【忍殺】ザ・グレート・トレイン・ラブリー他【オリキャラ】 (105)

◆シリーズ
ネオフクオカ・キリング・チェインズ(名鑑No.01~16)

(これまでのあらすじ)
 物語の舞台は暗黒大陸キューシュー、ネオフクオカ・コロニー。
ニンジャのために母を失った少女ミラ・ツヅリは、ナラク・ニンジャソウルの憑依を得て孤独な復讐を開始した。
敵は母の仇ナイトニンジャが名を連ねるニンジャ組織カタナハント・ユニオン、そしてそれに競合するカブナカマ・カルテル。
果たして彼女の次なる標的は……



 ザ・グレート・トレイン・ラブリー


 プアーン!高らかな汽笛とともに鉄道列車「キクチ400」号が行く。
ヘッドライトが闇を裂き、線路の横で骨をかじっていたバイオハイエナが逃げ出した。
キューシュー北部、ネオフクオカ西方の荒涼たるツクシ平野。
ノースキューシュー・コロニーと西ツクシ鉱山都市を結ぶ路線である。

 前方のカチグミ客車や中程の戦闘車両は重厚な装甲を纏っているが、後方のマケグミ車両はいかにも古くヤワな作りだ。
最後尾の客車などガタガタと揺れて今に分解しそうだが、中は粗末な格好の人々でスシヅメである。
ネオフクオカやノースキューシューで食い詰めた移民たちだ。
天井の小さなタングステン灯だけが照らす薄暗い車両の中で、彼らは揃ってうつむき加減だった。


「……」


 その中にキャスケット帽を目深に被り、コートを着込んだ少女の姿があった。
吊り革を掴むために少し背伸びしているが、どれほど車両が揺れようとその体は揺るがない。
彼女は移民たちと同じように足元に目を落としていたが……今、不意に顔を上げる。


「……!」パッ


 CABOOOM……
爆発音とともに車両が一際激しく揺れ、天井のタングステン灯が明滅した。


乗客「アイエエエ……何事でしょうか」

乗客「きっと野党の襲撃ですよ……ああ、ナムアミダブツ……!」


 乗客たちは青い顔をしてブッダに祈る。
その中に少女の姿はすでになかった。



 ブオンブオン!バオオオオーッ!


野盗A「ヒャッハーッ!」

野盗B「タリホー!タリホー!」


 エンジン音も高らかに、後方からキクチ400号に追いすがる改造バイクの群れ!
ツクシ平野に跳梁跋扈する野盗団「キラーチョンマゲV3」だ!
ヘッドライトの光の中に浮かび上がるノボリには、「囲んで棒で叩く」「容赦が無い」「ガンモ」等の威圧的文言がショドーされている。コワイ!

 集団の先頭を駆けるのは改造バイクではなくサイバー馬だ。
今、バイクの一台が速度を上げて馬に並走する。


野盗C「ワイルドバンチ=サン!ミサイルがアウト・オブ・アモーです!」


 ワイルドバンチと呼ばれた馬上の人物は、先を行くキクチ400号を睨んだ。
彼のニンジャ視力は後方車両あたりが煙を吹いているのを見通す……然り、彼はニンジャだ。
茶色のニンジャ装束の上からカラクサ模様のフロシキ・マントを羽織り、胸にはクロスカタナ紋のバッジ。
彼はネオフクオカを本拠とする暗黒ニンジャ組織カタナハント・ユニオンの構成員なのである!


ワイルドバンチ「一発か二発当たったみてえだ、景気付けにしちゃ上等だろ。後は近づいてロケットで仕留めるぞ、シマッテコーゼ!」

野盗「「「シマッテコーゼ!」」」


 バオオオオーッ!パラリラパラリラ!
一層速度を上げたワイルドバンチに率いられ、野盗たちは危険なニトロを発動し左側面から列車へ接近する。
しかし列車側も野盗に対し無策ではない。
列車の中程の戦闘車両が上部の砲塔を旋回させ、壁には銃眼が開いて銃口が突き出す!


野盗A「ウォーホー!」ジャキッ


 BOOOO!CABOOOM!野盗のロケットランチャー攻撃が戦いの口火を切った!
BRATATATA!黒煙越しに銃眼から銃撃!


野盗A「グワーッ!」ドカーンッ

野盗B「アバーッ!」ドカーンッ


 被弾した野盗たちはバイクから放り出され、地面に体を打ち付けてソクシ!
CABOOOM!転倒したバイクが爆発!
さらに砲塔の榴弾砲が火を噴く!ドウンッ!CABOOOM!


野盗C「アババーッ!」ドカーンッ

野盗D「アイエエエーッ!」ドカーンッ


 数人が吹き飛ばされて脱落!
しかし残った野盗たちはなおも攻撃を続行!
その先頭に立つのはワイルドバンチである!


ワイルドバンチ「さあさあ皆様お立会い、ワイルドバンチ=サンのヤブサメショーでござい!」ジャキッ


 彼は鞍からニンジャウィンチェスターライフルを抜き、右腕一本で狙いをつけて列車を銃撃!BLAM!


鉄道兵「グワーッ!」ドタッ


 戦闘車両内部で銃眼に向かっていた鉄道兵の一人が撃ち殺された!


ワイルドバンチ「ブルズアイ!お次!」グルン ジャキッ


 ワイルドバンチはライフルをくるりと回してリロードし、再び銃撃!BLAMN!


鉄道兵「アバーッ!」ドタッ


 また一人絶命!
ワイルドバンチは揺れる馬上から走行する列車の銃眼を狙い撃っているのだ!
ニンジャであっても容易ではない所業である!
車両上部の砲塔がそちらへ狙いを定めるが、ワイルドバンチが三度発砲するほうが早い!


ワイルドバンチ「テイクザット!」ジャキッ


 BLAM!
CABOOOM!砲塔が爆発!
砲口越しに砲弾を狙撃したのだ!タツジン!


ワイルドバンチ「ハッハハハ!おいお前ら、俺は乗り込んで中から攻める!ここは任せたぜ!」

野盗「「「ヨロコンデー!」」」


 ワイルドバンチは野盗たちに後を任せ、サイバー馬の腹を蹴ってさらに加速!ギャロップ!
後方ではミサイルを被弾したマケグミ車両が何台か切り離しの憂き目を見ているが、そちらへ向かう者はいない。
今回の襲撃の狙いは初めから前方のカチグミ車両なのだ。
ワイルドバンチはサイバー馬をカチグミ客車後方の荷物車両に並走させ、ライフルを鞍に戻し、躊躇なく跳んだ!


ワイルドバンチ「イヤーッ!」ピョーン ガシッ


 荷物車両の側面扉にしがみつく!
ニンジャ腕力でロックを破壊し、扉を開けて颯爽と荷物車両内部へ侵入!


ワイルドバンチ「おっほっほ、ヨダレが出ちゃうな……でもこれは後回しだ」


 周囲に積み上がるカチグミたちの荷物を見回しつつ、荷物車両の狭い通路を抜ける。
右手にリボルバー拳銃を持ち、車両接合部、カチグミ客車への扉を開く!


ワイルドバンチ「コンニチハーッ!」ガラッ

「イヤーッ!」ブンッ


 ワイルドバンチは車両に足を踏み入れた途端、横合いからアンブッシュを受けた!
奇妙に透き通るダガーでの刺突!


ワイルドバンチ「!イヤーッ!」バサッ


 ワイルドバンチはそちらへ向けてフロシキ・マントを翻した。
ダガーがマントを貫き、その奥の肉体を……手応えなし!


ワイルドバンチ「ハッハハハ!アブナイ!」ゴロゴロッ


 ワイルドバンチは素早く身をかわし、前転で車両前方へと退避していた。
ウツセミ・ジツだ!
襲撃者は舌打ちしてからマントを振り捨て、アイサツする。


アクアエッジ「ドーモ、はじめまして。カブナカマ・カルテルのアクアエッジです」ペコリ


 カブナカマ・カルテルはノースキューシューを本拠地とするニンジャ組織で、カタナハント・ユニオン目下最大の敵対勢力だ。
ノースキューシューと西ツクシを結ぶこの鉄道はカブナカマの資金源の一つであり、それこそワイルドバンチがこの列車を襲撃した理由だ。


ワイルドバンチ「ドーモ、アクアエッジ=サン。カタナハント・ユニオンのワイルドバンチです」ペコリ


 ワイルドバンチは立ち上がってアイサツを返し、車両内部を見回した。
シャンデリア等豪華な丁度が施された空間だが、今はアクアエッジのほかは無人だ。
CABOOOM……後方から野盗と列車の戦闘音が聞こえてくる。


ワイルドバンチ「まさかニンジャ・ガードマンが乗り込んでるとはな。カチグミどもをどこへ隠しやがった?」

アクアエッジ「お前らの手の届かぬ場所だ。それにしても、カタナハントは列車強盗をしなければならないほど食い詰めているらしいな」

ワイルドバンチ「なに、お前らのシノギを邪魔してやれって上に言われたのさ」

アクアエッジ「せせこましい真似を……フン、しかしマケグミどもならいざ知らず、カチグミ乗客が死ねばこの路線にケチがつくのは確かだ。手を出させるわけにはいかんな」


 アクアエッジがダガーを振りかざす……否、それはただのダガーではない。
超常的な力で成形された水の塊、スイトン・ダガーだ。


ワイルドバンチ「なら、どうするってんだ?」ジャキッ


 ワイルドバンチは左手でリボルバー拳銃を抜いた。
右手と併せて二丁拳銃だ。
それを交差し、腰を落とす……これはテッポウ・ニンジャクランに伝わる暗黒武道、ピストルカラテの構えだ。


アクアエッジ「お前を殺す。イヤーッ!」ブンッ


 アクアエッジが踏み込み、スイトン・ダガーで斬りつける!


ワイルドバンチ「御免被る!イヤーッ!」サッ


 ワイルドバンチはバックステップでかわし、右手のリボルバーで銃撃!BLAM!


アクアエッジ「イヤーッ!」パッ


 SPLASH!アクアエッジはダガーを握りつぶして飛散させ、銃弾をブリッジ回避!


ワイルドバンチ「イヤーッ!」ブンッ


 発砲の反動を乗せた回し蹴りで追撃!


アクアエッジ「イヤーッ!」バッ


 アクアエッジはバク転で車両接合部まで後退し回避!


ワイルドバンチ「イヤーッ!」ジャキッ


 ワイルドバンチは回避した先めがけ左手のリボルバーを発砲!BLAMN!


アクアエッジ「イヤーッ!」ブウンッ


 アクアエッジが右手を虚空にかざすと、空気中の水分から瞬時に新たなスイトン・ダガーが生成された!
それを水平に振り抜き銃弾を切断!
おそるべき切れ味だ!


アクアエッジ「イヤーッ!」ビュンッ


 さらにはそれを投げつける!


ワイルドバンチ「イヤーッ!?」サッ


 ワイルドバンチはすんでのところで身をかわし、右手のリボルバーで牽制射撃!BLAM!


アクアエッジ「イヤーッ!」ブンッ


 アクアエッジはすでに次のスイトン・ダガーを生成しており、銃弾をたやすく切り払ったうえ、そのまま突きかかる!


ワイルドバンチ「イヤーッ!」ブウンッ


 しかしそこへワイルドバンチの反動カラテ!
一回転しての右裏拳だ!


アクアエッジ「グワーッ!」ドガッ


 顔面を強打されよろめくアクアエッジ!


ワイルドバンチ「イヤーッ!」ジャキッ


 ワイルドバンチはこの隙を逃さず、至近距離からリボルバーを連射!BLAMBLAMBLAM!


アクアエッジ「グッワ、イヤーッ!」ブンッ


 アクアエッジは二発被弾しつつも体勢を立て直し、再度スイトン・ダガーで斬りつけにかかる!


ワイルドバンチ「イイヤアアアーッ!」ブオンッ


 それを許さぬワイルドバンチ渾身の反動回し蹴り!
拍車付きブーツの足先がアクアエッジの首にめり込み、断ち切る!


アクアエッジ「グワアアアーッ!」ドガッ


 アクアエッジの生首がはね飛ばされ、天井のシャンデリアに衝突!


アクアエッジ「サヨナラ!」ドカーンッ


 シャンデリアごと爆発四散!
アクアエッジの首無し死体は仰向けに倒れ、右手のスイトン・ダガーはただの水に戻って床に飛び散った。
卓上ランプだけが照らす薄暗闇の中、ワイルドバンチはザンシンを解く。


ワイルドバンチ「フウーッ、手間取らせやがって……」

「イヤーッ!」ブウンッ


 やにわ前方車両へ通じる扉が開き、赤黒の影が飛び出す!
そしてワイルドバンチめがけチョップ突きを繰り出した!


ワイルドバンチ「な、グワーッ!?」ドガッ


 ワイルドバンチは振り返るが、右胸を深く抉られる!
背中から心臓を貫かんとしたアンブッシュだ!


ワイルドバンチ「新手エ!イヤーッ!」ジャキッ


 BLAM!ワイルドバンチは左手のリボルバーを発砲し、立て続けに反動カラテを繰り出す!
暗闇に閃くマズルフラッシュ、硝煙を切り裂くスピンキック!


「イヤーッ!」サッバッバッバッ


 襲撃者はブリッジからのバク転で冷静に回避し、アイサツする。
前方車両の明かりが逆光となり、そのシルエットを浮かび上がらせた。


ミラ「ドーモはじめまして、ワイルドバンチ=サン。ミラ・ツヅリです」ペコリ


 赤黒い装束、顔を半ば埋めるマフラーめいた布、チリチリと燃えるポニーテール。
襲撃者の正体はカタナハント・ユニオンとの孤独な戦いを続ける復讐者、ミラ・ツヅリだ!


ワイルドバンチ「ゲホッゲホッ!ドーモはじめまして、ミラ=サン。ワイルドバンチです」ペコリ


 ワイルドバンチは右胸の傷のために咳き込みつつ、アイサツを返す。
二人のニンジャは首無し死体を挟んで相対した。


ワイルドバンチ「アクアエッジ=サンを助けなかったところを見ると、カブナカマ・ニンジャじゃねえな……誰だてめえは?俺ことを知っていやがるのか」

ミラ「あんたのことはクリアゴースト=サンの端末で知ったわ」

ワイルドバンチ「クリアゴースト=サンだと?あいつは『ニンジャ殺し』にやられたって……とすると、てめえは!」

ミラ「そうよ、私があんたたちの言うところの『ニンジャ殺し』。今日はあんたを殺しに来たわ」


 ミラは逆光の中で目をギラつかせ、ジゴクめいて宣告した。
ワイルドバンチはメンポの裏を汗が伝うのを感じた。

今回の投下は以上です
全年齢版に建てたつもりだったのですが、バグか何かでこちらに建ってしまったのでこちらで書かせていただきます


ワイルドバンチ「……フフフ、ハッハハハ!ゲホッゲホッ!」


 しかし不敵に笑い、ピストルカラテを構え直す。


ワイルドバンチ「面白え、やってみろよ……俺はクリアゴースト=サンより強えぜ。こんな傷は、ゲッホ、ハンデにもならねえ」

ミラ「そうさせてもらうわ。イヤーッ!」ビュンッ


 ミラがスリケンを投擲!


