侑「カップル限定の」 (90)

やが君SS③
30レスくらいで書こう→3倍
ギャグだらけにしよう→真面目な話
この病気どうにかしたい

槙くんは決して邪魔をしないぼくらの味方

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1543160014




燈子「んー! いい買い物したなぁ」

侑「服、最後店員さん値引きしてくれてラッキーでしたね」

燈子「そうだね」

侑「アレにならないといいですけど」

燈子「アレって?」

侑「家帰ってから後悔するやつ。わたし、迷った買い物ほどなりやすくて」

燈子「あー、あるある」

燈子「でもこれは最初から買おうと思ってたし大丈夫だよ」

侑「あれ、そうなんですか?」

侑(そのわりにはだいぶ悩んでたような)

燈子「あの店員さん、ノルマとしてこれだけは売りたい!って目だったから」

侑「はあ」


侑「……って先輩まさかわざと」

燈子「ふふ。作戦?」

侑「うわー……」ジト






燈子「あ、あれ? 侑もしかして引いてる?」

侑「正直ちょっと」

燈子「う……やっぱりちゃんと払わないとダメかな」

侑「あ、いえ、そうじゃなくて」

侑「『澄ました顔して裏でなに考えてるかわかんない七海先輩こわっ』って思っただけです」

燈子「余計にショックなんだけど…」

侑「まぁでもその交渉術?は、素直にすごいと思いましたよ」

燈子「本当?」

侑「そりゃ同じものなら安く買えるに越したことないですし」

燈子「ふふ。ならよかった」

侑「ちなみに浮いたお金でパフェでもおごってくれたらポイント2倍ですけど」

燈子「えっおごるおごる! どっか入ろう!」

侑「ちょっ、冗談ですって」





燈子「なーんだ冗談」

侑「さすがに厚かましすぎますし」

燈子「でも、侑のポイントが2倍になるんでしょ?」

侑「わたしのポイントなんか集めてなにもらえるんですか…」

燈子「え?」

燈子「……」


燈子「…ごほうび?」

侑「やだ」

燈子「早い!」

侑「だって先輩いま絶対やらしーこと考えた!」

燈子「っ…!? かっ考えてない!」

侑「じゃあなに考えてたんですか」

燈子「そ、それはっ」




侑「じーー」ジー

燈子「えと……」

侑「じーーーーーっ」ジーー

燈子「……っ~~」カァァ

侑「あーっやっぱり図星」

燈子「ちっちがうよ!」

燈子「私はただその、色々、したいなって」

侑「いろいろ?」

燈子「………キスとか…抱きしめたり」

侑「……………」シラッ

燈子「わああっごめんなさい! そういうことばっかり考えてました!」

侑「はぁ~~これだから先輩は」

燈子「ううう」

侑「まったく」


侑「……そのくらい普通に言えばいいのに」ボソ

燈子「……ん?」

侑「なんでもないです。 帰りましょう」






スタスタ


燈子「…あれ?」

侑「どうかしました?」

燈子「この道たまに通るけどこんなカフェあったかな」

侑「新しそうですね。なんか看板が」

燈子「あっ侑、あれ見て!」

侑「はい?」

燈子「カップル限定で飲み物頼んだらパフェのサービスだって」

侑「え、ほんとだ」

侑(ああいうの実際あるんだ。 初めて見た)

燈子「……」ウズウズ

侑「……いやなにうずうずしてるんですか」

燈子「えー? フリだけでもしてみない?」

侑「先輩バカなの?」

燈子「ひどい!」





侑「そもそも、ああいうのって男女じゃなきゃダメですよね」

燈子「そういうもの?」

侑「たぶん普通は」

燈子「そっかー…」ガク

侑「まあでもメニューとかはよさげですし。 また今度来ましょうよ」

燈子「えっ! いいの?」

侑「……」

侑「言っときますけど他意はないんで」ジト

燈子「し、知ってるよ!」

侑「怪しい」

燈子「普通にでしょ」

侑「普通に、です」

燈子「はーい」





ガララ


侑「ただいまー」



侑「ふう」ゴロン


侑(久しぶりにいっぱい服見たな。 結局どれも買わなかったけど)

侑(でも……うん、楽しかった)


侑(先輩と買い物に行くのは楽しい)

侑(朱里たちと行くのももちろん楽しいけど、七海先輩と過ごすのは)

侑(なんというか…居心地がいい?)


侑「……」


侑(ような気がする)






侑(なんでだろ。 余計な気を遣わなくていいからかな)

侑(先輩なのに変なの)


怜「侑ー入るよ」ガチャ

侑「っ!」ビク

侑「怜ちゃん! ノックくらいしてってば」

怜「なんで」

侑「なんでって」

怜「あ……ごめんひょっとして自家発電中だった?」ニヤ

侑「は、はあああっ!?」ガバッ

怜「おっ図星?」

侑「ちがうし! バカなの? 怜ちゃんきもっ!」

怜「冗談だっつの。 真に受けんな」

侑「冗談でも今のはない……ってかなんの用」

怜「あーそうだ。べつに用ってほどでもないんだけど」

侑「なら出てってよ」

怜「あれれ、そういうこと言っちゃう?」




侑「…? なんなのもったいぶって」

怜「こ・れ」チャリ

侑「なにそれ」

侑(って、)

侑(メンダコのストラップ!? しかも見たことないやつ)

怜「あんた好きじゃなかったっけ?」

侑(まさか怜ちゃんガチャでシークレットを…)

侑(いやでもシークレットはあの色じゃないはず。 じゃああれは?)

怜「欲しいなら侑にあげよっか」

侑「えっほしい!!」

怜「と思ってたけど、生意気な態度がむかついたからやーめた」クル

侑「なぁ!?」





怜「姉への敬意を払って反省するなら考え直してあげてもいいけど?」

侑「うわっ」

侑(卑怯すぎてますます敬意とかない。 けど)

侑「……ごめんなさい」

怜「あらま素直」

侑「意地張ると怜ちゃん喜ぶんだもん」

怜「へーよくわかってんじゃん! つまらんけどおねーちゃんちょっと感心しちゃった」ナデナデ

侑「うざっ! 撫でないで」

怜「はいじゃあこれ約束通りあげる」ポン

侑「!」

侑(ゴールドのメンダコ! 絶対レアだ)

侑「怜ちゃんなんで」

怜「あーこれ?」





怜「ちょっと前に侑が七海ちゃんとデートした水族館あるでしょ?」

侑「デート言うな」

怜「そこの入場特典で1個もらえたのよ」

侑「えっ、前はそんなのなかった」

怜「じゃあ期間限定なんじゃない。 ちなみになんだっけこの…クラゲ?」

侑「メンダコ!」

怜「あーそうそれ。 色2つあったよ」

侑「まじで?」

侑(ってことはもう1種類! ゲットせねば)

侑(七海先輩、誘ったらまた行ってくれるかな)

怜「あ、限定といえばそうだ」

侑(でも2回目行くには早すぎ? となると朱里かこよみか…)

怜「これもらえるのってたぶん全員じゃないんだよね」

侑「え、そうなの?」

怜「私はヒロと行ったんだけど、入口過ぎたとこでお姉さんに声かけられてー」

怜「なんか、カップル限定っぽかった」

侑「……」


侑「え」




翌日



侑「……」


侑(限定……カップル限定かー……)ズーン



侑(普通に女友達とかと行ってもダメってことじゃん)

侑(いつまでなんだろ。 早くしないと終わっちゃうかも?)

