彡(゚)(゚)「サマーソルトキック?」(33)

(´・ω・`)「そうだよお兄ちゃん。僕はサマーソルトキックを極めたんだ」

彡(゚)(゚)「なに言うとるんや。サマーソルトキックってスト2のガイルのあれやろ」

彡(゚)(゚)「バク転しながら相手を蹴り上げる技」

(´・ω・`)「うん。まさにそれさ。サマーソルトキックは最強の格闘技なんだ」

彡(゚)(゚)「なんや、ガチで頭おかしなったんか?現実はスト2とちゃうんやぞ。無敵時間なんて存在せーへんのやぞ」

彡(゚)(゚)「あんなもん試合で当たるわけないやろ」

(´・ω・`)「まあ一般的にはそう考えるのが普通だろうね」

(´・ω・`)「でもね、ヒクソン・グレイシーの影響でタックルからのマウントパンチが総合格闘技に広まったように」

(´・ω・`)「今までは一般的じゃなかった技法を高い技術で極めることで」

(´・ω・`)「従来の常識にはなかった新しい戦術が産まれることは格闘技でもあり得ることなんだ」

彡(゚)(゚)「意味が分からん」

(´・ω・`)「つまり、一般的には有効じゃないと思われているサマーソルトキックも」

(´・ω・`)「あるレベル以上まで極めれば非常に強力ってことさ」

(´・ω・`)「今まではそこまでサマーソルトキックを極める人はいなかったから、その強さを知る者もいなかった」

(´・ω・`)「でも僕は気が付いた。サマーソルトキックの真の実力にね」

(´・ω・`)「僕はこのサマーソルトキックで格闘技界に新しい風を巻き起こすよ!」

彡(゚)(゚)「……あのなあ、原ちゃん。サマーソルトキックなんてどんだけ極めようと有効になるわけがないやろ」

彡(゚)(゚)「現実は格闘ゲームと違うんや」

(´・ω・`)「どうしてそう思うの?実際にサマーソルトキックの使い手と試合ったことがあるわけじゃないでしょ」

彡(゚)(゚)「はぁ……、ちょっと考えれば分かるやろ」

彡(゚)(゚)「バク転するためには体をたわめて足にすごい力を込めなあかんから溜めが大きくて出始めが丸分かりで出も遅い」

彡(゚)(゚)「蹴り技なのにバク転する都合上、前方へのリーチはかなり狭い。簡単にスウェーで躱せるで」

彡(゚)(゚)「躱されたら当然隙だらけや。空中や着地の無防備なところにいくらでも攻撃が入る」

彡(゚)(゚)「何よりも現実じゃあんなもん物理的に大した威力はでえへん。当たっても逆に出した方がバランス崩して頭から落ちて自爆するだけや」

(´・ω・`)「なるほどね。まあ、お兄ちゃんの指摘は間違いじゃないよ」

(´・ω・`)「普通はそう思うだろうね、普通ならね」

彡(゚)(゚)「……どういう意味や?」

(´・ω・`)「さっきも言ったでしょ。同じ技でもあるレベルを超えるとそれまでの常識を覆すことがあるって」

(´・ω・`)「つまり、お兄ちゃんがさっき言った問題点は全てクリアしてあるってことさ」

彡(゚)(゚)「うーん、妄想症か、パンチドランカーか、精神病院か脳神経科のどっちに連れていけばええんやろ」

(´・ω・`)「ちょ、ちょっと、いくらなんでも病人扱いは酷いよ!」

彡(゚)(゚)「んなこと言われてもなぁ」

(´・ω・`)「あのさぁ、お兄ちゃん。僕たち格闘技者が、言葉で説明するほど馬鹿らしいことってないと思わない?」

彡(゚)(゚)「……ほう……?」

ぞくり。背筋に冷たいものが走る。原住民の雰囲気が明らかに一変していた。

(百の説明を費やすよりも、もっと濃密で、もっと雄弁な説明の仕方があるだろう?)

そう、原住民が語り掛けている。声ではない。

その表情が、その目が、その筋肉が、やきうの頭蓋骨の奥に鮮烈にその意志を送り込んでくる。

抑えきれない何かが吹き上がろうとしている。

(´・ω・`)「……」

彡(゚)(゚)「……せやな」

まったく、ワイはバカ野郎や。なにがちょっと考えれば分かる、や。考えても分からないことがあるから戦うのだ。

つまらない講釈をダラダラと口から垂れ流すなど、格闘技者のすることではない。

おのれの意見は拳でもって押し通すのが自分たちのような人種ではないか。

そういったような意志がやきうの心のもっとも深いところからあふれ出す。

言葉ではないが、あえて言葉にすればそういったような内容のことだ。

彡(゚)(゚)「ほな……いこか」

(´・ω・`)「……うん」

スッとやきうはほぼオープンスタンスに近い構えを取る。

体の正面を相手に向けて、拳を緩く握り、腕を開き気味に顎あたりの高さに構えた。若干左足を前に出すが重心はほぼ均等に近い。

積極的な打撃の連打を繰り出すための構えだ。

貴様など容赦なくサンドバッグにしてやるぞ。そういう意志が表出した構えだ。

しかし同時にこの構えをフェイントにして別の戦術に移行することだってできる。

構えとはそういうものだ。

一方原住民は膝をたわめ、やや前傾し、両腕を顎のすぐ下に構えるピーカブー(いないいないばー)スタイル。

顎を守りながら積極的に飛び込む構えだ。

サマーソルトキックを使うという宣言が事実であれば相手の懐に飛び込む必要がある。

そう考えれば妥当な構えだが、しかし本当にサマーソルトキックを使うのか?

あんな大振りで見掛け倒しの、技というよりはパフォーマンスのようなムーブを?

彡(゚)(゚)(どうなんや?あるいはそう思わせておいてオーソドックスにくるのか?)

疑問が浮かぶ。だが、すぐに分かることだ。

サマーソルトキックなど近代格闘技の前には無力だということを体の芯にまで叩き込んでやる。

滑らかなフットワークでやきうが突っかけた。

肩をゆすり、足を使って軽く左右に身体を揺らしながらの左ジャブ。狙いは顎。

ほとんどノーモーション。原住民の右手が受ける。早いが軽い打撃。

所詮はジャブ。例え直撃したところで大した威力は期待できない。

拳を引いたタイミングで原住民が踏み込もうとする気配を感じる。

だが甘い。即座に追撃の右ストレート。ワン・ツーパンチ。現代格闘のセオリーの1つ。

ガードした原住民が後ずさる。予想外の威力に驚いている気配が伝わる。

不思議だろう?なぜほとんど溜めがない速射の右ストレートがこんなに重たいのか。

ちょっとしたペテン。実はこの右ストレートは速射じゃない。

左ジャブを引き戻す動き、そして小刻みに体を揺する動き。一見なんでもないこの動きの中に

右ストレートに体重を乗せるための溜めの動きが隠されているのだ。

だから対戦相手からすればジャブ並みのノーモーションで右ストレートが飛んでくるように見えるのさ。

単純な左右の連打や単に重たいだけのパンチを打つだけなら素人でもできる。

でもそれじゃあワンツーパンチとは言えない。

そこに技術があって初めてワンツーになるのさ。

さらに左ジャブ。そしてまた重たい右ストレート。

だが今度は原住民が右ストレートを弾く。さすがに同じことの連発は通じないか。

それじゃあこういうのはどうだい?

また左ジャブ。原住民のガードに食い込む。軽く弾こうとしていた原住民が後ずさる。

その顔に再び驚愕。

今度の左ジャブは重たいだろう?左ジャブを打つ時に足で体全体を押し出してジャブを打ったのさ。

足の動きに注目していればすぐ分かっただろうけど、拳に注目していたみたいだからな。

目は常に相手の全身を捉えていないといけないんだぜ。

そして次は右ジャブ。さらに左ストレート。そう、ステップに合わせて構えをスイッチングしたのさ。

試合中のワイは両利きなんやで。

今度は見えてたみたいだが、反応が遅れているぞ?

分かっていても突然の変調には体の動きはついて行きづらいからな。

彡(゚)(゚)(どや?原ちゃん。これが近代格闘技や)

彡(゚)(゚)(圧倒的に出が早い左ジャブ。これを起点に、体を左右に揺すりながら右ストレートを打つ)

彡(゚)(゚)(左ジャブを引く動きと、体を揺する動きに右ストレートの溜めのモーションが紛れて出掛りが見えなくなるんや)

彡(゚)(゚)(つまり原ちゃんからすればジャブ並みのモーションで重たいストレートが襲い掛かってくるわけや)

彡(゚)(゚)(さらに、左ジャブを打つ時に足を入れて体重をかけることでストレート並みに重たいジャブが打てる)

彡(゚)(゚)(足の動きに注意すればバレバレやが、ワイの腕に意識を集中しとる原ちゃんには見えへんやろ)

彡(゚)(゚)(さらにオープンスタンスを利用して構えを左右にスイッチングすればパンチの左右も入れ替わる)

彡(゚)(゚)(つまり軽いジャブ、重たいジャブ、重たいストレートがほぼ同じモーションで左右から襲い掛かるんや)

彡(゚)(゚)(まあ、こんな初歩的なテクニックなんて今どきの格闘家なら誰でも知っとる)

彡(゚)(゚)(しかしシンプル故に分かっていても対処方法がない。それが成熟した技術ってもんや)

まるでマシンガン。軽いかと思えば重たく、重たいかと思うと軽い。

そんなパンチの雨あられが原住民のガードを揺さぶる。一瞬でもガードが甘くなれば顎を打ち抜かれて意識を狩り取られる。

それでもじりじりとガードを固めた原住民がにじり寄る。

彡(゚)(゚)(やるな原ちゃん……、ここまで鉄壁のガードとはな。しかしこれはボクシングちゃうんやで……)

ビシッ。まるで鞭が炸裂したような音。やきうの左足が原住民の太腿に炸裂したのだ。

ローキック。相手の太腿を狙う下段の回し蹴り。

ミドルキックやハイキックに比べれば隙は小さいがそれでもパンチよりも大振りで分かりやすい。

しかしこれもパンチの動きと組み合わせることで出始めの動きを誤魔化せる。

何よりも上半身に意識を集中しているところに下半身への攻撃が来ると認識できない。

左ジャブ、右ストレート、左ローキック。

左ジャブ、右ローキック。

これもまた現代格闘技のセオリー。

対角線上のコンビネーションは人間が最も反応し辛い動きだ。

そしてローキックは脛でカットするのがセオリー。原住民は辛うじてカットするものの、当然足が止まる。

おいおい、原住民、お前さん、すっかり動きが鈍っちまったぜ。これじゃあ亀じゃないか。

そんな亀みたいに縮こまってたら、もっとイジメたくなっちまうじゃないか。

ローキック。しかしそれはフェイント。即座に足を引き戻す。

しかし原住民は咄嗟に脛を上げてしまう。一瞬の隙。

そこを逃さずやきうがステップイン。顎のガードを固める原住民。

ドスン。鈍い音が響く。顎ではない。ボディだ。顎へと意識を集中させてからのボディブロウ。

そしてさらにダメ押しのレバーブロウ。原住民の内臓がシェイクされたことが拳から伝わる。

ボディへの打撃は苦しいだろう?今すぐ横になってのたうちまわりたいだろう?

お腹への攻撃を防ぎたくなるだろう?

ほーら、ガードが下がった。

安心しろ。ワイはサディストじゃない。すぐに楽にしてやるからな。

彡(゚)(゚)(悪いな原ちゃん。これで終わりや)

ボディへの打撃でガードの下がった原住民へ、死刑執行の死神の鎌が迫る。

左手で原住民の目を塞ぎ、斜め前への踏み込みから右腕を大きく旋回させる。

ロシアンフック。一見大振りのそれは至近距離では相手の死角から襲い掛かる。

見えていれば、分かっていれば格闘家とはそれを防ぐもの。

しかし意識の外から襲い掛かる攻撃にはなすすべもない。

だが、コメカミを狙う必殺の右拳はなぜか空を切った。

彡(゚)(゚)(目算を外した!?違う、原ちゃんが倒れた!すでにKOしてたんか……)

ガツン

彡(゚)(゚)(あれ?なんか急にあたりが暗くなったで。どういうことや?)

彡(゚)(゚)(誰かジムの電気を消したんか?……、それに、なんでワイの前に壁があるんや?)

(●゚◇゚●)「……フォー!ファイブ!」

彡(゚)(゚)(テンカウント?誰かダウンしたんか……?)

(●゚◇゚●)「シックス!」

彡(゚)(゚)(い、いや、違う!ダウンしとるのはワイや!ワイの目の前の壁はリング!ワイはうつ伏せにダウンしとるんや!)

(●゚◇゚●)「セブン!」

彡(゚)(゚)「ぬおおおお!」

必死に起き上がった。頭がクラクラする。顎が痛む。足がまるで産まれたての子羊のように頼りない。

だが、カウントを聞いて起き上がらない格闘家などいない。

(●゚◇゚●)「エイト!」

立ち上がる。腕を上げてファイティングポーズを取る。

(●゚◇゚●)「……ファイト!」

レフェリーが試合続行の合図を出した。当然だ。

けして軽いダメージではない。だが戦えないほどではない。

目の前の原住民をにらむ。いったい自分は何をされたのか?

ロシアンフックを空振りした時に一体何が起きたのか。

いや、だいたい分かっている。

使ったのだ、サマーソルトキックを。

自分がロシアンフックを放ったとき、原住民は後方に倒れたように見えた。

あれは倒れたのではない。倒したのだ。高速で上半身を後ろに回転させ、足を跳ね上げてこちらの顎を蹴り上げたのだ。

死角からのロシアンフックを狙ったはずの自分が、死角からのサマーソルトキックを食らってダウンを奪われるなど、

性質の悪いジョークだ。

まさかサマーソルトキックにそんな使い方があるとは。

フックへのカウンターに使えるほどの高速で使えるとは。

前傾ピーカブースタイルはそのための構えだったのか。

彡(゚)(゚)(見事や、原ちゃん。本当に試合でサマーソルトを使って見せるなんてな)

彡(゚)(゚)(しかし、その一発でKOできんかったのは不味かったやで)

彡(゚)(゚)(あんなもんしょせんは初見殺し。分かってしまえばなんとでも対処できる!)

今度は先ほどとは一転し、原住民が踏み込んでくる。

脳震盪の影響が残っているうちにトドメを刺そうというのか。

舐められたものだ。あんなもの近付けさせなければどうとでもなる。

前蹴りだ。

あらゆる打撃の中でもっともリーチの長い、突き刺すような前蹴り。

これで突き放しつつ円を描くように後退して回復を待つのだ。

そもそもサマーソルトキックは原理上至近距離でなければ使えない。

後退するだけで使えなくなるのだ。

どうだ?この間合いじゃ何もできないだろう?

こちらから不用意に踏み込まない限りサマーソルトキックの出番などあり得ないのだ。

やきうがそう思った瞬間、原住民が右足を突きだしてきた。

前蹴り!ワイではなく原住民が!?

いや、別に原住民はサマーソルトキック以外を使わないとは言っていない。

当然のことか。仮にサマーソルトキックが有効な技でもそれ1つだけで戦えるはずがない。

やきうの鳩尾に足裏が触れるが軽い。やきうが後退していたからだ。

だが次の瞬間、鳩尾に触れた足に急に体重が入る。

これは踏みつけ?足を突きだしてから体重をかけたのか?

だがそれがどうした。そんなことをしても後ろに下がるだけだぞ……

いや、違う!原住民の体が浮いている!

これは前蹴りではない!足を突きだしたまま飛びかかって来たのだ!

そして階段を上るようにワイの鳩尾に足を引っかけたのだ!

まさか!

次の瞬間、原住民の上半身が後ろに回転し、左足が跳ね上がった。

あかん!ガード……、重たい、防げない、腕が弾かれて……、顎が……






(´・ω・`)「……いちゃん!お兄ちゃん!」

彡(゚)(゚)「う、うーん……、ここは……」

(´・ω・`)「目が覚めた?記憶はある?」

彡(゚)(゚)「……ああ、だいじょうぶや」

彡(-)(-)「ワイはサマーソルトキックでKOされたんやな……」

(´・ω・`)「まあね」

彡(゚)(゚)「……、認めたるわ。サマーソルトは有効な技や」

(´・ω・`)「へへへ」

彡(゚)(゚)「しかし、不思議やな。どう考えてもあんなん試合で使えるとは思えへんのに」

(´・ω・`)「じゃあ実際にサマーソルトキックがなぜ有効なのか、説明するよ」

(´・ω・`)「とはいったものの、どう説明しようかな……」

(´・ω・`)「じゃあ、お兄ちゃん、実際にサマーソルトキックを受けてどう思った?」

彡(゚)(゚)「せやな……、意外と、溜めというか事前モーションがみえへんかったな。テレフォン(※)だと思ってたんやけどな」

※テレフォン→事前の動きが大きすぎて攻撃のタイミングが分かりやすい攻撃のこと。電話で攻撃のタイミングを伝えてくるような技、の意味

彡(゚)(゚)「気が付いたら蹴られとったわ」

彡(-)(-)「いったいどういうことなんや?こんなモーションが大きいはずの攻撃がまるでジャブ並みの速さや」

(´・ω・`)「うん、まさにそこだよ」

彡(゚)(゚)「どこや」

(´・ω・`)「バク転して相手を蹴り上げるモーションは傍目にはすごく大きな動きに見える」

(´・ω・`)「しかし実際に受けてみると攻撃の予兆がほとんど見えない」

(´・ω・`)「一見不可思議に思えるけど、これにはちゃんと科学的な理屈があるんだ」

彡(゚)(゚)「科学的?」

(´・ω・`)「まずね、サマーソルトキックが大きな動作に思える理由というのは派手にバク転するっていうイメージがあるからだと思う」

彡(゚)(゚)「イメージっていうか、ほんとうやん」

(´・ω・`)「でもね、そのバク転の部分はただのフォロースルー。サマーソルトキックの攻撃は最初の蹴り上げ部分なんだ」

(´・ω・`)「なので技の出だしだけ見ればけしてサマーソルトキックは事前モーションが大きい訳じゃないんだよ」

彡(゚)(゚)「うーん、確かにそうかもしれんけど……。でも飛び上がるにはぐっと身を縮めて力を溜めなあかんちゃうんか?」

彡(゚)(゚)「ガイルやキム・カッファンやってサマソの前は下に溜めとったやん」

(´・ω・`)「それはゲームの話でしょ……」

(´・ω・`)「確かに未熟なサマーソルト使いならバク転するために体を大きく縮めて足に精いっぱい力を込める必要がある」

(´・ω・`)「でも僕のようにあるレベル以上までサマーソルトキックに習熟した場合はそうでもなくなるんだ」

彡(゚)(゚)「あるレベル?」

(´・ω・`)「そもそもサマーソルトキックはなぜバク転をするんだと思う?」

彡(゚)(゚)「なんでって、そら強いキックを出すためちゃうん?」

(´・ω・`)「単に強い蹴り上げを出すためなら別にバク転をする意味はないでしょ。足を振り上げればいいだけなんだから」

(´・ω・`)「蹴り上げの足の動きからすれば勢いあまって上に飛び上がることはあっても後ろに回転することはあり得ないよ」

彡(゚)(゚)「まあ、せやな。せやからワイはサマーソルトキックは格闘技やなくてパフォーマンスやって思うとったんやが」

(´・ω・`)「それはある意味で正しい。実際アクション映画とかアトラクションショーなんかではパフォーマンスとしてサマーソルトキックは使われてる」

(´・ω・`)「ああいうのは実際には蹴りは当てずにバク転をそれっぽく見せかけてるだけだね」

(´・ω・`)「もちろんそれが悪いって訳じゃないけどね。アクションとしては見栄えもいいし、派手でかっこいいし」

(´・ω・`)「でも格闘技の試合で使う技としてのサマーソルトキックはパフォーマンスのものとは原理が全く違うんだ」

彡(゚)(゚)「原理が違う?バク転しながら蹴り上げることに違いはないんちゃうんか?」

(´・ω・`)「もちろん技自体はそうなんだけど、バク転をする意味も、バク転する理由も別なんだ。そこを説明していくよ」

(´・ω・`)「実戦技としてのサマーソルトキックは、まず全身から力を抜くんだ。この脱力が重要なんだ」

彡(゚)(゚)「ほう、脱力か。確かに格闘技の打撃には脱力は重要やが……」

(´・ω・`)「そして後ろに高速で倒れ込む」

彡(゚)(゚)「ふむ」

(´・ω・`)「でも普通に倒れ込むだけじゃ、そのまま倒れて背中を打つだけだ」

(´・ω・`)「でも姿勢と背筋の制御でね、適切なフォームで腰、正確には重心を中心に上半身を回転させるんだよ」

彡(゚)(゚)「回転?どういうことや?」

(´・ω・`)「僕の腰に見えない鉄棒が横から突き刺さってて、それを軸に逆上がりのように体を後ろに回転させるイメージだね」

彡(゚)(゚)「あー、なるほど、そういうことか」

(´・ω・`)「当然、上半身が後方に回転すれば下半身は上へと跳ね上がる。この時、人体の中でも特に重たい頭部のある上半身の運動エネルギーが」

(´・ω・`)「足先に集中するわけさ」

(´・ω・`)「僕の体重は80kgだから、上半身はその半分として、いわば重量40kgくらいの鉄球を加速して打ち上げるような威力がでるんだ」

(´・ω・`)「しかもその際に脚力を加えることで下半身のパワーも追加される。その威力は僕の全身と同じ重量の鈍器でぶん殴るようなものだ」

彡(゚)(゚)「ふわああ、そりゃごっついな。しかしそんなん実践できるんか?」

彡(゚)(゚)「現実には鉄棒なんて存在せーへん。そんな想像だけの軸を中心に回転するなんて無理ちゃうん?」

(´・ω・`)「もちろん、これは言うは易し、おこなうは難し、さ」

(´・ω・`)「脊柱起立筋、腸腰筋、ハムストリングスなどの姿勢制御に関わる筋肉を極限まで鍛えないといけないし」

(´・ω・`)「ただ鍛えるだけじゃなくて精密な制御能力も手に入れないといけない」

(´・ω・`)「気の狂うようなトレーニングだったよ」

(´・ω・`)「でもまあ、そうやって苦労して得た筋肉と運動神経によって、僕は自分の肉体が生み出す位置エネルギーを回転に置き換える技術を手に入れたんだ」

彡(゚)(゚)「なるほど。言われてみれば背中の筋肉がごついことになっとんな」

(´・ω・`)「つまり、この回転を利用するから僕のサマーソルトキックは後方に回転、つまりバク転するわけだ」

(´・ω・`)「普通にバク転しながら蹴るだけじゃ不安定な空中で足を振り上げてるだけだから」

(´・ω・`)「相手にまともに蹴りを当てたら足がそこで止まって地面に落ちちゃう」

(´・ω・`)「でも僕の回転モーメントを利用したサマーソルトは全身が高速で振り回されるハンマーそのもの」

(´・ω・`)「ヘビー級相手でもぶっ飛ばせる威力が出せるってわけさ」

彡(゚)(゚)「なるほどな。同じバク転に見えても動きの質が全然ちゃうってわけやな」

彡(゚)(゚)「出掛りのモーションが小さいのは動きの本質は回転モーメントの発生であって跳躍じゃないからか」

(´・ω・`)「そういうことさ。飛び上がろうとして足に力を込めてる訳じゃないからね」

彡(゚)(゚)「しかし、だとしても動き全体が大きいことに変わりはないやろ。なんで見えへんかったんやろ」

彡(゚)(゚)「少なくともジャブよりは遅いと思うんやけどな」

(´・ω・`)「うん。確かに跳躍式のサマーソルトに比べれば事前モーションがないとはいえ」

(´・ω・`)「蹴り技だからパンチほどには小さい動きとは言えない」

(´・ω・`)「それでも動きが見えないのにはちゃんと理由があるよ」

(´・ω・`)「人間の目っていうのは対戦相手の筋肉の動きにはすごく敏感なんだ」

(´・ω・`)「ちょっとした身体の動きでも筋肉に力を入れたらすぐ分かる」

(´・ω・`)「ところが僕のサマーソルトキックは脱力から始まる」

(´・ω・`)「人間の目は対戦相手の脱力には鈍感なんだ。だからフットワークの動きに簡単に紛れてしまう」

(´・ω・`)「しかも蹴り足は近距離なら相手の死角だから余計に見えない」

(´・ω・`)「そういう生物学的な理屈があるんだ」

彡(゚)(゚)「なるほど、そういうことやったんやな」

彡(゚)(゚)「うーん、でもそれやったら何回か対戦してサマーソルトに慣れたら対応されるようになるんちゃうか?」

彡(゚)(゚)「いくら脱力が見え辛いって言っても何回か見れば分かるようになりそうなもんやが」

(´・ω・`)「ところが意外とそうでもないんだ」

彡(゚)(゚)「どういうことや?」

(´・ω・`)「サマーソルトの動きを誤魔化すためのフェイント技術があるのはもちろんだけど」

(´・ω・`)「技の出る早さと人間の反応速度の関係もあるんだよ」

彡(゚)(゚)「反応速度?」

(´・ω・`)「僕のサマーソルトが予備モーションを脱力やフェイントで誤魔化してるだけで、実際はすごく出の遅い技だとしたら」

(´・ω・`)「確かに目が慣れた相手には通用し辛くなるだろうね」

(´・ω・`)「ところが、脱力から始まるこの動きは実はかなり早いんだ」

彡(゚)(゚)「ほう、そんなにか?」

(´・ω・`)「たとえば、格闘技においてもっとも出が早く、もっとも回避が難しいとされる技、ジャブ」

(´・ω・`)「このジャブは格闘家ならモーションを開始してから相手に当たるまでだいたい0.15~0.2秒くらいだ」

(´・ω・`)「そして人間の最短の反応時間は0.2秒」

(´・ω・`)「つまりジャブは人間の反応時間を超えているから回避が非常に難しい」

(´・ω・`)「一方、体重を乗せたストレートはモーション開始から当たるまで0.4~0.5秒くらいで、フックは0.5~0.6秒くらいだね」

(´・ω・`)「それに対して僕のサマーソルトキックはモーション開始から当たるまで0.3~0.4秒くらいなんだ」

彡(゚)(゚)「ふわあ、ストレートより早いやんけ!でも最短反応時間よりは長いやん」

(´・ω・`)「ところがさっきも言ったけどサマーソルトキックは脱力から始まるから出掛りが認識不可能」

(´・ω・`)「目が慣れても普通の打撃に比べて反応は0.1秒は遅れてしまう」

(´・ω・`)「しかも人間の動体視力は低い位置の動きに鈍いから蹴り足への反応はさらに0.1秒遅れてしまう」

彡(゚)(゚)「お、てことは実質0.2秒以内に反応せなあかん、ということはほぼジャブと同じ条件ってことか」

(´・ω・`)「そう。しかもジャブと違ってサマーソルトキックは一撃KOが可能な重さがある」

(´・ω・`)「そう考えるとサマーソルトキックの厄介さが分かるでしょ」

彡(゚)(゚)「うーん、確かに……」

(´・ω・`)「それに今日はサマーソルトキックの有効性を見せつけるためにあえてサマーソルトキックしか使わなかったけど」

(´・ω・`)「実際は他の攻撃も織り交ぜるからね」

彡(゚)(゚)「サマーソルトキックをちらつかせるだけでも有効ってことか」

(´・ω・`)「お兄ちゃんにやってみせたようにスウェーの効果を利用してカウンターにも使えるからね」

(´・ω・`)「つまり攻防において隙が無いんだ」

彡(゚)(゚)「しかし、リーチのなさはどうなんや?しょせんは蹴り上げや、原理がどうあれリーチは短いんちゃうんか?」

(´・ω・`)「ところがそうでもないよ。確かに蹴り上げは足の長さを活かすことができないからリーチが短いように見えるけど」

(´・ω・`)「むしろパンチよりもリーチは長いんだよ」

彡(゚)(゚)「ほえー、なんでなんや?」

(´・ω・`)「パンチは真っ直ぐ伸びきった状態で当てても攻撃力はないでしょ」

(´・ω・`)「腕を限界まで伸ばした長さを100とするなら、パンチは70くらいの長さのところで当てないと体重が乗らない」

(´・ω・`)「つまりパンチは見かけほどのリーチはないんだ」

(´・ω・`)「一方サマーソルトキックは普通の蹴り上げと違って全身の回転を利用するから足の長さ全てを活かせるんだ」

(´・ω・`)「さらに、サマーソルトキックは縦方向の回転モーメントを利用して威力を出してるから地面の反発を利用する必要がない」

(´・ω・`)「すなわち姿勢さえ万全なら空中でも出すことができる。だから最後にお兄ちゃんにやってみせたみたいに飛びかかりながら出すこともできるんだよ」

(´・ω・`)「そうすることでさらに射程を伸ばせるって訳さ」

彡(゚)(゚)「確かに最後のはワイの前蹴りのリーチを上回るところから打ち込んできたな」

(´・ω・`)「ちなみに膝を当てれば至近距離のタックルにも対応可能だし、左右の足で二連撃を打つことだってできる。バリエーション豊富なんだ」

(´・ω・`)「蹴りを出さずに後ろに飛ぶことで緊急回避のムーブとしても利用できるんだよ」

彡(゚)(゚)「完璧やん……、つけ入る隙があらへんわ」

(´・ω・`)「納得してくれたみたいだね。どう、お兄ちゃんもサマーソルトキックを極めてみない?」

彡(゚)(゚)「……せやな。ワイにも教えてくれへんか、原ちゃん」

(´・ω・`)「修行は厳しいよ?」

彡(゚)(゚)「ふん!ワイを誰やと思っとるねん。やきう様やぞ!サマーソルトキックなんて1日でマスターしたるわ!」

(´・ω・`)「よーし、それじゃあの夕日に向かってダッシュだ!」

彡(゚)(゚)「よっしゃ!負けへんで!」

(´・ω・`)「ちなみにこのスレの内容は格闘技素人の筆者が酔っ払いながら書いたものだから真に受けないでね!」

彡(゚)(゚)「信じ込んでサマソやろうとして頭ぶつけても知らへんで!」

彡(゚)(゚)「終わりや」

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