魔王「おまえは女だ」ふたなり勇者「認めねえ」 (217) 【現行スレ】


Episode 1


勇者(勇者に選ばれて即追い出されるように旅立たされちまった)

勇者(まあいいか。金には困らなくなる)

勇者(貧民街生活とはこれでおさらばだぜ)

勇者「はあ~清々した。なあ、ガリィ」

狼「わふ♪」

魔王「ふはははは!」ヴゥン

魔王「この魔王自ら出向いてやったぞ! 喜ぶがいい!」

勇者「うるせえ」ドスッ

魔王「ぐはっ」グシャ

勇者「登場早々ミンチにされちまうなんて、自称魔王様も大した事ねえな」

※ふたなり×男、ふたなり逆アナル
攻守逆転有

分岐によっては、話の進行の都合上一瞬だけ同性愛要素有(その際直接的な性描写はないです)


数時間後

魔王「ふはははは!」ヴゥン

魔王「5つの試練を乗り越えた真の勇者でなければ、魔王を滅ぼすことはできんのだ!」

勇者「それまで何度でも殺してやるよ」

魔王「ちょっと待」グシャア

勇者「はー、めんどくせ」


更に数時間後

勇者(昼飯食お)

勇者(干し肉かってえなあ……)

魔王「ふはははは!」ヴゥン

魔王(食事中であれば隙ができるはず!)

魔王「少し話を」

勇者「大爆発《エクスプロージョン》」ボッ

魔王(ノーモーションで上級魔術を発動しただとぉぉぉ!?!?)

勇者「うわ、消し炭になっても少しずつ再生してやがる。きもっ……」




狼「へっへっ」

勇者「ウサギ狩ってきたのか。えらいぞ」

狼「♪」

勇者「綺麗な湖だな。食事前に水浴びでもするか」

魔王(流石に丸裸の時なら即座に攻撃するなんてできんだろう)

魔王(最大防御魔術をかけて……よし)

魔王「ふはははは! 覚悟しろ勇者!」

勇者「懲りねえ奴だな」ゴッ

魔王「ぐふっ!」バシャッ

魔王(あれ? む、胸!? 女だったのか!?)

魔王(下は……)

魔王(ついてる……だと……?)

魔王(どっちだ!? どっちなんだ!?)

勇者「てめえは馬鹿か? それとも真性のマゾヒストか?」

勇者「よっぽど殺されるのが好きみてえだな」

魔王「ちょっと待て! 俺は戦いに来たわけではない!」


勇者「そんな手に乗るかっつの」ガッ

魔王「いっつ! 待て! 頼むから待ってくれ!!」

勇者「魔王様がオレに一体どんな用があるんだよ」

魔王「それはだな……いやそれより……」

魔王「おまえ、よく見たら美少女だな」

勇者「やっぱブッ殺す!!」

魔王「ぐわあああ!!」


30分後

勇者「やっぱ狩りたての肉はうめえな」

狼「♪」ガツガツ

魔王「はっ!」ガバッ

勇者「再生すんのはええな」

魔王「くくく。防御魔術をかけていたため損傷が少なかったからな」

勇者「じゃあ骨まで粉々に摩り下ろしてやるよ」

魔王「痛いのはもう嫌だ! 降参! 降参する!!」

勇者「いるんだよなあ、そうやって隙を窺う奴」

魔王「俺は和平を望んでいる! これは本気だ! だからおまえと仲良くなりたい!」

勇者「はあ?」

魔王「平和な世界に興味はないか?」

勇者「ねえな」

魔王「えっ」


勇者「世界とかどうでもいい。オレはオレとこいつさえ生きていければそれでいい」ガシガシ

狼「♪」

魔王「こ、このままでは我が兄によって人間は滅ぼされてしまうのかもしれないのだぞ!?」

勇者「滅べばいいじゃん。人間なんて碌な生き物じゃねえし」

魔王「なっ、なんてことを」

勇者「つうかおまえ、兄貴より権力ねえのか」

魔王「くっ……。父上の意思で俺が魔王となったが、魔族の約半数は好戦的な兄を支持している」

魔王「俺は父から受け継いだ闇の力により老衰以外では死ぬことはないが、」

魔王「戦闘能力では兄に敵わない。だから勇者であるおまえの協力が必要なのだ!」

勇者「なんで弱いのにおまえが魔王に選ばれたんだよ。前の魔王が和平を望んでいたとは思えねえけど」

魔王「それは、俺が正妻の子だからだ」

勇者「ふうん」


勇者「じゃあなんでおまえは和平を結びたがってんだ」

魔王「それは……」

魔王「……おまえばかり質問しているではないか。こちらからの問いにも答えてもらおう」

魔王「何故それほど人間を嫌っている?」

勇者「オレさあ、4歳の頃に親に捨てられちまったんだよね」

魔王「っ……」

勇者「見ただろ、俺の体。こんな体だから、国がオレの親に命令したんだよ。スラムに捨てろって」

勇者「それなのに、神託が降りた途端、国の連中オレに頭下げに来たんだぜ!」

勇者「『助けてください勇者様』ってよお! あー、あれは笑えた」

魔王「……」

勇者「人間のくだらない価値観のおかげでオレは散々な生活を強いられたんだ。憎んで当然だろ」

魔王「……それも、そうだな」


勇者「わかっただろ? オレに協力を求めたって無駄だって」

魔王「4歳の頃に捨てられたのならば、どうやって生き延びた? 助けてくれた者はいただろう」

勇者「殺されちまったよ。社会の膿に。好き勝手に犯されてからな」

勇者「オレの仲間はこいつだけだ」

狼「わふ」

魔王(狼……魔狼との交雑種とは珍しいな)

勇者「綺麗事や正論はオレには通用しない。自分の城に帰るんだな」

魔王「……おまえが人間を憎んでしまうほど苦しんできたことはわかった」

魔王「だが、俺は諦めない。再び貴様の前に姿を現すぞ」

魔王「そういえば、まだ名を聞いていなかったな」


勇者「男ならローゼライト。女ならローゼマリア。どっちでもねえから、ただのローゼだ」

魔王「そうか。俺の名はグラナティウスだ」

勇者「長くて覚えらんねーわ」

魔王「いずれ覚えてもらいたいものだな」

勇者「ああ、そうだ。ちょっと待てよ」

勇者「取り消せ。殺される直前に言ったことを」

魔王「?」


勇者「オレのこと……美少女っつったろ。あれ、取り消せ」

魔王「何故だ」

勇者「オレァなあ! 女扱いされるのが何よりも大っ嫌ぇなんだよ!」

勇者「オレは男として生きるって決めてんだ」

魔王「…………」

勇者「取り消さねえと夜明けまで殺し続けるぞ」チャキ

魔王「……わかった。取り消す。おまえは男だな」

勇者「ふん」シャキン

魔王(男として生きるのならば、何故堂々とローゼライトと名乗らない?)

魔王(……追究しない方がよさそうだな)

勇者「……あれ? おまえの顔、どっかで……」

魔王「見覚えがあるのか?」

勇者「あー、昔新聞に載ってた絵に似てんだ。誰の絵だったのかは忘れちまったけどな」

魔王「そうか」

魔王「……また会おう」

つづく


Episode 2


勇者「ここが第一の試練、風の神殿か」

魔王「そのようだな」

勇者「なんでおまえがいるんだよ」

魔王「俺はおまえの協力がほしい。だから、先に俺がおまえに協力しようと思ってな」

勇者「恩を売るつもりか? おまえの助けなんて要らねえっつの」

勇者「大体わかってんのか? 俺が試練を乗り越えたらおまえを滅ぼす力を手に入れるんだぞ」

魔王「ああ。勇者のみが操ることのできる、聖なる光の術」

魔王「それはどんな強大な魔の力を打ち破ることができるそうだな」

魔王「その力があれば、我が兄を打ち破ることも可能となるだろう」

勇者「その前にてめえが地獄送りにされるとは考えねえのか?」

魔王「なんとしてもおまえを仲間にしてみせる」

勇者「しつけえ野郎だな」


勇者「なんだこの扉。開かねえ」

魔王「……ふむ。なるほど」

魔王「パズルのようなブロックが埋め込まれているだろう。これがカギだ」

勇者「解けってか? めんどくせえ。ぶっ飛ばす」

魔王「それでは試練にならんだろう」

魔王「知恵を使え知恵を」

勇者「うるせえ」

魔王「おまえは賢さを持ち合わせているはずだ。この程度、解けないはずはないと思うのだがな」

勇者「やりゃいいんだろやりゃあ」

魔王(意外と扱いやすいな)


勇者「しっかし魔物だらけだな」

魔王「おまえの行く先を阻むため、兄に差し向けられたのだろう」

魔王「近づいてこようとしないのは俺がいるためだ」

勇者「楽なのはいいけどよー、魔物とは戦い慣れときてえんだよな」

勇者「ちょっくら狩るか」シャキン

魔王「無闇に命を奪おうとするでない。襲いかかってきたならば切り伏せるのはやむを得んが」

魔王「彼等も人間や動物と同様、生きている」

勇者「ちっ」チャキ

魔王「意外と素直ではないか」

勇者「うるせえ」


風の将軍「我は五虎大将の1人、風の大将軍カテギダ!」

風の将軍「勇者よ! 光の力を得る前に朽ち果てるがよい!」

勇者「覚えにくい名前だな……あれもおまえの兄貴の部下か?」

魔王「ああ」

風の将軍「ぐ、グラナティウス!? 何故ここに!?!?」

勇者「呼び捨てにされてんぞおい」

魔王「……」

魔王「悪いことは言わん、この勇者は強い。俺でも敵わぬ。だから帰れ」

風の将軍「くっ、五虎大将が尻尾を巻いて逃げるわけにはいかぬ!」

風の将軍「大体、一応魔王ともあろう者が勇者と仲良く肩を並べているとはどういうことだ!」

勇者「仲良くねーよ。こいつがストーカーしてるだけだぜ」

魔王「ストーカーとは人聞きの悪い」

風の将軍「そうか……グラナティウスは男をストーキングする変態であったか」

魔王「違うわ!!!!」


風の将軍「我が風の刃の餌食としてくれる!」

魔王「勇者を傷つけるつもりならば、この俺が相手になってやろう!」

風の将軍「不死の力を手に入れたことを後悔するまで切り刻み続けてやろう!」

魔王「来い!」

勇者「っだーもう!! オレは他人に守られるなんて屈辱でしかねえんだよ!!」

勇者「2人まとめてぶっ飛ばしてやる!」

魔王「ちょ」

ゴオン!!

風の将軍「うぐっ……ガッ……」

勇者「おー、生きてるとは丈夫だな。流石魔族のお偉いさんだ」

魔王「くっ、痛い……俺まで攻撃することはないだろう!」

勇者「は? 勝手にしゃしゃり出てきたおまえが悪いんだろ」

風の将軍「おの……れ……」

勇者「帰ってご主人様に伝えな。オレを殺そうとしたって無駄だってな! はははは!」


神殿 最深部

風の大精霊「よくここまで辿り着きました、勇者よ」

風の大精霊「では、あなたの力を試させていただきましょう……と言いたいところですが」

風の大精霊「あなたの実力はもう充分見させてもらいました」

風の大精霊「聖なる光の力の欠片、風の加護を授けましょう」

勇者「どうも」






勇者「楽勝だったなー」

狼「へっへっ」

勇者「おーよしよし、昼飯にしような」

魔王「ここは見晴らしがいいな」

勇者「おい、その箱何だ」

魔王「お弁当だが」


カパッ

勇者「……!!」

勇者(豪華だな……)ジュル

魔王「……少し分けてやろうか?」

勇者「いいのか!?」

勇者「うわ、うめえ、うめえ」ガツガツ

勇者「ほら、おまえも食え」

狼「♪」

勇者「こんなに美味いものがこの世にあるのかよ……くそ……」

魔王(これほど感動されるとは……)

魔王「……今度からはお前の分も用意してやろうか?」

勇者「!!!!」

勇者「ガリィの分もな!!」

狼「わふ」

魔王「良かろう。爺やに頼んでおいてやる」


翌日

魔王「ふはははは勇者よ! お弁当を持ってきてやったぞ!」

勇者「うおっしゃあああああ!」

勇者「うんめー!」ガツガツ

魔王「ガリィには最高級のウルフフードだ」

勇者「なんだそれ」

魔王「魔王軍が開発した、狼の体に最も適した食べ物だ」

魔王「他のどのフードよりも栄養バランスが優れている」

狼「……」クンクン

狼「!!」ガツガツ

魔王「ふふふ。美味いだろう」

勇者「確かに美味いな」ポリ

魔王「人間が口にするでない」


魔王(くくく。勇者の胃袋を掴むことに成功したぞ)

魔王(食い物と引き換えに協力を……と言いたいところだが、あまり恩着せがましくするのは逆効果だな)

魔王「今までどんなものを食べてきたんだ」

勇者「食えるものならなんでも食った。まともな料理にありつけることは滅多になかったな」

勇者「でも、けっこう良い家に生まれたからよ、捨てられる前はそこそこ良い飯食ってたんだぜ」

勇者「味なんてもう忘れちまったけどな……いや、あれの味はまだ覚えてる」

勇者「へらべったくした卵をぐるぐる巻いたやつ」

魔王「卵焼きか」

勇者「甘くて、中にチーズが入っててとっろとろなんだ」

魔王「ふむ。今度メイドに頼んでみるとするか」

勇者「マジか!?」

魔王「嘘は吐かん」


勇者「……親切な野郎はぜってぇ何か目的があるんだ。腹の内ではよからぬことを考えてるに決まってる」

勇者「スラムじゃ、最も警戒するべき相手は親切な奴だった」

魔王「腹の内も何も、俺の目的は知っているだろう」

勇者「そういやそうだったな」ガツガツ

魔王「とはいえ、今すぐにおまえに協力を求めることはやめた」

魔王「今はただ、親交を深めたいと思っている」

勇者「これからもうめぇ飯食わせてくれるんなら、ちょっとくれえ協力してもいいぞ」

魔王「あ、あっさりだな……」

狼「♪」ブンブン ペロォ

魔王「おー、よしよし。くすぐったいぞ」

勇者「……珍しいな。ガリィがここまで懐くなんて」

勇者「人懐っこくはあるが、オレ以外の相手には、普段はここまでスキンシップしねえんだ」


魔王「おやつもあるぞ、犬用のだが」

狼「♪」ブンブン

魔王「くくく。喜んでもらえて嬉しいぞ」

勇者(こいつ……随分純粋な笑い方しやがるな)

勇者(こんな笑顔を見るのは一体何年振りだろうな)

勇者「オレはただ借りを作ったままにしたくねえだけだからな」

魔王「飛び切り美味いのを毎日持ってきてやる。その分働いてもらうからな!」


勇者(スラムでオレが散々見てきた、人間のきったねえ心)

勇者(あの魔王様からは、それを感じられなかった)

勇者(魔族ってのは皆ああなのか?)

