【ラブライブ】穂乃果「お前の罪を数えろ」【仮面ライダーW】 (239)

更新遅め。
シリーズもの。
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【ラブライブ】穂乃果「さぁ、お前の罪を数えろ!」【仮面ライダーW】
【ラブライブ】穂乃果「さぁ、お前の罪を数えろ!」【仮面ライダーW】 - SSまとめ速報
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以上のことが大丈夫な方はぜひお付き合いください。
「これで決まりだ」

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~~~~~~




「ん……」



光。
目をつぶってても感じるそれで目を覚ます。



「あ、れ?」



まだ状況を理解してない頭で、ぼんやり思い出す。

なに、してたんだっけ?
たしか、人を待ってて……待ちくたびれて寝ちゃったんだったっけ?
机に突っ伏して寝てたせいで、ちょっと体が痛いかも……。



「穂乃果!」

「穂乃果ちゃんっ」



ふと聞き慣れた声がした。
わたしーー高坂穂乃果は、さっきまで突っ伏していた机から顔をあげた。
そこにいたのは、二人の幼馴染。
穂乃果は、待たせたことを非難するように、二人の名前を呼んだ。



穂乃果「遅いよ!」



穂乃果「海未ちゃん! ことりちゃん!」



ことりちゃんは申し訳なさそうな顔で。


ことり「ごめんねぇ、長引いちゃって……」

穂乃果「ほんとだよぉ!」



一方の海未ちゃんはなぜか怒ったような表情だ。
んん?



穂乃果「海未ちゃんも!」

海未「…………」

穂乃果「……海未ちゃん?」



あ、あれ?
様子が変だよ?
……えっと、そもそも穂乃果はなんでここーー生徒会室で待ってたんだっけ?



海未「それは、穂乃果が生徒会長の仕事を溜めていたせいでしょう?」

穂乃果「あ……」



思い出した!
穂乃果の仕事が溜まってたせいで、二人に動いてもらってて。
それで、穂乃果は一段落したから疲れて、寝てたん……でした。



海未「…………」



ヤバい!?
すごく笑顔だ!?
こういうときの海未ちゃんはーー




海未「穂乃果ぁぁぁっ!!!」



穂乃果「ご、ごめんなさぁぁぁい!」




高校2年生の冬。
穂乃果たちは今日も音ノ木坂で、楽しい学校生活を送ってる。

幸せな毎日だ。



~~~~~~

『最後のE/永遠の友情』

~~~~~~



穂乃果「おはよう!!」



とある日曜日。
穂乃果はアイドル研究部の部室を勢いよく開いた。



希「おはよう、穂乃果ちゃん」

絵里「おはよう。穂乃果」



答えてくれたのは、3年生の絵里ちゃんと希ちゃん。
穂乃果より先に部室に来てたみたい。



穂乃果「早いね、二人とも」

絵里「えぇ。少し用事があってね。早めに出たのだけれど」

希「えりちが有能やから、思ったより早く終わったんよ」

穂乃果「そうだったんだ! さすが、絵里ちゃん!」



流石は絵里ちゃん!
やっぱりできる女! って感じだよねぇ。



絵里「…………や、やめてよ。恥ずかしい」

希「ふふふっ」

穂乃果「ふふっ」



その上、かわいい。
隙がない!

かわいい、といえば……。



穂乃果「1年生のみんなは?」



部室を見回しても3人の姿が見えない。
いつもエネルギッシュで部室に一番乗りする凛ちゃんとそれに連れられてくる花陽ちゃんと真姫ちゃん。
更衣室にも、いないっぽいし……。



絵里「……ふふっ」

穂乃果「ん? どうかしたの?」

絵里「いえ、あの三人は遅れてくるそうよ? 凛がまだ寝てるんだって」



クスクスと笑いながら、絵里ちゃんはスマホの画面を見せてきた。



穂乃果「あははっ」



つられて笑う。

画面には一枚の写真があって。
そこには、布団にくるまる凛ちゃんと必死に起こそうとする真姫ちゃんの姿があった。
どっちもパジャマ姿で……。


希「お泊まり会、だそうよ」



たぶん、夜遅くまで話してたんだよね。
穂乃果も、海未ちゃんとことりちゃんとお泊まり会するとそうなるから分かるなぁ。



絵里「真姫によると、花陽もつられて寝始めたらしいわ」

希「真姫ちゃんが諦めるのも時間の問題やね」



凛ちゃんたちを起こそうと頑張る真姫ちゃんを思い浮かべて、また笑みがこぼれる。



希「というわけで、1年生は遅刻やろなぁ」

穂乃果「そっか。それはしかたないねぇ」

絵里「そういえば、海未たちは?」


一緒じゃないの?
珍しいわね。

そう聞く絵里ちゃん。
えっと、二人は……。



ーー ガチャッ ーー



海未「……遅れました!」

ことり「ごめんなさい」



噂をすれば、ってやつで。
二人が息を切らせながら、姿を見せた。



ことり「って、あれぇ?」

海未「三人、だけですか?」



意外そうな顔をする二人。
ふと時計を見ると、あと30分もすれば練習が始まる時間だった。
けっこう話してたのかぁ。



希「実はなぁーー」



1年生組の話を希ちゃんがして。
納得する様子のことりちゃん。
海未ちゃんは…………呆れてるっぽい。



海未「まったく、凛は…………はぁぁ」

穂乃果「まぁまぁ、海未ちゃん」

海未「…………そういえば、どこかの誰かさんも似たようなことをしてましたね」

穂乃果「うぐっ」



しまった!
凛ちゃんをよーごしようとしたら、こっちに飛び火した!


ことり「……って、あれ? にこちゃんは?」

絵里「え、あぁ……そろそろ来るんじゃないかしら?」



そう言って、絵里ちゃんはチラッと時計を確認する。



穂乃果「?」

希「あー、にこっちは妹ちゃんたちの朝ごはんとか作ってから来るって言ってたんよ」

穂乃果「おぉ……主婦だ」



そういう自立しているところは、穂乃果にも見習ってほしいですね。
なんて、海未ちゃんに言われる。

うぅぅ。
なんか今日は変にとばっちり受ける日だ……。





ーー ダッダッダッ ーー



希「お! こっちも噂をすればやね」



ーー ガラッ ーー



にこ「待たせたわね!!」



部室のドアを開けて、にこちゃんがやって来た。



にこ「って、1年生は?」

絵里「ふふっ」
穂乃果「あははっ」



同じ反応をするにこちゃんを見て、絵里ちゃんと顔を見合わせて笑っちゃった。
まったく、穂乃果たちって仲いいなぁ!



~~~~~~





ーー ザザザザザザザザザッ ーー



短いですが本日はここまで。
最終話もお付き合いいただけると幸いです。

やっと時間ができたので更新します。

~~~~~~



幸せは長く続かない。
幸せを感じれば、すぐに絶望がやってくる。

そう。
例えばーー




海未「穂乃果!!」

穂乃果「うぅぅぅ、もう無理だよぉ」



穂乃果「こんなに勉強したら死んじゃうよぉ」



楽しいお泊まり会が一瞬で絶望の勉強会にへんぼーしたように。



穂乃果「大体、勉強なんて今、やんなくたっていいじゃん!」



海未ちゃんの勢いにやられて始めちゃったけど。
定期テストがあるわけでもないから、必要ないと穂乃果は思うんです。



海未「学生の本分は勉強です。私達がスクールアイドルであってもそれは変わりません! ね! ことり!」

ことり「ま、まぁ、そうかなぁ」



くっ!
まるでお母さんか先生みたいなことを……!

……こうなったら!



穂乃果「ことりちゃん!」

ことり「な、なぁに?」

穂乃果「海未ちゃんに惑わされちゃダメだよ!」

ことり「え、えぇぇ!?」

ことりちゃんろーらく作戦だ!



穂乃果「ことりちゃん」

ことり「は、はい」

穂乃果「穂乃果たちは、じょしこーせーです」

ことり「しってます」

穂乃果「じょしこーせーの本分は勉強ではありません」

ことり「え?」

穂乃果「じょしこーせーの本分はガールズトークです」

ことり「えぇぇ!?」

穂乃果「甘いもの……例えば、ことりちゃんが今日のために作ってきてくれた美味しいおかしを食べながら、恋バナとかをするのです」

ことり「恋バナ……」



おぉ!
反応あり!
これなら……!



海未「……穂乃果」



と、ここで海未ちゃんが口を出してきた。
けど、もう遅い!
ことりちゃんはもう穂乃果側についてる!
これならば、海未ちゃんにも勝てる!



穂乃果「なにかな、海未ちゃん」

海未「恋バナなんて、貴女できないでしょう?」

穂乃果「………………」

海未「…………」



穂乃果「…………ス、スクールアイドルに恋してる!」



海未「…………はぁぁ、ほら、やりますよ。甘いものはそのあとです」

穂乃果「うぅ……がくっ」

ことり「もうちょっとだけがんばろ、穂乃果ちゃんっ」



結局、穂乃果たちはその晩、勉強し続けたのでした。



~~~~~~





ーー ザザザザザザザザザッ ーー



~~~~~~



凛「練習終わったにゃぁぁ!!」



休日の練習も終わって。
凛ちゃんの声に、開放感を感じて、穂乃果もひとつ伸びをする。



凛「穂乃果ちゃん!」



と、凛ちゃんに声をかけられた。
お隣には花陽ちゃんもいる。



穂乃果「なに? 凛ちゃん? 花陽ちゃん?」

花陽「もしよかったら、一緒にご飯行かないかなって」

穂乃果「ご飯?」

花陽「うん!」



ふむ。
凛ちゃんと花陽ちゃんが一緒ということは、恐らくラーメンとご飯が美味しいお店なんだろう。
ならーー



穂乃果「行かない理由はないよ!」ガシッ

凛「そう言ってくれると思ってたにゃ!」ガシッ



凛ちゃんと固い握手をする。
そうと決まれば、あとは行動に移すだけだ。



穂乃果「凛ちゃん、花陽ちゃん……」

凛「…………」コクッ

花陽「……」チラッ



やるべきこと。
それは、



海未「…………絵里、ここのステップなのですが……」

絵里「あぁ、私も気になってたのよ。海未はどう思う?」

海未「私はもう少し大きく動いてから、次の見せ場にーー」



そう。
海未ちゃんにバレずに動くことだ!

ラーメンとご飯。
それは高カロリーの化身。
海未ちゃんにバレたらきっと止められる。
その上、ダイエットも課されることになるのは目に見えている。

けど、穂乃果はあきらめないよ。
二人が見つけた美味しいご飯屋さんに行くんだ。





真姫「海未、また穂乃果と花陽が高カロリーなもの食べようとしてるわよ」



穂乃果「!?!?!?」

花陽「!?!?!?」

予想外の人物からの裏切り行為。
な、なんで……なんで真姫ちゃんが……?



穂乃果「真姫ちゃん!?」

花陽「なんで!?」



真姫「いや、だって、貴女たち最近、少し…………」



ほのぱな「「え……」」



なに?
最近少し……なに……?

真姫ちゃんの言葉の先。
それを聞こうとして、でも、それは叶わない。
だって、



海未「……………………」



ほのぱな「「ひぃぃぃぃぃ……」」



ご飯は食べれました。
けど、そのあとのランニングのことは思い出したくありません。



~~~~~~





ーー ザザザザザザザザザッ ーー



ーーーーーー



警察病院に入院してる凛ちゃんと海未ちゃん。
まだ意識が戻らない二人のお見舞いからの帰り道。



真姫「ボロボロね」



ポツリと。
真姫ちゃんがそう言った。



穂乃果「うん」

真姫「私には理解できないわ」



ボロボロになってまで戦う理由なんて。

真姫ちゃんからしたら、友達が傷ついていくのは見てられないだよね。
それはもちろん、穂乃果だって同じ。
でも、



穂乃果「凛ちゃんが戦ってくれたから、海未ちゃんは救われた」

真姫「……分かってるわ」


真姫「でも、それとこれとは別よ」

穂乃果「…………うん」

真姫「友達が傷つくところなんて、見たくないもの」



そう、だよね。



真姫「穂乃果」

穂乃果「なに?」

真姫「あなたは…………ボロボロになっちゃダメよ」

穂乃果「……わかってるよ」

真姫「誰かを助けようとするのはいいけど、自分を犠牲にしたら意味ないわ」

穂乃果「……大丈夫だよ。穂乃果は」



大丈夫。
だって、穂乃果には誰かを助ける力なんてない。
だから、大丈夫。


穂乃果「穂乃果の協力者も動いてくれるみたいだし」カチャッ



穂乃果のポケットにあるこの『メモリ』も、彼に返そう。
穂乃果が持ってても、宝の持ち腐れだもん。



真姫「…………」ジッ

穂乃果「って、どうかした?」



なんだか真姫ちゃんにじっと見られてたけど……?
なんだろう?
穂乃果の顔になにかついてる?



真姫「……ついてないわよ」

穂乃果「そう?」

真姫「えぇ……ただ…………」



ただ?
なに?



真姫「ううん」

穂乃果「?」

真姫「……ねぇ、穂乃果。約束して」



真姫「無茶しないでよ?」

穂乃果「…………あはは、心配性だなぁ、真姫ちゃんは」




穂乃果「わかってるよ。約束する」




ーーーーーー

ーーーーーー



『真姫ちゃん』

真姫「なに?」



『穂乃果ちゃんのこと見ててな』



真姫「急に電話なんてしてきて、なにかと思ったら……」

『ごめんなぁ……でも、なんだか危ういから』

真姫「危ういって、穂乃果が?」

『うん。今は海未ちゃんもことりちゃんも穂乃果ちゃんの近くにはおらんし』

真姫「……………………」



真姫「………………分かったわ。でも、私にできることなんて限られてる」



『それでも……』

真姫「約束させる。絶対に無茶しないって」

『そうやね』

真姫「そっちも……絵里と亜里沙、大丈夫?」

『うん。二人とも落ち着いてる』

真姫「そう。なら、よかったわ」

『そういえば、海未ちゃんたちのお見舞いはもう行った?』

真姫「ううん。まぁ、明日辺り穂乃果も連れて行ってくるわ」

『……うん』



ーーーーーー

ーーーーーー

短いですが、本日はここまで。
仕事が一段落しましたので、更新の時間もとれるかと思います。
お付き合いしていただける方、待たせてしまいすみません。

本日更新予定。

ーーーーーー



ーー コンコン ーー



穂乃果「入るね?」



音乃木坂のアイドル研究部の部室の扉を開く。
冬休みに入ってるけど、中には部員はいなかった。
一人を除いて。



花陽「穂乃果ちゃん」

穂乃果「こんにちは、花陽ちゃん」



中にいたのは、花陽ちゃんだけ。
椅子にちょこんと座り、何かにペンを走らせていた。



穂乃果「それは?」

花陽「日記だよ」

穂乃果「へぇ」



ちらっと見る。
可愛らしい字……花陽ちゃんの字だ。

毎日、なんとなく書くのが習慣になっちゃって。
そう言って、花陽ちゃんはペラペラとページをめくる。

そして、あるページで、ピタッとめくるのを止めた。



花陽「…………」

穂乃果「花陽ちゃん……?」




花陽「…………海未ちゃんのこと、だけど」



うつむいて呟く花陽ちゃん。
なにを言おうとしてるのか、それだけでなんとなく気づいた。
なら、穂乃果が言うべきことはひとつだけ。



穂乃果「気にしないで」

花陽「っ、でも!」



穂乃果「海未ちゃんは助かったんだから」

穂乃果「それで、もういいんだよ」



井坂医院での戦いの前。
そこへ向かう道中で凛ちゃんから聞いていた。

花陽ちゃんが海未ちゃんをことりちゃんの元へ呼んだこと。
それを花陽ちゃんはずっと後悔してたってことも。

だから、凛ちゃんはあんなになるまで戦ったんだと思う。
でも、だからこそ、勝てたんだとも思う。
花陽ちゃんの想いも背負ってたから、恐ろしく強い海未ちゃんを倒すことができたんだ。


穂乃果「穂乃果の協力者が言ってたんだ」

穂乃果「凛ちゃんは『メモリ』の性能を限界まで……ううん、それ以上にまで引き出したんだって」



えくすとりーむ? だったっけ?
いまいち詳しいことは分からなかったけど。




花陽「それって……」

穂乃果「うん。凛ちゃんが倒れちゃったのもそれが原因らしいんだ」

花陽「…………っ」



限界以上の力で戦った故の代償。
まぁ、2、3日もすれば目は覚めるらしいけど。

でも、そんな力を引き出せたのは、単に適合率が高かったからだけじゃないらしい。



穂乃果「ガイアメモリは使用者の心に大きく左右される」

穂乃果「嫉妬。憎しみ。欲望」

穂乃果「特に、負の感情に反応してメモリは強くなる。花陽ちゃんも見てきたもんね」

花陽「…………うん」


そうして、強い感情はその人自身の心を飲み込んで、壊れてく。
それを穂乃果たちは見てきた。
でも、




穂乃果「凛ちゃんは違った」

穂乃果「凛ちゃんは皆との約束で、皆の想いで強くなった」



穂乃果「ほんと、すごいね、凛ちゃんは」

花陽「…………うん。ほんとに凛ちゃんはすごいんだっ」







ーー prprprprprpr ーー



穂乃果「っ、ごめん!」

花陽「え、あっ、うん」



急に鳴った電話の音に、体が震えた。
画面を見ると、そこには穂乃果の協力者の名前が表示されていた。



穂乃果「………………」



スマホじゃなくて、こっちの携帯にかかってきたってことは……。
…………よし。



穂乃果「……花陽ちゃん」

花陽「う、うん」スッ



全部を言わなくても、花陽ちゃんは察してくれたようで。
凛ちゃんが使っていた『それ』を、穂乃果に差し出した。



穂乃果「うん。確かに受け取ったよ」ガシャッ

花陽「…………うん」

ヒンヤリとした機械の冷たさ。
そして、重さを感じる。
たぶん……にこちゃんや凛ちゃんにはこれがもっと重く感じたんだろうなって考えて。
巻き込んでしまったことへの罪悪感が沸き上がる。



花陽「……あ、あの、穂乃果ちゃん」

穂乃果「え?」



ふと、名前を呼ばれた。
手元のそれから視線をそらし、顔を上げる。
目の前の彼女は、なんだか少し言いずらそうにーー。



花陽「ずっと言いそびれてたから……その……」




花陽「凛ちゃんやにこちゃん……みんなの力になってくれて」

花陽「ありがとう」




穂乃果「っ」

花陽「たぶん、穂乃果ちゃんがいなかったら、花陽たちはもっと危険な目にあってたはずだから」



ありがとう。
花陽ちゃんはそう言って微笑んだ。
…………ううん。
違うんだよ。
穂乃果はただ、二人を利用しただけ。
感謝なんてされるようなことなんてーー。



花陽「でも、穂乃果ちゃんが来て、『それ』を渡してくれなかったら、きっと皆もっと大変なことになってた」

穂乃果「それは、結果論、だよ……」

花陽「それでも、ありがとう」

穂乃果「…………」



その言葉は、でも、やっぱり受け取れない。
私のせいで……。
そう思う部分はやっぱりあるから。
その思いは無くならない。



花陽「…………そっか」

穂乃果「……うん」

花陽「ならーーなら、約束です!」

穂乃果「……え?」




花陽「ちゃんと戻ってきてね」

花陽「ことりちゃんと一緒に」




穂乃果「っ、うん!」



ーーーーーー

ーーーーーー



ーー prp



『やっと出たね』

『『ドライバー』は…………回収できたなら、これ以上は文句は言わないさ』



『さて、用件だがーー』

『……………………』

『察しがよくて助かるよ』

『あぁ。その通り』



『『亜坂真白』の居場所を突き止めた』



『これから僕たちは動く。彼女の野望を終わらせるために』

『君は…………そうか』

『いや、そういう人間だったね』

『僕がなにを言っても聞かない頑固なところ、『相棒』とそっくりだよ』

『いや、何でもない。こっちの話さ』



『まぁ、確かに君は依頼人だ。ならば、事件の結末を見届ける権利がある』

『分かった』



『それじゃあ、『鳴海探偵事務所』まで来たまえ』

『役者が揃い次第、終わらせるとしよう』



『ーーこの事件を』




ーーーーーー

ーーーーーー





ーー ザザザザザザザザザッ ーー



短いですが、本日はここまで。

更新します。

~~~~~~



穂乃果「なんで」

凛「凛たち」

にこ「こんなところで勉強なんてしてるわけ!?」



バンッと机を叩いて立ち上がるにこちゃん。
それに倣うみたいに、穂乃果たちも立ち上がった。



穂乃果「そうだ、にこちゃんの言う通りだよ! 凛ちゃん!」

凛「なに!」

穂乃果「今、世間はどんな時期!」

凛「クリスマス!!」

穂乃果「その通り!!」



そう!
今、世間はクリスマスムードで盛り上がってる。
イルミネーションで街灯もいつも以上に輝いて、なんとなく街全体が浮かれている時期だ。
真姫ちゃんじゃないけど、みんなクリスマスは楽しみにしてたはずだ。

なのに!




にこ「穂乃果! 凛!」

ほのりん「「うん!」」

にこ「こんなところで油を売ってる暇はないわ!」

ほのりん「「にこちゃん!」」

にこ「今すぐこんなところから脱出してーー」





「穂乃果?」

「……ちょっと、凛」

「にこっち~~?」




にこほのりん「「っ!?」」

一致団結した穂乃果たちの後ろ。
部屋のドアの方から声が聞こえた。
買い出しに行ったはずの3人の声が…………。

いや、いやいやいや。
そんなわけないよね。
ここから近くのコンビニまでは少し歩かないといけない。
だから、こんなに早く帰ってくるのはありえーー




海未「穂乃果?」

穂乃果「ひぃぃぃ!?」




いやぁぁ!?
やっぱりいたよ!?



真姫「まったく……少し目を離すとこうなんだから」

海未「まったくですね」



呆れたようにため息を吐く二人。

赤点を取って、本戦に進めなくてもいいんですか?

うっ……。
海未ちゃん、それを言うのはずるいよぉ!
確かに、それは困るけどさぁ……。



希「ん~、真面目にやらないならしゃあないなぁ」

穂乃果「? 希ちゃん」



希ちゃん?
なんだか腕組みして唸ってるけど……?



希「真面目にやらないなら、ワシワシするよぉぉ♪」

にこほのりん「「ひぃぃぃ!?」」



あの手の動き!?
そして、あの表情!?
本気だ!?



凛「はい! 凛はちゃんとやろうとしたよ!」

にこ「ちょっ!?」

穂乃果「凛ちゃん! それはずるいよ!」

凛「二人はやってられるかって言ってたけど、凛はそれはそれはちゃんとえーごの勉強を!」

にこ「なに言ってんのよ! あんた、単語じゃなくてイラスト描いてたでしょ!」

凛「!?」

穂乃果「はい! 穂乃果はちゃんとやってたよ! ほら、えっと…………るーとのやつ!」

凛「穂乃果ちゃんも凛と絵しりとりしてたにゃ!!」

にこ「ふっふーん、その点にこはビブンセキブーンやってたし~♪」

穂乃果「それこそにこちゃんはポーズの練習してたじゃん!」

にこ「なっ、と、というか、アイドルには数学なんて必要ーーーー」



希「……まぁ」

にこほのりん「「っ」」ビクッ




希「皆、おしおきやね♪」ワキワキワキワキ

にこほのりん「「ひぃぃぃぃぃぃ!?!?」」





ーー ガチャッ ーー



絵里「希~、ケーキ買ってき………………なにしてるの?」

花陽「ピャァ!?」

ことり「ほ、ほのかちゃん?」



にこほのりん「「」」ピクピク



希「ん~? おしおき♪」ニコッ




~~~~~

~~~~~~



穂乃果「よし! 肝試しだ!」

にこ「はぁ?」

ことり「え、えっと……?」



穂乃果の家で、衣装の相談をしていた時のこと。
穂乃果はこの間から考えていたことを切り出した。

にこちゃんとことりちゃんは何を言ってるのか分からないといった様子。
一方の凛ちゃんは、



凛「やろう!」



即答だった。
流石、次期リーダー!


ことり「えっと、穂乃果ちゃん……?」

穂乃果「なに? ことりちゃん?」

ことり「なんで、今、肝試しなんて……クリスマスも終わって、もうすぐ大晦日だよ?」

穂乃果「ふむ」



ことりちゃんの疑問はもっともだね。
普通は夏にやるものだし。
それに、本戦が目前に迫ってる時にやることじゃないかもしれない。



にこ「本戦前よ?」

穂乃果「分かってるよ。でも、やりたいんだ」

にこ「…………なにか理由があるのね」

穂乃果「うん」



さすがの穂乃果でも、こんなことなんの理由もなくは言わないよ。
それ相応の理由がある。



凛「ごくり……」

にこ「聞こうじゃない」

穂乃果「うん。それは……」

ことり「……それは……?」





穂乃果「海未ちゃんをギャフンと言わせたい!」

にこ「乗った!!」




ことり「えぇぇぇ……」


穂乃果「流石はにこちゃん!」

凛「さすにこにゃ!」

にこ「そうと決まれば、早速日にちと場所、時間まで決めるわよ!」

ほのりん「「おー!」」


ことり「ちょ、ちょっと待ってぇぇ」




穂乃果「?」

凛「どうしたの、ことりちゃん?」



計画を立て始めようと意気込んだその時、ことりちゃんが大きな声をだした。

珍しいね。
ことりちゃんが大きな声出すって……。
うーん。
どうかした?


ことり「ど、どうかしたじゃないよぉ。たしかに本戦まで少しだけ余裕はあるよ?」

穂乃果「うん。新曲自体は出来てるし。練習もしてるし、ね?」

凛「うん! ダンスもバッチリにゃ!」



あとは衣装だけって話だったもんね。
だから、今日も集まったわけだし。



にこ「あっ、大丈夫よ。衣装作成はにこたちも手伝うし」

ことり「そ、そうじゃなくてっ」

凛「?」



ことり「そんなことやってる場合じゃないと……ことりは思うんだけど……」



にこほのりん「「…………」」


にこ「……」チラッ

穂乃果「…………」コクリ



にこちゃんとアイコンタクト。
うん。
うまく伝わったみたいで、にこちゃんはことりちゃんの肩を軽くつかんだ。



にこ「ことり、いい?」

ことり「う、うん」

にこ「新曲の練習は完璧よ。だからこそ、ここで少しゆるめるべきだわ」

ことり「ゆるめる……?」

にこ「えぇ。例えば、気合が入りに入りまくってる海未には、少しガス抜きが必要だと思わない?」

ことり「そ、それは…………うん。たしかに、海未ちゃん、根をつめすぎかなって思うよ?」



よし!
にこちゃんの説明に、ことりちゃんも納得しかけてる。
これならーー



ことり「でも、それなら肝試しじゃなくたって…………お泊まり会とかでも……」

にこ「っ、それは…………そうね」



にこちゃん!?
なんで、納得してるの!



にこ「…………」チラッ

穂乃果「……」コクリ



しかたない。
穂乃果が話をするしかないね。

穂乃果「ことりちゃん!」

ことり「は、はい!」




穂乃果「怖がる海未ちゃん、かわいいよ、きっと!」




ことり「…………………………」

穂乃果「……………………」

ことり「…………」




ことり「お母さんに聞いてみる! 学校使おうっ」




にこほのりん「「よしっ!」」



ことりちゃんは堕ちた!
これなら…………。

フフフッ!
覚悟してなよ、海未ちゃん!




~~~~~~





ーー ザザザザザザザザザッ ーー







『フフッ♪』


短いですが、本日はここまで。
レス感謝です。

書きます。

~~~~~~



夜の学校。
普段はこんな時間に学校になんて入らないから、すごく新鮮に思える。
それに、みんなも一緒だっていうのがもっとワクワクを加速させてて。



希「楽しそうやね?」

穂乃果「うん! すごく!」



肝試しでペアになってる希ちゃんの問いかけにうなずく。



希「ふふっ、それにしてもさすが、穂乃果ちゃんやね」

穂乃果「?」

希「冬に肝試し、なんて普通は考えつかんよ」



えっと……?
ほめられてる、のかな?



希「ほめてるよ~。少なくともウチは思いつかないよ」

穂乃果「まぁ、ほら、みんな根を詰めすぎだったからね。こーいうのもリーダーの役目だよ」

希「クスクス」



って、ありゃ?
なんで笑われたの?



希「ほんとにそれだけ?」

穂乃果「うっ」

希「穂乃果ちゃんとにこっち、凛ちゃん発案なんて、悪巧みしてるようにしか考えられんけど?」

穂乃果「そ、それは……いや! ことりちゃんもこの肝試しの計画には参加してるから!」

希「ふぅん……まぁ、そういうことにしとくね」



また、希ちゃんは笑う。
……まぁ、でも、希ちゃんにはバレても協力してくれそうだし。
もしもの時は仲間に引き込んでもいいかも!


希「それにしても、あのペア分けは大丈夫なんかなぁ」

穂乃果「……え?」

希「ほら、ウチと穂乃果ちゃん。にこっちと凛ちゃん、それから、海未ちゃんとことりちゃん」

穂乃果「うん」



と、今、言ったような組み合わせになってる。

にこちゃんと凛ちゃんは仕掛人としていつでも動けるようにセットで。
それから、海未ちゃんの怖がる顔を一番近くで見るために、ことりちゃんは海未ちゃんと組むらしい。
…………焚き付けてなんだけど、ちょっとことりちゃん怖い。



希「まぁ、そこまではいいんやけど」

穂乃果「あー、うん」



問題は最後のペア、というかトリオで。



穂乃果「絵里ちゃんと真姫ちゃんと花陽ちゃん」

希「あかんと思う」



うん。
正直、穂乃果もそう思う。



希「ちょっと驚かしたら、3人ともパニック起こしそう」

穂乃果「あー」



たしかに、その光景が簡単に想像できるよ。
普段はしっかり者の絵里ちゃんも怖いのダメだしなぁ。
というか、最後までやらないってぐすってたの絵里ちゃんだったし。


希「しかたない。あとでおどかしにいこか」

穂乃果「お、おー」



希ちゃん、悪い顔してる……。
……冗談だよね?



希「おっと、こんな雑談してる場合じゃなかったね。早く講堂に行かないと」

穂乃果「あ、そうだった!」



今回のコースは、部室をスタートして講堂に人形を置いてくるって流れになってる。
それで、前のペアが部室に帰ってきてから交代でスタートって感じ。

だから、早くしないと次の海未ちゃんたちがスタートできない。
たぶんもう、前のペアのにこちゃんたちは持ち場に着いてるはずだしね。



穂乃果「それじゃあ、早く行こっか!」

希「そうやね」






ーー ザザザザザザザザザッ ーー






穂乃果「?」

希「穂乃果ちゃん? どうかした?」

穂乃果「え、あっ、ううん。なんか今…………」



なにか聞こえたような……?

……………………。
たぶん、にこちゃんたちが準備してる音だよね。



穂乃果「……ごめん、なんでもないよ」

希「そう? じゃあ、行こか」

穂乃果「うん!」



~~~~~~

~~~~~~



希「ふぅ、これでOKやね」

穂乃果「うん」



結局、何事もなく講堂に到着して、人形もステージの上に置くことができた。
ステージの上には、にこちゃんと凛ちゃんのペアが置いた人形もちゃんとあって。

……うん、不自然なことはなかった。
これなら、きっと海未ちゃんに今回の目的を悟られることもないよね!
あとは、ことりちゃんが怖がる海未ちゃんを写真に撮ってくれれば…………。






ーー カタンッ ーー



穂乃果「…………え?」




なにかが動く、音。
誰もいないはずの講堂に、その音が響いた。



穂乃果「っ」

希「穂乃果ちゃん……い、いまの……」

穂乃果「……………………」



穂乃果「…………にこちゃん?」

穂乃果「…………凛ちゃん?」



穂乃果「………………………………いるの?」




返事は、ない。

う、うん。
計画でも、ここには何も仕掛ける予定はなかったはず。
だとしたら、今の音は…………?




ーー カタンッ ーー



穂乃果「っ」



また!?
気のせい、じゃないっ!?



希「穂乃果ちゃんっ」

穂乃果「希ちゃんっ」

希「早く出よう! なんかここ変な感じがすーーーー







ーーーーーー ガシッ ーーーーーー




希「キャァァッ!?!?」




悲鳴。
隣を見る。
そこには、




ーー ザザザザザザザッ ーー




黒い、靄。
ノイズのかかったような音と共に、突然現れたその靄から、『なにか』が出てきていた。
その『なにか』は希ちゃんの腕を掴んでいて、




穂乃果「っ、希ちゃんを、はなせっ!!」ブンッ




怖かった。
でも、それより、希ちゃんが危ないって思ったから。
考えるより先にその『なにか』の腕を殴ろうと、してーー




ーー スカッ ーー




ーーけれど、その感触はなかったんだ。


穂乃果「な、んで!?」



確かに、穂乃果はその『なにか』を殴ったはずなのに!?
すり抜けた!?



希「ほ、のかちゃんっ」

穂乃果「っ、希ちゃん! 掴まって!」

希「っ、うんっ!」



穂乃果が差し出した手に希ちゃんはしっかりとーー




ーー スカッ ーー



穂乃果「え……」

希「な、えっ……!?」



つかめなかった。
まるで、さっきその『なにか』を殴ろうとした時みたいに。
穂乃果の手は、希ちゃんの手をすり抜けた。



希「な、んでっ、わたしっ」

穂乃果「希ちゃんッ!!!」

希「いや、わたし、こんなっーーーー





ーー ザザザザザザザッ ーー



ーー プツンッ ーー




穂乃果「……え、希ちゃん…………え」




目の前で希ちゃんが黒い靄に飲み込まれて、消えた。

理解できなかった。
一体、なんなの……?
これは、なに?



穂乃果「…………希ちゃん、どこに……いったの……?」





ーー prprprprprpr ーー



穂乃果「っ」



放心していた穂乃果を引き戻したのは、その音。
スマホの着信音だった。

って、そうだ!
みんなにもこのことをっ!

そう思って、着信の相手を確認する。
画面には、星空凛の文字。



穂乃果「っ、凛ちゃん!」



すぐに通話ボタンを押す。
そして、凛ちゃんと話をーー!



穂乃果「凛ちゃん! 大変! 希ちゃんがーー」





『助けてっ、ほのかちゃんっ』



電話の向こう側から聞こえてきたのは、確かに凛ちゃんの声。
だけど…………。



『た、たす、け、ほのかちゃ……』

穂乃果「凛、ちゃん……?」



声はガタガタと震えてて、呂律も回ってなかった。
電話口から伝わってくるこれは、寒さなんかじゃ決してない。
それは、恐怖だ。



穂乃果「凛ちゃん……おちついてっ! どうしたの!? なにがあったのっ」

『ば、ばけものっ……りん、にげてて』

穂乃果「っ、化け物!?」

『う、んっ、包丁みたいなの、がっ、からだから生えてて、今も音、するからっ』



信じられない。
何て言ってる場合じゃない。
希ちゃんのことがあったから。
……なにかはわかんない。
けど、よくないことが起こってるのは確かだ。

………………ふぅ。
一旦、落ち着こう……。
今、穂乃果がやることは……。



穂乃果「凛ちゃん、一回深呼吸して!」

『え、あ、う……うんっ』



まずは何があったか確かめなきゃ!
そして、皆とすぐに合流しよう。
そのために、



『ご、ごめん、凛……』

穂乃果「ううん。それより、凛ちゃん、今、どこにいるの?」

『あ、え、えっと……そのっ』

穂乃果「ゆっくりでいいよ」

『…………っ、調理室に』



調理室。
……そうだ。
そこで仕掛けをするって言ってたもんね。

って、そうだ!
計画ではにこちゃんもそっちにいるはずだ!



穂乃果「凛ちゃん、にこちゃんは? 一緒じゃないの?」

『あ、え、にこちゃんは……用意するもの、あるって……美術室に行って……』

穂乃果「…………わかった」



美術室なら調理室からは遠い。
なら、にこちゃんはまだ、凛ちゃんが言う『化け物』に見つかってない可能性が高い。
…………よし。



穂乃果「凛ちゃん、今からそっちに行くよ!」

『え、でも、あの怪物がっ』

穂乃果「うん。だから、凛ちゃんは海未ちゃんに連絡とってみて! それから身を守るように包丁を近くから探して!」

『っ、う、うん! わかった!』




穂乃果「すぐに行くからっ!」




凛ちゃんがそれに答えるのを聞いてから、通話を切った。

何がどうなってるのかはわかんない。
けど、今は急がなきゃ!!




~~~~~~

~~~~~~




『なによそれ!?』

穂乃果「わかんないよっ! でも、早くみんなと集まらないと!」



凛ちゃんのもとへ走りながら、穂乃果はにこちゃんに電話をかけた。
幸いにこちゃんはその『化け物』にも、 希ちゃんを飲み込んだ『なにか』にも会ってなくて。



『…………ほんとなのね』

穂乃果「うんっ」

『わかった。信じるわ』



正直、信じられないけど。
必死なのは伝わったから。

そう言って、にこちゃんはすぐに信じてくれた。
ありがたい。



『で、どうするのよっ』

穂乃果「穂乃果は調理室に向かってる。たぶん海未ちゃんとことりちゃんも来てくれるはず」

『海未に電話すれば、一緒にいる絵里と花陽、真姫ちゃんにも話は伝わるわね』

穂乃果「うん。だからーー」

『おーけー、にこもそっちに向かうわ』

穂乃果「うん! でも、気をつけて!」



みんなが合流する前に、『化け物』に会うのが一番最悪のはず。
それだけは避けなきゃ!



『分かってるわ。今のうちに、にこが警察へも電話しとく!』

『だから、あんたは凛のところへ急ぎなさい!』



穂乃果「うん!!」




~~~~~~

本日はここまで。
明日ももしかしたら更新できるかもしれません。
そのときはまた少しお付き合いください。

~~~~~~



穂乃果「凛ちゃん!」



調理室に駆け込む。
と同時に、体に軽い衝撃。



凛「っ、ほのか、ちゃっ!」

穂乃果「よ、よかった……」



穂乃果の腕の中に飛び込んできた凛ちゃんを抱きしめる。

……ほんとによかった。
間に合ったみたいだね。

凛ちゃんを落ち着かせるために、頭を撫でながら、



穂乃果「海未ちゃんたちには?」



それを尋ねる。
まだ着いてないみたいだけど。



凛「う、うん……電話したよ。すぐに来てくれるって言ってたけど……」

穂乃果「……そっか」



なら、待とう。
ここで待ってれば合流できるはずだ。

それから少し時間が経って、調理室の扉が開いた。
そこにいたのは、



にこ「凛!」



凛「っ、にこちゃんっ!」



美術室にいたというにこちゃんだった。

って、え?
ちょっと待ってよ。



穂乃果「なんで、にこちゃんが先に……?」

にこ「穂乃果?」

凛「…………穂乃果ちゃん?」



おかしい。
凛ちゃんが海未ちゃんに電話したのと、穂乃果がにこちゃんに連絡したのはほぼ同時のはず。
なのに、ここから距離が遠いはずの美術室にいたにこちゃんが先に来るのは……。

なら、考えられるのはーー



穂乃果「海未ちゃんたちになにかあったのかも……」

凛「!」

にこ「…………ありえない、話じゃないわね」



もしかしたら、あの『なにか』に誰かが飲み込まれたとか?
もしかしたら、『化け物』に襲われてるとか?



穂乃果「っ!」

にこ「穂乃果」



穂乃果「みんなのところに向かおう!!」



そうだ!
ここで待ってなんかいられないよ!
もし、みんなに何かあったならーー



穂乃果「っ、穂乃果、行ってくる!」

凛「穂乃果ちゃん!?」




にこ「待ちなさい!」ガシッ




調理室から出ようとした寸前に、にこちゃんに止められる。


穂乃果「はなして! 行かなきゃ!」

にこ「行って、なんになるってのよっ!!」

穂乃果「っ」

にこ「…………行ったところで、にこたちには何もできないのよ」



そう言って、にこちゃんはさらに穂乃果を止める手に力を入れる。

……そんなの、分かってる。
でも、穂乃果は、



穂乃果「行かなきゃ……」

にこ「っ、このわからず屋! 行ってって何もできない! なら、ここであいつらが来るのを待ってーー」




穂乃果「ーー穂乃果のせいだからっ!!」




にこ「っ」



にこちゃんの言葉に被せるように、穂乃果は叫ぶ。

そうだよ!
これは、こんなことになったのは、穂乃果のせいなんだ!
穂乃果が肝試しやろうなんて言わなければっ!
みんなを巻き込まなければっ!

希ちゃんはっーー!



にこ「っ」

凛「そ、それは違うよっ。凛たちだって、それに乗っかってたし!」



穂乃果「ううんっ、それでも、穂乃果は…………っ」ダッ



にこ「なっ、穂乃果っ!!」



止める二人を振り切って。
穂乃果はみんながいるはずの部室へ駆け出した。



~~~~~~

~~~~~~



穂乃果「はっ、はっ…………」



必死で走ったおかげで思ってたよりもすぐに部室に着く。
どうにか息を整えてから、



ーー ガラッ ーー



穂乃果「みんな!」



部室の扉を開いた。



穂乃果「なっ!?」



中の状況は、さっきまでとは一変していた。
机やイスは叩きつけられたように変形し、そのほとんどが使い物にならない状態で。
グッズやライブで使う衣装だって、無惨にも壊されていた。

そんな滅茶苦茶にされた部室の真ん中。
ポツンと設置されたイスに、彼女は座っていた。



穂乃果「っ、花陽ちゃんっ」



駆け寄る。
けど、返事はない。
それどころか、なんだか…………。



花陽「……………………」

穂乃果「どうしたの、花陽ちゃんっ!」



寝ている訳じゃない。
目は開いていて、でも、どこか焦点が合っていない。




穂乃果「花陽ちゃんっ! しっかりして!」

花陽「…………」

穂乃果「花陽ちゃんっ! 花陽ちゃんっ!」



軽く揺さぶりながら、何度も何度も呼びかける。
その甲斐あってか、何度目かの呼びかけでやっと反応があった。



花陽「………………て」

穂乃果「! 花陽ちゃん、わかる!?」

花陽「……………………だか…………て」



ポツリと小さな声だけど、反応してくれた!
よかった!
…………よし、ちょっと大変かもだけど、花陽ちゃんをおぶって、調理室まで連れていけば!







花陽「はなれて」



穂乃果「え?」

いま、なんて…………?



穂乃果「はなよ、ちゃん……?」

花陽「おねが、い……はな、れーー」




ーー ドクンッ ーー




『アァァぁぁぁっ、アァァ!!!!』




目の前で。
花陽ちゃんの姿が変わっていく。

『化け物』に。



穂乃果「な、に…………なんなの……」



なにが起こったか分からない。
でも、目の前にいる『それ』が『化け物』であること。
そして、その『化け物』が




『アァ、ハナレ、テ……アァぁぉっ』




穂乃果「はなよ、ちゃん……?」



花陽ちゃんだってことだけは理解してしまった。
信じられないし、信じたくもないけど。
目の前で起こってしまったから。



『ハナレ、テっ』 グッ

穂乃果「っ!?」




ーー ブンッ ーー



ーー バキィィッ ーー




思い切り振り下ろされたその右腕が、さっきまで穂乃果がいた場所を破壊した。
穴が空くほどの力で、花陽ちゃん、うつん、花陽ちゃんだった『それ』は床を破壊した。



穂乃果「ひっ……!?」



逃げなきゃ……!?

そう思った。
そう、思ってしまった。




穂乃果「うっ、あぁ……あぁぁぁっ!!??」



穂乃果はそのまま、震える足で部室を飛び出した。

助けに来たはずの花陽ちゃんを置いて。
1人で逃げ出した。



~~~~~~






ーー ザザザザザザザザザッ ーー





『もう少しかしら』

本日はここまで。
レス感謝です。
書いてて辛いところもありますが、しばしお付き合いいただければ幸いです。

ほんの少しだけ更新。

ーーーーーー



協力者の彼からの電話を受けて、穂乃果は風都の『鳴海探偵事務所』に向かった。
そこには、穂乃果の協力者の人と、もう1人。



「はじめまして、でよかったかな」

穂乃果「い、いえ。一度だけ」

「あぁ、照井を迎えに来たときの子か。あの時はすまなかったな」

穂乃果「い、いえ」




ヒダリ「『ヒダリ』だ。よろしくな、お嬢さん」スッ

穂乃果「あ、はい。よろしくお願いします」




『ヒダリ』
そう名乗ったハットを被った彼が差し出した手を握る。
どこか、安心できる手の平だった。



穂乃果「それで、あの……」

ヒダリ「ん? あぁ、相棒か? あいつは……」チラッ



ヒダリさんの視線の先には、沢山の帽子がかけられた壁……じゃなくて、扉があった。
確か、ここに最初に依頼に来た時も、あの扉から彼が出てきたんだったよね。

…………懐かしい、というほど昔じゃないけど。
それでも、あれから半年が経ってしまっていた。



…………うん。
もう少しで助けてあげられるからね、ことりちゃん。



ヒダリ「まぁ、とにかく相棒は後で合流するはずだ。俺は…………って、本当についてくる気なのか?」

穂乃果「……………………」

ヒダリ「……はぁ、仕方がねぇ」



無茶はすんなよ。
そんな風に釘を刺されてしまう。

真姫ちゃんにも言われたけど、ほぼ初対面の人にも言われるって……。
穂乃果ってそんなに危なっかしい……?


ヒダリ「とにかく、俺たちはこれから『この場所』に向かう」



そう言って、ヒダリさんは一枚の写真を取り出した。
そこには、とある建物が写っていて。
って、え!?



穂乃果「ちょ、ちょっと待ってください!」

ヒダリ「ん? どうした?」

穂乃果「えっと、その! 本当に、ここにいるんですか!?」

ヒダリ「あぁ。俺と俺の仲間たちが調べた情報から相棒が検索した結果だ。まず間違いないぜ」



『亜坂真白』
すべての元凶。

きっとことりちゃんを孵化させるために、どこか誰にも見つからないような場所に隠れてる。
そう思ったのに…………。



穂乃果「…………まさか」



ヒダリさんが差し出した写真。
そこには、私達の母校。

音ノ木坂学院が写し出されていた。



ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー



理事長に人払いを済ませてもらった後。
穂乃果とヒダリさんは校舎の中へと入った。
そして、向かったのはーー




ーー コンコンッ ーー

ヒダリ「邪魔するぜ」



そう言って入ったそこは、アイドル研究部の部室。
勿論、人払いしてあるから誰もいない。



穂乃果「ヒダリさん……」

ヒダリ「……………………」

穂乃果「やっぱり、いないんじゃーー」



ーー ガキィィッ ーー



穂乃果「!?」



突然、ヒダリさんは何かを投げつけた。
見れば、穂乃果も持ってるスタッグフォンが、壁に刺さって…………あ、あれ?



穂乃果「空中に……刺さってる……?」



決して広くはない部室。
だから、あんなに乱暴にスタッグフォンを投げつければ、それは壁かもしくはアイドルグッズに刺さるはずなのに……。
でも、目の前のスタッグフォンは空中で何かに阻まれるみたいに止まっていた。



穂乃果「こ、これ……」

ヒダリ「相棒が検索した通りって訳か」



ヒダリ「出てこいよ! 亜坂真白!」







ーー ザザザザザザザザザッ ーー




「乱暴な男ね」




ーーーーーー グニャリ ーーーーーー



目の前の景色が歪む。
ゆらゆらと蜃気楼か何かみたいに、景色が歪んで、変わっていく。
そして、目の前には、




真白「こんにちは」

真白「高坂穂乃果ちゃん」




彼女の姿があった。
その顔には不気味に微笑みが張り付いていて……。



穂乃果「っ」ゾワッ



背筋が凍るような感覚を覚える。
本当に、この人はイヤだ。


ヒダリ「おっと」スッ

穂乃果「あっ……」



ヒダリ「乱暴なノックで悪かったな、レディ」



穂乃果と彼女の間に入るように、ヒダリさんが前に出た。
そのおかげで、彼女の視線は彼の方へ移る。



真白「本当ね。野蛮な男は嫌いよぉ」

ヒダリ「はんっ、構わないさ。確かに外見は真っ白だが、中身が真っ黒な奴に好かれたくはねぇよ」

真白「そう。私も構わないわ。貴方のような品性の欠片もない男に何を言われようともねぇ」



真白「そう。私が愛しているのは」

真白「井坂先生、ただ1人なのだから」ニタァァ



穂乃果「……っ」



そう言って、また笑う。

またその名前……。
その井坂って人は……?

穂乃果の内心を読み取ったのか、ヒダリさんはその『井坂』という人のことを話し出した。



ヒダリ「井坂深紅郎」



ヒダリ「数年前だが、風都で内科医をやってた男だ。奴がやっていた病院には行ったんだろ?」

穂乃果「……内科医……あ! あの廃病院!」

ヒダリ「そう、あそこの医者だ。人当たりもよく腕もよかったみたいでな。評判は悪くなかった……表向きは」

穂乃果「え?」

ヒダリ「そいつの裏の顔はまったく違う」

ヒダリ「ガイアメモリに取り憑かれ、自分のメモリの力を引き上げるために、何の罪もない人たちを使って実験をしていた」

穂乃果「そ、それって……」

ヒダリ「その上、何人もの人を殺しやがった」



ヒダリ「……悪魔みてぇな男だ」



吐き捨てるように、ヒダリさんはそう評した。




真白「悪魔……?」

真白「馬鹿なことを言うのね」



小さな呟き。
けれど、その声は嫌に響いた。



ヒダリ「馬鹿なこと、だと?」

真白「えぇ。井坂先生の考えを理解できない。それこそが最も愚かなこと」

ヒダリ「奴の考え……だと」




ヒダリ「っ、自分のメモリのために、人の命を、人生を弄んだ男を理解できるわけがないだろうが!」

真白「………………」




穂乃果「っ」



『井坂』という人のことは詳しくは知らないけど。
ヒダリさんの話を聞くに、その人物は確かに悪魔みたいな人だと思う。

メモリのために人を[ピーーー]?
メモリのために人を実験台にする?

意味が分からない。
だから、なおさら、




穂乃果「なんで」

真白「…………なにかしら?」




穂乃果「なんでそんな人を慕ってるの……?」



真白「悪魔……?」

真白「馬鹿なことを言うのね」



小さな呟き。
けれど、その声は嫌に響いた。



ヒダリ「馬鹿なこと、だと?」

真白「えぇ。井坂先生の考えを理解できない。それこそが最も愚かなこと」

ヒダリ「奴の考え……だと」




ヒダリ「っ、自分のメモリのために、人の命を、人生を弄んだ男を理解できるわけがないだろうが!」

真白「………………」




穂乃果「っ」



『井坂』という人のことは詳しくは知らないけど。
ヒダリさんの話を聞くに、その人物は確かに悪魔みたいな人だと思う。

メモリのために人を殺す?
メモリのために人を実験台にする?

意味が分からない。
だから、なおさら、




穂乃果「なんで」

真白「…………なにかしら?」




穂乃果「なんでそんな人を慕ってるの……?」



そんな人を慕う彼女のことが分からない。

思えば、彼女のしたことは、その『井坂』って人に通じてる。
ことりちゃんや海未ちゃん、亜里沙ちゃんのことも実験台にしていた。
まるで、それは『井坂』って人がやってたことを真似ているようで。

なんでそこまで……?



真白「…………教えてあげましょう」

真白「私はーー」



真白「ーー井坂先生に命を救われた」


ーーーーーー



彼女の話。

『井坂』と知り合ったのは、彼女が大学病院で看護師として勤務していた頃。
同じく『井坂』は大学病院で内科医として勤務していた。

彼女は主に外科を担当することがほとんどだったから、何も接点はないはずだった。


彼女がとある病気で倒れるまでは。


彼女の病気は所謂不治の病ってやつで。
多くの外科医が匙を投げ、最終的に内科…………というよりも投薬による緩和的な治療がされたらしい。

二人が知り合ったのは、その時だ。

生きる希望を失っていた彼女に、『井坂』はこう言った。



『私ならば、君を治してあげられる』

『終末期医療ではなく、より先進的なものになりますがねぇ』

『さて、君は』



『人為らざる者の領域に踏み入る覚悟はお持ちかな?』



彼女は頷いた。
そして、一命を取り留めた彼女は、どんどんと回復し、日常生活を送れるほどに回復したのだった。



ーーーーーー


真白「こうして私は救われた」

真白「他の医者とは違う。私を見放した奴らとは違う」

真白「…………私を救ってくださったあの方こそ救世主」

真白「あの方はすべて正しい」

真白「あの方がそうしろと言うのならば、私はこの命すら投げ出せるわぁ」



穂乃果「っ」



狂信者。
穂乃果の協力者の彼や照井さんは、彼女のことをそう呼んでいたらしい。

なるほど。
確かに、その通りだ。

彼女は『井坂』って人のことを信じている。
……狂ってしまうほどに。



真白「フフッ」



ひとつ、笑い、彼女は続ける。



真白「けれど、あの愚か者の手で、井坂先生はこの世を去ってしまった」

ヒダリ「あぁ。だが、その選択は間違っちゃいねぇ」



穂乃果もそう思う。
その人がいないって事実を聞いて、ホッとしてる自分がいる。



真白「…………間違いよ」

真白「間違いだらけ」




真白「だから、私が間違いを正すのよぉぉ」ニタァァ





穂乃果「うっ……」フラッ




その言葉は静かで。
だけど、吐き気を催すほどに邪悪な意志を感じてしまった。
目眩もして、少し足元がふらつく。
そんな穂乃果の前に、



ヒダリ「大丈夫か、穂乃果ちゃん」

穂乃果「っ、は、はい……」

ヒダリ「……無理もねぇ。俺でも気持ち悪くなる相手だ」



そう言って、ヒダリさんはさらにもう一歩進む。
けど、それを彼女は止めた。



真白「それ以上は近づかない方がいいわぁ」

ヒダリ「っ」

真白「じゃないとーー」




ーー ザザザザザッ ーー




また目の前が歪む。
そして、現れる。
彼女の手元に、『それ』が……。




真白「穂乃果ちゃんのお友達が……いえ」

真白「お友達だった『モノ』が壊してしまうかもしれないわぁ」ギュッ




ヒダリ「っ!!」



彼女の腕に抱かれるその白い『それ』
それ、は……!!




穂乃果「っ、こ、ことりちゃんっ!!!」





ーーーーーー

本日はここまで。





ーー ザザザザザザザザザッ ーー



~~~~~~



真姫「穂乃果っ!」



部室から逃げ出し、調理室に戻る途中で、真姫ちゃんたちに合流することができた。



穂乃果「真姫ちゃん。絵里ちゃん……よかった、無事だったんだね……」

真姫「っ、よくないわよっ!!」

穂乃果「っ」



真姫ちゃんの叫び声に、思わず体が跳ねる。
真姫ちゃん……?



真姫「花陽がっ!」

穂乃果「!」



そっか、そうだよ。
花陽ちゃんは真姫ちゃんたちと一緒にいたんだもんね……。
なら、花陽ちゃんのちゃんがああなったのも見てるはずで……。



真姫「なんでっ!! なんで花陽があんなっ!!」

絵里「……落ち着いて、真姫」

真姫「っ、これが落ち着いてられる!? 希だってーー」




絵里「おねがいだからっ!!」





真姫「っ」

絵里「おちついて…………ね?」

真姫「絵里…………ごめん」

絵里「いいえ。こんな状況だもの…………」



そう言う絵里ちゃん。
だけど、その手は震えていた。

穂乃果「花陽ちゃんがなんでああなったのか聞きたいところだけど……」

絵里「……えぇ、まずは安全なところに」



それが最優先だ。
……安全なところなんてあるか分からないけど。
でも、少なくとも皆が集まってた方がいいはず。



真姫「…………調理室だっけ?」

穂乃果「うん」



凛ちゃんとにこちゃんは少なくともそこにいるはず。
……って、そうだ。



穂乃果「ねぇ! 海未ちゃんとことりちゃんは?」

絵里「え? 二人は凛の電話を受けて、すぐに調理室に向かったはずよ?」

真姫「えぇ。そのあと……いいえ。この話は後に」




穂乃果「…………ちょ、ちょっと待って」

穂乃果「二人、まだ来てなかったんだよ?」




少なくとも、穂乃果がこっちに来るまではいなかった。
でも、凛ちゃんの電話の後すぐに向かったんだとすると……。

やっぱりおかしい!


嫌な汗が背中を伝う。

海未ちゃん。
ことりちゃん。



絵里「……とにかく、調理室に行きましょう」

真姫「穂乃果」

穂乃果「う、うん……」



~~~~~~

~~~~~~




ーー コンコン ーー



静かに、調理室の扉をノックする。
それから二人の名前を呼んだ。



穂乃果「にこちゃん……凛ちゃん……」



でも、返事がない。



真姫「……穂乃果」

穂乃果「…………う、うん」



なにかあるかもしれない。
そう思って。

だから、真姫ちゃんと絵里ちゃんの前に立った。
二人を守らなきゃ。
穂乃果はそんなことを考えてた。



穂乃果「入る、ね?」



結果から言うと、



ーー ガラッ ーー




穂乃果の予感は当たっていた。

その扉を開けた目の前の光景は、到底二人には見せられないものだった。
だから、穂乃果は、




穂乃果「二人ともっ!」

穂乃果「見ないでっ!?!?」



ーー ピシャリッ ーー



勢いよく閉めた扉。
その向こうに広がっていた光景。

きっと、それは嘘だ。
現実なはずない。
ありえない……ありえない……。

なんでーー




なんで、凛ちゃんとにこちゃん。


二人とも血溜まりの中に倒れてるの……?



二人には絶対見せられない。
そう思ったのに、二人は強引に扉を開けて……。

目の前に、またその光景が広がる。
同時に、鉄臭い血の臭いがして……。



絵里「え…………え……?」

絵里「………………え……?」



絵里ちゃんはその場に膝をついて茫然としてた。



真姫「なに、これ……」

真姫「凛……? にこちゃん……?」

真姫「……なんで、二人とも倒れてーーっ!!」



真姫「二人ともっ!!!」



真姫ちゃんは目の前の光景に愕然としながらも、すぐに駆け寄って応急処置をしようとしてる。
でも、素人から見ても、その血の量は異常で…………。




穂乃果「また、助けられなかった……」



希ちゃん。
花陽ちゃん。
そして、凛ちゃんとにこちゃん。

もし、穂乃果が違う選択をしていたなら、助けられたかもしれない。
だけど、みんなーー



真姫「穂乃果っ!!」

穂乃果「っ」



真姫ちゃんの声に、我に返る。
見れば、真姫ちゃんは服や手を真っ赤にしながらも、応急処置を続けていた。



穂乃果「な、なに?」

真姫「私だけじゃ止血の手が足りないわっ! 手伝いなさいっ!」



手伝って。
真姫ちゃんは
そう言った。
…………でも、もう……。



真姫「穂乃果っ!!」

穂乃果「あっ…………」



見ると、真姫ちゃんの目からはもうすでに大粒の涙が溢れ出していた。
それでも、真姫ちゃんはーー



穂乃果「っ、うんっ!! わかった!」



……そうだ。
まだだ!

まだ、穂乃果にはなにかできるはずっ!!
なにもしないなんてありえない。

そう、諦めたら終わりだもんっ!
だから、



穂乃果「真姫ちゃん!」

穂乃果「どうすればいいっ!?」

穂乃果「どうすれば二人をーー





ーー バタンッ ーー




穂乃果「え…………?」



なにが起こったのか、分からない。
だけど、穂乃果の目の前で起こったことは、



真姫「…………」

絵里「…………」



穂乃果「真姫ちゃん……?」

穂乃果「絵里ちゃん……?」




二人が倒れたってこと。
それだけははっきりしてて。



穂乃果「っ! 真姫ちゃん!」ユサユサ

真姫「……」

穂乃果「えりちゃんっ!」ユサユサ

絵里「……」



呼びかけに答える声はない。
二人とも顔色がどんどん変わっていく。

白く。
真白く。

生気が抜け落ちていく。



穂乃果「…………あ、あぁぁ……」

穂乃果「あぁぁぁぁぁっ!?!?」



まただっ!
また、穂乃果の目の前で、仲間が……っ!



穂乃果「なか、ま……」

穂乃果「そ、そうだっ」



海未ちゃんとことりちゃんっ!
二人を探す……探さなきゃっ!



穂乃果「っ」



穂乃果は慌てて立ち上がる。

足に力は入らない。
足元の血で滑るから余計に。

それでも、どうにか立ち上がって。
穂乃果は進む。




穂乃果「はっ、は……はぁはぁ…………っ」




息が思うようにできない。
できても、血の臭いのせいで、気持ちが悪くなる。

でも、進まなきゃ。
二人を探して、二人だけでも穂乃果が守らなきゃ…………!




~~~~~~





ーー ザザザザザザザザザッ ーー




本日はここまで。
嗚呼辛い。

ーーーーーー



穂乃果「ことりちゃんを返して!」



彼女へそう呼び掛ける。
けれど、もちろんそれに答えてくれるはずはない。



真白「返して? おかしなことを言うのね」

穂乃果「なにをっ!」

真白「ことりちゃんは貴女のモノではないでしょう? なら、返してなんて言える筋合いはないわぁ」

穂乃果「それはっ!」



ヒダリ「穂乃果ちゃん。聞く必要はねぇ」

穂乃果「ヒダリさん……」



穂乃果たちの会話に割って入るヒダリさん。
おかげで、熱くなりかけてた心が落ち着いていく。

……うん、そうだ。
この人になにを言われても、穂乃果がするのは変わらない。
ことりちゃんをあの『エッグ』のメモリから解放すること。
ただ、それだけだ。



穂乃果「…………大丈夫です」

ヒダリ「あぁ…………メモリは……?」

穂乃果「あります」

ヒダリ「なら、いつでも使えるようにしといてくれ。奴の注意は俺が……俺たちが引き付ける」



その言葉に、穂乃果は頷いた。

………………。
本当はきっと、ヒダリさんたちにこのメモリも任せた方がいいんだと思う。
でも、穂乃果の協力者の彼から言われたんだ。



「このメモリは僕たちには使えない」

「高坂穂乃果」

「君が使いたまえ」



詳しい理由は聞けなかった。
けど、少なくとも穂乃果がやらなきゃいけないことは理解できた。
だから、穂乃果はーー


真白「内緒話は終わった?」

穂乃果「っ」

ヒダリ「あぁ、あんたを止めるための算段がちょうどついたところさ」

真白「…………なら、始めましょうか」




『ミスト』




真白「絶望の始まりよ」

彼女はガイアメモリを右耳へ差し込んだ。
同時に、霧が彼女を包み込み姿が変わっていく。
霧が晴れた時、そこに立っていたのは、いつか見たあの姿。

ボロボロの漆黒の布をローブのように身に纏い、フードの中には真っ青に光る瞳。
顔がない、と思っていたけど、『ミスト』ということは……。



穂乃果「『霧』のドーパント……」

ヒダリ「なるほどな。どうりで神出鬼没なわけだ」

ミスト『えぇ。私の能力は霧化。体を霧に変えることができるのよぉ…………』



ミスト『こんな風にーー』サァァァッ

ヒダリ「!」



ーー ザザザザザッ ーー



ノイズ。
それが聞こえた瞬間に、




ーー ブンッ ーー



ヒダリ「っ、穂乃果ちゃんっ!!」グイッ

穂乃果「えっ!?」




背後から風を切る音と地面に体が倒れる感覚。
見れば、ヒダリさんも地面に伏せていて……って、違う!
ヒダリさんが穂乃果を地面に倒れさせて助けてくれたんだ。



ミスト『流石にこれでは殺せないみたい』クスクス

ヒダリ「無抵抗の女の子を狙うとは、ずいぶん趣味が悪いな」



ヒダリさんは帽子についた砂を軽く払いながら、ミストに向き直る。
口調は静か。
でも、その眼光は鋭い。


ミスト『私の計画を邪魔する者は容赦しないわ』

ヒダリ「はっ! やれるもんならやってみな! 容赦しねぇのはこっちも同じだ!」スッ



ミストの言葉に、ヒダリさんはそんな言葉を返した。
そして、




ーー ガチャッ ーー




懐からそれを取り出し、腰に装着した。
って、あれ!



穂乃果「『ロストドライバー』!」

穂乃果「って、あれは……」


よく見ると、違う。
にこちゃんや凛ちゃんが使ったそれとは違って、メモリを指す場所が……。


穂乃果「2つ……?」




ヒダリ「行くぜ、フィリップ」



『ジョーカー』




ヒダリ「変身!」



その声に反応するように、ヒダリさんのドライバーにもう一本メモリが現れた。
そして、それを展開する。




『サイクロン!!』

『ジョーカー!!』



風と紫色の閃光が、その体を包み込み、その姿を変えていく。
穂乃果の目の前に現れたのは、一人の仮面ライダー。

左側は『ジョーカー』
右側は『サイクロン』
中央で二色に分かれたその仮面ライダーは、ミストドーパントにこう告げた。



『亜坂真白!』

『あんたの野望は俺が止める!』

『……俺たちが、だろう?』

『……あぁ、そうだな』

『覚悟はいいかい? 亜坂真白』





W『『さぁ、お前の罪を数えろ!』』




本当に短いですが、本日はここまで。

本日更新予定です。

更新します。




穂乃果「これが……W」



目の前で変身したヒダリさんを見て、ポツリと呟く。

話は彼から聞いていた。
穂乃果に渡された『サイクロン』と理事長が受け取った『ジョーカー』
その二本で、穂乃果の協力者が仮面ライダーに変身することは。



W『あぁ。俺たちはW』

W『二人で一人の仮面ライダーさ』



ヒダリさんと彼。
一人から二人分の声が聞こえてくるのも話の通りだ。



W『下がってな、穂乃果ちゃん』

穂乃果「は、はいっ」

W『すぐに片をつけるさ』



そう言って、Wは彼女ーーミストドーパントと対峙する。



ミスト『仮面ライダー…………やっぱり私の邪魔をッ!!』

W『してやるさ。街を泣かせる悪党の邪魔なら喜んでな!』

W『それに、何の罪もない少女を実験台にする。それが僕は気に入らない』


ミスト『戯れ言をッ!』



ーー ザザザザザッ ーー





穂乃果「消えたっ!」



いきなり姿を消すミスト。
これは、霧になるっていう能力……!

W『来るよ、翔太郎』

W『あぁ!』



対して構えるW。
霧になっているせいで、攻撃がどこから来るか分からない。
それでも、



ーー ザザザザザッ ーー



W『右だ!』

W『おらぁぁっ!!』ブンッ



ミスト『!』スッ



右へ拳を振り抜いた。
その言葉通り、ミストは右から現れてーー



ミスト『っ』

W『くっ、外したか』



残念ながら、ミストはそれを避け不発。
けど、場所はドンピシャだ!


ミスト『……まぐれ』

W『いいや。まぐれなんかじゃないさ』

ミスト『…………』

W『なんなら試してみたまえ』




ーー ザザザザザッ ーー




穂乃果「またっ!」



霧になって消えた。
やっぱり穂乃果からはその姿は見えない。

けど、彼の言葉……。
もしかして、Wには見えてるの……?




ーー ザザザザザッ ーー




W『翔太郎! 上だ!!』

W『ふっーー』



その声に反応して、右足で蹴り上げる。
その先には、



ミスト『っ!』




ミストの姿があった。

やっぱり!
見えてるんだ!



ーー ザザザザザッ ーー



またも攻撃は空を切る。
けど、間違いない。



ミスト『…………見えている、のかしら』

W『あぁ。君のメモリは確かに厄介だ』



霧化。
照井竜に使った毒霧。
さらに、園田海未が受けたという『絶望の霧』。



W『本来持っていないはずの能力を付与させる』

W『恐らくそれが君のハイドープとしての能力なんだろう』

W『だが、能力を使う際に、『ノイズ』が発生している』

穂乃果「ノイズ……?」



今の場面を思い返すと、確かにほんの小さな音だったけど、なにかの音がしてた気がする。

でも、そんな小さな音を戦いの中で聞いて反応してたの……?



ミスト『…………そう。あれを聞かれてしまっていたのね』

W『あぁ。だから、あんたの能力は俺たちには効かない』

ミスト『…………そう。流石は仮面ライダーと言ったところかしら』

すごい、としか言えない。
これが……。




穂乃果「仮面ライダーW」



ミスト『……けれど、まだ貴方たちの攻撃は私には届いてないわぁ』

W『…………あぁ』

ミスト『それに、消えるだけが『ミスト』ではないのよ』




ーー ザザザザザッ ーー



そう言いながらもまた消えるミスト。
でも、もうこの攻撃はWには効かない。
今度こそ、攻撃を決めてーー




ーー ポツンッ ーー



ーー ジワッ ーー




穂乃果「え……!?」



穂乃果のすぐ隣。

何かが降ってきた。
ここはアイドル研の部室なんだ。
雨、な訳はない。
ならーー



W『毒かっ!?』

W『翔太郎! 室内で戦うのは危険だ!』

W『あぁ! 穂乃果ちゃん、掴まれ!!』グッ

穂乃果「はい!」グッ



穂乃果は彼の手を掴んで、毒雨が降る部室を脱出した。

ーーーーーー


W『穂乃果ちゃん、大丈夫か?』

穂乃果「だい、じょぶです……」ハァ



息を整えながら、なんとか返事を返す。
部室から校庭まで全速力ダッシュは……流石にちょっと辛いや……。



W『すまねぇな』

穂乃果「ううん。穂乃果が選んでついてきたんですから」

W『…………あぁ』



穂乃果の言葉に頷いてから、Wは辺りを見回した。



W『フィリップ、奴は!?』

W『来ていない、と言いたいところだが……』

W『完全に消えていたら、分からないんだったな』

W『あぁ。あくまでも、能力の行使の時のノイズを察知しているだけで、霧化したミスト自体が見えるわけではないからね』

W『厄介だな』

W『あぁ、検索はしていたが強敵ーー




ーー ザザザザザッ ーー


ミスト『そうね』スッ

W『真後ろ!?』



音を聞いたときには、もう既にミストは姿を現していた。
Wの背後。
死角から現れてーー



ミスト『毒に塗れて死になさい』

穂乃果「危ないっ!!」



W『っ』スッ



『メタル』



ミストの手はWに触れていた。
それは、照井さんに毒が入り込んだ時と同じ状況で……。



穂乃果「そん、な…………」



ダメ、だよ……。
Wまでやられちゃったら、ことりちゃん助けられなーー




W『ふっ!!』



ーー ブンッ ーー




ミスト『くっ!?』



穂乃果の予想に反して。
Wは立っていた。

…………あ、あれ?
なんで?



ミスト『メモリを替えたのね』



その疑問に答えたのは、ミスト。

メモリを替える?

よく見れば、Wの色が変わっていた。
左側が紫から銀色へ。



W『ふぅ、危なかったぜ』

W『『メタル』に替えて、奴の手をメタルシャフトで防ぐ。咄嗟の判断としては最適解だね』



後から聞いた話だけど。
実際にはミストの手はWには届いてなかったらしい。
その直前にメモリを替えて、武器を精製して、それを手と体の間に挟み込んだんだって。


ミスト『この多様性……井坂先生が手子摺る訳だわ』

ミスト『…………仕方がない』



ーー ザザザザザッ ーー



また消えた。



W『奴の好きにはさせないよ、翔太郎』

W『あぁ。分かってるって!』




『ルナ』

『トリガー』



穂乃果「!」



Wが取り出したもの。
それは、また違うメモリだった。
それを使って、今度は黄色と青の姿へ変身する。
さらに、その手には銃。

なるほど!
それで、近づかせないようにするんだ!

W『ふっ』



ーー バンッ ーー

ーー バンッ ーー

ーー バンッ ーー

ーー バンッ ーー



4発の銃弾が放たれる。

その先には、なにもない……?
ノイズは聞こえないのに、どこに撃ってるの!?



W『心配ない。その銃弾はーー』




ーー ザザザザッ ーー




W『ーー必ず当たる』




ーー バァァンッ ーー



穂乃果「え!?」



炸裂音は穂乃果の後ろから。
振り返ると、




ミスト『がっ……は……』




ミストの姿があって。
あの4発が同時に命中したんだろう。
彼女はふらついていた。


穂乃果「すごい……」



圧倒的だった。
あれだけ恐ろしかったミストドーパントは、今、膝を地面についていて。



W『これで、決まりだ!』



『トリガーマシキマムドライブ』




Wの銃から放たれた銃弾は、




ーー バァァァァァンッ ーー




彼女の体を貫いた。

爆発音が響く。
煙が晴れ、そこには、




真白「…………が、あぁ……」




亜坂真白が倒れていた。
そして、その側にはーー



穂乃果「ことりちゃんっ!!」



真っ白なその球体に、すぐ駆け寄る。
どこか壊れている、ということもなくて。



穂乃果「よかった……」

W『……高坂穂乃果』



ほっと胸を撫で下ろす穂乃果に、彼が声をかけてきた。

やるべきことがまだ残っているだろう?

その言葉に、穂乃果は頷く。
ポケットからその『メモリ』を取り出す。



W『これを使いたまえ』

穂乃果「えっと……?」



そう言って渡されたのは、さっきまでWが使っていた青い銃。
見ると、メモリが挿せる場所があった。
そっか。
ここに、この『メモリ』を入れるんだね。



W『あぁ。それで終わりだ』

W『『エッグ』の能力は無効化され、南ことりは元の人間の姿に戻るだろう』

穂乃果「…………はい」スッ





やっとだよ。
すごく待たせちゃったね。
でも、これでーー




『 マキシマムドライブ』




穂乃果「ーー全部終わりだよ!」




ーー パァァァンッ ーー







ーー ザザザザザザザザッ ーー





『………………フフフッ』




穂乃果「………………え?」



引き金を引いた、はずだった。
これで、終わるはずだった。
なのに、




ーー ユラッ ーー




目の前のそれは、まるで『霧』のように消えてしまった。




穂乃果「あ、れ……なんで……?」

W『っ! まさかっ!?』




『そのメモリは一度きり、だったかしらぁぁっ?』




穂乃果「え、な、なんで……まだ……」

W『なんでーー』




W『なんでまだそこにいるっ!! 亜坂真白!!』





彼女は、霧と共にその姿を現した。

ミスト『答えは一つ』



ミスト『貴方たちが戦っていた相手は、私が作り出した偽物よぉ』

ミスト『『虚構の霧』』

ミスト『実体を持った偽物を作り出す能力よど』



W「なんだって!? そんな能力は検索でも……」

ミスト『それは隠していたもの』クスクス

W「っ!?」

ミスト『…………さて』




ーー ザザザザザッ ーー




ミスト『ねぇ、穂乃果ちゃん』

穂乃果「っ」

ミスト『そのメモリはもう力を失ったわ』

穂乃果「…………っ」

ミスト『だから、もうーー』





ミスト『ことりちゃんは救えないわぁぁ』ニタァァ




ことりちゃんを、救えない……?
そんなの、嘘だよ……!



ミスト『そう思うなら、試してご覧なさい』スッ

穂乃果「っ、ことりちゃん!」



穂乃果の目の前には、真っ白な球体。

エッグドーパント。
本物よぉ。

彼女はそう言って、それを穂乃果に渡した。



穂乃果「っ、メモリを!」カチッ

穂乃果「っ、お願い!」カチッ

穂乃果「なん、でっ!!」カチッ



もう、穂乃果の手の中のそれは答えてくれない。
壊れてしまったかのように、なにもーー






穂乃果「あ、あぁあぁぁぁぁっっ!?!?」





その瞬間、穂乃果は理解してしまった。
もう、ことりちゃんは助からないってことを。

その事実に、穂乃果はーー





『やっと』

『『絶望』してくれたわね』




その声が聞こえて。
同時に、穂乃果は意識を失った。




ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー



W『穂乃果ちゃん! 穂乃果ちゃん、しっかりしろ!!』



奴の言葉と同時に、穂乃果ちゃんは僕たちの目の前で意識を失った。
これは、一体……?



W『翔太郎! まずは彼女を安全なところへ!』

W『っ、あぁ!』



そのために、まずはミストドーパントをどうにかする必要がある。
だから、僕らは周りを見渡した。
けれど、奴の姿は既にそこにはなかった。



W『っ、またか!』

W『落ち着きたまえ、翔太郎』

W『落ち着いてられるか! また依頼人を危険な目に合わせちまったんだぞ!!』



翔太郎の探偵としての信念。
それを傷つけてしまったことで、彼は冷静さを失っていた。
だから、一瞬、遅れた。



穂乃果「…………」スッ

W『ーーーーえ?』




ーー パァァァンッ ーー



W『がッ……!?』



意識を失っていた高坂穂乃果が起き上がっていたことに。
そして、彼女がトリガーマグナムで僕たちを攻撃してきたことに、気づくのが遅れてしまった。



W『な、なにをっ!? 穂乃果ちゃん!』

穂乃果「……………………」



高坂穂乃果はよろよろと、立ち上がる。
翔太郎の声には答えずに。

…………いや、当然か。
彼女は、




W『亜坂……真白、だね』

W『何!?』



穂乃果「………………」

穂乃果『…………フッ、フフッ』




穂乃果『また会えたわねぇ、仮面……ライダァァァ』ニタァァ




高坂穂乃果のものではない。
邪悪で、吐き気を催すような笑み。
それを見れば、彼女が『亜坂真白』であることは誰が見ても理解できるだろう。

そして、僕は一つの『検索結果』を思い出していた。



W『おい、フィリップ! どうなってんだ! あれもあのメモリの力なのか!』

W『…………翔太郎。一つ謝らなくてはいけないことがある』



それは決して隠していたわけではない。
戦う上で知らなくてもいいことだと思ったから。
だから、翔太郎にも、高坂穂乃果にも伝えていなかったある事実。
それがまさか、こんなことに繋がるなんて……。



W『僕の考えが甘かった』

W『フィリップ……?』



W『翔太郎。山村幸の事件を覚えているかい?』

W『山村…………ひき逃げ事件の!』

W『あぁ。彼女が変身したドーパントを覚えているね』

山村幸。
それは、前に僕たちが解決した事件で、ドーパントになっていた女性の名前だ。

彼女はひき逃げ事件に遭い、それと同時にガイアメモリを使った。
その結果、彼女の精神体のみがドーパントになり、ひき逃げをした犯人と自分に結婚詐欺を働いた男性に次々と復讐していった。



W『その事件となんの関係が……?』

W『山村幸はドーパントになった時、なにかを媒体にしていただろう』

W『それは車に乗り移ってーーーーまさか!?』

W『あぁ、そのまさか、だよ』



僕が『亜坂真白』について検索をした時に、一つの事実が分かっていた。
そこからその山村幸の事件を思い出し、一つの仮説を立てていた。
それは、



W『亜坂真白……君はーー』






W『ーー既に死んでいる』

W『井坂深紅郎に治療を受けたというその時に!』


気にはなっていた。

『ミスト』の霧化はそこまで強力というわけではないはずだ。
検索では保って2、3秒ということだった。
少なくとも、絢瀬亜里沙を警察病院から誰にも気づかれることなく連れ去るなど不可能のはずだ。

ハイドープとしての能力かと思ったが……。



W『恐らく井坂深紅郎が行った治療は人間への処置ではない』

W『人間の肉体を滅ぼし、その代わりにドーパントとしてのみ生きられるようにする』

W『詳しいことは想像もしたくないが、そんなところだろう』



精神体のみのドーパント。
だから、



穂乃果『この娘に入り込めた』クスクス

W『っ、その娘からすぐに離れろ!』



翔太郎が吠える。
けれど、奴は聞くわけがない。



穂乃果『出ていくわけないでしょう?』

穂乃果『この娘から出ていったら、私は倒されてしまうわぁぁ』



確かに、そのままでは僕たちは手を出せない。
精神体だけならともかく、高坂穂乃果の体に乗り移られた状態では、メモリブレイクが出来るかも分からない。
なにより、彼女の体に負担がないかどうかも分からない。


W『くっ……』

穂乃果『フフッ、貴方たちはそこで見ていなさい』スッ



なにもできない僕たちの前で、奴はもう一本『メモリ』を取り出した。




『イービル』




W『そのメモリ、は……?』

穂乃果『この娘に合うはずのメモリよ。これで私は更に力を得るわぁ』

W『止めーー』




穂乃果『えぇ、使わないわ』

穂乃果『ーーまだ、ね』



まだ、使わないだって?
まさか島本凪の時のように、コネクターを成長させるつもりか!



穂乃果『その通りよぉ』

穂乃果『流石、悪魔の子ねぇぇ』



W『っ』



その言葉に、反応しかける。

……いや、ダメだ。
今は熱くなっている場合じゃない。
引き出すんだ。
奴から情報をーー。


W『君は、なにをしようとしている……?』

穂乃果『フフッ』




穂乃果『『絶望』よ』




W『絶望、だと?』



思っていたより呆気なく。
彼女は答えた。


絶望を与えて、コネクターを成長させる。


それが彼女の目的。
それまでは挿さないということか……。

だが、絶望?
彼女の意識は恐らくない。
その状態で絶望を与える……?
…………いや。




W『っ、まさか!』

W『フィリップ……?』

穂乃果『…………あぁ、検索済というやつかしら。けれど、もう一人は分かっていないようね』

穂乃果『…………いいわ。説明してあげましょう』


穂乃果『この娘は今、夢を見ている』

穂乃果『この娘が幸せを感じた瞬間を再現する夢を』

穂乃果『そして、その夢の中で彼女はーー』





穂乃果『ーー『絶望』するのよォォォ』ニタァァ




穂乃果『外部からの介入は不可能。この娘が絶望仕切った時に、夢は終わる』

穂乃果『この娘の精神と引き換えにねェェェ……』

穂乃果『それが、この『絶望の霧』』

穂乃果『…………ア、ハハハッ』

穂乃果『ハハハハハッ、ハッハハハッ!!』




真白『…………さぁ、絶望を知りなさいッ!』





ーーーーーー

~~~~~~




なんで、こうなったんだろう……。




みんなでいる日常は、とっても大切で。
穂乃果は幸せだった。

この幸せがいつまでも続けばいいって。
そう思ってただけなのに…………。



一瞬で、壊れてしまった。



希ちゃん。
花陽ちゃん。
にこちゃん。
凛ちゃん。
絵里ちゃん。
真姫ちゃん。

みんな…………っ!



海未ちゃんとことりちゃんを探さなきゃ……!
二人だけでも助けなきゃッ!!




~~~~~~

本日はここまで。
レス本当に感謝です。
励みになります。

~~~~~~



穂乃果「はぁっ……はっ……」



何度も何度も携帯を鳴らした。
けど、海未ちゃんもことりちゃんも出る気配がない。
心当たりのある場所は全部探したし、それ以外の教室だって探したはずなのに……。



穂乃果「どこに、いるのっ、二人とも……」



走ってかいた汗じゃなく、嫌な汗が頬を伝う。
今だって、さっきまでの光景がフラッシュバックしてて。



穂乃果「うっ……っ」



吐き気が込み上げてくるのを、どうにか抑える。
きつい、ほんとに……。
なんでこんなことに……っ!





ーー prprprprprpr ーー



穂乃果「っ」ビクッ



色々な思考は、突然鳴り響いたその音に打ち止められる。

着信を知らせる音。
もしかして!

すぐに携帯を取り出して、画面を見る。
そこには、穂乃果が想像していた通りの人物の名前が表示されていた。



穂乃果「海未ちゃんっ!」



彼女の名前を呼ぶ。
電話口からもすぐに彼女の声が聞こえてくる。

そう思ってたのに、



『……………………』




返事はない。
イタズラな訳はない。
真面目な海未ちゃんだし、なによりこの状況だもん。
でも、それならなんで黙って…………?

ううん。
よく聞いたら、聞こえる。




『はっ…………ほ……の……』




今にも消えてしまいそうなか細い声だったけど。
間違いなく、その声は海未ちゃんのものだ。



穂乃果「海未ちゃん! 今どこにいるのっ!!」



大丈夫なの?
ことりちゃんは?
本当ならそう聞きたいし、様子がおかしいのは分かってる。
でも、だからこそ、今は海未ちゃんがいる場所を聞いて駆け付けるのが先だ!

電話の向こうで、海未ちゃんが呼吸を整えている音が聞こえた。
そして、らしくない小さな声で、ポツリとこう言った。




『り、じちょう……しつ、です…………』

穂乃果「わかった! すぐ行くからっ!」

『あ……いやっ……』

穂乃果「大丈夫! すぐだからっ!!」



ーー プツン ーー



電話を切ってすぐに駆け出す。

………………。

きっと、そこで電話を繋いだまま向かったなら。
また結末は変わったかもしれない。

ちゃんと海未ちゃんと話をしていたら…………。



そう。
穂乃果はまた、間違ってしまった。




~~~~~~

~~~~~~



理事長室に着いた時。
海未ちゃんは確かにそこにいた。



穂乃果「海未ちゃんっ!!」

海未「ほの、か……?」



その顔には涙。
ボロボロと零れ落ち、脱力しきったように座っていた。
でも、まず穂乃果の目に入ったものは海未ちゃんの泣き顔よりも、もっと違うもの。




穂乃果「…………え、これ……血?」

穂乃果「それに……海未ちゃん、なんで、ことりちゃん倒れてるの…………?」




海未ちゃんの周りに広がる血溜り。
そして、その前に横たわることりちゃんの姿だった。



海未「あ、ぁぁ……ちがうっ」

海未「ちがうのっ!!」


違う、と。
首を横に振りながら、海未ちゃんは座ったまま後退りをする。
って!



穂乃果「海未ちゃん、大丈夫だからっ……ね?」

海未「わたしは、ちがう、ちがうっ!」

穂乃果「大丈夫、穂乃果は海未ちゃんの味方だよっ」

海未「みかた……?」

穂乃果「うん、そうだよ」



パニックを起こしてる海未ちゃんを落ち着かせようと言葉をかける。
大丈夫だよって。
穂乃果は海未ちゃんの味方だよって。
その甲斐もあって、海未ちゃんは少しずつだけど落ち着きを取り戻し始めた。



穂乃果「海未ちゃんっ」ギュッ

海未「あっ……ほの、か」

穂乃果「だいじょぶ、だよ…………穂乃果は海未ちゃんの味方だから、ね?」



穂乃果の腕の中にいる海未ちゃんに、何度もそう言い聞かせる。
海未ちゃんもさっきまで力のなかった腕に力を入れて、穂乃果のことを抱き締め返す。
とんとんって背中を軽く叩きながら、繰り返す。

それから少しして、海未ちゃんはやっと話ができるようになった。
もちろんまだ声も体も震えていたけれど。
それでも、パニックを起こしていたさっきまでとは違っていた。



海未「穂乃果……私は……」



そう言って、海未ちゃんの視線は、倒れていることりちゃんに向いていた。



穂乃果「…………ことりちゃん、は……」

海未「っ」

穂乃果「どうしたの……?」



辛そうなのは分かってる。
でも、それを聞かなきゃ何も進まない。
穂乃果はそれを聞いたんだ。

だけど、穂乃果はすぐに聞いたことを後悔する。
だって、




海未「ことりは、もう…………っ」

海未「わたしが…………ことりを手にかけたんですッ!!」





海未ちゃんはそんなことを言ったから。

ボロボロと泣きながら、海未ちゃんは話した。

凛ちゃんからの電話を受け、ことりちゃんと調理室に向かったこと。
その途中で、化け物に遭遇したこと。
逃げ込んだ理事長室に知らない『女の人』がいたこと。
その『女の人』が無理矢理ことりちゃんに『なにか』を刺したこと。
そしてーー






『ことり、怪物になっちゃったの♪』





穂乃果「っ!?」

海未「ひっ!?」ビクッ



声。
聞き馴染みがあるその声に振り返る。
そこには、血溜りの中から起き上がることりちゃんの姿があった。
お腹には、



ことり『アハッ♪ これ、海未ちゃんがやったんだよぉ』

海未「っ」

ことり『ことりのこと、ナイフで刺したの。それで、ことりーー』




『死んじゃった♪』





海未「いやっ、いやっ!」

穂乃果「ことり、ちゃん……」



ことりちゃんの言葉を聞かないように、海未ちゃんは両手で耳を塞いで、首を振る。
それでも、お構いなしに、ことりちゃんは言葉を続ける。


ことり『ひどいんだよ、海未ちゃん』

ことり『ことりはただ、海未ちゃんの首に手をかけただけなのに~っ』



ことり『こうやって~♪』スッ



海未「ひぃぃっ!?」

穂乃果「っ」



穂乃果「やめてっ!!」



海未ちゃんに近づくことりちゃんの前に咄嗟に飛び出る。
海未ちゃんはそんなことりちゃんの姿に怯えて…………。

…………ううん、違う。





穂乃果「貴女は誰……?」




海未ちゃんは動揺して気付いてないだけだ。
だけど、穂乃果にははっきりわかった。

ことりちゃんはこんなこと絶対しない!
海未ちゃんに手をかけることも。
海未ちゃんを責めることも。
絶対するはずないよ!

だから、目の前のことりちゃんは、ことりちゃんじゃない!
きっと、ことりちゃんの姿をしたなにかだ。



ことり『ひどいよぉ、ほのかちゃん』

ことり『ことりはことりだよぉ?』

穂乃果「っ、そんなわけないよっ!」

穂乃果「優しいことりちゃんが、海未ちゃんのこと傷つけるわけないもんっ!」



そうだ!
だから、海未ちゃんは悪くない。
きっと本物のことりちゃんは無事のはずなんだ。

海未「ほの、か……」

穂乃果「だいじょぶ。早くここから出て、本物のことりちゃんを探そう!」

ことり『…………』

穂乃果「答えて! 本物のことりちゃんはどこっ!!」



目の前の彼女に向かって叫ぶ。
正直、目の前の光景を理解するなんてできてない。
でも、こうでもしなきゃ正気を保てそうになかったから。
だから、穂乃果は精一杯叫んだ。



ことり『…………』

穂乃果「…………っ」



無言のままにらみ合う。
その沈黙を破ったのは、



ことり『ひどいよぉ』

ことり『ことりは本物なのに……』



ことりちゃんの姿をした彼女だった。

っ!
まだそんなことをーー



ことり『…………あ、わかった!』

ことり『そんなひどいことを言う、ほのかちゃんの方こそ偽物だよ』

穂乃果「え…………なにを……?」

ことり『うんっ、そうに違いありませんっ♪』



彼女は納得したように、ウンウンと頷く。
そして、こう言った。




ことり『偽物のほのかちゃんなんて死んじゃえばいいんだ』

ことり『うふふ、そうだよ』




ことり『殺しちゃおう♪』




訳の分からないことを言って。
彼女は近づいてくる。



ことり『そっかそっかぁ』

ことり『偽物ならそんなひどいことも言っちゃいますよね』



一歩。



ことり『ことり、ほのかちゃんのことだいすきだから』

ことり『許せませんっ』



また一歩近づいてくる。

っ!
に、逃げなきゃっ!

そう思ってるのに、体が言うことを聞いてくれない。
なんでっ!?



ことり『ってことは、そっちの海未ちゃんも偽物かなぁ?』

ことり『きっとそうだよね。だって、本物なら』

ことり『ことりのこと、殺したりしないもんね♪』



海未「っ、あ、あぁ…………」



近づいてくる。
両手を挙げて。
きっと穂乃果の首にそれを当てて、締め付けられるんだ…………。

嫌だ……嫌だっ!
嫌だよ、やだよっ!!!

体は動かない。
逃げられない。

ことりちゃんの姿をしたなにかは、遂に穂乃果の前にきて、座り込む。
そして、その両手を、穂乃果の首にーー




ことり『バイバイ、偽物さん♪』キュッ

穂乃果「いやっ…………」








「あぁぁぁぁぁっ!!!!」グッ






ーー パァァァンッ ーー




鼓膜を揺らす音。
次の瞬間、




ーー ユラッ ーー



ーー バタンッ ーー




穂乃果の目の前の彼女が倒れた。
見れば、彼女の頭になにかが貫通したような穴があって。



穂乃果「……う、みちゃん……?」



後ろにいたはずの海未ちゃん。
その手には、拳銃が握り締められていて、煙があがっている。
つまりーー



海未「あ、あぁぁぁっ、わたしはっ!!」

海未「わたしはまたっ、ことりをっ!!」



海未ちゃんは叫び声をあげながら、涙を流す。

気が動転してるんだ!
落ち着かせなきゃっ!
どうにか我に返った穂乃果は、海未ちゃんに駆け寄ろうと立ち上がる。

大丈夫だよ。
あのことりちゃんは偽物だよ。
海未ちゃんは穂乃果を守ってくれただけ。
海未ちゃんは悪くないんだよ。

そう言おうとしたんだ。
でも、




ーー ガチャッ ーー



穂乃果「え……?」

海未「ごめんなさい、ことり…………」グッ

穂乃果「ダメッ!!! 海未ちゃーーーー






ーーーーーー パァァァンッ ーーーーーー







こうして、私は。



すべてを失った。




~~~~~~





ーー ザザザザザザザザザッ ーー






『そろそろ私の出番かしらぁぁ』ニタァァ

一旦ここまで。
辛い。

本日出来れば更新します。

~~~~~~




「楽しんでくれたかしらぁ」




海未ちゃんを抱きかかえている穂乃果の前に、その人は現れた。

音もなく。
まるで暗闇から生まれたかのように。



穂乃果「あな、た……は……?」



茫然としたまま、穂乃果は口を開く。

けれど、その答えーー彼女の口から語られたその真実を聞いて、穂乃果は、




「私は亜坂真白」

「貴女のお友達を全員『台無し』にした人間よぉぉ」




穂乃果「ッ!?」

一瞬で頭に血が登ったのが分かる。



穂乃果「なにをッ!!」ダッ



不気味な笑みで穂乃果を見つめるその人に掴みかかろうとして、



ーー スカッ ーー



穂乃果「えっ!?」



掴み損ねて、体勢を崩してしまった。

……って、ううん。
掴み損ねたとかじゃない。
今の感覚って、



真白「無駄よぉ」

真白「今のままの貴女じゃ私は掴めないわ」


なにをしたの、とか。
なんで、とか。
そんな言葉を口にする前に、彼女はそれを告げる。



真白「私は超人ーー『ドーパント』だもの」

穂乃果「ドー……パント……?」

真白「そうよぉ」スッ



ーー カチャッ ーー



頷いて取り出した物。
まるでUSBメモリのようなそれを、どこからか取り出した彼女は、説明を続ける。

それが人を超人に変えるものであること。
使った人間は様々な能力を授かること。
そして、それのせいでーー




真白「愉快だったわぁ」

真白「貴女のお友達が壊れていく様を見るのはッ」




皆がいなくなってしまったこと。

真白「まずは東條希」

真白「『ミスト』のメモリで靄の中に引きずりこんであげた」

真白「今頃、何もない、誰もいない靄の中で一人息絶えている頃でしょうね」クスクス



真白「次は小泉花陽」

真白「あぁ……今、思い出しても笑えるわぁ」

真白「西木野真姫と絢瀬絵里を逃がすために、一人抵抗してきたのよ」

真白「二人とも逃げて……なんて……フフフッ、どうせ二人とも『ブラッド』で血を抜かれて死ぬのにねぇ」

真白「まぁ、結局彼女に使った『バイオレンス』のメモリとも合わなくて拒絶反応を起こすのだから…………無駄死にね」



真白「星空凛と矢澤にこは……語るまでもないわ」

真白「『ソード』で心臓を一突き」

真白「本当につまらなかった…………仮面ライダーとは思えない……いえ、何でもないわ」



真白「その点、南ことりと園田海未は優秀よ」

真白「大いに私を楽しませてくれたわぁぁぁ」

真白「お互いがお互いを殺し合うなんて、本当に素敵よねぇ」

真白「『アームズ』と『エッグ』と『スキップ』」

真白「貴重なメモリを3本も使った甲斐があった」





穂乃果「…………………………っ」ギリッ

真白「いい、目ね」




今、穂乃果はどんな顔をしてるんだろう?
分からない。
でも、これだけははっきりしてる。








憎い






目の前のこの人が憎い。
でも、その感情をどうにか耐えようとして俯く。



真白『そんな目で見られると困るわねぇ』

真白『こうなったのは元はと言えばーー』



『ーー貴女のせいよぉ?』



けれど、無駄だった。
もう、この感情は抑えられない。



「っ、おまえ……」



憎くて、憎くてたまらない。
きっと今の私の表情は、決して元アイドルがしていいものではないんだろう。
にこちゃんがいたら、注意されたんだろうな。

けど、もういい。
もう、誰もいない。



「私は……おまえを……許さないッ」

『…………なら、どうするのかしら』

「…………私はッ」



手に力を入れる。
いつの間にか現れていた『それ』を持つ手に。



『……そうねぇ。それしかないわよねぇ』

「……あ、あぁぁッ!!」



穂乃果は、もうどうなってもいい。
この『力』で仇が討てるならッ!!



「あぁぁぁぁぁっ」




ーー カチ










『だめだよ、ほのかちゃん』




『これは貴女には不要なものです、穂乃果』







穂乃果「……………………え……?」




~~~~~~

本日更新予定。

都合により更新できなくなりました。
申し訳ありません。
9月かなり忙しいので、隙を見て少しずつ更新します。
あと少しで終わりますのでお付き合いいただけるとありがたいです。

少し更新。

ーー 数分前 ーー




穂乃果『アハハハハハッ!!』ブンッ



W『止めろ、止めてくれ! 穂乃果ちゃん!』

W『無理だ! 今、彼女の意識は眠っている状態で、僕たちの声は恐らく届かない!』



穂乃果『そうよぉ、今、ちょうど彼女が堕ちてくれたところ』

穂乃果『あと、もう少しでこの身体を支配できる』

穂乃果『『絶望』で精神が壊れて初めて、このメモリはこの娘に適合するの』

穂乃果『そうすれば、私は…………』クスクス

W『くそっ!! どうしたらいい!? 奴を倒して、彼女を救うには!?』

W『検索、してみよう』

W『!! あぁ! 『エクストリーム』だ!』スッ



ーー キュゥゥゥゥン ーー




『エクストリーム』




W『はぁぁぁぁっ……はぁっ!!』




穂乃果『それがWの究極の姿……』

W『検索を始めよう』

穂乃果『そうはさせーー』グッ

W『それはこっちの台詞だッ! プリズムビッカー!!』スッ



ーー ガァァンッ ーー



穂乃果『盾…………鬱陶しい』グッ



ーー ガァァンッ ーー



W『くっ……!? 受け続けたんじゃ彼女の体が保たない! フィリップ!』

W『分かってるさ』スッ

ーーーーーー



『…………』

『戦闘と同時に検索を始める』

『調べる項目は『高坂穂乃果を救う方法』』

『キーワードはーー』





「にゃ??」



『え?』



『君、は…………』

「あっ! 穂乃果ちゃんの協力者の人!?」

『何故、ここに君が……いやーー』




「ちょ、ちょっと、どこに連れていくつもりなんですか!?」

『ーー君たちがいるんだい?』



「えっと? よくわかんないけど、気づいたらここにいた感じ…………ね?」

「私は違います! 貴女に無理矢理連れてこさせられたんです!」

「にゃにゃ? そうだっけ?」

「そうです!」



『…………ここは『地球の本棚』のはず、ここに入って来られた……?』

『…………そうか!』

『『エクストリーム』に到達した影響だ! 姉さんの時と同じで、メモリがそのステージに到達したせいで、彼女の意識がここに繋がったというわけか!』

『実に興味深い……ゾクゾクするねぇ』

「よく分かりませんが……」

『おっと、すまない。僕の悪い癖が出たようだ』



「とにかく、行くね!」



『行く? 一体どこへ……?』

「言われたんだ。連れてきてって!」チラッ

『彼女を……どこへ……?』

「穂乃果ちゃんの夢の中に!」

『!? そんなこと、どうやって!?』

「それはーー」





「こっちだよ」




『! この声は……もしや……』

「…………なるほど。貴女が私を連れてくるよう言ったんですか。ならば、私は、えぇ……従うしかありませんね」

「えへへ、そう言ってくれるとおもってたよぉ」

「一緒にきて? そして、穂乃果ちゃんをつれもどそう?」





ことり「ーーおねがぁい、海未ちゃん♪」

海未「……ずるいですよ、ことりは」





ーーーーーー




ーー ガァァンッ ーー



ーー ガァァンッ ーー




W『おい! フィリップ!』

W『………………』

W『おい!』

W『……遅くなったね、翔太郎。検索は無事終了した』

W『! なら、教えてくれ! どうやったらこの娘を助けられるんだ!?』

W『…………問題ない』

W『は?』





W『もう既に、彼女は救われた』





ーーーーーー

短いですが、本日はここまで。
21連勤……

いつかの続きを

~~~~~~




穂乃果「なんで……?」




目の前にはあるはずがない光景があって。
いないはずの、失ってしまったはずのそれは今、確かに穂乃果の目の前にある。

頭が混乱してる。
でも、そのおかげでさっきまでの激情が少しずつ冷めていくのを感じた。



『少しは頭が冷えましたか?』

穂乃果「あ、え……」

『まったく! 穂乃果は昔からそうなんですから!』

『まぁまぁ、とまってくれたんだから、ね?』

『はぁ、穂乃果を甘やかしすぎですよ!』

『えへへぇ』



穂乃果「………………」



ゴシゴシと何度も目を擦っても変わらない。
つまり、これは現実……?





『いいえ』

『それはちがうよ、穂乃果ちゃん』



と、二人は穂乃果の疑問を否定する。

って、あれ……?
今、穂乃果口に出してなかったのに、なんで二人は答えたんだろう?

それに答えたのは、




真白『…………まさか、この『絶望』の夢のなかに入っているなんて』ギリッ




彼女。
穂乃果からすべてを奪って、見下すように笑っていた彼女の表情はさっきまでとは明らかに違っていた。
まるで何かを台無しにされて怒っているような顔だ。



『穂乃果。思い出してください』

『ここは穂乃果ちゃんの夢の中だよ』



穂乃果「ゆ、め……?」



『はい。貴女は彼女のメモリの能力を受けて、夢に落ちているんです』

『この夢は、穂乃果ちゃんを『絶望』させるためのもの。そうして穂乃果ちゃんの心を壊そうとしているの』


怒り狂う彼女に構わず、二人は続ける。
穂乃果の手を握る二人の手はあたたかくて、これが夢だとは思えないけれど……。



真白『やめなさいっ!』

真白『私の計画を邪魔することは絶対に許さないッ!!』

穂乃果「…………」



でも、彼女の狼狽え方を見ていたら……ううん。

そうだよね。
二人が言うことなんだもん。
それはきっと本当のことで。




穂乃果「ねぇ、ふたりとも」



『はい』

『うん』





穂乃果「この悪夢はどうしたら醒めるのかな?」




だから、穂乃果はそう聞いた。

二人がここに、穂乃果の前に現れたのはきっと穂乃果をここから連れ出すため。
そう思ったから。




『ふふっ、そんなの簡単ですよ』

穂乃果「簡単……なの?」



ふと、今までの光景がフラッシュバックしてくる。
穂乃果の目の前で消えて、息絶えていったみんなの――



穂乃果「っ」

『だいじょうぶ』ギュッ



震えそうになる体をふわっと包み込んでくれる。
慣れ親しんだそのあたたかさに、緊張がほどけていく。

そして、穂乃果を抱きしめながら言う。



『ねぇ、穂乃果ちゃん。おもいうかべて』



なにを?
そう訊ねる穂乃果。
ふっと腕の中から離れた穂乃果に、二人は笑顔でこう言った。





『『私達がずっと笑顔で過ごせる未来を、です』』





『この悪夢は穂乃果ちゃんの心を、感情を反映してできたものなの』

『あなたが体験した絶望を食らってこの悪夢は成長してるんです』

『このままではいずれあなたの体はこの悪夢に支配されるでしょう』

『でも、穂乃果ちゃんがおもいうかべてくれたら、きっと……』



真白『やめなさいッ!! やめろぉぉぉ!!!』




穂乃果「…………そっか」


そっか。
そんなことなんだ。

ずっと笑顔で過ごせる未来。

それなら、いくらでも想像できる。



例えば、これから心配かけたことを怒る彼女の姿。

例えば、それを見て涙を浮かべながら微笑む彼女の姿。

例えば、そうして笑い合う私たちの姿。



…………あぁ、なんだ。
こんなに簡単なことでよかったんだ。




『永遠』なんて大層なものじゃないかもしれない。

だけど、それは『当たり前』のこと。
ずっと続いていく日常の風景だ。

悩んだり。
迷ったり。
ぶつかり合ったり。
それでも、笑い合える、そんな毎日がきっと続いていく。

だって、ずっと一緒だから。
みんなと一緒ならきっとどんな壁でも乗り越えられる。
今までそうしてきたように……。
きっとこれからも!

だから、こんな『絶望』は――――





穂乃果「もう終わりにしよう!!」





~~~~~~

ーーーーーー

ーーーーーー



視界が晴れていく。
今まで真っ暗で、真っ黒だった風景が白んでいく。




穂乃果「…………………」




真白『ハァ、ッ……高坂…………穂乃果……ッ』




そこにいたのは、穂乃果をにらみつける彼女ーー『亜坂真白』。

まるで、ノイズがかかるみたいに、彼女の姿ははっきりと見えない。
それはきっと、穂乃果が寝ぼけてるってわけじゃなくて……。



W『どうやら、夢から醒めたようだね』

穂乃果「……はい」



穂乃果は隣に並んだその人の言葉に頷いた。

夢。
そうだ。
穂乃果の悪い夢はもう終わった。

でもーー



穂乃果「この人は……?」



彼女はどうなんだろう?

死んでしまっても、生き続けて。
そして、一緒にいたい人の姿を追い求めている。

そんな彼女の悪い夢は……?



真白『……アァ、井坂、先生』

穂乃果「………………」

真白『今、私がお救いしますからぁ……』



W『狂信者』

W『照井はそう言ったか』



W『あぁ。自らの命をあの男に救われた。彼女はそう思い込み、何人もの人を犠牲にした』

W『実際はただ実験台にされただけ、だろうけどね』




でも、きっとそれでも……。




穂乃果「一緒にいたかっただけ、なのかな」




大切な人と一緒にいたい。
きっとそんな想い。




穂乃果「……もしかしたら、穂乃果もそうなってたかもしれないんだ」



『絶望』の夢の中で感じた激情。
自分の手を汚してでも、仇を討ちたいって感情を思い出す。

あれは夢の話で。
だから、彼女が本当に感じた『絶望』には及ばないかもしれない。

けれど、穂乃果はそれを知ってしまったから。




穂乃果「なら、穂乃果が……」




ーー カシャッ ーー




地面に落ちていた『それ』を握る。
一回しか使えないはずの『それ』はなぜか熱を帯びていて。




穂乃果「ねぇ」

穂乃果「穂乃果もわかるよ」

穂乃果「あなたの気持ち」




穂乃果「大切な人と一緒にいたいって気持ち」




穂乃果のそれは海未ちゃんやことりちゃん。
それに、μ'sのみんな。

彼女は井坂って人。



穂乃果「大切な人を失って、悲しかったんだよね」

穂乃果「苦しくて、どうしようもなかったんだよね」



真白『……ハァ、ハッ……』

真白『お前に、なにがッーー』




穂乃果「わかるよ!」

穂乃果「だって、あなたが穂乃果に見せたんでしょ!」



自分の苦しさを。
その悲しみが伝わってきた。
きっとあの夢は、彼女が感じた『絶望』が表れたものだったんだと思う。

私はこんなに苦しいんだよって。
そう、伝えてきたんだ。


真白『ならッ!』

真白『この『絶望』が理解できるならッ!!』



真白『井坂先生をっ、この手で蘇らせてーー』



穂乃果「でも、だめなんだよ」





穂乃果「大切な人のために、誰かを犠牲にするのは間違ってるんだ!!」





そう。
穂乃果も、そうだ。

海未ちゃんを止めるために。
ことりちゃんを助けるために。
みんなを巻き込んで、みんなを傷つけた。

それは、そう。




穂乃果の『罪』だ。



掌の『それ』に力を込める。
火傷をしそうなくらい熱い。

けれど、それがちょうどいい。
穂乃果に自分の『罪』を忘れないようにさせる戒めってやつだ。




穂乃果「亜坂真白さん」



穂乃果「あなたがやったことは間違ってる」

穂乃果「大切な人のために、他の人を犠牲にするのはだめなことなんだ」




真白『う、るさい。私はぁ、井坂先生を……』




ミスト『アァァァァッァァッ!!!』




彼女が姿を変える。
黒より暗い色を纏ったドーパントに。

もう、こちらの声は聞こえていない。
ならーー



W『高坂穂乃果』

穂乃果「はい」

W『彼女を救うんだろう?』

穂乃果「…………」



救うなんて。
そんな立派なことじゃない。

でも、彼女の『絶望』を知ってしまったから。
その『憎しみ』に共感してしまったから。

そして、その『罪』を自覚してしまったから。


だから、穂乃果は投げかける。





穂乃果「『お前』の罪を数えろ」





『罪』を犯した彼女へ。
もしかしたら、そうなっていたかもしれない自分へ。

そして、『それ』を掲げる。
全てを終わらせるそのメモリをーー。






『エターナル』






穂乃果「変身」





体が炎に包まれる。
右手には青の炎。
左手には白の炎。
そして、橙色の炎が視界いっぱいに広がっていく。

熱くはない。
覚えがあるあたたかい温度だった。



『準備はいいですか?』

『いっしょにおわらせよう』



耳元に聞こえた声にゆっくりと頷く。

…………うん。
もう一度、言葉にしよう。

大切な人のために人を傷つけた『罪』を、決して忘れないためにーー。






エターナル『さぁ、『お前』の罪を数えろ』





ーーーーーー

ーーーーーー



W『あの姿は……!』


W『いや、あの男とは違う。右が青で左が白。その上、複眼は橙色とは……不完全で不安定な姿のようだね』


W『そもそも変身する機能はつけてなかったはずだろ? なんであの娘が変身をーー』

W『残念ながら、僕にも分からない。ただ、今、分かるのは…………』

W『あぁ、あのメモリの恐ろしさは知ってる。痛いほどに、な』

W『…………さて』



ーー ガシャッ ーー



「僕たちはこの結末を見守るとしよう、翔太郎」

「分かってるさ、フィリップ」



ーーーーーー

ーーーーーー




ーー カツンッ カツンッ ーー




エターナル『……………………』



一歩ずつ。
歩を進める。

彼女を倒して、救う。

でも、それよりも前に……。



ミスト『触るナァァ!!』ブンッ

エターナル『ふっ!』サッ



大振りの攻撃を避けて、その目的を果たす。




『エターナルマキシマムドライブ』




ーー バチッ ーー

爆ぜる音。
それは目の前にあった白の球体から。

マキシマムで機能が完全に停止したんだ。
やがて、その球体は元の形を取り戻す。




ーー フラッ ーー



ーー ギュッ ーー



エターナル『やっとーー』



腕のなかに温かさを感じる。
そこにいたのは、




エターナル『ーーやっと、会えたね、ことりちゃん』



ことり「……………………」




…………ごめんね、お待たせ。


ことり「ん……っ」

エターナル『……っと』



あんまり強くぎゅってすると、痛いよね。
それにこうやって抱きしめるのは、後にしなきゃ。

それは海未ちゃんと一緒に、ね?

今はまず、



ミスト『高坂ぁ、穂乃果ァァッ!?!?』



絶叫。
今までの余裕ぶった彼女はいない。
ただ、憎悪のままに感情と声をぶつけてくるだけ。

もう、怖くはない。

それよりも、なんだか可哀相で。
自分の想いに縛られ続けている。

…………うん、そうだね。




エターナル『終わらせよう』





彼女の『絶望』を終わらせるために。
穂乃果はーー




『エターナルマキシマムドライブ』




もう一度、それを使ったんだ。

バチッと音がした。
その後に、メモリが壊れる音。

全てが終わったことを確信した穂乃果は、ドライバーを閉じて、彼女と向かい合う。
彼女の『最期』に向かい合う。




穂乃果「ねぇ」

真白「……………………」

穂乃果「貴女はーー」



真白「ーーあぁ、そう。そうなのねぇ」



ポツリ、と。
納得したかのように、彼女は頷いた。
そして、




真白「簡単なことだった。こんなに簡単なこと……」



真白「今、会いに行きますわぁ、井坂先生」サァァァ




ーー フッ ーー




驚くほど呆気なく。
そして、満足そうに笑った彼女は、霧のように、消えていった。




ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー



File.0
南ことり誘拐事件。



『ミストメモリ』使用者による誘拐事件。
目的は、『エッグメモリ』及び『スキップメモリ』を南ことりに使用し、彼女の体を媒体に『井坂深紅郎』を蘇生させることであった。


『仮面ライダーエターナル』が撃破。
メモリも破壊した。


メモリ使用者ーー『亜坂真白』は事件発生時から既に死亡しており、生前に井坂深紅郎から施された施術とメモリのエネルギーで存在を維持していた。
しかし、メモリの破壊と同時に消滅した。


また、この事件で使用されたメモリ以外で音ノ木坂が関連する事件で使用された下記のメモリは彼女が流通させたものであり、その流通経路は、風都署超常犯罪対策課の捜査によって、すべて明るみになった。

亜坂真白が流通させたガイアメモリ
『バイオレンス』
『マネー』
『コックローチ』
『ブラッド』
『ソード』
『アームズ』



ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー




「ごめ~~~んっ!」



「もう! 遅いですよ!」

「まぁまぁ。ちょっとだけだから、あんまり怒らなくてもいいんじゃないかなぁ?」

「また、そうやって甘やかすんですから!!」

「えへへ、つい♪ でも、ほら、今日はわたしたちの快方祝いなんだから、あんまりおこっちゃ……ね?」

「…………はぁ、分かりました」



「おぉ、さすがっ! あんなに怒ってたのに……ねぇねぇ、今度コツ教えてよ!」

「うん♪ いいよぉ」

「調子に乗らないでください!」

「ひっ!?」

「あ、あはは……」




「って、あ~~~っ!!」



「わっ!?」

「な、なんなんですか!? 急に大きな声出さないでください!」

「時間!」

「「え……?」」




「「あ~~~~っ!!」」




「走らないと間に合わないよっ!」

「もう! 誰のせいですかっ!」

「と、とにかくいそごうっ」


「はっ、はぁっ……」

「ふっ、ふぁぁっ……」

「……………………」




「ふふっ」




「どう、したんですかっ?」

「なんだかっ、楽しそう……?」

「………………うん! 楽しいよ! だってーー」





「ーーまたこうして笑い合えたから!!」





「…………ふふっ、そうですね」

「うんっ」

ーーーーーー



人生にはきっと色々あって。
それは決して楽しいことばっかりじゃない。



時には、目の前の現実に『絶望』したり。
時には、誰かを『憎む』ことだってあって。


たぶん、私たちはこれからもそうやって間違って、そして、『罪』を重ねながら生きていくんだ。



それでも、私たちはきっと笑いあえる。

自分自身の『罪』を数えながら。
それを誰かに許されて、助けられて。
そして、その誰かと一緒にその『罪』を抱えながら、共に歩いていく。




ねぇ。
貴女も数えてみて。

自分の『罪』を。
そして、それを許してくれた大切な人たちを。

だから、ね?




さぁ、お前の『罪』を数えろ!





ーーーーーー fin ーーーーーー

以上で
『穂乃果「お前の罪を数えろ」』及び【ラブライブ】×【仮面ライダーW】シリーズ完結になります。

稚拙な文章・表現と、そしてなにより、長々とお付き合い下さった皆様、ありがとうございました。
とても楽しく書かせていただきました。
少しでも楽しさを共有していただけたなら幸いです。

以下、本シリーズタイトルです。
参考までに。
①にこ「さぁ、お前の罪を数えろ!」
②凛「さぁ、お前の罪を数えろ!」
③海未「私の罪を」
④真姫「その罪は何色か」
⑤海未「罪と罰」
⑥穂乃果「さぁ、お前の罪を数えろ!」
⑦穂乃果「お前の罪を数えろ」


また気が向いたら、百合やらなにやら書きたいと思っております。
その際には、またお付き合いください。


読んでくださった方に感謝を。
では、また。

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