【アマガミ】橘「七咲、許してくれるかな」 (229)

七咲「いいんです」

七咲「私じゃ駄目な事、分かりましたから」

橘「七咲…」

七咲「先輩のこと…信じていたんです」

七咲「でも、こんな風に裏切られたら…」

橘「ち、違うんだ…」

七咲「何も違いません!」

七咲「それは先輩が一番よくわかってるじゃないですか!」

橘「それは…」

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七咲「本当に…最低ですね」

七咲「先輩のような人に、ちょっとでも心を許した自分が恥ずかしいです」

橘「ま、待ってくれよ!」

橘「すこしは僕の話も聞いて…」

七咲「聞いてどうするんですか?」

七咲「もう、私の気持ちは…」

橘「あ…」

七咲「……」

橘「七咲…」

七咲「さようなら、先輩」

七咲「……」

七咲「バカッ!!!」

橘「ああ…」

橘「……」

9年後

七咲「決めた?」

郁夫「塩…ああ、いや味噌もいいかな」

七咲「いくら初めてのお店だからって悩みすぎ」

郁夫「よし決めた、塩だ」

七咲「すみません、注文いいですか?」

店員「はい」

七咲「醤油ラーメンと塩ラーメンを一つずつお願いします」

店員「かしこまりました」

郁夫「うん、けっこううまいね」

七咲「そうね」

郁夫「すいません、替え玉ひとつ」

七咲「あ、私も」

カランコロンカラン

店員「いらっしゃいませ!」

店員「何名さまですか?」

橘「あ、二人です」

店員「こちらのカウンター席にお願いします」

梅原「はぁー、せっかく奢ってくれるっていうから期待してたのにラーメンか」

橘「おいおい、そういうことは心の中で思って口には出さないものだろ」

橘「店の人に聞こえたら悪いだろ」

梅原「っとそれもそうだな、これは俺が悪い」

七咲「……」

七咲(この声…どこかで…)

梅原「んー何にしようかな」

梅原「橘、お前はもう決めたのか?」

七咲(橘…!)

七咲(もしかして先輩…)

七咲(まさか今この隣に座っている人は…)チラッ

橘「ああ、僕は味噌ラーメンにするよ」

七咲(橘…先輩…!)

七咲(間違いない…こんなところで会うなんて…)

七咲(でも向こうはまだ気づいてないみたいだし…)

梅原「じゃあ俺もそれで」

梅原「俺トイレ行ってくるから注文よろしくな」

橘「おう」

橘「あ、すいません味噌ラーメン二つ」

店員「はい、ありがとうございます」

橘「……」

橘「はぁ…僕も梅原みたいに帰ったらごはん作って待ってくれている人がいたらこんな頻度で外食せず済むのに」ボソッ

橘「その前にまずは彼女か…」

橘「……」

郁夫「どうしたの?箸止まってるけど」

郁夫「もしかしてお腹いっぱいになったの?替え玉頼んだのに」

七咲「い、いや…そういうわけじゃ…」

郁夫「あれ?姉ちゃんの隣に座ってる人って」

七咲「!」

郁夫「純一兄ちゃん?」

橘「ん?」

郁夫「やっぱり!俺だよ、俺、郁夫だよ」

橘「ああ!郁夫君じゃない…か…」

七咲「……」

橘「な…七咲…」

七咲「お久しぶりですね…」

橘「あ、ああ…」

七咲「……」

橘「……」

郁夫「?」

七咲「……」

橘「あ…あのさ…」

七咲「私もう食べ終わったので帰ります」

店員「はい替え玉二つです」

七咲「……」

七咲「ごめん郁夫、これお金、それと替え玉もあげるから」

店員「お待たせしました、味噌ラーメン二つです」

橘「七咲…!」ガタッ

七咲「早く食べないと麺が伸びてしまいますよ…」

七咲「……」カランコロンカラン

橘「あ…」

橘「……」

梅原「ふぃ~スッキリしたぜ」

梅原「お、もうラーメン来てるじゃねえか」

橘「……」

郁夫「……」

梅原(な、なんだこの空気は…?)

――――――――――

店員「ありがとうございました」

カランコロンカラン

郁夫「ありがとう…俺らの分まで奢ってくれて…」

橘「いや、いいんだ」

橘「……」

梅原「なあ大将、まあそのー…なんだ、えっと…」

梅原(だめだ、何を言えばいいのかわからん…)

梅原(でもこの空気はきついな…)

郁夫「今日はたまたま姉ちゃんの会社の近くでラーメン屋を見つけたから二人で来てみたんだ」

郁夫「純一兄ちゃんはどうして?」

橘「ああ…僕は今この辺りに住んでるからね」

橘「……」

郁夫「ねえ、内容は言わなくていいからさ、YESかNOで正直に答えてほしい」

郁夫「姉ちゃんにひどいことした?」

橘「…うん、全部僕が悪い」

郁夫「そうなんだ…」

郁夫「それは姉ちゃんが嫌いになったから?」

橘「そんなことない、僕が軽率だっただけ…」

郁夫「そっか…」

郁夫「なら純一兄ちゃんが悪いのか」

橘「うん…」

橘「あ、僕たちこっちなんだ郁夫君もこっち?」

郁夫「いや俺はあっちなんだ」

橘「そうなんだ、じゃあ」

郁夫「あ、待って」

郁夫「携帯持ってるよね?アドレス交換しようよ」

橘「ああ、いいよ」

梅原「なあなあ俺のはどうだ?」

梅原「見てくれよ俺の携帯」

梅原「なんと!画面が横に傾いてテレビを見ることができるのだ!」

梅原「すごいだろ!」

郁夫「あ、俺のもそうですよ」

梅原「なっ…!」

郁夫「そうだ、お兄さんも交換してくれませんか」

梅原「おう、いいぞ」

梅原「はい交換完了っと」

郁夫「じゃあ俺はこれで」クルッ

郁夫「…純一兄ちゃん」

橘「ん?」

郁夫「俺かなりゲーム上手くなったんだ…よかったらまた…」

郁夫「いや、もうそんなことしないか、なんでもない」

純一「僕もまだゲームするよ、ゲーセンでより主に家でだけど」

純一「今度出るゲームも予約してるぐらい」

郁夫「それってミリウサ?」

純一「うん、そうだよ」

郁夫「へえ、純一兄ちゃんもあれやるんだ」

郁夫「俺もやろうかなって思ってたんだ」

純一「そうなんだ、よかったら今度一緒にやろうよ」

郁夫「いいの?」

純一「うん」

純一「いつでもってわけじゃないけど、僕が休みで余裕のあるときなら僕の部屋に来ていいからさ」

郁夫「ほんと?」

純一「ああ、連絡のやり取りもできるようになったしね」

郁夫「じゃあまたメールするよ」

純一「…郁夫君、七咲に本当にごめんって伝えといて」

郁夫「わかった」

純一「ありがとう、またねメール待ってるよ」

梅原「高校生とゲームの約束とは…」

橘「悪く言うなよ、ここ最近の楽しみなんだぞ」

梅原「はいはい、まあゲームはほどほどにな」

梅原「それよりまだ七咲のこと…」

橘「……」

梅原「はぁ…」

梅原「よしっ二軒目行くぞ!」

橘「ええっ二軒目?」

梅原「明日は日曜日だし、どうせ暇だろ付き合え!」

橘「う、うん…でも…」

梅原「金の心配ならするな、俺のおごりだ!」

―――――――――

七咲家

郁夫「ただいまー」

七咲「お帰り郁夫」

七咲「…ごめんね先に帰っちゃって」

郁夫「いや、いいよ」

七咲「…ねえ、どうだった?」

郁夫「どうって何が?」

七咲「いや、なんでもないの」

七咲「お風呂もう私入ったからあなたも入りなさい」

郁夫「そうそう、純一兄ちゃんに伝えてくれって言われたんだけど」

七咲「……」

郁夫「本当にごめん…だってさ」

七咲「そう」

郁夫「何があったかは知らないけどさ、高校の時のことでしょ?」

七咲「何のことかわからないわ」

七咲「先輩とのことなんてほとんど覚えてないし…」

郁夫「そうなんだ、まあいいやそれは俺に関係ないし、風呂入るね」

七咲「……」

七咲「今更謝られても遅いんですよ…先輩…」

―――――――――――

東寿司

橘「ってお前の寿司屋じゃないか!」

橘「しかも休みってなってるし」

梅原「だから今日遊びに行ったんじゃねえか」

橘「そうか…」

梅原「まあ入れ入れ」

ガラガラガラ

橘「で、何をおごってくれるんだ?」

梅原「もちろん寿司だ!特別に握ってやる」

橘「うん、知ってた」

梅原「よし、座って待っててくれ」

梅原「いようっ待たせたな」

橘「わざわざ着替えたのか?」

梅原「そりゃ俺だって真面目に作るつもりだからな」

梅原「で、何が食いてぇんだ?好きなの言いな」

橘「そうだな…じゃあアナゴ」

梅原「はいよっ」

梅原「へいお待ち」

橘「いただきます」もぐもぐ

橘「うん、うまい」

梅原「あったりめえだろ、誰が握ってると思ってるんだ?」

香苗「声がすると思ったら帰ってたんだ」

梅原「おう、客を連れてきてな」

香苗「お客さん?あ、橘君じゃない、久しぶり」

橘「おじゃましてます」

橘「あっ香苗さん、そのお腹…」

香苗「あれ?言わなかったの?」

橘「太った」

香苗「なわけないでしょ!」

橘「冗談だよ」

橘「そっか…二人目だよな」

梅原「ああ、ほらよっ」

梅原「まあなんだ…偉そうに言うつもりはねえけど、子どもはいいぞ」

梅原「子どもが生まれた時は俺が生きてきた中で一番幸せな時だった」

梅原「だからさ、お前もそろそろ彼女ぐらい…」

橘「いや、無理だよ…」

橘「僕だって今日まではそう思ってたさ」

橘「でも今日七咲を見て…僕は幸せになっていいような人間じゃないんだって思ったんだ」

梅原「今日七咲と会ったからこういう話をしてんだよ」

梅原「もういいんじゃねえかって」

梅原「そりゃあの時のお前のやった行動は七咲からすればひどいものだったかもしれねぇ」

梅原「でもさ、逆にお前のやったことはそれだけじゃねえか」

梅原「あんまりいい例えじゃねえけどお前よりひでぇやつなんか世の中にごまんといるんだぜ」

梅原「それなのに相手のことを考えず自分の都合のいいようにだけ考えてるやつもいる」

梅原「そんなやつらに比べりゃお前は全然優しいよ」

梅原「お前はいいやつだ、俺が保証する」

梅原「だからさ、自分で自分のことを幸せになっていいような人間じゃないなんて言うんじゃねえよ」

橘「梅原…」

香苗「そうだよ、まさ君の言うとおり」

香苗「私が大学に行ってたときなんか女の子をとっかえひっかえしてたやつがいたのよ」

香苗「しかもほとんどそいつの浮気」

香苗「そんなやつでも結婚するんだよ」

香苗「友達の話だと離婚してもう再婚してるらしいけど」

香苗「橘君はそんなやつより全然マシだよ」

橘「ありがとう二人とも…でも僕は…」

梅原「はぁ…」

梅原「かなちゃん、悪いけどあれ持ってきてくれないかな」

香苗「えっ?でもあれって…いいのまさ君?」

梅原「ああ、特別にな」

香苗「うん、わかった」

香苗「はいどうぞ」

梅原「ほら大将飲みな」どんっ

梅原「うちにおいてある中で最高級の酒だ」

梅原「嫌なことは飲んで忘れるこった」

橘「でもこの酒って…」

梅原「気にすんな、俺のおごりだって言ったろ」

梅原「好きなだけ飲めよ、帰りは送ってやるからよ」

梅原「ただし車の中で吐かない程度にな」

橘「梅原ぁ…」

梅原「へへ、さあ寿司もあるからな」

梅原「食って飲んで、気持ちをリセットすりゃいいんだ」

翌日・七咲家

七咲「……」ぼーっ

郁夫「姉ちゃん、ねえってば」

七咲「……」

郁夫「?」

郁夫「……」

郁夫「わっ!」

七咲「!」びくっ

七咲「なっ…郁夫…びっくりしたじゃない…」

郁夫「さっきから呼んでたんだけど」

七咲「えっ…」

郁夫「どうしたの?そんなぼーっとして」

郁夫「考え事?」

七咲「あー…疲れてたのかな?」

郁夫「ふーん…」

郁夫「俺今から塾行くから」

七咲「うん、気をつけてね」

七咲「……」

七咲(思い出してしまった…)

七咲(ずっと心の奥底に閉じ込めていた記憶を)

七咲「忘れたいって思ってたはずなのに…先輩…」

――――――――――――

郁夫「ただいまー…」

郁夫「ふう、腹減った」

七咲「……」ぼーっ

郁夫「姉ちゃん?」

七咲「……」

郁夫「おい、どうしたの」

七咲「郁夫…!」

七咲「どうしたの?まだ行ってなかったの?」

郁夫「え?」

郁夫「何言ってんの?」

郁夫「今帰ってきたとこなんだけど」

七咲「え…?」

七咲「……」きょろきょろ

七咲「うわあっ!もうこんな時間!?」

郁夫「もしかして塾に行ってた間ずっとそのまま…」

七咲「…ちょっと疲れがたまってたのかな」

郁夫「休みだからよかったけど、会社でそんなことだったら怒られるよ」

七咲「…郁夫にそんなこと言われるなんて」

翌日・会社

七咲「さて今日からまたがんばらないと」

七咲「……」

七咲(そういえば橘先輩今この辺に住んでるんだ…)

七咲(全然知らなかったな…)

先輩男1「よう七咲、どうしたぼーっとして」

先男1「入らねえと何にもできねえぞ」

七咲「あ、おはようございます、少し考え事をしてまして」

先男1「ふーん、俺先行くから、あんまり遅くなるなよ」



先男1「七咲~一緒に飯食わねえか?」

七咲「はい、いいですよ」

先男1「いや~もう腹ペコペコだよ」

七咲「そうですね、私も…」

ぐ~っ

七咲「あ…」

先男1「はははっ、七咲の腹の虫が鳴いてるな」

七咲「……」

先男1「七咲のカッコ悪いところなんて珍しいな」

七咲「……」

先男1「ああ、ごめんって冗談だよ」

七咲「ご、ごめんなさい、私ちょっとお腹の調子が…」ダッ

先男1「えっ!?な、七咲!?」

先男2「はは、七咲にフラれたな」

先男1「うるせえ」

七咲(私は何をやってるの…)

七咲(自分から橘先輩のこと…)

七咲(たまたま会っただけなのに)

七咲(もうあの人のことなんて…)

七咲(あの人なんて…どうでもいいはず…なのに)

七咲「……」

七咲(もうきっちり忘れよう)

七咲(いつまでもこんなことを考えていたって意味はない)

七咲「……」

七咲「よし…」

一週間後

七咲(さて、今日もがんばろう)

七咲「あれ、まだ行ってなかったの?学校に遅刻するよ」

郁夫「大丈夫だよ、まだ余裕で間に合うって」

郁夫「あ、そうだ今日学校が終わったら遊びに行ってくるよ」

七咲「正一君のところ?あまり遅くならないようにね」

郁夫「いや、純一兄ちゃんのところ」

七咲「え…?」

郁夫「あと夕飯もいらない、そのまま食ってくるから」

郁夫「ああ、母さんにはもう言ってあるから」

郁夫「んじゃ、行ってきます」

七咲「先輩の…」

七咲「……」

七咲「あ、私も仕事に行かないと」



店員「ありがとうございました」

郁夫「ごちそうさま、今日はありがとう」

橘「うん、よかったらまた来てね」

橘「あっそうだ僕も駅のコンビニに行きたいから一緒に駅まで行くよ」

橘「それにもう暗いから心配だしね」

郁夫「もう高校生なんだから何も心配されるようなことなんてないよ」

橘「いやいや、その油断がいけないぞ」

橘「もし郁夫君に何かあったら僕は七咲に…」

橘「あっ…いや、なんでもない」

郁夫「もう二人ともいい大人なんだから仲直りぐらいすればいいのに」

橘「うーん…仲直りって言われてもね…」

橘「七咲はきっともう僕とは会いたくないだろうからこのままの方がいいと思うんだけどな」

郁夫「本当にそうかな」

郁夫「俺が仲を取りもとうか?」

橘「それは…いいよ」

郁夫「俺弟だからさ、なんとなくだけど姉ちゃんのことわかるんだよ」

郁夫「今でも純一兄ちゃんのことが好きだってこと」

橘「ははは、そんなわけないよ」

橘「僕のことなんか嫌いに決まってるじゃないか」

郁夫「もちろん100%好きってわけじゃないだろうけど」

~♪

郁夫「メールだ」

橘「こらこら、歩きながら携帯なんてしちゃダメだぞ」

郁夫「はいはい」つるっ

郁夫「おっと」スコーン

郁夫「ああ、携帯があんなところまで…」

橘「ほらこうなるから」

郁夫「はぁ…」

郁夫「ちょっととってくる」

郁夫「よいしょっと」

郁夫「あー…ちょっと傷ついちゃってる」

プーッ

橘「!」

橘「車が…っ」ダッ

橘「郁夫君危ないっ!」ドンッ

キキーッ

バンッ

郁夫「いたた…何が…?」

郁夫「!?」

橘「…っ」

郁夫「純一兄ちゃん!」

―――――――――

七咲「はぁ…はぁ…」

七咲「郁夫っ!」

郁夫「しーっ、ここ病院だよ」

七咲「あ、ご…ごめん」

七咲「それより事故って…大丈夫なの?」

郁夫「俺は大丈夫、ちょっと頭打っただけ」

七咲「よかった、なんともないのね」

郁夫「でも俺より純一兄ちゃんが」

七咲「え?橘先輩…?」

郁夫「うん、俺を助けるために車とぶつかって」

七咲「……」

コンコン

七咲「失礼します…」

郁夫「一番左奥だよ」

郁夫「…純一兄ちゃん」

橘「あれ?まだ帰ってなかったの?」

七咲「……」

橘「!」

橘「な、七咲…!」

七咲「静かにしてください、他の人に迷惑ですよ」

橘「あ、ああ…」

郁夫「……」

郁夫「俺外で待ってるね」

七咲「先輩…郁夫を助けていただきありがとうございます」ぺこっ

橘「そ、そんな…七咲」

七咲「すいません、こんな怪我までして…」

橘「ただ足を骨折しただけだって」

橘「入院することになっちゃったけど…」

橘「でも僕はこうなって当然だよ、だって七咲にあんなこと…」

七咲「……」

七咲「そんなこと気にしないでください」

七咲「私もう…橘先輩と何があったかなんて覚えてないです…」

橘「そ、そう…なんだ…」

七咲「……」

七咲「では失礼します」

橘「えっも、もう?」

七咲「はい、一言お礼を言いたかっただけですから」

橘「そうか…」

七咲「本当にありがとうございました」

橘「……」

橘(七咲…)

翌日

美也「にぃにはドジだね~、何して遊んでたの」

橘「遊んでてこうなるわけないだろ」

美也「はいはい、わかったわかった」

橘「それにいつまでにぃにって呼ぶつもりなんだ」

美也「にしし、いいじゃん」

美也「にぃにはいつまでたっても美也のにぃにだよ」

橘「じゃあせめて外にいるときはやめてくれ」

美也「あ、そうだったね」

美也「早くよくなってよお兄ちゃん」

美也「もうちょっとでみゃーの結婚式なんだよ」

橘「あれ、そうだっけ?」

美也「むっ、まさか忘れてたの」

橘「そんなわけないだろ、冗談だよ」

美也「にぃにのバカ」

橘「冗談だって言ってるじゃんか、退院したらまんま肉まん買ってやるからさ」

美也「ほんと?やったー」

橘「まさか美也が結婚するとはな」

美也「ほんとはお兄ちゃんが結婚してからと思ったんだけど」

美也「お兄ちゃんも早くいい彼女見つけてよね」

橘「…いや、僕は」

橘「……」

美也「僕は…何?」

橘「し、仕事が最近忙しいからな、ちょっとそれどころじゃないな」

美也「……」

美也「あっもうこんな時間だ、行かなきゃ」

美也「それじゃあまた来るね、お兄ちゃん」

橘「おう」

――――――――

橘「最近働いてばっかりだったから、たまにはこうゆっくりするのも悪くないな」

橘「あとはお宝本でもあれば…」

橘「梅原にでも連絡して持ってきてもらおうかな」

橘「いくら美人の看護師さんが多いといっても退屈だからな」

橘「よし、後で梅原に電話しよう」

橘「とびっきりのお宝本を…」

七咲「相変わらずですね」

橘「えっ!?七咲!」

橘「どうしてここに…」

七咲「お見舞いですよ、私が来るのは嫌ですか?」

橘「そ、そんなことない、嬉しいよ」

橘(ど…どういうことだ?七咲が来るなんて…)

橘(昨日来たばっかなのに…)

橘(てっきりもう来ないものかと)

七咲「不思議そうな顔してますね」

橘「えっ」

七咲「私は悪いと思ったら自分のことでなくても相手に許してもらえるように努力するんです」

橘「僕は別に許すもなにもそんなつもりは…」

七咲「口だけの言い訳なんてしません」

橘「……」

七咲「郁夫から聞きました」

七咲「先輩は注意してくれたんですよね」

七咲「それなのに郁夫が聞かなかったから」

橘「……」

七咲「……」

七咲「そうだ、お菓子持ってきたんですよ」

七咲「果物を持ってこようかと思ったんですけど、先輩にはこういった洋菓子の方がいいかなと思って」

橘「ああ、ありがとう…」

橘「せっかくだからいただくよ」もぐもぐ

橘「うん、おいしい」

七咲「そうですか、よかった」

橘「七咲はさ、どうなの最近?」

七咲「まあまあですね」

橘「そうか」

橘「……」

橘「仕事は大変?」

七咲「はい」

橘「へ、へえ」

橘「……」

橘(会話が続かないな…)

橘(やっぱり七咲と二人だけの状況は少し気まずいな…)

橘(しかも両者が無言だとよけいにだな)

橘(何かいい話題…そうだ)

橘「郁夫君ってしばらく見ないうちにだいぶ成長したね」

橘「えっと何年ぶりだっけ…」

七咲「9年…じゃないですか」

橘「あっそう?そうか9年か」

七咲「…先輩は忘れちゃうんですね」ぼそっ

橘「え?」

七咲「いえ、なんでもないです」

橘「当たり前だけどだいぶ成長してたね」

橘「小学生のときは七咲もだいぶ苦労してたみたいだけど、今はその心配はなさそうだね」

七咲「橘先輩がいたからです…」

橘「僕が?」

七咲「先輩が郁夫と遊んでくれたり、私では思いつかなかったようなことをアドバイスしてくれたおかげで真面目になってくれたんです」

七咲「私の言うことも少しずつ聞いてくれるようになりましたし」

七咲「本当はその時のことを先輩に言いたかったんです」

橘「……」

七咲「郁夫のことだけじゃなくて私のことも…」

七咲「水泳の大会で優勝したことも勉強でいい成績をとれたことも大学に合格したことも会社に就職できたことも…」

七咲「全部…橘先輩に言いたかった…」

橘「七咲…」

七咲「すみません、こんなこと話しちゃって」

橘「いや、いいよ」

橘「僕は七咲のことをもっと聞きたいぐらいだし」

橘「あっ…でも七咲はあまり言いたくないよね、嫌いな相手に」

七咲「橘先輩は嫌いではありません」

橘「えっ…?」

七咲「もう…好きじゃないだけ…です」

橘「…そうなのか…嫌われてても全然おかしくないのに」

七咲「…美也ちゃんのお兄さんですから」

橘「はは、なんだその理由」

橘「美也がいなかったら嫌われてたのか」

七咲「……」

橘「美也とは仲良くしてくれてたんだね」

七咲「親友ですから」

七咲「今でも一緒に遊んだりするんですよ」

七咲「今週の休みもごはん食べに行く予定ですし」

橘「へえ、そうなんだ」

橘「美也は七咲のこと何も教えてくれなかったから、七咲がどうしてるか知らなくてね」

七咲「…私にも先輩のことは話さないようにしてましたね」

橘「美也も一応気をつかうんだな」

橘「…僕があんなことしたのに美也と仲良くしてくれてありがとう」

七咲「……」

七咲「美也ちゃんと先輩は別の人ですから」

七咲「美也ちゃんの方が私を避けて疎遠になっちゃうんじゃないかとは思いましたけど…」

橘「美也はそんなことしないよ」

七咲「そうですね、とても橘先輩の妹さんとは思えません」

橘「おいおい、ひどいなその言い方」

七咲「美也ちゃんは約束は守ってくれます」

橘「……」

橘「七咲…ごめん…」

七咲「何がです?」

橘「その…高校のときの…」

七咲「終わったことをいくら言っても元に戻るわけじゃないですよね」

橘「……」

七咲「ふふ、冗談ですよ」

七咲「もうあの時のことはもう気にしてませんから」

七咲「さて、私はこれで失礼します」

七咲「早く治るようにがんばってくださいね」

数日後

美也「はぁ…はぁ…ごめんねお待たせ、逢ちゃん紗江ちゃん」

七咲「ううん、時間には間に合ってるからいいよ」

美也「はぁ…ふぅ…よかった~」

紗江「美也ちゃん、すごい汗、ハンカチ使う?」

美也「あ、ありがとう、でも大丈夫自分の持ってるから」

美也「久しぶりに全力で走ると疲れるね~」

美也「寄る年波には勝てないってやつかな」

七咲「まだ私たち20代だよ」

美也「全然運動しないからかな…」

美也「逢ちゃんと紗江ちゃんは運動してるの?」

七咲「私は週に何度かランニングする程度かな」

紗江「私はあまり…」

紗江「あっでも子どもを乗せて幼稚園まで自転車をこぐのはけっこうな運動になるかも」

七咲「中多さ…じゃなかった、えっと紗江ちゃんのお子さんは今いくつなの」

紗江「3歳だよ」

七咲「そっか、いいなぁ」

美也「そうだよね、紗江ちゃんのまんま肉まんを好きにできるんだから」

紗江「まんま肉まん…」

七咲「美也ちゃん、そこじゃない」

七咲「美也ちゃんも結婚するんだよね、おめでとう」

紗江「私も直接は言えてなかったね、おめでとう美也ちゃん」

美也「二人ともありがとう」

七咲「そうだ、今日は私が食事代出すよ」

七咲「美也ちゃんへのお祝いとして、もちろん紗江ちゃんの分も私が出すから」

美也「えっ、い、いいの?」

七咲「うん」

紗江「私はいいよ、逢ちゃんに悪いもの」

七咲「気にしないで、一人だとこういうときぐらいじゃないと使い道がないから」

―――――――――

紗江「ねえ美也ちゃんのお相手ってどんな人なの?」

美也「んー、そうだねー」

美也「ちょっぴりエッチだけどやさしい人だよ」

紗江「へぇ、なんだか橘先輩みたい」

七咲「……」

美也「さ、紗江ちゃん!」

紗江「あっご、ごめんなさい逢ちゃん」

七咲「いいよ二人とも」

七咲「たしかに先輩とはいろいろあったけど、もう全部過去のこと…終わったことだから」

七咲「気にしないで続けて」

美也「……」

紗江「……」

美也「さ、紗江ちゃんってお見合いで旦那さんと出会ったんだよね」

美也「どうなの?うまくやれてる?」

紗江「う、うん」

紗江「すごく真面目な人で私のお手伝いもよくしてくれるの」

美也「へぇ~、あの人もそうなってくれるといいけどな」

美也「言えばやってくれるけど、甘えん坊っていうかなんでも頼ってくるって感じで」

美也「同じ年とは思えないんだよね、そういうとこがかわいいんだけど」

美也「逢ちゃんって弟君いたよね」

美也「弟君に頼られるとついやっちゃう?」

七咲「小学生のときはちょっとやっちゃったけど、もう高校生だからね」

七咲「自分のことは自分でやるようになってるから今はほとんどやらないよ」

美也「そっかー…参考にさせてもらおうと思ったんだけど」

七咲「どう参考にするつもりだったの…」

美也「でもよく考えたら逢ちゃんはみゃーより数段しっかりしてるから逢ちゃんみたいにってのは無理か…」

紗江「そんなに困ってることなの?」

美也「困ってるってほどじゃないけど…」

美也「ちゃんと常識はあるし、いざというときは頼りになるんだけどね…」

紗江「じゃあ何か不満があるの?」

美也「不満はー…少しあるけど、人間完璧じゃないからね」

紗江「それとも将来の不安?」

美也「ううん、あの人とならうまくやっていける」

紗江「えっと…それじゃあ…」

七咲(もしかしてノロケ…?)

七咲「二人ともいいなぁ…」

七咲「私なんか高校のときの高橋先生みたいになっちゃいそう」

紗江「そ、そんなことないよ」

美也「そうだよ、逢ちゃんがその気になれば男の人なんてイチコロだよ」

七咲「そのイチコロにする男の人がいないんだけどね…」

美也「い…いるよいっぱい!」

美也「男の人が逢ちゃんをほっとくわけないじゃないの」

七咲「…その中に橘先輩は入ってるのかな」

美也「お兄ちゃんが!?ど、どうして…」

七咲「なんとなく…」

美也(詳しいことはよくわからないけど、逢ちゃんはお兄ちゃんのこと嫌いなんじゃ…)

美也(もしかしてそれは勘違いで、実はお兄ちゃんのことを…)

美也(まさか…ね)

紗江「逢ちゃんって橘先輩のこと好きなの?」

美也「!?」

美也(紗江ちゃんストレートすぎ!)

七咲「ふっ…」

美也(な、なんなのその微笑は…)

紗江「そっかー」

美也「えっ、ど、どっちなの…?」

紗江「美也ちゃん」

美也「なに?」

紗江「ふっ…」

美也「どういうことなの!?」

紗江「それで、どっちなの逢ちゃん?」

美也「わかってなかったんだ」

七咲「高校生の時はね、今はもう違うよ」

美也「さっきのくだりいらなかったんじゃ…」

紗江「高校生のときは面白い人だったもんね」

紗江「そういえば先輩って今何してるの?」

美也「おや~、お兄ちゃんのことが気になるのかな」

紗江「ううん、逢ちゃんが聞きたそうな顔してたから」

七咲「し…してないけど」

美也「しょーがないなー、じゃあ教えてあげる」

美也「と言ってもずっと変わってないみたいだけど」

美也「相変わらずエッチな本読んでて、実物の女の人と仲良くしようとしない」

美也「そうそう、お兄ちゃんったらいい年して階段で遊んで怪我しちゃったんだよ」

七咲「階段で…?」

美也「そうだよ、ドジだよねー」

紗江「先輩ってもしかして高校生から成長してないの?」

美也「そうかもね、にしし」

七咲「ち、違うよ美也ちゃん!」

七咲「先輩の骨折は郁夫が悪いの」

美也「へ?郁夫君が?どういうこと?」

七咲「…ってことがあったみたいなの」

美也「それ本当なの?」

七咲「…うん」

七咲「だから悪いのは私たちなの、本当にごめんなさい」

美也「い、いや、みゃーに謝られても…というより逢ちゃん悪くないよね」

美也「それにどっちにしろ逢ちゃんが気にすることじゃないよ」

美也「お兄ちゃんが逢ちゃんにしたことに比べたら小っちゃい小っちゃい」

美也「罰が当たったぐらいの考えでいいよ」

夜・七咲家

七咲「今日は楽しかったな、久しぶりに二人に会えたし」

コンコン

七咲「郁夫?」

郁夫「うん」

七咲「開いてるよ」

ガチャ

七咲「どうしたの?」

郁夫「ちょっと教えてほしいことがあってさ」

郁夫「これまだ習ってなくてさ、どうやって解くのかわからないんだよ」

七咲「……」

七咲「ここをこうして、これをこうすればいいのよ」

郁夫「おお」

郁夫「じゃあこっちは?」

七咲「これは少し難しいけど、これを使って、こうするの」

郁夫「ああ、なるほど」

郁夫「やっぱり姉ちゃんは勉強できるし、教えるのもうまいね」

七咲「…教え方が上手な人に教えてもらったからね」

郁夫「ふーん…純一兄ちゃんか」

七咲「えっ!?な、なんで…」

郁夫「当たったんだ」

七咲「……」

七咲「次の問題は…」

郁夫「なんだかんだ言って気になってるんだ」

七咲「大人をからかわないの、お姉ちゃんのことはどうだっていいんだから」

七咲「お姉ちゃんより自分のこと考えなさい」

七咲「高校生なんて今しかないんだから私みたいに勉強もそういうことも後悔しないようにしてほしいの」

郁夫「後悔してるんだ」

七咲「!」

七咲「……」

七咲「あ、明日も早いからもう寝る、郁夫も自分の部屋に戻りなさい」

翌日

七咲(ふう…今日もつかれた)

七咲(お腹すいたし、早く帰ってごはん食べよ)

先男1「よう七咲、この後暇か?飯食いに行かねえか?」

七咲「先輩…」

七咲「……」

七咲「はい、いいですよ」

先男1「よしっ」

先男1「で、何か食いたいもんあるか?」

七咲「私は何でも構いませんよ」

―――――――――――

先男1「ほんと課長って…だよな」

七咲「ふふっ、そうですね」

七咲「私の時も…なんてことありましたよ」

先男1「やっぱりか、困った課長だな」

七咲「先輩は…あっ」

先男1「ん?どうした?」

七咲「い、いえ、なんでもないです」

先男1「あの病院か?誰か入院でもしてんの?」

七咲「知り合い…いえ、弟の友人が入院してるだけです」

先男1「ふーん」

梅原「ここだな、大将が入院している病院は」

梅原「お?」

梅原「あれって七咲…だよな」

梅原「隣の男は誰だろ?」

梅原「……」

梅原「楽しそうな顔してるな」

梅原「そっか…そういうことなのか」

梅原「あいつに教えてやった方がいいのかな…?」

病室

梅原「いようっ」

橘「梅原、来てくれたのか」

梅原「当たり前だろ、親友じゃねえか」

梅原「と言っても遅くなっちまったな、悪い」

橘「いや、来てくれただけでもうれしいよ」

橘「ところでよ梅原」

梅原「ああ、わかってるって」

梅原「これだろ?」チラッ

橘「おおっ心の友よ」ガバッ

ガタッ

橘「い…っ!!」

梅原「おいおい、怪我してんだから無理すんなよ」

梅原「一応俺も家庭を持ってる身だからさ、そういうのを集めるのは苦労したぜ」

橘「この恩は必ず返すよ」

梅原「おお、何食わしてくれるんだろうな」

橘「まあ…適度に期待しててくれ」

梅原「……」

梅原「なあ、俺が言うのもなんだけどよ、そういうのはもうほどほどにしていった方がいいんじゃねえか?」

梅原「いつまでこういうの見続ける気なんだ?」

橘「無論死ぬまで」

梅原「……」

梅原「そっか」

橘「なんか反応してくれよ」

橘「僕だってこういう本をずーっと読み続けるのはどうかって思ってるよ」

橘「美也にもお前みたいなこと言われたし…」

橘「でも梅原も言ってくれたじゃないか」

橘「自分で幸せになっていいような人間じゃないなんて言うなって」

橘「だったら僕でも幸せになっていいってことだよな」

橘「僕が今一番幸せな瞬間がこういった本を読んでる時なんだ」

梅原「なんていうかその…間違っちゃいないとは思うんだけどな…」

梅原「あ、そうだ、お前がそんな考えになった七咲ならさ、もう気にしてなさそうだったよ」

橘「…な、なんでそんなことわかんだよ」

梅原「まずそんな昔のこと覚えてる女はいない」

梅原「それにさっき見かけたけど、若い男と歩いてて、表情も楽しそうだった」

梅原「わかったろ?七咲は別に傷ついてなんかない、よかったな」

橘「そ…それ本当…?」

梅原「ああ、すごい笑顔だったぞ」

梅原「だからさ、退院したら彼女でも作ってみたらどうだ」

橘「……」

橘「梅原…1つ、いや2つ勘違いしてるぞ」

橘「まず、七咲がどうとか、そういう問題じゃないんだ」

橘「傷つけたという事実がある限り僕の考えは変わらない」

梅原「真面目だねぇ…そこまで行くとなんか異常があるか疑っちまうレベルだけどな」

橘「それともう一つ」

橘「彼女は作ろうと思っても簡単に作れるもんじゃない」

梅原「……」

半年後・東寿司

梅原「らっしゃいっ!…ってなんだ大将か」

橘「なんだはないだろ、客なんだからさ」

梅原「へへ、悪いな」

梅原「それより足はもういいのか?」

橘「あれ、言わなかったっけ?結構前に完治してたよ」

梅原「そうだったか…?」

橘「そうだよ、美也の結婚式にも無事出れたし」

梅原「おっ、よかったじゃねえか」

橘「まあ、式はよかったんだけどな…」

梅原「なんだ?他で何か嫌なことがあったのか?」

橘「嫌なことは何もなかったんだけど、少し困ったことが…」

梅原「…言いにくいことならビールでも飲みながらの方が楽だろ、ほら」

橘「悪いな」

梅原「今回はおごりじゃねえけどな」

橘「……」

梅原「それで、何があった?」

橘「式に七咲も来てたんだよ」

梅原「そりゃ親友は呼ぶだろ」

橘「そうなんだけどさ」

――――――――――

美也「どう、お兄ちゃん?」

橘「どうってさっきからずっと見てるだろ」

美也「感想は?」

橘「10回目だぞ…」

橘「さっきと同じ」

美也「もうっ、そんなんじゃ女の子にモテないぞ」

橘「いいよ、別に」

橘「それより呼んでるぞ、僕のところよりもっと大切な人のところに行ってやれよ」

七咲「キレイですね、美也ちゃん」

橘「ああ」

橘「…って、うわっ!七咲!?」

橘「ど、どうしてここに…」

七咲「どうしてって招待されたからに決まってるじゃないですか」

橘「そ、そうか…」

七咲「何をそんなに慌てているか知りませんが、せっかくの妹さんの結婚式なんですから、もう少しシャキっとした方がいいんじゃないですか」

橘「失礼だな、シャキッとしてるだろ」

七咲「そうでしたね、先輩は昔からそういうことの基準が人より低かったですもんね」

橘「どういうことだよ…」

七咲「…足、治ったんですね」

橘「ああ、もうバッチリだよ」

橘「謝ろうとしなくていいよ、あれは事故だって、七咲も郁夫君も悪くないよ」

七咲「…まだ何も言ってませんよ」

橘「表情見てればわかるよ」

橘「七咲のことはよくわかってるし」

七咲「私と先輩はついこの前、数年ぶりに会った関係ですよ」

七咲「その数年間で私の考えもいろいろ変わりました」

七咲「それでも私のことをわかってるって言えますか?」

橘「うっ…その…」

七咲「冗談ですよ、私そんなに変わってませんから」

橘「な、なんだ…そうなのか」

橘「……」

橘(口では冗談と言っているが、よく考えると僕だって変わってるんだから、七咲も変わってるに決まってるよな…)

橘(そもそもよくわかってると言ったけど七咲と関わった期間はそんなに長くない…というより短いよな)

橘(実は七咲のこと全然わかってないんじゃ…)

七咲「先輩」

七咲「橘先輩」

橘「はっ、な、なに?」

七咲「やっぱり聞いてなかったんですか」

橘「ごめん、もう一回言ってもらっていい?」

七咲「先輩に聞きたいことがあるんです」

橘「僕に?」

七咲「はい」

七咲「ただ、こういう場で話すようなことではないので後日会ってくれませんか?」

橘「えっ…」

橘「…僕は構わないけど」

七咲「ありがとうございます」

七咲「そうだ、連絡先交換しておきませんか?郁夫とも交換したんですよね」

橘「うん、いいよ」

七咲「…完了っと、また連絡しますね」

七咲「失礼します」

――――――――――

橘「ってなことがあったんだ」

梅原「なるほどねぇ…ほい、えんがわとあまえび」

梅原「で、それの何が困ったことなんだ?」

橘「七咲が僕に聞きたいことなんて、あの時のことを…」

梅原「そんなわけねえだろ」

橘「なんでそう言い切れるんだよ」

梅原「なんとなく」

橘「お前、親友が真剣に悩んでるんだぞ」

梅原「俺の勘を信じろ」

梅原「いつ会うんだ?」

橘「明日」

梅原「へー、それで直前になって会うのが嫌になったと」

橘「そうじゃない」

梅原「じゃあどうなんだ?」

橘「何言われるんだろうって考えちゃってさ…」

香苗「こんな時間に珍しく元気な声が聞こえると思ったら、橘君が来てたのね」

橘「香苗さん」

橘「…やせたね」

香苗「あんたわざと言ってんの?」

橘「冗談だよ」

橘「二人目生まれたんだね、おめでとう」

橘「梅原も教えてくれればよかったのに」

梅原「あれ、言ってなかったか?」

橘「聞いてないよ」

梅原「見てみろ、かわいいだろー」

橘「うん、そうだね…」

ガラガラガラ

梅原「ヘイ、ラッシャイ!」

香苗「いらっしゃいませー」

女性「……」こそこそ

香苗「お客様、ケーキ屋さんでしたらそこの角を右に曲がって、3軒行ったところにありますよ」

女性「それは後で行くよ、じゃなくて今はお寿司だよ」

女性「あっ」

香苗「バレバレ」

女性「……」

梅原「どうしたの、かなちゃん?」

香苗「わかんない?桜井だよ」

桜井「か、香苗ちゃん!一応変装してるんだからさ」

梅原「おお、桜井さんか、久しぶりだな」

香苗「大丈夫、この時間は他にお客さんいないから」

桜井「えっでも…」

香苗「ほら、よく見てみなさいよ」

橘「り…梨穂子…か?」

桜井「どちら様ですか?」

橘「!?」ガーン

橘「……」ガクッ

桜井「冗談だよ、純一~」

桜井「幼馴染でしょ、忘れるわけないじゃん」

橘「本当かっ!?」

桜井「当然でしょ」

橘「本当の本当の本当に?」

桜井「どうしたの純一?しばらく会わないうちに変になった?」

梅原「こいつにもいろいろ悩みがあるんだ、適当にでも答えてやってくれ」

桜井「うーん…純一、仕事がうまくいってないのかな」

梅原「仕事はどうだろうな、毎日がんばってるみたいだけど」

桜井「じゃあ食べ過ぎて、お腹痛めたとか」

香苗「あんたじゃないんだから」

赤ちゃん「おぎゃあ!おぎゃあ!」

香苗「おーよしよし、お腹すいたの?」

香苗「あっ、ごめんね桜井、せっかく来てもらったのに」

桜井「ママさん大変だね」

桜井「しょうがないことだよ、がんばってね」

香苗「忙しいかもしれないけど、また顔出してよね」

桜井「はーい」

桜井「ねえねえ純一」

橘「ん?」

桜井「最近どうなの?」

橘「どうって…?」

桜井「なんだか元気なさそうだから仕事で失敗したのかと思って」

橘「い、いや仕事は順調だよ」

桜井「じゃあプライベート?」

橘「う、うーん…」

桜井「はっきりしないなんて純一らしくないよ」

桜井「私が協力できることなら何でもするよ」

橘「梨穂子はやさしいなあ」

橘「実は…」

橘「僕はもうだめかもしれない」

桜井「ええっ!?何があったの!」

梅原「大げさに言いすぎだ」

橘「でも可能性はあるよ」

橘「あれは復讐されるってことだろ」

梅原「…いや、どう解釈したらそうなるんだ」

桜井「えっ?えっ?よくわからないよ、どういうことなの?」

梅原「そうだな、桜井さんにもわかりやすく教えてやんねえと」

梅原「そうだな…どう言おうか…」

梅原「大将が昔捨てた女性が大将のことを忘れられずにまた会いたい…と」

橘「変なこと言うなよ」

橘「そうじゃなくてな、そのー…」

橘「久しぶりー…でもないか、えっと高校の時の後輩と会うんだよ」

橘「それだけ」

桜井「それだけ?」

橘「うん」

桜井「会えばいいじゃん」

梅原「だよなー」

桜井「純一は普段何も考えてないくせに、こういう時だけ深く考えすぎなんだよ」

橘「今ちょっとひどいこと言わなかった?」

桜井「心配しなくても、純一は誰かに恨まれたりするような人じゃないよ」

桜井「私が保証するよー」

梅原「桜井さんの言う通りだ、とりあえず会ってみろよ」

梅原「案外どうでもいいことかもしれねえぞ」

橘「だといいけどな…」

橘「……」

橘「よし、わかった…覚悟を決めるか」

翌日

上司「やあ、橘君飲みに行かんかね?」

橘「あー…すいません、この後大事な予定がありまして…」

上司「お?めずらしいね」

上司「もしかして彼女でもできたのか?」

橘「いえ、そういうわけでは」

上司「なんだ…」

上司「そうか、今日はだめなのか」

橘「すみません」

上司「はー…だめなのかー」

上司「ん?あれ?橘?」

―――――――――

橘「ここか」

橘「よし、時間ピッタリだ」

橘「危なかった、あの上司の話をあのまま聞いてたら待ち合わせに遅れるところだった」

橘「えっと、七咲は…」キョロキョロ

橘「あれ…?いないじゃないか」

橘「仕事がまだ終わってないのかな」

橘「七咲の性格だとこういう時は連絡があるはずだけど、メールも来てないし…」

橘「うーん…」

橘「仕方ない、少し待つとするか」

七咲「橘先輩っ」

橘「な、七咲…いたのか」

七咲「はい、遠くから先輩の姿を見つけたので、ちょっと隠れてみました」

橘「えっ!?」

七咲「ふふふっ、すみません」

七咲「ちょっとした冗談ですよ」

七咲「突然声をかけて、ビックリさせようと思ったんです」

橘「そうだったのか」

橘「それにしても…」

橘(スーツ姿の七咲がすごく大人っぽくて…いいな)

七咲「それにしても…何ですか?」

橘「い、いや…何でもない」

七咲「そうですか、じゃあ入りましょう」

橘「……」そわそわ

七咲「ここのお店は安いのが特徴ですが、これすごくおいしいんですよ、先輩も食べてください」

橘「あ、ああ…」

七咲「ふふっ」

橘「う、うん…おいしい」

橘「……」そわそわ

七咲「どうしたんですか?さっきから」

橘「あ、ああ…えっと…その…は、話ってのは…?」

七咲「あっそうでしたね」

七咲「橘先輩って何かほしいものはありますか?」

橘「えっ!?」

橘「ほ、ほしいもの…」

橘「急にそんなこと言われても…」

橘「どういうことなの?」

七咲「あっ、すみません、ちゃんと説明しますね」

七咲「私の会社に来月誕生日の先輩がいるんです」

七咲「その先輩が橘先輩にすごく似てるタイプと思ったんです」

七咲「だからもしかすると、ほしいものも似てるのかと思いまして」

七咲「一応その先輩には秘密なので、会社の人に相談しちゃうとバレちゃう可能性があるので橘先輩に相談したんです」

橘「あ…そ、そういうことだったんだ…」

橘「……」

橘(考えすぎだったか…)

橘(よかった…まともなことだった)

七咲「先輩?」

橘「あ…そ、そうだな…」

橘「そういうことだったら…」

橘「ネクタイピンとか名刺入れとかちょっとしたものがいいんじゃないかな?」

七咲「ネクタイピンや名刺入れですか、なるほど」

橘「その先輩がほんとにほしいかどうかは知らないけどね」

七咲「はい、ありがとうございます」

――――――――

店員「お会計が3240円です」

橘「はーい」

七咲「あっ私が出しますよ」

橘「いや、いいよ僕が出すよ」

七咲「誘ったのは私なんですから」

橘「僕一応先輩だし」

七咲「私の方が(たぶん)お金に余裕がありますよ」

橘「うっ…」

橘「な、七咲…ほんとにいらないのか?」

七咲「いいですよ、元々私が支払うつもりでしたから」

橘「でも…」

七咲「一人暮らしは大変なんですから、節約できるところは節約した方がいいですよ」

橘「それはそうだけど」

橘「僕だって」

七咲「…では橘先輩にもっと余裕ができたときにお願いします」

橘「はは…いつになるのかな…」

七咲「何年だって待ちますよ」

翌週

七咲「お店に来たはいいけど、どれがいいのかな」

塚原「あら、七咲?」

七咲「はい?」

塚原「やっぱり、久しぶりね」

七咲「あ、あの…」

塚原「何年ぶりかしら、私が高校を卒業して以来だから…」

七咲「すみません…どちら様…ですか?」

塚原「えっ…」

塚原「わ、私のこと…覚えてないの…?」

七咲「いやっ…お名前を教えていただければ…!」

塚原「高校の時同じ水泳部だった塚原響だけど…」

七咲「つっ…塚原先輩っ!?」

七咲「すみませんっ!雰囲気が全然違ったもので…!」

塚原「そんなに変わった?」

七咲「はい…塚原先輩と言われるとなんとかわかるぐらいに…」

塚原「それは悪く言われてるのかしら」

七咲「ち、違います」

七咲「高校生の時から大人っぽい塚原先輩がさらに大人の女性の雰囲気を纏ってらっしゃるので」

七咲「まるで別人みたいですし」

塚原「たしかにちょっとはイメチェンはしたかな」

七咲「ところで塚原先輩は何を買いに来たんですか?」

塚原「私はネクタイを買いに」

塚原「ちょっとプレゼントにね、七咲は?」

七咲「私も誕生日プレゼントを買いに」

塚原「もしかして彼氏かしら」

七咲「違います、会社の先輩ですよ」

七咲「普段お世話になっているので、先輩が普段でも使えそうなものを探していたんです」

塚原「ふーん…」

七咲「な、なんですかその顔…」

塚原「今の七咲の顔がね、自分の好きなことを話す子どもそっくりなのよ」

七咲「…!?」

塚原「だから私の推理ではその先輩のことが好きなのね」

七咲「それも違います!私はその先輩じゃなくて…はっ」

塚原「ふーん、そう」

塚原「冗談のつもりだったけどあなたにも好きな人がいたのね」

七咲「……」

塚原「安心した」

七咲「…?」

塚原「大きなお世話だけど七咲のこと心配してたのよ」

塚原「高校のとき見ているこっちまでつらかったもの」

塚原「何かを忘れようと必死で水泳に打ち込んでたわね」

塚原「その甲斐もあって優秀な成績だったけど、結局心の傷は隠しきれてなかった」

七咲「そんなつもりはなかったんですが、心配をおかけしてたみたいですね…」

塚原「それで…あなたの好きな人ってどんな人?」

塚原「少し興味があるわ」

七咲「…好きな人は今はいませんよ」

塚原「何かを隠してる時の子どもと一緒の顔してるわよ」

七咲「……」

七咲「少し…気になるかなって…程度です」

塚原「別に誰かに言いふらしたりしないんだから正直に言ってくれればいいのに」

―――――――――――

塚原「久しぶりに会えて楽しかったわ、じゃあね」

七咲「はい、失礼します」

七咲「……」

七咲「塚原先輩きれいだったなぁ…」

七咲「すごく大人っぽいし、うらやましい」

七咲「私なんかいまだに年齢確認されるし…」

七咲「……」

七咲「帰ろ…」

3日後

七咲(あ、時間だ、今日も終わった)

七咲「うーん…」

七咲「さて…帰る用意をして…」

七咲「お疲れ様です、失礼します」

先男1「あっ待ってくれ七咲」

七咲「はい、なんでしょう」

先男1「ちょっと話があるんだけどさ、この後時間ある?」

七咲「はい、いいですよ」

先男1「さんきゅっ、じゃあちょっと待っててくれ、すぐ用意するから」

先男1「よし、行こうか」

七咲「どこへ行くんですか?」

先男1「そうだな、ちょっとゆっくりできるとこがいいな」

七咲「……」

先男1「な、なんだよその目は」

先男1「普通の居酒屋だよ」

先男1「やらしいことなんか考えてねえって」

七咲「何も言ってませんよ」

先男1「め、目で訴えてた…」

七咲「そういうことを考えてたつもりはなかったんですが…」

七咲「先輩はそういうこと考えてたみたいですね」

七咲「会社の近くにこんなお店があったんですね、知りませんでした」

先男1「ああ、俺も最近知ったんだ」

先男1「いいところだろ?」

七咲「はい、落ち着いてて、こういうところは好きです」

先男1「おお、そうか」

先男1「お前の好きそうな店探しててよかったぜ」

―――――――――

先男1「ほんとあの時は困ったよ」

七咲「それは大変ですね」

先男1「ああ…」

先男1「……」

先男1「……」

七咲「…先輩?」

先男1「七咲…」

七咲「はい」

先男1「俺と…付き合ってくれ!」

七咲「……」

七咲「はい?」

先男1「……」

七咲「せ…先輩、ちょっと酔ってるんじゃないですか?」

七咲「明日も仕事がありますし、今日はこれぐらいにしましょ」

先男1「七咲!俺は本気だ!」バンッ

七咲「……」

七咲「…ッ」

先男1「……」

七咲「すみません…」

先男1「…!」

先男1「な…ど、どうしてだ?」

七咲「……」

七咲「き、気持ちはうれしいのですが…」

七咲「私は…その…」

七咲「……」

先男1「俺のことが嫌いなのか?」

七咲「そうじゃないです」

先男1「ほ、他に好きな人がいるとか…?」

七咲「……」

先男1「そうなのか?」

七咲「はい…」

七咲「……」

七咲「すみません…私はこれで失礼します…」

先男1「ちょっ…おい、七咲!」

先男1「あ…」

先男1「……」

翌日

七咲「おはようございます」

先男2「おはよう」

先男1「……」

七咲「あ…お、おはようございます…」

先男1「……」

先男2「ん?どうした、あいつ機嫌悪いのか?」

七咲「…いえ、わかりません」

次の日

七咲「あの、先輩」

先男1「……」ぷい

七咲「あ…」

さらに次の日

七咲「先輩、課長が頼んでいた資料を…」

先男1「……」

七咲「先輩、あの…」

さらにさらに次の日

七咲「先輩、明日の会議のことなんですが…」

先男1「……」すたすた

七咲「……」

先輩の誕生日

先男1「んじゃ、おつかれ~」

七咲「……」

七咲「あ、あの…先輩…」

どんっ

七咲「!」

先男1「……」すたすた

七咲「……」

七咲「はぁ…」

先男2「…なんか最近お前ら仲悪くね?」

七咲「…嫌われてしまったみたいですね」

先男2「なんかミスしたとか?それにしては怒りすぎなような」

先男2「何があったんだ?」

七咲「……」

七咲「私が仕事でミスをしてしまっただけです」

公園

七咲「……」キィコキィコ

七咲「はぁ…」

七咲「結局渡せなかったな…」

橘「黒」

七咲「?」

橘「もしかして、と思ったけどやっぱり七咲だったか」

七咲「橘…先輩…」

七咲「…ふっ」

七咲「痴漢ですか?」

橘「なっ、声をかけただけじゃないか」

七咲「私のスカートの中をのぞいたんじゃないですか?」

橘「言ってみただけだよ」

七咲「わかってますよ」

橘「こんなとこで何やってたんだ?」

七咲「…少し仕事のことで考え事を」

七咲「先輩こそどうしたんですか?」

七咲「今はこっちじゃないんですよね」

橘「ああ、ちょっと梅原に用事があってな」

橘「今から帰ろうと思ってたんだ」

橘「そしたら大人がブランコに乗ってるから、ちょっと見てみようと思ったら七咲がいたってわけ」

七咲「そうですか…」

橘「…七咲、何か悩んでるのか?」

橘「顔を見ればすぐにわかるよ、どうした?」

七咲「…この前、橘先輩に相談したこと覚えてますか?」

橘「あー…確か会社の先輩への誕生日プレゼントだったな」

七咲「はい」

七咲「実は今日がその先輩の誕生日だったんですが、渡せなかったんですよ…」

橘「病気とかで休んでたってわけじゃなさそうだね」

七咲「…その先輩に付き合ってくれって言われたんです」

橘「なにっ!?」

橘「そ…それで七咲はなんて…」

七咲「お断りしました」

橘(ふぅ…)

七咲「そしたら次の日から仕事のことでも口を聞いてもらえなくなってしまったんです」

七咲「……」

七咲「先輩、もしよかったらこれ受け取ってもらえませんか?」

橘「これは…」

七咲「会社の先輩に渡すつもりだったのですが、きっともう渡せそうにないので」

橘「え、いいの?」

七咲「はい、先輩さえよければ」

橘「ありがとう」

七咲「…さて、私はそろそろ帰ります」

橘「待って七咲」

七咲「はい?」

橘「…七咲…僕に…僕にもう一度だけチャンスをくれないか?」

七咲「チャンス…?」

橘「ああ、もう一度だけ、高校のときのようにやりなおさせてくれないか」

橘「僕は七咲を…」

橘「……」

七咲「先輩…」

七咲「……」

七咲「覚えてますか?」

七咲「高校のときも、もうしないって約束をしたのに破ったじゃないですか…」

橘「ああ、はっきり覚えてるよ」

七咲「もう気にしていないことと信用は別の話です…」

橘「……」

七咲「まあ…でも…その…だからといって…」

七咲「断るのも…」

七咲「もう先輩も私も大人ですし…」

七咲「高校生のときとは違うでしょうから…」

七咲「あ、でも…前科もあるわけですから…」

七咲「高校の続きから…ではなく…」

七咲「また友だちからということでしたら…チャンスを…」

橘「!」

七咲「も、もう一度だけですよ」

翌日

橘「~♪」

同僚「おっ、なんか今日機嫌いいな」

橘「そうかな?僕はいつも通りだと思うけど」

上司「おーい橘、これやっといてくれるか?」

橘「はい、わかりました」

橘「うおおおお~!」シュバババババ

同僚「お…おおっ!早えぇ!」

橘「終わりました」

上司「もう!?」

――――――――――

七咲「……」カタカタ

七咲「ふぅ、終わったぁ」

先男2「お疲れさん」

七咲「あ、お疲れ様です」

先男2「何かいいことでもあったの?」

七咲「どうしてですか?」

先男2「昨日までは何しても落ち込んだような顔してたのに、今はすごい良い顔してるから」

七咲「そうですね…いいこと…」

七咲「はい、ちょっといいことがありました」

先男2「へ~」

先男1「……」

七咲家

七咲「ただいまー」

郁夫「おかえりー」ぽちぽち

『ファル●ンパーンチ!』『ショウタイムだ』『ピカ~!』

七咲「……」

郁夫「勉強ならちゃんとやったよ」

郁夫「これ終わってからもするつもりだし」

七咲「ねえ、そのゲームっておもしろいの?」

郁夫「うん、おもしろいよ、人気もあるし」

七咲「……」

七咲「ねえ、私にもそのゲーム教えてよ」

郁夫「え?」 

七咲「ええっ!?どうしてゴリラが女の子に飛ばされちゃうのよ」

郁夫「そういうゲームだよ」

七咲「うう…もう一回!」

郁夫「別にいいけど…何回目のもう一回だよ」

……

七咲「ああっなにそれ!?」

……

七咲「今のどうやって避けるの…」

……

七咲「あっ…また負けた…」

郁夫「なんで姉ちゃんドン●ーしか使わないの?」

郁夫「そのゲームさ、純一兄ちゃんもやってるんだ」

七咲「そ、それが何?」

郁夫「次の日曜日に純一兄ちゃんのとこで遊ぶ約束してるんだ」

郁夫「姉ちゃんも一緒に行かない?」

七咲「なっ…なんで私も」

七咲「正一君とかいるじゃない」

郁夫「ああ、正一はその日無理らしいんだ」

七咲「一人で行くのが嫌なの?」

郁夫「そういうわけじゃないよ」

七咲「私が行ったら先輩驚くでしょ」

郁夫「来てほしいって言ってたよ」

七咲「……」

七咲「まあ…どうしてもって言うならついて行くぐらいいいけど」

日曜日

ピンポーン

橘「はーいはい」ガチャ

郁夫「来たよ」

橘「ああ、待ってたよ、いらっしゃい」

橘「えっ、七咲…?」

七咲「こんにちは」

橘「……」ちらっ

郁夫「……」にやっ

橘「と、とりあえず入って入って」

橘「ねえ、どうして七咲…お姉ちゃんまで来たの?」ひそひそ

郁夫「俺からのサプライズだよ」

橘「サプライズって…」

七咲「……」

橘「ちょっと待ってて、飲み物いれてくるから」

七咲「…ねえ郁夫」

郁夫「なに?」

七咲「ほんとに私が来ていいって言ってたの?」

七咲「なんだか驚いてたみたいだけど」

郁夫「ほんとに来たって喜んでるんじゃないの?」

七咲「そうなの…?」

橘「あの…今からこれやるんだけど、七咲はこういうの得意だっけ?」

七咲「最近郁夫と一緒にやってますが、まだ上手く操作ができないです」

郁夫「教えてくれって言われたときはちょっと驚いたけどね」

橘「へえ」

橘「じゃあ三人でやろうか」

郁夫「あっしまった!」

橘「どうしたの?」

郁夫「マイコントローラー忘れた」

橘「大丈夫だよ、三人分のコントローラーならあるから」

郁夫「いや、いつも使ってるやつの方がしっくりくるから」

郁夫「ちょっと取りに帰る!」

七咲「ええっそんな気軽な距離じゃないでしょ」

郁夫「急げばあまり時間もかからないからいいよ、先に二人でやってて」

橘「……」

七咲「……」

橘「郁夫君行っちゃったけど…先に二人でやる?」

七咲「そ、そうですね」

橘「……」

七咲「……」

橘(まさか僕の部屋で七咲と二人きりになるなんて…)

七咲「あの、橘先輩」

橘「!…な、なに?」

七咲「私がお邪魔して迷惑ですか?」

橘「いや、そんなことないよ!」

七咲「もしかしてですけど、私が来ること知りませんでした?」

橘「うん、ちょっとびっくりした」

七咲「やっぱり…」

七咲「すみません、橘先輩が来てほしいって言ってたって郁夫に言われたんです」

橘「郁夫君が?」

七咲「はい」

七咲「先輩の反応がおかしかったので知らなかったのかなと思ったんです」

七咲「ちゃんと郁夫を叱っておきます」

橘「いいよいいよ、こうやって七咲と二人になれたし」

七咲「え?」

橘「あっ、いやっ…あ!スキあり!」

『いくぞ!さんみいったい!』 GAME SET

七咲「ああ!ズルいですよ!先輩!」

橘「いやー、スキだらけだったもんだからつい」

七咲「むー…」

七咲「もう一度です!」

橘「ははっ、もちろんいいよ」

七咲「次は絶対負けませんからね」

橘「……」ポチポチ

七咲「……」カチャカチャ

橘「なあ、七咲」

七咲「なんですか?今ちょっと集中してて…」カチカチ

橘「そ、そうか、じゃあ終わってから言うよ」

七咲「はい」

橘「……」

七咲「……」

七咲「!」

七咲(チャンス!)

ジャキン 『あまい!』 GAME SET

七咲「今のなんですか!?」

橘「カウンターだよ」

橘「まだまだだね」

橘「でも思ってたより上手だね」

橘「CPUの一番強いのよりも強いし」

七咲「結局最後は先輩にやられちゃいますけどね…」

橘「まあ僕はこれの初代からやってるし、ちょっとは自信があるからね」

七咲「前作があったんですかこれ」

七咲「あ、そうだ」

七咲「さっき言おうとしてたことって何ですか?」

橘「ああ…そのー」

橘(七咲が別のことに集中してる時に言いたかったけど…)

橘「七咲はこのゲーム気に入った?」

七咲「はい、とても楽しいです」

橘「七咲の会社ってこの近くだったんだよね?」

七咲「そうですよ」

橘「じゃあさ、その、七咲さえよければ仕事が終わった後とかここに来て一緒にやらない?」

七咲「え?」

橘「いや、えっとゲームだけじゃなくて普通にいつでも来てくれていいし…」

橘「何だったらごはんも用意するし…泊まってくれても…」

橘「あっ泊まるって別にやらしい意味とかじゃなくて…」

七咲「クス、橘先輩って相変わらずおもしろいですね」

七咲「そんなことしたら先輩にすごい迷惑じゃないですか」

橘「そんなことないって」

橘「そうだ、ちょっと待ってて」

タタタ

橘「これを」

七咲「え?…あのこれって…」

橘「ここの合鍵」

七咲「ええっ!?ど、どうしてですか?」

七咲「さ、さすがにこれは私を信用しすぎですよ」

橘「七咲」

七咲「な…なんですか」

橘「好きだ」

七咲「!?」

七咲「ちょっ、ちょっと先輩…私の質問どこいっちゃったんですか//」

橘「どこにも行ってないよ、今のが答え」

七咲「……」

七咲「それ…本気ですか?」

橘「……」こくっ

七咲「……」

七咲「私以外にそういうこと言ってませんよね」

橘「うん」

七咲「本当ですか?」

橘「うん」

七咲「本当の本当の本当に?」

橘「うん、絶対だ」

七咲「……」

七咲「わかりました」

橘「七咲…」

七咲「先輩、勘違いしないでください」

橘「え?」

七咲「とりあえずこの鍵は預かっておきますが、まだ100%信じたわけじゃありません」

七咲「これはその…」

七咲「先輩が偏った食生活にならないようにするためや部屋を掃除するためや、私が先輩に会うために預かっておくだけですから」

橘「う、うん」

七咲「さあ、この話はここまでで、続きをやりましょう」

七咲「せめて一回ぐらい勝ちますからね」

七咲『同じ手はそう何度も受けませんよ』

橘『だったらこれでどうだ!』

七咲『まだまだ!』

郁夫「……」

郁夫「ふむ…どうやらこれ以上は進みそうにないな」

郁夫「もしかして盗聴器がバレたとか」

郁夫「…それはないか」

郁夫「もう聞いてても意味はなさそうだな」

郁夫「入るか」

ピンポーン

七咲「あ、もしかして郁夫が戻ってきたのかも」

橘「ちょっとストップ」

橘「進めちゃだめだよ」

七咲「そんなズルい手使いませんよ」

七咲「けっこう早かったわね」

郁夫「あ、ああ、かなりがんばったからね」

七咲「そのわりに全然汗かいてなくない?」

郁夫「今日けっこう寒いしな…」

橘「まあいいじゃん七咲」

橘「郁夫君もお疲れ、ジュース飲む?」

郁夫「ありがとう」

七咲「……」

バシュッ

郁夫「うわっ、姉ちゃんいつの間にそんな技覚えたの?」

七咲「ふふ、先輩に教えてもらったの」

郁夫「あれ、そんなの教えてもらってたっけ?」

橘「郁夫君がいない間に見せたんだよ」

郁夫「あ、ああー、そうだった、俺さっきまでいなかったんだ」

七咲「しっかりしなさいよね」

七咲「あれ?」

橘「ふっふー、よそ見はダメだぞ七咲」

七咲「あー先輩また!」

――――――――――

郁夫「今日はありがとう」

橘「うん、また来てね」

橘「七咲も」

七咲「はい」

七咲「失礼します」

橘「またねー」

郁夫「思ったより楽しそうだったね」

七咲「うん」

郁夫「よかったよかった」

七咲「…郁夫、先輩に私が来ること教えてなかったでしょ」

郁夫「あれ、そうだっけ」

七咲「コントローラーを忘れたってのも嘘でしょ」

郁夫「…バレてたの」

七咲「余計なことしなくてもいいのに」

郁夫「でも二人だけになれてよかったでしょ?」

七咲「……」

郁夫「ねえ」

七咲「ノーコメント」

郁夫「顔が笑ってるよ」

数日後

橘「今日もつかれたなー」

橘「なんだろ、ポストに何か入ってる」

橘「……」

橘「なんだ割引券か」

橘「ボウリングだ…最近全然行ってないし、次の休みに行ってみようかな」

橘「うん、そう考えたらすごくボウリングがしたくなってきたぞ」

ペラッ

橘「ああっ、これ二人用!?しかも男女限定…」

橘「うう…せっかくボウリングがしたくなったのに」

橘「この価格を見て、ひとりで普通にやるとすごく損する気分になるな」

橘「そうだ!」

~♪

七咲「!」

七咲(先輩からメールだ)

七咲「……」

七咲「ボウリングか…」

七咲「橘先輩と…」

七咲「……」

七咲「おもしろそう」

七咲「は・い・い・い・で・す・よっと」

七咲「ふふっ」

先男2「七咲ー!」

七咲「はいぃ!」びくっ

先男2「ど、どうしたんだ?大きい声出して」

七咲「い、いえ…少し驚いただけです」

土曜日

橘「はぁ…はぁ…」タッタッタ

七咲「あ、先輩」

橘「はぁ…はぁ…お、お待たせ…」

橘「ごめん、遅くなっちゃって…」

七咲「大丈夫ですよ、まだ約束の5分前です」

七咲「私も今来たところですし、全然待ってませんよ」

橘「ほ、ほんと…?」

七咲「はい、それよりちょっと疲れすぎじゃないですか?」

橘「ごめん、少し休ませてもらっていいかな」

七咲「先輩、どうぞ」

橘「ありがとう」

プシュッ ゴクゴク

橘「ぷはーっ」

七咲「ふふっ」

橘「どうしたの」

七咲「なんだか、高校のころを思い出しますね」

橘「そ、そうかな?」

七咲「私あの時こうやって先輩と話すのことが毎日すごく楽しみだったんです」

七咲「今日はこれを話そう、明日はあれを話そうなんてことを考えてましたよ」

橘「も、もう休憩はいいや、そろそろ行こうよ」

ボウリング場

橘「あのすいません、これ使えますか?」

店員「……」ちらっ

七咲「……」

店員「はい、使えますよ」

店員「カップル割ですね」

橘「カップル!?」

店員「あれ?間違ってます?」

橘「い、いや…その、あってます」

橘(男女限定とは書いてあったけどカップル割ってのは気がつかなかった…)

店員(もしかしてカップル割の上に書いてある男女割の方だったのかな)

七咲「ボウリングなんて久しぶりだからうまくできるかな」

橘「いつぶりなの?」

七咲「えっと最後に行ったのが大学の…」

七咲「……」

七咲「とにかく大学以来です」

橘「僕も同じようなもんだから、けっこういい勝負になるかもね」

七咲「私、そこそこ上手かったんですよ」

七咲「久しぶりとはいえ先輩には負けませんよ」

橘「そこまでいうなら勝負する?」

七咲「ええ、いいですよ」

橘「よし負けた方が…夕食をおごるってのはどうだ」

七咲「望むところです」

―――――――――

橘「うーん…」

橘「まさか全て8ピンとは…」

七咲「逆にすごいですね」

橘「褒められてる気がしない」

七咲「褒めてないですからね」

七咲「先輩、1ゲーム目は練習だったってことにしてもいいですよ」

橘「ほんと?」

橘「…いや、いい、まだこれからだ」

橘「最終的に合計で勝てばいいんだ」

七咲「わかりました、では2ゲーム目を始めましょう」

橘「よしっ」

橘「…それっ」

カコーン ストライク!

七咲「おおっ」

橘「ふふーん、どうだ七咲」

橘「勝負はこれからだぞ」

七咲「……」スッ

七咲「……」シャッ

カコーン ストライク!

七咲「そうですね、楽しみです」

――――――――――

橘「あれ?」

七咲「ダブルスコアですね」

橘「うん…」

七咲「先輩、楽しくなかったんですか?」

橘「いや、そんなことないよ」

橘「こんなに差をつけられるとは思わなかったけど…」

七咲「そんなに気を落とさないでくださいよ」

七咲「もしかしたら今日はたまたま私の調子がすごく良くて、先輩はすごく悪かったってだけかもしれませんよ」

橘「それでもこんなに差が出るかな」

七咲「そういうならまたやればわかるじゃないですか」

七咲「今度またやりましょうよ」

橘「いいの?」

七咲「橘先輩ならいいですよ」

七咲「先のこともいいですけど、今の話もしません?」

橘「今…?」

七咲「はい、夕食楽しみにしてますよ」

橘「あ…そうだったね…」

橘(どうしよう、自分から言ったのに何も考えてなかった)

橘(七咲ラーメン好きだからラーメン屋とかどうだろう)ぶつぶつ

橘(いやいや、もう高校生じゃないんだぞ)ぶつぶつ

橘(居酒屋…いや、レストランか、ちゃんとしたレストランの方が…)ぶつぶつ

七咲「それだとラーメンがいいですかね」

橘「えっ」

七咲「全部聞こえてましたよ」

橘「ラーメンでいいの?思いつかなかっただけで、別に七咲の好きなものでいいよ」

七咲「ラーメンでお願いします」

ラーメン屋

七咲「……」ズズッ

橘「……」ズズズ

橘「ふぅ、ごちそうさま」

七咲「……」ズズッ

七咲「……」

橘「?」

七咲「先輩、口の周りが汚れてますよ」

橘「え、ほんと?」

七咲「拭いてあげましょうか?」

橘「うん、お願い」

七咲「えっ、じょ、冗談で言ったに決まってるじゃないですか」

橘「なんだ…」シュン

七咲「もう…しょうがない先輩ですね」ふきふき

七咲「ごちそうさまです」

橘「よし、さっきのお返しに今度は僕が七咲の口周りを拭いてあげよう」

七咲「けっこうです」ガシッ

七咲「私は自分でできますから」

橘「そんなぁ…」

七咲「先輩は本当に変態ですね、普通は女性の口周りを拭いたりしませんよ」

橘「でも普通は男性の口周りも拭かないよね」

七咲「そ、それは先輩に頼まれたので仕方なく…」

――――――――

七咲「今日はありがとうございました、デートみたいで楽しかったですよ」

橘「僕もだよ」

橘「……」

橘「な、なあ…今度はさ、また僕の部屋に来ない?」

橘「いつ来てくれてもいいからさ」

七咲「そんなこと言うと毎週通っちゃいますよ」

橘「うん、七咲さえよければ」

七咲「!」

七咲「も、もう先輩ってば…」

七咲「じゃあ…先輩って土曜日はいつも休みですよね?」

橘「うん」

七咲「でしたら、金曜日の仕事終わりにいいですかね…?」

橘「うん、いいよ、自由に入ってくれていいから」

七咲「前も言いましたけど、私のこと信用しすぎではないですか」

七咲「私が先輩の部屋を荒らしたり、物を盗ったりするかもしれないですよ」

橘「七咲にならいいよ」

七咲「いや、それは訴えられるので私がよくないです…」

橘「じゃあ困るんだったら七咲はそういうことしないよね」

七咲「確かにしませんけど…」

七咲「私が言ってるのはもう少しやってることに自覚を持ってくださいと言っているんです」

七咲「私は安全かもしれませんが、他の人に鍵を渡してどうなっても知りませんよ」

橘「大丈夫だよ、家族以外じゃ七咲だけだから」

七咲「私だけ…ですか?」

橘「うん、だって僕は…」

~♪

橘「!」

橘「ちょ、ちょっとごめん!」

橘「はい、もしもし橘です」

橘「え?あ、あの…番号間違えてませんか?」

橘「はい…だから橘です、違いますよ…はい」プツッ

橘「間違い電話だったみたい」

七咲「だって…何ですか?」

橘「……」

橘「つ、次の金曜日待ってるね」

七咲「…はい」

翌週・金曜日

七咲(今日は残業もなく早く終われそう)

七咲(早く終わらないかな…)

七咲(…ってこれじゃまるで早く橘先輩に会いたいみたいじゃない)

七咲(…あながち間違ってないけど)

七咲(そうだ、先輩の部屋でご飯作ったら喜んでくれるかな)

七咲(先輩にメールしておこっと)

先男2「おーい七咲ー」

七咲「はいぃ!」びくっ

先男2「ど、どうしたんだ?」

七咲「いえ、ちょっとびっくりして…」

先男2「今日この後あいてるか?」

先男2「先男1が話したいことがあるんだとよ」

七咲「先輩がですか?」

先男2「ああ、そうなんだ、俺もいるけどさ」

七咲「すみません、この後約束がありまして…」

先男2「あ、そうなんだ、じゃあ仕方ねえな」

七咲「すみません…」

先男2「いや、いいよ気にしなくて」

先男2「俺もとりあえず聞く形だけとるつもりだったから」

先男2「ここ最近あいつお前のこと無視してただろ」

先男2「それなのに急に誘おうとしたから変だと思ったんだよ、断って正解だぜ」

七咲(ふぅ…今日も終わった)

~♪

七咲「……」

七咲「先輩、少し遅くなるんだ」

七咲「じゃあ先に作って待ってよっと」

七咲「あ、そうだ、食材を買っていかないと」

七咲「何作ろうかな、ふふっ」

先男2「何ぶつぶつ言ってるんだ?」

七咲「ひゃあっ!?」

七咲「もう、いきなり声をかけないでください!」

純一の部屋

七咲「……」ぺろっ

七咲「おいしいけど、先輩ってこういう味付け好きなのかな」

七咲「どういうのが好きか、もっと聞いておけばよかった」

ガチャ

七咲「あ、帰ってきた」

七咲「先輩」タタタ

七咲「おかえりなさ…」

美也「ふえ?逢ちゃん?」

七咲「み…美也ちゃん…!」

美也「どうして逢ちゃんがお兄ちゃんの部屋にいるの?」

七咲「こ、これは違うの!その…違うの!」

美也「なにがなの…?」

美也「とりあえず、一回落ち着いてよ」

七咲「うん…」

美也「とりあえず状況を整理しよう」

美也「まず逢ちゃんはここで何してたの?」

七咲「せ…先輩にごはん作ってたの」

美也「へー、どーりでいい匂いがすると思った」

美也「いつの間に二人はそんな関係になったの」

美也「全然知らなかったよ」

七咲「そ、そういう関係って…」

美也「にしししし、水臭いよ逢ちゃん」

美也「いや、そういうことならねぇねって呼ばないとね」

七咲「美也ちゃん!?」

美也「いいっていいって、もう全部わかったから」

七咲「あの、だから」

ガチャ

橘「ただいまー」

美也「あっ帰ってきたみたいだよ」

美也「ほら、ねぇね!」ぐいっ

七咲「ね、ねぇねじゃないよ、押さないで…」

トンッ

七咲「あ…」

橘「七咲、来てくれたんだ」

七咲「おかえりなさい…」

橘「なんか、新鮮だな、七咲にそう言われるなんて」

橘「おっ、いい匂いがするぞ」

七咲「あ…せ、先輩のために作ってたんですよ」

橘「メールもらったときからさ、ずっとそれを楽しみにしてたんだよ」

七咲「先輩…」

橘「七咲の料理はなにかなー」

美也「カーット!」

橘「美也!?」

美也「にぃに、せっかくちょっといい雰囲気になったんだから、料理はなにかなーはないでしょ」

橘「にぃにって言うな…」

橘「だいたいなんで美也が」

美也「ねぇねもだよ」

橘「ねぇね…?」

七咲「ねぇねじゃないってば…」

美也「そこは『ごはんにする?お風呂にする?それとも…わ・た・し?』ぐらい言わないと」

七咲「美也ちゃん…それは…」

橘「美也!僕の話を聞け!」

美也「なに?」

橘「なに?じゃないだろ、なんでここにいるんだ」

美也「今日行くって連絡してたじゃん」

橘「え?いつ?」

美也「今日の夕方ごろ」

橘「……」

橘「あ、ほんとだ」

美也「逢ちゃんが大切なのはわかるけど、妹のことも忘れないでよね」

橘「た、たまたま仕事が忙しくて見れてなかっただけだって」

橘「来るとは書いてあるけど、理由が…ん?なんだこのにおい…」

七咲「あっ!火をつけっぱなし!」

ジュー

七咲「あ…」

七咲「先輩、すみません!」

橘「ちょっと見せて」

七咲「はい…」

橘「……」ぱくっ

橘「うん、おいしい」

七咲「先輩!?だめですよ、そんな失敗したの食べちゃ」

橘「いやー、お腹へってたし、つい」

橘「でもほんとにおいしいし、全然失敗してないよ」

七咲「橘先輩ったら…」

美也「コホン」

美也「お二人さん、みゃーもいることをお忘れでは?」

橘「あっ…」

七咲「わ、わかってるよ美也ちゃん」

美也「はぁ…用が終わったらすぐ帰るから」

美也「そのあとで二人だけで楽しんで」

七咲「楽しむって…」

美也「お兄ちゃん、貸してた漫画とDVD返して」

橘「あ、うん」

美也「元々返してもらったらすぐ帰るつもりだったけど、思わぬ収穫があったよ」

美也「それじゃあ二人とも、まったねー」

美也「おっとそうだ、にぃに」ちょいちょい

橘「なんだよ」

美也「にしし、いいこと教えてあげる、耳貸して」

美也「……」ごにょごにょ

橘「あ…う、うん…」

美也「じゃあがんばってねー」

バタン

橘「……」

七咲「……」

橘「ごめんね」

七咲「先輩は何も謝ることないですよ」

七咲「というより、美也ちゃんにも謝られるようなことされてないです」

七咲「美也ちゃんがいい子だってことがわかりましたし」

橘「えっ、今ので?」

七咲「また新しくごはん作り直しますから、先輩はその間にお風呂にでも入って待っててください」

橘「いいの?」

七咲「先輩のお家なんですから、何も遠慮することないじゃないですか」

橘「いや、先に七咲が入らなくていいのかなって思って」

七咲「私はいいですよ」

七咲「先輩がいいって言ってくれるなら構いませんが、そうじゃないならこのままの方が帰りやすいですから」

橘「いいって何が?」

七咲「お泊りですよ」

橘「うん、全然いいよ」

七咲「っ…そんなあっさり…」

橘「前言ったじゃん、泊まってくれてもいいって」

七咲「あれはてっきり冗談かと…」

七咲「……」

七咲「そういうことでしたら、お言葉に甘えさせてもらいます」

橘「じゃあお風呂は先に入っていいよ」

橘「その間に僕がごはん作っておくから」

七咲「えっ先輩がですか?」

橘「これでも大学から一人暮らししてるんだ、ある程度のものなら作れるよ」

七咲「わかりました、お願いしますね」

橘「任しといて」

七咲「あっ」

七咲「先輩、すみませんが服を貸していただけませんか?」

橘「ああ、そうか」

橘「僕のでよければ、ちょっと大きいかもしれないけど」

七咲「せ、先輩のですか」

七咲「……」

橘「やっぱり嫌かな…?」

七咲「いえいえ!そんなことありません!」

橘「それなら…よかった」

―――――――――

ちゃぷっ

七咲「ふぅ…」

七咲「泊まらせてもらうことになったけど、先輩は本当はどう思ってるんだろ」

七咲「案外先輩の計画通りだったりして」

七咲「……」

七咲「高校のときよりも関係は進んだのかな…」

七咲「先輩の家に泊めてもらうなんてなかったし」

七咲「先輩とふたりきりか…」

七咲「先輩と…」ぶくぶく

七咲「……//」

ジャバッ

七咲「ぷはあっ!な、何考えてるの私は…!」

七咲「一回冷静にならないと…」

七咲「……」

七咲「あっ!下着どうしよ…」

―――――――――――

七咲「お風呂お先でした」

橘「僕の服大きすぎないかな?」

七咲「少しすーすー…ぶかぶかですが、大丈夫です」

橘「よかった、ごはんもできたし食べよ」

七咲「先輩はお風呂入らないんですか?」

橘「僕は食べた後でいいよ」

橘「七咲と一緒に食べたいしね」

七咲「そうですね、それだと目の前で先輩の料理の感想言えますからね」

橘「今日のは自信作だから、いい感想が聞けると思うよ」

七咲「……」もぐもぐ

橘「どうかな?」

七咲「おいしいですよ」

橘「ほんと、やった~」

七咲「先輩が作るってなったときはどうなるかと思いましたがね」

橘「おいおい、ひどいな」

七咲「冗談ですよ」

七咲「今はもう先輩のこと信じてますから」

――――――――

七咲「ごちそうさまでした」

七咲「後片付けは私がやりますよ」

橘「いいよ、七咲はお客さんなんだからゆっくりしてて」

七咲「そういうわけにはいきませんよ」

七咲「先輩はお風呂行ってください」

七咲「帰ってきてからそのままじゃないですか」

七咲「今日は私がいるんですから、私ができることは何でも任せてください」

橘「んー…そういうことならお願いしようかな、よろしくね」

七咲「はい」

―――――――

橘「……」

橘「よく考えたら…これはすごいことなんじゃないか」

橘「このお風呂に七咲が入ったんだよな」

橘「採取するか」

橘「って、何やってるんだ」

橘「そんなことはもう大学に入ってやめたじゃないか」

橘「…少し落ち着いたぞ、考えてみれば採取して飾ったところで何の意味もないじゃないか」

橘「飲むだけにしておこう」

ガンッ

橘「僕は何も成長していないのか…!」

橘「大人になれ!橘純一!」

七咲「先輩、大丈夫ですか?」

七咲「すごい音しましたけど」

橘「あ、ああ、気にしないで」

橘「ちょっとすべって頭をぶつけただけだから」

七咲「もう…しっかりしてくださいよ」

七咲「怪我してませんか?」

橘「うん、なんともないよ」

橘「七咲はほんと、くつろいでていいから」

―――――――

橘「今日のお風呂は僕が生きてきた人生の中で最高のお風呂だった」

七咲「…相変わらずの変態ですね」

橘「い、いや、そういう意味じゃなくて」

七咲「他にどういう意味があって言ったのか知りたいですね」

橘「ないです…」

七咲「でも、先輩は高校の時のままで少しうらやましいです」

橘「そんな、僕がまるで成長していないみたいじゃないか」

七咲「…あまり変わってないように思えますが」

橘「こう見えてもちゃんと成長してるんだよ」

橘「……」キリッ

七咲「……」

橘「……」キリッ

七咲「どこがですか?」

橘「ひどいっ」がくっ

七咲「冗談ですよ、ただ私がしてるのは成長の話ではなくてですね…」

橘「七咲だって案外成長していないかもしれないじゃないか」

橘「その服の下に水着着てたりして、見ていい?」

七咲「き、着てるわけないに決まってるじゃないですか!!見ていいわけないでしょ!!」

橘「ご…ごめんなさい」

橘「あの、でももう夜だし、周りにも迷惑かかっちゃうからもうちょっと静かにね…」

七咲「すっ…すみません!つい…」

七咲「……」

橘「……」

七咲「あの、先輩…」

七咲「すみません、大きな声を出して」

橘「僕の方こそ変なこと言ってごめん」

七咲「……」

橘「…そうだ、軽く飲まない?」

橘「それで楽しい話をしよう」

七咲「楽しい話ってどういう話ですか?」

橘「そうだな、最近のテレビのことだったり、普段の会社でのことだったり」

七咲「会社の話はあまり楽しいとは思えませんが」

橘「あー…そうだね、会社の話はなしだな」

橘「七咲は大晦日に何の番組をみてた?」

七咲「郁夫と一緒にお笑いを見てました」

橘「もしかして、出演者は笑っちゃうとお尻を叩かれちゃうあれかな」

七咲「はい、そうです」

橘「やっぱり、僕も見てたよ」

七咲「私もうずっと笑っちゃってました」

橘「どこが特におもしろかった?」

七咲「そうですね、プレイボーイ医師が車から降りたら落とし穴に落ちるところですかね」

七咲「あれもうずっと笑っちゃって」

橘「あそこか、あれは確かにおもしろかったな」

橘「休日に出かけたりしないのなら、服とかはあまり買ったりしてないの?」

七咲「いえ、休日に出かけないだけで、そういう買い物は仕事終わりにしてます」

七咲「ただ、残業なんかで帰るのが遅くなると閉まっちゃうお店もありますから、けっこう日が限られるんですよね」

橘「さっきの休日の過ごし方もだけど、七咲って意外とのんびりしてるんだね」

橘「高校の時はかなりしっかりした子だったからちょっと驚いたよ」

七咲「そういう人は嫌いですか?」

橘「いや、そんなことないよ」

七咲「高校や大学のときはいろいろ目標なんかがありましたから、普段の生活も充実してたんです」

橘「今は?」

七咲「今は寝て起きて、会社に行って、ただひたすら仕事をして、家に帰って…」

七咲「毎日何の変化もなく、それを繰り返してるだけですからね」

七咲「休みの日には何か新しいことをしようなんて元気もなかったんです」

橘(七咲も大変なんだな…)

橘(せめて僕がやさしくしてあげないと)

橘「七咲、ビールがもうないよ、ほら」

七咲「すみません、ありがとうございます」

橘「おつまみもまだまだあるから遠慮しないで」

橘「そうだ、肩もんであげようか?」

七咲「どうしたんですか?なんか変ですよ」

七咲「まさかもう酔ったんですか」

橘「いや全然」

橘「僕はいつもこうだよ」

七咲「それもそうですね」

七咲「じゃあお願いしてもいいですか?」

七咲「肩、もんでくれるんですよね」

橘「うん、任せてよ」

1時間後

七咲「……」うとうと

橘「七咲、七咲」とんとん

七咲「ふぇ…しぇんぱい…?」

橘「こんなところで寝たら風邪ひくよ」

橘「ほら、ベッドそこだから」

七咲「はーい」

橘(七咲って酔うとこんな感じになるのか、普段とのギャップというか…これはこれでかわいいな)

七咲「あれ、しぇんぱいはねにゃいんですか?」

橘「ああ、片づけたら寝るよ」

七咲「はやくしてくだしゃいねー」

橘「さてと、僕もそろそろ寝るかな」

七咲「しぇーんぱい」ばたばた

橘「あれ、まだ寝てなかったの?」

橘「もう電気消すよ」

七咲「はーい」

橘「じゃあおやすみ」

七咲「あれー、べっどここですよー」

橘「うん、七咲はそこで寝ていいよ、僕はこっちの布団で寝るから」

七咲「いっしょにねましょーよ」ぽんぽん

橘「いやいやいや、それはだめだよ」

七咲「いーじゃないですかー、わたしのおねがいきいてくだしゃいよー」

橘「だ、だからだめだってば」

七咲「しぇんぱいがこにゃいなら、わたしがそっちいきますよ」ごろん

橘「あの…七咲、一応わかってると思うけど、僕たちはもう高校生じゃなくて大人なんだよ」

橘「その二人が同じ布団で寝るっていうのはよくないと思うんだよね」

橘「あ、高校生ならいいってわけでもないけど…」

橘「それに、ま、まだそういう関係じゃないし…」

七咲「しぇんいはわたしとねるのいやですか?」

橘「嫌じゃないよ、むしろ寝たい…けど」

七咲「じゃー、きまりですね」ぐいっ

橘「わっ」すてんっ

七咲「たちばなしぇんぱい」

橘「な…なに…?」

七咲「わたし、しぇんぱいのことだいしゅきですから、なにされてもかまいませんよ」

橘「!?」

橘「な、七咲…ちょっとさすがに」

七咲「……」

橘「七咲?」

七咲「すー…すー…」

翌日

七咲「……」パチッ

七咲「……」むくっ

七咲「んーっ…」

七咲「うー…もうこんな時間…」

七咲「!?」

橘「ぐー…ぐー…」

七咲「えっ…せん…え、ちょっと…え?」

七咲「どうして私が先輩と…」

七咲「たしか昨日…」

七咲「あれ、思い出せない…」

橘「ぐー…」

七咲「……」

七咲「まさかとは思いますけど…」

七咲「そんな…嘘ですよね?先輩…」

七咲「た、ただ隣で寝てただけですよね?」

七咲「何も…なかった…ですよね?」

七咲「私としては別に先輩なら何かあったとしても…じゃなくて!」

橘「うーん…」ごろん

七咲「ひゃあっ!…って寝返りか…」

――――――――

橘「ふわわわー」

橘「よく寝た」

七咲「お…おはようございます先輩」

橘「ああ、おはよう」

七咲「も、もうお昼ですけど、朝食できてます」

橘「おお、ありがとう!」

橘「悪いね、ごはん作ってもらって」

七咲「泊めていただいたので、これぐらいは」

橘「そんなことぐらい全然気にしないでいいよ、僕は七咲の新しい一面が見れておもしろかったし」

七咲「え…そ、その…私昨日何かご迷惑をお掛けしたりは…してないですかね?」

七咲「えっと、あまり覚えてなくて…」

橘「迷惑…ってほどでもないけど、七咲って意外とああいう面もあるんだね」

七咲(聞きたいような、聞きたくないような…)

七咲(酔って変なことしたとか…)

橘「全然眠れなかったよ」

七咲「ね、眠れなかった…」

橘「結局そのまま寝ちゃったんだけどね」

橘「えっと…その、かわいかったよ」

七咲「!?」

七咲「せ、先輩、そんな…//」

橘「僕の袖をつかんだまま、全然離してくれなかったから移動もできなかったんだよね」

七咲「え?」

七咲「袖を…ですか?」

橘「うん」

七咲「そ、そうですか」

七咲「変なことは言ってませんでした?」

橘「変なことか…」

橘「……」

橘(七咲「わたし、しぇんぱいのことだいしゅきですから、なにされてもかまいませんよ」)

橘「いっ…言ってなかったと思うよ」

七咲「よかった…」ほっ

橘「なあ、後でどこか出かけないか?」

七咲「はい、いいです…あっ」

七咲(そういえば私今下に何も…)

七咲(その状態で外を歩き回るなんてとてもじゃないけど)

七咲(出かけた先で新しいのを買えば)

七咲(でもそれはリスクが)

七咲(あっ)

七咲「あの、私今ある服が昨日来てたスーツだけで出かける服がないんですよ」

七咲「正直スーツは好きじゃないので、あれで歩き回るのはちょっと…」

橘「そうなんだ」

七咲「すみません…」

橘「いいっていいって、僕の方こそごめんね」

橘「七咲に合うサイズの服を持っていればよかったんだけど」

七咲「それは持ってたらおかしいです」

ピー ピー

橘「あれ、洗濯機の音」

橘「洗濯もしてくれてたの?」

七咲「はい」

七咲「それじゃあ外に干してきますね」

シュババッ

七咲(先輩の洗濯物は干し終わったから、後は私のだけ」

七咲「そうだ」

七咲「先輩、ドライヤーお借りしますね」

橘「うん」

七咲「ありがとうございます」

橘「……」

橘「ドライヤー?」

橘「何に使うんだろ」

橘「七咲のことだから何か家事の裏技的なことかな」

橘「今後のために僕も教えてもらおう」

七咲「時間はかかるだろうけど、少しでも早く乾かさないと」ゴォー

橘「七咲ー」ガチャ

七咲「っへぇ…っ!?」

橘「何してるの?」

七咲「い、いや、これはその…」

七咲「せ…先輩こそどうしたんですか//」

橘「ドライヤー使うって言ってたから何か家事の裏技とかやるのかなと思って」

橘「顔赤いけど、大丈夫?」

七咲「だっ、大丈夫ですから!」

七咲「あっち行っててください!」

橘「う、うん」

橘「うーむ、七咲何してたんだろ」

橘「顔も赤かったし、ちょっと心配だな」

橘「こっそり覗いてみるか」

橘「……」

七咲「……」ゴォー

橘(何かを乾かしてる…?)

七咲「ふぅよかった、こんなところ先輩に見られたらどう思われることか…」

橘(なんだなんだ?気になるぞ)

七咲「これはだいたい乾いたかな」

七咲「こっちも乾かさないと」

橘「!?」

橘(あ、あれはまさか七咲の…!)

橘(まあたしかに男の一人暮らしの僕の部屋に七咲の下着が干してあったら変に思われるよな)

橘(そうか、七咲そんなことまで考えてくれてたのか)

七咲「よしっこれなら着れるかな」

七咲「……」ぬぎっ

橘「えっ」がたっ

七咲「!」びくっ

橘「……」

七咲「……」

七咲「……//」

七咲「……///」ぷるぷる

橘「は…ははっ…」

七咲「先輩の変態っ!」

七咲「……」

橘「ごめんって、機嫌直してくれよ」

橘「結果的には覗きになってしまったかもしれないけど、そういうつもりじゃなかったんだ」

橘「僕はただ、七咲がちょっと心配だったから」

七咲「心配?」

橘「うん、一回目に見たときはなんだか顔が赤かったからさ」

七咲「……」

橘「見たっていっても背中だけだし、部活の時はいつも見せてたじゃないか」

七咲「あれは見せるためじゃありません」

七咲「…まあいいですよ」

七咲「元々は用意できてなかった私が悪いですから」

橘「よかった~」

橘「ん?待てよ」

橘「着替え分がなくて乾かしてたのなら、さっきまでの七咲って…」

七咲「な、なんですか…」

橘「というより昨日お風呂に入ってからか」

橘「そこからずっと…」

七咲「な、なに想像してるんですか!」



七咲「もうこんな時間…」

七咲「私そろそろ帰ります」

橘「駅まで送るよ」

橘「ついでにコンビニにも行きたいし」

七咲「はい、じゃあお願いしますね」

橘「やっぱりこの時間はかなり寒いな」

七咲「そうですね」

七咲「寒いからってこたつに入ったまま寝ちゃだめですよ」

橘「それは七咲のことじゃないか」

七咲「そうでしたっけ、忘れました」

橘「僕は七咲の普段の生活が心配だよ」

七咲「先輩に心配されるなんてちょっとショックです」

橘「ええっどういう意味だよ」

七咲「冗談ですよ、ありがとうございます」

七咲「やっぱり先輩はやさしいですね」

橘「それはまあ…心配するぐらい当たり前だから」

七咲「もう駅に着いちゃいましたね」

橘「ん?ああ、そうだね」

七咲「不思議ですね、楽しい時間ほど短く感じてしまうなんて」

橘「そうだな、僕はもっと七咲と話していたいもん」

七咲「はい、私もです」

七咲「来週もまた来ていいですか?」

橘「もちろんだよ」

橘「次は着替えを忘れずにな」

七咲「また泊まりですか?」

橘「あれ、嫌だった?」

七咲「先輩がエッチなことをしようとしなければ問題ないんですがね」

橘「僕は何もしてないよ」

七咲「ふふっ」

七咲「それじゃあ失礼します」

3日後

プルルルルル

橘「はい、橘です」

七咲「もしもし七咲です」

橘「おお、七咲か、ちょうどよかった」

七咲「ちょうどいい?」

橘「うん、僕も七咲に電話しようと思ってたところなんだ」

七咲「そうだったんですか」

橘「あ、七咲から話してよ、かけてきたのはそっちだし」

七咲「はい、いいですよ」

七咲「あまり大したことじゃないですけど、私が今度会社のプロジェクトのリーダーに任されまして」

橘「おお、すごいじゃないか」

七咲「その…先輩に一番に伝えておきたいと思って」

橘「僕に…?」

七咲「はい」

橘「そっか…」

橘「……」

七咲「先輩?」

橘「よし」

橘「そういうことならお祝いしないとな」

七咲「お祝いですか!?」

七咲「で、でもまだやったわけでもなく、決まっただけですよ」

七咲「それに言いましたけど、大したことじゃないですし…」

橘「でもそれで電話してきたんでしょ?」

七咲「まあ…はい…その、先輩に褒めてほしくて…」

七咲「もう、そんなこと言わせないでください」

橘「直接会って話もしたいってのもあるんだけどね」

七咲「そういうことでしたら、はい、お願いします」

橘「日付は、そうだな…」

橘「今週の木曜日なんてどうだろ、平日だけどさ」

七咲「今週の木曜日ですか…」

橘「うん、無理…かな?」

七咲「いえ、ではその日で」

橘「詳しいことはまたメールするから」

七咲「それで先輩の用は何なんですか?」

橘「え、僕?」

七咲「ちょうど電話をしようと思ってたって言ったじゃないですか」

橘「ああ、そうだった」

橘「いやー、なんていうか七咲と話したいなと思ってて」

七咲「?」

七咲「どうしたんですか、なんか変ですよ」

橘「変ってそんなことないよ、僕はいつも通りだよ」

木曜日

七咲「先輩!」

七咲「すみません、お待たせしました」

橘「いやいや、全然待ってないよ」

橘「まだ時間にも余裕があるし」

七咲「あの、ここいつもの場所と違いますよね」

橘「うん、そうだね」

七咲「そうだねって…」

橘「まあ僕に任せてよ」

七咲「はい…」

店員「いらっしゃいませ」

橘「予約してた橘です」

店員「お待ちしておりました、こちらへどうぞ」

七咲「……」

七咲「ちょっと先輩、ここ高そうですけど、大丈夫なんですか」ひそひそ

橘「たしかに僕は高い所はちょっと苦手だけど…」

七咲「それは高所ですよね、私が言ってるのはお金のことです」

橘「ああ、僕だってちゃんと考えてるから」

七咲「それならいいですけど…」

―――――――

橘「どうだった?」

七咲「とてもおいしかったです」

七咲「でもちょっと意外です、先輩にこういったところに連れて来ていただけるなんて」

七咲「静かで、先輩とだけとの空間で…橘先輩にしてはおしゃれですね」

橘「だって今日は特別な日だろ」

七咲「特別…?な、何かありましたっけ」

店員「失礼します」

店員「どうぞ」

七咲「ケーキ…」

七咲「あの、先輩もしかして…」

橘「僕こういう経験ないからさ、上手く言えないけど…」

橘「でも七咲の誕生日はお祝いしたいなと思って」

七咲「知ってたんですか、私の誕生日」

橘「うん、おせっかいな妹が教えてくれたよ」

七咲「美也ちゃんが、そうですか」

橘「それとこれも、開けてみて」

七咲「あ…きれい…」

七咲「いいんですか、こんなものもらっちゃって」

橘「七咲のために買ったんだから」

橘「誕生日おめでとう七咲」

七咲「ありがとうございます、大事にしますね」

橘「それと…その…」

橘「これは七咲さえよければ…なんだけど…」

橘「えっと…」

橘(ここでハッキリ言わないと…!)

七咲「?」

橘「来年もこうやって七咲の隣で一緒に祝わせてくれないか」

七咲「橘先輩…」

橘「……」

七咲「来年だけ…ですか?」

橘「そ、その…とりあえず」

七咲「私は来年も再来年もその先もずっと先輩といたいです」

七咲「先輩…私はずっと…あの時から…」

橘「……」

七咲「大好きです、だから私の彼氏になってください」

橘「あっ…その…」

七咲「……」

橘「まさか七咲から言われるなんて…」

橘「ほんとは今日僕から言おうと思ったのに」

七咲「先輩がハッキリしないからですよ」

七咲「でも私はそんな先輩が好きなんです」

橘「ははっ…そうか…」

橘「僕も七咲のことが一番好きだ、偽りないよ」

橘「僕を七咲の彼氏にしてほしい」

橘「本当は高校生のうちに言っておきたかったんだけど…」

橘「バカだな僕は…あんなことして」

七咲「あの時は約束破りましたよね、今度は信じてますからね」

橘「うん」

橘「七咲」

七咲「はい」

橘「……」ぐいっ

橘「……」

七咲「あっ…」

七咲「先輩…」

橘「これからもよろしくな」

七咲「はいっ」

数年後

橘「……」

ガチャ

逢「純一さん、朝ですよ、起きてください」

逢「今日は遊園地に行く日でしょ」

橘「うーん…逢がおはようのキスしてくれたら起きるかも」

逢「もう、しょうがない人ですね」

逢「……」チュッ

橘「……」もぞもぞ

橘「……」がしっ ぐいっ

逢「えっ!?きゃっ」

逢「やっ、ちょっ…じゅんいちさ…あんっ」

女の子「パパおっきろー!」

男の子「おきろー」

逢「!?」

橘「!」

男の子「あれ?ママもねてるのー?」

逢「お、起きてるよ、パパももうすぐ起きるからあっち行ってなさい」

女の子「はーい」

男の子「はーい」

逢「もうっ」ペシッ

橘「いたっ」

逢「あなたはほんとに変わらないんだから」

橘「逢だって変わってないじゃないか」

逢「純一さんに合わせてるんです」

逢「さぁ、早く準備しましょ、子どもたちが待ってますよ」

橘「うん」

逢「……」

逢「ねえ純一さん」

橘「なに?」

逢「大きな子どもが一人に小さな子どもが二人」

逢「毎日が大変ですけど、私とっても幸せですよ」

終わり

書き忘れてた
先男1はストーカーにするつもりだったけど書き方がわかんなかった
ちょっと中途半端なキャラになってしまいました

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