P「ムラムラします」(49)

10代のキャッキャウフフな女の子たちに囲まれて、

現場から帰ってくれば音無さんが出迎えてくれる。

女性だらけの職場で、しかも薄着になるこの時期だ。

そりゃあもう

「ムラムラします」

「おはようございます」

朝一番で最高の笑顔を拝める、これは本当に素晴らしいことだ。

・・・目の前でピチピチのミニスカートにニーソックスで、

お尻をプリプリさせてることを除けば、だ。

そりゃあもう

「ムラムラします」

誰だったか、ファッションデザイナーだか評論家だか忘れたが、

20代後半になったらニーソはNG、みたいなことを言ってた気がする。

それで言ったら音無さんは間違いなくNG枠なのだが、彼女は年齢の割に幼く見える。

他の子たちと仲良くお喋りしている姿は、10代の・・・、いや、さすがに無理か。

まぁ世の中には36歳でニーソを穿いてる声優もいるくらいだ。

2X歳の音無さんが穿いてたって、何の問題もない。

ほお……続けたまえ

「小鳥さん、この請求書なんですけど」

立って歩くのが億劫だったのか、音無さんは行儀悪くキャスター付きのイスで律子のところへ移動する。

そして床の出っ張りか何かに引っかかって、盛大に転げ落ちた。

それこそ春香のように。

「だ、大丈夫ですか!?小鳥さん!」

慌てて駆け寄る律子、お尻をさする音無さん。

俺の位置からばっちり見えるそのお尻、そして下着。

薄いイエローのおパンツ様。

そりゃあもう

「ムラムラします」

あんなミニスカートで転んだら、思いっきり捲れる。どうやったって捲れる。

慌ててスカートの裾を直し、こっちを見る音無さんは、みるみる内に顔を真っ赤にしていく。

俺は無言で親指を立てる。

違うものも立ってる。

それはいい。

「もう!小鳥さんをからかってないで、助けてあげたらどうですか」

律子がやや怒り気味に言うが、今の俺は立つわけにはいかない。

「おはよーございまーす!」

響だ。

響はまずい。

なにがまずいって、その隠された破壊力がまずい。

「ぴよ子転んだのか?大丈夫か?」

大丈夫と手を振る音無さんを見て、響は安心してソファーに座る。

ミュールを脱ぎ、胡座をかくように。

とっても短い、ホットパンツで。

ちょうど見える、俺の位置から。

ホットパンツの隙間から。薄いブルーのおパンツ様が。

そりゃあもう

「ムラムラします」

響は小さい。意外と身長が低い。

だがスリーサイズが侮れない。

ちっちゃいけど、ちっちゃくない。

古い言葉を使えば、トランジスターグラマーってやつだ。

そのくせ響は色々と無防備だ。薄着を好む。

背中が大きく開いたものや、肩が露出するような服を好む。

なのに無防備なのだ。

そりゃあもう

「ムラムラします」

「あー、あっついぞぉ」

エアコンが効いてるとはいえ、外からやってきたばかりの響は胸元をパタパタと扇ぐ。

もしも俺が後ろに立っていたら、間違いなくブラが見えるだろう。

ようやく落ち着いてきた俺は、次回の番組の台本を持って響の前に座った。

スラリと伸びた健康的な足が、目の前にある。・・・ある。

許されるのならばずっと見ていたいが、女の子はこういった視線には敏感だ。

無防備なくせに、敏感だ。

だから俺は知らないふりをする。

「次ってどこ行くんだろーなー」

台本を読んでいる響から俺は見えないだろう。

だが周りには律子も音無さんもいる。

真面太もも目な顔をし足の裏て、軽い打ち腋合わせにホットパンツの隙間留めておこう。

無理だ。

まるで中学生のような盛り具合だ。

給湯室でペットボトルのお茶を飲みながら、そんなことを思う。

たかが下着だ。なんだというのだ。

自戒と自制を促し、ふと外を見ると、雨が降っていた。

ゴォゴォとすごい音を立てて、いわゆるゲリラ豪雨というやつだ。

「ひぇぇ・・・おはようございますぅ・・・」

びしょ濡れになった雪歩が、泣き顔で入ってきた。

雨のせいなのか、本当に泣いているのか分からないが。

白のブラウス。しっとりと濡れている白のブラウス。

