律子「今日もお仕事」 (46)

・りっちゃんお誕生日おめでとう!!! 律誕SSです。
・書き溜めてありますので、すぐ終わります。
・表現力不足のため、地の文あり。
・既出ネタだったらごめんなさい

ではよろしくお願いします。

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カタカタカタカタ

キーを打つ音が、閑散とした事務所内に反響する。

律子「…………ふぅー」

背もたれに体を預け、一呼吸。 仕事に没頭していたおかげで思い出さなかった事を今になって思い出す。

律子「……なんで」

律子「…………なんで誰も居ないのよおぉおぉおぉお!!!」

咆哮、目は血走り、肩を大きく上下させ、息は荒い。
眉は寄せ、体全体が怒りに燃えている。

律子「なんでプロデューサー殿も小鳥さんも帰ってるのよ!!」

律子「まだ書類が溜まってるって言うのに、そそくさと帰りおってぇえええぇ!!!」

律子「大体、皆も皆よ!! 送迎するって言うのに断って各自帰っていくしいぃいぃい!!」

作業中もその鬱憤が知らず知らずのうちに溜まっていたのか、心のポケットを裏返すと、
出るわ出るわ、愚痴の嵐。 一度言うと歯止めが利かない。

律子「なんで私だけサービス残業しなきゃなんないのよおぉぉおお!!」

律子「さっき仕事の報告しに行こうと社長室行ったら社長も居なくなってるしいいぃぃ!!」



律子「…………はぁ」

文句の弾薬が尽きたのか、がっくりと肩を落とす。
心なしかスーツもくたびれたような、そんな風にさえ見える。


律子「…………今日は」

俯いたまま、ポツリと呟いた。


律子「今日は私の誕生日なのになぁ………」

そう、今日は765プロプロデューサー、秋月律子の誕生日なのである。
正直今日は楽しみにしていたのだ。 何かプレゼントしてくれるかもしれない、
こじんまりながらも、パーティーなども催してくれるかもしれない。
皆が「おめでとう」と言ってくれるかもしれない。

そんな期待を胸に今日一日ずっと密かにソワソワしていたのだ。
だというのに、皆と来たら知ってか知らずか即帰宅と来たものだ。

律子「ふーんだ、良いですよ良いですよ。 一人寂しく自宅でお誕生日会しろって事でしょ」

口を尖らせ、怒気を孕んだ声で一人ごちる。
ふと周りを見渡す。 小鳥さんの机、プロデューサーの机、給湯室、応接間、社長室。
どこを見ても誰も居ない。 とても寂しい、そんな気持ちになる。

律子「…………あー、いけないいけない! しゃんとしろ私!!」

ぴしゃり、と自分の両頬に渇を入れる。 じんじんとした痛みが広がる。
予想以上の痛みにちょっぴり後悔したものの、頭がクリアになっていくのを感じる。

律子「……ふぅ、落ち着いた。 …もう帰りましょ」

机の上を少し片付けて、急ぎ帰るための身支度をする。
まるで、この冷たく寂しい事務所から一刻も早く去りたいかのように。



765プロと、安っぽい黄色のビニールテープで貼られた扉を開け、故障中と、
大きく書かれた張り紙が張られたエレベーターを恨めしそうに一瞥しつつ、階段を降りる。

カンカンカンと、ヒールと階段から織り成す無機質で単調なメロディを奏でながら、明日の予定を考える。
あずささんはオフで、亜美が写真撮影、伊織が雑誌のインタビューで……。
そんな事を考えながら降りていたら、ふとドアのガラスから漏れる明かりが目に付いた。

律子「あれは確か……、スタジオ?」

そう、こんな時間にも関わらず、何故かレッスンに使うためのスタジオの電気が点いているのだ。
電気代が勿体無い、と思うのは一瞬。 直ちに思い直し顔を強張らせる。
もしかしたら不審者かもしれない。 そう思いゆっくりと、見つからないように扉の向こうを覗く。

律子「え……、あれは………?」

そこには、私を除いた全ての765プロのメンバーが揃っていた。 …流石に社長はご帰宅のようだ。
プロデューサーがアイドルたちに何か説明して、小鳥さんはホワイトボードになにか書き込んでいるようだ。
……目を凝らしても、流石にここからではホワイトボードの内容までは読む事は出来ない。

