【二次創作】ダンガンロンパ Re:MIX【オリロンパ】 (348)

【諸注意】
・何番煎じかもわからないオリロンパスレです
・以下の作品のリメイクとなっております。一部に軽い設定の変更が有ります
『元スレ』
【二次創作】安価で進めるオリロンパ リミックス
 【二次創作】安価で進めるオリロンパ リミックス - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1532086400/)

・エタらない事を重視するため、展開等が速いかもしれません
・キャラクターは以下のスレから拝借しましたが、一部に才能や氏名の変更があります
※エタロンパのキャラを書き留めるスレ

・前作を見なくても大丈夫な様に作るつもりですが、若干のネタバレを含みます
『終了作品』
【二次創作】安価で進めるオリロンパ
 【二次創作】安価で進めるオリロンパ - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1480764539/)

【二次創作】安価で進めるオリロンパ ニューステージ
 【二次創作】安価で進めるオリロンパ ニューステージ - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1501335812/)



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1541335141



―――――遠い、尊い夢を見ていた



……いや、ちょっと違う。夢を見ていた、だと過去形になる
今、私は夢を見ている。甘くて、優しくて、そしてとっても儚い一瞬
その刹那を、私はゆっくり俯瞰する。まるで、遥か彼方の空の上から、愚民を見下ろす神様の様に



「ゆーびきーりげんまん、うそついたら……」
「はーりせーんぼーんのーます! ゆびきった!」



見下ろす先には二人の女の子。二人は指を絡ませ、えへへと笑いあっている
指切りげんまん。小指を引っ掛けて、約束を誓い合う。よくある、何て事の無いおまじないだ
因みに、元々は男女の愛情が変わらない事を示すというロマンチックな……

……閑話休題。話が逸れました


そんな微笑ましい光景を、私は眺めていた
二人の少女の笑顔には、見覚えがある。だって、片方は小さな頃の私だから
今よりもずうっと小さくて、今とは違う無垢な私。何も知らないから、何も穢れていない私
尊い懐かしい思い出。ノスタルジイに浸りながら、私は微かに思考を巡らせた








―――どうして、いつから、私はこんなにも



嘘を平気でつける様になってしまったんだろう。と








『人生とは嘘と都合のいい話の重ね合わせである』



これが、ほんの十年と少ししか生きていない私なりの人生哲学だ
別に、どこかの偉い人の格言でも無ければ、何だか凄そうな自己啓発本のキャッチコピーでもない
ただ何となく、そんな感じがするというだけ。ただそれっぽいだけのテキトーな哲学もどきだ
そうやって人生を全て悟った様な気になっている。ただのさとり世代の空想なんです

……悟らないと人生やっていけないから。そうして私は、私を納得させるんだ
特に、今みたいな……極めて不愉快な時間には


「すみませーん、もっと笑顔出来ますかー」
「こっちに視線お願いしまーす」
「ポーズもう少し上げてくださーい」


……青く澄み渡る空の下、私は酷く不機嫌だった
その元凶は、無茶な注文に、無理な姿勢。そして、無遠慮な視線で私を射抜く
最高のロケーション日和は、最低最悪の集団のせいで見るも無惨に台無しだ

私に群がるカメラの目。ゾロゾロと蠢くハエやトンボが、ギョロギョロと首を動かしているみたい
正直な事を言うと、私はカメラが嫌いだ。無機質な鉄屑の癖に、やけにくっきりと真実を捉えるから
そんなものが数えきれない程、それも濃密な欲望を伴ってまとわりついてくるのだからイヤになる
だから私は、大きな声で精一杯こういうのだ―――


「はーい! 皆、大好きだよーっ!!」



「はぁ、疲れた……」

あれから数時間、空の下で私は晒し者にされていた
流石に普段あれだけの人数から視線を向けられる事は滅多に無い。あったらあったで問題だけど
それに、今日の衣装はかなり際どかった。きっと、そういう目的で来た人の方がずっと多いはずで……


「……………………この話は止めよ。はい、止め止め」

一瞬。ほんの一瞬気持ち悪い事を考えてしまった

頭に浮かんだおぞましい妄想を振り払い、机の上のパソコンに指を走らせる
映っていたのは私の写真、今日のイベントで、知り合いのカメラマンに頼んで撮らせておいたもの
その中で、映りの良いものを厳選していく。選別を進めていくと、数十枚もあった写真は、ほんの三枚まで数を減らしていた

選んだ写真を貼り付けて、準備は完了
パソコンの画面を切り替えて、新たなページを映し出す
鈍く光る液晶の中には、キラキラと輝く私がいた
そう。何を隠そう、これは私のブログなのだ

「……よしっ、と」

ブログに写真を貼り付けて、可愛らしい媚びた文章で感想をつらつらと書いていく
投稿を終わらせると、直ぐ様無機質なハートマークとゴチャゴチャとした感想で埋め尽くされた

「おお……ついてる、ついてる……!」

画面に満たされていく一文字の称賛
赤いハートの隣では、今も数値を増やしていた
それに呼応するかの様に、空っぽの身体はゾクゾクとした快感に包まれていく
それなりに長くやっているつもりだけど、この感覚だけはいつも慣れない
世界が私を受け入れ、認めてくれると確信出来る、この最高の瞬間だけは


「うへへへぇ……」

思わず、女の子が出しちゃいけない様な声を出してしまう
でも、それ位気持ちがいいんだ。世界中から認められるって事は、世界中から祝福される事だから
産まれてきて良かったんだって、心の底から感じられるから……
身体の奥底から沸き上がる快感に酔いしれる。ふと時計を見てみたら、短い針はとうに1を指していた

「……げっ!? もうこんな時間!?」

深夜のアニメは見逃したくないけど、私は夜更かしはしたくない
だって、夜更かしはお肌の天敵だ。シミやソバカスは絶対にNGだし……
何より、少しでも傷がつけば……きっと、私は誰にも見ては貰えないだろうから

そうと決まればやる事は一つ
寝仕度を整えて、ベッドに横になる
ふかふかしたお気に入りの枕に頭を預けて目を閉じると、世界から光が消えた様に暗くなった
最後に、一つだけ。毎日の様に唱える魔法の呪文、夢へと導いてくれる定型句を口にする



「おやすみなさい」



変わらない言葉。普段通りの挨拶
明日も、明日も、明日も……私はこの言葉を口にするんだろう
変わらない明日へ。永遠に続くであろう、退屈な日常に向かうために
私をもっと受け入れてくれる。優しい夢の世界へと沈んでいった



――――――――――

――――――

――――







―――いきなりだけど、夢って都合のいい真実だと思わない?



だって、夢の中なら、現実だとあり得ない事だってやれちゃうんだよ?




私はね……大好き!ずっと夢の中にいたいくらい!



……君は、どうかな?夢って……好き?







――――――――――

――――――

―――










【PROLOGUE】
  Re:Re:Re










……ベルが鳴っている

聞き覚えのある。と言うより、毎日聞いている起床を促す催促音
早く起きろ、愚図め。と言わんばかりにせわしないアラームに呆れる、もう少し寝ててもいいかな……
別に、明日は急ぎの用事も無い。二度寝しよう。そう決心して寝返りをうとうとしたその時



『テーテレテッテテーン♪』



聞き馴染みの無い、不可思議な音が聞こえてきた
なんだ、今の音は。私の目覚まし時計に、あんな音は入っていないはず
それに、今のは目覚ましのアラームと言うよりも、まるでゲームのコンティニュー音みたいで……
軽快で、愉快で、爽快で……それが逆に、私に言い知れない不安を与えていた

それに、何だかベッドもおかしい
私のベッドはこんなに固くない。ここはまるで棺の中にいる様に堅くて、狭い
意識がどんどん覚醒に向かうにつれて、ようやく私の置かれている状況の異常さに気づく

ここは既に、私の部屋の中じゃない―――!

(どうしようどうしようどうしよう……!?)

パニックになりそうな頭を整理する。まずは周りの状況を把握しよう
音は特に聞こえない。床の冷たい、ひんやりとした感触だけが、確かなものだと断言出来る
それと周りの壁……少し腕が動かせる程度の狭さしかないから、身動きが取れない
と、とにかく早くここから出ないと……!

「……あの、大丈夫かしら?」

「うきゃあああっ!?!?」

唐突にかけられた誰かの声
無音からの声と、自分だけの空間に割り入る浸入者への二重の驚愕が頭を混乱させる
思わず身体を思いっきり起こす。ゴチン!と重い音が響き渡り鈍く痛む額を抑えながら瞼を開くと……

「……だ、大丈夫? 今、凄い音がしたけれど」

「……何とかね」

私と同い年位の女の子が、きょとんとした顔で此方を覗いていた


「大丈夫か!?」
「あはっ、起きたみたいだねぇ」
「にひひっ、やーっとおっきしたみたいっすね!」

「えっ!?何々、なんなの貴方達!?」

目の前の女の子以外にも、人はたくさん居た
あんな狭そうな所に何人もいるなんて……と思ったけれど、よく見たらここは結構広い場所だ
黒板に机に椅子。どれもこれも、毎日飽きるほどに見たことのある物ばかり
どこかの教室……なのかな。それにしては、窓には有刺鉄線が張られ、床には雑草が大繁殖している
今から目を瞑って確認しても、ここをさっきの場所だと判断する事はないだろう



「えっと……私の入っていた箱は?」
「……箱?何の事か、私には要領を得ない」
「恐らク、夢の中の存在だろウ。うなされていた様だしナ」


確認をとってみても、誰も答えてはくれない
夢……だったのかな?でも、やけに冷たい感触がハッキリしていた気もするけど……

「……って!そんな事は重要じゃないよ!貴方達は誰!?ここは何処!?」
「ヒッ!?そそ、そんなにキレんなよな……!」
「いやー、それがな、ウチらにもわからんのや」
「わからない……?何それ、拐ってきた癖に……!」
「なら、貴様はアレの中から出てきましたと言えば素直に信じるのか」
「アレ……?」

一人の女の子が、竹刀で後ろを指し示す
身体を捻って振り向くと、そこには教室らしき場所には相応しくない、異形のモノが鎮座していた


「な……何?あれ……ゲーム?」
「驚くわよね……あんなモノがこんな場所にあるなんて……」
「ここ、一応学校っぽいけどな。なんであんなけったいなモンがあんねん!」
「な、なな、何で学校にアーケードがあるんだって話だよな……」

チカチカと明滅する電光パネル。それとは対称的に頑なに沈黙を貫いている液晶画面
付けられているのは、古臭いレバーとチープなボタン。錆び付いていて、まともに動くかも疑問だ
それは、捨てられたアーケードゲームをそのまま教室に持ってきた。と言わんばかりのガラクタだった
機体は完全に壊れてる。なのに、光続けるパネルはまだ生きている事を強調するみたいに脈打っていた



「あのオンボロゲームの中から嬢ちゃんは出てきたんだ。信じられるか?」
「え?どうやって?画面から?」
「どこのホラー映画なの!?」

いきなり宣告された奇妙な出来事に、私は理解が追い付かなかった
まさか私は死んだの?なら、もしかして私は今絶賛大流行中の異世界転生を?
だとしたら、女神様なりチートスキルなり…せめてスマートフォンくらいは欲しいんだけどな

「それでは語弊を招くでござろう。その筐体の側面に人一人が入れそうな隙間が見えるでござるな?」
「キミはその中より出でたのだよ。レディ……まさに!ミステリアス!」

「そうなんだ……かがくのちからってすげー!」

……もうなんだかよくわからなくなってきた。ここは適当に話を切り上げちゃおう
皆もこの話はあまり気乗りしなかった様で、納得したと見るや安堵の雰囲気が流れていた


……それでも、本当に私があのゲームから出てきたという確証は無い
そもそも、この人達が誰なのかもわからないし……

「……ねえ、もし良かったら……自己紹介しない?」
「え?……自己紹介?」
「ええ。どうやら私達は同じ境遇みたいだし……」
「ナルホド。我々は一蓮托生。最低限の相互理解は不可欠という事だナ」
「そんなに大袈裟な事でござろうか……?」
「どうせその内なんとかなるって!」
「でもでもぉ、私は他の皆の事も知りたいなぁ♪」
「……くたばれ。変質者が」

そんな事を考えていたら、女の子の一人がそう提案してきた
女の子の一言で、周りがぱっと明るくなる。……一部怪しい所もあるけれど
でも、確かにこの人達の事を知っておくのは悪い事じゃないと思うのも確かだよね
ここが何処なのかも解らない上、この人達が誰かも解らないなんて詰んでるも同然だもん

「あー……で、誰からやんだよ?」
「言い出しっぺの法則っす!とゆーワケでどぞ!」
「わかったわ。私は……」
「……あ!ちょっと待って!私からやる!」
「えっ?君から?さっき起きたばっかでしょ?」
「無理せんでええねんで?今は休みぃ、ウチらの後にゆっくり聞くわ」

自己紹介される前に、咄嗟に声を挙げていた
別に始めは私じゃなくてもいいのはわかっていたけれど、それでもこれだけは譲りたくなかった

「だって……一番始めって主役っぽくない?」
「何だそりゃ?」
「な、中々に変わった御仁でござるな……」

一番変わった格好の子にそんな事を言われてしまう
でも、いちいち挫けていられない。アンチの批判は今更なんだ
大きく息を吸い込んで、私は、私を口にだした




「私の名前は瀬川千早希!超高校級のコスプレイヤーなんだ!皆、よろしくね!」


【超高校級のコスプレイヤー】
  瀬川 千早希(セガワ チサキ)




「瀬川さんって言うのね。此方こそよろしく!」
「うん!まだ会ったばっかりだけど、これからも仲良くしてね!」

にこやかな笑みを浮かべる女の子の手を握る
少し力を入れて握ると、向こうも私の手を優しく包み込んでくれた
……妙にこなれている様に感じたのは何故だろう

「コスプレイヤー……って、何?」
「コスプレとは、ズバリ時代劇の事でござる!」
「それは原語の意味だナ」
「時代劇?瀬川の嬢ちゃんがか?」
「ん、んなワケねーだろ……コスプレイヤーって言うのはな……」
「あ、コスプレイヤーって言うのはね……」

トンチンカンな事を言い続ける一同に向かって話しかける
確かにあまりメジャーな才能じゃないから、皆にもしっかり教えてあげないと
コスプレイヤーのなんたるか。それを説明出来ずして、いったい何が超高校級か!


「コスプレイヤーって言うのは、簡単に言えばアニメや漫画のキャラクターになりきる人の事を言うんだけど最近では現実でバズった出来事や人物とかの物真似みたいに扱われているんだけどね」

「は?」

「それって正確にはコスプレじゃないよね?コスプレって言うのは非実在の存在を自分を使って実現させる行為の総称であって自分の自己顕示欲や承認欲求を満たすためのものじゃないのにさ!」

「な、何言ってるんすか?」
「何かの呪いでござろうか……?」

「あ、私は知名度を上げるの為に有名なキャラのコスプレとかもするんだけど、でも調べてからしているから決して同人175とかじゃないよ?それに知名度を上げる事も活動には必要で……」
「「「………………………………」」」

~~~~~


「って、こんな感じなんだけどわかった?」
「いや、何言ってるかさっぱり……」
「あー充分だ。ありがとうな」
「……個性的な人」

一通りの私の持つコスプレイヤーへの話を吐き出す
急激な情報を受け取ったからなのか、それとも単に興味がないのか、皆の表情は良くは無かった
でも、今は私の事なんかよりも知りたい事がある。それを聞き出すために、喋りすぎて渇いた喉を動かした

「それで……今ってどうなっているの?」

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「……えっ皆ここで起きたの?駆村君、月神さん」
「おまけに、全員が超高校級と呼ばれているんだ。なんだか妙だと思わないか?」
「全員にここに来るまでの記憶も無いし……なんらかの事件に巻き込まれた可能性もあるわ」

【超高校級の地域振興委員】
  駆村 沖人(カケムラ オキト)

【超高校級のアイドル】
  月神 梓(ツキガミ アズサ)

一通りの事情を、場を仕切っていた男の子と女の子から聞いておいた
長靴や軍手。手拭いを首から下げた駆村君は農家みたいな……というより実際に農業もするらしい
寂れた故郷の時雄島(トキオジマ)を、一躍、人気観光名所まで押し上げた事から地域振興委員に任命されたみたい
噛み砕いて言うなら……親善大使かな、多分。俺は悪くねぇっ!

で、もう一方の女の子。さっき私と握手した子が、この月神さん
藍色のボブカットをヘアピンで整えた月神さんは、今人気急上昇中のアイドルグループのセンターに抜擢された時の人
歌、ダンス、トークセンス。そして一番大事なルックスも上位に君臨する、一般人から羨望の眼差しを一身に受ける恵まれた天才だ
……正直、私も少しだけ羨ましく思ったりもする


「そうかあ?俺の邸宅の警備は厳重だぜ。そう易々と賊が入れねえ位にはな」
「それは竹田殿の家は、でござろう。拙者は元より、他の生徒では比較にならぬでござるよ」
「…竹田さんと臓腑屋さんはどう考えているの?」
「そりゃあ、何かのイベントだろ。アポが無いのがちっと不思議だけれどな」
「拙者も概ね同意でござる。これだけの人数を拉致監禁する事は現実的ではないでござるものな」
「一番現実的じゃないのは臓腑屋の格好だけどな」
「にゃあぅ!拙者は忍者では無いのでござる!」

【超高校級の玩具屋】
  竹田 紅重(タケダ ベニシゲ)

【超高校級の家事代行】
  臓腑屋 凛々(ゾウフヤ リリ)

月神さんの話に割って入る、和服を着崩した男性と忍者装束の女の子の二人組

変な格好だけど無下には出来ない。二人はこの中でもとんでもない経歴の持ち主だったりもするからだ

竹田さんは老舗玩具店の代表取締……社長で、現在は海外進出も果たしている凄腕の経営者
中でも、『BEIGOMA』や『MENKO』は最近若い子の間でも流行中で、私も販促アニメのコスプレをしたような……してないような……
因みに、とっくに二十歳を過ぎてて今は三十間近のアラサーなんだけど、本人は切実に超高校級と呼んで欲しいそう

臓腑屋さんは口調からも分かる様にニンジャ……ではないらしい。服はバッチリ忍者装束の癖にね
家事代行という職業は聞き馴染みがないけれど、様は派遣で動く家政婦やメイドみたいなものらしい
彼女は世界各国から依頼が飛び交う程人気があるらしく、過去にはホワイトハウスの家事もしたとか
理由は、『ジャパニーズニンジャは珍しいから』。不服そうにぷくっと膨らませた頬が結構可愛かった

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「ク、ク、ク!JAPANのイベントは実にcrazy、ワタシも気分が高揚するナ」
「密室された空間に、年頃の飢えた男女……これで何も起きない訳ないっすね!にひひっ!」
「おうおう。若いモンは気楽でいいねえ」
「ですが、デイビットと照星は腕っぷしや頭脳ならばこの中でも随一。多少は安心出来ますね」
「恐悦至極。ワタシも協力は惜しまぬつもりダ」


【超高校級のプロファイラー】
  デイビット・クルーガー

【超高校級の柔道家】
  照星 夕(テルホシ ユウ)


竹田さんと駆村君が、新たにやってきた二人と話している
眼鏡をかけた、如何にもインテリそうな外国人は、高校生ながらも警察と一緒に前線で働くプロファイラーのデイビット君
なんでもお父さんがFBIの捜査官で、そのツテでプロファイラーになったそうだ
現に、この中では一番冷静な視点を持っているからか月神さんや竹田さんと一緒に場を纏めていた

で、もう一人のは短いヘソ出し制服に、これまた短めのスカートにスパッツを履いた活発そうな女の子
全国女子柔道大会を、一度も投げられずに無敗で勝ち抜いた柔道界きっての天才少女らしいけど……


「せーんぱいっ!何をぼーっとしてるんすかっ!」
「わわっ!?ちょ、抱きつかないで、重……っ!」
「いひひー、どこが重いんすかー?」


なんというか、照星さんは対人距離……所謂パーソナルスペースが凄く狭い
さっきから男女問わずに抱きついているし、今も私の首筋をくんくんと嗅いでいる
その様子は子犬みたいだけど……色々と大きいからヘンな誤解をされないといいんだけれどね

「ま、またやってやがるよ。あのビッチ……」

「むっ、女の子を軽々しくビッチ認定するのは童貞の証拠っすよ!吊井座先輩!」
「う、うるせえ!どどど、童貞じゃねえ!お、お、俺だって超高校級だからな……っ!」
「……なんの関係が?」


【超高校級のイラストレーター】
  吊井座 小牧(ツルイザ コマキ)


照星さんにからかわれているのは、超高校級の神絵師ことイラストレーターの吊井座君だ
本人曰く、ラノベやアニメのキャラデザにゲームのイラストも寄稿している売れっ子のレーター
仕事の予約も六ヶ月待ちで、今も幾つかの仕事を掛け持ちしているって言っていたけれど……
私、吊井座君の名前を聞いたことが無いんだよね。ペンネームでも使っているのかな……?


「にひひっ!イケナイ先輩にはオシオキっすよ!」
「やっ、止めろ!骨が折れぁああああああ!?」
「照星さん!?吊井座君を離してあげて!」
私に構うのに飽きたのか、悪態をついた吊井座君の方へ去っていく照星さん

照星さんに絡まれている吊井座君を遠巻きに眺めていたら、急に声をかけられていた

「えへへぇ。皆楽しそうだねぇ」
「え?あ、うん。そうだね」
「最初は私も不安だったけどぉ、瀬川さんもきっと皆と仲良くなれるよぉ」
「そうだね」

甘ったるい声色に、とろりと蕩けた様な視線。そして目の前で動く度に漂う、甘くて濃密なココアの香りがくすぐったい
要素の一つ一つが蠱惑的で、扇情的……それこそ、誘っていると思われても仕方無い程に
それでも、女子はおろか男子も特に興味が無さそうにスルーしていた。何故なら……

「……お前が皆と仲良くなれる訳が無い。味覚的にも性的にも破綻した変態女装倒錯趣味の癖に」
「うぇえん……酷いよぅ、月乃ちゃあん」
「……泣きたいのはこっち。毎度毎度朝日のせいで私まで偏見の目で見られるハメになっているのに」


【超高校級のショコラティエ】
  御伽 朝日(オトギ アサヒ)

【超高校級の童話作家】
  御伽 月乃(オトギ ツキノ)


そう、この子は男の子。いや、男の娘なのである
そして、その朝日君を無言で威圧しているのは、彼の双子の妹さんである月乃さんだ
二人の顔つきは双子という事を差し引いてもとても良く似ている。……一部の主張の違いで判るけど

お兄さんの朝日君はショコラティエで、全国で最も栄誉ある大会で最年少で優勝した経歴もあるらしい
彼のチョコレートは見た目がとても可愛くて、特に女性に大人気。バレンタインシーズンには血で血を洗う抗争状態になるくらいだ
因みにこれはどうでもいいけど、血のバレンタインという話は実際にあったりする

妹の月乃さんは童話作家。古典に寓話、民話……特に創作童話をメインに活動しているんだって
メルヘンなファンタジーをベースに、現代的な要素を含ませたそのお話は、一見奇抜に見えて、実際は王道と評価されている
本人は誰かに評価される事を嫌っているみたいだけれどね……主にお兄さん関係で

「頭ぐりぐりするの痛いよぉ~月乃ちゃあん」
「黙れ」

……色々と複雑な関係なのか、月乃さんは朝日君にあまりいい感情を抱いていない
兄妹仲良く……って、一人っ子の私が言えた事じゃないけれど、身内に男の娘がいるって事は相当苦労しているんだね……

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「……くだらないな」

弛緩した空間に、刃の様な声が刻まれる。声の主は目を瞑り、視界に入れたくないと言わんばかりのオーラを隠すことなく放っている
日本人形の様な楚々とした顔つきとは裏腹に、その眼からは冷たい軽蔑の感情……作り物の方が遥かに暖いと感じる視線を向けていた

「超高校級。その称号はただの飾りか?所詮は才能ありきの人間という事か」
「な……なんだよっ!才能ありきって、キミだってそうじゃないか!」
「僕が何もせずにここにいると思っているのか。貴様の様な能無しには判らないだろうな」
「能無し!?そんな言い方は無いだろ!?」
「はいストーップ!それ以上はダメーっ!」

言い言葉に買い言葉。ヒートアップしそうな口喧嘩を仲裁したのは、この中でも一際小柄な女の子
その小さな身体を存分に動かし、その影響で頭につけた大きなリボンがぴょこぴょこと跳ねていた

「口喧嘩なんて見過ごせません!りぼんちゃんの目の黒い内はらーぶらーぶして貰います!きりっ!」


【超高校級の家庭教師】
  天地 りぼん(アマチ --)


その体躯と幼げな雰囲気からは想像出来ないが、彼女は家庭教師として世間から評価されている
子どもと同じ目線で立つ事が出来るので、教え子も大人に抱く抵抗が無く彼女と勉強出来るという
そう考えてみると、彼女の小さな身体と大きなリボンという特徴は、覚えやすいので家庭教師として理に敵っているのかもしれない

「はいっ!二人とも、仲直りのーあ、く、しゅ!」
「断る」
「即答!?」

……とはいえ、相手は先生も形無しの問題児。喧嘩を吹っ掛けられた男の子は相手にされてすらいない
ニット帽にベストを着た男の子は、天地さんや他の皆と比べても、これと言った特徴が見当たら無い。それもそうだ。彼の才能は……

「ボクは超高校級の幸運なんだぞっ!さっさとボクに謝れよ!」
「謝罪の強要は良くないよ!御影くん!」


【超高校級の幸運】
  御影 直斗(ミカゲ ナオト)


超高校級の幸運。その実態は、単なるくじ引きで選ばれただけの抽選枠だ
御影君は正真正銘の一般人と言っても過言じゃないだろう。それ位彼には超然的なオーラを感じない
なのに、彼は女の子に向かって強気な態度を崩さない。度胸があるのか、身の程を知らないだけか……


「あーハイハイ!御影はもう黙っとき!」
「何でさ!?悪いのは陰陽寺さんの方だろ!?」
「何故か?それは彼女が麗しい乙女。穢す事すらも赦されぬ聖域……レディーファーストだからさ!」
「飛田もや!お前が話に入るとめんどいねん!」
「オゥ、ゆめみ……そんな怒りに歪んだ顔では持ち前の美貌が台無しに……」
「誰のせいやと思っとんねん!このボケナス!」
「フゥ……美しい声だ……グロリアス……」


【超高校級のヒーロー】
  陰陽寺 魔矢(オンミョウジ マヤ)


【超高校級のダンサー】
  飛田 弾(トビタ ハズム)


【超高校級のスタイリスト】
  古河 ゆめみ(コガ --)


先程の少女……陰陽寺さんが生んだ緊迫した雰囲気を壊したのは、派手な見た目の男女
飛田君はダンサー。極度の目立ちたがりで、自分がメインでないバックダンサーは決してやらない程にプライドが高い
それに比例しているのか美意識も高く、今も海草の様な艶の髪を、手鏡と櫛で直している

対する古河さんは、呆れたようにこめかみを押さえて難しそうな顔をしている
ギャルの様な華麗な衣装に、流れるような滑らかな金髪をサイドに纏めたその姿は、モデルと言っても疑う人はいないはず
スタイリストとしての押しの強さか、はたまた目の前の難敵のせいか……今はその美貌を、酷く苦悶に歪めていた


「……………………もういい。僕に近づくな」
「ゴメンな、陰陽寺。御影もしっかり謝っとき!」
「はーい……ごめんなさーい……」


どうやら、騒動は御影君の敗北で決着がついたらしい。当の本人は、つまらなそうに竹刀を弄っていた
陰陽寺さんはあの竹刀で、今までに何人もの悪人を叩き伏せたと言われている程の剣豪だ。抜き身の刀の様な印象は、潜り抜けてきた修羅場で磨き上げられたものなのかもしれない
彼女自身にも謎が多い。幾ら立ち振る舞いが冷たくても、一目で女の子と分かるのに自分を僕と呼んだり、才能も女性系であるヒロインで無かったり……

ぼんやりと隅っこで皆を観察していると、既に打ち解けている人や積極的に関わりにいく人のお陰か、少しずつ信頼してきている
謎の多い陰陽寺さんだけど、いつかは仲良くなれる日が来るのか。でも、彼女が笑顔になる姿はどうしても想像出来なかった
そんな事を妄想していると、見過ごしてしまうのが不思議な違和感に気がついた



「……あれ、スグル君はどこ?」


「……あっ!?本当だ!」
「スグル君……?どこにいったの?」
「少し目を離した隙に……どこに消えた?」

先程までそこにいたのに、まるで蜃気楼の様に何処かへ消えてしまった男の子

「フム、先程まで朝日氏の近くにいたはずではないのかネ?」
「えへへぇ、もうスグル君とは仲良しだもんねぇ」
「……見ていない。知らない」
「そのゲーム機の裏にいないか?ロッカーの中はどうだ?」
「…いないで、ござるな。神隠しでござるか……?」
「んなバカな訳ある訳ないやろ!」

世界から抹消されてしまったかの様に、消しゴムで擦ったかの様に跡形も無く消された存在

「扉は……開いていない、だとぉッ!?」
「あ、アイツが出た後、鍵かなんかで閉じ込めたんじゃねえのか……!?」
「誰にも気づかれずにか?そんな事は不可能だ」
「おいおい……俺がボケている訳じゃあねえよな」
「スーグールーん!出ーておーいでー!!!」

……違う。もしかして、世界から消されたのは―――





「……私達の、方?」

言い様のない不安感。彼方に放り棄てられたかの様な、世界から取り残された様な疎外感が狭い空間に満ちていく
小さな焦りは大きな恐怖へ、恐慌はどんどん空間に伝播していく。そうして絶望が溢れてくると―――








『テッテレーン♪』







「…………え?」

世界が孤独感で満ちてきた頃に、そんな間の抜けたファンファーレが反響した









「「!?」」

突然の変化。周囲の動きに一瞬の空白が生まれる
唐突な音で発生した空白は、冷静さを取り戻すのには十分な猶予を与えてくれた
全員の思考が切り替わる。失せ物探しから、原因の追求へと転換していく
その成果なのか、それとも狭い教室だからかは不明だけれど……原因は驚くほどあっさりと見つかった

「あっ!?……このゲーム、動いてるよ!?」
「んなバカな!電源は死んどったはずやろうが!」
「だが、確かに、確かにッ!モニターが動いているではないかッ!」
「えっとえっとぉ、これってどう動かすのぉ?」
「……勝手に触るな」

死んでいたと思われていた筐体が、今、沈黙を破りここに動き出した
だけど、画面は依然として砂嵐。何かが映りそうで映らないのがもどかしい
ゾクリ。と身体が射抜かれる。砂嵐の奥の底から、何かが除いている様な……


「えーい、ここはりぼんちゃんにお任せあれー!」
「ダメよ!迂闊に触ったら……!」
「ならぁ、どうしよっかぁ?放っておくぅ?」
「詳しい奴が操作すればいいだろう」
「しゃーねえ、ここは俺が……」
「あ、待って!私にやらせて!」
「……瀬川さんが?」
「こう見えてレトロゲーはやり込んでいるからね。筐体の操作なんて慣れっこだよ」
「で、でもよ、なんだか危なくねえか……?」
「大丈夫だって!私を信じてくれないの?」
「そういう訳じゃ……」


私はただゲームがやりたい訳じゃない。私が皆の役に立てるのなら、やりたいだけだ
全員が私に注目する。その目には、私への懐疑や不安が宿って不安定に揺れて光っていた
でも、それでも引くわけにはいかない。ここで皆に私という存在を示していかないと……!


「……じゃ、動かすよ」
視線を振り切って、試しに強引にレバーを下げる
がちゃり、と音を立てて筐体が震える。途端に画面に色が灯っていく
……瞬間、大きな音が流れ出す。それはさっきの音と間違いなくおんなじものだった
映し出された画面と流れ続ける軽いBGM。そして、意味不明な映像が流されていた

「……『ココロオドルTV』?」





~~~♪


『あーあーあー……赤巻き紙青巻き紙黄巻き紙……』
『隣の客はよく柿食う客だ……隣の客は習だと思って!』
『馬鹿野郎。前を見ろ。何がある?』
『やだなあヨウくん、そんなの見ればわかるよ。カメラでしょ?』
『そうだ。そしてカメラの電源は点いているな?』
『うん。点いてるよ?』
『そう。つまり今はあのカメラは動いているんだ。それがどういう事か分かるか?』
『……今、オンエアしてる?』
『正解だ。そら、練習の成果とやらを見せてみろ』


『うん!わたしの名前は赤巻き紙!好きな食べ物は隣の客をよく食う柿です!』
『混ざってるじゃないか。なんだ隣の客を食う柿って。ただのホラーじゃないか』
『てへへ……失敗失敗!それじゃあリテイク2!』



『わたしの名前はアシタバ・ハルカ!よろしく!』
『ミトドケ・ヨウだ。別に覚えなくても構わんぞ』



『わーい!ココロオドルTV、初放送開始だよー!』
『初っぱなから放送事故だがな。それで今回のミッションの内容はなんだ?』
『それは……じゃじゃーん!”体育館に行く”!!』
『一番始めだからな。これくらいで充分だろう』
『体育館は、この教室を出て道なりに進んでいけばちゃんと到着するよ!』
『報酬と言うのはなんだが、粗品を用意してある。ついでにオマエラの探し物もだ』

『それじゃあ本日はここまで、この番組の合い言葉で締め括るよー!』

『『鮮やかな!!』』
『遥かな明日を!』『見届けよう!』

『バイバーイ!』


「「…………………………………………」」
「……何、今の」


開いた口が塞がらないとはこういう事を言うのだろうか。既に砂嵐に戻った画面をみて虚しく思う
MCらしき女の子は制服を着ていた。けれど私にはわかる。あれは適当な似非制服だという事を
アシスタントの男の子は白のTシャツ……に、何故か漢字で『不毛』と書かれていた。正直センスを疑う

内容、画質、キャラクター……どれをとっても低品質過ぎる。ハッキリ言ってクソアニメだ
今のアニメ擬きのくだらな過ぎるノリで全員の士気も大幅に下がった様で、誰も彼もが唖然としていた


「え、えっと、ハルカさんとヨウ君の言う事は信じてもいいのかしら?」
「ナチュラルに受け入れてるの!?ボクあんなのに従いたくないよ!?」
「だガ……今のテレビでは体育館には粗品と探し物もあると言っていたナ」
「それにぃ、その探し物がスグル君の可能性もあるよねぇ♪」


確かに、あのアニメではこう言っていた。体育館には粗品と探し物が置いてあるって
どうしてそんな事を言ったのかはわからないし、そもそもスグル君が何処にいったのかもわからない
こんな場所に拐った目的が、まさかあのクソアニメを見させる事だったとはとても思えないけれど……

「……罠の可能性も、無いことは無い」
「そもそもの話っすけど、さっきからずっと扉には鍵がかかってるっすよ?」
「わかった!ゆうっちと、ついでにこまっち!扉を開けてみるのだー!」
「な、な、なんで俺もなんだよ!?」
「ええからはよやれや!」

天地さんの号令で、照星さんとついでに吊井座君が扉に手をかける。二人がぐいっと力を入れると、すとーんという音と一緒に吊井座君が飛んできた

「ぎゃあああああ!!!!」
「え……きゃあっ!?」
「っとと……大丈夫か?腰は打ってねえよな?腰は本気でヤバいからな。ここだけの話」
「何故急に吹き飛んできたのでござるか!?」
「俺には照星が放り投げた様に見えたが……」
「にひひっ、さーせん!自分のおっぱいに免じて許してくださいっす、先輩!」

人を放り投げておいて、けろりと笑う照星さん。これには告発した駆村君も苦笑いするしかない
一方で、投げ飛ばされた当の本人の吊井座君は酷く怒っていた、急に手伝えと言われ、従ったら投げられる。そりゃ一言くらい言いたくももなるよね……

「お、お、おい!お前、俺に……!」
「さて……行こうじゃあないか!麗しのレディ!」
「時間が惜しい。黙っていろ」
「……ごめんね!」
「………………………………お、置いていくなよぉ!?」



一悶着ありながらも、教室の外へと足を踏み出した私達
荒れ果てた教室の中とは裏腹に、廊下は普通の学校然とした清潔な様相だった
窓と思わしき場所に、テレビ画面の様なモニターが取り付けられている事を除けば……だけど
身体中にまとわりつく様な視線を感じる。見られる側のモニターが私達を品定めしている様な、不可思議な錯覚に揺られていた


「……道、間違って無いよね?」
「あのテレビの指示通りに動いているのダ。間違いなく正しいだろうヨ」
「こうして歩いてみると……本当に、普通の学校の中みたいね」
「色々と謎のあるものはあるでござるが、構造自体は特に変わった部分は見当たらぬでござるな……」
「一番気になるのは、このモニターだな……」
「なんでモニターがこんなトコにあるのかなー?」
「な、なんだか……き、気持ち悪くなってきた……」
「おっと……吐くのは止めてくれ。美しくない」
「大丈夫ぅ?私は吐いても嫌いにならないよぉ」
「……お前は嫌われものだけれど」
「こん時くらい兄妹喧嘩は止めときや……」

不安に襲われている私と違い、皆は余裕綽々そうに廊下をカツカツと歩いていく
モニターに映る顔を見る。幾つもの画面に映るソレは、普段の私の顔かもわからなくなって……


「……瀬川さん?どうしたの?」
「え?……あ、うん。ごめんね。ちょっとふらってなっちゃった」
「うーん、少し休憩しちゃう?結構長く歩いたし」
「そんな暇は無い。黙って足を動かせ」
「陰陽寺……少しは人の気持ちを考えてやれよ?」
「喧嘩すんなよ、若いんだからよ……そら、ゴールは目の前みてえだぜ?」
「……体育館。本当にあった」
「信じてなかった訳じゃないっすけど、あのテレビの言う通りだったんすね!」

歩き続けて約数分。壁に当たってようやく終わりが訪れた
行き止まりには『体育館』と点滅しているパネルと扉。ここが体育館である事は間違いない

「そんじゃ、開けるっすよ!」
「ま、待ってよ!まだ心の準備が……!」
「確かに、この中にウチらを拐ったヤツがいるかもしれへんな」
「なら、まずは俺が開ける。陰陽寺と照星。二人は何かあったら皆を守ってくれ!」
「ラジャッす!」
「………………………………………………」
「……陰陽寺さん?」
「………………分かっている」
「ありがとう。……駆村君、お願い!」
「よし、いくぞ……!」

月神さんの号令で、閉じていた扉が開かれる。この未知のダンジョンの最深部。求めていたモノがある場所へと進んでいった


シン。と静まり返る開けた空間
ステージの檀。その後ろに置かれた大きなモニター
何処にでもあるような模範的な体育館の中で、奥の異物だけが禍々しい存在感を放っていた

「ここが……体育館?」
「またモニターかよ!ボクもう今日だけで二桁近く見たよ!?」
「そ、それよりもスグル殿はどこでござるか!?」

臓腑屋さんの声でハッと意識が戻る。最大の目的である探し物は、随分あっさり見つかった

「……皆さんっ!」
「す、スグル君!?何処にいたんだよ!?」
「そもそもの話になるが、お前はいったい何時からどうやってこの場所に来たのかね?」
「ごめんなさい……気がついたらここに……」
「……本当にごめんなさい。僕には、記憶も才能も無いのに足を引っ張ってしまって」


【超高校級の???】
  神威 優(カムイ スグル)


「き、気にしてないよ!元気出して、ね!」
「ごめんなさい……」
私の励ましにも伏し目で謝る男の子。色素の薄い髪に幸の薄そうな表情が弱い小動物みたいで、庇護欲をくすぐる小さな子だ
本人曰く記憶も才能も無いって言っていたけれど、それならどうして、超高校級である私達の中にいるんだろう?
デイビット君が言うには、『急激なショックで記憶が飛んでしまう事はままあル。彼もそういった類いの症状だろウ』らしいけど……

「な、なあ、もういいだろ?さっさと戻ろうぜ?」
「そだねー!りぼんちゃんもうくったくたー!」
「ざっと見た感じ、特に怪しい人影は無いな……」
「んじゃさっさと戻るか。誰もいなさそうだしよ」
「なら、戻りましょうか。皆、早く教室に……」





『あああああああああああああああ!!!!マイクテスっ!マイクテスっ!マイクテスっっっ!!』


「っ!?」
「きゃああっ!?」
「な、何だこれは!?」
「み、耳がぁ……!!」

いきなり大音響で声が響く。激しく音割れした不快な声で、頭が大きく揺さぶられる

「だ、誰だよ今の……っ!頭おかしいだろっ……!」
「……御影直斗?」
「それは違うよ!?ボクじゃないって!」

『そうそう!ボクだよ!』

「なんだ……って、え?」
「………………は?」
「……誰なのかなぁ?今の声ってぇ」
「今のは誰だ。姿を見せろ」

御影君が否定した瞬間、聞いたことの無い声が木霊する。陰陽寺さんが私達の前へと動いた時……



「いいでしょう!何だかんだと聞かれたら……」
答えてあげるが世の情け!って危ない危ない、空気を読んで……!




「答えてあげるが世の情け!とうっ!」

「オマエラ始めまして!そしてドーモ、今後ともよろしく!ボクの名前はモノクマ!」
「この彩海学園(さいかいがくえん)の……学園長でーーーっす!!!」

白黒のクマのヌイグルミが、その姿を現した


「………………は?」
「彩海……学園……?」
「そそ、彩る海と書いて彩海学園。間違っても最下位学園じゃないからね」

……嫌な名前。って今大切なのはそこじゃない!

「あ、貴方がここに私達を連れてきたの!?」
「え……あ、そうだよ!貴方が私達をここに連れてきたの!?」
「あ、わかっちゃう?照れますねぇ~」

月神さんに一歩遅れて、全く同じ疑問を提示する
モノクマと名乗った白黒のヌイグルミは、得意気に笑った様な気がした

「因みに、あのアニメもボクが作ったんだけど、どう?円盤売れそう?」
「売れるワケねーだろ……!あんな出来でアニメを名乗るとか舐めてんのかよ……っ!」
「……まごう事なきクソアニメ」
「つまらなかったです!以上!」
「えぇーしょんぼり、せめて努力くらいは認めて欲しいんだけどなぁ……」
「努力してもそれが叶うとは限らないのだよ。美しくないのだから仕方ないだろう?」

飛田君を筆頭に、手作りアニメボロカスに貶されてしょげるモノクマ。つまらないんだから仕方ないね

「で?この際どうやって拐ったかは聞かねえ。何が目的だ?」
「そうでござる!拙者ら超高校級の生徒をかき集めて、何をするつもりでござるか?」
「これだけ大人数。そして知名度のある人間ばかりを集める目的……興味があるナ」
「目的?ボクの目的はただ一つ!」





「オマエラには、コロシアイをしてもらいます!」






……今、モノクマは何て言ったの?
コロシアイ?それって、この中の誰かが誰かを……

「ふ……ふざけないでっ!貴方の本当の目的はなんなの!?」
「あのさぁ……今言ったよね?オマエラにコロシアイをしてもらう事だよ。一度言った事を二回言うのは嫌いなんだよね」
「そそそ、そもそも!いきなり集められても人を殺せなんて出来っこないよ!!」
「頑張れ頑張れ出来る出来る絶対に出来る気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこで諦めんなって積極的にポジティブに頑張れ!」
「根性論!?」

月神さんの怒りに冷たい返答を、御影君の困惑には無理矢理な位熱く答えたモノクマ。その歪さは二つに別れたシロとクロの様で……

「……付き合っていられないナ。ワタシはもう帰るとしよウ」
「か、帰るって……どないする気や?」
「何もここは牢獄という訳ではなイ。モニターの位置が本来窓ならば、モニターを叩き割れば外にも出られるだろうヨ」
「そんな事をせずとも、手っ取り早い方法がある」

デイビット君の純物理的な手段を切り捨てた陰陽寺さん。つかつかとモノクマの前へと進んでいくと…

「え?何々?キスしてくれるの?駄目だよ……キスしたヌイグルミはちゃんと買い取らないと……」

モノクマが話している途中で、パァンと何かが破裂した
陰陽寺さんがその竹刀で、目の前のモノクマを叩き伏せたんだ……!

