伊織「やよいのパーおじさん」 (81)

・アイマス

ゴルフをする

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1531813552

――予約――

伊織「今日も疲れたわね。なんだかソロの活動も増えてきているみたい」

ガチャ

真美「うぉー、ヒデキ! そこだー」

亜美「ナイスバーディだYO!」

伊織「何見てるのよ。ってゴルフの中継ね」

真美「いやー、さすがヒデキだね」

亜美「ねー、いおりーん。今度ゴルフ行こうよ」

伊織「別に行かないわよ。プロの試合を見てそれは短絡的すぎるでしょ」


亜美「ちぇ、いいもん。千早お姉ちゃん、今度ゴルフ行こうよ」

千早「ええ、いいわよ」

伊織「千早がゴルフをするなんて、意外だわ」

千早「そうかしら? 765だと皆しているからそこまで意外でもないと思うけれど」

伊織「初耳なんだけどそれ」

真美「何言ってるのさ、いおりん。この前みんなでコンペやったじゃん」

亜美「そうだよ。もう忘れたの?」

伊織「本気で言ってるの?」

亜美「ま、いっか。おーい、やよいっち。今度ゴルフ行こうよー」

やよい「わー、誘ってくれてありがとう。楽しみですー」


伊織「待ちなさい」

真美「どうしたのさ」

伊織「やよいが行くのになんで私が行かないのよ」

亜美「行かないって言ったのはいおりんじゃん」

伊織「う、そうだったわね」

真美「まあまあ亜美くん。その日は私はお仕事が入っているからね。キミと千早お姉ちゃんとやよいっちと伊織くんでちょうど4バッグじゃないか」

亜美「ほほう、さすが真美ですな。お忙しい」

真美「いやー、人気者はつらいね」

「「あっはっはっは」」


真美「そういうわけでいおりん。予約は頼んだよ」

伊織「なんで私が」

亜美「持つ者の義務っしょ。会員権持ってるんでしょ」

伊織「まあ持ってるけど」

真美「そうだよ、いおりん。noblesse obligeだYO!」

伊織「なんでそこだけ流暢なのよ!」

千早「水瀬さん、お願いしていいかしら」

伊織「仕方ないわね。私の名前で予約しておくから時間に遅れないでよね」

やよい「ありがとう、伊織ちゃん」

伊織「ふん、このくらい当然よ」

――――――
――――
――

――当日―――

伊織「みんなちゃんと来てるかしら」

フロント「いらっしゃいませ。おはようございます。水瀬様、ご無沙汰しております」

伊織「お久しぶりね。他のみんなはチェックインしているかしら」

フロント「皆様お揃いです」

伊織「私が一番最後? 予想外だわ」

フロント「スタートは定刻通りです。いってらっしゃいませ」

伊織「さて、着替えてから少し練習をして。パッティングレンジ(練習グリーン)に行けばみんないるかしら」

――ドライビングレンジ(打ちっぱなし練習場)――

久しぶりだけどなんとかなるでしょ。まずは1W(ドライバー)からっと」

パコーン

ドロー軌道(右打ちの場合、緩やかな左曲がりの球筋)を描き、キャリー(ノーバウンド)で190y付近へ。

伊織「あら、いきなり思い通りに飛ばせたわ。考えてみれば鬼軍曹のおかげで基礎体力も上がってるか」


残りのクラブを5W、8I、7I、1W、3W、4UT、PWの順で流していく※1。

※1
【数字】W: ウッド。飛距離重視のクラブ。数字が小さいほど弾道が低い。
【数字】I: アイアン。方向性重視のクラブ。数字が小さいほど弾道が低い。
【数字】UT: ユーティリティ。ウッドとアイアンの中間のような性能。
PW: ピッチングウェッジ。アイアンの中で一番数字が大きいクラブ。10I。

伊織「さてAW※2の距離合わせは3球でいいかしら」

※2
AW: アプローチウェッジ。グリーン周りからカップに接近させるために使用することが多い。短い距離で正確さを求めるためのクラブ。


伊織はAWでスリークォーター、ハーフ、クォーターでのスイング距離を確認した※3。

スリークォーター:通常のフルスイングに対して3/4のスイング。
ハーフ :通常のフルスイングに対して1/2のスイング。
クォーター :通常のフルスイングに対して1/4のスイング。


伊織「なんだか全体的に飛ぶようになったわね。次はPT※4を3球やっておきましょう」

※4
PT:パター。グリーン上でカップインを目指してボールを転がすためのクラブ。

PTでハーフスイングをしてフェアウェイでどのくらい転がるか確認する。

伊織「結構転がったわ。このゴルフ場の管理が行き届いているのか、私の体力が向上したからなのか。さぁ、残りの球でバンカー練習ね」


SWでエクスプロージョンを3球、PWでカットロブを3球試す※5。

SW: サンドウェッジ。主にバンカーからの脱出に使用するクラブ。
エクスプロージョン:バンカーから脱出するときの技術。SWをボールではなく手前の砂にたたきつけて、砂がはじける勢いでボールを飛ばす。
カットロブ:ここではポール・ラニアンが定義するカットロブとする。ボールを上にあげるための技術。バンカーでは砂が固いときに利用することがある。

伊織「軽くてふわふわした砂だこと。珊瑚砂って綺麗よね。そろそろパッティンググリーンに行きましょう」
――――――
――――
――



――パッティンググリーン――

亜美「あっ、いおりーん」

千早「おはよう、水瀬さん」

伊織「はい、おはよう。みんな早いわね」

亜美「いおりんはバッチリ決まってますなー」

伊織は上がピンク下が白のキュロットスカートで、アイドルに似つかわしい恰好だった。

伊織「あんたもね」

亜美は上がレモン下が白のスカートだった。

亜美「んっふっふー。今日はかき氷のレモンなんだ」

伊織「そんなイメージなの!?」

千早「ぷっ」

亜美「ジョ→ダンだよ」


伊織「千早は……意外ね」

千早は明るい青のワンピースでスカートは短かった。

千早「そうかしら? いつもの衣装よりは大人しいと思うけれど」

伊織「あんたが選んだ服っていうのがね。正直驚きだわ」

千早「かわいい服を選ぶのも、なかなか楽しかったわ」




その偶像(アイドル)は――黒かった

シャツも

ズボンも

靴も

そしておそらくは――下着も




伊織「やよい?」

やよい「あ、伊織ちゃん! おはよう」

伊織「え、えぇ。おはよう」

やよい「ここのグリーンはすごく早いね。手入れが行き届いている感じがします―」

伊織「そうね。きっとコース管理の人間が頑張っているのよ」

やよい「わー。今日のラウンドは楽しみだね。伊織ちゃん? グリーンのタッチ※6を見ないの? もうすぐスタートの時間だよ」

※6:グリーン上の球の転がり具合。


伊織「もうそんな時間? 6球だけはしておくわ」

下りのパット、上りのパット、フックライン、スライスライン、ロングパット、最後にフラットな1mをカップインさせた」

伊織「いいかんじね」

亜美「やるね、いおりん」

千早「そろそろ行きましょう」

やよい「うっうー! 頑張ります―!」

――――――
――――
――

>>13.5


伊織「さて……やよいは」

なんとなくオレンジを基調とした服装をしていると思っていた。

それらしき人物を探して周囲を見渡す。

伊織「もしかして?」

――OUT No.1 PAR4 305y ピンはグリーン手前――

伊織「レディースティからでいいのよね」

カートから降りて1Wを手に取る。

やよい「わぁ。かわいいヘッドカバーだね」

伊織「え、えぇ。ありがとう。1Wはうさちゃんなのよ」

やよいはいつもの調子だが服装が圧倒的に不自然だった。

キャップは黒いしサングラスも真っ黒だ。


伊織「始めは誰が打つ? くじを引く?」

亜美「いえいえ。予約してくれたいおりんからどーぞ」

伊織「そう? ならそうさせてもらおうかしら」

伊織はティグランド※6に立ち一礼する。

※6
各ホールの第1打をプレイする場所。ティペグを利用したティーアップが可能。

伊織のその姿を見た3人は確信した。

間違いなく上級レベルのゴルファーだと。


伊織1打目
1W 205y フェアウェイ
残り100y

亜美1打目
1W 180y フェアウェイ
残り125y

千早1打目
1W 170y フェアウェイ
残り135y

やよい1打目
5W 190 クロスバンカー※7
残り115y

フェアウェイに設置されるバンカー。2打目を打ちにくくする目的や景観目的で設置される。




やよい「あぅー。クロスバンカーに入っちゃいました」

伊織「ちょっと待って。やよいはずいぶん飛ばすわね」

亜美「んふっふー。やよいっちの飛距離にびっくりいおりん」

千早「高槻さんすてきだわ。次は私ね」


千早2打目
4UT ピン奥 カップまで8m

亜美2打目
UT ピン奥 カップまで4m

伊織2打目
9I ピン手前 カップまで1.5m

やよい2打目
9I グリーン手前フェアウェイ カップまで5m


亜美「いおりん、すごいね」

千早「そこまで狙えるものなのね」

伊織「いや、むしろ二人とも当たり前のようにパーオンさせてきているのが驚きなんだけど」

やよい「うぅー、届きませんでした」

亜美「ここからの寄せっしょ!」

伊織「……なんであそこのクロスバンカーから9Iで届かせられるのよ」

千早「高槻さん、何を使う? そのまま9Iかしら」

やよい「PTをお願いします―」


やよい3打目 PT カップオーバー30cm




やよい「お先ですー。わー、パーが取れました!」

千早「ナイスタッチ! 私も頑張ろう」


千早3打目 カップオーバー70cm


やよい「ナイスタッチです、千早さん」

亜美「お、次は亜美ですな。いけ! バーディチャンス。千早お姉ちゃんのラインに乗れ!」


亜美3打目 カップオーバー2m


亜美「ふっ。完璧にラインに乗りましたなー」

伊織「千早も外しているんだから同じラインに乗せちゃダメでしょ」

やよい「でもでも。亜美、ナイスファイト!」

伊織(亜美はかなりオーバーしたわね。……えいっ)


伊織3打目 カップ手前5㎝


伊織「くっ、お先よ」

やよい「惜しかったね、伊織ちゃん」

亜美「よし! 次はいおりんのラインに乗せちゃうよ!」


亜美4打目 カップにぶつけて奥10㎝


亜美「これが竜宮の絆の力だね……お先っ!」

伊織「私が悪いみたいじゃないのっ!」

やよい「まぁまぁ」

亜美「挑戦した結果のボギーだからね。バンカーの砂粒……ひとつほども後悔はしていない!」

千早「最後は私ね。水瀬さんと亜美の後で助かった。こっち側からはなんて重いのかしら」


千早4打目 カップイン


伊織「千早もパーを決めて来たわね」

千早「とっても幸先がいいわ」

亜美「そこのお嬢ちゃんたち。早く乗りな!」

やよい「カートありがとう」

亜美「カートでもロボットでも。運転は亜美に任せるといい」

千早「ぷっ」


Total

伊織:0
千早:0
やよい:0
亜美:+1

――OUT No.2 PAR4 280y ピンはグリーン右サイド――

亜美「オナーはいおりんだね。バシッと決めてよ!」

伊織「期待に応えられるよう頑張るわ」



伊織 1打目 1W 175y フェアウェイ 残り 105y
千早 1打目 1W 160y フェアウェイ 残り 120y
やよい1打目 5W 170y フェアウェイ 残り 110y
亜美 1打目 1W 160y フェアウェイ 残り 120y



伊織「亜美はなんでゴルフをしてるのよ」

亜美「パパがゴルフ好きだからね。とうぜん亜美も真美もやるよね」

伊織「それじゃあ結構長いのね。HDCPはどのくらいなの?」

亜美「んっふっふー。亜美のハンディはねぇ。6だよ!」

伊織「どんだけ本気なのよ! ビックリしたわね」

亜美「その亜美がいおりんのハンディを予想するとね。うん、5だね!」

伊織「あってるけど。ま、あんたとほとんど変わらないわね」

亜美「いやいや伊織さん。5下のシングルはまた一つ大きな壁が立ちはだかっていますから」

伊織「妙な言葉遣いにならないの」



千早 2打目 8I 80y フェアウェイ バンカー前 残り40y
亜美 2打目 UT オングリーン ピンまで6m
やよい2打目 7I オングリーン ピンまで7m
伊織 2打目 8I オングリーン ピンまで3m




亜美「さすがのシングルですなぁ」

伊織「ちゃかさないの」



千早 3打目 SW カップまで10cm
やよい3打目 PT カップ奥80cm
亜美 3打目 PT カップ奥2.5m



亜美「ありゃりゃ、また超えちゃったよ」

伊織「6mもあってよくそんなに強く打てるわね」

亜美「買いかぶりすぎだよいおりーん。まだまだ下手なのさ」

亜美「さあバーディチャレンジだよ!」

伊織「上りの3mくらい、この伊織ちゃんにかかれば! ぇぃ」

伊織3打目 PT カップイン

伊織「やったわ!」

亜美「ナイスバーディ! さっすがいおりん」

伊織「ま、こんなとこかしら」

亜美「また亜美ですなぁ。見事なスライスラインを決めるぜ」

亜美 4打目 PT カップ左を通過。10cm奥」

亜美「またやっちゃったYO! お先!」

伊織「惜しいんだけどね」

やよい4打目 PT カップイン

千早 4打目 PT カップイン



Total
伊織 -1
千早 0
やよい0
亜美 +2



亜美「うーん、ハーフ+3を目指してるけど。これはむずかちいね」

伊織「まだまだこれからよ」

――OUT No.3 PAR3 140y ピンはグリーン中央――

伊織「伊織ちゃんからね」

伊織(前2ホールの調子がよくて緊張しちゃうわ。打ち下ろしの140yよね)

