道明寺歌鈴「天の川はお日様の味」 (9)

道明寺歌鈴ちゃんのSSです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1530972563


 少し重い陶器の蓋を持ち上げると、姿を見せたのはきらきらと光を反射したように輝く小さな甘い宝石たち。

 敷き詰められた、赤、橙、緑、黄、白、青と色とりどりな金平糖を食べるでもなくぼうっと見てしまう。そっと器を手に取って傾けると、ころころと転がって。

 なんでか分からないけれど、幼い私にはその様子が無性に可笑しくて、左右に揺らして転がる金平糖を眺めるのが好きでした。


 そんなことをすれば段々と調子に乗って、勢いよく器を傾けた私の手から、金平糖が飛び出して畳へと逃げていきました。

 黄色や青色、白色の金平糖がころころころ、と転がる様は絵本の中で見た流れ星に似ていたと思ったのを覚えています。

 尾を引くように転がっていたそれはすぐに勢いを失くし、畳のへりに引っ掛かるように止まって。 

 一番遠くまで逃げた金平糖の後ろには着いて逃げ出した金平糖が一緒にいて、まるで天の川みたいで、片付けないといけないのに見蕩れてしまっていました。

 

 もちろん、その後に私の様子を見に来たお母さんにすっごく怒られたのは苦い思い出で。

 だけど、その時に食べたお日様みたいな金平糖はとっても甘くて、未だに色褪せることありません。




▫□

 

 お仕事も終わって、そのまま帰るのは味気ないなと思ってデパートを覗くとそれはありました。

 記憶の隅にあった、幼い頃に見た陶器の器がそこに。

 
 気付いたら私はそれを大事そうに抱えていました。



「ただいまです、プロデューサーさんっ」

 
 お家へと戻り、先に帰ってお仕事をしている私のプロデューサーさんの元へと近寄って声をかけました。

「ああ、おかえり。大丈夫だったか?」

 そう尋ねてくるプロデューサーさんに、はい、と頷くと休憩しませんか? と思い出の宝石箱を見せました。


 
 蓋を開けた宝石箱の中には変わりなく輝く砂糖菓子が。

 最初に目に入ったのはやっぱり記憶に強く残る黄色の金平糖。思わず転がしたくなったのを堪えて。

「金平糖か。久しぶりに見た気がするよ」

 そう言いながら、一粒摘んで光に透かしながら呟いたプロデューサーさん。

 私もそうだと同意しながら、今でも時々思い出す想い出をプロデューサーさんに語りました。


「やっぱり…綺麗、ですよね……」

 口に含んでゆっくりと噛むとじんわり広がる甘さもあの頃と変わらない。

 変わらないのだけれど、プロデューサーさんと一緒だからかなんだか少し余計に甘い気がします。

 子どもの頃はお菓子を買ってあげると言われてもチョコレートだったりを求めていたけど、こうして成長した今食べてみると、この甘さも美味しくて。

 ついつい緩んだ頬を隠そうとしたら、うっかり器を倒してしまって、金平糖が溢れてしまいました。


 それはまるで、幼い頃に見たあの時のように。敷かれた布の上に広がった砂糖菓子の星空に、ミルキーウェイ。


 片付けようとした手が手に止められました。なんで、とプロデューサーさんを見ると悪戯をしようとする子どもみたいな表情でした。

 言いたいことはそれで分かって。頷いてから、ぽすん、と椅子に座るプロデューサーさんの膝の上に腰掛けて。

「そういえば」

 座り込んだ私を下ろそうともせずに、プロデューサーさんがそう呟きました。

 どうしたんですか? と顔を見上げると、プロデューサーさんは金平糖の天の川から橙色の金平糖を手に取りました。

「あれが天の川なら、これは太陽みたいだな」

「太陽……ですか?」

 聞き返しながら首を傾げて。そんな私の様子を見たプロデューサーさんがクスリと笑って。

「歌鈴と同じように太陽みたいに暖かい気がしない?」

「はうっ……でも、それを言うなら、プロデューサーさんだってそうじゃないでしゅか…?」

 照れちゃって、つい噛んで。

「だって……」


 だって……


「プロデューサーさんのおかげで…私は輝けるんですから…ね?」


 なんて、微笑んで。

 プロデューサーさんが手に持ったままだったお日様みたいな金平糖をぱくっ! と食べたら勢いがよすぎて、指までちょっと触れちゃって。

「……ちょっと…甘すぎ…ましゅ…」


 口に入れた天の川のお日様は、クラクラするくらい甘かったです。

おしまい。
読んでくださってありがとうございました。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom