モカ「あたし、泣くと思うよ~?」 (24)

モカちゃんの誕生日ということで、明日から学校ですがssを書いていこうと思います。

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 日曜日の夕方。街中は喧騒に包まれ、人や車がそれぞれの速度で、スタジオで練習を終え、帰路についていた蘭とモカの隣をすれ違っていく。

蘭「・・・モカ、危ない」

 隣にいる蘭がすれ違う人と接触しそうになるモカの袖を引っ張って自分の方に引き寄せる。

モカ「あ、おっと・・・。あぶないあぶない」

蘭「注意力無さすぎ・・・。飴一つで人についていったりしないでよ?」

モカ「あ~、モカちゃんその経験あるよー?」

蘭「・・・は?誘拐されたことあるの?」

モカ「流石に飴一つではついていかなかったけど・・・パンに釣られたことはあるよ~」

蘭「同じようなことじゃん」

モカ「その話、聞きたい~?」

蘭「・・・じゃあ、聞く。どうせ歩きながらやることなんてないし」

モカ「・・・そう、あれは忘れもしない、何年か前の春か夏か秋か冬か・・・」

蘭「完璧に忘れてるね」

 休みの日の朝ほど心地よい時間はない。
 モカは半開きの目を擦りながら目覚まし時計を確認する。
 9時49分・・・よし、あと6時間は眠れる。二度寝サイコーー・・・
モカの母「モカ!いつまで寝てんの早く起きなさい!」

モカ「・・・はーい」

 最高の時間は母の怒号によりあっけなく終焉を迎える。小学生の身分では十分な反撃もままならない。

 さらに今日は運の悪いことにーー、
モカの母「あら、そういえばモカの分の朝ごはんの食材が無いわね。ちょっとモカ、近くのスーパーでパン買ってきてくれない?ちょうど10時から開くし」

モカ「え~・・・めんどくさい・・・・」

モカの母「じゃなきゃ朝ごはんが冷蔵庫に眠ってた『鍋でカンタンに作れる激辛担々麺』だけになるけど」

モカ「・・・いってきます~」

 近くのスーパーまでは歩いて10分ほどの距離である。朝ということもあり、人通りは少ない。スーパーに行くまでに声をかけられたのは世話好きのおばさんの田中さんのみだった。睡魔がまだまとわりついているため、「あらモカちゃんおはよう」に対して「ん~・・・」しか返せなかったが。
 スーパーで食パンやバターロールを買い、来た道を戻っていく。
 本当にここら辺は人通りが少ないなぁ。周りには誰も・・・

???「そこの女の子、ちょっと良いかな?」

モカ「っ・・・?」

 いきなり電信柱の影からニット帽にサングラス、マスクをつけた中年の男がモカの前に現れる。

男「君のお母さんが倒れたみたいなんだ。僕が車で病院まで連れていくように頼まれたから、さあ乗って」

モカ「ついさっきまでお母さんは元気だったから、倒れるわけ無いよ~」

男「ぐっ・・・じゃ、じゃあオモチャとか車の中にあって楽しいよ?」

モカ「知らない人の車に乗るのはちょっとな~」

男「っ・・・、え、ええい、じゃあ超絶美味しいパン屋さんが出来たらしいから、おじさんが連れていってあげようか!?」

モカ「・・・乗らないの?急いでおじさん」

 男が言い終わらないうちにモカは車に乗り込み、後部座席から発進を待っていた。

モカ「ねえ、まだ~?」

男「もうちょっとで着くからね」

 かれこれ30分は車を走らせ続けている。周りには森林が広がり、建物は少なく、人もいない。あ、でも聞いたことあるなぁ。幻のパン屋さんっていうのは人が少ないところに建ってるとかどうとか・・・。

男「君、名前は?」

モカ「青葉モカ~」

男「モカちゃんね。おうちの電話番号は分かるかい?お母さんにお土産がいるかどうかを聞きたいからね」

モカ「えっと~、確か090・・・(略)・・・だったよ~」

男「ありがとう」

男(ようし、周りには人はいない・・・)

 男が道路の端に車を停め、モカに「ちょっと待っててね」とだけ言い、車の外に出て電話をかけ始める。深呼吸をして、耳元に携帯をあてた。

男「い、いいか!貴様の娘は預かった!返してほしくば200万円用意しろ!」

モカの母『えっ・・・?モカ!?』

モカ「あ、お母さんの声だ~」

男「そうそう。今娘の声をーーってなんで出てきてんだ君は!?」

モカ「あ、こーゆー時は『誰かにこのことを喋ったら人質の命は無いと思え』って言うんだよ」

男「あ、ああそうか。おい、このことを喋ったら人質の命はにゃいと思え!」

モカ「盛大に噛んだね~」

男「あああもういい!」

 男はブツッと電話を切った。

モカ「・・・おじさん、あたし誘拐されたの?」

男「い、いやいやとんでもない!美味しいパン屋さんの場所は秘密だからああ言っただけだよ!」

モカ「ふーん、ならいーやー」

 車を走らせ続けて何時間か経過する。誘拐されているとも知らずに爆睡しているモカに現在地を知る術はない。
男(誘拐はひとまず成功したか・・・あとは身代金を手に入れれば・・・)

モカ「ねえおじさん、あたしお腹すいた~」

男「うぉわ、起きてたのか!」

モカ「朝ごはん食べてないんだ~。何か買って~」

男「・・・仕方ないな」

 男は近くのコンビニに寄る。ドアを開け、財布を片手に店に入った。

モカ「あたしはね~、つぶあんデニッシュと・・・」

男「ついて来てたのか!車に戻って!」

モカ「おじさんあたしの好みわかんないでしょ~?変なもの買ってきたら大声で泣き叫ぶよ?」

男「くっ・・・。わかった、何が良いんだ?」

モカ「えーと、つぶあんデニッシュとクロワッサン、それにクリームパンとリングドーナツとコッペパンを・・・」

男「そんなに食えないだろう」

モカ「2つずつ」

男「んなっ!?」

 指定のものと男が買った缶コーヒーをカゴに入れ、会計を済ませる。
店員「合計1386円になります」

男「・・・」

 男は財布からしわしわの1000円札と何枚かの小銭を出す。モカはその後ろにピッタリとついて、袋の中身を心待ちにしている。

男「ほら。先に食べられる分だけ食べな」

モカ「いただきまーす」

 モカはもしゃもしゃとパンを食べ進める。男は缶コーヒーを片手に秋晴れの空を見上げていた。

モカ「・・・ごちそうさまでした」

男「ほら、もうごちそうさまじゃないか、だから買いすぎだって・・・」

モカ「この中全部ゴミだからおじさんの飲み終わった缶コーヒー入れて捨ててくるよ~」

 モカは袋の中身のパッケージの残骸を男に見せつけた。

男「んなっ!?」

 車に乗り、しばらく走っていると海沿いに出た。風が車の窓の隙間から入り込んでくる。

モカ「気持ちいいね~」

男「・・・ああそうだな」

 もう何がなんだか分からなくなってきた男は適当に返事を返した。

モカ「でも、すごく遠くまで来ちゃったね。やっぱりモカちゃん誘拐され」

男「違う違う!ここは九十九里って言って、すぐ近くの海だよ!」

モカ「ふーん・・・でも電話してたとき200万円がどうとか」

男「そ、それは・・・」

モカ「あ、でも多分200万円くらいならウチあるよ~。お母さんデザイナーだし。もしかしたら2000万円あるかも」

男「ほ、本当か!?」

 その時、男の携帯から音が鳴る。男は路肩に車を止めた。

男「はい、もしもし。・・・ああ、モカちゃんのお母さんですか」

モカの母『娘は無事なんですか!?声を聞かせてください!』

男「今聞かせますよ。それより・・・やっぱり身代金は2000万円にする」

モカの母『んなっ!?』

男「あるんでしょう?」

モカの母『そんな大金あるわけ・・・!と、とにかくモカの声を聞かせてください!』

男「今代わりますよ」

モカ「もしもーし。あ、おかーさん?」

モカの母『モカ!いったい今どこにいるの!』

モカ「んーとね、九十九里」

男「うわっ、ばか!」

 電話がブツッと切れた。

モカの母『・・・もしかして悪戯なのかしら?』

 モカの母が首を傾げた。

男「は~・・・。もうダメだ。居場所がバレちまった・・・」

モカ「おじさん、だいじょーぶー?」

 陽が傾き始めた海沿いで、堤防に座って二人は話していた。

モカ「海、綺麗だね~」

男「うん、そうだね・・・」

モカ「何かパン無い~?お腹すいたー」

男「まだ食うのか・・・ほら、俺が買ったやつあげるよ・・・」

モカ「あ、餡パンだ~。ありがと~」

 モカは海を見ながら餡パンを頬張る。目の前には九十九里浜の荘厳な風景が広がっていた。夕焼けが反射した、オレンジ色の海。きらきらと橙色に光輝く水面が、夕空の混ざり合い、溶け込んでいる。

モカ「んー、景色を見ながらのパン・・・良いね~。幸せ~」

男「それなら良かった。幸せ、か・・・。ーーモカちゃんは、リストラって知ってるかい?」

モカ「リスと、トラ?」

男「違う違う。会社をクビになることだよ。おじさん、何年も何年も必死に働いてきたのに、不況で人員を削減する方針になったらあっさりと切られたよ。今まであんなに頑張ってきたのに・・・!」