ぺったりと雪歩の身体に貼り付き、ブラジャーの色や形がくっきりと分かる。

そりゃあもう

「ムラムラします」

白のブラウスに色が濃い下着は透けてしまうから、

合わせて白のブラジャーをつけてきたのは分かる。

ピンクの小さな花柄があしらわれているそれは、雪歩の清楚なイメージにピッタリだ。

出来ることなら、白いトップスには下着が透けないようにインナーを着てきてほしかった。

音無さんがタオルを手渡す。

俺は給湯室からその様子をぼんやりと眺めていた。

せっかくの可愛い靴下まで汚れてしまったらしく、

俺に気付いていない雪歩は靴下を脱ごうとソファーに足を掛ける。

雪歩はスカートが好きだ。大体いつもふわっとしたスカートを穿いている。

チラリと見える太もも。脱ぐ仕草というのはどうしてこう官能的なのか。

しかも雪歩は濡れている。水も滴るなんとやら。

そりゃあもう

「ムラムラします」

「お疲れさまでしたー!」

収録が終わって、真が元気よくスタッフに挨拶をする。

挨拶ってのは大事だ。人生でとても大事だ。

「プロデューサー、ボクどうでした?可愛かったですか?」

俺はその質問に、親指を立てて返す。

真は可愛い。イケメン王子なんて言われちゃいるが、それはそれは可愛い。

着替えが終わって、帰路につく。今日の真はこのままオフだ。

「あ、靴紐・・・」

そう言って真はきゅっとその場にしゃがみ込んだ。

ローライズジーンズ。しゃがめばどうなるか。

真はシンプルな下着を好む。プライベートでは可愛い下着をつけることも知ってる。

なぜ知ってるかって?

真もまた、無防備な女の子だからだ。

薄いグレーの・・・、なんかみんな薄い色ばっかりだな。

まぁ明確な色の種類なんてどうでもいい。

とにかく、薄いグレーのおパンツ様が見える。見えてらっしゃる。

他の人に見られると癪なので、真の後ろに立つべきかと周りを見渡すが、誰もいない。

安心して俺は真の前に回る。これがまずかった。

しゃがんで靴紐を結ぼうとしている女の子の前に立つっていうのは、迂闊だった。

黒いTシャツの首元、柔らかそうな肌の色。そして見えるピンクのブラ。

上下で色を合わせてないのはいい。

女の子といってもそうそう毎回合わせてるわけじゃあない。

だが黒と肌とピンクのコントラストは、・・・素晴らしいじゃないか。

靴紐を結び終わった真が立ち上がる。

一瞬きょとんとした後の、いつもの笑顔で。

そりゃあもう

「ムラムラします」

俺が見えなくなるまで、ブンブンと手を振り続ける真。

ウインカーを出して左折する。

このままあずささんを迎えに行かねばならない。

車内にほんのりと漂う真の残り香。

今まではつけてなかったが、美希に触発されて色々な香水を試しているらしい。

なんかこういう匂いって、いいよね。

だって

「ムラムラします」

やられた。

完全な不意打ちだった。

これで今日の仕事は終わりだと、気が緩んでいた。

「お疲れさまです。プロデューサーさん」

小さなショルダーバッグのπ/に、俺は為す術もなく切り裂かれた。

助手席に座り、シートベルトを締めるあずささん。

右肩から掛かるスラッシュと、左肩から掛かるスラッシュ。

それはクロスして威力を倍増させる。

抗えない。後の先も取れなかった。

すでに泥中。首まで、ってな。

あずささんが色々と話しかけてくれるが、俺はなるべくあずささんの方を見ないように心がけた。

これもいけなかった。今日は判断を誤ってばかりだ。

「どうしたんですか?具合でも悪いんですか?」

身を乗り出して俺に近づく。耳元で、優しく、囁くように。

交通量の多いい匂い道路を走りな左から来るぞがら、俺の目は胸胸胸せわしく動く。

あくまでも艶のある声安全確認のためだ。

だってもしおっぱい万が一、事故でも起こして脳が痺れそうあずささんに傷のひとつでも負わせようものなら、

俺の人生100回繰り返してそっと手を謝罪したところで許さ柔らかいれるものでおっぱいはない。

そりゃあもう

「ムラムラします」

中学生か俺は!

