undefined
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1542719209
本文長すぎるとそうなるよ
ハルヒ「いい? 絶対覗いちゃダメだからね!」
もはや日課となりつつあるハルヒの忠告。
毎日毎日同じことを言われ続けた俺の耳には、間違いなく巨大なタコが出来ているだろう。
ハルヒ「タコみたいな顔して何言ってるのよ。言いつけを破ったら死刑なんだからね!」
失礼極まりない暴言で俺を不快にさせ、ついでに即興で新たな法を作り、ハルヒはドアを閉めた。やるせない思いをため息に込めて吐き出し、部室の扉に背を預けてぼんやり天を仰ぐ。
元々は文芸部だったプラカードの上に、【SOS団】と書かれた紙が貼り付けてある。
世界を大いに盛り上げる為の涼宮ハルヒの団。
その頭文字をアルファベットにして、SOS団。
なんとも安直かつ、意味不明な団体である。
不覚にもその構成員として名を連ねる羽目になった俺でさえ、未だにその理念は理解不能だ。
それでもこうして律儀に部室にやってくるのはハルヒへの義理立て、などでは毛頭なく、ひとえに朝比奈さんのお茶にありつく為だった。
>>2
ご指摘ありがとうございます。
以後、注意して投稿することを心がけます。
以下、引き続き本編です。
朝比奈さんとは、一学年先輩の可憐な美少女であり、我がSOS団の専属メイドだったりする。
活動中はもっぱらメイド服を着ており、その着替えの為に、俺はこうして追い出されていた。
ちなみに団体構成員はあと2名存在しており。
古泉「んっふ。ご機嫌いかがですか?」
今まさに白々しく機嫌を伺ってきた、無駄に爽やかなスマイルが腹立たしい、古泉一樹と。
今ごろは部室内で本の虫になっているであろう長門有希。以上の5名が主要メンバーである。
それから度々スペシャルゲストとして朝比奈さんの同級生である鶴屋さんが乱入することもある。見目麗しい先輩なので、彼女は大歓迎だ。
残念ながら本日はいらっしゃらないようだが、廊下ですれ違った時などに快活な笑顔でエネルギーを注いでくれる為、今のところは寂しさを感じていない。目下の問題は、当たり前のように隣に佇み、顔面に薄ら笑いを貼り付けた古泉から如何にして距離を取るかだ。近いんだよ。
キョン「暑苦しいから向こうに行け」
古泉「どうやらご機嫌斜めのようですね」
キョン「見ればわかるだろ」
古泉「むふ。顰めっ面のあなたも唆りますね」
もう駄目だ。気持ち悪すぎる。吐きそうだ。
俺はすぐさま廊下の反対側へと移動した。
悍ましい微笑を浮かべる古泉を視界から外して、窓の外を眺めて腐りかけた眼球を癒した。
みくる「お待たせしました。どうぞ」
しばらくして、部室のドアが静かに開いた。
そこには天使が立っていて、胸が高鳴る。
聖・天使、朝比奈みくる、降臨。最高だね。
完璧なメイド姿となった朝比奈さんに招かれて、俺は誘蛾灯に引き寄せられる羽虫のように入室した。可愛らしいメイドカチューシャが乗った頭頂部からつま先まで、じっくり眺める。
これぞメイドであり、これこそがメイドだ。
もしも将来、秋葉原なんぞにわざわざ出向いてメイド喫茶に入る機会が訪れたとしても、俺の目にはそれがパチモンとしか映らないだろう。
ハルヒ「何ジロジロ見てんのよ」
眼福とばかりに凝視していると、ハルヒが文句を言ってきた。うるさい奴め。見るだけなら罪には問われないのだから放っておいてくれよ。
ハルヒ「あんたの存在自体が罪よ。そんなことより、キョン。ちょっとこっちに来なさい」
原罪なんてのはとっくの昔に許された筈だ。生まれながらの罪人などこの世には存在しない。
そんな正論をぶつけてやろうとハルヒの席まで出向くと、口をへの字に曲げて腕組みをした団長は、ジト目でこちらを睨んで、怒鳴った。
ハルヒ「なんで覗かないのよ、バカキョン!」
そのあまりの物言いに、言葉を失ってしまう。