「消えたか。出てこい。どうせ替え位あるだろう」
「……まさかと思うっすけど、今から残機を片っ端から叩き潰していくんすか?」
「そうだが」
「とんでもないゴリ押し手段でござったーー!?」

デイビット君を上回る物理的な手段を容易く敢行した陰陽寺さん。その読みは当たったらしく、奥の檀からモノクマが再登場してきた

「ちょっと!いきなり何するのさ!人が話している時は、何と言うか救われてないと……」
「黙れ。人でなしの化け物風情が言葉を話すな」
「……あ、そう。まあ丁度いいかな。現実を分からせる為にねっ!」



「出でよ!エグイサル戦闘モード!!」




『ガシャン!』


「ヒッ……!?う、うああああああっ!?!?」
「何だありゃあ……ロボット……か……?」
「ロボットなんてロケットパンチしか能の無い鉄屑と一緒にしないでください!これはエグイサル。伝説上の生き物がモデルの戦闘兵器さ!」
「……伝説って?」
「ああ!それってエグイサル?」

突然、何処からともなく巨大な機械が落ちてきた
それはテレビアニメでよく見る有名な機動戦士や、ゲームでも出てくるゴーレムみたいなもので……
決定的に違うのは、手に当たる部分には巨大な機関銃が取り付けられているという事だった

「えーそれではただ今よりエグイサルのお披露目も兼ねた試射会を開始したいと思いまーす!」
「ちょちょちょちょっと待ってよ!?あんなんに狙われたら陰陽寺さんでもひとたまりも無いよ!?」
「ま、待って!お願い!謝るから、謝るから陰陽寺さんを許してあげて頂戴……!」

「いやぁ月神さんはいい人だねぇ。許したらコロシアイしてくれる?」
「それは……っ」

「ふ、不可能だッ!人殺し等美しい訳が無いッ!」
「コロシアイなんて、自分達には無理っすよ!」
「まやっちを殺すなんてダメだよ!りぼんちゃんが代わりになるから許してよ!」
「成る程、その手があったか……」
「だ、が、断る!ぶっちゃけ誰が相手でもいいんだけれどね。うぷぷぷぷ」
「ま、待て!まだ話は終わって……!」
「ええいしつこーい!そろそろ殺るとしますか!」
「それでは試射会を始めまーす!良い子は部屋を明るくして近づきすぎない様に見てくださーい!」
「っ!」

「陰陽寺さん、逃げてーっ!」
「消えてなくなれーーーっ!!」



精一杯の応援。それでも声は届かなくて
思わず耳と目を塞ぐ。最後に見えたのは竹刀を構えて身体を強ばらせる陰陽寺さん
閉じた世界の奥では、規則的な稼働音と、眩い閃光が瞬いていた


……どのくらい時間が経ったんだろう
一分にも満たない気がするし、もう何時間も目を閉じていた気もする
耳も塞いでいるから、周りがどうなったのかも、皆がどうなったのかも理解できない

「あ、あああ……!」
「ヒデェなこいつは……ズタズタだぜ……」
「う、嘘、嘘……!」

恐る恐る目を開くと、そこは地獄だった
体育館の床は捲れ上がる程に吹き飛ばされ、空洞がはっきりと確認できる
その犯人であるエグイサルの腕からは、幾つの弾丸を使ったのだろう。今もなお煙が燻っていた
そして、標的にされた陰陽寺さんの姿は……既に、どこにも無かった

「オゥマイガーッド……ジェノサイド……」
「ぶひゃひゃひゃひゃっ!これがボクの自慢のエグイサル殺戮モードだよ!」
「……あの」
「これだけの兵器を個人で所有出来る筈がなイ。裏にはどんな組織がついているのカ……」
「……途方もない組織力。並大抵の人間や企業では不可能なはず」
「……あのっ」
「あ、が、な、なんで、なんでこんな事になってんだよ……っ!?」
「こんなん、ありえへんやろ……!」
「あのっ!」
「さっきから何だよスグルクン!今大変な事に…」


「あのっ!臓腑屋さんはどこですかっ!」



「……………………ふん」
「あ、危ない所でござった……!」
「え!?陰陽寺さんと臓腑屋さん!?どこ!?」
「ここにござる!とうっ!」

突然、天井から陰陽寺さんを背負って飛び降りてくる臓腑屋さん
すたりと着地する臓腑屋さんからは、重力の抵抗を一切感じる事は無かった

「まさか、あの一瞬で陰陽寺さんを背負って天井に飛び乗ったの!?」
「そうでござる。一か八かでござったが……」
「僕は助けてくれとは一言も頼んでいないがな」
「もう、そんな事言わんとき!助かったんなら御の字やろ!」
「良かった……!陰陽寺さんが生きていてくれて、本当に良かった……!」
「ふん」
「でも、流石は忍者だよね!あの一瞬であれだけ軽い身のこなしが出来るなんてさ!」
「だ、か、ら!拙者は忍者ではないのでござる!」

間一髪。陰陽寺さんを殺させる事は防がれた。当の本人……本クマ?は、ぷりぷりと小さな身体を揺らして抗議する

「ちょっとちょっとー!何してくれんのさ!!」
「それはこっちの台詞でござる!いきなりガトリングガンをぶっぱなすとか正気でござるか!?」
「うぷぷ……っ!狂気の沙汰ほど面白い……っ!」
「……全く面白くないのだけれど」
「まあ、これでわかったでしょ?ボクがその気になればオマエラなんてイチコロって事にさ!」
「今度は邪魔なんて入らせないよ。絶対に、確実に逃げられない様に処刑してあげるからね」
「っ……」

モノクマの声色が冷たくなる。きっとこれを操っている人は、本当に躊躇い無く私達を殺す……!

「この、バケモンが……」
「クマだからね!それじゃあこれにて入学式を閉会しまーす!」
「オマエラ、良いコロシアイライフを~!」

ケタケタと笑いながら舞台の裏に消えるモノクマ
シロとクロのクマが去った後には、先程の狂騒が嘘の様な静けさしか残っていない


「ちょ……ちょっと待てよ!?ボクらはまだ納得なんてしてないぞ!?」

「何シカト決めこんでんねんこのクマ!はよ出てきて説明し直せぇや!」

「なおっち、ゆめっち!怒らないでよーっ!」

「いきなり集められ、殺し合わせるとはナ……理解が出来ないのも無理は無いカ」

「あは、デイビット君は落ち着いているねぇ」

「朝日殿はのんびりし過ぎでござるよ!?」

「こ、こんなもの……美しくないじゃないかッ!」

「畜生が……どうなってやがる?」

「わからないわ……返事をしなさい!モノクマ!」





混乱、怒号、焦燥、制止、懇願

そのどれにも、何の返答も寄越さないモノクマ

様々な感情が入り交じるこの混沌の中、私の頭は妙に冴えていた

……ここまでが、今までの日常の終幕で

ここからが……未知の世界のオープニングだって

虚無の返信が木霊する。悪意と疑念が渦巻く、漫画やアニメが嘘の様な世界で










【PROLOGUE】
  Re:Re:Re 【END】











 

【彩海学園 生徒名簿】
【女子】
※身長や胸囲はフィーリングなのでおかしい部分は目を瞑ってください


【名前】瀬川 千早希(セガワ チサキ)
【才能】超高校級のコスプレイヤー
【身長】167cm
【胸囲】87cm
【好きなもの】クレープ
【嫌いなもの】カメラ

【名前】天地 りぼん(アマチ --)
【才能】超高校級の家庭教師
【身長】154cm
【胸囲】64cm
【好きなもの】プラネタリウム
【嫌いなもの】宝くじ

【名前】御伽 月乃(オトギ ツキノ)
【才能】超高校級の童話作家
【身長】165cm
【胸囲】95cm
【好きなもの】雲
【嫌いなもの】尖ったもの

【名前】陰陽寺 魔矢(オンミョウジ マヤ)
【才能】超高校級のヒーロー
【身長】160cm
【胸囲】71cm
【好きなもの】竹刀
【嫌いなもの】ハムスター



【名前】古河 ゆめみ(コガ --)
【才能】超高校級のスタイリスト
【身長】170cm
【胸囲】84cm
【好きなもの】流行りもの
【嫌いなもの】水たまり

【名前】臓腑屋 凛々(ゾウフヤ リリ)
【才能】超高校級の家事代行
【身長】163cm
【胸囲】74cm
【好きなもの】干したての布団
【嫌いなもの】火事

【名前】月神 梓(ツキガミ アズサ)
【才能】超高校級のアイドル
【身長】168cm
【胸囲】82cm
【好きなもの】ぬいぐるみ
【嫌いなもの】パクチー

【名前】照星 夕(テルホシ ユウ)
【才能】超高校級の柔道家
【身長】158cm
【胸囲】92cm
【好きなもの】マット運動
【嫌いなもの】避難訓練


【男子】


【名前】御伽 朝日(オトギ アサヒ)
【才能】超高校級のショコラティエ
【身長】170cm
【胸囲】76cm
【好きなもの】ハートマーク
【嫌いなもの】猫

【名前】駆村 沖人(カケムラ オキト)
【才能】超高校級の地域振興委員
【身長】187cm
【好きなもの】時雄島
【嫌いなもの】嵐

【名前】神威 スグル(カムイ --)
【才能】超高校級の???
【身長】160cm
【好きなもの】マカロン
【嫌いなもの】抹茶ラテ

【名前】竹田 紅重(タケダ ベニシゲ)
【才能】超高校級の玩具屋
【身長】196cm
【好きなもの】狩猟
【嫌いなもの】ハイテクノロジー


【名前】吊井座 小牧(ツルイザ コマキ)
【才能】超高校級のイラストレーター
【身長】176cm
【好きなもの】日陰
【嫌いなもの】〆切間近

【名前】デイビット・クルーガー
【才能】超高校級のプロファイラー
【身長】184cm
【好きなもの】統計学
【嫌いなもの】イエダニ

【名前】飛田 弾(トビタ ハズム)
【才能】超高校級のダンサー
【身長】190cm
【好きなもの】美しいもの
【嫌いなもの】もんじゃ焼き

【名前】御影 直斗(ミカゲ ナオト)
【才能】超高校級の幸運
【身長】168cm
【好きなもの】醤油ラーメン
【嫌いなもの】ピーマン

プロローグ終了です
プロローグはどこで再開してもいいよう地の文がメインでしたが、次回からは通常の台本形式に戻します


「どうするつもりだ」

混乱に溢れた体育館。この混沌にトドメを刺したのは、またしても陰陽寺さん

呆れたような無表情をピクリとも動かさず、私達に核心を突く問いを切り込んだ

陰陽寺「奴の言う通り、コロシアイに乗るつもりはあるのか。これからどう行動する気だ?」

御影「ど、どう行動するかって……知らないよ!」

古河「せや!こんなアホ臭い事やってられんわ!」

竹田「あー……ドッキリの可能性はねーのか?」

デイビット「それは無イ。臓腑屋女史が助けなけれバ、陰陽寺女史は蜂の巣になっていただろうナ」

朝日「でもでもぉ、臓腑屋さんがぁ、番組の仕込みなら大丈夫だと思うんだけどなぁ」

臓腑屋「違うでござるよ!?陰陽寺殿を助けたのは純粋な善意でござるからね!?」

駆村「そもそも、助けに向かって失敗していたら、臓腑屋まで死んでいたんだぞ?」

口々に意見を話始める皆。これじゃあ落ち着いて考えられない……

飛田「そ、そもそもここは何処なのかね!オレは今何処にいるのかね!」

月神「それは……わからないわ。とにかく一度、あの教室に戻りましょう」

月神さんの一言で騒ぎが収まっていく。とにかくここは戦術的撤退で話が纏まったみたいだ

何人かが体育館の扉に手を掛けたその時……

『テッテレーン♪』

”ソレ”は流れ始めた



~~~♪

『よい子の皆ー!ココロオドルTVの時間だよー!』

『学園長先生のありがたいお話、個性的でキラキラした級友……』

『これぞ青春!って感じだよね!皆は話をちゃんと聞いてた?ちなみに私は寝てたけど』

『そんなキラキラした雰囲気に冷水をぶっかけるのが俺達のスタンスだ。理解してくれ』

『さて、いい機会だ。俺達も名乗り直すとしよう』

ハルカ『私はアシタバ・ハルカだよ!この番組のメインMCを務めていまーす!』
ヨウ『ミトドケ・ヨウだ。このボンクラのアシスタントを渋々担当している』


【MC&アシスタント】
  アシタバ・ハルカ&ミトドケ・ヨウ


ヨウ『本題に入るぞ。ますばこの番組の目的だ』

ハルカ『この番組の最大の目的!それは、この彩海学園での共同生活をサポートする事!』

ハルカ『それが、代わり映えさない毎日のマンネリ打破の為のミッション!これをこなしていく事で、皆の仲も深まる……はず!』

ヨウ『そういう事だ。早速今回のミッションを発表させてもらうぞ』

ハルカ『今回のミッションは……”探索する”!』

ヨウ『これから過ごす場所になる。せめてどこに何があるかくらいは把握しておけ』

ヨウ『ついでに、このモニターの裏にオマエラ用の電子生徒手帳を用意した。名前入りの封筒に入っているから間違う事はないだろう』

ハルカ『手帳には校則も書かれているから注意してね!確認してから探索しよう!』

ハルカ『これから、皆の彩り豊かな未来が始まるんだね……。1から、いいや0から!』

ヨウ『まあ、なんだ。心機一転。今までの事は忘れてここでの生活を楽しんでくれ』

ハルカ『それじゃあ本日はここまで!番組の合言葉で締め括るよー!』

『『鮮やかな!!』』

『遥かな明日を!』『見届けよう!』

ハルカ『バイバーイ!』











【Chapter1】
  イロドリミライ











「「……………………」」

瀬川「……え、えーと」

瀬川「探索、する?」

とりあえず。思い付いた案を口にしてみる

あのアニメの言う事に従うのは癪だけど、この学園に何があるのか調べるのはいい事だと思う

おずおずと問いかける私に、虚を突かれた様な顔を見せる皆。……また私、何かやっちゃいました?

スグル「そう、ですね……僕は賛成です」

古河「せやな。ここがどこかもわからへんけど、何があるかは知っといた方がええやろ!」

天地「よーし!そうと決まれば探索探さ……」

デイビット「待ちたまエ。忘れている物があル」

走り出そうとする天地さんをデイビット君が押し留める。そう言えば、何か言ってたっけ……

照星「んっ?忘れ物ってなんっすか?」

デイビット「電子生徒手帳なる物ダ。どうやらあのモニターの裏にあるそうだガ……」

吊井座「め、面倒臭え……後ででもいいだろ……」

駆村「そうはいかないだろう。郷に行っては郷に習え。ここでのルールは把握しておくべきだ」

月乃「……なら、私が取りに行く。全員分ここに運べばいい?」

瀬川「っ!わ、私が行くよ!」

月乃「…………そう?」

ぽかんとする月乃さんを押し退けて、一目散にモニターの裏側へ回る

段ボールに無造作に突っ込まれた幾つもの封筒。私達の探し物は予想していたより質素だった


段ボールを開くと、私の本名が書かれた封筒を手に取る

直ぐ様封筒を破いて、残骸はポケットに突っ込む。中身は薄型のタブレットだ

タブレットの電源を起動させると…そこには、間違いない。紛れもない私の本名が書かれていた

吊井座「お、おい……どうなんだよ?それ……」

瀬川「きゃっ!?ちょ、何するの!?」

吊井座「ヒィッ!?たたた、ただそのタブレットはお前のか聞いただけだろ……!?」

飛田「全く、美しくない。レディに対して背後から近寄るのは痴漢と相場が決まっている!」

月乃「……今回は、吊井座が悪い」

天地「はいはーい!これが皆さんの電子生徒手帳みたいでーす!一列に並んで!ぴしっと!」

臓腑屋「そう張り切らずとも、一人一人に手渡ししていけば良いでござろうに……」

陰陽寺「……………………」

臓腑屋「……陰陽寺殿?もしや並んでいるのでござるか!?」

月神「うふふっ、何だか握手会を思い出すわね。こうして並ぶのは新鮮な気分……」

竹田「ま、並んだ方が短くてええわな。んじゃまあさくっと確認しておくぜ」

竹田さんの主導の元、体育館にイベント待ちの列が出来る

吊井座「な、なんだよ。ったく……」

……どうやら、私のプライバシーは守られた様だ

全員に手帳が行き渡った事を確認すると、私も手帳を操作して校則と書かれた部分をタッチした


『~彩海学園 校則~

彩海学園での共同生活に期限はありません

学園内で殺人が起きた場合、全員参加による学級裁判が行われます

学級裁判で正しいクロが指摘できれば、殺人を犯したクロだけがおしおきされます

学級裁判で正しいクロを指摘できなかった場合は、クロ以外の生徒であるシロが全員おしおきされます

クロが勝利した場合は彩海学園から卒業し、外の世界に出ることができます

夜10時から朝8時までの「夜時間」は、食堂と体育館が封鎖されます

彩海学園の学園長であるモノクマへの暴力は固く禁じられています

モノクマが殺人に関与する事はありません

「死体発見アナウンス」は3人以上の生徒が死体を発見すると流れます

彩海学園について調べるのは自由です。行動に制限は課せられません

モノクマの私物を破壊した場合は、如何なる都合であれ処罰の対象になります

なお、学園長の都合により校則は順次増えていく場合があります 』



御影「お……多くない!?」

照星「むむむ、覚えきれるか不安っすね……」

デイビット「そうでも無イ。肝心な部分のみ抑えておけば支障は無いだろウ」

竹田「もし俺らん中で事が起きたらこの学級裁判っつーのでホシを見つけろってこったな」

陰陽寺「そして、おしおきか。どうせろくなものでは無いだろうな」

スグル「そう……ですよね」

天地「殺し合いなんてする訳ないし関係なーし!それよりもー、こ、こ!見てよー!」

天地「調べるのは自由で制限が無いんだって!早く行こーよー!ごーごー!」

タタタッ

駆村「あっ、おい!……行ってしまった」

朝日「えっとぉ、私達も速く行った方がいいと思うなぁ」

月神「そうね……なら、天地さんに追い付いた人は天地さんと。他の人は自由に探索しましょう」

月神「頃合いを見て私がまた集めるわ。それじゃあ解散!」

月神さんがぱちんと手を叩くと、皆はそれぞれに探索へと向かっていく

一人でいく人、グループでいく人。私はその流れを無視して、ぽつんと一人で立っていた




「……あのっ」

瀬川「?」

ぼーっと天井を眺めていたら、隣から声が聞こえた

この声は、確か……

瀬川「……スグル君。だよね?」

スグル「は、はい。そうです……」

振り向いてみると、スグル君が瞳を潤ませて私の顔を除き込んでいた

綺麗な髪に透き通った肌……よく見てみたら顔立ちも結構可愛いな……

スグル「大丈夫ですか?さっきから心ここに有らずでしたけど……」

瀬川「うぇっ!?あ、ああうん!大丈夫!」

っといけないいけない。妄想の世界に浸るのは私の悪い癖だ。切り替え切り替え……

瀬川「えっと……もしかしてスグル君って一人?」

スグル「え?ええ。僕は一人で探索しようと……」

瀬川「なら良かったら私と一緒に行かない?私、君の事結構気になってるんだ」

……我ながら酷い誤魔化し方。これなんて逆ナン?

気恥ずかしい台詞を聞いたスグル君は、キョトンと目を開くと……

スグル「……はい!よろしくお願いします!」

にこっと柔らかな微笑みを向けてくれた。……きっと、こういうのを無垢って言うんだろうな

その綺麗な笑顔が、私には凄く眩しく見えて……どうしてか解らないけど、胸に変な痛みが走った




瀬川「えーっと……ここが倉庫かな?」

地図を頼りに、まずは一番近い倉庫から覗いてみた

見渡す限りの物、物、物。流石にこれだけあると、逆に不便になる位の物量が制圧していた

デイビット「おヤ。スグル氏と瀬川女史かネ」

スグル「デイビットさん。今は何をしているんですか?」

デイビット「備品の確認ダ。扉の前に備品のリストがあったからナ」

そう言うデイビット君がヒラヒラと振っているのは数枚の紙。まさか全部一人で見るつもり……?

瀬川「それ、もしかして一人で……?」

デイビット「無論。……と言いたいガ、不可能ダ。それニ、ここには心強い助っ人がいる故ナ」

照星「どーんっ!元気っすか?せーんぱいっ!」

瀬川「きゃあっ!?」

スグル「わわっ、照星さん……?」

照星「いひひっ!いきなり逢い引きなんて、二人とも随分肉食っすね!」

唐突に後ろから抱きつかれる。この声と勢いは、間違いなく照星さんだろう

背中の柔らかな感触と、確かに伝わる重量感が、彼女の事を目一杯に主張していた

照星「羨ましいっすか?デイビット先輩!でも自分の胸はそう安くはないっすよ!」

デイビット「ハ、ハ、ハ。それはセクシャルハラスメントと見ても宜しいかナ?」


照星「冗談っすよ……自分が走って、在庫を見てきてるんす!」

デイビット「彼女の体力は底無しダ。ワタシが一人で調べるよりも遥かに効率がいイ」

照星「下にあるのはともかく上にあるのは少し面倒っすけどね。瀬川先輩見て貰っていいっすか?」

瀬川「え、いいの?どうやって?」

照星「確か脚立があったっす。それで棚の上に何があるか見てほしいんすよ!」

瀬川「うん。わかった……」

照星さんが下で脚立を押さえている間に、手早く脚立を登って棚の上を覗く

棚の上には砲丸やら硬球やら……ボール類が箱の中に収まっているのが見えた

瀬川「うーん……砲丸は危なそうだけど、他は多分大丈夫じゃないかな?」

照星「そうっすか!あざーっす!」

カンカンと脚立を降りる。結構高さがあったから、押さえて貰わなかったら危なかったな……

照星「いやー助かったっす!色々な意味で……にひひひひっ!」

瀬川「?」

照星さんがニヤニヤと私の顔を見て笑っている。何しているんだろうと思った次の瞬間―――





照星「先輩……水玉のパンツ、可愛いっすね!」

瀬川「ふぁっ///!?!?」




瀬川「はぁ、はぁ……」

スグル「だ、大丈夫ですか……?」

瀬川「……聞いた?」

スグル「え?……何をですか?」

……不毛な争いだった

『スグルんに言ってくるっす!』とのたまう照星さんを追い掛けて、体力を使い果たしてしまった

その失った体力を回復する為に来たのは……

朝日「はぁい。瀬川さんにスグルくん。いらっしゃあい」

月乃「……ここは食堂。簡単なカフェテリアになっているから座るといい」

倉庫から近い食堂だった。朝日君と月乃さんが、手にコップを持って座っている

朝日「そうそう、ココア淹れてみたんだぁ。なんだか疲れているみたいだしぃ、ちゃあんと甘いものを補給してねぇ」

適当な机に腰掛け、朝日君から渡されたココアを渇いた喉に流し込む

適度な甘さと芳醇な香りが全身を満たす。疲れた身体に染み込んでいくのを、はっきりと実感した

瀬川「はぁ……生き返る……」

朝日「はい、スグルくんにもあげるよぉ。私の愛情がたあっぷり入っているから飲んでねぇ♪」

スグル「あ、ありがとうございます……」

月乃「……次ふざけた事を言ったら辛うじて残っている男性機能を完全に潰す」

朝日「こ、怖いよぉ~助けてぇスグルくぅん」

ああ……回復した体力がみるみる削れていく……


吊井座「…………」

……あ、吊井座君いたんだ

よく見たら机にスケブがある……何か描いてるのなら見せて貰おっと

瀬川「ねぇ、何描いてるの?」

吊井座「うぉあああっ!?!?」

吊井座「お……お前かよ……驚かすなよな……!?」

瀬川「いや、そんな勢いで驚かれるとこっちも驚くんだけど……」

吊井座「べ、別に何も描いてねぇよ……描く物も特にねえしよ……」

瀬川「ふーん……」

確かに、スケブにはクルクルと丸が描かれているだけでイラストらしきものは無い

でも、せっかく超高校級のイラストレーター……神絵師がいるんだから何か描いて貰わないと勿体無いよね

瀬川「……そうだ!なら、私を描いてよ!」

吊井座「う゛え゛ぇ゛っ!?」

瀬川「大丈夫大丈夫!見られる事には慣れてるし、被写体位なんて事ないからさ!」

吊井座「い、い、いや、その……俺……」

……?どうしたんだろう。露骨に目が泳いでる

月乃「……何?絵なら私も描いて欲しい」

言い淀む吊井座君の目の前に、月乃さんがぐいっと身体を前のめりに傾ける

……余談だけれど、月乃さんの”アレ”は私達女子の中でもトップの質量を持つ豊満なものだ

たわわに実ったと表現するに相応しい”ソレ”は、今、吊井座君の目の前でずっしりと重々しく揺れていて……

吊井座「※X○☆∀~~~!?!?」

バタッ

朝日「吊井座くん?あはっ、気絶してるやぁ。月乃ちゃん、何かしたぁ?」

月乃「……何もしていないのに、不思議」

ぽけっとした表情で答える月乃さんとは対称的に、顔を真っ赤にして気絶している吊井座君

……吊井座君は女の子に弱い。ちい覚えた




スグル「吊井座さん。大丈夫でしょうか……」

瀬川「うーん……まあ役得だしいいんじゃない?」

駆村「いったい何があったんだ……?」

古河「どうせロクなモンやないやろ……」

ぶっ倒れた吊井座君は御伽兄妹に任せておいて、私達は探索を続ける事にした

今、私達がいるのは図書室。幾つもの本が置かれている蔵書庫だ

御影「あっ瀬川さんにスグルクン!ここ漫画とか結構置いてあるよ!」

瀬川「ちょ、それあの人気漫画『頭の中に爆弾』の最新刊!?私にも読ませて!」

御影「えっ!?今ボクが読んでいるから読み終わるまで待っててよ!」

スグル「その漫画、好きなんですか?」

瀬川「ううん。流行ってるから見ておきたいだけ」

スグル「そ、そうですか……」

御影「なら後でいいよね?今いいとこだから……」

古河「貸したれや!お前のモンやないやろ!」

御影「先に読んでたのはボクだよ!?」

そう言うと、また漫画を読み始める御影君。私の方が有効に活用出来るのに……

駆村「……瀬川は、漫画が好きなのか?」

駆村「この奥にあるAVルームには色々なアニメのディスクがあったぞ。もし良ければ……」

瀬川「えっマジ!?早く行こ!スグル君!」

スグル「えっ?あ、はい!」

タタタッ

駆村「あ、おい!……行ってしまった。月神もいるからなと言いそびれたが……まあいいだろ」


瀬川「アニメ、アニメっ!」

スグル「あはは……瀬川さんはアニメが好きなんですね」

瀬川「そうだよ!一緒のアニメを見たら、すぐに仲良くなれるんだもん!」

スグル「へえ……そうなんですか?」

そうだよ。と胸を張って返答する

不思議そうな顔をしてるけれど、アニメは魔法みたいなものなんだよ?

私も、生まれて初めての友達はアニメが切っ掛けで仲良くなったんだし……

それから、漫画やラノベみたいなサブカルチャーにどっぷりハマって……

今こうしてコスプレを始めた切っ掛けも……

スグル「……あの、瀬川さん?」

瀬川「うぇっ!?ご、ゴメン!ぼーっとしてた!」

またぼーっとしてた……そう言えば、あの子は今、何をしているんだろう

ここから出る理由が一つ増えたけど、今はアニメを優先だ

まずは何のジャンルにしよう?ここは無難に日常モノで―――



月神「……あら?瀬川さんにスグル君、いらっしゃい」


瀬川「あっ……月神さん……」

月神「二人ともここを調べに来たの?残念だけど、ここには手がかりは無いみたい」

スグル「そ、そんな事無いですよ!きっと、いつかは見つかるはずです!」

月神「ふふ、励ましてくれるのね。ありがとう」

月神「そうそう、ここには色々な音楽のディスクがあるの。気分転換に一曲聴いてみたらどうかしら」

スグル「あ、ありがとうございます……えっと、どれにしようかな……」

月神「スグル君、普段は音楽聴かないのね」

スグル「はい……あまり縁がなくて」

月神「なら、この曲はどうかしら?リズムも落ち着いているし歌詞も好きなの。はい」

スグル「えっと……そのヒモはなんですか?」

月神「イヤホンよ……知らないの?」

スグル「え、えっと……はい……」

月神「へぇ……今時珍しいわね。これで音楽を集中して聴けるのよ」

スグル「あ、ありがとうございます!」

月神「ふふ、どういたしまして!」





瀬川「………………………………」

…………はぁ、ツマラナイ。何のためにここに来たんだろう?


スグル「えっと、それじゃ早速……」

天地「どーん!突撃ーっ!」バーンッ

瀬川「うわぁ!?」

イヤホンを耳につけて、いざ音楽を流そうとしたのを遮って天地さんが割り込んだ

そう言えば、何人か一回も会わなかったけど……その人達はどこにいたの?

天地「皆来てよ!外の景色スッゴいよ!」

瀬川「えっ……外に出られるの!?」

天地「あ……ううん。ちょっと違うかなー」

私が外に出られるのか。と聞くと、途端に顔色を曇らせる

けど、それも一瞬。天地さんはさっきの調子でニコニコと微笑んでいた

天地「……でも!きっとちさっちやあずにゃんも見ればきっと解ってくれる……はず!」

月神「あ、あずにゃん?」

天地「それいけー!俺達がビッグニュースだー!」

スグル「あっ!?…今は後を追いかけましょう!」

月神「そうね……!行きましょう。瀬川さん!」

瀬川「……あ、うん」

台風の様にやってきて、台風の様に出ていった天地さんを追っていく

……なんだかよくわからないけど、少しだけ面白くはなったかな




天地「やっほー!まやっちごっめーん!」

陰陽寺「ふん」

月神「陰陽寺さんも一緒だったのね……」

瀬川「……あれ?臓腑屋さんと竹田さんは?」

確か、その二人とも一度も会ってないけど……

陰陽寺「知るか。どうせ外でへたっているだろう」

スグル「……竹田さんが動けなくなったから臓腑屋さんが介護しているんですね」

天地「でねでねー!今からりぼんちゃんが皆呼んでくるからまやっちが案内してくれるって!」

瀬川「え……陰陽寺さんが?」

月神「ありがとう、陰陽寺さん。嬉しいわ」

陰陽寺「さっさといくぞ」

そっけない返事で切り返される。つかつかと扉の前へ歩いていくと、無造作にノブを回した

陰陽寺「これが外だ。さっさと見てこい」

扉を開く。外からの光で、目眩がした気がした




瀬川「…………え?」

スグル「うわぁ……!」

月神「凄い……こんなに、私……初めて……」

唖然とする月神さんに同意する

目の前に広がる光景に、思わず心と目を奪われる

瀬川「……花畑?」

学園の外に広がっていたのは、花だった

それも、一つだけとか一種類だけとかそんなチャチなもんじゃない

赤、橙、黄、緑、青、紺、紫。青空の光に照らされ輝く、まさしく虹の極彩色の花園だったんだ

でも、そんな心が洗われるような景色を異様なものにしていたのは……

月神「あの壁……まるでこの学園を取り囲んでいるみたい……」

スグル「あの高さじゃ誰も登れませんね…」

そう。この学園から円を描く様に延びている壁

まるで私達を逃さないかの様に、脱出を阻むかの様な悪意に満ちた高さと配置

美しい景色に、ドス黒い悪意。ここは、そんなアンバランスな世界だったんだ


竹田「よう。来たみてえだな……おっと」ガクッ

臓腑屋「竹田殿、無理はなさらぬ方が良いでござるよ……足腰がガタガタでござろう」

竹田「ケッ、これしきの事で……ぐっ!」

スグル「竹田さん!?何があったんですか!?」

竹田「し、心配するな……このくれぇでくたばる様じゃ商社を引っ張れねえんだよ……」

瀬川「ほ、本当に何があったんですか!?」

臓腑屋「安心されよ。竹田殿はただ階段を踏み外して足を捻っただけでござるよ」

竹田「くそっ、後十年若けりゃあな……」

……ただの年のかい!


御影「うわぁ!?何だこれ!?」

飛田「foo……うつくしい……」

月乃「……綺麗な花園」

デイビット「フーム……あの壁を攻略する手立てが無い以上自力での脱出は困難だナ」

月神「……皆も来たみたいね」

天地「全員集合!それで、これからどうする?」

吊井座「ど、ど、どうするって……」

月神「そうね……ここは好きに探索してみたらいいと思うわ」

月神「いきなりこんな事になって皆も混乱しているだろうし……」

デイビット「それに賛成しよウ……嗚呼、夜時間前に食堂に集まって貰おうカ」

瀬川「えっと、他に何か決める事は……」

陰陽寺「もういいだろう。僕はいくぞ」

古河「あ、待てや!ああもう!お高く止まりおってアイツ、ホンマムカつくわ!」

吊井座「お、おっかねえよ……どっちも……」

古河「なんやて!?」

吊井座「ヒイッ!?」

……どうやら、今から自由に行動してもいいらしい

特にやる事は無いけれど……どうしよっかな?




と、言ってもやる事ないなぁ……

花畑でも散歩してよ。暇だしね

照星「くんくん……」

瀬川「って照星さん!?」

首筋に吐息がかかる。振り向くとしなやかな少女が私の後ろで匂いを嗅いでいた

瀬川「な……何?花の匂いでも嗅いでるの?」

照星「んー……先輩、何か匂うっす!」

瀬川「えっ、ウソ!?もしかして汗臭い!?」

さっき走り回ったから……?うわぁ、最悪……!

照星「うーん、そうじゃなくてなんか、甘い匂いがするっす!」

瀬川「へ?」

朝日「あはっ、それ、ココアじゃないかなぁ?」

瀬川「きゃっ!?」

花畑の中から朝日君がやってくる。手には花を幾つか摘んでいた

朝日「えへへぇ、チョコの香り付けにいいかなって思って少し摘んじゃったぁ」

朝日「今日、夜に皆で集まるでしょお?その時に何か出そうと思ってるんだぁ」

照星「楽しみっす!夜に皆と乱こ……いひひっ!」

瀬川「言わせないからね!?」

……仲良くなれた。のかなぁ?

探索編終了
次回は夕食会です


キーンコーンカーンコーン

瀬川「あ……もうこんな時間」

適当にほっつき歩いていたら、既に時計は夜時間を指していた

食堂で皆待ってるはずだし早く行こう。イベントは遅刻厳禁だもんね


瀬川「……もう皆集まってるかなぁ」



瀬川「ごめーん。遅れ……」

臓腑屋「にゃああぅ!?落ち着くでござるよ月乃殿!?」

月乃「……止めないで。これは必要な事」

古河「アカンアカン!誰かこっち来てえなー!」

スグル「は、はい!朝日さん、大丈夫……」

朝日「あはぁ、スグルくぅん。怖かったよぉ」

臓腑屋「火に油でござったーーー!?」

飛田「……我慢出来ぬ!オレを見ろぉぉぉ!!」

月神「きゃあああ!!」

駆村「うおっ!?いきなり服を脱ぐな!」

陰陽寺「はっ」スパーンッ

飛田「ガッ……ガッ、デ、ム……」バタッ

月神「あ……ありが、と……?」

……現在、食堂は大惨事でした

月乃さんが朝日君の髪を引っ張って引きずろうとしているのを止めたり、飛田君を陰陽寺さんがシバき倒してたり……

……なんか、もう既に帰りたい


デイビット「ハ、ハ、ハ。戯れはそこまでにしておきたまエ」

天地「お料理持ってきたよー!りりっちとあさっちとおきっちに手伝って貰ったんだー!」

天地「だから皆!三人には特に感謝して食べてください!きりっ」

吊井座「は……?え、誰の事だよ……」

確かに誰の事なんだろう…えっと、確か、私の事はちさっち?だったよね?

月神「えっと、臓腑屋さんに朝日君、駆村君ね」