伊織(5UTでグリーンに止められるかしら。奥のガードバンカーに入ったとしても……それはいやね)

伊織(グリーン手前には池があるけどレイアップ※はしたくないし)


自分のショットの飛距離を照らし合わせた場合に、リスクマネジメントをして番手を短いものにして手前に打つこと。

伊織「ねぇ、千早ならどうする?」

千早「答えていいのかしら※。コンペではないから水瀬さんさえよければ答えるけれど」


競技中のアドバイスに係わるルール(規則 8-1)で 競技者間のある種のアドバイスを禁止している。
質問したら2打罰。回答しても2打罰が加算される。

伊織「ごめんなさい。お友達とプレーするのが初めてだったからつい聞いてしまったわ」

千早「お友達……」

伊織「なによ! 別にいいじゃなない、私が友達って言っても」

千早「いえ、そう言ってもらえて嬉しいなって思っただけよ」

伊織「あんたいまだに反応がつかみにくいわね」

千早「教えるわけではないけれど、私のアイアンでは届かせられないわね」

伊織「そう。見てなさい、5UTでバシッとオンさせるんだから」

千早「頑張ってね」



伊織 1打目 5UT 150y グリーン奥ガードバンカー 残り6m



伊織「ステーイ! あ、奥まで行っちゃったわ」

千早「大きかったのかしら? 幸い顎※は低いみたいだから水瀬さんならリカバリーできるわね」


バンカーの淵の高さ


伊織「慰めてるつもり?」

千早「いえ、全く。私たちアマチュアはそうそうパーオンはしないから。これもゴルフね」

伊織「そうね。って、千早。そのクラブはさすがに大きいでしょう」

千早はドライバーを持ち素振りをしていた。

伊織(しかもずいぶん右よりでティアップも低いわね)

パコン!

伊織(ものすごく低い球筋だけれど……あっ!)

千早「走开(ゾウカイ)ッ!! : (行けーッ!!)」

伊織「中国語!? それよりも水面で球が跳ねるなんて!!」



千早 1打目 1W 140y オングリーン 残り2m



千早「トップボールを打って水切りさせ減速させてのせていく。これが首転の技」

千早「首転とはトップのこと」

千早「昔、深く愛し合った夫婦が居たのよ。2人はいつもゴルフをしてたのよ。夫が死ンで取り残された妻は生前、夫に愛人がいたことを知るの……」

伊織「ち、ちょっと、千早?」

千早「怒った妻は夫の頭(トップ)を掘り出すのよ。昔は土葬だからね」

千早「頭つまり首よね。そしてその首をコースで打ったの!!」

千早「つまり頭蓋骨を。そンなものは上がりはしない、転がるだけ。トップボールの意味はここからきてるのよ。そしてそれが首転の技!!」

伊織(この娘、誰にゴルフを習ったのよ……)


千早「私は飛距離がないからしかたないのよ。けど、上手に乗せられたわ。あ、高槻さんはグリーンオーバーね」

伊織「えっ?」



やよい 1打目 8I 146y グリーンオーバー 残り5m



伊織「やよいってば。ユーティリティでは止めにくいから仕方ないわ」

千早「亜美は、すごいわね。7Wでオングリーンさせて来たわ」

伊織「ウッドで止めたの!? すごいわね」



亜美 1打目 7W 142y オングリーン 残り3m



伊織「私からね。目玉※にならなくてよかったわっと」


ボールが落下する勢いで砂に埋まり、そのとき弾かれた砂によってボールの周囲がクレーター状に盛り上がること。



伊織 2打目 SW オングリーン 残り1.5m



伊織「何よ千早。妙な顔でこっちみて」

千早「何というか王道のゴルフよね。見ていて惚れ惚れするわ」

伊織「これは褒めてるのよね? まぁ、ありがとう」

千早「水瀬さんはどうしてゴルフをしているのかしら」

伊織「おじいさまがゴルフを教えてくれたのよ。兄妹の中でも私がうまかったのかよく褒めてもらったわ」

千早「そう」

伊織「家族での楽しい思い出ってあんまりないのよ。けどゴルフは楽しかったわね」

千早「家族の良い思い出……正直うらやましいわ」

伊織「1人で暗くなろうとするんじゃないわよ。あんたにとって私たちがそれでしょ!」

千早「水瀬さん。そのプロポーズは嬉しいんだけど。私たち女の子だから」

伊織「違うわよ!」

千早「冗談よ。けれどありがとう。とてもうれしいわ」

伊織「まったく」


千早「高槻さんの2打目は池の手前みたいね。ものすごく転がったわ」



やよい2打目 5I 残り 4m



伊織「また見逃した。どうも今日は集中力がないわね」

千早「きっと今日が楽しみで昨夜眠れなかったんでしょう」

伊織「うっ、そうだけど」



やよい3打目 6I カップまで 20cm
やよい4打目 PT カップイン



伊織「ボギーね。やよいってウェッジは苦手なのかしら」



亜美 2打目 PT カップに蹴られる 残り 5cm
亜美 3打目 PT カップイン



伊織「おしい。あとほんのちょっとなのに」

千早「亜美はグリーンで強いから大丈夫でしょう。次は私ね。絶妙な距離だわ」

千早 2打目 PT カップに蹴られる 残り 10cm

千早「お先よ」

千早 3打目 PT カップイン

伊織「あんたも惜しいわね。最後は私ね。えいっ」

伊織 3打目 PT カップイン

伊織「ふぅー。緊張しちゃった」

千早「ナイスパーセーブ」

伊織「ありがと」



Total
伊織:-1
千早:0
やよい:+1
亜美:+2



――OUT No.4 PAR5 480y ピンはグリーン手前――

伊織「480yか。下りとは言えさすがに長いわね」

亜美「いおりん。このホールはやよいっちをよく見ておいたほうがいいよん」

伊織「やよいを? ロングホールが得意ってこと?」

千早「そう言うことね。きっと新しい発見もあると思うの」

伊織「ふーん。じゃあ、しっかり見させてもらうわ」



伊織 1打目 1W 210y フェアウェイ 残り 270y
千早 1打目 1W 180y フェアウェイ 残り 300y



やよい「頑張りますね!」

亜美「出たー! やよいっちのドライバーッ!!」

伊織「なんでそんなに盛り上がってるのよ。さっきから使ってたでしょ」

千早「いえ。高槻さんはまだドライバーを使ってないわ」

伊織「どういうことなの。まさか?」

やよい「うっうー、行きますよー」



バチコーンッ!!



やよい1打目 1W 250y フェアウェイ 残り 230y



やよい「いえい!」

亜美「ナイスショット!」

千早「お見事ね」

伊織「はい? どうなってるの? キャリーで230yはいったわよ!?」

亜美「これがやよいっちなんだよ、いおりん」

千早「スイングを見ていたでしょう?」

伊織の頭を駆け抜ける情報。

右手のリリースが異様に遅く、インパクトの直前までクラブが立っていたこと。

信じられない程の飛距離が出たこと。

やよいの全身が黒ずくめなこと。

伊織「トイチ※のパンチショット、なのかしら」


戸田 藤一郎
18歳から56歳まで公式戦17勝の鉄人
http://www.golfdendou.jp/commendation/toda

やよい「わぁ、伊織ちゃん。よく知ってるね」

伊織「知識だけなら何とか。けど、これってロストテクノロジーなんじゃ」

亜美「目の前の現実が真実なんだぜ。亜美も打つよーん」



亜美 1打目 1W 190y フェアウェイ 残り 290y





亜美「おー、けっこうランがでたね! そしてそのまま右のクロスバンカーにイン! 困ったね、どーも」

やよい「トラブル処理は得意でしょ?」

亜美「ま→ね♪」

伊織「千早はパーオンを狙えるの? これまでのホールを見る限りだと……」

千早「無理ね。私にとってこのホールはPar 5 ではなくPar 6だと思ってるわ」

伊織「試してみる気はないの?」

千早「一か八かには賭けない。スプーンを2連続、まっすぐに完璧に当てたうえでグリーンで止めるなんて私の技量では無理よ」

千早「私にはね」



千早 2打目 3W 150y フェアウェイ 残り 150y



やよい「ナイスショットです!」

千早「ありがとう、高槻さん」

亜美「よーし、バンカーから脱出するよ」



亜美 2打目 PW 60y 左側の林 残り 230y



亜美「いやーん、バンカーん、あはっ。そこは林なの、あはっ♪」

千早「んふ」

亜美「バンカー脱出だからね。ランが出てもちかたないね」

伊織「次は私ね」

伊織は緊張というより同伴者に動揺させられてしまった。

やよいは伊織のティーショットをオーバードライブした。

千早は鉄壁のような心でこのホールに臨んでいた。

亜美は右のバンカー左の林とトラブル処理を楽しんでいた。

この状況で力むのはしかたがなかった。



伊織 2打目 3W 160y 左側の林 残り 110y



伊織「くっ! ひっかけたわ」

亜美「どんまい、いおりん。パーセーブはできるっしょ!」

伊織「なんとか頑張るけど」

やよい「次は亜美だね」

亜美「ありゃ、3打目なのにやよいっちより遠いのか。じゃあ行くねー」



亜美 3打目 6I 70y フェアウェイ 残り 160y



やよい「ナイスリカバリー! すごく低い球筋だったよ!」

亜美「ふっ、秘剣燕返し! 成功してよかったYO」

伊織(なんてこと。亜美はまったく諦めてないわ。冷静そのもの)

伊織(3打でオングリーンできないのは明白だから、フェアウェイのライのいい所に置いて4打勝負に持ってきたわ)


やよい「次は私ですねー。行きますよー」



やよい2打目 3W 215y フェアウェイ 残り 15y



亜美「うわー、おしい! やよいっち!」

千早「ナイスショット、高槻さん!」

やよい「えへへっ、ありがとうございます。でもでも、グリーンには届かないんですよ」

伊織は言葉をなくした。

飛距離も驚きだがそれ以上に驚いたのはランが出ることなく球がフェアウェイに留まったことだった。

伊織(ウッドでそんな止め方はできないわよ! 糊でもつけてるの!?)

亜美「よーし、亜美もやっちゃうからね。バーディートライ!」

伊織「いや、数字の上ではそうだけど……」



亜美 4打目 3W 160y オングリーン カップまで2m



やよい「わー、スーパーショットだね!」

亜美「ふっ、亜美が尊敬しているドッキー※曰く、『3W以下は全部アプローチ』だYO!」


井戸木 鴻樹
全米プロシニアで男子日本人選手初のメジャー優勝
http://www.golfdendou.jp/commendation/idoki

千早「抜群の距離感だわ」

伊織(言うのは簡単だけど、普通できないわよ!?)



千早 3打目 7I 100y 右ガードバンカー手前 残り 50y



伊織(レイアップしたわね。けどフェアウェイを外した?)

亜美「でるよ! 千早お姉ちゃんの必殺技!」

伊織(狙ってあの場所に置いたってこと? けど、まずは私の番ね)



伊織 3打目 PW 80y 左側の林 残り 30y



やよい「伊織ちゃん、グレイティストリカバリー!」

伊織「ありがとう、やよい。いい距離を残せたわ」

亜美「木でグリーンが見えなかったのにね。グッドインテンショナルフック※だね!」


意図的にフック(左曲がり)させること。
右曲がりならインテンショナルスライス

千早「水瀬さんは冷静そのものね。私も見習わないと」

伊織(いや、心臓がバクバクしてるわよ)

やよい「伊織ちゃん。千早さんが必殺技を出すから早く早く」

伊織(やよいまで。ゴルフで必殺技って何よ?)

千早「ふぅ~」

伊織(千早が踊りだした? いえ、違うわ。あれは……太極拳?)




千早「羅綾(らりょう)~」



千早の放った球は放物線を描き、カップに向かってふわりと落ちた。



千早 4打目 SW 50y カップから吐き出されて 残り10cm



亜美「でた! 秘技ラリョウ!」

伊織(め、目眩がするんだけど!? ラリョウって薄絹とか綾織物の羅綾のことよね?)

やよい「いつ見ても凄いです!」

千早「とても上手にできたわ」

亜美「次はいおりんだね!」

伊織「……そうね。30yかしら」



伊織 4打目 AW 28y カップまで 1m



やよい「ナイスアプローチ! いおりちゃんのゴルフは本当に綺麗だね!」

伊織「ありがとう。やよいの方は、なんかとんでもないわね」

やよい「うっうー! イーグルチャレンジです!」



やよい3打目 PT 15y カップまで20cm



亜美「おしい!」

やよい「お先です!」

やよい4打目 PT カップイン

亜美「ナイスバーディ―!」

千早「高槻さん、素敵だわ!」

やよい「ありがとうございますー!!」

亜美「亜美もやよいっちに続け―!」



亜美 5打目 PT カップイン



やよい「亜美、すごい! ナイスストレート!」

伊織「下りなのによく打ったわね」

亜美「いやー、どーもどーも」



伊織 5打目 PT カップイン
千早 5打目 PT カップイン



伊織(これはいろいろと聞かないといけないわね)




Total
伊織:-1
千早:0
やよい:0
亜美:+2

――OUT No.5 PAR3 y 170y ピンはグリーン右サイド――

伊織「やよい。あんたもゴルフは長いの?」

ゴルフ場には結構通ったかなぁ」

伊織「へぇ。言っちゃ悪いけど結構いい生活してたのね」

やよい「うーん、ウチって結構貧乏で本当にお金がない時があったの」

やよい「その時にゴルフ場の草むしりの手伝いをしてたんだ」

伊織「草むしり?」

やよい「そうだよ? フェアウェイとかグリーンに生えると手で取らないといけないからって」

伊織「……」

やよい「朝早くに行ってコース管理の人たちと周ったの。 しかも! 終わった後、学校に行く前におにぎりとお味噌汁を食べさせてもらえたんです。『やよいちゃんは偉いね。支配人には内緒だよ』って。えへへ、今思うと支配人が気をきかせてくれてたのかも」

伊織「そうかもしれないわね」

やよい「だからね、ゴルフ場のおかげでみんなの給食費も払えたし学校にもちゃんと行けたんだ。伊織ちゃん、やっぱりゴルフっていいよね」

伊織「私が思っていた 『いい』とはだいぶ違うけど。その通りだわ」



伊織 1打目 4UT 170y グリーン右奥 ラフ 残り 20y
千早 1打目 3W 170y グリーン左奥 ラフ 残り 40y
やよい1打目 6I 170y グリーン左奥 ラフ 残り 40y
亜美 1打目 4W 170y オングリーン カップまで7m



伊織「けど、別にゴルフをプレーしてたわけじゃないじゃない。やよいのレベルはプレーせずに到達できる場所をはるかに上回ってるわ」

やよい「ゴルフはさせてもらえたんだよ? 草むしりが終わった後に1ホールだけしていいよって」

伊織「へぇ、そんなやり方もあるのね。感心したわ」

やよい「ただクラブを持ってないかったからできなかったけど」

伊織「ダメじゃないの」



千早 2打目 AW 30y オングリーン カップまで9m
やよい2打目 7I 45y グリーン右 フェアウェイ 残り 7y
伊織 2打目 AW 35y オングリーン カップまで4m
亜美 2打目 PT 8m カップまで30cm


やよい「でもね、何か月もお手伝いをしてたからルールは自然と覚えたんだ。ゴルフ場にいる人はだいたいゴルフ好きだから」

やよい「ある日にね、OB区画を歩いて管理等に戻っている途中でプレー中の組を見かけたの」

やよい「特に黒い人がものすごく楽しくなさそうな顔をしてて私まで悲しくなっちゃって」

やよい「その人のセカンドショットにぶつかったの」

伊織「待って。話についていけなくなったわ」



やよい3打目 5I 7y カップまで50cm
千早 3打目 PT 8m カップまで 1.5m
伊織 3打目 PT 4m カップまで 60cm
亜美 3打目 PT カップイン


やよい「きっとスコアが悪いから楽しくないのかなーって。OBにならないようにボールを弾いたんだ。ほんとはだめなんだけど」

伊織「いえ、ぎりぎりルール内ね。やよいは第三者だから」

やよい「後日その黒い人に呼び出されて心臓が止まりそうになりました」



やよい4打目 PT カップイン
千早 4打目 PT カップイン
伊織 4打目 PT カップイン




伊織「壮絶な人生だわ……。」



Total
伊織:0
千早:+1
やよい:+1
亜美:+2

――OUT No.6 PAR4 y 286y ピンはグリーン右サイド――

~~回想~~クラブハウスレストラン個室

黒い男「キミ、なぜボールにぶつかったんだね」

やよい「えっと、その……」

黒い男「私は忙しいんだ。はっきり言いたまえ」

やよい「怒った顔をしてたから。スコアがよくなれば楽しくなるかなって」

黒い男「ふん、ナンセンスだ」

やよい「うっう~。ごめんなさい」

―――
――


伊織「それでどうなったのよ?」

やよい「クラブセットを貰いました!」

伊織「やよい、説明が下手すぎるわ」

やよい「うっう~。ごめんなさい」

伊織「ま、いいんだけどね。このホールも何とかパーセーブできたわ」

やよい「私もなんとかできました!」

伊織「やるわね。やよいとの真剣勝負が楽しいわ」

やよい「次のホールも頑張ります―!」

伊織「私もよ!」



Total
伊織:0
千早:+1
やよい:+1
亜美:+3


やよいは多くを語らなかったが、黒い男をかばったことで彼女の人生は転機を迎えた。

その男は『P』であり、やよいに助けられたことに恩義を感じ、後日やよいに会いに行って感謝を告げただけでなく『恩返し』をしてくれた。

その『恩返し』のおかげで父親は仕事に就き、クラブセットを手に入れたやよいは真っすぐな心に磨きをかけ、子供相手に一人の人間として接してくれた名前も知らない男にあこがれ、自らも同じ世界に飛び込むことを志すようになる。



>>56 差し替え



『キミがしてくれた事は決して忘れない」



やよいは多くを語らなかったが、黒い男をかばったことで彼女の人生は転機を迎えた。
その男は『P』であり、やよいに助けられたことに恩義を感じ、後日やよいに会いに行って感謝を告げただけでなく『恩返し』をしてくれた。
その『恩返し』のおかげで父親は仕事に就き、クラブセットを手に入れたやよいは真っすぐな心に磨きをかけ、子供相手に一人の人間として接してくれた名前も知らない男にあこがれ、自らも同じ世界に飛び込むことを志すようになる。

――OUT No.7 PAR4 y 340y ピンはグリーン左奥――

伊織「右ドッグレッグね。やよいなら2打目はウェッジで行ける距離じゃない」

やよい「ドライバーはつかわないですよ?」

伊織「なんでよ。ここもバーディ狙っていけるでしょ?」

やよい「フェードをかけられなかったらそのまま突き抜けちゃうから。OBはかなり怖いかなーって」

伊織「そうだったわ。この距離で突き抜けるなんて考えたことがなかったわ」



伊織 1打目 1W



伊織「ちょっとぉ! 思ったよりランが出ちゃったんだけど!?」

千早「クロスバンカーね。水瀬さんなら大丈夫よ」

伊織「やよいが突き抜けるって話をしてたのにこれよ。私はずいぶんと考えが甘かったわ」

千早「私もこのホールは攻めたいわね」



千早 1打目 1W



伊織「ナイスフェード。フェアウェイど真ん中ね」

千早「それでも2打目は水瀬さんより4番手くらい上を使わないといけないわ」

伊織「使うクラブは自由でしょ。スコアカードに書くわけでもないんだし。」

千早「そうね。けれどこればっかりはどうにもならないわね」



やよい1打目 5W



やよい「あうー。突き抜けちゃいました」

亜美「どんまい、やよいっち。バンカー脱出を見せてよ!」

伊織「……同じ結果を出すのに4番手も違うとけっこう来るわね」

千早「そうでしょ? 何とかバーディチャンスに着けたいわ」



亜美 1打目 1W



亜美「おっ! ナイスショットですなー」

やよい「インパクトも完璧、ナイスフェードだね」

亜美「バーディーも狙っちゃうよ」


伊織「千早は勝負に出るのね」

千早「ここなら物理的に届くから。今が勝負時よ」



千早 2打目 3W オングリーン 残り 9m



千早「下りで長い距離が残ったわ。難しいわね」

やよい「ナイスオンです、千早さん!」

千早「ありがとう、高槻さん。ちょっと欲がでたみたい」



やよい2打目 PW フェアウェイ 残り 55y
伊織 2打目 6I フェアウェイ 残り 50y



亜美「亜美も勝負だよ……」

伊織(なんて集中力。茶化せないわよ)

伊織(やよいと千早はかなりふざけてるわね)

2人は【QUIET】の札を持っていた。



亜美「いっけー!!」



亜美 2打目 3W オングリーン 残り 4m


亜美「ふっふーん。乗っちゃった♪」

やよい「ナイスショット!」

亜美「あ、いおりんには渡してなかったね。はいどーぞ」

伊織「あんたが用意してたの!?」

亜美「そーだよ。緊張した時ほど笑わないとね」

伊織「いや、その通りなんだけど」




やよい3打目 6I 65y グリーンオーバー 残り 11m
伊織 3打目 AW 60y オングリーン 残り 5m



千早「距離合わせに全力ね」



千早 3打目 PT カップ手前 1.5m



千早「下りだったからむしろ良かったくらいだわ」



やよい4打目 5I カップ手前 1m



やよい「難しいです~」



伊織 4打目 PT カップ手前 50cm



伊織「上りなのにねじ込めなかった」

伊織「亜美は下りの4mね」

亜美「……」

伊織(さっきよりも集中しているわ。そうだ。私もやらないと)



【QUIET】



亜美 3打目 PT カップイン



亜美「やったYO! バーディが獲れたよ!」

千早「おめでとう」

やよい「やったね!」

伊織「大したものね。外したら2mは走ったわよ」

亜美「入ってよかったね。ほんとに」

千早「いえ、入れる意思があったからこそね」

伊織「確かに。私にはできなかったわ」

亜美「ふふーん。もっと褒めてもいいんだよ?」

やよい「亜美、すごい!」

亜美「いやー、どーもどーも」




千早 4打目 PT カップイン
やよい5打目 PT カップイン
伊織 5打目 PT カップイン



伊織(楽しい。すごく楽しいわ!)



Total
伊織:+1
千早:+1
やよい:+2
亜美:+2

――OUT No.8 PAR5 y 480y ピンはグリーン左手前――

伊織(Par.5はやよいも勝負を仕掛けてくるのよね)

伊織 1打目 1W 225y フェアウェイ 残り 255y
千早 1打目 1W 185y フェアウェイ 残り 295y
やよい1打目 1W 255y フェアウェイ 残り 225y
亜美 1打目 1W 190y フェアウェイ 残り 290y


伊織(あらためて見るととんでもない飛距離ね。私だって結構飛ぶほうなのに)


伊織 2打目 3W 190y フェアウェイ 残り 35y
千早 2打目 3W 160y フェアウェイ 残り 135y
やよい2打目 3W 220y ガードバンカー 残り 5y
亜美 2打目 3W 165y フェアウェイ 残り 125y


伊織(2打目でガードバンカーですって? どんな次元でゴルフをしてるのよ!)


伊織 3打目 AW 30y オングリーン 残り 5m
千早 3打目 5W 140y オングリーン 残り 8m
やよい3打目 SW 10y フェアウェイ 残り 12y
亜美 3打目 UT 130y オングリーン 残り 4m


伊織(グリーンと反対側に出した? 確かに顎は高いけれど、今の球筋なら絶対に乗るのに?)


伊織 4打目 PT カップ手前 残り 50cm
千早 4打目 PT カップ奥 残り1m
やよい4打目 6I 12y カップ右 残り 20cm
亜美 4打目 PT カップ奥 残り 1.5m


伊織(やよいってばクラブ選択を間違ってないかしら? ま、何を使ってもいいんだけど)


伊織 5打目 PT カップイン
千早 5打目 PT カップイン
やよい5打目 PT カップイン
亜美 5打目 PT カップイン


伊織(ここは全員パーセーブね)


Total
伊織:+1
千早:+1
やよい:+2
亜美:+2

――OUT No.9 PAR4 330y ピンはグリーン右奥――

伊織 1打目 1W 190y フェアウェイ 残り 140y
千早 1打目 1W 170y フェアウェイ 残り 160y
やよい1打目 5W 200y フェアウェイ 残り 130y
亜美 1打目 1W 175y フェアウェイ 残り 155y

伊織 2打目 5UT 130y フェアウェイ 残り 10y
千早 2打目 4UT 130y 左ガードバンカー手前 残り 30y
やよい2打目 9I 120y フェアウェイ 残り 10y
亜美 2打目 3W 150y 右ガードバンカー 残り 7y

伊織 3打目 AW 10y オングリーン 残り 70cm
千早 3打目 SW 30y オングリーン 残り 10cm
やよい3打目 7I 10y オングリーン 残り 30cm
亜美 3打目 SW 10y オングリーン 残り 3m

伊織 4打目 PT カップイン
千早 4打目 PT カップイン
やよい4打目 PT カップイン
亜美 4打目 PT カップオーバー 残り 1m

亜美 5打目 PT カップイン

Total
伊織:+1
千早:+1
やよい:+2
亜美:+3



伊織「フロントナインが終わったわ。食事にしましょう」



ハーフ休憩



伊織「今日は私のホームコースに来てもらったから。食事は御馳走するわ」

亜美「やったぜいおりん。ごちになります!」

千早「ありがとう、水瀬さん」

やよい「はわっ、どうしよう。けど伊織ちゃんはここのメンバーだもんね。私もごちそうになります」

伊織「にひひっ。ゲストはもてなさないとね。はい、メニュー」

やよい「よ、読めない漢字が多い」

伊織「そんなことないでしょ」

亜美「じゃあじゃあ、亜美が選んであげるよ」

やよい「うぅ。お願いするね」

千早「いいの? 自分で選ばなくても」

やよい「はい。好き嫌いはないですし楽しい料理が食べられそうです」

亜美「よし。やよいっちはこれだ!『不死鳥卵』一体何だろうね!」

やよい「何が出てくるんだろう?」

亜美「亜美はこれ!『常夏北京鴨』ぜったいにおいちいね」

伊織「さすが亜美ね。どっちもいい選択だわ。千早はどうするの?」

千早「私は『鳥のムネ肉 蒼い鳥ソース』にしようかしら」

伊織「……初めて見るメニューね。私は『鳳凰水晶』にするわ」




伊織「ハーフ終わってどう? 皆かなりいいんじゃないかしら」

亜美「そだね。初めてのコースで+3は亜美にとってもいい感じだよ」

伊織「せっかくだから勝負しない? 負けたら」

やよい「に、にぎりですか!?」

千早「大丈夫よ、高槻さん。そんなことはしないから」

伊織「やよい、あんたねぇ」

やよい「うぅ。ごめんなさい」

亜美「まーまー。終わった後のお風呂で背中を流すとかでいいじゃん」

千早「亜美、とても冴えてるわ」

伊織「勝ったほうが流してもらえるのね? それとも流すほうがいいかしら?」

亜美「なんでそれに決まったのさ」

やよい「それだったら大丈夫ですー。こう見えて私とくいなんですよ」

千早「素敵よ、高槻さん。勝負の方法はスクラッチでどうかしら」

伊織(9ホールを見る限り誰が勝ってもおかしくないから当然の提案だわ。勝つために保険をかけたいけれど疑いの目は持たれたくないし)

亜美「ずるいよ千早お姉ちゃん! 亜美勝てないじゃん」

伊織(最高よ、亜美! 今日のあんたは輝いてるわ!)

やよい「私もハンデが欲しいかなー、なんて」

千早「そうよね。少し浮かれてしまったわ。水瀬さんもハンデ戦でいいかしら」

伊織「そ、そうね。それがいいんじゃないかしら」

亜美「はーい! 亜美はハンデ6だから現時点でなんと、-3という凄まじいスコアなのです」

やよい「うわー。亜美すごいね!」

亜美「でしょでしょ?」

千早「あれだけグリーンで強く打てれば亜美が勝つ可能性はかなり高いわね」

やよい「そうすると千早さんのスコアは+1ですね。伊織ちゃんはハンデいくつ?」

伊織「私は5だから、現時点で-4でいいのかしら」

千早「すごいわ。現時点で私が最下位ね。高槻さんとは1点差か。頑張らないと」

やよい「私も頑張ります―」

伊織(このまま逃げ切るのよ、私!)




この時、なんとなく伊織はやよいのハンデを聞き流した。

無意識に自分の積み重ねてきたものが崩れそうな気がしたからだった。



>>66 削除

亜美「ご飯も食べたし。やよいっち、パットの練習してこようよ」

やよい「そうだね。伊織ちゃん、ごちそうさまでした。とってもおいしかったよ」

伊織「そう。よかったわ」

伊織は練習グリーンへ向かう二人を見送る。

千早「水瀬さん、バックナインでの作戦会議をしましょう」

伊織「なによ急に」

千早「私はどうしても勝ちたいわ。水瀬さんもそうでしょう」

伊織「別にそんなことはないわ。ゴルフを楽しめたらそれでいいじゃないの」

千早「本当にそれでいいのかしら。自分の心に嘘をつくとパッティングに影響がでるわよ」

伊織「……勝ちたいわね。ものすごく勝ちたいわ」

千早「でしょう?」

伊織「けど出来ることはあんまりないわよ」

千早「使用クラブの相談をできるようにしましょう。傾斜や芝目や考えも相談するの」

伊織「そこまでしたらゴルファーとしてどうなのかしら」

千早「公式戦じゃないしいいでしょう。アイドルの大会とは違うわ」

伊織「なんで大運動会の話がでるのよ」

千早「……やっぱり。あなたは違う水瀬さんなのね」

伊織「どういうこと?」

千早「アイドルの大会はライダーズカップだったわ。大運動会はしたことがない」

千早「こんなことがあるのね。アイドルをやっていると不思議なことも起きるわ」

伊織「じゃあ私は誰なのよ」

千早「水瀬さんよ。あんまりにも同じだから私たちが初めてゴルフをした時を思い出してしまったわ」

千早「そして何よりも揺らぎないこの想い。高槻さんの背中を流したいでしょう?」

伊織「私は別に」

千早「自分の心に嘘をつくとパッティングが鈍るわよ」

伊織「ふわふわの背中をさわりたいわ」

千早「ええ。必ず」

伊織「さあ、パッティンググリーンに行きましょう。むしろ相談しまくる提案をしてより良いバックナインにしましょう」

――パッティンググリーン――

亜美「やよいっちー。ここの傾斜はDo-Dai?」

やよい「1.5度だね」

亜美「うわー、なんでそこまで分かるの?」

やよい「教えてくれた人がそういう人だったから」

亜美「あー、黒ちゃんか。こういうところ細かいよね」

やよい「足の裏の感覚を研ぎすませ、芝の上でするスポーツだからって」

亜美「じゃあここからカップまでどれくらいの距離感?」

やよい「実距離が5mだから8m打つ時のつよさかな」

亜美「ふーん。えいやー」

パチっ

亜美「うわ!ほんとうだ」

やよい「亜美は縦の距離感が抜群だね」

亜美「ドッキ―がそんなことをいってるからね」

やよい「バックナインは何か変わったことするかな?」

やよい「伊織ちゃんにコースの説明をしてもらいたいかなー。とっても難しいから」

亜美「そいじゃ午後はガンガン聞いちゃおう。別に大会じゃないからいいっしょ」

やよい「そうだね」

亜美「千早おねーちゃんといおりんがきたよ」

亜美「午後は相談ありにしよう」

――バックナイン開始――

伊織(午後は相談ありにしたけれど、あんまり変わらないわね)

伊織(亜美は私のマネジメントとかなり近いからいいけれど、千早とやよいが違いすぎる)

伊織(千早とは距離感が違うしやよいとも距離感が違う)

千早「私はここから7Iを使うわ」

伊織「流石に大きすぎないかしら」

千早「ランを出さない打ち方をするのよ」

パコーン

伊織(トップした? これじゃグリーンをオーバーしちゃうわ)

亜美「でた!ちはやお姉ちゃんのブレーキボール!」

伊織(ミドルアイアンを使ってグリーン上でこの急停止。おかしいでしょ)

やよい「私はここから7Iを使いますね」

伊織「流石に大きすぎるでしょ。30yardないのよ」

やよい「大丈夫だよ、伊織ちゃん。グリーンはかなり奥の方だから」

ポコン

伊織(あ、これはやばいわ。この距離からチップショットなんて)

カコーン

やよい「うっうー! やりました!」

亜美「凄いよ!やよいっち!」

亜美「亜美はここからPWを使うよ」

伊織「そうよね! ゴルフってそんな感じよね」

パコーン

伊織「ナイスオン!」

伊織「千早のパッティングはかなり長い下りだけどどうするの?」

下りは得意なの。真に結構、こけっこーなのよ」

パコッ

伊織「(え? 無回転? パターでそれはありえないでしょ)

カコーン


亜美「亜美は普通に打つよん」

パチッ

千早「いつでも強めに打てるのは心が強い証拠ね」

やよい「そうですね」

亜美「やったー」

伊織(確かにすごいわ。ここまで全部一切ブレることなく強めに打っている)

――勝負ホール――

伊織(ここが勝負時ね)

パコーン

伊織(しまった。OBだ)

伊織「……」

打ち直し

伊織(グリーンに乗らなかったわ。こうなったら微妙な位置だけど一か八かでパターでカップを狙って)

やよい「伊織ちゃん」

伊織「なによ」

やよい「カラーまで上りでそこから先はカップまでずっと下りだよ」

伊織「だから何よ。カップに入ったらちゃんと止まるじゃない」

やよい「もし伊織ちゃんのこのストロークが2打目だったら同じことする?」

伊織「……」

やよい「一生分の平均スコアで勝負だよ」

伊織「……SWを使うわ」

やよい「流石いおりちゃんだね。左右に傾斜はないから絶対に大丈夫だよ」

凸っ

伊織(しまった。少しダフったわ)

伊織(カラーは超えてグリーンには落ちたけど……)

亜美「凄いよいおりん!完全にラインに乗って転がってるよ!」

千早「あとほんの少しでカップインだったわね」

伊織「いえ、これだけ寄ったのよ。十分だわ」

やよい「いおりちゃん、ナイスダブルボギー」

伊織「ありがとう、やよい」

――最終ホール――

伊織(今までで一番って思えるくらいいいラウンドだった)

伊織(全員がそれぞれのハンデでパーセーブ中。やよいだけが+2ね)

伊織(ただやよいのスコアを崩したのは私のダブルボギー。あれさえなければ同じリズムで進められたはず)

パコーン

伊織「(今日1がここで出た。2打目、3打目も上手く打てる確信がある)

やよい「どうしたのいおりちゃん。難しい顔をしてるけど」

伊織「とても楽しいゴルフだったわ。もう終わるかと思うと残念ね」

やよい「本当だね。よーし、後3打がんばりますー」

バチコーンッ!!

伊織(諦めていないどころか、平常心だわ)

伊織(あと3打って……イーグル狙いなわけ?)

伊織「ライがいい。2打目は3Wが使える」

パコーン

伊織(ベターショット。距離はそこそこで3打地点もライがよさそうね)


伊織「やよいはどうするの?ライはいいしもしかしたら2打でオングリーンするかもしれないわ」

やよい「グリーンには届かないけど私も3Wを使うよ」

バチコーンッ!!

やよい「いえい!」

伊織「もう少し、ほんの少しでグリーンなのに」

やよい「私の飛距離じゃ届かないよ。けど絶対に大丈夫だよ」

伊織「3打目はPWで行くわ」

やよい「伊織ちゃんなら48度の距離じゃないかな?」

伊織「私は絶対に勝ちたいの。今、ボールは完璧な芝の上にのっかっているわ」

伊織「もうほとんどティアップしているようなものだからボールのスピンも落ちた後の転がりも読める」

伊織「PWを少し短く持って普通に振りぬくわ」

やよい「うん!」

パコン

カップまで2m

やよい「ナイスショット」


伊織「やよいはどうするの?」

やよい「私はこれです!」

伊織「4Iはもうなんだかわからないわね」

やよい「いおりちゃんと同じだよ。ボールが完璧な芝の上にのっかってる」

やよい「スピンは掛けない。完全なノースピンで打つから落ちた後の転がりも読めるよ」

やよいはグリーンの芝をを見にいき、そして戻ってくる。

伊織「4Iでのノンカット・ロブ・チップ、いきますよー」

コンッ

伊織「(アイアンでノースピンだなんて。ボールのプリントがはっきり見えるわ)

コロコロ

伊織「(完全にラインに乗っている。ボールの走りも完璧ね)

カコーン

やよい「いえい!」

伊織「脱帽だわ」

――結果発表――

亜美「ネット1位、千早おねーちゃん」

亜美「ネット1位タイ、いおりん」

亜美「ネット1位タイ、やよいっち」

亜美「ネット1位タイ、亜美だよー」

千早「くっ! あの羅綾をカップにねじ込めれば!」

亜美「まーまー。1ラウンドに4回もチップインを出したら罰が当たるよ」

伊織「あのパターさえねじ込めれば!」

亜美「まーまーいいゴルフだったよいおりん」

やよい「頑張りましたー」

亜美「最後にイーグル出してイーブンパーに戻すんだから。やよいっちは不死鳥だね」

亜美「そして亜美の見事なパーパットで幕を閉じたのです」

パチパチパチ

伊織「勝負は流れてしまうのね……」

千早「水瀬さん、次こそは必ず」

やよい「じゃあみんながパーおじさん※に勝ったのでお互いに流しっこしましょう」

―――
――


やよい「いいお湯だったね」

亜美「本当だね」

千早「とてもいいお湯だったわ……」

伊織「……ええ」

伊織(それもそうだけれど)

伊織(今日は最高のゴルフだったわ)

伊織(そういえば……)

伊織(……よかった。パンツまでは黒じゃなかったのね)



おしまい

※パーおじさん
オールドマン・パー(英語: oldman par)とは、ゴルフにおける概念。ボビー・ジョーンズが著書『ダウン・ザ・フェアウェイ(Down the Fairway)』で記した概念はゴルフの本質を端的に表すものとして語り継がれている。
オールドマン・パーはバーディーも出さないが、ボギーも出さない。パーおじさんと各ホールで戦うことこそがゴルフなのだとボビー・ジョーンズは述べている。
他のプレイヤーと競うのではなく、ゴルフコースのパーとのみ戦うことの積み重ねが自身のスコアにつながるという考え方である。

765プロのアイドルにゴルフをさせたかった。

妄想している間は楽しかったけれど文字に起こすと大変だったのでまたいつか頑張る。

千早だけおかしなゴルフをしているのは、小池一夫先生と叶精作先生の名著「新上ってなンボ!! 太一よ泣くな」から引用しているから。
漫画のゴルフは必殺技があって楽しい。

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