私「勝手なアイツと夏祭り」 (34)

夏の真ん中、半年ぶりに帰ってきた実家のぬるい畳の上
私は夏を謳歌して

私「はぁー」

いなかった

真夏日
35度を超えようかという午後3時

アイツ「相変わらずひっどい顔してんね」

アイツは突然やって来た

私「あー....」

私「うん....」

私「なんで浴衣....」

アイツ「なんとなく」

私「....」

私「久しぶり」

アイツ「うん、久しぶり」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1542705048

私「....」

私「どしたん、いきなり」

ど田舎のこの家じゃセキュリティには期待できない
にしてもマナーってものくらいわきまえてもらいたい

アイツ「いやね、そこらへんフラフラしてたら」

アイツ「誰かさんが死んだ顔した入ってったから」

アイツ「ウチが慰めて差し上げよっかな~って」

私「アンタに言われたくないわ」

アイツ「ぶー」

私「余計なお世話ご苦労様です」

アイツ「人がせっかく来てやったってのにこの子は....」

昔からこういうやつだったし驚きも呆れもしない
クソ暑いなかそんなことするだけ無駄である

私「アタシゃ都会の波バシャバシャ浴びてさ~」

私「もうお肌カサカサ髪はボサボサ」

私「おまけで心はボロッボロ~」

アイツ「おぉなんと可哀想な少女じゃ」

私「夢みる少女じゃいられないのよ~」

私「しっかし」

私「アンタは全く変わんないね」

アイツ「いやいや高校生じゃなくなってまだ1年も経ってないから」

アイツ「ウチが変わってないんじゃなくてそっちが変わりすぎてるだけ」

私「ストレスなさそうで羨ましいわ」

私「で、何の用?」

アイツ「さっき言ったでしょ」

アイツ「慰めてあげに来たって」

私「頼んでもいないのになんて恩着せがましい....」

アイツ「デートしない?」

私「誰と」

アイツ「ウ・チ☆」

私「しない」

何が悲しくて真夏の昼下がりにこいつとデートせにゃならんのか

アイツ「なんで」

私「暑い」

アイツ「そうでもないでしょ」

私「疲れた」

アイツ「さっきまで昼寝してたくせに」

私「....」

私「どこ行く?」

アイツ「話が早い♪」

散々人の退路を塞いでおいてよく言うわ

アイツ「いやー別にどこでもいいんだけどさ」

私「誘うならさ、決めといてくれない?」

アイツ「ごめんてー」

私「はー....」

私「とりあえず出る?」

アイツ「うん」

転がっていた畳に名残惜しくも別れを告げ
この数時間でやたら重くなったような気がする腰を上げる

アイツ「あ、」

アイツ「浴衣着てよ」

私「浴衣ぁ?なんで」

アイツ「適当にウロウロした後さ、祭り行かない?」

アイツ「今日あっこの神社でやってるでしょ」

祭りとは近所の神社でやっている夏祭りのことだ
小さい頃はコイツと連れ立って毎年行っていたが

私「....」

私「正直面倒くさいけど、まあ行くのはよしとしよう」

私「浴衣は無理」

アイツ「着てよ~お願い~」

アイツ「私とお揃いで行こ~よ~」

私「えー....」

私「私浴衣って年じゃないもん」

アイツ「いいじゃんかー」

アイツ「ウチだけ浴衣じゃ浮かばれないじゃんかー」

私「....わかった」

私「でもあんまり期待しないでね」

私「お母さん捨てちゃってるかもしれないし」

私「タンスん中で虫食いだらけになってるかもしれない」

私「着られる状態だったら着てあげる」

アイツ「楽しみ~♪」

いい予想は当たらないし悪い予想は当たるもので
田舎のボロ家のタンスに放置されていたはずの浴衣は
ビックリするほど綺麗に残っていたのである

アイツ「余裕だね」

無論、着られる状態だ

私「ちぇー」

私が浴衣を着せろと言ってきたことが母は嬉しかったらしく
目にも止まらぬ早業で完璧に着付けてくれた

アイツ「おばさん、喜んでたね」

私「まー帰ってきてからずっと転がってただけだったから」

私「ちょっとでも動きがあって安心したんじゃない」

アイツ「そっかー」

田んぼと田んぼの間の未舗装路を歩くには
どう考えてもサンダルは不向きである
そのせいか足の進みは自ずと鈍っていく

アイツ「どこ行く?」

私「どこって....」

私「祭り行くんでしょ?この時間じゃそんなに遠くは無理じゃん」

アイツ「だよねー」

アイツ「....」

アイツ「パンダ公園行く?」

私「えーあそこパンダしかないよ?」

アイツ「自販機横のベンチで時間潰すのとどっちがいいか選びな!」

私「デートとはなんだったのか」

パンダ公園とはその名の通り、パンダの置物?がある公園である
なぜ遊ぶスペースだけは困らない田舎にわざわざ公園を作ったのかは永遠の謎

アイツ「うわーパンダ」

私「久しぶりに来たけど全然変わってない」

アイツ「けど思い出が蘇るだの感傷に浸るだのはないね」

私「こらこら、パンダが泣くよ」

アイツ「おぉ、ごめんよパンダ~」

唯一の遊具らしきパンダに対してもこの程度の扱いだ

アイツ「思い出の場所って言ってもさ」

アイツ「正直何もないわ~」

私「私ら遊ぶ時、ほとんどどっちかの家だったし」

アイツ「この辺なんもないもん」

アイツ「本っ当にたまーに街に行くくらいよね」

私「わざわざ電車に乗って行くのは楽しかったし、ワクワクもしたけど」

私「思い出になるほどのことでもないか~」

アイツ「そうそう」

最も時間を進めるのは極めてくだらない語らいだったらしく
あっという間に日が傾いていた

私「これさ、ここ来た意味あった?」

アイツ「なかったね」

私「これなら祭りまで家いた方がよかったわ絶対」

アイツ「まあまあ、デートはこっからが本番ですぜ姉さん」

私「誰が姉さんじゃい」

アイツ「うわ~なんか....」

アイツ「しょぼ」

私「人引っ張り出しといてそれってどうなの」

田舎の神社の祭りなんてものは、得てしてこういうものである

アイツ「昔行ってたときはもっとさ、こう、派手じゃなかった?」

私「確かに」

アイツ「思い出補正ってやつかね~」

娯楽のないこの地において
薄暗くなってからの外出、見たことのない屋台たち、これまた滅多に見られない人込み
小さい子供にとっては不相応に煌びやかな行事に見えていたんだろうか

