恭介「どうすりゃいいんだ……」 (134)



食堂

ガヤガヤ……

来ヶ谷「そういえば美魚君。昨日撮っていた写真だが……」

美魚「ええ、整理がつき次第皆さんに配布しようかと」

鈴「謙吾、おかずなくなった」

謙吾「またか?よく考えずに食うからだ……ほれ、一切れだけだぞ」

真人「あ、俺も……」

謙吾「貴様は米だけでも食えるだろーが!」

理樹(いつものようにリトルバスターズのメンバーでささやかな朝食を済ませている最中、それは何の前触れもなく発表された)

恭介「あっ、そうだ。この間、商店街で草野球をしてる知り合いのおっさんと話が弾んでさ、2週間後にそこのチームと試合する事になったぞ!

理樹「………!?」

理樹(朝食の味噌汁がもう少しで口から溢れる所だった)

ガタッ

クド「わ、わふー!?」

葉留佳「し、試合ですカ!?」

来ヶ谷「はっはっはっ。相変わらず気が早いな恭介氏は」

小毬「ほぇ~練習頑張らなきゃ」

謙吾「ちょっと待てっ!最近あまり練習してなかったくないか!?」

理樹「く、草野球チームって事はずっとやってる人達って事でしょ!?勝てる訳がない!」

真人「つーか恭介就活の方はいいのかよ?」

美魚「骨は拾います」

鈴「また勝手に決めてきたなバカ兄貴は」

恭介「ははっ!実戦こそ一番の練習さ。それにみんな運動神経いいんだから大丈夫だろ。多分いけるって」

理樹(僕を含めたリトバスメンバーから総ツッコミを受ける恭介だったが、それをサラリと交わした)

キーンコーン

恭介「おっと、もうこんな時間か。じゃあさっそく放課後練習だからよろしく」

理樹(そう言うだけ言うと恭介は颯爽とその場を去った)

全員「「「……………………」」」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1526824487

放課後

グラウンド

理樹(実は冗談でした。と言う事はなく、練習は始まった)

恭介「よし!じゃあいつものように鈴はピッチャー、理樹は打席に入ってくれ」

真人「マジで試合するんだな…別にいいけどよぉ……」

理樹「恭介、こうなったら是が非でもやり遂げるからね……ある意味凄いよ」





カキーンッ

理樹「ふふっ、まだまだ甘い球だよ鈴……」

鈴「にゃにぃ…!?ならこれでどうだー!」

バシュッ

鈴「あっ!」

理樹「!」

理樹(その時、鈴が放った球は力み過ぎてすっぽ抜けたのかストライクゾーンから大きく離れて僕の方へ向かってきた)

鈴「危ない、理樹!」

理樹(鈴の制球力に安心しきっていたせいか避けるタイミングを完全に忘れていた)

理樹「やばっ……」

ゴンッ

鈴「理樹!!」

クド「わ、わふ!?どうしたんですか!」

恭介「理樹が球を頭にぶつけた!」

理樹(………………………)

ダダダッ

真人「どうした!大丈夫か理樹!」

理樹「う、うーん……」

理樹(なんだか凄く頭が痛い……なんだ、真人が僕を抱えている……?)

恭介「良かった!意識はあるみたいだ……」

鈴「す、すまん……わざとじゃないんだ…」

理樹「な、なんの話……?」

理樹(よく見てみるとみんな体操服に着替えてグローブを持っていた。今、野球の練習をしていたのか……?)

謙吾「ううむ……やはり意識が朦朧としているらしいな……真人」

真人「ああ、一応このまま保健室に連れて行こう」

鈴「あたしも付いていく!」

理樹「ううん………」

理樹(そ、そうか……確か試合に向けて練習してたんだっけ……確か学校の各部長らを集めたチームと……)

…………………………………………



………………………



……

グラウンド

真人「ただいまー」

恭介「おう、それでどうだった?」

真人「しばらく安静にしてたら問題ねえってさ。だから今は部屋で休ませてる」

来ヶ谷「して鈴君は?」

真人「あー鈴が理樹を連れて行ってる。もう少ししたら戻るってさ」



理樹部屋

理樹「ありがと鈴…」

鈴「いや、あたしが悪いんだから当然だ」

理樹(そう言って濡れたタオルを絞る鈴に僕は自ずと惹かれていった。昔はよく恭介達と一緒に男の子みたいにはしゃぎ遊んでいた鈴がこうも健気な姿を見せると、そのギャップがとても可愛らしかった。まさかこうして僕と付き合うことになるなんて)

理樹「………」

理樹(思わず頭のひりつく痛みも忘れて鈴の頬を手で撫でた)

鈴「!?」

ダッ

理樹(すると鈴はビックリしたのか慌てて後ろに飛び退いた)

鈴「き、急になんだ理樹!」

理樹(思っても見なかった反応に少し傷ついた)

理樹「えっ……いや、ただ可愛いなと思って……ごめん。驚かせたよね」

鈴「なぁーー!?」

理樹(そういうと鈴はみるみるうちに顔を真っ赤にさせていった)

鈴「お、お前!なに言ってるのか分かってるのか!?」

理樹「えっ?ま、まあ……」

理樹(そんなに恥ずかしい台詞だったかな?それとも鈴はそういう事はまだ慣れてないだけとか?)

