律子「想い出がいっぱいいっぱい」 (40)

十八歳でこの事務所の門を潜って事務員をやっていたが、人手不足のためアイドルをやっていた私

十九歳で自分が抱く野望のためにプロデューサーになった私

竜宮小町というアイドルグループのプロデューサーを勤める私

そんな私だからアイドル達を支えれる部分もある

そんな私だからアイドル達の裏が見える事がある

そんな私だから弱い部分もある

下手な感情移入が私を揺さぶる

そんな弱い私

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私は隠し事は嫌いだ

思った事はズバズバ言ってしまう

だから一部では鬼軍曹と呼ばれているらしい

…だけどそれは偽りの私でもある

鬼の仮面を着けていないと自我を保てない

強気な姿勢は弱気のカモフラージュ

私がアイドルだった頃は弱気な人に支えられるのが嫌だった…だから私はこの姿勢を崩さない

…崩せないと言った方が正しいかもしれない

弱い私をアイドル達に見せれない

けれど弱い私を支えて欲しい

このフラストレーションが私を苦しめていた

逃げ場が無いまま続けるプロデューサー業

些細な衝撃で壊れてしまいそうな私

…そんな私の変化に逸早く気付いてくれた人がいた

現在の765プロを支える柱となっている男性であり、私の元プロデューサー

.


『律子、辛い事があったなら俺に相談してくれよ』



屈託の無い笑顔で私にそう言ったプロデューサー

彼にとっては同僚を気遣うただの社交辞令だったのかもしれない

…だけど私にとってはこれ以上ない位の救いの言葉

その笑顔と言葉で私は自分を保ち続けていた

お互いを信頼し合っているからこその安心感

…信頼しているのは私だけかもしれないけれど…


私の支えとなるプロデューサーとの二人三脚

そう思いながら私は仕事をしていた

…だけど現実はその幻を見事に打ち砕いてくれた



『この前のCDの売り上げが好調だそうじゃないか。 今後も頼むよキミ』

『びっくりしたねぇ…記者の人が君の事を褒めていたよ。 あの人は中々難しい人なのだが…いやぁ、まったくキミには毎度驚かされるよ』

『この前のライブは大成功だったねぇ! あれ以降取材の電話が鳴り止まないよ! ははは!』

『今度キミの事を番組で取り上げたいそうだ。 今話題の敏腕プロデューサー! ってコーナー名らしい。 いやぁ、私も鼻が高いよ!』



デスクに座っている私の耳に入ってくる社長の声

聞こえる言葉一つ一つがプロデューサーを褒め称えるものばかり

その声が聞こえる度に私の肩身が狭くなっていく

…私はなにをしているのだろう

なにか結果を残せたか?

なにか実績を挙げられたか?

なにかプロデューサーを超えるものを持っているのか?

誰も私を責めているわけではないのに、聞こえる言葉全てが私を貶す言葉に聞こえる

被害妄想甚だしい

分かってはいるのよ…だけど…弱い私はそれを受け入れる事が出来なかった

それなりの知名度を維持していた竜宮小町だったが、最近どんどん活躍の場を無くしていっていた

あずささんや亜美に落ち込んでいる姿を見ているのが辛かった

伊織はだらしない私を奮い立たせるためにキツイ言葉をぶつけてくれた

そう、奮い立たせるため

分かってたのよ…だけど……今の私にはその言葉を受け入れる余裕が無かった

……気が付いたら私はその場から逃げ出していた

弱い私を見せたくなかったから

何時もの鬼軍曹でいたかったから

そんな私に似合わない涙を見せたくなかったから

.



己の地位を確率させ、夜空に堂々とその身を構える月

それを見上げる、涙を流しながらボロボロになった私

私は事務所が入ったビルの屋上で、一人現実から目を背けていた



「……情けない…」



自分の口から漏れたその言葉が更に自分を追い込んだ

そう気が付いた瞬間に、私は自分の口を自分の手で塞いでいた

流れ出る涙をそのままにして、両手で口を塞ぐ

指と指の隙間から漏れる嗚咽ともとれる情けない声は、静かになりかけた街の喧騒にかき消されていった

先程まで私の頭上にあった月が、今じゃ私の視線の高さまで下がってきていた

無限に溢れてくると思っていた涙も今は止まり、代わりに虚無感が私を襲った

全てがどうでもいい

全てが無駄に思える



「プロデューサー…辞めようかな…」



自然と私の口から溢れた言葉



「許さないぞそんな事」



その弱音をかき消すような言葉

私はその言葉を発した主の元へ視線を移した

.



「プ、プロデューサー…なんで…」



屋上の扉の前には、私の元プロデューサーが立っていた

涙によって霞がかったメガネでは確認出来ないが、プロデューサーはその声色から察するに怒っているようだった



「律子……なんで俺を頼ってくれないんだ…?」



先程の声色からガラリと変わったプロデューサーの声

涙声ともとれる声色



「俺と律子の仲だろ…なんで…自分一人で抱え込んじまうんだよ……仲間だろ…俺ら…」



…本当に自分は単純な思考をしていると今改めて痛感している

あんなに追い込まれていた状況だったのに、今じゃ心の底からやる気が溢れてきている

.


「プロデューサー……すみません…私…」

「…謝るのは俺にじゃないだろ?」

「……はい…竜宮小町の皆…ですね」

「そうだ。 皆心配してるぞ……勿論俺もだがな」



その些細な言葉が私の背中を押してくれている

その些細な言葉が私に勇気をくれる

その些細な言葉が私を支えてくれる

魔法のようなその声

魔法のようなその言葉

…プロデューサーが私を変えてくれた

アイドルであった私を変えてくれただけじゃなく、プロデューサーである私まで変えてくれた…いい方向へと導いてくれた……






…私は………プロデューサーが好きなんだ

.


「プロデューサー……すみません…私…」

「…謝るのは俺にじゃないだろ?」

「……はい…竜宮小町の皆…ですね」

「そうだ。 皆心配してるぞ……勿論俺もだがな」



その些細な言葉が私の背中を押してくれている

その些細な言葉が私に勇気をくれる

その些細な言葉が私を支えてくれる

魔法のようなその声

魔法のようなその言葉

…プロデューサーが私を変えてくれた

アイドルであった私を変えてくれただけじゃなく、プロデューサーである私まで変えてくれた…いい方向へと導いてくれた……






…私は………プロデューサーが好きなんだ

.




「律子君! 前回のライブの反響が凄いみたいだね! この調子で頼むよ!」

「はい! 任せてください社長!」



あの出来事以来、私は自分で言うのもなんだが順調に仕事をこなしていた

落ち気味だった竜宮小町の知名度も全盛期を遥かに上回る勢いで伸びてきている

……私一人の成果ではない、伊織に亜美にあずささん…竜宮小町皆の御陰だ

そして…プロデューサー殿の御蔭でもある…

弱い私を見てくれるプロデューサー殿

どんな相談でも乗ってくれるプロデューサー殿

私が大好きなプロデューサー殿

…けれどこんな気持ちを伝えられずにいる私

もし振られたら私は立ち直れないかもしれない

そんな恐怖心が私を踏み止まらせる

しかしそんな私の想いを知るはずがないプロデューサー殿は、何時もの笑顔を見せながら私に近付いてくる

その度に甘えてしまう弱い私

もう…私は限界を迎えようとしていた

.






「律子、今日の夜空いてるか?」



書類整理に追われていた私にプロデューサー殿が声を掛けてきた

……空いてるか?



「この書類の山が見えませんか?」



正直いっぱいいっぱいである

これによって私の残業ルートは確定的なものになっていた



「…よし、俺も手伝う」



彼はそう言うと積み上げられた書類の山を崩し、その一部を自分のデスクへと運んでいった



「…感謝します…」

.






「律子、今日の夜空いてるか?」



書類整理に追われていた私にプロデューサー殿が声を掛けてきた

……空いてるか?



「この書類の山が見えませんか?」



正直いっぱいいっぱいである

これによって私の残業ルートは確定的なものになっていた



「…よし、俺も手伝う」



彼はそう言うと積み上げられた書類の山を崩し、その一部を自分のデスクへと運んでいった



「…感謝します…」

.


先程まで仕事によって追い込まれていた私の脳内に、彼が救いの手を伸ばしてくれた事によって余裕が生まれた

それで生まれた脳内のスペースで先程のプロデューサー殿の発言を思い出していた

夜……空いてるか…?



「あ…あの…プロデューサー…?」

「ん? なんだ?」

「夜空いてるかって…」

「あぁ、ちょっと食事でもどうかなって思ってな」



聞き間違いの可能性も少しはあると思っていたがそんな事はなかったらしい

彼は私を食事に誘ってくれた

まさか…二人で?

……いや…どうせ小鳥さんやあずささんも混ざっての飲み会だ…期待しちゃダメ

けど……聞くだけ…少し聞くだけ



「……二人で…ですか…?」

「…そうだぞ。 嫌か?」

自分の顔が真っ赤になっていくのが分かった

どんどん上がる体温

どんどん上がる心拍数

そんな私の変化を、プロデューサー殿の視線から守ってくれている書類の山

今はこの忙しさに感謝出来る



「嫌……じゃないです…」

「そっか、じゃあさっさとこの仕事片付けちまおう」

「……そうですね」



仕事でいっぱいいっぱいだった先程と違って、下手な期待感とパニック状態でいっぱいいっぱいの私

そんな状態の私でも自然と手が動いていた

徐々に削られていく書類の山

時計の長針はもうすぐ十の文字まで手を伸ばしかけていた



「………終わった! 律子の方はどうだ!?」

「わ、私も終わりました!」

「よしっ! じゃあすぐ帰る用意をしてくれ! 急ぐぞ!」

「は、はい!」



なんでプロデューサー殿は急いでいるのだろう?

そんな疑問は急かし続けるプロデューサーの声によってかき消されていった

.





「————…お疲れさま! かんぱーい!」

「乾杯!」



グラスとグラスが優しくぶつかる音が個室の中に響いた

プロデューサー殿はビール

私は烏龍茶

このアルコールとノンアルコールの違いが、私とプロデューサー殿との間に壁を作っているかのように感じてしまった

こんなところでも卑屈になってしまう弱い私

私は暗い顔をしていたのだろうか、プロデューサー殿が声を掛けてきた



「どうした律子? 浮かない顔して」



本当にこの人は私をよく見ている

些細な変化でさえ見逃してくれない

アイドル時代から何も変わっていない



「いえ…アルコールを飲めない私ってまだまだ子供なんだなって思いまして…」



プロデューサー殿の前では嘘が通じないと観念した私は正直に思った事を話した

…するとプロデューサーはニヤリと不敵な笑みを零し、自分の腕時計へと目をやった

.



「…そろそろか。 ちょっと待っててな」

「え?」



プロデューサー殿はそのまま席を立ち、個室の扉を開けて出て行ってしまった

個室の中に取り残された私

頭の中を色々な言葉が回っている

二人っきりの食事

二人っきりの空間

二人っきりの時間

高速で回っている言葉一つ一つを確認していく

その度に…顔が熱くなるのが分かった

私は何を期待しているのだろう

緊張によって乾いた喉に烏龍茶を流し込んだが、味も何も感じられない

狭い個室内に悶々とした空気を充満させていった



「お待たせ、律子」



扉が開く音と共に聞こえたプロデューサー殿の声で、私は口に含んだ烏龍茶を吹き出してしまった

先程まで充満していた空気はどこ吹く風で、個室内にはプロデューサー殿が持ち込んだ爽やかな空気で満たされていた

.



「ゴホッゴホッ!!」

「だ、大丈夫か律子!」

「だ…大丈夫です…」



優しく私の背中を摩ってくれるプロデューサー殿

その行為が私の心拍数をさらに上げた



「そ、そんな事より何処へ行ってたんですか?」



今の現状から逃げ出す苦し紛れの言葉

私の声は震えている



「…ふふ…これを見ろ!」



不敵な笑いを浮かべたプロデューサー殿

そんなプロデューサー殿が後ろに隠していた左手を前に出して、私の目の前に何かを置いた

.



「これって…シャンパンですか?」

「おう!」

「…なんでですか?」

「お前…今日が何の日か忘れたのか?」



今日が何の日か?

いきなり何を言っているのだろう

彼の理解不能な発言に私の頭の回転は追い付かなかった



「え〜と……」

「はぁ……お前…まだそんな若いのに…忘れるのには早すぎるぞ?」

「す、すみません…」



何故呆れられているのか分からないまま、私は反射的に謝ってしまった

情けない…やっぱり私はまだまだね……



「今日はな……お前の誕生日だろ?」

「……え?」



無駄に落ち込んでいた私の耳に入ってきた彼の言葉

私の……誕生日?

……目を回すかのような忙しさから忘れてしまっていた…

今日は私の誕生日

二十歳になった私の誕生日



「…誕生日おめでとう!」



プロデューサー殿は屈託のない笑顔を見せた

私が一番好きなプロデューサー殿の表情

.



「それじゃ…飲もうか!」

「ひゃ、ひゃい!」



随分と間抜けな声を出してしまった

プロデューサー殿の笑顔に見蕩れてしまっていたのがいけなかったようだ…恥ずかしい…

.







「律子〜…大丈夫か〜…?」



机に突っ伏した私の顔を覗き込むプロデューサー殿



「お前…まだ一杯しか飲んでないぞ…」



先程私はプロデューサー殿の顔を間近で見てしまった緊張を解すかのように、お洒落なグラスに注がれたシャンパンを一気に飲み干した

……その結果がこれだ



「…ぷろりゅーしゃどのが二人に見えましゅ〜…」



呂律が回らない私

人生初めてのお酒がこんな残念な私を作り出すなんて思ってもいなかった



「まだ酒は早かったか…」



そう言いながら私の頭を撫でるプロデューサー殿

優しいプロデューサー殿

私が大好きなプロデューサー殿

手が暖かくて気持ちいいです…


「へへ…気持ちいいです…」



思った事がそのまま口から出てしまう

.







「律子〜…大丈夫か〜…?」



机に突っ伏した私の顔を覗き込むプロデューサー殿



「お前…まだ一杯しか飲んでないぞ…」



先程私はプロデューサー殿の顔を間近で見てしまった緊張を解すかのように、お洒落なグラスに注がれたシャンパンを一気に飲み干した

……その結果がこれだ



「…ぷろりゅーしゃどのが二人に見えましゅ〜…」



呂律が回らない私

人生初めてのお酒がこんな残念な私を作り出すなんて思ってもいなかった



「まだ酒は早かったか…」



そう言いながら私の頭を撫でるプロデューサー殿

優しいプロデューサー殿

私が大好きなプロデューサー殿

手が暖かくて気持ちいいです…


「へへ…気持ちいいです…」



思った事がそのまま口から出てしまう

.



「まったく…」



呆れた表情をしながらも私の頭を撫で続けてくれるプロデューサー殿

…それに釣られたかのように込み上げてくる感情

普段ならその瞬間に押さえ付け、絶対に表に出さないようにする感情

裏の私

誰にも言えなかった私の感情



「ねぇ…ぷろりゅーしゃー殿…」

「ん、なんだ?」

「…」



喉元で突っかかって出てこない言葉

ずっと胸の中で燻っていた私の想い



「……いいぞ。 これを機会に全て吐き出してくれ。 俺はお前の悩みを全て受け入れる…だって俺ら仲間だろ?」



あ……プロデューサー殿の魔法の言葉…

その言葉を切っ掛けに、喉元で足踏みをしていた私の隠れた感情が飛び出そうとしていた

喉仏を潜り抜け

そのまま舌の上を滑り

…そうして唇をこじ開けて、その想いが暗い闇を抜けて日の目を浴びた

.