覗いて叱られるならともかく、覗かないで叱られるなどありえない。理不尽ここに極まった。
キョン「何故覗いてないのに怒られるんだ」
ハルヒ「せっかくみくるちゃんが生で着替えてるのに覗かないバカは叱られて当然よ。生物学的にありえないわ。あんた本当に人間なの?」
言わせておけば、この女。断固、抗議する。
キョン「お前が覗くなって言ったんだろうが」
ハルヒ「だからって覗く素振りを一切見せないのはおかしいわよ。どれだけ私に折檻されても懲りずに覗く根性はないの? 一応男でしょ?」
キョン「誰だって折檻されたくないだろう」
ハルヒ「私に折檻されたい男なんて、世の中に腐るほど居るわ。お金を払ってでも折檻されたがる連中ばかりよ。私の折檻にはそれだけの価値があるの! それなのに、あんたときたら!」
キョン「俺にはそんな趣味はない」
ハルヒ「このバカ! 趣味の問題じゃないわよ! あんたの動物としての本能はどこにやったのよ!? 言いなさい! 拾ってきてあげるから!」
ただ単に、俺を折檻したいだけとしか思えん。
ハルヒ「ちょっとキョン! 聞いてんの!?」
キョン「誰が聞くか。馬鹿馬鹿しい」
身勝手なハルヒの怒りを仏頂面で受け流していると、ボルテージが最高潮を迎えたらしく、団長は立ち上がり、机を乗り越えるとこちらのネクタイをひっ掴み、唾を飛ばして吠えてきた。
ハルヒ「意気地なし!」
キョン「俺はやる気がないだけだ」
ちょっと考えてみればわかることだ。
俺だってもちろん、性欲自体は存在する。
健全な男子高校生なのだから、当たり前だ。
しかしだからと言って、覗きは良くない。
リスクは大きいし、折檻されても嬉しくない。
何よりも朝比奈さんに対する罪悪感が大きい。
純真無垢な彼女を汚すことは、許されない。
それに鶴屋さんにまで嫌われる可能性がある。
故に、俺は覗きをする気にはなれないのだ。
ハルヒ「明日、もう一度チャンスをあげるわ」
キョン「そんなものはいらん」
ハルヒ「いいから明日こそは覗くこと! これは団長命令だからね! 命令違反は死刑だから!」
本当に頭のイカれた女だ。何が団長命令だ。
そんな下らないままごとに付き合う気はない。
俺は返事をせずに自分の席に戻り、鞄を取る。
ハルヒも黙って帰り支度を始めて、それに倣い他の団員もいそいそと帰る用意を整え始めた。
俺は一足先に部室を出ようとして、目撃した。
長門「……慣れておいた方が良い」
丁度、長門の横を通り過ぎた時。
そんな意味深な囁きと共に、ペロリとスカートを捲って下着を見せてきた。白いパンツだ。
ギョッとして長門の顔を伺うも、相変わらずの無表情で、何を考えているのかはわからない。
それでもこれまで幾度も俺を救ってくれた対有機生命体コンタクト用、ヒューマノイド・インターフェースからの忠告だ。無視は出来ない。
だからもう一度だけ長門の下着を拝んでから帰ろうとしたのだが、既にスカートの裾は下ろされ、純白のパンツは深淵の奥底へ隠れていた。
なんとなく、勿体ない気持ちになりつつも、その一瞬の出来事がハルヒを含めた他の団員達に気取られずに済んだことの方が大切であると思い直し、俺は帰路についた。気分は悪くない。
キョン「さて、どうしたものか」
場面は変わって、翌日の放課後。
俺は部室の前で悩んでいた。
一晩頭を冷やして冷静になると、昨日の一件はそこまで怒るようなことではないと思えた。
教室内では結局、今日一言も言葉を交わしていないハルヒと仲直りするべく、本日の部活動を利用することは我ながら名案のように感じる。
いつも通り顔を出せば、それで解決する筈だ。
キョン「まあ……なんだかんだ言っても、あいつとはそれなりに長い付き合いだからな」
まるで自分自身に言い聞かせるように。
そんな風に独りごちて、自嘲してしまう。
何をウジウジしてるんだか。しっかりしろ。
このままじゃ本当に意気地なしになっちまう。
キョン「よし、行くか」
意を決して、部室のドアを開く。