アイツ「お面、綿あめ、かき氷、たこ焼き、くじ」

アイツ「なーんもやりたいのない!」

私「周り見てみな」

私「私たちが対象年齢外なだけだと思う」

アイツ「まだまだ女子高生なウチならいける!」

私「大した自信だぁ....」

私「もー無理、限界」

アイツ「ふっ、お主もザコよのぉ」

私「んだとコラ、元気なアンタはもう1往復してコイヤ」

アイツ「ウチも座る~」

歩き疲れた、というか特にやることもないままうろつくのに疲れた私たちは
境内のフチ?よくわからないとこに座っていた

アイツ「まーでもタマにはいいよね、こーいうの」

私「....それは否定しない」

アイツ「フフッ、素直で良い良い」

私「....」

私「あのさ、ずっと聞きたかったんだけど」

アイツ「?」

私「....」

私「私のこと恨んでるの?」

アイツ「?」

私「恨んでるから今になって化けて出たのかなって思ったんだけど」

アイツ「ふふっ」

アイツ「恨んでる、か」

アイツ「どうかな」

アイツ「どちらかというと恨んでるのは自分自身かも」

私「....そっか」

私「いやーよかった」

私「ちょうど今お盆過ぎじゃん?」

私「お盆に帰ってきて、そのまま私を呪い殺すためだけに残ってたのかなーって」

私「内心ビクビクよ」

アイツ「嘘だぁ、ビクビクしてる人はあんな無礼なテキトーな態度とりません」

私「ばれたか」

アイツ「ていうか」

アイツ「ずっといたからね、1年」

アイツ「帰ってきたわけじゃないよ」

去年の今頃、高3の夏休み
何年も行っていなかったこのお祭りに行こうとなぜか誘ってきたのは
高校に入ってから疎遠になっていたこいつ

私「その恰好さ、変わんないの?」

アイツ「試してみたんだけどね、なんか死んだときの服で固定っぽくてさ」

私「へーそういうシステムなんだ」

私「....全裸で死ななくてよかったね」

アイツ「本当それ」

アイツ「まー年中浴衣だから季節感皆無だけどね」

私「冬きつくない?」

アイツ「死んでるからかな、暑いとか寒いとかあんまりないよ」

私「はータメになるわ」

アイツ「適当なこと言って」

私はちょうどこのあたりに座って待っていた
当然こいつは来なかった
神社に行く途中でコイツが車に轢かれたという電話が来たのは
1人寂しく祭りの終わりを見届けて家に帰ろうとした時