「まったく…」



呆れた表情をしながらも私の頭を撫で続けてくれるプロデューサー殿

…それに釣られたかのように込み上げてくる感情

普段ならその瞬間に押さえ付け、絶対に表に出さないようにする感情

裏の私

誰にも言えなかった私の感情



「ねぇ…ぷろりゅーしゃー殿…」

「ん、なんだ?」

「…」



喉元で突っかかって出てこない言葉

ずっと胸の中で燻っていた私の想い



「……いいぞ。 これを機会に全て吐き出してくれ。 俺はお前の悩みを全て受け入れる…だって俺ら仲間だろ?」



あ……プロデューサー殿の魔法の言葉…

その言葉を切っ掛けに、喉元で足踏みをしていた私の隠れた感情が飛び出そうとしていた

喉仏を潜り抜け

そのまま舌の上を滑り

…そうして唇をこじ開けて、その想いが暗い闇を抜けて日の目を浴びた

.



「まったく…」



呆れた表情をしながらも私の頭を撫で続けてくれるプロデューサー殿

…それに釣られたかのように込み上げてくる感情

普段ならその瞬間に押さえ付け、絶対に表に出さないようにする感情

裏の私

誰にも言えなかった私の感情



「ねぇ…ぷろりゅーしゃー殿…」

「ん、なんだ?」

「…」



喉元で突っかかって出てこない言葉

ずっと胸の中で燻っていた私の想い



「……いいぞ。 これを機会に全て吐き出してくれ。 俺はお前の悩みを全て受け入れる…だって俺ら仲間だろ?」



あ……プロデューサー殿の魔法の言葉…

その言葉を切っ掛けに、喉元で足踏みをしていた私の隠れた感情が飛び出そうとしていた

喉仏を潜り抜け

そのまま舌の上を滑り

…そうして唇をこじ開けて、その想いが暗い闇を抜けて日の目を浴びた

.



「……好きです」



私の霞んだ視界に映ったプロデューサー殿の顔

鳩が豆鉄砲を食らったような表情のプロデューサー殿



「…」

「…」



お酒の力を借りて出てきてしまった言葉

だけど…私の本心

……しかし今はそんな想いを伝えなければ良かったと思えている

この個室内に響く耳が痛くなるような沈黙が原因

それによって冷静さを取り戻してきた私の脳は、最悪な結末しか想像させる事を許さなかった



『ごめんな…お前をそういう風には見れない…』

『何冗談言ってるんだ?』

『馬鹿も休み休み言えよな』



私の勝手な妄想

私の勝手な想像

私の勝手な未来予想

それが…私の涙腺を刺激した



「…うぅ…ご、ごめんなさい…忘れて……忘れてください……」



自分が伝えてしまった過ちを無かった事にしたいがため、私は涙を流しながら謝り続けた

そうしないと元の関係に戻れないような気がしたから…

.



ギュッ



情けない嗚咽を漏らさぬよう突っ伏していた私の背中を、暖かい何かが包み込んれくれた

懐かしく感じる暖かさ…昔父に抱き上げられた時に感じた安らぎを思い出すかのような暖かさ



「律子…俺の答えを聞かないままそれはずるいぞ…」



耳元から聞こえてくる優しい声

魔法の呪文を唱えているかのような声

私が大好きで大好きで仕方がない声



「プ…プロデューサー殿…」

「さっきの返事だよな…」

「…」



先程まで頭の中を占領していた最悪の結末がまた私を襲ってきた

聞きたくない

自然と私の手は自分の耳を塞いでいた

……けれどその手は優しく握られ、耳からゆっくりと離されていった

.



「…俺もお前が好きだ…俺と付き合ってくれないか?」



耳元から聞こえたその言葉は一瞬幻聴ではないのかと疑える程、私の意表を突いたものだった



「え? え?」



頭の回転が追い付かない

プロデューサー殿は今なんて言ったの?



「……ははっ、律子は可愛いな。 顔真っ赤だぞ」



後ろから回されたプロデューサー殿の腕から伝わる、抱き締める力が強まったのが分かった

それと共に顔が熱くなるのが分かった

…さっきのは幻聴ではなかったのか?



「…あの…もう一度言って…もらえますか…」

「ん? 律子は可愛いなって言ったんだけど?」

「ち、違います! そ……その前です…」

「…何度も言うのは恥ずかしいんだがな……好きだぞ律子…」



……幻聴ではなかった…

私はプロデューサー殿に好きと言い、プロデューサー殿は私に好きと言ってくれた…

これって…



「…私達は……これで付き合い始めたって事でいいんですよね…?」

「あぁ、そうじゃなかったら俺はこの状況をどうしたらいいか分からなくなる」



その瞬間、我に返った私は今の現状を理解した

私を後ろから抱き締めるプロデューサー殿

そのプロデューサー殿の顔から数センチの距離にある私の顔

更に顔が熱くなるのが分かった

.



