果南「彦星が泣いた日」 (218)


 織姫と彦星のお話。

 一年に一度、天の川を隔てて出会える、想いは同じなのに一緒にはいられない二人。悲しいけどロマンチックなお話。七夕の度に夜空を見上げては何回も繰り返した。



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果南「千歌はさ、織姫と彦星どっちが好き?」

千歌「そりゃ~、織姫さまでしょ」

果南「そかそか」

千歌「急にどうしたの、果南ちゃん?」

果南「別にぃ~」

千歌「そう?」

果南「うん」

千歌「果南ちゃん、今日変だよ?挙動不審というか…」

果南「そ、そんなことないよ…//」

 そう言って果南ちゃんはバツが悪そうにそっぽを向いた。暗くてよく見えなかったけど、果南ちゃんの顔が少し赤くなっているような気がした。


千歌「にしても、ここで星空を見るのも何年目かな?」

 話を区切ろうと、昔の話を振る。けれど、果南ちゃんはそっぽを向いたまま黙り込んでいる。しばらくして。

果南「…」

果南「あ、あの……さ、千歌」

千歌「うん?」

果南「千歌はさ、なんで七夕のお願いをわたしと同じクラスになりたいなんて願ってたの?」

千歌「あー、あれ?そりゃ~、果南ちゃんと一緒にいたいからだよ」

果南「一緒にいたい……か」

 わたしにとっては昔から当たり前なこと。気づけば果南ちゃんがそばにいて、ずっと、ずっと一緒にいたから。


千歌「まあ、それが出来ないのも最近はわかってきたけど」

果南「最近って、ふふっ」

千歌「もう!笑わないでよー!」

果南「ごめんごめん」

千歌「ふーんだっ」

 こんな会話をずっとずっとしていけたらいいなって。大袈裟な態度を取るわたしに果南ちゃんが聞いてきた。


果南「じゃあ、わたしの願い事知ってる?」

千歌「果南ちゃんの?」

果南「うん」

千歌「ん~、人魚になりたい…?」

果南「千歌らしいな~」

千歌「むっ!またバカにしたな~?」

 いつもこれだ。うまい具合に手玉に取られるような。けど、決して嫌な気分ではない、温かくて優しい気持ち。


果南「…」クスッ

果南「千歌とずっと一緒にいられますように…」

千歌「へっ…?」

果南「これがわたしの願いだよ」

千歌「そ、そうなんだ。ふーん…」

果南「千歌とあんまり変わらないけどね」

千歌「な、なんでそう願ったの?」

果南「……そうだなー」

千歌「果南ちゃん?」


果南「千歌のことが、好きだからだよ」


千歌「ほぇ…?」


果南「いつ言おうかって、ずっと考えてた。でも、わたしは臆病だから勇気が出せなくて、こんなに遅くなっちゃった」

果南「わたしたちも、もう高三と高二。来年からはこうやって一緒に星を見られるかもわからない」

果南「だから、決めた。迷わないって。この想いがわたしの一方通行だったとしても伝え……わぶっ!?」

千歌「…」ギュー

果南「ち、千歌…?」

 何も言わずに抱きつく。果南ちゃんの言葉なんてお構い無しで強く、強く抱き締める。


千歌「遅すぎだよ、バカなん…!」ウルッ

果南「お待たせ…」ナデナデ

千歌「やっと天の川を越えられたのかな?」

果南「わたしが泳いだんだよ、千歌のとこまで」

千歌「なにそれ」

果南「千歌、好きだよ」

千歌「わたしも大好き、果南ちゃん」

 お互いに見つめ合いながら、わたしたちは今までの想いをぶつけるように、天の川の下で願いを込めた口づけを交わした。わたしたちが交わした、二人で一つの願い。『ずっと一緒にいられますように』と。


千歌「果南ちゃ~ん!」ギュー

果南「はいはい」ニコッ

善子「…」

花丸「もぐもぐ」

善子「わからない…」

花丸「ごくんっ。何がずら~?」

善子「あの二人よ。本当に付き合ってるのよね?」

花丸「また言ってるずら?あの時全員で見たでしょ?」


──

─────

──────────

千歌『果南ちゃんとお付き合いすることになりました♪』

果南『あはは…』ポリポリ

5人『ええぇーーーーー!!?』

曜『マジなの…?』

千歌『マジ…!』

ルビィ『お、おつ、おつつ、おうっ、おうっ!』アセアセ

花丸「焦りすぎてアシカさんの鳴き声みたいになってるよ、ルビィちゃん!」

鞠莉『Oh!めでた~い!!』

果南『あ、ありがと、みんな…!』


ダイヤ『確かにめでたいですが…』

千歌『ダイヤさん…?』

ダイヤ『あなたたちはそれがどういうことかちゃんと分かっていますよね?』

千歌『……もちろんだよ。でも、結局はお互いがお互いを諦めないことだと思うの』

千歌『どんな困難があっても、諦めない。わたしは果南ちゃんと一緒にいることを諦めないもん』

果南『千歌…』

ダイヤ『ふふっ』

ダイヤ『心配なさそうですわね。お幸せに』

千歌『ありがと、ダイヤさん!』


ダイヤ『ただし!節度ある交際を!この学舎で不純異性……違った、不純同姓交遊は認めませんッ!』

果南『する気ないよ、学校じゃ…』

ダイヤ『なら、いいですが…』

曜『学校じゃあ……ね?ぷぷーっ!』クスッ

果南『こらー!//』ガシッ

曜『あだだだだっ!助けて千歌ちゃ~ん!』

千歌「あははっ」

梨子『それにしても果南さん』

果南『梨子…?』

梨子『見てる感じ、千歌ちゃんにリードしてもらってる感じじゃないですか?』ニヤニヤ

果南『ぐっ』

梨子『いつも千歌ちゃんのお姉ちゃん的な存在の果南さんも、実際は乙女だったんですね♪』

果南『こ、こんのぉ~』

千歌『そうなんだよー。昨日は彦星がわたしでみたいなこと言ってたのにキs…』

果南『うわぁ、うわぁー!!///』

善子『ヨハネ堕天ッ!……って、あれ?』

──────────

─────

──


花丸「あっ!その時、善子ちゃん遅れて来たんだった」

善子「ちょっとォ!?ていうか、私はヨハネ!」

花丸「はいはい、ヨハネヨハネ~。あーむっ」

善子「雑ゥ!!」

花丸「んくっ。まあまあ。でも、実際あの二人は付き合ってるし」

善子「言われてもねー。ずら丸、まだのっぽパンある?」

花丸「あるよ~。なにがいい?」

善子「甘いヤツ」

花丸「甘いのは~、はいっ」スッ

善子「ありがと。よっ、と」パカッ

花丸「善子ちゃんはパカッて開ける派なんだ」

善子「あのギザギザで開けちゃうと、開けたとこがひらひらして邪魔じゃない?」

花丸「そうかな~?」


千歌「果南ちゃん撫でて~!」

果南「も~う…」ナデナデ

花丸「仲良しさんずら~」

善子「やっぱり、いつも通り過ぎて付き合ってる感じなんてしないわね。あーむっ」

花丸「でも、グイグイ行くのは千歌ちゃんらしいよ」

善子「へぇー」

花丸「果南さんは意外と乙女なんだって。デートとかで手を繋ぐと真っ赤になっちゃうんだって」

善子「見てみたいわね。そんな果南…」

善子「…って、なんでそんなこと知ってんのよ!」

花丸「ちかひゃんがいっへはずら~」モグモグ

善子「のろけまくりのリア充めぇ~!」

善子「てかっ、ちゃんと食べてから喋りなさい!」

花丸「ごくんっ。善子ちゃんって、やっぱり真面目だよね…」

善子「お寺の子が何言ってるのよ……あと、ヨハネ!」


果南「二人でなんの話してたの?」

千歌「ふにゃ~」

善子「まるで猫ね」

花丸「二人が本当に付き合ってるのかって、善子ちゃんが言い出すからマルが説明してあげてたずら」

千歌「むっ!失敬な!わたしと果南ちゃんはラブラブだよ!」

果南「ラブラブって。あはは…」

善子「なんて言うかやっぱり、私にはいつものじゃれ合いをしてるようにしか見えないっていうか…」

善子「あっ!別にバカにしてるとかじゃないのよ!」

果南「ありがと。やっぱり善子は良い子だね」ナデナデ

善子「バっ、撫でるな!//」

花丸「照れてるずら、照れてるずら~」


果南「あはは~……ぐへっ!?」

千歌「むぅ…」グイーッ

果南「ち、千歌?ネクタイを引っ張るのはやめてほしいかなって思うんだけども…」

千歌「果南ちゃん、こっち向いて」

果南「だから、ネクタイから手を……んっ!!?//」

善子「へっ!?/////」カァァ

花丸「おーーーっ!」

千歌「……ぷはっ」


千歌「ほら、わたしたち付き合ってる」ニコッ

かなよし「あわあわわ…///」パクパク

花丸「大胆ずら~」

かなよし「いきなりキスするなーーーっ!!!///」

千歌「あのね?果南ちゃんのキスの味は…」

花丸「ふむふむ!」

果南「ば、バカ千歌ー!!!///」カァァ

善子「堕天してる……//」

 どうしようもないくらい果南ちゃんが愛しくて。毎日が楽しくて。Aqoursのメンバーともラブライブに向けて努力して。一日一日があっという間に過ぎていった。


果南「どうしよぉ…」

曜「いつも通り祝えばいいじゃん」

果南「でも、恋人同士になって初めての誕生日なんだよ?いつも通りじゃダメだよぉ…」ヘタリ

鞠莉「前のめりに伏せっちゃった」

果南「それよりさ。千歌がヤバいんだよ。どれくらいヤバいかって言うと…!」

曜「はいはい、ヤバいヤバい」

鞠莉「相変わらずちかっちラブね♪」

果南「適当に流すなッ!」

曜「今は誕生日の話でしょ?」

果南「…………はいぃ」


鞠莉「コロコロ表情が変わって大変そうね、果南」

曜「最近は特にね」ニヤニヤ

果南「うっさいなー…//」

鞠莉「じゃあ、マリーから提案!」

曜「はい、鞠莉ちゃん!」

鞠莉「確かにちかっちと果南にとっては初めてのラバーズ同士の誕生日よ。だけど、Aqoursと一緒に迎える初めての誕生日でもあるわ!」

果南「確かにそっか」

鞠莉「もちろん二人きりでお祝いするのも楽しいと思うけど、一度みんなでパーッと盛り上げてあげた方が良いと思います!!」

曜「千歌ちゃんも喜びそうだね♪」

果南「で、でもやっぱり二人でも祝いたいというか」

鞠莉「ノープロブレム!昼間にパーティーしたら、あとは二人の時間にすればいいわ!だーれも邪魔させないわ♪」

果南「だったらいいけど…」


曜「千歌ちゃんを襲う気かな…?」

果南「んなっ!?//」

曜「いや、襲われちゃうの間違いか」クスッ

果南「この……こ、くぅ…//バカ曜ォ!!!」ガバッ

曜「きゃあっ!そんな大袈裟な反応するってことはもしかして…!」

果南「う、うるさいうるさいうるさーい!!///」

鞠莉「ふふっ、ちかっちの誕生日が楽しみね♪」


 大好きな人と迎える誕生日。同じ人と祝うのに、いつもとは違う不思議な気持ち。そんな不思議でドキドキするこの気持ちが恋愛なのかな、なんて思ったり。まあ、そんなことを考えれるようになったのも千歌のおかげかな。
 一番近くで見てきたはずの相手なのに、初めて知ったりする表情。これからもたくさんたくさん知っていきたいな。


パンッ!パンッパンッ!!