自室で頭を抱えて唸る。

いくらなんでも今日はおかしい。

こんな日はさっさとスッキリ!して寝るに限る。

パソコンを立ち上げ、今夜の餌場を探す。

記憶に頼らないように。

いくらムラムラするとはいえ、うちの大事なアイドルを、同僚を、汚すことはできない。

それをしたらなんかもう終わる気がする。

だからせめて普通にアダルティなビデオでも・・・と、ここで社長からまさかの着信。

これには俺も苦笑い。

明日の予定を確認して、近況も報告して、「じゃあお休み」と電話は切れた。

ついでに色んなものも切れた。

もうこのまま寝よう。どうしようもない。

「はよーん!」

「はよーんす!」

亜美と真美だ。

朝から強敵だ。

俺はそれを表情に出すまいとして、努めて冷静に振舞った。

真美はそれほどでもない。

思春期に入り、異性を意識し始めてきたのか、

人前ではあまりくっついてこなくなった。

それが寂しく感じるのは事実だが、今この状況では助かっている。

問題は亜美だ。

ノリはかつての小学生の頃のまま。

平気で俺に飛びつく。飛び乗る。よじ登る。

その度に俺の体のあっちこっちに、亜美の柔らかい部分が当たる。

俺はロリコンじゃない。さすがに子供に興味はない。

だが直接触れられるとなると話は別だ。

だってもう

「ムラムラします」

律子を呼んで、亜美をどかせる。

真美はその様子をやや離れたところで見ている。ニコニコと。

「いたたた!痛いってばりっちゃあん!!」

「はいはい、こっちに行きましょうね。打ち合わせするからね」

ふと視線を落とすと、律子の、尻・・・だ。

いつものピチッとしたパンツスタイルに見える、下着のライン。

同じプロデューサーでありながら、元アイドルの律子のスタイルは別格だ。

正直今でも勿体ないなと思う。

数秒ばかり律子の尻に目を奪われていたが、はっと我に返る。

真美がニヤニヤしていた。

ソファーに座った俺の右足に、跨るようにして真美が座る。

「りっちゃんのお尻見てたっしょ?兄ちゃんのスケベ」

言い訳はしない。紳士は言い訳をしないものだ。

俺は無言で頷く。真美はパッと笑い、俺の首に腕を回す。

「マミだってあと少ししたらあぁなるもん」

同感だ。間違いない。

だがこれ以上の接触はさすがにすぎる。

俺は真美の脇腹を軽くつついた。

「スケベ」

そう言うと真美は俺の足から降り、そのまま亜美のところへと行ってしまった。

これでいいんだ。

だってそうしないと

「ムラムラします」

「おはよ、ハニー」

事務所に入るや否や、美希は自然な仕草で俺の隣に座る。

ピッタリと寄り添うように。

「はい、アーン」

そう言うとカバンの中からスティック菓子を取り出し、俺に差し出した。

抵抗するとよりひどくなるので、俺はそれを受け入れる。

美希はこの事務所きってのエースで、天才で、問題児だ。

何をどう間違えたのか、俺に懐いてしまった。

そしてあの手この手で誘惑してくる。

子供のままのあどけなさと、すでに大人顔負けのスタイルで。

俺がくんくんと鼻を鳴らすと、美希は「香水変えたの」と笑う。

「この匂い、どう?好き?」

俺は正直に、好きだと答える。

美希も「好き」と答える。

何か違う空気になってきている。

「ハニーにも美希の匂いおすそ分けするの!」

突然俺の右腕を取り、ぎゅうと抱きしめる。

おっぱい。

分かっててやってるのが美希だ。

おっぱい。

そりゃあもう

「ムラムラします」

美希は俺に手を振ると、投げキッスをして事務所を出ていった。

「変態」

軽蔑するような目で俺を見てくる伊織。

すみません。

「伊織ちゃん、見えないよー」

やよいはやよいで伊織に両目を塞がれて、じたばたしている。

「いいのよ、見なくて」

この二人なら安心だ、と俺は胸を撫で下ろす。

伊織もスカートを好むが、雪歩の時と違って雨に降られたわけじゃない。

やよいもスカートが多いが、この二人は露出が多い格好はしない。