月神「皆を代表してお礼を言わせてもらうわ……ありがとう」

臓腑屋「や、忝ない。拙者は拙者の為すべき事をしただけにござるよ」

朝日「えへっ、なんだかくすぐったいなぁ」

駆村「俺は本当にただ見ていただけだがな……だけどありがたく受け取ろう」

わかったんだ……

御影「ね、ねえ!そろそろ食べてもいいよね!?」

天地「駄目です」

御影「何でさ!?」

天地「ちゃんといただきますってしてから!はい、皆手を合わせてー!」

「「いただきまーす!」」




陰陽寺「………………………………」



古河「おぉ!ウチ好きなんよ!だし巻き卵!」

臓腑屋「それは何よりでござる!今回は好き嫌いが少ない物を選んだのでござるよ」

竹田「いやー胃に優しいモンが多くて助かるねぇ。俺みてぇな年寄りには和食が合うぜ」

臓腑屋「先に言っておくでござるが、拙者は和食しか作れない訳では無いでござるからな!」

御影「言ってないよ!?」



飛田「…………皿が地味だ。ここにオーロラソースでもかけてみるか!?」

駆村「止めてくれ!全員の皿にそんなものをかけたら味が滅茶苦茶になるだろう!?」

飛田「味などどうでもよい!美しくなければ、それは失敗なのだよ!!」

照星「ちょ、マジなんすか!?こうなったら自分の夜の極め技四十八手で……」

朝日「はい。飛田くんあ~ん」

飛田「あ~ん……むがぐっ」

朝日「甘ぁい甘ぁいチョコだよぉ。お口の中でゆっくり融かして食べてねぇ」

駆村「……大人しくなったか?」

照星「戦わずして勝つ……これぞ柔よく剛を制す。なんすかね?」


瀬川「えっと、スグル君は……あ、いた」

スグル「……大丈夫でしたか?吊井座さん」

吊井座「あ、ああ。なんとか、な……」

月乃「……急に倒れて心臓に悪い。低血圧?」

吊井座「そ、そ、それも、あるけどよ……」

月乃「……?」

スグル「もしかして、女の人が苦手なんですか?」

吊井座「あ、ああ……」

瀬川「なーんだ!それならそうって言ってくれればいいのに!」

ガシッ

吊井座「おああああ!?!?」バターンッ

月神「きゃっ!どうしたの!?吊井座君!?」

瀬川「え、えーっと、これはその……」

月乃「……あんまり気にしなくていいと思う」

スグル「でも、放っておく訳には……僕が吊井座さんを見ているので、皆さんはお食事をどうぞ」

瀬川「え……あー、うん……」

倒れた吊井座君を安静な体勢にして、近くに座る

この中では一番話しやすい子だし、一緒に食べたいと思ってたんだけどな……


月神「……はい。二人ともどうぞ」

瀬川「あ、ありがと」

月乃「……どういたしまして」

近くのテーブルから、幾つかの料理を運んでくれた月神さん。にこりと笑う姿は、とても輝いていた

因みに、さっきの騒ぎは皆気にしていないみたい。今も、御影君と古河さんが何か喧嘩してるし……



御影「だから、目玉焼きには醤油だろ!?」

古河「何言うとんねん!ソースに決まっとるわ!」

臓腑屋「統一する訳ではござらんし、別にどうでもよいのでは……?」

竹田「わかってねえなあ。漢にはな、譲れねえ一番勝負ってのがあるモンさ」

天地「先生ストーップ!喧嘩するなら、二人の目玉焼きにはケチャップかけちゃいます!」

御影、古河「「それは無いだろ(やろ)!?」」



月乃「……騒がしい人達」

瀬川「あはは……アクが強いよね」

月神「でも、皆いい人よ?なんとなくだけど、私達はきっといい友達になれる」

月神「私はそう思っているの。瀬川さんに、月乃さん。これからもよろしくね」

グラスを傾けて微かに笑う。これは…乾杯って事?

月乃「……ん、兄はともかく、私も良好な関係を築きたいとは思っている」

瀬川「……私もだよ」

それに合わせる様に二人でグラスを重ね合わせる。約束の乾杯は、私の予想以上に軽い音がした

月神「それじゃ、乾杯。これからの私達の―――」





デイビット「……でハ、本題に入らせて頂こウ」



デイビット君が厳かに切り出す

決して大きな声では無いはずなのに、不思議と皆が静まり返った

デイビット「さテ、我々は今極めて異常な状況下に置かれている事は承知だろウ」

デイビット「でハ、その上で現在の我々に必要なものは何カ?それは秩序ある統率ダ」

デイビット「その事を留意した上で提案ダ。今後、我々の中で行動を纏めるリーダーを選出したイ」

リーダーの選出……つまり、今から私達のリーダーを決めたいって事?

古河「そんなん。オマエがやればええやろ!」

デイビット「無論、ワタシもその役割を担うつもりではあル。しかシ、単独でのリーダーは独裁となる危険もある故ニ」

竹田「一理あるな。いつ上がくたばってもいい様に指揮権限は複数に分割するべきだぜ」

御影「た、竹田さんはボク達が殺し合いをするって言いたいんですか!?」

竹田「そうじゃねえよ。あくまで一般論のつもりで言ったんだけどな」

デイビット「ご理解頂き感謝すル。でハ、我こそはという者はいないのかネ?」

デイビット「自薦、他薦は問わなイ。必要なのは責任感だからナ」


照星「はいはーい!天地先輩はどうっすか?」

天地「指名ありがとーっ!でもりぼんちゃんは先生なので辞退します!面倒だからじゃないよ」

朝日「本当かなぁ?」

駆村「竹田さんはどうだ?最年長だし、社長なんでしょう?」

竹田「別に俺は構わねぇけどよ。オメェらは年上に素直に従う様なタマじゃねえだろ」

月乃「……否定はしない」

御影「ならボクが!」

飛田「いや……ここは最も美しきオレこそが……」

古河「オマエらはダメや!拗れるやろ!」

御影「そんなー!」





…リーダー決めは難航中。推薦されては辞退され、立候補すれば返り討ち

終わりの見えない喧騒の中、私の心には、ある欲望が芽生えていた

もし、私が……私が、皆のリーダーになったら?



もし、私がリーダーになったら……



きっと、皆とはもっともっと仲良くなれる



私の事を信頼してくれるし、私の事をもっと好きになってくれる



そうだ、そうだよ!今ならいける。私が皆の中心に立てる!もっと人気になれる!



瀬川「ね……ねぇ!私……!」

意を決して声を上げる。私が、私が―――っ!









「なら、私がやるわ」







瀬川「………………………………ぇ」

私と同じ……ううん。私より少し遅いタイミングで誰かが立候補した

月神「私は、皆と友達になりたい。その為に、少しでも皆の力になりたいの」

月神「きっと、こんな状況じゃなかったら、皆とはきっと友達同士になれた筈だから……」

その人は、朗々と明るい声で、振り返る程愛らしい顔で、眩しい位の夢で語る

月神「だから、私は皆と一緒にここから出たい。外の世界で、もっと仲良くなる為に!」

月神「……ダメ、かしら?」

……月神さんの問いに、誰も答えない

嫌だ。私もやりたい。その一言すら言えなかった

陰陽寺「どうでもいい」

古河「どうでもいいってお前……まあ、熱意あるんやし任せてもええやろ!」

竹田「ま、嬢ちゃんが適役だわな」

飛田「美しい……」

駆村「賛成……なんだよな?」

次々に月神さんを推していく皆。このままだと、私は……私が……

スグル「……あの、瀬川さんはどうですか?」

瀬川「え?」

月乃「……もう、全員の意見は聞いた。後は千早希だけ」

デイビット「もシ、君に異論が無いならば月神女史がリーダーとなるガ……」

……今だ。今なら言える。たった一言、それだけを

瀬川「……私は」


瀬川「……月神さんがリーダーでいいよ」

瀬川「寧ろ月神さん以外にいないって言うか、月神さんなら任せられるよ!」

デイビット「フーム、ならバ、満場一致で月神女史で決定だナ」

月神「皆…ありがとう!これからもよろしくね!」

……終わった。何事も無く、波乱も無く。リーダー決めは順当に流れていった

取り合えず今日はゆっくり休んで、またこうして集まろうという事で今日は解散となった

外にあった寄宿棟の部屋に向かう。中はシンプルなホテルの様だった

……今日は本当に色々あったなぁ。拐われたり、コロシアイとか言われたり、探索したりと忙しかった

でも、きっとなんとかなるよね?皆と友達になれたらいいな……




…………本当に?



なら、どうしてこんなに胸が苦しいんだろう

私は、どうしてこんなに悩んでいるんだろう

リーダーになれなかったから?ううん。皆が月神さんがいいって言ったんだ

なら、これは正しい事なんだ。私がリーダーになるよりも、よっぽど

でも、なら、どうして……

こんなに、胸の奥がズキズキするんだろう?





瀬川「……気持ち悪い」

そう呟いて、目を閉じる

胸のズキズキとは裏腹に、私の意識は、暗闇にドロドロと溶けていった

…………………………

…………

……


一日目終了です
次回からは二日目なので、少しペースアップ出来たらいいなと思います




……頭が重い

というか、身体全体が怠い……

「……今何時?」

グラッ

「あれ……きゃあっ!?」ドサッ

枕元に置いてある時計を見ようとして、手を伸ばしたら……身体が下に落下した

痛みで思考が覚醒し始める。そうだ、私は……

「……夢じゃなかったんだ」

いきなり拉致されて、彩海学園なる所に監禁され、コロシアイしろと言われ……

あんまりに荒唐無稽な出来事は、私の期待していた結末……夢オチじゃなかったんだね

「って、服着替えるの忘れてた……」

そうだ。昨日は物凄く疲れたから、ベッドにすぐに横になったんだっけ

おかげで服もグチャグチャ……クローゼットから、何か着替えを探さないと……


「……うわっ、どれも同じ」

クローゼットを開けた瞬間、思わず目にした光景を素直に口に出してみる

服を揃えるのが面倒だったのか、あるいはこのコロシアイの首謀者は余程ファッションに疎いのか……

どれも、私の着ている服と同じものしか入っていなかった。ご丁寧にパンツまで同じ柄を完備してる

「まあいっか。急いでるし、めんどいし」

手早く服を脱いで、適当な一着に手をかける。それを引き抜くと、奥に何かが仕舞ってあった

「あっ、違うのもある、の、か……」

……これは

「……同じ種類のにしよーっと」

うん。これを着るのは勇気がいる。昨日と同じものが無難だよね

軽めにシャワーを済ませて服を通す。昨日着ていた服は、備え付けの洗濯機に放り込んだ

「よし……行ってきます!」

決意を固めて、ドアを開ける。ここからは、皆の為に頑張る”瀬川千早希”になるんだから!




瀬川「おはよー。遅れた?」

月神「いいえ、そんな事無いわ。おはよう!」

臓腑屋「む、瀬川殿!朝食は拙者が用意しておいた故、是非食べてほしいのでござる!」

瀬川「これは……おむすび?シャケある?」

臓腑屋「シャケでござるか?ええと……多分これでござるな」

手渡されたおむすびを頬張る。うん。これは間違いなくシャケだ

周りの皆も、思い思いのおむすびを頬張って、緑茶を片手に談笑していた

……いや、一人足りない?

天地「それでは朝のご挨拶!皆揃ってるので……」

朝日「あれぇ?陰陽寺さんがいないねぇ」

飛田「な、なんと!オレとした事が可憐なる乙女を見逃していたというのか!?」

御影「えぇー?どうせ一人で一匹狼気取っててるだけでしょ?放っとこうよ」

月乃「……まだ昨日の喧嘩を引きずってると見た」

古河「ホンマちっさい男やで……」

御影「うるさいな!?関係ないからね!?」

デイビット「だガ、彼女一人の独断行動を許容すべきでは無いのも確かダ」

月神「やっぱり放っておけないわ。私、陰陽寺さんを探してくるわ!」

天地「りぼんちゃんも行くー!」

どうやら、陰陽寺さんを探しに月神さんと天地さんが寄宿棟に向かったみたい

待ってる間暇だな……誰かと話でもしてよっと




御影「別にいいじゃんあんな奴……何でそんな……」

スグル「御影さん……まだ怒っているんですか?」

御影「何だよその言い方!まるでボクが延々と引きずってるみたいじゃないか!」

スグル「ご、ごめんなさい……」

御影「ったく……スグルクンはさぁ、もっと言葉に気を使って話しなよ!」

御影君はまだ怒っているみたい。どうやら近くにいたスグル君に当たっているけど……

瀬川「待ってよ……八つ当たりは良くないよ?」

御影「瀬川さん!?八つ当たりじゃないよ……ボクはただスグルクンに口の聞き方を……」

瀬川「それが八つ当たりなんだってば!スグル君が泣きそうになってるじゃん!」

御影「わ、わかったよ……ゴメン、スグルクン……」

スグル「あ、いえ!大丈夫ですよ、御影さん」

よし、これで一件落着。なんて事は無かったね

……でも、泣きそうなスグル君も可愛かったなあ

御影「でも陰陽寺さんって性格悪いよねー。愛想は無いし喋らないし」

瀬川「あ、それはわかるかも」

スグル「瀬川さん……?」

……少しは仲良くなれたよね。うん


タタタッ

天地「やっほー!ただいまーっと!」

駆村「お、戻ってきたか」

飛田「おお!待っていたぞ!で、レディは……」

竹田「ん?嬢ちゃんの二人だけか?陰陽寺の嬢ちゃんはどうした?」

月神「それが……」

天地さんと月神さんが戻ってきた……けど、何だかあんまりいい雰囲気じゃなさそう

陰陽寺さんもいないし、何かあったのかな?

天地「実はねー……」



陰陽寺「お前達と共に行動する事に、僕には何の理由も感じない」

陰陽寺「邪魔をするなら斬り捨てる。他の奴等にもそう言っておけ」



天地「……だって!」

古河「いや、だってやないやろ!?」

吊井座「き、斬り捨てるって、どうすんだよ……」

月乃「……触らぬ神に、祟りなし」

照星「確かにそうっすね。余計な事して激おこファイアーになるのは困るっす!」

デイビット「彼女の力は我々にとって極めて有用なのだガ……残念だナ」

……陰陽寺さんは独りで行動するんだ

皆も陰陽寺さんには関わらない方針にしたらしい

私も出来れば関わりたく無いけど……

でも……




竹田「全く、陰陽寺の嬢ちゃんにゃあ困ったもんだねぇ」

デイビット「ああも協調性が無いト、此方としても対応しかねル」

デイビット「一番なのハ、彼女から我々に協力してくれる事なのだガ……」

竹田「そりゃあ無理だな。けんもほろろに追っ払われるのが目に見えらぁ」

……食堂を通りかかったら、竹田さんとデイビット君が話し込んでいるのが聞こえた

やっぱり二人とも、陰陽寺さんの扱いに困っているみたいだね……

竹田「しゃあねぇ。月神の嬢ちゃんにでも頼んで説得させてみっか?」

デイビット「それが一番だろウ。彼女程信頼のある女性もいるまイ」

……え?

竹田「んじゃ、早速月神の嬢ちゃんを探して……」

瀬川「ま、待って!」

竹田「ん?瀬川の嬢ちゃん。何か用か?」

瀬川「えっと……陰陽寺さんの事だよね?」

デイビット「おヤ。聞いていたのかナ?それが何かあるのかネ」

瀬川「え……えっとね……」

別に、私が彼女をどうこうする事にメリットなんて無い

だけど、私だってリーダーをやりたかった。私からリーダーを奪った月神さんには……




瀬川「もし良ければ…私に任せてくれないかな?」

……負けたくない。それだけだ




陰陽寺「……………………」

瀬川「……いた…………」

陰陽寺さんを探すこと数十分。彼女は校舎の影で目を瞑り、微動だにせず佇んでいた

まるで抜き身の日本刀の様な、触れるだけで傷つきそうな鋭利な空間。眺めているだけで心が強張る

でも……じっとしてはいられない。一歩、勇気を振り絞って……!

瀬川「お……陰陽寺さん!」

陰陽寺「……………………」

瀬川「えっと……その……み、皆と一緒に」

陰陽寺「失せろ」

瀬川「早っ!?」

どうしよう。予想以上に対応が塩だ

だけど、ここで引くわけには……!

瀬川「な、何でそんなに頑なに独りで行動しようとするの?一人より皆と行動した方がいいじゃん!」

陰陽寺「僕の足手まといになるからだ」

瀬川「そんなのわからないじゃん!陰陽寺さんは自分勝手な事しかしてないのに、皆の事がわかる訳ないよ!」

瀬川「皆で仲良くしようよ!ここから一緒に出る為にもさ!」

陰陽寺「……………………」

こっちをじっと見つめてる……?これはチャンス!

瀬川「だからさ、まずは明日の朝、皆で朝ごはん食べようよ!そうすればきっと仲良くなれるから!」

瀬川「まずは私と友達になろう!はい、握手……」







パァンッ!






瀬川「……え?」

差し出した手に、強い衝撃と激痛が走る

見てみると、掌は真っ赤に腫れていた。何かで手を叩き落とされたんだ

陰陽寺さんの手には竹刀……あれで、私の手を……!

瀬川「な、に、するの……!」

陰陽寺「もうその手は伸ばさないのか。さっきまで綺麗事を吐いていた癖に諦めが早いんだな」

陰陽寺「お前の言葉は何もかもが薄っぺらい。お前の様な嘘つきに関わるだけ、僕の時間の無駄だ」

冷たくそう吐き捨てられる。その目に映る感情に、心の奥から、何かが芽生えるのを感じた

瀬川「何が……薄っぺらい……嘘って……!」

陰陽寺「皆と仲良くなりたい。友達になりたい。か、随分と素晴らしい話だな」

陰陽寺「なら聞かせてもらおうか。お前は何故友達になる事に拘る。その目的はなんだ」

瀬川「えっ……」

陰陽寺「なんだ、言えないのか。それとも、僕には言いたくないのか。どっちだ」

淡々と此方に疑問を投げ掛ける。何で私が皆と友達になりたいかって

そんなの……

瀬川「そんなの……皆と仲良くなって、もっと皆の事を知りたいから……」

陰陽寺「違うだろう」


陰陽寺「お前は誰にも興味は無い。ただ、自分の事を押し付けているだけだ」

陰陽寺「大方、自分を良く見せようとして孤立している僕に話しかけたんだろう」

陰陽寺「お前は”自分のプライドの為に他人を利用している”んだろう。それも、故意にな」

陰陽寺「お前みたいな奴の事を、何と言うか知っているか」

陰陽寺「……偽善者が」

混じりけの無い言葉が、私の心を切り刻む

……そう。私は、本当は別に皆と仲良くなろうなんて思っていない

このまま、私が皆から見棄てられるのが嫌だから。何か役に立って、好かれないといけないから

だから陰陽寺さんを利用した……私が、彼女を説得したと思わせる為に

陰陽寺「偽善者の言葉に従う理由は無い。わかったのならばさっさと消えろ」

陰陽寺「今度は顔を狙うぞ」

そう宣言する陰陽寺さんからは、既に私との会話を続ける意思は無い

瀬川「……そ、ごめんね。またね」

だったら、こっちももう話す事はしない。踵を返して、彼女の元から去る事にしたんだ





瀬川「だったら、殺されても文句言わないでよね」

頭の中で巡る、彼女への憎悪を抑えながら




瀬川「……~~~っっ!!」

今、私は自分の部屋にいる

食堂へ向かうと、誰かから聞いたのか、他の人が様子を聞いてきた

『ごめんね』と言ったときの、哀れむような視線。他に何か言ってた様な気もするけど、どうでもいい

喉が渇いたからと適当な缶ジュースを手にとって、逃げるように部屋に戻ってきたんだ

瀬川「何なの……何なの、何なの、何なのッ!!」

瀬川「良く見られたいって…当たり前じゃん!何で私があんなに言われないといけないの……っ!?」

一人きりという安心から、心の奥底から感情が爆発する

この感情は……憎悪、憤怒、激昂

色々な感情がグチャグチャに溶け合って、私にも、既に意味がわからなくなっていた

瀬川「あんな奴……本当に死ねばいいのにっ!!」

そのグチャグチャをいっきに飲み込む。残った缶を備え付けのゴミ箱に放り投げた

クルクルと綺麗な放物線を描いたゴミは、すとんと円形の箱の中に落ちていく

ゴミ箱の中を確認する。缶は、ティッシュやお菓子の包装のゴミ等に埋もれていた

瀬川「はぁ……はぁ、はぁ……!」

瀬川「…………寝てよ」

まだ日は高いけど、今は動き回る気分じゃない

ベッドに横たわると、胸のドロドロは、少しだけ収まった気がした




瀬川「……………………」

「うぅん。駄目だったみたいだねぇ」

「せ、瀬川の奴……やっぱ落ち込んでるよな……?」

「アホ!こういう時はそっとしておくねん」

夜時間になった。食欲は無いけど、一応食堂には顔を出しておこう

案の定陰陽寺さんはこなかった。あれだけ言ったんだから、来てほしくもないけど

もう、何もかもがどうでもいい。誰かの話に相槌を打つのも面倒くさい……

「嬢ちゃんでも無理なら、こりゃもうダメだな」

「あーあ!信じてたんだけどなぁ」

「お前……そんな事を言うもんじゃないぞ」

聞こえているよ。でも、それを言って何になるの?

瀬川「……私もう寝るね!お休み!」

「……おやすみ。あまり気にしない方がいい」

「また明日ダ、それから今後の事を決めよウ」

誰かが、私に何か話しかけてきた

けど、正直反応する余裕なんてない。面倒だし

ああ、今日は最悪だ。全部が上手くいかない。イヤになってくるからもう寝よう

こんなんじゃダメってわかっているのに、心が言う事を聞かない感覚

それから逃げるみたいに、食堂を立ち去ろうとした








「……あの!」

瀬川「ん?」

誰かに呼び止められた。この声は……スグル君?

スグル「えっと……僕はお二人の間に何があったのかはわかりませんけど……」

スグル「それでも……僕は信じてますから」

スグル「きっと、全員揃ってここから出る事が出来るって」

スグル「……それだけです。すみませんでした」

……本当にそれだけ。それだけ言って食堂に戻った

どうせ、君も私の事を馬鹿にしているんでしょ?

そんな不貞腐れた考えが頭をよぎって……そんな自分が、更に嫌いになった











陰陽寺「………………」

月神「……こんばんは、陰陽寺さん。隣、いい?」

陰陽寺「好きにしろ。僕は戻る」スッ

月神「……空、見ていたの?」

陰陽寺「………………」ピタッ

月神「綺麗な星空…それに満月。もう皆寝静まっているから、存分に見ていられるわね」

陰陽寺「何の用だ。また瀬川の様に、僕に貴様らと馴れ合えとでも言うつもりか」

月神「そうじゃないの。私もね、小さな頃は、よく弟と一緒に夜空を見ていたの」

月神「『いつかお月様に手が届きますように』ってあの子は言うの。遠い遠い宇宙への憧れを持って」

月神「私は、超高校級のアイドルなんて言われているけど……弟は、今でも私の手を握ってくれる」

月神「私は、それ位大切な人の身近にいたいのよ」

陰陽寺「何が言いたい」

月神「一緒に夜空を見ない?これ、臓腑屋さんのおむすびと、朝日君の淹れてくれたココアなの」

月神「夜は長いし……ね?」

陰陽寺「……好きにしろ」ストン




……………………

…………

……

二日目終了
次回は動機発表になると思います


瀬川「……皆!おはよー!」

「……でさー」「そうなの?」「へー」

瀬川「……あれ?ねぇ、どうしたの?」

「だからさ……」「ああ」「ふーん」「なるほど」

瀬川「ちょっと……ねえってば!ねえ!」

「…………」「…………」「…………」

瀬川「……ねえ、何で黙るの?私、何かした?」

「……あいつウザいよな」ヒソヒソ

「影薄いくせに、出しゃばってきてさ……」ヒソヒソ

「ああいうのサムいよな」ヒソヒソ

瀬川「な、何で……何でそういう事言うの?」

瀬川「何か悪い事したなら謝るよ……それに、嫌いな所があるなら直すし……」

「そういえば、あいつに友達っていんの?」

「いるわけないじゃんwwwぼっちなんだしwww」

瀬川「何で……何で、何で、なんでよぉ……!」

瀬川「どうして……そんなこというの……!?」

瀬川「わたしは……みんなにすきになってもらいたいだけなのにぃ……!」

どうして……?私は、私を皆に好きになって貰いたいだけなのに……

私が好かれようと頑張ると、いつも、皆は私の事を嫌いになっていく

私の理想と私の現実。その二つの境界で、板挟みにされた私の心は静かにすり潰されていった


……………………

…………

……




瀬川「……………………」

……目を開くと、部屋の天井が目に入った

どうやら、あの光景は夢だったみたい……最悪な

汗で服がべっとり……しかも、まだ朝の五時。今から集まるには早すぎる時間だし……

瀬川「……シャワー浴びてこよ」

とにかく、今はこの不快感を洗い流してしまいたい

服と虚飾を全て脱ぎ捨て、身体と、夢の中の嫌な記憶をまとめて洗い流す

水を全体に浴びせると、何もかもが、溶けて、外へと流れ落ちる感覚に包まれた

「……………………」

深く息を吐いて、思考を冷静に戻す。まずは昨日の夢の原因を考えてみよう

何であんな夢を見たんだろう……きっと、昨日の事で心に結構ダメージを受けていたからかな?

でも、もう大丈夫だ。もうあんな事には絶対にならないし……させない

絶対に……絶対に絶対に絶対に絶対に絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対……







見棄てられて、たまるもんか





……とはいえ、ずっと部屋にいるのも退屈だし

昨日は夜ご飯食べてなかったから、食堂で軽く小腹でも満たしておこう

瀬川「……ふぁああ。でもやっぱり二度寝しとけば良かったかな……」

学園の中は照明が抑えられてて暗いし、何より一人きりの学校なんて、寂しくて嫌いだもん

ずっと、ずっと一人で……ここでなら誰かと仲良くなれるってずっと信じていたのに……

瀬川「……あー!リセットリセット!」

もやもやとした思考を打ち止めて、足早に歩く速度を速めていく

今朝から、ネガティブな事ばかり思い付いちゃう。こんな事じゃいけないってわかっているのに

そろそろ食堂に着くし、何を食べるか決めて……

「」ドンッ

瀬川「……きゃっ!?」

ぼんやりと考え事をしていると、何かにぶつけたのか、身体に軽い衝撃が走った

瀬川「痛ったいなぁ……誰、なの……!?」

ぶつかっといて、謝りもしないなんて。誰だろうと振り向いてみると……

陰陽寺「……………………」

よりにもよって、今一番会いたくない人に当たってしまったんだ……


瀬川「……陰陽寺さん」

陰陽寺「……………………」カツカツ

瀬川「ねえ、何処に行くの?食堂は逆だよ?」

陰陽寺「用は済ませた。僕はもう必要はない」

瀬川「ふーん……こんな朝早くからご苦労様」

瀬川「ならさっさと帰れば?どうせ皆と仲良くする気も無いんでしょ」

陰陽寺「そのつもりだ」

つかつかと歩いていく陰陽寺さん。その背中が無性に腹立たしくなって……

瀬川「……皆はこう言っているよ」

瀬川「『陰陽寺さんが、いつかコロシアイをするんじゃないか』ってさ!」

瀬川「確かに、人を殺せそうだもんね!きっといつか、誰かを殺すもんね!」

瀬川「人殺しなんかが、最初から私達の仲間になれる訳が無いもんね!」

陰陽寺「……………………」

思いっきり挑発してやった。陰陽寺さんは振り向いて、無表情で此方を見ている……

いや……何となく……気のせいかもしれないけど……

……睨んでいる?




陰陽寺「……」ガシッ

瀬川「ぐぅ……っ!?」


陰陽寺「調子に乗るな」グッ

瀬川「ぐぅ……っ!」

一気に距離を詰めた陰陽寺さんに、喉元を掴まれる

ギリギリと力を込めていく手から、彼女の静かな怒りを感じる

瀬川「そ……そうやっ、て、何でもかんでも、力で解決出来ると、思っているの?」

瀬川「ずっと貴女は一人ぼっちだから、わからないだろうけど……うぐっ!」

陰陽寺「黙れ」グググ

どんどん空気が入らなくなる。目がチカチカして世界が回る。あ、これマズイ……

陰陽寺「……」パッ

瀬川「ぐえっ!?はぁー……っ、はぁーっ……」

いきなり手が放される。肺のなかに、新鮮な空気がたっぷりと入る感覚に溺れそう

陰陽寺さんは気が済んだのか、手をふらふらと振りながら此方を見下ろしていた

背丈では私の方が高いのに、今は彼女が私を見下している

その蔑んだ様な視線に、落ち着き始めていた嫌な感情が膨れ上がってきた

瀬川「…………っ」

陰陽寺「なんだ、やる気か。受けてたつぞ」

瀬川「……っ!このっ!」

挑発され返されると、もう冷静に考える事は出来なくなった。立ち上がって睨み付けると……




「んっ?何してるんすか?にひひっ!」




瀬川「……!……照星さん?」

照星「あれ?陰陽寺先輩も一緒っすか?」

陰陽寺「何をしにきた」

照星「何って……朝の一杯っす!自分、朝は色んな運動するからいっぱい汗かくんすよね」

照星「なんで、シャワー浴びた後の一杯を飲みに来たんすよ。にひひっ」

確かに、照星さんの身体はうっすらと汗ばみ、ほこほこと湯気が立っている

彼女はにへらっと笑うと、おもむろに陰陽寺さんの手を取った

照星「せっかくの機会なんで、皆が来るまで食堂で話さねーっすか?勿論陰陽寺先輩もっすよ!」

陰陽寺「断る。離せ」

照星「嫌っすよーいひひひっ!」ガバッ

言うが早いか照星さんは陰陽寺さんに思いっきり抱きついた。これは……まさか、あすなろ抱き……!

流石に身体全体に抱きつかれて観念したのか、陰陽寺さんは渋々といった様に食堂へ歩こうとする

照星さんも抱きつくのを止めて、成り行き上三人で朝ごはんを食べる事になったんだ

瀬川「……ちなみに、今何時?」

照星「多分7時前じゃねーっすか?」

……そろそろ皆が来そうだけれどね




臓腑屋「ふんふふふーん……む?何奴……」

臓腑屋「……にゃあぁ!?お、陰陽寺殿!?」

ガッチャーン

臓腑屋「にゃあぅ!危うくお皿を落としそうになったでござるよ!?」

駆村「な、何だ!?何の騒ぎだ!?」

瀬川「あははは……お騒がせしまーす……」

陰陽寺「随分な挨拶だな。そんなに僕がここに来る事がおかしいか」

臓腑屋「そういう訳ではござらぬ。普段より拙者らを避けている陰陽寺殿が顔を見せた事に驚いたのでござるよ」

照星「そういや。お二人はどこから来たんすか?」

駆村「裏口からだな。朝食を作る時にはいつもここから通ってきているぞ」

臓腑屋「因みに、昨日は月神殿と朝日殿が手伝いに来てくれたのでござるよ!」

瀬川「月神さんが?ふーん……」

照星「何かあったっすか?」

瀬川「ううん。なんでもなーい」

月神さん料理出来るのかな……私?レンジでチンも立派な料理だよね……

瀬川「……私も、料理手伝うよ!」

臓腑屋「おお!それはかたじけないでござる!」




御影「おはよー!いやー寝坊しちゃった……」

御影「……うわあああ!?陰陽寺さんだぁぁ!?」

竹田「おうおう……この反応、今日で何回目だ?」

臓腑屋「もう何度も聞いているでござるよ……」

あれから朝の朝食まで、何度もおんなじ台詞を聞く事になるとはね……

陰陽寺「ふん。僕は居たいとは言っていないがな」

月神「もう、そんな事言って……」

朝日「皆で食べた方がぁ、絶対に美味しいよぉ?」

吊井座「べ、別に強制はしねえけどよ……」

月乃「……でも、来てくれて嬉しいのは確か」

デイビット「ハ、ハ、ハ。我々は勿論歓迎するサ」

陰陽寺「ふん」

月乃「……ところで、どうして千早希は指に絆創膏を貼っているの?」

瀬川「あはは……気にしないでいーよ……」

慣れない事はするもんじゃないね、本当……

月乃「…………?」

飛田「だが!しかし!これで麗しき花園は完成したと言えるのではないかね!?」

古河「それ、全員揃ったっつー事でええんやな?」

天地「そうだよー!それじゃあ!今日も一日……」





モノクマ「ちょっと待ったーーー!!!」


スグル「っ!?」

陰陽寺「貴様……」

月神「……モノクマ!?」

モノクマ「ハァイ、オマエラ。元気してる?」

吊井座「は?げ、げげ、元気かって……」

竹田「あん?てっきりくたばったかと思ってたぜ」

天地「おっひさー!りぼんちゃんは元気でーす!」

モノクマ「おっひさー!……じゃないよ!何でオマエラ全くコロシアイしないのさ!」

急に表れたモノクマは、ノリよく天地さんの挨拶を返した後、そんな事を言い出した

御影「だって……ねぇ?」

臓腑屋「やれと言われてコロシアイを始める様な輩はいないでござるよ」

朝日「それにぃ、ここって結構居心地いいしねぇ」

月乃「……それには同意する。珍しくだけれど」

当然、口々に反論される。でも、ここって確かに居心地がいいんだよね……

モノクマ「ちょっとちょっと!オマエラはなんでそんなに余裕ぶっこいてられるのさ!」

モノクマ「早く外に出ようとか、早く全員を出し抜こうとか考えないの!?先手必勝!必殺必滅!」

瀬川「でもさ、まだ三日しか経ってないんだよ?」

瀬川「それに、いつかは外から助けが来ると思うしさ……」


モノクマ「……助け?助けが来るって?」

瀬川「……?うん」

モノクマ「……うぷ、うぷぷ、うぷぷぷぷ…………」

モノクマ「うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷっ!!!」

モノクマ「ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!そんなものあるわけないじゃーーーん!!!!」

瀬川「えっ……?」

古河「な、何言うてんねや!このクマ!」

飛田「恐らく何らかの事情で未だ助けられぬだけだ!世界が、このオレを探しているのだからな!」

駆村「そうだ!今だって、きっと俺達を探しているはず……」

モノクマ「うぷぷ、オマエラおめでたいねぇ……」

朝日「わぁい。誉められちゃったぁ~」

臓腑屋「バカにされているのでござるよ!?」

反論にも余裕綽々として返すモノクマ。モノクマは、どうしてそんなに自信があるの……?

デイビット「だガ、確かに常々疑問には思っていた事ではあるナ」

デイビット「我々は超高校級の才能の持ち主。世間が我々の失踪をどう考えているのカ……」

竹田「そもそも、この人数をどう拐ったのかってのも聞きてえもんだけどな」

月神「モノクマ……私達に何をしたの!?」

モノクマ「あ、気になる?気になっちゃう?ならば教えて差し上げましょう!」

モノクマ「オマエラ、モニターに注目してくださーい!」

モノクマがリモコンを取り出すと、ピピピッと電源を操作する

少しの砂嵐の後、モニターに写り始めたのは……