モカ「・・・よくわかんないけど、辛かったんだね~」

男「妻とは離婚してしまうし、子供には新しい良いお父さんが出来たって言うし・・・。もう、俺がこの世に存在する意味なんて何一つ無いんだよ」

モカ「・・・ふーん」

男「モカちゃんは、人が泣く理由って知ってるかい?」

モカ「ううん、知らな~い」

男「人はね、人が死んだとき、その人が死んだから悲しいんじゃなくて、その人を失った自分がかわいそうだから泣くんだって」

男「自分を慰めるための涙なんて、無駄でしかないのに。でも、ここで俺が死んだって、誰も悲しんじゃくれない。誰も、自分を慰めるための涙でさえ流してくれないんだ」


男「こんなに虚しいことは無いよ・・・」

モカ「・・・おじさんの話・・・あたしはよく分かんないけど・・・」

 モカは立ち上がり、男の方に振り向く。

モカ「おじさんはパンをおごってくれたし、今だって自分の分のパンを分けてくれたし。今あたしのことを誘拐してるわけだけど・・・それでも、おじさんは良い人だよ」

男「俺、が・・・?」

モカ「だから・・・おじさんが死んじゃったら、悲しいな~」













モカ「あたし、泣くと思うよ~?」




















 モカは夕焼け空を背に、衒いのない笑顔を見せた。

 男の目から、雫が一つ、頬を伝った。

 嗚咽を漏らしながら、とめどなく溢れる涙を手の甲で拭い続ける。

 頭を下げて、子供のように泣きじゃくった。

 偶然さらった女の子が、自分の存在を証明してくれた。

 その事実が、男を救った。

 自分が生きてきた道は、無駄ではなかった。

 意味無くなかった。

モカ「そんなに泣かないでよ~」

 と、のんびりした口調でモカが慰めたが、

 それでも涙は止まらなかった。

 男はモカを乗せ、車を走らせた。数時間かけて、家まで送り届ける。あともう少しで家に着くところだ。


男「ごめんな、モカちゃん。今日はおじさんのせいで大変な一日になってしまったな」

モカ「いいよ~。気にしないで。あたし、今日は楽しかったから。誘拐されるなんて、新鮮な経験だからね~」


 男がモカを乗せ、モカの家の前までたどり着いた。

 玄関前にはモカの母がいる。

 出張中の父には誘拐の件を伝えていないらしい。

 男は九十九里で電話で誘拐の計画の中止を伝え、

 モカを無事に送り届けることをモカの母に約束した。

 モカの母もモカの身を案じ、

 誰にも誘拐の件は言っていなかったことを教えてくれた。


モカの母「モカ!」

モカ「ただいま~、お母さん」

 夜の10時、およそ12時間ぶりにモカは家に帰ってきた。

 それでもマイペースに振る舞う。

 母を安心させるため、という理由があるようにも思えた。

男「あの・・・モカちゃんのお母さん。この度はすみませんでした」

男「土下座しろと言われれば頭を地面に擦り付けますし、警察を呼ぶのなら、私は逃げたりせずにちゃんと罪を償います。どうぞ、お好きなようにーー」


モカ「お母さん。おじさんは悪い人じゃないよ」

モカの母「え・・・?」

モカ「今日、あたしおじさんから大切なものを貰ったから」