千歌「えへへ…//」

果南「千歌、せーの!」

『誕生日おめでとぉーーー!!!』

千歌「ありがと、みんな」ニコッ


ルビィ「こ、これルビィからのプレゼントです!」

千歌「うわぁ、ありがとう!……ん?腹巻き?」

ルビィ「果南さんが千歌ちゃんは夜クーラーつけてお腹冷やしちゃうって言ってたから…」

千歌「ちょ!?果南ちゃん!!///」

果南「だって、ほんとの事だし」

千歌「むぅーっ!」


曜「まあまあ!わたしからはこれだよ~!」

千歌「おおーっ!……ワンピースだ~!」

曜「そう!白ベースで薄くオレンジ色を…」

千歌「みかん!」

曜「失敬!みかん色を配色したデザインです!」

千歌「うわぁ…きれい!」

千歌「で、でも、わたしに似合うかな~?」

果南「似合うに決まってる、可愛いもん」

千歌「果南ちゃんはあてにならないもん」

果南「なっ!?」

曜「大丈夫!バッチリ千歌ちゃんに似合うって!曜ちゃん印のお墨付き!」

千歌「そう?ありがとね、よーちゃん♪」

曜「ヨーソロー!」ビシッ


花丸「マルはこれ!」

千歌「小説かな?」

花丸「恋愛小説ずら。主人公とヒロインが千歌ちゃんと果南ちゃんにそっくりだからマルのオススメずら!」

千歌「おー!どんなお話?」

花丸「それは読んでのお楽しみ、ずら♪」

千歌「気になる~!」


鞠莉「次は私ね!」

千歌「おー……何が出てくるんだろ」

鞠莉「マリーからは、これ!」

千歌「わぁ!オルゴールだ!きれ~い…!」

鞠莉「小原家特注の世界にひとつのちかっちだけのオルゴールでぇす!!」

千歌「一気に触りづらくなったんだけど!?」

鞠莉「大丈夫大丈夫!とりあえず蓋開けてみて!」

千歌「むむむっ……えいっ」パカッ

~♪

千歌「あっ!ダイダイだ!」

鞠莉「ちかっちたちのデビュー曲だもんね!オルゴールにしてみました!」

千歌「嬉しい!ありがと、鞠莉ちゃん!」

鞠莉「シャイニー♪」


梨子「鞠莉さんの後だと見劣りしちゃうな…」

曜「というか、あのオルゴールわたしたちも欲しいよね」

梨子「うん」

千歌「あはは…梨子ちゃんは何を用意してくれたの?」

梨子「わ、私はこれ!」スッ

千歌「ヘアピン!イルカのマークだ!」

梨子「意味は……まあ、分かるよね?」ニコッ

千歌「うん、ありがと♪」

善子「えっ、被った……」

千歌「……ほぇ?」


善子「えと……これ」スッ

千歌「ヘアピン…」

善子「…」

梨子「あ、あちゃー…」

千歌「いや!いやいやいや!柄も形も違うし!大丈夫、大丈夫だよ!善子ちゃんッ!」

善子「なんか、リリーもごめん…」

梨子「え、えぇ!?よっちゃん!?」

花丸「ヨハネよっ!のボケも無いなんて…」

善子「ボケじゃないわ!!」

りこまる「ボケじゃないの!?」

善子「んなっ!?」


花丸「まあ善子ちゃんは置いといて」

善子「置くな!」

ダイヤ「わたくしですか」

千歌「わくわく♪」

ダイヤ「あまり期待しないでください。たいしたものではありませんから…」

ルビィ「ほんとかな~?」ニヤニヤ

ダイヤ「ルビィ…?」

ルビィ「きゃー!お姉ちゃんこわーい!」

ダイヤ「全く………ま、まあたいしたものかもしれませんが、わたくしの私物ですし、喜ぶかは…」

千歌「私物?ダイヤさんのモノをくれるの?」

ダイヤ「こちらですわ」スッ

千歌「……ふぇ?お?おー?おー!?」


ダイヤ「当時集めていたμ'sの記事をまとめたわたくしのスクラップ帳ですわ。わたくしは、もう頭に叩き込んでますから千歌さんにあげようかと…」

千歌「い、いーの?後からなしとかダメだよ?」

ダイヤ「か、構いませんよ!わたくしからの誕生日プレゼントです♪」

千歌「ありがとー、ダイヤさん!いや、ダイヤちゃん!」ギュー

ダイヤ「ぴぎゃっ!?//き、急に飛び付かないでください!」

千歌「嬉しかったから、つい~♪大切にするね!」

ダイヤ「……はい」ニコッ


果南「…」ムスッ

鞠莉「ちかっち~?お姫様がご機嫌斜めよ~」

果南「だ、誰がお姫様だ!//」

鞠莉「嬉しいクセに~」ニヨニヨ

千歌「ウチの子がご迷惑を」ペコッ

鞠莉「いえいえ」

果南「千歌ぁ~?」

千歌「あはは!」


 楽しいと思う時間はあっという間で。この瞬間がずっと続けばいいのになんて、よくある常套句を思い浮かべながら、みんなの笑顔を、果南ちゃんの笑顔を見つめた。
 普通なわたしの、普通な日常の中の、特別な1ページ。このみんながいて果南ちゃんがいたから、今のわたしはあるんだ。普通なわたしが輝けるんだ。





 ───────────でも、そんな普通なわたしを神様は特別にしたんだ。




果南「わたしからの千歌の誕生日プレゼント無しにしよっかな~?」

千歌「…」

曜「そんな意地悪な恋人でいいの~?」

果南「千歌が悪いんだもん!」

梨子「あはは…」

ルビィ「あ、あれ?千歌ちゃん?」

千歌「う、うぅ……」

花丸「も、もしかして…」

善子「泣いて、る?」

果南「へ?」


千歌「う、うぅ……ぐっ」プルプル

鞠莉「な~かした、な~かした!」

梨子「そんな古典的な…」

ダイヤ「とにかく素直になさいな、果南さん?」

果南「ご、ごめんね千歌。意地悪しちゃって」

千歌「ぐっ……うぅ」プルプル

果南「でも、渡すタイミングって言うかさ…」



千歌「………………………………痛い」



果南「え?」

千歌「うっ」パタリッ

果南「ちょっ……千歌っ!?」


千歌「痛い…!痛いよぉ……!」

曜「千歌ちゃん!?」

千歌「うぐっ……う、うぅ~~~~~!!!」バタバタ

ダイヤ「ど、どこが、どこが痛むのですか!?」

千歌「お、おなかが……うっ」

梨子「千歌ちゃん、しっかり!」サスサス

鞠莉「と、とにかく救急車を!親御さんにも連絡を入れて!」

ダイヤ「わたくしがかけます!」


善子「わ、私たちも何か…」オロオロ

ルビまる「…」コクコク

鞠莉「じゃあ、ここまでのルートの確保をお願い!まだ学校にも生徒や先生がいるはずだから、先生と協力して学校がパニックにならないように伝えて!」

善子「わ、わかった!ルビィ、花丸行くわよ!」

ルビィ「う、うん」

花丸「千歌ちゃん…」

果南「千歌っ、千歌っ!」

千歌「うぅ……くっ」

果南「しっかりしてよぉ…」グスッ

千歌「かな、んちゃ……」


 痛みに耐えきれなくなったわたしは、果南ちゃんが泣きじゃくる顔を最後にわたしの意識はそこで切れた。




 今、何してるんだっけ?

 今日は千歌の誕生日で、みんなでプレゼントを渡して、ケーキを食べて、その後は二人で過ごそうって。そんな楽しい一日だったはず。

 隣で曜が何も言わずにわたしの手を握ってくれている。千歌の一番の大親友であり、わたしの可愛い妹分の一人。いつもわたしたちを支えてくれている曜も今は、強ばった表情を浮かべ握った手からも不安さを感じた。


ルビィ「千歌ちゃん、大丈夫だよね?」グスッ

ダイヤ「大丈夫、大丈夫です」ナデナデ

善子「…」

梨子「大丈夫?」

善子「……うん」

 千歌の、リーダーの異変。この状況が千歌の存在が、わたしたちAqoursにとってどれだけ大きかったのかを露呈させた。みんな不安が拭えない。


鞠莉「こっちです!」

花丸「焦らないでくださいね…」

 千歌の家族を鞠莉たちが連れてきてくれた。おばさんは東京にいるのか、姿は見えなかった。

美渡「千歌は!?」

果南「まだ手術中で…」

志満「千歌ちゃん…」

美渡「あのバカ千歌…!」

千歌パパ「すまん、果南ちゃん。あまり状況が把握できてないんだが、千歌はどうして倒れたんだ?」

果南「それが…」

 おじさんたちに千歌の倒れた経緯を伝えた。まだ原因がわからない今、みんなの表情は暗いままだった。手術中と書かれた赤いランプが不気味に光り、わたしたちの不安をつのらせた。


