【ミリマス】たまには娘の話でもしようか (22)

ああ、よく来たね。
・・・なあに、大した話でもないさ。酒はサービスするよ、料理は今作っているから楽にしていてくれ。

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どうだい?この店は。大衆食堂としてはいかにもといった感じだろう?最近はチェーン店も増えてきたが味ではよそには負けない自信はあるよ。安く、おいしく。それがうちウチのモットーだ。チェーン店なんかに負ける気はそうそうないさ。
小さいときから料理は好きだった。料理を始めたきっかけは今では忘れてしまったが、いつのまにか鍋をふるようになっていた。
そんな私だから大人になって、自分だけの城を構えて料理を振るうようになるのは初めから決まっていたことなのかもしれない。

ああ、悪いね。
この店は禁煙なんだ。
いや、別に私が煙草が嫌いなわけじゃないさ。あの子のためと思って思い切って禁煙にしたんだ。
お客さんもみんな承知の上だ。
なんて言ったってあの子はこの店のアイドルだからな。
おっと、今はみんなのだったな。
それは君のほうが詳しいだろう。

すまない、話しが横にそれてしまったね。


成長して、それなりに名の売れた場所で修業を積んだ私は一国一城の主となった。それがこの店だ。
自分で言うのもあれだが、これでも有名なホテルやレストランの注文からオファーは来てたんだ。

だけど私は自分の城を構えることを選んだ。
私は自分の料理でお客さんを笑顔にすることが好きなだけだったし、なによにそれを間近で見たかったからね。


店の経営が軌道に乗り始めてしばらくした頃に、私は人生の伴侶を得た。もう20年以上前のことだね。

軌道に乗ったといっても料理一本で生きてきた私の経営の才能は全然で、常に火の車だったが彼女にはかなり助けられた。いつでも献身的に私のことを支えてくれていた。
彼女に出会わなければこんな店とっくに潰れていただろうね。私が君と会うことはなかっただろう。もちろん君とあの子もね。


そう考えると運命とはなかなか面白いものだとは思わないかい?



私が家内と出会わなければあの子は生まれなかったし君と出会うこともなかった。



私が料理の道に進まなければ家内と出会うことはなかった。



私が子どものときに鍋を振るっていなければこの道に進むことはなかった。



君もいっしょだ。君の歯車が何か一つ掛け違えていたらきみは今この場所にいなかっただろうね。ここにいるのは別の人か、あるいは誰もいないか……。
いろいろな歯車が絡まりあって今がある。何か一つでもくるっていたら。今この瞬間は存在していないだろう。それが運命ということだろうね。



ロマンチックな話はここまでにしておこうか。


私が人生の伴侶を得てしばらくして子供を授かった。それがあの子さ。
家内はもちろん、私も初めてのことに大いに戸惑ったな。

出産予定日の数日前から臨時休業にして、病院の廊下をそわそわしながらうろついて。
だからこそあの子が無事に生まれたときは飛び上がるほどうれしかったよ。君もいずれわかるようになるさ。

まだ早い?そいつは失礼。
だがどうせすぐにその日は来るんだろう?



無事に生まれたあの子はすくすくと育っていった。元気な女の子だった。そして私と家内の両方をしっかりと受け継いだ子だった。
気が付けばいつの間にか店の手伝いをするようになっていてね、店の常連さんの間のアイドルになっていたよ。

もっとも、あの子が大きくなってからはあの子目当てに店に来る輩も増えたが。



弟が生まれてからもそうだったな。
あの子が小学校低学年のころに弟を授かって、初めてできた弟がよっぽど嬉しかったのかあの子は生まれた時から弟の世話をしていた。
ああいった献身的なところは間違いなく家内譲りだね。



ところであの子も昔から料理が得意というわけではなかったんだよ。
意外だって?

ふふ、君の知らないあの子の一面というのもなかなか珍しい気がするね。
親の特権というものだな。悪く思わないでくれ。


厨房での私の作業を見ているうちに、まるでそれが当然かのようにあの子は鍋を振り始めた。
もちろん基本的な調理方法や作り方は一通り見せてあげたが、小学校低学年くらいの子が見ただけで作り方を覚えたのだから私譲りの料理のセンスは相当なものだろう。

ただ、味だけは見よう見まねでできるものではない。
一流のコックと一般人が同じ方法で調理してもその差は歴然だろう?
どうしても味はイマイチだったんだ。

あの子はそのことにかなり落ち込んでしまっていてね。


だから私はとっておきの秘訣を教えてあげた。

なにかって?
簡単なことさ。「料理は愛情なんだ。誰かのことを思って作った料理は必ずおいしくなる」ってね。

これは昔から、初めて包丁を握って鍋を振ったその日から変わらない、私のポリシーみたいなものだ。





あの人は前もこれを頼んでいたからこの料理を気に入ってくれたのかな。



この人はこういったのが好きなのかもしれない。



あっちの人は前に来たときはあまり満足そうじゃなかった。今日は必ず満足して帰ってもらうぞ。



私はね、食べている人を見るのが好きなんだ。
自分の作った料理を幸せそうに食べているのを見てうれしくならないわけがないだろう?

……あの子も言っていた?ははは、そこはやはり血のつながった親子ということか。

次の日にはまた料理を作ってくれてね。
これがとてもおいしかった。

確かに私の味に近いがあの子らしさを感じる味だった。
そこで何を考えて作ったんだい?と聞いてみたら「お父さん」って返ってくるじゃないか。

親としては一生ものの宝物だよ。
まあ、今はどうやら想う相手は違うようだがね。



それからあの子はいっそう料理に夢中になって腕をどんどん上げていった。
それも私に負けないくらいの腕を。

……あとは君のほうが詳しいんじゃないか?




さあできた、回鍋肉だ。遠慮せずに食べてくれ。


……今でもあの子は一番の得意料理は回鍋肉と言ってくれる。
とても喜ばしいことだ。

なぜなら私があの子に一番最初に教えた料理こそ、この回鍋肉だからな。
今日という日にはちょうどいい料理だろう?

帰ってこのことを言ってあげるといい。
きっとこれに負けないくらいおいしい回鍋肉を作ってくれるさ。



さて、私もそっちに行こうか。
ああ、わざわざついでくれてありがとう、私も飲ませてもらうよ。

……こうして君と飲むことになるとはね、息子と酒を交わしている気分だよ。
弟のほうが飲むには少し早すぎるからね。



「料理は愛情なんです」だったか。
確かあの子の歌にそんな歌詞があったね。

この際聞きたかったんだがあの歌詞は誰が考えたんだい?
初めてあれを聞いたときは思わず涙が出そうになったね。

昔私が教えたことをあの子は歌として表現してくれていた。
そしてたくさんの人を笑顔にしていた。もちろん、私のことも。

……あの子の意見を取り入れた?…そうか――。


あの曲はまさにあの子そのものだった。
親の私が言うんだから間違いないよ。

それを世に出してくれた君には感謝しているよ。

おっと、もうこんな時間か。


最後に一つ――。


あの子は他人の笑顔で自分も笑顔になるような子だ


君が笑うならあの子も笑うだろう。



君が悲しむならあの子も一緒に悲しむだろう。


私たちの娘は笑顔が誰よりも似あう子だ。
それが君の手掛けた子たちのなかであろうとも、ね。

だから彼女のことをずっと笑顔でいさせてくれ。
それが私の、私たちの、あの子の親としての最後のお願いだ。


……言われなくてもわかってますといった顔だな。
ふふ、そうだな。そうじゃなかったら私も首を縦に振らなかっただろうね。

さあ、お開きだ。
明後日を楽しみにしているよ。

……私たちの娘をこれからもよろしくな。




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『わっほーい!お疲れ様です!プロデューサーさん!』



『お父さんとのお話は終わりましたか?』



『どうでした?……よろしく頼むって言われた?……もうっ、改めて言われなくてもわかってますよね。プロデューサーさん♪」




『……もう明後日なんですね。私、まだ実感が湧いてないんです。二人で日程や段取りも決めたのに…おかしいですよね、えへへ」



『……今日は回鍋肉が食べたい?どうしたんですか?』



『お父さんが……わかりました!たっくさん用意して待ってますから早く帰ってきてくださいね!』



『あと、帰ってきたらお父さんから聞いたこと、全部話してもらいますからね!それから……』


      
 




『絶対に幸せにしてくださいね♪』

      
 


終わりです。

Twitterで見かけたネタで書いてたらいつの間にか結婚前夜になってました。ジューンブライドだからちかたないね

今回から酉つけてみました

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