関裕美「だめ、全部食べて」 (11)

P「撮影お疲れ様。どうだった?」

裕美「うん……結構、うまくいったかも。カメラマンさんも褒めてくれたし」

P「それはよかった! 雑誌に表紙に載る日が楽しみだな!」

裕美「ひょ、表紙じゃないってば。『新進気鋭・かわいいアイドル特集!』で取り上げられるだけなんだから」

P「自分で新進気鋭とかかわいいとか言えるようになったとは、関ちゃんもだいぶ肝が据わってきたなぁ」

裕美「もう、Pさん! あんまりからかってると……怒るよ?」

P「はは、ごめんごめん。関ちゃんがついに人気雑誌のワンコーナーで取り上げられるレベルになったんだと思うと、ついはしゃいじゃってな」

裕美「……そうだよね。私、ソロで特集になるんだよね。いいのかな……終わった後で緊張してきちゃった」

P「それだけの人気を獲得してるってことだ。胸を張ればいい」

裕美「……そっか。じゃあ、そうする」

P「よし! ところで、こんな暑い日にはアイスを食べたくないか?」

裕美「アイス? うん、ちょうど食べたいなって思っていたけど」

P「なら決まりだ。帰りにアイスクリーム屋さんに寄っていこう」

裕美「いいの?」

P「頑張ったご褒美と、撮影中に一緒にいてやれなかったお詫び。あと、帰りの車を用意できなくて電車で帰らなくちゃいけないお詫び」

裕美「お詫びの方が多くない?」

P「気のせいだ」

裕美「ふふっ……じゃあ、私も気にしない」


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アイスクリームの屋台にて


P「どれにする?」

裕美「うーん………今日は、いちごの気分かな。あ、でもキャラメルもいいかも」

P「遠慮せず5段重ねとかにしてもいいんだぞ? 味も選び放題だ」

裕美「さすがに食べきれないからいいかな……Pさんはどれにするの?」

P「俺はチョコレート系を5段重ねだ」

裕美「本当に5段食べるんだ……男の人ってすごい」

P「ふはは、まあこのくらいはプロデューサーの嗜みだ」

裕美「私は、無理せず2段かな」



10分後

P「うっ……食べ過ぎて頭キーンとしてきた」

裕美「………」

P「お腹も膨れてきた……」

裕美「………」

P「そこで呆れたような視線を向けているお嬢さん、1段どうだい」

裕美「だめ、全部食べて。自分で頼んだんでしょう?」

P「それを言われると何も返せない……」

裕美「……はあ。そういう子どもっぽいところも、プロデューサーの嗜みなの?」

P「関ちゃん、たまにグサッと来ること言うよね」

裕美「私は思ったことを素直に言っているだけです」キッパリ

P「おっしゃる通りで……」

裕美「もう、しょうがないなぁ。1段だけ、食べてあげる」

P「本当か! ありがとう、恩に着るよ」

裕美「お腹壊されたら、他の子達にも迷惑がかかっちゃうし」

P「じゃあ早速、ここのチョコミントのところを頼む」

裕美「うん、わかった」

裕美(……こういうのも、間接キスになるのかな。違うスプーン使ってるからならない……?)

