レヴィ「だからガキは嫌いなんだよ」 (28)

――リップオフ教会

ヨランダ「ダッチ坊やから頼まれていた銃器と弾薬。その他諸々は滞りなく揃えたよ。確認しとくれ」

ロック「SIG P210が2丁、SCAR-Lが3丁、ジャベリン2基、9mmパラベラム10カート……はい、他も全て注文通りです。ありがとうございました、シスター」

ヨランダ「やれやれ。いつも大量に買ってってくれるのはありがたいが、坊やのとこは戦争でもおっ始めようってのかい?」

ロック「汝平和を欲さば備えよ、ですよ」

ヨランダ「はっはっはっ。日本人は勤勉と聞くが、まったくだねぇ。なかなか堂に入ってきたじゃないか」

ロック「ビジネスマンとして扱うものの知識は多い方がいいですから」

ヨランダ「そうそう。ビジネスといえば、ラグーンに頼みたいことがあってねぇ」

ロック「頼みたいこと?」

ヨランダ「仕事の依頼さね。お前さんらの普段扱う仕事とはちょいとばかり畑違いだろうが、この街じゃラグーン……というより坊やのような人間が適任なんだよ」

ロック「はぁ……それで、いったい俺になにをしろと?」

ヨランダ「実はねぇ……」

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――ラグーン商会、事務所

レヴィ「はぁ!? んだそりゃ!!」

ロック「大きな声を出すなよ、レヴィ」

ベニー「ハハハ、でも確かにこの街じゃそんなこと務まりそうなのは僕たち――というより、君くらいだね」

レヴィ「あたいらは運び屋であって何でも屋じゃねーんだぜ? なんでガキの相手なんざしなくちゃなんねーんだよ!」

ベニー「おいおい、僕に怒らないでくれよ。それに、受けるかどうかはダッチが決めることさ。どうするんだい? キャプテン」

ダッチ「ちょうど今週は仕事の予定は無え。加えて、二束三文だがギャラも出るとくりゃあ、断る理由はねぇだろう」

レヴィ「マジかよ!? ジョーダンきついぜ!」

ダッチ「大なり小なり、労働ってのは尊いもんだぜレヴィ。ヨランダの婆さんには日頃から世話になってるしな。それになにより、船の燃料を節約できるってのが気に入った。早速連絡してやりな、ロック」

ロック「わかったよ、ダッチ。あ、レヴィ。そんなに嫌なら俺だけ行くから君は事務所にいていいよ?」

レヴィ「ったりめーだ! だれが行くかよ。んなションベンくせーとこ」

――リップオフ教会管轄、孤児院兼保育所

ロック「えー、はじめまして。ヨランダ院長先生の代わりに今日一日みんなのお世話をすることになりました岡島緑郎といいます。みんなには馴染みがなくて覚えにくい名前だと思うので、ロック先生って呼んでください」

ガキ共「はーい!!」

ロック「じゃあ、さっそくお外でボール遊びを――」

女児A「ロックせんせー!」

ロック「ん? どうしたんだい?」

女児「おしっこー!」

ロック「うぇっ! ちょ、ちょっと待って。今トイレに連れてくから」

女児「がまんできなーい!」ヌギヌギ

ロック「わー!? ここでしちゃダメだってば!」

男児A「ぼくもおしっこー!」

男児B「ぼくもー!」

ロック「順番! みんな順番だから!」

レヴィ(あんのバカ、さっそくてんてこまいじゃねぇか)

レヴィ(ちょいと様子を覗きに来りゃ、案の定コレかよ。かーっ、見てらんねぇぜ。ったく)

