風呂場の戸を開けたら着替え中の妹がいた時にありがちな事 (19)



妹「キャアアアアア!!?」


兄「ち、違っ!?そんなつもりじゃ!」


妹「おおおお兄ちゃんのバカ!ヘンタイ!チカン!エッチ!H鋼!お兄ちゃんなんてH鋼になっちゃえ!!!」


兄「ぐわああああああああ妹の言霊によってH鋼になるぅぅぅー!!?!」


妹「うわああああああああお兄ちゃんがH鋼になってるぅぅぅー!!?!」




こうして兄は、H鋼となった。

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妹「お兄ちゃん!お兄ちゃん?!嘘だよねH鋼なんて!?ねえ!」


兄(H鋼)「…………」


妹「なにか言ってよ!ねえ、またいつもみたいにマキタのインパクトの素晴らしさを語ってみせてよ!!?」


兄(H鋼)「…………」



妹「なんで、何も言ってくれないの…?」






H鋼は喋らない。

言葉はすでに無益なるのみと知っているからだ。



妹「ねえお兄ちゃん。今日はお兄ちゃんの大好きなオムライスだよ?
オムライスだとわかるや否や半狂乱で貪り食べてたお兄ちゃんの大好きなオムライスだよ?」


兄(H鋼)「…………」


妹「食べてよ……。頑張って作ったんだよ?ねえ、一口だけでいいからさ?ねえ、ねえ?!」


兄(H鋼)「…………」





H鋼は食事を必要としない。

いつだって身体中に鉄分が漲っているからだ。




妹「どうして頑なにH鋼でいようとするの?
そんなの駄目だよ。お兄ちゃんには叶えたい夢があったんじゃないの!?」


兄(H鋼)「…………」


妹「船乗りになるって…!いつか俺の船にお前も乗せてやるって…!ワンピースを目指すんやって…!あれは嘘だったの!?」


兄(H鋼)「…………」






H鋼は夢を見ない。

H鋼であるままで、全てが満ち足りているからだ。




妹「あっ、お兄ちゃんお風呂まだだったよね?ほら、早く入らないとお母さんに叱られちゃうよ?」


兄(H鋼)「…………」


妹「本当は分かってたんだ。お兄ちゃんはたまたまお風呂に入ろうとして鉢合わせしただけ。
だのに私はひどいことを言ってしまった……」


兄(H鋼)「…………」





H鋼は風呂に入らない。

水分による錆を何よりも恐れているからだ。




妹「お兄ちゃんがH鋼になって、不安で眠れないよ…。ねえ、いつもみたいに、私を隣で寝かしつけてよ……」


兄(H鋼)「…………」


妹「あの子守唄を、優しく歌って欲しい。まるで超満員の武道館に響かすように熱唱してほしい。
そのくせいつもお兄ちゃんが先に寝ちゃうんだよね。ねえ…!」


兄(H鋼)「…………」





H鋼は眠らない。

眠ることは一日の終わりだが、鉄に終わりはないと理解しているからだ。




妹「きゃあっ!地震だわ!?そんなに大きくない揺れだけど、この違法建築で耐震強度がクソ雑魚なマイホームにおいて致命的だわさー!!?」


兄(H鋼)「………!」サッ!
ガシーン!


妹「お兄ちゃん!お兄ちゃん支柱になって支えてくれたのね!H鋼支柱による安心感はバツグンだわ!!!!!」


兄(H鋼)「…………」






H鋼は家を守る。

支柱に、基礎に、梁に、組み合わさればまさしく鉄壁。



そして時は流れ……
老朽化によって、ついに家の取り壊しが決まった。


解体屋「ふう、違法建築で脆そうだと思ったが、どうして中々しぶといじゃねぇの」


新入り「駄目だぁ親方ァ!このH鋼支柱、ボルトが錆びついてビクともしねえでヤンス!?」


解体屋「ガスで切るか…いや、表面は錆びちゃいるが、このH鋼自体は中々のモンじゃねぇの!どうにか切らずに行くには仕方ねぇ、コイツの出番だ!」


新入り「そ、それは世界のマキタのインパクト!?!
マキタと言えば工具会の孤高の王様に他ならぬ!
うっひょぉぉぉー!一生ついていくでヤンス親方ぁー!!」


解体屋「うらああああ!!」
ギュルルルルー!!

新入り「ああああああ圧倒的パワーと回転力でもってして錆びたボルトがみるみる外れてイクイクイッグゥゥ~~ッッ!!」


兄(H鋼)「…………/////」





マキタは自分以外の誰にも属さない。

自分が最強だと理解しているからだ。

こうして兄(H鋼)は解体屋からスクラップ屋、スクラップ屋から製鉄所へと運ばれて、そこで数千度の炉の中で溶けていった。

苦しまなかったはずである。



そして更に時は流れ…

老婆「やっと見つけたよ。……お兄ちゃん」

兄(?)「…………」

老婆「鉄は溶けても再び製鉄され蘇る。きっとどこかに居ると信じて、探した甲斐があったよ。まさかこんなに立派になったなんてねぇ」

兄(?)「…………」

老婆「今日が進水式だってね。長かったけど、お兄ちゃんの夢が叶うんだよ」

兄(?)「…………だったら、お前もいなきゃ意味がねえ。さあ乗りな!」

老婆「お…、お兄ちゃん!!?」

兄(全長300M級貨物船)「行くぜぇ!出発だァー!!」



船が着水し、兄と妹、眼前に広がった遥か青く、











海が、












おわり

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