ありす「お願いが、お願いがあるんです!」 奈緖「……」 (57)

神谷奈緖メインのSSです。ギャグです。

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 それは事務所でゆったりとしている日の事であった。

久しぶりというほどでも無い休日に、特にやる事も無し、かといって家に引きこもっているような気分でも無かったあたしは、早々に家を出て事務所に足を運んでいた。

扉を開ける。誰も居ない。まあ、皆が暇なわけでは無いか。それにまだ早い時間だし。

ホワイトボードを見やれば、レッスンや仕事の合間に何人かは此処に寄るだろう事も分かったし、取り敢えずソファに身を委ね、本を読んで過ごす事にした。

そうしていれば、誰かしら来るだろう。

そう読んだあたしの考えは見事的中しており、文庫本を数十ページめくった所で彼女、橘ありすが部屋に入ってきた。

だけれど、私の予想が合っていたのはそこまでで、彼女は私の想像の斜め上を行く発言を投げかけてくる。

ありす「お願いが、お願いがあるんです!」

奈緖「……」

 目の前の幼気な少女がそう懇願している様子は、どこか心の柔らかい部分が刺激されるようで。

なるほど、彼女が人気なのはこんな所が関係しているからかも知れない、と額に手をやる。

待て、落ち着くんだ神谷奈緖。

急な事にも関わらず、私は躊躇う事無く頷いてしまいそうになったけれど、済んでのとこで自分を抑え、一先ずはしっかりと話を聞く事にした。

ありす「私だって、アイドルとしてこの世界で生きていくんです」

奈緖「……」

ありす「でも、ダメなんです。このまま何もしないでいてはダメなんだって」

奈緖「……」

ありす「私も、変わらなきゃって。だから、お願いします!」

奈緖「……」

ありす「私に、ツッコミを教えて下さい!師匠!」

奈緖「いや、弟子を取った覚えはねーよ!?」

 彼女のお願いはあたしの斜め上どころか、想像を遙かに超えていくものであった。

STEP0 橘ありす

奈緖「なんだなんだ急に。暑さで頭がやられたか?」

ありす「いえ、私は至って正常ですよ奈緖さん、いえ師匠」

奈緖「わざわざ言い直さなくても……。んで、何があったんだ?」

ありす「ええ、実はですね。最近私、この事務所を改めて見直してみたんですよ」

奈緖「見つめ直す、ねえ。まあ、大事な事かもな」

ありす「そしたら私、ある事に気がついてしまって」

奈緖「うん」

ありす「ボケが供給過多なんじゃ無いかな……と」

奈緖「……うん、まあ、確かに」

ありす「であれば!大人である私がツッコミを覚えて事務所に貢献してあげるのが優しさというものでは無いでしょうか!」

奈緖「その勢いや良し、ってとこだな」

ありす「しかし私はまだ未熟。本来ならばツッコミの権威、前川師匠の門を叩きたい所ですが」

奈緖「何?ありすはツッコミ出来る奴全員師匠って呼んでんの?」

ありす「前川師匠は隣の部署。ウチの事で迷惑を掛ける訳にはいきません」

奈緖「まあそうだな。急にそんな事言っても、『みくは芸人さんじゃないにゃ!』って言われるだろうな」

ありす「声真似20点、雰囲気90点ですね」

奈緖「うるさいなぁ!ほっとけ!」

ありす「そう!その鋭い返し!私が学ぶべきはやはり奈緖師匠からなんです!」

奈緖「……こうも言い続けられると、流石にむず痒くなってくるんだけど」

ありす「そもそも、この事務所で奈緖さんに許可も取らずにツッコミをしようなんて失礼な話だったんです」

奈緖「別にここが私のシマだとか、そんな事は無いからな?あと隣の部署もみくのナワバリでも無いからな?」

ありす「だから、お願いします師匠!私にツッコミを」

奈緖「人の話を少しは聞け!」

STEP1 本田未央

奈緖「分かった分かった。もう何でもいいや、あたしも暇だったわけだし」

ありす「じゃあ……!」

奈緖「つってもなあ。何か教えられる訳でも無いしな」

ありす「大丈夫です、私は師匠の姿を見て盗んでいきますから」

奈緖「そうか?まあ、だったらいいけど」

ありす「ええ、師匠は普段通りでもツッコミが冴え渡っていますから!」

奈緖「それは何か?普段から私がツッコミばかりしてるって事か?」

ありす「あ!誰か来ましたよ!」

奈緖「今日はとことん話を聞かない日なのか?」

未央「おっはよう!おやおや、なんだか珍しい組み合わせだね!」

ありす「おはようございます未央さん。私は今修行中ですので」

未央「修行?」

奈緖「ああ。何でも、ツッコミが学びたいんだと」

未央「なるほど、それでかみやんに弟子入りか。いい師匠を持ったねありすちゃん!」

ありす「はい!」

奈緖「何元気よく返事してくれてんだよ」

未央「かみやんが居ないとこの事務所も回らないからね!」

奈緖「全く嬉しくない褒め言葉だな……」

未央「ええ~?でもかみやんも楽しんでるでしょ?」

奈緖「そりゃあ、全く余裕の無い真面目な話ばっかりよりはいいけどさ」

未央「流石かみやん!ツンデレも挟んでくるね!」

奈緖「ツンでもデレてもねえよ!」

未央「んふふっ……。まあでも、かみやんが居てくれてホント助かるよ」

奈緖「笑いながらじゃなけりゃ、少しは喜ぶんだけどな」

未央「いやいやホントだって!大体、ウチの事務所はボケが供給過多なんだから!」

奈緖「ボケが、ってよりツッコミ入れる気のない奴ばっかりってとこだけどな」

未央「もしかみやんがいなかったら、ボケで詰まっちゃうよ。どん詰まりだよ」

奈緖「そう思うなら、未央も少しは遠慮してくれねえかな……?」

未央「ええ~?でもかみやんも楽しんでるでしょ?」

奈緖「そりゃあ、全く余裕の無い真面目な話ばっかりよりはいいけどさ」

未央「流石かみやん!ツンデレも挟んでくるね!」

奈緖「ツンでもデレてもねえよ!」

未央「んふふっ……。まあでも、かみやんが居てくれてホント助かるよ」

奈緖「笑いながらじゃなけりゃ、少しは喜ぶんだけどな」

未央「いやいやホントだって!大体、ウチの事務所はボケが供給過多なんだから!」

奈緖「ボケが、ってよりツッコミ入れる気のない奴ばっかりってとこだけどな」

未央「もしかみやんがいなかったら、ボケで詰まっちゃうよ。どん詰まりだよ」

奈緖「そう思うなら、未央も少しは遠慮してくれねえかな……?」

未央「私だってボケたい時はあるんだよ!」

奈緖「凛、卯月、藍子、茜。……そうだな」

未央「でしょ?だから神谷師匠は頼りにしてるんだから」

奈緖「何?師匠って呼ぶのは普通なのか?」

未央「かみやんのお陰でこの事務所は動いてるんだから、もっと自身持って!」

奈緖「……そうかな」

未央「そうそう!私達のボケで詰まりそうな所を、かみやんがきゅっぽんきゅっぽんって」

奈緖「おい待て、今私の事ラバーカップ扱いしたか?よりにもよってラバーカップか!?」

未央「お気に召さなかったかなぁ」

奈緖「どこにラバーカップ扱いされて喜ぶ奴がいるんだよ!」

未央「いやぁごめんごめん、ここは水に流して下さいよ師匠」

奈緖「上手くねえかんな!?」

――


未央「と言う事で、分かったかなありすちゃん?」

ありす「はい!ラバーカップとはトイレのきゅっぽんの事なんですね!」

奈緖「何を聞いてたんだよ。本題はどこなんだ」

ありす「……もちろん全て聞いていましたとも」

未央「うんうん!その調子で精進するが良いぞ」

奈緖「何様なんだよ」

ありす「ありがとうございます!」

奈緖「元気よく返事してるけど絶対身についてないよな?」

未央「お、誰か来たみたいだね!じゃあ私はあっちで見守ってるから!」

ありす「はい!さあ師匠、次もお願いします!」

奈緖「普段通りしてりゃ良かったんじゃないのかよ……」

STEP2 渋谷凛

凛「あれ、奈緖とありす?どうしたの二人して」

奈緖「凛か。いや何かさ、ツッコミが学びたいんだと」

ありす「奈緖師匠にご教授頂いています!」

凛「そっか、ありすは勉強熱心なんだね」

ありす「はい!」

奈緖「返事は元気なんだよな……。って、凛はありすの事呼び捨てなのか」

凛「ん?ああ、初めて会った時にそう呼んで下さいって言われてさ」

ありす「勿論です。凛さんは私の憧れるアイドルのお一人ですから」

凛「(実は最初に『ありすちゃん』って呼んだんだけど、そこまで子供ではありませんって言われちゃって)」

奈緖「(なるほどな。まあ、そういう年頃だよな)」

ありす「……?どうかされましたか?」

凛「ううん、何でも無いよ。それにしても、奈緖が師匠か……」

奈緖「少し恥ずかしいんだけどな……」

凛「奈緖って弟子は取らない主義だと思ってたよ」

奈緖「まてまてまて」

凛「?」

奈緖「どーゆう意味だそれは!?」

凛「どうも何も、奈緖って恥ずかしがり屋だから、弟子とかはあんまり好きじゃ無さそうかなって」

奈緖「じゃあ何か、私が自信たっぷりだったら神谷一門でも開いてたって言うのか!?」

凛「だって、この事務所仕切ってるの奈緖でしょ?」

奈緖「ちげーよ!お前らのツッコミに対しての認識はどうなってんだよ!」

凛「だって、ここでは奈緖しかしてないし」

奈緖「誰のせいだ誰の!」

凛「だから、ここは奈緖のシマだと思ってたよ」

奈緖「嘘つけぇ!今考えただろそれぇ!」

凛「でも、ありすがその立場を狙っているとも考えられるのかな」

奈緖「別にいいよ……、譲れるならいくらでも譲ってやるよ……」

ありす「いえ、私はまだまだ若輩者ですから」

凛「そうだよ奈緖。奈緖の域に到達するには並大抵の努力じゃ届かないんだから」

奈緖「私だって修行したわけじゃ無いんだよ!」

凛「じゃあどうしてそんなキレのあるツッコミが出来るって言うの!」

奈緖「逆ギレ!?」

ありす「確かにそれは気にはなりますね」

奈緖「何もしてねえってば!強いて言うならお前らがツッコませ続けたのが原因だよ!」

凛「つまり、奈緖は私達が育てたって事だね。嬉しいよ」

奈緖「私は嬉しくないんだからな」

ありす「ふふ。私、凛さんってもっと堅い人だと思ってました」

奈緖「そうか?いつもこんなじゃないか」

凛「まあ、奈緖の前ではこんな感じだよ」

ありす「やっぱり師匠が居てくれると、心が緩くなるんでしょうね」

凛「そうだね。奈緖が居てくれるだけで、私達は凄い安心するんだから」

奈緖「だから嬉しくないんだよぉ!」

――


凛「普通に話してただけだけど、これで良かったの?」

ありす「はい!参考になります!」

奈緖「私は良くないんだけどな」

凛「やっぱり、もっと分かりやすいボケも必要だった?」

奈緖「上方修正しようとすんな」

ありす「あ!またしても誰か来たようです!」

奈緖「なあ、おかしくないか?まさか外で並んでんじゃないだろうな?」

STEP3 島村卯月

卯月「おはようございます!」

ありす「おはようございます卯月さん」

奈緖「おう、おはよう卯月。なあ、扉の前に誰か居なかったか?」

卯月「はい?別に誰も居ませんでしたけど……?」

奈緖「そっか。ならいいんだ」

卯月「あ、でもすぐそこの廊下で楓さんとすれ違いましたよ?」

奈緖「うぐっ」

卯月「どうかしましたか?」

奈緖「いや、なんでも……。因みに、楓さん何か言ってた?」

卯月「ええと、『私のターンはまだですし、いったーん散歩してきます』って……」

奈緖「来る気じゃねえか!しかもなんだよいったーんって!」

卯月「多分、一旦の事だと思いますけど」

奈緖「そういう事じゃ無いんだよ!あの人、外から覗いて場が暖まるのを待ってんのか!?」

卯月「ええと、よく分からないんですけど……?」

未央「いいのいいの。しまむーはいつも通りでいいんだよ」

凛「そうだね。卯月はいつも通りが一番だから」

卯月「うーん?やっぱりよく分からないですけど頑張ります!」

奈緖「頑張らないでくれ……」

ありす「(凛さん未央さん、卯月さんには趣旨を伝えなくていいんですか?)」

未央「(ああ、しまむーはねえ……)」

凛「(素の卯月でいいんだよ。まあ見ておくと良いよ。きっとタメになるから)」

ありす「(そうなんですか。分かりました)」

奈緖「はあ、聞こえてるってのに」

卯月「あれ、奈緖ちゃん。何か表情が暗いですけど、大丈夫ですか?」

奈緖「いや、問題ない。こっちの事だから」

卯月「そうですか?何かあったら言って下さいね」

奈緖「ああ、ありがと。(難聴だし気も遣えるし、主人公力高いな)ボソッ」

卯月「主人公力って何ですか?」

奈緖「それは聞こえるのかよ!」

卯月「え、だって目の前で言われたらどうしても聞こえちゃいますよね?」

奈緖「さっきのよりは小さい声だったんだが……。まあ、あれだよ。卯月は頑張ってるなって事だ」

卯月「えへへ、ありがとうございます!師匠!」

奈緖「まて」

卯月「え?」

奈緖「今、何て言った?」

卯月「あっ、えへへ。実はこの前加蓮ちゃんに、『奈緖に褒められたら、こう言うと喜ぶよ』って言われたんです」

奈緖「加蓮……」

卯月「あれ、もしかして間違っちゃいましたか!?」

奈緖「いや、卯月は悪くないよ。ただ、恥ずかしいからあまり言わないでくれ……」

卯月「分かりました!」

奈緖「おう……。って、うん?卯月、ここ跳ねてるぞ」

卯月「えっ、どこですか!?」

奈緖「ほらここ、左の上のとこ」

卯月「あ、ホントです!スプレー掛けて、押さえとけばいいかな……」

奈緖「なんだ、また寝坊でもしたのか?」

卯月「ちょ、ちょっとだけ……」

奈緖「でもそんなに遅れてないし、って言うか寧ろ余裕ある時間じゃ無いのか?」

卯月「そうですね、全力で走ってきたら意外と早く来られました!」

奈緖「ああ、通りで少し髪がボサついてると思ったよ。櫛あるか?直してやるよ」

卯月「ありがとうございます!これでお願いします」

奈緖「しっかし、最近全力で走った事なんて無いなぁ」

卯月「そうですね。私も緊急時以外はやめておけってプロデューサーさんに言われてますし」

奈緖「止められるほどの事でもないと思うんだけどな……」

卯月「まあ人にぶつかっちゃったりしたら危ないですからね」

奈緖「ああ、そうだよな。走っちゃいけない所とかあるし」

卯月「え?」

奈緖「うん?」

卯月「……あ、そうですね!信号で止まったり」

奈緖「信号?ホームとかじゃ無くて?」

卯月「え?」

奈緖「うん?」

卯月「……ホーム、電車ですか?」

奈緖「電車の……、ああ信号で止まったりするよな、たまに」

卯月「そうですね。線路の脇にあるあの信号、たまに赤だったりしますよね」

奈緖「急いでる時ほどなんかひっかかったりするんだよな」

卯月「でもなんで急に電車の話になったんですか?」

奈緖「え?」

卯月「はい?」

奈緖「まてまてまて、一旦落ち着かせてくれ」

卯月「いったーんですか?」

奈緖「それはもういいよ!卯月、お前急いでたんだよな?」

卯月「はい、そうですよ?」

奈緖「んで、急いで駅に向かったんだよな?」

卯月「え?何でですか?」

奈緖「何でですかって、そりゃあ電車に乗る為に決まってるだろ?」

卯月「電車に乗ったら、遅れちゃいますよ」

奈緖「は?」

卯月「走った方が速いじゃないですか」

奈緖「いやおかしいだろ!?」

卯月「えぇ!?あっ、そう言えばこれ、言っちゃダメなんでした!」

奈緖「しかも秘匿事項!?」

卯月「ち、違うんですよ!ほら、線路と違って抜け道とかありますし!」

奈緖「卯月の乗ってる路線は道より上を通ってるんだから、まっすぐ来るじゃないか」

卯月「ああ、あの、あれです!電車は駅で止まっちゃいますから!」

奈緖「いや、卯月の家って割と遠いから、速度で負けるだろ?」

卯月「えーと、え、えーと……」

奈緖「……」

卯月「奈緖ちゃん!忘れて下さい!」

奈緖「無理に決まってんだろぉ!」

卯月「ええと、ど、どうしたら……!」

奈緖「……目の前でこうも慌てられると、一周回って冷静になるな」

卯月「確か、うなじをチョップしたらいいとか何とか……」

奈緖「待て!まてまて!ストップ!」

卯月「でも、でも!秘密を知られちゃったんで!」

奈緖「異能物で秘密がバレた女の子みたいなセリフを言うなぁ!」

卯月「仕方ない事なんです!奈緖ちゃんごめんなさい!!」

奈緖「しかも無垢なタイプだ!?じゃない!待てって、おい、そこで笑ってるNGの残りは責任取って早く助けろ!助けて下さい!」

――
奈緖「危ない所だった……」
凛「まあ、卯月は周りが見えなくなっちゃう時があるからね」
奈緖「そういう問題かなぁ」
未央「ま、でも良かったじゃん。口外しない約束で済んだんだし」
奈緖「生きてりゃ何でもいいと思うなよ?」
ありす「でもさっきの師匠、必死で可愛かったですよ?」
奈緖「卯月の話を聞く限り、チョップなんか喰らったら文字通り必ず死ぬだろぉ」
ありす「ふふふっ、師匠って、そんな時もツッコミを忘れないんですね」
奈緖「笑ってるけど、あたしと二人が止めなかったらありすも喰らってたんだからな」
ありす「……。……あ、ありがとう、ございます。お三方」
未央「うわぁ、ありすちゃん、表情が凍っちゃったよ」
??「あのー」
凛「仕方ないと思うけどね」
奈緖「仕方なくは無いんだけどな、事故だろあんなの」

>>35 ミスったので再掲


――


奈緖「危ない所だった……」

凛「まあ、卯月は周りが見えなくなっちゃう時があるからね」

奈緖「そういう問題かなぁ」

未央「ま、でも良かったじゃん。口外しない約束で済んだんだし」

奈緖「生きてりゃ何でもいいと思うなよ?」

ありす「でもさっきの師匠、必死で可愛かったですよ?」

奈緖「卯月の話を聞く限り、チョップなんか喰らったら文字通り必ず死ぬだろぉ」

ありす「ふふふっ、師匠って、そんな時もツッコミを忘れないんですね」

奈緖「笑ってるけど、あたしと二人が止めなかったらありすも喰らってたんだからな」

ありす「……。……あ、ありがとう、ございます。お三方」

未央「うわぁ、ありすちゃん、表情が凍っちゃったよ」

??「あのー」

凛「仕方ないと思うけどね」

奈緖「仕方なくは無いんだけどな、事故だろあんなの」

??「あのー、もう入っていいですか?」

奈緖「……」

凛「どうしたの奈緖。呼ばれてるよ?」

奈緖「いや、呼ばれてるって言うかさ」

未央「次に誰が来るかは分かりきってたじゃん。予想通りの人だし」

奈緖「あの人、外でさっきの静観してたって思ったら少し腹が立つというか……。鍵閉めちゃダメかな」

??「!!」

奈緖「いいよな、ありす?」

ありす「そうですね、仕方ないと思います。これは決して感情的な判断では無く、客観的に見ても問題ありません」

凛「100%感情だね」

未央「思いっきり、『も』って言ってるもんね」

??「い、嫌です!一人だけ耳で聞いてるだけなんて、いやーですー!」

STEP4 高垣楓

楓「まさか閉め出される事になるかも知れないなんて、思いも寄りませんでした」

奈緖「あたしもまさか、閉め出してやろうかと思う事があるとは思わなかったよ」

楓「ただ私は奈緖ちゃんの声を聞いてただけなのに。こえー事しますね」

奈緖「……。なあありす、一つだけアドバイスをするよ」

ありす「は、はい師匠!何でしょうか!」

奈緖「面倒臭い時は、ツッコまなくてもいいんだ」

楓「!」

ありす「な、なるほど!そんな手があったんですね!」

奈緖「おう、だから今のもツッコまないぞ」

楓「ちょっとちょっと、奈緖ちゃん」

奈緖「何ですか、楓さん」

楓「こ、心なしか、冷たくないですか?」

奈緖「自分の胸に聞いてみたらどうですか?」

楓「ううん、こうも冷たいと、胸にくーるものがありますね……」

奈緖「そういうとこですよ」

楓「そんな事言わずに、私ともお話ししましょうよ奈緖ちゃん」

奈緖「いや、いつも通りなら良いんですよ?ただ……」

楓「ただ、何ですか?」

奈緖「楓さん、今ならどれだけギャグを言っても許されると思ってるでしょう」

楓「!!い、いつの間にサイキックを身につけたんですか奈緖ちゃん!」

奈緖「あたしは他人のお株を奪うような事はしないですよ。てか図星かよ」

楓「だってだって、楽しそうだったんですもの」

奈緖「皆が楽しんでる分、あたしが苦労してるんですけど!?」

楓「逆に考えれば、皆が幸せに居られるのは奈緖ちゃんがくろうしてるからっすね、ふふっ」

奈緖「はぁ。何て言うか、そう言われるとあたしも弱いんですけどね」

楓「奈緖ちゃんのお陰で今日もお酒が美味しいですよ!」

奈緖「それあたしの事馬鹿にしてないか!?」

楓「そんな事ありますよ」

奈緖「あるのかよ!っていうか、楓さん酔ってるでしょ!!」

楓「!!い、いつの間にサイキックを」

奈緖「身につけてないって言ってるでしょ!」

楓「これ以上キャラ付けをして、どうするつもりなんですか!」

奈緖「あたしが言ってるんじゃ無いですからね!?」

楓「そんな!それじゃあ私は、誰にこの思いをぶつけたらいいんですか!」

奈緖「川島さんか、一升瓶にでもぶつけて下さいよ……」

楓「ひどい……。一生、瓶に話しかけろなんて……」

奈緖「そこまで言ってねえ!無理矢理ギャグにして、あたしを悪くしないで下さい!」

楓「……じゃあ、私に付き合ってくれますか?」

奈緖「……。まあ、たまになら」

楓「もう、奈緖ちゃんったら、すなおじゃないんだから♪」

奈緖「何だろう、もう乾いた笑いしか起きないなぁ」

楓「師匠が失笑、ですね。ふふっ」

奈緖「だああああ、もおおおお!」

――


ありす「師匠、お疲れさまでした」

奈緖「やりたい放題やって、気が済んだら部屋出てったからなあの人」

ありす「参考に……なるんでしょうか、今の会話は」

奈緖「それが残念な事に、ダメな大人は皆あんな感じなんだよなぁ」

ありす「そ、そうですか」

奈緖「引くなよ。いや、仕方ないと思うけどさ」

ありす「す、すみません師匠!」

奈緖「それ、定着したらやだなぁ……。結局、楓さんにも呼ばれてたし」

ありす「次は、誰が来ますかね?」

奈緖「分かんないけど、疲れない相手がいいなぁ」

ありす「あ、流石の師匠もお疲れですか」

奈緖「そりゃなあ。まあそういう事で、次が最後でいいか」

ありす「はい!」

奈緖「その元気、少し分けてくれ……」

加蓮「おはよー。あ、奈緖じゃん」

奈緖「勘弁してくれよ……」

加蓮「え、ちょっと、何?」

STEP5 北条加蓮

加蓮「ふふふっ、奈緖、そんな事してたの?」

奈緖「何て言うか、断り切れなくてな」

加蓮「もう、奈緖ってば世話焼きなんだから」

奈緖「べ、べつにそんなんじゃ無いからなぁ!」

加蓮「はいはい、分かってるよ-。でも、さっきのは幾ら何でも酷くない?」

奈緖「幾ら何でもって所に、あたしの言いたい事が全て詰まってるけどな」

加蓮「ふふっ、そう言われちゃうと何も言えないなぁ」

奈緖「はぁ。ええっと、加蓮の予定は確か……」

加蓮「この後撮影~。ていうか奈緖はオフじゃ無かったの?」

奈緖「なんつーか、外に出たい気分だったんだよ」

加蓮「それで師匠をやってるわけだ」

奈緖「その師匠って呼ぶの、広めてるのは加蓮だって分かってんだからな?」

加蓮「別に、嫌じゃ無いでしょ?」

奈緖「嫌じゃ無いっていうか、恥ずかしいんだよ」

加蓮「それだけ信頼されてる事だよ。これ言われたの、私だけじゃ無いでしょ?」

奈緖「……」

加蓮「あーんもう、照れてる奈緖が一番可愛いんだから♪」

奈緖「やめろぉ!ひっつくなぁ!」

加蓮「今日は晴れてるから、髪もふんわりだね~」

奈緖「人をモフるな!」

加蓮「こうやってると、あれを思い出すよね」

奈緖「あれ、あれ……。ってあれの事か!?」

加蓮「そ、『神谷奈緖クリスマスツリー事件』」

奈緖「あれホントびっくりしたんだからな!もうすんなよ!?」

加蓮「え~、またやったげようよ。人気だったじゃん」

奈緖「そういう問題じゃねえ!」

――


ありす「今日はありがとうございました!」

奈緖「ああ、特に何かしたわけじゃ無いけど」

ありす「いえ、師匠から得られるものは沢山ありましたよ!」

奈緖「だからそれ、褒め言葉じゃ無いからな?」

ありす「これで私も大人の側に立ったと言えるでしょう!」

奈緖「……そうだな。これから頑張ってくれ」

ありす「はい!……あ!プロデューサー!」

 そう言って、ありすは今部屋に入ってきたばかりのPさんに駆け寄っていく。

その表情は如何にも愛らしい少女であり、嬉しそうに何やら話し込んでいる。

恐らくは、先程学んだであろうツッコミをするべく会話中といった所だ。

あの人も大概、ボケるのが好きな人種だからな……。

あ、Pさんがツッコミ入れてる。おかしいなぁ。あたしはツッコミの師匠だったはずだったんだけどなぁ。

加蓮「あー、ありすちゃん、そういう事だったんだね」

奈緖「まあ粗方予想はついてたよ、プロデューサーか、アイドルの先輩かってな」

加蓮「でも、ある意味的を射てるのかもね。この事務所なら」

奈緖「そうか?どこでも一緒だと思うぞ。誰かと楽しく話す為に、冗談とそれの受け答えが出来るようになりたいってのはさ」

加蓮「じゃあ、奈緖は楽しく話す天才だ♪」

奈緖「茶化すな。それに……」

加蓮「それに?」

奈緖「あたしは天才でも師匠でも無い、普通の女の子だっての」

STEP? プロデューサー

 加蓮もありすも、さっきまで見ていた外野も皆、スケジュールに沿って一人ずつ部屋を出て行く。

あたしはと言うと、来た時と変わらず、ソファで本を読んでいた。

唯一つ、Pさんが居るという事だけは違っているけど。

P「奈緖、お疲れ様」

奈緖「な、なんだよ急に」

P「いやなに、ありすにツッコミを教えてたんだろ?」

奈緖「……まあ、な」

P「っても、効果があるんだか無いんだか」

奈緖「まあいいじゃんか、楽しく話せればさ」

P「まあそうだけど。でもこれじゃあ、まだ暫くは神谷師匠の独壇場って感じだな」

奈緖「Pさんまでその呼び方かよ……」

P「何だ、嫌か?」

奈緖「……少し」

P「あれ、そうなのか?てっきり気に入ってるのかと」

奈緖「そこまで嫌って訳じゃ無いけどさ。やっぱり、いつも通りが一番いいよ」

P「そっか。じゃあ奈緖、これからもツッコミよろしくな」

 全く、この人は鈍いなぁ。っても、これで分かれって方が無理な話か。

この人には、これからも笑ってて欲しい。
あたしと楽しく話して欲しい。
もっとあたしを呼んで欲しい。

なんて、言えるわけも無いから、たった一言だけ。

奈緖「ばーか。へへっ♪」

 きっとこの人の前であたしは、笑顔で楽しそうに話す、ただの女の子になっているのだろうなと思う。

こんな所で終わりです。
奈緖は可愛いなぁ。
ブラッシングとかしてあげたい。
次回はまた凛未央を
少し長めに書こうかなと思います。
それでは。

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