侑(そもそも彼氏いないし)


侑(…そうだ! あいつなら)


侑「……」

侑(っていやいや)

侑(一度断っといて今さら。 しかもストラップのために~とか最低すぎる)

侑(かといって下手に知り合いの男子に頼んで面倒なことになるのもなぁ……)

侑「うーーどうすれば」グデン

こよみ「おーい侑ー」

侑「うぇ?」

こよみ「なにそのナメクジな格好…」

こよみ「いや、侑を呼んでほしいって言われて」

侑「え、誰」

こよみ「槙くん」

侑「槙くん? なんだろ?」






聖司「やあ小糸さん」

侑「ごめんお待たせ」

聖司「僕こそごめん。 携帯でもよかったんだけど、読まなかったらと思って」

侑「あ、うん。 どうかしたの?」

聖司「今日の生徒会、やることがほとんどないから1年生は休みでいいみたい」

侑「え、そなの?」

聖司「さっき下で佐伯先輩に会ってね。 周知するよう頼まれたんだ」

侑「そっか。でもなんか先輩に任せるの申し訳ないね」

聖司「僕もそう思って聞いたんだけど、『気持ちだけ頂戴するわ』ってはねられちゃって」

侑「あー佐伯先輩言いそう」

侑「てか、微妙に似てる」プッ

聖司「本当? 実はちょっと意識してみた」

侑「今度本人の前でやってみようよ」

聖司「う、うーん、まだ僕も死にたくはないかな…」

侑「あはは! 槙くん意外と失礼」

聖司「ははっ、言わないでね」





侑(槙くんって真面目だけどノリも悪くないんだよなぁ)

聖司「それだけなんだ。 呼び立ちゃってごめん」

侑「ううん。わざわざありがと」

侑(他人への気遣いは申し分なし、おまけに顔も整っていると。 こりゃモテる)

侑(まぁ自分の恋愛に興味ないって言ってたし彼女はいないんだろうけど)

侑「!」

侑(そうだ、槙くんだったら…!)


聖司「じゃあ僕は堂島にも伝えに行ってくるから」

侑「あっ、ちょっと待って!」

聖司「ん?」

侑「あ、と」

聖司「どうかした?」

侑「つかぬ事をお聞きしますが」

聖司「…? どうぞ?」

侑「槙くんってさ、」




放課後



聖司「水族館かぁ。 いつ以来だろう」

侑「ごめん、付き合わせちゃって」

聖司「ううん、どのみち生徒会がなくなって暇だったしね」

聖司「それにしても衝撃だったなぁ」

侑「え?」

聖司「小糸さんが学校で『彼女いないでしょ?』って僕に聞いてきたの」

侑「ぶっ!」

侑「……あ、あれは変な意味じゃなくて!」

聖司「あはは。 特に気にしてはいないんだけど、おもしろくて」

侑「おもしろい?」

聖司「うん。 小糸さんも大概失礼だなあって」

侑「槙くん? やっぱ気にしてない…?」

聖司「いやいや、話の流れがさ」

侑(表情に出ないのが逆に怖い)

聖司「あ、電車きたよ」



プシュー…



燈子「…え?」

沙弥香「燈子? どうかした?」

燈子「いや…」

沙弥香「?」

燈子(あれって、侑と……槙くん?)








侑「着いた」

聖司「僕は初めて来たけど、思ったより大きいね」

侑「昔1回リニューアルして拡大したみたいだよ」

聖司「へぇ」


ウィーン


侑(怜ちゃんは入口過ぎたとこって言ってたけど…)キョロ

聖司「チケット代は僕が出そうか?」

侑「あーうん」

侑(なにもなさそう。 ゲート入ってからって意味かな)

侑「って、いやいや! むしろわたし払う」

聖司「それはさすがに」

侑「だって槙くんには無理やりついてきてもらったんだし」

聖司「でも今の僕は小糸さんの彼氏役なんだよね?」

侑「ん……まあ、一応」

聖司「なら、それらしく振る舞わないと」

侑「え、えー?」





侑「やっぱここは普通に買おう」

聖司「小糸さんがいいならいいけど」

侑(さすがにこんなとこまで見られてないよね)

聖司「あ、でもこれ2枚組のほうが少しお得なんだ」

侑「あれほんとだ。……カップルチケットて」

聖司「あはは、そのままだね」

侑(怜ちゃんとヒロくんはこれで入ったのかな)

聖司「どうする? 合わせて200円の差みたいだけど」

侑「うーんそれなら」

侑(いやまてよ、もしやこれが限定ストラップの証明として使われてるんじゃ…?)

聖司「まあそうだね、ちょっと名前が照れくさいし今回は」

侑「いや、カップルチケットで!」

聖司「えっ!?」





侑「や、てか、それじゃないと特典くれないのかなって」

聖司「ああそういうこと」

侑「わかんないけど…」

侑「あっでも槙くんが嫌だよね? ごめんわたしスタッフの人に聞いてくる」

聖司「いや、僕もこれでいいよ」

侑「え、でも」

聖司「いずれにせよこっちのほうが確実だろうし」

侑「それは、そうかもだけど」

聖司「ちょっと名前が恥ずかしいけど、浮いたぶん飲み物代の足しにでもしようよ」

侑「…そだね!」

聖司「じゃあとりあえずここは僕が」ガー

侑「あっごめん」

侑(槙くん優しい)








燈子「……………」ジーー

沙弥香「……」





燈子(槙くんと侑…どうして2人で水族館に)

沙弥香「ねぇ燈子、やっぱりこういうのは」

燈子「しっ!」

燈子(まさかデート? いや侑に限ってそんなこと……でもでも!)

沙弥香(面白そうだから尾行って。 っていうかなんで私まで…)




侑「ーーー」

聖司「ーーー、ーー」




沙弥香(まあ、様子が気になるのはわかるけど)

燈子(うー、なに話してるんだろ)

沙弥香「……」

沙弥香(本当にただ『面白そうだから』…なの?)





聖司「お目当てのストラップはどこで手に入るの?」

侑「怜ちゃ……お姉ちゃんが言うには入ってすぐらしいんだけど」


スタッフ「ご来館ありがとうございまーす!」

侑(きた!)