とても楽しそうだ、アイドルたちの瞳の輝きを見ればすぐに解る。
プロデューサーがボディランゲージで何かを説明しようとしているものの、
理解が及ばず頭の上に?マークを浮かべているアイドル達を見ていると笑いが込み上げてくる。


…私を除いたメンバー全員で和気藹々と話している姿を見ていたら、ふと気がついた。
何故あんなにも楽しげに話しているのに、私が中に居ないんだろう。
扉を開けて、中に入って、なに私だけ仲間外れにしてるんですかって、文句を言いに行けば良いのに。
何故か、今はこの扉がとてつもなく重く、固く閉ざされているように思えた。

律子「…………っ!」

正直、覗き込んですぐは、期待していたのだ。
もしかしたら、私のサプライズパーティーを開いてくれているのかもしれないと。
だが、見る限りその様子も無い。 期待していた自分が恥ずかしくて、馬鹿馬鹿しくて。


不意にナミダが零れる。 頬を伝う雫が、窓から漏れる光を反射して煌く。
あまりの悲しさに、実は嫌われていたのではないか、というあらぬ事まで考えてしまうほどに、
今の律子の心は、ボロボロに叩きつけられていた。
こんなにも短い時間で、ここまで心が疲弊するものなのか。 驚きを禁じえない。

律子「…………帰ろう……」

このままでは、ボロボロになるどころか、心を折られてしまうかもしれない。
そう思い、窓の向こうに見える楽しそうな情景から目を逸らし、階段へと足を運ぶ。

…先程とは比べ物にならないほど、覚束ない足取りだ。 階段が滲んで見える。
完全に前後不覚である。 左手に持ったままのスケジュール帳を鞄にしまう動作すら出来ないほどに。
頭の中には、どうして、なんで、という曖昧模糊な疑問ばかりだった。

…ビリビリビリと、右手でもたれ掛かっていた壁から振動が伝わる。
何故振動が伝わるのか、それすらも考えられない。 いや、考えたくない。
そんな事を思っていたら、スタジオの方から勢い良くドアが開かれる、ガチャッという音が聞こえた。

P「本当に今、律子が見えたんだな!?」

響「間違いないさー! 自分が律子の髪形を見間違えるわけ無いぞ!!」

真「それに、今この時間にここを通るって言ったら、律子以外あり得ませんよっ!!」

貴音「だとしたら、芳しくありませんね……」

亜美「そう、帰っちゃったら全部パアになっちゃうよ→!!」

真美「うあうあ〜! ここで逃がしたらおじやだよ〜!!」

雪歩「そ、それを言うならおじゃんじゃないかなぁ…?」

美希「折角こんな時間まで起きてたんだし、逃がすわけにはいかないの!」

ゾロゾロと、アイドル達が扉から顔を覗かせるのが階段から見えた。
成る程、先程感じた振動は皆が走っていたからか。
どうやら、私を探しているらしい。 ……私を?

あずさ「けれど、その律子さんはどこに居るのかしら…?」

千早「むっ、居たわ、律子よ! 下に居るわ!」

千早がいち早くこちらに気付き、皆に下を見るよう促す。

やよい「はわっ、本当ですー! 律子さーん!!」

春香「わわっ、身を乗り出すと危ないよやよいー!!」

伊織「アンタも乗り出しちゃ意味無いじゃない、気をつけなさいよ!」

ついにスタジオから全員出切ったようだ。 そして視線はこちらに集中している。
そして、その視線に居た堪れなくなった私は、逃げた。

真「あっ、逃げた!?」

響「逃がさないぞー!!」

春香「ていうか、なんで逃げるの!?」

やよい「り、律子さぁーん!」

伊織「あのバカ……! 何逃げたりなんかしてるのよ!!」

貴音「ともかく、此処で間誤付いていても何も始まりません」

雪歩「そ、そうですね。 早く追いかけなくっちゃ」

運動神経の良い真や響を筆頭に、次々と追いかけてくる。
後ろで聞こえる階段を踏みしめる、重なったり離れたりする足音に、
とてつもない焦燥感を覚えながら、一段飛ばしで階段を駆け下りる。

律子「な、なんで追いかけてくるのよぉ……!!!」

半分涙目になりつつも、諦めずに降りたことが幸いしたのか、事務所から出ることに成功した。
だがここで油断は禁物。 後ろも振り向かず前へと走り出す。
なんとかアイドル達に進行方向を見られる事無く、建物の影に隠れることが出来た。

律子「ハッ…ハッ…! はぁ…、なんとか、隠れられた……!」

建物の影から覗き込むと、すでに降りてきた響や真がキョロキョロとしているのが解る。
そして数秒遅れて全員が揃ったようだ。 プロデューサーが指示を出している。
真、響、美希で一チーム。 春香、千早、雪歩で一チーム。 
貴音、真美、やよいで一チーム。 そして亜美、伊織、あずささんの竜宮チームだ。
竜宮チームと真チームがなにやら話し合いをしている、だが今は気にしている暇は無い。
そしてプロデューサーと小鳥さんは事務所に残るようだ。 再び事務所に戻るという選択肢は潰された。

注意すべきは運動神経も良く、足の速いアイドルで構成された真チームか。
しかし、厳しいレッスンに耐えてきたアイドル達だ。 全員並みの人間より足は速いだろう。
自分もそこまで衰えているつもりは無いが、足の速い方では無いので全員注意しておく必要がある。

律子「…………よし!」

また、駆け出す。 先程の数秒で息は大分整った、まだ走れる。
日々の営業で歩いているのもあるが、まだ衰えていない事に喜びを覚える。

春香「こっちかなっ?」

千早「とりあえず、くまなく探しましょうっ」

雪歩「周りにも気をつけながら走らなきゃだねっ」

三人の声が聞こえる。 こっちの方向に来たのは春香チームのようだ。
どう対応しようか、そんな事を考えながら走っていたら、いつの間にか遮蔽物の無い路地に出た。
一瞬立ち止まる。 どうする、このまま立ち止まっても捕まる。 
だからと言って、何も考えず走ってもただ体力を消耗するだけだ。 まだ三チームも残っているというのに。

律子「だったら…………!」

意を決したように振り向く。 傍から見れば何を馬鹿な事を、と思われるかもしれない。
だがしかし、この秋月律子には考えがある。

春香「あっ……!」

千早「律子、ようやく見つけたわよ」

雪歩「はぁ…ふぅ…」

律子「見つかっちゃったわね……」ジリ

遂に対峙する。 先程の間に思いついた策を成功させる為に、
その切欠のトリガーを探す。

春香「ほらっ、事務所に帰ろっ?」テクテク

千早「細かい話は歩きながらでも良いでしょう?」スタスタ

雪歩「ちょ、ちょっと休ませてぇ……」

見つけた。

律子「雪歩も辛そうだし、少し待ってあげたら?」ジリ

春香「えっ? あっ! 雪歩っ」

千早「萩原さん、大丈夫?」

律子「…………今だっ!」ダッ

春香「えっ? あっ、ちょっ! まっ……!」ガッ

春香「……って、うわぁあぁぁ!」ドンガラガッシャーン

千早「春香!」

雪歩「春香ちゃん、大丈夫!?」

春香「あいててて……」

なんとか思惑は成功した。 策の説明だが、至極単純な話だ。
春香がころぶような状況を作る、これだけ。 後はチームメイトのお陰。
雪歩と千早なら、春香が転んだ時に心配をして駆け寄るのは明白だった。
もしこれが伊織や美希だったら、追いかけられて捕まっていただろう。

律子「足元には気をつけるのよーっ!!」

春香「ひ……ひきょうものぉーっ!!!」

そう、捨て台詞を吐きながらだだっ広い路地を走り抜ける。
後ろから聞こえる断末魔のような台詞にほくそ笑みながら。

・ ・ ・ ・ ・

足に乳酸が溜まるのを感じ、たまらず足を止めた先に、丁度公園を見つけた。
水呑場で水分を補給し、ベンチに腰を下ろす。
大きく上下する肩を落ち着かせ、シャツの中に空気を入れ体を冷やす。
夜はまだ涼しいとはいえ、初夏だ。 やはり暑い。

律子「ふぅ……」

呼吸が一定に戻ってきたのを感じつつ、上を見上げる。
雲ひとつ無い夜空に燦然と瞬く星が、何故か今はとても憎たらしい。
そんな事を考えていたら、ガサガサと、近くの茂みから音がした。
立ち上がり、音のした方向を見つめ警戒態勢を取る。 と同時に茂みから何かが飛び出した。

真美・やよい「ぷはーっ!」ガサッ

貴音「ようやく、出口が見つかったようですね……」ガサッ

律子「あ、あんたたち!」

意外にも、そこから飛び出してきたのは貴音チームだった。

やよい「あ、律子さーん!」

真美「お? りっちゃん見っけ! 真美たちが一番ぢゃん?」

律子「残念、先に春香たちに見つかったわよ」

貴音「ふむ、見つかったにも関わらずここに居るという事は……」

律子「ご明察。 そ、逃げ切ったわよ」

やよい「えぇーっ!? す、すごいです!」

真美「んふふ、それくらいじゃないと張り合いが無いもんね〜!」

律子「あのねぇ……」

貴音「律子嬢、悪い事は言いません。 大人しくついてきて下されば、手荒な真似も致しません」

律子「あら、優しいのね。 けど、大抵その台詞を言うやつは悪役なのよね」

貴音「はて、わたくしが悪役に見えると律子嬢は仰る」ゴゴゴゴ

律子「言うじゃない」ゴゴゴゴ

真美「ふぉぉ……、二人からとてつもないパワーを感じるぜ……!」

やよい「ま、真美ぃ! 律子さんと貴音さんを止めないと……!」

真美「そんなこと言われても無理だよぉ〜! あん中に入ったらジョーハツしちゃうって!」

やよい「で、でも……うぅん……」ゴシゴシ

真美「大丈夫やよいっち? もしかして……」

貴音「やよい、真美……、危険ですので下がっておいた方がよろしいかと……」

律子「そうよ、子どもが入っていい領域じゃ……?」

貴音「……? 律子嬢、いかがされたのですか?」

律子「今……何時よ……?」

ハッと気付いたように左手につけてある時計を見やる。
確か、事務所を出たのがすでに九時半を過ぎていたはずだ。 そして紆余曲折あり、只今の時間は—。

律子「十時…………」ワナワナ

貴音「り、律子嬢……?」

ふと真美とやよいを見ると、やよいが目をこすっていた。
おそらく眠気を我慢しているのだろう。 何故気付かなかったのか。

律子「アンタたちぃ……!! そこに直れえぇえぇええぇえぇ!!!!」

貴音・真美・やよい「はいぃ!!」ビクゥ

律子「やよいは良い! 楽にしてなさい!」

やよい「はわわっ、わかりましたー!」

真美「えぇ〜! なんでやよいっちだけなのさ!」

律子「やよいは被害者なんだから当たり前でしょ! こんな時間まで連れ回したりして!!」

真美「そ、それには海よりも高くて山よりも深いジジョーが!」

貴音「真美の言うとおりです。 致し方ありません、理由をお話致しましょう」

律子「そんな事より!! 今やるべき事があるでしょう!!!」

貴音・真美「?」

頭の上に疑問符を浮かべながら首を傾げる姿に、ちょっと可愛いと思ってしまう。
そんな考えを振り払い、単刀直入に答えを述べる。

律子「さっさと帰ってお風呂に入って寝る! 今やるべき事はそれよ!」