鈴「こ、こういうこと理樹にあんまり言いたくないけどな……急に触るな!きしょい!」

理樹「じゃあゆっくりだったらいい?」

鈴「それもダメだ!」

理樹(どうもガードが固い。付き合ってるんだからちょっとくらいいいのに)

理樹「僕らの仲じゃないか…」

鈴「じゃーお前は真人がお前に急にベタベタしたらどう思うんだ!」

理樹「うっ…」

理樹(一瞬、頬を染めて僕の頬を触る真人の光景が浮かび、鳥肌が立った)

理樹「い、いやそれとこれとは違うでしょ!」

鈴「一緒だ!」

理樹「いやいや…だって僕らは付き合ってるじゃないか」

鈴「……ん?」

理樹「えっ?」

鈴「な、なに言ってるんだ理樹……?」

理樹「いや、どうもこうも……ハッ!」

理樹(ま、まさか……もう僕とはやっていけないと暗に言っているのか!?急に調子に乗ってあんなスキンシップを取ったあまりに……)

鈴「あ、あたし達はそんな関係じゃない……だろ…?」

理樹「そ、そんな……」

理樹("もう"そんな関係じゃないだって____!?)

理樹「グスッ………」

鈴「!?」

理樹「ご、ごめん…鈴……」

理樹(情けないとは思っていても涙が自然と目から顎へ伝っていった。それらは止まることなく、むしろ勢いを加速させた)

鈴「な、なんで泣くんだ理樹!」

理樹「だ……だって……ちょっと触っただけで…そんなに嫌われるなんて思ってなくて……」

理樹(こんな形であっさりと終わるとは思っていなかった。これから恭介になんて言えば……)

鈴「あ………」

理樹「ごめん鈴……ちょっと……ちょっとだけ一人にさせて……」

鈴「……………」

理樹(……もう考えることも嫌になってきた。とりあえず寝よう。二度と起きたくもないけど)

鈴「ち、ちょっと……だけなら別に……」

理樹「えっ?」

鈴「ちょっとだけだったら別にいい。……理樹だけだぞ」


グラウンド

恭介「遅いな鈴の奴……」

謙吾「ふっ、今頃、鈴の看病効果で理樹と良い感じになっていたりしてな」

恭介「まさか!まあ、兄としては鈴と理樹が付き合ったとしたらそれはそれで嬉しいが……はたしてキッカケもなしにそんな上手く事が進むものかね」

謙吾「"あっち"じゃお前がキッカケを作ったしな」

恭介「あそこで起こったことは言わない約束だろ!」


……………………………………………………………………


理樹「えっ……?」

理樹(思わず自分の耳を疑った。もはや全てを拒絶され、生涯僕の心のいばらとして想いを馳せる存在であり続けるのであろうと思っていた鈴が、僕に今……)

鈴「別に理樹は嫌いじゃない……それに今回はあたしが悪かったし……ええと…だから、理樹がそのままだとあたしも悲しい」

理樹「鈴!」

理樹(その時、僕はやっと鈴に許されたことを知った。正直言って、鈴が嫌がっているのであればもういきなりそういう事をしようなんて思わないが、今はどうしようもなく鈴を思いっきり抱きしめたい衝動に抗えなかった。変な意味ではなく、ただ鈴が愛おしかったのだ!)

ギューッ

鈴「うあっ」

理樹「鈴!」

鈴「り、理樹!別にいいとは言ったが……」

理樹「好きだ!大好きだ!もうこれからは気をつけるよ!だからこれからもずっと一緒にいよう!」

鈴「ふにゃ……!」

鈴「そ、それって………」

理樹「いつか……今はまだ早いにしても、ここを出て、仕事を見つけたらきっと必ず結婚しよう!」

鈴「け、け、けっ!!」

理樹(鈴の顔が耳まで赤くなった)

鈴「もう良いだろ!」

理樹(鈴はそう言って僕の抱擁から離れた)

理樹「あ、ああ……ごめん」

鈴「れ、練習行ってくる!」

理樹(自分のグローブを慌てて引っ掴むと素早くドアの方まで行ってしまった。そしてそのまま出て行くかと思いきや、クルッと僕の方へ向き直り、聞こえるか聞こえないかギリギリの声でこう呟いた)

鈴「………待ってる」

バタンッ!



理樹部屋

真人「具合の方はどうだー?」

理樹「えへへ…………大丈夫……」

理樹(その日はずっと幸福感に包まれていた。頭の痛さなんてもはや擦り傷ほども感じなかった。想い人にプロポーズし、それを受け入れられる。果たして人生でここまで報われる事があろうか?いいや、ない)

理樹「おやすみ~」

真人「おやす……グゥ」

理樹(明日は一緒にお昼を食べよう。そう誓いながら今日も夜は更けていく)



………………………………………


……………………


……

次の日



理樹部屋

理樹「グッ………!?」

理樹(その日の朝、僕はとんでもない頭痛に起こされた)

理樹「あ……あああ!!」

真人「どうした理樹!」

理樹(真人が心配したのか慌ててベッドから飛び起きて僕の側についた)

理樹「痛っ……頭が痛い!」

理樹(痛すぎて何も考えられない。まるで脳の血管に小さな針が流れ込んできたかのような鋭い痛みが駆け巡ってきた)

真人「ど、どうする!救急車を呼ぼうか……」

理樹(あと数秒でもこれが続くと僕はどうにかなってしまうだろう。そう思ったその時だった)

キンッ

理樹「ハッ……!」

真人「お……おい、どうしたんだよ?」

理樹「い、いや……」

理樹(嘘のように痛みが取れた。それも徐々に____ではなく、本当に最初からそんなものが無かったかのように)

理樹「……っつつ」

理樹(だけどその痛みの原因である頭の部分を触るとやっぱり少し痛かった……盛り上がりからして小さなタンコブが出来ていたようだ)

理樹「こ、これは……?」

真人「うわっ、タンコブになってるじゃねえか!また同じところぶつけたのか?」

理樹「え?ああ…うん。多分そう……かな?」

理樹(なるほど、おそらく寝ている間に頭を打ってタンコブが出来たんだろう。しかし何故真人は"またぶつけた"なんて言うんだ?別にここ最近ぶつけた覚えなんてないけど………)

真人「大丈夫かよ…不安なら保健室に……」

理樹「いやもう痛みはないから大丈夫」

真人「そうかぁ?」

理樹「本当に大丈夫だから。………あっ、そうだった」

理樹(慌てて携帯を開いた。まだ午前7時、葉留佳さんとのモーニングコールはまだ間に合いそうだ)

プルルルルッ


……………………………………………………


葉留佳部屋

プルルルルッ

葉留佳「んぁ……?」

プルルルルッ

葉留佳「にゃんだぁ?こんな朝っぱらから電話する人は……?」


……………………………………………………

ガチャッ

葉留佳『ふぁい……もしもし……?』

理樹(さっきまで眠っていたのがよく分かる声が聞こえた)

理樹「おはよ~モーニングコールだよっ」

葉留佳『えっ…あっ…り、理樹君?』

理樹(声の主が分かった途端、慌てて声の調子を整える咳が聞こえた)

理樹「ふふっ、起きた?」

葉留佳『ど、ど、ど、どうしたのいきなり!?』

理樹(びっくりして寝ぼけているのか、『あれから』僕らが交わした約束をすっかり忘れているらしい。口調もいつものものではなくすっかり真面目っぽい)

理樹「はははっ。もう、葉留佳さんが言ったんじゃないか」

葉留佳『えっ、なにを?』

理樹「ほら、僕ら付き合ったんだし朝はお互いのモーニングコールで起こし合おうって」

葉留佳『…………はぇ?』

頭をぶつけたショックで理樹はあの世界で鈴と付き合っていた過去と今を混合してしまっていた!
しかし次の日、理樹はまた謎の頭痛を食らい、今度は今を『葉留佳の願いを叶えた次の日』と思い込むようになる!
果たして理樹はどうしてしまったのか!

続く!(∵)

葉留佳『……え、ええと……なんて?』

理樹「だからモーニングコールだって。付き合ってそうそうこんなんじゃ二木さんに告げ口しちゃうよ~?」

理樹(少し意地悪な口調で言うと、それがよっぽど怖かったのか電話口でも分かるくらい動揺していた)

葉留佳『んなっ!え、え、えー!!?』

理樹「あははっ。冗談だよ…それじゃまた食堂…」

プツッ

理樹「ありゃ……」

理樹(電話が切れた。いったいなにがあったのだろう)

真人「おーいまだかよ理樹~」

理樹「あ、ごめん。今行くよ」



食堂

理樹(真人と食堂に行くと鈴が僕の元へ駆け寄ってきた)

鈴「あっ、理樹!」

理樹「やあ、おはよう鈴。どうかした?」

鈴「んーん」

理樹(そう言うと鈴は黙って僕の後ろにぴったり付いた)

真人「おーおー……」

理樹(その様子を見て真人が何か意味ありげな声を漏らす)

理樹「な、なにさ……」

真人「いーや別に」


……………………………

理樹(いつもの端っこのテーブルでは既にみんな席に座っていた)

恭介「おっす。おはようさん」

理樹「おはよ~」

真人「ういーっす」

鈴「ん」

クド「ぐっどもーにんぐなのです!」

小毬「おはよ~ございま~す」

葉留佳「お、おはよ……」

来ヶ谷「ん、おはよう」

理樹(みんながいつも通りご飯を食べている中、一人だけぎこちなく箸を動かしている人がいた)

理樹「ふふ……」

真人「よし、じゃあこっち座るか理樹」

鈴「待て、今日はあたしが理樹の隣に座る」

真人「ふっ……しょうがねえなぁ……」

恭介「今日はモテモテだな理樹!……ってあれ、どこ行った?」

理樹(葉留佳さんは僕が隣に座ってもまだ振り向いてくれなかった)

理樹「おはよ、葉留佳さん」

葉留佳「うん……」

理樹「もう、どうしたのさ。いつもの葉留佳さんらしくないよ?」

理樹(付き合ったばかりだからか妙に緊張しているようだ。こんなしおらしい葉留佳さんを見るのは初めてだ。なんだか、新鮮でとても可愛い)

葉留佳「だ、だって理樹君が急に変なこと言うからですヨ……付き合ってるとか…そういう冗談……」

理樹「えっ!」

理樹(どうやら葉留佳さんはさっき電話で言った冗談っていうのを変に誤解していたようだ)

理樹「あ、あはは!なに言ってるのさ!付き合う事自体は冗談でもなんでもないよ。葉留佳さんと離れるなんて考えられないよ」

理樹(みんなに聞かれるといじられそうなので最後の部分は耳打ちするように言った)

葉留佳「!!!」

鈴おい真人……なんで理樹が葉留佳と一緒に食べてるんだ?」

真人「俺にもさっぱり。……っていうか顔が怖えぞ鈴!」

葉留佳「い、今の言葉本当……?」

理樹「そりゃまあ」

理樹(本当も何も既に僕らは付き合っていたものかと思っていたが……)

葉留佳「う、うえぇぇ………」

理樹「!?」

来ヶ谷「どうした!」

恭介「ん?」

理樹(その時、葉留佳さんが急に涙をポロポロとこぼし始めた。あまりに突然の事だった)

クド「わ、わふー!?な、なにかありましたか!?」

美魚「直枝さん………」

理樹「ぼ、僕!?」

葉留佳「うへへ……グスッ……いや……ごめん、なんでも……ぐふっ……」

小毬「な、泣きながら笑ってるの?」

鈴「ど、どーゆー事だ真人!?」

真人「だから俺に聞くなって」

理樹「と、とりあえず外に出る!?」

葉留佳「ズビッ……うん……」

理樹(ギャラリーが増える前にそそくさと葉留佳さんの腕を支えながら裏庭の方に行った)