スタッフ「よろしければチケットを拝見しても?」

聖司「どうぞ」

スタッフ「……ありがとうございます! ただいまカップルのお客様限定でキャンペーンをやっておりましてー」ゴソ

侑「はい、はい!」

聖司(食い付きが)

スタッフ「まずこちら、イルカショーで使えるペアポンチョをおひとつ」

侑「ちがう」

聖司「!?」

スタッフ「えっ」

聖司「あっ、すいません僕もらいます」

スタッフ「は、はい」

侑「……」ジー

聖司(ストラップしか見てない…)




スタッフ「それからペアでおひとつなんですが、当館限定のおさかなストラップをお選びいただけましてー」

侑「!」

スタッフ「種類はこの中k」

侑「これ! これください!」

スタッフ「えっ」

聖司「あ、これです⑥番の、メ……メタモンだっけ?」

侑「メ ン ダ コ」キッ

聖司「ごめんなさい!?」

スタッフ「メンダコですとお色がこちらの2種類ございm」

侑「シルバーのほうで!」

スタッフ「あっえっ」

聖司(小糸さんって怒るとあんな顔するのか…)






侑(やったやった、限定メンダココンプリート!)

聖司「よかったね小糸さん」

侑「うん!」

聖司(逆にこんなに笑顔なのも初めて見たかも)

スタッフ「よろしければあちらで記念撮影されませんか?」

侑「写真」

聖司「せっかくだし撮ってもらう?」

侑「あ……でもこれあとで買わされるやつじゃない?」ヒソ

聖司「その可能性はあるね」ヒソ

スタッフ「あはは。 それでしたらお客様のスマホなどでお撮りしますよ?」

侑「えっいいんですか」

スタッフ「はい! ぜひ、SNSなどにあげていただければ、宣伝にもなりますし」

聖司「ああなるほど」

侑「じゃあ、これでお願いしますっ」スッ

スタッフ「かしこまりました!」





スタッフ「準備はいいですかー?」

聖司「はい」

侑「おっけーでーす」

スタッフ「……あれ?」

スタッフ「お二人とも、なんとなく距離が遠いような?」

侑「えっ」

侑(やばい、怪しまれた?)

スタッフ「ほらほらもうちょっと近くにー!」

聖司「あーいや、僕らはもとからこういう距離感……っと」クイ

侑「……」ギュッ

聖司「!?」

聖司「こ、小糸さん? 」

侑「フリってバレたら無効にされるかも」ヒソ

聖司「…そんなことないと思うけど」ヒソ

侑「ごめん、今だけだから!」ヒソ

聖司「う、うん」

スタッフ「あっそれいいですね」


スタッフ「それじゃ撮りまーす! 笑って笑ってーさーんにーいいーち…」






スタッフ「それではごゆっくり~」


侑「すごい明るいスタッフさんだった」

聖司「そうだね」

侑「ってかごめん! 演技とはいえあんなこと…」

聖司「いやいや。 むしろ役得?」

侑「あれ、でも槙くんって女子にこういうことされるの嫌なんじゃ」

聖司「え?」

侑「えっ」

聖司「別に僕は女の子そのものに抵抗があったりするわけじゃないよ?」

聖司「恋愛に関して自分が対象にならないってだけで、性別云々にこだわりはないかな」

侑「ごめん勝手に女子嫌い設定にしてた」

聖司「いやまぁ、男子好きまで行ってなくてよかったよ」

侑「それ性別こだわってない?」

聖司「ははっ確かに。そこは一応ね」

侑「どっから見る?」

聖司「うーん、とりあえず順路に沿って行こうかな」

侑「じゃあこっちだ」









燈子「………………」ズモモ

沙弥香「……」

沙弥香(燈子からなんか禍々しいオーラが…)







燈子「沙弥香」

沙弥香「なに?」

燈子「今の見た?」

沙弥香「…腕、組んでたわね」

燈子(やっぱり見間違いじゃない……)ズーン

沙弥香「……」

沙弥香「それがなにか不満?」

燈子「えっ! や、そういうわけじゃないけど」

沙弥香「本当かしら」

燈子「役員たるもの、不健全交遊があっては生徒会の顔が立たないでしょう?」

沙弥香「不健全って……だから見守る義務があると?」

燈子「うんまぁ、そんなとこ?」

沙弥香「あの二人にそんな心配するだけ徒労だと思うけど」

燈子「わ、わかんないでしょ!」




燈子「もしここでいい雰囲気になって、流れでそのまま……なんてことにでもなったら」

沙弥香「そのまま?」

燈子「……」

燈子「…ホテルとか」ボソ

沙弥香「ぶっ!!」

沙弥香「そ、そんなことあるわけないでしょ!? どれだけ飛躍してるのよ!」

燈子「だっだけど! 万が一ってことも」

沙弥香「大体ホテ……っ、そういう所は、年齢的に不可能だから」

燈子「? そうなの?」

沙弥香「通常18歳未満は法律で禁止よ? 施設にもよるようだけど」

燈子「……」

燈子「沙弥香、詳しいね」

沙弥香「ーーっ!?」

沙弥香「べっべべ別に! 自分で調べたわけじゃないからね! ちがうんだからねっ!?」ペシペシ

燈子「私なにも言ってない!」






侑「あ!」


侑「槙くんこれ見て」

聖司「ん。 えっと、これは…チンアナゴ?」

侑「知ってたんだ」

聖司「ブームがあったかで結構有名じゃない? 実物は初めて見るけど」

侑「でも残念これはニシキアナゴ」

聖司「あれ。 斑点のほうが?」

侑「こっちがチンアナゴだよ」

聖司「別種なんだね」

侑「体長どのくらいあるか知ってる?」

聖司「え? 5センチくらい?」

侑「ふっふっふ、実は30センチくらいある」

聖司「そんなに? じゃあ今見えてるのは頭のほうだけなんだ」

侑「たまにみょーんって伸びるんだよ」

聖司「へぇ…」

聖司「すごい詳しいね小糸さん、さかなクンみたい」

侑「ギョギョ! あんまりうれしくない!」

聖司「……」


聖司「ぷっ。あはっあはははは! それモノマネ?」

侑「わーー、一瞬やらかしたと思ったー」

聖司「いやちょっと、意外すぎて、あはははははっ!」





スタスタ


聖司「中もやっぱり結構広いね」

侑「意外と見応えあるんだよね」

聖司「そういえば、これ最初に何かに使うポンチョって言って貰ったけど」

侑「イルカショーのだ。 次何時からだろ?」

聖司「パンフレットだと…平日は17時半が最終みたい」

侑「え、もうじゃん」

聖司「行ってみる?」

侑「行こう行こう! すっごい楽しいから!」タッ

聖司「えっ」

侑「槙くんこっち!」

聖司「わ、待って待って」

侑「あははっ置いてくよ~!」

聖司(小糸さんテンション高いな。 水族館好きなんだ)

聖司(というか……)