貴音「いえ、ですからそれは……」

真美「うあうあ〜! りっちゃんが聞かざるモードだよ→!!」

律子「話を逸らさない! ほら、早く帰りなさい!!」

やよい「あっ、あのっ!! 私は大丈夫ですから!!」

律子「何言ってるのやよい、もう目も真っ赤じゃない。 無理しないの」

やよい「だっ、だめなんです! 今日は、今日だけは起きてなきゃだめなんです!!」

律子「やよい……」

やよい「今日は、とっても大事な日だから、まだ起きてなきゃだめなんです!」

律子「…………」

真美「りっちゃん……」

貴音「律子嬢……」

律子「……はぁ、解ったわ。 そこまで言われちゃ何も言えないじゃない」

やよい「律子さん!」

律子「けど、無理はしないでよ?」

やよい「はい! うっうー! 嬉しいですー!!」

真美「やれやれ、いっせいちゃくりく、ってトコだねぃ」

貴音「ふふ、真美。 それを言うなら一件落着ですよ」

真美「あれ? そうだっけ?」

貴音「ふふ……」




律子「なーにを楽しそうに話してるのかしらぁ……!?」

貴音・真美「え」

律子「やよいを連れまわしたこと自体のお説教は、まだ終わってないわよ!!」

真美「そ、そんな〜!!」

貴音「それは、あまりにもご無体なのでは……!」

律子「ゴチャゴチャ言わない!! 大体ねぇ……!!」

・ ・ ・ ・ ・

律子の有難いお説教は、三十分続いた。
本当なら、もっと言ってやりたいところだったが、やよいの身を案じ、短めに終わらせたのだ。
そして三十分経った現在、また他のチームが追ってくるかもしれないという事で、律子はその場を発った。
貴音と真美が止めようとしたが、足が痺れたらしく、その場から動けずに居た。

律子「はっはっ……はっ……!」

そして今。

響「待ぁあぁあぁぁてえぇぇええぇえ!!!」

真「逃がさないぞぉおおぉおぉ!!」

美希「早く捕まらないとっ、ミキが寝れないでしょおぉぉおっ!」

律子「美希はもう帰って寝なさいよおぉおぉおおお!!」

真チームに見つかって追いかけられている。
公園から出て、広めの路地に出てしまったのが事の始まりだ。
響とバッタリ鉢合わせしてしまい、現在に至る。

律子(しかしおかしい……、普通ならとっくに捕まってもいいハズなのに……)

律子(なんで……、三人とも私より少し遅い速度で走ってるの……?)

律子(えぇい、そんな事考えても逃げ切れるわけじゃない、か…!!)

真「響、美希、わかってるよね?」ヒソヒソ

響「もちろんさー!」ヒソヒソ

美希「ミキ的にはバラしちゃっても良いと思うけどなー」

真「ばっ…! 美希ぃ! それを言ったらおしまいじゃないかぁ!!」

響「わわ、二人ともそんな大きな声で喋っちゃダメだーっ!」

律子「……何をやってるのかしら…」

チラ、と後ろを様子見する。 何か話し込んでいるようだ。
が、走りながら聞き耳を立てるなどそんな器用な芸当は出来ないので内容までは掴めない。

律子(ただ……何か策を立ててきているのは解る……!)

律子(けど今は……逃げるしかない……!!!)

前に向き直り、足を前に出す単純作業を続行する。
疑問を抱えたままの足は、少し重く感じた。

—真チームサイド—

真「まったくぅ、喋っちゃったら意味無いだろぉ?」

響「そうだぞ! 折角今まで入念に準備してきたって言うのに」

美希「えへ、ごめんなさいなの」

真「軽いなぁ、反省してる?」

美希「してるのしてるの。 一杯はんせーしてるよ!」

響「本当かどうか怪しいぞ……」

真「もう…。 しかし、本当に上手く行くのかな…」

響「大丈夫でしょ、イタズラ好きの亜美が考えた作戦なんだから!」

真「そうだと良いんだけど……」

〜回想〜

時は、律子を追いかけようとチームで分かれた直後にまで遡る。

亜美「あっ、まこちんひびきんミキミキ!」

真「ん? どうかした?」

響「真! 早く行かないと皆に先を越されちゃうぞー!」

真「待って響! 亜美が何か話したいって」

美希「亜美、どうかしたの?」

亜美「んっふっふ〜、実は今、良い策を思いついたのだよチミィ〜」

真・響・美希「良い策?」

伊織「ちょっと、それってろくでもない事じゃ無いでしょうねぇ」

亜美「なんとシツレーな! 亜美が今までろくでもない事ばっかりしてきたみたいじゃん!」

伊織「…自覚があるのになんで自重しないのか小一時間問い詰めても良いかしら…?」

亜美「うあ! いおりんが鬼デコモードだよ! あずさお姉ちゃん助けて〜!」


あずさ「亜美ちゃん? 人には逃げられる時と逃げられない時があるのよ?」

亜美「……あれ、亜美、何気に退路ふさがれてない?」

響「もう! 今はそれどころじゃないってば!」

真「その作戦はなんなのさ?」

美希「早く教えてくれないとミキの睡眠時間がクライシスなの!」

伊織「アンタはもう帰って寝てれば……?」

・ ・ ・ ・ ・

亜美「…………というわけなのだよ」

真「ふむ、予め亜美たちが指定の場所に待機して」

響「それを自分たちが律子をそこまで追い込んで」

美希「はさみうちでゴッツンコ! …って事だよね?」

亜美「その通り! 名付けて「りっちゃん追い込みはさみうち作戦」!!!」

伊織「まんまじゃない……。 でも、悪くないかもね」

あずさ「亜美ちゃん凄いわ〜」

真「でもそんな上手く行くかなぁ?」

響「? なんでだ?」

真「だって考えてもみなよ、あの律子がそう簡単に僕たちの罠にはまるとは思えないよ……」

響「むむむ、確かに……」

亜美「んっふっふっふっふ……」

あずさ「亜美ちゃん?」

亜美「心配しなくても、奥の手はすでに用意してあるんだぜぃ……」

響「おぉっ、本当か!?」

伊織「もったいぶらずにさっさと教えなさいよ」

亜美「チッチッチ、いおりんは解ってませんなぁ」

伊織「……どういうことよ?」

亜美「奥の手は、最後まで負け惜しみしてこそおしんこをハッキするんだぜぃ!」

美希「……それを言うなら」

真「出し惜しみしてこそ」

響「真価を発揮する、じゃないのか?」

亜美「そうともゆ→!!」

伊織「そうとしか言わないっての!」

あずさ「あら〜」


〜回想終了〜

真「……本当に大丈夫かなぁ……」ズーン

響「今更悔やんでも仕方ないさーね! 今はやるしかないぞ!!」

真「……うん、そうだねその通りだ!!」

響「その調子! 頑張るぞー!」

真「おー!!」

美希「あっ、二人とも、そろそろ亜美たちとの合流地点なの!」

響「おっ、もうそんな所まできたかー!」

真「よし、二人とも予定通り追い込むよ!!」

響・美希「「了解だぞ(なの)!!」」

—律子サイド—

<そろそろ亜美たちとの合流地点なの!

律子「なんですって……!?」

全ては聞き取れなかったが、何か不穏な言葉のように聞こえた。
それを確かめるためにも三人に呼びかける。

律子「ちょっと! 今の本当なの!?」

響「うあっ、聞かれてた!?」

真「美希、大声出しちゃダメじゃないかぁ!!」

美希「真クンたちの方が大声だと思うなー」

反応からして当たりのようだ。 そして先程の美希の台詞を鑑みるに、挟み撃ちでもするつもりだろうか。
しまった、完全に不覚だ。 すぐに捕まえてこない時点で察するべきだった。
しかし、まだ好機はある。 どこか道を逸れて挟み撃ちを防ぐしかない。
だがその場合、真チームが本気で追いかけてくるという可能性が——。



伊織「止まりなさいっ!!」

律子「なっ……!?」

亜美「ここを通りたかったら亜美達を倒してから行きなっ!!」

伊織「倒されたら元も子も無いでしょうが!」

あずさ「律子さん止まってください〜っ」

律子「…………っっ!!」

対策に考えを巡らせていたのが不味かったか、いつの間にか竜宮チームとの合流地点まで走っていたらしい。
どうする、前門の虎、後門の狼をどう捌ききるか。 既に考えは決まっていた。

律子(もうわき道に逸れるしかない……!! 真たちをどうするかはそれから決める!!)

そう足を右に出そうとした時だった。

亜美「うぅっ……!!」

突然亜美が腹部を抑え、うずくまったのだ。

律子「あ、亜美!?」

伊織「亜美っ!?」

あずさ「あ、亜美ちゃん?」

亜美「お、おなかが…………!」

伊織とあずさが慌てて亜美に寄り添う。
亜美は軋むような声で、痛みを露にする。

律子「貴方たち、どういう事か説明しなさいよ!!」

振り向き真たちに質問を投げ飛ばす。

真「ぼっ、僕たちだって何がなにやら……!!」

響「自分たちは、ただ挟み撃ちにするとしか……」

律子「そんなんで納得出来るわけ無いでしょ!」

あまりに突然すぎる出来事に、頭が回らず周りに答えを求める。
しかし、その答えも与えられず、ついがなり立ててしまった。

美希「ねぇ律子…さん。 そんな事より、亜美の所に行ったほうが良いってミキ思うな」

律子「…っ! そうね、その通りだわ…!!」

錯乱する律子を見かねたのか、美希が冷静な意見を述べた。
そのお陰でハッとなり、今最優先すべき事を思い出した。

律子「亜美っ!!」

長い逃走により疲労が溜まった足を奮い立たせ、全速力で亜美に駆け寄る。
眉を八の字に寄せ、口を真一文字に引き絞ったその苦悶の表情に、思わず泣きそうになる。

律子「亜美大丈夫? すぐに救急車を…」

亜美の前で膝を付き、肩に手を乗せようとしたその瞬間。

ガシッ

律子「………………………は?」

亜美、伊織、あずさに腕を捕まれていた。

亜美「んっふっふ〜」

伊織「にひひっ♪」

あずさ「うふっ」

「「「つっかま〜えたっ!!!」」」

律子「……な、な、な、ななななな」

律子「なんじゃそりゃあああああああああああああああああ!!!!!!」

本日二度目の咆哮をしたところで、秋月律子確保。

・ ・ ・ ・ ・

—事務所—


P「よーし、行くぞー? ……せーのっ」

全員「お誕生日っ、おめでとーーーーーっ!!!!」

パパパパパーンと若干タイミングがまばらながらも、一斉にクラッカーが鳴る。
落ちてくる紙ふぶきやカラフルな糸が事務所を明るく色付けする。

律子「」

社長「いやーっ、めでたいな!!」

P「そうですねぇ! ついに律子も大人の仲間入りかー!!」

小鳥「これで飲み仲間が増えるっ!!!」

社長「音無クン、彼女を酔い潰すのは、やめてくれたまえよ?」

小鳥「解ってますって! しかし社長、こんなに遅くに来て大丈夫なんですか?」

社長「なに! 可愛い社員のためなら睡眠時間など厭わんよ!!」

P「でしたら可愛い俺のために休みをですね!」

社長「はっはっは、冗談はよしてくれたまえ」

P「どこをどう冗談と取ったんだよ!!!!!」ダァン

律子「」

春香「こうやって無事にお誕生会出来て良かったぁ〜」

千早「一時はどうなることかと思ったものね…」

雪歩「みんな怪我も無くて良かったですぅ……」

律子「」

貴音「こうやって、律子嬢の生誕の日を祝えるのも、皆の活躍のおかげ……」

真美「真美たちはほとんど何もしてないけどね……。 うぅ、まだ足痛いっぽい…」

やよい「ふぁ〜ぁ…、とにかく、良かったですー………」グシグシ

律子「」

真「やよい大丈夫? 本当に辛くなったら仮眠室まで連れて行ってあげるから」

やよい「ありがとうございます…。 でも、もうちょっと頑張りますー…!」

響「しかし、亜美には驚いたぞ。 まさかあんな事するなんてなー」

美希「仮病を使うなんて考えたの」

律子「」

亜美「んっふっふ、亜美のコーミョーな作戦! ど→だった→?」

伊織「どーだった? じゃないわよ、私たちが居なけりゃ訝しがられて信じてもらえなかったでしょ」

あずさ「でも、あれが成功したのは、律子さんが私たちのことを大切に思ってくれたから…、よね?」

伊織「う…。 ま、まぁ、悪い気はしないけどね」

亜美「おんやぁ〜? いおりん照れてますなぁ。 自慢のデコまで赤くなってますぞ」

伊織「デコで判断するのやめなさいよっ!!!」

