キョン「パルクール?」 (6)

〜夏、文芸部室〜

ハルヒ「『ヤマカシという名前は、コンゴの言語であるリンガラ語で"強靭な精神"、"強靭な肉体"、"強靭な人物"、"忍耐力"などを意味する語に由来する』」

最高気温36℃の猛暑日に、わざわざあの照り返しの焦熱地獄の坂を完登してまで屯する程の価値が、この空調設備もないうらぶれた部室に果たしてあるだろうか。
いや、ない。
汗ばんで上気した朝比奈さんのご尊顔を至近距離で拝める事を考慮に入れてもだ。

古泉「それ、知ってますよ。確かリュック・ベッソンが手掛けた仏映画ですよね」

あと、ハルヒは一体何を言っているんだ?こいつも暑さで変になったのか?
ぼんやりとそんな事を思ってから、自分の思考が誤った方向へ進んでいた事に気付いた。
そういえば、こいつは元から変だった。

ハルヒ「正確には、ヤマカシっていうのはそのキャストの人らの組んでるチームの名前なんだって。実在の集団ってWikipediaに書いてある」

ヤマカシ、ハルヒの口から出てくるのはそういう音の組み合わせだった。
心なしか響きが日本語っぽいが、ハルヒはコンゴの言葉だと言っていた。
何を思ってコンゴのナンチャラ語の説明が映し出されているPCの画面を唐突に読み上げ始めたのか、全くわからないし、そういうハルヒの行動について「わかった」と思った事は一度もない。
それでも古泉はハルヒの与太話に付き合っていく。それがあいつの仕事だからな。

古泉「らしいですね。役者がすべてガチンコでアクションをやっているという触れ込みで、記憶に残っている人も多いようですから」

マジで暑い。

みくる「長門さん、アイスクリームなら何の味が好きですか?」

長門「……チョコミント」

ハルヒ「ねぇキョン、これ見てよ」

パイプ椅子の上で力無くふやけていた俺に、ハルヒが声をかける。
しかし、見よ、このホセ・メンドーサに敗れた矢吹丈と寸分違わぬポーズを。俺はもう動きたくないんだ。
そんな事を思いつつも、椅子から立ち上がってPCの方へのろのろと向かってしまう俺の体。習慣とは怖ろしいものである。
いや、それよりもっと怖ろしいのはハルヒの機嫌を損ねる事だ。

キョン「……なんだ?」

ハルヒ「ねぇ、これめちゃくちゃ凄くない?」

PC画面の中で、外国人の男たちが建物の2階からコンクリートの地面へ向かって飛び降りたり、フェンスを飛び越えたり、壁をよじ登ったり、かと思えば、そこかしこで宙返りをしたりしている。
なんだ、軽業師の動画なんか観てたのか。
某成龍の真似事でジャングルジムのてっぺんからえいやと飛び降り、膝小僧を血だらけにしていた、そんな小学生時分の青い衝動を思い出すな。

キョン「こんなもん観て、まさか映画の続編でも撮ろうってんじゃないだろうな。いくら運動神経抜群のお前でも、こりゃあ無理だ。あまつさえ俺になんか、逆立ちしたって無理だ」

そもそも、逆立ちするのが無理だ。

ハルヒ「違うわよバカキョン。だいいち私は監督なんだから……って、そうじゃなくて、これ」

ハルヒがタブを切り替える。
Wikipediaの……何だこれは?聞いたことがない言葉に関するページが開かれていた。

キョン「パルクール?」

朝比奈さんの淹れて下さった冷たい麦茶のコップはもう汗だくになって、自身の周りにちょっとした水溜りを作っている。

キョン「パルクール?」

ハルヒ「そ、みんなでこれやるわよ」

すみません、長門大先生。一先ず不思議な力で俺たち全員のライフを99機にして頂いてもよろしいでしょうか?

キョン「ハルヒ。その山伏とやらに比べたら俺の耐久力はスペランカーみたいなもんだ。死ぬならお前だけにしてくれ。墓にはSOS団長と彫っておいてやるからな」

ハルヒ「私も最初は、こんなの銀幕の中だけのスタントだと思ってたわよ。ところがね、色々調べてみたんだけど、これって海外じゃ普通にスポーツとして流行ってるんだって。あと、ふざけた事言ってると殺すわよ」

みくる「今サーティワンでダブルを頼むと、サイズアップしてくれるんですよ。あとで駅前のサーティワン行きません?」

長門「……行く」

ここVIPじゃなくてRやん……間違えたので、削除して立て直します。

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