アナウンス「まもなく本日最後のイルカショーがーーー」


侑「セーフ」

聖司「ただ座席は結構混み合ってるね」

侑「でも前のほうは座れるよ」

聖司「あれ、本当だ」

侑「あそこ行こう」


聖司「不思議だな…映画館とは違って前でも見やすいと思うけど」キョロ

侑「このショーめっちゃ水飛んでくるんだよ」

聖司「…ああ! それでこのポンチョが役に立つんだ」

侑「そうそう。 貸して、わたし開ける」

聖司「ありがとう」

侑(……ん? 中身1個だけ?)ゴソ

聖司「というか小糸さん、ここよく来るんだ」

侑「えっ?」





聖司「随分と詳しいから。 そうなのかなって」

侑「あ、うん……まあ」

侑「と言ってもまだ2回目かな?」

聖司「ふーん?」

侑「もしかしたら小さい頃あるかもだけど、最近はね」

聖司「最近」

侑「うん」

侑「え? あっ、いや……」

聖司「誰と?」ニヤ

侑(しまった! 槙くんは知ってるんだからそりゃ聞いてくるよね)

侑「…お、お姉ちゃん」

聖司「あれ? お姉さんに聞いて今日来たんじゃなかったっけ?」

侑「うぐっ!」

聖司「で、本当は誰と?」

侑「……」


侑「………七海、先輩」

聖司「あははっ、やっぱり」

侑「っ~~…」





聖司「なんだかんだちゃんとデートもしてるんだ」

侑「だからデートじゃない! 槙くんまで!」

聖司「またまたー、照れなくても」

侑(くっそーミスった…)


アナウンス「まもなく開演です。 前方の席の方は水しぶきにご注意の上ーーー」


聖司「あ、始まるみたい」

侑「そうだポンチョ」ゴソ

侑(まあでも、逆に槙くんでよかったのか)

侑(これがほかの人だったらと思うと……特に佐伯先輩とか佐伯先輩とか)

聖司「ん? それ1枚だけ?」

侑「あ、うん、なんか…」

侑「あれでも大きい? かも?」バサ

聖司「一人用にしては…大きいね」

侑「……」

侑(え、もしやこれって)







沙弥香「…くしゅんっ!」


燈子「沙弥香?」

沙弥香「んっ、なんか突然」

燈子「冷房で冷えたのかな」

沙弥香「大丈夫よ。 誰かが噂でもしてるんじゃない」

燈子「あー、沙弥香だもんね。いろんな男子にされてるよ」

沙弥香「それを言ったら燈子のほうがされてるでしょうに」

燈子「そりゃあ私は生徒会長だもん」

沙弥香「肩書き抜きにしても、よ」

燈子「そうかなぁ」

沙弥香「燈子、自分がどれだけ人気があるかわかってる?」

燈子「あはは、沙弥香には敵わないよ」

沙弥香「どの口が…」





燈子「沙弥香こそすごいモテてるのに」

沙弥香「私? モテないわよ。 燈子と違って告白されたことなんてないし」

沙弥香(男の子には、だけど)

燈子「きっと高翌嶺の花なんだよ。私は庶民だから、みんな軽い気持ちでチャレンジしてるだけ」

沙弥香「私だって一般の庶民なんだけど…」

燈子「? いいとこのお嬢様でしょ?」

沙弥香「こら」

燈子「えへん」

沙弥香「燈子まで言い出したら余計そういうレッテルが貼られるじゃない」

燈子「ごめんごめん」

沙弥香「もう…」

燈子「……」





燈子「……沙弥香は興味ないの?」

沙弥香「何に?」

燈子「自分の恋愛とか」

沙弥香「えっ…?」

燈子「だって、絶対沙弥香好きな人いるでしょ」

沙弥香「っーーー!!?」ドキン


沙弥香「えっ、えっ? な、なんで?」

燈子「なんでって」

沙弥香(そんな、まさか燈子気づいて…!?)ドキドキ

燈子「結構私聞かれるよ? 『沙弥香ってどういう人がタイプ』、みたいなこと」

沙弥香「やっ、えと、私は」

沙弥香(……ん?)

燈子「聞いてくるのは女の子だけど、あれは間違いなくほかの男子からの依頼だね」

沙弥香「……」

沙弥香(ってぇ! そっちかーい!!)





燈子「いるはずなんだけどなぁ、沙弥香のこと好きな男子」

沙弥香「……」

燈子「本当にそういうことない?」

沙弥香「知らない。 興味ない」

燈子「え」

沙弥香(燈子のバカ)

燈子「……なんか怒ってない?」

沙弥香「さぁ? 怒るとこなんてあったかしら?」

燈子(すごい怒ってる!)

燈子「ごっごめんね?」

沙弥香「どうして? 謝られる謂れがないわね」

燈子「えー」

燈子(どこで地雷踏んだんだろう……ひとまず何かしらフォローしなきゃ)

燈子「あの、沙弥香?」

沙弥香「…なによ」

燈子「えっと」



燈子「…可愛い顔が台無しだゾ?☆」

沙弥香「……」ブチッ



アッー!






ピーッ! ピピーッ!



侑「お、おー今のすごい」

聖司「うん、よく訓練されてるね…」

侑「そだね」

聖司「……」

侑「……」


侑・聖司((集中できない……!))



聖司(確かにあの人『ペア』ポンチョとは言ってた気がするけど)

侑(2人で着るやつって…普通そんなのある!?)

侑「大丈夫? 槙くん暑くない?」

聖司「僕は別に。 小糸さんは?」

侑「私も、平気」





聖司「もしあれなら言ってね。 僕は少しくらい濡れても大丈夫だし」

侑「いや! これ全然少しじゃない。 やばい濡れる」

聖司「そ、そうなの?」

侑「まじで最後バッシャーくる」

聖司「バッシャーくるんだ」

侑「だからちゃんと被ってないと」

侑(てか槙くん、肩足りてるのかな)

侑「…もうちょっとそっち詰めよっか?」

聖司「えっ、いや大丈夫だよ」

侑「そう?」

聖司「小糸さんこそ鞄濡れない?」

侑「ん……ちょっとくらい平気だよ」

聖司「バッシャーくるのに?」

侑「そ、それは…まぁ」

聖司「……」

聖司「じゃあ……もう少しだけ」スッ

侑「あっ…う、うんっ」


侑(えー、えー……なにこれなにこれ)





侑「……」グビグビ


侑「ぷはーっ生き返る~」

聖司「ショー、最後のほう特にすごかったね」

侑「うんうん」

侑(正直ショーより気になることあったけど!)

聖司「大技の連発で手に汗握ったよ」

侑「……ほんとだよ」ボソ

聖司「え?」

侑「あっううんなんでも」

侑「ていうか、やっぱりめっちゃ濡れた」

聖司「僕も。足なんか結構びっしょり」

侑「わかってたのに~~悔しい~」

聖司「あはは」

聖司「でも本当、あのポンチョがなかったら全身アウトだったね」

侑「う、うん……そうかも」




侑(うーなんだろ……やたらのど渇く)ズゴー

聖司「あ、ごめん、やっぱり暑かったよね」

侑「ぷへ? なんで?」

聖司「もう飲み切ってるから。 それになんだか少し顔も赤いような」

侑「えっまじで」

侑(確かに、言われてみれば)

侑「あーでも、暑いのはたぶん温度とかがっていうより」

聖司「え?」

侑「……」

侑(っていうより、……なに?)