 どれくらい時間が経ったか。ランプが消え、扉が開いた。一斉に視線がそこに集まった。

かなみと「千歌っ!」

 ほぼ同時にわたしと美渡姉が駆け寄る。千歌は薄目を開けながら、笑顔を見せた。少し、安心する。

美渡「大丈夫か?」

千歌「…」ニコッ

美渡「そうか…」

看護婦「すみません。一旦、病室の方に送りますので」

美渡「あっ、すみません」

千歌パパ「先生、ウチの娘の容体は…」

医師「少しこちらへ…」

 おじさんとお医者さんがこそこそ話しているのが見えたが構わずに、千歌を連れていく看護婦にわたしたちはついていった。


病室

看護婦「高海さん、まだ意識がはっきりしてない状態ですので、あまり刺激しないようお願いします。しばらくすれば、落ち着いてくると思いますので」

志満「わかりました」

看護婦「では、失礼します」

果南「千歌…」ギュッ

千歌「…」ギュッ

ダイヤ「……果南さん」

果南「うん?」

ダイヤ「とりあえず、千歌さんの無事は確認出来たので、わたくしたちはここを出ようと思うのですが」

鞠莉「そうね。病室にこんな大勢いたら、ちかっちも疲れるだろうし」

果南「そっか。うん、わかった」

美渡「ごめんな、みんな。心配してくれてるのに気を使わせて」

ダイヤ「いえ。お気になさらないでください。何か分かればまた連絡をしていただけると」

美渡「分かった。ありがとね」


鞠莉「果南は…」

果南「残る」

鞠莉「…わよね。他には?」

曜「わたしも残る」

鞠莉「オーケー。じゃ、あとのみんな…」

ルビィ「あ、あのぉ…」

花丸「ルビィちゃん…?」

ルビィ「ルビィも、ルビィも残ります」

ダイヤ「ルビィ?」

ルビィ「お願い、お姉ちゃん」

ダイヤ「…」

ダイヤ「わかりましたわ。気を付けて帰って来なさい」

ルビィ「うん…!」


善子「大丈夫なの?バス止まっちゃうわよ?」

志満「そこは任せて。ウチが責任持って送り届けるから」

ダイヤ「よろしくお願いします」ペコッ

梨子「曜ちゃん、ルビィちゃん、果南さん。あとはよろしくね」

果南「うん。気を付けて帰ってね」

バタンッ

千歌「……なん、ちゃ」

果南「千歌…」

曜「無理しないでいいからね。ゆっくりでいいから」

ルビィ「うん、うんっ」

千歌「…」コクリ

志満「そういえば、お父さんは?」

美渡「さっき先生と話してたけど」


ガララッ

千歌パパ「すまん、母さんを迎えに行っていた」

千歌ママ「千歌っ」

 おばさんが到着してから、千歌が落ち着くまでゆっくり話しかけたり、撫でたりしながら時間を過ごしていった。しばらくしてから、少しずつ千歌が話せるようになってきた。


千歌「あはは、ごめんね……みんな」

果南「大丈夫?お腹はもう痛くない?」

千歌「今は、よくわかんないかな…」

美渡「気分悪くないか?喉乾いてんならなんか買ってくるけど…」

千歌「えへへ…美渡姉が優しいや」

美渡「バカ言ってんじゃねぇよ。……で、いるか?」

千歌「うん、お願い」

美渡「ん」

ガララッ

志満「美渡ったら…」

千歌ママ「とりあえずは一安心、なのかしら?」

曜「そうだと、思います」

千歌パパ「…」


果南「そういえば、おじさん?」

千歌「ん?どうした、果南ちゃん?」

果南「先生と何か話してましたよね?千歌のこと何か聞いたんですか?」

千歌パパ「ああ…」ウツムキ

千歌ママ「…」ピクッ

千歌パパ「とりあえず、検査入院ということでしばらく学校……は今は夏休みだから関係ないけど、練習の方はお休みしなきゃなって」

曜「そうですか…」

ルビィ「みんなにも伝えておきますね」

果南「お願いね、ルビィ」

ルビィ「うん」


千歌「そっかぁ、しばらく練習できないかぁ…」

志満「無理はしちゃダメだよ、千歌ちゃん?」

千歌「うん。ありがと、志満姉」

千歌パパ「千歌も意識がはっきりしてきたし、みんなも帰って大丈夫だぞ」

曜「そうですね」

ルビィ「そうします」

志満「じゃあ、私が送って来るね」

千歌パパ「おう」

果南「わたしは…」


ガララッ

美渡「ただいまっ…と」

美渡「千歌?わかんなかったから、お茶とスポドリ買って来たけどどっちがいい?」

千歌「うーん……じゃあ、お茶で」

美渡「分かった。コップに入れるからな」

千歌「ありがと」

千歌「果南ちゃん?」

果南「千歌…」

千歌「心配してくれてありがと。けど、疲れちゃったでしょ?今日は帰って休んでよ」

果南「でも…」

千歌「果南ちゃん」

果南「……わかった」


志満「果南ちゃんもね。じゃあ、三人とも行きましょうか」

曜「うん」

ルビィ「よろしくお願いします」ペコッ

果南「…」

志満「果南ちゃん?」

果南「ちょっと待って、志満姉」

志満「えっ?うん…」

果南「千歌、これ…」スッ


千歌「これは……開けてもいい?」

果南「うん」

千歌「…」パカッ

千歌「イルカの……ネックレス?」

果南「う、うん。こんなタイミングで渡すのもどうかと思ったけど、わたしからの誕生日プレゼント…」

千歌「ありがとう、嬉しい」ニコッ

果南「い、一応わたしとのペアネックレス…ていうか」

果南「わたしのが、みかんのネックレス」スッ

千歌「……なんでわたしがそっちじゃないの?」

果南「そ、それは…その……//」

美渡「こほんっ」

ちかなん「あっ」


美渡「イチャイチャすんのはいーが、また今度な」

果南「ごめん、美渡姉…」

美渡「…」グイッ

果南「わわっ」

美渡「ありがとな」ボソッ

果南「……うんっ」

志満「もういいかしら?」ニコッ

果南「うん、大丈夫!」

志満「じゃあ、お父さんたちよろしくね」

千歌パパ「おう」

果南「千歌」

千歌「なーに、果南ちゃん?」

果南「誕生日、おめでとう」

千歌「……ありがと」ニコッ

 千歌たちに別れを告げて、わたしたち三人は病室をあとにした。志満姉に送ってもらい、曜とルビィにもお礼を言って、わたしは家に帰った。


バタンッ

千歌パパ「……ふぅ」

千歌ママ「…」

美渡「お前、果南に愛されてんなぁ」ニヤニヤ

千歌「とーぜんだよ」

美渡「愛想つかされないようにしろよな」

千歌「ないない。果南ちゃん、わたしラブだもん」

美渡「おアツいこって」

千歌「ふふん」

千歌ママ「……ねぇ、あなた?」

千歌パパ「……なんだ?」

千歌ママ「嘘、ついてるでしょ?」

千歌パパ「…」


千歌「嘘…?」

美渡「どういうことだよ、父さん」

千歌ママ「あなた、変わってないもんね。嘘をつく時やごまかす時に顔をうつむかせる癖…」

千歌パパ「……はぁ」

千歌パパ「母さんには敵わないな、全く…」

美渡「嘘って、何が嘘なの?」

千歌パパ「…先生を呼ぼう。千歌本人が聞かなきゃならない」

千歌「わたしが…?」

千歌ママ「…」


ガララッ

医師「お待たせしました」

美渡「せ、先生!千歌は大丈夫なんですよね?」

医師「……今からお話します」

医師「高海千歌さん」

千歌「はい…」

医師「あなたは……」

 そこで聞かされた真実に、わたしは…。


一週間後

千歌「こんちか~!」

曜「退院おめでとう、千歌ちゃん!」

千歌「ありがと、よーちゃん!」ニコッ

梨子「ほんとによかったわ、無事で」

善子「ほんとよ!この堕天使ヨハネを心配させるなんてギルティーよ!」

千歌「ごめんね~!でも善子ちゃん、わたしのことすごい心配してくれたんだってね!ありがとう♪」ギュー

善子「や、やめなさいってば!くっつくな~!//」

花丸「照れてるずら、照れてるずら」

鞠莉「ヨハネはちかっちのこと大好きだもんね~」

果南「ほほ~う?」

善子「いらんこと言うな!//」


ルビィ「千歌ちゃん?ほんとにもう平気なの?」

千歌「あっ、うん!大丈夫大丈夫!」

ダイヤ「全く、人騒がせなんですから」

果南「まあ、そうだよね」

千歌「いやー、申し訳ない」

果南「まさか『盲腸』だったなんて」

千歌「あっ!今、盲腸バカにしたな!痛いんだぞ~!めちゃくちゃ痛いんだぞ~!!」


ルビィ「盲腸ってなんだっけ?」

花丸「臓器の名前だったり、虫垂炎のことを盲腸って言ったりするずら」

千歌「そうそう。さすが花丸ちゃん!」

善子「千歌は手術で切除したの?それとも薬?」

千歌「最初に倒れた時に、お医者さんの判断で切除したみたいだよ。時々ちょっと痛むけど、前ほどじゃないよ」

善子「そうなんだ。でも、切除すると大腸がんになるリスクもあるんじゃなかったかしら?」


千歌「よく知ってるね」ニヤニヤ

善子「あっ、いや」

ルビィ「ほんとに」ニヤニヤ

善子「だ、だから」

曜「なんでかな~?」ニヤニヤ

善子「う、うぅ」

果南「ほほ~~~ん??」

善子「うにゃ~~~~~!!!///」


梨子「CYaRon組三連弾…」

鞠莉「プラス果南ね♪」

花丸「でも、ほんと詳しいね?どうしてずら?」

善子「そ、それは…」

8人「それは?」

善子「し、心配だったからお腹が痛む病気を片っ端からネットで調べたというか、なんというか…」

8人「(善い子だ…)」

果南「…」ナデナデ

善子「い、いきなり無言で撫でるな~!//」


千歌「と、言う訳で善子ちゃんがいい子だということを再認識したところで~?」

千歌「今日も練習頑張るぞ~!おー!」

7人「おー!」

善子「私を置いて話を進めるな~!」

 屋上に続く階段を一歩一歩踏みしめてかけ上がる。やっぱりわたしの居場所はここなんだなと改めて思った。どんな困難も乗り越えて行ってやるんだ。果南ちゃんと、みんなと一緒に。


高海家

千歌「あづ~い……」

しいたけ「わふぅ……」

梨子「(怖い怖い怖い怖い怖い!)」ブルブル

梨子「ち、ちちち、千歌ちゃん?早いとこ歌詞を完成させてくれるとありがたいんだけどな~、なんて」

千歌「そうだね。素麺でも食べよっか」

しいたけ「わんっ」

梨子「話聞いてた?」


千歌「Aqoursで流し素麺大会とかしたいね!絶対楽しいよ、うん!」

梨子「楽しいかもしれないけど、歌詞…」

千歌「あー、でも、花丸ちゃん麺類苦手なんだっけ。じゃあ、素麺の代わりに何か流そうかな?」

梨子「…」

千歌「花丸ちゃんが好きなもの…のっぽパン!?」

梨子「千歌ちゃん!!!」

千歌「はいっ!」

梨子「次の予選まで時間無いんだから、早く歌詞完成させないと大変だよ!」

千歌「はいぃ…」


梨子「……焦ってるのはわかるけど、最近千歌ちゃん話聞いてないこと多いよ。練習中もずっと騒いでるし」

千歌「そりゃあ、考えるより体や口を動かす方がわたしには向いていますので…」

梨子「もう。とにかく、曲のイメージも歌詞によって変わってくるんだからしっかりしてね?」

千歌「はーい…」

サーッ

美渡「あっ、しいたけここにいたんだ。散歩行くぞ~」

しいたけ「あうっ」

梨子「…」ビクビクッ

千歌「しいたけ、またね~」


梨子「あっ、お邪魔してます、美渡さん…」

美渡「……ん」

美渡「まあ、行って来るから」

千歌「うん、気を付けてね」ニコッ

美渡「おう」

トンッ

千歌「じゃあ、やりますか~」

梨子「うんうん」

千歌「うおおおおお!!!」

梨子「スゴい気合い…!これくらいいつも頑張れば歌詞も…」

千歌「……ほぇ?」←流し素麺大会計画中

梨子「…」ゴゴゴゴゴ

千歌「いや、やっぱ楽しいかなって。夏らしいことすればそれっぽい歌詞も浮かぶかなって…」

梨子「……千歌ちゃん?」ニコニコッ

千歌「ひぃっ!?」ビクッ

梨子「真面目に考えなさいッ!!!」

千歌「うわ~ん!ごめんなさ~~い!!」


高海家前・砂浜

梨子「……ということがありまして」

果南「あはは、千歌らしいっていうかなんというか」

梨子「それはそうかもですけど、少しは自分が作詞担当だという自覚を持って…」

果南「まあまあ、梨子?せっかくの夏だし、根詰めるのもよくないじゃない?時々パーッと遊ばないと!」

梨子「確かにそうですけど…」チラッ


千歌「んじゃ~、いっくよ~!」

ようまりよし「来~いっ!」

千歌「水面よーしっ!いけ~!」ポチャッ

鞠莉「シャイニー♪」サッ

ようよし「ああっ!」

鞠莉「ん~!美味しいッ!ジャパニーズソーメンスタ~イル!」

曜「次こそは…!」

善子「この堕天使ヨハネに供物を…!」

千歌「じゃあ、次いくよ~」ポチャッ

鞠莉「ゲ~チュッ♪」サッ

ようよし「あーっ!」

鞠莉「冷たくて美味しい~♪」

曜「なんでそんな箸使い上手いのさ!」

善子「そうよ!というか、場所変わりなさいよ!最後尾とか絶対不利じゃない!」


鞠莉「しょうがないですね~?じゃあ、善子先頭で!」

善子「見てなさいよ~?あと、ヨハネっ!」

曜「その次わたしだからね~」

鞠莉「ちかっち~!次お願~い!」

千歌「おっけ~!」

善子「おら~っ!」ツルッ

曜「流れてきた!ていっ!」ツルッ

鞠莉「も~らいっ♪」サッ

ようよし「なんで~?」

鞠莉「ん~、デリシャス♪」


梨子「ほんとに流し素麺してるし…」

果南「なんか憧れるよね、流し素麺って」

梨子「果南さんは混ざらないんですか?」

果南「ん~、またあとで」

梨子「そうですか」

果南「梨子こそ、混ざらないの?」

梨子「私は……聞いてたいんです」

果南「聞く?」


梨子「東京に住んでて、聞こえてくるのは都会の雑踏や機械音、あわただしく過ぎていく日常の音。落ち着かないような早いノーツで刻んでる」

梨子「けど、ここは東京では聞けなかった音がたくさんある。波の音、風の音、鳥の声、人の声…その一つ一つが重なって、まるで一つの音楽のように感じる」

梨子「そして、Aqoursのみんな。9人それぞれが違う想いを抱いているのに、一つになった時にはとっても素敵な音になる。千歌ちゃんが教えてくれた音です」

梨子「だから、私は………はっ!?///」

果南「…」ボーッ

梨子「いや、あのっ、ちょっと……忘れてくださいぃ//」

果南「……あははっ、音かぁ」

梨子「果南さ~ん//」

果南「まあまあ。わたしは梨子みたいに音楽に詳しくないからよくわかんないけど、確かにその……気持ちって言うのかな?わかる気がする」

梨子「気持ち…?」

果南「うん…」チラッ


ダイヤ「…」フラフラ

ルビィ「お姉ちゃん、頑張れ~!」

花丸「そのまままっすぐずら~!」

ダイヤ「ま、まっすぐ?まっすぐですわね?」

ルビィ「ああ、違うよ~、お姉ちゃ~ん!」

花丸「まっすぐずら~」

ダイヤ「違うのですか?まっすぐなのですか?」

ルビィ「もう少し、もう少しだよ~!」

花丸「まっすぐまっすぐずら~!」


ダイヤ「もう!二人とも真面目に誘導してください!!」

ルビィ「え、えぇ!?も、もうちょっとそっち!」

ダイヤ「そっちじゃわからないでしょ!?」

ルビィ「ルビィから見て右がこっちだからお姉ちゃんから見たら…いや、目隠ししているから目は無くて…」

ダイヤ「目は無くなってませんわよ!?」

花丸「もぐもぐ……まっひゅぐじゅら~」

ダイヤ「花丸さんはさっきからまっすぐしか言っていないではないですか!というか、物を食べながら指示しないでください!」

花丸「問題!マルは何を食べてるでしょうか?」

ダイヤ「知りませんわよッ!!」


果南「こうやってみんなで遊んで、活動してさ。わたしの見る風景も少しずつ変わっていって、なんか楽しいんだ」

果南「千歌や曜、ダイヤや鞠莉と過ごしてきた小さな頃の思い出も大事だけどさ。こうやって日々変わっていく風景を見るのも楽しいし、嬉しいなって」

果南「言ってることめちゃくちゃだけど、梨子やみんなに出会えて良かったってそう思うんだ」ニコッ

梨子「果南さん…」

果南「ラブライブに向けて頑張ろうね!」

梨子「はい!」


梨子「……と、言っても」

果南「ん?」

梨子「一番嬉しい変化は千歌ちゃんとの関係性…ですよね、果南さん?」ニヤニヤ

果南「んなっ!?///」

梨子「千歌ちゃんから聞きましたけど、待たせ過ぎるのもダメだと思いますよ?」

果南「それはまあ…うん」

梨子「今だって、ほら…」

果南「え?」

千歌「…」ムスゥ


曜「ち、千歌ちゃん!こんな間隔で流されたら対応しきれないって!」

善子「次から次に……なのに、取れないッ!」ツルッ

鞠莉「嫉妬スライダー??」

果南「あ、あははっ…」

梨子「お話はこれまでですかね?じゃあ、私はルビィちゃんたちのとこ行ってきますね!」スクッ

果南「う、うん」

果南「……じゃあ、わたしも行きますか」

千歌「…」ジトッ


果南「な、なにさ?」

千歌「……チューして」

果南「へ?今、なんて?」

千歌「チュー!して!!」

果南「ちょっ?はいっ!?」

千歌「浮気した」

果南「してないし!」

千歌「とにかく、チュー!」

果南「わ、わかったから…。あとでこっそりしたげるから、ね?」アセアセ

千歌「ダメ、いま!」

果南「今っ!?」

千歌「んっ」メトジッ


果南「今って、みんなもいるのに…」

千歌「…」

曜「な、なんかドキドキするね…!」

鞠莉「キ~ス!キ~ス!」

善子「小学生か!」

梨子「面白いことになってるわね」クスッ

花丸「そのまま千歌ちゃんにまっすぐずら~!」

ダイヤ「千歌さんにまっすぐって、え?」アセアセ

ルビィ「お、お姉ちゃん!目隠し取らな……くていいから、えっ、えーっと左だよ!」

果南「(この状況でか…)」

千歌「ん~…」

果南「(はぁ…しょうがないか)」


果南「い、いくよ…?」

千歌「うん」

果南「…」ソーッ

チュッ

果南「///」カァァ

5人「おーっ!」

ダイヤ「な、なに?何が起きてますの?」

千歌「…」

千歌「♪」ガシッ

果南「んっ!?ちょっ……んぅっ!!?///」

千歌「ちゅるっ、れろ」

5人「なっ!!?///」


果南「/////」

千歌「ぷはっ!」

果南「…」ボーッ

千歌「ん~っ!満足♪」

果南「う、うぅ…///」ヘタリ

善子「さ、サキュバス……//」

鞠莉「あはっ、あははははっ///」

曜「な、なんだろう…。この行き場のない気持ち……」

花丸「か、過激ずら…」

梨子「曜ちゃん、大丈夫?私たちもする?」

曜「なっ!?なに言ってんの!?///」

梨子「冗談だよっ、冗談」クスッ

ルビィ「二年生、しゅごい…」


千歌「さあっ!次はみんなで海で遊ぼ~!」

曜「ああっ!待ってよ、千歌ちゃ~ん!」

千歌「待たな~い!」

曜「好き勝手して~!ほら、果南ちゃん起きて!」

果南「きゅ~……///」

曜「あっ、ダメだこりゃ」

梨子「とりあえず、パラソルのとこで寝かしてあげましょ」

曜「そ、そだね」ヒキッ

梨子「あれ?なんで引いてるの、曜ちゃん…」

曜「さっきの発言があるので…」カマエ

梨子「だ、だから冗談だってば曜ちゃ~~~ん!!!」


ダイヤ「………ていっ」ブンッ

ダイヤ「…」シュルッ

しいたけ「…」ジーッ

ダイヤ「…」チラッ

キャッキャッ

ダイヤ「しいたけさん、お隣失礼します」スワリ

しいたけ「わふっ」ポンッ

ダイヤ「………ぐすっ」







「あははっ!冷た~い!」
「やったな~?とりゃー!!」

美渡「…」ジーッ

美渡「………ちっ」

美渡「バカ千歌…」


松月

千歌「いただきまーす!あーんっ!」パクッ

千歌「ん~!おいし~!!」

果南「みかん尽くしだねぇ…」

千歌「みかんどら焼きに、タルトに、みかんショート…!あむっ……ん~、しあわへ~……」モグモグ

果南「ふふっ。幸せそうにしてる千歌を見てたら、わたしも幸せになるよ」ニコッ

千歌「えへへ~」


果南「じゃあ、ちょっと乾杯しよっか」

千歌「え?なんで?」

果南「みんなでお祝いはしたけど、この前のラブライブ地区大会への願掛けも込めて、さ」スッ

千歌「……うん!」スッ

ちかなん「乾杯っ」コンッ

果南「んくっ………ぷはっ」

果南「そういえば、もう曲は出来たの?」

千歌「うん!この前みんなで東京に行った時にアイデアが浮かんで、梨子ちゃんと一緒に考えて……で、あと少しだよ!」

果南「へぇ~。いつもは梨子に急かされてやってるのに、珍しい」

千歌「むぅ~!わたしだってやる時はやるんだよ!」

果南「はいはい」クスッ

千歌「もーう!」プクー


果南「ごめんごめん!で、どんな曲なの?」

千歌「んとね~、わたしたちの未来を行くんだって曲でね!タイトルも決まったの!」

果南「ふ~ん。どんなタイトル?」

千歌「『MIRAI TICKET』!」

果南「『MIRAI TICKET』かぁ…」

千歌「自信作だよ!絶対に次に行ける!」

果南「そっか!なら、わたしも千歌の自信作に見合う振り付けしっかり考えなきゃね!」

千歌「それなら梨子ちゃんに曲のサンプルもらいに行ったらいいかも。イメージ、大事でしょ?」

果南「そだね。あとで梨子んち寄ってから帰ろっかな」

千歌「うんうん」

果南「…」


千歌「あー……ん?どしたの、果南ちゃん?」ピタッ

果南「う、ううん、なんでもない。頑張ろうね♪」

千歌「うん!」ニコッ

果南「…」ニコッ

 梨子にピアノコンクールを優先させた千歌。わたしたちAqoursは予選を8人で歌い、見事に地区大会に進出することが決まった。
 
 μ'sを追いかけていたわたしたち。けれど、それはμ'sの光であってわたしたちの光ではない。μ'sとは違う道を進んで、自分たちの光で輝こうと千歌を中心に、わたしたちAqoursはやっと『スタート』した。

 けれど、最近思う。ずっと千歌を見てきたからこそわかる違和感。今の千歌はすごい。わたしたちを引っ張って、自分が成し遂げたいものを必死に追いかけてる。でも、どこか焦っているような、危なっかしいような感覚に陥る。

 わたしの思い違いだよね、千歌?



地区大会会場

千歌「さあ、行くよ!」

千歌「1!」

曜「2!」

梨子「3!」

花丸「4!」

ルビィ「5!」

善子「6!」

ダイヤ「7!」

果南「8!」

鞠莉「9!」

Aqours「…」

『10~!!!』
『頑張って~!!!』


千歌「……今、全力で輝こう!」

千歌「『0』から『1』へ!」

千歌「Aqours…!」

Aqours「サ~ンシャイン~~~!!!」


ライブ終了後

曜「やりきった~!」

ルビィ「ルビィ、ミスしなかったよ!」

ダイヤ「よしよし、えらいでちゅね~!」ナデナデ

よしまる「シスコン…」

ダイヤ「やかましいっ!」

鞠莉「またやってるよ…」

梨子「ライブ後なのに元気だね…」

千歌「…」


果南「ほんとにね。千歌も終わった瞬間走り出すし…」

曜「びっくりしちゃったよ」

ルビィ「うゆ」

果南「もーう、千歌?ちゃんと汗拭かなきゃ風邪引いちゃうよ?はい、タオル!」パサッ

千歌「…」


果南「ちょっと、千歌?無視はどうな……の」

千歌「…」グッタリ

果南「う、嘘でしょ!?千歌?千歌っ!?」ユサユサッ

花丸「な、なんで?どうして?」

梨子「疲れてるんだよね?それだけだよね?」アセアセ

ダイヤ「今は救急車を!」

鞠莉「ちかっち、なんで…」


曜「美渡姉たち探してくる!確か会場にいたはずだから!善子ちゃん、手伝って、早く!」ダッ

善子「なんなのよ!なんなのよ!!」ダッ

果南「千歌!ねぇ、千歌!返事してよ!」ウルッ

ルビィ「か、果南ちゃん、落ち着いて…」

果南「だって、だってぇ……」グスッ

ルビィ「大丈夫、だから…」ギュッ

果南「ちか、ちかぁ……」

 わたしの思い違いだって。そうだって思ってたのに。その時の千歌は完全に気絶していた。まるで人形のように力はなく、わたしの力で揺れるだけ。

 もう、嫌だ。こんなの嫌だよ。千歌。疲れただけなんでしょ?疲れて寝てるだけなんでしょ?あとで膝枕でもなんでもしてあげるからさ、早く起きてよ。

 千歌っ!!!


 しばらくして、荒々しくドアが開かれた。

バアンッ!

6人「ッ!?」ビクッ

曜「み、美渡姉…落ち着いて……」

美渡「うるせぇ!!!」

ようよし「ひぃっ!」ビクッ


果南「…」ウツムキ

美渡「……千歌を放せ、果南」

果南「…」

美渡「……どけ」トンッ

果南「…」

千歌「…」

美渡「……千歌、だから言ったじゃんかぁ」ボソッ

美渡「おい、お前ら」キッ

曜「み、美渡姉…?」

美渡「千歌は……もう、返してもらう」

梨子「返すって、どういう…」


美渡「話はあとだ。とりあえず、病院行くから」

美渡「んしょっ…」ダキッ

美渡「……なんでこんな軽いんだよ、バカ千歌」ボソッ

ダイヤ「わ、我々も行きましょう」

鞠莉「行くわよ、果南!」

果南「…」

鞠莉「果南ッ!!」

ルビィ「鞠莉ちゃん!ルビィが連れてくから怒鳴らないであげて!」

鞠莉「る、ルビィ…」アセアセ

花丸「とにかく行かなきゃ」

曜「……千歌ちゃん」


病室

千歌「……はっ」パチッ

 白い天井。ライブの途中から記憶が曖昧…ってことはわたし、やっちゃったのかぁ。美渡姉、みんなに当たってないかな?一番心配してくれたのは美渡姉なんだけど、申し訳ないなぁ。

 身体、やっぱり限界だったんだな。みんなの前では誤魔化してきたけど、頭と身体は別々なんだってよくわかった。

 さすがに、もう誤魔化しはきかないよね。どうやって、みんなに伝えようかな。よーちゃん、泣いちゃうかな?梨子ちゃんもかな?みんなかな?

 果南ちゃんは……大丈夫かな?

 あの日、『特別』になってしまったわたしを。

 みんな、許してくれるかな?


美渡「今日までのことは千歌本人が決めたことだ。だから、話も千歌から聞け。そのあと、お前らがどうするかは話は別だが…」

美渡「私は、もうお前らとは関わらせたくない」キッ

8人「…」

美渡「じゃあな」

果南「…」

曜「果南ちゃん、大丈夫?」

果南「……もう、わかんない」

曜「……うん」

梨子「開けるよ?」

曜「お願い…」


ガララッ

千歌「あっ、みんな!」

善子「よ、良かった!無事だったのね!」

ルビィ「心配したよ~」ウルッ

千歌「いやー、ごめんごめん」

梨子「具合は平気?」

千歌「うん、今はへーき」

鞠莉「そっか…」ホッ


ダイヤ「あ、あの…」

千歌「ん?ダイヤさん、どうしたの?」

ダイヤ「美渡さんが、千歌さんから話を聞けと…」

千歌「あー、話、ねぇ~」

曜「なんか、千歌ちゃん変だよ…?」

千歌「そうかな?どうして?」

花丸「ヘラヘラしすぎというか…」

千歌「それはいつものことじゃ~ん」


果南「………千歌」

千歌「………ん?」

果南「やっぱり、嘘、ついてるよね?」

千歌「…」

千歌「果南ちゃんは、やっぱりわたしのこと大好きだね」

果南「…」


曜「そういうのいいから、千歌ちゃ「死ぬんだ」

曜「え…?」



千歌「死ぬんだ、わたし」ニコッ



 その笑顔はとても可憐で、寂しそうで。諦めたように、悟った表情をわたしたちに向ける。

 千歌が………死ぬ?


善子「な、何を言ってるの、あなた…」

花丸「そ、そうずら。冗談は善子ちゃんだけでいーよ…」

千歌「あはは、参ったなー」

ダイヤ「嘘、でしょう?」

鞠莉「いつもみたいにイタズラなのよね?そうよね?」

千歌「嘘じゃないよ、ダイヤさん、鞠莉ちゃん」


ルビィ「そんな、そんな…」ウルウルッ

梨子「だ、だって盲腸だったって…」

曜「手術して治ったって…」

千歌「それは嘘。善子ちゃん、実はニアピンしてたんだ」

善子「えっ…」

千歌「覚えてる?善子ちゃんが言ったこと…」


善子『そうなんだ。でも、切除すると大腸がんになるリスクもあるんじゃなかったかしら?』


善子「大腸がん……」

千歌「そゆこと」


花丸「でも確か、今わかったなら早期発見で…」

千歌「違うんだ、もう遅いの」

千歌「病気がわかったのは、誕生日のあの日」

曜「そ、そんなのって…」ヘタリ

ダイヤ「腫瘍を取り除くことは…?」

千歌「…」ニコッ

千歌「わたし、お腹が痛いのは女の子のそれだろうって思って我慢してたんだ」

千歌「大事な時期だったし、リーダーなのにみんなの足引っ張っちゃダメだって」

千歌「あの日言われたの。別の場所にも転移が始まってるって。もう手遅れだったんだ」

鞠莉「やめて、やめてよ…」グスッ

千歌「そこで言われたの…」


──

─────

──────────

医師『あなたは………ガンです』

美渡『…………は?』

千歌ママ『うそ……』

千歌パパ『くっ…』

千歌『ガン……ですか』

医師『大腸がんです。この年代ではかなりレアなケースですが、間違いありません』

千歌『そうですか…』

美渡『な、なんとかなるんだろ?ガンは発見が早ければ治す ことができるんだろ?』

医師『……申し訳ありません。他の場所に転移が始まっております。おそらく発症したのは、もう少し前からかと』

美渡『そんな、そんなのって…』


千歌ママ『む、娘は今からどうすればいいんですか?』

医師『延命治療をするか、それとも…』

千歌パパ『延命…。娘はあとどれだけの命なのでしょうか?』

千歌ママ『あなた…!』キッ

千歌パパ『……どうなんでしょう?』

医師『来年の誕生日を迎えられるかどうか…』

千歌ママ『うぅ…』ヘタリ

千歌『来年…』

美渡『嫌だ、嫌だ嫌だっ!』ガシッ

医師『…』

千歌『美渡姉…』


美渡『なんで…なんでこいつなんだよ…。治せよ…。代わりにでもなんでもなるから、妹を…いもうとを……!』グスッ

医師『申し訳ありません…』

美渡『うあ、あ、あっ……。うわぁ、あっ、あああああああああああああああっ!!!』

千歌パパ『…』

千歌『……先生?』

医師『なんでしょう?』

千歌『じゃあ、なりふり構わず頑張るのもわたしの自由ってことですよね?』

医師『…』

千歌ママ『千歌、なに言ってるの?』

千歌『わたしは…今を全力で生きたい』

美渡『千歌…』

千歌『死ぬことがわかってても、わたしはやれることを最後までやり遂げたい』

千歌『Aqoursのみんなと…!』

千歌パパ『千歌…』


美渡『なんで、なんでそんな無茶しようとすんだよ!全力で生きるんなら、家族や友だちとゆっくり時間を過ごせよ!』

千歌『ありがと、美渡姉。こんなに優しい美渡姉いつ以来だろうね』ニコッ

美渡『くだらねえこと言うなよ!お前は苦しんででも、その道を選ぶってのかよ!ざけんな!』グスッ

千歌『苦しくて、辛いけど…わたしは、輝きたいんだよ。Aqoursと、果南ちゃんと…!』

美渡『………くっ』

千歌ママ『ちょっと、美渡?』

美渡『わたしは反対だからな』

バタンッ


千歌『美渡姉、ごめんね…』

医師『では、延命治療は受けない…ということですね?』

千歌『はい。どうせ死ぬならやりたいこと全部やって満足して………死にたい』

千歌ママ『………うっ』グスッ

千歌パパ『…』ダキッ

千歌ママ『なんで、なんでウチの子なの…』

医師『わかりました。あなたのご判断に従います。しかし、無理はしないでくださいね?』

千歌『あっ、ごめんなさい。無理はします』ペコッ

医師『…』


千歌『無理をしてでも、叶えなきゃいけないんです。でも、無茶はしません。定期的にこちらに来させてもらいますので、よろしくお願いします』

医師『……強いですね、高海さん』ニコッ

千歌『わたし一人じゃ弱かったです。でも、みんながいたからわたしは強くなれたんです。なんにもなかったわたしがこんなにも…』

千歌『だから、みんなにお返ししなきゃ…!』ニコッ

医師『応援していますよ』

千歌『ありがとうございます』ペコッ

──────────

─────

──


千歌『無理をしてでも、叶えなきゃいけないんです。でも、無茶はしません。定期的にこちらに来させてもらいますので、よろしくお願いします』

医師『……強いですね、高海さん』ニコッ

千歌『わたし一人じゃ弱かったです。でも、みんながいたからわたしは強くなれたんです。なんにもなかったわたしがこんなにも…』

千歌『だから、みんなにお返ししなきゃ…!』ニコッ

医師『応援していますよ』

千歌『ありがとうございます』ペコッ

──────────

─────

──


千歌『無理をしてでも、叶えなきゃいけないんです。でも、無茶はしません。定期的にこちらに来させてもらいますので、よろしくお願いします』

医師『……強いですね、高海さん』ニコッ

千歌『わたし一人じゃ弱かったです。でも、みんながいたからわたしは強くなれたんです。なんにもなかったわたしがこんなにも…』

千歌『だから、みんなにお返ししなきゃ…!』ニコッ

医師『応援していますよ』

千歌『ありがとうございます』ペコッ

──────────

─────

──

>>109はミス

>>110もやな、申し訳ない


千歌「…だから、わたしはみんなと夢を追いかけることを選んだんだ」

千歌「大好きなみんなと一緒にって…」

曜「…」ダキッ

千歌「よーちゃん…」

曜「千歌ちゃん…ちかちゃん……!」ギュー

千歌「…」ナデナデ

千歌「果南ちゃん…?」

果南「…」ウツムキ

千歌「ごめん、みんな。果南ちゃんと二人きりにさせてくれる?」

梨子「………うん」

ダイヤ「わかりましたわ…」


千歌「ライブ終わりで疲れただろうし、今日は帰っていいからさ。気を付けて帰ってね?」

善子「…」

花丸「善子ちゃん、行こ?」

善子「……うん」

千歌「あっ、最後にみんな!」

7人「…」

千歌「Aqoursは……続けてね」ニコッ

7人「…」


 誰も、返事が出来なかった。そういうことを自信を持って返答できるのは、千歌だけだったから。そんな千歌からの願いがわたしたちにのしかかる。

 わたしを除いたみんなはなんとも言えない空気を最後に、千歌の病室をあとにした。


バタンッ…

千歌「…」

果南「…」ウツムキ

千歌「果南ちゃん。ハグ、してくれる?」

果南「…」ギュー

千歌「えへへっ、安心する」

果南「…」

千歌「……みんなに意地悪言っちゃった。Aqoursを続けてね、なんて。今のわたしが言っちゃったら呪いみたいなものになるのに…」

千歌「まあ、死ぬんだから呪いってのもあながち間違いじゃないのか。あはは…」

果南「…」

千歌「…」


千歌「織姫と彦星のお話」

果南「…」ピクッ

千歌「再現、しちゃったね」

果南「………ばか」

千歌「やっぱり、織姫はわたしで…」

千歌「叶わない恋に焦がれて、さ」

千歌「川の向こうから、果南ちゃんを見つめることしか、できなくなっちゃう…」グスッ

果南「……ばかっ」

千歌「やっと、やっとお願い事、叶った、のに…」

千歌「引き離されちゃうなんて…やだよぉ……」

果南「ばかぁ…!」グスッ

千歌「かなんちゃあん……」

果南「ちかぁ……」



 抱き締めた身体は、今にも壊れてしまいそうで。なんで、気付かなかったんだろう。わたしの大好きな人のことなのに。

 ううん、違う。大好きだからこそ、目を反らしたんだ。千歌が苦しむのを見たくないから。

 こんなになるまで頑張った千歌に、わたしは何をしてあげればいいんだろうか。

 優しくしてあげる?

 怒ってあげる?

 一緒に泣いてあげる?

 そのどれもが、手遅れのように感じた。どうしようもないこの気持ちをわたしはどう整理すればいいかわからなかった。


病室

 内浦に帰ってからは、わたしは入院生活となった。さすがに自分すら誤魔化した身体への負荷は相当なものだったみたい。

 しばらくして地区大会の結果が届いたけど、結果は落選。わたしたち……ううん。わたしのスクールアイドルの人生は幕を閉じたのである。

 でも、Aqoursは終わらない。わたしがいなくても、AqoursはAqoursだ。そうだって信じてる。

 お見舞いには代わる代わるみんなが来てくれた。大会のショックとわたしのことでダメージがいってるみたいだけど、笑顔は見せてくれる。

 部室には集まってはいるみたいだけど、練習はできてないみたい。わたしがいたら変わったの?なんて意地悪な質問をしてみた。そしたら、みんな謝るばかりで申し訳なくなった。


志満「…それは、千歌ちゃんが意地悪…かな?」

千歌「や、やっぱりそうかな?」

志満「昔、私が所属していた部活でもね、千歌ちゃんみたいなムードメーカーみたいな先輩がいたの」

志満「その先輩がいるだけで、楽しくてドキドキして、毎日が楽しかったのを覚えてるわ」

千歌「へぇ~」

志満「でも、その先輩が卒業したら部活の雰囲気は一気に変わっちゃった。今まで楽しかったことも楽しくなくなったり、簡単にできたことが難しくなったり…」

志満「人って、誰かに影響をされやすい生き物なの。憧れとか信頼とかね。それがあるから人は強くもなるし、弱くもなるんだよ?」


志満「千歌ちゃんでいうと、μ's…かしら?その子たちを知ってから変わったでしょ?」

千歌「うん」

志満「たぶん、千歌ちゃんはAqoursのみんなにとってのそれなんじゃないかな?」ニコッ

千歌「わたしが?ないないない!わたしより、スゴい子なんてAqoursにはいっぱいいるよ!というか、わたし以外みんなスゴいんだから!」

志満「こーら!」ポンッ

千歌「あだっ!?志満姉が叩いた!?」

志満「千歌は充分、スゴいよ。お姉ちゃんなんかより、ずっと、ずーっとスゴい」ギュー

千歌「志満姉…」


志満「私は、千歌ちゃんのこと聞いた時、ただただ泣いちゃったの。大切な妹が私より先に…なんて、お母さんやお父さんの方が辛いはずなのにね」

志満「千歌ちゃんの顔を見たら、私、すぐに泣いちゃうんじゃないかって。でも、千歌ちゃんはいつも通りの笑顔で『あっ、志満姉!』って呼んでくれた」

志満「素直にスゴいなって思ったよ。いつの間にこんなに強くなったんだろうって…」

千歌「…」

志満「………千歌?」

千歌「うん?」

志満「あなたは私の自慢の妹。そして、あなたは普通な女の子じゃなくて、普通だけどスゴい女の子なの。自分を卑下しちゃダメだからね?」ニコッ

千歌「ありがと、志満姉…」ギュッ


 いつもおっとりで、わたしと美渡姉の喧嘩もやんわり止めてくれて。頼ってばっかりの志満姉からの励ましの言葉はくすぐったくて、でも、とても嬉しかった。

 そっか。わたしはみんなの役に立ててたんだな。だったら、リーダーらしく、けじめをつけなくちゃいけないよね。

 Aqoursのこれからのために。


部室

 重苦しい空気が部室の中を充満させている。千歌の件があってから、目的はなくとも集まるわたしたち。

 特に何かするでもなく、会話するでもなく、ただ無言で過ごす毎日。千歌がいたらどんな会話が飛び交ってるんだろう。

『ダメだったか~!自信作だったのに~!』

『まだまだ努力が足りないってことだね!練習あるのみだ~!行くよ、みんな!』

『あっ、良いこと思い付いた…!』

 きっと、そんなことを言いながら、わたしたちを導いてくれるだろう。けど、その先導者はここにはいない。この先もずっと。


 Aqoursというグループはやっぱり千歌がいたから成り立ってた。一年生を勧誘したのも、三年生の仲を取り持ったのも、二年生の友情を強固なものにしたのも、全部千歌が成し遂げたのだ。

 もしかしたら、わたしたちは千歌がいなければ薄っぺらい関係なのかもしれないとまで思ってしまった。

 そんな進歩のない毎日を過ごしていたある日、各々のフラストレーションはピークに達していた。


曜「あー!もうッ!!」ガタッ

曜「みんな何しにここに来てるの!?何も言わないで、ただ無駄に時間が過ぎて…!こんなことしてるくらいなら帰った方がましでしょ!?」

鞠莉「よ、曜…。確かにそうかもしれないけど、みんな気持ちの整理がつかないから、こんな状態で…」

曜「気持ちの整理?そんなのする気ないからいつまでもうじうじしちゃってるんでしょ?行動に起こそうとしてないのが何よりの証拠じゃん!」

鞠莉「行動ならしたいわよ!けれど、何から始めたらいいのかわからないから、こんな状態なんでしょ!わかってよ!」

曜「………千歌ちゃんがいなかったら、ただのお荷物だったくせに」

鞠莉「………はあ?」


梨子「ちょっ、曜ちゃん…」

曜「だって、梨子ちゃん?この人わたしたちのファーストライブの時に無理難題引っ掻けて来るわ、スクールアイドル部の承認も自分の都合のために動いてたんだよ?」

曜「果南ちゃんやダイヤさんと仲直りしたいからって、関係ないわたしたち巻き込んでさ。おまけに理事長とかいう肩書きを据えて我が物顔で。何様って話だよ!」

鞠莉「黙って聞いてれば…!」

ダイヤ「…」ピクッ

果南「…」バッ

鞠莉「果南…」

 曜は誰よりも優しく、誰よりも要領のいい子。でも、心の支えだったあの子はここにはいないし、これからは…。千歌がいたから、曜は強い子でいられた。千歌が期待してくれるから、期待に応えようと。

 それが無くなった今、曜は行き場のない気持ちをどこにぶつければいいのかわからないのだろう。千歌がいない今、わたしがなんとかしないと。


果南「曜、言い過ぎ。鞠莉に謝りな」

曜「本当のことじゃん」

果南「謝れ」

曜「いやだ」

果南「曜っ!」ガシッ

曜「なに?結局、力でなんとかしようとする訳?」

梨子「曜ちゃん、もうやめて…」ウルッ


曜「あー、そっか!果南ちゃんには千歌ちゃんがいるもんね?そりゃ~わたしたちとは違う対応を少なからず千歌ちゃんはしてくれるんだろうね~?」

曜「あれ?よく考えたら果南ちゃんも千歌ちゃんがいないとなんの価値もないじゃん!ただ恋人ってだけで、海好きな女子高生でさ!あははははっ!」

果南「曜、お前…!」プルプル

 さすがに我慢の限界だった。前までは面白おかしく言い合ってた冗談みたいな内容。けれど、今は『千歌』という存在の喪失が冗談成り得ぬ空気にさせている。

 わたしは今にも曜に手を上げようとした時、この空気を断ち切ったのは意外な人物だった。


善子「や、やめてよ!こんなのやだよ…!」グスッ

花丸「みんな、落ち着いてよぉ…」グスッ

ルビィ「…」

ルビィ「二人とも、どいて?」

善子「え?ルビィ?」

花丸「ルビィ、ちゃん?」

ルビィ「…」テクテク


曜「殴りたいなら殴ったらいいじゃん!なんの取り柄もない暴力女になりたいならね!」

果南「こんの…!」

ルビィ「果南さん、どいてください」

果南「え?」


バチィンッ!!


ルビィ「…」

曜「………え?」ヒリヒリ

ダイヤ「る、ルビィ…?」アセアセ

鞠莉「嘘…」

梨子「ルビィちゃんが…」


ルビィ「すぅーっ…」

ルビィ「はぁー…」

曜「…」ボーッ

ルビィ「んっ!」キッ

曜「っ!?」ビクッ

ルビィ「しっかりしてよ!曜ちゃん!」


ルビィ「今は誰が間違ってるかを決めてるんじゃないでしょ!?第一、間違ってる人なんて誰もいないよ!!」

ルビィ「ルビィたちがしないといけないのはこれまでの間違い探しじゃない!これからのことでしょ!?」

ルビィ「千歌ちゃんが千歌ちゃんがって…それは過去に逃げてるのと同じでしょ!?」

曜「…」

ルビィ「こんな時だからこそ、みんなで協力しなきゃいけないんだから!」

ルビィ「だから…だから……」ウルウルッ

ルビィ「こんなの、もうやめようよぉ!!!」グスッ

曜「…」


果南「………ルビィ」ギュー

ルビィ「うぅっ、ひぐっ…うぇ、うぇぇ……」

曜「る、ルビィちゃ……」アセアセ

果南「うりゃ」コツン

曜「あだっ!?」

果南「はい、これでおしまい。ルビィに免じて、今回は許してあげる」ニコッ

曜「…」チラッ


曜「あの、鞠莉ちゃん……」

鞠莉「………ふふっ」

鞠莉「ぶっちゃけト~ク!第二回、出来たね?」ニコッ

曜「うっ」ウルッ

曜「うっ、ひぐっ…うわぁぁぁぁぁん……」ボロボロッ

鞠莉「あらら…」

曜「ごめ、ぐすっ、ごめ、んなさぁぁぁぁぁい……」ギュー

鞠莉「ううん。曜が言ったこと、本当だもの。私の方こそ、ごめんね?ごめんね…?」グスッ

曜「まりぢゃぁ、ひぐっ、うぅ……」

鞠莉「鼻水まで出して…。曜は子どもっぽいんだから。可愛い…♪」ナデナデ



梨子「よかったぁ……」

よしまる「はぁ~……」

善子「それにしても、ルビィのあんなとこ初めて見たわ」

花丸「マルも初めてずら」

ダイヤ「わたくしもですわ」

善子「わあっ!?びっくりしたぁ!」

ダイヤ「妹の成長を見られて嬉しいですが…」

ダイヤ「(わたくしの愛するルビィを泣かせた罪は重いですよ、曜さん?)」ギラリッ

曜「ひぃっ」ビクッ


鞠莉「どうかした?」

曜「なんか、悪寒が…」

鞠莉「オカン?マミー?」キョトンッ

曜「ここでボケられても…」

果南「………うん!」

果南「やっといつも通りになってきたね!」

ルビィ「えへへっ、そうですね」

果南「ルビィのおかげだよ?ありがとね!」ニコッ

ルビィ「ぴぎゃっ!ルビィはそんな…」

果南「あのままだと、わたし、曜をフルボッコにしてたと思うから…」

ルビィ「あ、あはっ、あはは…」

果南「でも、今回わかったことがあるの。曜のおかげで、Aqoursのこれからについて、さ」

ダイヤ「Aqoursのこれから、ですか?」

果南「うん。やっぱり、わたしたちは…!」


 それぞれの想いは、言葉に出さないと伝わらない。そんなのわたしたち三年生が一番知ってたのにさ。

 今回は前よりも醜い言い合いになっちゃったけど、これがきっかけでまた前に進めた気がする。

 そして、Aqoursのこれから。ついでに、わたしのこれからも漠然とだけど決まった。

 千歌、最期までわたしたちと…。


病室

コンコンッ

千歌「あ、はい~」

美渡「…」

果南「失礼、します」

7人「…」

千歌「失礼しますなんて、気を使わなくていいのに」

善子「何もあんたになんか使ってないわよ」

千歌「それはそれでひどくない!?」

善子「バカ。気を使う必要なんてないじゃない。信頼してるもの…」

千歌「ヨハネちゃん…!」


善子「ふふっ、善子よ!……あっ、違ったヨハネ」

曜「おやおやん?」ニヤニヤ

善子「いや、待って」

ルビィ「うゆうゆ?」ニヤニヤ

善子「今のはほんと素で…//」

果南「ほ~ほ~ほ~~~ん???」

善子「うにゃ~!!//」バタバタ


美渡「…で、私も呼んだってことは話は私か?」

果南「ううん、千歌と美渡姉の二人に話があるの」

千歌「そっか…」

果南「みんなで決めたの。だから聞いてほしい」

美渡「わかった…」

果南「じゃあ、わたしから伝えるってことでいいよね?」

7人「…」コクコク

果南「ん」

果南「えーっと、わたしたちAqoursは…」


果南「解散します!」


千歌「………え?」

美渡「…」


千歌「なんで、なんでさ!?」

果南「決まってるでしょ?千歌?あなたがいないからだよ?」

千歌「で、でもみんな普通なわたしよりスゴくて…それで可愛くて……なのに。だ、ダメだよ!」

果南「そう思っているのは、千歌だけじゃないんだよ?」

千歌「え…」

果南「みんな、なんでAqoursに入ったと思う?」

千歌「それは、わたしが無理矢理巻き込んだから…」

果南「違うよ。みんな、あなたに惹かれてAqoursに入ったんだよ?」

千歌「ふぇ…?」


果南「……わたしは個人的にはやだけど、みんなが千歌を好きなのはいいけど」ムスッ

曜「こーら、果南ちゃん?」

果南「ごめんごめん」

果南「とにかく、あなたの頑張る姿に、そして何かわたしたちが知らないものを見せてくれるような期待感。いろんな魅力を秘めたあなたがいたから、みんな頑張れたんだよ?」

千歌「わたしが、いたから…?」

果南「Aqoursはもう、千歌そのものなんだよ。千歌無しではAqoursは輝けないの」

果南「だから、Aqoursはおしまいにする」

千歌「………そっか」

千歌「嬉しいような、悲しいような…不思議な気持ちだよ」


美渡「……まあ懸命な判断だし、ウチの妹をそこまで褒めてくれるのは素直に嬉しいよ」

美渡「あんがとな」

果南「………でも!」

果南「わたしたちは、もう一度千歌と歌いたい!」

千歌「えっ?」

果南「千歌!ライブやろう!Aqoursとのお別れライブを!この沼津で!」

美渡「はあ?お前らふざけてんのか!?」

果南「美渡姉……ううん、美渡さん!こんなの無茶だし、千歌もどうなるかわからない…。でも!これがわたしたちの答えです!お願いします!!」

7人「お願いします!!!」

美渡「お前ら…!」


千歌「美渡姉」

美渡「千歌…」

千歌「ありがとう、心配してくれて…」

千歌「でも、わたしもさ。ちゃんとお別れは言いたいって思ってたんだ。Aqoursに…!」

千歌「それに…果南ちゃんはわたしに無茶はさせないと思うし」ニコッ

美渡「バカッ!ライブなんてとっくに無茶な領域だろ?なんで、お前はいつも、いつも…」

果南「千歌は、センターでスタンドマイクで歌ってるだけでいい。あとはわたしたちが全力でサポートする」

千歌「わかった」

美渡「けど、万が一のことが…」


ガララッ

志満「美渡、もういいから」

美渡「だけど、志満!」

志満「……千歌ちゃん?千歌ちゃんからもみんなに話があるよね?」

千歌「そだね、うん…」

果南「わたしたちに…?」

千歌「わたしね、みんなにも、美渡姉にも内緒でやってたことがあるの」

千歌「志満姉、持ってきたよね?」

志満「ええ。はい、どうぞ」スッ

梨子「あっ、それって……」


千歌「うん、歌詞ノート。学校にも行けないし、ずっと歌詞考えてたんだ」

千歌「志満姉に頼んで、秘密で進めてたの」ニコッ

千歌「やっぱり、わたし歌いたいんだなって」

千歌「みんなと一緒に!!!」

美渡「…」

美渡「なんで、だよ…」

志満「美渡…」


美渡「なあ!?悪いとこがあるなら直すからさ!ちゃんとお姉ちゃんらしくするからさ!」

美渡「だから、千歌ぁ…無謀なことなんてやめろよ……」

美渡「お前は、私の、わたしの……」グスッ

志満「そうだったね、美渡…」

美渡「うっ、うぅ…」

志満「あなたも昔から千歌ちゃんに負けないくらい泣き虫だったよね」

千歌「美渡姉………っ!」ゴシゴシッ

千歌「みんな、歌おう!絶対にそれまで生きるから!」


果南「うん!絶対だからね!それから結婚式だ!」

千歌「うん!結婚式………ふぇ?」

7人「え?」

みとしま「え?」


果南「うん。結婚式。わたしと千歌のね」

果南以外「えええぇぇぇ~~~~!!?」

千歌「けっ、結婚式って……果南ちゃん?///」

果南「本気だよ」ニコッ

果南「だから、美渡姉?千歌を返してもらうとか言ってたけどさ、ごめん」ダキッ

千歌「きゃっ//」

果南「渡さないから」

美渡「……上等だ、バカなん」

果南「…」

美渡「今日、夕方にウチの前の砂浜に来い」

果南「わかった」


千歌「ま、まさか喧嘩するんじゃ…」

美渡「逃げんなよ?」

果南「そっちこそ」

美渡「……帰るわ」

曜「美渡姉…!」

美渡「…」

曜「勝ってね、果南ちゃんに!」

美渡「………え?」ピタッ


曜「もう、けちょんけちょんにやっていいから!」

美渡「いやっ……はあ?」

花丸「そうずら。正義の鉄拳ずら」

鞠莉「わたしも加勢しまーす」

果南「え?ちょっと、みんな??」アセアセ

ダイヤ「わたくしも。果南さんは反省すべきです」

ルビィ「あはは……だね」

美渡「な、なんで?お前ら果南の味方じゃないの?」

梨子「なんで、ですか?」

善子「だって、私たち果南から…」

7人「そんな話、一言も聞いてない」


曜「なんかさ、わたしたちAqoursが出しに使われたみたいでムカつくんだもん」

鞠莉「三年生は自己中が多いからね~」

ダイヤ「間違いないですね」クスッ

果南「いやいやいや!確かに教えなかったのは悪かったけど、それはないでしょ!?なんか平然に言ってたけど、心臓バクバクしてんだからな!?」

果南「というか、公開プロポーズしたんだぞ!?恥ずかしくて死にそうなのに、その対応はどうなんだよ!!?」

志満「果南ちゃんって、極限に恥ずかしくなると男口調になるよね?」クスッ

果南「志満姉!!//」

志満「あははっ」


志満「やられたね、美渡?」ニコッ

美渡「……ちっ」

7人「うふふ」

美渡「と、とにかく夕方砂浜だ!いいな?」

果南「は、はい…」

バタンッ

果南「…」ムスッ

曜「……頑張ってね、果南ちゃん」ニコッ

果南「なんか、曜さ。あれ以来少し変わった?」

曜「あははっ、そうかも」

果南「あらま」


千歌「あれ、以来?」キョトンッ

曜「千歌ちゃんには関係ない話だよ」

千歌「え?気になるんだけど…」

曜「わたしたちに内緒で歌詞書いてたんだから、おあいこであります」

千歌「聞いた感じ度合いが違うような…」


梨子「千歌ちゃん?歌詞は??」ニコッ

千歌「はい!まだ完成してません!」

梨子「じゃあ、また催促に来るね♪」

千歌「お、お手柔らかに…」

梨子「完成するまで死んじゃダメだからね?」

千歌「なんか今までで一番の無理難題来た!?」

梨子「信じてますから」ニコッ

千歌「期待が重い…」

ルビィ「…」ギュッ

千歌「ルビィちゃん…」

ルビィ「絶対、絶対に一緒に歌おうね!」

千歌「うん、もちろん!」


ダイヤ「では、わたくしたちも練習を再開しなくちゃですわね?」

鞠莉「ええ!なんだかんだ長い時間やってなかったからね…」

善子「再び、この堕天使の力を発揮する時が来たようね。くくくっ…!」

梨子「よっちゃんはまず体重からね~」

善子「ちょっ…なんで知って!?」

梨子「え?ほんとだったの?」

善子「り、リリー、こら~!」

花丸「やめるずら」ペシッ

善子「いった!ずら丸~?」

花丸「えへへっ、久しぶりに聞いたずら」


果南「じゃあ、ケリ付けてくるね」

千歌「果南ちゃん」

果南「ん?」

千歌「わたしを……お嫁さんにしてね?///」ウワメ

果南「…」

果南「千歌、ごめん」

千歌「ふぇ?」

果南「グッと来たから、もっかい言ってくれない?録音するからさ」

千歌「バカッ!!!///」ペチンッ

果南「ひゃんっ」

曜「なんか幸せそうだね…」

梨子「バカップルなだけだよ…」


砂浜

美渡「来たな………って、なんで頬腫れてんだよ」

果南「愛のビンタをもらいまして」

美渡「ふーん」

美渡「言っとくけど手加減とかしねーからな?」

果南「当然。もう、昔のわたしじゃないもん」

果南「負けないよ」

美渡「上等だ!構えろ!」

果南「ん…!」


ダッ!

美渡「おらー!!」

果南「たぁー!!」

シュンッ

美渡「…」ピタッ

果南「…」ピタッ

美渡「……なんで止めてるんだよ」

果南「……美渡姉こそ」

美渡「はぁ…」

果南「わたしは、美渡姉からどうであれ千歌を奪ったのは間違いないから。だから、全力の一発は受けようって決めてたの」

美渡「…」


美渡「殴れる訳、ないだろ……」

果南「美渡姉…」

美渡「私も昔から一緒にいたんだ。千歌ほどじゃないけど、お前の不器用な優しさは充分理解してる」

美渡「それに、もう認めてんだよ」グイッ

果南「わわっ」

美渡「私の、もう一人の大切な妹だってな」ギュー

果南「美渡姉…」ウルッ


美渡「千歌のこと、最期まで頼むぞ?」

果南「うん…!」

果南「にしても…」ギュー

美渡「うわっ」

果南「美渡姉とのハグ、久しぶりで嬉しいな♪」

美渡「……バーカ」クスッ

 千歌のことがわたしに負けないくらい大好きで、千歌のことを最優先に考えて行動する、美渡姉。わたしの憧れの人。

 美渡姉とは小さい頃、たくさん喧嘩した。勝ち負けにこだわるわたしたちだったから遊びでも本気になって、最後には泥んこになるくらいの喧嘩。

 千歌が泣きながらやめてって言って止めてくれるまでやめなかったなー。泣く千歌を慰めるために、二人で慌てて対応してたら、志満姉に見つかって美渡姉と仲良くにゲンコツもらって。

 そんな懐かしい日々をなんとなく思い出してた。


果南「大丈夫、千歌は幸せにするから」

美渡「……当たり前だ」

美渡「幸せにしなきゃ一緒に棺桶にぶちこんでやる!」

果南「絶対、幸せにします!!!」

美渡「にししっ!」

 それからわたしたちの、Aqoursの最後の挑戦が開始されて、気付けば年を越していた。


閉校祭・学校

果南「まさか、Aqoursだけでなく浦女ともお別れすることになるとはなぁ…」

鞠莉「わたしたちがAqoursを動かさなくなった時点で統廃合は決まったみたいなものだったからね。仕方ないわ」

果南「ごめんね、鞠莉。せっかく、理事長になってまで廃校を救おうとしたのに…」

鞠莉「今更よ。それに、やっぱりあのままちかっちがいないまま挑戦したって、私たちはきっと予選すら通過出来なかっただろうし」

鞠莉「もう、割りきれてるよ」ニコッ

果南「そっか」


曜「鞠莉ちゃ~ん!果南ちゃ~ん!」

果南「あっ、曜」パッ

曜「ダ~イブ!」ギュー

鞠莉「きゃっ!……飛び付いちゃ危ないでしょ?めっ!」

曜「えへへ~、ごめ~ん」

果南「…」

鞠莉「果南…?」ニヤニヤ

果南「あっ、来たみたい!こっちこっち~!」

鞠莉「誤魔化したでーす…」


キキーッ ガチャッ

千歌「んしょっと」

果南「大丈夫?」

千歌「うん、なんとか」

果南「じゃあ、行こっか。曜、準備はいいんだよね?」

曜「バッチリであります!」

果南「よしっ、千歌?」

千歌「ん?」

果南「結婚式、挙げよっか?」

千歌「……はい//」ニコッ


体育館

花丸「それでは新郎新婦……あれ?新婦新婦?」

善子「どっちでもいいわよ!」

花丸「ご、ご入場ずら~!梨子ちゃん、お願いずら!」

梨子「うん!」ポロロン

~♪

「きゃー!きれーい!」
「果南先輩カッコいい…!」
「千歌も可愛いよ~!」

千歌「……えへへ//」フリフリ

果南「…//」ドキドキッ


 わたしたちが行った結婚式は、女子校だからこそ出来たとも言える。世間一般的に、同姓で、しかも学生のわたしたちが結婚するなど夢物語。

 けれど、女子の憧れである結婚式、お嫁さんをレクリエーションとして行えば、表向きには厳しい目では見られないだろう。

 いや、わたしたちは勿論本気だけど。


鞠莉「ではでは~、果南?ちかっちのことを末永~く愛することを誓いますか?」

鞠莉「ちかっちだけに、ね♪」

果南「もう、鞠莉ってば…」

果南「うん、誓います」

鞠莉「じゃあ、ちかっち?果南のこと、いつまでも支えることを誓いますか?」

千歌「誓います…!」ニコッ


鞠莉「では、ネックレスの交換を…!」

果南「じゃあ、ベール上げるね?」

千歌「うん…」

果南「じゃあ、付けるよ」

千歌「うん…//」ニコッ

 交換に使ったネックレスはわたしが千歌の誕生日に渡したもの。あの時、なんで逆じゃないのなんて言われたけど、まさかこんな早くバレることになるなんてな…。

果南「……出来たよ」


千歌「ありがとう。じゃあ、ちょっと屈んでくれるかな」

果南「うん」カガミ

千歌「んしょっ」

 二人の首で光る、イルカとみかんのネックレス。指輪には負けるかもしれないけど、わたしたちには充分過ぎるものだった。

千歌「もう少し待ってね…」

果南「(あれ?もう付け終わってるよね?なんで?)」


千歌「果南ちゃん、愛してるよ」ニコッ

果南「えっ?」

チュッ

ダイヤ「へ…?」ポカーン

善子「あっ、ダイヤ初めてか」

ダイヤ「あ、あれは…?」

ルビィ「キスだよ?」

ダイヤ「いやいやいや!」

曜「まあ、こうなるよね~」

花丸「でも、幸せそうずら」


鞠莉「皆さん、ほら拍手!拍手~!」

パチパチパチパチッ!!

「おめでとう!!」
「きゃー!!」
「お幸せに~!」

美渡「……バーカ」グスッ

志満「泣いてるよ、美渡」クスッ

美渡「ち、ちがっ…!」


果南「///」カァァ

千歌「えへへ//」

果南「……ばかちか//」

 そして、閉校祭は無事に進行していき、残るはわたしたちAqoursの『最期』のライブだけとなった。


特設ステージ

鞠莉「それでは本日の、そして、この浦の星女学院のフィナーレを飾るのは……私たちAqoursのライブ!リーダーから一言もらいま~す!」

パチパチパチパチッ!

鞠莉「じゃあ、ちかっち。お願いね!」

千歌「はい!」

千歌「みんな、楽しんだか~!?」

イエーイ!!

千歌「あははっ、全然声出ないや…ごめんね」


千歌「久しぶりに浦女の制服を着たのに、閉校祭だなんて。少し複雑な気分であります…」

千歌「でも、この学校が大好きだったから、わたしたちAqoursは生まれたんだと思います」

千歌「皆さんも知ってると思いますが、わたしは約半年前から入院していました。大腸がんで、もう助かりません」

千歌「明日には死ぬかもしれない、明後日かもしれない。そんな先の見えない闇の中を歩いてる。そんな感覚でした」


千歌「でも、それはわたし以外のAqoursのみんなも一緒だったみたいです。こんなわたしだけど、みんなの支えになれてたんだって、嬉しかった」

千歌「そんな中、わたしたちが決めたのはAqoursの解散です。この9人でAqoursなんだって、みんなが教えてくれたから…!」

千歌「だから、これが最期の…Aqoursとわたしの最期のライブです。わたしはもう、踊れないけど頑張って歌います、全身全霊で…!」

パチパチパチパチ…!

千歌「ありがとう…」グスッ

千歌「…」ゴシゴシッ

千歌「それでは聞いてください!」


千歌「『勇気はどこに?君の胸に!』」



~♪

勇気を出してみて 本当は怖いよ
僕だって最初から 出来た訳じゃないよ


『わたしね、小学校の頃からず~っと思ってたんだ。千歌ちゃんと一緒に夢中で、なにかやりたいな~って!』

『よーちゃん……』

『だから、水泳部と掛け持ち…だけど!』

『えへっ!はいっ!』ニコッ


いっぱいつまづいた 悔しい思いが
強さをくれたんだ 諦めなきゃいいんだ


『私は曲作りを手伝うって言ったのよ?スクールアイドルにはならない!』

『ええっ!?』

『そんな時間はないの』プイッ

『無理は言えないよぉ…』

『そうだねぇ…』

『じゃあ、詞をちょうだい♪』


信じてみたいと 君の目が濡れて
迷う気持ちも(涙も) バイバイ(さあ、出発だ)


『これ、なんて読むの?』

『A…q…ours……』

『あきゅあ?』

『もしかして、アクア?』

『水ってこと?』

『水かぁ…!』


何度だって追いかけようよ 負けないで
失敗なんて 誰でもあるよ
夢は(消えない) 夢は(消えない)


『ルビィね!花丸ちゃんのこと見てた!ルビィに気を使って、スクールアイドルやってるんじゃないかって!ルビィのために無理してるんじゃないかって…!心配だったから…!』

『でも、練習の時も、屋上でいた時も、みんなで話してる時も…花丸ちゃん嬉しそうだった』

『それ見て思った!花丸ちゃん、好きなんだって!ルビィと同じくらい好きなんだって!スクールアイドルが!』

『あっ、マルが…?まさか…』


何度だって追いかけようよ 負けないで
だって(今日は) 今日で(だって)
目覚めたら 違う朝だよ


『んー、やめとく…迷惑かけそうだし。じゃあ…』

『少しの間だけど、堕天使と付き合ってくれてありがとね。楽しかったよ』ニコッ

『どうして堕天使だったんだろう…』

『マル、わかる気がします。ずっと、普通だったんだと思うんです。わたしたちと同じで、あまり目立たなくて…』

『そういう時思いませんか?これが本当の自分なのかな~って。元々は天使みたいにキラキラしてて、何かの弾みでこうなっちゃってるんじゃないかって…』


やり残したことなどない 
そう言いたいね いつの日にか


『わたしが…私が果南を想う気持ちを、甘く見ないで!』

『だったら…だったら、素直にそう言ってよ!リベンジだとか、負けられないとかじゃなく、ちゃんと言ってよ!』

『だよね?……だから』チョンッ

『…』

『ハグ………しよ?』ニコッ



そこまではまだ遠いよ
だから僕らは 頑張って挑戦だよね


『じゃあ、ダイヤさんもいてくれないと!』

『えっ?わたくしは生徒会長ですわよ?とてもじゃないですけど、そんな時間は…』

『それなら大丈夫です!鞠莉さんと果南ちゃんと、あと、6人もいるので!』

『る、ルビィ?』

『親愛なるお姉ちゃん、ようこそAqoursへ!えへっ!』


Aqours「Ah 熱くなる意味が わかりかけて」

千歌「心が求める誇らしさ」

千歌「走り続けて 掴める未来」

千歌「夢が!」

8人「たくさん!」

千歌「夢が!!」

「たくさん!!」

千歌「消えない!!!」

「「「夢が!!!」」」


千歌「……ありがとう」ニコッ



何度だって追いかけようよ 負けないで
失敗なんて 誰でもあるよ
夢は(消えない) 夢は(消えない)

何度だって追いかけようよ 負けないで
だって(今日は) 今日で(だって)


8人「目覚めたら」

千歌「違う朝だよ」

8人「ああ 太陽が」

千歌「笑いかけるよ」

~♪


千歌「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

果南「千歌、大丈夫?」

千歌「うん、なんとか」

果南「よかった…」ホッ

千歌「みんな、どうだった……」

パチパチパチパチッ!!!

「ありがとぉー!!!」
「Aqours最高!!」
「お疲れ様ー!!」

千歌「……あはは」グスッ

千歌「みんな、せーのっ……」

Aqours「ありがとうございました!!!」


 その日、Aqoursの、わたしの輝きは幕を閉じた。活動期間は半年くらいだったけど、これだけたくさんの人が応援してくれた。

 バイバイ、Aqours。今まで、ありがとう。


 それからは、ゆったりと時間が過ぎていった。卒業式、浦の星女学院の閉校、病室デート、こっそり屋上で天体観測…とか千歌と出来ることいっぱいやった。

 鞠莉はまた海外へ、ダイヤは東京に行った。けど、わたしは千歌を置いて内浦から出るなんて考えられなかった。ダイビングショップは父さんがまだやれると言って手伝い程度。

 だからわたしは今、十千万でお世話してもらっている。おばさんやおじさん、志満姉の指導のもと旅館の仕事を必死に覚えている。

 この件についても、美渡姉と一悶着あったんだけど…まあ、今回はおとなしく喰らいました。生半可な覚悟ではないことは伝わったみたいだから、よしかな?






 そして春を越えて、またあの日がやってきた。




7月7日 七夕 夜

トントンッ

果南「しつれいしまーす……」ソローッ

千歌「こんばんは、かなんちゃん…」

果南「急に美渡姉から連絡が来て、行けって言われたんだけど。どうしたの?」

千歌「えへへ、おそといきたいなーって」

果南「外って屋上?冷えるよ?」

千歌「ううん、たなばただからさ。いつものとこ」


果南「は?病院抜け出すの!?絶対ダメだって!」

千歌「だいじょーぶ、きょかは、もらってるから」

果南「で、でも…」

千歌「かなんちゃん、おねがい」ニコッ

果南「……これっきりだからね。ヤバくなったらすぐに言うんだよ?」

千歌「うん、ありがとう…」


果南「車イスにする?」

千歌「おんぶが、いいな」

果南「……わかった、ゆっくりね」

千歌「んしょっ、んしょっと……」

果南「よしっ、捕まった?」

千歌「うん」

果南「じゃあ、行くよ」

千歌「うん…」

ガララッ


山道

 果南ちゃんのおんぶに揺られながら、今までのことを思う。よくよく考えたら果南ちゃんと恋人…ていうか、夫婦なのか、もう。今日で一年経ったんだな。

 果南ちゃんとは毎年ここに来てるのに、今日はいつもよりもっと特別に感じる気がする。もう少しで頂上だ。

 けど、マズいな。なんか眠くなってきちゃった。これ、たぶん寝ちゃったらダメなヤツだな。

 意識もぼんやりしてきた。さっきから果南ちゃんが話し掛けてくれてる気がするけど、全然に頭に入ってこない。

 参ったな~、もう少しで頂上なのに。


果南「ほら、千歌?もう少しでいつものとこだよ?」

千歌「………うん」

果南「今日は天気悪そうだったけど、夜は晴れて良かったよ。天の川もよく見えるよ。見える?」

千歌「………うん」

果南「流れ星も見えるといいね!あとでどっちが多く見つけられるか勝負しようね?」

千歌「………うん」

果南「あと、疲れたら言ってね?休んでいいからさ?」

千歌「………うん」

千歌「じゃあ、ちょっと、ねてもいい……?」


果南「さすがに疲れちゃったか。いーよ!」

千歌「うん、ありがとう……」

果南「どういたしまして」

千歌「…」

千歌「かなんちゃん……」

果南「ん~?」


千歌「ちゃんと、おこして、ね…?」

千歌「わたし、おねぼうさん…だから……」

果南「わかってるよ!いつものことじゃん!」

千歌「あはは…」

千歌「じゃあ、おやすみなさい……」


千歌「ありがとう……」


果南「おやすみ、千歌…」



 ありがとう、果南ちゃん。

 バイバイ。

 ずっと、ずっと……大好きだよ。



「さあ着いたよ、千歌?」

「とりあえずいつものとこ座ろっか」

「よいしょっと……」

「よく寝てるなぁ、ほんと…」

「千歌、着いたよ~?」

「……もう少し寝かせてあげようかな?」

「わたしも疲れたし、それまでは、ね…」

「わたしの疲れが取れたら、起こすから、さ……」

「はぁ……」


「あれ?織姫の星が雲で見えないな~?」

「おかしい、なぁ……さっきまでみえてたのに…」

「みえなく……なっちゃったなぁ…」

「ねぇ、おきて……ちかぁ…おりひめさま、みえなく……ぐすっ、なっちゃった…」

「どうして、かなぁ……くっ…」


 
 冷たくなった千歌の身体をわたしは抱き締めながら泣き続けた。

 天の川を挟んでたたずむ彦星の辺りから、一つ流れ星が流れていった。




高海家・墓前

果南「…」

果南「千歌がいなくなって、もう二ヶ月が経つんだ…」


 あの日、わたしは千歌をおんぶして山を降り、そのあとは気付いたら葬式が終わってて、納骨も終わって、今に至る。

 みんなには心配されたけど、なんとか立ち直った。というか、立ち直された。美渡姉に。


果南「みかん、置いとくね?カラスに取られないように気を付けるんだよ?」

志満「やっぱりいた」

果南「志満さん、どうしたんですか?」

志満「……もう、志満姉って呼んでくれないの?」シュンッ

果南「いや、職場上しょうがないというか…」

志満「全く、もう…」


志満「あの時はごめんね?果南ちゃんに辛い役押し付けたみたいで…」

果南「あの時って、千歌が亡くなった日ですか?」

志満「そう」

果南「いいえ。むしろ、最期を見届けさせてくれて嬉しかったです。ありがとうございました」ペコッ

志満「……あれね?実は美渡が果南ちゃんに任せようって言い出したんだよ?」

果南「えっ?美渡姉が?」

志満「……ずるい」シュンッ

果南「あっ、ごめんなさ……すみません」

志満「惜しい」


志満「……お礼を言うなら美渡に言ってほしいな」

果南「わかりました…!」

志満「今日はお昼からだっけ?」

果南「はい、そうなってます」

志満「じゃあ、千歌ちゃんの部屋に行ってみてくれる?」

果南「千歌の部屋に、ですか?」

志満「いいから行ってみて♪」ニコッ

果南「は、はぁ…。じゃあ、失礼します」ペコッ

志満「………確かに届けたよ、千歌ちゃん」


高海家・千歌の部屋

果南「んしょっ…」

果南「久しぶりの千歌の部屋だな~」

果南「最近じゃ、宿の方しか見てなかったから、すごく懐かしく感じる…」

果南「あっ、ネックレス………と、何これ?」



果南ちゃんへ
             
             千歌より



果南「千歌!?」

果南「いつこんなのを……開けていいんだよね?」

ペリッ



果南ちゃんへ

 果南ちゃん、元気ですか?わたしは、たぶんこの手紙を読んでる頃にはいないんだろうなって思います。だから、これは果南ちゃんが落ち着いたら渡してもらうようにしてもらおうかな?美渡姉は隠すの下手だから、志満姉に頼もう。

 手紙を書くからって特に伝えたいことなんてないんだけどさ、こういうの残してた方がいいかな~って。まあ、暇潰しとも言う。うむ。

 じゃあ、わたしが果南ちゃんに恋をした理由とか教えちゃおうかな?教えたことなかったし。

 わたしが果南ちゃんに恋をしたきっかけはね、いつだったかの中学の文化祭。あの時、確かよーちゃんと回ってたと思うんだけど、途中果南ちゃんを見つけてテンション上がっちゃってさ。声かけようかなって思ったら、なんかすっごく楽しそうな笑顔の果南ちゃんがいたんだ。


 今思えば、その時一緒にいたのは鞠莉ちゃんとダイヤさんだったのかもね。それでもなんかショック…だったんだよね。わたしやよーちゃん以外にもあんな笑顔を見せたりするんだって思うと、なんか悔しかった。

 だから、そのあと頑張ってアピールしたんだよ!わたしといる方が楽しいよ!たくさん楽しいことできるよって!でも、普通なわたしが声を大にして誘えること少なくて。

 でも、時々だけど果南ちゃんに会えると嬉しい!ハグされるとドキドキする!一緒にいるだけで楽しくなる!それを感じた時、わたしは果南ちゃんを一人の女の子として好きなんだって気付いたんだよ?

 それからは…あれ?紙が足りない!しょうがない、好きな気持ちは行動で示そう。また無理矢理キスとかするか。よしっ。

 最後に果南ちゃん。わたしがいなくなっても変わらないでね。いつまでもわたしが大好きな果南ちゃんでいてね。ずっと、ずっとだよ!

 大好きだよ、果南ちゃん!

          千歌より


果南「…」

果南「……なんだよ、これ」

果南「こんなの、手紙でもなんでもないじゃんか」

果南「ほんと、千歌は……」

果南「千歌が大好きな、わたし……か」

果南「敬語とか…似合わない……かな?」クスッ

果南「……頭空っぽで行きますか!」



 ありがとう、千歌。

 バイバイ。



美渡「ただいま~……っと」

果南「あっ、美渡姉お疲れ様」ニコッ

美渡「おう…って、なんだその格好は!?」

果南「何って……練習着にエプロンだけど?」

美渡「お、お前仲居の服は?」

果南「あー、なんかキツかったからやめた。あと、動きづらいし」

美渡「いやいやいや……えぇ」


志満「あっ、美渡。お帰りなさい」ニコッ

美渡「ただいま…って、いいのか果南のあれ!」

果南「あっ!志満姉!廊下の雑巾かけ終わったよ♪」

志満「ほんと?二階もやった?」

果南「あっ、まだだ!やってくる!」

志満「よろしくね~」

志満「やっぱり果南ちゃんには、志満姉って呼ばれる方がいいわね」ニコッ

美渡「いや、あの…」


志満「……確かに見た目は注意すべきかもしれない。けど、今までの果南ちゃんは見てられなかったから」

志満「仕事っていう型にはめ込まれたような、果南ちゃんに似合わないスタイルだったし」

美渡「まあ、そうかもしれないけど…」

志満「わたしも最初、あの姿で現れた時はびっくりしたけどさ」


果南「二階~♪二階~♪」


志満「生き生きしてると思わない?」

美渡「…」クスッ

美渡「……そうかもな、にししっ!」



 千歌?

 わたしはわたしのままで。
 
 これからも全力で生きていくよ。

 あなたが好きになってくれたわたしで。

 だから、心配しないで。

 いつまでも見守っててね?




おしまい


過去作です。

美渡「こらー!バカチカー!!」
美渡「こらー!バカチカー!!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1498050360/)

梨子「歩こう、一緒に」
梨子「歩こう、一緒に」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1497106366/)

千歌「愛哀傘」
千歌「愛哀傘」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/i/read/news4ssnip/1498315159/)


お目汚し失礼しましたm(_ _)m

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