「これってあすなろ抱きって言うんだぞ? 知ってるか?」

「わわわわわわわわわ!」

「おい…大丈夫か律子?」

「だだだだだだだ大丈夫ででです!」

「いや…どう見ても大丈夫じゃ…」

「いやいやいやいや落ち着いてますよ私! ななななな何の問題もないですから!」

「ん〜…それっ」

「わっ…! んんっ…!」



先程まで数センチの距離だったプロデューサー殿の顔が、今じゃ数ミリの距離でも測れない距離まで近付いていた

…重なった私とプロデューサー殿の唇

暖かいプロデューサー殿の唇



「……っぷぁ……律子…落ち着いたか?」

「…」

「律子?」

「………ず……ずるいです…」

「ん?」

「私がパニックになってる時にこんな……」

「…嫌だったか?」

「……もう一度…お願いします…」

「…あぁ、分かった…」

.



再び重なった私とプロデューサー殿の唇

暖かくて柔らかいプロデューサー殿の唇

…私がずっと感じたかった感触

プロデューサー殿とのキス

その瞬間、私は大人の階段を登れた気がした

初めてのお酒

初めてのキス

それによって今まで聞いてきた噂話が嘘だという事も分かった

ファーストキスはレモンの味がするなんて嘘っぱちじゃない…だって…

















シャンパン風味な大人の味なんだもの

——————
————
——













「律子、そっちの準備は大丈夫か?」

「はい、そっちはどうですかプロデューサー殿?」

「こっちもOKだ」

「じゃあ…そろそろ皆の出番ですね」

「あぁ…なんとか成功しそうだな」

「当たり前じゃないですか。 なんたって765プロ始まって以来の大イベントですもの、ぬかりはありません!」

「ははっ、そうだな!」

「それに…私とプロデューサー殿が初めて共同で企画したライブですもの…失敗は絶対有り得ません」

「初めての共同作業か…」

「ちょ、恥ずかしい言い方止めてくださいよ!」

「すまんすまん、なんかケーキ入刀より俺ららしいと思ってな」

「もう……けど、確かにそうですね…」

「だろ? 今度は俺らの結婚式ライブでも企画するか?」

「公私混同はダメです!」

「はいはい…けど……絶対結婚式は挙げような」

「……はい」

「俺じゃ不満か?」

「そ、そんな事あるわけないじゃないですか!」

.



「だよな…良かった…」

「……私なんか不安にさせるような事してしまいましたか…?」

「いや、仕事でもプライベートでも俺にたいしての呼び方変わらないな〜って思ってて…」

「…」

「いや! 不安じゃないんだよ! けど少し別の呼び方してほしいな〜って…」

「……分かりました…呼び方を変えます…」

「え? いいの!?」

「はい…けど…二人の時だけですよ…?」

「よっし! ……けど、今少しだけ聞きたいな〜」

「ダメです」

「くっ…」

「…ほら! もう皆舞台袖に集まってる頃ですよ!」

「お、おう!」

「行きますよ………リ……」

「え? 今なんて?」

「な、なんでもありません! ほらっ! 置いてきますよ!」

「ちょ、待ってくれよ!」











関係者専用通路を走る私

そんな私の後ろから着いてくるプロデューサー殿

……私は旦那様を尻に敷くタイプかもしれません

この光景を見たら誰もがそう思うでしょう

今まで振り回されっぱなしだった私だけど…今度からそうはいきませんからね

とことん主導権を握り続けてあげますよ

……だから覚悟していてくださいね…











「…ダーリン♪」





おわりおわり

リッチャンハカワイイデスヨ

りっちゃん誕生日おめでとうマジおめでとう

これで俺の役目は終わりだ

じゃあの

あ、よく見たらエラーで何回か同じ書き込みしてた

すまない

改めてじゃあの

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