ワイルドバンチ「イヤーッ!」ジャキッ


 BLAM!ワイルドバンチは右リボルバーで撃墜!


ミラ「イヤーッ!」ダッ ブンッ


 その火花の向こうからミラが突進、右チョップを仕掛ける!


ワイルドバンチ「イヤーッ!」ブウンッ


 ワイルドバンチは反動を乗せた左回し蹴りを繰り出す!
チョップと蹴りが交錯し、相殺!


ワイルドバンチ「イヤーッ!」ジャキッ


 その横から突き出される左リボルバー!BLAM!


ミラ「!イヤーッ!」サッ


 ミラは側転で椅子の上に飛び乗り回避!


ワイルドバンチ「ゲホーッ!踊れエ!」ジャキッ


 そこをめがけて、ワイルドバンチはありったけの残弾を叩きつける!BLAMBLAMBLAM!


ミラ「イヤーッ!」パッ


 ミラは三回転ひねりを繰り出して回避!
頭のすぐ下で豪華な椅子が被弾し、滅茶苦茶に破壊される!


ワイルドバンチ「サラバ!」ダッ


 ワイルドバンチはリボルバーを収めて床のフロシキ・マントをひっ掴み、手近な鎧戸をトビゲリで突き破る!CRAAASH!


ワイルドバンチ「イヤーッ!フンッ!」ブンッ グッ


 空中で身を捻って車両上部へニンジャロープを投げ、壁に足を突っ張る形でぶら下がり、素早くよじ登る。
天井の上は猛烈な風の吹き付ける暗闇だ。
CABOOOM……BRATATATA……
背後でキラーチョンマゲV3と列車の戦闘音、爆煙が巻き起こる。


ワイルドバンチ「ハアーッ、ハアーッ、ゲホッゲホッ!」サッ カチャカチャ


 ワイルドバンチは血を吐きながらも素早くマントを羽織り、二丁のリボルバーをリロードした。
時間に余裕があれば胸の傷に応急処置を施し、テキメン・アドレナリンでも注射したいところだが……!


ミラ「逃げても無駄よ!イヤーッ!」ブオンッ


 CRAAASH!ミラがライジングドラゴン・アッパーカットで天井を破壊し、彼の目の前に降り立った。
車両上部で二人のニンジャが再び相対する。
彼らのフロシキ・マントとマフラーめいたボロ布がはためく。
CABOOOM……後方で爆発音。


ワイルドバンチ「ハアーッ、ハアーッ……しつこい奴め……カタナハントに何の恨みがある?」

ミラ「カタナハントは母の仇よ。ニンジャは私と家族のすべてを滅茶苦茶にした。だから殺す。ニンジャを全て殺す」

ワイルドバンチ「チッ、キマってやがる……なあ、俺、カタナハント抜けるからよ。ボンズにでもなってツクシの山寺で暮らすからさ、見逃しちゃくれねえか?」

ミラ「この襲撃で死んだ乗客たちも同じくらい生きたいと願っていたでしょうね。あんたに交渉の余地はないわ」


ワイルドバンチ「ああそうかよ!イヤーッ!」ダッ


 ワイルドバンチは巧みな話術で時間を稼いで呼吸を整え、突撃!
BLAM!右リボルバー!


ミラ「イヤーッ!」サッ ブンッ


 ミラはスウェーで銃撃を回避し、右フックで反撃!


ワイルドバンチ「イヤーッ!」ブウンッ


 反動右バックナックル!
フックと激突し、相殺!
左リボルバーがその下から突き出し、ミラの右脇腹を狙う!BLAMN!


ミラ「イヤーッ!」ガキン ブウンッ


 ミラは左腕のブレーサーで防ぎ、そのまま右から左へ水平チョップを繰り出す!


ワイルドバンチ「イヤーッ!」ブオンッ


 反動後ろ回し蹴り!
チョップと激突し、相殺!


ワイルドバンチ「まだまだ!イヤーッ!」ジャキッ


 BLAM!ワイルドバンチは虚空を撃ち、反動で体の回転を再加速して空中でスピンキックを繰り出した!
変則アルマーダ・マテーロである!


ミラ「イヤーッ!」サッ


 ミラはこの曲芸じみたカラテに動じず、冷静に左腕のブレーサーで防御!
バシッ!強烈な打撃を受けて黒鉄のブレーサーにヒビが入るが、蹴り足は止まり、ワイルドバンチは大きな隙を晒した!


ワイルドバンチ「何!?」

ミラ「イヤーッ!」ドンッ


 決断的に踏み込んでの右ポン・パンチ!


ワイルドバンチ「グワーッ!?」ドガッ


 ワイルドバンチは顔面を強打されて転倒!
吹き付ける風に押し流され、荷物車両の上部で突っ伏した形で停止!


ミラ「終わりよ、ワイルドバンチ=サン!イヤーッ!」ダッ


 ミラも風に乗って跳躍し、飛びかかりざまカワラ割りパンチを振り下ろした!
CRAAASH!拳がフロシキ・マントを貫いて屋根に突き刺さる……肉体の手応えなし!
そこにあるのはマントだけだ!ウツセミ・ジツ!


ミラ「ヌウーッ!?」

ワイルドバンチ「ハズレだ!ゲホッゲホーッ!」ゴロゴロッ


 ワイルドバンチはその横を転がり、天井から落下!
ナムサン、自害か?
否!彼は壁を蹴って跳び……列車に並走するサイバー馬の鞍へと、着地した!ゴウランガ!


ワイルドバンチ「ハッハハハ!オタッシャデー!」パカラッパカラッ


 ワイルドバンチは高笑いしつつサイバー馬を反転させ、まっしぐらに逃走した!


「……ヤーッ!……」


 カチグミ車両も、その上のミラも、彼女のシャウトも、すべてが相対速度の中で遠ざかり、夜の闇の中に消えていった。


ワイルドバンチ(かなりアブナイだったぜ……今回のことはユニオンに報告しなきゃな)


 ワイルドバンチは馬をアジトのほうへ向けようとした。
その体がぐらりと傾き、地面に落ちた。


ワイルドバンチ(ア……?何だこれ……)


 ワイルドバンチは冷たい地面でむなしくもがいた。
おびただしい血が流れ、急速に力が抜けていく。


ワイルドバンチ(どういうこったよ……胸の傷は、こんなにひどくないはず……)


 右手を体の下に差し込み、探る。
胸の中心に大穴が空いていた。


ワイルドバンチ(……チクショウ……何しやがった、『ニンジャ殺し』め……)


 横を野盗たちが通り過ぎるが、その音ももはや遠い。
サイバー馬が気遣わしげに鼻先を近づけた。


ワイルドバンチ「ゲホッ……なんだ、てめえ……サイボーグの、くせに。ハッ、ハハハ」


 ワイルドバンチは馬を撫でようとしたが、その手は途中で力を失い、地面に落ちた。


「……ナラ!……」ドカーンッ

ミラ「……」


 ミラは逃げるワイルドバンチの背中めがけツヨイ・スリケンを投擲した姿勢のまま静止していた。
しかしやがて風の向こうから断末魔と爆発四散音を聞き取り、ザンシンを解く。


ミラ(こうしてワイルドバンチ=サンを殺したのはいいけど……今までの野盗との戦闘で、どれだけ無関係の乗客が死んだのかしら)


 ミラはサツバツとした感傷の中で自分の復讐に対する疑念にかられた。


ミラ(私はワイルドバンチ=サンにアンブッシュを仕掛けるために、襲撃直後からカチグミ車両に移って潜伏していた)

ミラ(彼は油断ならないニンジャだった、確実に仕留めるために必要だったのは間違いない。先頭車両に避難していたカチグミ乗客も助かった)


 ミラは暗闇の向こうにイフの未来を見通そうとするかのように目を細める。


ミラ(でも、もしも私が初めから野盗を迎撃していれば、犠牲は出なかったかもしれない。私は自分の目的のためにマケグミ乗客を見殺しにしたのね)

ミラ(その行いはカタナハントのニンジャたちと……ナイトニンジャ=サンと、どれほど違うというのかしら。私は復讐の中で、憎んでいるはずの存在に成り果ててしまっているのでは?)


 BRATATATA……CABOOOM……
銃声と爆発音を聞き取り、ミラはハッとした。
まだ戦闘は続いているのだ。


ミラ(……いや、たとえ間違っているとしても、母さんの命を奪ったニンジャを許すことはできない。今はただ、やれることをやるだけよ)


 ミラは後方の戦闘車両へ向けて駆け出した。
その先では冷たい風が吹き付ける中、戦いの炎と、ひたすらの闇が広がっている。
キクチ400号はまもなく西ツクシに到着しようとしていた。(完)


◆忍◆ ニンジャ名鑑#17 【アクアエッジ】 ◆殺◆
 カブナカマ・カルテルのニンジャ。
空気中から水で出来た武器を作り出すスイトン・ジツの使い手。
ノースキューシュー・西ツクシ間の輸送列車に護衛として乗り込んでいたが、列車強盗をしかけてきたカタナハント・ニンジャに殺された。



 カース・オブ・ファラオ


 ブンブンブン……ツクツクブンブンブーン。
通りに面した飲み屋からサイバーテクノが漏れ出てくる。
ネオン看板の「セットお得な」の文字。
行き交うサラリマン、学生、サイバーゴス、ブディズム・パンクス。
モーターサスキがネオフクオカ市警のエンブレムを頭上に投射しながら通り過ぎた。


『リゾートで、美味しいお餅ですね』


 上空のマグロツェッペリンが側面の巨大モニターから広告音声を吐き出す。
今日のネオフクオカ・ダウンタウンは曇り。
重金属酸性雨がない代わりに、煙じみたスモッグの向こうでどんよりした雲が流れていた。


『お餅であなたを癒したい……』


サイマダ(お餅が伸びてもシメキリは伸びねえよ)


 中年男サイマダは理不尽な怒りとともに落ちていた空き缶を蹴り飛ばした。
彼は売れないIRC小説家だ……否、だった。さっきまでは。
度重なる締め切りの踏み倒しで配給会社から原稿料の値下げを通告され、直談判に行った挙句喧嘩別れしてきたのだ。
三行半を突きつけてきたときの高揚もどこへやら、今となっては自分の将来への不安ばかりがグルグルと頭の中を回る。


サイマダ(酒だ。酒を飲んで忘れちまおう。部屋にケモ・ビールがあったはずだ)


 彼はすべてを後回しにして、居を構えるマンション「サンジンギ」へと向かう。
入り口の脇にボンヤリ突っ立っているコート姿の女を避けて、ガラス扉を開ける。
フロントには二人のマッポがいた。


サイマダ「!?ド、ドーモ」

マッポ「ハイ、ドーモ」


 ギョッとしつつ会釈を交わして横を通り過ぎる。
離れてから振り返ってみると、マッポたちは受付の管理人と話しているようであった。


マッポ「何でもいいんですよ。思い当たること……行方不明になった方々の共通点だとか」

管理人「いやあ、三人ともほとんど顔合わせることもなかったからなあ、わからないなあ」


 サイマダはフロントを通り過ぎ、エレベーターのスイッチを押した。
ギュグン……グイイイイン。
鉄扉の向こうでモーターが低く唸り、シャフトを鉄の箱が下降してくる。


サイマダ(行方不明。三人)


 小説家は先程漏れ聞いた会話を反芻していた。


サイマダ(このマンションから三人も行方不明者が出たってことか?偶然……にしちゃタイミングが近そうだな。ミステリーだ)


 カウントダウンする階数表示パネルを見ていて、ふと思い出す。
小説家仲間が飲み屋で語った噂話。
エレベーターのボタンの893……不吉で不遜な数字を押すと、流浪の末ネオフクオカの地下に埋葬されたファラオの怒りを買って、深淵へと引きずり込まれるのだという。
このメガロポリスにはありふれた、胡散臭いミステリーだ。
チーン。


『一階ドスエ』


 ガーッ。
ベルとマイコ音声が鳴って、鉄扉が開いた。


サイマダ(このホラ話をもとにして名作が書けないものかなあ)


 サイマダは取り留めもないことを考えながらエレベーターに乗る。
扉が閉まる。
目の前には階数ボタン……


サイマダ「……何階ですか?なんてな」


 サイマダは戯れに8、9、3とプッシュした。
すぐに虚しくなって、二度ずつ押してキャンセルを……


『直通ドスエ』

サイマダ「は?」


 ギュグン……グイイイイン。
エレベーターは唸りを上げて下降を始めた。
下降である。
「サンジンギ」には地下フロアはないはず……
サイマダは息を呑んだ。


サイマダ(下がってる……下がってるよな?一体何が起こってるんだ?ファラオの呪い……まさか!そんなことがあるはずは……)


 チーン。


『地下4階ドスエ』


 ガーッ。


 鉄扉はあっけなく開いた。
その先にはドージョーめいた広いタタミ敷き空間が広がっていた。
明かりは壁に並んだ電子ボンボリだけで、やや薄暗い。
突き当たりの壁には大きなトコノマがあり、左右のフスマの前には吊り下げ型の木人やダルマ・サンドバックがぶら下がっていた。


「ン?」


 トコノマを背にしてアグラしていたニンジャが手元から視線を上げ、その拍子にサイマダと目があった。
金色の装束を着て、金色の仮面を被ったニンジャだ。


「おっ」


 さらにこちらに背を向ける形でアグラしていたニンジャも振り返ってこちらを見た。
プリズムめいた虹色の装束が印象的だった。
サイマダは狼狽した。


サイマダ(アイエッ?ニンジャ……いや、扮装した発狂マニアックか?なんでこんなところに……)


 そこでハッとする。


サイマダ(イケナイ!相手が何であろうとこの状況、俺はセキュリティを破った不法侵入者だ!職を失った上に前科まで付いたら生きていけない!)


