[モバマス]雲間に揺れる、陽の光 (5)
北条加蓮の話になります。
一人称や呼称は公式に準じない場合があります。ご了承下さい。
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体が弱くて入院生活を余儀なくされていた頃。
テレビを見ているのも疲れて、明るくなった外を眺めていた。
雲と雲の合間から、光が差していたのが見えた。
加蓮「ねぇ。あれ、なに?」
看護婦「あれはね、天使の梯子(はしご)っていうんだよ。綺麗だねー。加蓮ちゃん、少し外に出てみる?」
加蓮「うん。」
退屈だったけど、この看護婦さんはよく話し相手になってくれた。
ネイルのお手入れ、テレビの見方、色々なことを教えてくれる。
当時の私は、それのありがたみは、よくわかってなかったけど。
看護婦「とうちゃーく! どう? よく見えるかな?」
加蓮「…まぶしい」
看護婦「あっ、ごめんごめん。日陰に移るね。…ここでいいかな。よっこい、しょ。」
車椅子の横に、膝を立てて座る。
看護婦「加蓮ちゃん、昔話、してもいいかな?」
加蓮「うん。いーよ。」
私は目の前の景色に見とれていて、実際はよく聞いていなかった。
でも、その後の話は、よく覚えていて。
気まぐれにつけた日記帳に、数行書いたせいかもしれない。
看護婦「あのね、私も、体が弱くて、よく寝込んでいたの。だからかな、加蓮ちゃんを見た時、どこかシンパシーを感じたんだ。」
加蓮「しん、ぱしぃ? なにそれ?」
看護婦「感情移入、ってわからないかな。同じ気持ちかな、って思っちゃった。それでね。私ができなかったことを、教えておこうと思ったワケ。勝手だよね。」
看護婦さんの方を見ると、オレンジ色に照らされながら、少し赤くなっているみたいだった。
看護婦「女の子の楽しみ、ネイルもそうだし、おしゃべりも。好きなひとのことを考えたり、ビーズで遊んだり。」
加蓮「お部屋に戻ったら、またしてくれる?」
看護婦「もちろん! でもね、もう少ししたら、私も違うところに行かなくちゃいけないんだ。断ったんだけどね。「名誉なことなんだ!」なんて婦長さ、えらい人が怒鳴るの。もー怖くてさー。」
加蓮「大変だね。おとなって。」
看護婦「ふふっ、そう、大変なんだ。でもね、嬉しい。」
加蓮「どうして?」
看護婦「大きくなれたし、加蓮ちゃんに会えた! 色んなことを見たし、ネイルも上手に引けるようになった。勉強した甲斐があったよー。」
加蓮「ほんとに、どこかいっちゃうの?」
看護婦「うん。といっても、半年後くらいだから、加蓮ちゃんがいる間は大丈夫だよ! きっと。だから、がんばろうね。」
私はあの時、看護婦さんになんて返事したんだろう。
がんばる、という言葉がキライだったから、いまのままがいい、なんて答えたかも。
ただ、看護婦さんが寂しそうに微笑んでいたのを、忘れられなかった。
半年もしないうちに、退院することになった。
看護婦さんは、笑顔で見送ってくれた。
その看護婦さんが異動した、という話は、のちにお母さんから聞いた。
退院しても学校に行っては休み、部屋で雑誌を読んだりテレビを観ては、時間だけが過ぎていった。
「看護婦さんから、手紙が来たわよ」と、お母さんが部屋に来て渡してくれた。
一枚のハガキ。
宛名が書いてある方には、びっしりと文字が書いてあった。「お元気ですか? きちんと食事していますか? 今度、見つけたおしゃれの本を送るから読んでね。」といったことが縦に横に、まんべんなく。
裏には、天使の梯子の写真。
「また一緒に見ようね。」と、締めくくられていた。
近くにいるように感じて、嬉しくなった。私はそのハガキを、お気に入りの宝箱にしまった。
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