務めて冷静なつもりだったがやはり俺はどうかしていた。よりによってノックを忘れるとは。
ハルヒ「キョン、あんた……」
キョン「ハルヒ?」
お互い、キョトンと、見つめ合う。
室内にはハルヒだけ。長門すら居ない。
そして独りきりのハルヒは、下着姿だった。
手には何故かメイド服を持っており。
どうやらそれを着るつもりらしい。
どうして今日に限って着ようと思ったのか。
その理由は定かではないが、それよりも。
キョン「……黄色、か」
ハルヒの下着のカラーは、イエロー。
上下共に、頭のリボンとお揃いの黄色だった。
ヒマワリのような明るい色が、似合っていた。
剥き出しの手足は驚きの白さで、きめ細やか。
触れたらきっと滑らかな手触りなのだろう。
しかし、華奢な鎖骨付近は、酷く脆そうだ。
迂闊にきつく抱きしめれば、折れそうだった。
ハルヒ「ふぅん? あんたにしては上出来ね」
キョン「は?」
ハルヒ「本当は来る前にメイド服を着て待ち伏せて、みくるちゃんを覗きに来たあんたをびっくりさせてやるつもりだったんだけど、まさか私が着替えを覗かれるとは思わなかったわ! やるじゃないの! ちょっとは見直したわ!!」
満足そうに腰に手をやって仁王立ちする団長。
恥じらいなど一切なく、堂々としていた。
俺は居た堪れなくなり、そっとドアを閉めた。
昨日と同じように扉に背を預けて、天を仰ぐ。
そして恩人である宇宙人に感謝した。
ありがとよ、長門。
お前のおかげで、ハルヒに欲情せずに済んだ。
昨日パンツを見てなかったら、大変だったぜ。
まるで悟りを開いた僧侶のような、平静。
澄み切った思考を保ちながら、ふと思う。
もし、本能のまま、ハルヒを襲っていたら。
あいつは俺を嫌っただろうか。それとも。
そこまで考えて、不意に現実に引き戻される。
古泉「ご機嫌、如何ですか?」
知らぬ間に隣に佇んでいた古泉を横目で睨む。
キョン「見ればわかるだろ」
古泉「あはっ。今日は機嫌が良いようですね」
せっかく良い気分だったのに、台無しだ。
ハルヒ「それでね、キョンってばね……」
みくる「はわわわわわ……!」
開幕から珍事件が巻き起こった本日の部活動。
ハルヒはその時のことを言いふらしている。
朝比奈さんは顔を真っ赤にして話を聞いていた。
ハルヒ「もうキョンったら、まるで舐めるような目で私の身体を見つめちゃって……」
嬉しそうに話を盛り盛り盛りまくるハルヒ。
時折、こちらを見つめる長門の視線が痛い。
彼女は昨日、自らのパンツを見せてまでこちらを慮ってくれたのに、ハルヒの誇大解説の中の俺は、その長門の献身をこれっぽっちも活かせていないように思われてしまうではないか。
それではあまりに長門に申し訳ないと思った。
だから俺は、駄目元でハルヒに自重を願った。
キョン「ハルヒ、そろそろ勘弁してくれ」
ハルヒ「だーめ。未来永劫語り継ぐんだから」
やはり、聞く耳を持たないようだ。困ったな。
ハルヒ「どうしてもこの話題を打ち切りたいなら、更なる根性を私に見せつけなさい!」
キョン「更なる根性? 具体的には?」
ハルヒ「後ろから私を抱きしめて胸を揉むことが出来たら、もうこの話はやめてあげる」
難易度の高さが成層圏を超えてやがる。
そんな無理難題は不可能だ。絶対に無理だ。
というか、今よりも酷い俺が爆誕してしまう。
そして上書きされた伝説を語り継ぐつもりだ。
覗き魔から、痴漢に成り下がるつもりはない。
断固、応じるつもりはない。しかし、古泉が。
古泉「むふっ。ここは応じるべきかと」
キョン「お前は黙ってろ」
古泉「あはっ。よく考えてみてください」
キョン「考える必要なんてないだろ」
古泉「女性から誘われているのですよ?」
違う。嵌められるだけだ。しかし、長門まで。
長門「……根性を、見せるべき」
二度目の助言。無視することは出来なかった。
キョン「……わかったよ。善処してみよう」
長門「……練習、必要?」
身体を捻って、こちらに背を向ける長門。
本当にこの宇宙人は、献身的で扱いに困る。
俺は長門の肩を叩いて振り向かせ、首を振る。
キョン「大丈夫だ。練習の必要はない」
長門「……そう」
心なしか残念なトーン。惜しいことをした。
古泉「でしたら僕が胸を貸しましょう」
キョン「後ろ向いてろ。二度と振り向くな」
古泉「あっは。放置プレイでしょうか?」
後ろを向かせた古泉を放置して、俺は動いた。
みくる「キョンくん……」
キョン「朝比奈さん、男にはやらねばならぬ時があるんです。どうか、わかってください」
心配そうにこちらを気遣う朝比奈さん。
俺は精一杯の虚勢を張って、笑顔を作った。
すると、覚悟が伝わったのか、神妙な面持ちで「頑張って」とエールをくれた。頑張ろう。
キョン「ハルヒ、本当に良いんだな?」
ハルヒ「やるならさっさとしなさい」
キョン「後悔しても知らないぞ」
ハルヒ「ふんっ。あんたこそ、今日ここで私の胸を揉まないと後悔するんだから! 自慢だけど、私の胸はそれだけの揉み応えがあるの! わかったらさっさと揉みなさいよ! ほら早く!」
完全に痴女になってしまった涼宮ハルヒ。
どうして人に胸を揉ませたがるのやら。
こいつの考えは、さっぱりわからない。
しかし、俺も男だ。いざとなったら、やろう。
ここまで女に言わせたのだ。後には退けない。
意を決して、手を伸ばして、そして。
キョン「……肩に糸くずが付いてたぞ」
ハルヒ「キョン……あんたってば、本当に……」
メイド服の肩に付いていた糸くずを取る。
すると、ハルヒは後ろ向きのまま項垂れた。
どうやら失望したらしい。本当に申し訳ない。
部室内にため息が満ちていく。俺のせいだ。
みくる「キョンくん……私、悲しいです」
長門「……意気地なし」
古泉「あはっ。僕はそんなあなたが好きです」
畜生。俺は期待に応えることが出来なかった。
まさに、意気地なしだ。その通りだった。
朝比奈さんに幻滅され、長門に呆れられて。
おまけに古泉からの好感度まで上昇した。
俺はどうにかこの状況を打破しようとして。
キョン「ハルヒ……!」
ハルヒ「きゃっ!」
肩に手を回して後ろから抱きしめ、懇願する。
キョン「……あまり、意地悪しないでくれ」
我ながら、心底情けないと思う。酷い様だ。
だけど、後ろから胸を揉むなんて出来ない。
本人の承諾があっても、恥ずかしいし、怖い。
結局、意気地なしで、根性がないのだ。
もう、こうして泣きつくことしか出来なくて。
ハルヒ「もう……しょうがないわね」
キョン「えっ?」
ハルヒ「可愛かったから、許してあげる!」
よくわからないが、ハルヒは許してくれた。
【涼宮ハルヒの意地悪】
FIN
おまけ
古泉「おや、これはこれは……」
みくる「はわわわわ……!」
長門「……ファインプレー」
一連の出来事を目撃した団員達の視線が痛い。
キョン「古泉、頼みがある」
古泉「あはっ。なんでしょう?」
キョン「ちょっとハルヒと2人にしてくれ」
古泉「ああ、お邪魔でしたか? んっふ。かしこまりました。それでは、良いひとときを」
みくる「ご、ごゆっくり……」
長門「……今度、私にも同じ台詞を希望する」
わざとらしく不手際を謝罪して、いやらしい笑みを浮かべた古泉は、他の2名を連れて退室した。これで落ち着いてハルヒと話が出来る。
とりあえず、先に感謝の言葉を述べる。
キョン「許してくれて、ありがとよ」
ハルヒ「寛大な私に感謝することね。特別にしばらく抱きしめ続けることを許可してあげる」
言われなくとも、しばらく離すつもりはない。
ハルヒのつむじからシャンプーの匂いがする。
それがなんとも心地良くて、陶酔してしまう。
ハルヒ「ひとの頭の匂いを嗅がないでよ」
キョン「すまん。だが、やめられない」
ハルヒ「ま、いいけど。それよりも、キョン」
キョン「ん? どうかしたのか?」
ハルヒ「おしっこしたい」
ん? なんだ? 今、ハルヒはなんと言った?