 サイマダは瞬時にあらゆる対応を想定しシミュレーションした末、ニンジャたちが口を開く前に先手を打ってオジギした。


サイマダ「ドーモ、夜分遅くにスミマセン。サイマダ・サウジです」


 ニンジャたちは顔を見合わせた後、アグラしたままで返礼する。


ツタンカーメン「ドーモ、サイマダ=サン。ツタンカーメンです」

アメンホテプ「ドーモ。アメンホテプです」

サイマダ「重ね重ねスミマセン、夜分遅くに。エレベーターのボタンを押し間違えてしまい、誤って入り込んでしまったのです。どうか通報だけは」

ツタンカーメン「通報」

アメンホテプ「するのか?」

ツタンカーメン「まさか」


 サイマダは少しホッとした……しかしこれ以上発狂マニアックと関わるのは避けたい。


サイマダ「ではスミマセン、失礼しました。以後気をつけます、本当スミマセンでした」


 ペコペコ頭を下げながら、エレベーター内のボタンを押してドアを閉じようとした。


アメンホテプ「まあ待て」


 虹色のニンジャがこちらへ向けて手をかざした。
ガギギギギ。
閉まりかけた鉄扉が軋みながら動きを止め、やがて諦めたように再び開いた。


サイマダ「アイエッ?……あ、あの、まだ何か」

ツタンカーメン「偶然ここに辿り着くなんて大した奴。これも何かの縁だ、チャでも飲んで行け」


 金色のニンジャが平坦な声で言った。
仮面は真顔を模っており、その表情は少しも伺えない。
通報に怯えるサイマダに断る選択肢はなかった。
サイマダはおずおずとエレベーターを出て、虹色のニンジャの近くまで進む……


サイマダ(……?)


 サイマダは虹色のニンジャを二度見した。
虹色のニンジャ……アメンホテプは、アグラ姿勢のままタタミから数センチ浮かんでいるように見えた。


サイマダ(目の錯覚……?いや……まさかとは思うが、こいつら本物の……)

アメンホテプ「よっこら……」スッ


 アメンホテプは浮遊したまま、ツタンカーメンとの間に置いていたサイバー将棋盤を持ち上げた。
ツタンカーメンはトコノマに入って、その横側の壁に手を伸ばす。


ツタンカーメン「歓迎するぞ」


 ガコン。


サイマダ(ニンジャ……)


 ……ガコン。
何らかの機械的な音が二回響いた後、サイマダの姿は忽然と消えていた。


アメンホテプ「フーッ」


 アメンホテプは大儀そうに息を吐きながらサイバー将棋盤を下ろした。
ツタンカーメンがその正面に再びアグラし、何事もなかったかのようにアドバンスド・ショーギを再開する。
薄暗闇のドージョーの中、サイバー将棋盤の3Dグラフィックスが放つ青白い光が二人のニンジャを照らしていた。


アメンホテプ「いい加減どうにかしたほうがいいんじゃねえのか」

ツタンカーメン「ああ。俺の陣で暴れ回ってるお前のチャリオットは三手以内には始末する」

アメンホテプ「ショーギの話じゃねえよ、このドージョーのセキュリティの話だ。迷い込んできたのは今ので三人目だろう」

ツタンカーメン「四人目だ」

アメンホテプ「より悪いわ。早いとこもっとマトモな鍵に付け替えろよ」

ツタンカーメン「なに、留守の時には今のトラップを入れておくから大丈夫だ。むしろちょっと入ってくるくらいの方が蛇どもの餌代が浮いていい。それに……」

アメンホテプ「それに?」

ツタンカーメン「このほうがミステリーっぽいだろ」

アメンホテプ「保安上の問題をミステリーの一言で片付けるのはだな……」

ツタンカーメン「だいたい、見られて困るようなUNIXやマキモノは奥の隠し部屋に置いてるんだから……ン?」


 チーン。


『地下4階ドスエ』


 ガーッ。


ミラ「ドーモ、はじめまして。ミラ・ツヅリです」

ツタンカーメン「!?」
アメンホテプ「!?」


 続けざま到着したエレベーターから逆光を背にして姿を現したのは、赤黒のニンジャ少女ミラ・ツヅリだ!
ツタンカーメンとアメンホテプは反射的に飛び下がってからアイサツを返す。


ツタンカーメン「ド、ドーモ、ミラ=サン。カタハント・ユニオンのツタンカーメンです」

アメンホテプ「同じくアメンホテプです……デアエ、デアエー!」


 アメンホテプが歴史ある召集チャントを叫ぶと、部屋の左右からドタバタと物音が起こる。


クローンヤクザA〜E「ザッケンナコラーッ!」


 スパーンッ!右のフスマが開き、チャカで武装したクローンヤクザ五体が出現!


クローンヤクザ「スッゾコラーッ!」


 スパーンッ!左のフスマが開き、ドス・ダガーで武装したクローンヤクザ五体が出現!
ミラの意識が逸れた隙に、ツタンカーメンはトコノマに飾られていたケペシュ・ソードを抜き放ち、侵入者めがけ突きつけた。


ツタンカーメン「貴様、『ニンジャ殺し』だな!?どこでここを知った!?」

ミラ「このマンションにカタナハントの拠点があることに見当をつけて以来、ずっとハリコミしていた……」


 ガーッ。エレベーターの扉が閉まり、そこから差し込んでいた光が途絶える。
微かなモーターの唸りとともにエレベーターは上昇していく。
再びドージョーに闇が戻ったが、その中にあってミラの二つの瞳はギラギラと輝いている。


ミラ「さっきのエレベーターの動きに不自然なものを感じて、駄目元で風聞の方法を試してみたのだけれど……まさか正解だったとはね。セキュリティ観念ってものはあるのかしら」

アメンホテプ「ほら見ろ!ほら見ろ!」

ツタンカーメン「うるせえ!『ニンジャ殺し』……殺戮嗜好者の狂人め!ここは俺のドージョーだ。トラップまみれのフーリンカザンだぞ!」

アメンホテプ「そうだ、それもこちとら十二人がかりよ。卑怯とは言うまいね?今日のところは諦めて大人しく帰るがいい!」


 二人のカタナハント・ニンジャはやたらと脅しつけたが、ミラはまったく動じる様子がない。
薄暗闇の中、タタミを踏みしめ、決断的にカラテを構える。


ミラ「全て受けて立つわ。全てを正面から粉砕した上で、あんたたちを殺す。ニンジャ殺すべし」

ツタンカーメン・アメンホテプ「「ほざけ!イヤーッ!」」


 ツタンカーメンがミラめがけ古代エジプト風のスリケンを投擲!
アメンホテプも得体の知れない光球を投げつける!


ミラ「イヤーッ!」


 ミラは側転で回避し、飛び道具は空中で衝突……
ヴォン!光球はスリケンをチリ状に分解し、エレベーターの外扉に丸い穴を開けてその向こうに飛んで行った。


ミラ(ヌウーッ!あれは……)

アメンホテプ「俺のコウボウ・ジツで原子の粒にまで分解してくれるわ!イヤーッ!」


 アメンホテプが間合いを詰め、光を纏った右手で殴りつける!


ミラ「イヤーッ!」


 ミラは間一髪でブリッジ回避!
ヴォン!光は彼女の腹の数センチ上の空気を原子分解した。
しかし復讐者は一撃必殺のジツも恐れることなく反撃に出る。
逆立ちの姿勢から風車めいて足を繰り出す回転蹴りだ!


ミラ「イヤーッ!」

アメンホテプ「グワーッ!」


 CRAAASH!
追撃を繰り出そうとしていたところで顔面を蹴りつけられて吹っ飛び、フスマを巻き添えに転倒するサンシャイン!


クローンヤクザA〜E「ザッケンナコラーッ!」

ミラ「イヤーッ!」

クローンヤクザA〜E「アバーッ!」


 攻撃直後の隙を狙おうとしたチャカヤクザたちは各々スリケンに眉間を貫かれてソクシ!ストライク!


ツタンカーメン「野郎!イヤーッ!」


 ツタンカーメンがケペシュ・ソードで斬りつける!


ミラ「イヤーッ、グワーッ!?」


 左のブレーサーで防ぐも、思いがけず鋭い痛み!
見れば左腕に強化バイオコブラが絡みついて牙を立てている。
ケペシュ・ソード攻撃と同時に袖に仕込んでいたコブラを放っていたのだ!


ツタンカーメン「かかったりーッ!イ」

ミラ「イヤーッ!」

ツタンカーメン「グワーッ!?」


 しかしまったく怯まぬミラの前蹴りがツタンカーメンの追撃に先んじて突き倒した!
ケペシュ・ソードがその手を逃れてタタミに突き刺さる!


ミラ「小細工を……!」


 ミラはコブラを引きはがし、握り潰して殺す!


クローンヤクザF〜J「スッゾコラーッ!」

ミラ「イヤーッ!」

クローンヤクザF〜J「アバーッ!」


 その隙を狙おうとしたドスヤクザたちは各々スリケンに眉間を貫かれてソクシ!ストライク!
クローンヤクザ部隊はあっけなく全滅!


アメンホテプ「まだだ!イヤーッ!」


 アメンホテプが両手に光をたたえて突撃!


ミラ「イヤーッ!」

アメンホテプ「グワーッ!」


 しかし後ろ回し蹴りで迎撃され、体をくの字に折って吹っ飛びエレベーター外扉に激突!


ツタンカーメン「飛べ!アメンホテプ=サン!イヤーッ!」


 トコノマに逃げ込んだツタンカーメンが側面の壁に隠されたレバーを引く!
ガコン!タタミ敷きの空間の床が下方に開き、一瞬のうちにして巨大な落とし穴が口を開けた!
その奥底はといえば、大小の強化バイオ毒蛇が足の踏み場もないほどの過密状態で飼育されている養殖層だ!


ミラ「グワーッ!?」

アメンホテプ「イ、イヤーッ!」


 ミラがクローンヤクザたちの死体もろとも落下する一方、アメンホテプは先ほどと同様のザゼン浮遊により空中に退避!
アメンホテプはみるみる小さくなる侵入者の姿を見下ろしながら高笑いする。


アメンホテプ「ハハハハハ、オタッ……グワーッ!?」


 その装束の胸元を下方から飛来したフックロープの鉤がガッチリ捉え、穴の中へと引きずり込んだ!


ツタンカーメン「アメンホテプ=サン!?」


 トコノマのツタンカーメンが見下ろす中、ミラとアメンホテプはいよいよ明かりの届かぬ暗闇の空中で交錯した。
落下までのコンマ数秒の間に、木人拳めいた短打の応酬が展開!


ミラ「イヤーッ!」

アメンホテプ「イヤーッ!」

ミラ「イヤーッ!」

アメンホテプ「イヤーッ!」

ミラ「イヤーッ!」

アメンホテプ「グワーッ!」


 顔面をショートフックに打たれて体勢を崩すアメンホテプ!
しかし目をカッと見開いたかと思うと、右手に超常の光を纏って大振りに一閃させた!


アメンホテプ「死ね!ミラ=サン!死ねーッ!」


 ヴォォォンッ!
闇を切り裂いて、コウボウ・ジツの輝きが空気を原子分解しながらミラに襲いかかる!


ミラ「イヤーッ!」

 だがミラはブリッジの要領で大きく体を逸らし、原子分解の光を潜り抜けてみせた!タツジン!
さらには右腕を大きく振り抜いたことで半ば露わになったアメンホテプの背中に組みつき、羽交い締めにした!


アメンホテプ「何っ!?」

ミラ「あんたの負けよサンシャイン=サン、穴の底までにハイクを詠め!」


 ゴウランガ!これは暗黒カラテ奥義の一つ、アラバマオトシだ!


アメンホテプ「ヌウアアアアアーーーッ!?」


 アメンホテプは全力をもって拘束を脱しようとしたが、叶わぬ!
CRAAASH!


アメンホテプ「サヨナラ!」


 頭から養殖槽の床に激突し、爆発四散!
蛇に群がられすでに白骨と化していたサイマダの死体も、その拍子に爆散した。
ミラはその反動で飛び上がり、垂直の壁を走ってトコノマへと跳躍する。
そこにいるであろうツタンカーメンめがけ、バズソーめいた空中回転蹴りを仕掛ける!


ミラ「イイヤアアアーーーッ!……ヌウッ?」


 しかし蹴りは空振りに終わり、ミラは虚しく無人のトコノマに着地した。


ミラ(……ツタンカーメン=サンはどこに消えた?)


 ミラはドージョーに一通り視線を巡らせた後、落とし穴を見下ろした。
ニンジャ視力で底を見通すと、強化バイオ毒蛇たちがクローンヤクザたちの死体に群がり、食い散らかしている。


ミラ(ファラオの呪いの正体ね)


 ミラはまもなくトコノマの隠しレバーを見つけ、引き上げた。
ガコン……タタミの床が閉まり、静寂のドージョーが戻る。
赤く酸化したバイオ血液の染みと、突き刺さったケペシュ・ソードだけがイクサの痕跡を残していた。


ミラ(ドージョーの外に逃げる時間はなかったはずだけれど……)


 ミラはコブラ毒により左腕が数十倍にも膨れ上がったかのような異常感覚を味わいつつ、タタミに下りてトコノマを観察した。
ソードの台座……「砂漠」とショドーされた掛け軸……壁の角のごくごくわずかな隙間。


ミラ(もしや!)


 トコノマに戻って、突き当たりの壁を押す。
すると、ドオン!ドンデンガエシ・トラップドアが回転し、隠し通路が姿を現した。ブルズアイ!
ミラはドージョーにもまして暗い隠し通路を用心深く進み、突き当たりのフスマを引き開ける。スターン!


ミラ「バカな……行き止まりだなんて……!」


 ミラが足を踏み入れたのは、タタミ敷きの四角い小部屋であった。
それはシュギ・ジキと呼ばれるパターンで、十二枚のタタミから構成されている。
四方は壁であり、それぞれにはコブラ、ネコ、ジャッカル、ピラミッドの見事な墨絵が描かれていた。
もはや先へ進むためのフスマは見当たらない……では、ツタンカーメンはどこへ消えたのか。


ミラ「姿を現しなさい、ツタンカーメン=サン……!」


 この謎を解くべく、ミラは右手にスリケンを握り、物音ひとつ立てぬ精緻な足運びで、部屋の中心部へと進んでいった。
額の汗を右手の甲で拭った。 
ミラはついに部屋の中央へと達する……まさにその時であった。
ツタンカーメンが後方のコブラ壁中央を音もなく回転させ、姿を現したのは!


ツタンカーメン「イヤーッ!」ブンッ

ミラ「グワーッ!」ドガッ


 ツタンカーメンはミラの背後へ忍び寄り、斜めに斬りつけるようなカラテチョップを浴びせた!
ミラは体勢を立て直すと、背後の敵めがけて死の投擲武器スリケンを放った!


ミラ「イヤーッ!」ビュンッ


 だがツタンカーメンの動きは俊敏であり、コブラの描かれたシークレットドアを回転させ、再び消えてしまったのだ。
標的を失ったスリケンは不運なコブラに突き刺さり、虚しくも止まった。


 コブラの毒を受けた左腕が鉛めいて重い。
ミラは苦しげに眉根を寄せる。
ここは敵の棲家なのだ。
どれほど卑劣なトラップが仕掛けられていてもおかしくはない。

 ……それでも、彼女は引き返さなかった。
殺意を燃やし、右手にスリケンを握ると、物音ひとつ立てぬ精緻な足運びで、再び部屋の中心部へと進む。
ミラはついに部屋の中央へと達する……まさにその時であった。
ツタンカーメンが後方のネコ壁中央を音もなく回転させ、姿を現したのは!


ツタンカーメン「イヤーッ!」ブンッ

ミラ「グワーッ!」ドガッ


 ツタンカーメンはミラの背後へ忍び寄り、斜めに斬りつけるようなカラテチョップを浴びせた!
ミラは体勢を立て直すと、背後の敵めがけて死の投擲武器スリケンを放った!


ミラ「イヤーッ!」ビュンッ


 だがツタンカーメンの動きは俊敏であり、ネコの描かれたシークレットドアを回転させ、再び消えてしまったのだ。
標的を失ったスリケンは不運なネコに突き刺さり、虚しくも止まった。
ナムアミダブツ!敵はライオンの壁に消えたのではなかったのか!?


ミラ「ヌウーッ……!」ジロッ


 ミラは四方の壁を順に睨みつけた。
コブラ、ネコ、ジャッカル、ピラミッド……それぞれに回転式シークレットドア。
おそらく内部で繋がっており、次にどこから攻撃を仕掛けてくるか予想できぬ。

◆誤◆>>45文中「ライオンの壁」を「コブラの壁」に各自ニューロン内で修正のこと◆字◆


 ミラはスリケンを捨て、右腕一本でカラテを構えた。
左腕はもう感覚が無い。
次が最後のチャンスだ。
次の攻撃で返り討ちにせねば復讐は潰える。


ミラ「どこだ……ツタンカーメン=サン……!」


 ミラは目を血走らせ、四方を順に睨む。
だが敵は物音ひとつ漏らさぬ!


(((メイキョシスイ、メイキョシスイだ。ミラ=サン)))


 その時、隻腕の隠者カイザキの教えがミラの脳裏に響いた。


(((どんなに激しい感情を抱えていても、心の表面だけは明るい鏡、凪の水面に保て。本当に倒すべきもの、本当に守るべきものの姿が映りこむ)))

ミラ「……リンピオトーシ……カイジンリッツァイゼン……」


 ミラは瞑目し、チャントを唱えて精神を研ぎ澄ませた。


ミラ「メイキョ……シスイ……!」


 ささくれだった心を整え、敵のニンジャソウルの揺らぎを……捉える!


ミラ「イヤーッ!」クオーンッ


 ミラの右の手刀が銀色に閃く!ギンゲツ・ケン!
澄んだ輝きと響きを伴ったチョップ突きが、ピラミッドの描かれた壁を貫通!


ツタンカーメン「グワーッ!」ズドッ


 壁の向こうで、壮絶な悲鳴!
復讐の手刀は、この回転扉に背を密着させて潜んでいたツタンカーメンの胸をも貫通したのである!
壊れたジュースサーバーめいて、鮮血が吹き出した!


ミラ「ピラミッド……あんたの墓にはぴったりね」

ツタンカーメン「バカ……な……」


 ミラは右腕を引き抜き、部屋の中心でザンシンを決めた。
大穴の空いた壁の向こうで、恐怖と断末魔の悲鳴が響いた。
扉がゆっくりと回転し、ツタンカーメンは力無く床に倒れ爆発四散した。


ツタンカーメン「サヨナラ!」ドカーンッ


 こうしてマンション「サンジンギ」の隠しドージョーに潜んでいた二人のニンジャは討ち果たされた。
ミラはコブラ毒をおして回転扉の奥を捜索し、機密情報のマキモノを見つけて戦利品とした。
ドージョーに戻り、エレベーターの呼び出しボタンを押し……ふと振り返る。


ミラ(……ファラオの呪いは、最後にはファラオ自身まで呑み込んだってわけね)


 隠しフロアに到達した人間は全員ツタンカーメンたちの手にかかっていたはずであり、噂の出どころは全く見当がつかない。
ひょっとするとただの偶然の一致なのかもしれない。
しかし少なくとも、ネオフクオカに溢れる都市伝説の中に、こういった「当たり」が混ざっていることは事実だ。

 ミラは1階でエレベーターを降りるとき、すでにキャスケット帽とコートの変装姿になっていた。
マッポが帰り管理人も引っ込んで物寂しくなったフロントを通り過ぎ、ガラス扉を押して外へ。
イクサの前と何ら変わらぬダウンタウンの景色が彼女を出迎えた。
漏れ出るサイバーテクノ、「セットお得な」のネオン看板、行き交う雑多な人々、上空の広告ツェッペリン。


『リゾートで、美味しいお餅ですね。お餅であなたを癒したい……』


 ミラはそれを無感動に見上げた後、歩き始めた。
さらなる「当たり」を探し出し、ニンジャを殺すために。


◆忍◆ ニンジャ名鑑#18 【ツタンカーメン】 ◆殺◆
カタナハント・ユニオンのニンジャ。
強化バイオ毒蛇を使役する能力を持ち、マンション「サンジンギ」の隠しドージョーを拠点に暗殺活動を行う。
ミラにドージョーに踏み込まれ、トラップ部屋での反撃もかなわず殺された。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#19 【アメンホテプ】 ◆殺◆
カタナハント・ユニオンのニンジャ。
アテンニンジャ・クランのソウルを宿し、あらゆる物質を原資の粒に分解するコウボウ・ジツの使い手。
将棋仲間であるツタンカーメンのドージョーに入り浸っていたためミラの襲撃に出くわし、巻き添えを食う形で殺された。



 モノクローム・ワールド


労働者A「ヨイショ、ヨイショ……」

労働者B「ヨイショ、ヨイショ……」


降り積もる雪、雪、雪。
地上に据え付けられたナイターめいた大型照明の明かりは圧倒的な白の向こうに霞んでいる。
露天掘り最下層の労働者たちは薄暗闇の中での作業を強いられていた。


労働者C「ヨイショ、ヨイショ……」

労働者D「ヨイショ、ヨイショ……」


無感動な掛け声とともにシャベルやツルハシを振るい、振るい、振るう。
雪を押しのけて掘り出した石や土くれを手に取って、じっと見る。
ほとんどは放り捨てるが、いくらかは足元に積み上げて、また道具を振るう。
提供された防寒着はどれも安物で、労働者たちの手は悴み、これまで何人も凍死者が出ていた。


労働者E「ヨイショ、ヨイショ……」

労働者F「ヨイショ、ヨイショ……」


そんな中、ファー付きの上等なコートを着たヤクザが手押し車を押してくる。


ヤクザA「ドーモ」


ヤクザは露天掘り現場を巡り、労働者たちに声をかける。
すると彼らは作業を止め、足元に積み上げた石を手押し車に乗せていく。


 やがてヤクザは石で山積みになった手押し車を押して、現場の隅の仮設エレベーターへと向かった。
入り口の横に、上等な防寒着を着てマシンガンを抱えたヤクザが立っている。


ヤクザA「ドーモ」

ヤクザB「ドーモ」


 手押し車のヤクザとマシンガンのヤクザはアイサツを交わす。
彼らはまるで双子のように瓜二つだった。
手押し車のヤクザはそのままエレベーターに乗り込んで、中のレバーを引き下ろす。
ガコン…グイイイイン。
エレベーターは上昇していく。

 その後、露天掘り現場に電子チャイムが鳴り響いた。


『本日の作業は終了ドスエ。速やかに宿舎に戻りましょう。オツカレサマドスエ』


 それに続くアナウンスが作業終了を告げると、労働者たちは揃って溜息を吐いた。
白い息が暗い夜空に上がって、消えていく……


労働者A「……」フラ ドサッ


 労働者の一人が声もなく倒れた。
他の者はそれに構う様子もなく、俯き加減に歩いてエレベーターに乗り込む。
ガコン……グイイイイン。
エレベーターは上昇していく。


タモツ「……」


 労働者の一人ミレノ・タモツ青年は真っ赤な頰の泥汚れを拭いつつ、壁の金網の隙間から現場を見下ろした。
雪に霞む露天掘り現場では、マシンガンを持ったヤクザたちが集まり、倒れた労働者を担ぎ上げている。


タモツ(次のエレベーターを待って地上に運んで、谷にでも捨てるんだろう)


 彼にアワレを感じる心はない……何度も見た光景だ。
まったく変化のないモノクロームの雪景色の中、無限にも思える強制労働の日々が、彼の人間性をすっかり削り切っていた。

 ここはネオフクオカ南方、雪深いツクシ山脈東部のマウント・セフリ。
付近のコロニーに本拠を構えるコリ・ニンジャ傭兵団が所有する、秘密のエメツ鉱山だ。


シューゲイザー「よくありませんな」


 シューゲイザーは手の中のエメツ鉱石をそう鑑定した。
ルーペをスーツの胸ポケットにしまい、シャープなメンポの顎あたりを悩ましげになでる。


シューゲイザー「掘れば掘るほど質は下がっていくばかりのようだ。これでは我々としても、定価での買取は難しい」


 その胸では所属を暗示するクロスカタナ紋のバッジが誇らしげに輝いていた。
彼はネオフクオカを本拠地とする暗黒ニンジャ組織カタナハント・ユニオンのエージェントである。


スノーウィンド「そんな無茶な……我々は今まで、誠意をもってあなた方のご要望をお聞きしてきたじゃありませんか」


 白装束のニンジャ、スノーウィンドが冷や汗をかきながら応じる。
彼はコリ・ニンジャ傭兵団の一員であり、この鉱山の責任者。
二人が相対しているのは鉱山施設管理棟内にある彼の執務室だ。


スノーウィンド「こうして冬季も手掘りで採掘を続けているのも、一年中エメツを下ろしてほしいというご要望にお答えするためです」


 倉庫には重機もダイナマイトもあるが、この季節の採掘には使えない……振動で雪崩が起きるからだ。
実際、昨年コリ・ニンジャ傭兵団の所有する鉱山の一つが冬季に重機を投入した末、分厚い雪の下に埋もれて使い物にならなくなった。


シューゲイザー「作業員は提供したではありませんか」

スノーウィンド「ええ。しかし有償のうえに全員トーシローときてる。どこからかっさらってきたのか存じ上げませんが……機材や宿舎を揃えるコストも考慮していただきたいな」

シューゲイザー「どれほど金をかけていただいても、その結果がこれでは困ります。カブナカマの鉱山はもっと純度の高いエメツを産出しているのです、これでは競争にならない」


 スノーウィンドは応接セットのソファに身を沈め、腕組みして唸った。


スノーウィンド(この鉱脈は枯渇しかけている)


 もはやその結論に疑いはないが、口に出すことはできない。
彼の一存で傭兵団とカタナハントのビジネスを妨げることは許されないのだ。
スノーウィンドが答えに窮していると、シューゲイザーは大げさに溜息をついてから立ち上がった。


シューゲイザー「明日の夜にでも採掘現場を視察させていただいたうえで、上司と話し合って新しい価格を設定いたします……お互い誠意あるビジネスをしましょう。では」


 カタナハントのエージェントは慇懃に一礼してから執務室を出る。
スノーウィンドは返礼オジギを解いたあと、デスクの椅子に身を沈めて溜息を吐いた。
息が白くなるようなことはない。
執務室は適切な暖房が施され、ぬくぬくと暖かいからだ。
しかしスノーウィンドの心は寒かった。
今回の一件、手綱を操り損ねればケジメだ。
彼は緊張を覚えつつも、自分の心を侘しい風が吹き抜けるのを感じた。


スノーウィンド(……俺は一体なにをやっているんだ?なんでニンジャになってまで、こんなことに心を砕かなきゃならないんだ)


 窓から外を眺める。
スノーウィンドのニンジャ視力は舞い散る雪と夜の闇の向こう、折り重なるツクシの山々の輪郭を見通した。
だからどうというものでもなかった。

 ピリリリリ!窓から目を逸らした直後、卓上のIRCトーカーが電子コール音を鳴らした。
一つ溜息をついてから応答する。

スノーウィンド「……ハイ、スノーウィンド」


『ザザザ……キャバーン!カミ=サンにプラス3000点!ワースゴーイ!……ザザザ』


 労働者宿舎の食堂は静かであった。
外の吹雪の唸りとノイズまみれのTVが吐き出す音のほかは、談笑する者もなく、食器がカチャカチャと触れる音、食べ物を咀嚼する音だけが響く。


タモツ「……」


 タモツも無言のまま夕食を済ませ、多くの労働者たちと同じようにぼんやりとTVを眺めた。
他の者たちは吹雪の荒れ狂う窓の外を無感動に眺めているか、机に突っ伏している。
はじめはストレスを爆発させて乱闘する労働者もいたが、そのたび同じ顔をしたヤクザたちに棒で叩かれて懲りた……
否、それ以上にモノクロームの中での強制労働が彼らの心を摩耗させていたのだと、タモツは考えていた。


タモツ「……」スック


 席を立ち、食堂を出る。
廊下をトラッシュルームのほうへ進み、あたりを見回してヤクザたちの目が無いことを確認。
横合いの扉のドアノブを掴み……鍵がかかっているが解錠する必要はない……持ち上げるようにして、押し開ける。
赤い非常灯だけが照らす、薄暗い空間がタモツを出迎えた。

 そこはまさにイール・ベッド……タタミを縦に5枚ほど並べたような、細長く狭い部屋だ。
一面の長辺には壁いっぱいに室外機が積み上げられて、ゴウゴウと唸りを上げている。
向かいの長辺の壁ではいくつも防雪換気扇が回っている。
一面の短辺には通用口と思しき扉があったが、一日中日陰となる場所に通じているらしく、堅く凍結していてビクともしなかった。


タモツ「フーッ……」

 タモツはどっかりと座り込み、閉じたドアに背をもたれさせる。
ここは数ヶ月前に偶然発見した彼の隠れ家だ。
労働者はもちろん、ヤクザたちが足を踏み入れているのも一度も見たことがない。
かつてはここに隠れるだけで彼らに反抗してみせたかのような快感を味わったが、そのうちそんな情動も白と黒の風景の中に霞んで消えた。
食後の彼がここに向かうのは孤独がもたらすリラックスのためであり、感情が削り落とされて最後に残ったルーティンだ。


タモツ(……俺は一体、何をやっているんだ?)


 天井の非常灯がジジジと音を立てたとき、タモツの心にふと他人事じみた疑念が湧いた。


タモツ(せっかくネオフクオカ大学を出たのに、なんでこんな山奥でヤクザにこき使われているんだ)


 思い出すことはできる。
タモツはネオフクオカのカチグミ家庭に生まれ、高倍率の入試を突破して晴れてネオフクオカ大学生となった。
巧みにムラハチを回避して他のカチグミ学生と欺瞞めいたユウジョウを交わし、学業も順調、キューシュー有数のメガコーポであるクラシマ・クラフトワークス社の内定を手に入れた。


タモツ(思えば、あそこがエンド・オブ・フォーチュンだったのかもしれん)


 内定祝いに訪れたバーがボッタクリで、カチグミとはいえ学生にはとても払えるはずがない額の請求を受けた。
タモツは焦燥の末に隙を見て逃走を図る。
普通ならヤクザ店員にすぐに追いつかれて取り押さえられ、親が身代金めいて請求金を振り込むことで解放されただろう。
ところがタモツは逃げ切ってしまったのだ。
メンツを潰されたヤクザ店員たちは怒り狂い、店に残された荷物を手がかりにしてミレノ家に殺到する。
タモツは囲んで棒で叩かれた挙句連れ去られ、気づけばこのジゴクめいた鉱山で採掘作業を強いられていた。


タモツ(理解できない)


 思い出すことはできる……しかし過去の心情を理解することはできなかった。
大学合格や内定獲得の歓喜、バーから逃走した時の恐怖さえ、どんなものだったかわからない。
タモツの人間的な情動は、ツクシの吹雪に晒されて凍りついてしまったかのようだった……ドンッ。


タモツ「?」


 何かがぶつかるような低い音が響いた。
通用口の扉のほうからだ。


タモツ(吹雪に巻かれた石でも転がってきたかな)


 タモツは無視して思索に戻った。
歓喜と、恐怖と……あとは、怒りか。
怒りとは、果たしてなんだったか……ドンッ。

 また通用口から音がした。
タモツは半ば反射的に、今夜倒れた労働者の姿を思い浮かべた。


タモツ(まさか、谷から這い上がってきたのか……しかし助けには行けないな。その扉は凍りついていて開かないし、外に回り込もうにもヤクザが出してくれないだろう。ナムアミダブツ)


 タモツは冷酷に見捨てて、三度思索に耽ろうと……


「イヤーッ!」


 CRAASH!
凍結したドアが強引に押し開けられ、轟々と吹き込む吹雪とともに赤黒のニンジャが姿を現した!


タモツ「ア……アイエエエッ!?」ドタッ


 タモツは急性NRSを起こし、ひっくり返って絶叫!
ズボンが濡れる!


タモツ「ニ、ニ、ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」ジョワワー

「ハアーッ、ハアーッ……」バタンッ


 ニンジャは扉を閉め、荒い息をしながらタモツに向き直りアイサツした。
肩から雪と氷がバサバサと落ちた。


「……ドーモ、はじめまして……ミラ・ツヅリです……!」ペコリ

タモツ「!?ド、ドーモ、ミラ=サン……ミレノ・タモツです」ペコリ


 タモツは反射的にアイサツを返す。
日本人として慣れ親しんだその所作が彼に少しだけ冷静さを取り戻させた。
ミラは血走った眼でタモツを見据える。


ミラ「ハアーッ……ここはどこ……あなたは何者、ミレノ=サン……!」

タモツ「こ、ここは……ここはツクシの鉱山の、労働者の宿舎だ。俺はここで働かされてるんだ、無理矢理」

ミラ「そう……私、は……」グラリ ドサッ


 赤黒のニンジャの体がグラリと揺らいで、横に崩れ落ちた……意識を失ったらしい。
タモツは倒れるニンジャをおっかなびっくり見下ろした。
小柄な体……赤黒い装束に滲み、凍りついた血……吹雪に荒らされたポニーテール。


タモツ(あれっ……このニンジャ、女の子なのか?)


 翌日。
日はとうに昇っている時間だが、日差しは分厚い雲に遮られ、明け方以上には明るくならない。
それがツクシの朝だ。


スノーウィンド「ドーモ、はじめまして。スノーウィンドです」ペコリ

グレイシア「ドーモ、はじめましてスノーウィンド=サン。グレイシアです」ペコリ

アイシクルランス「アイシクルランスです」ペコリ

サターン「サターンです」ペコリ


 管理棟執務室で四人のコリ・ニンジャがアイサツを交わす。
グレイシアらは早朝にスノーモービルでエメツ鉱山に乗りつけた、傭兵団本部直属の精鋭ニンジャたちだ。


スノーウィンド「早速ですが、『ニンジャ殺し』がこの近辺に潜伏しているというのは一体どういうブロウイング・ウィンドで……?」


 僻地勤めの彼でも「ニンジャ殺し」の噂は知っている。
カタナハント・ニンジャを圧倒的なカラテで殺して回るネオフクオカの死神、と……


グレイシア「……我々は奴が何らかの目的でこのエメツ鉱山への侵入を図っているという情報を掴み、山道で待ち伏せた」


 リーダーらしい大柄なグレイシアが苦々しげな表情で語る。


グレイシア「雪山というフーリンカザン、三人がかりでの待ち伏せアンブッシュ……完璧な作戦のはずだった。事実、奴はかなりの深手を負った。しかしカイシャクはできぬまま、取り逃がしてしまったのだ」

サターン「タイミング悪く吹雪になったもんで、奴の足跡も吹き散らされちまってね」


 グレイシアは言い訳めいて口を挟んだサターンを一睨みしてから続ける。


グレイシア「……かろうじて捉えたニンジャソウル痕跡はこの鉱山に続いていた。もし侵入されていたら一大事だ、とにかく施設内を総当たりで捜索してみてくれ。我々もここに留まって警戒する」

スノーウィンド「はあ、あなた方もですか」

グレイシア「ん?我々の他にも滞在しているニンジャがいるのか?」

スノーウィンド「はい、カタナハントのシューゲイザー=サンが」

グレイシア「カタナハント?……ははあ、奴の目的が読めたぞ」


 グレイシアはメンポの裏で合点がいった顔をして頷く。


グレイシア「『ニンジャ殺し』はそのシューゲイザー=サンを殺すためにこの鉱山を目指していたのだ……もし彼に何かあればカタナハントと傭兵団の関係に亀裂が入りかねんぞ」

スノーウィンド「はあ、ナルホド……では今日の午前の採掘が終わり次第、監視のクローンヤクザを動員して施設を捜索します」

グレイシア「我々も協力しよう。それまでどこかで休ませてもらってもいいか?」

スノーウィンド「一階に宿直室がありますので、そこでよろしければ」


 退室するグレイシアたちを見送りつつ、スノーウィンドは内心辟易していた。
彼の心はツクシの曇り空よりなお暗い。


スノーウィンド(また厄介ごとが増えた……ブッダはよほど俺のことが嫌いらしいな)


ミラ「……!イヤーッ!」バババッ


 ミラは意識を取り戻すと同時に跳ね起き、三連続でバク転を繰り出してあたりを見回した。
赤い非常灯があるきりの薄暗い、細長い部屋だ。
壁いっぱいに積み上がった室外機と換気扇がゴウゴウと唸りを上げている。


ミラ(そうか、ここはエメツ鉱山の……)


 ミラは意識を失う直前の記憶を取り戻すとともに、足元に落ちているものに気がついた。


ミラ(……毛布?)


 それは粗末な毛布。
彼女にかけられていたものを、跳ね起きたときに吹き飛ばしてしまっていたのだ。
服の裏にも違和感がある。
装束をまくってみると、拙いやり方で包帯が巻かれていた。


ミラ(手当てされている……?)


 彼女が首を傾げたとき、室外機側の壁の扉が開いた。


ミラ「!?イヤーッ!」グイッ

「アイエエエ!?」ドタッ


 ミラはとっさに侵入者の腕を極め、壁に叩きつけた。
扉を蹴って閉め、侵入者の後頭部を睨みつける。


ミラ「あんたは……」

タモツ「アイエエエ、俺だよ、俺だよミラ=サン」

ミラ「……ミレノ=サン。この包帯はあなたが?」

タモツ「ああ、俺だ……あっ!服、脱がせてしまってごめんよ!ひどい怪我だったから……」

ミラ「いえ、それはいいけれど」

タモツ「君のことは誰にも言ってない、バレてないよ……あの、そろそろ……手を離してくれないかな」

ミラ「……ごめんなさい」パッ


 ミラは謝罪とともにタモツの腕を離し、ドアに耳を当てて警戒した。
敵が騒音を聞きつけてやってくるのではないかと考えていたのだ。
やがて、そのまま五分が経過した。
外は静かだ。


ミラ「……キユウ・アングザエティだったみたいね」


 ミラがドアから耳を離すと、タモツがオドオドしながら話しかけてきた。


タモツ「君は……君は、ニンジャなんだよな?本物の」

ミラ「……ええ、ニンジャよ。それでも昨日の怪我はまずかった。手当てしてくれてありがとう」

タモツ「なに、医務室から包帯をくすねてきて巻いただけだ。大したことじゃないさ……しかし、ニンジャは実在したのか……」

ミラ「ここを管理しているのもニンジャのはずだけれど」

タモツ「そうなの?働いているのは双子みたいな顔のヤクザばかりだよ。仲間かい?」

ミラ「ふざけたことを言わないで」


 赤黒のニンジャが殺気に満ちた目でタモツを見た。
タモツはまた漏らしそうになった。
しかしミラはすぐに自分の感情を押さえ込んで、フーッと息を吐いた。


ミラ「……ごめんなさい。私は彼らの敵よ」

タモツ「敵」

ミラ「双子みたいな顔の、っていうのはU&Qトコシエ社のクローンヤクザよ」

タモツ「クローンヤクザ」


 タモツは呆けたようにオウム返しした。
ミラは床にアグラし、携帯IRC端末を取り出して時間を確認する。


ミラ「チッ……もう昼か。怪我があったとはいえ眠りすぎたわね……」

タモツ「ああ、俺たちもちょうど昼休みで……あっ、そうだ」


 タモツもミラの前にアグラして、おもむろにシャツをまくり、その裏から冷凍テリヤキバーガーの包みを取り出した。


タモツ「これ、よかったら食べてよ」

ミラ「……いいの?あなたの分とかじゃ……」

タモツ「そうだけど……お腹、空いてるだろ?」


 ミラの脳裏に「毒」という言葉がよぎり、答えに詰まる。
しかしタモツと出会ったのは作為のない偶然。
昨日の怯えようからするとニンジャを知ったのも初めてであろうし、それを相手にしてこうも自然に嘘をつけるとは考え難い。


ミラ「……いただくわ、ありがとう。何から何までスミマセン」


 ミラは受け取ったテリヤキバーガーを1分もかからず完食した。
十分な量とは言い難いが、夜通し雪山を歩いてきた彼女にとっては貴重なエネルギー源だ。
包み紙で口を拭いつつ部屋を見回す。


ミラ「ここはどういう部屋なのかしら」

タモツ「わからない、たぶん室外機置き場だと思うけど。外に直接置くと凍っちゃうんだよ、きっと」

ミラ「そうみたいね。で、ここはヤクザに見つかる心配はないの?」

タモツ「多分存在自体は知ってると思うけれど、入っているところはこの何ヶ月か一度も見たことがないよ。俺の隠れ家なんだ……ところで」


 タモツはミラの顔を覗き込むようにして尋ねた。


タモツ「君は、ここへ何をしに来たんだい?そんな怪我までして……バイオグリズリーか何かに襲われたんだろう、それ?」

ミラ「……この怪我は、コリ・ニンジャに襲われたの。あなたを労働に駆り出している連中の仲間に」

タモツ「仲間……?ニンジャってのはそんなに一杯いるのかい?俺たちをこき使ってる奴っていうのは、どういう……」

ミラ「!こっちに!」バッ

「イヤーッ!」ブンッ


 SMAAASH!
扉を蹴り開け、コリ・ニンジャが小部屋にエントリーした!
重厚な氷の鎧を纏い、背中には氷の槍……アイシクルランスである!


アイシクルランス「……」ジロジロ


 アイシクルランスはカラテを構えつつ、注意深く視線を巡らせる。
非常灯の赤い光の中、室外機と換気扇だけが唸りを上げるイール・ベッド。
……無人である。


アイシクルランス「……」ジロッ


 首を巡らせ、開け放った扉を見やった。
その裏に、死角がある。
アイシクルランスはゆっくりと手を伸ばし、そのノブを掴んで……引く!


アイシクルランス「イヤーッ!」ブンッ


 同時にその裏にチョップ突きを!