聖司「……」

聖司「小糸さん、具合悪い?」

侑「いや……全然」

聖司「そっか。ならいいんだけど」

侑(え、あれ)

侑(なんだ…これ)


聖司「小糸さん?」

侑「へっ?」






聖司「何か難しいこと考えてるような顔してるけど」

侑「えっ、いや、べつに?」

聖司「そう?」

侑「わたしは、ただ…」

侑(この、なにかわからない感覚が……)


侑「……」チラ

聖司「…?」



侑(もしかして、これって)





侑「槙くん」

聖司「ん?」

侑「わたし………わかったかも」

聖司「……」


聖司「何が?」


侑「……」







燈子(結局、侑たち見失っちゃった…)ズーン

沙弥香「もういいでしょ? 下手に動いたら逆に見つかって尾行してたのバレかねないわよ」

燈子「うっ、でも」

沙弥香「小糸さんがどう思うかしらね。 人のプライベートを覗き見してくるストーカーさん?」

燈子「かっ帰る! 帰るからそれ以上言わないで!」

沙弥香(やっぱりあの子目当てなんじゃない)

沙弥香「はぁ……ほら燈子、もう行くわよ」

燈子「うう」

燈子「さ、沙弥香? このことは侑…小糸さんには内緒に」

沙弥香「そうね。 なら槙くんには言おうかしら」

燈子「それもダメ!」

沙弥香「嘘よ。 というか私も共犯なんだから言えるわけないでしょう」

燈子「……」ホッ





沙弥香「けど……なんかなぁー」

燈子「え?」

沙弥香(わざわざ急いで仕事を済ませて、久しぶりに燈子とお出かけだったのに…)

燈子「あっごめん、チケット代は私が持つから」

沙弥香「そういうことじゃありませーん」

燈子「……どうしたら許してくれる?」

沙弥香「学年一頭いいんだから自分で考えたら?」

燈子「え~沙弥香ぁ~」

沙弥香(たまには困らせてあげなきゃ)

燈子(うーん、何か嬉しいことしたら機嫌直るかな?)

燈子(嬉しいこと嬉しいこと……あ)

燈子「……手!」

沙弥香「え?」

燈子「つながない?」スッ

沙弥香「……」


沙弥香「……へっ!?」ボッ


眠さMAXでいろいろ間違えそうなのでまた明日にしまうす




スタスタ


燈子(沙弥香と仲直りできてよかった。 スキンシップは大事だなぁ)

燈子(……けど)

燈子「侑…」


燈子(あれからどうなったんだろ)

燈子(まだ明るいけど、さすがにもう帰った?)

燈子(侑に連絡してみようかな)スッ


燈子「……」


燈子(でももしまだ一緒だったら)

燈子(……邪魔、になるよね)






燈子(まぁ、槙くんについてはともかくとして)


燈子(侑も本当はきっと誰かと一緒にいたいんだ)

燈子(友達として、仲間として)

燈子(だけじゃなくて……)

燈子「……」


燈子(たぶん、それは私じゃない)

燈子(というか……私の勝手なわがままを、侑はわかってくれていて)


燈子(ずっと今のままではいられないなんてこと、最初からわかっていたのに)

燈子(いつまでも甘えたきりじゃ)



燈子(それでも、私は………)







燈子「あ」

燈子(ここ、昨日侑と一緒に通ったカフェ。 そういえば同じ最寄駅だっけ)

燈子(侑はまた今度普通に来ようって言ってくれたけど)

燈子「……」

燈子(会いたいな)





侑「……七海先輩?」





燈子「……」



燈子(って、)


燈子(え? 幻聴? 侑のこと考えすぎて?)

燈子(うそ! なにそれやばい! 私絶対危ない人じゃ…)


侑「なーなーみーせーんーぱい?」ズイ

燈子「ひゃああ!?」





燈子「えっ、えっ?」

侑「やっぱり七海先輩」

燈子「侑…?」

侑「なんですかその顔、鳩豆みたいな。 てかどうしたんです?」

燈子「ほ、本物?」

侑「…はぁ?」

燈子「……」サワサワ

侑「ちょっ先輩!? くすぐった!」

燈子「侑……侑だ……っ!」ギュ

侑「!?」

侑「せっ先輩! ここ外! 外だからっ!」

燈子「へ? ……あっ!」







侑「もーー……なんなの急に」

燈子「ごっごめん。 嬉しくて…つい?」

侑「いやどんだけですか」

燈子「侑に会いたいって思った瞬間に会えたから」

侑「はあ」


侑「とりあえず、ここ入りません?」

燈子「え?」

侑「わたしちょうど先輩と話したいことがあって……時間あればですけど」

燈子「えっ、ある! 全然ある!」

侑(っていうかここ昨日の)

燈子「入ろう?」

侑「あ、はい」

侑(まいっか)


カランカラン…






店員「お待たせしました」



侑「外観のわりになんというか」

燈子「アンティークカフェっていうのかな? お洒落だね」

侑「ですね」

燈子「コーヒーもいい香り。侑の紅茶は?」

侑「おいしいですよ。 アップルシナモン」

燈子「よかった」

侑「飲みます?」

燈子「ううん。 ありがとう」

侑「…そうですか」

侑「……」フー フー

燈子「……」

侑「なに」

燈子「ん? ふーふーしてるの可愛い」

侑「っ……り、リアクションに困ること言わないでください」






燈子「それで侑、私に話したいことって?」

侑「あ、と」

侑(うーん、どう切り出せばいいか)

燈子「言いにくいこと?」

侑「言いにくいっていうか…」

燈子「……はっ!」

燈子「もっもしかして、『私たちもう終わりにしよう』みたいな」

侑「始まってもないのになにを終わらせるんですか」

燈子「なんちゃって…」

侑「……」

侑「まぁ、あながち間違ってないかも…ですけど」

燈子「………え?」





侑「…えっと」

侑「これは例えばの話、なんですけど」

侑「わたしが男子と2人だけで遊びに行くとするじゃないですか」

燈子「……ダメって言ったら?」

侑「た、例えばですって」

燈子(行ったくせに)

侑「こほん。……で」

侑「思いがけずその、なんともカップル的なシチュエーションになり」

侑「その時に、今までにない不思議な感覚があったとします」

燈子「それは、どんな?」

侑「なんていうか……このあたりが、ふわってするような」

燈子「っ……」





燈子(やっぱり、侑は…)