~~~♪



ハルカ『良い子の皆ー!ココロオドルTVの時間だよー!』

ハルカ『えーっと、今日で何日目?二日目?それとも三日目?もしかして……四日目以降?』

ヨウ『外が何日目だろうと関係ないけどな。俺達はアニメの住人だ』

ハルカ『それもそうだね!えっと、それじゃあ早速今日のミッションは……』

ハルカ『……あれ?ナニこれ?これ、”動機”って書いてあるよ?』

ヨウ『とうとう来たか。それは読んで字の如く動機だ、コロシアイの為のな』

ハルカ『こ、コロシアイ!?……あれ?でもそれって私達には関係ないよね?』

ヨウ『俺達の目的は生活のサポートだろって?そんな事を気にする様な奴はこの番組を見ていないさ』

ハルカ『それもそっか!それじゃあ早速動機を発表したいと思いまーす!』

ハルカ『動機は……お、おおお、オオオオ……!』

ヨウ『落ち着け。お前が動悸を発症してどうする』

ハルカ『動悸息切れには!救○!』

~~~♪

ヨウ『さて、スポンサー(願望)の提供を終えた所で本題に入るとするか』

ハルカ『それじゃあ今度こそ発表しまーす!』








『オマエラは、捨てられてしまいましたーっ!』








ハルカ『って、えぇ!?どういう事!?』

ヨウ『言葉通りの意味だな。この彩海学園の生徒は、どいつもこいつも世界から捨てられたんだ』

ヨウ『だから助けなんざ来るわけがないのさ。いちいちゴミをわざわざ取り戻しに来る奴がいるか?』

ハルカ『そんな訳ない!皆が捨てられたからって、簡単に見捨てられられちゃう訳ないよ!』

ヨウ『ならお前、スマホを紛失した上に水没して見つかったならどうする?修理してもらうか?』

ハルカ『やだなぁヨウ君。そんな手間がかかって面倒な事する訳無いじゃんかー』

ハルカ『勿論買い変えるよ!今の時代、新しい機種がいっぱいあるしそんなに愛着も無いしね!』

ヨウ『そういう事だぞ』

ヨウ『まあ、気になるなら外の世界に出てみたらどうだ?案外受け入れられるかもしれないぞ?』

ハルカ『そ、そうやってコロシアイさせようって魂胆だね……!なんて卑怯なの!?』

ハルカ『次回、どきどき☆最初の事件~学級裁判で大パニック!?~をお送りしたいと思いまーす!』

ヨウ『本当は楽しんでいるだろう。馬鹿野郎』


『鮮やかな!!』

『遥かな明日を!』『見届けよう!』

ハルカ『バイバーイ!』





瀬川「………………え?」

砂嵐に戻ったモニター。私達は、何も写していない画面を食い入る様に見つめていた

暫くの沈黙。それを破ったのは、古河さんの悲鳴に近い叫び声だったんだ

古河「な……なんや、なんやねん!いったいこれはどういう事や!?」

モノクマ「あれ?今アニメで言ってたでしょ?オマエラは捨てられたの」

モノクマ「友達から。家族から。社会から。そして世界からでさえ……」

モノクマ「いらないって。必要ないって。ぽーんと棄てられちゃったのでーす!」

照星「そ、そんなワケないっす!自分達には超高校級の才能があるんすよ!?」

天地「それにりぼんちゃんの生徒はどうなの!?」

竹田「俺の会社の社員はどうなんだよ?」

月神「私のグループメンバーは……」

飛田「オレのファンクラブはどうなんだ!?」

モノクマ「はい。誠に残念ながら、全員ものの見事にオマエラを見捨ててくれました」

モノクマ「なので、助けは絶対に来ませーん!一生この彩海学園の中で過ごしてくださーい!」

飛田「バ……カな……」

モノクマからバッサリと切り捨てられる。全員の顔から、どんどん正気が抜けていく

…………絶望。それは、今のこの状況には、嫌みなくらいに相応しい言葉だった


モノクマ「で、す、が……なんと!ここから出る方法が、一つだけあるのです!」

飛田「な、なんだね。本当かねそれは!?は、早くオレに教えたまえ!」

飛田君がすがる様にモノクマに問いかける。でも、私にはモノクマの答えがわかっていた

モノクマ「それは……ズバリ!コロシアイです!」

モノクマ「この学園から卒業する事が出来れば、ボクの言った事が理解出来るはずだからね!」

陰陽寺「結局はそれが目的か」

デイビット「悪質ナ……」

月神「それでも……コロシアイなんて、私達は……」

モノクマ「うぷぷ。今はそうやって言えるかもね」

モノクマ「でも、それが一日経ったらどうかな?」

モノクマ「一週間、一ヶ月、一年……時間が経てば経つ程に、オマエラはこう思うはずだよ」

モノクマ「『あの時誰か殺しておけばよかった』ってね!ぶひゃひゃひゃひゃ!!」

スグル「それが、僕らへの動機……見捨てられた事に対する、不安感……」

モノクマ「そう言う事になるね!それじゃあコロシアイに、ココロオドルまで励んでくださーい!」

そうして、モノクマは去っていった

絶望を突き付けて、希望をチラつかせる。それが、破滅へ向かうと知っていながら

謳う様に、嘲笑う様に。深く傷をつけた心に、深く染み入る様な甘い誘惑を囁きながら


瀬川「…………」

月神「……皆、落ち着いて聞いてほしいの」

月神「モノクマの言う事が嘘の可能性もあるわ。だから落ち着いて……」

飛田「落ち着けるワケがないだろうっ!?」

デイビット「全くもって厄介だナ。監禁されている我々からでは確認のしようがなイ」

照星「例えそうでも、そんな不安になるような事は言わないで欲しいっす……」

古河「……アカン。今日はもう戻るわ」

駆村「悪い。俺も気分が……」

吊井座「お、俺も……」

スグル「皆さん……」

月神「…これだけは、これだけは聞いてほしいの」

月神「私は……皆を、信じているから」

月神さんの説得も虚しく、俯いたまま、一人。また一人と立ち去っていく

残っている人も、困惑と焦燥を色濃く浮かべたまま硬直している

そんな中、私は一人だけで前を向いていた

足元から崩れていく様な、空がごーんと落ちてきそうな、世界がバラバラに崩れていくような……

そんな絶望感に、目の前が黒く塗りつぶされながら


本日はここまで
動機発表に入りましたが、ここまでで気になるキャラや文章への意見はありますか?
リメイク前のスレが余っているので、そちらに書き込んで戴けたら嬉しいです







……私は、何のために生きてきたんだろう



私は、ただ皆に好かれたかっただけなのに



私は、ただ皆に愛されたかっただけなのに



だから、今まで何があっても、嫌な事があっても、我慢してきたんだ



なのに、それなのに世界は私を捨てたんだ



あんなに頑張ったのに、あんなに努力していたのに



どうしたら私を見てもらえるの?どうしたら私を救ってくれるの?




それは……この中の誰かを、殺せば―――






「……ん。……さん!」

「瀬川さんっ!」

瀬川「……はっ!?ご、ごめん!」

身体を揺さぶられる様な感覚と、私を呼ぶ声で意識が現実に引き戻される

目の前には、潤んだ眼で此方を覗き込むスグル君。その瞳の中には私しか映っていなくって

さっきまで考えていた事は、もう欠片も思い出す事が出来なくなっていた

スグル「大丈夫ですか……?ずっとボーッとしていましたけど……」

瀬川「あ……うん。多分……」

月神「無理も無いわ……あんな事を言われて、平気な人なんているわけないもの」

スグル「そうですよね……」

瀬川「……月神さんは?アイドルって、一人でやるものじゃないよね?」

瀬川「もしかしたら、グループの皆に捨てられたのかもーって……思わないの?」

目の前の少女に疑問を突きつける。彼女は、ぽかんと目を見開いた後、すぐに気丈な表情を見せた

月神「そうね……確かに、そう思わないと言えば嘘になってしまうわね」

月神「でも、だからこそ、今は気を強く持たないといけないとも思っているわ」

月神「私は超高校級のアイドルだけど……今は、同時に皆のリーダーだから」

瀬川「……あっそ」

凛とした笑顔で答えられた。本気でそう思っているのがわかっちゃうのが鼻につく

そう言えるのは……きっと、誰にも見捨てられた事が無いからなんだろうな




月神「……でも、どうすればいいのかしら」

月神「私には……何が出来るの……?」

閑散とした食堂の奥。机の上で、額に手を当てながら苦悩する月神さん

その姿もまた美しい……と、飛田君みたいな事を考えていた

……今、ここには私と彼女の二人だけ

だから、私が月神さんに何をしても誰も気づかない

だから………………

瀬川「……ねえ、月神さん」

月神「あら?瀬川さん……どうかしたの?」

瀬川「あの、えっとね……」

月神「……?」

瀬川「えっと……実は、ね……」







瀬川「私も、リーダーやりたかったんだ」

……言っちゃった。ずっと心に閉じ込めていようとしてたのに

言葉が喉につっかえる。あの時に言えなかった事、それを伝えるだけなのに



月神「……えっ?」

瀬川「私も、皆と仲良くなりたくて。皆と一緒にここから出たいって思ってたんだ」

瀬川「でもね、皆が月神さんがいいって言うから、皆がそうしたいって言うから……諦めたんだ」

瀬川「……ごめん。急にこんな事話しちゃって」

……嘘だ。私は、わざと彼女に伝えたんだ

月神さんは優しそうだから……絶対に、この事を気にするんじゃないかって思って

月神「そう、だったの……」

月神「ごめんなさい……私は、貴女の心を踏みにじってしまっていたのね」

瀬川「……ううん!全然気にしてないよ!」

瀬川「私も、月神さんが立候補した時は、そっちの方がいいって思ったんだし!」

これも嘘だ。なら、今すぐ私と変わってよ

……なんて事は言えないから。こういう風にいつも誤魔化すんだ

嘘の言葉で本心を殺す。いつも、いつもしている事なのに

なのに、なんで、目の前で頭を下げている月神さんを見ると胸がズキズキと痛むんだろう……?


瀬川「あっ、でもね!だから私に変わってって事じゃ無くてね……」

瀬川「私にも、何かお手伝い出来ることがあるなら手伝おっかなーって……」

月神「本当!?」ギュッ

瀬川「きゃっ!?」

いきなり手を握られた……!?そんなに喜ばれる様な事なのかな……?

月神「あっ……ごめんなさい。急に握っちゃって、迷惑だったかしら?」

瀬川「あ、ううん……」

月神「でも、嬉しいわ。貴女が皆の事をそんなに大切に思ってくれているなんて……」

月神「今朝、陰陽寺さんが朝食の時に来てくれたのは、貴女が声をかけてくれたからでしょう?」

月神「貴女のその優しい思いやりが、頑なな陰陽寺さんの心を動かしたのよ」

瀬川「あ……」

違う。あれは、たまたま陰陽寺さんに会っただけだ

それに、私が陰陽寺さんに声を掛けたのは、皆の為なんかじゃない

……全部、私だけの為なんだよ




瀬川「……ありがと」

そんな事、口が裂けても言えないけどね


月神「そうね……なら、瀬川さんには、皆をしっかりと見ていて欲しいわね」

瀬川「皆を……しっかり?」

月神「ええ。何人かは動機のせいで相当参っているみたいなの……」

月神「だから、皆の話をよく聞いてあげて。きっと悩んでいる事もあるはずだから」

月神「誰にでも優しく出来る貴女なら、きっと皆の不安を和らげる事が出来るはずよ」

瀬川「……うん。わかった」

月神「ふふっ、頼りにしているわ、瀬川さん!」

にこっと屈託の無い笑みを浮かべる月神さん

その微笑みからは、本当に私を信頼してくれているんだと思わせる程の魅力を発していた

その笑顔が……たまらなく眩しくて

そんな彼女が、たまらなく憎くって



瀬川「……うん!ありがとう!」

瀬川「安心して、私に任せてよ!」

だから、私はわかっちゃったんだ

彼女は、絶対に私の事を理解出来ないって事に




瀬川「……はぁ」

口からため息が零れ落ちる。ダメなのは知っているけど、つい出ちゃう

勢いに任せて月神さんと約束したけれど、正直面倒だしやりたくないな……

瀬川「私だって、動機気にしてるのに……」

ああいう余裕を無理矢理押し付けられても困るだけなのに。月神さんは本当に傲慢なんだから……

「……!…………!」

「―――――!!」

瀬川「……ん?」

何だろう、喧嘩?なんだか怒鳴りあっているみたいだけれど……

……面倒だし放っておこう。私だって暇じゃないし

臓腑屋「……にゃあ!瀬川殿!いいところに!」

と、逃げようとしたところで捕まってしまったのであった

瀬川「……臓腑屋さん?どうしたの?」

臓腑屋「朝日殿と月乃殿が大変なのでござる!兄妹で喧嘩しているのでござるよ!」

瀬川「……ほっとけば?」

臓腑屋「そうもいかないでござるよ……拙者は人を呼んでくる故、二人を頼むでござる!」

瀬川「あっうん」

臓腑屋「かたじけない!それでは御免!」

シュパパッと走り出した臓腑屋さんの背を眺めて、再度大きなため息を吐く

兄妹喧嘩なんて、いったい何してんだろう……?


月乃「……だから、素直に教えれば許すのに」

朝日「ほ、本当にただの栄養剤だよぉ……?」

月乃「……天地神妙、誓って本当?」

朝日「もちろんだよぉ~」

月乃「……嘘をついている顔」ムギィ

朝日「い、いひゃいぃ……」グニーッ

瀬川「……何してんの、二人とも…………?」

朝日君のほっぺをぐにぐにと引っ張る月乃さんと、されるがままになっている朝日君

それは、切迫した喧嘩というよりも中睦まじい兄妹喧嘩にしか見えない有り様だった

月乃「……丁度いい所に。凛々はどうしたの?」

瀬川「止める為にどっか行っちゃったよ……」

朝日「なんだかお騒がせしちゃったみたいだねぇ」

瀬川「それにしても喧嘩でほっぺつねるって……」

朝日「あはっ、月乃ちゃんって子供っぽい所があるもんねぇ」

月乃「は?」ギリギリ

朝日「いひゃい……」

話す為に緩めた手に再度力を込められたのか、歪にほっぺが変形する

……二人とも、本当は仲いいでしょ!?


臓腑屋「……瀬川殿!遅れたでござる!」

駆村「大丈夫か?取っ組み合いの喧嘩と聞いたが、怪我はしていないか?」

照星「兄と妹で絡み合うなんて……なんだかドキドキするっすね!にひひひっ!」

臓腑屋「とりあえず、腕っぷしの強そうな御仁を呼んできたでござる。これで安心でござるな!」

瀬川「いや、やりすぎでしょ!?」

しかも、取っ組みあいどころかほっぺぐにぐにしてただけだし!

駆村「まあ無事ならいいが……喧嘩の原因ってなんだったんだ?」

月乃「……朝日が見知らぬ薬を運んでいた。怪しいから問い詰めていた」

朝日「だからぁ、これはただの栄養剤だよぉ。栄養バランスを整える為に必要なんだぁ」

照星「あっ、それなら自分が保証するっすよ。自分が探してきたんすからね!」

朝日「ほらぁ。なのに月乃ちゃんってば話を聞かずに、ほっぺぐにーってぇ……」

なるほど……つまり、朝日君が栄養剤を取ろうとしたら月乃さんに捕まって……

瀬川「……って、もしかして月乃さんの勘違い?」

臓腑屋「で、ござるな」

月乃「……面目ない」

思いの外下らなくて拍子抜け……まあ、兄妹同士でコロシアイにならないだけマシかな


駆村「全く……どうして二人は、そういがみ合っているんだ?」

駆村「俺には兄弟姉妹がいないからわからんが、兄妹は仲の良いものじゃないか」

瀬川「あ、駆村君も一人っ子なの?実は、私もそうなんだー」

臓腑屋「にゃあぅ……拙者には姉上がいるでござるが、二人程喧嘩した事はないでござるな」

瀬川「へえ、臓腑屋さんってお姉さんいるんだ。お姉さんも忍者なの?」

臓腑屋「拙者も忍者ではないでござる!後、姉上は普通のキャリアウーマンでござるから!」

朝日「月乃ちゃんも恥ずかしがっているだけでぇ、本当はもっと優し……あぅっ」ドスッ

月乃「……誰がこんな変質者と。隣にいるだけで私まで奇異の目で見られるというのに」

照星「男兄弟がいると、下の娘もたくましく育つんすよ。自分みたいに!いひひっ」

照星「兄弟喧嘩も二人の比じゃないっすよー。畳が飛び交い人が吹っ飛ぶ!警察沙汰も一度や二度じゃ足りねーっす!」

瀬川「家庭崩壊!?」

……この後、月乃さんや照星さんの兄弟トークは昼過ぎまで続いた

臓腑屋さんはヒき気味で相づちを打ち続け、駆村君は「兄弟って凄いな」と間違った知識を植え付けられている

照星「……で!そうなんすよ!」

月乃「……わかる。本当に兄は―――」

瀬川「あははー……凄いね……」

……帰りたいなぁ。動機とは関係なく、ね




瀬川「あ゛ぁ~……終わったぁ~……」

かれこれ数十分。兄弟トークに付き合わされて、身心共にクタクタだ

もうお昼過ぎだし……軽くご飯でも食べようかな?

古河「……………………」

スグル「あ、あの、えっと、その……」

って、スグル君と古河さん?なんだか物騒な雰囲気だけど……?

スグル「あ、あんまり、その……気に病まない方がいいですよ。本当かどうかもわかりませんし……」

古河「……ホンマかどうかわからへんって事は、嘘じゃあらへんかもしれんやろ」

スグル「そ、それはそうですけど……で、でも!皆さんで力を合わせればいつかは……」

古河「いつかいつかって……結局いつなん!?ウチは、いつまでここにおればええんや!?」

古河「スグルはええよなぁ!ゆーっくり待ってれば記憶かて思い出すかもしれへんもんなぁ!」

スグル「……………………」

瀬川「……ちょって待ってよ。何でスグル君が悪いみたいに言っているの?」

瀬川「スグル君だって辛いんだよ!自分だけが辛いみたいに言わないでよ!」

古河「ハッ、辛いって?普段のほほんとしとるそいつがそんな殊勝な事考えとるワケあらへんやろ!」

古河「オマエもオマエで、随分余裕そうやん?汚いオッサンに媚び売るのが仕事の奴は言うことも考える事も余裕があんなぁ!」

瀬川「……ッ!この、言わせておけばッ!」

古河さんの胸ぐらに掴みかかり、そのまま詰め寄る

背丈は古河さんの方が少し高い。けど、背伸びする様に立つと、彼女はその勝ち気そうな顔を歪ませた

あれだけ馬鹿にされて、黙ってなんていられない。そのまま手を握り固めた腕を、高く振り上げて……


「そこまでダ」

瀬川「えっ……!?」

振り上げた手が空中で止まる。誰かにキャッチされたんだ

古河さんも驚いた様に目を見開いている。その視線の先。私の後ろには、デイビット君が立っていた

スグル「デイビットさん……!」

デイビット「ハ、ハ、ハ。キャットファイトから始まる友情もあるかもしれないガ……」

デイビット「流石に、時と場合があル。この状況下での暴力は見過ごせまイ」

瀬川「で、でも……っ!先に古河さんが……っ!」

デイビット「落ち着きたまエ。今の騒動かラ、人が何人か来ているのだヨ」

御影「え、えーっと……二人とも大丈夫?」

竹田「なんだ、喧嘩か?若いのは血気盛んだ。やりすぎねえ様に気を付けろよ」

……確かに、皆がギャラリーになっている今、古河さんが悪いと言い張るのは私の印象が悪くなるよね

ここは大人しく、黙っていよう……

古河「……ゴメンな。ウチも頭に血が昇り過ぎとったわ」

古河「スグルもウチを心配してくれたんやろ?それを頭ごなしにキレ散らかして……情けないわ」

スグル「あ……その、僕は……」

古河「……ちっと頭冷やしてくるわ。今日の夕飯はウチの分は抜いとくよう言っといてな」

冷静さを取り戻したのか、古河さんはトボトボと足取り重く食堂から出ていく

その歩みは、以前の勝ち気な態度とは違う。弱々しくて、いつ倒れてもおかしくない程か細かった



瀬川「えっと……スグル君、大丈夫?」

スグル「はい……でも、古河さんが……」

御影「き、気にしなくてもいいんじゃない?普段から強気だし、案外すぐ立ち直るって!」

竹田「……あーなんだか喉が渇いちったな。おい、坊主共は生姜湯飲めるか?」

瀬川「あっはい」

スグル「せっかくですので……」

竹田「んじゃちっと待ってな。さっさと作ってきちまうからよ」

のそのそと熊が動く様に厨房に入る竹田さん。食堂には、生姜をすりおろす音だけが食堂に響いていた

御影「……何で今のタイミングで生姜湯?」

デイビット「彼の人なりに暗い雰囲気を壊したかったのだろウ……時に、瀬川女史」

瀬川「え、私?何かあった?」



デイビット「瀬川女史は隠し事がある時髪を触る癖があるようだガ……何か隠し事でもあるのかネ?」

……………………!?



スグル「えっ……!?そうなんですか!?」

瀬川「……まっさかー!それは嘘でしょ?私にそんな癖無いもん」

デイビット「ハ、ハ、ハ。これは一本取られたナ。ご名答、ただのジョークだヨ」

御影「な、な~んだ……脅かさないでよね……」

瀬川「あははっ!もービックリしたんだからね!」

……危なかった。バレたかと思ったけど、杞憂だったみたいでひとまずは安心かな

でも、油断は出来ない。この嘘は、必死に、必死に隠し通していかなきゃいけないんだ……

竹田「なんだか盛り上がってんな。ほれ、生姜湯。ハチミツ入れてるから甘いぜ」

暖かな湯気を放つ生姜湯を受け取って、口に含む

それは、ほんのり甘くて、少し辛い……その奥に、ほのかな苦味を隠し持っていて

それが、なんだかもどかしくって……目の前の飲料を、一気に飲み込み空にした


本日ここまで。三日目はもう少しだけ続きます
実は、明日で、自分がオリロンパを始めて二周年になります
ここまで続けてこれたのも、付き合ってくださる皆様のお陰です。これからも宜しくお願いします




月神「古河さんが……?」

臓腑屋「今夜は部屋で休むと……一応、夜食は用意しておいたのでござるが……」

吊井座「こ、こ、古河だけじゃねえ。他の奴も何人か来てねえじゃねえか……」

食堂に集まったまばらな影。来ていないのは、古河さんと陰陽寺さん……それに、飛田君

陰陽寺さんはともかく、二人とも動機を聞いた時、酷く取り乱していたもんね……

照星「自分としては、吊井座先輩が来てくれているのが意外っすけどねー!」

吊井座「うひぃっ!?ひひひ一人で行動して怪しまれたくねえからだよ……!」

月乃「……要するに、ただのビビり」

デイビット「だガ、賢明な判断ではあるナ。この場に顔を出しておけバ、余計な詮索は避けられル」

駆村「そうだな……その言葉、陰陽寺に言ってきてくれないか?」

デイビット「ハ、それは勘弁願いたイ」

今日の夜は、いつもより騒がしい声で響いていた

けど、それはいい事じゃない。寧ろ、悪い意味で、皆は声を出していた

静かになると、ここにいない皆の事を思い出すから……




……って、まだ誰も死んでいないんだけどね



月神「……皆は大丈夫なの?」

スグル「あの、皆さんの事は勿論ですけど、その、月神さんは……?」

月神「私……?大丈夫よ。皆に比べたらこれ位……」

……皆の前だからか、いつもみたいな笑顔を浮かべる月神さん

強がってるの?それとも、私は頑張ってますって皆にアピールしてる?

瀬川「本当に?……その割には顔色悪いけど?」

月神「え……?」

朝日「あはっ、本当だぁ。なんだかぁ、いつもより青白くなってるよぉ」

照星「辛いんなら辛いって言った方がいいっすよ。壊れちゃ元も子もねーっすからね。いひひっ!」

スグル「でも、よく気がつきましたね……」

月神「ふふっ、瀬川さんは人を良く見ているもの。私も頼りにしているのよ?」

瀬川「えっ……あ、ああ。うん」

正直、ただの嫌味だったんだけど……まあいっか

駆村「だが、このままだと不味いぞ……陰陽寺もそうだが、飛田や古河まで単独行動となると……」

竹田「宙ぶらりんになるな。このままだと瓦解まで秒読みだぜ?」

月神「……っ」

月乃「……それは言い過ぎでは?」

竹田「おっと、悪ぃ悪ぃ。つい代表取締役としての癖がな……」

臓腑屋「今アピールする事でござるかっ!?」

月神「………………」

力不足を痛感したのか、月神さんは何も言わなかった。強く唇を噛み締め、俯く月神さんを見ると……

なんだか、彼女に勝てた様な。そんな心地良い感覚が胸を支配したんだ

……ガタンッ?


天地「……あーーーっ!!!」

御影「うわぁああ!?」

瀬川「な、何!?どうしたの天地さん!?」

天地「もう我慢出来ない!皆、表に出ろーっ!」

臓腑屋「にゃあ!?何でござるか!?遂に乱心したでござるかーっ!?」

天地さんは突然立ち上がったかと思うと、いきなり大声で叫び始めた

頭のリボンも連動してぴこぴこと動いている。まるで、彼女の怒りを表すかの様に

月神「お、落ち着いて!天地さん!」

天地「落ち着いてなんていられない!りぼんちゃんは怒ってるんだよ!」

天地「一人ぼっちが好きな子もいるよ……でもね、一人になりたくてなってる訳じゃない子だっているんだよ!」

天地「誰かに責任を押し付けて、誰かがなんとかしてくれるって!見て見ぬフリする事が一番ダメなんだよ!」

瀬川「……っ」

スグル「……瀬川さん?」

瀬川「え?な、なんでもないよ?」

誰かに責任を押し付けて、誰かがなんとかしてくれる。それは間違いなく……私の事だ

でも、そんな事天地さんが知る訳が無い。だから、これは私の勝手な想像だってわかってるのに……

スグル「えっと…なら、どうするつもりですか?」

天地「ふっふっふ……だから、今言ったでしょ?」




天地「……表に出ろっ!」




照星「と、ゆー訳で外に出たっすけど……」

照星「いったいお外で、皆でナニするんすか?」

吊井座「さ、寒い……頭痛え……」

スグル「まだそんなに長く出てませんよ……?」

照星「それはさすがに軟弱過ぎっす!あ、自分が暖めてあげた方がいいっすか?」

吊井座「うひぃぃぃっ!?」

竹田「あんましからかってやるな。坊主も怯えてんじゃねえか」

照星「いっひひー♪」

暖房の効いた食堂から外に出された吊井座君が文句を言っている

でも、確かに外は肌寒い。ピリピリとした寒気が、肌をなぞっていくみたい……

瀬川「あのー……吊井座君じゃないけど、私も少し寒くなってきたかなーって……」

月乃「……もしかして、冷え性?」

瀬川「違うから!」

天地「大丈夫大丈夫!今からゆめっちとはずっちを呼んでくるから!」

スグル「えっ……お二人を……!?」

月神「ま、待って!なら私も……」

天地「ううん、ここは全員で行くよ!」

えっ、全員って……まさか……

瀬川「……まさか、私達も行くの?」

天地「あったり前ー!さあ行くぞー!おー!」

そのまさかだったーーー!?!?




トントン

天地「ゆめっちー!でーておーいでー!」

古河「はいはーい……って、なんやこの数!?」

臓腑屋「む、古河殿……面目無いでござる」

デイビット「夜分遅くに失礼したナ、古河女史」

吊井座「ま、まだそんな遅くねえけどよ……」

古河「なんや…皆、もしかして、ウチの為に来てくれたんか?」

御影「当たり前だろ!だって、ボク達は同じ仲間じゃないか!」

古河「は?オマエはただのコバンザメやろ」

御影「なんでボクだけそんな辛辣なのさ!?」

古河「ま……でも、あんがとな。ウチも少し落ち着いてきたんよ。ゴメンな、皆」

スグル「大丈夫ですよ……古河さんが立ち直ってくれた事が、一番嬉しいです」

朝日「そうだよぉ。皆で仲良くするのが一番だって私は思うなぁ」

ぺこりと頭を下げて謝る古河さん。普段の強気な態度は鳴りを潜めて、しおらしい笑みを浮かべている

お昼の事は、その殊勝な態度で許してあげようかな

……別に、根に持っていた訳じゃないけどね




古河「ほーん……それで全員で来たっつー訳か」

天地「そそそ、理解が早くって先生嬉しい!」

駆村「だが……古河はともかく飛田は難しいぞ」

デイビット「午前中にワタシと駆村氏で会合しようと試みたガ、拒否されてしまってナ」

竹田「どうすんだ?暴力沙汰にするワケにもいかねえしよぉ」

月神「なら、私から話してみるわ……ちょっと待ってて」

ピーンポーン

月神「飛田君……いるかしら?」

飛田『この声は……月神梓かね?』

飛田『すまないが、オレの事は放っておいてくれないか……オレは今、非常に落ち込んでいる……』

天地「はずっちー!出てきてよー!」

月乃「……心配している」

古河「まあ、なんや。はよ出てこんかーい」

照星「飛田先輩のーちょっといいとこ見てみたいっすー!」

臓腑屋「飛田殿、養生も大切でござるが顔を見せてくれると嬉しいでござる!」

瀬川「えっ?えーっと……早く出てきてね!」

飛田「フッハハハ!そこまで美しき乙女達に言われては……出て来ざるをえまいッ!」ガチャッ

瀬川「早っ!?」

臓腑屋「立ち直るのが早すぎるでござる!?」


天地「よーし!これで全員だね!」

月神「全員……?陰陽寺さんがまだ……」

瀬川「え?全員でしょ?どうせ来る訳ないし……」

瀬川「どこにいるかもわからないじゃん!まるで、オバケみたいだよね!あっははは!」

スグル「あ、あの、後ろ……」

瀬川「ん?何かあった?」クルッ

陰陽寺「僕に何か用か」

瀬川「ご、ごめーーーん!!」

後ろにいたの!?気づかなかった……!

というか、気配消して後ろにいるなんて……本当にオバケじゃん!

デイビット「それデ、我々を外に駆り出した上、欠員までかき集めた真意とハ?」

天地「うんうん。それはね!」

瀬川「それは?」

天地「……空を見て欲しかったんだ」


瀬川「……空ぁ?」

いきなり何を言っているんだろう。この人は

空なんて、毎日腐るほど見ているのに。今更見上げる必要なんてないよ

天地「……じーっ」

でも、ここでそんな事を言っても納得しないよね。目がそう物語っている

瀬川「えーっと、空を見ればいいんだね?」

……面倒だから、さっさと見ちゃおう

空には暗黒の中に、キラキラと光る星が瞬いていた

スグル「わぁ……!」

月神「綺麗……あの時、一緒に見た時以来ね」

陰陽寺「ふん」

デイビット「絶景だナ、これハ。都会では見る事は出来ないだろうヨ」

駆村「排気ガスやゴミが無いお陰だな……空が澄んで見えるんだ」

でも、皆には結構評判いいみたい。私には、どこがいいのかよくわからないけど……

吊井座「そ、空なんて滅多に見ねえけど……」

吊井座「こうして見ると……結構、綺麗なんだな」

天地「そう!それだよ!その通り!」

吊井座「うぎゃああああああああああ!!!」

朝日「吊井座くん、大丈夫かなぁ?」

天地「りぼんちゃん、星空好きなんだ!よく生徒の皆とごろんって寝て一緒に見るの!」

天地「普段会ってると有り難みを忘れちゃうけど、でも、ふと思い返すと大切な事ってわかるから!」

天地「だから!皆、困った時は頼っていいんだよ。それが友達、それがりぼんちゃん達なんだもん!」

月神「天地さん……」


月神「……私は頼りないリーダーかもしれない。力不足かもしれない」

月神「でも、私はもう諦めない!皆の為に、これからも頑張ります!」

古河「ウチらも心配かけてゴメンな!ウチはもう立ち直ったで!」

飛田「諦めずに立ち向かう姿こそ美しい……そう、オレは今、美の真髄を開化せんとしているッ!」

竹田「調子のいい坊主だねぇ……」

月乃「……でも、概ね同感。梓の事、私も支えていきたい」

御影「そうだそうだ!皆で月神さんをサポートしていこうよ!」

月神「…ありがとう!私、皆に会えて良かった!」

月神「ここから出たら……皆で、改めて友達になりましょう!」

「「「おーーー!!」」」





……月神さんの決意表明。それは、透き通った夜空に、高らかに響き渡っていった

ここから出たら友達に、か。それはとっても魅力的で、素敵な夢だと思う

でも、それは多分”夢”だと思う。夢は叶わないから美しいって、よく言われているもんね

それに、私の親友は、あの子だけだから……

スグル「……あの、瀬川さん?」

瀬川「うわぁ!?またスグル君!?」

またボーッとしてたらスグル君に心配された……

私、そんなに頼りなく見えてるのかなぁ……?


瀬川「ど、どうしたの?もう帰る?」

スグル「あ、いや……えっと、皆さんお話しているみたいですし……」

スグル「僕も、瀬川さんとお話ししたいな…って」

上目遣いで私を見てくる。そういう男の子らしい可愛い仕草、凄くイイ……!

よく見たら、何人かは人と話し込んでいるみたい。陰陽寺さんだけは寄宿棟の壁にもたれて空を眺めているけど……

どうしよう……いざ話してって言われると、何も話題が思い付かない……

取り合えず、無難に好きなアニメと好きな女キャラの話でも振ってみて……



スグル「……月が綺麗ですね」



瀬川「……ふぇっ?」

えっ……?えっ、えええええ!?それってまさか、そういう意味!?

ど、どうしよう……早すぎるよ。色んな意味で!

ここは……うん。カッコよく返さないと……!

瀬川「……もう死んじゃってもいいかな」

スグル「え……?ダメですよ!皆さんで一緒にここから出ましょう!」

瀬川「……あー、うん。そうだよね。ゴメンね」

そうだよね……スグル君が知ってる訳ないか

こんな、アニメに出てきそうな台詞なんて……


アニメ……アニメかぁ、そう言えば……

瀬川「『私達はここにいます。ここには夢がちゃんとある』……」

スグル「……?それは何という曲なんですか?」

瀬川「えっ……あ、聞こえてた?」

聴かせるつもりは無かったんだけど……なんだか恥ずかしいな……

瀬川「えっとね……これ、アニメのオープニング曲なんだけど、学園モノのアニメなんだ」

瀬川「学校の中で女の子達が生きていくアニメなんだけどさ……なんだか、私達とそっくりだなって」

スグル「わぁ……!本当ですね!色々なアニメがあるんだ……」

瀬川「えへへ、そうでしょ?アニメって色々なモノがあるから飽きないんだよね!」

スグル「……ところで、そのアニメって最後はどうなるんですか?」

瀬川「えっ?」

確か、このアニメって……

瀬川「ゴメン。実は途中しか見てないから、最後はどうなるかわかんないや」

スグル「そ、そうなんですか……」

スグル「でも、何だか前向きになる歌詞ですね。僕も、瀬川さんも頑張って生きていきましょう!」

瀬川「……うん。そうだね!」

言えるわけないよね。だって、そのアニメ……










そのアニメ、実は日常アニメじゃなくてサバイバルアニメで

『登場人物は全員死んじゃうんだよ』。なんてさ










本日はここまで
私事ですが、今月は忙しいので更新頻度が下がると思います。申し訳ございません




瀬川「おはよー」

月神「おはよう。昨日はよく眠れたかしら?」

瀬川「うん。まあね」

ふぁと欠伸を噛み殺しながら、月神さんとの談話を楽しむ

昨日の天地さんの言葉が効いたのか、今朝は古河さんと飛田君も顔を出していた

そう言えば昨日は珍しく夢を見なかったな……それと夜空を見た事とは、なんの関係もないけどさ

陰陽寺「………………」

……珍しいと言えば、普段は我関せずといった態度の陰陽寺さんが来ている事もだ

あの独りぼっち大好きな陰陽寺さんが来ているのは何でなのかな……?

瀬川「……あれ?陰陽寺さん、来てたの?」

陰陽寺「動機を聞かされた以上、貴様らを野放しにしておく事は得策じゃない」

陰陽寺「それに、また大人数で僕に押し掛けられても面倒だからな」

ツンとそっぽを向かれながら答えられた……イラッとするけど、ここは我慢……

月神「照れているのよ。陰陽寺さんは恥ずかしがり屋さんな所があるから」

瀬川「それは都合良く解釈し過ぎじゃないかな…」

臓腑屋「まあ、何でも良いでござろう。それでは、本日もいただきま……」




『……ザザッ』


瀬川「……っ!?」

ぞわり。背筋を嘗められる様な錯覚に、思わず全身が怖気立つ

日常編にねじ込まれた異音。平和な時空に紛れ込んだあり得ないノイズ

クラシックの途中に流れてしまった着信音の様に、どれだけ小さくてもハッキリと聞き取れてしまった

矛盾を孕んだ音に吐き気がする。それは、他の皆も同じ様で……

古河「な、なんや今の……ウチの気のせいか?」

スグル「いいえ。僕にも確かに聞こえました」

吊井座「お、お、俺も……だけどよ……」

デイビット「ふム、この場にいる全員が聴いているという事ハ、どうやら幻聴では無さそうダ」

照星「……あ!あれっす!あれ見て欲しいっす!」

彼女が指を指した先には、この彩海学園では飽きる程見たモニターが

そのモニターからは、まるで、何かが底から這い出てくる前兆かの様に、モノクロの砂嵐が映っていた

竹田「なんだ……またあの妙なアニメか……?」

月神「どうしてこのタイミングで……?昨日私達に動機を与えてきたばかりなのに!」

陰陽寺「黙っていろ……画面が変わるぞ」




~~~♪



ハルカ『よい子の皆ー!ココロオドルTVの時間だよー!』

ハルカ『って、ちょっと!話が違うよ!次回はコロシアイが起きた後じゃないの!?』

ヨウ『はっはっは。気にするな。あんな適当な予告を信じる奴は二流なんだよ』

ハルカ『なら何を信じればいいのかなー!?』

ヨウ『そんな事よりも、本来の俺達の役割が回ってきた様だな。気を引き締めろよ』

ハルカ『本来の……あ、ミッションだね!?』

ヨウ『ご名答!今回はこの彩海学園に在籍している生徒にプレゼントを用意しておいた』

ハルカ『初めて皆が出会った教室に、ゲームの筐体があったのは覚えているよね?』

ヨウ『そこに、新たにゲームをインストールしておいた。娯楽が少ない分、存分に楽しんでくれ』

ハルカ『タイトルは『ナゲミデスカイ』!設置直後にバランスの問題で高速撤去された問題作!』

ヨウ『今回はオマケとしてクリアした先着一名には特典を用意しておいた。早い者勝ちだぞ!』

ハルカ『あー!私もゲームやりたーい!』

ヨウ『存在そのものが二次元のお前が何を言ってるんだ。潔く諦めておけ』

ハルカ『やりたいやりたいやりたーい!』

ヨウ『なら……この番組を止めるか?』

ハルカ『そ』

ハルカ『れ』

ハルカ『だーーー!!!』


……ブツンッ





瀬川「本当にあるんだ……」

あのアニメの言う通りに、あの時、全員が目覚めた教室にまた来ていた

そこには、相変わらず教室には相応しくない筐体がででんと佇んでいたんだ

だけど、その画面では目に痛いくらいの眩しい光を存分に放っていて

『ナゲミデスカイ』の文字が、自己主張激しくでかでかと表示されていた

古河「このけったいなんがそのゲームか?」

竹田「聞いた事はあるが……マジだったのか」

月神「知ってるんですか?竹田さん」

竹田「一応な。確かゲームバランスが悪すぎて何千円も溶かさねえとクリア出来ねえらしい」

竹田「明らかに集金目的の難易度だっつって抗議が殺到して、現在は棄てられたと聞いているぜ」

デイビット「つまリ、その棄てられたゲームを持ち込んできたという訳カ」

吊井座「で、でもよ。どうやってプレイすんだよ」

吊井座「アーケードゲームは硬貨が必要だろ……俺達、金なんか持ってねえだろ……?」

確かにそうだ。この中の誰も、財布を持ってるとか貯金してるなんて話は聞いた事がない

私?私は寝ていたらいつの間にか来ていたから……

月乃「……なら、このゲームはプレイ出来ない?」

陰陽寺「時間の無駄だったな。僕は帰るぞ」

特典が目当てだったのか、陰陽寺さんはすたすたと教室から去っていこうとする

私も、その後を追うように外に出ようとした……


モノクマ「こらーーーっ!」ピョイーン

朝日「あれぇ、モノクマだぁ」

瀬川「うわぁ!?モノクマナンデ!?」

陰陽寺「何の用だ」

モノクマ「オマエラ、ボクが出てくる前にスタコラゲームやりに行っちゃってさぁ……」

モノクマ「なんなの?ゆとり世代なの?今流行りのゲーム脳ってやつなの?」

竹田「違えよ」

御影「いやまあ竹田さんはそうなんだろうけど!」

モノクマ「はいコレ、コインケース。この中に全員分のコインが入っているからそれでやってね」

天地「わーい!でも無くなったらどうしよう?」

モノクマ「足りなくなったら適当に探せば?多分どこかに落としたと思うからさ」

駆村「管理が雑すぎる!」

モノクマ「それじゃあゲームをお楽しみに~!」

臓腑屋「無理矢理話を終わらせたでござるっ!?」

言いたい事だけを言って満足げに去っていく

他の皆は呆れ顔。どうする?と聞きたげに、私の手にしたコインケースを凝視している

でも、ゲームが出来るようになったのはラッキーだ

だって、ゲームは私の得意分野なんだから……!


※……数十分後※

御影「あのー、ボクにもそろそろ……」

瀬川「うるさいなぁ!もうちょっと待っててってば……あぁ!?また死んじゃったじゃん!」

あと少しだったのに……横から声さえかけられなければ……!

デイビット「結局、ゲームは瀬川女史しかプレイしていないナ」

朝日「ケース持ったまま離さないもんねぇ」

陰陽寺「………………」

スグル「もしかして、瀬川さんが満足するまで待っているんですか……?」

照星「陰陽寺先輩も律儀っすね……」

御影「ねぇ!そろそろボクにもやらせてよ!」

瀬川「あーもうわかったよ……あ、もうコイン無いや」

御影「嘘ぉ!?」

これ、根本は覚えゲーだから後もうちょっとやれればクリア出来そうなんだけどな……

というか、結構夢中になっちゃって結局私しかしてないし……

御影「あー!ボクもやりたかったのにー!」

古河「喚くなや……もう解散でええやろ?」

月神「そうね。今日も一日頑張りましょう!」

皆も他人のプレイを見るのに飽きてきたのか、そそくさと教室を後にする

なんだか引っ掛かる様なモヤモヤを引きずりながら画面を見ると、大きながめおべらの文字がチカチカと点滅していたのだった




瀬川「ねー、まだやるのー?」

御影「何がなんでも見つけてみせるよ!」

天地「なおっち凄い集中してる!勉強に活かせればいいのにね」

スグル「あはは……もう少し探してみましょう」

今、私達は倉庫にいる。別に何か欲しいものがある訳じゃないんだけどね

御影君がゲームをやりたいやりたいって言うから、コインを探すために荷物をひっくり返していた

…たまたま近くにいた、天地さんとスグル君を巻き添えにして

瀬川「ねえ、そろそろ止めない?もうお昼時だし」

御影「待ってよ!もう少し、もう少しでコインが見つかりそうなんだからさ!」

御影「ボクは超高校級の幸運なんだ……コインの一枚や二枚簡単に見つけてやる……!」

超高校級の幸運……そう言えば御影君はそんな才能だったね。すっかり忘れてたよ……

天地「でもりぼんちゃんもお腹減った!見つけたらなおっちにプレゼントするね!」

スグル「あっもう行っちゃった……それじゃ、そろそろお開きにしましょうか」

結局倉庫では一枚も見つからず。そのまま流れで皆でお昼ご飯を食べる事になった

お昼を食べてる間、御影君はグチグチとゲームをやれなかった事を愚痴っていたけどね

御影「……だから!ボクならクリア出来たのに!」

瀬川「あはは、そうなんだ。凄いねー」

天地「ちさっちって保育士に向いてるよね!」

スグル「そうですか?よくわかりません……」




月神「……でも、皆、元気になってよかった」

吊井座「そ、そうかよ……」

月神「吊井座君も、どんどん皆と打ち解けているみたいだし……私は嬉しいのよ?」

吊井座「……そんなんじゃ、ねーけど」

瀬川「あれ?珍しい組み合わせだね」

月神さんと吊井座君……陽と陰のキャラ代表の二人が話し合っていた

……って、そもそも吊井座君は女の子が苦手なはずじゃなかった?

瀬川「吊井座君って、女の子が苦手じゃないの?」

吊井座「お、おまっ!?何余計な事を……!?」

月神「そうなの?天地さんや臓腑屋さんと話す所を見た覚えがあるけれど……」

んー……?これはどういう事かな?

吊井座「あ、あいつらは向こうから話しかけてくるじゃねえか……」

瀬川「でも、月乃さんに話しかけられた時は驚く程にキョドってたよね?」

吊井座「ぐっ……!?」

えーっと、少し考えてみようかな

天地さんと臓腑屋さんと月神さん。それに私と月乃さんの共通点は……

瀬川「……もしかして、おっぱいの大きい女の子が苦手なの?」

吊井座「うああああああああああああ!?!?あああああああああ!?!?!?」

月神「!?」

顔を真っ赤にして叫び出す。この反応……図星だね

え?自分で大きいって言うのかって?……月乃さんとかが規格外なだけで、私も充分大きいから!


月神「ど、どうしたの!?」

瀬川「あー、なんでもないよ。ねぇ?」

吊井座「はぁ……はぁ、はぁ……!?」

いきなり大声を出したから、月神さんに心配される

月神さんスタイルはいいけど、大きさは……ねぇ?

まあ、この事は黙ってよう。何かあった時の脅しに使えそうだしね!

吊井座「なんでも、ねぇ……何で俺がこんな……」

照星「やっほー!せーんぱい!何してるんすか?」

吊井座「あああああああああ!?!?」

ぴょこんと扉から頭を出したのは、超高校級の柔道家な割には軟派な照星さん

彼女も、小柄な体躯には不釣り合いな程の、大きなモノを所持しているんだよね……

さっきも、ぴょこんと跳び跳ねた事でソレが大きく躍動して……

吊井座「ななな何の様だよ!?俺に何か文句でもあんのかよぉ!?」

照星「えー?ただ暇してただけっすよ!ま、遊んでくれねーって文句はあるっすけどね!いひひっ」

吊井座「し、知らねえよ……あっち行けよ……!」

瀬川「照星さん!さっき吊井座君が暇だから遊んで欲しいなって言ってたよ!」

吊井座「はぁ!?」

照星「にひひっなーんだ。照れてるだけっすか?なら遠慮無く!とうっ!」

ムギュッ

吊井座「~~~~~~~~!?!?!?」ドサッ

月神「吊井座君!?」

照星「あっちゃー、刺激が強すぎたっすかね……」

照星「吊井座先輩は表情がコロコロ変わるから、遊んでて楽しーっす!いひひひひっ!」

照星さんに抱き締められて目を回して倒れ込む

吊井座君をからかうの面白いな……照星さんじゃないけどさ

本日ここまで
今回はおまけとして、伏線になるかもしれない学年表を貼っておきます


長老:竹田(三年扱い)
三年:デイビット、吊井座、飛田、天地
二年:瀬川、月神、御影、駆村、古河
一年:陰陽寺、照星、臓腑屋、スグル、朝日、月乃


瀬川「……パーティー?」

夕食もそろそろ終わりそうな時、突如、私達の目の前に立つ月神さんからそう告げられた

月神「ええ。考えたのだけど、私達はまだ知り合って間もないでしょう?」

御影「そう言えば……何日経ったっけ?」

月乃「……確か、今日で四日目」

天地「わー、もうそんなに経ったんだ!」

朝日「言われてみるとぉ……実感が沸くねぇ」

飛田「はっはっは!その内来るさ。なにせ、オレがいるのだからな!」

スグル「飛田さん、あんなに落ち込んでいたのに……立ち直れて良かったです!」

古河「ただ能天気なだけやろ……」

月神「その中でも、皆は色んな人と関わり合って打ち解けてきていると思っている……」

月神「だけど、皆が皆と仲良くするのは、この短期間じゃ難しいと思うわ」

駆村「それを、パーティーで手っ取り早く打ち解けさせてしまおうって事か?」

月神「そう!皆の事を少しでも知って貰おうと思うの。集まってワイワイやるのは楽しいでしょう?」

月神「この機会に、もっと皆と仲良くなりたい。皆の事を知りたいから……」


月神「どうかしら?無理にとは言えないけど……」

スグル「そんな!断る理由なんて無いですよ」

照星「皆でワイワイなんて凄く面白そうっす!ね、せーんぱい!」

吊井座「…わ、わかってるっての……」

古河「ええやん!気分転換にもなるしな!」

デイビット「ハ、拒否する理由も無いだろうヨ」

陰陽寺「どうでもいい」

天地「それ、参加するって事でいいんだよね!」

臓腑屋「そうなのでござるか!?」

月神「皆……ありがとう!」

どうやらパーティーはすんなりとやる事になったみたい。まあ、でも楽しそうだもん

それに、私も皆と仲良くなりたいと思っているし、考え方によっては私にも好都合だよね?

瀬川「……ところで、パーティーはいつやるの?」

月神「明後日のお昼から夜までを想定しているわ。提案や質問がある人は、私に気軽に聞いてね!」

パーティーは明後日かぁ……時間も結構あるし、特に問題は無さそうかな?

月神「それじゃあ皆、明後日のパーティーを楽しみにしていてね!」

月神「それじゃあ……お休みなさい!」

彼女の一言で、今日という一日は終了した

明後日のパーティー……そこに、何があるかも知らないままで






『出たね悪の手先!今日こそやっつけてやる!』

『来るがいい正義の味方!倒せるものならな!』




「…………」

今、私の目の前では女の子と男の人が戦っている

火花が飛び散り、光が覆う。激しい戦いの末、女の子の魔法が男の人を貫く

『ぐっ……!……ふ、ははは!俺にそんな魔法が通じると思ったか!』

明らかに胸を貫いているのに、まるでダメージなんて無いかの様に振る舞う男性

そんな非現実的な姿を見ても、誰も、何も驚かない

だって……これ、アニメだもん

『待てー!絶対に倒してやるんだからー!』

「……終わっちゃった」

結局、女の子は敵を捕り逃しちゃった。また来週。また来週。そして、またまた次の来週……

そうして、無限に追いかけっこをしていくんだろうな……最終回までには捕まるかな?

録画したアニメを消すと、テレビにお昼のニュースが流れている。丁度三時半に放送されるやつだ

こんなの見たってつまらない。テレビを消して、部屋に戻ろうとして……










『ごめんくださーい!――ちゃんいるー?』

―――その日、私は運命に出会ったんだ












瀬川「ふーんふっふふーん……♪」

月乃「……千早希、今朝は随分と機嫌がいい」

飛田「ふ……オレも可憐なる乙女に囲まれて……エェクスタシィィイイ!!!」キーンッ

臓腑屋「にゃああ!うるさいでござるよ!?」

吊井座「あ、頭っ、頭がキーンとして痛ぇ……っ」

駆村「大丈夫か?少し椅子に座って楽にしよう」

いつものわーきゃーやかましい喧騒。それさえも、今の私には心地いい

何てったって、昨日はいい夢が見れたから。現実なんてどうだっていいもんね!

スグル「瀬川さん、ご機嫌ですね!」

瀬川「うん!大好きだよ、スグル君!」

スグル「あ、ありがとうございます!」

朝日「わぁ、大胆だぁ」

照星「ひゅーひゅー!お似合いっすよ!」

瀬川「……ってそういう意味じゃないからね!?」

スグル「えっ……?どういう意味なんですか?」

月神「スグル君にはまだ早かったみたいね……」

こんなどうでもいい事だって、今はとっても楽しくて笑顔が出てきちゃう

なんだか……今日はいい一日になりそうな予感!

瀬川「うへへへへぇ……」

月乃「……でも、ニヤニヤするのはやりすぎ」

竹田「言ってやるなよ。いつかは若気の至りになるもんだぜ……」




竹田「おーい嬢ちゃん。その椅子と机、こっちに運んでくれや」

臓腑屋「御意!時に、この箱はここでも構わないでござるか?」

月乃「……もう少し右側に置いてほしい」

臓腑屋「了解でござる!」

今、食堂はパーティー仕様にする為に何人かの生徒が模様替えを敢行していた

ひょいひょいと臓腑屋さんが動き回ると、机には花やテーブルクロスが敷かれていった

瀬川「お疲れー。皆で模様替えやってるの?」

駆村「俺達は料理の仕込みだな。時雄島の名物料理を沢山食わせてやるからな!」

朝日「甘ぁいデザートも用意するつもりだよぉ。今はスポンジケーキを焼いているんだぁ」

瀬川「へぇ……でも今からだと早くない?別に明日の朝からやればいいんじゃ……」

月神「パーティーの当日には、包丁や食器類を使用禁止にする予定なの」

月神「だから包丁やナイフが必要な料理は、今の内に、二人にしてもらっているわ」

厨房の中から、三角巾とエプロンをつけた月神さんが歩いてきた

ふんわりと漂う甘い匂い……朝日君の手伝いでもしていたのかな?

瀬川「それって、やっぱりコロシアイを……」

月神「……皆を信じていない訳じゃないわ。けど、万全を期す事も大切な事だと思うのよ」

少しだけ……少しだけ、悲痛そうな顔をしたけれど振り払う様に笑顔に戻る

皆を疑うことが辛いのか、コロシアイの最中でも盛り上げないといけない重圧からなのか……

……私には、よくわからないや


月神「…安心して!絶対に成功させてみせるから」

月神「だから、瀬川さんも気にせずに……」

天地「どーん!りぼんちゃん参じょーう!」ドスッ

瀬川「ひゃあ!?後ろからタックルは止めて!?」

天地「あずにゃん!またそうやって自分だけでなんとかしようとするんだから!」コシコシコシ

瀬川「そろそろ離れてくれないかな!?」

ゴシゴシ背中に頭を擦り付けないでよ!?

月乃「……りぼん。こっちに来て」

天地「はーい!ちさっちも手伝い頑張ってねー!」

…………えっ?

瀬川「いや、私は……」

月神「あっ……瀬川さんも、私達の手伝いに来てくれたのね!」

瀬川「えっ?えっ?」

月神「ごめんなさい。長々と話してしまって……なら、臓腑屋さんのお手伝いをしてくれないかしら」

瀬川「えっ?えっ?えっ?」

臓腑屋「にゃあ!忝ないてござる!感謝、感謝!」

竹田「丁度手が足りてねえと思ってた所だ。んじゃそこの机を運んでくれや」

駆村「俺達で軽食を作っておくからな!終わったら食べてくれ」

朝日「ふれっふれっ、瀬川さぁん」

こうして、あれよあれよという間に私は机を運ぶお仕事をする羽目になった……

瀬川「……こんなはずじゃないのにーーー!!!」

ちなみに駆村君の持ってきたお菓子は茶色のカリカリしたナニカだった……時雄島ってどんな島なの?




御影「とうっ!ていやああ!」ブンッ

吊井座「お……っとと、やりやがったな……!」ヒュッ

御影「うわぁ!?危ない所だった!」ヒョイッ

飛田「全く……高校生にもなってチャンバラとは。なんと野蛮な……」

照星「でもそんな単純な事でも楽しめる男の子ってカワイーっすね!にっししし!」

飛田「そうか……ならば!華麗にして流麗なる」

照星「あ、前口上は短めでお願いするっすね」

体育館には、暇をもて余した集団がたむろしていた

御影君と吊井座君はモップの柄でチャンバラごっこを楽しんでるし、飛田君はステージの上で踊ってる

照星さんはそんな男子集団を遠巻きに眺めてニヤニヤしてる……変なの

ちなみに、私はというと……

飛田「レディ!このオレと躍りに来たのかね!」

瀬川「ううん。ただの暇潰し」

飛田「オゥ……」

昼食を終えた後の軽い運動、その為に体育館に来てみたんだけど……

なんだか……私、場違いみたいだね




照星「運動っすか?なら自分とマットの上で……」

瀬川「慎んで遠慮させていただきますっ!」


照星「ほー、パーティーの準備も大変っすね」

瀬川「そうなんだよ……もう身体中クタクタで……」

照星「ならマッサージしてあげるっす!自分、こう見えて腕がいいんすよー?」モミモミ

瀬川「いいや……後ナチュラルに胸揉まないで……」

むにむにと服越しにおっぱいを揉まれる。強く抗議したいけど反応する余裕が無い……

照星「むうー冷たいっすね……陰陽寺先輩にも避けられるし、自分、寂しいっす……」

瀬川「相手が悪いよ、相手が……」

そりゃ、あの陰陽寺さんにパイタッチなんてやったら下手したら半殺しだよ……

そもそも、近くに寄る事が出来るのかな……?

瀬川「……そう言えば、陰陽寺さんは?」

御影「え?そっちにいなかったの?」

吊井座「た、体育館には来てねえけど……」

瀬川「ふーん……」

陰陽寺さんはまた行方不明かぁ……デイビット君と古河さんは私と入れ違いで食堂に来てたし……

瀬川「なんか陰陽寺さんって幽霊みたいだよねー。どこにいるか判んないのに突然出てくる所とか」

瀬川「あー……でも竹刀持ってるし、あれじゃ幽霊じゃなくて落ち武者かな?あっはははははは!!」




陰陽寺「随分と楽しそうだな」

瀬川「…………は?」


瀬川「お、陰陽寺、さん?」

陰陽寺「どけ」

瀬川「アッハイ」

まさか陰陽寺さんの事を話している時に本人が来るなんて……どんな確率なのさ……

皆も、凍りついた現場に目を白黒とさせている。彼女が来た事で、体育館には緊張が満ちていた

陰陽寺「……ふっ!」

そんな周りの沈黙を他所に、陰陽寺さんは持っていた竹刀を振り始める

ひゅん。ひゅんと風を切る音だけが響き渡る。彼女の細い腕からは想像出来ない程の、重い音だ

照星「先輩……もしかして、昔は剣道の選手だったんじゃないっすか?」

陰陽寺「………………」ピタッ

照星「しなやかな腕に引き締まった腰、脚もすらりとしてて、相当な年月をかけて足腰を鍛えてるのがわかるっす」

照星「何より……そんなに鋭い素振り、素人が出来るワケねーっすよ!」

照星さんの解説に、おおっと感心の声が挙がる

陰陽寺さんは、元々は剣道かそれに近いスポーツの選手だったのかな……?

なら、何で今の陰陽寺さんは剣道家じゃなくて『超高校級のヒーロー』なんだろう……?

御影「た、確かにそうだよね……」

飛田「スポーツならば、このオレとしようではないか!共に華麗に舞台を舞おうじゃあないか!」

陰陽寺「………………」

陰陽寺「…………失せろ」

照星「でも……!」

瀬川「い、いいじゃんいいじゃん!怒らせると後が恐いよ~?」

ビシリと空気に罅が入る。これ以上の刺激は最悪の展開になりかねない

瀬川「そ、それじゃ私はここで!」

吊井座「…あ゛!?に、逃げんじゃねえよ……!?」

そうなる前にさっさと帰ろう。逃げるんだよ~!



月神「……それじゃ、明日のパーティーの概要を説明するわね」

夜時間に差し掛かる前、月神さんはそう切り出して話を進め始めた

月神「パーティーは立食形式で行うわ。各々自由に楽しんで欲しいの」

竹田「全員の交流についてはどうするんだ?」

月神「皆には自分の事を話して貰おうと思っているの。好きな事、趣味、将来の夢……」

月神「そういった皆の希望に溢れた夢を、皆と一緒に共有するの」

御影「で、でもいざ言えってなるとなんだか恥ずかしいよね……」

月神「そんなに難しく考えなくてもいいのよ?本当に一言。それだけでもいいの」

月神「気取る必要なんて無いの。私は、皆のありのままが知りたいんだから」

臓腑屋「一言だけのコメントならば、そう難しい事でもないでござろうよ」

飛田「ありの……まま……ッ!?なんと大胆な……ッ」

古河「先に言うとくけど、今ここで全裸になったらシバき倒すからな?」

デイビット「自己PRは社会においても重要なものだナ。己を知らしめる方法故ニ」

吊井座「うっ……」

照星「緊張させる様な事言わないで欲しいっす!」

デイビット「ハ、ハ、ハ!失敬、失敬」


天地「………………」

月乃「……?顔色悪い、大丈夫?」

天地「え?うーん……なんだか疲れちゃった……」

駆村「まあ無理もないか……一日中ぶっ通し立ったからな」

竹田「なら……もう今夜は解散でいいよな?」

朝日「そうだねぇ。私は朝も仕込みをしないといけないもん」

御影「確かにそろそろ眠くなってきたしね!」

飛田「美しさを保つ為には……適度な睡眠も必要なのだよ」

臓腑屋「お二人はなんもしてないでござろう!?」

駆村「まあいいじゃないか。いい頃合いだろう」

朝日「あっそうだぁ……陰陽寺さんはどうしよう」

月神「彼女なら大丈夫よ……きっと」

古河「大丈夫なんか?アイツ絶対にこういうの嫌いなタイプやろ」

竹田「ま、我らがリーダーを信じてやろうぜ。女同士話しやすいだろうしな」

天地「じゃ、そういう事で今日はかいさーん!明日のパーティーをお楽しみにー!」

バイバイと手を振り、皆は散り散りに去っていく

誰も彼もが笑顔になって、希望に満ちたと言うべき輝いた表情を見せていた

皆が消えた。その残り香を感じながら私も立ち去ろうとしたんだ

その中に落ちていた、微かな光を放つソレを見つけるまでは


瀬川「あ……これ、コインだ!」

あのクソゲーをやる為に必要なモノ。どれだけ探しても見つからなかったコイン

それが今、私の掌の上でキラキラと光っていた

瀬川「えーっと、御影君は……いないよね?」

本当なら彼に渡すハズだったんだけど、いないんならしょうがないよね

それに、あのゲームを御影君がクリア出来るとは思えないし……うん!

