【ミリマス】歌織「霧の濃い山道」 (58)



これは私、桜守歌織がとあるイベントに出演させて頂いた帰りのことなんです。

ちょっと山奥の方の村でのイベントに
出演をして欲しいなんて依頼があったんですよ。


村おこしのために町内会が一生懸命考えて予算を組んで、
それでとうとううちの事務所へ連絡をしてきたんです。


一体どこで765プロの、しかも立ち上げたばかりだという39プロジェクトの
噂を聞きつけたのかなんて私には分かりませんが。
もちろんプロデューサーは立ち上げたばかりの39プロジェクトのためにも、
小さい仕事からコツコツとやっていきたいという重いからこの依頼を受けます。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1528375069


イベントの当日の朝、
プロデューサーが借りてきたレンタカーで移動するのに
事務所の前に集まったんです。

車での移動は3時間超。
高速道路の追い越し車線を飛ばして走っても
それくらいの移動時間でした。


会場に着く頃にはプロデューサーはぐったりとしていましたが、
なんとか楽屋での打ち合わせを終わらせ、本番まで待つことに。



イベントの内容は至ってごく普通の内容でした。

司会者と呼ばれるイベント主催者が登壇し、
次々と催し物をステージで行っていきます。

町内会の演奏会。
老人ホームのハーモニカの演奏。
近隣の中学校のダンス部によりダンスパフォーマンス。
そして、トリを飾るのは東京から呼んだというアイドル、私でした。


会場には町内の人が出店している屋台が並び
淡いお祭りのちょうちんの光を灯し、
香ばしい匂いを放つ。

こういった屋台を見て回る経験があまりないもので、
プロデューサーにお願いして許可を貰った時は本当に嬉しかったものです。

「1,000円までだぞ」

「もう、子供扱いしないでください!」

なんて会話までして、私浮かれていたんです。



ステージはトークに歌、MCを挟んでまた歌。
会場いっぱいに流れるようにしてくれたおかげもあり、
ステージ前にはどんどん人が溢れかえる。

私のステージはというと……。
そこそこでした。

いきなり東京からアイドルが来て、
歌を披露されても、よっぽど地元の慣れ親しんだ
同級生がダンスを披露している方が盛り上がっているように感じました。

ですが、そこは私もプロですから、
意地と根性と持ち前の歌唱力でなんとか会場を
歌で圧倒してみせることができました。



イベント自体は大成功に終えることができたと思います。
依頼主の方はもうそれはそれは喜んでくれていて、
お酒の勢いもあって私のCDが出たら100枚は買うと言っていました。

もうすっかり日もくれて撤収作業に入ろうとした時に
プロデューサーに1本の電話が入るんです。
プロデューサーが慌てた様子でその電話に出るのを見ました。



「はい、はい……ええっ!?じゃあ今からですか!?」

「いやでも今日はみんなで打ち上げの約束があって。
いや、……はい。わかりました。それは……そうですね」



プロデューサーは電話を切って私の方を見て言います。



「これから戻らなくちゃいけなくなった」

「え!今からですか?」



辺りはガヤガヤと撤収作業をする中で立ち止まる私たち2人。
そんな中、様子を伺いながら話しかけてきたのは中年の女性でした。
30半ばくらいの。
ステージをする前や空いている時間に
良く話しかけてきてくれた女性でした。


お仕事は機材のレンタルをされているということで
今回のお祭りのようなセットも
ほとんどがこの女性の会社から借りてきているものでした。


その女性は
「今日はお世話になりました」と
「またどこかで機会があればよろしくお願いします」
ということで挨拶をして先に帰っていきました。


どこまでの移動距離かは分からないけれど、
あの人も今から帰るんだ、
私はそう思いながら彼女が車で去っていくのを見ました。



「今から戻るって言ってももう10時ですよ」

「明日、別の仕事で呼び出されていて
早朝からその人のところで打ち合わせなんだ」


早朝の会議は死んでも遅刻できない。
ある歌の歌詞が頭をよぎる。



「分かりました。私も運転協力するので一緒に頑張って帰りましょう」


本当は行きの車の中でも色々話していたけれど、
今日は泊りがけで朝になってから帰る、というようなプランで
今日の夜はホテルで2人で晩酌をしようなんて話をしていたんです。
だから少し楽しみにしすぎていたこともあって、
この時は本当にショックでした。


でもお仕事ですから、仕方ありません。


帰り支度をする私達に町内会の、
ステージで司会をしていたおじさんが近寄ってきて
「もう帰るのかい?」と訪ねてきます。


私達は「急な用事ができたので帰らないといけなくなりました」と
簡単に事情を説明しました。
すると、ここまで色々とやってくれたお礼に教えてくれたんです。


「今日は本当はもう朝になってから帰った方がいいくらいなんだけどね。
なんてったって今日は連休の最終日だろう?
下道も高速道路も帰る人達で混雑していると思うよ」



しかし、それでも高速道路を使って帰る他、
方法がないと思っていた私達に
少し酔っ払って気分のよくなった
依頼主だったおじさんの一人が話しかけてきます。


「裏の山道があるじゃないか。あそこなら地元の人がよく使う道路だし
なによりも一本道でずーーっと下って先までいけるよ」


そういって私達の眼の前で口論を始めるんです。



「いやあの道は暗いし霧がでる。一本道だけど、
急いでて脱輪でもしたら、中々人が来ないから大変だぞ」


「急いで帰るんならあの道を通るのが一番だね。
 別に何も高速道路みたいに車飛ばして行くこともないだろうよ」


私はそのおじさんたちのやり取りを聞いて

「山道の方で行きますので道を教えていただけますか?」

「歌織さん、いいんですか?」



「ええ、少しでも急いだ方がいいでしょうし。
今日のお仕事も色々お疲れでしょうから
最初は私が運転しますよ。
だからちょっと休んでいてください」


そう言って私はそこの人から道を教えてもらいました。
それから車で出発して教えてもらった通りに運転すること30分。



「嘘つき……」





横でいびきをかきながら爆睡するプロデューサー。
ひどい人……と思いながらも
今日までのお仕事をたくさん頑張ってくれたんだ。


それに、少しだけご褒美にプロデューサーの
寝顔なんて見れちゃったりして……。



ところが、教えられた道をずーっと運転していると
案の定、だんだん霧が出てくるんです。



ライトで道を照らしても、
ほんの数メートル先しか見えないんです。

暗い夜道の中でだんだん山の方に入っていくんです。
カーブが多くて中々油断できず、慎重に車を走らせます。


最初の方は楽しくおしゃべりしていたけれど、
だんだん話すこともなくなってラジオを付けていました。

でも、プロデューサーも寝てしまい、ラジオに耳を傾けながら
目線はライトが照らし出す道をじーっと見ていました。




すると、ラジオの方が音がおかしくなってきたんです。

山道を走っていますから仕方ないか、とも思ったんですが、
これが不気味で……。


ザザーーーー……キュ……キュギュ……ザーーー。



車内に響くのはこのラジオの雑音、
ワイパーが時々ウインウインと目の前を横切る音。
そしてエンジン音とプロデューサーのいびき。




だんだん暗い夜道を走っていると不安になってきたんです。
ラジオはずっと雑音を流しているばかりで。
だから私はとうとうラジオをオフにしました。



この道で合ってるよね。他に道はなかったよね。

たしかこの一本続く道をずっと登ったり降りたりをすれば、
大きな片側三車線ほどの道路に急に出るらしい。

山道では時々舗装されていない道が曲れる道として出てくるけれど、
教えられたのはこの舗装された道路をずっとまっすぐ。

だからずっとまっすぐ運転しているけれど、暗い。

前が見えづらい。



濃い霧の中をずーっと運転していると、ライトが照らす先に
ぼんやりと何か大きなものが道に落ちてたんです。



なんだろう?



そう思いながらも車はすーーーっと近づいていきます。
だんだん近づいてきて形がわかったんですけど、車だったんです。

逆さにひっくり返った車が道にあったんですよ。




うわ、なんだろう? なんでこんなところでひっくり返ってるの?



そう思ってゆっくり近づいていったんです。
近くに別の車がないので単独事故でひっくり返っちゃったのかな?
運転手はどこにいるんだろう?



派手にひっくり返ったその車はシーンとしているんですよ。
私こういう時どうしても正義心が働いちゃって
もしまだ中にいるのなら助けなくちゃ……って思ったんです。



だから私、車のヘッドライトを点けたままにして
車から降りて、横転したその車に近づいていったんです。


横で寝ていたプロデューサーは起こすのはやっぱり可哀想かな
という同情心が生まれて起こさないでいました。


暗い道の中で照らし出された横転した車に
ゆっくり近づいていって……

「あの~……大丈夫ですか?」

返事がない。



「誰かいますか?」



何度か声をかけました。
でも返事はないんです。


それでも声をかけながら車の周りをぐるぐると回り、
車の損傷を見ていったんです。

ガソリンが漏れているということはなかったけれど、
車体はべっこりと凹んでいて傷だらけになっていました。



呼んでも呼んでも返事が返ってこないもんだから
もうあとから来た車に乗せてもらって、
この事故を起こした車は置いて行っちゃったのだろうか。

そんなことも考えました。



フロントガラスはひび割れていて
ひびの模様で中がどうなっているのかなんてわからないんです。


運転席の方を覗いても同じ用にひびが大きく入っていてわからないんです。
でも運転席の窓から覗いたら何かあるんですよ。



腹ばいになるような……ちょうど匍匐前進みたいな格好ですよね。
どうせこの山道、誰もこないからスカートだったけど、そんな格好で覗いたんです。




何かがあるんです。



だからポケットに入れていたスマホを手に持って、
そのスマホの角で窓を叩くようにしたんです。

ほとんどひび割れていたもんですから
簡単にぼろぼろと割れていったんです。




乗ってきた車のヘッドライトで照らし出しているとは言え、
逆光になっていて見えづらいんです。

だから別のライトで……と思って
今度はその自分のスマホのライトで照らしたんです。




照らし出すと目の前に女の人の顔があったんです。








声にならない悲鳴をあげました。


その女の人、運転席にシートベルトをしたままの状態だったんです。
ようするに、逆さまになっているんです。


女の人だったんで長い髪の毛がだらーんと下に下がっていて、
まだ生暖かい血がだらだらと流れているんです。

ひと目でわかりました。死んでいると。



う……いやだなぁ……。


って思ったんですけれど、良く見るとこの人……
さっきのイベント会場で私達よりも先に会場を出た
機材レンタルの会社の人だったんです。


ああ、ご愁傷様です……という悔やまれる苦い思いの中で、
腹ばいになっていたのから立ち上がるんです。


それで気がついたんです。

そうか、事故で亡くなっているなら私が
第一発券者になるわけだから、
通報しないわけにはいかないなあって。



いやだなぁ、って早く帰りたいのに。
という思いから警察に電話をするんです。


警察にはその場所がどこかわからないものですから、
教えられた道をこうやって教えられてそのまま走ってきたんです。

という風に話をすると、「ああ、わかりました」と簡単に言ったんです。


それから「現場を確保しておいてください」というんです。


「え?」



この現場に残っていろ、

という警察からの指示だったんです。
私もうその時には携帯から電話もしていたし、
自分のことも名乗っていたものだから、
今からここを離れて逃げ出すことも出来なくなっていたんです。


ああ、また失敗したなぁ……って思いながら
プロデューサーをとりあえず、
もうしょうがないから起こしにいこうと思ったんです。




そしたら携帯のバイブの音がするんですよ。



ブーーー……。

ブーーー……。



もちろん私はスマホは手に持っていますし、違います。

これが……ひっくり返った車の中から聞こえるんです。




早く鳴り止めばいいのに。と私は正直思ってしまいました。
私が出るわけにはいかないし、
第一に、この女の人がどこに携帯をしまっているかはわからない。

だから電話に出るとしたら、またあの車を覗くしかない。


でも携帯は未だに鳴り止まないでずーーーっと鳴っているんです。



ブーーー……。

ブーーー……。



私はいい加減、この音にうじうじするのもオロオロするのも嫌になって
とうとうもう一度腹ばいになって車を覗いたんです。


それにこんな夜中にこんな風に
出るまで電話を鳴らしている人は親しい人間か
親か……それくらいだろうし、
亡くなっていることを報告してあげなくてはと思ったんです。



亡くなった女の人にかかってきていた電話で、
薄暗い車の中で髪の毛が逆さになった女の死に顔の奥で
ぼんやり携帯が光っているんです。


垂れ下がった髪の毛には血が滴っていて、
私は袖をぐいっとまくって腕を車の中につっこみました。




湿った女の髪をかき分けてぐーーーっと奥に手を入れました。


腕にはぽた……ぽた……と血が垂れてきているのが分かり、
ぽた……と腕に付く度にびくびくしていました。



もしかしたらこの女の人がまだ生きていて急にがばっと
こっちを見てこないか、とか。

携帯を取り出した瞬間に腕を掴まれないか、とか。

今こうしている腕がもっと奥から何かに掴まれたりしないか。


いやな妄想ばかりが広がりながらも、
携帯を掴んだんです。



その瞬間、いやぁなぬめりとした感触も一緒にしたんですが……。

私はいっきに携帯電話を引っこ抜いて
横転した車の横に立ち上がり電話に出ました。


「もしもし……」




相手は男性の声でした。
すごく焦ったように電話をしてきたようでした。


「もしもし!? えっ、あなた誰ですか!?」

「あ、えっと私は桜守歌織といいます……」




そうしたら、この電話の奥の男性はありえないことを言うんです。




「今、電話がかかってきたから折返したんですけど」

「えっ」




電話がかかってきた?
だから、折り返した?

今というのがこの人が事故に遭う前のこと?
そう思ったんですけれど、


「ほんの1分ほど前です」


電話がかかってくる前の1分間といえば、
ちょうど私が車の中を覗いているくらいの時間……。



ありえない。




だって、この人は既に亡くなっていて、
電話は確かに血でぬめっと湿っていたけれど、
それでも電話をかけることなんて不可能……。


あまりの出来事に気が動転した私は
うまいことしゃべることもできずにいました。
するとこの電話口の男性も何かを察したのか


「あの……彼女、電話に出してください。電話変わってください!」


そう言うんですよ。



「えっ」

だって、もうこの女の人はなく鳴っていて変わったって喋られる訳がない。

そんなことできない。
それに死んだ女の人の顔を
また近くで見なくちゃいけないというのも嫌でした。


男性はだんだん激しく
「お願いします!ほんの少しだけでいいんで!」
そう声を荒げて私に言いました。




私はもうこの人の気の済むようにしてあげようと思い、
その拾った携帯を死体の顔に近づけました。

暗い山道でその携帯の光が車の中を少しだけ照らしています。



しばらくの沈黙のあとで聞こえるんです。



「……うん……うん」


……?






「……うん……で、……うん」

…………え?なんで?




警察に電話をして現場を確保しろと言われて
仕方ないからこの場所に残っているけれど、
この間誰も通らないんです。


耳に入ってくる音と言えば、
風の音、木々が揺れる音。それくらい。




そして、携帯電話の向こう側のあの男性が喋っている声。





「……うん……、そう……うん」

喋っている……!?
どうして!?


嘘……ありえない。


だって今私が電話を近づけている”それ”は
もう死んでいるのに……会話なんてできるはずがない!


ありえない……。



私が今手に持っている携帯に、
この死んだ女性は話をしているの?

そんな訳……ありえない。



しばらく男性は誰かの話を一生懸命聞くみたいに

「うん……うん」と相槌をうっていました。




それからしばらくして静かになったところで
ようやく私は自分の耳にその拾った電話をあてました。


「あの……もしもし」




そう声をかけると男性は少し穏やかな声色で



「ありがとうございます。そうですか。
彼女、死んだんですね」



そう言って、また一言お礼を言って電話は切れました。
その頃になってちょうど救急隊のサイレンが聞こえてきました。



なんの騒ぎか慌てて起きたプロデューサーを尻目に
私は救急隊の人に説明をしました。


「この人さっきまで生きていたんです……」


車のドアをこじ開けて死体の彼女を
中から引きずり出して、彼女の容態を確認している救急隊が
私に残念そうに言いました。



「いえ、死後、最低でも1時間以上経過しています」





その事件から一週間ほど経ったある日、
私は遅くまで事務所のみんなとレッスンをしていました。

白石紬ちゃんは私のその話を聞いて
心底ドン引きしていました。


「……さ、さすが歌織さん」


夜中のレッスンが終わってこれから夜道を帰ろうという
ところにそんな話をしたものだから
怒りたいけど、歳の差で怒れないといった
微妙な表情をしながらそう言っていました。



その時、私の電話に知らない番号がかかってきました。

何故か紬ちゃんは
「なんで知らない番号から電話がかかってくるんですか?」
というような顔で引いていました。

ちょっと紬ちゃんとは関係修復には難しいかもしれない、
なんて思いながら私はとりあえず電話に出ました。


紬ちゃんは
「なんで知らない人の番号に出られるんですか」
と言いたげだったけど。



「もしもし?」


電話口はしばらくの無言のあと



ザーーー……ザザー……。




というどこかで聞いた雑音のあとで一言だけボソッと

「ありがとう」

と聞こえて電話が切れました。



それがなんのありがとうだったのか、
いったいどこの誰のありがとうなのかは
今となっては分からないままです。



おしまい

何気に凄く肝が座ってるな歌織先生、親父さんの影響かな?
乙です

>>1
桜守歌織(23)An
http://i.imgur.com/ah2Judv.png
http://i.imgur.com/91iWXcZ.png

>>50
白石紬(17)Fa
http://i.imgur.com/McbwTmk.png
http://i.imgur.com/8jTfNea.png


お疲れ様です。

普段はあほな話を毎日書き続けて1年以上経過してたりします。
そちらもよろしくお願いします。

【ミリマス】恵美「Pと兄貴と妹馬鹿」その3【日刊】
【ミリマス】恵美「Pと兄貴と妹馬鹿」その3【日刊】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1523515313/)


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