「ハイ!シガンシナ区出身、北野誠一郎です!」(24)

夢もなく、希望も失せ、情けは消えかかり、世紀という言葉すら無い混沌の時代において…
天使のように純朴で、澄みきった心を持つ少年がいた…

その少年の名は、北野誠一郎。
彼には顔のよく似た父がおり、恐ろしく美しい母がいる。

巨人が跋扈する世界を拒否するかのごとく、巨大な壁を備えた小さな国において…
父が駐屯兵団員として壁内の治安を守り、母は家庭を支えるという彼の家族環境は、さほど特殊という訳でも無かった。
むしろ普通とさえ形容できた。彼の家系に続く、ある特徴を除いて…



ともかく、天使の伝説は、彼の父がシガンシナ区に異動になった日から始まった。

兵団員1「新人?この時期にか?」

兵団員2「らしいぜ。お偉いさんからのお達しさ。なんでも、こういう所に向いてる人材らしいぜ?」

兵団員3「お偉いさんって…まさかピクシス司令からの通達か?」

兵団員2「そこまでは知らねえよ。上の考えなんて、俺たちにはどうでもいいだろ?しかもここに向いてるってよお……きっと俺らが何やってんのかも知らない連中の人事か、もしくはただの島流しだぜ?絶対」

兵団員1「島流しね……ま、そうだろうな。ここにいたってやること無いしな。たまにこうやって壁の上で酒飲むか、いつものように街で酒飲むかが俺たちの仕事。つまらんものさ」

兵団員2「おいなんだよ、忙しい方がいいのか?巨人と戦うなんてまっぴらだぞ」

兵団員1「そこまでは言ってねーよ。俺だってこの平和を死ぬまで享受したいさ。ただ冗談を抜きに言っても、毎日の仕事が酔っ払いボコるか、色恋沙汰の仲裁か、クソガキが泥棒しないよう見張ってるかだけってのも、なんかなって思ってよー」

兵団員3「はは、確かに…」

兵団員2「にしても、島流しか……なにやらかしたんだろうな、そいつ」クスクス

兵団員1「そんなの俺が知るかよ。どうせサボりすぎたか、着服でもしたんだろ」ハッ

兵団員3「上官の女でも寝取ったか?」

兵団員2「お、いーねー!好きだよそういう奴!大歓迎!」

兵団員1「おいおい」ハハハ

?「すみません、シガンシナ区に新しく配属された者なのですが、よろしければ挨拶のお時間を少々…」


兵団員1「ん?」

同時刻、シガンシナ区のとある路地裏…


不良少年1「へっ!またエレンか!アルミンを殴るといつも現れやがる!そいつの親でも気取ってんのか!?」

エレン「うるせぇ!てめぇら今度こそぶっ飛ばしてやる!」

アルミン「だ、ダメだよエレン!前もそう言って返り討ちに…」

ミカサ「そう、エレンだけではダメ。でも今度は私がいる」

不良少年2「またミカサに頼んのか?なっさけねぇ」

エレン「頼ってねえよ!」

ミカサ「いいや、エレンはもっと私を頼るべき。それに、あいつも仲間に頼ってる」

不良少年達「へへ…」ズラーン

不良少年1「俺たちはいいんだよ。ミカサは1人で4男人分だ。こういうのコーヘーって言うんだろ?」

エレン「ぐっ…」

ミカサ「エレン、今のは言い返してほしかった」

アルミン「汚いぞ……数に頼らないと何も言えないのか!?」

?(あれ?なにかモメてるみたいだ。何があったんだろう…)

同時刻、シガンシナ区のとある路地裏…


不良少年1「へっ!またエレンか!アルミンを殴るといつも現れやがる!そいつの親でも気取ってんのか!?」

エレン「うるせぇ!てめぇら今度こそぶっ飛ばしてやる!」

アルミン「だ、ダメだよエレン!前もそう言って返り討ちに…」

ミカサ「そう、エレンだけではダメ。でも今度は私がいる」

不良少年2「またミカサに頼んのか?なっさけねぇ」

エレン「頼ってねえよ!」

ミカサ「いいや、エレンはもっと私を頼るべき。それに、あいつも仲間に頼ってる」

不良少年達「へへ…」ズラーン

不良少年1「俺たちはいいんだよ。ミカサは1人で男4人分だ。こういうのコーヘーって言うんだろ?」

エレン「ぐっ…」

ミカサ「エレン、今のは言い返してほしかった」

アルミン「汚いぞ……数に頼らないと何も言えないのか!?」

?(あれ?なにかモメてるみたいだ。何があったんだろう…)