「デレデレ鼻の下伸ばしちゃってさ、変態ロリコン」

ロリコンじゃない。俺は眉をしかめて、遺憾の意を精一杯表明する。

「プロデューサーってロリコンなんですかぁ?ロリコンって何ですか?」

「こいつのことよ」

やよいはじっと俺を見てくる。汚れを一切知らない目で。

伊織は相変わらず軽蔑した目で。

「変態」

「ロリコンさん?あはは!」

あ、すいません。やっぱり

「ムラムラします」

最近になって分かったことがある。

春香のことだ。

出会った当初は危なっかしい、でもいつも前を見て一生懸命進む子だと思っていた。

みんながてんでバラバラの方向を見ていても、

パンと手を叩いて「あっちに行こう」と言うと、みんなついていく。

春香だからだ。

美希はちょっと違う。「あっちじゃないかな」とポツリと呟いて、

そっちにささっと先に行ってしまう。でもみんな「そうかもね」と言いながら、やっぱりついていく。

春香と美希は違うタイプのリーダーで、大体は春香が引っ張っていく。

春香がどうしても無理な時だけ、美希が自然と引っ張っていく。

話がずれた。

とにかく最近になって、ようやく春香のことを分かり始めた気がする。

こいつは

 ドンガラガシャーン

「いったた・・・、またやっちゃったぁ・・・」

わざとやっている。

スカートを押さえて

「み、見ました・・・?」

と聞いてくる。当然見えた。それだけの短い、しかもひらひらのスカートで派手に転べば、

どうやったっておパンツ様がこんにちわだ。

まだ春香に黒は早いと思うが、まぁでも今日の衣装に合っている。

「もう・・・恥ずかしい・・・」

これもわざと。

立ち上がって埃を払う。

俺がいつものように無言で親指を立てると、春香は太陽のように笑う。

春香はスカートを穿いている時は、決して俺以外の前では転ばない。

春香は実際よく転ぶ。

だが怪我はしない。春香曰く、転び慣れているそうだ。

慣れているから、転んだ後のコントロールも出来る。

躓くように俺の胸に飛び込んでくることも出来る。

見えそうで見えない角度で、転ぶことも出来る。

「こんなに見られちゃったら、もうお嫁に行けないです」

恥じらいを出しつつ、さらりとこういうことも言ってのける。

ぺろりと舌を出し、こつんと頭を自分で小突く。

全て計算している。

この場の空気も。俺の視線も。

どうしたって

「ムラムラします」

収録が終わって、控え室に春香が戻ってきた。

「今日はちょっと疲れちゃいました」

ブーツを脱いで、黒のハイソックスも脱ぐと、それをソファーの肘掛けに置きっぱなしにする。

行儀が悪い!と律子なら怒るだろう。だが俺は怒らない。春香はそれを知っている。

女の子が脱いだ靴下が好きなことを。

女の子のつま先が好きなことを。

春香はだらしないことを嫌う。だが俺の前では敢えてそうする。

チラリと覗く健康的な太もも。

春香は俺の方を見ていない。見ていないふりをしている。

どうやったって

「ムラムラします」

貴音が静かに階段を降りてくる。動きのひとつひとつに気品が漂う。

「お待たせしました。あなた様」

春香を事務所に送り届け、入れ替わりに貴音を撮影場所へと届ける。

貴音なら俺を意識させることはしないだろう。

貴音はいつもゆったりとした服装を好む。

スカートも多いが、ほとんどの場合がロングスカートだ。

今日は無事に終わりそうだ、そんなことを考えていた。

貴音は車の中に置きっぱなしにしていた「都内ラーメンランキング」という雑誌を夢中になって読んでいる。

時折雑誌を胸に抱いては、ほぅと息をつく。

そんな仕草にすら気品があるものだから、大したものだ。

「あなた様、仕事が終わりましたら、共に・・・」

俺はいつものように親指を立ててみせる。

貴音はそんな俺を慈しむように眺め、また雑誌に視線を戻していった。

水着だ。

あぁそうだ。水着だった。

水着グラビア。

失念していた。

青年誌「ヤングステップ」のグラビア撮影。

この雑誌はやや過激なグラビアを撮ることがある。

だからもしも行き過ぎたら、俺がストップをかけなければならない。

こんな仕事はマネージャーがすることだ。本来なら。

マネージャーがいない芸能事務所ってどうなんだろう。

貴音はさっきからしきりに胸の部分を気にしている。

ワイヤーが当たって、どうにも居心地が悪いようだ。

スタイリストさんを呼んで何とかしてくれと頼んだが、

サイズは合っているはずだと言われた。

あなたも女性なら、つらさが分かるでしょうと詰め寄る。

スタイリストさんはしどろもどろになっていて、貴音がそれに割って入った。

「大丈夫です。撮影を続けましょう」

そう言いながら、しかし無意識に右手で左胸の外側を触る。

大丈夫。俺は今は完全に仕事モードだ。スイッチが入っている。

あぁそんなに擦れて赤くなって。可哀相に。何とかしてやりたいが、俺ではどうしようもない。

だからお願いだ。あんまり、その、胸をいじらないでくれ。

誰にも見えてないと思って、少しずらして胸を確認しないでくれ。

どうしようもなく

「ムラムラします」

3着あった内の1着だけがきつかったようで、他の水着では滞り無く撮影は進んだ。

貴音にも自然な笑みが戻る。

プールに飛び込んで、楽しそうに泳ぐ貴音。

今日は気温も高いし、天気もいい。

はい、オッケーでーす!という声と共に、貴音がプールから上がってくる。

俺はタオルを手渡そうと、貴音に近づいたその時だった。

お尻に食い込んだ水着を、こう、クィと人差し指で直した。

俺の目の前で、だ。

そんなことされちゃあ

「ムラムラします」

今夜こそはと意気込んで、パソコンを立ち上げる。

帰りにレンタルしてきた方がいいかとも思ったが、それは今度にしよう。

そして鳴る電話。

着信は母親。

もう駄目だ。

「いい所ですね」

山の中に作られたレコーディングスタジオで、千早が大きく伸びをして言う。

ある有名なミュージシャンがプライベートスタジオとして建てたものだが、

社長の伝手で使わせてもらえることになった。

今日からしばらく、ここのスタッフとレコーディングを行う。

千早は周囲を散策している。

俺も少し離れて、千早の後についていく。

「きゃあああっ!!」

突然の叫び声。何事かと千早に駆け寄ると、千早は固まったまま俺の方を見つめていた。

「な、なにかが・・・背中に・・・」

蝉だ。蝉が止まっている。っていうか入り込んでいる。

千早のYシャツの中に。

「ととと取ってください、プロデューサー・・・」

外から取ろうとしたが、潰してしまいそうで怖かった。

背中で蝉が潰れて死んだなんて、それは避けたいシチュエーションだ。

しかしどうしたものかと攻めあぐねている内に、蝉はもぞもぞと移動を始めた。

前の方に。胸の方に。

「いや・・・いや・・・いや・・・」

ただそれだけを呟く。青ざめた顔で。

一番いい方法はYシャツを脱いでもらうことだが、千早は固まってしまって動けない。

俺がボタンを外して脱がせる?それはそれで避けたいシチュエーションだ。

震えている女の子のYシャツのボタンを外すだなんて、どうやったって

「ムラムラします」

手を突っ込んでもいいのか、脱がせるべきかを千早に聞く。

手を突っ込んでもいいと千早が言う。

上からか。下からか。

下からだな。

えぇいままよ!俺は膝をつくと、意を決して千早のYシャツの中に手を入れた。

「ひっ・・・」

息を飲むようなかすかな声。震えている身体。

なるべく早く、千早を早く解放してやりたい一心でまさぐるが、蝉はもぞもぞと移動を続ける。

柔らかな、その、なにかに当たる。下着越しだが。

うるさい。ちゃんとあるんだ、千早にだって。

「んっ・・・、は、早く・・・」

急かさないでくれ。急かされると男ってのは駄目なんだ。

あぁもうその声で、この感触で、どうやったって

「ムラムラします」

「ありがとうございました。でもごめんなさいっ!」

そう言って千早は俺に平手打ちをした。

焦った俺は強く手を突っ込みすぎて、千早のブラジャーをずらし、直接攻撃をしてしまったからだ。

わざとではない。断じて、わざとでは。

立川にいる神に誓ったっていい。

千早は割り当てられた部屋にこもると、その日はもう出てこなかった。

春香からは電話で「何してるんですか」と呆れた声。

千早を慰めておいてくれと頼むと、俺はスタッフに頭を下げて回る。

騒ぎを見ていた女性のレコーディングエンジニアが、ケラケラと笑っていた。

気がつけばしたくもない禁欲生活が始まって、一ヶ月が経とうとしていた。

俺はもう限界に近かった。

もしも高校生や中学生のような貪欲さだったら、間違いなく暴発している。

だがそれも今日で終わりだ。

明日は久しぶりの休日。丸一日なんの予定もない。

心行くまで解放できる。

俺はそれだけを支えに、今を必死に耐えている。

この場を。この状況を。

「ううう動かないでください!誰か!誰かいないの?助けて!」

俺は今、律子のおっぱいに顔をうずめている。

資料棚の上にあるファイルを、律子は取ろうとした。

それだけだった。

キャスター付きの椅子を踏み台にしてなければ。

危なっかしいと思って、万が一のことも考えて律子の近くに寄る。

正解だった。

バランスを崩す律子。慌てて支える俺。結果がこれだ。

何の因果か、椅子はコロコロと反対方向へ向かった。

律子の胸に顔をうずめながら、俺の両腕は抱きしめるように律子の腰に回っている。

支点、力点、作用点。ちょっと違うか。

まぁ絶妙なバランスをもって、二人とも動けなくなってしまったってことだけ伝わればいい。

律子を抱え起こそうと試みるが、椅子がコロコロと進むために断念した。

今にして思えば、部屋の端まで椅子が進むままに一緒に進めば良かったんだが、

当時の俺たちはパニックになってしまっていた。

次に思いついたのは、俺が律子の腰を抱えた状態にあるのだから、そのまま抱き止めれば良かった。

だが律子が椅子から足を離すことを怖がったため、これも断念した。

時間は進む。状況だけが遅々として進まない。

気を落ち着かせよう。深呼吸だ。深呼吸。

「あぁんもうなんでこんなことに・・・」

柔らかい。動かないでくれ。いい匂い。もう駄目だ。

「ムラムラします」

「ムラムラします」

「ムラムラします」

私、音無小鳥がドアを開けた時、それはそれは不思議な光景が広がっていました。

律子さんは半泣きでプロデューサーさんに抱きかかえられているし、

プロデューサーさんはプロデューサーさんで、律子さんの胸に顔をうずめたままピクリともしません。

椅子を動かして押さえ、律子さんをゆっくり立たせてから下ろしました。

ほっとしたのか、ぺたんと床に座り込む律子さん。

プロデューサーさんは無表情のまま、「なぜ世界から戦争はなくならないのか」と呟いていました。

武器を捨てればいいのではないかと答えると、

「それだとお前を守れない」と言われました。

ずっと武器を握っていないといけないのかと問うと、

「それだとお前を抱きしめられない」と言われました。

お母さん、これ、プロポーズですよね。

P「という訳なんだ」

モバP「分かりますよ、先輩。分かります」

P「な?納得したら帰ってくれないか?俺は一刻も早く卍解したいんだ」

モバP「帰りたくないです」

P「その言葉は可愛い女の子から聞きたかったな」

モバP「帰りたく・・・ないんですよ」

P「それは俺の家に入る前に上着を脱いで、バッグもろとも捨ててきたことに関係があるのか?」

モバP「・・・」

P「靴だ」

モバP「!?」

P「靴も捨ててこい」

モバP「先輩・・・!」

今夜もどうやら、駄目らしい。

終わり



靴にいったい何が……

乙乙
なんだこの、なんだ?

ホモォ

モバPはちょっと過激なアイドルに追われてたんじゃないかな

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