瀬川「……よし!」

コインを握り締めて、気合いを入れる

今から、あのゲームを攻略しにいこう。一枚だけの頼りない残機だけど……

瀬川「残機ゼロは……ゼロじゃないもんね!」

なんだか勇気が湧いてくる。今ならなんとなく……ううん。絶対にクリア出来るんだ!


瀬川「……あれ?スグル君?」

スグル「……こんばんは。瀬川さん」

相も変わらず鎮座する筐体。その前には先客がいた

先客は、カチカチとボタンを押しては離し、レバーを倒しては戻し……

まるで子供が適当に遊ぶかの様に、手元にある機械を弄っていた

スグル「今はこれだけが手がかりなんですが……コインが無いのでどうしようかなって」

瀬川「ふふん、それなら大丈夫!はい!」

スグル「あっ……!コイン、見つけたんですか!」

瀬川「見ててね。今私がクリアしてみせるから!」

……正直、クリア出来る根拠は1つもない

けど、小さな男の子の目の前で、少し位カッコつけたっていいよね?

期待に目を光らせるスグル君。誰かの期待を受けるのは大好きだ

私だけを見てくれる。今、この少年の心は私だけのモノだ

瀬川「さて……よーく見ててね」

コインを投入して、ボタンを叩く

瀬川「ノーコンティニューで……クリアしてあげるから!」

ここで颯爽と決め台詞。これは勝ち確だね!


瀬川「えへへっ、どう?」

スグル「わあっ……!凄い……!」

瀬川「でも難しいのはここからなんだよ。少し静かにして見ていてね」

ここまではトントン拍子でクリア出来た。でも油断は絶対に出来ない

ここからが本当に難しいんだよね。初見殺しのオンパレードにワンパンで消し飛ぶインチキ火力……

でも、私には経験がある。コインを全部注ぎ込んで得たトライアンドエラーの力が!

瀬川「……げえっ!?」

やっば、ミスッた!このままじゃ地味にマズい!

スグル「ど、どうしたんですか!?」

瀬川「な、なんでもない。なんでもないよ~……」

何とかして軌道修正して……よし。何とか!

瀬川「これで……終わりだぁぁぁぁぁっ!!」

『GAME CLEAR!』

スグル「クリアした……!凄いです、瀬川さん!」

瀬川「………………や」

スグル「……瀬川さん?」

瀬川「やったあぁあああああああっ!!!」ガバッ

スグル「うわぁっ!?」ギュッ

良かった……!もしあそこまでカッコつけて、ここで死んでたら本当に恥ずかしかったよ……!

スグル「あ、あのっ!あ、当たって……!」

瀬川「……ゴメン!」


スグル「で、でもクリアしたので特典が……」

瀬川「あ、そういえばそうだった!」

ゲームに熱中し過ぎてて完全に忘れてた……でも、結果オーライだよね!

瀬川「……で、どれがそのクリア特典?」

スグル「え?無いんですか?」

瀬川「うーん……それらしいのは無いかな……」

てっきりクリアしたら何か出てくるかと思ったけど何もない。景品らしきものは見当たらなかった

瀬川「もしかして……騙された?」

スグル「それとも、他の人がもうクリアしちゃったか。ですね……」

瀬川「それだと、クリアした人が皆に黙ってる事になるんじゃないかな?」

瀬川「そうだとしたら、その人だけ情報を持ってる事になるし……不自然じゃない?」

スグル「そう……ですか?」

まさか、あれだけ仲良ししてた人達がそんな事するとは思えないしなぁ……

黙る事でメリットがあるとは思えないし、素直にモノクマとクソアニメが適当な事を言っただけだよね

瀬川「……あームカつく」

あんなふざけた連中にいいように遊ばれていた事にイラッとする。それに乗せられた事が更にムカつく

まあ、でも……クリア出来た事は嬉しいし、久しぶりに楽しかったから怒るのは止めよっかな


瀬川「……なんか、疲れちゃったね」

スグル「そう、ですね」

ぽつり、ぽつりとどちらからともなく話し始める

最近の出来事、モノクマへの不安、好きなモノや嫌いなもの……

スグル君は甘いものが好きだから、朝日君や御影君に、月神さんともよく話しているんだって

特にマカロンが大好きみたいで、マカロンの話になるとにぱっと顔を明るくするほどに好きなんだ

スグル「えっと、瀬川さんの好きな食べ物はなんですか?」

瀬川「私?うーん……クレープかな」

瀬川「前に、友達と一緒にイベント帰りに寄った事があるんだけど、そこのイチゴクレープがすっごく美味しくってさ!」

瀬川「友達との帰りに食べるのが定番になってね、もう何回も通ってるから顔見知りになったんだ!」

瀬川「ああ……もう一度食べたかったなぁ……」

あの口いっぱいに広がる甘味を思い出す。イチゴの甘酸っぱさと、クリームの濃密な甘みの合わさったクレープを……

……ダメダメ。もう夜なんだから、アレを食べたら間違いなく体重がエグい事になる

体型の維持はコスプレイヤー必須の技能だからね。私だって影ながら努力してるよ。本当だよ!


スグル「……ふふっ」

瀬川「え?な、何?いきなり笑って」

スグル「いえ…その、お友達と仲がいいんですね」

スグル「お友達の話をすると、瀬川さん凄く笑顔になってましたよ?」

瀬川「そ、そうかな?」

確かに、あの子の事は私にとっては何よりも大切な存在だ

私にとっての親友はあの子だけ。あの子にとっての親友は私だけ……

そんなかけがえのない存在だからこそ、私はあの子だけが親友なんだもん

スグル「……もしかして、瀬川さんが超高校級のコスプレイヤーになったのもその人の影響ですか?」

瀬川「……うん、そうだよ」

スグル「あの、よろしければ……その友人さんが、どんな人か聞いてもいいですか……?」

スグル「瀬川さんがどうしてコスプレイヤーになったのか……知りたいんです」

瀬川「そっか。スグル君は……」

スグル「………………お恥ずかしながら」

記憶喪失……スグル君は、自分の友達どころか自分がなんの才能かも覚えていないんだったっけ

そう思ったら、なんだか彼が可哀想に思えてきて

瀬川「うん、いいよ。ちょっとだけ、ね」

普段なら言わない彼女の事、少しだけ話したくなったんだ



……私、小さい頃は引っ込み思案な子だったんだ


身体も弱くてさ。誰かの後にくっつかないと、どんどん置いていかれちゃう位弱かったんだ


そんなんだから、ずっと教室の隅っこに縮こまってるみたいな子だったんだ。私


スグル「………………」


……意外かな?こんな事、普段は誰にも言わないんだけどね。今だけは特別だよ?


で、だからかな?私はクラスで孤立しててね……


いつか、学校行かなくなっちゃったんだ。なんだか面倒になっちゃってさ


でもさ、家の中って面白い事ってそんなに無いんだよね。毎日居るから当然なんだけど


だから私は画面の中のフィクションの世界に溺れていったんだ。フィクションの世界は凄く楽しかったよ?


このままずっと、フィクションの世界に溺れたい。フィクションの世界で暮らしたい……


そんな時に、プリントを届けに家に来た、その子に会ったんだ


それでね、こうその子に言われたんだ。『その夢、一緒に叶えよっか』ってね





スグル「……それが、コスプレイヤーなんですね」

瀬川「そう!私自身がフィクションになる事だ……目から鱗の発想だったよ」

瀬川「それでね!その子が衣装とか作るの手伝ってくれて、撮影方法とかも一緒に研究して……」

瀬川「SNSに流したら、凄くバズったんだ!こんなに私の事を見てくれるなんて思ってなかった……」

瀬川「こんなに気持ちのイイ事があるなんて、本当に知らなかったんだ!」ガタッ!

言い終わるとゾクゾクと五体に快感が満ち溢れる。立ち上がって手を広げ、歓声を身に浴びるように

スグル「せ、瀬川さん?」

瀬川「はっ……ご、ごめん。舞い上がり過ぎた……」

いけないいけない……いくら小さな男の子の前だからって絶頂するのはやりすぎた……

スグル「……瀬川さんにとって、コスプレは大切な宝物なんですね」

スグル「僕も、瀬川さんの様なそんな大切な人がいたんでしょうか……」

言い終わると、微かに涙を浮かべた少年は目を伏せる

哀しげに俯く。そんな憂いを帯びた表情、幼い君には会ってないよ……


瀬川「……なら!今から私がなってあげるよ!大切な人に!」

瀬川「だからさ、スグル君も……なってくれる?私の大切な……」

瀬川「………大切な」




瀬川「……………友達。にさ」

ぎゅっと彼の手を握り、思いの限りの言葉を放つ

私の友達になって。なんて、もっと小さな頃には言えなかったのに

こうして自然に、勢い任せに言えた事。成長したって事でいいのかな

スグル「……はい!僕でよろしければ!」

ぎゅっと手を握り返される。にこっとはにかむ笑顔に、心の奥がどきっとした

瀬川「……絶対に、絶対だよ?嘘ついたらダメだからね……!」

スグル「勿論です。よろしくお願いします!」

この夜の約束は、ちっぽけで他の人にはどうだっていい代物かもしれないけれど

でも、私にとっては、何よりも大切なハジメテだったんだ。だから……

絶対に私はこの子を守ってみせる。だって、私はスグル君の親友なんだからね

だから……君も、私を……


………………………………………

……………………

………

本日はここまで。多分本年度での更新は最後になると思います
もしかしたら少しだけあるかもしれませんが……あまり期待しないでください。よいお年を……




瀬川「……ん、朝かぁ」

目を覚ます。意識が夢から現実へと引き戻される

どんな夢を見ていたか。それはもう忘却の彼方へと追いやられていて

その変わりに、昨日果たした男の子との約束。それがじんわりと染み込んできた

瀬川「友達、なんだよね……」

瀬川「スグル君は、もう私の友達なんだよね」

確認する様に、口に出す。私と彼のささやかな契約

トモダチという言葉の重さ。それは私がよく知っているはずなんだ

私は彼に全部をあげる。それが友達ってものだよね

彼の欲しがる全てをあげる。だから、スグル君も私の望む全てを……

瀬川「……なんか、これだと彼女みたいかな?」

彼氏と彼女。男女の関係では真っ先に思い付く甘い関係

でも、まだ私達は知り合ったばかりだ。そうなるのはこれからの行動で……

瀬川「……なんちゃって。そんな訳無いか」

幾ら私でも、中学生の子を彼氏になんてしないよ。したら警察沙汰だし

彼はあくまでも友人だ。もう少し大人になってからじゃないとね

でもそうすると私の好みとは少し外れるし……むむ

こんな乙女ゲーの主人公みたいな恋愛も、してみたかった事なんだよね!




月神「……皆、集まっている?」

御影「モッチロン!全員来てるよ!」

月乃「……でも、まだ魔矢が来ていない」

陰陽寺「僕が何だ」

デイビット「おヤ。来ていたのかネ」

吊井座「ヒィッ!?なな、なんで今まで気配消してんだよ……!?」

古河「陰陽寺も参加するんか?ウチが言うのもナンやけど、こういうの嫌やないんか?」

陰陽寺「どうせ来なくてもしつこく呼びに来る連中がいるだろうが」

月神「ふふ。そうね」

陰陽寺「チッ、だから先にきてやっただけだ」

天地「はい!それじゃあ今夜のパーティーの説明を始めるね」

天地「パーティーは今日のお昼から夜時間まで行うよ。内容は前にも言ったよね」

駆村「一言、自分の事を皆にコメントすればいいんだよな」

月神「ええ!好きな事を話してくれればいいの」

天地「最後には皆で円陣組んでおしまい!掃除はりぼんちゃんにに任せてね」

臓腑屋「円陣の意味とはいったい……」

月神「円陣、皆はやらない?私はよくライブの前にやるのだけれど……」

スグル「あ、これは月神さんの案なんですね……」

月神「パーティーが始まる前に、私が回って皆に連絡を入れるわ。それまでゆっくり待っててね」

パーティーが始まる前、少し時間があるけど……

誰かと話して、時間でも潰してようかな……?




スグル「月神さん、順調ですか?」

月神「ありがとう。貴方のお陰で、準備も問題なく進んでいるわ」

机で向かい合いながら、スグル君と月神さんが話している。ニコニコと笑い合うその姿は、姉弟の様だ

仲良き事は美しき事。二人がどんな関係になろうと私には関係の無い事なんだし

なのに、二人が中睦まじく話しているのを見ると、何故か胸の奥がジクジクと痛む

この感覚は……覚えている。月神さんにリーダーを盗られた時や、陰陽寺さんに罵倒された時

何か凄く嫌な事があった時……心の底から、ふつふつと沸き上がってくる感覚だ

瀬川「……ねえ、何を話しているの?」

スグル「あ、瀬川さん。今日のパーティーで、僕は何を話そうかと思って……」

月神「彼の事、少しでも知ろうと思って。瀬川さんも一緒に考えてくれるかしら?」

そっか。スグル君は話す事が思い付かなかったから月神さんと相談していたんだ

それなら、なんにも問題は無いよね。影で私の悪口を言った訳でもないし、嘘をついてる訳でもない

だけど、そう自分に言い聞かせても、心の奥底からはドロドロは溢れ返ってきて……


瀬川「……ちょっと来て」グイッ

スグル「えっ?すみません。少し席を外しますね」

月神「ええ、いいわよ」

にこっと笑いながら私達を見送る月神さん。その可愛らしい笑顔が、今は私をイラつかせる

まるで『貴女よりも私の方が可愛いでしょ』とでも言いたげな、あの勝ち誇った様な顔が……

瀬川「……スグル君さぁ、どうして私に相談せずに月神さんに相談したの?」

スグル「え……ダメでしたか?月神さんと相談して決めようと思ったんですが……」

……つまり、スグル君は私よりも月神さんを選んだんだ。友達の私より、無関係の月神さんを


瀬川「……何それ」

スグル「え?」

瀬川「昨日約束したでしょ?私が君の友達になるって!君も私の友達になるってさ」

スグル「は、はい」

瀬川「なのに何で?どうして私を無視して月神さんに話しかけるの?どうして私じゃないの?」

瀬川「友達って言ったじゃん!私と相談するのが普通なんだよ!?スグル君はわかってるの!?」

スグル「ご、ごめんな……」


瀬川「約束したじゃん!大切な人になって欲しいって!大切な人になってくれるってさぁ!」


瀬川「どうして約束を破るの!?どうして私を裏切るの!?どうして私を頼ってくれないの!?」



溢れ出るドロドロを叩きつける。こんな事、しちゃダメだってわかっているのに止められない……


瀬川「もういいよ……スグル君なんて……」

瀬川「スグル君なんて!大っ……!」

スグル「っ!」

瀬川「……!?」

ビクリと身体を震わせるスグル君。その怯え様に、私の思考も澄んでいく

大嫌い。その一言は、彼にぶつけられる前に、私の頭の中で霧散していった

瀬川「…ゴメン。いきなりこんな事言っちゃって」

スグル「……え?」

瀬川「私、こういうの許せなくってさ。だから急にカッとなっちゃって……」

瀬川「本当にゴメン。友達失格だよね。私」

自重気味に語りかけて、伏し目がちに俯き笑う

スグル「……そんな事、無いです!僕、瀬川さんに負担にならないようにって思ったんです」

スグル「でも、そんなに僕の事を大切に思っていたなんて……嬉しいです。だから失格なんて言わないでください」

その手を取って、笑いかけてくれるスグル君。彼はきっと私の事を欠片も疑ってないんだろうな

スグル「だから……えっと、これからも仲良くしてくれますか?」

瀬川「勿論だよ……ありがとう。よろしくね!」


『こうすれば、きっと心配してくれる』なんて私が考えているなんて

笑顔で笑う。心の底で、彼の優しさと幼さに漬け込んだ卑怯な自分を嘲笑いながら





御影「えー、本日はお日柄も良く……」

月乃「……つまらない」

飛田「さっさと裏に引っ込みたまえ」

照星「もっと面白い事言ってほしいっすー!」

竹田「おーい坊主、一発芸でもやってくれや」

御影「うるさいな!?開会の挨拶なんてどうだっていいだろ!?」

駆村「素人は黙っていろ!お前はまだ、開会の挨拶がどれほど重要かわかっていない!」

御影「何で駆村君がキレるのさ!?」

駆村「冗談だ!」

どっと周りから笑いが起こる。御影君は不服そうにしながらも、ぎこちない笑いを浮かべている

パーティーの滑り出しは、まあまあ好調といった所かな。私も、皆に合わせて笑顔を作っていた

朝日「はぁい、お料理持ってきたよぉ。いっぱぁい食べてねぇ」

臓腑屋「危険が無いことは拙者らが保証するでござる。勿論、味もでござるよ!」

陰陽寺「………………」

厨房からは、朝日君が両手に料理を持ってきた。後から臓腑屋さんと陰陽寺さんがついてくる

月神「準備も出来たみたいだし……それじゃ、パーティーの開始を宣言するわ!」

月神「皆、今日は思いっきり楽しんで頂戴!」


御影「あっ、これ美味しい!ほら!」

吊井座「た、確かに美味えけどよ…なんだよコレ」

照星「んー……味はエビフライっぽいんすけどね。もぐもぐ」

竹田「……おい坊主。一応聞くがあれはまさか」

駆村「ん?何か問題でも?時雄島名物コオロ……」

吊井座「!?い、い、今、おま、何て……」

竹田「あー気にすんな。美味いよな。それ」

吊井座「いや、そこは言ってくれよぉっ!?」


古河「どや!ウチも全面的に監修したんやで、この飾り付け!」

デイビット「これはこれハ。流線的な意匠を……」

古河「まあせやな。それでここは……」

飛田「ふぅむ……何を言っているかサッパリわからないが美しい事だけは理解した!」

月乃「……絶対によくわかってない」

朝日「あは。私もよくわかんなぁい」

月乃「……お前は頭に砂糖が詰まっているだけ」

朝日「うぅん。厳しいなぁ……」


スグル「あ、あの……」

瀬川「そんなにビクビクしないでよー。流石に誰かに話しかけるのまでは何も言わないって」

スグル「そ、そうですか……」

やっぱりさっきのはマズかったかな……でもスグル君は陰口叩くタイプじゃなさそうだしセーフだよね

月神「天地さん。備品の管理は……」

天地「だいじょぶだいじょぶ!危険物はケースに纏めて入れてあるよ。鍵はこれね!」

天地さんが、皆に見える様に鍵をポケットから出す

鍵がかかってあるなら安心だよね。でもあんなに見せびらかしてもいいのかな……

天地「それじゃ、そろそろ自己紹介しよーね!まずはりぼんちゃんからやるよー!」




こうして始まった自己紹介は、本当に簡単だった



天地「天地りぼんです!家庭教師してまーす!」

朝日「御伽朝日だよぉ。ショコラティエなんだぁ。皆と甘ぁいコトが大好きだよぉ」

月乃「……御伽月乃。不肖ながらこの朝日の双子の妹をしている。よろしく」

陰陽寺「必要ない」瀬川「あ、前に出てきてはくれるんだね」



もう知ってる事、知らなかった事、色々と皆は私の前で教えてくれた



駆村「駆村沖人だ。時雄島の地域振興委員として活動している。時雄島とは……何?短くしろって?」

スグル「あ、えっと、神威スグルです!皆さん、これからも宜しくお願いします!」

古河「古河ゆめみや!これからダサイ奴はビシビシ言っとくから覚悟しときぃや!」

古河「あーっと、次は瀬川やな」

瀬川「え?何で?……あ、ゴメン、私は最後でいいかな?」

竹田「んじゃ、ありがたくやらせてもらうぜ」

竹田「竹田紅重。竹田商店の代表取締役をしているぜ。まあ今後ともご贔屓に、な」


それでも、ほんの少し皆は嬉しそう。こんな簡単な事でも人と人は繋がれるんだ


月神「月神梓です。アイドルですが、ここでは一人の女の子として接してくれると嬉しいです」

吊井座「つ、つ、吊井座小牧……べ、別に俺はこれでいいだろ……?」

デイビット「デイビット・クルーガー。ワタシの事はあまり話す必要は無さそうだナ」

照星「照星夕!特技は柔道と夜のマット運動!不安な人は自分がベッドで手取り足取り教えたげるっすよ、いひひっ!」

飛田「美の伝道師、地上の星、風の中の昴…そう、世界の至宝飛田弾とは!このオレの事だ!」

臓腑屋「拙者、姓は臓腑屋、名は凛々と申す者にてござる。他の家計の家事代行を生業としているのでござる……忍者では無いでござるからな!」

御影「御影直斗!超高校級の幸運だよ!今はまだ特に何もしてないけど、これからビッグになる予定の男さ!よろしくね!」



でもそろそろ飽きてきたかも。さっさと終わらないかなー……

月神「ありがとう。それじゃあ瀬川さん。お願い」

瀬川「えっ!?あ、そうだった!」

瀬川「……私は、瀬川千早希です!超高校級のコスプレイヤーやってます!」

瀬川「えっと……無理に、とは言わないけど……私の事、好きになってくれると嬉しいな!」

皆の前で笑顔を浮かべながら頭を下げる。パチパチと聞こえる拍手の音が心地いい

言った事は、全部本当だ。私の事、皆が好きになってくれたらいいのにな


月神「……それじゃあ皆、円になって」

自己紹介が終わったと同時に月神さんが号令を出す

ぐるりと互いが互いを見渡せる様な位置取り。私の顔、変じゃないかな……

御影「なんだか、ドキドキするね……」

スグル「でも、楽しいです。こうして皆さんと顔を合わせる事は滅多にありませんし……」

月神「皆揃った?なら、手を出して重ねて……」

手を伸ばして、上の人の手に私の手を重ねる。すぐに他の人の手が乗っけられた

駆村「こうして人と人の重なった上に世界が産まれる……いい言葉だな。本当に」

臓腑屋「聞いたことないでござるが……」

駆村「時雄島のことわざさ。『天は人の上に人を重ねる』というな」

竹田「つーかそれって死屍累々じゃねえのか」

月乃「……突っ込んだら、負け」

月神「ふふふ。それじゃあ最後の号令よろしくね。天地さん」

天地「はーい!それじゃあさん、にー、いちで行くよー!」



天地「さん!」

天地「にー!」

天地「いち!」

手にぐっと力が入る。溜めた力を上に放とうと、手を上に振り上げようとして……










ブツンッ!

……突然、目の前が真っ暗になったんだ









瀬川「……え?」

視界に落ちる闇。さっきまで目の前にあった手は、既に黒の中に溶け込んでいた


「きゃっ……!停電!?」


「なんだなんだ?ブレーカーが落ちたか?」


「あは。なんだかドキドキするねぇ」


「拙者が確認してくるでござる。暫し待機を……」


「痛っ!やめてっ!」


「うわぁ!?何、何が起きてるの!?」


「ひぃいいいっ!?うああああ!?!?」


「ちっと落ち着けや!何がなんだかさっぱりわからへんやろが!」


瀬川「あーもう、滅茶苦茶だよ……きゃっ!?」

真っ暗闇に響く悲鳴。ドタドタと慌てているかの様な足音だけがはっきりと理解できる

それに、私の上にのし掛かってきた柔らかくて重いモノ。むにゅむにゅとした感触が手に伝わる

『一定時間の電力の断絶を関知しました。非常電源に切り替わります』

アナウンスが響き渡る。間も無く、私の視界には光が届き始めた……


……バチンッ

月神「……皆、大丈夫かしら?」

スグル「は、はい!」

パッと視界が明るくなる。非常電源はしっかり作動したみたいだね

御影「痛たた……何があったの?」

臓腑屋「む、点いたでござるか?拙者がブレーカーも確認してくるでござる」

瀬川「……月乃さん?何してるの?」

月乃「…………怖かった」

目の前にいたのは月乃さん。ずっしりとした重みがはっきりと伝わる……

瀬川「ごめん。重たいから離れて……」

月乃「……失礼した。立てる?千早希」

駆村「こう言うのもなんだが……確かに重たそうだものな」

古河「駆村なぁ……オマエそれ殺されても文句言えへんで、それ」

照星「女の子に重いは禁句っすよ。まあ月乃先輩は大きいっすからね!いひひひっ!」

吊井座「よ、余計な事言うなよな……」

天地「……無い」

駆村「はは。そうだよな。悪い、デリカシーに欠けた発言だったよ」

天地「違う、そうじゃないよ……」

デイビット「はテ?ならばいったい何の事やラ」











天地「ケースの鍵が、無くなってるの……」









本日はここまで。新年会でした
新年、明けましておめでとうございます!軽いスランプ気味でしたが、何とか更新出来ました……
これからもマイペースに、オリロンパをやっていきたいなと思います!今年も、よろしくお願いします!


御影「……は?」

天地「無い、無いんだよ……ちゃんとポッケに入れてたのに……」

くるりとポケットを裏返して中身を見せる。確かに鍵は見当たらなかった

駆村「どこかに落っことしたんじゃないか?」

吊井座「あんだけ全員が驚いたんなら、あり得る事だよな……」

天地「え、えっとね?あんまりこんな事言いたく無いんだけどね……」

天地「誰かが、りぼんちゃんを押し倒したの……」

押し倒した……?それって、もしかして……

飛田「な……暗闇に乗じか弱きレディを押し倒したのだとッ!?」

飛田「この恥知らずの匹夫めがッ!今すぐ名乗りでなければ社会的に殺されると思えッ!」

竹田「まあ落ち着けや。まだそうと決まった訳じゃあねえだろう」

竹田「あんだけ坊主共が混乱してたんだ。どさくさに紛れて倒しちまっただけかもしれねぇぞ?」

陰陽寺「……………………」

天地「ど、どうしたの?そんなに睨み付けて……」

陰陽師「ふん」


スグル「僕は……皆さんがそんな事をすると思えません。きっと落としただけだと思います」

スグル「そうだとしたら、きっとどこかに鍵が落ちているはずです!探しましょう!」

朝日「うぅん。私も賛成だよぉ。皆が女の子に乱暴する様な人には見えないもんねぇ」

朝日「あっ……もちろん、私に乱暴するのは合意の上だからおっけーだよぉ?」

月乃「は?」

月神「ま、まあ……とにかく探してみましょう。見つかればそれでいいんだもの」

陰陽寺「下らないな。僕はもう戻るぞ」

御影「えっ!?何でこのタイミングで帰るの!?」

月乃「……幾らなんでも、それは怪しい」

デイビット「ふム、疑う訳では無いガ、些か非協力的な態度ではないかネ?」

陰陽寺「……………………」

感情の籠っていない視線で私達を射抜く。その冷酷な眼差しに怯みそうになるけど……

瀬川「……どうしても帰るなら、証拠を出してよ」

瀬川「私達全員が納得出来る、無実の証拠をさ!」

ここでハッキリ言わないと……きっと、私はずっと陰陽寺さんには勝てないから


月神「瀬川さん……?別にそこまでは……」

瀬川「駄目だよ……ここでハッキリさせないと……」

陰陽寺「ふん、愚かな奴だ。無いものを出せと?」

デイビット「悪魔の証明というやつだナ。哲学的な話になる故、概要は省略するガ」

照星「あ!いいこと思い付いたっす!にひひっ」

臓腑屋「にゃ?照星殿、何かいい案でもあるのでござるか?」

照星「証拠が出せないなら、証拠が無いことを証明すればいいんすよ!」

照星「つまり!その制服を脱いで産まれたままの姿になれば陰陽寺先輩の無実も……」

陰陽寺「………………」

駆村「ストップだ。無言で竹刀を持つんじゃない」

月神「でも、身体検査そのものはいいアイデアだと思うわ。ありがとう、照星さん!」

照星「どーもっす!いひひひひっ!」

照星「それじゃ、早速全部脱ぐっすよー!」ガバッ

吊井座「うぁあああ!?服の上から確認出来るだろおおおお!?!?」

……突発的に始まった荷物検査。別にやましいものは無いからいいんだけどさ


古河「んー……無さそうやな。月神はどうや?」

月神「こっちもそれらしい物は無かったわ……」

瀬川「じゃあ、女子は犯人じゃないって事?」

月神「そうみたいね。本当に犯人がいるかはわからないけれど……」

結局女子の皆からは鍵は見つからなかった。陰陽寺さんも怪しいものは持っていない

臓腑屋「拙者らで無いとなるとやはり殿方が……」

駆村「そうか……女子も無かったか……」

瀬川「え?女子もって事は男子も無いの?」

竹田「間違いねえぜ。俺達は上着も脱いだからな」

吊井座「さ、寒い……」

朝日「あは、私、皆に乱暴されちゃったぁ……♪」

古河「ハァ!?」

御影「してないからね!?朝日クンは特別に、服の上から叩いて調べてあるからね!?」

月乃「……兎に角、これで誰も鍵を持っていない事がわかった」

天地「ならきっと落としちゃったんだね!なら早く掃除して見つけないと!」

天地「ここはりぼんちゃんに任せて、皆はもう部屋に戻ってもいいよ」

月神「……え?」


月神「天地さん独りだけにやらせる訳にはいかないわ。私も……」

天地「あんがとー!でも大丈夫。ここは全部りぼんちゃんに任せてよ」

スグル「無茶ですよ!朝になっちゃいます!」

駆村「俺達だって掃除くらい出来るさ、天地一人にやらせる訳にはいかない」

竹田「一応最年長だしなぁ……年下の嬢ちゃんだけに押し付けんのは目覚めが悪ぃ」

臓腑屋「安心なされよ、拙者がいる以上すぐに終わらせてしんぜよう!」

天地「ううん平気、皆は帰っていいんだよ」

口々に手伝う声が挙がっても、それを冷ややかとも呼べる態度で断られている

普段とは明らかに違う態度。その原因はきっと……

天地「もし見つからなかったら、なんだか恥ずかしいもんね!」

月神「そんな……!別に天地さんが悪い訳じゃ……」

デイビット「……ふム。では任せようじゃないカ」

朝日「いいのぉ?」

デイビット「どうにも譲る気は無さそうダ。ならば明日の結果を楽しみに待とうじゃないカ」

天地「えへへ!ありがと!それじゃあおやすみ!」

天地「皆がまた集まった時に話すから!また明日、会おうね……!」

ぶんぶんと痛そうな位に手を振りながら、天地さんは笑顔で見送ってくれた

明日の朝に会おうなんて、フラグ染みた台詞を言いながら


月神「天地さん独りだけにやらせる訳にはいかないわ。私も……」

天地「あんがとー!でも大丈夫。ここは全部りぼんちゃんに任せてよ」

スグル「無茶ですよ!朝になっちゃいます!」

駆村「俺達だって掃除くらい出来るさ、天地一人にやらせる訳にはいかない」

竹田「一応最年長だしなぁ……年下の嬢ちゃんだけに押し付けんのは目覚めが悪ぃ」

臓腑屋「安心なされよ、拙者がいる以上すぐに終わらせてしんぜよう!」

天地「ううん平気、皆は帰っていいんだよ」

口々に手伝う声が挙がっても、それを冷ややかとも呼べる態度で断られている

普段とは明らかに違う態度。その原因はきっと……

天地「もし見つからなかったら、なんだか恥ずかしいもんね!」

月神「そんな……!別に天地さんが悪い訳じゃ……」

デイビット「……ふム。では任せようじゃないカ」

朝日「いいのぉ?」

デイビット「どうにも譲る気は無さそうダ。ならば明日の結果を楽しみに待とうじゃないカ」

天地「えへへ!ありがと!それじゃあおやすみ!」

天地「皆がまた集まった時に話すから!また明日、会おうね……!」

ぶんぶんと痛そうな位に手を振りながら、天地さんは笑顔で見送ってくれた

明日の朝に会おうなんて、フラグ染みた台詞を言いながら











『へえ!アニメみたいな自分になりたいんだ!』

『う、うん。でも、私は魔法も使えないし、変身も出来ないし……』

『うーん。あ、そうだ!ならさ、――ちゃん、コスプレやってみない?』

『こすぷれ……って、何?』

『アニメとか漫画とか、フィクションのキャラの模倣をする事だよ。これなら誰でも理想の自分!』

『それでも、自分に自信が持てないなら……私が、いつでも力を貸してあげるから』


………………………………

………………

………










瀬川「おはよー。あれ?これだけ?」

駆村「ああ。昨晩は色々あったが……」

臓腑屋「瀬川殿もそう思うでござるか……」

朝に集まったのはたったの数名。他の皆はまだ来ていないみたいだね

瀬川「……天地さんは?」

月神「それが、いないの。後で部屋に行ってみようと思っているけど……」

竹田「ま、俺達は待つしか出来ねえな。ゆっくりと待ってやろうじゃねえの」

楽観的な竹田さんに合わせるみたいに、皆は待つ事に決めたらしい

待ってる間、どこかソワソワした雰囲気だと感じたのは、多分気のせいじゃないよね……


御影「おはよー!いやーゴメン!寝坊してさ……」

古河「御影ェ!オマエ、来る時天地見とった!?」

御影「えっ!?いや、見てないけど……?」

スグル「そう、ですか……」

……最後に来たのは御影君。彼は、天地さんを見ていないと答えていた

あれから数十分間、待っても来たのは別の人。全員が天地さんを見ていないと言っていた

月乃「……部屋で寝ているだけでは?」

飛田「昨夜はレディ一人を残してしまったから相当疲れてしまったのだろう!」

吊井座「そ、そそ、そうだろ。絶対……」

朝日「でもでもぉ、天地さんってぇ、いつも朝は早い方だと思ったんだけどなぁ」

デイビット「ふム、意見が真っ二つ。ではこうするのは如何かネ?」

デイビット「今より天地女史の部屋に向かう者、この場に残り待つ者。二手に別れ行動するのだヨ」

スグル「た、確かにそれがいいですよね……」

スグル「何もないなら、無いでいいんですし……」

何もないならそれでいい。そう言ったスグル君の声は、酷くか細く震えていた


月神「……なら、私とスグル君、臓腑屋さんにデイビット君が行きましょう。いいかしら?」

スグル「はい……」

デイビット「良かろウ」

臓腑屋「委細承知!」

名前を呼ばれた三人が月神さんについていく。残された私達は、何をするでもなく待っていた


御影「ねぇ、もし本当に天地さんがさ……」

吊井座「ややや止めろよ!?そそ、そんな訳ねえだろうが!?」

古河「ビビり過ぎやろ……もっとしっかり、ドンと構えとき!」

駆村「案外、いつものイタズラかもしれないぞ?」

月乃「……やりかねないけど、悪趣味」

朝日「あれぇ?陰陽寺さぁん。どこいくのぉ?」

陰陽寺「探してくるだけだ」

照星「探すって……アテでもあるんすか?」

陰陽寺「勘だ」

瀬川「勘かぁ……」

そんな動物じゃないんだから……でも陰陽寺さんって結構勘の鋭い所があるからなぁ

瀬川「うーん……じゃあ私も行くよ。暇だしね」

席を立った私に、ちらりと視線を向けてすたすたと去っていく。無言は合法って言うし問題ないよね?

瀬川「……で、何処を探すの?」

陰陽寺「愚か者が」

竹田「適当に探しゃあいいだろ。倉庫とか教室とかでいいんじゃねえか」

吊井座「なっ、ななな、なんで隠れてる前提なんだよぉ!?部屋にいるかもしれねえだろ!?」

瀬川「そんなぎゃーぎゃー騒がないでよ……本当に軽く探すだけだからさ」

私達は各自に天地さんを探しにいく。なんだか、昔にやったかくれんぼみたいでドキドキするなぁ……




御影「で、何で倉庫なの?」

瀬川「近いし、広いし、色々あるし……」

何人かが別の場所に移ったのを見計らって、倉庫に逃げるように転がり込む

尤も、一人だけじゃなくて何人かは先に来ていたんだけれどね

竹田「ま、広いっちゃ広いがこの数でも何とかなんだろ、なぁ?」

陰陽寺「好きにしていろ」

倉庫の奥の方へ歩いていく陰陽寺さん。竹田さん、御影君も適当に散らばっていった

瀬川「……ふぁ。奥で休んでよっと」

取り合えず、私はサボっていよう。足早に倉庫の奥の奥へと進んでいった


瀬川「……ったぁ!?」ズデーンッ

瀬川「痛ったたたぁ……何!?」

唐突に足を取られてすっ転ぶ、幸い他の人達は気づいていないみたいだ

振り返って原因を探す。そこにあったのは……

瀬川「これ、ゴミ袋?何でこんな所に……」

パーティーで出たゴミ?でも、それならこんな所に放置しないよね

前からあったなら、誰かが片付けるだろうし……

瀬川「て言うか、何が入ってるの?やけに重かったけど……」

独り言を呟いて袋を破く、中に入っていたモノが、私の目の前にゴトリと落ちてきた






……違和感を感じたのは、袋を破った時だった


ぐちゃりと濡れたモノを触れた様な触感。ドロリと溢れ出る真っ赤な液体


私の感覚が、私の認識よりも幾分早かったのが不味かった。確認の為に、それを直視してしまったから


手にこびりついていたのは、夥しい量の血液だった


中に入っていたゴミ……血液の持ち主だったモノと目が合う。見開かれた焦点の合わない目が、私の心を射竦めた




頭につけた大きなリボンがくたりと垂れた首にぶら下がる。彼女のトレードマークが、無様にも真っ赤に汚れていた


超高校級の家庭教師。天地りぼんさんは、最悪の形で私と再開したんだ











「…………え?」

目の前の現実が理解出来ない。目の前の真紅が視界を潰していく

「嘘、あれ、え、なんで?」

思考がどんどんこんがらがる。無理矢理頭の中をぐちゃぐちゃに混ぜられていく

「嫌……嫌、嫌、嫌……!」

今、私に出来る事は拒絶する事だけ。目の前の嫌な事を否定して、妄想の中に逃げ込むだけ

「イヤァアアアアアァァァアアアアァアアッ!!」

だから、きっとこれは夢なんだ。目が覚めたらいつもの朝に元通りなんだ

………………だから?

世界が散り散りになっていく、何処か遠くから声が聞こえる

私の世界がグズグズに崩壊していくのを感じながら








【Chapter1】
  イロドリミライ 非日常編







本日ここまで。ようやく非日常編です
因みに犯人がリメイク前と変わったかはノーコメントで……トリックに関しては多少練り直してあります


「……ん。……さん!」

瀬川「……ぅ、あ…………」

……誰かが呼んでる。必死な声を出して、私の身体を小さく揺さぶりながら

瀬川「あ、れ……」

月神「! 良かった、本当に……!」ギュッ

瀬川「……? つきが、み、さん……?」

起き上がると、目の前にいた月神さんに抱き締められた。その手に籠められた強い力は、本気で私の事を心配したんだなって感じとれた

でも、ここは……体育館?朧気な意識で、あやふやになっていた周囲を確認した

駆村「気がついたか!?大丈夫か!?」

朝日「大丈夫ぅ?瀬川さん、倉庫で気を失っていたんだよぉ」

竹田「陰陽寺の嬢ちゃんが真っ先に駆け付けて介抱してたんだ。感謝しときな」

瀬川「そう、なんだ……ありがと」

陰陽寺「ふん」

そっか。陰陽寺さんが助けてくれたんだ。なんだか意外だけど、腐ってもヒーローって事かな?

心配してくれたのかな。不安そうな顔で私を見る皆の顔に、少しだけ罪悪感が沸いてくる

いや……全員じゃない。ここには一人、足りない……


瀬川「あれ?天地さんは?」

月神「……っ」

デイビット「……それハ」

瀬川「あはは。もしかして私を驚かそうとしてたりする?酷いなーもう」

御影「えーっと、えー……」

臓腑屋「にゃあう……瀬川殿、その……」

飛田「オゥ……惨たらしい……」

ここにいない一人の名前を口に出す。軽くおどけた調子で、彼女は何処だと聞いてみる

スグル「……その、瀬川さん。落ち着いて聞いてくれますか?」

スグル「天地さんは、その……」

陰陽寺「天地りぼんは殺された。間違いなくな」

瀬川「………………」

照星「なっ、何言ってんすか!?陰陽寺先輩!」

陰陽寺「事実を事実として言っただけだ」

御影「もっと順序立てて説明しないとさ……!」

瀬川「ううん、いいんだよ。わかってたからさ」

瀬川「ゴメン……ゴメンね」

……彼女が死んだ事は、とっくに知っていたんだ。でも、もしかしたらって思ってもいた

そんな陳腐な奇跡なんて、絶対に起こらないって。わかっていたんだけどね……


デイビット「さテ、理解しているなら話は早イ」

デイビット「ここに瀬川女史を運んだ理由、それはモノクマに指示された事なのだヨ」

瀬川「モノクマが……?」

モノクマ「そっのとーーーりっ!」

疑問を呈したその時、待ってましたと言わんばかりの早さで私達の目の前へ姿を表した

身体を揺らしてどことなく嬉しそうに。待ち望んでいたアニメが始まった子供の様に

モノクマ「うぷぷ、ようやく始められるよ!ここからが本編なんだからさ!」

古河「何がようやくや……!オマエが天地を殺したんやろが!」

吊井座「そそそ、そうだ!お前のせいだろ!?」

モノクマ「いやいや、ボクはなーんにもしていません!そして、断言いたしましょう!」




モノクマ「犯人は……オマエラの中にいる!」




その宣言で、世界が罅割れた。世界が歪み、秩序と倫理が逆転していく

今までは信じてきた皆を……今は疑う。その矛盾が私の世界を変えていった


月神「……ふざけないで!私達は、貴方の思い通りにはならないわ!」

駆村「何が本編だ!人を弄んで、一人の命を奪っておいてよくも……!」

月乃「……少し、質問がある」

モノクマ「ん?何?準備があるから手短にね」

月乃「……この学園内で殺人事件があった場合に、学級裁判というものがあるのはわかっている」

月乃「……でも、結局私達は何をすればいいのか。それがまだ伝えられていない」

学級裁判……そっか、それをやらないとこの学園からは出られないんだよね

竹田「そういやぁ、そんなのがあったな。モノクマには説明する義務があんじゃねえのか?」

吊井座「き、き、聞く必要あんのか……?」

デイビット「大いにあるナ。下手に聞かず行動して校則違反で処罰……これは最悪の結末ダ」

スグル「学級、裁判……」

デイビット「ム、何か疑問でモ?」

スグル「い、いいえ。何でもありません」

モノクマ「なるほどね。そう言えば学級裁判の説明もしないといけなかったよ」

モノクマ「という訳で……スイッチオーン!」ポチッ





~~~♪

ハルカ『よい子の皆ー!ココロオドルTVの時間だよー!』

ハルカ『いやー始まっちゃったね!とうとうコロシアイが始まったんだね!』

ヨウ『全く、出来れば起きて欲しくなかったがな。俺達の出番が増えるじゃないか』

ハルカ『いいじゃんいいじゃん。そのぶんお給料がいっぱい貰えるよ?』

ヨウ『知らないのか?俺達はタダ働きだぞ』

ハルカ『ぶ、ブラック企業だーーー!?!?』

ヨウ『さて、茶番ノルマも終えた事だしさっさと本題に入るとするか』

ヨウ『学級裁判は、学園の生徒全員で犯人を探す為に議論を行い、その中で犯人を探し出せばいい』

ヨウ『正しい犯人……クロを指摘出来た場合には、クロのみがオシオキされ、それ以外の生徒……シロは引き続き学園生活を送って貰う』

ハルカ『あれ?でもクロは皆の中にいるんだよね。クロは自分を当てられたら困るんじゃない?』

ヨウ『当然、クロは自分が犯人でない様に議論を誘導しなくてはならないな。逆に間違った犯人を指摘した場合は……』

ヨウ『クロ以外の全員がオシオキされ、クロにはこの彩海学園から卒業する権利が与えられるのさ』

ハルカ『なるほど!クロは自分以外が犯人になる様妨害するから、シロはそれに負けない様にちゃんと正しいクロを指摘出来ればいいんだ!』

ヨウ『噛み砕いて言うならばそうなるな。何か他に質問はあるか?』

ハルカ『あ、そう言えば気になってたんだけど、オシオキってなーに?』

ヨウ『処刑だな』


ハルカ『へー処刑かー……処刑?』

ヨウ『なんだ?わかりにくかったか?死罪と言えばわかるか』

ハルカ『死罪!?どうしよう!死んじゃうよ!クロもシロも命懸けだよ!』

ヨウ『そうだな。彩海学園の生徒諸君には是非とも必死になって頑張って貰いたいな』

ハルカ『大丈夫!ちゃんと正解すればいなくなるのは一人だけだから!』

ハルカ『私は信じてるからね!皆がクロを当てて、仲良く生き残れるって!』

ヨウ『クロはまあ、頑張ってくれ。ささやかながら応援しておこう』

ハルカ『それじゃあ、最後は合言葉で!』

『『鮮やかな!』』

『遥かな明日を!』『見届けよう!』

ハルカ『それじゃあ皆、頑張ってねー!』


吊井座「ふ……ふざけんなよっ、そんなの聞いてねえぞ!?」

モノクマ「うん。今初めて言ったからね」

月神「私達で議論して……犯人を見つける……!?」

飛田「ま、待ちたまえッ、そんな事急に言われて、出来る訳ないだろうッ!?」

モノクマ「ちゃんと捜査する時間くらいなら設けるよ。尤も無限じゃないけどね!」

モノクマ「こうやって無駄口叩いてる間にも、どんどん時間は減っていくからね。うぷぷぷ……」

竹田「クソッタレが……」

御影「こ、こんなのやる必要無いよ!どうせ犯人はモノクマだし……」

陰陽寺「僕はやる」

御影「えぇ!?」

朝日「……陰陽寺さんはぁ、皆の中の誰かが、天地さんを殺したって思っているのぉ?」

陰陽寺「知るか。だからこそやるんだろう」

陰陽寺「このまま殺された奴を放置して、何もせずに誰かを糾弾する事が正しい事か?」

駆村「……それは!」

陰陽寺「そう思うのならば勝手にしていろ。僕一人だけでもやってやる」

吐き捨てる様に呟いて、陰陽寺さんは捜査に向かう

その背中を視線で追う。私は……


月神「……陰陽寺さんの、言う通りね」

月神「学級裁判から、逃げる訳にはいかないわ」

御影「月神さんまで何言ってるのさ!?」

デイビット「フム、だガ、このまま何もせず待機するよりも捜査に加わる方が有意義ではないかネ?」

デイビット「仮ニ、もし仮に犯人がいたとすれば、我々は手詰まりになるのダ」

月乃「……バッドエンド。頑張って回避できるなら回避するべき」

朝日「うぅん。やるしかないのかなぁ?」



……そっか、この中に犯人がいたら、私達は間違いなくオシオキされて殺される

そんなのは……嫌だ!



瀬川「……やるよ。やれるだけ、やってみよう?」

瀬川「私、まだ、死にたくないよ……!」

叫び出しそうな激情を堪える。死にたくないのは、皆だって同じはずなんだから

……今から探す、クロだって

必死なのはどっちもどっち。私達は誰ともなく立ち上がり、生き残る為に、蹴り落とす為に

前へ、前へと足を進めていった


【捜査 開始】

本日ここまで。取り合えずキリのいいところまで


御影「と、言ってもさぁ……」

御影「ボク達、本当に捜査出来るのかなぁ?」

竹田「やってみればいいじゃねえか。やってみりゃ案外なんとかなるもんだぜ」

デイビット「案ずるより産むが易シ。この国の諺は理論面では兎も角精神面では素晴らしいナ」

臓腑屋「デイビット殿、達者でござるな……」

下らない会話をしながら、一同はずんずんと歩いていく。目的地は倉庫の一角だ

こうしていると、ついさっきまで命を懸ける出来事があったなんて考えられない……

だから、皆は少しでも目を背けているんだ。自然に近づいてくる、直接的な死の感覚から

月神「……! 陰陽寺さん!」

廊下の先。倉庫の入り口近くには、陰陽寺さんが静かに待ち構えていた

凛とした刃物の様な雰囲気が、まるで実体になったみたいに肌を切りつける

陰陽寺「来い。死体を見ていない奴もいるだろう」

ぽつり。と彼女は呟いて、くるりと倉庫の暗がりの中へ消えていく

その声色は、普段の吐き捨てる様なものじゃなく、どこか悲哀の様な感情を孕んでいた


瀬川「…………ぁ」

飛田「何と言う……言葉が出ない……ッ!」

吊井座「う、ぐ……っ」

月神「……酷い…っ………」

照星「あ、天地先輩……どうしてっすか……!」

陰陽寺さんが止まった先は、私が倒れた場所。天地さんの死体が初めて発見された箇所

さっきまでのおちゃらけた態度はどこへやら。彼女の死体を直視して、各々酷く動揺していた

最初に見た時は生気の無い、虚ろな二つの目が私を覗いてたけれど今はその瞼が閉じられている

もしかして、陰陽寺さんが閉じさせたのかな…今はどうでもいい事だけどね

デイビット「フーム、ワタシが一見しただけだガ、彼女は刺殺された可能性が高いナ」

朝日「刺殺……刺されちゃったんだぁ……」

駆村「待ってくれ。本当にそうなのか?」

駆村「この中で検死が出来るのは、デイビットだけだ。デイビットの意見を全て鵜呑みには出来ない」

古河「なんやソレ!駆村はデイビットが犯人や言いたいんか!?」

駆村「そうじゃない!俺達は素人だ。デイビットの発言の真偽が誰も判らないと、それが本当に正しいかも判らないだろ!」

デイビット「ご尤モ。しかシ、今は信じて欲しいとしか言えないナ」

月乃「……これだと、犯人を見つけるのは難しい。せめて、もう少し詳しくわかればいいけれど」

モノクマ「うぷぷぷっ、そう言うと思いました!」


月乃「……何か用?」

御影「あっち行けよ!ボク達は忙しいんだ!」

モノクマ「えぇ~せっかくオマエラに耳よりな情報を持ってきてあげたのに……」

デイビット「耳よりな情報、かネ?」

モノクマ「じゃーん!これはモノクマファイル。簡単な検死結果が書いてあります!」

モノクマ「これでシロも捜査で多少は互角に戦えるでしょ?クロばっかり有利なのは問題だからね!」

月神「私達に、どうしても争って欲しいのね……」

吊井座「し、信用出来るかよ。普通に考えて……」

スグル「とにかく一度目を通しておいた方がいいと思います。このままでは埒があきませんし……」

駆村「それも、そうだな……」


【モノクマファイル1】
 被害者は天地 りぼん
 死因は腹部の刺傷による失血死
 死亡推定時刻は夜12時頃
 身体中に軽い打撲痕が確認でき、右手の指の関節に骨折が見られる


……モノクマファイルに書かれていた情報。それを信用する訳じゃないけど

これで、学級裁判でも問題なく考えられるよね?


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【モノクマファイル1】
 被害者は天地 りぼん
 死因は腹部の刺傷による失血死
 死亡推定時刻は夜12時頃
 身体中に軽い打撲痕が確認でき、右手の指の関節に骨折が見られる


デイビット「さテ、これより各々捜査に励んで貰うのだガ、ワタシから提案があル」

デイビット「殺人事件では現場の保存は最優先ダ。故ニ、天地女史の死体の見張り役を決めたイ」

飛田「貴様がやればいいだろうッ!」

デイビット「それは構わなイ。しかシ、ワタシ一人のみで見張らせるのは危険では無いかネ?」

照星「もしもデイビット先輩が犯人だったら、細工し放題っすからね……」

デイビット「そこデ、もう一人見張り役を指名したイ。構わないかネ?」

月神「……わかったわ。選んで頂戴」

デイビット「感謝すル。……陰陽寺女史、共に見張りを頼めるかネ?」

陰陽寺「構わん」

御影「えーっと……何で陰陽寺さん?」

デイビット「この中で最も観察眼が優れていると判断したからダ。彼女の前で細工など出来まイ」

竹田「成程ねぇ。まっ、頼んだぜ。お二人さん」

指定された陰陽寺さんは、ちらっと死体を見てすぐに目を閉じた

纏う鋭利な雰囲気が、更に強まった気がする……

死体は二人に任せて、私は現場を捜査してみよう


瀬川「うーん。ねえ、何か他にやった方がいい事ってある?」

デイビット「そうだナ。まずは聞き込みは鉄則ダ、現場の捜査……ハ、これだけ広いと難しいだろウ」

瀬川「ですよねー……」

聞き込みかぁ。面倒臭い……推理モノのアニメだとサクサクやってるけどね

デイビット「嗚呼、それト」

瀬川「何?」

デイビット「陰陽寺女史に感謝の言葉でもかけてやるべきだナ。瀬川女史が倒れた時、最も素早く駆け付けたのは彼女ダ」

デイビット「一言。彼女に感謝を伝えてみるのは如何かネ?」

陰陽寺さんには聞こえない様に、そんな事を耳打ちしてきた

皆もそんな事言ってたっけ?デイビット君はさっき言ったのが聴こえてなかったのかな?

瀬川「…陰陽寺さん。ありがとう。助けてくれて」

陰陽寺「上っ面だけの感謝なんかいらない」

可愛くない。もう行こう、私は急いでいるんだから


陰陽寺「一人だ」

瀬川「は?」

陰陽寺「停電中、大きく動いたのは一人だけだ」

瀬川「そうなの?臓腑屋さんじゃなくて?」

陰陽寺「違う」

何でそんな事がわかるんだろう……また直感?

瀬川「ありがとう。それじゃあ頑張ってね」

陰陽寺「………………」

私の応援にも無反応。ふいっと顔を揺らして、またあのぶっきらぼうな顔に戻っている

でも、これって一応は証言って奴だよね?覚えとこ

瀬川「じゃ、行くね。デイビット君もよろしく」

デイビット「承知しタ」

挨拶を終えると、私は倉庫を後にした。早く証拠を集めないとね……

デイビット「……全ク、難儀な性格だナ」


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【陰陽寺の証言】
 パーティー中停電が起きた際、あの場から大きく動いたのは一人だけだった
 ブレーカーを確認しにいった臓腑屋では無いそうだが……


朝日「あっ、瀬川さぁん。どうしたのぉ?」

瀬川「一応、食堂も捜査しておこうと思ってさ」

食堂にはやっぱり多くの人が捜査していた。色んな人の話を聞いて回ろっかな

瀬川「古河さん。進歩どう?」

古河「それなりやな。捜査なんざわからんわ!」

駆村「殆どの人間がそうだろ……だから、せめて全力は尽くしたい」

瀬川「そっか。二人は何か知ってる?」

駆村「俺は特に何も……厨房の担当は朝日と臓腑屋だから、二人にも聞いてみてくれ」

古河「ウチは飾り付けの担当やから、電飾の事しかわからへんな」

瀬川「電飾?」

パーティーの最中には気にならなかったけど、そう言えばチカチカしてたっけ……

古河「パーティーの飾り付けで天地が使いたい言うてな。倉庫から引っ張ってきたんよ」

古河「ウチはこういうガンガンに光る装飾は嫌いなんやけどな。天地も案外趣味が悪いなー!」


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【パーティーの飾り付け】
 食堂内は、天地の指示したように飾り付けられていた
 電飾を大量に使った派手なものであり、飾り付けの担当だった古河は難色を示していた


瀬川「朝日君。ちょっといいかな?」

朝日「なぁにぃ?」

瀬川「えっと、厨房の担当は朝日君だったって聞いたんだけど……」

朝日「そうだよぉ。ずうっとって訳じゃないんだけれどぉ、お料理は私が運んだんだよぉ」

甘ったるい声に辟易しながら話を聞いていく。料理は朝日君が主に作ってたんだね

瀬川「あれ?でも料理って結構あったよね」

瀬川「それを全部、朝日君が作って出したの?」

仕込みは先に済ませてたのは知ってるけど、それでもかなりの量があったのに……

朝日「ああ、それなら簡単だよぉ。暖めればいいだけだったもんねぇ」

瀬川「レンジで?」

朝日「ううん。ホットプレートだよぉ」

朝日「五台くらい動かしててねぇ。その上に料理を置いてあったんだぁ」

朝日「それでぇ、後は運ぶだけだったから楽チンなんだよぉ」

瀬川「パーティーの間中ずっと?」

朝日「うん。そうだよぉ」


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【ホットプレート】
 料理を暖めるのに使用していたホットプレート
 五台ほど使用しており、パーティーの間はずっと稼働していたらしい


瀬川「えーっと他には……そうだ」

確か、包丁のケースの鍵がないって騒いでたっけ。確認しておこっかな

辺りを見回すと、ガラスのケースに入れられた包丁が見つかった

瀬川「多分これかな?確かに頑丈そう……」

月乃「……千早希、少しいい?」

瀬川「あ、月乃さん。どしたの?」

確認する事がある。と、ケースに近寄る月乃さん

手にしたモノを徐にケースに差し込むと、取っ手に手を掛けてガチャガチャと動かした

瀬川「……何してるの?」

月乃「……鍵がかかるか。やっぱり、これはケースの鍵だった」

ケースの鍵?確かにそれは見たことのある鍵だったけれど……

瀬川「何で月乃さんが持ってるの?」

月乃「……勘違いしないで欲しい。これはゴミ箱に捨ててあったものを拾っただけ」

月乃「……食堂にいる人達が証人。私が盗ったワケじゃない」


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【月乃の証言】
 食堂のゴミ箱にケースの鍵が捨ててあった。月乃本人が盗んだ訳ではないという


瀬川「せっかくだし、包丁も調べていい?」

月乃「……構わない。凶器には定番中の定番」

それは童話の中でも同じ。と頷く月乃さんを余所にケースを開ける

キラリと光る刃物を前に少し寒気がする。その中の1つに、微かな違和感を覚えた

瀬川「あれ?この包丁濡れてない?」

月乃「……本当。少し、濡れている」

1つだけ、少し濡れている包丁を見つけた。他のは全く濡れていないのに

月乃「……恐らく、これが凶器。鍵も捨ててあったし間違いない」

確かに露骨に怪しいし、私もそう思うよ?でも……

あれだけ入念に身体検査したのに、どうして誰も見つけられなかったんだろう?


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【包丁】
 ケースの中に入れられていた包丁。1つだけ濡れている


【ケースの鍵】
 パーティーの際、天地が無くしていた鍵
 無くなってすぐに身体検査を行ったが、見つからなかった


竹田「よっ、嬢ちゃん。進んでるか?」

臓腑屋「瀬川殿!」

瀬川「あ、二人とも。そっちはどう?」

食堂を出て、すぐに竹田さんと臓腑屋さんに会った

竹田「ま、ボチボチな。やっぱり全員にアリバイは無さそうだぜ」

臓腑屋「拙者らも聞き回ったのでござるが……面目ないでござる」

瀬川「ううん、いいよ。ありがとう」

わざわざ私が聞きにいく手間が省けたしね!

瀬川「そうそう、臓腑屋さんは厨房の担当だって聞いたんだけど」

臓腑屋「にゃあぅ……申し訳無いでござるが、目ぼしいものは何も……」

臓腑屋「……ああ、そう言えば、エアコンの設定が変わっていたでござるな」

瀬川「エアコン?そんなのもあったんだ」

臓腑屋「左様、いつの間にか厨房のエアコンが入れられていたのでござるよ」

瀬川「入れられていたの?どのタイミングで?」

臓腑屋「確かあれは……そう、夜時間になる直前でござるな」

……あれ?そのタイミングって円陣を組んでた時間とおんなじだ

何か関係あるのかな……?


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【エアコンのタイマー】
 厨房のエアコンのタイマー設定が変更されていた
 時刻は夜時間の直前であり、全員が円陣を組んでいた時間と一致している


瀬川「んー……」

なんだろう、この感じ。何か引っ掛かる感じが……

月神「瀬川さん!そっちはどう?」

瀬川「え?うーん……どうなんだろ……」

そうそう、円陣って確か月神さんの出した案だったよね?ちょっと聞いてみよ

瀬川「月神さん。円陣について教えてくれない?」

月神「構わないわ。まずは皆で円を描く様に立って貰ったのは覚えているわね」

月神「発表した順番に並んでもらって、手を真ん中に合わせて……」

月神「それで、天地さんの合図で手を挙げて貰おうと思ったのだけれど……」

それで、停電がおきたんだよね……

瀬川「ところでエアコンの操作って誰かしてた?」

月神「エアコン?私は知らないわね……」

御影「あれ?何話してるの?」

瀬川「御影君、会場って誰が担当してたの?」

御影「さあ?面倒だから天地さんに任せてたし!」

なんて無責任な……でも、これって天地さんが全部やってたって事?


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【円陣】
 パーティーの際、瀬川達が行っていた円陣
 自己紹介順に並んでおり、天地の号令で手を挙げる予定だった

【御影の証言】
 パーティー会場は、一部を除きほとんど天地が管理していた

本日ここまで。後半は近日中に公開します
少し質問なのですが、現時点で気になるキャラや好きなキャラ。もしくは空気気味なキャラはいるでしょうか?
裁判等に活かしたいので……よろしくお願いします


飛田「フゥー……捜査なぞ美しくない!」

吊井座「し、知るかよ。さっさとあっち行けよ」

照星「にひひっ、照れてるんすか~?そーれっ、むにむに~」

吊井座「照れてねえよ!とっとと向こういけよ!」

吊井座「……イテテッ」

瀬川「荒れてるなぁ……」

手を擦っている吊井座君の横で、髪をクシで解かしている飛田君と頬っぺたをつんつんしている照星さんが呑気に駄弁っていた

吊井座君は……まあ命が懸かってるし、無理も無いよね。あの二人が能天気過ぎるだけで

瀬川「ねえ、少し話聞いてもいいかな?」

照星「にひひっ、自分のパンツの色っすか?」

瀬川「違うから!」

あぁもう、本当に照星さんはやりにくい……さっさと聞いて終わらせよう

瀬川「皆、何か事件に関係する事って知ってる?」

照星「わかんないっすねー、静かだったっすよ?」

吊井座「お、お、俺も……っ」

飛田「知らぬ!そんな事よりもオレとデートでも」

皆わかんないかー、仕方ないか、夜中だもんね……


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【静かだった寄宿棟】
 事件当時、寄宿棟は静かだった


スグル「あっ、皆さん!」

瀬川「スグル君、どう?順調かな?」

スグル「あっあの……少し場所を変えませんか?」

瀬川「え?いいけど……」

照星「えー?二人だけで秘密のお話っすか?」

スグル「そ、そういう事じゃないです……」

瀬川「あーハイハイ。それじゃあね」

照星さんのニヤニヤ顔を振りきって外に出る。そのテの話題はこの子にはまだ早いからね……



スグル「あ、ありがとうございます……」

瀬川「いいのいいの。私達、友達だもんね」

スグル「……っ」

呪いの様に、その言葉を彼に刻み込む。もう二度と過ちを犯させない為に

……今の私、どんな顔をしているんだろう?気にしたら負けだよね。うん


瀬川「……それで、話って何?」

スグル「あ、えっと、少し質問なんですけど」

スグル「瀬川さんって……コーヒー好きですか?」

瀬川「えっ?」

何でそんな事を今聞くんだろう?一応正直に答えておこっかな

瀬川「カフェオレは好きだよ?ブラックコーヒーは苦いから嫌ーい」

スグル「そうなんですか?僕もなんです!」

瀬川「だよねー!ブラック好きな人って大人ぶった人か喫茶店に勤めてる人くらいだよ!」

スグル「……って、そうじゃなかった。これなんですけれど」

あわあわと話を切ったスグル君がポケットから取り出したのは、コーヒーの缶だった

くれるのかな?と思って手に取ると、思った以上に軽かった

スグル「それ、瀬川さんの近くに落ちてたんです。下にあったので皆気づいてませんでしたけど……」

瀬川「あぁ、私のかもって思ってたり?」

スグル「はい。でも違うみたいですね……」

コーヒーの缶かぁ……何か証拠になるといいけど


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【缶コーヒー】
 瀬川の近くに落ちていたらしい空き缶。スグルが回収していた


スグル「……それと」

瀬川「え?まだ何かあるの?」

スグル「モノクマに聞いてみたんです。ゲームのクリア特典は何なのか」

クリア特典……あのメチャクチャなゲームをクリアしたらくれるって言ってた癖に、結局何もなかったアレだよね

瀬川「……それで?」

スグル「特典が何なのかは教えてはくれませんでした。けど、特典はもう与えたとも言っていました」

瀬川「もう与えた?私、そんなの知らないよ?」

スグル「僕もです。嘘……なんでしょうか?」

えーと、確かあのアニメではこう言ってたよね?

―――――――――――――――――

ヨウ『今回はオマケとしてクリアした先着一名には特典を用意しておいた。早い者勝ちだぞ!』

―――――――――――――――――


ゲームをクリアした時にはスグル君も近くにいた。どっちかが勘違いしているとは思えない

それに、あの後何かが変わった様な感じも無かった

可能性があるとしたら……ううん。これはまだ言わなくてもいいよね


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【クリア特典】
 ゲームをクリアした場合に手に入る特典。先着一名限定
 瀬川がクリアした際には、特に何かが変わった様子は無かった


瀬川「……ねえ、私からも聞いていいかな?」

瀬川「もしも……もしも、私が、誰かを……」


キーンコーンカーンコーン!


モノクマ『えー。捜査はもう充分だよね?こちらも学級裁判の準備が整いました!』

モノクマ『全校生徒は、彩海学園の校舎前に速やかに集合してください!そこから先は……うぷぷぷ』

モノクマ『……オマエラ自身のその目で、確かめてください!』


スグル「……始まるんですね」

瀬川「……え、あ、うん。そうだね」

鳴り響いたアナウンス。長いような、短いような時間は終わりを告げようとしていた

スグル「ところで瀬川さん。今、何か僕に聞こうとしましたか?」

瀬川「え……あ……ううん!何でもないよ!」

瀬川「本当に……何でも……」

……この質問は、聞こえなかった方が良かったよね

さあ行こうか。と声を出して、足を前に動かそうとして―――

……思いっきり、前につんのめった


スグル「だ、大丈夫ですか!?」

瀬川「うん。平気平気。大丈、夫……」

……ううん。全く大丈夫じゃない

心がドキドキと鼓動する。体はガクガクと振動する

それは……目の前に迫る、学級裁判から逃げ出したいからだってわかっていた

瀬川「……ゴメン、少し部屋で休んでいいかな?」

瀬川「皆にはすぐ行くからって言っといてさ……」

スグル「わかり、ました……」

私を置いて、皆の元に向かうスグル君。彼の後ろ姿を見送りながら、ゆっくり自分の部屋へ歩いていく

何人か私とすれ違っていく。誰も彼も、どうしたのと言いたげな顔をして……私とは逆の方向へと進んでいった

誰も、私の心配なんかしないで……

瀬川「……っ!」

惨めな気持ちが、私の中で沸き上がる。あの、私を哀れむ様な、そんな目で私を見下していた

そんな目が、私は大っ嫌いだ。あの、カメラ越しに私を見るムカつく視線が……!

瀬川「……げほっ!ごほっ!」

胸のドス黒い感情のせいか、どんどん震えが止まらなくなっていく。早く休んでいかないと……!




瀬川「はぅ……はぁ……」

なんとか自室まで辿り着けた。でも、ここまで来るのに何十分も掛かった気がする

時計を確認する気力も無い。ベッドに腰かけると、深くため息を吐いてみた

瀬川「……怖い、なぁ」

外に出るのが怖い。誰かを疑うのが怖い。自分が誰かに嫌われるんじゃないかという不安が怖い

目を閉じても頭をよぎる。いっそこのまま不参加になっちゃおうか。という誘惑に逆らえない

瀬川「……あは、あ、ははは!」

自然と笑いが溢れちゃう。弱虫な自分に呆れかえる

瀬川「どうして、どうしてなんだろうなぁ!何で私には出来ないんだろうなぁ!」

瀬川「どうして、私だけ……っ」

なんで。どうして。それしか言えない。だって、私は私。いつまでたっても弱い私……

皆には出来る事でも、私には絶対に無理だから……

瀬川「私だけ、どうして……!?私だって、私だって……っ!」




「変わりたいよ……っ!」












『……力が欲しいの?』

『叶えてあげるよ。一番強い――にしてあげる!』














陰陽寺「………………」

竹田「……遅えなぁ、本当に大丈夫かぁ?」

スグル「た、多分……」

古河「けど、もう二十分位経っとるで?」

御影「まっまさか!証拠を隠滅してるとか!?」

月乃「……捜査時間はとっくに終わってる。意味が無い」

吊井座「ど、ど、どうだかな。アイツが犯人じゃねえって根拠は無いだろ……」

照星「そーゆー疑う様な事言うのはダメっすよ!」

朝日「怖いならぁ、ぎゅってしてあげるよぉ?」

飛田「全く、危機的状況下でも品格を失わねばならぬとよくわかるな!」

臓腑屋「集団リンチでござるか!?」

駆村「波長が合うんだろ……だが本当に遅いな……」

デイビット「しかシ、このままではモノクマから何を言われるかわかったものでは無イ」

月神「…私、様子を見てくるわ!もしかして、部屋で倒れているのかも……」




「皆ー!遅れてごっめーん!」





月神「……え?」

スグル「あっ!瀬川……さ、ん?」

「えへへ、やだなぁ。そんな久々に会ったみたいな顔してさ」

竹田「なんだ?来たのか?……あ?」

月乃「……私は夢でも見ているの?」

デイビット「ほウ、これハ」

朝日「わぁ、凄ぅい」

吊井座「ヒィッ!?おおおお前瀬川かよ!?」

古河「な、なんや。どうなっとるんや!?」

「どうしたの?そんなに驚いて。そんなに凄い?」

臓腑屋「凄いでござるよ!?なんでござるか!?」

照星「瀬川先輩!?どうしちゃったんすか!?」

駆村「な、何がどうしてそうなった……?」

飛田「アメイジング!これは面白い!」

皆の歓声が心地いい。さっきまでは空っぽだった心の中に、ゾクゾクとした密が満ちていく

陰陽寺「貴様、どういうつもりだ」

「?どういうつもりって……どういう事?」

御影「いやいやいや!?どういう事じゃないよ!」



御影「何その格好!?本当に瀬川さんなの!?」











瀬川「……そうだよ。わからないなら改めて名乗らせて貰おうかな」

瀬川「私は……私は!超高校級のコスプレイヤー。瀬川千早希だよ!」


【超高校級のコスプレイヤー】
  瀬川 千早希(セガワ チサキ)










……改めて、私の姿を確認してみる

髪の色は明るい桃色に、瞳の色も明るくして印象をがらりと変えている

スカートの丈も短くして、中のパンツが見えちゃう位脚を伸ばしている

恥ずかしくないのかって……?全然!だってこれが私の理想なんだから!

月神「そ、それで学級裁判に出るつもり……?」

瀬川「そうだよ?何か問題でもある?」

瀬川「学級裁判にどんな服装で出ようと、私の自由だもんねー!」

臓腑屋「そ、それはそうでござるが!」

駆村「しかし、モラルというものが……」

ああもう煩いなぁ。せっかく気持ちよくしているのに水を差さないでよ……

……髪形崩れてないよね?

竹田「あーちっといいか?このタイミングで言うのもアレだけどよ……」

竹田「そういやぁ、学級裁判はどこでやんだ?」

竹田さんが疑問を口にする。そうだ、学級裁判ってどこでやるの?

その答えは……案外、すぐにわかる事になった


……ザザッ!




御影「うわっ!?突風!?」

月乃「……寒い」

飛田「全く、ふざけた風だ……」

月神「……!?皆!花畑を見て!」

駆村「なっ……エレベーターだと!?」

朝日「わぁ……っ。道になってるよぅ」

スグル「この先で、学級裁判が……」

風が吹いて、花園が割れる。すると、まるで海が裂けたみたいに道が出来ていた

その道の先には、エレベーターの様なものが静かに待ち受けていて……

瀬川「……よし!行こう!」

御影「早くない!?もう少し様子を見て……」

陰陽寺「貴様だけでやれ」

古河「……あー!当たって砕けろや!行くで!」

デイビット「ハ、進むしかあるまいヨ」

御影「……わかったよ!もう!」

全員がエレベーターに乗り込むと、それが合図かの様に静かに下へと落ちていく

誰も、何も話さないから、その沈黙は私達の空間に深く突き刺さる

目を閉じると……ここにはいない、かつての仲間の顔が浮かび上がってきた


天地りぼんさん。小さな体に大きな元気を持っていた超高校級の家庭教師

いつ、どんな時でも明るくて、皆の事を第一に考えていた健気な女の子だった

そう言えば、パーティーは彼女の発案だったっけ。その結果は友好とは程遠いものだったけど




月神「頑張りましょう。皆……」


スグル「……絶対に、見つけないと」


照星「……押忍!ゼンリョクでやるっすよ!」


吊井座「クソ……クソっ、クソっ!」


飛田「可憐な乙女を傷つけた下衆めが……」


臓腑屋「くわばら、くわばら……」


竹田「ま、何とかなるもんさ。人生はな」




その程遠い結果を作った人は……この中にいる。何食わぬ顔をして、仲間ツラして立っている

それを見つけて、引きずり出して……その仮面を叩き潰せば、私達は元通りの関係に戻れるんだ

私が―――戻して見せるんだ


……
…………
……………………

どれくらい経ったのかな。とボンヤリしていたら

チン。と音が鳴って、目の前に広がる光景が明らかになった

あの時の円陣みたいに、円を描く様並べられた席。そして、二つのモニタに映っていたのは……

モノクマ「うぷぷ、生徒さんいらっしゃーい!」

ハルカ『早速、目の前の席に立ってね!名前が書いてあるから間違えちゃダメだよ!』

ヨウ『細かい説明は後で行う。各自指定された席に向かってくれ』

御影「な……何であいつらまでいるの!?」

モノクマ「仲間外れは良くないからね。一応彩海学園のメンバーだし!」

モノクマ「まどろっこしい説明とかは丸投げ出来るからラク出来るしね!」

臓腑屋「アニメキャラを使い潰すのは止めるのでござる!」

デイビット「何でも良かろウ。さテ、始めようカ」

早く席につけ。と言わんばかりにパチパチと手を叩くデイビット君

それに合わせて、各々の名前が書かれた席に向かっていった



……これが、私と皆の学級裁判

命懸けの裏切り

命懸けの騙し合い

命懸けの裏切り合い

……命懸けの、信じ合い

ドキドキゾクゾクする感覚に身を任せて、私は目の前に立つ皆を見た

最高に心が踊る……学級裁判を始めようか!

本日ここまで
次回は学級裁判なので少し遅れると思います…


【Chapter1 イロドリミライ】
【コトダマ一覧】



【モノクマファイル1】>>217

【陰陽寺の証言】>>220

【パーティーの飾り付け】>>221

【ホットプレート】>>222

【月乃の証言】>>223

【包丁】>>224

【ケースの鍵】>>224

【エアコンのタイマー】>>225

【円陣】>>226

【御影の証言】>>226

【静かだった寄宿棟】>>228

【缶コーヒー】>>230

【クリア特典】>>231


【学級裁判 席順】



瀬川

月神 天地

デイビット 飛田

照星 臓腑屋

吊井座 駆村

古河 月乃

竹田 朝日

御影 陰陽寺

スグル

貼り付けミスったので変更
【学級裁判 席順】※時計回り
瀬川→天地→飛田→臓腑屋→駆村→月乃→朝日→陰陽寺→スグル→御影→竹田→古河→吊井座→照星→デイビット→月神→瀬川











【 学 級 裁 判  開 廷 ! 】










ハルカ『ではでは……まず、始めに学級裁判の簡単な説明から始めまーす!』

ヨウ『学級裁判では犯人は誰かを議論し、その結果はオマエラの投票により決定される』

ハルカ『正しいクロを指摘できれば、クロだけがオシオキ!けど間違ったクロを指摘しちゃうと……』

ヨウ『クロ以外の全員がオシオキされ、クロにはこの彩海学園の卒業権利が与えられるな』

モノクマ「うぷぷ、ボクの説明の手間が省けてラクだね!それじゃあ早速議論してください!」

月神「……本当に、この中に犯人がいるの?」

モノクマ「モチのロンです!しっかりバッチリガッツリこの中に紛れ込んでいるのです!」

モノクマ「ちなみにボクは誰が犯人なのかちゃんと判っているから安心してね!」

デイビット「フム、真偽については信じても良いという事で間違い無いナ?」

古河「なら……ウチからも聞かせてもらうわ」

古河「何で天地の写真まで飾ってあるんや!ご丁寧にバッテンまでつけおって!」

モノクマ「死んじゃったからって、仲間外れにするのは可哀想じゃない?」

モノクマ「ボクは、生徒が生きてようが死んでようが平等に扱う主義だからね!これぞ平和主義!」

臓腑屋「真の平和主義者がこんな事するわけないでござろうに……」

スグル「要は、モノクマの悪ふざけですか……」

モノクマから……というより、モノクマ達からの悪質な説明を聞いた感想は人それぞれ

ただ一つ言えるのは……きっと、モノクマの中の人はとんでもない悪趣味だ


吊井座「ふ、ふざけんなっ!こんなのやってられるワケねーだろっ!?」

御影「そうだそうだ!さっさと犯人教えろよ!」

照星「こんなのやってる暇なんて無いっすよー!」

陰陽寺「黙れ」

照星「むぐっ……」

陰陽寺「騒ぐだけしか出来ないなら口を開くな。何も考えられないなら黙っていろ」

陰陽寺「そうでないと、死ぬぞ」

一言。ただのそれだけで裁判場は静まり返る

純然たる事実だけが、私達に現実を突きつけてきた

御影「で、でもさ?議論って何したらいいか……」

竹田「若いのは中々裁判に関わらねえからなぁ。俺は何回か傍聴した事あるけどな」

飛田「頭のよさそうな意見のみ聞きそれ以外は排除すれば問題ない!ただしオレを疑う意見は封殺!」

朝日「それだとぉ、ずうっと議論が進まないねぇ」

月乃「……取り合えず、全員で疑問点を挙げていくのはどう?」

月神「そうね、何が事件の解決に繋がるかわからないもの……お願い、皆」

……やっと議論が始まるんだ。こんな非日常に満ち溢れた裁判、アニメみたいでテンションが上がる

私だって負けてられない。何か気になっている事があったら、頑張って発言していかないと!


【ノンストップ議論 開始!】

『コトダマ』
【モノクマファイル1】
【パーティーの飾り付け】
【月乃の証言】



月神「被害者は天地りぼんさん……」

デイビット「超高校級の家庭教師である御仁ダ」

月乃「……流石にそれはわかる」

御影「でも、それ以外は何にもわからないよ!」

駆村「少しは考えろ!命がかかってるんだぞ!」

飛田「くうう……っ!考える必要はない!」

飛田「【無抵抗】だった女性を問答無用で刺し殺すとは、男の風上にも置けん奴だ!」

飛田「犯人……許せん!!!」

臓腑屋「そもそも、犯人が男とも断言も出来ないでござるよ!?」



【無抵抗】←【モノクマファイル1】



瀬川「それは違うよ!」論破!

議論の気になった部分を見つけて、そこに、的確なコトダマをぶつけていく

パリンとガラスが割れる様な音がした。気のせいだとは思うけれど……

皆が、今、私に注目している事は確かなんだ

瀬川「ううん。多分無抵抗で殺されたんじゃないと思うな」

飛田「何?というとどういう事かね?レディ」

瀬川「えっとね、モノクマファイルにも書いてあるんだけどさ……」

デイビット「天地女史には身体中に打撲痕が見られ骨折までしていル……」

デイビット「何かしラ、乱闘があった事は確かダ」

飛田「貴様には聞いていないッ!」

古河「イッキに態度変わりすぎやろ!」


飛田「はっはっは!つまり彼女は酷い暴行を受けた上で死亡したと……」

飛田「……なんという恐ろしき凶悪犯!こんな奴、欠片も許す必要など無いッ!!」

臓腑屋「感情の起伏が激しすぎるでござるよ!?」

朝日「あはっ、やる気が出たならいいと思うなぁ」

竹田「あー、ちっと俺からモノクマに聞きたい事があんだが聞いていいか?」

竹田「もし、これがリンチ殺人だとしたら誰がクロになんだ?犯人わからねえだろ。そちらさんも」

ゆっくりと、だけどはっきりと主張する竹田さんが新たに話を切り出す

リンチ……つまり、複数人で暴行して殺したら誰が犯人なのかわかるの?って事でいいんだよね

モノクマ「うーん。判るっちゃ判るけど今回は気にしなくてもいいよ!」

陰陽寺「どういう意味だ」

モノクマ「今回は共犯とか無いから!正真正銘一人だけが犯人です!」

……犯人は一人だけ。それは嬉しい情報だけど……

瀬川「……そこまで言うの?」

モノクマ「アンフェア過ぎるとツマラナイからね。これくらいはサービスするよ!」

……よくわからないなぁ。私なら自分に不利になる情報は隠しておくけれど

モノクマもモノクマで、考えがあるのかな……?


照星「う~ん……よくわかんないっす……」

竹田「そうか?犯人が一人だけってわかった事は大きな一歩だと思うけれどなぁ、俺はよ」

デイビット「フーム、混乱するならバ、判りやすいモノから話していこうじゃあないカ」

御影「判りやすいモノ?」

スグル「……凶器、ですね。彼女の死因ははっきりとしていますから」

吊井座「た、確か……刺殺、だよな……」

朝日「お腹をざくって刺されちゃったんだよねぇ」

古河「そないけったいな刃物なら、かなり限定されるんとちゃうか!?」

月神「でも、そんな刃物は使えないようにしていたんだけれど……」

……え?凶器なんて、もうアレで決まりだと思うんだけど

でも、皆がわからないなら教えてあげないといけないよね?凶器の正体をさ!


【包丁】



瀬川「これだよ!」解!

瀬川「えーっと、凶器は包丁だと思うけど……」

凶器は包丁だ。と言った私に視線が集まる。でも、この視線の意味はきっと……

御影「いやいや……それは無いでしょ?」

古河「包丁は特に厳重に管理しとったやん!」

お前はいったい今まで何を見ていたんだ。と言いたそうな呆れ顔。そうしたいのは私の方なのにね

瀬川「でも、ケースの中の包丁で、一つだけ濡れていたのがあったんだよ?」

瀬川「これって犯人が血を洗い流したからだって私は思うんだけどな」

私の出した疑問は当然の事。犯人が凶器を証拠隠滅の為に洗うのは自然な事だもん

私の結論に、周囲はおお。とどよめきたつ

議論の中心に立つこのゾクゾクする感覚、結構クセになりそう……!

……けど


         反

御影「ボクがナンバーワンだ!」

    論


御影「そんなのおかしいよ!ボクの推理の方が絶対に正しいって!」

御影君に水を注された。せっかくいい気分に浸っていたのに……

反論があるみたいだけど……サクッと切り捨てて、黙らせちゃおう!


【反論ショーダウン  開始】

『コトノハ』
【月乃の証言】
【ケースの鍵】
【包丁】



御影「包丁が凶器だって?」

御影「そんなの、絶対有り得ないって!」

御影「あんなに厳重に管理してたのに、使えるワケ無いってば!」



瀬川「でも、他にそれらしい凶器は無いんだよ?」



御影「そ、それは……で、でもさ!?」

御影「【鍵は見つかっていない】じゃないか!」

御影「包丁を使おうにも、使えないよ!」




古河「その鍵は食堂のゴミ箱に捨ててあったんや。月乃が持っとってもおかしないんやで」

駆村「そもそも見つけたのはほぼ全員だしな……」

御影「え?そ、そうなの?」

朝日「そうだよぉ」

照星「自分、そんなの初耳っすよ!?」

吊井座「お、お、俺も……しし、知らねえ……」

飛田「何故だ……何故教えてくれなかったのだ!」

古河「貴様らはサボっとったからやろが!人が必死こいて捜査しとったんのがわかっとんのか!?」



「「「ご、ごめんなさーーーい!!!」」」



古河さんの怒号でサボり組が平謝りする。本当にこの人達は……

陰陽寺「死にたいのか」

……言いたい事を陰陽寺さんに取られた。がっくし

デイビット「だガ、凶器については包丁で確定しても良いだろウ」

デイビット「議題ハ『How done it』……つまリ、犯人は斯くして犯行に及んだのカ?」

デイビット「それを辿っていこうではないカ」

本日ここまで
次回はまたその内に更新します


月神「……犯人はどうやって凶器を手にしたか」

月神「それを、今から議論していこうという事かしら?」

デイビット「如何にモ」

月神さんの問いに、デイビット君は満足げに深々と頷く

はうだにっと?ってそう言う意味なんだ……

竹田「凶器は包丁なんだろ?ならケースの鍵が無くなった時じゃあねえのか」

臓腑屋「しかし、あれだけ身体検査を行ったにも関わらず見つからなかったのでは……」

飛田「ならば逆に、包丁をケースにしまう前はどうかね!?」

朝日「包丁はぜぇんぶあったよぉ。皆でしぃっかりと確認したからぁ、間違いないと思うなぁ」

駆村「もしあるとしたら、停電の際に鍵を拾って、抜け出した後に包丁をくすねておいて……」

駆村「それをどこかに隠した後、取り直して殺しにいった。とかじゃないか?」

照星「おお!なんかそれっぽいっす!」

古河「そう言えば、ブレーカー上げに誰か行っとったな。誰やっけ?」

臓腑屋「拙者でござる!」

御影「なら犯人は臓腑屋さん!?」

臓腑屋「違うでござるよ!?どうして拙者は善意でやる事が全て裏目に出るのでござるかーっ!?」

矢継ぎ早に投げ掛けられる推論が、臓腑屋さんに矛先を向ける

世の不合理を嘆く臓腑屋さんには、流石の私も同情を禁じ得ない

でも、本当に彼女だけが怪しいのかな……?


【ノンストップ議論 開始!】

『コトダマ』
【ホットプレート】
【陰陽寺の証言】
【モノクマファイル1】



臓腑屋「拙者は犯人では無いでござる!」

御影「犯人って皆そう言うよね……」

臓腑屋「違うものは違うのでござるから!」

月神「でも困ったわね……臓腑屋さんの無実はどう証明すればいいのかしら……」

臓腑屋「にゃああ……そ、そうでござる!」

臓腑屋「せ、拙者以外にも《停電中に動いた人はいた》はずでござるよ!」

吊井座「しょ、証明出来んのかよ、それ……」

臓腑屋「にゃあぅ……それは難しいでござる……」

照星「なら臓腑屋先輩が一番怪しいっすね……」

月神「何か、何か無いのかしら……?」



《停電中に動いた人はいた》←【陰陽寺の証言】



瀬川「その意見、フォローするね!」同意!

瀬川「うん、確か臓腑屋さん以外にも停電中に動いていた人はいるはずだよ」

仕方ない、私が助け船を出してあげよう。丁度いい証言もあるしね

臓腑屋「にゃあ!?それは本当にござるか!?瀬川殿、忝ないでござる……!」

瀬川「そうだよね?陰陽寺さん!」

陰陽寺「知るか」

瀬川「……ちょっと!?」

私の返答を、陰陽寺さんはにべもなく返す

これじゃあ、まるで私の方が嘘ついたみたいじゃん!

臓腑屋「せ、瀬川殿……?これはどういう……」

瀬川「え、えーっとね?ちょっと待ってて……」

瀬川「……陰陽寺さん!話が違うじゃん!」

陰陽寺「僕は停電の際、動いたのはそいつ以外には一人だけだと言っただけだ」

陰陽寺「それが誰かは知らない」

臓腑屋「そうなのでござるか!?それだけでも充分でござるよ!」

陰陽寺さんの返答を聞いて、嬉しそうに肩を揺らす

最初っからそう言ってよ、もう……心臓が止まるかと思ったよ……


飛田「だが……動いた人物がわからねば話は進まないのではないかね?」

駆村「お前にしてはまともな意見だな……確かに、飛田の言う通りだ」

駆村「その人物が、この事件の犯人の可能性が高いと俺は思うが……どうだ?」

御影「どう思うも何も決まりでしょ!絶対にその人が犯人だって!」

月乃「……………………」

朝日「……?月乃ちゃん。どうしたのぉ?そんなに顔を反らしちゃってぇ」

……明らかに月乃さんの態度がおかしい。具体的に言うと、キョドってる

月乃「……仕方ない。白状すると、それは私」

月乃「……お騒がせしてしまい申し訳ない」

ぺこりと小さな頭が下がる

あまり感情の出ない月乃さんだけど、今は、なんとなーく申し訳なさそうな雰囲気がひしひしと伝わってきた

朝日「あはぁ、月乃ちゃんは部屋を明るくしないと眠れない位暗いところが苦手だもんねぇ」

月乃「……余計な事は言わなくていい」

飛田「ハハハハハ!可愛いじゃあないか!」

御影「えっ!?動いていたなら、月乃さんが犯人なの!?」

瀬川「いや、それは無いと思う……」

月乃さんが襲える訳が無いよ。だって……


【月乃が停電の際に天地を襲っていない根拠は?】
1:天地の方に来ていたから
2:瀬川の方に来ていたから
3:月乃さんが人を殺す様な人には見えないから


瀬川「月乃さんが人を殺す様な人には見えないからだよ!」

朝日「そうだよぉ。月乃ちゃんは優しくってとってもいい子なんだもんねぇ」

陰陽寺「だからどうした」

デイビット「麗しい兄妹愛は結構だガ、ここはなるべく明確な根拠を示して欲しい所だナ」

月乃「……あまり変な事を言うと、私まで疑われるから止めてほしい」

……違う違う。そうじゃなくてもっとちゃんとした理由があるはずだよね?


2:瀬川の方に来ていたから


瀬川「これだよ!」解!

瀬川「月乃さんは、天地さんじゃなくて私の方に倒れ込んで来ていたんだよ?」

瀬川「だから天地さんを襲う事は出来ないんじゃないかな?」

吊井座「そ、そ、そうとは言えないだろ……」

吊井座「せ、瀬川と天地は隣同士じゃねえか。別に無理でも何でもねえだろ……」

照星「それもそうっすね!性的にも!にひひっ!」

月乃「……していないものはしていない」

朝日「していないって言ってるよぉ?月乃ちゃんを信じようよぉ」

飛田「何故誰も彼女の言葉に耳を傾けんのだ!」

古河「オマエは女が絡むとめんどいねん!ちっと黙ってろ!」



御影「あっ!ならこういうのは考えられない?」





月神「……御影君?何か考えがあるの?」

御影「うん!襲ったのは月乃さんじゃなくて、朝日クンだったんだよ!」

御影「双子だから顔立ちも似てるし、推理モノだと定番のトリックだよね!」

御影君が出したのは、数多の推理作品で使い古され過ぎて手垢でボロボロになる様なトリック。でもそれは……

月乃「……出来ると思う?」タユン

御影「無理でした!ごめんなさい!」

臓腑屋「どこを見て撤回したのでござるか!?」

胸をぎゅっと寄せてアピールする。あれは私でも無理だね、うん

瀬川「それに、触った私だから言えるけど、間違いなく女の子の身体だったよ?」

御影「な、ならこれはどう?瀬川さんが月乃さんのコスプレをして……」

瀬川「こやつめ、ははは。さてはコスプレを物真似か何かと勘違いしているね?」


瀬川「コスプレとは2次元の存在を3次元である肉体に投影する事であって別の物をトレースするだけの物真似とは全く別物なんだよね。まあ最近ではその境界も曖昧になってるし私も誰かの物真似位なら簡単に出来るけどそれってもう既にコスプレとは呼べないよね?そもそもコスプレするのにも1から何もしない訳じゃなくて色々下準備とか小道具の用意とか必要だし、簡単にすぐその場でドン!とは出来ないんだよ。わかってくれた?御影君」


駆村「俺には瀬川が何を言っているのか全くわからんが、無理そうだな……」

デイビット「そもそもの話、瀬川女史本人が月乃女史を受け止めている以上その説は無いだろうヨ」

御影「な、なら臓腑屋さんの変化の術で……」

臓腑屋「出来ないでござるよ!拙者は忍者では無いと何べん言えばわかってくれるのでござるか!?」

月神「このままじゃ水掛け論ね……何か他に意見のある人はいるかしら?」


スグル「……あの」

おずおずと裁判場に響く声。手を挙げていたのはスグル君だ

月神「どうしたのかしら?スグル君」

スグル「そもそもの話なんですけれど、あの停電はどうして起きたんでしょう?」

スグル「犯人の目的が包丁で、それを取る為に天地さんの持つ鍵を狙ったんでしょうけど……」

スグル「だから、停電は偶然ではなく必然で起きたものだと思うんです。どうでしょうか?」

御影「あっ……確かにそうだよ!」

スグル君は、すらすらと淀み無い意見を並べていく

……そっか。停電が起きないと鍵が取れない、偶然にしては犯人にとって都合が良すぎるもんね

瀬川「凄いや!お手柄だよ、スグル君!」

スグル「あ、ありがとうございます!」

照星「いひひっ、この調子で犯人も見つけちゃうっすよ!スグルん!」

スグル「プレッシャーをかけないでください!」

微笑ましいスグル君を横目に考えてみる。停電の原因かぁ……それっていったい何だったんだろう?

ここはきっと重要な部分。それさえわかっちゃえば、この事件もサクッと解決しちゃうはず!

……はず、なんだけど……なんでだろう?

何だか凄く……嫌な予感がする様な……?


【ノンストップ議論  開始!】

『コトダマ』
【エアコンのタイマー】
【御影の証言】
【パーティーの飾り付け】



月神「停電の原因……皆は何か思い当たるものはあるかしら?」

駆村「食堂にあった《派手な電飾》じゃないか?」

古河「あんだけピカピカしとったら、いつ停電なってもおかしないわ!」

御影「飾り付けした癖に!?」

デイビット「それならバ、パーティーが始まった瞬間停電になるはずダ」

御影「ならさぁ、《ブレーカーを落とした》んじゃない?」

朝日「ブレーカーにはぁ、【誰も触ってない】はずだよぉ」

照星「触らなくても、【スイッチがあれば】おとせるんじゃないっすか?」

竹田「遠隔操作みたいなやつか?だけどリモコンを持ってた奴はいねえ」

竹田「スイッチに【なりそうなモンはない】んじゃあねえのか?」

スグル「何か、あった気がしましたけれど……」


【なりそうなモンはない】←【エアコンのタイマー】



瀬川「それは違うよ!」論破!

瀬川「ううん、あったはずだよ。スイッチじゃないけれど……」

瀬川「タイミング良く停電を起こせる方法がね!」

竹田「ん?そりゃどんなだい。瀬川の嬢ちゃん」

首を傾げながら聞いてくる竹田さん。その顔からは謎を聞くと言うよりも、確かめる様な雰囲気を感じる

瀬川「エアコンのタイマーだよ。これなら自動的に電源が入るから……」

瀬川「狙ったタイミングに調節出来るし、何より離れていても停電を起こせるよね!」

臓腑屋「そうでござる!確かに、丁度円陣の直前に設定がなされていたのを……!」

臓腑屋「拙者がしかと確認しているでござるよ!」

竹田「ほ~……最近の家電はハイテクなこって」

月乃「……いつの時代?」

瀬川「と、とにかくこれで停電を引き起こす方法はわかったよね?」

瀬川「後は犯人を当てるだけ!楽勝だね!」



         反

古河「その推理、ダサ過ぎるわ!」

    論



古河「んなワケあるかい!停電がそんなんで起きるワケないやろ!」

……大声を上げて、私の邪魔をする古河さん

議論に間違いは無いはずだけど、何か気になる事でもあるのかな……?

古河「あんま適当言うてると……いてこますで!」


【反論ショーダウン  開始】

『コトノハ』
【ホットプレート】
【パーティーの飾り付け】
【御影の証言】



古河「エアコンのタイマーが停電の引き金やと?」

古河「そんなん、絶対あり得へんわ!」

古河「飾り付けをしたウチが断言したる……」

古河「電飾とエアコンだけで、停電になんかならへんってな!」

古河「瀬川が言うてる推理は、ハナっから大きな間違いなんや!」



瀬川「確かに、それだけじゃ難しいよね……」

瀬川「停電が起きたのは……他に原因があったからじゃないかな……?」



古河「はぁ!?他の原因やと!?」

古河「そんなん【食堂には無かった】やろが!」

古河「他に【電力を消費するモン】はない……」

古河「瀬川が言うとるんは、無茶苦茶なんや!」


【電力を消費するモンはない】←【ホットプレート】




瀬川「その反論、打ち切っちゃうね!」論破!

瀬川「……古河さんの言う通りだよ。確かに食堂には電力を大きく消費する様なものは無かったね」

そっか。古河さんは食堂の捜査はしていても厨房の捜査はしていないんだ……

なら、知らなくても仕方無いよね……

古河「せやろ?だから言うたやん!瀬川は……」

だから……私の推理で、ちゃんと教えてあげないとね!

瀬川「……食堂には、ね!」

古河「な、なんやと?」

朝日「ああ!もしかしてホットプレートの事を言っているのぉ?」

駆村「あの料理を暖めるのに使っていたあれか?」

古河「そ、そんなんあったんか!?」

瀬川「そそ、その数なんと五台!フルパワーで順調に動いていたみたいなんだ」

月神「それだけ動いていたなら、きっと電力消費量も桁違いだったでしょうね……」

瀬川「そんなものがパーティーの間中ずっと動いていたんだ。そのギリギリの最中で……」

瀬川「エアコンが動いちゃったから、ブレーカーがパチン!と落ちたんだよ!」

古河「そ、そうやったんか……スマン、瀬川……」

シュンと項垂れる姿に溜飲が下がる。皆も私の意見に納得したみたいで、うんうんと頭を動かしていた


デイビット「フム。でハ、今までの議論を総括しておこうじゃあないカ」

デイビット「ここまでの議論でハ、犯人の行動は停電を引き起こし包丁を奪っタ……異論はあるかネ」

スグル「いいえ。それで間違いないはずです」

デイビット君の話に意義を通す人はいない。今までの議論は、皆も納得して聞いていた

デイビット「これハ、パーティーの準備に関わった人物が犯人であると示していル。逆説的ニ、それ以外は犯人では無い事になル」

照星「あ!それなら自分わかるっすよ!」

照星「自分、吊井座先輩、飛田先輩に御影先輩、陰陽寺先輩に瀬川先輩!みーんなサボってたっすから犯人じゃないっすね!」

大声で大きな胸を張る照星さん。そこはそんなに自慢する事じゃないから止めて欲しい

月神「あら?陰陽寺さんは私達の方に手伝いに来ていたけれど……」

照星「ありゃ、そうなんすか?」

月神「準備の間はずっと私の近くにいたわ。別れたのは準備が終わった頃よ」

駆村「なら、陰陽寺と月神は犯人から除外しても良さそうだな……」

陰陽寺「………………」

竹田「んなら、照星の嬢ちゃんが言った面子に月神の嬢ちゃんは犯人じゃねえって事でいいんだな?」

吊井座「そ、そ、そ、そうだ!パーティーの準備をしてた奴が犯人だ!」

古河「このヤロウ……サボッとった分際で、よくもそんなデカイ態度をとれたなぁ!?」

吊井座「ヒィィィィィィ!?!?」

月乃「……ビビらせるのはダメ。今後の議論に支障が出る……かもしれない」

御影「犯人は誰なんだよ!?もうわかってんだから自白しろよ!」

臓腑屋「候補。でござる!まだ現状では誰も犯人とは決まっていないでござるから!」


犯人の候補は決まった。でも、ここからどうする?

犯人は間違いなく停電に関わってるんだけど、ここからどうしよっか……?

……停電? あれ?なら、もしかして……!

瀬川「……犯人、わかったかも……」

スグル「………!?」

デイビット「……ほウ?」

月神「!? 本当!?瀬川さん!」



裁判場に落とされた、犯人を告げる爆弾発言。その効果はてきめんだ

ざわつき始める周囲を宥めるかの様に、ゆっくりと口を開いていく


瀬川「停電まで犯行に含まれているならさ、停電が起きたタイミングも犯人が決めてたんじゃない?」


瀬川「現に、タイマーも皆が円陣で固まっていた時に入れられていたんだしさ」


頭に浮かんだ推理をカタチにしていく。……と、言っても、今までの議論で明らかになった事を継ぎ接ぎしているだけだけど


瀬川「これって、犯人は円陣の事を予め知らないと出来ないよね?だから、犯人はさ……」



瀬川「月神さん。円陣のタイミングを決めていた貴女ならわかるはずだよ」


それでもいい。目立つのに才能なんか要らない。皆の心を引き付けて、バン。と目の前で炸裂させる

しん。と静まる学級裁判。指名された月神さんは、一度目を伏せて……意を決した様に答えを告げた




月神「……私が円陣について相談したのは……」

月神「……天地さんだけよ」



彼女は重たい口を開き、そう、ぽつりと告白した

十三の視線が移動していく。私の右隣の方向から、私の左隣の方向に

そこにいた……ううん。置かれていたのは、笑顔にバッテンマーク……チェックマークが書かれた人

既に、殺された……天地りぼんさんの遺影があった

デイビット「……それニ、間違いは無いかネ?」

月神「ええ。断言するわ。私はこの事を彼女にしか伝えていない」

月神「時間の指定も、最後の方が盛り上がるからと天地さんが決めたものよ」

慎重に尋ねるデイビット君に、月神さんはキッパリと答える

息を呑む音が聞こえる。悲鳴みたいな、甲高い声が耳を通り過ぎた気もする

淡々とそう伝える月神さんのその目には、いったい何が映っているのか……私にはよくわからなかった

月神「……でも!だからって、そんな事……!」

瀬川「え?何がおかしいの?だって皆で考えた推理は、こういう事でしょ?」

月神「こういう事、って……!」

月神さんの疑問を、私はすぐに切り捨てる

ここまでの推理に間違いは無い。それはきっと皆もそう思っているはずだから

私は私を信じてる。私の答えを、信じられない月神さんに突きつける様に宣言した









瀬川「一連の犯行が出来たのは天地さんだけだって事なんだよ」




【 学 級 裁 判  中 断 】








本日ここまで
今回で大体半分くらい終わりました