不良少年達「………」ズラーン

?(うっ、なんか大勢で3人組の前に立ちはだかってるぞ。3人組は僕と同い年くらいだろうか)

?(どうしよう…この大勢の人だかりに声をかけるべきだろうか……でもいきなり後ろから声をかけられたら、きっとみんな驚くんだろうな…)

?(ぼく、結構怖い顔みたいだし…)

?(………)



?(でも、ここで僕がウジウジしてるせいで、あの3人組がいじめられてしまうかもしれない)

?(怪我だってするかもしれないじゃないか…そんなの、ダメだよ…3人のうち2人は女の子じゃないか…)

?(女の子なんだよ?それを集団で虐めて、何になるっていうんだ。そんな事のどこに楽しみを見出せるっていうんだ)

?(よ、よし、決めたぞ。後ろからこの集団に話しかけて、僕が囮になろう!そうすればきっと、あの3人組は逃げてくれるはずだ!)

?(せーので行くぞ!せーのっ…)

シガンシナ区にやって来た、1組の家族。
彼らとのファーストコンタクトによって、シガンシナ区に住むごく一部の人々は思い出した。

いや、正確に言えば思い出すという表現は適さない。それは恐らく、最終的には思い込みと言えるような思考であろう。
だが、それは確信のようであり、本能に刻まれていたような異様な真実味を帯びていたのだ。
だからこそ、彼らを見た者はみな、思い出すのだ。




?「「あの、ちょっといいですか?」」



奴らに支配されていた恐怖を…



鳥籠に囚え、羽を毟り、火を投げ入れる者の無慈悲さを…

北野龍一郎「エルミハ区出身の北野龍一郎です。よろしくお願いします」

兵団員1「!!!!」



北野誠一郎「やあ……なに、してるのかな?」

不良少年1「!!!!!」


彼らの目は、極端に黒目が小さい。
生来の肌の色白さは、年中ある目の下のクマとともなって麻薬中毒者のようであり…
眉毛も異常に薄く、寝癖の酷い髪はポマードでビッシリと固められているのである。
そんな貌をした同年代から見ても長身の男に対して、剥き身の闘争などには縁もゆかりも無い人間がかける言葉は、たったひとつ。


「なな、なんだお前はーーっ!!」


それなりの年数を生きた彼らが月に一度は聞いている言葉が、今日も2人に投げつけられた。

首めっちゃ痛いからもう寝る。
速報VIPで書いてたSSがサーバー復旧作業中に期限来て落ちたから、ここで息抜き執筆。
速報VIP復活したらエタるかも。でも結末までは考えてる。
おやす

つーかここ書きにくすぎる。
寝る

誠一郎「え?あ、ちょっと誤解してると思うんだけど…」

不良少年1「がが……」

不良少年2「ごご、誤解だぁ!?ななな、なん…」

エレン「は?……はぁ?…」ガクガク

アルミン(巨人だっ!!!)ガクガク

ミカサ「う、うわああああああああ!!」ダッ

誠一郎「あっ、ちょっ…」


悲しきかな、子供全員が自分を見て凍りつくことも誠一郎は予想していた。
だが悲しきかな、凍りついた子供達の1人、それも助けようとしていた3人組の1人が駆け出して、自分に向かって拳を振り上げてくることは予想外だった。
内気で心優しく、自分を臆病者だと思っている男が、そんな突発的な危機に正しく対応できるはずもなかった…


誠一郎「きいいいやへえええええ!!!」(やめてー!)


誠一郎は自分の欠点を自覚していた。緊張した状態で大声を出すと、呂律が回らなくなるという欠点を。
その欠点を毎日直そう直そうと努力はしているが、その努力は毎日無駄に終わるのである。克服できないからこそ欠点なのだ。

底知れぬ闇から響く、世にも恐ろしい金切り声を聞いて、誠一郎のすぐ目の前にいた不良少年達は失神した。人のモノとは到底思えない咆哮に、彼を襲った女の子さえも急停止して、その拍子に尻もちをついた。


誠一郎(な、なんてことだ…驚くだろうなとは思ったけど、まさかこの人達全員が気絶するなんて…そこまで怖がらせてしまったなんて…)

誠一郎(マフラーの子も焦点が合ってない…お医者さんを呼んだ方が…いやでも、連れて行った方がいいのかな…)


誠一郎には欠点が多くある。1つは顔が怖いことで、2つ目は緊張に弱いこと。
だが3つ目の欠点は、誠一郎本人にも自覚できない…
というより、本来なら人として当たり前のことなので、それは欠点にさえもなり得ないはずなのだ。
考えていることを無闇に声に出さないことなど、誰しもが日々行なっているのだ。
ただ、運命が彼の日々の行いに、なかなか報いてくれないだけなのだ。


誠一郎「さぁ……病院に行こうか…」


誠一郎の言葉を聞き、走馬灯でエレンと遊んでいたミカサは、自分はこれから病院送りにされるんだなと静かに確信した。

エレン「ミ……」

エレン「ミカサから離れろっ!!小型巨人野郎!!」

誠一郎「え!?小型の巨人がいるの!?」はわっ!

