チェルシー・ヨーグルトスカッチの謎【短編自作SS】 (13)

ほんの最初だけ、チェルシーは不良じゃないのだと思っていた。

屋上でタバコを吸っていたのを止められたのだ。



「それやめて」



これは密告されるかな、と内心諦めながら火を消したあと、彼女は言った。



「火は嫌いなの」

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「アメちゃん食べる?」



西のおばちゃんみたい、と答えてしまった。

その週は一度も口を聞いてくれなかった。

そしてチェルシーが自分の飴を勧めてくれることは二度となかった。

「髪を脱色したの」

「似合う?」



チェルシーは保健室から盗んできたオキシドールで髪を脱色したらしい。

普通に薬局でブリーチでも買えばいいものを。

似合ってない、と素直に答えた。

チェルシーはいつもにも増して不機嫌になった

チェルシー・ヨーグルトスカッチ。

それが彼女の名だ。

もちろん本名じゃない。

彼女とは学校の屋上でしか会わない。

名前もクラスも学年も知らない。

ただいつも、色々な飴玉を宝石のように持ち歩いていた。

かつん、かつん、かつん。



簡素な金属製の階段が鋭い足音をたてる。

深く深く、暗い闇へと降りていく。

かつん、かつん、かつん。



これはチェルシーと地下を探検したときの話だ。



「昔ね、飴細工でできた街があったの」

「地面にはキャンディを切り出したレンガが敷き詰められていて」

「きらり、きらりと光っているの」



かつん、かつん。



「その街はずっとずっと夜のままでね」

「太陽の代わりに飴細工でできたシャンデリアが街中を照らしていたの」



「ねえ、どうしてだと思う?」

かつん、かつん、かつん。

かつん、かつん。



太陽があったら街が溶けちゃうから?



「そう、その通り。王が太陽を隠したのよ」



かつん、かつん、かつん。

暗い階段を降りながら、チェルシーのよくわからない話は続く。



「それでね、街の真ん中には立派な城があってね、それはそれは綺麗なお城だったの」

「そしてその中に美しい王女がいたのよ」

「ルビーの飴やエメラルドの飴をはめ込んだ、飴細工でできた美しい王冠があってね」

「そしてそれに見劣りしないくらい美しい王女だったのよ」

かつん、かつん、かつん。



ふぅん、と興味なさげに相槌を打つ。



「でもね、その街でクーデターが起きちゃうのよ」

「『太陽を返せ』って、民衆が城に火をつけてね」



火をつけた?



「ブランデーの瓶に火のついた布を押し込んで投げ込むの」

「火なんかつけたら飴細工の城も街もすぐにどろどろに溶けちゃうでしょう?」

「壁も天井も、みんな焦げたカラメルソースになって流れてっちゃった。ひどい」



それは大変だね。



「それで王は命からがら逃げ出してね」

「……民衆に太陽を返してあげることにしたの」

ふぅん。



「長い長い夜が明けて、太陽がひさしぶりに高く登った頃、となり町から馬で王子がやってきてね、カラメルソースの湖の前で叫んだの」



「『王女はどこだ』ってね」



「王子は必死で王女を探すんだけど、王女はまるで溶けてしまったかのように跡形も見つからなかったの」

「それでいつしか噂になった」

「王女は飴でできていたんじゃないか、ってね」



わからない。

チェルシーは一体何を伝えたいんだろう?



かつん、かつん、かつん。

そしてたどり着いた。地下の底と、その扉へと。

ギギギ、と重い音を立てて地底の扉が開く。

暗い、陽の光の届かない部屋だった。



「で、どう思った? さっきの話」



考えてみる。



太陽を奪った王を打倒して、民衆が勝利したって話だよね。



「ちがう」



解釈は自由だと思うけど?



「さっきのは、愚かな民衆に殺された哀れな王女の話よ」



……解釈は自由だと思うけど。

「その宝石の王女には、太陽なんかよりずっと価値があったのよ」

「太陽を犠牲にするだけの価値があったの」

「真の価値が、その王女にはあったの。本当よ」



でも太陽を求める民衆の火で、溶けちゃったんだよね。



「そう。ただただ太陽を求めるだけの、本当の価値がわからない愚民による、真の価値の虐殺」











「ねぇ、ひどい悲劇だと思わない?」


 ◇◇◇



それはどんな飴よりも甘い唇だった。

そしてその瞬間、再び太陽は奪われた。



(了)

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