花陽「バター醤油ご飯」 (16)

鬱注意
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【バター醤油ご飯】

凛「かよちんかよちん。お腹減った」

凛ちゃんは私のお家にお泊まりすると必ず夜食を私にねだる。
私のお家は凛ちゃん家よりも夕食の時間がだいぶ早いらしく、だいたい夜の11時にお腹が空く。
かよちん家ご飯早いから胃袋が勘違いしてるんだよと前に言っていた。

花陽「おにぎりでいい?」

凛「またおにぎりー?」

花陽「じゃあ何がいい?」

凛「うーん。美味しいのがいいにゃ!」

おにぎりも美味しいのに・・・。
おにぎりがダメなら、何がいいかな?頭の中をあれこれ探ってみると最近ネットで見かけた変わったご飯の食べ方を思い出す。

花陽「あ、バター醤油ご飯は?」

凛「えっ、バター醤油ご飯・・・?」

これは私もびっくりするぐらい美味しかった。
きっと凛ちゃんも絶対満足してくれると確信した。


凛「それ美味しいしの?」

花陽「うん!ご飯にね。バターとお醤油かけるだけなんだけど凄く美味しいの!」

語ってると私も食べたくなる。
太る。このワードが頭の中を一瞬よぎったけど凛ちゃんが泊まりに来た時くらいいっかと自分を納得させる。

凛「へー食べてみたいにゃー」

花陽「待ってて!」

私はすぐに台所に行って、二つのお茶碗にご飯をついだ。
小泉家は炊飯ジャーの中にはいつ何時もホカホカのご飯を炊いている。
だから凛ちゃんも気軽に夜食を私に頼めるのだろう。

冷蔵庫からバターを取り出してご飯の上に乗っける。
じわりと溶け出した頃を見計らって、お醤油を垂らす。
適量だけど適量じゃない。
私は感覚でどのくらいお醤油をかけたらいいか分かる。

お箸を二膳用意し、お盆に乗せて凛ちゃんの元へ運ぶ。
バターと醤油の匂いがご飯の湯気にさらわれて私の鼻をくすぐる。

花陽「おまたせ!」

凛「おー!美味しそー!」

凛ちゃんと私はすぐにテーブルに向かい合わせに座る。
お箸を取り、いただきますをすると二人一緒にご飯を食べる。

花陽「はぁ~幸せ!」

凛「・・・」

凛ちゃんは黙ったまま動かない。
目をまんまるにして、バターで煌めくご飯粒を見ている。

花陽「凛ちゃん?」

凛「これ、美味しい!!!」

花陽「でしょっ!」

明太子もツナもコンビーフもマヨネーズも昆布も海苔も何もいらない。
バターと醤油だけでこんなに美味しいご飯を食べれるなんて考えた人はIQ300ぐらいあるんじゃないかって思う。