……………………………

…………………




裏庭

理樹(ベンチに座って葉留佳さんが話を出来る状態になるまでしばらく待った)

理樹「葉留佳さん……」

葉留佳「え、えへへ……ごめんね…急に泣き出しちゃって…」

理樹(葉留佳さんは目を袖で擦るといつものような笑顔を僕に向けてくれた)

理樹「いや、そんな……」

葉留佳「あははっ、そっかぁ……私達、付き合ったんだね。はるちんちょっとお馬鹿だから気付いてなかったですヨ!」

理樹「葉留佳さんは馬鹿じゃないよ」

葉留佳「へへっ……」

理樹「……………」

理樹(僕は葉留佳さんが完全に落ち着くのを確認すると、なんとなく葉留佳さんの綺麗な髪をもてあそんだ)

葉留佳「ふふっ……」

理樹(葉留佳さんは黙ってされるがままに目を閉じた。それにしても葉留佳さんの髪はやはり柑橘系の良い香りがするな)

理樹「綺麗な髪だ」

葉留佳「もっと褒めて~……」

理樹「ふふっ、欲しがりだな。葉留佳さんは」

理樹(しばらく頭を撫で続けると次は頬を撫でる事にした)

理樹「………」

葉留佳「………」

理樹(すると葉留佳さんが目を開け、お互いじっと見つめる形になった。それと同時にこれはまずいな、と素直に感じ取った)

葉留佳「理樹君……」

理樹(葉留佳さんがただでさえ近い身体を更に近づけてきた。ここからの行き先は明らかだ。僕は素早く葉留佳さんの手を取ると、先手を取ってその手の甲に軽く口付けをした。葉留佳さんには悪いけどまだ朝だし、すぐに授業もある)

葉留佳「あ………」

理樹「さ……少しのんびりし過ぎたね。そろそろHR始まるよ」

葉留佳「う、うん!」

理樹(別に嫌だという訳ではない。むしろよく自制させた方だ。まあ、焦ることはない。明日や明後日でも、こういうのはのんびり距離を詰めていってやればいいんだから)



…………………………………………………………

教室

真人「おう理樹。それで三枝の奴はどうだった?」

理樹「いや、別になんともないよ。なんだか深夜まで起きていた疲れが出ていたみたい」

理樹(別に隠すことでもないけど、葉留佳さんとこういう関係になったというのはなんとなく皆に言いづらい。また時期を見て話そう)

真人「ほーん」

鈴「…………………」

昼休み

真人「ふぁああ……」

理樹「さて……」

鈴「なあ理樹、一緒にご飯食べよう」

理樹「ご飯?」

理樹(昼休みは葉留佳さんの所に行こうと思っていたけど……まあ鈴から誘われるのも珍しいし断るのも悪いだろう)

理樹「分かった。どこで食べる?」

鈴「うーん…中庭っ」

理樹「よし。じゃあワゴンでパンでも買って行こうか」







中庭

理樹(それぞれお気に入りのパンを抱えながら庭の雑草に座り込んだ)

鈴「なー理樹。今日の朝からなんか葉留佳と仲良いな」

理樹「えっ?」

理樹(鈴は自分の靴を見つめていた)

鈴「……なんか、ずっと話してた」

理樹(まさか中庭での事を聞いていたのかっ!?いや、それならこんな探るような反応じゃないはず。おそらく食堂での事なんだろうけど、それはそれでなんだかおかしい。別にそこまで喋っていた訳じゃないはずだ)

理樹「はは、そんな事ないよ……」

理樹(つい咄嗟にコトを隠してしまった。別に悪い事じゃないんだけど……)

鈴「そっか……」

スッ

理樹「!」

理樹(その時だった。なんと鈴が僕の腕に絡みついたのだ!)

理樹「り、鈴!?」

鈴「ん……?」

理樹(果たして今まで鈴がこーゆー触れ合いを不用意にした事があっただろうか!いや、恭介にすら今までやってた覚えがない!)

理樹「どうしたのさ急に……う、腕を……」

鈴「別にいいだろ……」

理樹(さも当然だという風にそのまま僕の体を支えにして鈴は浅い休息につこうとしていた。鈴の髪から良い匂いがフワッと鼻をくすぐった)

理樹「だ、ダメだよこんな事しちゃあっ」

理樹(僕は理性があるうちに慌ててその手を退けた)

鈴「うにゃっ……な、なんだっ」

理樹「なんだじゃないよ。普通こういう事はただの友達にやっちゃいけないんだよ?」

理樹(鈴は恋愛事に全く興味がないとは思っていたがまさかここまで無頓着とは……こんな事を普通のクラスメイトにやろうものなら罪のない男子がどんどん犠牲になっていく事だろう)

鈴「と、友達だと!」

理樹(その時、鈴が声を荒げた)

鈴「お……面白くない冗談だぞ!」

理樹「いや、冗談もなにも……」

「あっ、理樹君。こんな所にいたんですカ……ってあれ、鈴ちゃんもいた」

理樹(ちょうど説明しようとすると、真後ろから声が聞こえた)

理樹「葉留佳さん」

葉留佳「二人ともおいっす~。どったの?」

鈴「は、葉留佳……」

葉留佳「あ、そうそう理樹君。放課後練習でしょ?それ終わったら2人で話したいな、色々と」

理樹(このままではまずい!)