律子「」

春香「……ところで、さっきから全く動かないような……?」

P「おっ、本当だ。 おーい、律子どうしたー?」

律子「…………………………ふ」

P「ふ? 良く聞こえないな、もう少し大きな声で……」

律子「ふざけんなぁあああぁあぁぁああぁぁぁあああ!!!!!!!」

P「」キーン

律子「は?! 意味が解らない!! どういう事なの!? いきなり追いかけられて捕まって連れてこられて!」

律子「しかも誕生日会!? なんで!?」

P「ま、まぁ待て律子、落ち着け」

律子「これが落ち着いていられましょうか!? 説明不足にも程があるでしょうが!!」

P「まぁまず聞けよ!! かっかくしじょしじょでまきょまきょあらあらなんだ!!!」

律子「……えぇと? つまり、スタジオで話をしていたのは、私のサプライズパーティーの計画をしていたと?」

P「そう!! ホワイトボードにどう祝いの言葉を言うか書き出して、後は事務所に居るお前を呼ぶだけだったんだ」

小鳥「けど、そこを律子さんが帰ろうとするのを響ちゃんが見て……」

響「そうさー、自分が見つけて皆に呼びかけたんだぞ!」

律子「だから慌てて皆で私を追いかけに来た、と……?」

全員「yes!」

煌くような笑顔で全員から親指を立てられ、苛立ちがマックスに到達する。
地獄の底から出しているような声で返す。

律子「アンタらねぇ…………」ゴゴゴゴ

P「いやお前が激昂するのも解る。 けどな? あそこで逃げたお前も悪いんだぞ?」

律子「総勢14人に追い詰められて逃げない人が居ましょうか!?」

P「すいません居ませんねホントすいませんでした」

律子「まったく……、そうならそうとひた隠しにせず、前もって教えてくれた良かったのに……」

P「すまん、喜ばしたかったんだけどな……。 大失敗だな、はは……」

泣いているのか笑っているのか解らない顔で、情け無さそうに頭を掻いている姿を見ると、
しょうがない人だななんて思ってしまう。 同時に怒りも収まっていく。

律子「………………まぁ」

P「……?」

律子「正直、凄く嬉しいですよ? 誕生日会、期待してましたし」

P「ほ、ホントか?」

律子「嘘なんて言っても仕方ないじゃないですか。 まぁ、夜中に追いかけられるのは二度とごめんですけどね!!」

P「おう!! 次からは昼から追いかけるか!!!」

律子「話聞いてました!?」

P「もちろんだとも、次はもっとド派手な誕生会にしてやるからな!!!」

全員「いぇーーーーーい!!!」

子どものようにアイドル達とはしゃぐプロデューサーの姿を見ていたら、
少し前に、自分と皆の間に感じていた心の距離が一気に縮まる感じがした。
元より、距離なんて私が勝手に感じていたのかもしれない、何故なら。

この人たちは、私の為にこんなにも楽しんでくれている。

律子「…………あ」

その嬉しさが形となったのか、目尻から一筋のナミダがツウと落ちる。
誰にも見られないようにそっと拭い、掬った雫を見て思う。
あの時とは違う、悲しくて泣いたんじゃないと。
そして、過去の自分と決別するかのように、その雫を払った。

律子(もう大丈夫、泣かない……。 ……何故なら)

こんなにも素敵な、仲間たちが居るから。

P「うおー!! 春香特製のケーキマジでうめええええええ!!!!」

なんてしんみりとしたことを考えていたら、向こうから楽しそうな声。
まったく、ムードもへったくれもありゃしない。
でも、今日は何したって許したげる。 だって……。

律子「こらー! なに私抜きで楽しそうにしてんのよー!! 混ぜなさーい!!!」

「今日は私の誕生日なんだから!!!!」

お し ま い

ここまで読んでくださった方、本当に有難う御座いました。
りっちゃんお誕生日おめでとう!!! 幸せになれ!!!!!

りっちゃん愛されてれぅ〜乙です。

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