勇者(それとも、あいつが特別なんだろうか)

勇者(……どうでもいい。美味い飯にありつけるなら、あいつがどんな魔族かなんて)






魔王「なあ、この国の王は、どんな男だ」

勇者「ろくでもねえ奴だよ」

勇者「プッツンな完璧主義者でよお、教会を利用して気に入らない人間をとことん排除しやがるんだ」

勇者「ちょっと道を踏み外しちまった奴とか、オレみたいな半端者とかをな」

魔王「……そうか」

勇者「若え頃は良い王様だったらしいけど、20年前にお姫様が魔王に攫われて以来豹変しちまったんだとよ」

魔王「…………」

勇者「オレに助けを請わざるを得なくなって、さぞ屈辱だったろうなあ!」

勇者「『姫と神器を取り戻せ』って、絞り出すような声で命令してきたんだぜ!」


勇者「どうせお姫様なんて、とっくの昔に死んじまってるんだろ」

魔王「……ああ」

勇者「神器ってのも、取り戻す義理なんてねえしなあ。まずどんな形かすら知らねえし」

勇者「この国ではさ、王位継承の儀式には三種の神器が必要なんだそうだ」

勇者「奪われたのはその内の1つ……なんて名前だったっけなあ。忘れちまった」

魔王「聖銀の鏡だ」

勇者「ああそうそう。そんな名前だったな」

勇者「てかおまえ、魔王になったのいつだよ」

魔王「1年前だ」

勇者「へえ、年はいくつだよ」

魔王「17だ」

勇者「わっけえなおい」

魔王「だから貫禄もなければ威厳もない。困ったものだな」

魔王「おまえこそいくつだ。俺よりいくつか下だろう」

勇者「14だよ」


勇者「じゃあおまえ、鏡持ってんのか?」

魔王「これだ」スッ

勇者「持ち歩いてんのかよ」

魔王「いざという時の切り札にするつもりだ」

勇者「すぐに返せばあの王様も少しは……いや、駄目だな」

勇者「お姫様が死んじまったって知ったらかえって逆上しかねねえ。下手に刺激しねえ方がいいな」

魔王「ああ。タイミングは重要だ」

狼「わふぅ」

魔王「よしよし。おまえも半魔で苦労したのだろうな」

勇者「え……こいつが半魔だってよくわかったな」

勇者「見た目は普通の狼とほぼ変わんねえし、魔の気だってうっすいのに」

魔王「くくく。俺は魔王だぞ。舐めてもらっては困る」


勇者「こいつ、半魔だからか群れからハブられちまったみたいでさ」

勇者「貧民街に辿り着いて、ゴミを漁ってたところを拾ったんだ」

勇者「なんかほっとけなかった。オレもおんなじ半端者だからだろうな」

魔王「…………」

勇者「おまえみてえな純粋な魔族にはわかんねえだろうけどさ、オレ達の気持ちなんて」

勇者(圧倒的に濃い魔の気。どう考えても純粋な魔族だ)

魔王「……なあ、もし、人間と魔族が争うことのない世界を実現できたら、おまえはどう生きる?」

勇者「想像つかねえや。てか、まず無理だろ」

勇者「人間の国っつったっていくつあると思ってんだよ」

勇者「それに、和解してえなら、おまえら魔族が人間から奪った土地を返さなきゃいけねえ」

勇者「そんなこと無理だろ」

魔王「そうだな……何処か、人間の所有していない土地に移り住むことができればいいのだが」


勇者「仮にそんな土地があっても、魔族の連中は納得するのか?」

魔王「難しいだろうな。尻尾を巻いて逃げるのかと非難されるだろう」

勇者「やっぱどう足掻いても無理なんだよ、わへーなんて」

魔王「おまえも、俺の夢を子供の幻想だと嗤うか?」

勇者「嗤いはしねえけどさ」

魔王「協力してくれるのだろう?」

勇者「食わせてもらった飯の分だけはな」

勇者「あーでも、和平の方法考えるとかはナシだぜ」

勇者「邪魔な奴を排除するだけな」

魔王「そうか」

勇者「世の中、綺麗な夢だけじゃどうにもできねえんだよ」

勇者「あー……世界はきったねえのに、空は綺麗だよなあ」


魔王「……すまない」

勇者「はあ? なんでいきなり謝るんだよ」

魔王「我が父がこの国から大切なものを奪わなければ、おまえが迫害されることはなかった」

勇者「おまえがやったわけじゃねえだろ」

魔王「魔王の座と共に、俺は歴代の魔王の罪も受け継いでいる」

魔王「本当に、すまない」

勇者「やめろ。余計惨めになるだけだ」

魔王「…………」

勇者「……っだーもう! 辛気くせえのは嫌いなんだよ!」

勇者「ほら! 休憩は終わりだ! 行くぞ!」

勇者「てかおまえの瞬間転移魔法使えば楽に旅できるじゃん」

魔王「アナログな移動も試練の一環だろう」

勇者「ほんと、真面目だよなあ、おまえ……」

つづく


Episode 3


白壁の町

魔王「美しい町だな」

勇者「魔王が堂々と人間の町に入ってくんなよ」

魔王「上手く化けているだろう?」

勇者(紺色の髪が真っ黒になってるし、肌の色もこの辺の国の人間に合わせてんだな)

勇者「角どこにやったんだよ」

魔王「髪に変化させるくらい、造作もないことだ」ドヤ

勇者「あっそ」

マッサージ屋「そこの素敵なお兄さんたち~! ちょっと寄っていかなーい?」

勇者「おまえ顔は良いよな」

魔王「くくく。人間から見ればかなりの美形の部類だろう」

勇者「魔族から見たらどうなんだよ」

魔王「……弱そうに見えると言われる」

勇者「魔族の感覚ってよくわかんねえな」


マッサージ屋「こってるわね~!」

魔王「ああ……うう……そこ……効くぅっ……!」

マッサージ屋「お兄さん、デスクワークばかりしてるでしょ~」

魔王「職業柄、どうしてもな……あぐっ」

勇者(堪能してやがる……)

マッサージ屋2「あなたも、ストレス溜め込んでるんじゃない?」

勇者「いててて。あ、そこだそこ。そこをぐっぐっと」

勇者(なんでオレまでサービス受けてんだよ)

勇者(でも良いもんだな……こりがほぐれる……)

マッサージ屋3「わんちゃんもリンパのマッサージしましょうね~」

狼「♪」


マッサージ屋2「白銀の髪に、萌黄色の虹彩……あなた、新しく旅立ったっていう勇者様でしょ」

勇者「ああそうだよ。くうっ……」

マッサージ屋2「ということは、かなぁりお強いんでしょ?」

勇者「まあな。倒せなかった敵はいねえよ」

魔王「そやつに剣で敵う者はそういないだろうな。魔術の腕も立つ。うっ、くっ……」

マッサージ屋「あらあ、すごいのね。でも、暴力だけが力じゃあないのよ?」

マッサージ屋2「マッサージだって、『力』になるんだから♪」

マッサージ屋「こぉんなに気持ち良くされちゃったら、あたしに気を許したくなっちゃうでしょ?」

魔王「確かに……くうう……」

マッサージ屋「相手を気持ち良い気分にすることで、相手の心を開く『技術の力』」

マッサージ屋「これでお偉いさんにチップ弾んでもらったりできちゃうんだから、大したものでしょ?」


マッサージ屋「夜には別のサービスだってしてるのよぉ♪」

魔王「べ、別のサービス?」

マッサージ屋「そう。もぉっと気持ちの良いコト。どう? また、夜にいらっしゃらない?」

魔王「えっ、あ、その、えっ」

勇者「ははっ顔真っ赤だぜ! 童貞かよ!」

魔王「ううううるさい!」

マッサージ屋「あらあらうふふ」


魔王(恥をかいてしまった……体は楽になったが)

勇者「また行きてえな」

魔王「昼間にな」

魔王「……しかし、ヒントを得られた気がする」

勇者「へえ?」

魔王「人間であろうが魔族であろうが、己に快を与える相手には好意を覚える性質がある」

勇者「男娼でもやって人間の女たらしこむつもりか?」

魔王「違うわ!!」

魔王「サービス業を人間と魔族の橋渡しにはできないかと思ってな」

勇者「魔族の店ってだけで人間は近寄らねえし、その逆も然りだろ」

魔王「やはりそうか……」


町人A「しかし、町長様も困ったものだな……」

町人B「ここまで税を上げられては、生活が成り立たない」

町人A「魔族が絡んでるって話、まさか本当じゃねえよなあ」

魔王「……気になるな」

勇者「マジで魔族が絡んでるなら勇者の仕事になっちまうなー」

魔王「詳しく話を聞かせてくれないか」

勇者「おい勝手に首突っ込んでんじゃねえよ」

町人A「美少年や美青年を買うのに夢中になりすぎて、金遣いが荒くなってるって噂が立ってるんだよ」

町人B「少し前までは、いたって真面目な女の人だったんだ」

町人A「いきなりどうしちまったんだろうなあ」

魔王「ふむ……。ローゼ、詳しく調べてみるぞ」

勇者「オレよりおまえの方が勇者業向いてそうだよな」







魔王「ここが町長の館か」

勇者「おまえだけでやればいいんじゃ……」

勇者「いや、事件を解決した方が国から支給される金増えるし別にいいか」

魔王「魔族の気配はほぼ感じられない。だが、全く感じないわけでもない」

魔王「それに、この香の匂い……覚えがある」

勇者「え、お香の匂いなんてしねえけど」

魔王「俺は鼻が利くんだ」ドヤ

勇者「その顔むかつく」


魔王「町長に直接会うのが早そうだな」

勇者「すんませーん、オレ勇者なんですけど、町長に面会願いまーす」

見張り1「現在、町長はあらゆる面会を謝絶している。お引き取り願おうか」

勇者「チッ、なら力づくで」

魔王「まあ待て。一旦退こう」

勇者「えー」







魔王「今無理に正面突破すれば警戒を強められるだろう」

魔王「策を練り、油断させた方がいい」

勇者「策って、具体的にどうすりゃ……あっ」


勇者「サービス業者のふりでもするか」

魔王「くくく。俺も同じことを考えていた」

魔王「先程町長の男の好みを調べたが、おそらく俺もおまえも町長の対象内の顔をしている」

勇者「じゃあいかにも男娼っぽい格好を整えて出直すか」

魔王「ああ。見張りが交代する頃に再び向かおう」








勇者「おまえホストかよ」

魔王「おまえこそ」

勇者「真っ赤で派手だな」

魔王「真っ青なおまえも似たようなものだろう」


勇者「こんちはーっす」

魔王「夜はこんばんはだろう」

勇者「細かいことは気にすんなよ」

見張り2「何の用だ」


勇者「町長さんに、ちょっとしたサービスを……と思いまして」

見張り2「しかし、アポもなしに訪問されてもな」

勇者「飛び切り美形の男が2人訪れたことだけでも、どうかお伝え願えませんかね」

魔王「『飛び切り美形』と自分で言える自信がすごいな」

勇者「おまえこそ昼間に自分のことかなりの美形っつってたろ」

魔王「細かいことは気にするでない」

見張り2「とりあえず、名前を教えてもらおうか」

勇者(いっけね、偽名考えてねえ)

魔王「ええと……」

勇者「こいつはグラ」

魔王「おい」

勇者「グラってんだ」

見張り2「おまえは」

勇者「……グリ」

魔王「それではまるでとんがり帽子のネズミの双子ではないか」


勇者「いいだろ別に、丁度服もお互い青と赤だしよ。なんなら今度仲良くカステラでも焼いてやろうか」

魔王「ほう? 親交を深めるには良さそうだな。俺はホットケーキの方が好きだが」

勇者「それでもいいぜ、バター代おまえ持ちな」

魔王「そいつはしバっター」

見張り2「は?」

勇者「くだらない駄洒落はホットケー、キにすんな」

見張り2「帰れ」

勇者「えー、こんなに良い男を追い返したなんて、後から町長様にバレたらその方がまずくありませんかねー?」

見張り2「た、確かに」

勇者「町長様に良い夢見させて差し上げたいんですよぉ」

見張り2「いやちょっと待て、おまえ本当に男か? 顔立ちがどうも」

勇者「オレを女扱いする奴はぶっころ」

魔王「落ち着け、その表情の作り方はまるでゴロツキだ」ガシィ


魔王「町長様は女顔の美少年も好んでいると聞いたのだが」

見張り2「うーん、仕方ないな」

見張り2「すんませーんせんぱーい、無駄に顔の良い漫才師のコンビが来てるんですけどー」

勇者「漫才師だってよ」

魔王「おまえのせいだぞ」

勇者「ノリノリだったくせに」

見張り2「入っていいぞ」


勇者「奥に進めば進むほど甘ったるい匂いがきっつくなるな」

魔王「やはり、この匂いは……」

ガチャ

町長「いらっしゃあい、あなた達は、一体どうやってあたしを悦ばせてくれるのかしら?」

勇者(うわ、部屋中男だらけだ。死人みてえにぐったりしてやがる)

勇者「麗しい方だ。3Pはいかがでしょう」

魔王「誘い方が直接的過ぎるだろう」

勇者「じゃあどう言えばいいんだよ」

魔王「それはだな」

勇者「ああそっかおまえ『童貞』だもんな、3Pする度胸なんてねえよな」

勇者「でも『どうってい』うことはないぞ、すぐ慣れる」

魔王「そう言うおまえは余程経験豊富なのだろうな」

勇者「15までは童貞でも許されるんだよ」

町長「あはは、つまんない漫才はもういいわ。さ、早くイイコトを始めましょ」

魔王(格好がエロいな……)


魔王「ふん、生憎貴様とイイコトをするつもりはない」

勇者「赤面しながら言っても説得力ねえぞ」

魔王「細かいことは気にするでない」

町長「本当はしたくてたまらないくせにぃ」ボイン

勇者「おまえの好みはお色気満載ボインボインか」

魔王「やめろ」

魔王「……正体を現すがいい、サキュバスよ」

町長「あら」

魔王「この香は、淫魔の力を高める効果のあるものだ」

魔王「憑依を維持するためにずっと焚き続けているのだろう」

町長「詳しいのね、淫魔のことに」

勇者「あれだろ、エロいこと調べてる内に知ったんだろ」

魔王「違うわ」


町長「あたしを退治しに来たのかしら?」

魔王「大人しく魔族の国に帰るのであれば、命までは奪わぬ」

町長「残念だけど、あたし、人間の男の子が大好きなのよね」

スウゥ――

勇者(町長の体から抜けた!?)

サキュバス「でもあたし好みの男の子を毎晩探すのって大変だからぁ」

サキュバス「こうして権力のある女の体を奪ってコレクションを集めてたのよぉ」

サキュバス「折角作った楽園を壊させはしないわ!」

サキュバス「あなた達も骨抜きにしてあげる!」

魔王「来るぞ!」

勇者「ハッ、返り討ちにしてやるよ!」


サキュバス「欲情《ラスト》!」

魔王「気をつけろ、あの球に当たると欲情が止まらなくなるぞ!」

勇者「心配ねえよ、おまえを盾にするからな!」

魔王「ちょ」

サキュバス「なんて奴なの!?」

勇者「風の刃《ブラストカッター》!」

サキュバス「きゃああ!」

勇者「地獄で好きなだけセックスしてろ!」

魔王「ちょっと待て! 止めは刺すな! 俺がそやつを封印する!」

勇者「うわ、なっさけねーポーズ」

魔王「おまえのせいだぞ」

魔王(息子が収まらん……)


魔王「俺は殺生を好まない。よって、おまえを封印の刑に処す」

サキュバス「それは魔王だけが使うことのできる術のはず! まさか……!」

魔王「今更気がついたか」

サキュバス「嫌よ! あんな場所に行くなんて!」

魔王「今すぐ死ぬよりはマシであろう。……多分」

魔王「開け、門よ!」

ゴオオォォォォ……

サキュバス「嫌! いやあああああ!」

勇者「うわ、こっわ」

勇者(渦巻く闇の中にサキュバスは吸い込まれていった)


勇者「おまえいつまで蹲ってんの?」

魔王「……一度熱を開放しなければ、この術は解けんのだ」

勇者「勃起しっ放しかよ、ご愁傷さま」

魔王「おのれ……」

勇者「トイレ行って抜いてこいよ」

魔王「自分でやっても駄目なのだ。この術にかかった以上は、女に相手をしてもらわねば……」

勇者「ええ……」

魔王(こやつに頼む……わけにもいかんしな……)

魔王(顔を直視できん。性欲が昂るあまりに、こやつが魅力的な女に見えて仕方がない)

魔王(顔だけは……顔だけは本当に良い女だ……顔だけは……)


町長「うう……あれ、私は……」

勇者「今までの記憶あるか?」

町長「ああ、私はなんてことを……!」

勇者「まあもうサキュバスは退治したから大丈夫だ」

勇者「ところで、ローブねえか? 体すっぽり覆えるやつ」

町長「え、ええ」

勇者「ほら、これ着ろよ。これなら町中歩いても大丈夫だろ」

魔王「…………」

勇者「マッサージ屋の姉ちゃんにしてもらおう、な?」

魔王「………………」

勇者「ほら、肩貸してやるよ」

魔王「…………………………」


1時間後

勇者「童貞卒業おめでとう!」

魔王「……とらんわ」

勇者「え?」

魔王「卒業なんぞしておらんわ!! 手でしてもらったからな!!」

勇者「なんでだよ、折角の機会だったのに」

魔王「万が一避妊に失敗して半魔を孕んだら、あの者の人生を壊すことになってしまうだろう」

勇者「どこまでも真面目だよなおまえ」

勇者「まあ悪いもんでもなかっただろ?」

魔王「その……まあ……なかなか良いものではあったが……」

魔王「うう…………」

勇者「何蹲ってんだよ、また勃ってきたか?」

魔王「このあまりにも激しく渦巻く羞恥心に動く気力を奪われてしまっている俺の気持ちがおまえにわかるものか」


勇者「今回は悪かったよ。すまなかったな」

魔王「…………」

勇者「おまえ魔王ならさー、妾なんて作り放題で、高級遊女的なのも呼び放題じゃねえの」

魔王「立場上は可能だが……」

勇者「だが、なんだよ」

魔王「女を呼びたいなんて、そんな恥ずかしいこと、爺やに頼めるものか!」

勇者「純な奴……」

魔王「……はあ」

魔王「…………」ジィッ

勇者「なんだよ、オレの顔に何か付いてるか?」

魔王(サキュバスの術のせいとはいえ、こやつに欲情してしまうとは……)

魔王「……疲れた。帰って寝る」

勇者「おう。明日も飯頼むぞー」

魔王(……気まずい……)

tsuduku


Episode 4


勇者「国境だ! このクソみてえな国ともおさらばだぜ! ヒャッハー!」

魔王「元気だな」

勇者「ははっそりゃあな」

魔王「……世界は広いな」

勇者「そういやおまえ、この頃すぐ城に帰っちまうじゃないか。忙しいのか?」

魔王「民が、和平賛成派と反対派で真っ二つに割れておってな」

魔王「内乱に発展しないよう抑えるのに必死なのだ」

勇者「へえ、そりゃご苦労なこった」

魔王「なあ、ローゼ」

魔王「おまえは、どれほど悩んでも答えが見つからず、闇を彷徨っている気分になることはないか?」

勇者「ねえな。色々割り切らなきゃ生きていけねえ環境で育っちまったからなあ」

魔王「……おまえは、強いな」





数日後

水の神殿

勇者「ガリィ、おまえはここで待ってろ」

勇者「さっさと試練を片付けて戻ってきてやるからな」

魔王「俺も共に行こう」ヒュン

勇者「へえ、仕事は大丈夫なのか?」

魔王「一応な。それより、おまえが心配だ」

勇者「ご親切なこった」

勇者「そういやおまえ、ここしばらくオレと目を合わせようとしなくならなかったか?」

魔王「きっ、気のせいだ!」カアア


魔王「美しいな。建築物と自然が融合し、清流が至る所に流れている」

勇者「これだけ綺麗な水なら名水として売れそうだな」

ジャバ ジャバ ジャバ

水の精霊1「そなたの実力、見せてもらう!」

水の精霊2「勇者に相応しい力の持ち主であることを我等に示せ!」

水の精霊3「しめせー!」

勇者「よーし一気に全員蒸発させてやる」ボォォォ

水の精霊1「待って待って降参します許して」

水の精霊3「ここの試練をクリアしたら、水を操る神聖な能力がもらえるよ! がんばってね!」

勇者「そりゃ便利そうだな」

勇者「オレ、元々水属性の術は使えっけど、それは自分の魔力や大気中のマナを一時的に水に変換するだけだ」

魔王「水そのものを操ることができれば便利だな」


勇者「うわ、なんだこの部屋。水路が張り巡らされてやがる」

魔王「水が流れていない水路もあるな」

勇者「壁に絵が描かれてんな」

魔王「この部屋の図のようだな。特定の水路に色が付けられ、模様になっている」

魔王「この図と同じになるよう、水の進む方向を変えろということだろうな」

勇者「うわ、めんどくせ。こんなん解くことの一体何が勇者に必要なんだよ」

魔王「冷静に空間や状況を理解し、1つ1つ問題を解決していけるかどうかは、生きていく上で重要だぞ」

勇者「あっそ」





魔王「よし、これでいいだろう」

キーンキンキン……

勇者「お、鍵が落ちてきた」

魔王「これで先に進めるな」

勇者「半分以上おまえが解いたわけだけどさ、いいのか? オレが自分でやらなくて」

魔王「仲間も勇者の力の内だからな」

魔王「歴代の勇者は仲間と協力して試練を突破している」

勇者「でも瞬間転移でズルするのは駄目なんだろ、おまえの基準わかんねーわ」

魔王「足りない能力があるのなら、仲間に補ってもらえばいい」

魔王「だが、体力だけは身に着けておいてもらわないといけないからな」

魔王「そして、旅の経験は貴重だ」

魔王「それに、おまえの能力が育つような教え方をしてやっただろう?」

勇者「おまえ家庭教師の才能ありそうだよな」


勇者「ここが最深部か」

魔王「む、この気配……やはり来たか」

水の将軍「我は五虎大将の1人、水の大将軍エクヴォリ!」

勇者「ぜってぇ覚えらんねーわその名前」

勇者「魔族ってのは皆難しい名前なのか?」

水の将軍「貴様の頭が悪いだけであろう!」

勇者「あ゛ぁ゛ん?」

水の将軍「悔しければこの私を倒してみせるのだな!」

勇者「蒸発させてやんよ! 紅蓮の炎《ローリング・フレイム》!」

ボワアアア

勇者「口ほどにも……いや、周囲の水を盾にしたな!」

魔王「気をつけろ、奴は――」

水の将軍「気体・液体・個体、あらゆる形態の水を操ることができるのだ!」

勇者(水蒸気が槍の形に!?)

ヒュンッ

魔王「っローゼ!」ガバッ


魔王「がはっ……」

勇者「お、おい!」

水の将軍「勇者よ、貴様の弱点は調査済みだ」

水の将軍「貴様は強いが故に慢心している。そして、魔族との実戦経験が極めて乏しい」

水の将軍「ついでに挑発に乗りやすい! 油断したな! ふはははは!」

勇者「ちっくしょう……」

水の将軍「まだまだ行くぞ! 水の矢《ウォーター・アロー》!」

勇者(あらゆる方向から――!)

魔王「伏せるぞ!」ザッ

勇者「いってぇ!」

魔王「うぐっ……」

勇者「休んでろよおまえ!」

魔王「俺はおまえを守るためにここにいるのだ!」

勇者「はあ!?」

魔王「俺は不死身だ。俺が盾になっている間に策を考えろ!」


水の将軍「その弱き魔王もいつまでもつだろうな!」

勇者(敵は水蒸気だろうが氷だろうが自在に操ることができる)

勇者(だからどんな魔法を使っても……いや、それなら水でなくしちまえばいい)

勇者(雷で電気分解を……駄目だ! 下手すりゃオレ達も感電しちまう)

魔王「ぐっぐふっがああっ!! んぐっ……」

勇者(再生が追いつかなくなってきてやがる! 早くしねえと……!)

魔王「……守護壁《プロテクション・ウォー」

水の将軍「させぬ!」

ビュウンッ

魔王「ぐぅっ……!」

魔王「参ったな……防御の術を発動させるためのっ……集中もさせてくれぬか!」


勇者「くそっ……オレは攻撃の術しか使えねえ」

魔王「今度、おまえに防御の術を教えてやる」ニッ

勇者「よく笑えるな、こんな状況で」

勇者「…………」



魔王『冷静に空間や状況を理解し、1つ1つ問題を解決していけるかどうかは、生きていく上で重要だぞ』



勇者(空間……辺りは水が豊富にある。完全に敵のフィールドだ)

勇者(いや、本当にそうか? ここは水の神殿。聖なる土地だ)



水の精霊3『ここの試練をクリアしたら、水を操る神聖な能力がもらえるよ! がんばってね!』



勇者「おい! 水の大精霊! 見てるんだろ!?」


水の大精霊「そちらから我を呼び出すとはな」

勇者「水を操る能力、先に寄越せ!」

水の大精霊「……良かろう。どうせすぐに渡すつもりであったしな」

水の大精霊「その男を守ろうとする強き意思がひしひしと伝わってくるわ」

ポワ……

勇者「……よし!」

水の将軍「む……水が!?」

勇者「この空間に存在する水は全てオレのもんになったぜ!」

水の将軍「せこいぞ勇者!」

勇者「生憎、狡賢さならスラム1だったんでな!」

勇者「大好きな水に貫かれろ!」

水の将軍「そんな馬鹿なああああ!!」


水の将軍「おのれ……おのれ!」

魔王「げほっ……おまえも封印してやろう」フラフラ

水の将軍「私に止めを刺さなかったことを後悔する日が必ず訪れるぞ……!」

魔王「門よ……開け!」




勇者「ガリィ!」

狼「バウワウ!」

勇者「良い子だったな~!」

魔王「よし、昼飯にするか」

勇者(……こいつ、必死でオレを守ってくれた。ちょっとかっこよかったな)

勇者(なんて思っちまった。なんだか屈辱だ)

勇者(……むかむかする)


神殿近くの村

勇者「今日はこの村に泊まるか」

狼「ワン!」

勇者「すんませーん、宿探してるんすけど」

香水屋「あら、綺麗な旅人さん! どうぞうちに泊まっていって!」

勇者「いやオレは」

香水屋「わたし、アルセア! あなたは?」

勇者「……ローゼ」

香水屋「名前も綺麗なのね!」

勇者「…………」

香水屋「こんなに綺麗なのに、男の子の格好をしてるなんてもったいないわ!」

香水屋「可愛くしてあげる!」

勇者「えっちょっおい、引っ張んなって!」

狼「♪」ダッダッ

勇者(この雰囲気、なんだか懐かしい。不思議と嫌じゃない)

勇者(ああ、そうだ。彼女と……メリッサと、似てるんだ)

勇者(姿形じゃなくて、この明るさと、強引さが)

勇者(嬉しいような、苦しいような……変な気分だな)

続く
今回短かった分次回長いです


Episode 5


――――――――

ザアァァァァァァ……

女「どうしたんだい、おチビちゃん。こんな所に1人でいるなんて、危ないよ」

勇者「くにのひとのめいれいで、すてられちゃったの」

勇者「おとこでもおんなでもないこは、おうちにいられないんだって」

女「こんなに可愛い子を捨てるなんて、お国も馬鹿なことをするもんだねえ」

勇者「…………」

女「あたしの家においで」

女「おチビちゃん、おなまえは?」

勇者「おとこだったら、ローゼライト。おんなだったら、ローゼマリア」

勇者「どっちでもないから、ただのローゼ」

女「そっか。あたしはメリッサ。そこに生えてるハーブと同じ名前だよ」

――――――――


勇者「……この家、甘い匂いがするな」

香水屋「わたし、手作りの香水を売って生活してるのよ」

勇者(すげえ数の瓶だな)

香水屋「これがユリで、あれはホオノキ。あれがヘリオトロープ。どれも素敵な香りよ」

香水屋「気になるのはあるかしら?」

勇者「香水に興味なんて……」

勇者「……あんたがつけてるのは、レモンみたいな匂いだな。けっこう甘いけど」

香水屋「そう! レモンみたいな香りの植物は色々あるけど、このレモンバームは甘みもある匂いなのよ」

香水屋「これはね、特に甘みが強く出るよう抽出方法を工夫してあるの」

勇者「へえ……」

香水屋「あなたの国では、メリッサって呼び方が一般的かしらね」

勇者「…………」


香水屋「1瓶あげるわ!」

勇者「いや、わりぃよ。まず使わねえし」

香水屋「いいのよ! 出会えた記念にプレゼントしたいの!」

香水屋「これからお洒落に付き合ってもらうんだし」

勇者「…………」

香水屋「旅をしているなら、なかなかお風呂に入れなくて体のにおいが気になっちゃうこともあるでしょ?」

香水屋「ちゃんと香水つけなきゃ!」

勇者「わかったよ。……もらっとく」


――――――――

勇者「このはっぱね、おうちのおにわにもはえてたよ」

勇者「いいにおいで、すき」

女「なんなら、うちの庭にも植えようか」

勇者「うん!」

女「さあ、早く行こう。びしょ濡れのままじゃ、風邪ひいちまうよ」

――――――――

香水屋「どうして胸を潰してるの?」

勇者「邪魔だからな」

香水屋「ちゃんとした下着、買わなきゃ駄目よ?」

勇者「うっせ」

香水屋「わたしのを貸してあげるわ。ほら、後ろ向いて」

勇者(何故こんなことに……)


勇者「大体なあ! オレは男なんだぞ!」

香水屋「おっぱいあるのに?」ムニッ

勇者「ひゃひっ!」

勇者「ほら! ちんこだってついてんだぞ! パンツに女にはねえ膨らみあんだろ!」

香水屋「あら、でもそんなこと関係ないと思うなあ」

勇者(ええええええ……)

香水屋「それに、男の子だって別にいいわ。可愛くしたいもの!」

勇者(もう……もうどうにでもなれ……)


勇者(ヒラヒラの可愛い服着せられちまった)

香水屋「三つ編み、解いてもいいかしら?」

勇者「好きにしろよ」

香水屋「三つ編みにすると、髪の毛にウェーブがかかって可愛いのよね」

勇者「オレは元々巻き毛気味だけどな」

香水屋「よーし、可愛くなった!」

勇者「……………………」

勇者(こんな格好を見たら、魔王の奴、なんて言ってくるかな)

勇者(って、何考えてんだよ、オレは)

勇者(そういやあいつ、オレのこと美少女とか言ってきやがったんだったな)

勇者(思い出したらイライラしてきちまった)


香水屋「ねえ、どうして男の子みたいに振る舞ってるの?」

勇者「……昔さ、守りたい女がいたんだ。だから、立派な男になろうって、誓ったんだ」

――――――――

女「剣の稽古してるのかい? 精が出るねえ」

勇者「オレ、強い男になるんだ! そしたらメリッサを嫁にして、一生守ってやる!」

女「あはは! そりゃ頼もしいね!」

勇者「こんな町出てって、豊かな暮らしをさせてやるよ!」

女「楽しみにしてるよ、未来の旦那さま」

女「でもね、あんたはきっと、無理に男になんてなろうとしない方が――」

勇者「はっ! てやーっ!」

――――――――


香水屋「こんなもんかしらね! 仕上げに香水を……甘めのをつけて、できあがり!」シュッ

勇者「…………」

香水屋「外に遊びに行きましょ!」

勇者「そっそれは流石に」

香水屋「ほら! 良い天気よ!」グイグイ

勇者「なあ、店はいいのか!?」

香水屋「いいの! 最近、お客さん、来てくれないから……」

勇者「?」

香水屋「でも大丈夫! 隣町に売りに行って、充分儲かってるから!」




勇者(落ち着かねえ……めっちゃヒラヒラする……脚もスース―するしよ……)

香水屋「この服屋さん、お気に入りなの。ほら見て見て! この服可愛いわ!」

勇者「おまえによく似合ってるよ。はあ……」


村人1「おい、アルセアだぞ……」

村人2「普通に接しとけ」

勇者(なんか、村の連中がよそよそしいな)

香水屋「ここ、小さな村だけど、喫茶店があるのよ!」

勇者「地味だけど洒落てんな」

勇者(木の匂い。吊るされた花。素朴なインテリア。悪くねえ)

香水屋「わたし、カリン茶!」

勇者「……ローズティー」

香水屋「あとね、ケーキ2個!」

勇者「1人で2個も食うのか?」

香水屋「あなたの分よ! わたしの奢り!」

店員「カリン茶とローズティーがお1つずつ、ケーキがお2つですね」


香水屋「ここに来るの、久しぶりだわ。1人じゃなかなか来る気になれなくて」

勇者「オレは喫茶店なんて生まれて初めてだよ」

香水屋「あら、そうなの?」

勇者「オレが住んでたところには、こんな店なかったからな」

香水屋「お茶、おいしいでしょ?」

勇者「まあ、そうだな」

香水屋「うふふ」

勇者「……なあ、なんでオレにこんな格好させたんだよ」

勇者「一緒に遊ぶお友達でも欲しかったのか?」

香水屋「それもあるけど、でもね……もっと大きい理由を聞いたら、あなたきっと怒っちゃうわ」

勇者「は?」

香水屋「お手洗い行ってくるね!」


勇者「なんなんだよったく……」

村人3「アルセアの奴、魔族と取引してるってマジなのか?」ヒソヒソ

村人4「たらしこまれたって噂だぜ?」ヒソヒソ

村人5「親が死んで、寂しくてたまらなかったところをつけこまれたのね、きっと」

村人6「可哀想だけど、でも、ねえ……」

勇者(……なんだ、この噂)

勇者(オレは相手が悪人かどうかは雰囲気でわかる。あいつは魔族と取引するような奴じゃねえ)

勇者「チッ……」

村人5「あなた、この村には来たばかりでしょ?」

村人5「悪いことは言わないわ、あの子と付き合うのはやめなさい。危ないわ」

勇者「失せろメスブタ!」

村人5「きゃっ! 何よ、もう……」


勇者(村の連中がよそよそしかったのは、この噂が原因か)

勇者(一体何処からあんな噂がわきやがったんだ)

香水屋「お待たせ!」

勇者「……おかえり」

香水屋「……」

香水屋「はやく食べきって、別のとこ行こっか!」




香水屋「あっちの丘は見晴らしが良くってね、あ、そっちからの眺めも良いの!」

勇者「…………」

香水屋「それから、ほらあそこ! あそこの料理屋さん、すっごくおいしいのよ!」


村人6「なあ、あそこの銀髪の子、めっちゃ可愛くねえか?」

村人7「うっわ、やば……この世に舞い降りた天使様って感じだな」

村人6「1回でいいからヤラせてくんねえかな~」

勇者「っ――」

香水屋「……どうしたの? 顔色、悪いわよ?」

勇者「気持ちわりぃ……」

香水屋「だ、大丈夫?」

勇者「男の視線……気持ちわりぃ……!」

村人6「ねえねえ君大丈夫? 肩貸そうか? なんならお姫様抱っこでも」

勇者「オレに近づくんじゃねえクソ短小チンコ野郎!!」

村人6「うわっなんだよ」

狼「ガルルルルルル……」

村人6「ひぃっ!」

香水屋「い、行こっかローゼ!」


香水屋「ごめんね、無理矢理可愛い格好させちゃって」

勇者「…………」

香水屋「……男の人、苦手なの?」

勇者「あんな、ヤることしか考えてねえような連中、大っ嫌いだ」

――――――――

勇者「メリッサ! メリッサー! 肉が手に入ったんだぜ!」

勇者「スラムじゃ滅多に流通しないような良い肉が……メリッサ?」

女「くっ、うっ! 放せ!」

ゴロツキ1「今まで女だけで生きてきただけあって、随分良い物持ってるじゃねえか」

ゴロツキ2「全部俺達が頂いてくぜ」

ゴロツキ1「体の方もなかなかイイじゃねえか」

ゴロツキ3「楽しませてもらおうぜ」

勇者「!!」


勇者「おまえら強盗か!? メリッサを放せ!」

ゴロツキ4「おっと、そういやガキを飼ってるんだったな」

女「その子に手を出すんじゃないよ!」

ゴロツキ1「出さねえよ、あんなガキ。おい、抑えとけ」

ゴロツキ4「へーい」

勇者「放せ! 放せよー!!」

ゴロツキ1「Cカップくらいか? お?」ムニムニ

女「くうっ……」

ゴロツキ2「尻も可愛い形してんなあ」

女「っ…………」


女「あっああっうぐっああああ!」

ゴロツキ1「知ってるか? 首絞めながらヤルとすんげえ気持ち良いんだってよ」

女「はぐっ……っ……」

ゴロツキ2「まだ殺さねえでくだせえよ、皆で回したいっすからね」

勇者「放せ!! おまえら全員ぶっ殺してやる!!」

ゴロツキ4「黙れよ、うるせえぞ」

勇者「むぐっうううう!」

女「っ……っ……」

ゴロツキ1「締まりが良くなったな! ……うっ……ふう」

ゴロツキ1「よし、使っていいぞ」

ゴロツキ2「へへへ」

ゴロツキ3「上と下から咥えさせてやろうぜ」

ゴロツキ1「悔しいよなあ、ガキィ。こんな社会の膿みてえな連中に育ての親を犯されちまってよお」

勇者「……」キッ


ゴロツキ1「女ってのはなあ、男に寄生しなきゃ生きていけねえ生き物なんだ」

ゴロツキ1「なのに、生意気にも女1人で暮らしてたからこんな目に遭うんだぜ」

勇者「女1人じゃない! オレがいる!」

ゴロツキ1「ガキなんて数える内にも入らねえよ! がははは!」

勇者「っ……」

ゴロツキ1「教えてやるよ。この町には法律も規律もねえ!」

ゴロツキ1「弱肉強食。それがこのスラム唯一のルールだ。がーははははははは!!」


……………………
…………

勇者「メリッサ、メリッサ!」

女「良かった……生きてたんだね、あんた……」

勇者「血が……すぐ、すぐ医者を呼んできてやる!」

女「強く、生きるんだよ……何があっても、絶対に、生き残るんだ」

勇者「メリッサ!」

女「あんたと出会えて、あたし、生きてる証を……残せた……」

勇者「…………」

女「……ありがとう」

勇者「メリッサ……? メリッサ……嫌だ……そんな……」

勇者「あああああああああああああああああああああ!!!!」

――――――――


香水屋「……男の人に、女の子として見られることが苦手なのね」

勇者「…………」

香水屋「……ごめんね」

勇者「…………」

香水屋「わたしは、ただ、あなたに……」

花屋「こんにちは、アルセアちゃん」

香水屋「ラーセアさん! こんにちは!」

花屋「ラベンダーの香り袋、1つお願いね。あれがあると、よく眠れるんだよ」

香水屋「はい、どうぞ」

花屋「あたしはね、村の連中がしてる噂なんて信じてないからね」

花屋「心配することはないよ、75日もすれば噂なんて消えちまうんだから! がんばるんだよ」

香水屋「……ありがとう、ラーセアさん」


香水屋「……噂のこと、だけど……」

勇者「……なあ、水やりしなくていいのか?」

勇者「家の周りに生えてる草、大事な商売道具だろ」

香水屋「え、ええ。してくるわ」

勇者「手伝う」

香水屋「いいの、休んでて」

勇者「香水とケーキの礼、してえんだよ」

勇者(……不思議と、こいつのことは嫌いになってない)




勇者(アルセアが魔族と取引してるなんて、あんなの絶対でたらめだ)

勇者(あんな、悪意の欠片も持ってねえような奴……)

勇者(……いや、騙されて協力させられている可能性もある)


   「それで……今日……」

   「そうか…………」


勇者(アルセアの部屋から、何か聞こえる。男の声だ)

香水屋「ああいけない、カーテン閉めなきゃ」

   「……もしかして、村の人達に俺の存在を知られたりは」

香水屋「大丈夫よ、デフィ!」

   「なら、いいんだが」


香水屋「そのローゼって子とね、村にお出かけして、わたし、はしゃいじゃって……」

香水屋「はしゃぎすぎて、その子のこと、傷つけちゃった」

   「なら、明日は上手く仲良くできると良いな」

香水屋「ええ」

   「ああ、そうだ。これを」

香水屋「まあ、おいしそう! パウンドケーキね」

   「妹が、君の香水を大層気に入ってね。でも、君は俺と金銭のやり取りはしたくないんだろう?」

   「だから、礼にこれをと思って。妹と一緒に作ったんだ」

香水屋「嬉しいわ」

香水屋「……ねえ、今晩は、血、吸わなくていいの?」

   「……貧血になっていないか?」

香水屋「大丈夫よ」

   「じゃあ、少しだけ」

勇者(血……ヴァンパイアか!?)


勇者(くっそ、アルセアをたぶらかしやがって!)

吸血鬼「今の魔王様は、親人間派なんだ。だから、いつかきっと、俺達が一緒になれる日が来る」

勇者「!」

香水屋「早くその日が来てほしいわ」

勇者「…………」

勇者(もし、こいつが本当に魔王の味方だったら……斬るわけにはいかねえな)

勇者(でも、アルセアを利用しているだけだったら……)

香水屋「もし、人間と魔族が仲良くできるようになったら……想像するだけでわくわくするわね」

勇者(アルセアの声……随分楽しそうだ。今は、邪魔しないでおこう)

香水屋「明日の晩も来てくれる?」

吸血鬼「ああ」


翌朝

勇者(朝食……素朴だけど、美味い)

香水屋「これ、もらいもののパウンドケーキ。食べてみない?」

勇者「……」

勇者(……毒は入ってねえな。味も普通だ)

香水屋「……あのね、ローゼ」

香水屋「…………」

勇者「…………」

勇者「昨日さ、オレ、聞いちまったんだ。噂の内容」

香水屋「やっぱり、そうだよね」

勇者「おまえが魔族の男と話をしてるのもな」

香水屋「!」


香水屋「……彼ね、決して悪い魔族じゃないのよ」

香水屋「信じてもらえないかもしれないけれど……」

勇者「それを確かめるためにさ、今晩、会わせてくれよ」

香水屋「……!」

勇者「オレは勇者だ。悪い魔族は倒さなきゃいけねえ」

勇者「でも、魔族が悪い奴ばかりじゃねえっていうのも、知ってるから」

香水屋「……わかったわ」

香水屋「でも、あなたが勇者だなんて、驚いたわ」

勇者「なんでだよ」

香水屋「こう、もっとムッキムキー! なのを想像してたから」

勇者「悪かったな、こんな細っこくて」




香水屋「あら、おでかけ?」

勇者「ああ」

勇者(昼は魔王の奴と飯食う約束だからな)

香水屋「……あのね、ローゼ」

勇者「なんだ?」

香水屋「あなたは、今までの人生で、たくさんつらいことがあったんだと思う」

香水屋「でもね、きっとそれ以上の幸せがこれから訪れるわ!」

勇者「はは、だといいんだけどよ」

香水屋「行ってらっしゃい」






勇者「……ってことがあってよ」

魔王「ふむ……人間と吸血鬼との恋か」

魔王「幸せになるのは難しいだろうな」

勇者「へえ、断言しちまうんだ」

魔王「俺の手にかかっているがな。和平が実現すれば、結ばれることは可能だろう」

勇者「そもそもその魔族の男が本気でアルセアのことが好きなのかもわかんねえけどな」

魔王「……女をたらしこむメリットが吸血鬼にはないな」

魔王「恒常的に血を吸いたいのなら、毎度女が眠っている時を狙えばいい」

魔王「穏便に香水を入手するにしても、人間に化けて買いに行けばいいだけだ」

魔王「俺の予想のできない目的がそやつにあるのであれば、話は別だが……」

勇者「んー……」


魔王「……仮に結ばれたとしても、魔族と人間では寿命が違い過ぎる」

勇者「魔族って寿命長いんだっけ」

魔王「ああ。種族による差は大きいが……吸血鬼であれば700年は生きるな」

勇者「おまえらは?」

魔王「我等魔人族は500年ほどだな。長ければ1000年生きる者もいる」

勇者「へえ、そんだけ長く生きるなんてしんどそうだな」

魔王「……尤も、」

執事「ぼっちゃま」ヒュン

勇者「うおっ!?」

魔王「爺や、何故ここがわかった」

執事「勇映の玉が部屋に置きっぱなしでございました」

魔王「……うっかりしていたな」

執事「領地内でテロが発生しました。すぐに城へお戻りください」

魔王「わかった。ではな、ローゼ」ヒュン

勇者「……勇映の玉って何だよ」


村長「白銀の髪……あなたは、もしや勇者様では」

勇者「あ? そうだけど」

村長「実は、この村の近くに巨大な魔物が住みつきまして」

村長「まだ被害は出ておりませんが、退治していただきたいのです」

勇者「あー、一応行ってみるけどよ、無害な奴だったら退治はしねえぞ」

村長「しかし、近くに住みつかれたというだけでも恐ろしく、村人は皆怯えております」

勇者「そう言われてもなあ……」





勇者(近くって……遠いじゃねえか……! 疲れてんのに山登りする羽目になるなんてよ)

勇者「……ここか」

巨大な魔物「ひぇっ! け、剣士!? 勇者か!?」

勇者「図体がでけえだけで、弱そうだなーおまえ……」

狼「へっへっ」ブンブン


巨大な魔物「お、おで、悪い魔物じゃない!」

勇者「……気も弱そうだもんなあ」

勇者「でもな、この山の麓に村があってさ、村の連中はおまえのことが怖くて仕方ないんだとよ」

巨大な魔物「おで、知らなかったんだ! 近くに人間の群れがいるなんて!」

勇者「えーと、地図によると……山越えた西側なら人間は住んでねえな」

勇者「あっちの方角に行け。いいな。つうか、喋れるだけの知能があるならそのまま魔族の領地に帰れ」

巨大な魔物「そしたら、おで、殺されない?」

勇者「ああ。ほら、さっさと行け」

巨大な魔物「感謝する! 感謝する、勇者!」

勇者「……オレも優しくなったもんだな。あいつの甘ちゃんが移っちまったかなあ」

勇者(動物狩ってから帰るか。新鮮な肉が手に入ったら、アルセアの奴、喜ぶかな)






勇者(すっかり暗くなっちまった)

勇者「アルセア、戻ったぞ。鹿を一頭捕まえたんだけど……!?」

勇者(家の中から複数人の気配がする。……血の匂いも漂ってやがる)

狼「ガルルルル」

勇者「アルセア!」

勇者「…………!!」

勇者「おまえら……何してんだよ!」

村人1「ひっ!」

村人2「だ、誰かと思ったら、昨日アルセアと一緒にいた奴かよ。まだこの村にいたのか」

勇者「おい、アルセア! しっかりしろ!」

香水屋「……」


勇者「……どういうことだ」

村人3「そ、そいつ、やっぱり魔族と会ってやがった!」

村人3「昨晩目撃した奴がいるんだよ!」

村人4「だから、殺すことになったんだよ。これも、村のためだ」

勇者「っざっけんな!!」

村人4「ひいっ!」

勇者(くそっ、オレがもっと早く戻っていれば……!)

香水屋「…………」

勇者(治療を……駄目だ、この出血じゃもう間に合わねえ)


勇者「……自分でも吃驚したんだけどよ」

勇者「おまえに女だって認識されるのは、意外と嫌じゃなかった」

勇者「本当に嫌だったら、あんな格好、絶対しなかった」

勇者「少しだけだけどよ、楽しいって気持ちが、ないわけでもなかったんだぜ」

勇者「なあ、返事、してくれよ……」

香水屋「…………」

勇者「……てめえら、全員ぶっ殺し――!?」

ブシャアアアアア

勇者(一瞬にして、村人達の首が裂けた)

吸血鬼「アルセア……?」ヨロヨロ

吸血鬼「同じ村の仲間に、殺されたのか? 俺と一緒にいたせいで……?」

勇者「…………」

吸血鬼「こんなこと、あっていいのか……?」


勇者「お、おい……アルセアを何処に連れていくつもりだ」

吸血鬼「…………」

勇者「おい!」

吸血鬼「もっと早く、闇へ誘っておけばよかった」

吸血鬼「陽の下で輝いている君は眩しくて、でも、綺麗で……汚したくなかったんだ」

吸血鬼「……なあ、おまえ、勇者だろ。俺のこと、殺さなくていいのか?」

勇者「……アルセアのことを本気で愛してるって、わかったから、いい」

吸血鬼「たった今、人間達を殺めたんだぞ?」

勇者「おまえがやってなかったら、オレがあいつらをやってた」

吸血鬼「そうか。ふふ、くくっ……」

吸血鬼「……月が、綺麗だな。こんなに悲しい夜だというのに」







勇者(吸血鬼は、アルセアと共に闇の中へ消えていった)

勇者(あの家にはもう誰も住んでいない)

魔王「香水か? 良い匂いだな」

勇者「良い鼻持ってんじゃねえか」

魔王「この頃元気がないぞ?」

勇者「ははっ、気が緩んでたみたいでさ」

勇者「このオレがさ、目の前で人が死んだくらいのことで、落ち込んでんだぜ」

魔王「……あまり無理をするでない。仲間を失って悲しいと思うのは、当然の反応だ」

勇者「オレさ、おまえが隣にいるとほっとするんだ」

魔王「っ!?」ドキッ

勇者「おまえは死なねえからさ」

魔王「……そうか」

続く
今日でお盆休み終わっちゃうのでこれからは更新頻度がバラつくと思います、すみません


Episode 6


魔導都市

勇者(この町、豪華な建物とボロい建物の差が激しいな)

勇者(まるで城下町とスラムがごっちゃになってるみてえだ)

勇者(……もうすぐ昼だな。飯の前に本屋に寄るか)

勇者(魔術のバリエーション増やさねえとな)

勇者「……ん?」

町娘1「ねえねえ、あそこで立ち読みしてる人めっちゃかっこよくない?」

町娘2「あらほんと! でもあそこおピンク本コーナーよね」

勇者「……」

魔王「…………」パラパラ

勇者「ふっ……くくっ……」

勇者「魔王様が人間の町でエロ本立ち読みしてんのかよ!」

魔王「ろ、ローゼ!? いつからそこに!?」


勇者「あー腹いてえ! あひゃひゃひゃひゃ」

魔王「……仕方ないであろう……このような時でないとなかなかこういった物にはありつけんのだ」

勇者「王様ってプライバシーなさそうだもんなあ!」

魔王「……穴があったら入りたい」

勇者「穴があったら突っ込みたいの間違いだろ?」

魔王「下品だぞ」

勇者「エロ本手に持ってる奴が言うことかよ!」

魔王「くっ…………」

本屋の店長「お兄さん、その本買ってくださいね。今それしわ寄っちゃったんで」

魔王(絶対に誰にも見つからない隠し場所を用意せねば……)


空き地

魔王「覚えが早いな」

勇者「防御系はすぐ覚えれたしよ、戦闘用以外のも教えろよ」

勇者「おまえのその、姿を変える術とか」

魔王「……それは難しいな。体を直接変化させる術を覚えるには、まず体のことを知らなければならない」

魔王「そして、人間と魔族とでは体の作りが異なっている。俺は人間の体についてはそう詳しくはない」

魔王「教えられるとすれば……そうだな、髪の色を変える術程度だ」

勇者「えー、ムキムキマッチョマンになれねえのかよ」

魔王「……なってほしくはないな」


スーツ男「もしや、あなたは勇者ローゼ様では」

勇者「あ? 何か用か?」

スーツ男「ご依頼がございまして……我が主人の元へご同行願えませんでしょうか」

勇者「どんな依頼だよ」

スーツ男「それは、直接我が主人にお聞きください」

勇者「……まあいいけどよ」

スーツ男「そちらの方は」

勇者「オレの下僕」

魔王「おい」


屋敷

勇者(ごってごてだなー……豪華すぎてうんざりするくれえだ)

勇者(外には高い塀とでかい堀があった。相当警戒してんだな)

魔王(……微かにだが、魔族の気配を感じる)

成金男「おお、よく来てくださいました」

勇者「んで、依頼ってなんだよ」

魔王「おまえ、態度が偉そうだぞ……」

成金男「ははは、構いませんよ」

成金男「勇者様には、倒していただきたい魔族がいるのです」

成金男「この頃、魔族によく忍び込まれておりまして」

成金男「私の富を狙っているのでしょう」

成金男「用心棒を雇い、これまでは持ち堪えておりましたが、もう限界なのです」

勇者「ここ、魔導都市だろ? 軍はそこらの町よりずっと強力なはずだ」

勇者「なんでわざわざオレに頼むんだよ」

成金男「軍に通報すれば、このことが公になって騒ぎになってしまいます」

成金男「私は、あまり事を荒立てたくないのですよ」

成金男「なんせ、裕福すぎるものですからね」

成金男「混乱に乗じて私の富を奪おうとする人間や魔族が、他に現れないとも限らない」


成金男「この依頼、受けていただけますかな? 報酬は弾みますよ」

成金男「勇者としての名声も上がる。悪い話ではないでしょう」

勇者「んー……」

成金男「前金として、500万Gお出ししましょう」バサッ

勇者「うおっ……」

勇者「……いらねえ。飯を用意してくれればそれでいい」

成金男「おお、なんと素晴らしいお方だ」


用意された部屋

勇者「あーくそ、金欲しかったなー」

魔王「ならば、何故受け取らなかった?」

勇者「あいつ、いかにも怪しい。そんな奴に金で利用されたくねえ」

勇者「絶対何か裏がある」

勇者「依頼を受けたふりをしたのは、その『裏』が気になったからだ」

魔王「くく。おまえが金に目をくらませるような人間でなくて安心した」

魔王「この家を調べるぞ」

勇者「ああ」


魔王「魔族の気配は……こっちだな」

勇者「よくわかるな」

魔王「常人には感知できぬよう、密室に近い部屋に監禁されているのだろう」

魔王「余程魔感力の優れた者でなければ、気配を追うのは難しいだろうな」

勇者「なあガリィ、魔族の匂いを追うのってできるか?」

狼「わふ!」ダッダッ

勇者「あいつに頼った方が速そうだな」

魔王「…………」


魔王「俺も鼻は利く方なのだがな……狼には敵わぬ」

狼「へっへっ」

勇者「ここみてえだな」

魔王「……中に人間もいるようだな」

勇者「聞き耳立ててみようぜ」


成金男「今宵も私の相手はしてくれないのかい?」

狐少女「…………おうちに帰して」

成金男「今はここが君の家だって言ってるじゃないか」

成金男「さあ、夜伽を」

狐少女「嫌あああああ!!」


成金男「実はね、今日、勇者様を呼んだんだよ」

成金男「こわーいこわーい魔物の天敵をね」

成金男「どうしようかなぁ、これ以上言うことを聞かないなら、勇者様に調教を頼むしかないねえ」

狐少女「ひっ!」

魔王「……」

勇者「魔族に忍び込まれてる理由ってよぉ……」

魔王「魔族の少女を監禁しているからだろうな」

狐少女「ひっく……うう……」

魔王「助けるぞ」

勇者「おう」


バアン!

勇者「よおド変態! 随分良い趣味してんじゃねえか!」

魔王「その娘を放してもらおうか」

成金男「なっ何故ここにおまえ達が!?」

魔王「あくまで魔族の気配を追ってきただけなのだがな」

成金男「え、ええと……この娘はですね……そう、私の愛玩動物でして」

勇者「はあ?」

成金男「ま、魔族を誘拐して飼ってはいけないという法律はないでしょう?」

成金男「魔族には人権がありませんからねえ!」

勇者「チッ……クズが」

勇者「その女の子を解放すれば、魔族に襲われることなんてなくなるだろ」

勇者「なんでこんな所に閉じ込めてんだよ」

成金男「わかるでしょう? 美しいからですよ!」

成金男「最初は観賞用にと思ったのですけどね……すっかり魅了されてしまいまして」


勇者「てめえ、ぶった切ってやる!」

成金男「ひいいっ!」

魔王「待て。この男を殺せば、おまえが罪に問われる」

勇者「ああ、そうか。普通の町じゃあ、人殺しは罪だったな」

成金男「ひ、人を殺したことがあるのですか!?」

勇者「あるけど、それがどうしたんだよ」

成金男「ふ、ふふ、勇者が人殺しだったなんて、世間が知ったらあなたの評判はガタ落ちだ!」

成金男「どうです? 私はあなたが人殺しであることを黙っています」

成金男「だから、私を見逃してもらいたい」

勇者「んな話に乗るかっつの!」


魔王「その娘を放せ。そうすれば穏便に済ませてやろう」

成金男「え、偉そうにしおって! この娘は決して誰にも渡さんぞ!」

成金男「大体、狐共が悪いのだ! 人間の土地であるこの国をうろついておったのだから!」

狐少女「た……たす……けて……!」

勇者「えーっと……突風《ガスト》!」ビュオッ

成金男「うおっ!」

勇者「よーし、もう大丈夫だぞー!」

成金男「うぐ……く……ただで済むと思うなよ!」

成金男「貴様の悪名を世間に流してやるからな!」

勇者「おまえの悪名も流しといてやるよ」

勇者「とんでもねえロリコン野郎だってな! ははは!」

成金男「くうぅっ……」


狐青年「カレン……今夜こそ、絶対に……!」

狐少女「お兄ちゃん? ……お兄ちゃん!」

狐青年「カレン!?」

狐青年「ああ、よかった……」ギュウ

狐少女「あそこのお兄さん達が助けてくれたの」

狐青年「……おまえ、勇者か!?」

勇者「そんな警戒すんなよ。魔族だからってなんでもかんでも殺しはしねえっつの」

魔王「早くこの場を去るのだ。人に見られたら厄介だろう」

狐青年「……恩に着る」


成金男「このままで……済むと思うなよ!」

成金男「来い! 傭兵達!」

ザッ

勇者「おー、すげえ人数だな」

成金男「いくら勇者とその下僕と雖も、この人数には手こず」

勇者「堀の水をばっしゃー! と」

傭兵達「「「「うおわあああああ!!!!」」」」

成金男「み、水を操っただと!? 術名も唱えずに!?」

勇者「大精霊からもらった力を使えば術名言わなくても発動できるんだよ」

勇者「言った方がイメージは固めやすいけどな」


成金男「ふ、ふふ……その力、私のために使ってみませんか? 金は積みますよ!」

勇者「はあー……。なあ、こいつこりねえ性格みたいだしよ、放置してたらまた同じことすると思うぜ」

魔王「うむ……どうしてやろうか」

成金男「ひっひい」


ヒュンッ

ザシュ


成金男「うぎゃああああ!!」

狐壮年「……娘が随分と世話になったようだな」


狐壮年「その出血では長くはもつまい」

狐壮年「精々、苦しんで死ぬことだな」

魔王「……」

魔王「待て、狐よ。何故この国に訪れたのだ」

狐壮年(……人間の姿は、偽りのものか)

狐壮年「……魔族の領地から別の魔族の領地へ、移動する途中でございました」

狐壮年「魔族の街道はテロが多発しているため、やむを得ず人間の土地へ足を踏み入れたのです」

狐壮年「我等は耳と尾を隠せば人間とそう姿が変わりませぬ。途中までは順調でございました」

狐壮年「しかし、道中で娘がこの男に目をつけられてしまい、このような事態になってしまいました」

魔王「……そうか。行くがよい」


魔王(俺の力不足が招いてしまったのだな……)

勇者「おーいおっさん、助かりてえか?」

成金男「金なら……うぐっ……いくらでもやる! 助けろ!」

勇者「あー、駄目だわこいつ。死んだ方がいいな」

魔王「悪人が死ぬことには、抵抗を感じないのか?」

勇者「感じねえよ。感じる必要もない」


――――――――

ザアアァァァァァァァァァァ……

ゴロツキ1「ひでぇ雨だな、今日は強盗業はやめとくか」

ギイィィ

ゴロツキ2「誰だ!?」

勇者「探したんだぜぇ……」

ゴロツキ1「なんだぁ? お前」

ゴロツキ3「あ、去年犯した女と一緒にいたガキっすよ。珍しい髪の色なんて覚えてるっす」

ゴロツキ4「何しに来たんだ? 犯されに来たのか? ひゃーひゃっひゃっ」

ザシュ

勇者「ふふ……はははははは」

勇者「全員、地獄送りだ」

――――――――


勇者「初めて人を殺した時、タガが外れたような感じがして」

勇者「それ以来、平気で悪人を殺せるようになった」

魔王「…………」

勇者「ははっ、かなり腕が立つからさ、スラムじゃ用心棒としてけっこう重宝されてたんだぜ、オレ」

魔王「……そうか」

成金男「たすけ……助けて……くれ……」

魔王「…………」

魔王「見たところ、この町は貧富の差が激しい」

魔王「おまえの富を貧しき者に分配すると誓うのなら、命を助けてやろう」

成金男「ち、誓う……誓います、から……」

勇者「おい、助けるのかよ」

魔王「罪人には、償う機会が必要だ」

成金男「へ、へへ……ありがとう……ございます……」

魔王「だが、もし貴様が再び罪を犯せば、貴様には死が訪れるよう呪いをかけた」

魔王「俺は決して貴様を許したわけではないことを忘れるな」






勇者「……反吐が出るぜ」

勇者「拉致監禁に強姦未遂をやらかしたんだ。苦しめて殺してやればよかったのによ!!」

魔王「俺の父も、あの者と同じことをしたからな」

魔王「見殺しにはしたくなかった」

勇者「……ああ、そうか。お姫様拉致ったんだもんな」

魔王「俺の父だけではない。人間を飼うことを娯楽としている魔族はそう珍しくなかった」

魔王「今は俺が禁じているため、滅多に行うものはおらぬがな」

魔王「禁を破ったものは……」

勇者「この前のサキュバスみてえに封印の刑か」

魔王「ああ」


魔王「人間も、魔族も、同じように罪を犯す」

魔王「両者の性質に、そう違いはないのかもしれんな」

勇者「……はー、疲れたな」

勇者「屋敷の部屋に戻るつもりはねえしよ、宿確保し直さなきゃな」

魔王「……俺も共に探そう。夜に1人で出歩くのは危険だ」

勇者「んな心配いらねえって」

魔王「お前のような容姿の者は狙われやすいからな」

勇者「あ゛? やっぱオレのこと女扱いしてんだろ」

魔王「お前だって、この前はヒラヒラの女物の服を着ていたではないか」

勇者「あれは無理矢理……って、なんでおまえがそれを知ってるんだよ」

魔王「勇映の玉という、魔王専用アイテムがあってな」

魔王「勇者の居場所を示してくれる優れ物なのだが、それだけではなく、勇者の姿を映すことも可能なのだ」

勇者「…………」

勇者「なあ、オレのプライバシーは?」

魔王「…………」

魔王「……すまん」


勇者「その玉ぶっ壊す!!」

魔王「やめっやめろっ! 許してくれ! すまんローゼ!!」

勇者「待ちやがれ!!」

魔王「おまえの位置を特定する目的以外ではもう二度と使わんと誓おう!!」

勇者「本当だろうなあ!?!?」

魔王「本当だ!!」

勇者「もしまた覗き見しやがったら……」

勇者「魔王は人間の町でエロ本読んでるって吹聴しまくってやる!!」

魔王「勘弁してくれー!!」

魔王(言動のちぐはぐさが気になるな)

魔王(若さ故に自己を確立できておらぬのか、育った環境によりアイデンティティを歪めてしまったのか)

魔王(……その両方かもしれんな)

つづく


Episode 7


地の神殿

勇者「力任せに解く試練ばっかだなーここ」

勇者「後はこの岩を動かしてスイッチを押せばいいのか」

勇者「なあ魔王―、めんどくせえからやってくれよ」

魔王「あのな……」ゴロゴロ

勇者「よーし、次で最深部だな」

勇者「今までのパターンだと、もうそろそろ……」

シーン……

魔王「現れんな」

勇者「ついにこのオレに恐れをなしたか!」

魔王「何か策があるのかもしれん」


勇者「……マジで襲ってこねえな」

魔王「気配も感じぬ。本当に来てはおらぬのだろう」

ゴゴゴゴゴゴ

地の大精霊「我は地の大精霊。他の大精霊のように甘くはないぞ!」

地の大精霊「貴様の力、聢と見せてもらおう!」

魔王「今、『貴様』と言ったな?」

地の大精霊「そうだ」

勇者「『貴様等』じゃなくてか?」

地の大精霊「流石に魔王が仲間とは卑怯であろう」

勇者「まあ普通じゃねえな」


勇者「大飛沫《スプラッシュ》!」

地の大精霊「なかなかの威力だな!」

魔王「ほう、大精霊が纏っていた土を一気に流したか」

地の大精霊「だが――!」

勇者(流した土が泥になって足元に!?)

地の大精霊「これで自由には動けぬだろう!」

勇者「舐めんなよ! ……竜巻《トルネード》!」

勇者「これで足元は自由だぜ!」ダダッ


勇者(いくら土を自由に操れるとはいえ、本体に直接攻撃をぶち込めば勝機はある)

勇者(今オレに授けられている加護は風と水の1つ)

勇者(この2つの力を組み合わせる!)

勇者「……怒号の炎《アングリー・フレイム》!」

地の大精霊「愚かな! 炎は我を硬化させるだけだぞ! ……風と水だとぉ!?!?」

地の大精霊「ぐわあああああ!」

勇者「こんな単純な手に引っかかるなんてな!」

魔王「大精霊の加護による魔術は詠唱を必要としないことを利用して、偽りの術名を叫んだのか……」

地の大精霊「……卑怯だ」

地の大精霊「だが、その狡猾さも貴様の力の1つなのだろう」

地の大精霊「貴様の実力、確かめさせてもった。聖なる地の加護を授けよう」


魔王「さて、勇者ローゼよ。今日の昼飯なのだが……」

勇者「…………」

魔王「なんと、卵焼き5種類セットだ!」

勇者「おっしゃー!」

魔王「それぞれハーブの調合を変えてある」

魔王「そして、一番右端のは砂糖多めだ」

勇者「うんめええええ!!」

狼「♪」

魔王(これほど喜んでもらえるのなら、用意した甲斐があったな)

魔王(尤も、作ったのはメイドであって、俺はただ運んだだけなのだが)

勇者「ありがとな!!」

魔王「……ああ」


勇者「そういや、ごこたいしょう? だっけか? おまえにもあんな感じの部下いねーの?」

魔王「ああ、四天王がいるぞ」

勇者「ちゃんといたんだな」

魔王「ああ、ちゃんといる」

魔王「……いないとでも思っていたのか?」

勇者「ちょっとな」

魔王「…………」

魔王「本来、魔王直属の大将は9人だった」

勇者「分裂しちまった結果が現状なんだな」

魔王「そうだ」

魔王「9つの恵みを司る九大天王。彼等が9人揃ってこそ真の力を発揮できるというのに」

魔王「地、岩漿、火、雷霆、風、雪氷、水、波動、闇」

魔王「彼等は恵みを公正に分配し、平和を守るために……」

勇者「…………」zzz

魔王「寝るな」


勇者「それより気になってたんだけどよぉ、おまえって攫われたお姫様と関わったことあんのか?」

魔王「ああ、親しかったぞ」

勇者「おまえが和平に拘ってる理由、もしかしたらお姫様だったんじゃねえかと思ってさ」

魔王「その通りだ」

魔王「……美しい人だった。横顔が、おまえと少し似ていたな」

魔王「髪の色も同じ銀だった」

勇者「……へえ」

勇者「…………」

勇者「……好きだったのか?」

魔王「彼女は……俺が最も愛した人だった」

勇者「……ふーん」

勇者(暖かくて優しくて、でも寂しそうな表情だ)

勇者(まるで、オレがメリッサのことを思い出してる時のような……)

勇者(……………………)


近くの村

勇者「すんませーん、宿探してるんすけど」

親切そうな男「ああ、宿ならあっちだよ」

勇者「どうも」

勇者(綺麗な村だなー)

勇者(城下町からはだいぶ離れてるってのに、随分豊かそうだ)

勇者(宿は……あの建物っぽいな)

銀髪少女「あーーーーーーーーーーーーー!!!!」

勇者「うおっ」

銀髪少女「お姉ちゃん、私と髪の毛の色おんなじー! 目の色まで!!」

勇者(ガキの頃のオレそっくりだ。吃驚した……)

銀髪少女「嬉しいな! おんなじ色の人全然いないから」

勇者「まあ、わりと珍しいよな」


銀髪少女「お父さんとお母さんも、茶髪と金髪で、違う色だから寂しかったの」

勇者「そうか」

勇者(茶髪と金髪の夫婦……まあ、何処にでもいるよな)

銀髪少女「旅人さんでしょ! ねえねえ、うちに泊まってって!」

勇者「いや、オレそこの宿に泊まるから」

銀髪少女「えー、うちに来てよぉ!」

勇者「なんでだよ、嫌だっつの」

勇者(……誰かと親しくなるのは嫌だ。他人との関わりは必要最低限でいい)

勇者(失った時のあの思いは、もう味わいたくない)

勇者(アルセア……)

銀髪少女「お姉ちゃんなんで? なんでいやなのー?」

勇者「嫌なもんは嫌なんだよ!! あとオレはお姉ちゃんじゃねえ!!」

銀髪少女「…………」

銀髪少女「ふえええええええええん!!!!」


温和な女性「その子、1人っ子でいつも寂しがってるんだよ」

温和な女性「勇者様、どうか付き合っていただけないですかねえ」

勇者「え、えー……」

温和な女性「ああ、これをどうぞ。ビスケット、焼きすぎちゃったのよ」

銀髪少女「ありがとー!」

温和な女性「仲良くね」

勇者(断る隙がなかった……)

銀髪少女「…………」ジーーー

勇者「……わぁったよ、ったく……」

銀髪少女「わーい! 私、ピティロディア!」

勇者「名前がなげぇ」

銀髪少女「ロディアでいいよ!」

銀髪少女「お姉ちゃんの名前は?」

勇者「だからお姉ちゃんじゃねえって……ローゼだ」


銀髪少女「ここ! ここ私のおうち!」

勇者(へえ、水車付きか)

勇者(花壇、よく手入れされてんな)

勇者(アップルミント、ラベンダー、ラムズイヤー、ローズマリー……メリッサ)

勇者(シソ科が好きなのか?)

勇者(こんな花壇、昔、何処かで……)

勇者(……こっちのは何だ? 葉がラムズイヤーみてえな銀で、花が濃い桃色だ)

銀髪少女「あのねー、これ、ピティロディア! 私と同じ名前なの!」

勇者「……ふうん」

銀髪少女「お父さんお母さーん! お客さん連れてきたよー! 銀色の髪の毛なのー!」

母「あら、ロディアったら……!?」

父「銀って、珍しいね。……っ!」

勇者「あ…………」


勇者(親の顔なんて、とっくの昔に忘れたと思ってたのに)

母「ローゼ……? ローゼなの?」

父「本当に……ローゼなのか?」

勇者「…………」

銀髪少女「??」

母「ああ、ローゼ……」

勇者「っオレに触んな!!」パシッ

母「ローゼっ……」

勇者「なんで……なんでこんな所にいるんだよ」

父「……陛下の横暴な政治に耐えられなくて、亡命したんだよ」

父「もし、次の子も捨てるよう命じられたら……そう思うと、恐ろしくてたまらなくなった」

父「そして、国に従って君を捨ててしまった罪悪感からも……私達は逃げてしまった」

勇者「…………」

勇者「どうして、オレを捨てろって命じられた時点で国から逃げなかったんだよ!!」


父「……すまない。そのことは、ずっと後悔しているんだ」

勇者「てめえらなんて親じゃねえ!」

父「だが私達は君を探したんだ!」

父「国を出る直前、命がけでスラムに忍び込み、必死で……!」

父「……だが、私達が見つけられたのは、君が着ていた服だけだった」

父「てっきり、もう死んでいるものだと……」

勇者「嘘つけ!!」

母「……これが、その服よ」

勇者「っ…………」

勇者(……確かに、オレが着ていた物だ。小さくなって着られなくなったから、生活のために売ったんだ)

母「生きていてくれたのね……」

勇者「……こっちに来るな!」

勇者「オレは今更親子ごっこをするつもりなんてねえんだよ!!」ダッ

銀髪少女「あっ、待って! お姉ちゃん!!」


宿

勇者(ベッドやわらけえな)ボフッ

勇者(……逃げ出しちまった)

勇者(国も、国に逆らえなかった親のことも、何もかもを恨むことで今まで生きてこられたってのに)

勇者(あれじゃ、恨めなくなっちまうじゃねえか)

勇者「ちくしょう……ちくしょおおおおお!!!!」









――――――――

勇者「んーーーーーー!」

勇者「かあさまのたまごやき、トロトロでいちばんだいすき!」

母「あらあら、そんなに喜んでくれるなんて、作り甲斐があったわね」

母「もうちょっと大きくなったら、作り方を教えてあげるわね」

勇者「やったー!」

母「あなたはきっと良いお嫁さんになれるわね」

父「はは、そうとも限らないよ」

父「男として私の仕事を継ぐかもしれないからね」

母「そうね」

父「ローゼ。君は、男として生きることもできるし、女として生きることもできる」

父「普通の人よりも選択肢が多いんだ」

勇者「せんたくし?」

父「たくさんの道を選べるってことだ! 得したな!」

勇者「うん!」

父「ほら、たかいたかーい!」

勇者「あはははは!」

――――――――


勇者「……あれ」

勇者(少しだけ寝ちまってたのか)

勇者「父様、母様……」

コンコン

勇者「……誰だよ」ガチャ

銀髪少女「お姉ちゃん!」

勇者「なんでここの部屋だってわかったんだよ」

銀髪少女「女将さんに教えてもらったの」

勇者「……何の用だ」


銀髪少女「あのね、私ね、お姉ちゃんとほんとの姉妹だってわかって、すごく嬉しくてね……」

銀髪少女「……泣いてたの? 目、赤いよ?」

勇者「泣いてねえよ」

銀髪少女「……うちにね、晩ご飯食べに来てほしいの」

勇者「行かねえよ」

銀髪少女「お母さんね、お姉ちゃんが好きだった卵焼きとか、ハンバーグとか、作って待ってるって」

銀髪少女「絶対来てね!!」ダダッ

勇者「……行かねえっつってんのに」


勇者「……腹、減ったな」

狼「くぅーん」ギュルルルル

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

勇者「地震か!?」

勇者(いや、この感じは……)

地の将軍「ふはははは! この村、地に埋めてやろうぞ!」

勇者「くそっ、もうお休みモード入ってたってのによ!」ダッ



勇者(あちこち地面が割れてやがる)

勇者「おいてめえ!」

地の将軍「早かったな、勇者よ!」

勇者「てめえの狙いはオレの命だろ!? 無闇に村襲ってんじゃねえよ!」

地の将軍「貴様が大人しく首を差し出すと言うのなら、考えてやらんでもないぞ?」

勇者「チッ……ぜってえぶった切ってやる」

地の将軍「我は地の大将軍! 必ずや勇者を地の底へ葬ってみせよう!」


勇者「あれ……名前、名乗らねえのか?」

地の将軍「し、死にゆく者に名乗る名などないのでな!」

地の将軍「大地震《アースクエイク》!」

勇者「やらせねえよ!」

地の将軍「ほう、我が術を無効化するとは」

勇者「はっ、ここは神殿のある聖域なんだ。この土地は加護を受けたオレに味方するんだよ!」

地の将軍「ならば、これを見ても強気でいられるか?」

地の将軍「ゴーレム!」

ゴーレム「はっ」ゴゴゴ

銀髪少女「けほっ、けほっ……」

勇者「ロディア……!?」

地の将軍「我にはわかるぞ。この少女、おまえと極めてよく似た魔力をもっている」

地の将軍「血が繋がっているのであろう? 逆らえば、こやつの命はないぞ」

勇者「人質かよ……くそっ、反吐が出るぜ」

勇者(遠距離攻撃で地の将軍を……いや、だめだ。遠すぎる。空なんて飛びやがって)

勇者(ゴーレムに攻撃すれば、ロディアまで傷つけちまう)


銀髪少女「お姉ちゃーん!!」

勇者「っ……」

母「ロディア、ロディア!」

父「近づいては駄目だ! 危険すぎる!」

地の将軍「さあ、攻撃できるものならしてみるがいい!」

勇者「……オレが首を差し出したところで、この村が助かる保証なんて何処にもねえ」

勇者「なら、多少の犠牲には目を瞑った方が建設的だよなあ!」

地の将軍「ほう、できるのか?」

勇者「血が繋がってるだぁ!? 知ったことか! オレに家族なんていねえんだよ!!」

母「ローゼ……」

銀髪少女「……お姉ちゃん」ポロ

勇者「っ……」

地の将軍「今だ、カテギダ」

風の将軍「くくっ!」

ザンッ


勇者「あっ……」

母「嫌ああああああ!! ローゼ、ローゼ!!」

風の将軍「俺としたことが、急所は外したか」

地の将軍「だが、もう動けはしまい」

勇者「いってぇ……」

勇者「血……止まんね……」

狼「バウワウ!! バウウウ!」

勇者「馬鹿やろ、宿で待ってろよ、おまえ……」

風の将軍「策は見事に成功したな」

地の将軍「我の言った通りであろう」

地の将軍「試練を乗り越えた後であれば、疲労が回復していないだろうからな」

地の将軍「そして、宵は我等魔族が最も力を発揮できる時だ」

風の将軍「俺とエクヴォリが愚かだったな。昼間は眩しすぎる」


地の将軍「さて、どちらがとどめを刺してやろうか」

風の将軍「これはおまえの手柄だ」

地の将軍「では、遠慮はせぬぞ」

母「待ちなさい!」ザッ

母「この子は、殺させない」

勇者「かあ、さま」

地の将軍「愚かな人間が。その脆い体では盾になどならぬぞ」

父「…………」

父「どれだけ脆くても、ないよりはマシだろう」

勇者「とうさま……」

父「逃げろ、ローゼ」

勇者「そんな、嫌……だ……!」

狼「……」ズルズル

勇者「放せガリィ!」

地の将軍「……気が変わった」


地の将軍「先にこの小娘を殺してやろう」

銀髪少女「っ……」

地の将軍「勇者、貴様を殺すのは、貴様の絶望する顔を味わってからだ!」

勇者「やめろ!! ロディアに手を出すな!!」

銀髪少女「お母さん、お父さん……おねえ、ちゃん…………」

地の将軍「ははははは!」

勇者「やめろおおおおおおおお!!」



ザシュッ

tsuduku

辛口レスも嬉しいです。ありがとうございます
ちょっとネタバレになっちゃうんですけども、親がどんな状況に追い込まれていたのかについて次回でゆっくり説明入ってるので、もうちょっとお待ちいただけたらなと


Episode 8


地の将軍「がはっ……」

岩漿「はーあーい、お久しぶりねえ」

風の将軍「き、貴様……! おのれ!」

雪氷「後ろががら空きーぃ!」

風の将軍「な……んだと……!?」

勇者(女が……2人……?)

岩漿「お嬢ちゃん、はやく逃げなさい」

銀髪少女「は、はい!」

地の将軍「くっ……ゴーレム達よ!」

岩漿「無・駄・よ」

ジョグアアァァ ボコッボコッ

銀髪少女「み、みんなマグマになっちゃった……」


雪氷「あなたが勇者ローゼね! 私、雪氷の四天王、フリージア!」

岩漿「岩漿のルヴィニエよ」

村の男1「なんだなんだ、魔族が増えたぞ」

村の男2「うわ、水色っぽい子めっちゃかわいい」

村の男3「あのお色気お姉ちゃんもなかなか」

雪氷「人間のみっなっさーん! はじめまして~!」

雪氷「今の魔王様は人間と仲良くしようと思ってるから、よろしくね~!」

雪氷「ちなみに村を襲ってたのはぁ、魔王様のじゃなくて、もっと悪い奴の部下でーす!」


風の将軍「貴様等、もう勤務時間外ではないのか……!?」

雪氷「グラン君が残業代弾むって言ってくれたからぁ~」

風の将軍「残業代だと……? 出るのか……!?」

雪氷「そっちは出ないんだ~! ブラックだね! かわいそ~!」

風の将軍「く、屈辱だ……! この小娘!」

雪氷「小娘じゃないもん! もう150歳だもん!」

雪氷「パパの戦友だからって、容赦はしないよー!」

地の将軍「撤退だカテギダ! 分が悪い!」

風の将軍「ちっ」

雪氷「なんだあ、つまんないのぉ」


勇者「…………」

雪氷「早く治療しなきゃね」

銀髪少女「お姉ちゃん!」

勇者(もう……意識が……)ガクッ








チュンチュン

勇者「う……」

雪氷「よかったあ! 目、覚めたんだね」

勇者「おまえは確か……えっと、フリーザ」

雪氷「フリージアだよ」


雪氷「傷は治したけど、貧血はどうにもできないからしばらく無理しちゃだめだよ~」

母「ローゼ」ガバッ

勇者「うおっ」

母「ああ、よかった、よかった……」

勇者(母様の匂い……)

勇者「…………」

勇者(ここ、ロディアの家か)

母「ありがとうございます、フリージアさん」

雪氷「いえいえ~。じゃ、私はこれで」

雪氷「寝てた時間分も残業代もらっちゃおーっと」

岩漿「ちゃっかりしてるわねえ」

母「ローゼ、ゆっくり休んでね。落ち着いたら、ゆっくり話をしましょう?」

勇者「……世話になったな」

母「ローゼ!」

父「まだ動いては」

勇者「うるせえ! 追いかけてくんな!」


銀髪少女「あ、お姉ちゃん!」タタタッ

銀髪少女「行っちゃうの? まだ寝てなきゃ駄目だよ?」

勇者「……見捨てようとして、悪かったな」

銀髪少女「お姉ちゃん!」

勇者「行くぞガリィ」

狼「…………」トボトボ




勇者「……血が足りねえ」フラフラ

魔王「ローゼ」ヒュン

魔王「おまえの現在地を確かめてみれば、村から外れていたのでな」

魔王「こんな所で何をしている」

勇者「次の目的地に向かって進んでんだよ、何がおかしい」

魔王「ろくに回復もしていないのにか? ふらついているではないか」

勇者「うるせー」

魔王「……まさか、親とまともに話もせずに村を出たのではないだろうな?」

勇者「あ? 何か問題でもあんのかよ!」

魔王「何故そんなことをした」

勇者「てめえには関係ねえ」

魔王「……どう接すればいいのかわからず、逃げ出したのか」

勇者「……」

魔王「……来い」ガシッ モフッ

勇者「おい、何す」

狼「?」

ヒュンッ


狼「!」

勇者「ここ……さっきの村じゃねえか!」

魔王「もう1度親に会ってこい」

勇者「はーーーーーーーーーー!?」

勇者「てめえに口出しされる筋合いはねえ!」

魔王「和解しろとは言わん、親を許せと言うつもりもない」

魔王「だが、おまえの両親は、命を張っておまえを守ろうとしてくれたのだろう?」

魔王「部下から聞いたぞ」

勇者「……あんなの、自分の罪悪感から逃げたかっただけだろ」

魔王「そうとも限らぬ。少しでも話をして、分かり合うべきだ」

魔王「おまえだって、本当は親を信じたいのではないか?」

勇者「……オレぁなあ! おまえみたいな正論ぶつけてくる奴が大っ嫌いなんだよ!!」

ドカボキゴキャ

魔王「あだだだだだ!!」

勇者「オレをさっきの場所まで戻せ!!」

魔王「断る!!」


村の男1「なんだなんだ」

村の男2「あれ魔族じゃね?」

村の男3「勇者と揉み合ってんな」

魔王「落ち着け!」ムニッ

勇者「うおああああどこ触ってんだよ!!」ドガッ

魔王「わ、悪い! だがやはり落ち着け!!」

勇者「なんでおまえに口出されなきゃなんねえんだよ!!」

魔王「前にも言ったはずだ。おまえ達親子を引き裂く根本的な原因を作ったのは、俺の父だと!」

魔王「おまえが恨むべきなのは“魔王”だ! 両親でも、祖国でもない!」

勇者「だから親と仲良しごっこしてこいってかぁ!?」

魔王「このままでは一生後悔することになるぞ!」

魔王「見捨てられた悲しみ、絶望はそう簡単には癒えぬだろう」

魔王「両親を信じることも難しいであろう! しかし!」

勇者「黙れ黙れ黙れ! 良い子ちゃんのおまえにオレの気持ちなんてわかんねえよ!」


勇者「“魔王”がなんだ! “おまえ”は関係ねえ!」

魔王「俺はっ……父の罪を少しでも償いたいのだ!」

魔王「父が壊してしまった“縁”を、再び繋ぎたい!」

勇者「てめえの事情なんざ知るかあああああ!!」ドカッドカッ

魔王「うぐっ……ギブアップはせぬぞ……!」

魔王「おまえが家族と話をするまで、俺は何度でも蘇りおまえをここに連れ戻す!」

勇者「上等だあ! その度に殺してやるよ!」

村の男4「なんか知らないけど勇者が魔王いじめてんぞ」

村の男5「今の魔王って人間の味方なんだろ?」

村の幼女「まおうがんばえー!」

勇者「てめえらうるせえぞ!?」

魔王「おまえの両親は、本当におまえのことを愛している」

魔王「逃げるな」

勇者「……愛してるだあ? はっ」

勇者「愛してるなら、どうしてあの時は守ってくれなかったんだよ!!」

勇者「オレは、親は無条件で子供を守ってくれるもんだって……信じてたんたぜ」

魔王「その疑問は、直接親にぶつけるがいい」

魔王「当時の幼いおまえでは、理解できなかったこともたくさんあっただろう」

魔王「向き合うことから逃げるな」


勇者「…………嫌だ! てめえは黙ってオレの昼飯を用意すればいいんだよ!」

勇者「さっさと今日の昼飯を出せ!」

魔王「ないぞ」

勇者「は?」

魔王「おまえが親とちゃんと話をするまで、飯は用意せぬ」

勇者「なっ……卑怯だぞ!」

魔王「貴様に言われたくはない!!」

勇者「…………ちくしょう!!」

勇者「あっ……」クラリ

魔王「無理をするからだ。まったく」

銀髪少女「お姉ちゃーん! 戻ってきてくれたんだね!」

勇者「…………明日はぜってえ美味いもん持ってこいよ!」

魔王「今日は親が作る飯を味わってこい」

魔王(食に貪欲な奴でよかった)


村の女1「魔王様ってすっごい美形ね~! 攫われたーい!」

魔王「あ」

魔王(急ぐあまりに、人間の姿に化けることを忘れていた……!)

魔王(やらかした……)

村の女2「ツノがある以外ほとんど人間ね」

村の女3「ね! 昨晩村を襲った魔族とは全然違う!」

魔王(敵意がないだけよかったな……フリージアは上手くやったようだ)

村の女4「勇者様より弱いみたいだし、猶更安心ね!」

魔王「…………」



勇者『……オレぁなあ! おまえみたいな正論ぶつけてくる奴が大っ嫌いなんだよ!!』



魔王(大っ嫌い、か……)チクッ

魔王(……帰ろう)


勇者「……なあ、ロディア。おまえって……1人っ子だったんだよな」

銀髪少女「うん……そうだよ」

ガチャ

銀髪少女「お姉ちゃん帰ってきたよ! 魔王様が連れてきてくれた!」

母「!」

勇者「…………」

父「ああ、よかった……。……こっちに、座ってくれるかい」

勇者「…………」

父「……大きくなったな」

母「お昼ご飯、用意するわね」

父「信じてはもらえないかもしれないが、私達は、君が生きていてくれて良かったと、本当に嬉しく思っているんだよ」

勇者「……なあ、オレがどんな地獄を生きる羽目になったか……おまえらは想像できるか?」

勇者「のうのうと幸せに暮らしやがって! ちくしょう!」

父「……すまない」

勇者「……国に従う以外に、どうしようもなかったのかよ」

父「何を言っても言い訳にしかならないが……当時のことを、話しておこうか」


――――――――

父「子供を捨てろだろ!?」

修道士「はい。新たな規定ができまして、あなたのお子さんはちょっと引っかかっちゃったんですよねえ」

修道士「奇形がある人間は全員貧民街送りです」

父「ふざけるな!」

母「どうしてそんな……!」

修道士「とはいえ、陛下は慈悲深い方ですので、1日だけお別れ期間を用意することが認められています」

修道士「ごゆっくり別れを済ませてくださいね」

父「正気かおまえは!」

修道士「私はマニュアル通りに申し上げているだけです」


修道士「逆らおうだなんて、思わないでくださいねえ」

修道士「国の決まりに逆らったらどうなるか、噂を聞いたことがないわけではないでしょう?」

父「…………」

修道士「不満そうですねえ。まあ当然ですよねえ。では、ちょっと同行願えます?」

父「何処へ向かうつもりだ」

修道士「行けばわかりますよ。あ、奥様もご一緒に」

勇者「とうさま、そのひとだあれ?」トテトテ

父「……ローゼ、メイドと一緒に遊んでいなさい」





父「……どんどんスラムに近づいているじゃないか」

母「酷いにおいね」

修道士「そろそろ見えてきますねえ。道の両脇、見てくださいねえ」

父「…………!」

母「うっ……」

修道士「この道の名物、晒し首の並木道ですよ~」


修道士「スラム行きを拒絶した人と、その協力者や家族は酷い場合こうなっちゃうんですよねえ」

母「っ…………」

父「なんてものを見せるんだ!」

修道士「酷くない場合は、一族郎党全員仲良くスラム送り!」

修道士「うーん、こっちも充分酷いですよねえ」

修道士「あ、そうそう。お子さん、銀髪ですよね? いやあ、驚きました」

修道士「あなた方、ご先祖様に王族の方がおられるんじゃないですか?」

父「うっぷ……母方の祖先に、王族から嫁いできた人がいたはずだ」

母「私も、数代前に」

父「それがどうした」

修道士「隔世遺伝で、王族の血が濃く出てきちゃったんですね」

修道士「陛下は、他の何よりも身内に厳しいんです」

修道士「ちなみに、銀の髪をもって生まれてきた人は王族の中でも特別な存在でしてね、聖なる力の適性が強いんです」


修道士「その銀の髪をもった王族が、陛下の定義する『不完全な存在』だと陛下が知ったら……」

修道士「前例から判断すると、体の末端から少しずつ輪切りの刑にされる可能性が高い」

父「…………」

母「…………」

修道士「大人しく従った方が犠牲が少なくて済むんですよぉ」

修道士「私、こんな煽るような口調なので誤解されやすいんですけど、犠牲者は少しでも減らしたいんです。ほんとに」

修道士「あ、なんなら処刑場に見学にでも行きます? 逆らう気が失せますよ~」

父「……気分が悪い。帰らせてもらう」

修道士「そうそう、スラムには善良な民もたくさん追放されてますから、案外お子さん生き延びられるかもしれませんよぉ」


夜中

父「親戚中に話をして、全員で夜逃げを……駄目だ、時間が足りない!」

母「…………」ガサゴソ

父「何してるんだ」

母「荷造りよ!」

母「ローゼを殺されるなんてたまったもんじゃないし、親戚に迷惑をかけるわけにもいかない」

母「これじゃ、国に従うしかないでしょう?」

母「だから、私もローゼと一緒にスラムに行くの」

父「モナルダ……」

母「大丈夫、スラムには、善良な人もたくさんいるのでしょう? きっと、住めば都よ」

父「お腹の子はどうするんだ」

母「向こうでだって産んでやるわよ」

父「……受け継いだ家と仕事より、子供が大事だな。私も行こう」

修道士「駄目ですよぉ」

父「いつからそこに!?」

修道士「すみません、こっそり監視してましたぁ」

母「どうして駄目なの」

修道士「自ら進んでスラムに行くんじゃあ、“罰”になりませんからねえ」


母「ならどうすればいいの!?」

修道士「どうしようもないですよ。はあ、これじゃ仕方ないですね」

修道士「気絶《フェイント》」

母「うっ」

父「何をする!!」

修道士「明日、お子さんのスラム行きが完了するまで、奥様には眠っていていただきましょう」

修道士「逆らえば……」

兵士達「「……」」ガシャガシャ

修道士「奥様と、お腹の中のお子さんの命はありません」

父「……ちくしょう!!」


翌日

勇者「かあさまは? かあさまはどこ?」

父「…………」

勇者「おでかけするの? ピクニック?」

父「……ああ、そうだよ」

勇者「おうまさんにのるんだね。かあさまは?」

父「……ちょっと用事があって、別のところにお出かけしてるんだ」

勇者「そっかぁ……」

修道士「お迎えに上がりましたあ」

不真面目な兵士1「我々は監視係です」

不真面目な兵士2「ほら、行きますよ」

勇者「?」


勇者「ねえねえ、どうしてへいしさんいっしょなの?」

不真面目な兵士1「悪い子は兵士に捕まっちゃう決まりだからね」

勇者「?? ローゼ、なにもわるいことしてない!」

不真面目な兵士2「生まれてきたことが罪なんだよ、ははは」

勇者「??」

不真面目な兵士1「はは、かわいー。わかんないよねえ。ふたなりってほんと? お股見せてよ」

修道士「あなた達は黙っていなさい」

不真面目な兵士達「「へーい」」

父「…………」

勇者「とうさま? とうさまどうしたの?」


父「ここからは、下を向いていなさい」

勇者「? はあい」

勇者「……なんだか、へんなにおい。このにおい、なあに?」

父(死臭だ、なんて……教えられるわけがない)

修道士「着きましたよぉ」

勇者「わあ! おおきなとびら!」

勇者「とうさま、あっちにはなにがあるの?」

父「…………」

修道士「入ったらもう二度と出られない、怖い地獄ですよ」

勇者「え?」

ギイィィィィィィィ

父「……すまない」

勇者「?」

不真面目な兵士1「はい、お馬さんから降りようね」

勇者「!? やだ!!」

不真面目な兵士2「よいしょっと」

勇者「はなしてぇー!」


勇者「とうさまー!!」

父「…………」

勇者「かあさま! かあさまどこにいるの!? たすけて!!」

不真面目な兵士1「かあさまは来ないよ。もう二度と会えないんだよ~」

不真面目な兵士2「君はもう捨て子になっちゃったからね、ははは」

勇者「うそつきー!!!! やだあああああああ!!」

勇者「なんで!? なんでー!? とうさまどうしてたすけてくれないの!?」

不真面目な兵士1「男の子でも女の子でもない子は、おうちにいられない決まりがあるからだよー」ポイッ

勇者「ひゃっ! いたい!! ふええええええええ!!」

ギィィィィィィィィ

勇者「とうさま! とうさまああああ!!」

父「っ……」

バタン


父「…………」

修道士「お疲れさまでーす。もう帰っていいですよ」

父「……こんな国、いずれ滅びるぞ!」

修道士「……はあ。嫌な仕事だなあ」

修道士「国がこんなことやってばっかだから、兵士達の心も歪み切っちゃってるし」

修道士「この国の人間は信心深く、教会の人間の言うことは比較的よく聞き入れるからって、こんな仕事押し付けられちゃって」

修道士「はあ~……」








母「ローゼ! ローゼを返して!!」ガリガリ

門番「奥さん、無理ですよ。この扉は開けられません」

母「私の子供を返してよ!!」ガリガリガリガリ

門番「爪ボロボロになってるじゃないですか! もうやめてください!」

母「嫌! 嫌ああああああ!!」

父「……冷えてきたな。帰ろう。お腹の子が心配だ」


数年後

父「…………」

母「…………」

父「……ははは。事業もガタガタで、どうしようもないな」

母「…………」

父「……この国から、逃げないか?」

母「……?」

父「あれから何年も経った。私達が姿を消しても、今更親戚が犠牲になることはない」

父「そして、我が子を……ローゼを、迎えに行くんだ」

母「……あの門は、開けられないでしょう?」

父「外側から回るんだ。一旦町を出て、森を抜けてスラムに侵入すれば、門番に気づかれることもない」

父「狩人ですら滅多に入らない、猛獣が棲み付いている危険な森だが……」

母「……あの子に会えるのなら、なんだってするわ」

――――――――


父「……すまなかった」

父「君を捨てずに逃げる手段があったのではないかと、今でもずっと自分を責めずにはいられない」

父「そして、スラムに行った時、もっとよく探していればと……」

勇者「はは、全身細かく輪切りか。そりゃ捨てる方選ぶよな……」

勇者「……死んだ方がマシだって思えるような地獄だったけど、良い人には拾ってもらえた」

勇者「だからこうして生きてる」

父「…………」

勇者「……母様がさ、お腹に赤ちゃんがいるって教えてくれた時のこと、オレ、しっかり覚えてるんだ」

勇者「占い師に見てもらったら、きっと男の子だと言われたって、嬉しそうに話してた」

勇者「でも、ここにはいないんだな」

父「……こっちへ」

裏庭

父「死産だった。これが、君の弟の墓だ」

勇者(タイム、ここに眠る……)

父「医者からは、精神的負担が原因だと告げられた」

勇者「……そうか」


勇者(わかっていたはずのことだ)

勇者(オレは確かに愛されていたし、親はオレのことを助けたくても助けられなかった)

勇者(助けられない、どうしようもない事情があった)

勇者(でも、捨てられたことがあんまりにも悲しくて、恨まずにはいられなかった)

勇者(愛されていたことを信じられなくなった)

母「ほら、できたわよ」

勇者(10年ぶりの、母様の卵焼き)

勇者(また、食べられるなんて)

勇者「…………」ジワ

勇者「うぅ……」


勇者「……オレは、親に捨てられたんじゃない」

勇者「ただ、社会に引き離されただけだ」

勇者「だから、父様と母様は自分を責めなくていい」

母「……ローゼ」ギュウ

父「これから、一緒に暮らそう」

勇者「できねえよ、それは」

父「どうして」

勇者「知ってるだろ? オレは勇者だって」

母「でも、魔王様は優しいのでしょう? あなたが旅をする必要なんて」

勇者「魔王の兄貴を倒さなきゃならねえんだよ」

母「……そう」


母「そうだ! 卵焼きの作り方、教えてあげる約束だったわね」

勇者「……旅が終わったらまた来るから、その時に教えてくれ」

母「わかったわ。絶対、絶対帰ってきてね!」

銀髪少女「お姉ちゃん、体が治るまではここにいてね!」

勇者「だから、お姉ちゃんじゃねえって。男でも女でもねえんだから」

銀髪少女「じゃあ、おにえちゃん!」

勇者「……好きに呼べ」







翌日

魔王「もう数日泊まればよかっただろうに」

勇者「ぬるま湯に浸かったら、戦いの世界に帰ってこられなくなっちまうだろ」

魔王「そうか」


勇者「嬉しそうな顔してんな」

魔王「嬉しいからな」

勇者「そんなにか?」

魔王「ああ」

勇者「他人のことでそこまで喜べるもんか?」

魔王「ああ」

勇者「ふーん」

魔王「時々、親に手紙でも送ってやれ」

勇者「気が向いたらな」

勇者「……おまえこそ、親孝行してんだろうな?」

魔王「俺にはもう、親はいない。だから、おまえが羨ましい」

勇者(地雷踏んだ……)


勇者「……そういや、礼を言いそびれてたな」

勇者「部下を寄越してくれてありがとな」

魔王「おまえが勇映の玉で姿を見ることを禁じたから、」

魔王「自動的におまえの危機を知らせてくれるよう、玉のプログラムを改造する必要があった」

魔王「苦労したんだぞ」

勇者「あっそ」

勇者(……こいつがいなかったら、オレは親と素直に話をすることもなかったんだな)

勇者(どうしてこいつは、こんなに良い奴なんだろう)

勇者(やっぱ、お姫様と関わった影響がでかいのかな)

勇者「…………」

魔王「どうした」

勇者「なんでもねえよ」

勇者(この気持ちは、一体なんなんだ)


情熱の町

勇者「なんかこの町、めっちゃ音楽流れてるし踊ってる奴がえらく多いな」

魔王「情熱の町と呼ばれているだけあるな」

眼鏡男「……ローゼちゃん?」

勇者「あ? 誰だてめえ。気持ちわりぃ呼び方してんじゃねえぞ」

眼鏡男「だ、だいぶ雰囲気が変わってるけど、確かにローゼちゃんだ!」

眼鏡男「勇者に選ばれたって、本当だったんだね!」

眼鏡男「僕だよ僕、小さい頃仲が良かったミステルだよ!」

勇者「……2個上の、よく一緒に遊んでた金持ち息子」

眼鏡男「そうそう! 君の力になりたくて、君を探してたんだ」

魔王「…………」

勇者「仲間ならいらねえぞ」

眼鏡男「そう言わずに! この町を案内するよ!」

勇者「……じゃあ、頼む」

眼鏡男「会えて嬉しいよ! 僕、ずっと君に会いたかったんだ」

勇者「そうか」

魔王(ローゼが心做しか嬉しそう……だと……?)

魔王(旧友との再会だ。祝うべきだというのに……モヤモヤしてしまうな)

つづく

とりあえず生存報告だけ
鯖落ち中はすみませんふきのとうの小説版の書き溜めばかりやってました
ぼちぼちこっちの書き溜めもして、近い内に更新しようと思います

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