~~~♪


ハルカ『良い子の皆ー!学級裁判楽しんでるー?』

ハルカ『え?これはなんなのかって?それは……』

ヨウ『俗に言うとCMだな。別の言い方をするなら尺稼ぎ時間だ』

ハルカ『大人の事情ってやつだね。私達には何にも関係無いけれど!』

ヨウ『それはともかく、裁判も中々な展開になってきたじゃないか』

ハルカ『事件を起こせたのは被害者だけ!?これっていったいどういう事!?』

ヨウ『信じるも信じないも流れ次第!犯人の目的、被害者の思惑、学級裁判の結末や如何に!?』

ハルカ『皆の戦いを!遥かな明日を!』

ヨウ『しかと、この目で見届けよう!』

ハルカ『バイバーイ!』


~~~




御影「え、えーっと、瀬川さん……」

御影「ボクにはちょっと何言ってるかよくわからないんだけど……?」

御影君が口に出す、私の発言への疑問

瀬川「言葉通りの意味だよ。今までの議論で出た結論は犯人は天地さんだって事だよね?」

古河「そ……んな訳無いやろ!あの天地やぞ!?」

駆村「彼女は俺達の為にどれだけ身を粉にしてきたか、わかっているのか!?」

飛田「そもそもりぼんは被害者なのだぞ!?それも犯行を企てた側だとッ!?」

評価は控えめに言って最悪だ。口々に私への非難と天地さんへの擁護が投げつけられる

まるで、私が悪者みたい。……どうして?おかしいよ。正しい事をしているのは、私なのに!

瀬川「……皆、私が間違ってるって言いたいの?」

瀬川「なら教えてよ。何処から、どういう風に私が間違えたのかさ」

静かに、少しだけ睨み付けながら皆に問いかける

一気に場が押し黙る。私の質問に、ちゃんと答えられる人は誰もいなかった

瀬川「……無いでしょ?なら議論を続けて……」

月神「……いいえ。まだ議論は続けさせて貰うわ」

瀬川「……なんで?」

月神「皆が納得したわけじゃないわ。まだ、信じきれていない人だっている」

月神「それなのに、皆で議論を進めていくなんて、出来る訳ないもの」


…………何それ?

瀬川「……私が悪いって言いたいの?」

月神「そうじゃないの。ただ議論を続けていけば別の可能性も……」

瀬川「悪いって言ってるじゃん!そう言いたいならそう言いなよ!」

月神「そんな事言っていないわ!ただ、皆の意見や理解をちゃんと……」

瀬川「何言ってるの!?皆だって、私の答えに納得してるって……」

竹田「あー……悪いな。まだ決められねえんだわ」

…………………………は?

駆村「幾らなんでも強引過ぎる……!まだそれ以外の考え方だってあるはずだろ!」

照星「自分も悪いっすけど、まだちょっと信じられないっす!」

月乃「……もう少し根拠が欲しい」

朝日「私はぁ、議論していいとも思うなぁ」

瀬川「……そ、んな」

否定。否定。否定。否定。否定…………拒絶

頭の中で声が反響する。より酷く、より醜く、より私を責めるように歪んでいく

ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐるぐるり。吐き気がする程目が回り、目眩がする程頭が揺れる

胸の奥からナニカが溢れる。それは言いたくない、考えたくないような黒い感情で……

もう、喉の奥。言葉になって、突き刺さる寸前まで出かかっていて……




スグル「……瀬川さん?」












瀬川「……うん。大丈夫だよ」

瀬川「じゃあ、議論を続けようか」

それを、ごくりと飲み込んで平静を装う

平気、平気。私はまだ大丈夫。そう言い聞かせながら息を整える

学級裁判はまだ続く。ドクドクと高鳴る心は、もう少し待って欲しいみたいだけどね



【ノンストップ議論  開始】

『コトダマ』
【円陣】
【パーティーの飾り付け】
【ホットプレート】



月神「本当に、天地さんが犯人なの……?」

御影「そんなの信じられるワケないってば!」

駆村「瀬川の推理の根拠は……」

駆村「円陣のタイミングで《停電が起きた》部分を指しているんだろうが……」

駆村「だからと言って、犯行を行えたのが一人だけとは限らないだろ!」

照星「別の人が【天地先輩から聞いて】……」

照星「計画を考えたかもしれないっすよ!」

駆村「停電を起こせた人間は他にもいる……」

駆村「天地だけに【出来た事は無い】はずだ!」




【出来た事は無い】←【円陣】



瀬川「それは違うよ!」論破!

瀬川「停電を起こせた人は確かに他にもいる……けどね。やっぱり犯人は天地さんだよ」

瀬川「だって、このままだと皆には出来ないある事が必要だからさ……」

駆村「何……っ」

御影「ある事……なんかあったっけ?」

飛田「覚えていないなぁ~、オレが覚えているのは夕と凛々の柔かな手の感触だけだ!」

月乃「…………えぇ?」

古河「キッッッッッッモいわ!!!」

照星「幾らなんでもそれはドン引きっす……」

臓腑屋「怖いでござる!怖すぎるでござる!」

無遠慮過ぎる発言で、女性陣からの手酷い罵倒を一身に浴びせかけられる

無関係なはずの男子も、彼の発言に鳥肌が立ったのか手を擦り合わせる人もいた

吊井座「痛つっ……そ、そ、それで、なんだよ。天地しか出来ねえ事って何だよ……?」

手を離した吊井座君が議論を戻す。天地さんにしか出来ない事。今回の事件のキーを担った事は……



【天地にしか出来ず、犯行の鍵となった行動は?】
 解:ご○○い


解:ごうれい(号令)




瀬川「これだよ!」解!

瀬川「皆、停電が起きる前の事は覚えてる?」

竹田「停電の、前だぁ……?」

少しずつ、少しずつ当時の状況を思い返していく

見終わったDVDのテープを巻き戻すみたいに、読み終えた漫画のページを捲り直す様に

月神「停電が起きる前……私達が円陣の並びで並んでいた時の事かしら?」

瀬川「うん。停電が起きた時、私達は円を描いて並んでいたよね。全員が全員の近くに来る様に」

必要なピースを揃えていく。議論に有効なコトダマを選別し、そこから更に錬磨する

瀬川「だけど、もし停電が起きたタイミングで他の皆が離れていたら?逆に、円陣になる前に停電が起きていたら?」

削った言葉の破片を投げる。それは水面に落ちた屑の様に波紋を裁判場に広げていく

臓腑屋「にゃあ……それは、やはり全員が好き勝手に散り散りに動くのでは?」

朝日「私はぁ、怖いから屈んじゃうかなぁ?」

朝日「でもでもぉ、円陣の時は月乃ちゃんが隣にいたから安心出来たんだぁ~」

月乃「……へし折られたいの?」

月神「……あっ………!?」

デイビット「ほウ。成る程ナ」

御影「えっ、今ので何か納得する要素あった?」

そして、水底に辿り着く。知恵の泉のお話の様に

どうやら何人かは理解してくれたみたい。私の推理の源泉を……!


瀬川「前提として、天地さんは自分が襲われた様に皆を錯覚させる必要があるんだ」

照星「えっ……なら、あれって嘘なんすか!?」

陰陽寺「そもそも、天地が襲われたという事自体が疑問だがな」

陰陽寺「衣服の乱れも無く、暴行の形跡も無い。双子の片割れが瀬川の方に行った以上、そいつが犯人でも無い」

陰陽寺「あの短い停電時間で、あの小さな鍵を盗める奴はいるのか?それも全員に悟られずにな」

私の推理の補足をしてくれる陰陽寺さん。あの冷酷無比な切れ味が、今はこの上なく頼もしい

その勢いのまま、推理を切り刻む。忘れない様に、記憶の底から当時の事を引きずり出して……!

瀬川「鍵は隠したのかわからないけど……でも、今はどうでもいい事だよね」

瀬川「問題はその前……襲われた様に見せ掛けるには、皆の目の前で停電になった方が都合がいい」

瀬川「だから……天地さんは利用したんだよ。月神さんの提案した円陣を……!」




月神「ふふふ。それじゃあ最後の号令よろしくね。天地さん」

天地「はーい!それじゃあさん、にー、いちで行くよー!」



天地「さん!」

天地「にー!」

天地「いち!」





スグル「あっ……そうだ。思い出した……!」

ハッと表情を変え、スグル君が目を光らせる

その顔つきは普段の幼げなモノじゃない……覚悟と決意を秘めた顔で……

スグル「あの時、天地さんは号令の前に不自然な間を用意していたんです。最初はタイミングを測っていただけだと思ったんですけど……」

瀬川「見事に謀られたって訳だね。もし少しでもズレていたら、この計画は成り立たなかったよ」

私も負けてはいられない。入念に研ぎ澄ませた推理を構えて


瀬川「この計画で一番重要だったのは、停電を起こす事でも、停電が起きた直後でもない……」

瀬川「『停電が起きる直前』こそ、天地さんの一番重要な部分だったんだ」


突き付ける。刃物の様な推理は今、学級裁判場を切り裂いた

月神「……どうして、どうしてなの?」

月神「どうして、天地さんともあろう人が、こんな事を……?」

ぽつりと、何かが零れた様な月神さんの疑問の声

きっと、彼女が求めているのは―――納得だ

だから納得させてあげよう。これ以上の、悪足掻きを止める為にも


【天地りぼんの動機とは?】


【クリア特典】



瀬川「これだよ」解!

瀬川「……皆はさ、あのゲームってプレイした?」

ヨウ『ナゲミデスカイの事だな?』

御影「え?ゲームならプレイしていないけど……」

ハルカ『ナゲミデスカイの事だね!?』

瀬川「…………とにかく、誰もやっていないって事でいいよね?」

ノイズは無視して話を進めよう。幸い意図は伝わったみたいで、皆は首を横に振って示してくれた

瀬川「私、パーティーが始まる前の日に、ゲームをクリアしていたんだ」

その言葉を聞いた途端、ざわめきはより大きく動き出す。不意に、有り得ないモノを見たかの様に

月神「な、なら……瀬川さんは特典を貰ったの?」

瀬川「ううん。私はその特典を貰っていないんだ」

御影「はぁ!?何だよそれ!特典が貰えるって嘘なの!?モノクマ、騙してたんだな!?」

モノクマ「うぷぷっ、騙されたって言う奴は最初から何も考えていない奴なんだよね。ボクは嘘は言っていないよ。文句はアニメに言ってね!」

御影「二次元にクレーム!?ボケ老人かよ!」

御影君の憤りは涼しく流される。私も最初はそう思っていたけれど……

瀬川「多分、モノクマは間違った事は言っていないはずだよ……それを証明したいからさ」

瀬川「ゲームの説明があった部分、もう一度ここで再生してくれない?」

私が言うより当人に説明して貰った方が理解してくれるはず。モノクマは、ラジャー!と言うとリモコンを操作し始めた……



モノクマ「えーと、ここら辺でいいかな?再生!」




ハルカ『タイトルは『ナゲミデスカイ』!設置直後にバランスの問題で高速撤去された問題作!』

ヨウ『今回はオマケとしてクリアした先着一名には特典を用意しておいた。早い者勝ちだぞ!』





スグル「……あっ!」

朝日「そっかぁ。早い者勝ち……」

再生された箇所は、記憶と相違無い音声でリプレイされる

何人かは合点がいったみたいで頷いている。そう、これは―――

瀬川「特典が貰えるのはクリアした人じゃなくて、一番早くクリアした人……」

瀬川「それは唯一クリアしている私じゃない以上、他の誰かが先にクリアしていた事になる」

瀬川「どうしてその人は名乗り出ないのかな?ううん。きっとここには居ないからなんだよ」

告げる。ゲームをクリアした人、特典を持ち逃げ出した人を

瀬川「ここに唯一居ないのは……天地さんだけだ」

瀬川「きっと、これが天地さんの動機になったんじゃないかな?」

結論は出た。これが私の出した真実

皆の反応は……予想とは大きくかけ離れていた


古河「ふっ……ふざけんなや!滅茶苦茶過ぎや!」

駆村「ゲーム如きで人殺しだと?馬鹿にするな!」

月乃「……千早希の推理は、まだ不完全。この場の全員に認めさせるには力不足」


ほとんどの人は私の出した推理に否定的だ

それもそっか。ゲームが理由で殺人なんて、小学生じゃあるまいし……

信用して貰えない様な気はしてた。でも、この推理を信じて貰わないと……


スグル「……信じますよ」

瀬川「……えっ?」

スグル「僕は、瀬川さんの推理を信じてみます。どれだけ有り得なくても、最後に残った結論が……」

デイビット「真実であル。……スグル氏も中々良い事を言うじゃあないカ」

陰陽寺「今更有り得ない等通用しない。ここまで来て、クロを取り逃すものか」

スグル君の言葉に賛同する様に、デイビット君と陰陽寺さんが私の推理に同調してきた

月神「……でも、どうしましょう?意見が二つ。このままだと平行線ね……」

不安げに思案する月神さん。彼女が再度口を開こうとした瞬間―――



ハルカ『ん?今、意見が真っ二つって言った?絶対に言ったよね!?』

ヨウ『だとしたら、この特製学級裁判場の真骨頂。変形裁判場の出番だな!』

モノクマ「それでは、議題は『天地りぼんさんは一連の犯行を行えたのか?』!?」

モノクマ「ではではオマエラ方、全身全霊の死ぬ気で、張り切って行きましょーう!」



瀬川「え?何言って……きゃっ!?」

御影「うわぁ!?足元が動いてる!?」

竹田「しっかり捕まってろよ?ついでに下は見ない様にしておけよ」

吊井座「い、意識させるなよ……っ。うぉっ!?」



モノクマが手元のスイッチを動かすと、私達の身体が……席が宙に浮いていく

心に余裕が出来て、落ち着いてよく見たら……裁判場そのものもどんどん変化していった

私と月神さんが向かい合う様に移動していく。私の隣には、さっき私に賛同してくれた三人が

月神さんの隣には、それ以外……天地さんの遺影も含めて、否定的な全員が隣に並んでいく

まるで私達の間の対立が具現化する様な隊列。私の目の前に立ちはだかる敵を前にして、私は……



スグル「……?瀬川さん、笑っているんですか?」

瀬川「……ううん。笑ってないよ」

愉しい。どうしてかわからないけど、そう感じていた

直ぐに表情を元に戻す。他の皆も気を引き締め直して此方を見据えていた

瀬川「それじゃ、早速始めよっか……」

瀬川「私と皆、どっちが本当に正しいのかをね!」

手をビシッと伸ばして宣言する。それを皮切りに、合戦の様な議論が始まった……!


御影「ゲームをやったのは瀬川さんだけって、幾らなんでも嘘臭過ぎるでしょ!」

御影「本当は瀬川さんが特典を持ってて、それを隠してるんじゃないの!?」

スグル「それは違うよ!」

御影「ふあっ!?」

スグル「瀬川さんがクリアした時、僕も側にいたんです。特典らしきものは有りませんでした」

スグル「勿論、それ以前にクリアしていた可能性もありますが……それまでにコインが見つからなかった以上、その可能性は低いと思います!」


意見と意見が交差する―――


駆村「そもそも、瀬川の言う計画そのものだって滅茶苦茶じゃないか!」

駆村「どれだけ緻密な計算をしても、他人任せな以上、この計画には運が絡む……」

駆村「全員の行動を把握し、停電まで時間を引き延ばしてタイミング良く動くなんて不可能だろ!」

デイビット「フム、確かにそうだナ。しかしこう考えられなくは無いかネ?」

デイビット「天地女史ハ、果たしてパーティーの際に事件の成功を予期していたのカ?ト」

古河「はぁ……?」

陰陽寺「まず、停電が起きなかったらどうする?何もせずパーティーを切り上げればいい」

陰陽寺「次に円陣の前後で停電が起きた場合。これもパーティーを続行すれば何の問題もない」

陰陽寺「鍵は、最初から天地が手に持っていたのだからな」

古河「そ、そなら!身体検査の時に鍵が見つかってたらどないしたんや?」

デイビット「その場合は白を切り通せば済む話ダ」

陰陽寺「結局事件は起きて無かった。これだけで終わりだ。また別の機会を狙えばいい」

デイビット「何れにせよ彼女にダメージは無イ。単純な分、幾らでも応用が効く計画という訳だナ」


反論を捩じ伏せ、押し潰す―――!


月神「……まだ、疑問があるわ」

瀬川「まだ?何が疑問なのか言ってみてよ」

月神「特典の事よ。ゲームのクリア特典を天地さんが隠し持っていたなら……」

月神「誰かがそれを見ていたと思うの」

瀬川「……誰か見た?」

朝日「うぅ~ん。私は知らないよぉ」

臓腑屋「拙者も心当たりは無いでござる……」

誰も、そんな怪しいモノを見ていない。ここまではまだ予想内の範疇だ

怪訝そうな顔が一斉に私を見つめる。不審そうな目からは、私の言葉が紛い物だと語っていた

この場で糾弾すべきは、この中にはいない。なら、答えは一つだけ―――!


瀬川「……モノクマ。一つ聞いていいかな?」

モノクマ「ん?何?ファイナルアンサー?」

瀬川「特典って、どんなモノなの?例えば凶器とか、ファイルとか……」

モノクマ「お答えしましょう!特典の正体とは!」

ハルカ『皆が知りたがっている情報の入った、特別な映像だよ!』

ヨウ『彩海学園生徒垂涎の代物だ!尤も何が映っていたのかまでは教えられないがな』

期待していた以上の答え……何故かアニメからだけど……に、内心でぐっとガッツする

瀬川「……まあいいや。とにかく、特典の正体は映像だったんだ。見てなくても当然なんだよ!」

私の発言で勝利が確定した。これで、トドメ!



瀬川「これが、私達の答えだよ!」全論破!!!


月神「……本当に、彼女が……」

駆村「認めたくは無いがな……」

……これで議論は一段落。でも、肝心の問題がまだ残っている……

御影「……あれ?天地さんが停電を起こした犯人なのはわかったけどさ」

御影「結局、天地さんを殺した犯人って誰なの?」

照星「げっ!?そう言えばそうだったっす!」

デイビット「不味い事に、今までの議論は全て根本的に的外れだった訳ダ」

デイビット「恐らク、犯人は本来の被害者……天地女史に狙われた方だろうヨ」

竹田「被害者と加害者が逆転しちまったって訳か。で、こっからどう議論すんだ?」

月乃「……どうするも、何も…………どうする?」

御影「臓腑屋さん!忍者として何か案無い?」

臓腑屋「にゃあ!?拙者もわかんないでござる!」

古河「な、なんか他に証拠は無いんか!?」

陰陽寺「ある訳が無いだろう。犯人すらも想定していなかった筈だからな」

スグル「……犯人に繋がる決め手は、ありません」

全体に暗い雰囲気が漂っていく。先が無くなって、立ち往生するかの様な諦めのオーラ

敗けを認めたかの様な、深い、深い負の感情

……私は認めたくないけれど、これってきっと……

吊井座「つ、つ、詰んだ……って、事か?」


飛田「ど、どうするのかね。このままではッ!」

モノクマ「そうそう。議論にもタイムアップはあるからね?勤務時間も決まってるし」

御影「わああああ!?!?どうするのさ!?」

月神「落ち着いて!とにかく、もう一度議論の流れを纏め直して……」

古河「せやな!……って、結局天地やん!」

臓腑屋「犯人は誰なのでござるかーっ!?」

竹田「おうおう、落ち着けっての。ところでちっと煙草吸っていいか?」

モノクマ「ダメです!裁判場は禁煙だよ!」

スグル「どうすれば……でも、このままじゃ……!」

瀬川「…………」



絶叫、狂騒、大混乱。裁判場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた

私の頭の中で、最悪の結末が構成される。それは、こんな生ぬるい地獄なんかじゃなかった

そんなエンディング、絶対に向かわせる訳にはいかない。けど……!



瀬川「……やるしかない。か」

瀬川「私が……!」

この状況だし、やむを得ない。今必要なのは強引に議論を動かす事だもん

偽りでもいい。虚飾でもいい。どんなに無理な事でもいい

議論を動かして、犯人を炙り出してみせる

例え、それが……『嘘』だったとしても―――!




【ノンストップ議論  開始】

『コトダマ』
【パーティーの飾り付け】
【静かだった寄宿棟】
【御影の証言】



御影「うわあああ!!どうしようどうしようどうしよう!?!?」

月神「落ち着いて!微かな事でもいいから……」

月神「何か、小さな違和感や、他に気になった事は無いかしら!?」

吊井座「ん、んな事言われても……っ」

竹田「なら言うがよ、天地の嬢ちゃんはどうやって呼び出したんだ?」

駆村「前もって被害者を【呼びつけておけば】良くないですか?」

照星「今日じゃないなら、【手紙とか書き置き】とかでも良さそうっすね……」

飛田「とにもかくにも、昨夜は静寂に包まれていた事には間違いないッ」

飛田「犯人は【事件前に呼び出された】のだッ!」


瀬川「…………」

議論は終末に向けて進みだす。けど、それはきっと進むべき方向を間違っていて

私は、今からその方向を更に歪める。誰も予想出来ない次元へ、意図的に議論を捩じ曲げる

許されない事だって判っている。けれど今はそんな優しい事は言っていられないんだ

それで、私が皆を救えるなら―――!



【事件前に呼び出された】←【静かだっ【声の聞こえた寄宿棟】


瀬川「これで嘘つきを暴くよ……!」偽証!



瀬川「ううん、飛田君。それは違うよ」

飛田「何?というと、どういう事だい?」

デジャヴを感じる光景に、薄く笑いを浮かべながら淀み無く証言していく

たった今脳裏に浮かび上がった、偽りの証言を……

瀬川「多分、天地さんはパーティーが終わった後、寄宿棟に行っていたはずなんだ」

瀬川「だって、うっすらだけど、と天地さんと誰かが話しているのが聞こえたもん」

瀬川「それが誰かまではわからないけど……きっとその時に犯人は天地さんに呼び出されたんだよ!」

口から出てくる嘘に任せる。これで、どうかな……?


御影「い……いやいやいや!?何で今更そんな事を言い出すのさ!」

瀬川「だって今まで議論に出なかったし……」

月乃「……議論に出なかったから言わなかった?それは少し不自然」

駆村「そもそも、あの寄宿棟は全室防音設備があるんじゃないのか?」

瀬川「えっ?そうなの?」

朝日「ちょっと気になって聞いてみたんだぁ。ねぇ?スグルくぅん」

スグル「は、はい!間違いありません!前に古河さんも部屋にいた時には聞こえませんでしたし……」

古河「あぁ!そいやそんな事あったなぁ!」


……マズイ。防音なんて聞いてないよ

とにかく、今はなんとか誤魔化し続けないと……!


瀬川「えっと、その時、私は外に出ていたから聞こえたんじゃない?」

デイビット「ほウ?外にいたのに天地女史、及び呼び出された者は見ていないのかネ?」

吊井座「そ、そ、そもそも、手紙で来たのにいる訳ねえだろ……」

照星「てゆーか、夜に一人で外でブラブラしてるっておかしくないっすか!?」

瀬川「お、おかしな事じゃないよ!ほら、そういうセンチメンタルな気分になっただけで……!」

臓腑屋「ならないでござる!幾らなんでも怪しすぎるでござるよ!?」

瀬川「うぐっ……!?」



………………。




竹田「おいおい嬢ちゃん……こりゃまたいったいどういう事だ?」

陰陽寺「嘘を吐いたんだろう。明らかに、たった今考えた出任せだろうがな」

御影「う、嘘ぉ!?」

月乃「……どうして、そんな必要が?」

吊井座「き、決まってんだろ!そいつがこの事件の犯人なんだ!」

スグル「瀬川さんが……!?」

飛田「そんなバカなッ!何を根拠にッ!」

デイビット「混迷を予期シ、そこへ追い討ちをかけるべく嘘を話しタ。フム、おかしな話ではなイ」

駆村「時間を更に引き延ばす為に、無駄な議論をさせようとしたのか!?」

臓腑屋「そ、その様な事まで考えて……!?」

瀬川「………………」

スグル「……瀬川さん。嘘ですよね?」

スグル「僕には、貴女がそんな事をする人には見えません……!」

月神「瀬川さん……本当の事を言って!」


……私を身体を視線が射抜く。そこに宿っているのは疑いだ

何か言わないと。このままだと。そんな考えが頭をよぎっては消えていく

だけど、今はそんな事をする余裕なんて無い

だって、私は、今……

月神「……瀬川さんっ!どうなの!?」




「……ふ」

……最高に

月神「……?」


「ふ、ふふ……ふふふ!」

ドキドキしてて、ワクワクしてて……


駆村「な、何だ……?」

スグル「瀬川、さん……?」


「ふふ、ふふふっ。……あはっ!」

身体がおかしくなっちゃうくらい、心がバグっちゃうくらい!


朝日「笑って、いるのぉ?」

御影「こ、怖いよおおおお!!」

古河「なんやコイツ……頭おかし過ぎるやろ……!」



「あはっ!あはははっ!!あはははははっ!!!」



瀬川「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!!!!!」

瀬川「ははっ……!はははっ!!」

瀬川「つーかまーえた……っ!」



最っ高に、愉しいんだからさっ!!



瀬川「結論から言っちゃうと……そう。大正解!」

瀬川「さっきのは全部私の嘘なんだ。ゴメンね!」

あっさり皆にネタばらし。余韻で興奮が冷めやらない火照りを自覚する

ぺろっと舌を出してごめんなさい。これで、少しは皆も許してくれるよね?

だって、これからもっと楽しい事があるんだから!

スグル「嘘……!?どういう事ですか!?」

駆村「ずっと俺達を騙していたのか!?瀬川!」

瀬川「騙していた訳じゃないよ。だってこうしないとわからなかったしさ」

瀬川「私以上の嘘つきが、さ!」

陰陽寺「わからなかっただと?」

臓腑屋「いったい全体何の事やら……」

月神「……まさか、犯人がわかったの?」

月神さんからの静かな問いに、私は自信に満ちた顔で、うん。と答える

瞬間。皆からは裁判で一番のどよめきが沸き上がる

―――わかった。天地さんを殺した犯人の正体が



……今回の犯人は、普通に議論するだけじゃ絶対に辿り着けなかった

歪に議論が曲がった事で、その歪みから溢れた真相を見つけ出す事が出来たんだから



嘘から産み出した真実を武器に、犯人を追い詰める

まるで、悪魔や魔物に立ち向かう勇者の様に、魔法の様な呪文を唱えた


瀬川「犯人は、貴方だよね?」



【この事件の犯人は?】




【吊井座 小牧(ツルイザ コマキ)】



吊井座「………………………………」

吊井座「………………………………は?」

指を指すその先、そこには目を見開いた吊井座君が立っていた

その目に浮かぶのは混乱と動揺。彼にとってはまさしく青天の霹靂だろう

後もう少しで、勝ち逃げ出来ていたんだから……

吊井座「な、何。何、おま、お、何、言って!」

古河「は……はぁぁぁぁぁ!?」

臓腑屋「吊井座殿が、犯人でござるか!?」

瀬川「うん。間違いなくね!」

吊井座「お、おまっ、な、い、言いがかりだ!お、俺、俺は、犯人じゃ!」

瀬川「モノクマ!投票よろしく!」

モノクマ「ラジャー!それではオマエラ、お手元のボタンで投票してくださーい!」

吊井座「はぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

これ以上の議論はするだけ無駄だ。さっさとこの学級裁判を終わらせちゃおう

そう思って、手元のボタンに手をかけようとして、不意に多きな声が反響した









月神「いい加減にしてっ!!」








瀬川「……え?」

月神「瀬川さん。貴女は間違ってる……誰かを騙して答えを得るなんて間違ってる!」

月神「私は、そんな議論はしたくない。何かを犠牲にまでして生きたくない」

月神「誰かを疑う議論より……誰かを信じる議論がしたいの!」

キッとした顔つきで、私を睨む月神さん

清廉潔白で品行方正な……純粋無垢とも呼べるその清らかな態度

それが、私は何よりも……ムカついた

瀬川「何それ、ふざけてるの?どんな手段取っても犯人を見つける事が大事でしょ?」

月神「違うわ。信じて、信じて、信じて……その先で結論を出したいの」

瀬川「信じて信じてって……その中には人を殺した犯人だっているんだよ?」

瀬川「その上、学級裁判ではどっちが勝っても死ぬしかない……それなのに信じるなんて意味無い!」

月神「意味が無いなんて事は無いわ!だって、私達は仲間なんだから!」

瀬川「その大切な仲間を殺した犯人だっているんだよ!月神さんは……偽善者だよ!」





月神「それでもいい!」

瀬川「っ!」


月神「……瀬川さんの言う通りよ。きっと、私は偽善者なんでしょうね」

月神「でも!私は誰かを信じたい。それが例え、犯人だったとしても!」

駆村「そ……そうだ!瀬川は犯人である根拠も言っていないじゃないか!」

照星「そうっすよ!瀬川先輩はどうして吊井座先輩が犯人だって言ったんすか!」

月神「吊井座君も落ち着いて、大丈夫よ。貴方が犯人じゃないならそう言えばいいんだから」

吊井座「え?あ、ああ……おう」

……余計な事を。お陰で学級裁判が長引いちゃったじゃん

なんだか、私が悪者みたいに言われてるし……

瀬川「……さっきの議論で、吊井座君が言った事を覚えているかな」

瀬川「確かに、吊井座君はこう言ったんだよ……」



吊井座「そ、そ、そもそも、手紙で来たのにいる訳ねえだろ……」




瀬川「吊井座君は『手紙で来た』って言ったんだ。でもおかしいよね?」

瀬川「他の皆は別の可能性だって挙げていたんだ。なのに吊井座君だけは手紙って断言した……」

吊井座「……!?」

瀬川「どうしてなのかな?いや、聞かなくてもわかるけどさ……」

瀬川「実際に手紙で呼ばれたから。そうだよね?」



吊井座「……ハッ。ば、バッカじゃねえのか?」

吊井座「そ、そ、その程度で、お、俺が犯人だって言っていたのかよ……」

瀬川「……へぇ?反論があるんだ?」

吊井座「と、当然だろ!おっ、俺が手紙って言ったのは偶々だ!」

吊井座「て、照星が言ってたろ。手紙や書き置きでもいいって……」

照星「あっ!確かに言ったっすよ!」

吊井座「だっ、だから!お、お、俺はそれが正しいんじゃないかって、そう思っただけだ!」

デイビット「フーム。意見で連想した訳カ。考えられない話では無いナ」

吊井座「そ、そうだろ……?だ、だ、だから、別に怪しくもなんともねえんだよ……」

月神「そうね……私も、少し無理があると思うわ」

吊井座君の弁明は、なんとか彼の首の皮を繋げる事に成功したみたいだ

そして、それが意味する事は……私への疑いをより強める事になる

月乃「……なら、言い出した千早希が怪しくなる」

竹田「そうだなぁ。言い出しっぺは嬢ちゃんだ。当然何か言い分はあるんだろう?」

陰陽寺「当然、無いなら貴様が犯人に最も近い人間となる。その覚悟はあるか?」

……冗談じゃない。私が犯人?そんな結末は認めてたまるもんか

瀬川「……勿論あるよ。私が犯人じゃないって事、皆に認めて貰うからね!」

……なんて言ったけど、正直そんな証拠は無いんだよね

仕方無い。ここも嘘で乗りきっちゃおう……!


【ノンストップ議論  開始】

『コトダマ』
【パーティーの飾り付け】
【ホットプレート】
【包丁】
【御影の証言】



吊井座「お、お、お、俺が犯人だって根拠は……」

吊井座「無えも同然じゃねえか……」

吊井座「そ、そ、そういうお前は……っ。瀬川は、どうなんだよっ!おい!」

月神「瀬川さんにも、吊井座君が犯人だって理由があるはずよ」

吊井座「そ、それは何なんだよっ!?今、ここで、言ってみろよ!」

駆村「《凶器》……は、誰でも取れたしな」

竹田「《犯行現場》に何かあったか?」

臓腑屋「よもや《ダイイングメッセージ》でも見つけたのでござるか……?」

吊井座「な、何でもいいだろ……!お、俺は!犯人なんかじゃねえんだ!」

吊井座「そいつの、い、言っている事は……ぜ、全部!デタラメなんだよ……!」



《凶器》←【包【証拠の残った包丁】



瀬川「これで嘘つきを暴くよっ!」偽証!

瀬川「……待ってよ。誰が吊井座君を犯人だって証拠があれだけだって言ったの?」

吊井座「だ、だからそれ以外のしょ、証拠を……」

吊井座「………………は?」

瀬川「だから、まだあるんだよ。証拠がね!」

……嘘だけどね!それっぽいので誤魔化しちゃおう

でも、私だけが話すだけじゃ、絶対にさっきみたいに嘘ってバレるから……

瀬川「凶器に使われた包丁には、実は、まだ証拠が残っていたんだよ」

瀬川「そうだよね?一緒に見てた月乃さん?」

朝日「そうなのぉ?月乃ちゃん」

月乃「……知らない。初耳」

瀬川「えーっ、忘れちゃったの?ほら、アレだよ、ア、レ!」

月乃「……???」

頭に無数のハテナが浮かんでは消えている。本気で月乃さんは思い出そうとしているんだ

でも、ゴメン……そんな事は一言も言っていない。月乃さんは大人しいから簡単に丸め込めると思ったんだ……

そんな私の心配を余所に、月乃さんはうんうんと頭を動かして悩んでいた

月乃「……どうだったっけ。うん、忘れた」

御影「いや忘れちゃダメでしょ!?」

竹田「しゃあねえ、嬢ちゃん。教えてくれや」

瀬川「イヤ」

吊井座「はぁ!?」


瀬川「だって私が言うと皆信じてくれないし……」

臓腑屋「いやいやいや!?そんな事言っている場合では無いでござろう!?」

月神「その態度は非協力的過ぎるわ。お願い、私達にも教えて……!」

瀬川「えー、しょうがないにゃあ……」

瀬川「……だったら、もう一度議論しようよ。そうすればきっとわかるはずだからさ」

瀬川「吊井座君が、犯人だってね……!」

……唐突だけど、人は、自信ありげに説明されると矛盾があってもそれが正しいと思い込むものだ

そこにどれだけ信頼が無くても、根拠に裏打ちされた説明で無くても、自信があれば説得力が生まれる

人は、それを『ハッタリ』という。この切った張ったの世界なら、それでも十二分に通用する……!

吊井座「……ふ、ふ、ふ」

吊井座「ふ、ふふ、ふふふ、ふざけんな!!!」

月神「吊井座君!?」

吊井座「ざっけんな!ざっけんな!ざっけんな!そんなの、通じるワケねえだろうがぁ!」

吊井座「さ、さっきからデタラメばかり言いやがって!調子に乗るのもいい加減にしろよ!」

吊井座「俺は、お、お、俺は……!」

吊井座「犯人じゃあねえんだよおおおおお!!!」

……吊井座君もだんだん冷静さを失ってきている。今なら彼を追い詰める事が出来るかも……!

吊井座「がぁああああああああああああっ!!!」


【ノンストップ議論  開始】

『コトダマ』
【モノクマファイル1】
【静かだった寄宿棟】
【月乃の証言】
【缶コーヒー】
【ホットプレート】



吊井座「ざけんじゃねえよ!ふざけんなぁ!」

月神「吊井座君、落ち着いて!」

吊井座「黙れよぉ!俺は犯人じゃあねえ!!」

飛田「喧しいッ!少しは静かになりたまえッ!」

朝日「えっとぉ、今は議論を進めていった方がいいと思うなぁ」

デイビット「でハ、各々証拠に成りうる情報を語ってゆこうではないかネ」

スグル「えっと、実は現場には空き缶が落ちてたんですけど……」

駆村「空き缶?《ただのゴミ》じゃないのか?」

臓腑屋「【ポイ捨て】は、拙者が絶対に見逃さないはずでござるよ!」

古河「【なんかのトリック】で使う予定だったんかもしれへんな!」

吊井座「あ、あんな【クソマズイコーヒー】なんざ知るかよ!!」

吊井座「どいつもこいつも……!何もわかっちゃいねえじゃねえか!!」

吊井座「お、俺は!犯人じゃねえからなぁ!!」




【クソマズイコーヒー】←【缶コーヒー】



瀬川「その言葉、捕まえたよ!」論破!

瀬川「吊井座君、話す前に一つ約束して欲しいんだけどさ」

瀬川「……その言葉、撤回はしないよね?」

吊井座「あ……!?あ、ああ!俺は、何も間違った事は言っていねえ!」

吊井座「てめぇの言う事は……全部、全部間違いだらけなんだよぉ!!」

……良かった。どうやら彼自身はまだ気づいていないみたいだね

他ならない自分自身の手で、自分の首を思いっきりかき切っちゃった事に……!

瀬川「確かに、現場には缶が落ちていたのをスグル君が見つけてくれたんだ」

瀬川「それを、前から知っていた人はいた?」

私の質問に、ぽかんとした不思議そうな顔をしながらも皆は首を横に振る

結果を見て、思わず笑みが溢れちゃう。これで彼を犯人として吊し上げる事が出来る……!

瀬川「ねぇ、一つ聞きたいんだけどさ?どうして吊井座君は落ちてたのが『コーヒーの缶』って知っていたの?」

吊井座「は……!?そ、そんなの、一度缶コーヒーを飲んだ事があるからに……」

瀬川「確かにそうかもしれない……けどね」

瀬川「その缶コーヒーの『味』まで詳しく知っているのは、どうしてなのかな?」



吊井座「は、あ?そんなの、そんな、の……!?」

さっと顔が青くなる。きっと自分の言った事が重大な失態だという事をを理解したんだ

瀬川「缶コーヒーの味はメーカーによって違うんだから、それを断言出来るのは飲んだ人だけ……」

瀬川「おまけに、現場に落ちていた事は誰も知らなかったんだから、どのコーヒーかすらわからない筈なのに!」

御影「で、でもおかしくない?なんで犯行現場で缶コーヒーなんて飲むのさ?」

デイビット「フム。それならばワタシが説明出来るやもしれんナ」

デイビット「恐らク……それを用意したのは天地女史であろウ。被害者を自分から気を反らす為にダ」

竹田「幾らなんでも目の前で凶器を取り出す訳にもいかねえだろうからな。警戒されて逃げられたらお仕舞いだしよ」

御影君の尤もな疑問に、デイビット君が説明してくれたお陰で私の推理により信憑性が高くなった

そして、その結果は……言わなくてもわかるよね?


飛田「どうなんだ?貴様が殺したんだなッ!?」

吊井座「ま、ま、待てよ。そ、それは、おお、俺が、前に捨てたやつで……」

臓腑屋「嘘でござる!拙者の目が黒い内はポイ捨てなぞさせないでござるよ!」

吊井座「う、ぐぅ……っ!?」

月乃「……嘘は、その嘘を隠そうと嘘をつき続けるしかない。そうなると、その嘘は手に負えなくなるまで膨れ上がり続ける」

月乃「……解消する方法は一つだけ。嘘をついた事を認めるしかない」

吊井座「う、う、嘘を、認める……?」

瀬川「そう。私は嘘つきでしたって、私は人殺しでしたって皆の前で謝るんだよ」

瀬川「そうしないと、永遠にここから前に進めないよ……?」


吊井座「……み、認めろ?あ、謝れだって……?」

吊井座「み、み、みと、認めろって、何を……!謝れって、どういう事だよ……!」

吊井座「おおお、俺、俺はは、は、犯人じゃ、は、犯人じゃねえんだよぉ!!な、な、何を!謝れってんだよぉ!」

瀬川「……諦めないんだね、往生際の悪い」

照星「先輩……!」

吊井座「だ、だ、だだ、大体、お、おれ、俺が犯人だって断言できる証拠は無え!」

吊井座「全部……ぜ、全部!瀬川が誘導して言わせただけじゃねえかよぉ!」

月神「……それは、誘導尋問という事かしら?」

デイビット「確かニ、誘導尋問で得られた証言ハ、信憑性を得られないナ」

瀬川「つまり、具体的な証拠を出さない限り吊井座君が犯人だって言い切れないって事?」

吊井座「じょ、じょじょ、状況証拠しか出せねえなら俺が犯人だとは確定してないんだ……!」

吊井座「そ、そうだ!証拠も出せないなら、お前の議論は無駄なんだよぉ!」

吊井座「む、無駄、無駄……っ、今までの議論は、全部無駄だったんだぁ!」

吊井座「無駄、無駄っ、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁぁ!!!」

……無駄なんかじゃない。きっと、きっとどこかに吊井座君を仕留めるコトダマがあるハズなんだ

今までの学級裁判を、無駄になんてさせるもんか。あんなに楽しい時間を、無駄にするなんて許さない

だから……私の手で終わらせよう。敗者に相応しいエンディングを見せてやるんだから……!



       【Re:理論武装】



吊井座「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁぁ!!!」



……落ち着いて議論を振り返ろう。この事件は天地さんが発端で起きている

つまり、どれだけ事件を遡っても、吊井座君が犯人だという証拠は見つからない

どこまで辿っても、天地さんが仕掛けたという事実に直面するから……



吊井座「無駄無駄……無駄無駄無駄無駄ぁ!!!」



もし、彼を追い詰められるとしたら……それは、彼自身の発言。彼自身の行動。そして議論の推移だ

……思い出すんだ。これまでの出来事を、今までの話と行動を!



―――――――――――――

デイビット『フーム、ワタシが一見しただけだガ、天地女史は刺殺された可能性が高いナ』


吊井座『し、知るかよ。さっさとあっち行けよ』


飛田『覚えていないなぁ~オレが覚えているのは……』
古河『キッッッッッモいわ!!!』



吊井座『……痛つっ』


―――――――――――――




瀬川「……見つけたよ」

アニメを巻き戻すみたいに記憶を手繰り、ようやく見つけた解答を突きつける

これが、私の、切り札!





吊井座「無駄……無駄……ゲホッ、ゴホッ!」

吊井座「お……お前の、議論は……!全部、い、言い掛かりだ……!」

吊井座「犯人が俺なんて……証拠は……無え……」

吊井座「デタラメだ……全部、無駄なんだよ……」





吊井座「【お……俺が犯人なんて証拠は……どこにも無えんだよ……】」



【吊井座が犯人だと示す証拠は?】
1:の
2:怪
3:腕
4:我


解:腕の怪我



瀬川「さあ、これでエンディングだよ!」解!

瀬川「吊井座君、さっきから腕を庇っているよね」

吊井座「はぁ……はぁ……?」

そう。思い返せば、吊井座君は捜査の時からずっと腕を気にしていた

ずっと手を痛めていたけれど、それはきっと……!

瀬川「天地さんは返り討ちにあった時、身体中に傷が出来る程抵抗したんだ」

瀬川「そしてそれは……犯人も同じハズ」

私の言葉の真意を悟ったのか、吊井座君はこれ以上無いくらい顔が白くなる

それはまるで、白紙に苦悶の顔を描いたようで……

陰陽寺「人体は想像よりも頑丈だを人体に刃物を深く刺す際、強い反動は必ず生じる」

陰陽寺「余程熟達した達人でも無ければ、自らも刃を突き刺した反動で手は強く傷つく」

デイビット「耳にした事があるナ。刀の鍔もそれを防ぐ為に付けられたのだとネ」

駆村「そうか……!瀬川が言っていた証拠というのはこの事だったのか!」

……ごめん。それは本当に偶々なんだよね

瀬川「とにかく、その腕の傷が天地さんの傷と一致すれば……吊井座君が襲ったって証拠になる」

瀬川「これって、これ以上無い証拠だよね!」

瀬川「……先に言うけど、転んで怪我したっていうのはナシだからね?」



スグル「で、ですがそんな事が出来るのですか?」

モノクマ「お任せください!真・火葬剣の女と恐れられたボクが完璧に照合しましょう!」

臓腑屋「字!字が不吉過ぎるでござるよ!?」

照星「モノクマってメスだったんすね。いやどうでもいいっすけど……」

瀬川「ほら、吊井座君は無実なんでしょ?なら早く腕を見せてよ」

瀬川「ほら、ほら、ほら!早く無実の証拠を出してみてよ……」

瀬川「……出来るものなら、ね!」

吊井座「…………………………あ」

月神「吊井座君!大丈夫よ。落ち着いて……」

月神「私は貴方を信じている……だから、腕を見せて欲しいの」

照星「先輩!自分からもお願いするっす!」

照星「先輩が殺したなんて……自分は、信じたくねーっすよ……!」

吊井座「お、お、俺、俺、俺、………」

照星「先輩……っ!」

吊井座「俺、俺が、俺は、俺で、俺に、俺の……」

吊井座「…………………………」

それだけ。がくりと身体から力が抜けて膝をつく

……勝った。私は、私の力で、学級裁判を勝ち残れたんだ

だけどまだ終わりにはしちゃいけない。アニメにもエンディングが必要でしょ?

瀬川「じゃあ、今回の事件を振り返ってみようか」

瀬川「それでわかるはずだよ……誰がこの事件の犯人なのかね」

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【クライマックス推理  開始】

Act.1
この事件の始まりは、パーティーの計画を聞かされていた時……ううん
多分だけど、天地さんがあのゲームをクリアした時から、計画は考えていたんじゃないかな
犯人には同情するよ。天地さんが考えた計画なんてこの時は全くわからなかったんだからね



Act.2
まず天地さんは食堂と厨房に電力消費の多いホットプレートや電飾を飾り付ける様に指示したんだ
そして、危険物である包丁を安全に回収する名目で包丁を仕舞ったケースの鍵を自分が管理したんだよ
そして、エアコンのタイマーを入力した。こうして布石を打った天地さんはその時をゆっくり待っていたんだよ……



Act.3
パーティーの最後、月神さんの発案した自己紹介と円陣が行われたんだ
そして、円陣が行われる瞬間に設定したエアコンが動いて……停電が起きた
天地さんはそれも織り込み済みだったんだろうね。彼女は自分が襲われた様に演出して、鍵が奪われた様に私達を騙したんだ!
こうしてまんまと鍵を隠した彼女は最後まで食堂に残っていた……凶器である包丁を取り出してね



Act.4
そして夜も更けた事……犯人を倉庫に呼び出した。前もって手紙で教えていたんだろうね
そうして呼び出された犯人は、今からどうなるのか全く予想すらしてなかっただろうけど……
天地さんは犯人に缶コーヒーを渡すと、それを飲む様に進めたんだ。犯人が飲んでいる間に、隠し持っていた包丁で襲いかかった……!



Act.5
……でも、ここからが天地さんの想定外だったんだ
犯人の抵抗が思った以上に激しくて、その場で乱闘になったんだよ
犯人に包丁を奪われた天地さんは、そのまま包丁を突き刺したんだ……!
犯人も酷く混乱しただろうね。だってわざとじゃないにせよ人を殺しちゃったんだからね
取り合えず死体をゴミ袋に隠して掃除した後、直ぐに逃げ出したんだ。……後々追い詰められる証拠である空き缶を残してね


本当に危なかったよ……だって事件をそのまま辿っても犯人には決して辿り着けなかったんだからね
でも、私は犯人を見つける事が出来た。焦ったあまりにいくつも致命的な失言をしたんだから!

皆も、もうわかってくれたよね?
【超高校級のイラストレーター 吊井座 小牧】君こそ、この事件の真犯人なんだってさ!


瀬川「……これでどうかな?反論があるなら言ってみてよ」

吊井座「………………俺、俺が」

……虚ろな目をした吊井座君が俯いている。自分の掌を見つめている

そこに映っているのは何色なのか、それは私にはわからないけれど……



モノクマ「うぷぷっ、どうやら議論の結果が出たみたいですね!」

ハルカ『それでは、皆はお手元のボタンで犯人だと思う人へ投票してね!』

ヨウ『果たして、結果はどうなのか。投票の結果は正解か不正解か!』

照星「先輩……先輩!」

吊井座「……俺、か。は、ははは…………」

吊井座「……くっそおおおおおおおおおお!!!」

最後の最期。彼の絶叫が響き渡り、全員の手が一瞬だけ停止する

でも、またすぐに……全員の手は、投票ボタンへと動いていった

モノクマ「それでは投票の結果が集計し終わりました!果たしてその結果は正しいのかーっ!?」

モノクマ「では参りましょう!投票ターイム!」







【投票結果】
 吊井座 小牧:14票
 無投票:1票
















【 学 級 裁 判   閉 廷 】









本日ここまで
次回オシオキです。何かあればどうぞ


モノクマ「うぷぷぷ……ダダダダ、大、正、解!」

モノクマ「今回、天地りぼんさんを殺害したのは、吊井座小牧クンなのでしたーっ!」

……終わった。長い長い学級裁判がここに終結した

重く、ずっしりと沈んだ空気に不釣り合いな軽やかな笑い声が、脳内を嫌に刺激する

ケタケタと不快な音が裁判場を支配していく。先程までの喧騒が嘘の様に、不気味な位の哄笑が満ちていった

吊井座「…………………………」

その中で、今回の学級裁判の渦中にいた……真犯人の吊井座君は、まるで世界を憎悪したかの様な、血走った目で私達を見据えていた

御影「う、うわぁ……」

月神「本当に吊井座君が……」

古河「何でや……?何で、天地を殺したんや!?」

至極全うな古河さんの詰問。その目に浮かんでいるのは純然たる怒りの感情だ

そして、問いをぶつけられた当の吊井座君は……

吊井座「……何で?な、な、何でだって?」

吊井座「そんなの……!こ、殺さなきゃ、俺がし、死ぬからに決まってんだろうがよ……っ!」

虚ろな。だけども奥に光る憎悪を煌々と湛えながら睨み返してそう吐き捨てる

蒼白を通り越して真っ白な顔の吊井座君。その瞳の煌めきは、より色濃く私達の眼に映る

まるでジャックオーランタン……カボチャの亡霊の様だ。なんてあまりにも場違いな感想が、頭の片隅で主張していた


吊井座「全部そいつが言っただろうがよ……!お、俺は本当は殺される側だったんだ!」

吊井座「死にたくねえ……俺はまだ死にたくねえんだ!だから必死になって抵抗したんだよ!」

飛田「なんと独り善がりな……!貴様の軽率かつ、浅はかな行動で一人の乙女が死んだんだぞッ!」

吊井座「う、うるせえ!あんな頭のおかしいヤツ、死んで当然だろうがよぉ!」

吊井座「あ、アイツは……お、俺が殺さなくても、どのみち裏切るつもりだったんだ!」

吊井座「だから……!だ、だから……!」

月神「……少し、いいかしら」

必死の叫び声を打ち切らせ、月神さんが吊井座君の前に立つ

優しい、透き通る様な美しい声……吊井座君とは真逆の声が、ゆっくりと語りかけていく

月神「私、本当はまだ信じられないの……彼女が、貴方を殺そうとしたという事実が」

月神「勿論、それは事実でしょうけど……何故、あんなに爛漫な彼女がこんな事件を……」

吊井座「し、知らねえ!アイツは意味のわかんねえ事ばっかり言って、話にもならなかったし……」

朝日「うぅん、どういう事ぉ?天地さんはぁ、すっごく錯乱していたって事なのかなぁ……」

モノクマ「あ、見たい?事件の時何があったのか」

見たい?と軽々しく言ってくるモノクマ。その手にはテレビのリモコンの様な物体が握られている

モノクマ「それじゃ、ちょっと時間を巻き戻してみましょう!あ、吊井座君の音声は叫んでるだけだから編集でカットさせていただきました!」

モノクマ「それ以外はノンフィクション!完全完璧に、当時の映像と音声を持ってきています!」

やけに用意がいい……そう突っ込むのは、流石に野暮ってものだよね

そんな心配を余所に、モニターには当時の状況が映し出されていった……





『―――! ――――――!』



『チッ……動かないでよ……殺せないでしょ……!』



天地『何で……?何でって、そんなの、ここから出たいからに決まってるでしょ!?』



天地『まだ捨てられたくない……先生は皆とは、皆とは違うから……』



天地『皆を殺してでも……もう一度、もう一度あの子達の元に戻るんだよぉぉぉっ!!』









スグル「……え?」

竹田「おいおいおい……何じゃこりゃ?」

……今見たのは、本当になんだったんだろう?

いつもニコニコ朗らかに笑っていて、誰よりも皆と仲良くなろうとしていた人が……

包丁を持って、誰かに自分の為に死ねと言うなんて

月神「う……嘘よ!こんなの!」

モノクマ「ところがぎっちょん、これは嘘ではございません!その証拠に……うぷぷ」

吊井座「……っ!!」

モノクマが見やった先には、ガタガタと震えて目を見開く吊井座君がいた

まるで、忘れていた恐い夢を思い出したかの様な、そんな恐怖心に襲われた表情

少なくとも私には……彼が、嘘をついている様には見えなかった

朝日「……私、天地さんとはそれなりに話していたけれどぉ、そんな風には見えなかったよぉ」

陰陽寺「気取られない様に振る舞っていただけだ」

朝日「そうかもしれない、けどぉ」

駆村「何が……何がそこまで天地を……」

駆村「モノクマ!そのクリア特典の映像とやらを、俺にも見せろ!」

ハルカ『えーっ!ダメだよ!せっかくのクリア特典なのに、他の人に見せたら意味無くなっちゃう!』

ヨウ『ゲームをプレイしていない奴に見せる必要は無いな。行動してない時点で敗者なのさ』

モノクマ「ユーアールーザー!でもどうせだから、遠吠えだけでも聞かせてあげるよ!」

『『「アーッハッハッハ!アーッハッハッハッハッハッハ!!」』』

駆村「……ぐっ!」

私が独占したばかりに、理不尽にバカにされている駆村君。

だったら私に見せてよ。と言おうとして、止めた。何となく、見ない方がいい気がするし……



吊井座「……わ、わかっただろ?お、俺だって必死だったんだ……」


吊井座「あ、アイツが襲って来なければ……こんな事にはならなかったんだ!」


吊井座「お、お、俺だって!ここ、殺す気なんてこれっぽっちも、無かったんだよ!」



死に物狂いの絶叫が、私達の耳に突き刺さる

我が意を得たりとばかりに叫ばれる、無実の証明

心に直接投げ掛けるようなその言葉。暗い罪悪感がのし掛かる

……本当に、投票しても良かったのか?その答えはきっと誰にもわからない

けど、私達が学級裁判をやった理由は……きっと



吊井座「そ、そうだ……お、お、俺は!アイツさえ襲って来なければこんな事はしなかったんだ!」


吊井座「あ、アイツが誰かを殺そうなんて、思わなければ、アイツが、死ぬ事も無かったんだ……」


吊井座「ぜ、ぜ……全部!あ、アイツが!アイツが悪いんだよぉ!」





「…………それハ、違うのだヨ」




吊井座「…………は?」

硬直。自分の言葉を、簡潔に否定される

吊井座君は、今、静かに。だけども鋭く反論された

反論した本人は目を伏せ、重々しく首を横に振る。……まるで、深く、深く失望したかの様に

デイビット「確かニ、今の映像では吊井座氏が天地女史に襲われた様子が刻名に記されていル」

デイビット「そこに異議は一切無イ。吊井座氏には同情してもし足りない程ダ」

吊井座「だ、だ、だったら!おお、俺が、俺が何も悪くないって、は、ハッキリと……!」



デイビット「だガ、しかシ」



重苦しく向き直り、諭す様に話を切り出す。その目は何処か哀しそうで……

デイビット「彼女の死の原因は何カ?包丁で腹部を突き刺された事カ?……否、違うのダ」

デイビット「彼女の傷は治療可能の範囲内だっタ。故ニ、死因は失血死だったのだヨ」

デイビット「でハ、何が死因だったのカ?彼女の死の原因とは何だったのカ……」

息を吸い込み、吊井座君を見据える。逃げる事すら許さないその気迫に、身動ぎすら出来なかった



デイビット「……それハ、『吊井座氏が包丁を抜き取ってしまったから』なのだヨ」

吊井座「…………っ!」


デイビット「吊井座氏、君には殺意は無かったかもしれなイ」

デイビット「しかシ、結果、君が死の原因を担った以上ハ……」

デイビット「ワタシハ、君を無実の被害者とは呼べばしないと考えているヨ」

吊井座「な……ん、だよ、それっ……!お、俺は、あの時は何も考えられなくて……!」

陰陽寺「その割には随分と手際がいいじゃないか」

吊井座「な…………!」

陰陽寺「鍵が捨てられていたか持っていたかは知らない。が、凶器を引き抜き死体を隠す。その後凶器を洗い隠滅する」

陰陽寺「ここまでの行動を、お前は冷静さを欠いていた人間が可能だと本当に思っているのか」

吊井座「あ、ぐ…………!」

……バッサリだ。情け容赦の無さに思わず感嘆の声が出ちゃう

一刀両断を体現したみたいな陰陽寺さんの言葉。最早、これ以上の足掻きは出来そうに見えなかった

モノクマ「うぷぷっ、あるあるだよね。あるある過ぎて逆に無い位だよ!」

モノクマ「『計画を立てた奴が悪いんだから、自分がそいつを殺しても問題ない!』ぶひゃひゃっ、まさしく責任逃れのテンプレートだよね!」

吊井座「あ、が、ぐ、ぎぃ……!」

月神「……吊井座君、本当なの?」

恐らく、この中で最後まで彼を信じていたであろう月神さんが言葉をかける

俯き気味だった顔が持ち上がる。その目に燃える憎悪は、更に勢いを増していた


吊井座「……んで、だよ」

竹田「ん?今何つった?」

吊井座「何で……どいつも、こいつも!俺の、俺の邪魔ばっかりするんだよぉ!?」

吊井座「あ、天地なんて……あんな奴……あ、あんな奴!死んで当然だろうがよぉ!」

飛田「貴様ァ!オレが黙って聞いていれば舐め腐った事をよくもぬけぬけと!」

月乃「……幾らなんでも、それは言い過ぎ」

吊井座「何だよ……何だよ何だよ何だよぉ!お、俺ばかり責めやがって!何で天地はいいんだよ!?」

臓腑屋「天地殿は被害者でござろう!?吊井座殿とは訳が違うでござる!」

吊井座「どこが違うんだよ!?こ、殺そうとした天地が良くて、お、俺がダメな理由は何だよぉ!?」

朝日「えっとぉ、どんな理由があってもぉ、人を殺すのはダメだと思うんだぁ」

駆村「この……!いい加減自分の過ちを認めろ!」

……何だろう。この感覚。胸の奥から溢れ出るこの感情には覚えがある

これはあのクソアニメを見ている時の感覚に似ている……ああ、そっか。思い出した





今、私は『見苦しい』と思っているんだ……




スグル「……一つ、いいですか」

吊井座「あぁ!?なな、何だよ!?」

スグル「吊井座さんには天地さんを刺しても、まだやり直せる道があったと思うんです」

スグル「例えば、包丁を抜かずに然るべき手当てをしていれば、きっとまだ天地さんは……!」

吊井座「……生きていた。って言いたいのかよ」

吊井座「あ、あいつを、あいつを助けたら!こ、今度は俺が殺されるだろぉ!?」

吊井座「だ、だ、だから……!だから!」

デイビット「だかラ、事件を隠滅したト?」

古河「ふざけんなや!結局オマエの為やないか!」

吊井座「な、な、なら!ももももし俺が天地に襲われたって言ったらお前らは信じたのかよ!?」

御影「勿論だよ!だって、ボク達は仲間じゃん!」

吊井座「なら!天地を助けた後に天地が俺に襲われたって言っていたらどうなんだよ!?」

吊井座「も、もしそうなってたら……お前らは、俺を信じてくれていたのかよぉ!?」

御影「それは……えっと……うーん……」

古河「そ……そんなんただの被害妄想やろ!アイツがそない言うなんて断言出来ひん!」

吊井座「何でだよ……!?何でそんな事が言えるんだよ……何で俺の事を信じてくれないんだよ……!」

吊井座「い、いつもそうだ。俺の事は信用しない癖に他の誰かは無条件に信頼しやがって……!」

吊井座「俺の事を信じない奴等に、相談なんか出来るかよ……っ!」

照星「…………っ」



吐き出す様に放たれた、私達への不信感

さっきまでの憎悪はどこへやら。今の彼にあるのはただの不満

今にも泣き出しそうな声で叫ぶ。それはさっきの咆哮とは別の意味を含んでいて……



吊井座「お、お、俺には、イラストしか誇れる物が無かったんだ……」

吊井座「絵を描くのが好きで……べ、勉強もして、やっとここまで来れたんだ……!」

吊井座「そ、それ、なのに……それなのに、すす、捨てられたって、どういう事だよ?」

吊井座「せ、世界から捨てられたって、意味わかんねえし……お前らが暢気に出来んのもわかんねえ」

吊井座「お、お、お前達は簡単に仲良くなれていいよな……お、お、俺にはそんな事出来ねえよ……」

吊井座「だ、だけど、ここしか居場所が無えなら、俺はそれでも良かったんだ!」

吊井座「お前達、いい奴だよな……お、俺みたいな奴にも、普通に話しかけてくれてさ……」

吊井座「け、けれど!ここでも見捨てられたら、俺は……俺は、何処に行けばいいんだよ!!」

吊井座「俺の居場所は……!何処にあるんだよおおおおおおおお!!!!」



行き場を亡くした慟哭が木霊する

誰も助けに来ない現状で、彼はいったい何を考えていたんだろう?

……きっと、吊井座君は判っていたんだ。この状況で、頼れるのは自分だけって

きっと、誰も自分を助けてはくれないんだって……


竹田「そうか……坊主、辛かったんだな」

臓腑屋「例え故意で無くとも、誰かを傷つけてたと思われれば……信頼の回復は困難でござろう」

月神「……貴方は、人一倍不安だった。それを、私は理解出来ていなかったなんて!」

後悔は先に立たず。今更どれだけ悔やんでも、過去に起きてしまった結果は嘘では欺けない

そして、この後の未来も……学級裁判の敗者。クロが行きつく先は確か……

モノクマ「ふぁああ。ボクもう飽きてきちゃった。やっぱり要らない部分はカットしないとね」

モノクマ「という訳で、無駄話はもうお仕舞い!早速本命のオシオキ、殺っちゃいましょーう!」

オシオキ。その単語で場が一瞬で凍てつく

そう、オシオキ。アニメが言うには処刑……つまり命を以て、この学級裁判を終わらせる事だ

月神「ま、待って!彼は反省出来る。彼にだって、やり直す権利はあるはずよ!」

モノクマ「ありません!目には目を、歯には歯を、そして人殺しにはしっかりと自分の命で償って貰わないとね!」

月乃「……それは誤用。本来の意味は、刑罰は同程度のものでないといけないという意味」

モノクマ「そうだっけ?まあいいじゃん。命を奪う事と同じ位の罰って、終身刑らへんだっけ?」

モノクマ「そんなに長い間待てないでしょ!こう、ド派手なオシオキこそ顧客の求めているモノなんだからさ!」

駆村「ド派手って……!お前は命を何だと……!」

モノクマ「えーそれでは話もだいたい済んだ事ですし、サクッとオシオキ始めちゃいましょう!」

吊井座「ひぃいいい……っ!」

飛び交う怒号も何のその。モノクマは何て事無さげに、高らかに死刑の宣告を宣言した



吊井座「な、何で、どうして、俺が、こんな……」

月神「……吊井座君。聞いてほしいの」

月神「今更こんな事を言っても何かが変わる訳じゃないのはわかってる……これは、私の身勝手なエゴだってわかってる」

月神「でもね、私は天地さんも、貴方も大切な仲間だと思っていたの。だから、彼女に誰かを傷つける選択をして欲しく無かった……」

月神「貴方に、誰かを傷つけて見捨てるなんて選択をして欲しく無かった……!」

吊井座「………………………………は」

照星「自分、先輩とは仲良いって思ってたんっす。でも、先輩はそう思って無かった……」

照星「……ごめんなさい。自分も、先輩を傷つけていたんすね……!」

竹田「坊主が何も悪くねえとは言わねえ。けどよ、何て言やあいいかね……悪かったな」

デイビット「……残念だヨ。この上無ク、ネ」

古河「オマエは……アホや!ホンマモンのアホや!命あっての物種やろが……!」

吊井座「……何だよ、何だよ、それ」

吊井座「何で、今更……そんな事言うんだよ……」

次々に、口々に送られる手向けの言葉。そこにあるのは後悔と、自分への哀れみ

なんて事はない。きっと、皆が嘘つきだったんだ。誰かを信じるって嘘を、ずっとつき続けてきたんだ

その中で、天地さんが一番正直者で……吊井座君が一番弱かった

これは……ただ、それだけの話なんだ



皆の言葉は、吊井座君にとってはどうなんだろう?



更なる絶望への呼び水になったのか、それとも微かな希望になったのか



皆の言葉は身勝手だ。他人への憐憫をダシに、生存した優越感に酔っているだけだ



……でも、もし仮に、皆の言葉が吊井座君の彷徨う足跡の道標になったのなら



きっと、この言葉は無駄にはならないはずだから



瀬川「バイバイ。君とはもっと遊びたかったよ」



これでいい。私は皆とは違うから、ちゃんと吊井座君の事を思って口に出したから

……こんな事を考えている時点で、私は自分を騙しきれていないんだろうな

だけど、吊井座君の瞳に映るモノ。瞳から零れる一筋の涙の理由は……多分、きっと良いものだと思いたいから

吊井座「俺は、お、お、俺は…………?」

吊井座「……………ゆ、赦された。のか………………?」

モノクマ「それでは、今回は超高校級のイラストレーターである吊井座小牧クンの為にスペシャルなオシオキを用意しました!」

モノクマ「それでは張り切っていきましょう!オシオキターーーイム!!!!!」












GAME  CLEAR!

ツルイザ  クンが  クロに決まりました


オシオキを  開始  します









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……砂嵐が、ザーザーと画面に吹き荒れる
砂嵐と言っても、テレビに写る方じゃない。文字の通りに激しく砂埃が舞い、風に吹かれて踊っている

徐々に砂嵐が薄れていく。その奥に見えるのは、机を前に、椅子に座らせされた吊井座君だ
ピンとお手本の様に真っ直ぐ座り……と言うより、固定されていて、よく見たら腕には糸の様なモノがくっ付けられている

完全に砂嵐が薄れ、漸く状況がハッキリとわかった
吊井座君が連れられた場所には見覚えがある。確かあれは昔の闘技場……コロッセオだ

ゴロゴロ、ゴロゴロ……。異音が周囲に鳴り響き、顔には薄く影がかかる
後ろに設置されたのは、妖しく黒光りし、中心部にはデジタル式のタイマーがついた……結構ステレオタイプな時限爆弾だ

【0:60】

高台に立ち、モノクマがウォッチを起動させる。吊井座君の腕が動き出すのと、タイマーが動き出すのは完全に同時だった……

『燃えよペン! 真剣お絵描き一本勝負』
『超高校級のイラストレーター  吊井座小牧処刑執行』

【0:50】
吊井座君の動きは、正しく神がかっていた
人間離れした速さで、紙に線を引いていく……機械が後ろで、ガチャガチャと腕を動かしていたから
それでも彼の目には諦めはない。目の前の紙に真剣に向き合っている

【0:30】
真っ赤に染まった顔と腕。よく見たら摩擦の熱か、機械と紙からは煙が上がっていた
ガリガリとペンを動かすその手は、既に限界を迎え始めていた。指はあらぬ方向に曲がり、爪はとっくに割れて出血している
それでも止められない……止まらない。それは最期になろうとも作品を描きあげる執念からなのか……

……ところで吊井座君は何を描いているんだろう?

【0:10】
指はへし折れ、爪は剥がれ落ち、腕はとっくに言う事を聞かなくなっている
手をガンガンと机に叩き付ける。最早、絵を描くと言うより何かと戦っている様にしか見えない風景だ
それでも、最期の一息。一際大きく腕を振り上げると……
……ブチッ!と音がして、固定していた機械が吹き飛ばされる
その勢いで、持っていたペンが遠くへと飛んでいく

慌てて拾い上げ、顔を見上げると

【0:00】の文字が、激しく光り……

轟音。視界が真っ白に彩られていった






パチパチ。パチパチと音がする

まるで拍手をする様な。裁判を終えた私達を労うかの様な……そんな軽快な音だ

目の前に映っているのは、灼熱で真白に変色した大地。そして、黒く染まった……ヒトガタの染み

ずっと見ていたからわかる。編集やトリックなんてあり得ない。あの染みは、紛れもなく……

モノクマ「エックストリーーーム!!」

御影「う……うぎゃああああああああっ!?!?」

月神「吊井座…………君…………!」

竹田「野郎……マジで殺しやがったぞ……!」

飛田「ひ、人が粉微塵に溶けて大地に……あぶあぶあヴッ!?」

臓腑屋「飛田殿!?失神したのでござるか!?」

古河「か、解説すんなや……!アカンやろ、こんなん……!」

モノクマ「アハハハハ!この程度で気絶なんて最近の子は軟弱だね!」

駆村「この……人でなしめ……」

モノクマ「クマだからね!」

朝日「こんなの……こんなの、嘘だよぅ……」

月乃「……何が目的?こんな大がかりな事をして、私達に何をさせたいの」

……皆が疑問に思っていた。最初から疑問に思っていた

それを月乃さんが問いかける。モノクマはうぷぷっと笑った上で、確かにこう答えたんだ




モノクマ「……絶望。『今は』それだけだよ」



瀬川「……今は?」

今。その言葉に、どこか言い様のない引っ掛かりを覚えた

まるで、それそのものが目的じゃなくて、その先にある何かを期待している様な……?

御影「今……?今はって……どういう事だよ!?」

ハルカ『はーい!では今日はここまでー!』

ヨウ『次回を楽しみに待っていてくれ』

モノクマ「それではオマエラ、また明日~!」

……どこまでも人を馬鹿にして、どこまでも私達を弄ぶ

不愉快な三人……いや、二体と一匹は、画面を暗転する事で私達の目の前から逃げ出した

残されたのは、裁判を終えた私達だけ……誰からともなく、口からは嗚咽を垂れ流した

御影「何で……だよ……!何で、ボク達がこんな目に会わないといけないんだよ!?」

御影「昨日まで、あんなに楽しかったのにさぁ!何でこうなっちゃったんだよ!?」

陰陽寺「黙れ。騒々しい文句しか言えないのなら口を閉じろ」

デイビット「御影氏、一度落ち着くのだヨ。今回の事は冷静に受け止めねばなるまイ」

御影「……っ!どうして、二人ともそんな風に平気な顔でいられるんだよ!」

御影「二人にとっては天地さんも吊井座クンもどうでもいいだろうけどさ!ボク達にとっては大事な仲間だったんだぞ!?」

陰陽寺「その仲間同士で殺し合いしていたら、世話無いがな」

御影「何だと!?このクズ!人間のゴミ!」



月神「もう……止めて……っ」


月神「もう、学級裁判は終わったの。これ以上誰も傷つく必要は無いの」

月神「だから……もう喧嘩は止めて。そして、私と約束して」

月神「もうここには来ないって……誰かを傷つけ、学級裁判をさせないって……」

月神「私も……精一杯、頑張るから」

か細い懇願。月神さんは気丈に、だけども涙を堪えながら誓う

その誓いは……きっとそう遠くない未来に破られると思う。けど

月乃「……わかった。私もやれる限りの事はする」

竹田「んじゃ、今日はさっさと休むか。飛田の坊主も連れてかねえとな」

臓腑屋「にゃあ。お供するでござる……拙者も、もうこんな事はしたくない故に」

月神「陰陽寺さんも……そうやって誰かを傷つけないで。貴女はきっと、心優しい女の子なんだから」

陰陽寺「……余計なお世話だ」

月神「御影君も……あまり感情的にならないで。貴方が二人と仲が良かった事は知っていたけど……」

御影「あ、あぁ……うん。わかったよ」

陰陽寺さんと御影君が言い合って、月神さんが制止する……なんだか、デジャヴを感じる喧嘩だった

そうだ。確か初めて出会った時も、こんなやり取りをしていた気がする……もう、ここに居ない二人は戻ってこないけど

月神「それじゃあ……戻りましょう。明日、また、皆でこれからの事を考えましょう……」

もう、あの日へは戻れない。だから、前へ進むしか出来ないんだ。一人、また一人とエレベーターに乗り込んでいく

最後に残ったのは私だけ。何処か後ろ髪を引かれる思いを断ち切って、エレベーターに上がり込んだ


瀬川「…………ふぁああ。もう真っ暗だ」

欠伸を噛み殺しながら、エレベーターから出る

外の世界を見上げると、空には夜の帳が落ちていた

まばらに光る小さな星。キラキラと揺れる星の光がいいアクセントになっている

……もう、他の皆は寄宿棟に戻ったみたい。今夜はきっとよく眠れるだろう

でも、私はまだそんな気分になれない。肢体にまとわりつく火照りを冷ます為、少し花畑を歩いていく

瀬川「ふんふん……ふふふーん……」

鼻唄を口ずさみながら花の動きに沿うように歩いていく。風が花を揺らすと、私の髪も揺らめいた

ふと、視界の隅に光が瞬く。空を見上げると、そこには……




瀬川「わっ……!流れ星だ!」

幾筋もの星屑が、空に線を描いては消えていく

さっきのオシオキとは全く違う、美しくて幻想的な星の軌跡

そんな美麗な景色を独り占めしてる優越感。そんな流麗な景色に、私は……







瀬川「…………っ!?」ゾクゾクッ

異様なまでの、不安感に襲われた



瀬川「…………え?」


……何で?何でこんな感情を抱いたんだろう


今の景色に嫌悪感を抱く要素なんて何処にもない。なら、他に何か理由があるのかな


他に何処かで似た様な出来事を見た事がある……ううん。そんな訳無い。流れ星だって今初めてだし


なら、別の何か……?でも、何を連想したんだろう


円形の壁に囲まれた学園に、落ちてくる星屑……


記憶を辿る。どんどん、どんどん。学級裁判の始まりすら越えた記憶に、答えはあった


……ああ、わかった。この嫌悪感の正体が。私は、きっと知っていたんだ






瀬川「あんな奴……本当に死ねばいいのにっ!!」



そのグチャグチャをいっきに飲み込む。残った缶を備え付けの『ゴミ箱』に放り投げた



クルクルと綺麗な放物線を描いた『ゴミ』は、すとんと『円形の箱』の中に落ちていく



ゴミ箱の中を確認する。缶は、ティッシュやお菓子の包装のゴミ等に埋もれていた














瀬川「……帰ろう」



頭に浮かんだ空想を切り捨て、私は寄宿棟へと足を進める



今日という日を捨てて、明日を手に取る。その明日も、明後日にはゴミになるだろうけど



そうして、今まで私達は生きてきた。きっと、あの壁はそのツケを払わせる為の檻なんだろう




そうして命を消費する。それが私達の生き方だから

そうして私は生きていく。この狂った物語の中心で



イロトリドリの、海の中で

………真っ赤に染まった、明日(ミライ)を抱いて











【Chapter1】
  イロドリミライ  【END】

  生徒総数:14












GET:スケッチブック
 一章を閲覧した証。吊井座小牧の遺品
 絵を描く時に使用する場合が多い。中身は新品の様に真っ白なので、自分の好きに絵を描こう


本日ここまで。これで一章完結です。ありがとうございました
二章は近日中に始めたいと思います。何か質問や感想、して欲しい事などあれば可能な限り答えさせていただきます


建てました。よろしくお願いします
【二次創作】ダンガンロンパ Re:MIX【オリロンパ】ch.2
【二次創作】ダンガンロンパ Re:MIX【オリロンパ】ch.2 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1551617155/)

建て直し版です。お間違えの無いようお願いします
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