アイシクルランス「……」スッ


 ……コンクリートの壁を睨み、手刀を収める。
扉の裏には誰もいなかった。
クローンヤクザが彼を追って部屋に入ってくる。


クローンヤクザ「発見しましたか」

アイシクルランス「……いや、気のせいだったようだ。たしかに何か聞こえたと思ったんだが」


 アイシクルランスは最後にあたりを見回してから、部屋を後にした。
扉の向こうで足音が遠ざかり、聞こえなくなった後、天井に張り付いていたミラが音もなく着地した。
抱えていたタモツを下ろしてやる。


タモツ「あ……ありがとう」

ミラ「今のがそのコリ・ニンジャの一人よ。私の敵ね」

タモツ「俺たちをこき使っている奴の、敵……もしかして君は、俺たちを助けに来てくれたのかい?」


 ミラは口ごもった。


ミラ「……違うわ、私はシューゲイザー=サンを……コリ・ニンジャたちの商売相手を殺しに来たの」

タモツ「殺しに?なぜ?」

ミラ「彼はネオフクオカのニンジャ組織、カタナハント・ユニオンの構成員……私の母の、仇の一人だからよ」

タモツ「そうか……ごめんよ、変なこと言って」


ミラ「……いえ、でも……助けられるなら、助けたいとは……思っているわ」


 タモツが表情を明るくする。
ミラの胸を嫌な感覚が突き抜けた。


ミラ(私は……とんだ偽善者ね)

タモツ「……それにしても、カタナハント……カタナハントか」


 タモツは少し考え込むような仕草をしてから言う。


タモツ「『今日の夜、採掘場にカタナハントの人が来る』ってヤクザが言ってたけど……関係あるかな?」

ミラ「何ですって」


 ミラは目をギラリと光らせ、タモツに詰め寄った。
こんな僻地にカタナハント・エージェントが何人もいるとは思えない。
間違いなくシューゲイザーの話だ。


ミラ「採掘場はどこ?ここからどう行けばいいの」

タモツ「エッ、どうするつもりなのさ」

ミラ「殺すって言ったでしょ。待ち伏せをしかけて殺すの」

タモツ「無理だよ、下ではマシンガンを持ったヤクザが監視してるんだ!身を隠すような岩陰だってろくにないし……」


 ミラは唸った。
クローンヤクザそのものは問題にならないが、採掘場は思った以上に目が行き届いていそうだ。
シューゲイザーを首尾よくアンブッシュで殺せたとしても、コリ・ニンジャたちに囲んで棒で叩かれてはたまらない。
かといってこの機会を逃してしまえば、次にいつシューゲイザーの尻尾をつかめるかわからない。


タモツ「……いや……待てよ。無理か、わからないかもしれない」


 ミラはぱっと顔を上げた。
タモツが顔に手を当てて考え込んでいる。


ミラ「どういう意味?」

タモツ「地上の警備をよそに振り向ける方法があるんだ。そうすれば、あとは採掘場の連中をどうにかするだけで……」

ミラ「どんな方法?」


 ミラは目を見開いてタモツを見据えた。
青年は少したじろぐような顔をしたが、やがて指を一本立てて言った。


タモツ「じゃあさ、ミラ=サン……その方法を教える代わりに、俺に協力させてくれない?」

ミラ「……えっ……なぜ?」

タモツ「俺たちを助けたいって思ってくれてるんだろ?二人ならできるぞ、きっと!」


 タモツの目は昨日までと同一人物とは思えないほどエネルギッシュだ。
ミラは思わずたじろぐ。


ミラ「……危険よ?死ぬかもしれないわ」

タモツ「そんなの協力しなくったって同じさ、流れ弾で死ぬかもしれないんだから」


 ミラは再び唸った。


ミラ(改めて考えれば……今回の私の復讐は、彼らを巻き込む前提なのね)


 しかし今更引き下がろうとは思わないし、引き下がることはできないだろう。
下手に逃げ出して昨日の三人に追われれば今度こそ命はない。
この鉱山から脱出するには、奴らを混乱に巻き込んでおいて逃げ延びるしかないのだ。
ミラは覚悟を決めた。


ミラ「……わかったわ」


 その夜。


スノーウィンド(ああ嫌だ嫌だ、憂鬱だ)


 ガコン……グイイイイン。
下降していく仮設エレベーターの中、スノーウィンドは眉間の奥でモヤモヤしたものが延々と駆け巡っているのを感じた。
隣を一瞥する。


シューゲイザー「ドゥードゥー、ドゥードゥルドゥー」


 相変わらずキザなスーツにメンポ姿のシューゲイザーは、ご機嫌にハミングさえしていた。
スノーウィンドの心はいよいよ曇る。


スノーウィンド(この視察でこいつが何を見ようとエメツ値下げは確定、たぶん俺の指は何本か飛ぶだろう。俺は何のためにエスコートなんかしているんだ?)


 ガコン、ガラガラガラ……
エレベーターが停止し、金網の扉が開く。


労働者A「ヨイショ、ヨイショ……」

労働者B「ヨイショ、ヨイショ……」


 天気は相変わらずの雪。
採掘場下層、露天掘りの最前線では、相変わらず労働者たちが機械的にツルハシを振るっていた。
シューゲイザーはその間を歩き回り、ついてくるスノーウィンドにご満悦で話しかける。


シューゲイザー「なかなかマッポーな光景ですね、これは!もしかしてこいつらの汗が染み込んでエメツを劣化させているんでしょうかな?」

スノーウィンド「ハ、ハハハ……」


 スノーウィンドが適当に笑って誤魔化した、その時!
CABOOM!CABOOM!CABOOM!


スノーウィンド「!?」

シューゲイザー「何だ!?」


 はるか上で立て続けに三度爆発が起こった。
労働者たちも顔を上げて、無気力な目で音の源……鉱山管理棟を見上げる。
三筋の煙が立ち上って、低く立ち込める雪雲に届いていた。


シューゲイザー「……あの爆発の仕方は、ダイナマイトですね。まさか事故ですか?安全管理上の問題は?」

スノーウィンド「そ、そんなはずはありません!ダイナマイトは管理棟から遠く離れた地下保管庫に納めてあるはず……」


 ……これがタモツの作戦であった。
彼は雪のない時期の作業にも従事していたため、ダイナマイトの保管場所を知っていた。
ミラはタモツが持ってきた昼食を食べて体力を取り戻すと、ダイナマイトを盗み出して管理棟に仕掛けたのだ。
その目論見は成功し、地上のクローンヤクザ部隊とグレイシアたちは管理棟に急行する。
採掘場は今、まったくのノーマーク!


「イヤーッ!」ブンッ

シューゲイザー「グワーッ!?」ドガッ


 労働者の一人が防寒着を脱ぎ捨てたかと思うと、シューゲイザーめがけ砲弾じみた勢いのトビゲリ・アンブッシュを仕掛けた!
脇腹に痛打を受けて横に吹っ飛び、岩壁に激突するシューゲイザー!


スノーウィンド「貴様何者だ!?イヤーッ!」ブンッ


 スノーウィンドが虚空に拳を振るうと、BOOM!
衝撃波のごとく超低温の空気が打ち出されて襲撃者めがけ飛んだ!
コリ・ソニックカラテである!


「イヤーッ!」バッ


 襲撃者は三点着地姿勢からバク転を繰り出してコリ・ソニックウェーブを回避!


労働者A「アバーッ!?」カキーンッ


 KBAM!背後の不運な労働者が流れ弾を受け、瞬時に全身を冷凍されてソクシ!ナムアミダブツ!
使い手の悲観的思考にそぐわない一撃必殺のジツだ!
襲撃者はそのまま五連続でバク転を繰り出して間合いを取った後、電撃的にオジギしアイサツする。


ミラ「ドーモ、はじめまして。ミラ・ツヅリです」ペコリ


 その正体は言わずもがなミラ!
タモツの手引きで労働者の中に紛れ込んでいたのだ!


スノーウィンド「ドーモ、ミラ・ツヅリ=サン。コリ・ニンジャ傭兵団のスノーウィンドです」ペコリ

シューゲイザー「カタナハント・ユニオンのシューゲイザーです」ペコリ


 シューゲイザーはいつのまにかスーツを脱ぎ捨て、紫色のニンジャ装束姿となっていた。



シューゲイザー「狙いは俺か、『ニンジャ殺し』め。地上の爆発は陽動だな?」


 彼らの背後では三人のニンジャの対峙を目の当たりにした労働者たちがNRSを発症!


労働者B「アイエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」オロオロ

労働者C「アイエエエ、コワイ!」ダダッ


 一瞬のうちに感情を取り戻し、恐慌のうちに工具を捨てて仮設エレベーターへ殺到!


クローンヤクザA「ザッケンナコラー労働放棄!」ジャキッ

クローンヤクザB「戻れッコラー!」ジャキッ


 その行く手をマシンガンを持ったクローンヤクザたちが遮り、労働者たちの足元へ発砲した。
BRATATATA!
悲鳴を上げて飛び下がる労働者たち!


スノーウィンド「ええいヤクザども、そんな奴らに構うくらいならこっちに加勢を……」

シューゲイザー「スノーウィンド=サン!来るぞ!」


 ミラがやにわ体をひねったかと思うと、赤黒の竜巻のごとく全身を高速回転させた!


ミラ「イイヤアアアーーーッ!」ビュビュビュビュビュンッ


 そこから多方向に無数のスリケンが放たれる!
大量殺戮奥義ヘルタツマキ!


スノーウィンド「ヌウーッ!」ガッ

シューゲイザー「ヌウーッ!」バチッ


 ニンジャたちは雪を裂いて猛然と飛来するスリケンの雨をなんとか防ぐ。
しかしクローンヤクザたちはダメだ!


クローンヤクザA「グワーッ!」グサッ

クローンヤクザB「グワーッ!」グサッ


 監視クローンヤクザの七割ほどが急所にスリケンを受けてソクシ!
緑色のバイオ血液が雪の地面を染める!


タモツ「今だ、エレベーターに乗り込め!」


 ヤクザが落としたマシンガンを拾って叫ぶのはタモツだ!
怯えて混乱する労働者たちは彼の決断的な態度に引きつけられ、わずかに落ち着きを取り戻す!


タモツ「最初の便に乗りきれない奴らは銃を取って戦うんだ、やられっ放しじゃ気が済まないだろ!」


 タモツは左手を掲げる!キツネ・サイン!


タモツ「アンタイセイ!」ジャキッ


 BRATATATA!
タモツは右手のマシンガンで残存ヤクザたちへ銃撃!


労働者C「ウ、ウオオーッ!アンタイセイ!」ジャキッ

労働者D「クソーッ!やってやるーッ!」チャキッ


 半ばヤバレカバレながら労働者のうち何割かがマシンガンやツルハシや取って残存ヤクザに突撃し、激しい戦闘が展開!


ミラ「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ブンブンブンッ

スノーウィンド(な、何故だ……)バシバシバシッ


 スノーウィンドはニンジャ聴力でそれを聞き取っていた。
ミラのカラテラッシュをぎりぎりで捌きながらも、頭の奥から疑念が湧いて止まらない。


スノーウィンド(何故このモノクロームの世界の中でそうもアグレッシブになれる?この世はこんなにも暗く、寒く、厳しいのに!何故!)

ミラ「イヤーッ!」ブンッ

スノーウィンド「グワーッ!」ドガッ


 ミラの鉄拳がガードをすり抜けて顔面に直撃!
スノーウィンドは雪の大地をバウンドしながら吹き飛ぶ!


ミラ「イヤーッ!」ビュンッ

シューゲイザー「イヤーッ!」バシッ


ミラは追撃のスリケンを投じるが、シューゲイザーが蹴り飛ばしインターラプト!
そのままステップインしてカラテ戦闘に突入!


シューゲイザー「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」ブンブンブンッ

ミラ「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」サッガッバチッ


 ミラはシューゲイザーのサバットめいた足技カラテを的確にかわし、防ぎ、弾いでいく!
彼女のニンジャ治癒力は非凡であり、コンディションはすでに全力のカラテを発揮可能な領域にまで回復している!


シューゲイザー「おのれ!イヤーッ!」ブウンッ

ミラ「イヤーッ!」サッ ブウンッ


 シューゲイザー渾身の回し蹴りをブリッジ回避し、逆立ちしながらのウィンドミル回転蹴りで反撃!


シューゲイザー「グワーッ!」ドガッ


 吹き飛ばされて再度岩壁に叩きつけられるシューゲイザー!


ミラ「イヤーッ!」ブンッ

シューゲイザー「ウ、ウオオーッ!」サッ


 CRASH!
シューゲイザーは岩壁を転がり、自らの頭を叩き潰さんとする拳を間一髪で回避!
カラテを構え直し、血走った目でミラを睨む!


シューゲイザー「何故だ!何故カタナハントに盾突くような真似をする!?よしんば俺を倒したところでさらに強力なニンジャが現れ、お前を殺す!その後に何が残る!?死体だけだ!」


 ミラは雪を踏んでシューゲイザーに近づく。
その一歩一歩が死神の足音、インガオホーのカウンドダウンのごとく!


ミラ「後のことなんて関係ない、私には過去と今があるだけ。その全部があんたたちを許さない!」

シューゲイザー「ウオオオオーッ狂人がアアアーーーッ!」


 シューゲイザーが飛び込む!


シューゲイザー「イイヤアアアーーーッ!」ブオンブオンブオンブオオンッ


 渾身の三回転ターボスピンキックが唸りを上げてミラの首を襲った!


ミラ「サツバツ!」ギュルンッブウンッ


 ミラは電撃じみた速さでその脚を絡め取る!
背負うようにして投げ飛ばし、力任せに地面へと叩きつけた!


シューゲイザー「グッワアアアーーーッ!」ドンッ


 ドンッ!シューゲイザーは大技の勢いのままに地面に激突し、頭に重篤なダメージを負って両目から血を噴出した!確実に致命傷!
しかし血まみれの目を見開き、自らの脚を極めるミラの腕を掴み返す!


ミラ「何!?」

シューゲイザー「ゴボッ、イヤーッ!」ブンッ


 血を吐きながらもその足払いは正確!
トモエナゲめいた動作でミラを引きずり倒し、先ほどのリフレインめいて顔面から地面に激突させる!


ミラ「グワーッ!」ドガッ

シューゲイザー「ゴボッゴボ、イヤーッ……!」グイッ


 そして一瞬朦朧としたミラを羽交い締めにし、無理矢理立ち上がらせた。
その目線の先には立ち上がったスノーウィンド!


シューゲイザー「スノーウィンド=サン、今だ!さっきのジツで俺ごとこいつをやれーッ!」

スノーウィンド「!?」


 スノーウィンドは一瞬たじろいだ。


スノーウィンド(あれほど疎ましかったシューゲイザー=サンまでが、こんなカジバチカラを……では俺は何だ?何事にも理由を求めるばかりで全力になれない俺は何だ!)


スノーウィンド「ウ、ウオオオオーッ!イヤーッ!」ブンッ


 BOOM!コリ・ソニックウェーブ!
しかし直前の一瞬がミラの意識の靄を払い、対応を可能としてしまった!


ミラ「イヤーッ!」グイッ


 シューゲイザーを力任せに背負い上げ、スープレックスをかけるような形で盾とした!
KBAM!ソニックウェーブ着弾!


シューゲイザー「グ、グッワーーーッ……!」パキパキパキ


 ……シューゲイザーがかっと見開いた目が凍っていく。
そこから垂れた血までがその下の皮膚とともに白く凍結し、わずかに残った生命までも凍てつかせていく……


ミラ「イヤーッ!」ビュンッ

シューゲイザー「グワーッ……」ドガッ
スノーウィンド「グワーッ!?」ドガッ


 ミラは凍りついたシューゲイザーをスノーウィンドめがけ投げつけておいて、右手でスリケンを振りかぶった。
上体をひねると、その背中に縄のような筋肉が浮かび上がる……これはジュー・ジツの禁じ手、ツヨイ・スリケンの構え!