侑「それで七海先輩に聞きたいのが」

侑「わたしと一緒にいる時って…どういう気持ちなのかなって」

燈子「……」

侑「先輩はわたしのこと好きなんですよね」

燈子「…うん、好きだよ」

侑「それってどんな感じです?」

燈子「えっ、と」

燈子「……」

燈子「まず、ドキドキする」

侑(ドキドキ…)

燈子「それから、ふわふわする、かな」

侑「……え」




侑「ふわふわって?」

燈子「胸の……このあたりがね、ふわっとして」

燈子「1人だったらなんでもないようなことでも楽しくなって」

燈子「傍にいると嬉しくて、でも同時に落ち着かなくて」

燈子「まるで自分が自分じゃないみたいな」

侑「……」

燈子「すごく、不思議な感じだよ」

侑「そう…ですか」

燈子「侑もそうだった?」

侑「……わかりません。 似てるような、どこか違うような」

燈子「そっか」

侑「……」

侑「あっいや、例えば! 例えばですけどね! あはは」

燈子「そうだね」

侑「はは…」





侑(バレた……かな、今のはさすがに)

燈子「侑」

侑「はっはい!」

燈子「前に約束してくれたこと、覚えてる?」

侑「……」

燈子「私と一緒にいて」

燈子「ほかの人を好きにならないでって」

侑「…はい」

燈子「……」


侑「あの、せんぱ」

燈子「ごめんね」

侑「えっ」

燈子「わかってたんだ。 いつかはこうなるだろうってこと」





燈子「侑に特別がわからないのを、私は自分勝手に利用してるんだってこと」

燈子「侑のことずっと閉じ込めてたんだよ」

侑「せ、先輩?」

燈子「だから侑、もう大丈夫だよ」

侑「……!」

燈子「もう、私と……」

侑「っ、待って先輩! ちがう!」

燈子「えっ?」

侑「そうじゃ、なくて」

燈子「…侑?」

侑「……」

侑「わかりました、ちゃんと話します」

燈子「…?」






侑「気づいたと思いますけど、さっきの例えばの話……あれは今日わたしに起こったことで」

燈子「うん」

侑「前に先輩と入った水族館」

侑「あそこに行ってきたんです。 男子と2人で」

燈子「…うん」

侑「それでさっき言ったみたいに、不思議な……初めての感覚があって」

侑「もしかしてこれが『特別』、なのかなって」

侑「そう思って…」





侑「最初は本当なんともなくて」

侑「でも、いるうちに楽しいなって思って」

燈子「…ドキドキした?」

侑「ってわけじゃないんですけど」

侑「ただ…密着というか、肩が触れるくらいの距離になると息が詰まって」

侑「暑いし、手汗出てくるしのど渇くし」

侑「ざわつく?ような、ふわっ?みたいな」

燈子(う、うーん)

燈子「それは、やっぱり」

侑「ですかね?」

燈子「うん…」

侑「ですよね…?」

燈子「たぶん、としか言えないけど」

侑「はぁーー………」グデン

燈子「えっ!?」




燈子「えっ、侑? どうしたの?」

侑「いや、わたしもそうかもと思って言ってみたんですよ」

侑「そしたら…」





ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーー




侑「わたし………わかったかも」

聖司「……」


聖司「……何が?」


侑「……」



侑「特別、って気持ち」







聖司「…ふうん?」

侑「あっいや! たぶん…なんだけど」


侑「今日槙くんに彼氏役をしてもらって、結構くっついたりとかして」

侑「なんかこう、変な感じ」


侑「今まで感じたことない、なんとなくふわっとするような」

侑「無駄に汗かくし、のど渇くし」

侑「自分でもよくわからないんだけど」

聖司「……」

侑「でもたぶん、そういうことなのかなって」


侑(そうだ。 漫画なんかで見た『特別』は)

侑(ふわふわして、羽根が生えたようなーーー)

聖司「ちがうね」

侑「……」



侑「…え?」

聖司「それはちがうよ」




侑「ま、槙くん? ……ちがうって」

聖司「小糸さんのそれは特別なんかじゃない」

侑「え」

聖司「ごく当たり前のことさ。 言うなれば生理現象だね」

侑「せ、生理現象?」


聖司「例えば、パーソナルスペースって言葉を耳にしたことはない?」

侑「パーソナル…」

侑(聞いたことあるような)

聖司「人は誰しも距離感というものを持っていて、ある範囲にまで近づかれると不快に感じる」

聖司「さっき小糸さんは『くっついたりして』と言ったけど、それはまさしく僕が小糸さんのパーソナルスペースに入っていたということ」

侑「……、えっと」

聖司「人は感情で心拍や体温だって変わるし、汗をかいたりもする。 つまりはそういうことさ」

侑「ま、待ってよ」






侑「わたし、不快とか全然思ってない」

聖司「意識と無意識はちがうよ。 パーソナルスペースは無意識下での話だから」

侑「でも、それじゃあ!」

侑「なんで今になってこんな…」

聖司「今まで同年代の異性とこういうことは?」

侑「え? ……ない」

侑「くはないけど、ここまで距離が近かったのは、ないかも」

聖司「うん」

聖司「まぁ、不快に限らず、感情は普通意図せず起こるものだし」

侑「っていうと?」

聖司「未知の体験ではいろいろあるからね。 例えば恐怖だったり、興奮したり」

侑「こ、興奮て」

聖司「変かな?」

侑「あっいや、あはは……変っていうか」

聖司「僕は興奮したよ?」

侑「!?」




侑「え、なに!? したの?」

聖司「正直ね。 僕なんかよりずっと華奢でやわらかくて、それに良い匂いがした」

侑(正直すぎ…)ドンビキ

侑「へー……槙くんが興奮……わたしに」

聖司「あはは、そう聞くと変態みたいだね」

侑「いや完全に変態だよ。 普通本人に言わないよ」

聖司「まあ小糸さんにというよりは、状況にっていうのが正確かな」

侑「状況?」

聖司「うん」

聖司「君が言ったのと同じで僕も今までにない感覚だった。 こんなことしたのは初めてだから」

聖司「かなりドキドキしたし、たぶん顔にも出てたんじゃないかな」

侑「うそ? 全然そうは見えない」

聖司「今はね。 さっきはお互い見えてなかっただろうし」





侑(そっか、槙くんもだったんだ)

聖司「だけど僕は、これを特別だとは思わない」

侑「…え」

聖司「自分が同年代の女子とデートをしている。 隣に座って肩が触れ合っている」

聖司「そんな初めての状況に興奮しただけ、未知との遭遇に驚いただけ…」

聖司「そうなってしまうのはごくごく自然で、至って普通のことじゃないかな?」

侑(普通の…)