エダ「ヘイ、こんなとこでなにしてんだよトゥーハンド。ここはあんたみてぇな悪党が来ていいとこじゃないよ。サツ呼んでブタ箱にブチ込んでもらおうか?」

レヴィ「この街のムショなんざザルみてーなもんだろが。それに今日は日曜だ。自宅にかけてもワトサップは来ねーだろ。どーせ、昼過ぎまで起きやしねーよ」

エダ「ハッハー、ちげーねぇ。昨夜はイエローフラッグで派手に酔い潰れてたもんなァ。んで、やっぱ気になるってか? えぇ?」

レヴィ「は、はあ?! なんのことだよ」

エダ「ウブいこと言ってんじゃねーよエテ公のクセに。色男が心配で見に来たんだろう?」

レヴィ「そそそそんなんじゃねーって言ってんだろ! あたしはただ、タバコが切れたから外に出ただけで」

エダ「あー、はいはい。わかったよ。おーい! 色男ー! ちょいとコッチ来とくれー!」

レヴィ「お。おい! エダてめぇ!」

ロック「どうしたんです? シスターエダ……って、レヴィじゃないか。てっきり来ないと思ってたのに」

レヴィ「バッカてめぇ。勘違いすんなよ? あたしはただ、酒が切れたから買い出しにきただけで」

ロック「えっ? でも、ここかなり街外れだから買い物するならもっと近場でもよかったんじゃ――」

エダ「はいはい、そこまで。タバコだろうが酒だろうがなんだっていいんだよ理由なんて。腹の足しにもなりゃしねぇ。とにかく、猫の手も借りたいくらい忙しいんだ。さっさと中入ってリトルギャングどもの面倒をみてくれ」

レヴィ「なんであたしが!」

エダ「おんやぁ~? まさか怖いの?」

レヴィ「あ? 冗談扱くなよエダ。天下無敵のレヴェッカ姉さんが、たかがガキ相手になんでビビんなきゃなんねーんだよ」

エダ「ナリは小せえが、ナメてかかると痛い目見るよレヴィ。 生半可な覚悟じゃコッチが泣かされるぜ」

レヴィ「ジョートーじゃねぇか! わかったよ。やってやるよ!」

エダ「あっそ。んじゃ、よろしく~」

レヴィ「っしゃあ! まずは全員一列に並べクソガキども!」ドンドン!

ロック「レヴィ! 銃はマズイって! 銃は!」

レヴィ「あー、てめぇら。耳の穴かっぽじってよぉ~く聞きやがれ。あたしはロックみてーに甘くはねぇ。あたしのことはレヴェッカ姉さん、もしくはアネゴと呼び敬うこと! それから、あたしはてめーらのクソの世話なんざしたくねぇ。垂れたらケツはてめーで拭きやがれ。んで、最後に。何か言いてえことがあるんだったら言葉の前後にサーをつけて発言しろ。わかったか、クソガキども」

男児A「ねぇねぇ! なんで肩に絵が描いてあるのー?」

男児B「そのピストルかっこいー! ねぇ、貸して貸してー!」

女児A「お人形さんで遊ぼー!」

女児B「おままごとが良いー!」

レヴィ「」プチン

ロック「ダメだレヴィ! ここで大声なんて出したら――」

レヴィ「なんで言われたことひとつも守らねーんだァァアア!!」

乳児ABCD「ふぇっ、びええええ!!」

ロック「あーあ、せっかく寝てたのに」

乳児A「びええええん!!」

ロック「ほーら、起こしてごめんよ~。怖かったね~。ほら、レヴィ。君もあやしてよ」

レヴィ「あー?! なんだって? うるさくて聞こえねーよ!」

ロック「だから! 君も! 他の子を! あやして! 泣き止ませてくれ!」

レヴィ「チッ、なんであたしが」

ロック「元はと言えば君がロナルド・リー・アーメイ気取ってムチャやらかしたのが原因だろ。僕ひとりじゃこの子ら全員をあやすのは無理だ」

レヴィ「わーったよチクショウ! よ、よぉ~し。やってやらぁ!」ガシィ!

乳児B「びええええん!」

ロック「なにやってんだよレヴィ! 」

レヴィ「うぇっ!?」ビクゥ!

ロック「赤ん坊は頭蓋骨がまだ柔らかいんだ。それをいきなり頭を鷲掴みにするなんて何考えてるんだよ!」

レヴィ「わ、わりぃ……知らなかったんだよ」

ダッチ「おいおい、いったいこりゃあ何の騒ぎだ?」

ロック「ダッチ!?」

レヴィ「いや、実はよ……」

ダッチ「ほぅ。つまりレヴィが火気厳禁の弾薬庫で派手にブッ放したのが原因ってワケか」

ロック「こうなる前から既にブッ放してたよ。比喩じゃなく二発ほど」

レヴィ「だから、悪かったって言ってんだろ。もうここじゃハジかねーよ」

ロック「ひとりじゃ手が足りない。俺、職員室に行って応援頼んでくるよ」

ダッチ「その必要はねえぜ、ロック」

ロック「えっ?」

ダッチ「ベニーボーイに事務所の留守を任せて院内の花壇いじりでもと思ったが、野良仕事の前にまずこのジェリコのラッパを止めるのが先だな」

ロック「大丈夫なのか? ダッチ」

ダッチ「赤ん坊の扱いは慣れたもんさ。どれ、貸してみな」

ダッチ「いいかレヴィ。赤ん坊って生き物は大人の機嫌を察知する能力に関して言えばこの地球上でナンバーワンだ。おめーさんみたいに年中殺気なんぞ垂れ流してりゃこうなるのは必然。大事なのは赤ん坊の警戒心を解いてリラックスさせてやることさ」カチャ

ロック(ダッチがサングラスを!)

レヴィ(外した……だと……?!)

ダッチ「よぉし、良い子だベイビー。ようやく泣き止んでくれたな」

乳児A「キャッ、キャッ!」

ロック(後ろ姿だから見えないけど)

レヴィ(赤ん坊も泣き止むダッチの素顔)

ロック、レヴィ(気になる!!)

ダッチ「ロック、レヴィ。ここは俺に任せてお前らは他の園児を頼む。ああ、それと間違ってもそっから一歩も前に出てくれるなよ? 誰にでも知られたくない秘密のひとつやふたつあるもんさ。俺としても、いきなり従業員二人まとめて解雇なんざしたくねぇからな」

ロック「わ、わかった」

レヴィ「……オーライ、ビッグボス」

レヴィ「はあ……銃を持たせたら天下無敵のレヴェッカ姉さんだってーのに」

ダッチ『銃は俺が預かる。どうしてもってんなら、代わりにこいつを持っていけ』

レヴィ「まさか水鉄砲持たされるなんてよ。しまらねーよなぁ。ったく」ピュッピュッ

男児A「悪者はっけーん! バーン!」

ピュッ! ビチャ!

レヴィ「うおっ! 冷てえっ!」

男児B「追撃だぁー。くらえー!」

レヴィ「うぷっ! こんの、やってくれたなクソガキども!」

男児A「やーい! ブスが怒ったー!」

男児B「逃げろー!」

レヴィ「だーれがブスだ待ちやがれコラァ!」

ロック「へえ、レヴィのやつ案外上手いことやってるじゃないか」

???「まったく、どっちが子供かわからないわね」

ロック「バ、バラライカさん!?」

バラライカ「ハアイ、ロック。エプロン姿似合ってるわよ」

ロック「どうしてここへ?」

バラライカ「ダッチに用があって事務所に行ったんだけど、ここにいるって聞いたからちょっと寄らせてもらったわ」

ロック「そうなんですか。たぶん向こうにいると思うんで、今呼んできますよ」

バラライカ「ええ、お願いね」

悪ガキA「うわっ、すげー顔!」

悪ガキB「怖い顔のオバちゃんだー!」

ボリス(……殺しますか? 大尉)チャキッ

バラライカ(やめろ軍曹。相手は子供だ)

バラライカ「ハアイ、ボクちゃんたち。この火傷はね、オバちゃんが若い頃オイタをした時に受けたお仕置きの痕なの。良い子にしてないと物陰からブギーマンがやってきて君たちの顔にも同じ痕をつけてくわよぉ」ニタァァァ!

悪ガキA「」ガタガタ

悪ガキB「」ジョバァー

ダッチ「その辺で手討ちにしちゃどうだいバラライカ。この街じゃおたくら遊撃隊(ヴィソトニキ)の方がブギーマンなんかよりもよっぽど恐ろしい」

バラライカ「ご挨拶ね、ダッチ。私だって好き好んで毎回子供を跪かせたいわけじゃないのよ。良い子にはちゃあんと飴玉をあげるわ」

ダッチ「悪い子には鉛玉だろう?」

バラライカ「察しが良い子も好きよ。飴玉欲しい?」

ダッチ「遠慮しておこう。甘いものは医者から控えるよう言われてるんでな」

バラライカ「あら、残念」

レヴィ「大体だな。お前らの銃の持ち方からなってねーんだよ。もっとこうしっかり持ってだな……」

男児A「こう?」スチャ

レヴィ「あたしに言わせりゃまだまだだが、まあ、いいだろ。後は慣れだ慣れ。とにかく撃ってりゃ慣れんだよ。あー、そこのハナタレ。あたしのマネして無理に二挺持つな。照準ブレまくりじゃねーか」

男児B「はーい」

ロック「レヴィ」

レヴィ「うおっ! ロック。急に後ろから話しかけんじゃねーよ」

ロック「年長組とはうまくやれてるじゃないか。安心したよ」

レヴィ「ん? ああ、まあ、ギリギリ言葉が通じるからな。そこがせめてもの救いだな」

ロック「子供は好きかい?」

レヴィ「……正直、好きではねーな。うるせーし、頭わりーし、面倒この上ねぇ。二度とこんなことは御免だね」

ロック「でも、日本に行ったときも今日みたいに子供たちと遊んであげていたじゃないか」

レヴィ「ありゃほんの暇つぶしだよ。コンビニエンスストアでの立ち読みみてーなもんさ」

ロック「どうだい? こういうのも悪くないんじゃないのか?」

レヴィ「あんたが何を言いたいかはわかるが、あいにくあたしゃそういう生き方はできねーし、端っからお断りだ」

ロック「でもレヴィ。君は女だ。いずれは……その、さ?」

レヴィ「ヘイ、ロック。やめようや」

ロック「……」

レヴィ「それに想像してみな、ロック。仕事から帰って来て、真っ先に出迎えるのがエプロン姿のあたいだ。それだけでも充分強烈なのに、それに加えてこう言うのさ。『おかえりダーリン。ミートパイが上手に焼けたの。味見してみて。ハイ、あーん』ってな。どうよ? たまんないだろ?」

ロック「あ、ああ……。凶悪的なまでにね」

レヴィ「とどのつまり、そういうことなんだよ。あたいの人生にゃガキもエプロンもミートパイも、果てし無く遠い世界の幻さ」

ロック「……」

レヴィ「まっ、このまま姐御みてーに閉経するかおっ死ぬまでガキなんてこさえずに気ままに過ごすさ」

ロック「ちょっ!? レヴィ! 後ろを見――」

プシュ! チュンッ!

レヴィ「んなっ!? じ、実弾!?」

バラライカ「振り向くな。そして両手をあげたまま地面に両膝をつけ。祈るようにな」チャキッ!

ロック「遅かったか」

レヴィ「へへっ、嬉しすぎて今にも閉経しそうだ」

レヴィ「い、いよう姐御。まさかホテルモスクワが福祉施設でボランティア活動してたなんて知らなかったぜ。マフィアの看板畳んで慈善事業家にでも鞍替えかい?」

バラライカ「よく聞けよレヴィ。次にこちらの質問の答え以外の言葉を吐いたら[ピーーー]。沈黙もまた然りだ」

レヴィ(うひぃー、マジでキレてんな。こりゃ、いよいよやべーかも)

ロック「待ってくれバラライカさん! これは違うんだ! 誤解なんだよ!」

バラライカ「ローック! あなたは黙ってて。私は今、レヴィと話をしているの。邪魔したらあなたも[ピーーー]わよ」ギロリ

ロック(ううっ、すまないレヴィ。どうか上手く立ち振舞ってくれ)

バラライカ「さて、レヴィ。私の聞き間違いかしらねぇ? 今、ものすごく癇に障る言葉を吐かれた気がしたんだけど」

レヴィ「ア、姐御ってば冗談キツいぜ。あたいがそんなこと言うわけ――」

パンッ!

バラライカ「教会に向かって膝をついてる時は真実しか告白してはいけないの、知らないのかしら?」

レヴィ(マズイマズイマズイ! 姐御のヤツ、マジじゃねーか。シャレになってねーぞコレ!)

バラライカ「3秒だけ待つわ。その間に神に祈りなさい。それが私からのせめてもの最期の餞よ」

ロック(何かないか!? この状況を打開するシナリオは。バラライカさんが銃を収め、レヴィを助ける方法は!)

バラライカ「さぁ~ん、にぃ~、い~ち……」

ロック(もう!)

レヴィ(ダメだ!)

ピュッ!

バラライカ「……」

男児A「レヴィをいじめちゃダメ!!」

男児B「だめーーー!!」

ピュッ! ピュッ!

ロック「キミたち!」

レヴィ「お、お前ら……」

バラライカ「ねぇ、ボクちゃんたち。水鉄砲とはいえ、オバちゃんに銃を向けることの意味。わかってるのかしら?」

男児A「」ガクガクブルブル

男児B「」ガタガタブルブル

バラライカ「見上げた心意気ね。小さなナイト様たちに免じて、ひとつチャンスをあげる」

レヴィ「あ? チャンス?」

バラライカ「今から5分あげるわ。5分間だけこちらの追っ手から身を隠すこと。見つかった時点でゲームオーバー。簡単でしょ?」

ロック「それって……」

バラライカ「行動範囲はこの園内の敷地限定。そこから1歩でも外へ出るようなことがあれば失格。また重火器ナイフ等の使用も厳禁よ」

レヴィ「オーライだ、姉御。つーか、そもそもこっちの得物は既に取り上げられちまってるんだ。ところでよ、そっちの追っ手ってのは何人だ?」

バラライカ「一人よ」

レヴィ「オイオイ、いくらなんでも冗談キツイぜ。たった一人で――」

ロベルタ「ごめんくださいまし。リップオフ教会孤児院は、こちらでよろしかったでしょうか?」

ガルシア「お待たせしました、バラライカさん」

レヴィ「オーケー、姉御がマジでブチギレてるのは充分理解したぜ」

ロック「ガルシア君、どうしてここに?」

ガルシア「バラライカさんから孤児院でボランティアしないかって連絡をもらったんです。ラブレス家は慈善事業も行っていますから、断る理由はありません」

ガルシア「それに、ロベルタは鬼ごっこやかくれんぼは得意なんです。鬼をやると特にね。僕も昔はよく屋敷内で遊んでもらいましたが、一度も彼女から逃げ切ることは出来ませんでした」

ロベルタ「さあ、どうぞお構いなくお逃げくださいまし。例え地の果てに逃げ、ドブの中に隠れようとも必ず見つけ出して差し上げますわ」ニタァァ

レヴィ「いや怖えぇよ」

バラライカ『まずは10秒。その間出来るだけ遠くへ逃げ、隠れなさい。10秒数え終えたら猟犬が〝あなたたち〟を探す。5分の間で両名とも捕まえることが出来れば私の勝ち。捕まらなければあなたたちの勝ちよ』

レヴィ「んなこと言ったってよ。相手はあのターミ姉ちゃんだぜ。この狭い園内じゃどう考えても無理だろ」

ロック「諦めるな、レヴィ。きっと打開策はあるはずだ」

レヴィ「つーかよ、本当に良かったのか? お前まで巻き込まれちまったけどよ。今なら姉御にワビ入れりゃお前だけなら許してもらえるだろ」

ロック「ロベルタが追っ手の時点で1対1じゃあどう考えても分が悪すぎる。一人加わったところで不利な状況は変わらないけど、それでもいないよりはマシだろう」

レヴィ「だぁーメンドクセェ! ウダウダ考えるのはヤメだ。ルールなんてクソ喰らえだ。もう外へ出ちまおうぜ」

ロック「あっ、待つんだレヴィ!」

パシュン!

レヴィ「……」

バラライカ「言い忘れたけど、施設の周囲は狙撃手で完全に包囲してあるわ。ルールを無視して爪の先でも外へ出たら、額でタバコを吸うことになるわよ」

ロック「とにかく出来る限り逃げて隠れよう! 10秒はとっくに過ぎている。猟犬は既に僕らを探して追ってくるはずだ!」

レヴィ「とりあえず二手に分かれるぞロック! あたしらのどっちかが捕まらなけりゃ、それで勝ちなんだからよ!」

――職員用ロッカールーム(女子更衣室)

ロック(……ハァ、ハァ、と、とりあえずここに逃げ込んだはいいけど……。レヴィのやつは上手く隠れているだろうか)

ロック(今出来るのは、息を潜めて祈るくらいしか出来ない)

ロック(……どれくらい時間が経っただろう。ロッカーの中が暗くて時計の文字盤が見えない。携帯で確認して――)カチッ

???「……今、携帯電話のボタンを押す音が聞こえましたわ」

ロック(!!!?)

ギィィィイ、バタン

ロベルタ「なぜでしょう。……女子更衣室から男の匂いがするのは」

ロック(この部屋に入ってきた!?)

ロベルタ「生者のために施しを、死者のためには花束を。正義のために剣を持ち、悪漢共には死の制裁を」

ガチャ、バタン!

ロック(ロッカーの中をひとつひとつ確認している!!)

ロベルタ「しかして我ら、聖者の列に加わららん。サンタ・マリアの名に誓い」

ガチャ、バタン!

ロック(ダメだ……恐怖で気が遠くなる)ガタガタ

ロベルタ「すべての不義に鉄槌を」ニィィ

ロック「うわぁぁぁあああ!!!!!」

レヴィ「今の悲鳴はロックか! あいつ、もうとっ捕まりやがったのか」

レヴィ「残り時間はあと3分。まだ2分しか経ってねぇのかよクソッタレ!」

(できる限り逃げてみな。ここは地獄のモーテルだ。でねェと……ブギーマンに喰われるぞォ!?)

レヴィ「ハハッ、いつぞや日本で吐いた言葉が自分に返って来てら。ザマァねぇな」

ロベルタ「そんなに怯えずともよろしゅうございますわ」

レヴィ「そら見ろ、もう来やがった」

レヴィ「そもそも、逃げるだの隠れるだの端っから性に合わねーんだよ。〝捕まらなきゃいい〟んだろ? だったら〝捕まえるコトが出来なくなるよう、正面からブチのめしゃいい〟んじゃねーか」

レヴィ「あん時の続き……第二ラウンドといこーや、セニョリータ」

ロベルタ「くつひもが、ほどけてますわよ」

レヴィ「二度も同じ手にひっかかるかクソメイド!」

ロック「レヴィ! 本当にほどけてるぞ!」

レヴィ「うっそ、マジかよ……うごぉ!!」バキィィ!!

ダッチ「ひゅう、相変わらずの殺人アッパーだな」

ロック「ダッチ!?……その麦わら帽子、すごく似合ってるね」

ダッチ「園内の植栽剪定も済ませて来たぜ。こういう野良仕事ってのも実際嫌いじゃねぇ。何より命がかかってねぇってのが良い」

ロック「――って、そんな暢気なコト言ってる場合じゃないだろ。止めないと!」

バラライカ「じゃあ、あなたが止めてきなさいな。前回と同じ轍を踏む方に5万ドルを賭けてあげる」

ロベルタ「以前のような油断は一切持ち合わせておりません。キツめのお仕置きで大人しくなったところを一気に捕縛させていただきます」ドカバキ

レヴィ(あ……やべぇ……意識が……いいのもらい過ぎたか……こりゃあ、天下のレヴェッカ姉さんもいよいよ年貢の納め時かもな……)

ロベルタ「そろそろ幕引きです。どうかお覚悟を――!!?」

男児A「今だー! とつげきー!」

男児B「レヴィからはなれろー!」

女児C「あっちいけー!」

女児D「おともだち叩いたらいけないんだよー!」

レヴィ「お……おまえら……」

ロベルタ「……申し訳ありません。若様、どうやらここまでのようです」

ガルシア「仕方ないさ、ロベルタ。こうなったらこちらはもう手出しはできない。それに時間的にも頃合だ」

バラライカ「ジャスト5分。二度もナイトに助けてもらえて女冥利に尽きるわね。羨ましい限りよレヴィ」

レヴィ「へ……へへ……っ、嬉しすぎて涙も出ねーよクソッタレ」

園児たち「せんせーさよーなら!」

エダ「気ぃつけて帰れよクソガキどもー!」

エダ「いやー、今日一日ホントに助かったぜー。色男」

ロック「い、いや。別に大したことはしてないよ」

レヴィ「感謝してんならそれなりの謝礼を寄越しやがれってんだ……ったく」

エダ「つーかレヴィ、お前なんでそんなにボロボロなわけ? モハメド・アリとドツキ合いでもしたのかよ」

レヴィ「あの世まで本人に直接聞きに行くか、シスターさんよ?」ジャキン!

ダッチ「やめろレヴィ、事務所に帰るまでが仕事だ。得物をしまいな」

レヴィ「チッ、おもしろくねー。おいエダ。磔ヤローよりも寛大な心を持つうちのビッグボスに感謝しな」

エダ「まー、何にせよラグーンにゃ感謝してるよ。また次もヨロシクな」

レヴィ「誰が受けるか!」

ベニー「へー、ホテル・モスクワにメイドまで来たのかぁ。今日ほど事務所で留守番しててラッキーだったって思える日は後にも先にもないだろうね」

レヴィ「本当に貧乏くじだったぜチクショウ。あのクソメイド、また人様の顔面しこたま殴りやがって。今度会ったらぜってー蜂の巣じゃ済まさねー!」

ロック「今日一日お疲れ様。レヴィ。ハイこれ」

レヴィ「あん? なんだそりゃ。暴力教会からの小切手か?」

ロック「違うよ。あの後、子供たちから預かってきたんだ。君に渡してくれって」

レヴィ「……なんだこりゃ? 手紙か?」

『たのしかったよ! ありがとう! またいっしょにあそんでね!』

レヴィ「ヘッタクソな字だな。それにこのブサイクな絵はあたしか? 似てないにも程があるだろ」

ロック「どうだい? 子供も悪くないだろ?」

レヴィ「ハン……だからガキは苦手だよ。こんな一銭の価値もねー紙切れでチャラになると思ってる辺りがな。あたしはもう寝る。思い出しただけでムカっ腹が立つぜ」

ギィ、バタン!

ベニー「珍しいこともあるもんだ。あそこまでボコボコになったってのに、随分機嫌が良さそうだったね」

ロック「一銭の価値もない紙切れを後ろのポケットにちゃっかり仕舞ってたからね。彼女なりに何か思うところがあったんじゃないかな」

ダッチ「俺としては、また依頼を受けるのはやぶさかじゃねぇぜ。花壇や植栽の様子も定期的に見てやらねーといけねぇからな」


おわり

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