モカの母「な・・・何を貰ったの?」

モカ「たくさんのパンと・・・」

モカ「夕焼けを見ながら食べるパンは、格別だ、っていうこと」

モカの母「モカ・・・」

モカ「だから、おじさんを警察に突き出したりしないで。ね、お母さん」

 モカは母の目をまっすぐに見て言った。

男「すみません。本当に・・・ありがとうございます」

モカの母「いえいえ。ウチの子がお世話になりました」

 モカの言葉により無罪となった男は、車の前でモカの母と話していた。
 今日起こった出来事の全てを伝え、男は何度も何度も謝った。

男「本当に・・・モカちゃんは良い子ですね。あの子の言葉に、私は救われました」

モカの母「そう・・・ですか。あの子が、そんなことを言うなんて・・・」

男「私が死んだときに、泣いてくれる子がいると分かっただけで、これから生きていくことができると思います」

モカの母「適当に言っただけかもしれませんよ?」

男「それでも・・・、あの言葉は私を救うための言葉だったと思います」

モカの母「・・・そうかもしれませんね」

男「・・・それでは、これで失礼します」

 先に家の中に入り、自分の部屋でベッドに横になっていたモカはすうすうと寝息をたてていた。

モカの母「今日は大変なおつかいだったわね。・・・お疲れ様」

 母はモカの顔を撫で、微笑んだ。

モカ「・・・というわけなのでした」

蘭「へー・・・。まあ、モカは昔からモカだったんだね」

モカ「へへ~、まあね~。・・・あ、蘭。見て、綺麗な夕焼けだよ」



 モカが指差したその先には橙色に染まった空が広がっていた。


 昨日も、今日も、そして明日も。




 綺麗な夕焼け空は、光を失わずに輝き続けるだろう。











              fin.







以上で完結となります。読んでくれた方、ありがとうございました。話の大筋は「MIND ASSASSIN」という漫画をモチーフにしました。アレンジは加えていますが…。
初めてこのサイトを使ったので、分からないことだらけで、何か不備があるかもしれませんが、暖かい目で見守っていただけたらと思います。書き終わったあとに言うのもなんですけど。


投稿ペースから分かるとは思いますが、予め書いていたものを貼っていったので、その場で書いていた訳ではありません。

Pixivに投稿していた、https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=10067939
の作品をほぼそのまま引用しただけです。


また機会があればバンドリのSSを書いてみようと思うので、その時はまたよろしくお願い致します。








モカちゃん誕生日おめでとう!




それでは、しゃーした~。







※何かご意見があれば遠慮無くどうぞ。


追記

・・・あれ?pixivに飛ぶことって出来ないんですかね。

なんだかすごくエッチな広告があるだけなんですが・・・。

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