ハルヒ「おしっこがしたいのよ」
キョン「お前……状況を考えて物を言えよ」
ハルヒ「だって、ぶるってきたんだもん」
せっかく良い雰囲気だったのに、台無しだ。
よりにもよって、おしっこときたもんだ。
一気に熱が冷めて、俺はハルヒに命じた。
キョン「さっさとトイレに行ってこい」
ハルヒ「やだ」
おっ? なんだ、こいつ。何言ってんだ?
キョン「早くしないと漏れちまうぞ」
ハルヒ「それもいいかもね」
キョン「えっ?」
涼宮ハルヒの真骨頂は、ここからだった。
ひとまず、俺は距離を取ることにしたのだが。
ハルヒ「どうして腕の力を緩めるのよ」
キョン「抱きしめている場合じゃないだろ」
ハルヒ「本当にバカね。こんな時こそ、ぎゅっと拘束するべきじゃない。力を緩めて私がトイレに行っちゃったらどう責任を取るつもり?」
いや行けよ。さっさと、とっとと、速やかに。
ハルヒ「いい? 私はトイレに行きたいのに、あんたに邪魔されて行けない。その状況こそ、世界が求めているの。ちょっとは貢献しなさい」
キョン「すまん、意味がわからない」
ハルヒ「女心を察しなさいってこと」
女心? これが女心だと? 断じて認めたくない。
ハルヒ「あれ? 古泉くんから着信が来てる」
女心とやらをさっぱり理解することができずに俺が困惑していると、ハルヒの携帯が鳴り響き、首を傾げながらそれに出た。相手は古泉。
その、まるで見計らったようなタイミングに、一抹の不安を覚えていると、何故か電話をこちらに寄越してきた。嫌な予感がプンプンする。
ハルヒ「古泉くんがあんたと話したいって」
キョン「俺と? ならどうしてお前の携帯に?」
ハルヒ「繋がらなかったからって言ってたわ」
ああ、そう言えば着信拒否に設定してたな。
ともかく了解して、携帯を耳に当てる。
すると、顔を見ずともにやけているのがわかるような気色悪い声が鼓膜に伝わった。
古泉『あっは。お困りのようですね』
キョン「どうして困っているとわかる?」
まさか盗聴やら盗撮されているのでは。
そんな不安を駆られて、部内をキョロキョロ。
しかし杞憂だったらしく、古泉は説明した。
古泉『時間的にそろそろ涼宮さんの尿意が限界かと思いましてね。信仰する神の体調くらい、我々は把握しています。もちろんあなたの膀胱に関しても、調べはついていますよ。んふっ』
即座に電話を切りたくなった。気持ち悪い。
古泉『さて、前置きはこのくらいにして本題です。恐らく今頃、尿意を感じた涼宮さんにどう対処するべきか、悩んでいると推察します』
的確すぎる推理に寒気を覚えつつ、尋ねる。
キョン「どうすりゃいいんだ?」
古泉『全ては神の御心のまま従ってください』
キョン「だが、このままだと……」
未来予想図には、巨大な水溜りが出現する。
古泉『むふっ。何か問題がありますか?』
キョン「問題しかないから困っている」
古泉『ですが、神がそれを望まれている』
だからその願望は実現するって? ふざけんな。
古泉『ではこう考えてみては如何でしょう? 神ではなく、涼宮さんがひとりの女性として望んでいると。なかなか魅力的に思えませんか?』
たしかに聞こえは良いが、内容が酷すぎる。
キョン「女の願いとは到底思えないな」
古泉『んっふ。潔癖症ですね。あなたが思っている程、女性は清廉潔白ではありません。その証拠に私の両隣に居る2人も既に漏らしてます』
キョン「長門と朝比奈さんがっ!?」
ハルヒ「ちょっとキョン、2人がどうしたの?」
仰天して、思わず大声を出してしまった。
するとハルヒも驚いたらしく、尋ねてきた。
内容が内容だけに、言葉を濁してはぐらかす。
キョン「いや、なんでもない。気にするな」
ハルヒ「2人に何かあったの?」
キョン「大したことじゃない。心配するな」
ハルヒ「それならいいけど……」
俺がハルヒを安心させている間、電話ごしに朝比奈さんと長門が古泉に抗議する声が聞こえていた。朝比奈さんは可愛らしい悲鳴を上げて「言わないで~」と泣き叫び、長門は淡々とした口調で「私は下着が濡れただけ」などと意味深な表現で弁明している。少しだけ安堵した。
そう、2人が漏らしたのは、『小』。
だから、大したことではない。そうさ。
『大』を漏らしたわけでは、ないのだから。
気を取り直して、俺は古泉に事情を聞いた。
キョン「どうしてそんな状況になったんだ?」
古泉『朝比奈さんと長門さんは、先程あなたが見せた可愛い一面にやられてしまったそうです』
困ったものです、と古泉は苦笑しつつ。
古泉『実は僕も、少々達してしまいました』
小声で要らない情報を付け足してきたが無視。
キョン「要するにお前は何が言いたいんだ?」
古泉『ですから、それが女心というものです』
男であるお前に何故女心を説かれているのか。
古泉『少しは理解が深まりましたか?』
キョン「残念ながら余計にわからなくなった」
古泉『おやおや、あなたもなかなか強情ですね。それではこの続きは2人きりでたっぷりt』
気色悪いから、途中で通話を切ってやった。
ハルヒ「なんの話だったの?」
キョン「ただの与太話さ」
携帯を返して、簡潔に通話内容を説明した。
嘘は言っていない。身にならない会話だった。
しかし朝比奈さんと長門が漏らしたのは事実。
それだけが真実で、それ以外はどうでもいい。
キョン「ハルヒ、ちょっと聞いてくれ」
ハルヒ「どうしたのよ、改まって」
キョン「お前の要望を俺なりに解釈してみた」
ハルヒ「へぇ? 言ってみなさい」
キョン「トイレに行きたいお前に対して、俺は行かせないように意地悪をすればいいわけだ」
念の為に確認すると、ハルヒは大きく頷いた。
ハルヒ「ちょっとは女心がわかったようね!」
これが女心というのならば知りたくなかった。
こうして不本意ながら妨害が始まったのだが。
ハルヒ「わかったなら、早く言葉責めして!」
キョン「は?」
ハルヒ「おしっこ我慢してる私を責めるの!」
初っ端からハードルが高い。予想外な注文だ。
キョン「……高校生にもなって漏らす気か?」
ハルヒ「っ……なかなか、やるわね」
思いついたことを言ったらお気に召した様子。
キョン「普段あれだけ偉そうにしてる癖に?」
ハルヒ「んっ……だって、仕方ないじゃない」
キョン「はっ。栄えある団長が漏らすとはな」
ハルヒ「んんっ……キョン、それしゅごくいい」
おや? なんだか楽しくなって来たぞ。変だな。
キョン「ほら、ハルヒ。何がしたいんだ?」
ハルヒ「うぅ……おしっこ」
キョン「聞こえないぞ! もっと大きな声で!」
ハルヒ「おしっこ! おしっこがしたいの!!」
なんだこれ。絶対おかしい。でも、それでも。
キョン「か……可愛い、だと?」
ハルヒは、可愛かった。めちゃくちゃ可愛い。
たぶん、これまでの付き合いの中で、最高だ。
今この時、至高の可愛さをハルヒは発揮した。
ハルヒ「……か、可愛いとか、言わないでよ」
そう言って照れるハルヒは余計に可愛かった。
その後も暫く言葉責めを続け、ふと我に返る。
キョン「おっと、いかんいかん」