ミラ「イイヤアアアーーーッ!」ビュウンッ


 ギュン!赤黒く燃えるスリケンが舞い散る雪を焼き切りながら飛んだ!


シューゲイザー「グワーッ……」ドガッ
スノーウィンド「グワーッ!」ドガッ


 殺意のスリケンは凍死寸前のシューゲイザーもろともスノーウィンドの体までも貫き、背後の岩壁を粉砕した。


シューゲイザー「サヨナラ!」ドカーンッ


 岩壁崩落の衝撃により雪が狂ったように舞い散る中、シューゲイザーは爆発四散した。


ミラ「ハアーッ……」


 ミラはザンシンを解くと、すぐさまエレベーターのほうへ走った。
BRATATATA!BRATATATA!
いまだエレベーター付近では銃撃戦が続いている。


ミラ「イヤーッ!」ビュビュンッ

クローンヤクザC「グワーッ!」グサッ

クローンヤクザD「グワーッ!」グサッ


 ミラはスリケンで残党ヤクザを掃討した。
労働者たちは混乱しつつも勝利の雄叫びを上げ、その中でタモツが彼女の名前を呼ぶ。

タモツ「ミラ=サン!」

ミラ「引き上げよ、早く!すぐに地上の部隊が下りてくる!」


 地上に残っていた好戦的労働者たちとミラは一斉にエレベーターに駆け込んだ。
ガコン……グイイイイン。
強制労働の日々と変わらぬはずの上昇のリズムさえ、憎たらしいほど遅く感じられる。
それでもエレベーターはやがて地上に到着する。
もう二度と降りることはないだろう。
ガコン、ガラガラガラ……金網の扉が開く。
その先に広がっていた光景に、労働者たちとミラはそろって驚愕した。


ミラ「な……!」

タモツ「そんな……!」


 それは雪の上に積み重なる、先に脱出した労働者たちのおびただしい数の死体だった。


クローンヤクザE「!ザッケンナコラー脱走労働者!」ジャキッ

クローンヤクザF「スッゾコラー反乱分子!」ジャキッ

クローンヤクザG「サボタージュ許さねッゾコラーッ!」ジャキッ


 その奥で警備にあたっていたクローンヤクザ部隊がミラたちにマシンガンを向ける。
先行脱出組は武器を持っていなかったために彼らに虐殺されてしまったのだ!


ミラ「イヤーッ!」ビュビュビュンッ

クローンヤクザE「グワーッ!」グサッ

クローンヤクザF「グワーッ!」グサッ

クローンヤクザG「グワーッ!」グサッ


 ミラは怒りに満ちたスリケンで瞬く間にクローンヤクザ部隊を殲滅!


タモツ「前あっちの倉庫にスノーモービルがあるのを見たんだ、みんなついてきてくれ!」


 好戦的労働者たちはミラとタモツに率いられ、銀色に沈む鉱山施設内を一丸となって走り抜けた。
仲間の死に脱出への決意を新たにした彼らは、まるで軍隊のように洗練された動きで遭遇したクローンヤクザを片っ端から撃ち殺した。


 採掘場最下層には静寂が戻っていた。
ナイターめいた大型照明の明かりも遠く、暗い空からしんしんと雪が降る。
BRATATATA……BRATATA……
地上から微かに銃声が響いた。
土がむき出しになったシューゲイザーの爆発四散痕の近くの雪が、ボコリと隆起した。


スノーウィンド「プハアーッ、ハアーッ、ハアーッ、ハアーッ!」


 その下から姿を現したのは、おお、スノーウィンドだ!
シューゲイザーの爆発四散に紛れて、とっさのドトン・ジツで雪の中に潜り込んでいたのだ!
とはいえ土手っ腹に大穴が開いていることには変わりなく、スノーウィンドは自分の腸の断面を見ながら腹にバイオ包帯を巻くことになった。
おおがかりな手術が必要になるだろう……しかし今はまだ、休めない。


スノーウィンド(こういう場合どうなるんだ?1番、エージェントが殺されたからご破算で俺はセプク。2番、ミラ=サンのせいだからお咎めなし?ああ!俺はここの責任者だった、こういう時責任を押し付けられるのが仕事だ。答えは1番!)


 自分の今後についての不安が頭の中をぐるぐると駆け巡る。
ガコン……ウイイイイン。
エレベーターで地上へ向かいつつ、ニンジャポーチからハッチャキ・タブレットを取り出して二粒噛み砕く。
腹の傷の痛みとだるさが消え、不健康な高揚感が全身を駆け巡った。


スノーウィンド(ミラ=サンは無理でも、脱走労働者どもを皆殺しすれば上司の心象が良くなってケジメが軽くなるかもしれん。今は俺の本質なんてどうでもいい!)


 ガコン……ガラララ。
スノーウィンドはしばし問いを封じ込め、追跡を開始した。


 クローンヤクザ部隊を排除しながら逃走を続けたミラと労働者たち。
すべてがうまくいっているかに思われたが、破綻はすぐに訪れた。
三人の白装束ニンジャという形をとって!


グレイシア「ドーモ、脱走労働者の皆さん。コリ・ニンジャ傭兵団のグレイシアです」ペコリ

アイシクルランス「同じくアイシクルランスです」ペコリ

サターン「同じくサターンです。好き勝手やってくれたなあ、エエッ?」ペコリ


 多くのクローンヤクザを射殺してきた労働者たちも、三人のニンジャを見てたちまち戦意を喪失した。
震えだし、失禁する者もいる……しかし逃亡者が出る前に、赤黒のニンジャが進み出た。


ミラ「ドーモ、ミラ・ツヅリです。あなたたちの相手は私がする」ペコリ

グレイシア「!ミラ=サン、今回のことは貴様が元凶か……よくもまあダイナマイトまで仕掛けたものだ、すっかり騙されたぞ」

サターン「フン!だがよお、相手をするってのは何だい?相手をするってのは。昨日は尻尾を巻いて逃げ出したお前が、俺たちをまともに相手する気でいんのかよ!」


 三人のコリ・ニンジャはシューゲイザーやスノーウィンドより一段上の使い手であり、ほぼ無傷でスタミナ消耗も無し……万全の状態である。
対してミラは昨日のダメージも完全に消えたわけではないし、直前の戦いでも傷を負っている。


ミラ「一晩ぐっすり寝て、傷の手当てと食事をしたわ。あんたたちとカラテ比べをするくらいならそれで十分よ」


 しかしミラはコリ・ニンジャたちを指差し、そう不敵に挑発した。


サターン「ほざけ!コリ・サテライト・ジツ!」ビュババッ


 サターンがシャウトとともに手で複雑なニンジャサインを組むと、その周囲に無数の氷塊が出現し彼の周囲を高速旋回する!


ミラ「早く行って!」

タモツ「わ、わかった!」ダッ

労働者たち「「「オタッシャデー!」」」ダッ

サターン「イヤーッ!」ビュビュビュビュビュンッ


 労働者たちが迂回離脱した直後、無数の氷塊がスイングバイ射出されて殺人的速度でミラに襲いかかった!


ミラ「イヤーッ!」バババババ ダンッ


 ミラは五連続側転でこれを回避した後、おもむろにツカハラ跳躍で逆走回避!


アイシクルランス「イヤーッ!」ブオンッ


 その直後、アイシクルランスの突進刺突攻撃が側転移動の軌道を横切った!アブナイ!


ミラ「イヤーッ!」ビュンッ


 ミラはサターンめがけスリケンを投げるが、グレイシアがそれを遮るように位置取り、奇妙な中腰姿勢を取って叫ぶ!


グレイシア「ムテキ!」カキーンッ


 その瞬間、グレイシアの全身が長い年月をかけて押し固められたハコダテ氷河のごとく硬化した!
なすすべなく弾き返されるスリケン!


サターン「まだまだ行くぜーッ!イヤーッ!」ビュビュビュビュビュンッ


 横合いに回し込んだサターンがさらなる氷塊をスイングバイ射出!


ミラ「イヤーッ!」バババ ブンッ


 ミラは三連続のバク転で氷塊を回避したうえ、その場で逆立ち姿勢から叩きつけるような蹴りを放った!


アイシクルランス「グワーッ!」ドカッ


 再び突進刺突攻撃を試みたアイシクルランスは顔面を蹴られて転倒、なんとか後転をうって退避!


グレイシア「コリ・ジツ!イヤーッ!」ブウンッ


 グレイシアがツッパリめいた動作とともに超低音の冷気を噴射!BOOM!


ミラ「イヤーッ!」ゴロッ


 ミラは三点着地姿勢から横に転がってかわす!
冷気を浴びた背後の施設外壁は一瞬のうちに真っ白に凍りつき、バラバラと崩れる!


ミラ「捕まえてみろ!イヤーッ!」バッ ビュビュビュンッ


 ミラはバックジャンプを繰り出し、空中からスリケンを投げ散らしながら壁の穴の奥に飛び込み屋内を逃走!
コリ・ニンジャたちをタモツたちから引き離すため、徹底的な逃げの姿勢だ!


グレイシア「ウカツ!追いなさい!」

アイシクルランス・サターン「「ヨロコンデー!」」ダッ


 三人はそれを理解しながらもなお、自らの任務を最優先してミラを追う!


 一方タモツと労働者たちは鉱山施設を駆け、スノーモービルのある倉庫に向かう。
白い息を残して雪を踏み分け、ひたすら走る……


スノーウィンド「待て……!」ザッ


 おお、ナムサン!倉庫まで後一歩のところでスノーウィンドが立ちはだかった!
ミラが分かれたのを察知して姿を現したのだ!
腹の包帯に血を滲ませているが、ジゴクめいた形相で睨みつける姿は労働者たちの恐怖を煽るのには十分すぎる!


スノーウィンド「ナメた真似をしてくれたな、貴様ら……皆殺しだ!」

労働者C「ま、またニンジャ!?アイエエエーッ!」ジャキッ


 BRATATATA!恐慌した労働者が銃撃!


スノーウィンド「イヤーッ!」バッ ブンッ


 スノーウィンドは側転でかわし、コリ・ソニックカラテで反撃!BOOM!


労働者C「アバーッ!」カキーンッ


 KBAM!銃撃労働者は全身を冷凍されて即死!


スノーウィンド「イヤーッ!」ブンッ

労働者D「アバーッ!」カキーンッ


 BOOM!KBAM!また一人!
いかに手負いとはいえ、ニンジャであるスノーウィンドと労働者たちの戦闘力差は圧倒的だ!
たちまち恐慌に陥る労働者たち!


スノーウィンド(そうだ、俺はニンジャなんだ……!俺の邪魔をする奴はどいつもこいつもカラテで殺してやる!)

タモツ「あっ!ミラ=サン!」ビッ


 タモツがスノーウィンドの背後を指差して叫ぶ!


スノーウィンド「何イ!?」クルッ


 スノーウィンドは目を剥いて振り返るが……
そこには雪がしんしんと降っているばかりだ。


タモツ「今だ!」ジャキッ


 BRATATATA!タモツが銃撃!


スノーウィンド「グワーッ!?」バスバス ガクッ


 スノーウィンドは背後から両膝を撃ち抜かれて崩れ落ちる!


スノーウィンド(ハ、ハッタリだと…… )ドタッ


 足の傷、激しく動いて雑に巻いた包帯がずれたことで腹の傷からも出血。
スノーウィンドの意識が急速に薄れていく。
背後から朧げに労働者たちの声。


(今の内だ、早くスノーモービルのところへ!)

スノーウィンド「に、逃がさん……イヤーッ……!」ビュンッ


 倒れたまま、後ろ手にコリ・スリケンを投擲する。


(グワーッ!)

スノーウィンド(当たったか……?)


 しかしその行方は確かめられない。
もはや起き上がる力さえなかったのだ。
やがて、倒れ伏すスノーウィンドを残して脱走労働者たちの声と足音は遠ざかっていく。


スノーウィンド(……非ニンジャのクズにまで出し抜かれるとは……俺こそ最低のクズだな……)


 スノーウィンドは薄れゆく意識の中自嘲しつつ、それでも安らかな気分だった。
冷たい雪が心地よいベッドに感じる。


スノーウィンド(これで死ねる……このクソみたいなモノクロームの人生から解放されるんだ……)


 彼は虚無感と自己嫌悪を重ね、死に救いを見出したのだ……
しかし、おお、ブッダ!
これまで多くの労働者を使い潰してきた彼にインガオホーが訪れる!


アイシクルランス「おいスノーウィンド=サン、その傷はどうした!」


 雪を踏んで駆け寄ってくるのはコリ・ニンジャ三人衆の一人、アイシクルランス!
ミラに撒かれてしまい、散開捜索中だったのだ!


スノーウィンド(!?今更来てどうしようというんだ、放っておいてくれ!死なせてくれ!)

アイシクルランス「待っていろ、今手当てをする」

スノーウィンド(何だと!?ミラ=サンは止められなかったくせに、なんでこんな時だけ手際がいいんだ!)

スノーウィンド「ああ、ううう……」


 スノーウィンドは心中で叫んだが、口からは無意味なうめきが出るばかりだ。
アイシクルランスはメディ・キットを広げて憎たらしいほど適切な応急処置を始めた。


アイシクルランス「気をしっかり持て、傷は浅いぞ。膝はサイバネになるだろうが仕事は続けられる」

スノーウィンド(知った風な口を聞くな!仕事さえも俺には苦痛のタネでしかないんだ!ヤメロ!ヤメロー!……アッ)


 スノーウィンドのニンジャ自律神経が「生存可能」と結論した。
彼は絶望に打ちひしがれて気絶した。


ミラ「ここか……!」タタッ


 ミラは労働者たちに遅れて倉庫へ到着した。
入り口のシャッターはこじ開けられ、すでに何台ものスノーモービルが発進した形跡がある。
残っているのは一台のスノーモービルと、その上に腰かけた一人の青年。


タモツ「来たか、ミラ=サン……」

ミラ「ミレノ=サン!なんで先に行かなかったの?」

タモツ「ハハ……」グイッ


 タモツは大儀そうにマシンガンを持ち上げる……脇腹に、氷でできたスリケンが深々と突き刺さっていた。
ハッとして彼の足元を見ると、その傷から流れた血で血だまりができていた。


ミラ「それは……!」

タモツ「逃げる途中、ニンジャに出くわして……うまくやりすごしたと思ったんだけどね……ゲホ、ゲホッ」

ミラ(……私のせいか?私がミレノ=サンを巻き込んだから?)