エレン「とぼけんじゃねぇ!巨人の分際で人間様の真似ごとかよ!」ダッ

ミカサと誠一郎の間に割って入ったエレンの瞳は、恐怖に抗っていた。
巨人への敵意が、警告を発するエレンの理性を押しのけているのだ。
ミカサはそのエレンの背中を見ることで、ある危機を共に切り抜けたことを思い出し、思考を取り戻した。
そして、ミカサは冷静に考えることができた。

ミカサ「……待ってエレン。その人は巨人じゃない」

エレン「はぁ!?どう見ても巨人だろうが!!」

誠一郎「どう見ても人間でしょ!?」

ミカサ「今のエレンは冷静さを欠いている。巨人はこんなに小さくないし、喋れない。服だって着てないはず。アルミンの本に書いてあったから間違いない」

アルミン「で、でも…本が間違っている可能性も…」

ミカサ「アルミンも冷静ではない。私の知ってるアルミンは、もっと本を信用してる。だからアルミンはいじめられても本の内容を元に反論できるし、本をいじめっ子から守ってる」

アルミン「それは…確かにそうだね…ごめん。冷静じゃなかった…」

ミカサ「分かってくれればいい。エレンにも分かって欲しい」

エレン「分かれって何をだ!こいつは人類の敵…」

ミカサ「敵ではないし巨人でもない。巨人なら、私達はとっくに食べられているはず」

エレン「!」

アルミン「そ、そうだよエレン。そこのいじめっ子達も食べられてないだろ?巨人は本来、無防備な人間であっても食べるって、この前一緒に読んだ本にも書いてあっただろ?」

エレン「………」

アルミン「そ、そりゃ人間とほぼ同じ体格の巨人もいるらしいけど、それなら今頃壁の中は大騒ぎだよ。それに彼が服を着てるってことは……その事実自体が、彼が壁の中の流通の恩恵に預かっているって証拠になるはずだよ。買い物をする巨人なんて、駐屯兵団が見逃すはずないじゃないか」

エレン「……どーだかな。ハンネスさんは今日も飲んでただろ」ジロリ

アルミン「そ、それとこれとは別だよ!ハンネスさんだってきっと、巨人が壁を超えてやってきたら戦うさ!僕らが壁の兵団を信じてあげないでどうするの!?調査兵団をバカにしてる人達と、エレンは違うだろ!」

エレン「………」

エレン「…分かったよ。調査兵団に免じて、コイツを人間だって思ってやるよ」

誠一郎(それってようするに、僕まだ巨人扱いされてるってことじゃ…)

エレン「おい、お前、名前なんて言うんだよ。人間だったら名前もあるだろ」

誠一郎「あ、北野…北野誠一郎です」

エレン「キタノ…セイーチロウ?変な名前だな」

アルミン「名前の響きじゃないかな?なんというか…ミカサの苗字と発音の形が似てる気がする…」

ミカサ「全然似てないと思う」

アルミン「そう、かな……考えすぎかな」

エレン「似てるとか似てないとか、そんなもんどうでもいいだろ?それよりお前、またアイツらに殴られてたろ。怪我とか大丈夫なのか?」

アルミン「あ、大したことはないと思うよ…痣は何日か残るかもしれないけど…」

エレン「ちくしょう、あいつらが起きたら今度は俺が寝かしつけてやる」

誠一郎(なんか…暴力的だぁ…)

誠一郎と3人組が出会い、しばらくして…
エレンは未だ誠一郎への警戒心を解いていないものの、ミカサとアルミンは、誠一郎に対してそれなりに平常心を保って接するくらいには、雰囲気を柔らかくしていた。
会話の力を信じているアルミンは、話せば分かる人だと思った人物とは打ち解けることができる。
ミカサにとってエレンは宝物であり、愛情と保護の対象ではあるが、ミカサにとっての友情と信頼の対象はアルミンだ。
明らかな間違いを犯していない限り、ミカサはアルミンを信用するのだ。
もちろん、そのアルミンと会話している人物についても…


ミカサ「それで、シガンシナ区に来たの?」

誠一郎「うん。父さんは元々憲兵だったんだけど、なんか仕事先で誤解されちゃったみたいでさ。駐屯兵団に転属になったうえで、ここに送られたんだ」

アルミン「所属兵団が変わることってあるんだ……一体、きみの父さんはどういう誤解を受けたの…?」

誠一郎「それは知らない。父さんもあんまり気にしてないから、深く追求しなかったみたいなんだ。父さんも色々誤解されるタイプだから、もう慣れっこって感じなんだろうね」

アルミン「は、はは…」

誠一郎「まぁ、いつかみんな分かってくれるよ、うん」

ドドドォーーン!!!

