沙織「そういえば、みぽりん。赤星さんを助けた時ってどんな感じだったの?」 (16)

みほ「どんな感じだったのって?」

沙織「だってあれ、戦車ごと川に落ちて沈んだんでしょ? 助けるの、大変だったんじゃないかなって思って」

麻子「確かにな……。服とか水吸って重くなってるだろうし、水中で戦車のハッチを開けるだけでも一苦労だろう。どうやって助けたのか少し気になるな」

華「そういえば、その時の話って詳しく聞いた事ありませんね……。あ、いえ、みほさんがあまり話したくないと言うなら聞きませんけど……」

みほ「あ、ううん、別に大丈夫だよ。もう前の事だし、今は気にしてないから。それに優花里さんはその時の事、知ってるんだよね?」

優花里「そうですね。前にも言ったと思いますけど、私はその時の試合を観ていましたから。でも、結果は知っていますけど、過程までは知らないですよ」

みほ「そっか。そうだよね……。それなら、話すけど……」

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多分、皆が想像してる通り、本当に大変だったんだ。あの時は

ていうのも、実は私、そんなに泳ぎが得意な方じゃないから

だから、本当は川に飛び込まずにもっと別の方法をとっていれば良かったんじゃないかなって今でも思うし

でも、その時は反射的に体が動いていたから

戦車が落ちたのを見て、助けなきゃって思って、気が付けば走り出して飛び込んでいた感じ

川の中で、水中に沈んでいく戦車を見ながら、まだハッチが開いてない、脱出してない、急がないと死んじゃうかもって、それしか頭になかった

本当に必死だったんだよ

でも、川の流れが結構強くてね

私はすぐに戦車までたどり着く事が出来なかったの

もうちょっと、もうちょっと、あと少し、って思いながらさ

でも、流れに押し返されたり、逆に流されたりで、なかなか進んでいけなかったんだ

そうやってる内に、多分、戦車の中に水が全部入り込んだんだろうね

ハッチとかが中から開いたの。多分、自分達で開けたんだろうけど

そこからみんなが出てきたんだ

だから、良かった、みんな無事でって最初は思ったんだけど

でも、それは私の間違いだったんだよね

その戦車に乗っていたのは四人だったんだけど

でも、外には三人しか出てきていなかったから


一人、足りなかったの

それで、その時は、中に乗っていたみんなはパニック状態になっていたから

でも、そうなっても仕方ないよね、水がどんどん入ってきて首の上まで浸かっていくんだもん

逃げなきゃ、逃げなきゃ、って頭の中はそれだけだったんだと思う

だから、誰も責められないと思うんだ。もしも、自分がそうなったら、私もそうしていたかもしれないし

一人足りないまま、誰も助けようとしないまま

みんな、そのまま水面に上がっていったの



赤星さんだけが取り残されてた

水が入った戦車の中に、一人で

私はその事に気付いて

必死で泳いで、どうにか戦車までたどり着いて、急いで中に入ったの


そうしたら、赤星さんが戦車の中でぐったりしたまま漂ってた


気絶してたんだよね


水を飲んで、息が出来なくなって、恐怖からだったと思う。意識が完全に飛んでたの



私はすぐに赤星さんを引っ張るように抱えて、急いで戦車の外に出たよ

死んでないかって、心配でたまらなかった

冷静に考えれば、そんなすぐに溺れ死ぬ訳ないのにね。でも、その時はそんな事が全く頭に浮かばなくて

怖くて怖くて本当にどうしようもなかった

そういう恐怖とか焦りって

良い方向に転がる事って、まずないよね


あの時もそうだったの


手や足がろくに動いてくれなくて

必死で泳いでるのに、後は水面に上がるだけなのに

川だからさ、そこまで深さがある訳じゃないのに

それでも、全然、水面まで体が上がってくれなくて

赤星さんを抱えてたからっていうのもあるだろうけど、でも、離す訳にはいかないし

息が限界にきて、苦しくて苦しくて

あとちょっと、もうちょっとって、必死でもがいてたんだけど

でも、不意に体が力が入らなくなったんだ

それまでに、色々と限界がきてたんだろうね。服も水吸って重いし、焦りもあったし、息も苦しくて頭がぼーっとしてたし

いきなり、終わりがきた感じ



顔が水面近くまで上がってるのに


体がゆっくり下に沈んでいくの


ああ、私、ここで死ぬんだなって


あの時は、本気でそう思った

その時にね、変な話なんだけど

遠くから声が聞こえたんだ

水中にいるんだから、絶対に聞こえるはずないのに、おかしいよね

でも、私には、それがはっきりと聞こえたんだ






「諦めては駄目よ、みほさん」


顔を向けると、そこにはサーフィンをしている金髪美少女が!

聖グロリアーナのダージリンさんだった!

ダージリンさんは板を華麗に操って、優雅に水中にいる私達に近付くと「破ぁぁぁ!!!」

私達二人を一瞬で水中から引き上げて、岸までお姫様抱っこで連れていってくれたの

岸に上がったダージリンさんは、気を失っている赤星さんの胸に手を当てて何か気功のようなものを。そうしたら、すぐに赤星さんは水を吐いて、意識を取り戻したの

「ありがとうございます、ダージリンさん。でも、何でここに?」

私がそう尋ねると、ダージリンさんは微笑んで

「こんな言葉を知っている? あなたに出来る事をしなさい。今いる場所で。今あるもので。私は偶然、ここでサーフィンを楽しんでいただけよ」

そう言い残すと、ダージリンさんはまたサーフボードに乗って紅茶を飲みながら優雅にサーフィンして去っていったの

ダージリンさんって、スゴい。私は心の底からそう思った






優花里「本当ですよね! あの時のダージリンさんは物凄く格好良かったです!」

みほ「うん。後から聞いたんだけど、ダージリンさんってサーフィンの世界でも有名で、全国7位の腕前なんだって」

華「流石、横浜生まれなだけありますね」

沙織「そういえば、ダージリンさんって紅茶好きだけど冷たい紅茶は絶対に飲まないって、前にペコりんがそう言ってたよ」

みほ「そうなの? やっぱり冷たいと紅茶の香りが楽しめないからとか?」

麻子「そうじゃない……。冷たい紅茶を渡してもダージリンさんが持つと何故かホットになってるらしい」

みほ「え」



ダージリンさんって、やっぱりスゴい。私は改めてそう思った




END


オマケの1レス

【黒森峰】


まほ「今日は聖グロリアーナとの練習試合だ。皆、気を引き締めてかかるように」

エリカ「時間10分前です。もうそろそろダージリンさんが来ますね、隊長」

まほ「そうか。それなら、控えの選手達は全員奥に行って待機していろ。私がいいと言うまではこちらに近寄らないように」

一年生A「え? あの、それはどうして……?」

エリカ「いいから、奥に行ってなさい」

一年生A「でも……」


一年生B「うっ!」バタッ

一年生A「え、ちょっと、どうしたの!? 何で泡吹いて気絶なんて……うっ!」バタッ

一年生C「」ブクブク、バタッ

一年生D「」ドサッ


まほ「遅かったか……」

エリカ「はい。流石、ダージリンさんです。生半可な覚悟では、本気のあの人の前に立つ事すら出来ませんから」

まほ「ああ。そうだな」




ダージリン「」テクテク……


一年生E「」バタッ
一年生F「」ドサッ
一年生G「」ブクブク、バタッ
一年生H「」ドサッ


まほ「相変わらず、凄い覇気だ……」






完!

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