裕美「………」ジッ

P「せ、関様? 他の味がお好みでしたら、喜んで献上いたしますが」

裕美「あっ、違うの! 別に睨んでたわけじゃなくて、間接キスの判定を考えていただけで」

P「間接キス?」

裕美「あ、あう、違うの。関節キメの間違いだったかも」

P「かわいい声してなに物騒なこと考えてるの……」

裕美「かわいいだなんて、そんないきなり……」

P「そこ照れる場面なの? 焦点ズレてない?」

裕美「だめだめ、やっぱり全部Pさんが食べてっ!」

P「うそーん」

P「ふう……なんとか腹が元に戻ってきた」

裕美「大丈夫?」

P「これからは3段くらいにしておくよ。関ちゃんもありがとう、結局1段食べてくれて」

裕美「太ったら、Pさんのせいだからね?」

P「俺がその分太ることで詫びるよ」

裕美「なんのお詫びにもなってないけど……」

P「しかし、チョコミントの段がこぼれ落ちそうになった時の関ちゃんの反応はすごかったな。器用にすくい上げて崩壊を防いでた」

裕美「あれは自分でもびっくりするくらいうまくいったね」

P「やっぱり普段のアクセ作りで手先が鍛えられているんじゃないか?」

裕美「かも、しれないね」

P「よし、これからは関ちゃんに魚の骨を取ってもらうことにしよう」

裕美「だめ、全部食べて」

P「骨ごと!?」

裕美「さすがに冗談だよ」

P「びっくりした。普段冗談言わない子が真顔で言うもんだから」

裕美「それはそれとして……お魚を食べる時、毎回私を呼ぶつもりなの?」

P「関ちゃんと一緒にいる時だけ魚を食べればいいんじゃないか?」

裕美「栄養、偏ると思うよ」

P「だよな。でも、女の子に魚の骨を取ってもらうの、高校生の頃からの夢なんだ」

裕美「えっと……ごめん、反応に困る夢だね」

P「関ちゃんは素直だなぁ」

裕美「えへへ」

P「本当に素直だなぁ!」

裕美「でも、相手が私でいいの?」

P「いいに決まってるじゃないか。関ちゃんほどの女の子に甲斐甲斐しく魚の骨を取ってもらえれば、男冥利に尽きるってもんだ」

裕美「……そういうこと、誰にでも言ったりしてない?」

P「俺はそんな軽い男じゃない」

裕美「本当に?」

P「逆に聞くけど、どうして疑うんだ」

裕美「だって……そういうこと言う割に、いまだに名前じゃなくて苗字で呼んでくるし」

P「それは、アイドルとプロデューサーの距離感をだな」

裕美「他の子は普通に名前で呼んでるのに?」

P「………」

裕美「それとも、私とだけ距離を置きたいってこと……?」

P「いやいやいや、そういうわけじゃない。断じて違う」

裕美「じゃあ、どうして?」

P「……なんか、呼びやすい。語感がいい」

裕美「……それだけ?」

P「それだけ」

裕美「隠し事してない?」

P「………」

裕美「だめ、全部吐いて」

P「取り調べ?」

裕美「そう捉えていただいてもかまいません」

P「かっこいい……こういう刑事役もいけるかも」

裕美「仕事のこと考えて話を逸らすの禁止」

P「あ、はい」

裕美「じーっ」

P「……わかった、白状する。でも、本当につまらない理由なんだ」

裕美「いいから、教えて」

P「………照れ臭いんだ。下の名前で呼ぶの」

裕美「え……」

P「本当に、なんとなくなんだけど。関ちゃんだけ、なんだかそうなる」

裕美「私だけ……そ、そうなんだ。私だけ、なんだ。ふーん」

P「だがしかし、君がそこまで気にするなら俺の羞恥心など些細なことだ。今この時を持って名前で呼ぶことにしよう」

裕美「ま、待って。逆にそれは私の心の準備が」

P「裕美」

裕美「あふんっ」

P「どうした裕美、顔と目が赤いぞ」

裕美「目はもともと赤めだからっ! じゃなくて……だめ、だめだから」

P「どうしてダメなんだ、裕美」

裕美「と、とにかくだめなの! そういう呼び方は、その。もっと後にしたほうがいいと思うな……」

P「もっと後って、いつ?」

裕美「えっと……えっと」

裕美「えっと……Pさんの魚の骨、毎日取ってあげられるくらいになったら」

P「……それ、同棲してるんじゃないか?」

裕美「………」

P「………」

裕美「忘れて」

P「いや、なかなか忘れられる発言じゃ」

裕美「だめ! 全部忘れて! 忘れて~~!!」

P「どうしようかなあ」

裕美「もうっ、Pさん!!」

P(頬を膨らませ、腕をぶんぶん振りながら照れる彼女を見て、俺は思った)

P(……いつの間にか、表情豊かになったじゃないか)

P(笑顔だけじゃない。彼女の喜怒哀楽全てが、宝石のように価値あるものなんだ。俺はそれを、大切に育てていこう)





裕美「いい感じに締めようとする前に、ちゃんと全部忘れなきゃだめ!!」

P「バレたか」




おしまい

おわりです。お付き合いいただきありがとうございます
関ちゃんに睨まれたいところありますよね

過去作
佐藤心「もうすぐ32歳か……」
北沢志保「雨が止むまで」

などもよろしくお願いします

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