと思います。加蓮ちゃんの言葉を借りるのなら、いい女の人、でしょうか?」

加蓮「……え、いきなり何。気持ち悪いんだけど」

藍子「でも――って、気持ち悪いって言う加蓮ちゃんは優しくない子ですっ」

加蓮「急に言う藍子が悪い。しかも藍子の方が私よりよっぽど優しいじゃん。なのに嫌味っぽく聞こえないし」

藍子「そんなことありませんっ。加蓮ちゃんの方が、私なんかよりもっとずっと優しい女の子です!」

加蓮「いやいやいや。それはさすがにアレだよ。事務所のみんなに2択で聞いたら答えてもらう以前に怒られる奴だよ」

藍子「そんなことっ――と、とにかく。加蓮ちゃんは優しいかもしれませんけれど、でも、こういう時は加蓮ちゃんの事情を優先しちゃいましょう」

加蓮「私の事情、気持ちかぁ。……じゃあ、聞いちゃう?」

藍子「はい。あっ、どうせならメッセージではなく電話の方がいいかもしれませんね。その方がPさんだって、逃げられなくなるかもしれませんっ」

藍子「そして、Pさんがもし加蓮ちゃんに隠しごとをしているようなら、私から聞いた方がいいかもしれませんね」

加蓮「……アンタさらっとやるねー」

藍子「ふぇ?」

加蓮「無自覚なのがもっと怖い」

藍子「??? とにかく、電話してきますね。ちょっと待っていてください、加蓮ちゃん」

加蓮「行ってらっしゃーい」


<店員さ~ん。ちょっと表で電話してきますっ


加蓮「しかも真面目ー。ちょっと外に出たからって、食い逃げとか疑われる訳ないだろーに」


<はい。加蓮ちゃんのこと、よろしくお願いしますね♪


加蓮「こら。藍子! 誰をよろしくお願いしますって――いや店員さんも律儀に来なくていいから! 他にお客さんいないからって! そこまで話し相手には飢えてないわよ!!」

――数分後――

藍子「ただいま、加蓮ちゃ――」

加蓮「それで藍子ってホントに優しくて――あ、お帰りー藍子」

藍子「あ、はい、お待たせしました。……あの、加蓮ちゃん。なんだか私のお話をされてたみたいですけれど、何のお話を……」

加蓮「なんでもないよ。ね、店員さんっ」

藍子「……加蓮ちゃんから、私のいいところをたくさん聞いていた、ですか?」

加蓮「ちょ、なんであっさりバラすの!? ……いや、違うから。藍子のこと教えてあげたら喜ぶかなーって思っただけだから!」

藍子「くすっ。やっぱり加蓮ちゃん、優しい子ですね」

加蓮「はあああああ!?」

加蓮「もっ……ああもう! 注文! ココア! さっさと行きなさいよ店員さん!」

藍子「加蓮ちゃんには、少し苦めのコーヒー……ううん、紅茶をお願いしますねっ」

加蓮「誰もアンタの為の注文って言ってない! あと私の飲みたいのを的確に当ててくるな!!」

藍子「加蓮ちゃん」

加蓮「何!」

藍子「ありがとうございますっ」

加蓮「……」

藍子「……? 加蓮ちゃん?」

加蓮「……帰る」

藍子「えっ」

加蓮「お疲れー。あと来年もよろしくねー」

藍子「まって、まってっ! ごめんなさいっ! ちょっぴりからかいすぎちゃいました! それに今年もまだ終わってないですっ、まるで来年までもう会わないみたいなこと言うのやめて~っ!」グイ

加蓮「……」ジトー

藍子「ええとその……ほ、ほら、Pさんと電話してきましたから。そのお話を……ねっ?」

加蓮「……」スワル

加蓮「で、なんて言ってた?」

藍子「ええと、言いにくい……ほどのことではないみたいで、ただ、言うかどうか、それから受けるかどうかを迷っていたお話が、1つあるみたいです」

加蓮「あー……やっぱりあることにはあったんだ」

藍子「はい。あっ、でも、悪い知らせとかではないみたいですよ」

加蓮「そっか。よかった。受けるかどうかってことはアイドルの仕事のことなのかな」

加蓮「……あれ? 藍子も詳しいことは教えてもらってないの?」

藍子「私が聞いたことは、加蓮ちゃんに何かお話していないことがありますか? ってことと、加蓮ちゃんのメッセージに返信してあげないんですか? ということだけですから」

藍子「内容は、私が加蓮ちゃんに言うよりも、Pさんから加蓮ちゃんに言ってもらった方がいいって思って。あえて聞かないでおきました」

加蓮「別に気にしないけど、じゃあ私は事務所に行った方がいい感じ?」

藍子「ううん。メッセージにして送る、って。そうそう、それとPさん、とても忙しいとかではないみたいです。どうしようか悩んで迷っているみたいでしたから」

加蓮「忙しかった訳じゃないんだ。……そんなに悩んでたの? 私のことで」

藍子「かもしれませんね……」

加蓮「……どうしよ。どうせ大したことないでしょーって思ってたのに、そう言われるとなんか緊張する……!」

藍子「私も……。でも、ううん、大丈夫っ。落ち着いて待ちましょ?」

藍子「ほら……その、わ、私も、ここに一緒についていますから」

加蓮「ん。……こら。だから、そこで藍子が不安になったら私まで不安になるでしょ?」

藍子「そうですよねっ」

加蓮「あ、店員さんお帰りー。ほら、飲みながら何かテキトーに話でもして――」ブルブル

加蓮「って、あ」

藍子「あっ」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……えーと、そんな急に来る?」

藍子「……Pさんから、ですか?」

加蓮「うん」

藍子「ほ、本当に急ですね」

加蓮「タイミングの合わない日だね……」

藍子「……」

加蓮「……よ、よーし」ポチポチ

加蓮「……、」

加蓮「…………え?」

藍子「加蓮ちゃん……? 何が書いてあったんですか。早く教えてくださいっ」

加蓮「え、あ、うん。……えーとさ。藍子、これ」

藍子「……? ……えっ?」

『昔の加蓮の担当医と話すことがあって、その時に一応連絡先だけ交換していたんだ』
『その看護師さんから、依頼? が来ている』

『クリスマスに、アイドルとして病院の子供達にプレゼントを配ってほしいって言うんだが、加蓮、どうしたい?』


【おしまい】

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