軍師「全部読んでました」 (22)

将軍「軍師殿っ! 軍師殿ーっ!」

将軍「軍師殿はどこだ!?」

兵士「我々も捜しているのですが、見当たりません!」

将軍「もう敵軍はそこまで迫っているというのに……何をしているのだ!」

将軍「普段は『全てを読んでいる私にお任せを』などと大言を吐いているくせに……!」

将軍「あの方の作戦なしで、どう戦えというのだ……!」

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将軍「……」

将軍「こうなったら仕方あるまい」

将軍「我々だけで戦うのだ!」

兵士「そうですよ、将軍!」

兵士「今日は我が国の売れっ子作家の新作が発売されましたし、絶対負けられませんよ!」

将軍「うむ、その意気だ! 絶対に侵略者から勝利をつかむのだ!」

戦いが始まった……。



兵士「将軍! 右方から、敵軍が攻めてきました!」

将軍「よし、そっちへ兵を送る……」

将軍「いや待てよ?」

兵士「え?」

将軍「いくらなんでも攻めが不用意すぎやしないだろうか……」

将軍「もしかすると、オトリの可能性がある!」

兵士「なるほど!」

将軍「とりあえず、兵は動かさず守りを固めよう。敵軍の様子をもっと慎重に探らねばならん!」

兵士「ははっ!」

将軍(軍師殿なら、きっとこういう指示をした……ような気がする)

兵士「報告いたします!」

兵士「後方から敵軍が現れました!」

兵士「右方の敵軍は、やはり陽動だった模様です! ほとんどが人形です!」

将軍「ふぅ~、危うく罠にかかるところだったな」

将軍「よし、後方の敵を掃討する! 一気にいくぞ!」

兵士「ははっ!」

将軍「……とりあえず敵の第一陣は退けたな」

兵士「やりましたね!」

将軍「ところで、軍師殿は?」

兵士「まだ見えられてません……」

将軍「うむう……彼が来ないなら、このまま我々だけで戦うしかあるまい!」

兵士「敵が撤退を始めました! 追撃しますか!?」

将軍「そうだな……いや、待て!」

将軍「もしかしたら伏兵がいるかもしれん! うかつに手を出すな!」



兵士「敵が攻めてきましたぁ!」

将軍「矢だ! 矢を撃ちまくるのだぁっ!」



将軍「くそっ、囲まれてしまったか!」

将軍「弱いところを見つけて、なんとか一点突破するぞ!」

兵士「は、はいっ!」

兵士「敵の本軍と対峙しました!」

将軍「両軍、全軍による激突……この一戦で決着がつくな……」

将軍「軍師殿は?」

兵士「どこにもおりません……」

将軍「そうか……ならばもういい!」

将軍「皆の者、よく聞け! この一戦で全てが決まるぞ!」

将軍「己の全てを出し尽くすのだ!」

オーッ!!!

兵士「や、やりましたね……」

将軍「うむ、敵将を討ち取り……敵軍は散り散りとなった……」

兵士「これでもう、敵国も我が国に攻め込もうとは思いますまい」

将軍「油断はできんが、そう願いたいものだな」

兵士「しかし、ある意味敵国以上に許せないのは、軍師殿です!」

兵士「国防において最も大事な一戦だというのに、全く姿を現さないだなんて!」

兵士「たしかに彼には今までの功績がありますが、それを差し引いても許せることではありません!」

兵士「軍師解任……いや、打ち首にしても飽き足らない大罪ですよ!」

将軍「うむ……厳罰に処さねばなるまい」

兵士「さっそく、軍師殿の自宅に乗り込みましょう!」

将軍「そうだな。いずれにせよ、彼からも事情を聞かねばならぬ」

兵士「まったく……なにを考えてるんだか……」ブツブツ

兵士「我が軍の戦略部分は、あの軍師殿に任せておいたというのに……」ブツブツ

将軍(その通り……今まで我が軍、というか私は彼に頼り切って指揮をこなしていた……)

将軍「!」ハッ

将軍(まさか……!)

将軍(私には、軍師殿の狙いが読めたぞ!)

将軍(もしかして、軍師殿はあえて姿を現さなかったのでは!?)

将軍(これまで、我が軍の戦術戦略は軍師殿に任せっきりだったが)

将軍(それではいつか、もしも軍師殿が本当にいなくなった時、軍はあっさり総崩れになる!)

将軍(だからこそ、この重要な一戦で、わざと全てを私に任せたのだ!)

将軍(我が軍を、さらに一段階進化させるために!)

将軍(事実、我が軍はこの追い詰められた状況で勝利を収めることができた!)

将軍(この勝利は百戦にも勝る経験になったのだ!)

将軍(軍師殿……粋なはからいをしてくれたものだ……)

軍師の自宅――

軍師「あ~、面白かった……最高!」

軍師「さっすが売れっ子作家の新作小説、時間を忘れて最初から最後まで楽しんじゃったよ」

軍師(ところで、今の時間は……)チラッ

軍師「ゲ!?」

軍師「やっべえ、もうとっくに敵軍が攻め込んでておかしくない時間じゃん!」

軍師「いや、それどころか……決着がついててもおかしくない!」

軍師「大遅刻じゃん!!!」

軍師「う~わぁ~……やっちまった、やっちまった」

軍師「どうしよう、どうしよう……」

軍師(戦いはどうなったんだろうなぁ……)

軍師(うちの軍が勝った? 敵軍が勝った? まだ戦ってる?)

軍師(さすがの俺もこれは読めねえわ……)

あなたそれ
ジャパリパークでも同じ事
言えるフレンズなんだね?
すごーい!
     ハ ハ
     ∧Y∧
    / |||∧
    |ミ|||ミ|
    V|||ミ/

    / ̄ ̄ ̄\
   / (人人) \
  //  人 人ヽヽヽ
  /| ハ(光)ノ光)ノ | |
 |人|(● ●)|ノ |

  レ| 人″ _ ″ノ N
  ヽ从>、― <从ノ
   /{⌒只⌒}\
   L_| ̄∥ ̄|_亅
  〈 | ∥ | 〉

   |_`ー―――⌒)
   ヽ>―――-イ
   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ



コンコン…

「軍師殿、おられるか」



軍師「!?」ビクッ

軍師(将軍の声!? ってことは勝ったのか! よく俺抜きで勝てたなぁ……てか何しに来た?)

軍師(んなもん決まってる! 姿を見せなかった俺を罰しに来たんだ!)

軍師(あーあ、よくて軍師クビ、悪くて処刑、かな……)

軍師(どう言い訳すればいいんだ……いや、どうしようもないだろこれ……)

軍師(せめて、何をしてたか正直に話すしかないだろうなぁ……)

将軍「軍師殿、おられたか」

軍師「は、はいっ!」

将軍「軍師殿にお話ししたいことがある」

軍師「な、なんでしょう!?」

将軍「軍師殿は……全部読んでいたのですね!」

軍師「は、はい……おっしゃる通りです」

軍師「全部読んでました」







― 完 ―

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