ガール「あたし想像しちゃうんだ」(7)

あたし想像しちゃうんだ。あたしが死んじゃう瞬間を

勘違いしないで欲しいんだけどあたしはからだが弱いとか友達にいじめられて

悩んでいるとか死にたいと思っている訳じゃないの

CMを見てケーキ食べたいとかペット屋さんをみて子犬かわいいと思うように

条件がそろうとそれはわいてくるの

どこだっていいとも、いつだっていいとも言わないけど

結構簡単に日常の中からあたしの死体はうかびあがってくるんだ。

例えば、学校の屋上で皆と手すりにうっかかっておしゃべりしているとき

絶対にないけど

これを乗り越えてふっと意識を飛ばすと

背骨がぐちゃぐちゃになって、もう何も見つめないあたしの目だったものに

友達のあの子の何が起きたかわからないって顔が映っているところとか

車がびゅんびゅん通ってる交差点で信号が変わるのを待っているとき

絶対にないけど

たたっと走り出したら

跳び箱を飛び損なって、お腹がうえってなるのに似ている痛み、それもずーっと強いのが

体全部で感じたあとに、息が苦しくなって必死で空気を吸いたいのにかなしばりみたいに

喉とか口が言うことをきかなくて、苦しいのが続いたあとにテレビを消すみたいにフッと意識が消えたりとか

なんなら理科準備室でもいいみたいで

名前も教えてもらってない茶色い小瓶がたくさんならんでいるところに先生の手伝いで入ったとき

絶対にないけど

もう言わなくてもわかるよね

いつからはじまったのかわからない。物心がつく前なのかもしれないし。そうじゃないのかもしれない。

でもこのことがあんまりおしゃべりしちゃいけないことだってママが教えてくれたときには、もうあたしの当たり前になってたの

「はい...はい...ええ...10時からですね」

月曜日の朝。起きてくるとママが電話をしていた。

それが終わるとママはあたしを抱き締めた。

「大丈夫、大丈夫だからね」

ママは自分にも言い聞かせるようにあたしにささやいた。

赤しまのTシャツを着たあの子の写真は楽しそうに笑っている。

黒い服は苦手。首のところがちょっとキツいから

お線香も苦手。いい匂いだけどなんだか鼻がくすぐったいから

たくさんの花も苦手。悲しいことをごまかそうとしてるみたいだからだと思う

お葬式は苦手。絶対にないことが『無い』って言われているみたいだから

帰り道。パパとママと駅のホームで電車を待っていると電車と一緒にあれがやってきた。

絶対にないけど

一歩踏み出すとパパとママが、あの子のパパとママみたいに泣いてしまう。






駅のホームはたくさんの音とにおいでまぜこぜになっていた。

おわり

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