凛ちゃんはその後もパクパクと食べ続け、私より早く食べ終わった。

凛「美味しかった~」

花陽「よかった。気に入ってもらえたみたいで」

凛「うん!でも、バター醤油って何にでも合うとは聞いてたけどまさかご飯にかけるだけでこんなに美味しくなるとは思わなかったよ!」

花陽「ご飯すごいよね!」

凛「うん!なんかバター醤油って私達みたいだね!何にでも合うもん最強だにゃ!ご飯は地球でお茶碗は宇宙だよ!」

花陽「わかる!」

本当は凛ちゃんの言っている事は良く分からいけど、分かる。
頭が理解してなくても分かる事もある。

凛「これからもバター醤油ご飯作ってね!」

この日から私は凛ちゃんが泊まりに来るたびにバター醤油ご飯を作った。

【29歳】

歩くスピードは結構遅いほうだ。
それは、私の普段聴いている曲がゆったり目の曲調が多いから合わせて歩く内にそうなってしまった。

「あの、すみません」

イヤホンを外す。
振り返ると、癖毛の男性が笑顔で私を見ていた。

「あ、ライン聞いてなかったですよね?交換しませんか?」

花陽「はい。いいですよー」

男性はポケットからスマホを取り出して、私はQRコードをスマホの画面にだす。

「あ、来ました。ありがとうございます」

花陽「いえ、こちらこそ」

5秒くらいの沈黙。

「あ、この後何か予定あります?お茶しませんか?」

花陽「ごめんなさい。友達と待ち合わせの約束してるので、また」

「あ、あぁ。ごめんなさい。またライン送りますね」

花陽「はい。じゃあまた」

踵を返す。
イヤホンを掛け直す。

私は歩くのが遅いほうだ。
もっと早ければ教えたくもないラインを教えなくて済んだだろう。

外もだいぶ寒くなって来た。
もう冬か、クリスマスも近いな。
ポケットに手を入れると、指先に何か当たる。
それを取り出して、見てみる。

花陽「あぁ・・・」

それはさっきまで街コンに参加していた私のプロフィールシートだった。
さっきの人も街コンの参加者だ。
名前は覚えてない。
結構人数いたから・・・。

立ち止まりプロフィールシートを眺める。
職場は派遣のコールセンター勤務、年齢は29。
好きなタイプはご飯を食べる人。
趣味は映画と音楽あとアイドル。

近くにコンビニがあったので、プロフィールシートはそのコンビニのゴミ箱に捨てた。

ラインの交換は沢山の人とやったけど、なんかあまりいい人いなかったな・・・。
私より年齢上な人いたけどリボン付けてる人いたな・・・私もうあんなのできないな。

元スクールアイドルだし容姿には自信がある方だけど、流石にもうそんなのやっても若作りしてるとしか思われないんだろうな。
私自身はリボンとかまだ全然好きなんだけど・・・。



街を歩くと今まで気にしていなかった夫婦を見て羨ましいと思う。
カップルじゃない。夫婦だ。

私、何やってるんだろうなぁ。

仕事も派遣だし彼氏もいないし。
髪も毛先がパサついて来たし、太って来たし靴紐ほどけてるし・・・。

靴紐結びながら、男性も話すのにスニーカーってありなのか?と思った。

そもそも、あまり化粧して来なかった私も私だけど、今の化粧は私にあってるんだろうか?

結び終え、また歩く。

化粧覚えたのは大学からだけど、時間ある時以外は殆どすっぴんだったから化粧のやり方はずっと大学のときのやり方を引きずってる。
アラサーらしい化粧ってどんなのか分からない。

色々、覚えなきゃいけない事まだ沢山あるなぁ・・・。

化粧、教えてもらったの凛ちゃんだったな。

凛ちゃんとは同じ大学に通った。
凛ちゃんは私よりも人生の歩くスピードが速かった。

気付いた時には彼氏が出来てて、処女じゃ無くなってて。
クラブとか行ってたし、お酒も飲むようになっていた。

私は人見知りだから凛ちゃんみたいにキャンパスライフを謳歌出来なかった。

凛ちゃんは私よりも人生の歩くスピードが速すぎた。
子供が出来たらしく、大学を辞めた。

それでもしばらくの間はメールのやり取りしてて、子供の写真も見せてくれた。

時々、ご飯に行ったりとかもしたけど徐々に凛ちゃんの方から返事は来なくなり。
電話番号もメールアドレスも全部繋がらなくなっていた。

好きだったな。
凛ちゃん。

彼氏出来たとき泣いたな。

処女じゃないって知ったとき泣いたな。

妊娠したって聞いたとき泣いたな。

子供の写真見て、凛ちゃん似だねって送ったな。

連絡出来ないようになった時、諦めたなぁ・・・。

凛ちゃんは凛ちゃんの家庭があって、私に構う暇なくなったんだろう。

でも、やっぱり好きだ。

女同士でも凛ちゃんは私にとって大切な親友であり、初恋の相手だから。

私はこの初恋をずっと引きずっている。

そう、毒。
この初恋は私の体と脳と血中と心臓と精神を蝕む毒のようだ。

凛ちゃん。
私にとってあなたは今や遅効性の毒なのかもしれない。

いや、間違いなく私にとって初恋は遅効性の毒だ。

今日はここまで
来週の月曜にまた書きます
空いてるときも書く事あるかも知れないです
大体、完結まで2~3ヶ月後を予定しています

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