姫川友紀「引っ越したい」 (115)

アイドルたちに対する自己流の解釈がいくつか含まれていると思うので一応注意されたし、という前置き

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P「……なんだって?」

友紀「お引っ越ししたいの!」

P「誰が」

友紀「あたしが」

P「ほーん」



P「頑張ってな」プイ

友紀「そんなぁ!?」ガーン


友紀「もっと興味持ってよ!!」

P「……なんで」

友紀「な、なんでって……! そんな、担当アイドルが一世一代の引っ越しをしようっていう時に、なんて冷たいヤツなんだ……」ワナワナ

P「や、そうじゃなくて」

友紀「えっ」

P「"どうして突然引っ越しなんて言い出したんですか"って意味だよバカ」

友紀「あ、そっち」

P「別に関心無い訳じゃねーよ」

友紀「なーんだ、良かった良かった」

P「だからって興味ある訳でもないけど。ていうか割とどうでも良いな」

友紀「そっちの方がひどくない!?」


P「ていうか、一世一代は言い過ぎじゃね」

友紀「へ」

P「引っ越しなんて大して珍しくもないでしょ今のご時世」

友紀「そ、そうなの?」

P「俺の知り合いに半年で3回くらい引っ越してる奴いるぞ」

友紀「わ、すごっ」

P「それはそれでちょっとワケアリって感じもするけど」

友紀「おー……。なんか意外」

P「そんなに大袈裟に言うことでもないような」

友紀「ふーん、そっかぁ……」



友紀「……誰がばかだ!」

P「反応おっそ」


友紀「あたしばかじゃないもん!」

P「おう」

友紀「そりゃ、特別頭良い方でもないよ? でもさぁ、」

P「うんうん」

友紀「……ちょっと、マジメに聞いてよ」

P「はいよ」

友紀「むぅ~……! もういい!」

P「あん?」

友紀「自分の事じゃないからって関係ないんでしょ! いいよもう! プロデューサーのばーか!」

P「あっそ」

友紀「絶対許さない。顔も見たくない」

P「へーへー」

友紀「ふーんだ」プイ

P「……」カタカタ

友紀「……つーん」

P「そうだ、この日は確かあのスタジオが……」

友紀「……」




友紀「……まぁ、なんで引っ越したいと思ったかっていうとだね」

P「5分持たないのな」

友紀「だってさみしいんだもん……」


P「……まず、前提として言わせてもらうけどさ」

友紀「うん」

P「俺今仕事してるんだけど。見て分からんかな」

友紀「わかってるよ? いつもお疲れ様っ♪」

P「お、おう」

友紀「それで?」

P「それでってお前な」

友紀「?」

P「……集中してる時に、関係ない話されたくないのよ。オーケー?」

友紀「えー……」

P「えーじゃありません。後にしてくれ」

友紀「うー」

P「うーでもない」


友紀「……ほんとに関係ないって言い切れる?」

P「なんだと」

友紀「あたしが引っ越ししたいって言ったらさ、それは所属してる選手からの要望ってことになるんじゃないの」

P「選手て」

友紀「そして監督はそれを聞いて、叶える義務があるっ!」

P「誰が監督じゃ」

友紀「監督が選手の要望に応えようと努力することはね、現場とフロント、そしてチーム内の円滑なコミュニケーションを促進させるのに繋がるんだよ。あたしはさ、そういう小さな積み重ねが、ゆくゆくはチームの総合的な強化に繋がるって思うんだ!!」

P「なんか急に流暢に語り出したぞ」

友紀「そりゃあ各々のスタンスの違いもあるだろうけどさ。やっぱり、いっつも仏頂面で選手とは距離置いてますーな感じよりも、明るくハッパかけるくらいにして選手ともっとコミュニケーション取るべきなんじゃないかと思うね、うんうん」

P「何の話だ」

友紀「おっとと、話が逸れちゃった」

P「悪かったないつも仏頂面で」

友紀「あ、ちが、プロデューサーの話じゃなくてね?!」

P「どうせコミュニケーション取るの下手ですぅー」

友紀「例えば! 例えばだから!」


友紀「……まぁ例え話はともかくさ、相談に乗るのもお仕事の内に入ったりしないの?」

P「それは……」

友紀「アイドルの体調管理とか、生活を支えたり改善するのも、立派なプロデュース業の一環ではないのかね! ってあたしは言いたい訳だよ」

P「まぁ、言いようによっては?」

友紀「なら、ちょっとくらい話聞いてくれたって良いじゃん? ね?」

P「んー……」

友紀「……だめ?」

P「…」

P「……」



P「仕方ないな……」ハァ

友紀「やたっ♪」


P「場所移す?」

友紀「ううん、ここで良い」

P「そ。ならちょっと待ってて、俺コーヒーでも淹れてくるわ」

友紀「あ、ならあたしも行く!」

P「そっすか」

友紀「あたしのはミルク多めでよろしく♪」

P「自分でやれや」

友紀「えー」

P「えーじゃない、付いてくる意味ないでしょそれ」

友紀「まあまあ。じゃあ、あたしがプロデューサーのに入れたげるから!」

P「えぇ……いいよ別に……自分でやる……」

友紀「えーじゃない! なんでそんな嫌そうな顔するのさ!?」



――




――


P「……さて」

友紀「うん!」

P「まず、引っ越そうと思った動機についてだが」

友紀「おぉー。なんか面接っぽい!」

P「茶化すな、面接みたいなもんだよ充分」

友紀「はいっ! 1番、姫川友紀です! 特技はモノマネとシュアな打撃!」

P「自己PRとか良いから」

友紀「走るのも得意で、アオキ選手みたいに走攻守揃った選手になるのが目標です」

P「聞いてない聞いてない、求めてないよ今そういうの」

友紀「じゃあモノマネします! えー、コクボにホームランを打たれて思わず足元にグローブを叩き付ける日ハム時代のエジリ」

P「野手なのか投手なのかどっちかにしなさいよ……」ズズ



P「……あっま!」

友紀「あれ、砂糖入れすぎ?」

P「どんだけ入れたらこうなるんだ!」

友紀「覚えてないや」

P「やることが雑すぎる! 嫌な予感すると思ったらこれだよ、くっそぅ!」


P「話戻すぞ」

友紀「うん」

P「引っ越したい理由、聞かせてくれる?」

友紀「はーい」

P「これでその場の思い付きとかだったらお前ぶっ飛ばすから」

友紀「物騒だ?!」

P「冗談」

友紀「怖いこと言うなぁ……」

P「一応確認しとくけどさ、変なことされてるとかでは無いよな?」

友紀「変なって?」

P「えぇと……ほら、ストーカーだとか、嫌がらせだとか」

友紀「いやないない! 全っ然!」

P「ん、まぁ雰囲気からそんな感じはしてたけど。無いなら良いんだ」

友紀「そういうのじゃないから。大丈夫だよ」

P「じゃあなんで?」

友紀「んー……そんな大したことでも無いんだけどさ」


友紀「遠いんだ、うち」

P「遠い? 事務所から?」

友紀「ううん、そうじゃなくて」

P「球場からか」

友紀「あぁー、確かに。駅までちょっと遠い……けどっ! そうでもなくて」

P「じゃあ?」

友紀「……みんなのおうちから」

P「はぁ」

友紀「あたしんちだけさ、みんなのとこから離れてるの」


P「んー…?」

友紀「ほら、あたしんちって、こっから右手側にあるじゃん?」

P「事務所から出てか」

友紀「で、他の子たちの家は左、逆側なんだよね」

P「寮もそっちだな」

友紀「そうそう。だからね、帰る時とかいっつもあたしだけ別方面なんだ」

P「はぁ」

友紀「まぁ、途中まで一緒に行こうと思えば行けるんだけどさ。それはそれでやっぱり面倒っていうか……」

P「確かになぁ」

友紀「それがなんかこう……うん、遠いなぁ、って。ずっと思ってはいたの」

P「……フム」


友紀「逆だとさ、ちょっと疎外感? っていうか」

P「あぁ、それは分かる気がする。家近いと、集まりやすかったりするもんな」

友紀「比奈ちゃんちなんか、寮からそこそこ近いでしょ? みんな結構遊びに行ったりしてるらしくってさ」

P「マジか」

友紀「あたしもたまに行くんだけど」

P「でも、」

友紀「うん。遠いんだよねぇ……」

P「なるほど……」


P(言われてみれば、確かにそうだ。友紀が誰かと一緒に帰ってるとこ、今まで見たことない)

P(家、みんなと離れてるんだな……。気付けなかった)

P(仕事終わりに家まで送ってくようなことは何回かあったけど。1人1人単品で送り届けるのがほとんどだったせいで、物理的な距離感が気にならなかったんだ)

P(一緒にまとめて車に乗っけてく機会が少しでもあれば気付けたかもしれないのに。うーん、盲点だった……)

P(こいつも、これで割とさみしがりなとこあったりなかったりするし。気にしてたんだろな、きっと)



友紀「別にね? 遠いから何だって話ではあるんだ。事務所にもちゃんと通えてるし」

P「うんうん」

友紀「でも、もうちょーーっとだけこっち側の方が、あたし的にも何かと都合が良いというか何というか……」


P「と言うと」

友紀「ほら、例えばさ。比奈ちゃんちに遊びに出かけるじゃん?」

P「うん」

友紀「で、飲むじゃん」

P「……うん」

友紀「いつの間にか床で雑魚寝してるの」

P「最低だよ」

友紀「でしょ? そんで気付いたらもうお昼、これを色んな家で繰り返してるのだ」

P「迷惑かけまくりじゃないか!」

友紀「しょうがないじゃん! お酒飲むと眠くなるし! 帰ると遠いし!!」

P「しょうがなくないです」

友紀「そういうのを少しでも減らしたいって、自分でも思ってるんだよぅ!」


P「飲んだ時の自己管理くらい自分で責任持ってだな……」

友紀「だあーっとと! ストップストップ!」ガバ

P「むぐっ」

友紀「そういうお説教、今は良いから!」

P「んむむ」

友紀「そういうのをしっかりするための引っ越しでもある訳! わかんないかなぁ?」

P「むー」

友紀「とにかく! ビール飲んで解散!ってなった時、帰れる家が近い方が良いんだよ!」

P「むーー!」


友紀「それに、プロデューサーにだってメリットはあると思うんだ」スッ

P「ぷっは、あー苦し……どういう意味だよ」

友紀「あたしの迎えに来てくれた後、送り届けるまでの距離が短くなる!」

P「あぁ、なるほど確かに……」



P「ってなるか! 自分で帰れバカ!」

友紀「うわーん! 堪忍しておくれよぉ、家が遠いのが悪いんだよぉ~!」

P「何でもかんでも距離のせいにするな! 好きで迎えに行ってる訳じゃないんだぞこっちも!」

友紀「ごめんなさいぃ…」


――


P「……うん、まぁ、事情は大体分かった」

友紀「よろしい」

P「偉そう」ペチ

友紀「いてっ」

P「ったく……。で?」

友紀「うん?」

P「具体的にどこ、とかは決めてんの」

友紀「全然?」

P「やっぱり……」

友紀「場所から決めるもんなの?」

P「んんー……。まぁ、最初は物件探してみるのが無難な気がするけど」

友紀「ほうほう」

P「まさか一軒家買うんじゃ無いだろう? 空いてるアパートとか、マンションとか調べてみたらどうよ」



P「物件って言っても、色々あるし。家賃とか、最寄駅はどこが良いとか」

友紀「球場の近くが良いなっ」

P「多分はちゃめちゃに激戦区だと思うがよろしいか」

友紀「ですよねー……」

P「もうちょっと普通のところにしといた方がいいと思うぞ」

友紀「あ! じゃあ比奈ちゃんちの近くとか!」

P「さっきから何なんだその比奈推しは。やつの家を別荘にでもにするつもりか」

友紀「だって居心地良いんだもん」

P「……仲が良いのは大変よろしいことだけれども」


友紀「引っ越しなんて初めてだからさー。何からやったら良いのか、わっかんないんだよね」

P「は? 初めて?」

友紀「え、ダメ?」

P「いやだってお前、今のとこにずっと住んでた訳じゃないでしょ。宮崎からこっち来たんだろ?」

友紀「あ、そっか。じゃあ、あれも引っ越しなのか」

P「じゃあって……」

友紀「引っ越しって感じ全然しなかったから、うっかりしてたよ。あっははは!」

P「……」


P「……良い機会だし、聞いてもいいか?」

友紀「んー?」

P「前からちょっと気になってはいたんだけどさ。お前、あそこにいつから住んでんの」

友紀「いつって、高校卒業した頃だから……2、3年前?」

P「1人で?」

友紀「今はねー」

P「……最初は、誰かと?」

友紀「うん、お兄ちゃんと!」

P「な、なんだ、そっかそっか……」ホッ


友紀「ほんとはお兄ちゃんが借りてた家なんだ、あそこ」

P「ほう」

友紀「そこにあたしもお邪魔してたんだけど。でも色々あって、お兄ちゃん地元に帰っちゃったからサ」

P「あー、なるほどね……」

友紀「で、元々置いてたのをそのままおさがりで使ってるだけなんだ」

P「布団とか、家具とか?」

友紀「そそ。だから、あたしは特に物を持ち込んでこっち来たとかじゃ無かったの」

P「確かに、そりゃ引っ越しの自覚なくても仕方ないかもなぁ」

友紀「実家から服とユニとグローブ持ってきておわり! 引っ越すの初めてってのは、そういうことね!」

P「納得」


P(……ついでに、もうちょっと踏み込んでみようかな)

P「なあ。さっき高校卒業してこっち来たって言ってたけど、それって……



ガチャ


P「……む」


荒木比奈「お疲れ様っス……ふぇっくしょい!」

森久保乃々「ひょぇっ……だ、大丈夫ですか、さっきから……」

比奈「花粉症の時期じゃないと思うんスけどねぇ」ズビ

乃々「で、でも……そういうの、突然なるって言いますよね……」

比奈「うえぇ、やだなぁ……昨日まで何ともなかったんスけど」



P「……おぉ、誰かと思えば」

友紀「比奈ちゃんに乃々ちゃん! やっほー」

比奈「っス」

乃々「どうも……」

P「ウワサをすれば何とやらってな」

友紀「ねー♪」

比奈「ウワサ?」

友紀「ううん、何でも。レッスンあがり?」

比奈「はい、終わってきたところっス」

P「あと、今日は飛鳥も一緒だったような」

乃々「飛鳥さんは、用事があるそうで……」

P「ん、そっか。お疲れ様」


比奈「着いて早々大変申し訳ないんスけど。どっちか、ティッシュもらえないっスか?」

友紀「ティッシュ?」

比奈「なんか、さっきから妙に鼻がむじゅむじゅして……へっぷしゅ」

友紀「うわっと! びっくりした」

比奈「す、すんません……ホント困ってるんスよ……」ズビビ

P「ええと……ほれ」

比奈「ありがとございまス……」チーン

乃々「あ、アレルギーとか……?」

比奈「どうなんでしょう……」

友紀「風邪でも引いちゃった?」

比奈「うぅーん……埃っぽいだけだと思いたいんスけど」

P(ウワサされるとクシャミが出るって本当なんだな……)


乃々「わ、私は……アレルギー、1つ持っていますよ」

友紀「何に?」

乃々「お仕事あれるぎぃ……」

P「こいつめ」

比奈「あちゃー、そりゃ大変っスね」

友紀「それでいっつもサインに首振ってるんだ」

P「信じるなよ」

乃々「帰る準備ならいつでもできてますけど……」

P「……うん。今日はもう、特に用事もないけど」

乃々「はい、安心してもりくぼの聖域に帰らせていただきます……」ゴソゴソ

P「こいつめ」


比奈「……なんだか話し込んでる感じでしたけど。もしかして、お取り込み中でした?」

P「え、あぁいや、別に大したことじゃないけど」

友紀「うん。ちょっと相談に乗ってもらってただけ」

比奈「邪魔して申し訳ないっス。アレだったら自分はこれで……」

友紀「待って待って! 比奈ちゃんにも聞いてほしいな、あたし」

比奈「ほ?」

友紀「関係あるかもしれないし!」

P「勝手に巻き込んでるだけだろ」

友紀「違うよ! 比奈ちゃんだって、たまに家に来るもん!」

P「マジかよ」

友紀「宅飲みとかするもん。ね?」

比奈「?? 何の話っスか?」

友紀「実は……」



――




――



比奈「なーるほど。引っ越しっスか」

友紀「そうなの」

比奈「……確かに、もうちょい近い方が楽だなぁとは思ってましたけど」

友紀「ほらぁ!」

P「こいつら……」

比奈「いや、友紀ちゃんがね?」

友紀「えっ」

比奈「ウチに来るのは別に構わないっスけど、毎度大変だなぁと思ってたところっス」

友紀「比奈ちゃん……!」

比奈「これを機に、お互いもっと遊びに来やすくなると良いッスね」ニコ

P「ユウジョウ……」

友紀「やさしさが身に染みる……」



比奈「ま、単純に近い方がアタシも行きやすいってのもあるっス。友紀ちゃんち遠いから、ぶっちゃけ家出るの億劫でしたし」

P「台無しか」

友紀「感動を返してほしいよ」


比奈「しっかし、引っ越しかぁ。なんか懐かしい感じがするっスねぇ」

P「む。そういや、比奈もあそこに越してきたクチか」

比奈「ええ、だいぶお世話になってるっス」

友紀「引っ越し、やっぱり大変だった?」

比奈「大変と言えば、まぁ……そこそこッスよ」

友紀「例えば? どんなことしたの」

比奈「うぇ、ええと……」

友紀「荷物とかどうした? 運ぶの面倒じゃない?」

比奈「そ、そういうのは業者サンにお願いしたので……」

友紀「場所とかどうやって決めたの? ネットとかで調べた?」

P「……ちょい落ち着けよ。比奈困ってるだろ」

友紀「んぁ、ごめん」

比奈「や、良いっスけど」


P「でも確かに。比奈の引っ越し事情、俺もちょっと気になるかも」

比奈「ふぇ」

友紀「でしょ?!」

P「比奈っていうか、みんなのっていうか?」

友紀「うんうん!」

比奈「大して面白い話でも無いような気がしまスけどね」

友紀「そんなことないよ! 参考にもなるし!」

比奈「そ、そっスか?」

P「実体験って、これ以上ない情報源だよな」

友紀「比奈ちゃんが引っ越した時の話、あたし聞きたいなっ!」

比奈「そんなに言うなら……ま、訊かれたならなんぼでも話しますよ。別に減るモンでも無いし」


【① 荒木比奈の場合】


比奈「まず何と言っても、場所が第一でしたね、アタシの場合」

友紀「場所……」

比奈「近くにコンビニ、歩いて行ける距離。これが最優先っス」

P「早速片鱗が見え始めている」

友紀「さすがエナドリの女王だ」

P「コンビニ飯の比奈じゃなかったか」

友紀「そうだっけ?」

比奈「またそうやって勝手なニックネーム付ける……ヒナ屈辱っス」

P「悪い悪い。でも、そういうことじゃないの?」

比奈「ま、まぁまぁ……もうちょっと聞いて欲しいっス。一応、ちゃんとしたワケがあって」


比奈「確かにご飯とかもそうなんスけど。アタシの場合それ以上に、コピー機の存在が必須項目でして」

P「あぁー。そっか、なるほどな……」

友紀「??」


比奈「要はコンビニのコピー機借りて、描いた漫画を印刷したかったんスよ」

友紀「へぇ……?」

P「所謂コピ本ってやつだ」

比奈「そうそれ。業者に注文するなんて便利な術を知らなかったし、それに見合う実力も自信もなかったんス、当時は」

友紀「はぇ~」

比奈「確かにコンビニさえあれば、ドリンクなんかも楽に入手できますし。まずはそこが第一条件」

友紀「ふんふむ」

比奈「昔の話するのはちょっとハズいっスけど。あの頃はアタシもまだ若くって、オタ活に文字通り命かけて生きてくつもりでこっち来たっスから」

P「20だってまだ十分若いような気もするけど」

比奈「友紀ちゃんだって、野球観る為にこっち来た、みたいなところあるでしょ?」

友紀「……ん。まぁ……そだね、そんなとこかな」

P「……」

比奈「そんな感じで、環境を優先してましたねぇ」


比奈「後はお祭り会場やらアキバやらへのアクセスも踏まえつつ、画材屋とかショップなんかも見据えて場所探して……」

友紀「会場? ショップ?」

比奈「あぁ、えーっと……どうしよ、1から説明するの大変だな」

P「よく行くところに近い位置、ってことだろ」

比奈「そう、それっス」

友紀「なるほどっ」

比奈「正確には、"今後もよく行くであろうところ"がターゲットっスけど」

P「実際行ってるんでしょ」

比奈「モチ!」

P「やっぱり……」

比奈「どうせこっち来るんなら、やっぱガチりたかったんスよ」

P「行動力があるタイプのオタクだ」

比奈「へへへ、照れるっス」


比奈「おかげで、随分過ごしやすい環境に身を置かせてもらってるっスね。メイトとかとら○あなとか近いし、事務所にもそこそこ……」

友紀「虎の……?」

P「ま、お前さんがそれで良いんなら変に口出したりしないけどさ」

比奈「良いんスよ? 良いどころか最善、最高、ベストポジションっス」

P「そこまで言うか」

比奈「あの時あの場所に住むって決めたから、これまでのらりくらりオタクやれて来たワケですし」


比奈「何より。あそこでふらふらしてたからこそ、プロデューサーに見つけてもらえたんですもん」

P「……む」


比奈「そりゃあ……ちょっと選択肢ミスったかな、アタシの人生こんなオタク全振りで良いのかな、なんて思ってた時期もありましたけど」

比奈「でもそうじゃなかったら、きっとあそこで拾ってもらうことも無かったって思うっス」

比奈「こうして家から遠くもない場所にお世話になって、社会復帰できて友だちも増えて……なんて上手いこといってるの、自分的に相当運が良かったというか。ホント、巡り合わせに感謝だなあって思ってるんスよ」


比奈(……それに。寝坊しても、いざとなったら起こしに来てもらえる距離で助かったっていうか……)ボソ

P「うん? 最後よく聞こえない」

比奈「色々と感謝してるって話っス!!」

P「お、おう」

比奈「とにかく、誰がどう言おうと、アタシはあそこで良かったって胸張って言えるっスから」

P「……そっすか」

比奈「そっスよ。……って、別にいばることでもないか。あはは……」

友紀「……」


友紀「……虎の球団の穴なら、コーチとか監督とか首脳陣の方にあるような気がするけど」

P「おいよせやめろバカ」

友紀「スカウトの方もあんまり」

P「やめとけって」

比奈「???」

P「気にしなくて良いよ。……せっかく良い話で終わるところだっってのに」ハァ

比奈「えーと……なんのこっ茶?」



――



――


友紀「行っちゃったね」

P「うむ。クシャミも止まったようだし、よかったよかった」

友紀「これから、奈緒ちゃんたちとアニメ観るんだってさ」

P「鑑賞会か」

友紀「あたしも着いてけばよかったかなぁ」

P「知ってる作品?」

友紀「ううん、ぜーんぜん」

P「えぇ……」

友紀「でも、なんか楽しそうじゃん? みんなで集まってさ!」

P「じゃあ、今度連れてってもらいなよ」

友紀「うん!」


P「さて、何か参考になったことと言えば」

友紀「んー……よく行くところの近くを選ぼう! ってなところかなぁ」

P「そういう意味では、さっきお前が言ってたのと感覚似てるかもな」

友紀「そうだねぇ」

P「お前のよく行くところって?」

友紀「比奈ちゃんち」

P「またクシャミしてそうだな……」

友紀「……はっ。もうこの際、あたしが比奈ちゃんちに住んじゃえばいいんじゃ」

P「やめとけ、絶対良い顔されないぞ」

友紀「あはは。まぁ冗談は置いといて」



友紀「球場とか、バッティングセンターとか?」

P「……うん、そんなこったろーと思った」

友紀「でも、その辺の移動は別に困ってないからなぁ……」

P「他になんかないの」

友紀「あっ、そうだ! 前に無料券サービスしてもらったの、すっかり忘れてた!」

P「おぉう、唐突」

友紀「いつまで使えるんだったかなぁ……」ゴソゴソ

友紀「げっ、明日までだ。やっばー……」


友紀「……」チラ

P「……その視線はなんだ こっちを見るな」

友紀「これ終わったら、一緒に行こうね♪」

P「行かんわ!」


友紀「えー! なんで?!」

P「誰かさんのおかげで絶賛職務滞納中なせいだね」

友紀「速攻で終わらせればいけるって! いけるよいけるよ」

P「んじゃ俺仕事戻るから。引っ越しの話、もうおしまいな」

友紀「やだー! もうちょっとお話してようよぉ!」

P「めんどくさいなお前……」

友紀「じゃあ明日! 明日なら良いでしょ!?」

P「明日? 明日なら……まぁ、アレとソレ今日中に終わらせれば時間は……いやでも、んー」

友紀「結構乗り気なんじゃん」

P「……仮に行くなら、って話だよ」

友紀「はい決まり! 明日ね?」

P「勝手に決めんなって……」



一ノ瀬志希「明日、誰が引っ越すの?」にゅっ



友紀「ひゃぁ……っ」

P「お、志希か」

志希「やー♪」

友紀「ちょ……志希ちゃ、くすぐったいよぉ……」

志希「知ってる~♪ はすはす」ギュー

P「オフの日に事務所来るとは珍しい。なんかあった?」

志希「んーにゃ、別に? 近かったからぷらっと入ってみただけ~」スンスン

P「服屋か何かみたいに言うんじゃないよ……」

志希「衣装部屋とかあるし、服屋さんみたいなもんじゃない? くんかくんか」

P「売り物じゃないんだな、残念ながら」

志希「じゃあレストランかな。シェフのきまぐれサラダを1つ、タバスコ大盛りでよろしくねー」

P「作らないから。勝手にシェフにするな」

志希「そっかぁ、ざーんねん」ハスハス

友紀「ふ、くふっ、やだ、くすぐった……」

志希「お。ゆっきーのお腹すべすべだ~♪」


志希「んん~、ユニークな香りだねぇ。ゆっきーちゃんからはヤキュウの匂いがする」

友紀「野球の……?」

志希「土に芝生に、皮にゴム。夏の陽射しに、血と汗と涙と鼻水の匂いが合わさることで……」スンスン

P(それ多分友紀の鼻水じゃないと思う)

志希「けーぃおーす! なんて言ったら良いかわかんないや、強いて言えばヤキュウの匂いになるのだっ」

友紀「そ、そういう……ひぁっ?! くっ、首筋は……アウトだってぇ……!」

志希「それにそれにぃ、なんだか楽しくお話してたんじゃない?」

友紀「へ……」

志希「セロトニンに、オキシトシンもかな? 幸せ成分どばどば分泌して、プラスの感情が混じったとってもハッピーなフレーバー!」

P「えっ、すご。そんなことも分かるのお前」

志希「にゃはは、7割テキト~♪」

P「あ、そう」


志希「ふふふのふ。シキちゃんね、ゆっきーは1度じっくりテイスティングしてみたかったところなのだ」

友紀「ふぇ……」

志希「妙に懐かしい感じっていうか? どこかで嗅いだことがあるような……夢の中みたいで、フシギな香りって言うか……うーん、何なんだろーねこれ」

友紀「ど、どういう意味……?」

志希「わっかんないから調べるんだよ~! そーれ耳元ハスハス~~♪」

友紀「にゃああぁぁ……」



――




――


友紀「……」グッタリ

志希「ふぃー。ごちそう様でしたー♪」

P「満足?」

志希「堪能した!」

P「そ、よかったね」

P(俺も大変眼福でした。アーメンユッキ)

志希「んー……、うなじのとこが1番だったかな」

P「いや、聞いてないから」


友紀「汚された……」

P「大袈裟」

友紀「もうお嫁に行けない」

志希「だってさ。貰ってあげたら?」

P「え、やだよこんな状態の友紀とか」

志希「そっかー」

友紀「ひどい……」

志希「いつもなら良いの?」

友紀「……」

P「ノーコメントで」

志希「じゃーあたしが貰ってあげよっかな♪」

友紀「ッ!?」

P(あら^~)


友紀「そ、それはいい!」ガバ

志希「毎日嗅ぎ放題なのにぃ」

友紀「それ志希ちゃんがでしょ?!」

志希「そだよー? ついでに衣食住全部付いてくる。お買い得~」

友紀「……あたしに?」

志希「ううん、シキちゃんに」

友紀「あたしがお世話する方じゃん!?」

志希「うん。やったねラッキー♪」

友紀「全然ラッキーじゃないよ!」

志希「ダメ?」

友紀「だめだって! あたしも家事できないもん!」

志希「ありゃ」

P「なんて悲しすぎる主張なんだ」


志希「なら、プロデューサーでいいや」

友紀「ふぁっ?!」

P「おん?」

志希「ゆっきー、一緒に住んでくれないんだって。しょうがないから、キミで我慢するね」

P「急に飛び火した上になんつー扱いだ」

志希「シキちゃんがキミのこと、お嫁に貰ってしんぜよ~♪」

P「しかも俺が嫁さん側なのか……」

友紀「……そ、それもだめ!」

志希「なんで?」

友紀「なんでって、えっと、えーっと……お、男の人がお嫁さんとか、そんなのおかしいよ!」

志希「ふーん?」

友紀「だから、だめ!」


志希「いいねいいね~。そうやってジェンダー思想で物事決め付けちゃうの、如何にもニホンジン的!」

友紀「え?」

志希「男は男らしく、女は女らしくあるべし。男子はおなごを嫁に貰い、正しい在り方で家庭を築き、先祖代々の家系を守るべし。……どう? こんな感じ?」

友紀「や、あたしはそこまで言うつもりじゃ……」

志希「じゃ、どこまで?」

友紀「ぇ、っと……だから、プロデューサーがお嫁さんはどうなのかな、って」

志希「『男の人が』って、さっきは言ってた気がするケド」

友紀「それは、思わず、というか……何と言うか……」

志希「なら質問を変えてみよっか。さっき言ってた男性のお嫁さん、どう思う?」

志希「実際目にしたら、ゆっきーちゃんは許容できる? 自信あるかな」

友紀「……ぅ」

志希「ふふ、わかんないよねぇ。未知のものは怖いし、本能的に避けちゃう。人間だもん」


志希「コクサイカーとか、タヨウセイを~とか、色々言ってるけどさ。根本のところで凝り固まった常識からは、結局抜け出せないのもヒトのサガなんだよね」

志希「あたしは良いと思うけどなー、オトコノコのお嫁さん。向こうでも、似たようなの何人か見かけたし」

志希「ま、"フツウ"にあたしがお嫁さんでも、別にいいんだけどね? ねー、ダーリン♪」

友紀「ぁ……」


P「……まぁまぁ。あんまいじめてやるなよ、志希」

志希「およよ、いじめてなんか……」

P「なんかよく分からん方向に話が進んでたけど。俺の見解を言わせてもらうなら……」


P「とりあえず、お前に……というか、誰かに嫁さんとして貰われてやる気はない」

志希「おー」

P「俺にそんなシュミはない。だからそれはあり得ない、絶対に」

P「それと、今のところ誰かさんを貰うつもりも無いよ」

志希「……ふーん」

P「そんな相手も甲斐性も俺には無いし。少なくとも、今は志希を貰える立場じゃない」

志希「……かーらーのー?」

P「無いです、本当に」

志希「ちぇ、フラれちゃったかー」


志希「5分もしない内に2人からもフラれちゃった」

P「うわ、そう言われるとなんかすげー悲惨」

志希「シキちゃんはショックです、くすん」

P「すまんな」

志希「どうせ引っ越すんなら、せっかくだし一緒に暮らそうかと思ったのにナー」

P「いや、引っ越すのは俺じゃなくて……」


P「……ん、あれ? この話、志希にもしたんだっけ」

友紀「……」フルフル

志希「部屋入る時にちょっと聞こえただけ~」

P「あぁ、そういうことね」

志希「そっかー。引っ越すのはゆっきーの方だったのかぁ」

友紀「う、うん」

志希「なら、やっぱゆっきーちゃんもーらい! ぎゅー♪」

友紀「あたしにもそんな趣味ないよぉ……」

志希「ぶぅ。ざーんねん」


P「そういや志希も1人暮らしだったか」

志希「そだよー?」

友紀「へぇ……」

志希「おっ。さては、シキちゃんハウスにキョーミある? 一緒に暮らしたくなっちゃった?」

P「や、暮らしたくはならないけど」

友紀「……うん」

志希「えーんえーん、くすんくすん」

P「嘘泣き乙」

志希「にゃは、バレタカー」

P「でも、興味はあるよ。1人暮らしって、海外行ってた頃から?」

志希「そうだなぁ。うーんと……」



【② 一ノ瀬志希の場合】


志希「向こうでは、カレッジの寮に入ってたっけ」

P「寮」

志希「うん。二人一部屋の中に、あたし独りでね」

友紀「え? ふたり部屋なのに、ひとりだったの?」

志希「そーそー。だから実質1人暮らし、みたいな」


志希「なんかさ、たまーに新しくルームメイトが入ってきては、ひと月くらいでみんなすぐどっか行っちゃうんだ」

志希「だから、隣のベッドはずーっと空きっぱなし。なんでだったんだろうねぇ」

友紀「んー……」

P「さっきみたいなのが頻繁にあればそうなるんじゃないの」

志希「やだなぁ、スキンシップの一環ですぅー」

友紀「……っ」サッ

志希「ありゃ? プロデューサーの背中に行っちゃった」

P「めっちゃ警戒されてるじゃん」

志希「ちぇー」


P「後は……ほら、あんまり部屋汚くするから、とか」

志希「にゃはは、かもね~。薬品とか、その辺ゴロゴロしてたし!」ケラケラ

友紀「うわぁ」

P「こんなやつと一緒に暮らせるか、ってなったんだよきっと」

志希「なるかも~♪」

友紀「なりそう……」

P「ユッキさん人のこと言えんの?」

友紀「……」

P「目を逸らすな」

志希「なかま~♪」


志希(……ま、そんな単純な理由じゃないことぐらいは、ね。うん)ポソリ

友紀「?」

志希「なんでもなーい」


志希「それに、あたしだって時々帰ってなかったりしてたモン。部屋に誰もいないなんて、日常的だったよねぇ」

P「研究とか、忙しくて?」

志希「んー、まぁそんなとこ! 寝泊りぐらいなら、どこでだってできるし!」

友紀「ひえぇ……大学って、大変なんだなあ」

志希「他にもやることは色々ね、イロイロ♪」

友紀「い、いろいろ……」

志希「んふふ、聞きたい?」

友紀「……こ、今度にしとこっかな……あはは……」

P(たまに家にすら戻らないってコイツの話、その頃からだったんだなぁ)


友紀「寮って、学校からどれくらいの距離だったの?」

志希「出てすぐだよ? 2分もしないや」

友紀「近っ!」

志希「なんで?」

友紀「あ、ほら。家から事務所とかの距離も、気になってるところで……」

志希「な~るほど。……うん、まぁ、向こうの寮ってそんなもんだし。そういうのは、あんま参考にはならないかも」

友紀「そうなの?」

P「アレでしょ? 学校の敷地内に寮があるっていうか」

志希「お、せいかーい」

P「すっげー広い敷地に、キャンパスとか買い物とか、生活するのに必要な施設全部揃ってる感じ」

志希「ビンゴビンゴ~! 詳しいんだねぇ」

P「ハリポタで観た」フンス

友紀「あぁー、あんな感じかぁ」


志希「……それで、こっち戻ってからもずーっと独り。今度は、ちゃんと1人が住む用の部屋でね」

友紀「戻って、って……ず、随分あっさりだね」

志希「だってそうでしょ。辞めちゃったものは、しょうがない」

友紀「……」

志希「未練がましく、いつまでも同じとこにはいられなかったし。どぅーゆぅ、あんだすたん?」

友紀「……そっか。そう、だよね。……うん」

志希「んふふ。理解が早くて助かるよ♪」


P「戻って来てから暮らしてるのが、今の家?」

志希「いえーす」

友紀「実家、とかじゃないんだね」

志希「……あたしは、それでも良かったんだけど」

P「?」

志希「こっちに帰ってくることになってー。で、帰ってみたら……住むとこ用意されてる! 良いところ! すごーい! ってな感じかな」

P「ほう」

志希「ママが用意周到でさ。場所選びやら契約やら、知らない内にぜーんぶやってくれちゃってたみたいなの」

友紀「……」

志希「お金の話は、パパが何とかしたみたいだし。だからシキちゃん、今のおへやについてはさっぱりなのだ」

P「……色々あるんだな」

志希「そそ。イロイロね」


志希「だから、あたしが引っ越しについて言えるのはこれくらい」

志希「どうどう? なんだかよくわからないけど暮らせてる、なんだかよくわからないシキちゃんハウス!」

P「とりあえず、1人でそれなりにやってるってことは理解した」

志希「おっけーおっけー、それだけでじゅーぶん♪」

友紀「……」

志希「にゃはは。ゆっきーちゃんは不満?」

友紀「あ、う、ううん、そんなことないよ?!」

志希「ふふーん♪ ま、役立ちそうな情報ゼロだもんねぇ」


志希「……ふはーぁ」

P「ん? どったの」

志希「話すの飽きちゃった」

友紀「えぇ」

志希「おうちのお話、もうおしまーいっ」

P「お前さんも唐突だね……」

志希「あたしもう行こーっと。じゃ、引っ越し先にシキちゃんハウス、考えといてね~」

友紀「あ、うん……」


友紀「……へ?」

志希「ゆっきーに言ったんだよ? 引っ越しするんでしょ?」


志希「お嫁さんがナントカカントカはともかくさ。選択肢としては、アリなんじゃない?」

友紀「えっ、でも……。……え?」

志希「ドーセイ? シェアハウス? 呼び方はよく知らないけど、どうせなら2人で住むのも悪くないってシキちゃん思いまーすっ」

P「なるほど」

志希「料理はゆっきーにやってもらうでしょー? お風呂にも入りたいから洗ってもらってー。あ、お湯入れるくらいならあたしでもできるかなー」

P「もう役割分担が決まり始めている」

友紀「うわわ、ちょ、ちょっとタイム……」

志希「それに、2人以上で暮らしてるとさ。ただいま~って言ったり、おかえり~って言ったりするんでしょ? そういう定型化した日本語のやり取りも、悪くないよね」

P「……」

志希「ああ、もちろん住むのはプロデューサーでも良いんだよ? うぇるかむうぇるかむ~♪」

P「それは遠慮しときます」

志希「ちぇー」


志希「まあいいや。じゃーね、ゆっきーにプロデューサー! それと……」スス

P「……おい、ちょ なんだ。近いぞ」

志希「机の下の、子リスちゃんもね♪」

乃々「ひっ」ビク

志希「ふふ。隠れてても、匂いで分かってたよ」

乃々「もりくぼ、別に、隠れてた訳じゃ……」

志希「乃々ちゃんでも良いんだからね、シキちゃんと一緒に暮らすの!」

乃々「は、はぁ」

志希「それじゃみんな、ちゃお~」

P「……志希」

志希「んー?」

P「いってらっしゃい」

志希「……んふふ、失踪するのにいってらっしゃいとか、変なのー。ここあたしの家じゃないし~♪」



――





――


友紀「……」

P「あれ、この時の資料どこ置いたっけな。えーと……」

友紀「……なんかさ」

P「んー?」

友紀「ちょっと怖かった、っていうか」

P「……ん」

友紀「何考えてるのか読めないってのは、正直いっつもなんだけど。今日のは特別、よく分かんなくって」

P「うん」

友紀「何言っても志希ちゃんの気に障っちゃうんじゃないかって、途中から怖くって……」


友紀「マズいこと言っちゃったかなぁ……」

P「それは、どの辺で?」

友紀「……色々。お嫁さんのとことか、一緒に住むの拒否っちゃったのとか」

P「んー……」

友紀「最初は冗談かと思って。じぇんだーがどうとか、そういうの考えたことも無かったし」

友紀「でも、途中から本気で言ってるようにも思えてさ。どこまで本音だったんだろ……」


友紀「どう答えるのが正解だったんだろう。比奈ちゃんちに住む……なんて冗談言ってた癖に。いざ提案されたら、志希ちゃんにはうんって言えなかった」

友紀「話聞いてたら、すっごくデリケートところも見えちゃった気がして。触れない方が良いのかどうか考えてる間に、志希ちゃん行っちゃった」

友紀「……怒らせちゃった、かな」

P「……」

友紀「はぁ……」


P「……うっし、終わり」

友紀「?」

P「今日の分おしまい! あー疲れた」ゴクゴク

友紀「え、あ ちょ……」

P「……ふう。………あっま……うぇ」

友紀「そ、そんなに一気に飲まなくても……」

P「終わり終わり! ずっと座ってたら身体硬くなっちった、いてて」

友紀「?? いや、終わったって……」

P「なあユッキ、どこか良いとこ知らない?」

友紀「……」

P「……んだよノリ悪いなぁ。ちょっと身体動かしに行こーぜっつってんの」


P「……そんなに、考えこまなくても良いんじゃないか」

友紀「だ、だけど、」

P「俺も少し思った。この話題、突っ込んで訊いてもいいやつなのかなって」

P「難しいよな、ああいう家庭環境とか、昔の話とかって。人によってはすげー繊細で……隠したかったり、公にしたくなかったり、様々」

P「そういう一面、多分誰にでもあるんだと思う」

友紀「……うん」

P「でも、今回は流れちゃったし。だから、こればっかりは仕方ない」

友紀「……」

P「志希も賢い奴だ。こっちが心配しなくたって、踏み込まれたくない領域とかは自分で線引きできてるだろ、きっと」

P「大して気にしてないかもしれないし、そんなの俺らには分からん。向こうが話すの飽きたって言うんだから、そういうことにしといてやるべ」


友紀「男のお嫁さんがどう、ってやつは?」

P「あれだって、そこまで本気で議論したかった訳じゃないだろ別に」

P「ほら、最近の志希、男装したり花嫁衣装着たりで忙しかったろ? そういうの続いたから、なんかこう……性別について、色々と感じることがあったんじゃないかな」

友紀「……」

P「元々、発想が斜め上な子だとは思ってたし。自然にああいう考えに行き着けるのなら、それも立派な才能だよなぁ」

友紀「……あたしのこと貰うってのが、本気だったら」

P「いーやいやいや、それこそ1番の冗談だろ。真に受けんなって」

P「案外、寂しさから思わず口に出た、ってのが本音なんじゃないの。これだって俺の想像でしか無いけど」

P「……ま。もし本当に本気なんだとしたら、その時はまた向き合って考えなくちゃいけないだろうけどね」


P「とにかく、ちょっと考えすぎ。1回リセットした方がいい」

P「そうやって相手の事情汲んで考えてやれるのはすごく良いことだし、大切なことだと思うけど。今のお前は、少しやりすぎ」

友紀「でも……」

P「大丈夫だよ。志希だって、お前のことそんな風にネガティブにしたくて言った訳じゃないんだから。多分」

友紀「多分かぁ」

P「難しく悩むことないさ。それぞれ、それなりの色んな事情抱えてやってんだから。友紀だってそうだろ」

友紀「……ん」

P「ちょっと考えて、それでも飲み込めないとしたら。そういうもんだなって、それで終わりにするのも正解だと、俺は思う」

P「どうしても気になるなら……次会った時にでも改めて聞いて、その時真っ直ぐ受け止めてやれば良い。そっちのが、お前らしいんじゃないか」

友紀「……そうかな」

P「だから、大丈夫」


P「ハイ、そういう訳で。気分転換にでも行きませんか、ってのが俺の提案。チケット、あるんだろ」

友紀「ある……けど」

P「よし。出る準備するか」

友紀「……ホントに、良いの?」

P「あ? 何が」

友紀「だって、まだお仕事あるってさっき……」

P「だーから終わったって言ったでしょ」

友紀「……」

P「終わったものは終わった。これ以上はやれと言われてもやらない。文句ある?」

友紀「ない、です」

P「よろしい」

友紀「……ありがと」

P「ん」


P「……あぁそうだ。乃々は、これからどうする?」

乃々「……まだ、ここに居ます」

P「ほんとに? 今ならユッキが奢ってくれるぞ」

友紀「えっ」

乃々「いえ……もりくぼ、お邪魔でしょうし……お留守番してますけど……」

P「そっか。なら、悪いけどよろしく」

乃々「はぁい……」


P「電話とか来ても、出なくていいから。ちひろさんには、俺は打ち合わせ行ってそのまま直帰したって適当に言っておいて」

乃々「そ、それだと、もりくぼも共犯ということに……」

P「何が欲しい? 何でも良いぞ」

乃々「……ズルい大人ですね」

P「よく言われる」

乃々「こんなプロデューサーさんと一緒だと、もりくぼもズルを覚えてしまいそうなんですけど……こっそり帰ったりして……」

P「はっはっは、言ってろ。で、どうよ」

乃々「……考えておきます」

P「やったぜ、大人の仲間入りだ」

乃々「ずるくぼですので……」

P「この事は、3人の秘密ってことで。1つよろしく」

友紀「な、なんかごめんね、乃々ちゃん」

乃々「いえいえ、大丈夫ですよ……」


P「じゃ行くか」

友紀「はーい」

乃々「お気を付けて……」




乃々「……欲しいもの」

乃々「一緒に、暮らす……とか?」


乃々「……むっ、むむ、む、むーりぃー……」



――




――


友紀「はぁーー……」

友紀「打った!」

P「お疲れ」

友紀「打率は2割3分ってところかな。数字はちょっとイマイチ」

P「序盤がちょっと微妙だったからなぁ」

友紀「ロッテのチーム打率並みだね」

P「ンだとコラ喧嘩売ってんのか 今年はもうちょい打ってるわ」

友紀「えー、ホントにぃ?」

P「……あれ? 打ってるよね? 大丈夫だよね?」

友紀「あっはは、不安になる時点でダメダメじゃーん♪」

P「ぐぬぬ……」


友紀「でも、尻上がりに良くなってったよ?」

P「おう、大した修正力だ」

友紀「最後にはホームランも打てたし! あたしは、あれで充分かな」

P「そーかい、そりゃ良かった」

友紀「外の空気吸って身体動かしたら、すっきりした!」

P「おう」

友紀「むつかしく考えるのも、やめ! やっぱりあたしには、こっちの方が向いてるや」


友紀「いつも通りで良いんだよね。あたしも、志希ちゃんとも」

P「そうこなくっちゃ」

友紀「次は志希ちゃんとも来れると良いな、バッティングセンター」

P「なら、どっか行かないよう見張っとかないとな」

友紀「うん!」


友紀「付き合ってくれて、ありがとね」

P「良いの良いの、俺だってバッセン来たかったし」

友紀「その割にはあんま打ってなかったような」

P「2、3周打てれば十分なの。年だから」

友紀「年かー」

P「もう立派なオッサンだよ俺も」

友紀「それは言いすぎなんじゃ……」

P「それに、お前打ってるの見てる方が楽しいっつーか」

友紀「へ」



友紀「……へー。そうなんだ。ふーん」

P「……やっぱ今の無し。忘れて」

友紀「う、うん」

P「忘れろよ 絶対だぞ」

友紀「……ん」



鷹富士茄子「あら、あれは……」

原田美世「お、プロデューサーさんに友紀ちゃんだ! おーい」

友紀「ふぉあ?!」ビク

P「む」

美世「やほー」

友紀「び、ビックリした……やっほー……」

茄子「やほー♪ ふふ、なんだか検索エンジンみたいですね」

友紀「それヤフーでしょ」

美世「ちょっとネタが古いような……って、友紀ちゃん大丈夫? なんか顔赤くない?」

友紀「そ、そんなことないよ?! 平気!」

茄子「ホームページみたいな顔色ですね」

友紀「確かにヤフーも赤いけど! そうじゃないから!?」

P「……えぇと」


P「美世と……鷹富士さん、ですか」

茄子「はい~♪ 鷹富士茄子と申しますー」

美世「あれ、プロデューサー初対面? じゃないよね?」

P「うん、前に打ち合わせで1回」

美世「ああ、冬の時!」

P「あの時顔合わせて、それ以来ですかね」

茄子「そうですねぇ……となると、お久しぶり? でしょうか」

P「あ、こ、こちらこそお久しぶりです……」


P「2人で、お出かけですか?」

茄子「はい。美世ちゃんとデートしていました♪」

美世「ちょっと買い物あってさ。ついでに、ドライブしない? って」

P「どうも、仲良くしてもらって。いつもお世話になってます」

茄子「うふふ、こちらこそ。……あの、あんまりかしこまらなくっても良いんですよ、Pさん?」

P「いや そういう訳には……別部署の子ですし……」

茄子「まあ紳士的。お仕事の人なんですね」

P「や、そういう訳でもない、というか……うーん……」


友紀(……なんか、プロデューサー変じゃない?)ヒソ

美世(うん。たじろいでるっていうか)ヒソヒソ

友紀(緊張でもしてるのかな)ヒソソ


茄子「そういうお2人は何を?」

P「えっ あ、ええと あの、ちょっと出かけてたって言うか」

美世「……そういえば。まだ終業時間じゃないような」

友紀「あっ」

P「ほら! 営業! 営業に来てたの! な、ユッキ」

友紀「え、あ うん。ソダネー」

美世「……キャップ被って?」

友紀「こ、これは ほら、あたしの正装! ユニフォームみたいなもんだから!」

茄子「カバンも持って?」

美世「事務所から帰る時みたいな格好じゃない?」

茄子「まるでそのまま遊びに行った、みたいな恰好ですね~」

友紀「それは……その、えっと……」


友紀「ぷ、プロデューサぁ……」

P「……まぁ、こうなるよな」ハァ


美世「……どういうこと?」

P「その、色々あってな?」

美世「サボり。いけないんだ」

P「いやいや、サボりじゃなくって。必要不可欠なことだったというか」

茄子「じゃあ、お忍び?」

P「お忍びでもなくって」

茄子「抜け駆け?」

P「何からですか……」

茄子「ハッ……! Pさんと友紀ちゃんも、デートを……?!」

美世「え」

友紀「ちょっと!」

P「あらぬ方向に話がどんどん膨らんでいく……。違います、そういうんじゃなくて」



美世「じゃ、じゃあ……?」

P「……どこからどこまで説明したらいいんだか」

友紀「えと、志希ちゃんと話してて、身体動かしに行こうってなって……」

美世「やっぱりサボりじゃないの」

友紀「うぐ……」

P「……気分転換だよ、気分転換。美世もよくやるだろ?」

美世「え? んー……そりゃ、まあ」

P「な? ぷらっと出かけたくなる時、あるだろ」

美世「ちょっと海まで走ったり?」

P「山まで走ったり」

美世「湘南まで飛ばしたり」

P「それと同じようなもん」

美世「そっか、なるほど!」

P「よし」

友紀(ちょろっ)


P「……そういう訳なんで、鷹富士さんも大目に見てもらえませんか」

茄子「ど、どういう訳なんでしょうか」

P「内緒にしててもらえると、助かります」

茄子「うーん……よく分かりませんが、そうですねぇ……」


茄子「ではナイショにする代わりに、私も何処かに連れて行ってもらえませんか?」

P「ぅえ゛っ」

茄子「すごい声出るんですね……私とお出かけ、そんなに嫌でしたか……」

P「あ いや、ちが、すみません」

茄子「Pさんに拒絶されてしまいました。くすん」

P「そうじゃなくって、ちょっと驚いただけっていうか……でもほら、担当も違いますし、ね?」

茄子「部署が違えば、一緒には行けませんか?」

P「そういうことでも無い、ですけど……」

茄子「私とは、お出かけできませんか」

P「……参ったな」


美世「……じーっ」

友紀「……」

P「視線が痛い……」

茄子「あらあら」

P「助けてくれよぉ」

友紀「知ーらない」

美世「でれでれしちゃってさ」

P「……」

茄子「うふふ。心配しなくっても、今度友紀ちゃんともデートしてあげますよっ」

友紀「そういうことじゃないよ!」

P「あの、他の事じゃ駄目ですか……? 知らない男と2人で出かけるってのも、あんまり……ね?」

茄子「知らない訳ではないですけど……」

P「いやほら、関係ない人間、というか。アイドルなんですし、相手はもうちょい選ぶべき、というか」

茄子「……仕方ないです。お出かけの話は、とりあえず保留にして」


茄子「では、私のことも名前で呼んでもらえませんか?」

P「名前?」

茄子「はい、『鷹富士さん』じゃなくって、『茄子』。 それで手を打ちましょう♪」

P「まあ、それくらいなら……」

茄子「ナスじゃなくて、カコですよ?」

P「知ってますよ……じゃあ、茄子さん」

茄子「もういっかい♪」

P「茄子さん?」

茄子「呼び捨てでも良いんですけどね? はい、もう1度」

P「茄子……サン」

茄子「ついでに、敬語も無くしてみましょうか。さんはいっ」

P「……あの、これくらいで勘弁してもらえませんか、マジで」

茄子「あらら。はぁい♪」

P「俺なんかからかって何が楽しいんだか……」

茄子「うふふ、ごめんなさい。友紀ちゃんに美世ちゃんの担当さんと、こんなところで運良くお会いできたんです。私もお近づきになりたくって」

P「そんな珍しいモンでもないでしょうに」

茄子「いえいえ、今日会えたのも何かの縁ですから。袖振り合うも、って言うでしょう?」

P「袖付きなんて着てないですけど……」



美世「なーんか妙に仲良くしちゃって」

友紀「むー…」


P「なんの話してたんだっけ……」

美世「2人がサボってたって話だよ!」

友紀「そうだそうだ!」

P「お前さんはこっち側じゃなかったのか」


P「……いや違うってば、サボりじゃなくて」

美世「じゃあ何だっての?」

友紀「そもそも引っ越しの話だったよね」

P「それだ、それ」

美世「引っ越し? 誰が」

茄子「Pさんが?」

P「俺じゃないです」

茄子「では、お2人で一緒に? おめでとうございます♪」

P「だから俺じゃなくって」

茄子「なるほど、今日は住居探しにでしたか。籍はいつ入れられたんですか?」

P「違うって言ってんでしょ!!」

美世「おぉ……茄子ちゃん、からかう相手を見つけてイキイキしてるなぁ……」

友紀「……ふんっ」



――




――


美世「友紀ちゃんが引っ越し、ねえ」

友紀「そういうこと」

P「つ、疲れた……なんで説明だけでこんな……」

茄子「お疲れ様です」

P「どうも……大体は鷹富士さんのせいですけど」

茄子「あら、もう下の名前では呼んでくれないんですか」

P「……茄子サンのせいデスケドネ」

茄子「うふふ、早く慣れてくださいね♪」

P「はいはい……」


友紀「で、場所選びの参考にしようと思って色々話聞いてるところだったの」

茄子「なるほど……」

美世「不便といえば、そうなのかな」

友紀「事務所に行く分には、そうでもないんだけどねー」

美世「言ってくれれば、私が毎日でも送ってくのに」

友紀「そ、それは流石に申し訳ないよ……」

美世「そう? 気にしないけど」

P「すげえな車乗り 普通は気にするぞ」

美世「鼻の下伸ばし男はちょっと黙っててよ」ジト

P「伸ばしてないが」

友紀「そうだよ、茄子ちゃんとだけ仲良くお話してれば良いじゃん」

P「ひどくない? 風当たりが強すぎる」

茄子「あらら……」



【③ 原田美世の場合】


友紀「美世ちゃん、引っ越しのコツとかなんか知ってるのある?」

美世「こ、コツ……うーん、そう言われてもなぁ」

友紀「やっぱり、したことないとぴんと来ないよねー」

美世「こればっかりはね……」

茄子「……あら? 美世ちゃん、出身こちらでしたっけ」

美世「ううん、石川」

茄子「では、お引っ越しは……」

美世「ちっちゃい頃、ずーっと前にね。昔はあっちに住んでたんだけど、親の都合でこっち来たの」

茄子「そうだったんですか」

美世「引っ越し、一応経験はしてる筈なんだけど……もう十何年も前だし。全然覚えてないんだ、引っ越しの時のこと」

茄子「ほうほう……」


茄子「……むむ。となると、美世ちゃんは実家通いということでしょうか」

美世「うん」

友紀「美世ちゃんち、すっごく広いんだよ?」

茄子「お家が?」

美世「いやいや、そんなことは……」

友紀「車庫が」

美世「そっち!? 確かに自分でもちょっと思うけど!」

茄子「まあ……」

友紀「実際家もおっきかったけど。でも、やっぱ目に入るのは車庫の方だったなぁ」

美世「アレだよ、お父さんも車好きでさ。家族で使える用にって、家の隣にばーんと建てたらしいんだ」

友紀「前見た時なんかね、車とかバイクが2、3台ずつ、ででーん! って並んでるの。あたし、車屋さんかと思っちゃった」

美世「あはは……まぁ、ウチの全部入るとああなるよね」

茄子「全部美世ちゃんのですか?」

美世「ち、違う違う! 親のも合わせてだよ! 流石に、あんなに持てないって」

茄子「冗談ですよ~♪」


茄子「でも、なんだか素敵です♪ ご家族揃って車好きって」

美世「んー……ま、家庭の影響も大きいよね、確実に」


美世「家のガレージなかったら、そもそも車もバイクも意識することは無かったろうし。自分で買うこともできなかっただろうなあ」

友紀「確かに……車のことまで考えると、家ってかなり大事だよねぇ」

美世「そうそう。後は、近くにあるディーラーさん!」

友紀「ホントの車屋さん?」

美世「うん、ウチがずっとお世話になってるところ。よく顔出してたし、あそこの影響もあるね、絶対」

友紀「おぉー……車好きになるべくしてなった、みたいな感じなんだ」

茄子「ご両親と環境に感謝、ですかね」

美世「本当だよ。……いやホント、車もバイクも好きにできてるの、完全にウチのおかげだわ……」

茄子「ふふ。じゃあ、私もいつか、その原田家にご挨拶しに行かないとっ♪」

美世「挨拶……? 何の挨拶かは分かんないけど……遊びに来るんならいつでも良いよ! 迎えに行くから!」

友紀「迎えに行くのがメインなんだ……」


【④ 鷹富士茄子の場合】


美世「茄子ちゃんは?」

友紀「引っ越し、どんな感じだった?」

茄子「そうですね……かく言う私も、ほとんど両親に任せてしまいましたから……」

友紀「地元、島根だっけ」

美世「遠いよねぇ。休憩しながらでも、半日はかかるかな」

友紀「やっぱり車で行くのが前提なんだね……」

美世「もちろんっ」

茄子「お仕事機能が現実にあれば、移動もあっという間なんですけどね」

友紀「何の話?」

茄子「もしくは、この前追加された営業機能でしょうか。あれだと5人までしか一緒に行けませんけど」

美世「パレードの時とかもそうだよ」

茄子「凸凹スピードスター、イベント絶賛開催中でーす♪」

友紀「ねえ待って ほんとに何の話してるの」


美世「そもそも、茄子ちゃんがこっちに来た理由って?」

友紀「あ、話戻った」

美世「遠いのによく来たよね。やっぱ進学?」

茄子「……短大に入学したのも確かに理由の1つです。でも……」

友紀「でも?」

茄子「実は……地元に嫌気が差してしまって」

友紀(おぅっふ……また重そうなのが来ちゃったぞ)

茄子「幸か不幸か、何故か何でも上手くいってしまう地元での生活……。退屈、安寧……その他諸々……」


茄子「何より、パソコンも無い島根での田舎暮らしなんて耐えられない……!」

友紀「あ、これは冗談だな」

美世「冗談だね」

友紀「島根にだってパソコンぐらいあるでしょ」

美世「イマドキのデジタル現代を舐めちゃいけないよ」

茄子「まぁありましたけど」

友紀「やっぱり」

茄子「てへ♪」

美世「可愛く言っても誤魔化されないからね」


友紀(……あれ? そういえば、いつの間にかプロデューサーいないや。どこ行ったんだ)キョロ

茄子「パソコンはともかく、進学でこちらに越してきたというのは本当ですよ?」

美世「そうじゃなかったら茄子ちゃんの何を信じて良いのか迷子になるところだよ」

友紀(意地悪したから帰っちゃったかな……悪いことしたかも)

美世「家はどうやって決めたの?」

茄子「えぇと……こちらに越すことが決まって、近くの良さそうなアパートとかを探していたんです。そうしたら……」

美世「そしたら?」


友紀(……あ、いた あんな所に。しゃがんで何やってんだろ)


茄子「『知り合いが以前住んでいたマンションを紹介してあげようか』、って親戚の方に声をかけて頂いて」

美世「へぇ」

友紀(んー……尻尾みたいなのがチラチラ動いてるの見える。猫とでも遊んでるのかな)


茄子「問い合わせてみたら、偶然にもお部屋が1つ空いてまして」

美世「偶然」

茄子「そこが、たまたま学校にも歩いていけるぐらいの位置にありまして」

美世「たまたま」

茄子「防犯やその他諸々、親戚の方のお墨付きもあって、あれよあれよと言う間に母が決めてしまったんです」

美世「するするーっと決まったんだ」

茄子「まぁ、私も特に不満はなかったので」

美世「タイミングが良かったんだねぇ。……運が良かったというか、なんというか」

茄子「住居選びに苦労しなくて、ラッキーでした♪」

友紀(くふふ。いじけてノラ猫と戯れるなんて、結構カワイイところあるじゃん)


茄子「私の時は、こんな感じでしたね」

友紀「……全く、しょうがないなぁ」

美世「友紀ちゃん?」

友紀「ハッ。な、なにかな」

美世「話聞いてた?」

友紀「あ、うん。聞いてたよ? 茄子ちゃんの運がすごくて、部屋探しに困らなかったって話でしょ?」

茄子「はい♪ ……ごめんね、あんまり参考にならなくて」

友紀「そ、そんなことないよ! タイミングとか、色々大事ってのは分かったし!」

茄子「良いところ、空いているといいですね」

友紀「うんっ!」

美世「友紀ちゃんは一体何見てたの………あー」


茄子「あら、Pさんあんなところに」

友紀「うん。居ないなーと思ってさ」

茄子「ネコちゃんでしょうか? ふふ、かわいいですね」

美世「うーん……ちょっといじりすぎちゃったか」

茄子「ダメですよ? あまり担当さんをいじめちゃ」

美世「そっちこそ、あんまウチの人からかいすぎないでよ? 不機嫌なると割とめんどくさいんだから、あの人」

茄子「まぁ……"ウチの"ですって。よくできた奥様ですわね」

美世「そういうところだよ私が言ってるのは!?」

茄子「あらまぁおほほ。すみませ~ん♪」

美世「もう……プロデューサーさんのとこ行こっか、友紀ちゃん」

友紀「おっけー!」



――



――


美世「……それじゃ、私まだ寄りたい所あるから」

茄子「私たちはこれで~♪」フリフリ

友紀「またねー!」

美世「引越し、何かあったらいつでも呼んでよ? 手伝うからさ!」

友紀「ありがと! また明日っ」

P「帰り道、気をつけてなー」

美世「お互い様!」

茄子「では失礼しますね、Pさん」

P「あ、はい。次はお仕事で」

茄子「うふふ、はーい」

友紀「ばいばーい!」


P「……行ったか」

友紀「うん」

P「ふはぁーー……やれやれ……」

友紀「え、えぇ……なんでそんな疲れてるの」

P「……誰かさんたちが散々おちょくってくれたからな」ジロ

友紀「う……」

P「3人寄れば姦しい、なんて言うけどさ。途中からマジで居心地悪くって、もうね……」

友紀「ご、ごめんね」

P「謝らなくて良いよ。何度も言うけど、仲が良いのに越したことはないし。あと、俺に鷹ふ……茄子さん耐性が無いのが悪い」


友紀「……プロデューサーさ、もしかして、茄子ちゃん嫌い?」

P「あぁいや、そんなことはないんだ。ただ……」

友紀「?」

P「……白状すると、ちょっとだけ苦手意識、というか。慣れてない、というか」

友紀「はぁ……?」

P「ほら、茄子さんってさ。あんな美人の癖に、突拍子もない冗談とか当たり前のように投げ込んでくるだろ?」

友紀「……」

P「初対面の時からあんなだし。ギャップっていうか、温度差になんか面喰らっちゃって」


P「面白い人なんだなーとは思うんだけど、距離感とかどうしても……」

友紀「……ふーん。なるほどね、ふーん」

P「……あれ、ユッキ?」

友紀「美人だって。あたし、そんなこと言われた覚えないや。茄子ちゃんみたいのが好みだったんだね」

P「えっ ちょ 待って」

友紀「道理で仲良く話が弾むわけだ。美世ちゃんにも教えてあげよーっと、ふーん」

P「待て待てまてまて。言葉の綾だろ、好みとかそういうのじゃなくてだな……」


友紀「……へへ、なーんちゃって」

P「え」

友紀「どうどう? 茄子ちゃんみたいだった?」

P「……冗談?」

友紀「うん!」

P「か、勘弁してくれよ……」

友紀「ごめんごめん」

P「これ以上はマジで胃と心臓に悪い」

友紀「安心してよ、別にもう怒ってないから」

P「……すんませんでした」

友紀「何が?」

P「茄子さんとばっかり話してて?」

友紀「よろしい。次はもっと、あたしたちにも構うこと!」

P「はい……」

友紀「♪」

P(なぜ俺が怒られているんだ)


友紀「さてと。それじゃ、今日はもう飲みにでも行こっか!」

P「は?」

友紀「どこがいいかな。居酒屋? ビール買ってって、家で飲むのも良いよ?」

P「いやいや待ちなさい、何をそんな急に」

友紀「構ってくれるんじゃなかったのー」

P「それとこれとは話が……てか、引っ越しはどこ行ったんだよ」

友紀「だって今すぐってわけでもないし」

P「……そりゃまあ」

友紀「色々話聞けて、今日はもう満足だなーって感じする!」


友紀「場所決めたしっかりした理由とか、其処に住んでる事情とか。みんなそれぞれちゃんとあってすごいなぁって」

P「比奈とか美世は、分かりやすかったよな。趣味と住居がリンクしてるというか」

友紀「うんうん。茄子ちゃんとか志希ちゃんは……ゴーリテキ? ヒツゼンテキ? に住む場所が決まった、みたいな」

友紀「でも、別に不満がありそうな感じでもなかったし。今の生活にはそこが合ってるんだろうな、って感じたよ」

P「十人十色、様々だ」

友紀「あたし、そういうのないからさー。ただただ感心っていうか」


友紀「最初はさ、思い立ったが吉!って思って。プロデューサーに話聞いてもらって、何となく決めようかと思ってたんだけど」

P「うん」

友紀「でも他の人の話も聞いてたら、もうちょっと考えなきゃいけないのかなー、とか思ったりもして」

P「……ほーん」

友紀「場所が人を作るというか。足元さえちゃんとしてれば、場所も人も自ずと固まっていくっていうか。過去の自分がいるから今の自分がいる、みたいな? そういうの、なんか良いなぁって思った」

P「……」


P「……最後のはよく分かんなかったぞ」

友紀「……あは、確かに。あたしも途中から、自分で何言ってんのか分かんなかった」

P「急に難しいこと言い始めたと思えば……」

友紀「とにかく! あたしもああいう、此処で良かった、みたいなの欲しい!」

P「子どもか」

友紀「良いじゃん別に! そういうのあった方が楽しいでしょ、絶対!」

P「んー……まぁ、そうかもしれんけど」

友紀「でも、今すぐに見つかるものでもないし。必ずしもみんなの近くに住まなきゃいけないなんてこともないし」

P「それは、確かに」

友紀「こうしてふわふわしたまま考えるより、何か明確な指針がある方が、案外あっさり決まるかもじゃん?」

友紀「だから、今日のところはこれでおしまいにしようと思うの。これだ!ってのが見つかるまで、ゆっくり探してみることにしようかな、って思いました!」


友紀「どうかなっ」

P「……ま、お前がそれで良いんなら、良いんじゃないの」

友紀「良いんですぅー」

P「はいはい」

友紀「というわけで、飲みながらでも一緒に考えてみようね」

P「い、今から……?」

友紀「当然!」

P「マジかよ……明日も仕事……」

友紀「ほら、歩いた歩いた! 良い汗かいたし、今ビール飲んだら絶対気持ちいいって♪」

P「はぁ……しかたない……」



友紀「……ねえねえ」

P「おん?」

友紀「最後にさ、プロデューサーの話も聞かせてよ」


P「俺?」

友紀「うん。いやほら、参考までに、というか。何というか」

P「……まぁ、別にいいけど」

友紀「っしゃー!」

P「言っても、大したことあるわけじゃ無いぞ?」

友紀「良いの良いの! じゃあもしだよ? もし引っ越すなら、どんな家が~とか……」



…………。



――





――


~数日後・姫川宅~


友紀「ただいまぁ……」

友紀「だあぁ゛ーー、、つかれたぁー……」ドサリ


友紀(なんか今日めっちゃしごかれたんだけど……最近LIVEとかあったっけ……?)

友紀(トレーナーさん機嫌悪かったのかなぁ……うぅ、腕動かすのだる……だるすぎてダルビッシュなんですけど……)


友紀「……くだらないこと言ってないで、シャワー浴びてもう寝ちゃお」


友紀(慣れたもんだよね、この家も。来たばっかの時は、シャワー1つにしたっていちいちお兄ちゃんに聞いてたくらいだったのに)

友紀(他にも、トイレにベッドにストーブとか、何でもそうだ。もうすっかり慣れちゃって、当たり前みたいに使ってる)

友紀(台所は……うん。たまに使うし。たまに。セーフセーフ)

友紀(引っ越しちゃうと、君たちともお別れなんだねぇ……まだ決めた訳じゃないけどサ)

友紀(そう考えると、別れるのがなんとなくさみしいような、そんな気がするよ……なんつって)



友紀「……あ、シャンプーの詰め替え買っとかないとな」



――




友紀「へっへへ……冷蔵庫にビール1本残ってたぜ」カシュ

友紀「……ぅあ~、うまっ。お風呂上りのビール、犯罪だよこれ……」


友紀(どれどれ、今日のキャッツの結果は……お、勝ってる!)

友紀(決勝打は……良いねえ良いねえ、若手が頑張ってるのは)

友紀「……あ、ロッテが負けてる。しかもボコボコだ。ぷぷぷ、今どんな顔してっかな」


友紀「明日、それとなく慰めてあげよーっと。ねー? ねこっぴー」


友紀(このねこっぴーくんは、ウチに来てどれくらいだっけ。あの写真は、あっちのユニフォームは……)

友紀(まだ住んで全然経ってないと思ってたのに……こうして見回してみると、部屋の中の住んでる形跡、みたいなのがいっぱいだ。こういうのも、一気になくなっちゃうんだろうなぁ)

友紀「まぁ、引っ越したところで同じような部屋になるんだろうけど」


友紀「……引っ越し」

友紀「うーん。やっぱり、まだピンと来ないや」

友紀「場所探しもイマイチ進まないし。下手すりゃ、事務所とか駅までが逆に遠くなっちゃうとこばっかだし」

友紀「みんなのとこから近くに、とは言ったものの。近けりゃどこでも良いってんでもないしなぁ……」

友紀(結局。これだっていう決定的な理由は見つからないまま、住居探しはまだ続きそうな予感)


友紀「部屋のイメージは何となくできてるんだけどなぁ。えーと……玄関あってー、キッチンあってダイニングがあってー」

友紀(他には何て言ってたっけ。角部屋がいい、とか言ってたような気が)

友紀(あとは……スーパーとかに近い方が良いらしくって……それで、アクセスも便利で……)

友紀(テレビ置くスペースだけは必ず確保しなきゃ……おっきいやつ買って、一緒に野球みるんだぁ……)うとうと


友紀「……へへ。それまでは、まだちょっと、もう少しここで暮らすのでもいいかなぁ」


友紀「ふわぁ……もうねむいや……また今度考えよ……」

友紀「おやすみ、ねこっぴー……♪」むにゃ




おわり。



【おまけ 森久保乃々の場合】


P「ところで、乃々の引っ越し事情は」

乃々「……もりくぼ、寮に住まわせてもらってるので……」

友紀「あ、そっか」

乃々「でも、こんな感じだったら……みたいなのは、いくつか」

P「ほう?」

乃々「森の中に、お家を建てるんです……俗世を離れて、1人……」

友紀「おおー」

乃々「そこで家具やインテリアを揃えて……リスや小鳥さん、森の生き物さんたちと一緒に暮らすんです……」ポワワ

P「どうぶ○の森かな?」

乃々「それでそれで……お仕事もなくて……理想郷……平和な……うふふふ……」ポワポワ

P「……あ、精神が向こうにお引っ越ししてしまった」



P「しゃーない、これはもう放っておこう」

友紀「う、うん。じゃあね乃々ちゃん……」

乃々「リスさん……へへぇ……」


おまけもおわり

茄子さんはボイス実装おめでとうございました

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