モバP「よっしゃ、暇だし精神病院でも行くか!」 (34)

P「というわけで、今日は近場の精神病院に来たぞ!」

P「前回自殺ドッキリしたら多方面から大いにメンタル面を心配されまくったからな!」

P「っていうか普通に自殺したら? って言われたしな!」

P「ちゃんと精神病院に行って安心するぞ!」

P「ま、本当は有給消化なんだけどな!」

P「働き盛りのイケメンには辛いわーっ! はーっ!」

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モバマスSSです。
前作『モバP「よっしゃ、暇だし自[ピーーー]るか!』は読んでいなくても普通に読めると思いますが、もし余裕がある方は読んでいただけると雰囲気をより濃厚に味わえると思います。
また、SSまとめサイト『森きのこ』、もしくは(特に)『エレファント速報』のコメント欄を一通り読み切ってから読んでみると、大変臨場感のあるSSになると思います。
面倒なら何も読まなくてもこのSSも読まなくても結構です。これは、そういうお話です。
地の文キャラ崩壊見切り発車、なんでもござれです。

P「ここが精神病院かぁ!」
P「いや違うな。精神病院にしては狭すぎるもんな。どっちかというと、カウンセリング的な感じかな?」
P「調べたらここって書いてあったんだけどなぁ……」
P「ああ、なるほど。まずカウンセリングを受けて、どの程度のモノか判断して、そのあと精神病院での判断を決める、みたいな感じか」
 事実、精神病院(というか心療内科)における入院の対応は、基本的に開放病棟と閉鎖病棟の二種類に大別されており、その症状の度合いによって分別されている。勿論、可能な限り開放病棟に送ることが良いとされているが、重度の精神分裂症(現在の統合失調症。いわゆるわかりやすい精神疾患の患者。幻覚や異常な妄想や発想などが見られ、人間関係や社会関係における諸機能の低下が挙げられる。無論個人差はあるが、被害妄想から成る様々な妄想に発展し、それが原因となって面倒なケースになるパターンが多いとされている)などにおいては、もはや人権などが薄れた環境下で閉鎖病棟にぶち込まれることにもなる。つまり、ここではPがどれほどの精神的な障害を患っているかを判断する、というわけである。とはいえ、軽度の鬱症状程度であれば、何の問題もなく薬物療法の開放病棟扱いである。

P「さあ入るぞ~」

P「中は結構綺麗なのね。エレベーターとかなかった割には」

 駅から歩いて約五分。こじんまりとしたオフィスビルの二階を突き抜ける様に豪快に使用している部屋が、その診察所だった。一回はくたびれた老舗のようであり、なんとなく染みのついたアスファルトがPの視界にやけに染みついた。

P「こんにちわ~……あ、予約とかしてなかったな、そういえば」

 これは失態であった。こういった精神科やカウンセリングなどは、予約を取っている必要がある場合が多い。折角の有給を投げ捨ててカウンセリングに来たPにとって、その事実はかなり重かった。

 部屋の中は、不思議と珈琲の匂いがした。もっとアルコール消毒液の、ツンとする匂いかと思っていた。仕事上嗅ぎなれた珈琲の匂いは、何故かとてもPを安心させた。もし患者を安心させる意図で珈琲を飲んでいるのならばいいが――もし先生の趣味で珈琲を飲んでるだけだった場合、少しだけ不安になってしまう。病院内に匂いが漏れるほど珈琲を飲んでばかりいる、ずぼらな先生ということになる。そうなるとやはり、怪しくも感じるもので。

 すぐさま近くの女性が話しかけてきた。

女性「あら、おはようございます」

P「おはようございます。あの、予約とかしてなかったんですけど、大丈夫ですか?」

女性「予約ですか? あはは、そんなものいりませんよ」

 僥倖である。全く無知のまま突っ込んできて、あえなく撃沈するハメにならずに済んだ。Pはほっと胸を撫でおろした。
 もしかして、客が少ないのだろうか。街中では飽きテナントが少ないとはいえ、こんな寂れたオフィスビルの二階を選んだのは、早計だったのだろう。ともかく、客足がないというのであれば好都合である。

P「えっと、診察を受けたいんですけど、大丈夫ですか?」

女性「はい。しばらく待っていてくださいね」

 言われるがまま、近くにあったソファに腰を掛けた。
 お医者様も、いろいろと準備があるのだろう。なんかそういうカルテ的なモノを取り出してみたりだとか、ロールシャッハ(紙にシンメトリーにインクを飛び散らせて、患者が何を想像したかで判断する診断法)とかTAT(Thematic Apperception Test.予め用意した何ら関連性のない複数枚の絵を見せ、患者自身に物語を作ってもらう診断法)とかバウムテスト(患者に木を描かせて判断する診断法)だとか、一通りの準備をするならばそこそこ時間がかかるに違いない。
 Pは深く腰掛けて、首を背もたれに預けた。ソファと背中が密着する体勢である。なんだか自分が軟体動物になったかのような気分になり、安心する。

美優「Pさん、おはようございます」

P「ありゃ、美優さん。おはようございます。どうしたんですか、こんなところに」

美優「“こんなところ”って……まあ、確かに今日はお仕事もありませんし」

P「よく来るんでしたっけ?」

美優「そうですね……特に仕事がない日も……」

 何やら恥ずかしそうに顔を埋める美優さん。別に、カウンセリングに通うのは何ら恥ずかしいことではない。事故で娘を失ったショックで、父親がカウンセリングに通うといった事例は数多い。また、最近では仕事などの精神的重圧(ストレス)によって、メンタル面に障害を起こしている者も多い。特に日本の精神科は利用している患者の数が非常に多く、いわば精神疾患国と言い換えても良い。母数が増えたから安心するという話ではなく、鬱などの精神的な障害はきちんと病院が設置され、医療の面で正式に扱われているのだから、当然怪我して病院に行くように、精神科を訪れるべきだ、ということである。繰り替えすが恥ずべきことではない。強いて言えば、精神科に通うことを恥ずかしいと思う者達が恥ずかしいと思うべきなのである。

 厚顔無恥。自分の常識を他人に押し付けるタイプの悪人。本人自身が気付いていない悪である。いわば真の偽善者。そういう人間である。
 というか、精神の病気は肉体で例えるならば骨折も同然である。骨折したまま日常生活などまともに送れない。黙って病院に行ってギプスをハメるなり、相応の処置が不可欠である。そのままにしていると、症状が悪化することもある。とにかく、少しでもやばいと思ったらとっとと精神科を訪ねたり、カウンセリングを受けてみることが大切である。

P「大変ですね、美優さんも」

美優「はぁ、そうですね……」

女性「Pさーん」

P「あ、呼ばれましたので、お先に」

美優「はい。行ってらっしゃい」

 女性に従うままに、淡々と廊下を歩く。といっても、そこまでの距離があるわけでもない。Pは女性に連れられたまま扉を抜け、便座に座った。

先生「今回はどのようなご用件で?」

P「なんだか最近、疲れてるようなんです。ただ、肉体的なものではないと思うのですが……」

先生「ふぅむ。じゃ、早速ですがテストしてみましょうか」

 先生は染みのついた壁を見せた。どうやら、ロールシャッハテストらしい。とはいえ、シンプルに左右対称の染みではない。おそらく別の意図があるのだろう。

先生「どのような染みに見えますか?」

P「そうですね……雨、みたいですかね」

先生「雨」

P「はい。車内から見た……雨。車窓のぶつかって、弾けて散る雨粒に見えます」

 先生は慣れた手つきでさらさらとペンを走らせた。英語だ。Pには読めなかった。

先生「ところで話は変わるんですが……この宇宙って、どんなカタチをしていると思いますか?」

P「宇宙、ですか?」

先生「はい。どんな答えでもいいです」

 これもテストの一環であろうか。しばらく考えた後、Pは話し出した。

P「アメーバみたいなカタチをしているんじゃないでしょうか。決して一定ではなく、膨張しながらも不規則に変形している。球体に広がっているという話もあるそうですが、個人的な意見だとそう感じます」

先生「私はね、薔薇のカタチをしていると思うんです」

P「薔薇、ですか」

先生「宇宙は薔薇のカタチをしているんです。幾重にも層になって、花弁が重なっている。そうしたら、その薔薇は少女の元へ送り届けられる。ガラスの靴と一緒にね。バケツの馬車に乗って、塔のてっぺんを目指すんです」

P「ということは、薔薇は世界なんですか?」

先生「私の持論ではね」

 中々興味深い話であった。世界を薔薇に例えた人物は聞き覚えがあったが、まさか世界を少女を握っているのがシンデレラだとは考えたこともなかった。

P「でも、床には落第者が棲みついているでしょう? 天井には神かネズミが棲みついています。つまり、世界は薔薇で、虫と少女が棲みついているのです」

先生「ふむ。となると地球は朝露か何かでしょうか」

P「でしょうね。バケツの底に溜まった汚水みたいなものですよ」

先生「あー、なるほど。興味深いお話ですね」

P「とんでもない。先生の方が面白いお話をなさる」

先生「……さて、診断は以上です。結果を出すので、元の場所に戻っていてください」

P「わかりました。ありがとうございます」

 そういって、Pは再び女性に連れられ外に出た。

ちひろ「Pさん!?」

P「おや、ちひろさんもですか」

 待合室に戻ると、ちひろさんがいた。今日は緑色のジャケットは着ていないようである。暑いし仕方ないだろう。
 ちひろさんも何かしらの精神的な重圧を抱えているのだろうか、と考えると少しだけ胸が痛んだ。互いに管理職とは大変なものだと言いあっているようなものだ。ともかく、病院に来たのであれば是非もない。

ちひろ「今日はお休みだったはずでは?」

P「はい、なので来ちゃいました」

ちひろ「なるほど。これは相当きてますね」

P「いえ、初めてですよ」

ちひろ「ところで、私のジャケット知りませんか?」

P「さあ、知りませんね」

ちひろ「美優さんに聞いたら、Pさんが持って行ったと聞いたのですが」

P「はぁ……記憶にありませんが」

ちひろ「そうですか。では見かけたら教えてください」

 どうやら、ジャケットは失くしてしまったらしい。こんな暑い日でも、アレを着て来るというか。見上げた精神である。

P「そういえば、美優さんはどこへ?」

 診察室は一部屋しかないはずである。廊下も一本しかないため、すれ違いになったとは考えにくい。

ちひろ「もう帰っちゃったみたいですよ」

P「そうですか……」

 仕事だろうか。
 色々と大変なのだろう、彼女も。

ちひろ「というか、有給取ったのにこんなところに来ないでくださいよ」

P「こんなところって……」

 酷い言い草である。もっと良い病院に行け、というツンデレだろうか。そうに違いない。

P「そもそも、休日をどう使おうと俺の勝手のはずです」

ちひろ「いやまあ、そうですけど……」

P「そうだちひろさん。暇ですし俺の話を聞いてくださいよ」

ちひろ「私は暇じゃありません」

 どうせ待合室でもやることなんてないくせに。とは言わなかった。

P「宇宙ってどんなカタチをしていると思います?」

ちひろ「はい? 宇宙ですか?」

P「宇宙はね、薔薇なんですよ」

ちひろ「はあ……」

P「薔薇といっても大層なもんじゃあありません。例えるならば、シンデレラのもとにやってくる魔法使いの古びたローブみたいなものなんです。繊維の一本一本に花弁が織り込んであって、歩くとガラスの衣擦れがするんです。とは言っても、バケツの靴を履いているので、あんまり変化はないんですけどね。まあ、幾らバケツで踏み鳴らそうと、床下の落第者は知らない人だし安心です。安心して踏めます。俺には知らない人です。顔を見たこともなければ声を聴いたこともない。しかも落第者ですよ、落第者。そんなものはとっとと海底に沈めて出汁でもとればいいんです。きっと良い塩梅の塩味が取れると思います。けど、やっぱり床下だし泥団子の味もするんでしょうか。泥団子は強烈な味が舌に残り続ける感じがして俺は嫌いなんですが、ちひろさんはどうですか?」

ちひろ「――――P、さん?」

P「でも大丈夫なんです。きっと大丈夫。世界っていうのはこう、ミルフィーユみたいに重なって層を成しているんです。そしたら、ヘタの部分に栄養が集まるでしょう? パンの耳と同じです。あとは、そこだけを煮詰めて味を出せばいい。何も怖がることはないんです。扉だって空いてます。鍵も掛かってない。屋上だって空いてる。仕事も何もない。お菓子もトマトもある。バケツだってある。沢山水が入るヤツです。30ミリリットルくらいは入ると思います。酒を入れてもいいでしょう。ワインも良いと思います。バケツは偉大なんです。なんだって入れれる。夢も希望も絶望も失望も何もかもまとめてぶち込んじゃって、後から床下にでも埋めればいいんです。そうすれば落第者達はこぞって嬉しがり、中身を平らげるでしょう。ね、ほら、バケツは偉大なんだ。凄い。なんだって出来る。人を殺せる。バケツは人を殺せますよ。首を絞め殺せます。頭を殴っても撲殺できます。串だってへし折れる。団子のカスがついていてもお構いなしだ。簡単です。タクシーよりも楽に殺せる」

ちひろ「Pさん! しっかりしてください!」

P「しっかり? 俺はしっかりしてますよ?」

ちひろ「落ち着いて、私の名前を言ってください!」

 間違いなく落ち着いていないのは彼女の方だった。全く困ったものである。精神科を訪れる者は、みんなこうなのだろうか?

P「千川ちひろさん、でしょ?」

ちひろ「じゃあ次! アナタの名前は?」

P「P……ですけど……」

ちひろ「本名は!?」

P「……P……」

ちひろ「違います! それは本名じゃない! アナタは……アナタの名前は――――」

ちひろ「……アナタは誰なんですか……?」
「…………」

ちひろ「アナタは……誰で……あぁ……」

「さあ……誰なんでしょうか」

おしまいです。
ちなみに作業用BGMはフランソワーズ・アルディの「Comment te dire adieu」です。
多分もう続きません

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