聖司「だからこれはただの生理現象」

聖司「君の言う『特別』とは似てもいないし、非なるものだ」

聖司「まして、『好き』だなんてものじゃあないね」

侑「…っ!」





聖司「小糸さんは以前、寂しくなんかないし、誰も好きにならなくていいって言ってたよね」

侑「……うん」

聖司「僕にはどうもあの言葉が信じられなかった」

聖司「やっぱり君は誰かと一緒にいたくて、その誰かを好きになりたいんだと思う」

聖司「特別を知りたい。 わかりたいんだ」

侑「……」

聖司「つまり、わかりたいがためにそう思い込んでしまったんだよ」

侑「勘違い、ってこと?」

聖司「そういうことだね」

聖司「たぶん君が抱いた感覚や感情も、僕のと全く同じとはいかないまでも同種だと思うよ」

侑「う、うーん…」


侑「なんか槙くんが言うとそんな気がしてきた…」

聖司「まぁ、元より僕と小糸さんは恋愛に関して共通するところがあるから」

侑「そっかー違うのかー」ガク

聖司「わかってくれた?」

侑「……一応は」

聖司「んー」




聖司「じゃあ、僕の場合だけど」

聖司「例えば今日の相手が小糸さんじゃなくて佐伯先輩だったとするでしょ?」

侑「ほう」

聖司「それで同じことがあったとして、僕はおそらく同じような感情を持つと思うよ」

侑「佐伯先輩に興奮するってこと? 」

聖司「さすがに語弊があるかな……いやまあそうなんだけど」


聖司「つまり言いたいのは、相手が誰でも起こる現象は同じってこと」

侑「……あ」

聖司「なのに、それを特別と捉えるのはおかしいよね」

侑「たっ確かに! そう考えると…」

侑「わ、なんかすっきりしたかも」

聖司「でしょ」

聖司「君もまた然りさ。 仮に今日誘ったのが僕じゃなくて堂島でも、結果は同じだったと思うよ」

侑「……」

聖司「……」

侑「ごめんそれはない」

聖司「あ、あれ?」ガク





侑「ってか、まず堂島くんは絶対誘いたくない」

聖司「そ、そうなんだ…」

聖司(堂島…なんかごめん)

侑(面倒なことになりそう男子ナンバーワンだし)

侑「でも、うん。 槙くんの言った通りだ」

侑「わたしは…」

侑「わたしは、誰かを好きになりたい」

侑「誰かを好きになって、その人と一緒にいたい」

聖司「それは…どうして?」

侑「えっ」




聖司「寂しいから?」

侑「……どうだろ。それもあるかもだけど、わかんないや」

聖司「そっか」

侑「わかんないけど」

侑「でも、眩しいなって思う」

聖司「……眩しい?」

侑「うん」

侑「物語に出てくる恋はいつもキラキラしてて、眩しくて」

侑「いつかわたしにも訪れるんだろうなってワクワクしてた」

聖司「憧れみたいなもの?」

侑「っていうより、みんなそうなるのが普通だと思って過ごしてたから」

侑「そうじゃない自分はなんて普通じゃないんだろう…って感じちゃうのかな」

聖司「…なるほどね」

聖司(周りが明るいから眩しいんじゃなくて、小糸さんにとっては自分のいる場所が暗闇なんだ)




侑「ってごめん、いつの間にか恋愛相談みたいになってた」

聖司「僕は慣れっこだよ」

侑「う……確かに、槙くん話しやすい。なんか悔しい」

聖司「あはは、悔しいって」

侑「はー」

侑(そっか。 じゃあこれも全然、特別なんかじゃないんだ)


侑(やっぱり……私に『好き』は訪れないのかな)


聖司「……」


聖司「君は」

侑「ん?」ズゴゴー

聖司「……、いや」

聖司(君は僕と似ているけれど)

侑「……?」


聖司「小糸さんは、七海先輩とどこまで進んだの?」ニヤ

侑「ぶっ!!?」

侑「けほけほっ……槙くん! だからわたしと七海先輩はべつに……っ!」

聖司「あはははっ、ごめんごめん」

侑「~~っ……もー」


聖司(でも、やっぱり君は、僕とはちがうと思うな)




ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーー






侑(の、一部を簡単に話してみたわけだけど)



燈子「うーん…わかるようなわからないような」

侑「わたし妙に納得しちゃってたんですけど、時間置いてから本当にそうなのかなって」

燈子「やっぱり腑に落ちない?」

侑「なんていうか、もやもや~が晴れなくて」

燈子「……」

燈子「侑はその人にいろいろと言われたみたいだけど、あまり気にしなくていいんじゃないかな」

侑「へ?」

燈子「特別かどうかって、その場の感情よりも普段のほうが重要だと思うよ」

侑「普段、ですか?」

燈子「うん」




燈子「……私はね、侑が好き」

侑「…はあ」

燈子「だからこうして侑に会えると嬉しいし、逆に侑と離れてる時は寂しいよ」

燈子「侑が私と一緒にいてくれたら幸せだけど、それがほかの誰かとだったらすごく嫉妬する」

侑「それは、男女問わず?」

燈子「男女問わず」

侑「愛が重いです」

燈子「それくらい本気なのっ!」

侑「………はい」

燈子「だから、つまりね」


燈子「特別だったり好きだったりするのは、その人と一緒にいたいってことなんだと思う」

侑「…!」

燈子「少なくとも私はそうだから」





侑(一緒に、いたい)

侑「……たったそれだけ?」

燈子「うん。 たったのそれだけ」

侑「そう、ですか」

侑「……」

侑(わたしは…)


燈子「侑は」

燈子「どうしてその人と行こうと思ったの?」

侑「えっ!?」ビク

侑「そ、それはっ」

燈子「……それは?」

侑「う」





燈子(もし、侑が一緒に行きたくて槙くんを選んだのだとしたら)

侑(……隠してもしかたないか)

燈子(それはやっぱり……)

燈子(侑は、彼のことを)

侑「す……」

燈子(好……)

侑「ストラップ……が、欲しくて」


燈子「……」

侑「……」


燈子「うん?」





燈子「す、ストラップ?」

侑「……これ」チャリ

燈子(あ……侑の好きな)

燈子「えっと、メンダコ?」

侑「やっその、あそこの水族館でもらえるやつなんですけど」

燈子「う、うん」

侑「あれです、ここのお店のパフェと同じで」

燈子「……」


燈子「あっ、もしかして……カップル限定?」

侑「……」コク

燈子「……」ポカン

侑「わ、笑えばいいじゃないですか。 わたしは特典のためにリアルに彼氏のフリとか頼む女ですよ」

燈子「えっ! あ、いや」






燈子「ごめん、ちょっとタイム」

燈子(えー、えーー……? まさかそういうこと?)