私「....」

アイツ「....」

私「死んだらさ、成仏するんじゃないの?」

アイツ「....」

アイツ「そうみたい」

私「....」

私「未練ってやつ?」

アイツ「....」

私「あのさ」

アイツ「ん?」

私「思い上がりだったら笑って欲しいんだけど」

私「私絡み?」

アイツ「....」

アイツ「....察しがよろしいことで」

私「外してたらこっちが死ぬほど恥ずかしいんだからいいでしょ」

アイツ「....」

私「そっか、アタシか」

アイツ「....うん」

私「....」

私「で?」

アイツ「は?」

私「いや、私絡みならここで解決できるかなって」

アイツ「....」

アイツ「....あは」

アイツ「あはははははっ!」

アイツ「未練に対して軽すぎっ!」

私「....わざと軽くしてんの!」

私「アンタが死ぬ前、最後に見た顔」

私「もちろんアンタは見てないだろうけど」

私「酷い顔してた」

私「今のアタシなんて比じゃないくらいに」

アイツ「....だよね」

私「なのに口から出てくる言葉だけは馬鹿みたいに明るくて」

私「『夏祭り行かない?』って」

私「深刻な顔と妙に明るい声、チグハグで酷かったよ」

アイツ「....」

私「別にアンタに成仏してほしいとかそういうのじゃない」

私「あの時どういうつもりで祭りに誘ったのか」

私「ずっと気になっちゃってさ」

アイツ「....」

アイツ「....ごめん」

私「だからさ、全部教えてよ」

私「アンタは成仏できる、私はスッキリする」

私「一石二鳥でしょ」

アイツ「....」

アイツ「ま、アンタの前に出ていった時点でそのつもりでいたからさ」

アイツ「言うよ、教えたげる」

アイツ「高校1年の時、なんとなく疎遠になったって思ってるんじゃない?」

私「うん、だって中学までと違って外の人との関わりも増えたし」

私「お互いそれぞれの環境が出来たのかなって」

アイツ「....生まれたときからウチらご近所で」

アイツ「ずっと一緒だったじゃん」

私「うん」

アイツ「中学卒業する頃だったかな」

アイツ「あ、ウチ、アンタが好きなんだって思っちゃった」

私「....」

私「えっ!?」

私「ちょ、ちょっと待ってそういう話?」

アイツ「そういう話」

私「なるほど....」

アイツ「でもさ、そんなのおかしいし」

私「....」

私「幼馴染だから?それとも女同士だから?」

アイツ「どっちも」

アイツ「でね」

アイツ「そのことでアンタに迷惑かけたくなかった」

私「....」

私「てことは、自分から離れてったってこと?」

アイツ「そう」

私「積極的に?」

アイツ「うん」

私「....」

私「はぁー....」

私「言ってよ~」

アイツ「ごめん、どうしても言えなくて」

アイツ「でさ」

アイツ「そっから2年間、忘れようと思ったんだけど」

アイツ「やっぱりずっと苦しくて」

アイツ「そしたらアンタが卒業したらここを出てくって聞いた」

アイツ「だから腹括って」

アイツ「夏祭りに誘って」

アイツ「あの時言うつもりだったの」

私「....」

アイツ「ウチは」

アイツ「アンタが好きだった」

アイツ「これがウチの未練」

私「....」

私「それはどうも」

アイツ「....」

アイツ「ごめんね、こんな」

私「....」

私「なんで過去形なの?」

アイツ「は?」

私「いや、『好きだった』って」

アイツ「?」

アイツ「だって1年前のことだし」

アイツ「それでよくない?」

私「よくない」

私「アタシはあれから1年過ごして色々変わったけど」

私「あんたなーんも変わってないじゃん」

私「顔も、体も」

私「格好すら去年のまま」

私「なのに、気持ちだけは過去のものだーって?」

私「そんなのおかしい」

アイツ「....」

私「ごめんだけど、アタシはあんたのこと、そんな目で見てなかったよ」

アイツ「あたりま

私「でも」

私「今その話聞いてさ」

私「めっちゃ好きになっちゃったわ」

アイツ「は?」

私「どう、1年越しの告白の返事は?」

アイツ「....」

アイツ「....ありがとう」

私「どういたしまして」

私「じゃなくて!」

私「アタシが聞きたいのは」

私「アンタの」

私「今の気持ち」

アイツ「....」

アイツ「めんどい」

私「ひっど」

アイツ「ふふ」

私「....」

私「私は正直に言ったよ」

アイツ「....」

アイツ「はーもう、こんなはずじゃなかったのに」

私「....」

アイツ「もう最後だしいっか」

私「そそ」

アイツ「ウチは」

アイツ「2年前から今までずっと」

アイツ「好き」

私「うん」

アイツ「これからも」

アイツ「いつまでも」

アイツ「好きなのは変わらないから」

私「うん」

アイツ「よろしく」

私「こちらこそ」

横を見るとアイツはもういなくて
境内に残っていたのは私と祭りの余韻だけ

私「言うだけ言ってさっさといなくなったのか」

私「私の気持ちをガッチリ縛っていくなんて」

私「本当、勝手だ」

アイツはいつもそう、突然来ては
人の心に平気であがりこむ

私「ま、次会う時まで貸しにしとくか」

別れは切ないもの、悲しいもの
みんなそう言うしアタシもずっとそう思っていたけど

私「うん、悪くない」

心にあるのは爽やかな恋心だけで

不思議と涙は出なかった

次の日、アイツの家に行って仏壇に手を合わせてきた
写真に大人しく納まったアイツは妙に現実味がなくて
なんだかおかしかった

私「現実味がないのはどっちだって話なのになぁ」

昨日見たアイツは
慣れない都会で疲れきり、田舎に縋った私の見た幻だったのか
本物の幽霊だったかは誰にもわからない

私「いくら考えてもわかんないもんはわかんないな」

答えの出ない問いを延々解く
クソ暑いなかそんなことするだけ無駄である

私「あー好きだやっぱ」

受け取る人のいないその言葉は
宙へと浮いては消えるだけ

そんな無意味に見える空虚な言葉も
今の私を進ませるには十分で

私「さて、帰るか」

昔アイツと乗った電車が
この田舎で唯一止まる駅の方へ歩いていく

私「じゃ、また」

【完】

短いですがこれにて終わりです
ありがとうございました

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom