【艦これ】かんむすの イメージ向上に ご協力お願いします (59)

※地の文あり、キャラ崩壊注意

よろしくお願いします


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中将「君に折り入って頼みたい事がある」

T提督「と、いいますと」

俺は鎮守府の応接間である男と会談をしていた。

その男は初老とは行かずとも顔には薄い皺が入っていて、苦労の後が見える。

そして特筆すべきは、軍服につけられた数多の勲章。直属ではないにしても、俺の上官に当たるお方だ。

数日前、彼の方からこちらへ出向くという連絡を貰った。

中将である彼の方から鎮守府訪問をする事など滅多にないし、とても恐れ多かったのでこちらから出向くと伝えたのだが、
別に構わないと仰ったので好意に甘えた形だ。

正直な所、何かやらかしてしまったのかと不安で仕方がない。

別に思い当たる節はない...訳ではないけど。


中将「実はだね...」

彼は両手を組みながら、とても深刻そうな顔をして俺に話しかける。

その姿はさながら某特務機関の最高司令官だ。

自分、エヴァには乗りたくないッス!

中将「艦娘のイメージビデオを作って欲しい」

T提督「...は?」

T提督「イメージビデオ...ですか」

中将「ああ。今となっては、艦娘は人類の脅威である深海棲艦への唯一の対抗策として知られているが、それも十分とはいえない」

中将「周囲からの便宜を図りやすくするためにも、一般市民への艦娘の周知を心がけたい訳だ」


彼の言うとおり、艦娘は突如現れた深海棲艦への対抗措置である。

ただ艦娘達は海軍の機密事項である為、世間への露出は少なく一般市民にとってはブラックボックス化している事も事実である。

艦娘たちの実態を周知させるためにも、イメージビデオは悪くない手だと思った。

だが、一つ気になる点がある。

T提督「...お言葉ですが、大本営の広報課に頼むのが筋なのでは?」

餅は餅屋という言葉があるように、その道のプロに任せた方が良いと思うのだ。

中将「本来ならそうなる筈だったのだけどね。他の案件で暫くは手が離せないらしい」

T提督「そこで艦娘の頭である私達に役が回って来た訳ですか」

中将「まあそんなところだ」

T提督「はぁ...」

鎮守府は他にもあるのだから、別に俺の所でもなくたって良い。

簡単な話、貧乏くじを引かされたわけだ。


中将「そんな嫌な顔しないでくれよ。業務が増えるのは申し訳ないと思っているさ」

中将「撮ってもらったビデオは後日、その手の業者と校正を重ねるからそんなに凝った物じゃなくても良い」

中将「君だからお願いするんだ。俺の顔も立てると言う事で、どうか一つ頼む」

俺も中将には色々な形でお世話になっているし、ここまでされては頼みを無下に断る事はできない。

T提督「...分かりました。やらせていただきます」

中将「そうか!いやー良かった、助かるよ」

しぶしぶ俺は彼のお願いを聞き入れる事にした。


T提督「とはいってもなぁ...」

その手のノウハウを持っていない俺はどんなビデオを撮ればいいのか、全く思いつかなかった。

中将は凝ったものでなくても良いとは言っていたが、やる以上はしっかり貢献したい。

協力を仰ぐために、俺は旧知の関係である同僚に頼る事にした。

B提督「えっ、お前の所にも中将来たの?」

R提督「奇遇だな、俺の鎮守府にも来たぞ」

...何が君だから、だ。

居酒屋で会議を開いて聞いた所、こいつらも同じ頼まれ事をされていた。

あのおっさん、他の鎮守府にも同じ触れ込みで回っていたらしい。


B提督「んでどうすんの。艦娘のイメージビデオつったってなあ」

R提督「問題は何を撮るか...だな」

T提督「そうなんだよ。この手の話は全く分からなくて困ってるんだよな」

B提督「三人集えば文殊の知恵、とは言っても酒の入った頭じゃなあ」

T提督「それは言わない約束だろ」

B提督の言う通り、俺らは既に大分酒に手をつけていて、もはや真面目な話をする雰囲気ではなかった。

B提督「一発芸、やってもいい?」

T提督「はあ...どうぞ」

B提督「んん...」

彼は右手に掴んだお猪口を頭上高く上げると

B提督「元帥の、心の器!」

T提督「お前それホント好きな」

彼の鉄板ネタである。酒の席では必ずと言っていいほどこのネタをするのだ。

ちなみに最小記録はコロナの蓋だ。最早器ですらない。


R提督「...俺はもう決めたぞ」