誠一郎「うわわっ!?」

エレン「うおっ!?」

グラグラグラ…

ミカサ「地震…!?」

アルミン「いや、違う……多分…」

少し時間をさかのぼり、北野龍一郎はというと…


龍一郎「なんだお前とは、随分失敬ですね。私は今日からあなたがたの同僚ですよ」

兵団員1(こ…こいつ…この顔…この風体!こんな巨人みたいなヤツがこんな僻地に送られる理由なんて、たった1つしかないっ!)

兵団員1(人類憲章…違反者っ!!それも明確な証拠の上がらん、一番タチの悪い野郎だ!!)

兵団員1(きっとどこかの貴族を殺すなり、身代金でも要求するなりを下っ端にやらせ、そいつを始末したうえで保身の為にここに移りやがったんだっ!!それ以外に、こんなデカい産業なんかも無いところに、こんな大悪党が現れるわけがない!!)

兵団員2「武装解除しろてめぇーっ!!立体機動装置を捨てて手を広げ、腹ばいになれっ!!」ガチャッ

兵団員1「なっ!?」

龍一郎「お断りします」

兵団員3「さ、さすがに銃を向けるのは…」

兵団員2「うるせえ!!やらなきゃやられるんだよ!!テメェも死にたくねえだろうが!!お前はそいつを取り押さえて立体機動装置を取り上げろ!!腕章も剥がせ!!」

兵団員3「わ、分かったよ…ほら、装備を渡せ」

龍一郎「上官命令なら分かりますが、あなたは私と同階級です。お断りします」

兵団員3「いいから、ほら渡せって!」ガシッ


兵団員3「!?」


兵団員2「おい、なにしてんだ。早く引っぺがせよ」

兵団員3「だ…だめだ…ビクともしない…」グググ…

兵団員2「は、はぁ?おいおいふざけてる場合かよ。早くぶんどっちまえって…」

兵団員3「クッ…!!」グググ…

兵団員1「おい、マジかよ…」

兵団員2「クソッ!どけ!俺がやる!」ダッ


龍一郎の同僚達は、それからも交代で龍一郎から装備一式を奪おうとしたが、龍一郎の手からは立体機動装置が離れることは無かった。
仕方なく腕章だけを取り上げたものの、それでも臆さない龍一郎に、とうとう…

兵団員2「はぁ、はぁ、そうかい…ま、いいだろう…」

兵団員2「そっちがそのつもりなら俺たちとしても考えがある…この件は出すところに出してやるからな…」


兵団員の1人が、龍一郎の何某かを報告すると言い出した。
龍一郎はそうなることも想定していたが、態度を変えようとはしない。
何せ本当に何も悪いことはしていないのである。


龍一郎「私を開拓地送りにでもするつもりですか。罪状はなんです?」

兵団員2「そんなもん探せば見つかるだろ。デチ上げたっていい。お前の顔は分かりやすいからな。お前のやってきたであろう数々の罪に…」

龍一郎(ああ、またこういう流れか。仕方がない。こういう問題は時間が解決してくれるのを待つしかない)


龍一郎がうっすらと、自分の今後について思いを巡らせ始めた時…


ドドドォーーン!!!


黄色い稲光と、激しい縦揺れの地震が、誠一郎を含めた兵団員達を…
いや、シガンシナ区全土を揺らした。

龍一郎「ごほっ!ごほっ!」

龍一郎(何が起きた?…大砲の誤爆か?いや、今は作戦行動中ではない。弾も装填されていないはず…)

兵団員2「てっ、てめえ!やっぱり反乱分子かーっ!!」

龍一郎「いえ、だから違いま……ん?」

龍一郎(煙が晴れていく……風も無いのに、どうしてだ?)

兵団員3「あっ!!!」

兵団員2「なんだ!?どうした!?」

兵団員3「きょ…巨人……巨人だ…」

兵団員2「ああ!?巨人なんて壁の外にごろごろ…」


兵団員2「!!!」

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom