モバP「どうってことないさ、どうってことないさ」 (45)

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346プロダクションから内定をもらった

どうってことないさ

たくさんある企業のうちの一つさ

大学を卒業した

どうってことないさ

やるべきことをやって評価をもらってそのまま出ただけさ

346プロダクションに入社した

どうってことないさ

だって内定をもらってたからさ

エース事務員の人が新人研修をしてくれた

どうってことないさ

優しくて美人だからさ

研修でいい成績を収めた

どうってことないさ

たまたま出来が良かっただけさ

研修期間の後僕はプロデューサーに着任した

どうってことないさ

先輩の後ろくっついてくだけだからさ

スケジューリングを任された

どうってことないさ

空欄を埋めるだけだからさ

アイドルのレッスンの様子を見させてもらった

どうってことないさ

踊るのは僕じゃないからさ

ちょっとしたヘマをやらかして先輩に怒られた

どうってことないさ

失敗しない人間なんていないからさ

先輩と飲みに行った

どうってことないさ

だって僕お酒強いからさ

先輩から任される仕事の量が増えた

どうってことないさ

全部簡単なことだからさ

先輩から「お前、プロデューサーに向いてるよ」って言われた

どうってことないさ

きっとみんなにそう言ってるからさ

先輩のフォローをした

どうってことないさ

でも先輩は僕に謝ってた。

先輩の様子がおかしい

どうってことないさ

この人変人だからさ

.


先輩が病に倒れた。


その後任が僕だった

どうってことないさ

いつかは僕も仕事を取らなきゃいけないものだからさ

初めてついたアイドルが同い年だった

どうってことないさ

年が近い方が話も弾むしさ

先輩と違って全然仕事が取れなかった

どうってことないさ

最初はそんなもんさ

やっと仕事が取れた

どうってことないさ

止まない雨はないのさ

その仕事は小さい規模のものだった

どうってことないさ

ここからコツコツと積み重ねていけばいいのさ

先輩のお見舞いに行った

「どうってことないさ」

先輩はそう言ってたさ

.



先輩が死んだ。


葬式に出た

先輩についてたアイドルたちが泣いてた

はじめて僕についたアイドルの子だけが泣いてなかった

「『どうってことないさ』でしょ」だって

そんなわけないだろ

僕も泣いた

憧れの先輩だったからさ

火葬したお骨を骨壷に入れるのを親族に許された

涙で視界が歪んでまともに骨を掴めない

僕についたアイドルの子に助けてもらって、やっとのことでお骨を骨壷に入れた

ひとしきり泣いて、泣いて、泣いた。

翌日からライブの仕事が増えた

どうってことないさ

泣いてなんかいられないさ

ライブの規模が大きくなってきた

どうってことないさ

こんなんでビビってちゃ武道館とかSSAなんてどうするのさ

僕につくアイドルが増えた

どうってことないさ

先輩にくっついてた頃に知ってる子達ばっかりだったからさ

スカウトの仕事を任された

どうってことないさ

ティンときた子を引っ張っていけばいいだけさ

そろそろ僕一人じゃアイドル全員を把握することが難しくなってきた

どうってことないさ

先輩はもっと頑張ってたもんさ

.


僕が倒れた。


視界がぐにゃぐにゃになってアイドルの顔とスケジュール表の見分けがつかなくなった

しばらく休んだ

「どうってことないさ」って言ったら

初めて僕についた子、泣きながら僕を打った

どうってことないさ

女の子に殴られるのは慣れてるからさ

1週間で復帰した

どうってことないさ

だって僕はまだ若いからさ

流石にアイドルは減らされてた

どうってことはないさ

適量ってものがあるからさ

いよいよ大規模ライブが明後日に迫ってきた

どうってことないさ

今までそうやって成功させてきたからさ

大規模ライブは明日だ

どうってことないさ

リハーサルも通しも全部全部完璧だったからさ

今日がその日だ

どうってことないさ

先輩も見守ってくれてるさ

大盛況、大歓声の中、アンコールも出て、すごい盛り上がりだった。

初めて僕についた子が「ありがとう」って言ってくれた。

僕はまた泣いてた。

人がいなくなった後のホールもまだ熱気に包まれているようだった。

「おつかれ」

初めて僕についた子が言う。

その子から猛烈なアプローチを食らった

どうってことはないさ

人間だもの、人間を好きになったって、当然さ

割とマジのアプローチだった

どどどどど童貞ってことはないさ

……ただ、初体験の相手はプロだったけどさ

その後僕たちがどうなったかって?

どうってことないさ。




ここまで読んでくださってありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。

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