T提督「ビデオの話か?」

今まで静かに酒を飲んでいたS提督が唐突に話し出す。

R提督「実は近々、鎮守府周辺の地域で清掃活動が行われる。そこに艦娘達を参加させて、活動内容をビデオに撮るつもりだ」

T提督「許可は取ったのか?」

R提督「申請中だ。今回のイメージビデオの件もあるし降りるだろう」

なるほど、いかにもな内容である。おそらく近隣住民と一緒になっての活動も視野に入れているのだろう。

艦娘と一般市民がともに清掃活動を行う絵は、世間に受けがよさそうだ。


B提督「へー、中々良さそうじゃん。Tはどうするんだ?」

T提督「無難に演習風景でも撮ろうかと」

B提督「マジかよ、お堅いなー」

T提督「うっせ」

こういう時は変に気をてらわないほうが良い。艦娘達もそちらのほうがやり易いだろうし。

T提督「そういうお前はどうなんだよ」

B提督「実は俺にも秘策があるんだよなー」

上機嫌に酒を煽るB。なにやら自信満々の様子である。


B提督「...なあ、ビデオの出来で賭けをしないか?俺は隠れ家の店を賭ける」

R提督「偉い自信があるじゃないか。...面白そうだな、じゃあ俺はセラーにおいてある山崎を賭けようか」

B提督「何年物?」

R提督「25」

T・B提督「「え"っ」」

良いとこ18年だと思っていた。てか何でそんな高い酒持ってるんだよお前。

R提督「まあ負ける気はないからな。賭けるだけならタダだ」

B提督「はーお強いこって...Tはどうすんの?」

T提督「うーん...」


賭けるものねぇ。

俺は何か無かったかと思い浮かべるも、どれも賭けるにしては些細な物ばかりだった。

R提督「無いのならTの今まで一番恥ずかしかった話にしようか」

何を賭けたものかと決めあぐねていると、Rが勝手に俺が賭ける物を決めてしまう。

B提督「いいな、それ。こいつ生真面目だからやらかすイメージがないんだよ」

T提督「ちょ、勝手に...」

B提督「はい決定!店員さん、注文お願いしまーす」

店員「はーい!」

こうして俺らの間で、賭け試合が組まれた。

果たして勝者はこの内の誰になるのだろうか...。


T提督「うちの鎮守府で君達艦娘のイメージビデオを撮る事になった。色々迷惑をかけるかもしれないが、よろしく頼む」

艦娘一同「はい!」

T提督「と、言う訳だ。よろしく頼むよ五月雨」

五月雨「了解しました!提督、五月雨にお任せください!」

イメージビデオ作りにあたって、俺は秘書艦である五月雨に協力をお願いする事にした。

とてもやる気に満ち溢れた彼女は、俺の渡したハンディカムを得意げに構える。


T提督「そんなに気構えなくてもいいんだぞ?後から編集するって言ってたし」

五月雨「そ、そうですかね。私、いつもドジっちゃうから...」

T提督「大丈夫だって。俺もついてるし」

彼女はちょっとドジな所はあるが、そこに目をつぶればとても優秀な子だ。

いろんな経験をつんで、自信をつけていけばドジも自ずと減っていくだろう。

五月雨「あれ。提督、何も写らないんですけど...」

T提督「...五月雨、レンズキャップを取るんだ」

五月雨「あ!し、失礼しました」

...俺もついてるし、大丈夫だろう。たぶん。


T提督「神通」

神通「提督、いらっしゃったんですね」

演習風景の映像を撮るため、俺と五月雨は訓練場へ訪れていた。

普段は海に的を立てての砲撃演習や魚雷演習をしているはず...だったのだが。

T提督「あれ、今日って新入りの子達の射撃演習の日じゃなかったっけ」

見渡す限り、新人の艦娘達の姿は訓練場には見えなかった。

代わりに練度がかなり高い駆逐艦の艦娘達が、海上で準備運動をしている。

神通「そちらの方は既に終わらせてしまいました...申し訳ありません」

T提督「ああ、別にいいんだ。訓練している映像が撮れれば問題ない」

本当は新人の艦娘とそれを指導する神通の絵を取りたかったのだが、仕方がない。


T提督「じゃあ頼む」

神通「はい...それでは射撃演習甲、始めます。総員位置について...構え!」

彼女の声に従って、艦娘達が各々射撃の構えに移る。

普段は気弱な神通だが、戦闘に入ると人が変わったかのように艦隊を指揮する。

その凛々しい声を聞くと、こちらも身が入ってしまった。

隣に居る五月雨を見ると、何時でもOKというようにハンディカムを構え、中腰で待機していた。

俺は神通に合図を送る。そしてその合図を確認した彼女は、右腕に抱えた的であるドラム缶を空高く放り投げ...え?

投げちゃうの?


神通「てェーっ!」

宙に舞い上がったドラム缶を艦娘たちが狙いをつけて射撃する。

夕立「ぽいぽいぽいぽい!」

長波「てぇーい!」

時雨「そこっ!」

綾波「ってぇーい!」

的にされたドラム缶は四方からの射撃を受けて、空中でとんでもない挙動をし始める。

ドラム缶は艦娘達の射撃を受け続け、見る見るうちに空高く舞い上がっていった。

...浮遊感あたえちゃったかな?


五月雨「て、提督!どこを撮ればいいんですか!?皆のほうですか、それともドラム缶のほうですか!?」

私にも分からん。

T提督「じ、神通、一度止めてくれ」

流石にこんな映像を撮るわけには行かず、俺は神通へ命令を出す。

神通「分かりました。...止めーッ」

夕立「えーっ、夕立まだ打ち足りないっぽーい」

長波「どうしたんだよ提督」

T提督「いやすまない...あまり超人的な動きをされるとちょっとな」

こんなものを見せたら、市民が艦娘に恐怖を抱きかねんわ。

俺が暗に言いたい事を察したのか、彼女達は不満を漏らす。


長波「なんだよそれ!あたし達に行儀よく撃てって言ってるのか!?」

夕立「POI」

綾波「残念です...」

俺は艦娘達に口々に責められ、良心を苛まれる。

時雨「まあまあ、皆、提督にも事情があるんだよ。ね、提督?」

時雨は一応俺に理解を示してくれるも、その顔はどこか物悲しかった。

そんな目で俺を見ないでくれ、君らの言いたい事も分かるけどこっちにも事情があるんだよ...。

北上「お困りのようだね、提督」

T提督「北上か」

声につられて後ろを振り返ると、我が鎮守府のエースであるハイパー北上様が立っていた。


北上「駆逐艦達の映像が使えないなら私の演習風景とってよ」

T提督「だめだ。お前はただ魚雷を撃ちたいだけだろうが。この前、規定以上の魚雷ぶっ放して上に叱られた事を忘れたのか?」

俺はお前のせいで生え際が後退しかけた事を忘れはしないぞ。

もう二度とあかべこの真似はしたくない。

北上「ちぇー。提督のケチ」

T提督「何とでも言え」

...さて、こうして当初の予定が跡形も無く消えてしまった訳だが。

五月雨「どうするんですか?砲撃も駄目で魚雷も駄目となると...」

T提督「まあ、そうなるな」

空母に頼むしかあるまい。


T提督「邪魔するぞー」

龍驤「邪魔するなら帰ってやー」

T提督「そうはい神崎!!!」

赤城「ネタがいちいち古いんですよ。歳、ばれますよ?」

T提督「いいんだよ。別にリアタイで見た訳じゃないし」

加賀「もう台詞からしておっさん臭さが滲み出てるわ...。近寄らないでくれませんか?」

T提督「おっさんにだって心はあるんだぞ!?スワロフスキーのお人形さんみたいな、とびっきり繊細なやつ」

瑞鶴「粘土細工の間違いでしょ。キン消しが良いとこね」

加賀「あら、珍しく気が合うわね五航戦」

T提督「ひどい!」

龍驤「はぁ...で、キミは何しに来たん?」


俺は空母達の練習風景を撮影するために、室内にある弓道場へと訪れていた。

見ての通り、空母の面々とは割りとフランクな間柄だ。

外見が大人(約一名を除いて)だと、向こうもこちらもやり易いからだと思う。

...決してなめられている訳ではない。決して。

T提督「いや、空母の皆の練習を撮らせてもらおうと思ってな。どうせ弓、引くんだろ?」

赤城「まあそうですけど」

弓道をする艦娘達の姿は映えるし、多分市民受けもいいだろう。

赤城か加賀当たりにお願いするか。

龍驤「ウチの陰陽師スタイルはあかんのか?」

T提督「オカルトチックな奴は駄目だ。おもいっきり火の玉でちゃってるし」

龍驤「そんな殺生なー!」


加賀「...瑞鶴、貴方がやりなさい」

瑞鶴「えー!何で私がやらなきゃいけないの!?加賀さんがやれば良いじゃない!」

加賀「あら、自信がないのかしら。これじゃ何時までたっても七面鳥(チキン)ね」

瑞鶴「...やってやろうじゃねーかよ!!!」

うちの瑞鶴はこの手の煽りに対して耐性が無い。

普段は割としっかりしているんだが、加賀が絡むとどうもな。


五月雨「提督、なんか揉めてますけど大丈夫なんですか?」

T提督「いいんじゃないか?面白そうだし」

赤城「まるで他人事ですね、提督」

T提督「実際他人事だからな。ハハッ」

赤城「...瑞鶴も身が入るでしょうね。こんなに生きの良い的が手に入ったんですから」

T提督「...?」

赤城の台詞に俺は寒気を覚える。もしかしてこれ、他人事じゃ済まされないのでは?

T提督「すまん、ちょっとトイレ行ってくるわ。五月雨、後は任せた」

嫌な予感を覚えた俺は、赤城に背を向けてその場から離れようとする。

赤城「どこへ行くんですか提督?」

T提督「ヒッ!」

赤城「逃 が し ま せ ん よ」


T提督「無理無理無理ーッ!」

加賀「あら、提督は隠れ無理無理教信者だったのね。ガンビーと仲良くやれそうじゃない」

T提督「冗談じゃねえ!これはマジなほうの無理だから!」

赤城「提督ー、屋島の戦いを思い出してください。ちゃんと的は構えるんですよー」

T提督「誰が平家だ!大体、あれはちゃんと扇を手に持ってただろ!!」

俺は赤城と加賀に連行され、紐で簀巻きにされて柱に縛り付けられていた。

そして頭上には洒落たちょんまげの様に扇が付けられている。

加賀「ちなみに那須与一は左利きだったそうよ、瑞鶴」

嘘をつくんじゃない、彼は右利きだったはずだぞ。


一方瑞鶴は獰猛類を思い立たせる目で、足踏みを始めた。

瑞鶴「提督さん、動かないでね。...一発で打ち抜くわ」

命をか?俺の命を打ち抜くのか?

ヤバい、このままじゃマジで射殺される。誰か助けてくれそうな艦娘は...

五月雨、そうだ五月雨はどうした!?

まともな彼女なら、こんなばかげた事やめさせるに違いない。

五月雨の方に助けを求めると、彼女はハンディカムを構えながらこちらにOKサインを出す。

五月雨「大丈夫です、しっかり撮れてます!」

そっかー、撮れちゃってるかー。

大体こんな映像流せる訳無いから。ピクサーのアニメ映画のNGシーン集にも載せれるか怪しいから。


五月雨は駄目だ、他は...龍驤の奴は何をしている。

龍驤「パ・ジェ・ロ!パ・ジェ・ロ!」

あいつも駄目だ。いっその事まな板らしく、俺の前で壁になってくれれば良かったのに。

瑞鶴「いきます!」

気づけば瑞鶴が弓を引分けていた。弓の鏃をもつ右手がギリギリ、と後ろへ引かれる。

瑞鶴「金 色 射 法!」

T提督「瑞鶴、頼むぞ!?」

そして矢は彼女の手から離れ、俺の顔の方へ真っ直ぐと突っ込んでくる。

T提督「やめ、やめて!?やめて!?」

T提督「うわあああああああああああああああ!!!!」

赤城・加賀・瑞鶴「「「あっ」」」

龍驤「こりゃアカンで!」

五月雨「て、提督!?」


T提督「はっ...」

知らない天井だ...。

ベッドで横になっている体を起こすと、隣には五月雨と空母の面々が心配そうな顔つきで立っていた。

あれ、俺何してたんだっけ。何か末恐ろしい経験をした気がするんだけど。

五月雨「提督!良かった...もう目覚めないんじゃないかって」

T提督「...五月雨、一体何があったんだ」

加賀「提督、覚えてらっしゃらないのですか?」

五月雨「瑞鶴さんがはなっムググ...」

五月雨が喋りかけると慌てた様に加賀が後ろから、五月雨の口に手を回す。


加賀「提督、覚えてないのなら無理やり思い出す必要は無いわ」

赤城「そうですよ!それに私聞いた事あります、人って自分に害しかない記憶は、防衛本能で忘却するらしいですよ」

T提督「そ、そうか」

瑞鶴「提督さん、最近働きっぱなしだったから。今は少し休んで」

瑞鶴の言葉を皮切りに、彼女達は俺にねぎらいの言葉を掛ける。

T提督「...皆すまないな、心配をかけてしまって。ちゃんと休んで復帰するから」

艦娘達からの暖かい言葉に、不覚にも思わずウルッと来てしまった。

目頭を押さえながら、俺は彼女達にお礼を言う。

加賀「これで懲罰は回避できたわね...」

赤城「ええ...これはバレたら軍法会議物ですよ」

瑞鶴「それにしても高速修復剤って一体何で出来ているんですかね?まさか人まで治しちゃうなんて」

T提督「ん?なんか言ったか?」

空母一同「なんでもないでーす」


弓矢の練習風景は、彼女等の方で撮ってくれたらしい。

映像を見せてもらうと、そこにはそれはきれいな姿勢で弓を放つ彼女達が映っていた。

これなら満足のいくイメージビデオが出来そうだ。

...なにやら的が赤くぬれていた気がしたけど、そこも編集してもらえば良いだろう。

T提督「じゃあ五月雨、焼付けが終わったらこのカバーに入れといてくれ」

五月雨「はい、お任せください!」

T提督「さて...」

一仕事終えた俺は外へ繰り出す事にした。

数ヶ月前にうちの鎮守府の近くにコンビニが出来たのだ。便利な世の中になったもんだなぁ...。


「いらっしゃいませコンバンワー」

コンビニに入ると、適当に酒とつまみを見繕う。

まだ早い時間帯に酒保へ出向くのは、他の皆に悪いからな。

そしてここでしか買えない物がある。

俺はお目当てのコーナーへ、確たる足取りで向かった。

T提督「おっ、今月号な○たとH○mao載ってるじゃん!」

そう、○楽天である。初めは何気なく手に取って買ったのだが、今では月に一度の楽しみだ。


鎮守府では気の小さな提督で通っているが、俺にだって度胸と言うものがある。

例え店員が綺麗な女性であっても、おくびれる事なくエロ本のお会計をお願いする位の。

俺は上機嫌になりながら、レジへと向かう。

そう、レジへ出す時にこれはあくまでも参考文献ですよ?と言う面構えで出せばよいのだ。

こうすれば、何も恥ずかしがる事はない。

鹿島「あっ、提督さん!お疲れ様です」

T提督「NOOOOOOOOOOOOO!!!!!!」

但し、身内は別だ。

働き先の身内にエロ本を買っている事がばれるなんて、耐えられる訳無いだろ!


すっかり忘れていた。今月はウチの鎮守府から艦娘達が働きに来ているのだった。

それもこれも全て例のイメージ向上キャンペーンの所為だ。

何が艦娘の周知を広げる、だ。

このままでは鎮守府における俺のニックネームが、むっつりドスケベ提督待ったなしじゃないか!

何としてでもそれは避けたい俺は、思わず例の言葉を口にしてしまう。

T提督「...チェ」

鹿島「ちぇ?」

T提督「チェンジで!!!」

魔法の言葉、つまり別の子と替わってくれである。


鹿島「ひ、ひどいです提督!鹿島、皆の事を思って働いているのに!」

T提督「俺の気持ちも考えてくれ!!」

鹿島「何の話ですか!?」

彼女にとっては理不尽極まりないかも知れないが、ここだけは譲れないのだ。

少し泣きそうな顔をしながら、鹿島はレジ裏へ向かう。

すまない、鹿島...。純粋な君にこんな物を見せてしまった時の反応を考えたら、俺は耐えられそうに無い。

今度間宮で何か奢るから...許してくれ。

暫くすると、代わりの店員が裏から出てきた。


瑞鳳「提督♪聞きましたよ?私に会いたいから替わってくれって。駄目ですよーそんな我がままを言っちゃ」

T提督「OHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!!!」

もっと駄目な奴が出てきちゃったじゃないか!どうして純粋な子ばかり出てくるんだ!?

思わず頭を抱えると、瑞鳳は俺の籠を清算にかけ始めてしまう。

瑞鳳「まあ私は嬉しいですけど♪...なんですか、これ」

T提督「あっ」

早くも籠の底深くに潜ませた○楽天がばれてしまったみたいだ。

彼女はおもむろにその本を取り上げると

瑞鳳「提督...あたためりゅ?」

T提督「あたためりゅうううううううううう...って、やめて!その右手のライターを下ろして!」

それは暖める、じゃなくて燃やすだから。


瑞鳳「提督はこんなもの、要らないですもんね?」

やばい、目がマジである。このまま帰った暁には帰路の途中で、彼女に後ろから卵焼きで一刀両断されてしまうだろう。

T提督「チェ、チェンジ!!!他に店員は居ないのか!?」

すると騒ぎを聞きつけたのか、裏からもう一人店員がやってきた。

浜風「五月蝿いですね...。何かあったんですか?」

T提督「は、浜風!助けてくれ!」


T提督「浜風が居てくれて助かったよ...」

浜風「はぁ...まるで私ならエロ本買ってるの知られても良いみたいな言い方ですね、提督」

T提督「まあ、お前結構すれてるし」

浜風「誰の所為だと思ってるんですか」

T提督「何の話か分からんな...浜風、これも頼む」

浜風「おしゃぶり浜風」

T提督「ああ、おしゃぶり浜風だ」


浜風「...そういう所ですよ。大体これ、○ーソンじゃなくてファミ○の商品じゃないですか」

おしゃぶり昆布 浜風、ファミ○にて好評発売中。

うちの浜風は前に所属していた鎮守府で色々あったらしく、こんな感じにやさぐれている。

まあ、今回はそれに助けられた形だが。

浜風「何が艦娘のイメージ向上ですか。頭である提督がこんな人では、向上する筈ないじゃないですか」

T提督「うぐっ...」

浜風に苦言を呈されながらも、俺は鎮守府へと戻った。

T提督「...やっぱ雛○えみがイッチバーン!」


五月雨「できたー!」

私は提督に頼まれたお仕事が終わると、マル秘と書かれたカバーにディスクをしまう。

この映像を撮るために色んなことがあったけど、無事に終わりそうで何よりだ。

でも慢心は駄目。これを提督に渡すまでがお仕事なんだから。

ディスクを胸に抱えて執務室へ向かう。曲がり角に差し掛かると、急に誰かが飛び出してきた。

五月雨「わわっ」

卯月「ぴょん!?」

あいたたた...どうやら卯月ちゃんとぶつかってしまったらしい。


卯月「気をつけるっぴょん!もう少しでしれいかんの部屋から盗んだマル秘DVDを割るとこだったぴょん!?」

五月雨「ご、ごめんなさい!」

卯月ちゃんはあわててDVDを拾うとその場から去ってしまった。

私も急いでディスクを確認する。よかった、割れてないみたい。

一安心して、私は提督の元へディスクを届けに行った。

五月雨「提督、出来ましたよ!」

T提督「おう、ありがとうな五月雨」

五月雨、任務完了です!


中将に招集をかけられた俺は、彼の鎮守府へと足を運んでいた。

そこには当然、同僚であるR提督とB提督の姿もあった。

B提督「...賭けの事、忘れてないよな」

R提督「ああもちろんだ。まあ、俺が勝つのは目に見えているがな」

T提督「それはどうかな」

この鎮守府を出る頃には、勝者が誰かは決まっているだろう。


中将「いやー、有難うね。君ら以外は引き受けてくれなかったから」

このおっさん、悪びれる事なく本音を暴露しやがったな...。

中将「どの映像がいいか、業者さんと一緒に決める事にしたんだ」

業者「今日はよろしくお願いします」

こちらに挨拶をする業者に、俺達は軽く頭を下げる。

中将「じゃあ誰の奴から見ようか」

B提督「自分のから、お願いします!」

自信満々にB提督が手を上げる。あの様子を見ると、本当に勝算があるらしい


中将「木曽、頼む」

木曽「任せろ」

木曽はB提督から受け取ったディスクをレコーダーへ入れて、リモコンの再生ボタンを押す。

画面にはしっかりとしたフォントで、ブイン鎮守府 艦娘イメージ向上ビデオ と映し出されていた。

T提督「割ときっちり作ってあるな。どうやってやったんだ?」

B提督「まあみとけって」

暫くすると画面が切り替わる。そして聞こえてくる青葉の声。

青葉『どもー、青葉です!今回は艦娘イメージ向上キャンペーンと言う事で、青葉が製作を担当しました!』

T提督「お前まさか...」

B提督「青葉にまるっと丸投げよ!」

そうか、その作戦があったか。確かに青葉はこの手の技術は高そうだ。

軽快なBGMを載せた映像が流れ続け、青葉がリポーター風に画面に登場する。


青葉『B提督からは鎮守府のありのままを映してくれ、とのお言葉を頂いているのでー』

青葉『普段では見る事ができない秘蔵の打ち上げ映像を、青葉、見せちゃいます!!!』

おっと、急に雲行きが怪しくなってきたな。

隣に座っているB提督を見ると、彼は口を半開きにして固まっていた。

隼鷹『もっと酒、もってこーい!』

那智『いいか、お前ら。こんな日だからこそ、酒を飲むんだ。』

ポーラ『ポーラ、暑いので脱ぎまあああああああああああす』

伊14『青葉さん、撮ってるー?いぇーい!...おrrrr』

それはひどい絵図であった。とてもじゃないが電波に乗せられる代物ではない。

...すまんなB。まさかお前の隠れ家の店で送別会をやる事になるとは。

当の本人は、奥歯でモールス信号を打ち続けている。可愛そうに、日本語も喋れなくなってやがる。


そして画面の最後に映るB提督自身。お猪口を右手に掲げ...おいおい、それは幾ら何でも不味いのでは。

B提督『一発ギャグやりましゅ!これ、中将の、心の器!』

高雄『提督、馬鹿ですわwwwww』

B提督「アオバアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

自らのキラーパスを受けて、彼は撃沈した。彼は彼自身に殺されたのだ。キャリア的な意味で。

中将「...」

先ほどから無言の中将が怖い。今までの親しみやすい笑みが、今ではシリアルキラーのそれに見えてしまう。

B提督「あ、あのですねこれは」

中将「いや、いいんだ。君の鎮守府がとってもフレンドリーな職場だと言う事が分かったからね」

中将「ところで木曽、お前はこれ、どう思う?」

木曽「...ナシだな」

中将「そうか。...俺もそう思うよ」

事実上の死刑宣告である。B提督、お前は良い奴だったよ。

最早消し炭と化したB提督は放置され、中将は次を促す。


中将「次はどっちだい?」

R提督「じゃあ、私が」

そう言いながら彼は木曽へディスクを渡す。

図らずしも俺と彼の頂上決戦となってしまったが、彼の映像の出来は如何ほどだろうか。

画面に映像が映し出される。眩しい太陽のホワイトアウトから始まり、徐々に風景が映り始めた。

そこには白い砂浜、輝かしい海、そして水着姿の艦娘達。

何故か目の辺りは白い光で隠されている。


最上『提督、こんな感じでどうかな?』

羽黒『やだ、もうどこ見てるんですかぁ~』

対馬『夏の海には、危険がいっぱい...』

彼女達は思い思いのポージングをしながら、カメラに収まり続ける。

そして画面に浮かび上がるタイトル。

『艦娘イメージビデオ ひと夏の思い出』

おいおいコイツ、まじもんのイメージビデオ撮ってきちまったよ。

ピッ

業者「あっ」

画面の電源が急にオフになる。振り返ると、准将がリモコンを握り締めていた。

その手には怒りからか、尋常じゃない震えがおきている。


中将「...R、これはなにかな?」

R提督「はっ!艦娘達のイメージビデオであります!我ながら、大変実用性のある物が出来たと自負しております!」

実用性、とは。

Rは少しずれている所があると思ってはいたが、まさかここまでのズレを見せてくるとは...。

R提督「中将、ここからがいい所なんです。私が手がけた一番の見せ所が」

しかもお前が編集したのかよ。

中将「いや、もういいんだ。喋らなくて結構...」

中将「あとはTだけだな。...頼むぞ」

この男、急に老けた気がする。部下の余りの出来の悪さに心労が祟ったのだろうか。

しかし安心して欲しい。俺は他の二人とは違って、それはもうしっかりした映像を撮ってきたのだ。

勝利を確信した俺は、愉悦の笑顔を浮かべながら木曽にディスクを手渡した。


一方、鎮守府にて

弥生「卯月、なに見てるの?」

卯月「んー?しれいかんの部屋にあったお宝DVDぴょん!多分エッチなやつぴょん!」

弥生「もう...指令官、怒るんじゃない?」

卯月「だいじょうぶでっす!ちゃんと見終わったら返すぴょん!それに弥生も気になるぴょん?」

弥生「それは...その...」

卯月「じゃあスタートぴょ~ん!」

弥生「...あれ、これって」

卯月「赤城さんと加賀さんの練習風景ぴょん。つまんないぴょん!」


俺から手渡されたディスクは、木曽の手を介してレコーダーへと吸い込まれていく。

悪いな、全部俺の一人勝ちだ。

准将がリモコンの再生ボタンを押す。画面が暗転し、タイトルが表示される。

2017 鎮守府合同忘年会

...あれ?

B提督「お、おいT、これまさか」

死にかけていたBが、取り乱して俺に話しかける。

T提督「ああ...」

そう、お察しの通りこれは俺の鎮守府とBとRの鎮守府で行った、合同忘年会の記録である。

なぜここに存在しているのか全く理解できないが、現実問題、こうして俺らの前で映像として流れている。


皐月『ボクとやりあう気なの?かわいいね!』

T提督『お ま か わ !』

松風『いいね、そういうの。僕は好きだよ』

R提督『俺をおぶってくれえええええええ』

時雨『雨は、いつか止むさ』

T・R提督『『止まない雨は無いよおおおおおおおお』』

漣『ご主人さま達、キレがキモ過ぎでしょ』

そこには艦娘達の前で醜いコールをする俺達の姿があった。

大分酒が入っていて記憶に残っていないが、これを見る限りとんでもない醜態を晒していたらしい。

さっきまでの余裕が失われていく。

血の気がすぅーっと引いていくのが分かり、俺は先ほどのB提督同様、奥歯で200bpmの譜面を刻み始めた。


ああ、さらば俺の提督人生。まさかこんな形で終わってしまうなんて。

五月雨、俺が居なくなってもしっかりやっていくんだぞ。

鹿島、間宮で奢る約束、守れそうに無いわ。

浜風、セクハラまがいの事をして悪かった。

加賀、瑞鶴と仲良くしろよ。

瑞鳳、俺、実は、卵焼きは甘い奴じゃなくて出し巻きが好きなんだ。黙ってて悪かった。

あと龍驤、お前は...大きくなれよ。

艦娘達への手向けの言葉を思い浮かべると、俺は意識を手放した。

B提督『何だと思う?これね、大将の心の器』

地味な変化球、投げてんじゃねーよ...。

今日はここまで あと少しで終わります


T提督が持ち込んだディスクという名の不発弾は、彼自身の手によって起爆させられた。

その爆弾の威力は凄まじく、三人の提督を(精神的に)滅ぼすには余りある物であった。

木曽「...中将、どうする?この無能な指揮官ども、俺が掻っ捌いてやろうか」

そう言いながら、木曽は腰に据えられた刀に手をかける。

しかし、いつまでたっても中将から返事が帰ってくる事はなかった。

木曽「おい、どうした。!!...気を失ってやがる」

彼は短期間で過度なストレスを受けすぎた所為か、白目をむいて放心していた。

どうしたものか、と彼女が戸惑っていると先ほどから無言を貫いていた業者が話し始める。


業者「...アリですね」

木曽「...は?」

業者「アリですよ!これ!」

木曽「あ、ありなのか?」

業者「艦娘達が元気いっぱいに踊る姿、さらに一人称が僕っ子とかいうギャップ!彼女達から放たれるスター性!」

業者「そうですね...グループ名は」

業者「三ツ星僕っ子シスターズ、で!」

木曽「!?」


皐月、松風、時雨で結成された三ツ星僕っ子シスターズは瞬く間に世間を圧巻し、連日オリコンチャートの首位を独走した。

老若男女問わず、幅広い客層で受けた事が成功の原因らしい。

彼女達の活躍で、艦娘の存在は世間に大きく知らしめる事になった。

尚、中将を含む提督4名は罰則として3ヶ月間の強制労働任務に就かされていた。

B提督「え、何で!?艦娘めっちゃ有名になったじゃん!」

R提督「...大本営が言うには、お前らがやったのは艦娘の知名度を上げただけであって、イメージを向上させた訳ではない、だそうだ」

T提督「まあ、艦娘じゃなくて最早アイドルだもんなあ」

中将「...俺はとばっちりじゃないか?」

T提督「木曽が業者にOKサイン出しちゃいましたからねぇ。まあ連帯責任ですよ、中将殿」

こうして俺らの間で組み交わされた試合は、勝者0人の泥試合で幕を閉じたのだ。

終了! 所々准将と中将を間違えていますが、脳内補完しといてください

html依頼出してきます。

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