 ミラは心臓にクサビを打ち込まれたかのような痛みを錯覚した。


タモツ「このスノーモービルを使って逃げるんだ、ミラ=サン……俺は置いて行ってくれ」

ミラ「わ、私が運転するから、後ろに乗って……!」

タモツ「ダメだ。あの三人はまだ追ってくるんだろう?二人乗りじゃスピードが出ない。足止め要員だって必要だろう?」


 ミラは口ごもった。
タモツは達観した表情で灰色の空を眺めた。


タモツ「……ミラ=サンのせいじゃない。俺が選んだことだ……俺は、証明したかったんだ」

ミラ「証明……?」

タモツ「ああ。いつのまにかこんなに落ちぶれちまったけど、やる気を出せばやれるんだって、幼稚な考えさ。理由なんて、どうでもよかった、ゲホッ」


 タモツは血を吐いた。
ミラはうつむき、手をわななかせる。


ミラ「……幼稚なんかじゃ……幼稚なんかじゃない、ニンジャを相手に、こんなに……!」

タモツ「……ありがとう。君一人だけでも、そう言ってくれるだけで……さあ、もう行け」


 タモツは銃でスノーモービルのほうを示した。
ミラは一瞬躊躇した後、それに乗り込み、エンジンをかけた。
エンジンが無感動に唸り始める。


ミラ「……忘れないわ、あなたのこと」


 答えはなかった。
ミラはスノーモービルを発進させた。
もう、振り返らなかった。

 数分後、グレイシアがミラの後を追って倉庫に到着した。
もっとも新しいスノーモービルの走行痕を見抜いて目で追うが、その先はすでに雪山の圧倒的な白の中に消えている。
彼は苛立ちのままに、燃料缶の上の死体を蹴り飛ばした。
死体は裏口のドアを突き破って地面に転がる。
やがて雪が降り出して降り積もり、すべてのサツバツをモノクロームの世界の中に沈めていった。


 ツクシ山中、コリ・ニンジャ傭兵団本部。


カースドハンド「本当に大丈夫なんだろうな?」

アバランシェ「心配性な奴だな、ダイジョブダッテ!」


 二人は薄暗く、やや肌寒いザシキに座っていた。
黒装束のカースドハンドと、白装束のアバランシェ……両者ともニンジャである。


カースドハンド「元カタナハントだってんで疎まれたりしないか?それに俺は、こんな腕だから……」


 カースドハンドは空っぽの右袖を見下ろす。


アバランシェ「クリンフロスト=サンはそんなみみっちいお方じゃないぜ、経験者は優遇されるくらいだ」


 ノックとともにショウジ戸が開き、氷でできた兵隊が姿を現した。
本部を警備するニンジャ・ジェネラルウィンターのジツで作り出されたオートマトンだ。
氷穴に響くような声で喋りかける。


氷兵『失礼シマス。カースドハンド=サン、首領ガオ会イニナリマス。コチラヘドウゾ』

カースドハンド「ハ、ハイ……」

アバランシェ「くれぐれもシツレイだけは無いようにな!」


 カースドハンドはアバランシェに見送られてザシキを出た。
氷兵に先導されて縁側を進む。
今は夏のはずなのに、横の庭には雪がしんしんと降っている。
カースドハンドはここがコリ・ニンジャの巣窟であることをあらためて思い知った。


 やがて氷兵が一つのショウジ戸の前で止まり、縁をノックする。


カースドハンド(ここに傭兵団のトップが……?)

氷兵『失礼シマス。カースドハンド=サンガイラッシャイマシタ』

「入れ」


 部屋の中から答えがあった。
氷兵がショウジ戸を開けて部屋の中へ入り、カースドハンドもそれに続く。
中は狭いザシキだった。
カースドハンドを案内してきた氷兵が右奥に座り、左奥にいた氷兵とあわせて左右に控える形となった。

 その奥にあるのは一段高いタタミ玉座だ。
「氷の部屋」とショドーされた白いノレンで区切られた、平安貴族めいたゴザショである。


「ドーモはじめまして、カースドハンド=サン」


 ノレンの奥でオジギする気配があった。


クリンフロスト「コリ・ニンジャ傭兵団首領、クリンフロストです」


 想像よりずっと高くて細い声だ。
しかし凍りつくような緊張感があった。


カースドハンド「ド……ドーモはじめまして、クリンフロスト=サン。カースドハンドです」


 カースドハンドはアトモスフィアに圧倒され、汗を流しながらオジギした。
首を伝う汗が急速に冷えて、凍りつくのがわかった。
寒い。
この部屋は外にもまして寒いのだ。


クリンフロスト「そなたのように経験豊富なニンジャを傭兵団に迎えられること、実に喜ばしい。それもこの美しい雪の日に……もっとも、この一帯は何十年も雪が降り続いているが」

カースドハンド「は……イエ、私など、傭兵団の皆さんに比べればニュービーで……」

クリンフロスト「ニュービーなのか?では雇うのはやめようか」

カースドハンド「!?エッ、それは……」

クリンフロスト「冗談だ、フフフ……」


 クリンフロストはノレンの奥で笑いを漏らす。
カースドハンドはまるっきり生きた心地がしなかった。


クリンフロスト「しかし、アバランシェ=サンから堅実で実直なニンジャと聞いているが、それがどうしてカタナハントをヌケニンすることになったのだ?」

カースドハンド「……半年前、カブナカマとの戦闘で右腕を失いまして……同時に、右手から発動していたノロイ・ジツも失いました」


 カースドハンドは再び苦々しげに右袖を見下ろした。


カースドハンド「すると任務失敗の責任を押し付けられたりと、冷遇が目立つようになり……これまで精一杯尽くしてきたつもりだっただけに、耐えられず……」


クリンフロスト「なるほど……憂い話よな」

カースドハンド「は……しかしこれからは片腕は片腕なりに、全力で傭兵団の一員として貢献させていただきたく……」

クリンフロスト「うむ。では、近う寄れ」


 左右の氷兵がおもむろに立ち上がり、カースドハンドのほうへ近寄る。


氷兵『オ手ヲ』グッ

カースドハンド「ハ、ハイ」スッ


 氷兵たちはカースドハンドをゴザショの前へ導き、その左手を左右から掴み、ノレンの中へ差し入れた。
カースドハンドはその手にクリンフロストが軽く触れるのを感じた。
しなやかで、冷たい手……そう、冷たい……冷たすぎる!


カースドハンド「!?グッ、グワーッ!?」ミシミシ


 カースドハンドは自分の左手が凍りついたように感じ、反射的に引き戻そうとした。
しかし左右の氷兵が離さぬ!
クリンフロストも彼の左手を握りしめ、さらに冷気を送り込みつつ哄笑!


クリンフロスト「MWAHAHAHA、BWAHAHAHA!」グググ

カースドハンド「グッ、グワーッ、グワーッ!何を!離して……離せ!」パキパキパキ

クリンフロスト「何故嫌がる?コリ・ニンジャになりたいのだろう、覚悟を決めろ!イヤーッ!」グググ

カースドハンド「グワッグワ、グワーーーッ!」ピキピキピキ


 カースドハンドの体内を冷たいエネルギーが駆け巡った。
全身を何度も何度も繰り返し氷漬けにされるような錯覚。
意識が飛びかけたとき、クリンフロストと氷兵たちが左腕を離した。


カースドハンド「グッワ……ハアーッ、ハアーッ、ハアーッ!」


 カースドハンドは両手をタタミに着いて荒く呼吸した……両手?
カースドハンドは自分の右腕を見た。
粗削りな氷塊が腕を形作っていた。


カースドハンド「これは……」

クリンフロスト「腕をくれてやった。コリ・ジツもだ」


 カースドハンドの意のままに、氷の義手は生身のごとく滑らかに動き、握り、放す。
ジツの発動を意識すると、その手のひらから微かに白い冷気が漏れた。
気づけば、全身の装束も真っ白に変わっていた。


クリンフロスト「今日この時より、お前は最強の軍団コリ・ニンジャが一人、『チルドハンド』だ」

チルドハンド「チルド……ハンド……」

クリンフロスト「訓練次第でコリ・ノロイジツと言うべきものも使えるようになろう……礼くらい言ってもいいのだぞ」

チルドハンド「……ハイ……アリガトウゴザイマス……」


 チルドハンドは呆然として、半ば夢うつつのままオジギした。


クリンフロスト「うむ、これから一年はここで鍛えなおすことだ……紹介してきたのはアバランシェ=サンだったか?施設は彼に案内してもらうがよい」


 チルドハンドは氷兵の一人に伴われて退室した。
これから雪山で厳しい訓練を積んで一人前の傭兵となった後、キューシューのどこかの戦場に派遣されることとなるだろう。
過去に同様のプロセスでクリンフロストの「祝福」を受けた何人ものニンジャと同じように。


クリンフロスト「フウーッ……」


 クリンフロストはノレンの奥で細く溜息をつき、横のタク・テーブルから冷やしマッチャのお椀を取って一口飲む。
そのときショウジ戸の反対側の壁が回転して、その奥から一人のコリ・ニンジャが入室した。


コキュートス「ドーモ、クリンフロスト=サン。コキュートスです」ペコリ


 そして慇懃にアイサツした。
武器は帯びていないが、その所作からはただならぬカラテがにじみ出ている。


クリンフロスト「おや……ドーモ、コキュートス=サン。クリンフロストです……何かあったかね?」ペコリ

コキュートス「は、二件ほど……その前に少し、シツレイします」


 コキュートスは後ろ手にドンデンガエシを閉じ、会釈しつつノレンの前を横切って、ショウジ戸を開けて縁側を見回した。
人の目がないことを確認すると、クリンフロストの正面に戻って正座した。


クリンフロスト「壁に耳あり、か?……話せ」

コキュートス「では一件目から……マウント・セフリのエメツ鉱山が『ニンジャ殺し』の襲撃を受け、カタナハント側のネゴシエーターが死亡しました」

クリンフロスト「ほう、例の……フフ、アグレッシブなことよな。コリ・ニンジャの損害は?」

コキュートス「鉱山責任者のスノーウィンド=サンが負傷しました。命には別条ないとのことですが」

クリンフロスト「運の強い奴だ。どちらにしろケジメしてもらわなければならんが……カタナハントに連絡員を送って、言い訳させておけ。二件目は?」


コキュートス「は、人目をはばかるのはそれでして……コトダマパルス分析を通して、『セイソ・ニンジャ』のニンジャソウルの憑依が確認されたとのことです」

クリンフロスト「ほう」


 クリンフロストのアトモスフィアがいくらか熱を帯びた。


クリンフロスト「場所は?憑依者の詳細はわからんのか?」

コキュートス「何分発展途上の技術ですので、北キューシューのどこか、としか……」

クリンフロスト「北キューシューか……人口が多いのは、ノースキューシュー……あるいは、ネオフクオカか」

コキュートス「手が遅れれば、カタナハントかカブナカマにスカウトされるおそれも……」

クリンフロスト「……フフフ、しばらく忙しくなりそうだな」


 ……今日もツクシには雪が降り続く。
白黒の景色はどこまでもどこまでも続き、地平線の向こうまでも飲み込まんばかりだった。


◆忍◆ ニンジャ名鑑#20 【シューゲイザー】 ◆殺◆
 カタナハント・ユニオンのニンジャ。
主に企業や他組織との交渉役を務めるニンジャ・エージェントである。
東ツクシでコリ・ニンジャ傭兵団を相手に足元を見たビジネスをしていたが、ミラの襲撃を受けて殺された。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#21 【スノーウィンド】 ◆殺◆
 コリ・ニンジャ傭兵団のニンジャ。
ソウル由来のソニックカラテとクリンフロストからもたらされたコリ・ジツを組み合わせ、離れた相手を瞬時に凍結して殺すコリ・ソニックカラテを編み出した。
監督していた鉱山がミラの襲撃を受けたが、幸運にも生き残った。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#22 【グレイシア】 ◆殺◆
 コリ・ニンジャ傭兵団のニンジャで、本部直属の精鋭部隊の一員。
ビッグカラテとムテキ・アティチュードとコリ・ジツを巧みに使いこなす、傭兵団内で五指に入るワザマエの持ち主。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#23 【アイシクルランス】 ◆殺◆
 コリ・ニンジャ傭兵団のニンジャで、本部直属の精鋭部隊の一員。
氷の鎧を着込み、氷のニンジャランスを振るって戦う。
トイはナイトニンジャのリペイントで、メーカーに「主人公の宿敵の姿を軽々しく流用するな」という苦情が殺到した。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#24 【サターン】 ◆殺◆
 コリ・ニンジャ傭兵団のニンジャで、本部直属の精鋭部隊の一員。
氷塊を周囲に旋回させたり射出したりするコリ・サテライトジツは攻防一体。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#25 【アバランシェ】 ◆殺◆
 コリ・ニンジャ傭兵団のニンジャ。
攻撃してきた相手をコリ・カラダチで凍結しタタミ・ケンで打ち砕く初見殺しの持ち主。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#26 【クリンフロスト】 ◆殺◆
 コリ・ニンジャ傭兵団首領。
コリ・ニンジャクランの「ヒムロ・ニンジャ」のソウルを宿し、強大なカラテとコリ・ジツを操るほか、他のニンジャを祝福しコリ・ジツを与えることができる。
その正体は謎に包まれているが、熱烈なリアルニンジャ・ワナビーであるとされている。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#27 【ジェネラルウィンター】 ◆殺◆
 コリ・ニンジャ傭兵団のニンジャで、本部警備部隊の筆頭格。
コリ・カゲムシャジツによって氷でできたオートマトンの兵隊を作り出して操る。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#28 【チルドハンド】 ◆殺◆
 カタナハント・ユニオンからコリ・ニンジャ傭兵団へ移籍したニンジャ。
氷の義手で触れた相手の血中カラテ粒子の流れを凍結するコリ・ノロイジツの使い手。

◆忍◆ ニンジャ名鑑#29 【コキュートス】 ◆殺◆
 コリ・ニンジャ傭兵団のニンジャで、首領クリンフロストの側近。
コリ・キリングフィールドジツは格上の敵でもジゴク送りにしうる恐るべきヒサツ・ワザだ。

以上で完結となります
お読みいただきありがとうございました
原作でも最近増えてる艦名直訳ニンジャネームはオシャレだけどネタ切れ感じるんでしたよね

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