つい、時を忘れて熱中してしまった。危ない。
ハルヒ「キョン……そろそろ、私……」
健康的な太ももを、開いたり、閉じたりして。
切ない声で喘ぐハルヒはどうやら限界らしい。
そんな、弱り切った団長の姿に、心が痛んだ。
キョン「今、楽にしてやるからな」
そろそろ、フィナーレだ。しかし、その前に。
キョン「ハルヒ、ひとつだけ聞かせてくれ」
ハルヒ「何?」
キョン「お前は今でも、宇宙人や未来人や異世界人や超能力と戯れたいと思っているのか?」
初めてこいつと出会った、あの日。
自己紹介で、ハルヒはそいつらを求めた。
漫画的、アニメ的、特撮的な仲間を。
ハルヒ「もちろんよ」
キョン「そうか」
ハルヒ「その為に、部活まで作ったんだから」
そう、それを実現するべく、部を創設した。
それこそが、SOS団の活動理念である。
そしてその目的は見事に果たされ今日に至る。
宇宙人の長門有希。
未来人の朝比奈みくる。
超能力者の古泉一樹。
そして何故か、一般人であるこの俺まで。
望みは叶った。だがそれをハルヒは知らない。
キョン「……まあ、先は長そうだけどよ」
いつになったら気づくのか、それは不明だが。
ハルヒ「何が言いたいのよ」
キョン「俺は今、それなりに楽しい」
言いたいことはそれだけだ。ハルヒは頷いて。
ハルヒ「……私だって、わりと、結構……」
キョン「隙ありだ! はむっ!」
ハルヒ「ふあっ!?」
楽しい時間は終わり、愉しい時間が始まる。
この絶妙なタイミングで、俺は仕掛けた。
狙ったのは形の良いハルヒの耳。噛み付いた。
するとビクッと背筋が伸びて、ちょろろっと。
ハルヒ「ああ、ああああっ! バカキョン!!」
キョン「フハッ!」
ハルヒは尿を漏らし、俺は愉悦を漏らした。
ちょろろろろろろろろろろろろろろろろろん。
キョン「フハハハハハハハハハハッ!!!!」
清らかな水音を嘲笑うかのような哄笑。
それが自分の口から響いている、不可思議。
どうして俺は嗤っているのか。理解出来ない。
しかし世の中には理屈が通じないこともある。
ロジックにおしっこをひっかけるのは痛快だ。
キョン「フハハハハハハハハハハッ!!!!」
ハルヒ「ぐすん……こらキョン! 嗤うなっ!」
キョン「あ、すまん」
ハルヒの涙声で冷静さを取り戻した。
俺は何をやっているんだ。泣かせちまった。
どうするべきか、オロオロ狼狽えていると。
ハルヒ「……ぎゅっとして」
キョン「あ、ああ……これでいいか?」
ハルヒ「ん」
言われるがまま、ぎゅっと抱きしめた。
すると、ハルヒの啜り泣きが止まった。
こんな簡単なことで機嫌が直るとはな。
やっぱり俺には、女心がさっぱりわからん。
ハルヒ「……もしも」
キョン「ん?」
ハルヒ「もしもこの先、今日という日が過去になったとしても……私はきっと忘れないから」
一方的にそんな宣言をされても困ってしまう。
だけど、言いたいことはなんとなく伝わって。
同意することで俺達はわかり合える気がした。
キョン「俺もそう思う」
ハルヒ「それなら、良かった」
キョン「愉しかったぞ、ハルヒ」
ハルヒ「私もすっごく愉しかった!」
嬉しげな声を返してくるハルヒが、愛おしい。
すっかり日が傾き、窓から夕日が差し込む。
尿の水溜りが茜色に染まり、水面が美しい。
キラキラと輝くそれはまさに、奇跡だった。
【明日過去になった今日の尿は奇跡】
FIN
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません