ガール「あたし思い出がないの」(22)

あたしのおうちはお父さんもお母さんも仕事が忙しいの

だからあたしが休みの日でも二人は仕事だから遠くへ行ったことなんかない。

それに友達もいなかったの、運動も下手だし頭もよくない、それにおしゃべりが凄くへたで話し出すと思ったことをいっちゃうから

誰かと放課後に遊んだこともなかったし、学校の遠足でも一人だった。

だからずっとゲームばっかりやってたのゲームの中の人はおしゃべりがへたでも

無視したりいなくなったりしないから。

「ねえ、どうしたの~?」

あたしの正面にいるのは、運動も勉強もできていつも明るくておもしろいから、女の子にも男の子にも人気のある子

どうしてあたしなんかとしゃべってくれているかというと、彼女もあたしと同じゲームが好きだから。

そしてゲームだけはあたしの方が上手いからだと思う。

今日は彼女から預かったモンスターを育ててあげたから返す為に、このハンバーグ屋さんで待ち合わせたの。

普通にあたしのモンスターをあげてもいいんだけど、それじゃあ言うことを聞かずゲームの役にたたない。

でも預かったモンスターなら元々は彼女のモンスターだから言うことを聞く。やってることは育て屋さんみたいだ。

「うっわ~すげ~ピヨピヨがレベル100になってる。ほんとうにありがとう」

彼女が嬉しそうに跳び跳ねている。ここまで喜んでくれるとあたしも嬉しいけどお店の中では騒がないでほしいと思った。

「うれしいなあ、何かお礼をさせてよ」

「あ、いや、えっと...そんなのは別にいらないわ」

「何でもいいんだよ、何かしてほしいこととかないの?」

友達になってほしい。といいたかったけど、なんだか恥ずかしくていえない。

「うーん...その...」

「そうだ!きみは思い出がないだよね?」

え?声が出そうになった、心を読まれたの?じゃあ友達になってほしいとかも知って...?

「この前の『たのしかった思い出』っていう宿題の作文、きみだけ出してなくて怒られてたよね?そのまま発表もしなかったからもしかしてって思ってね」

なんだ心を読まれた訳じゃないのか...よかったと思ったのと同時に少し変な気持ちになった。

あたしのことを見ていてくれて嬉しいとか友達になってほしいという思いが伝わってないことへのがっかりとかそういう気持ちがごちゃ混ぜになってるんだと思う。

「うん、あたし思い出がないの」

「そっかあよかった、あっ違うの思い出がなくてとかじゃなくて、きみの役に立てるのがよくて」

ぶんぶんと手と顔をふって否定している。同じ女の子だけどかわいいと思った。

「よしモンスターと同じように、きみのむかしを明日まで預かるよ、思い出を増やして返すから」

そういうと彼女は飲みかけのコーラをつかんで店を走っていった。彼女は二つの謎とあたしを残して出ていった。

一つは彼女の言っていたこと、思い出を増やす?どういうことだろうかまったくわからない。

もう一つはどうして騒がしくしていたのは彼女なのに避難の目があたしに向けられるんだろうということ。

次の朝になっても謎は解決しなかった、それどころか謎は増えていた。

「どうしたの?なんか嬉しいことでもあったの?思い出し笑いなんかして、はやく朝御飯食べなきゃ学校に遅れるわよ」

そういってお母さんはあたしの髪を撫でて家をでた。

たぶんあったんだと思う。それも小学校1年の時にあったということになっているようだ。

遠足の班分けの時に近所に住む男の子に声をかけて、一緒に遠足に行って。

もちろんそれも嬉しかったんだけど、男の子とその友達もあたしと遊んでくれて

夏には男の子のお父さんの車で海にもつれてもらった...みたい。

変な事いってるのはわかっているし、説明も下手だけどあたしがうめれなかった頭のなかの空欄に思い出が書き込まれたみたいだった。

「もしかして、嫌だったかな?」

そこまで話すと彼女は心配そうに首を傾げて問いかけてきた

「ううん、そんなわけないよ、楽しい夢を思い出しているみたい。ありがとう。」

「よかったよ、君が喜んでくれてわたしもうれしいよ。時間が足りなくて1年生の時しかできなかったから」

「もしかして今日もあなたに預けたら2年生の時の思い出も増やしてくれるの?」

「もちろん!君が喜んでくれるなら喜んでやらせてもらうよ」

「お願い、こんな素敵な夢なかなかみれないもの」

「うーん夢とは違うんだけどな、じゃあまた預かるよ」

そういうと彼女はいつもいる女子の仲良しグループの方へと帰っていった。

「へえ珍しいな、お前とあいつがしゃべるなんて」

増やしてもらった思い出に出てきた男の子が話しかけてきた。

夢じゃないってそういうことなのね。

次の朝、昨日まで影も形も無かった猫に顔を踏まれて目を覚ました。

なーなーと朝ごはんを要求する声に答えて、あたしの体が知らないはずの戸棚から知らないはずのペットフードをとりだして、いつものように与えたようだ。

この知らない猫をあたしは覚えている、2年生の時に捨てれているのを見て見ぬふりしたあの子猫だ。

本当のあたしが見捨てたあとすぐにいなくなっていて、カラスに食べられたと噂になったあの子をあたしは救ったんだ。あたらしい方の思い出は。

最初は両親ともに反対されて、学校に頼んで校内で飼える人を探させてもらったけど見つからなくて、あたしが面倒を見るという条件で飼わせてもらったようだ。

最近ではちょっと太りすぎているが健康にふてぶてしく育ってくれた。

「よかったよ!君が猫嫌いじゃなくて、どうしても見捨てられなかったんだ」

「あたしも本当はあの子を助けたかったから、ほんとうにありがとう」

「いやいや、君のむかしはフリースペースが多いからやれることが多くてこっちも楽しいんだ。それで...もしよかったらなんだけど」

「去年と今年の分でしょ?こっちからお願いしたいくらいよ!」

「うん!任しておいて」

次の朝、目覚めはいつにも増してよかったが太ももの筋肉痛が気になった。

もう一つの思い出のあたしはバスケットクラブに入っていた。思い出のなかに彼女が現れて、彼女もバスケットをやっている事を思い出した。

最初の方は体力的にも全く練習について行けなかったけど次第に体やボールが思うように

動かせるようになっていったのはとても楽しかったし皆も認めていってくれるのが嬉しかった。

あたしは彼女と同じグループで皆と同じようにしゃべれるようになっていた。

家への帰り道で二人きりになった頃、彼女が話し出した。

「強引な勧誘だったかな?」

「かなり強引だよ、うそ。今日も楽しかった。最高だったよ!」

あはははっと二人で笑いあった。

「あたし、君に会えてよかった、改めて言わせてよ。ありがとう」

「うんうんよかったよ!これからは自分で思い出をつくれるだろう?」

「うん!あなたのおかげでわかったの自分から行動しないとって、あたし!あなたみたいになれたもの」

「...うん...うんそうだよね。あ、わたしこっちだから、じゃあまたね」

一瞬だけ悲しそうな顔に見えたけどすぐにいつもみたいに彼女は笑って見せた。

目が覚めた。









全身が痛い。










息をしようとするけどうまくいかない。

やっと泣き止んだお母さんが四日前に起きたことを教えてくれた。

ハンバーガ屋さんに二人で向かっていたあたしと彼女は信号を無視した車にひかれた。

彼女は別の遠い病院に運ばれていって。

わたしの方は内蔵の一部がつぶれていて普通だったら助からなかったんだって。

でも近くにぐうぜんドナーがいたから助かった。

お母さんのいっていることはほとんどが本当だと思う。

ほとんど。

ゲームの中には彼女から預かったモンスターが寂しそうに火を吹いていた。

おわり

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