侑「…呆れて物も言えないんですよねそーですよね」

燈子「ちっちがうよ! そうじゃなくて」

燈子「……じゃあ侑は、別にその人と行きたくて行ったわけじゃなく?」

侑「まぁ、行きたいと言えばそうですけど、あとあと面倒にならなそうなって感じで」

燈子「そ、そう」

燈子「あっでも、ちょっとドキドキはしたんだよね?」

侑「そうは言ってませんよ。てか、結局勘違いなんだと思いますし」

燈子「あれ~…?」





燈子「でっでも侑、さっきは納得できないみたいな」

侑「…?」

侑「そのあと先輩が言ってたじゃないですか」

燈子「え?」

侑「『好き』や『特別』は、一緒にいたいって思う気持ちなんでしょ?」

侑「べつにそういうわけじゃないし。 あーじゃあちがうなぁーって」

燈子「……そうなんだ」

侑「はい」

燈子(ってことは、私は私でとんだ勘違いを…!)ガーン






燈子(うう、あとで沙弥香になんて謝ろう)

侑「それに…」

侑「その、好きとか特別とかじゃないですけど」

侑「わたしがいま一番一緒にいたいのって…たぶん七海先輩だし」

燈子「……」


燈子「へ」ポロ

侑「ちょっ」


侑「先輩、カップちゃんと持っ……あーっ! こぼれてるこぼれてる!」

燈子「ゆ、侑? いまなんて」ボタボタ

侑「いやだからそーいう意味じゃないですから! ってかめっちゃこぼれてるから!」ガタッ

燈子「へっ? わ、わっ!」

侑「もーー!」





ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーー





店員「またのお越しを」



カランカラン


侑「まったく先輩はー……」

燈子「ごっごめんってば」

燈子「でも、まさか侑がそんなこと言ってくれると思わなくて」

侑「だーかーら、べつに変な意味じゃないです」

燈子「うん。だから、嬉しい」

侑「……一緒にいて余計な気遣いしなくていいから、とかだけでも?」

燈子「うん。 だけでも」

侑「そう、ですか」

燈子「っていうかそれって、居心地がいいってことでしょ?」

侑「うわぁーポジティブ」

燈子「ふふっ」

侑(ほんと、この人は…)





燈子「ねぇ、侑」

侑「はい?」

燈子「好きだよ」

侑「…っ」

燈子「……大好き」

侑「…はいはい」

燈子「また一緒に来たいな」

侑「……」

侑(わたしだって)


燈子「侑?」

侑(また先輩と一緒に……)

燈子「どうかした?」

侑「いえ」

侑「また一緒に来ましょう」

燈子「…! うん!」

侑「ま、先輩が粗相したせいで入りにくくなりましたけど」

燈子「あーっ、そういうこと言う!!」

侑「あはははっ」

燈子「うー…侑のいじわる」


侑(……言わないよ。 今は、まだ)






ガヤガヤ



侑「すいませんこっちの駅まで」

燈子「ううん。なんなら家まで送るよ?」

侑「さすがにそれは」

燈子「残念」

侑「じゃあ先輩、また」

燈子「うん。 またあしーー」


聖司「あれ?」


燈子「…え?」

聖司「やっぱり七海先輩」

侑「えっ?」

聖司「と、小糸さんも」

燈子(ま、槙くん? どうして…)

侑(先に帰ったんじゃ)

聖司(……えっと?)





燈子(っと! なに慌ててるの私)

燈子(結局、槙くんは侑となんでもなかったんだから。 平常心、平常心)

聖司「先輩と小糸さんは二人でどこかに?」

燈子「ああ、うん。偶然会ってちょっとカフェに」

聖司「へえ、偶然」

侑「…なに」

聖司「……デート?」ヒソ

侑「っ、ちがうほんとに偶然!」ヒソ

燈子(近い…!)





燈子「あー、あー」コホン!

燈子「それより、槙くんは?」

聖司「と言いますと?」

燈子「電車使ってたみたいだから」

聖司「ああ……えっと」チラ

侑「?」

聖司「僕はちょっと用事が」

燈子「ふうん?」

侑(あ、槙くん一応秘密だと思ってるんだ)

燈子「あんまり遅くまでうろついたらダメだよ? 生徒会は学校の顔でもあるんだから」

聖司「それ、現状だと七海先輩が一番当てはまりません?」

侑「同感です」

燈子「うっ……そ、そうだけどっ!」




聖司「それじゃあ、僕はお先に」

侑「あっうん、また明日」

燈子「気をつけてね」

聖司「……」


聖司「あれ」ゴソ

侑「? どしたの?」

聖司「自転車の鍵が……いつもポケットに入れてるんだけど」ゴソ

燈子「鞄の中は?」

聖司「いえ、必ずズボンの左と決めているので」

侑「え、落としたのかな」

聖司「うーん落とすようなことあるかな」




燈子「何か思い当たる節はない?」

聖司「そうですね」

聖司「ポケットから落ちるとすればこう、どこか低めの椅子に腰掛けでもしないと」

侑「…あ、ショーの席とか! あそこ結構深いし」

燈子「ああ確かに」

聖司「……なるほど」

聖司「まだ間に合うかな。 七海先輩、あそこって何時まででしたっけ?」

燈子「閉館は20時じゃなかったかな。 問い合わせてみる?」

聖司「番号わかります?」

燈子「待ってね、ホームページに……はい」スッ

侑(ん?)

聖司「さすが七海先輩、よくわかりましたね」

燈子「ん? ただ調べただけ…」

燈子「……っ!!」

燈子(しまっ…)

侑「わたし、七海先輩に槙くんと行ったって言いましたっけ」

燈子「えっ!!」

聖司「……」ニヤニヤ




燈子「あ、や、その………?」スイー

侑「……」ジーー

聖司「ああ、鍵右ポケットにありました」

燈子「!?」

燈子「ちょっ槙くん、……まさか」

聖司「そうそう七海先輩」

聖司「佐伯先輩にもどうぞよろしく」ニコ

燈子「!?!?」


聖司「じゃあ僕はこれで」

燈子「えっ、えっ」




侑「………」ゴゴゴ…

燈子「………」ダラダラ








侑「…………せーんーぱーいー?」

燈子「ご、ごごごめんなさーーーいっ!!」






おわり



おまけ



翌日



ガララッ


聖司「こんにちは」

沙弥香「槙くん、こんにちは」

聖司「あれ、まだみんな来てないんですね」

沙弥香「そうみたいね」

聖司「……」

聖司「あの、佐伯先輩」

沙弥香「なに?」

聖司「昨日はすみませんでした」

沙弥香「ああ、気にしないで。 本当にやること少なくてすぐ終わったもの」

聖司「それもですけど、七海先輩とのデートをお邪魔しちゃったみたいで」

沙弥香「ぶっ!!」

沙弥香「で、デートってあなたね……別にあれはそんなんじゃ…」

聖司「あ、僕飲み物淹れますね。 先輩は紅茶でいいですか?」

沙弥香「あ…うん、ありがとう」

沙弥香「……」



沙弥香(え…?)ゾッ

聖司「~♪」コポコポ




おわり


変なとこで寝落ちしてしまったけど以上です。
読んでくれた方ありがとござます

槙くんつよいイメージある
もっとやきもちかやきもきする燈子が書きたかったのに迷走した次頑張りやす

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