理樹「あーっ、やばい!ごめん2人とも!先生から昼休みに教材運びの手伝いを頼まれてたの忘れてたよ!今から行ってくる!」

理樹(そう言うと慌ててその場から逃げ出した。どうしてこんな二股をかけた男みたいな事をしなくちゃならないんだろう)

ダダダダッ

鈴「……………」

葉留佳「……………」



……………………………………………………



……………………………



……



理樹部屋

理樹「はぁ………」

理樹(ベッドにようやく寝転べた。今日は色々と疲れる1日だった。鈴はどこか余所余所しいし、葉留佳さんに至っては事あるごとにスキンシップをしてくるし……まあ、これは嬉しい事なんだけど)

プルルルル

理樹「はい、もしもし?」

葉留佳『あっ、理樹君?』

理樹「ああ、葉留佳さんか。どうしたの?」

葉留佳「今日のお昼にも言ったじゃん!ちょっと話そうって」

理樹「ああそういえば……」

葉留佳「その~実はなんですが、私達が付き合ってる事、もうちょっと秘密にしない?」

理樹「!」

理樹(なんと葉留佳さんも僕と同じ事を考えていたなんて。いや、僕の方は葉留佳さんが公表したいっていうならまったく構わなかったけど……)

理樹「それはまたどうして?」

葉留佳「いや~まだ心の準備ってものがですネ……急に言ったらみんなも驚くだろうし、こういうのはちょっとずつそれっぽい雰囲気を出していって周りに察してもらってからそれとなく言った方が良いかな~~~って」

理樹(なんだかよく分からないが、とにかくいきなりは嫌だって事らしい)

理樹「なんだか回りくどくない?」

葉留佳「ふ、普通はこういうものなんですヨ!」

理樹「ううむ。そういうものなのかな」

葉留佳「うんうん!だから2人で遊ぶのはちょっとだけ我慢、我慢」

理樹「分かった……」

理樹(まあ察せられるのもそう長くないだろう。僕自身よく顔に出るし、そもそも恭介や来ヶ谷さんはそういうのに鋭過ぎる節があるくらいだ)

葉留佳「じゃ、そういう事で~……あっ、モーニングコールだけどやっぱりはるちんが理樹君を起こす時は起きれる自信ないからやっぱりいいや」

理樹「あはは……了解」

理樹(そして軽く世間話をしてから電話を切った。これから寂しくなると電話が中心になりそうだ)

ガチャッ

真人「ただいま~」

理樹「おかえり。真人はこれから起きてる?」

真人「いや。俺もこのまま寝るぜ………眠い…」

ピッ

理樹(そんなこんなで今日も夜は更けていく………)


………………………………………………………



……………………………


次の日



理樹部屋

理樹「グッ………!?」

理樹(その日の朝、僕はとんでもない頭痛に起こされた)

理樹「あ……あああ!!」

真人「どうした理樹!」

理樹(真人が心配したのか慌ててベッドから飛び起きて僕の側についた)

理樹「痛っ……頭が痛い!」

理樹(痛すぎて何も考えられない。まるで脳の血管に小さな針が流れ込んできたかのような鋭い痛みが駆け巡ってきた)

真人「またタンコブ打ったのか!?どれ、見せてみろ!」

理樹(あと数秒でもこれが続くと僕はどうにかなってしまうだろう。そう思ったその時だった)

キンッ

理樹「ハッ……!」

真人「な、なんだ?」

理樹「い、いや……」

理樹(嘘のように痛みが取れた。それも徐々に____ではなく、本当に最初からそんなものが無かったかのように)

真人「どれ……ありゃっ!もうタンコブは治ってるぞ!?」

理樹「えっ、タンコブ?」

理樹(真人が僕の頭をまさぐって驚いた。別にタンコブなんて今まで打った覚えはないけど……)

理樹「別にもう大丈夫だよ。ごめんね騒がせて」

真人「いや、まあ……理樹が良いっていうならいいんだけどよ……」



食堂

理樹(いつもの端っこのテーブルでは既にみんな席に座っていた)

真人「おーす」

恭介「うい」

謙吾「おう」

理樹「おはよ~」

鈴「……もぐもぐ」

クド「ぐっどもーにんぐなのです!」

小毬「おはよ~ございま~す」

葉留佳「おはよ~理樹君!あと真人君も」

来ヶ谷「ん、おはよう」

美魚「おはようございます」

理樹(みんなでいつも通りご飯を食べている中、僕は西園さんの顔を見た。まるでいつも通りといった感じだ。僕はこんなにドキドキしなが来たって言うのに少し肩透かしをくらった気分だ)

理樹「おはよう。西園さん」

美魚「えっ?あ、はい」

理樹(思い切って西園さんだけに挨拶をしたがあくまで素知らぬ振りを決め込むようだ。この様子ではまるでただの友達と変わらない。………昨日、僕らが渚でキスをした事実がなければだが)

理樹「もう、そんなに素っ気なくしなくても……」

理樹(西園さんの隣に座ると、皆には聞こえないように言った。しかし相変わらずだった)

美魚「別に、いつもと変わりませんけど……どうかされたんですか?」

理樹(なるほど。ようやく分かったぞ!これは西園さんなりの冗談なんだ。こうやってあえて冷たくしてからかってるんだろう)

理樹「はは、またまた……あ、そうだ。昼休みは一緒に食べない?校舎の裏に静かな良い場所があるんだよ」

美魚「そうですね。考えておきます」

理樹「よし!」

葉留佳「……ねぇねぇ、2人ともなんの話してるのー?はるちんも混ぜて混ぜてー!」

理樹「ああ、いや大した話じゃないよ!」

鈴「…………」

校舎裏

理樹(なんだかんだでやっぱり来てくれた。西園さんのそういうところが好きなんだよな)

美魚「……確かに静かで良い所ですね」

理樹「でしょ?滅多に人も来ないし昼寝をするにはぴったりだよ」

美魚「2人で昼寝するために来たんですか?」

理樹「まさか!さあ、とりあえず食べようよ」

美魚「はい」

理樹(西園さんは自分でお弁当のサンドイッチを持っていた)

美魚「モグ……」

理樹(静かなランチだった。僅かに吹く風と布の擦れる音だけが僕らを取り巻いている。至福の時間だ)

美魚「……食べないんですか?」

理樹「おっと、そうだね」

美魚「………パクっ」

理樹(……………)

理樹「……西園さん。食べてる姿も綺麗だね」

美魚「ゴッフ!?」

続く(∵)

美魚「ゲホッ…ゲホッ……!い、今のはどう言う意味ですか?」

理樹「いやなに。素直にそう思って」

理樹(西園さんは顔を赤らめた。そう言うところも可愛い)

美魚「……わ、私に言っているのなら直枝さんの見方を変えなければなりませんね」

理樹「えっ!?」

美魚「急に女性に対してそういう勘違いさせるような言葉を使うのはやめた方がいいですよ」

理樹(そう言って西園さんはいそいそと水筒のお茶を飲み始めた。やめたほうがいいだって?勘違いさせるも何もキスまでしたのに、そんなまるでただの友達に向かって急に言われたような口振りをされるとは思わなかった)

理樹「………まさかこの期に及んで僕と恋人になってくれないの?」

美魚「ングッ!?」

美魚「けふっ……けふっ……!」

理樹「さっきから大丈夫?」

理樹(そういうと西園さんは恨めしそうな目と静止の合図の手をこちらに向けた)

美魚「ごふ………。さっきからいったい何を言いだすんですか直枝さんっ」

理樹(普段滅多に感情を露骨に出さない西園さんが、微かだが声を張り上げた)

理樹「それはこっちの台詞だよ!逆になんで付き合ってくれないの!?」

美魚「今までそういう風な雰囲気を漂わせた気はないのですが……」

理樹(僕も負けじと声を上げると今度は少し困ったような顔をされた)

理樹「そっか……西園さんにとって『ああいう事』はどうでもいい事なんだ……」

美魚「えっ?」

理樹「結構僕だって頑張ったんだけどな……いいよ。西園さんが別になんとも思ってないなら……」

理樹(西園さんにとって僕の勇気を振り絞ったキスは本のしおり程の価値もなさそうだ。つまりあれくらいで付き合った気になるなという事なんだろう)

美魚「"ああいう事"……"頑張った"……ま、まさか!」

理樹「なにさ?」

美魚「確かに直枝さんは命の恩人です……ですがそういう事を盾に言い寄られるとは思いませんでした」

理樹「命の恩人……?よく分からないけど普通誰だってあそこまでやったらちょっとくらい期待するよっ!いや、むしろ期待しないほうがおかしい!」

理樹(そう熱く語った瞬間、西園さんの顔はなんだかそう、凄く冷めていた)

美魚「………………」

理樹「に、西園さん?」

美魚「まだ、私は断るとは言っていませんし、まだ考えるつもりではありました。……でも、あなたのその答えには正直言って幻滅です」

理樹「ええっ!?」

理樹(なにが起こったのかよく分からない。僕はただデートしたりキスしたりしたなら付き合ってほしいと言っただけなのに。今の彼女の眼光はこれまで見てきた人のどんな顔より恐ろしかった)

美魚「………いいでしょう。恩は恩です……今日の夜、私の部屋に来てください。そしてその代わり私との縁は明日の朝までにしましょう」

理樹「ど、どういう事!?」

美魚「はっきり言って、こんな貴方を見たくありませんでした。さようなら」

理樹(そう言って西園さんは黙ってその場を去っていった)

理樹「ええ…………」

放課後

理樹(何はともあれいつの間にか授業も終わり、夕焼け小焼けな時間になってしまった。それまではずっと西園さんの言っていた最後の言葉の意味を考えてみたがやはりよく分からなかった。たとえ僕が知らずのうちにデリカシーに欠けた発言をしていたとしてもあれ程の事を言われるようなものなのか?)

理樹「ううん……」

真人「おーい!早く帰ろうぜ理樹!明日から練習するんだからさっさと食ってさっさと寝ようぜ」

理樹「あ、うん!ごめん、ちょっとぼうっとしてたよ」

理樹(何はともあれ今の僕に出来ることはただ西園さんに言われた通り、夜に部屋へ行く事だ。それで謎が解決するかもしれない)

女子寮

女子生徒「そう言えば知ってる?最近野間がまたホームラン打ったんだって~」

女子生徒「えーウッソー!」

理樹「ハァ……ハァ……」

理樹(西園さんはさも当たり前のように僕へ部屋に来るように言っていたが、そもそも女子寮は男子生徒の出入り禁止であり、万が一見つかれば鬼の風紀委員……つまりは二木さんらに世にも恐ろしい"懲罰"を受けるという。これはなかなか難易度の高い要求だ)

理樹「……ブルルッ」



………………………………………



理樹(そんな訳で慎重に慎重を重ね、結局1時間後に西園さんの部屋にたどり着いた。ドアノブを回してみると確かに彼女が言っていたように鍵は開いていた。音は出せないので失礼ながらノックはせずに入った)

ガチャッ

理樹「お、お邪魔します……」

美魚「ブツブツ……大丈夫…大丈夫……」

理樹(扉を開けた時、西園さんはパジャマ姿でベッドの上に背を向けて座っていた)

理樹「あ、あの……」

美魚「っ!」

理樹(僕が声をかけてようやく来たのに気付いたのかビクッと身体を震えさせてこちらを素早く振り向いた)

美魚「……………」

理樹(暗くて表情はよく見えなかったが、とにかく僕の方から声をかけるべきなのは分かった)

理樹「………隣、座ってもいいかな?」

理樹(まずは2人でちゃんと話をしなければ)

美魚「はい……」

理樹(扉を閉めた事で光源が月の光のみとなった。余計に視界が悪くなったのもあり、僕は興奮させないようゆっくり西園さんの元へ歩いて行った)

理樹「あの~本当に今回は申し訳ないことをしたようで……」

美魚「前置きはいいです……さっさと始めてください」

理樹(『始めてください』どういう意味だ?……ハッ!まさか……)

………………………………………………

美魚『ゴタクは良いからとっとと誠意を見せてください』

理樹『ごめんなさいごめんなさい』

………………………………………………

理樹(こーゆー事なのか!?)

美魚「……………」

理樹(だとしたらどうやって見せればいいんだろう。やはりここは土下座……僕がいったいどんなポカをやらかしたのか分からないがこれが一番に決まってる!)

理樹「分かったよ。西園さん……」

美魚「ゴクリ……」

すまん。御察しの通りだ

理樹(僕は西園さんの前に立つと、そこからゆっくり土下座の構えをとった)

理樹「この度は本当に申し訳ありませんでした!」

美魚「……………どういう意味ですか?」

理樹(今は床に伏せているため、顔は分からないが恐らくびっくりするほど怒っているに違いない)

理樹「そ、その……西園さんにとても酷い事を言ったかもしれないけど僕はまったくもって悪気は無かったというか……ええと……」

美魚「あの…よく分かりませんが、もう私達の中では何も起きないという事でよろしいのでしょうか?」

理樹(西園さんの一言に思わず顔が上がった。もはや前のように友達のままでいましょうという事なんだろう)

理樹「えっ!?いやいやいや、それは嫌だ!僕はこれからも西園さんとはこういった関係を続けたいよ!」

美魚「そ、それは嫌です!不潔です!!」

理樹「ええー!」

美魚「最初の取り決めでいきましょう。私はもう寝ますから直枝さんも入ってきてください。あとは直枝さんの好きになさったらいいでしょう」

理樹「えっ、ええっ!?僕がそこに入るの!?」

美魚「はい。もうこれ以上私からは何もいいませんから!」

理樹(そう言って西園さんはベッドで寝転んでしまった。な、なんで急に西園さんは添い寝しようだなんて言い出したんだ?)

理樹(本来ならそう言われたからといって、おいそれと入ったりはしないんだけど今回は場合が場合だ。ここで怖気付いて帰ったりなんかすればますます西園さんとの距離は空いてしまう……ここは覚悟を決めて行くしかない)

理樹「じ、じゃあお邪魔します……」

美魚「……っ」

理樹(ふかふかなベッドだった。さっきまで西園さんが座っていたところが妙に暖かい。ベッドに入ってもお互いに何も言葉は交わさず、ずっと静かなまま長い時間が経ったが、西園さんがまだ起きているであろう事はなんとなく分かった。あんまりに静かなんで時計の針の音まで意識出来るくらいだったが、おそらく向こうも僕が起きている事には気付いているだろう)

……………………………………………………

理樹(西園さんの背中を見つめること数時間、流石に僕も眠気の限界が来た。いったい何をどうすれば正解なのかまったく分からないままだったが、もはや僕のマナコは鉛のように重たくなっていた)

理樹「………………」

バタッ


…………………………………………


……………………


次の日



理樹「グッ………!?」

理樹(その日の朝、僕はとんでもない頭痛に起こされた)

理樹「あ……あああ!!」

美魚「ど、どうしました!?」

理樹(西園さんが心配して慌ててベッドから飛び起きて僕の近くに寄った)

理樹「痛っ……頭が痛い!」

理樹(痛すぎて何も考えられない。まるで脳の血管に小さな針が流れ込んできたかのような鋭い痛みが駆け巡ってきた)

美魚「き、救急車を呼んで来ましょうか!?」

理樹(あと数秒でもこれが続くと僕はどうにかなってしまうだろう。そう思ったその時だった)

キンッ

理樹「ハッ……!」

美魚「な、直枝さん……?」

理樹「あ、あれ…?」

理樹(嘘のように痛みが取れた。それも徐々に____ではなく、本当に最初からそんなものが無かったかのように)

理樹「……っていうかここは!?」

理樹(痛みの方も恐ろしかったが、それより今の状況の方が謎めいていた。何故西園さんがここにいるんだろう?)

美魚「だ、大丈夫ですか?ここは私の部屋ですよ」

理樹「に、西園さんの部屋!?なんで僕が!」

美魚「え、ええ?」

理樹(よく見ると西園さんはパジャマ姿だった。なんだかとても見てはいけないものを見てしまったような感覚だ)

理樹「ご、ごめん。何があったのか知らないけどとにかく出るよ!」

理樹(僕が寝ている間に誰かに担ぎ込まれたのか、はたまた夢遊病で西園さんの部屋に来てしまったのか、とにかくここにはいられない)

美魚「あっ、直枝さん…!」

バタンッ

理樹「うう、なんで女子寮にいるのか分からないがとりあえず脱出しなくては!」

理樹(しかし、あいにく今の時間は朝食や朝練から帰ってくる学生らと丁度重なる時間。今日は学校はないとは言え、生徒は多かった。廊下を一つ曲がるたびに女子がいる)

ガヤガヤ…

理樹「……くっ!」

理樹(西園さんの部屋を慌てて飛び出したのは少しまずかった。訳を聞くのを忘れてたし、せめて人がいない時間を見計らうべきだった。だがもう後の祭りだ。今更引き返せない)

理樹「さささ!」

理樹(女生徒の死角から死角へ素早く移動していったが、それにも限界は起きる)

ドンッ

理樹「おっとと……」

女生徒「いたた…」

理樹(曲がり角で生徒とぶつかってしまった)

理樹「ご、ごめんなさい」

女生徒「いえ、私の方こそ……って…な、なんでこんな男子生徒が!?」

理樹「い、いや、こ、これは……!」

女生徒「誰か捕まえてー!」

理樹(その一言で辺りの女性が一斉に振り返った)

理樹「やばっ!」

…………………………………


ダダダッ

女生徒達「「「待てー!!」」」

理樹「ご、ごめんなさいぃぃぃ!!!」

理樹(西へ東へ縦横無尽に駆け巡る羽目になった。逃げれば逃げるほど他の女子に見つかり、今や僕を追いかける人は何十人にも増えていた)

理樹「く、くそ……朝ご飯も食べてないしそろそろ僕の体力にも限界が……」

「こっちよ」

理樹(ちょうど曲がり角を曲がった時、近くから声がした。部屋の扉が開いており、どうやらそこからの声らしかった。僕はそこから伸びる手にすがるように飛びついた)

ガシッ


………………………………………

???部屋

バタンッ

理樹(僕が部屋に入ると、他の人達に見つかる前に素早く扉は閉められた)

理樹「はぁ……はぁ……いやぁ、助かったよ…一時はどうなるかと……」

「『助かった』?申し訳ないけど今のあなたの状況はその逆よ」

理樹「えっ」

理樹(その声には聞き覚えがあった。いや、ないはずがない。それは僕の愛する恋人、二木さんの声だったからだ)

佳奈多「ふっふっふっ…覚悟しなさい。あなたは袋の鼠よ」

理樹「佳奈多さん!」

佳奈多「か、かな!?」

本当に良い読者を持ったぜ
再開する

佳奈多「今あなた何て言った!?」

理樹「えっ?別におかしな事はなにも」

佳奈多「凄く澄んだ目……下の名前で呼んでたような気がしたのは聞き間違いだったのかしら…」

理樹「ところで助けてくれてありがとう佳奈多さん。勘違いされる前に事情を説明しておきたいんだけど……」

佳奈多「やっぱり言ってるじゃない!!」

バチンッ

理樹「痛っー!!」

佳奈多「はぁ…はぁ……あ、ごめんなさい……つ、つい勢いで」

理樹「どういう勢いなのさ……」

佳奈多「そりゃ貴方がいきなり私を下の名前で呼ぶからでしょ!なに?最近はそういう馴れ馴れしいのが流行ってるの?」

理樹「流行りは知らないけど僕が言うとそんなに変?ずっとそう呼んでたじゃない」

佳奈多「覚えがないわ!というかそもそも呼ばれる筋合いもありませんから」

理樹「ええ~…分かったよ二木さんが嫌なら」

佳奈多「ふんっ。で、本題だけどあなた何故女子寮にいて、女子寮で追っかけられていたの?」

理樹「それは……」

理樹(本当のところ何故朝起きたら西園さんの部屋に……それも西園さんと添い寝していたのかまったく分からない。だが今の佳奈多さんにありのままの事を話してもおそらく彼女は納得しないだろう。ならば……)

理樹「え、ええと……実は鈴から実家の荷物を部屋に運ぶ手伝いをしてほしいって頼まれてさ…」

佳奈多「……ふうん」

理樹「し、信じてない?」

佳奈多「まあね。じゃあ今から彼女をここへ呼ぶから大人しく待ってなさい。逃げようとしたら怖いわよ」

理樹(やはりこうなったか……でも鈴なら上手く僕の考えを読み取って合わせてくれるはず!)


…………………………………………………………………………


鈴「いや、全然そんなことない」

理樹「ええーーっ!!」

佳奈多「ほら見なさい。やっぱりあなたは他の男子と同様侵入を試みた変態じゃない」

理樹「り、鈴!なんで!」

鈴「ふん……バカ」

理樹(鈴は果てしなく見下した表情で部屋を出た。あれは単純に鈴を巻き込んで嘘をついた事に怒った顔じゃない。僕はなにかしたのだろうか)

佳奈多「わざわざ来てくれてありがとう棗さん。………さて、女子寮に侵入した挙句、友人まで使って嘘をついた直枝理樹には一体どうして差し上げましょうか…」

理樹(そういうと二木さんはドアの鍵を閉めた。単純な腕力では僕の方が上なはずなのに、やろうと思えば佳奈多さんを押しのけて部屋を出られるはずなのに、今の僕は怯えた子犬そのものだった)

佳奈多「とりあえず手錠をかけて……」

理樹「ま、待って!」

佳奈多「なに?」

理樹「い、嫌だなぁ…まるで初めて会った頃みたいじゃないか…」

佳奈多「割と初めて会ったに等しいと思うけど……」

理樹「ずっと女寮長さんと3人で仕事してきたじゃないか。なんなら君が好きなコーヒーの銘柄だって知ってるよ」

佳奈多「ス、ストーカー!?」

理樹「だから違うってば…」

理樹(なんだか馬鹿らしくなってきて二木さんのベッドに腰掛けた)

佳奈多「わー!いきなりベッドに座らないで!」

理樹「なんでさ?ほら、かな…二木さんも座りなよ」

佳奈多「馬鹿!盗人猛々しいとはこの事ね!始末書の量を2倍にするわよ!?」

理樹「はいはい」

理樹(僕は彼女の肩に手を回して少し強引にベッドへ座らせた)

佳奈多「や、やめて!」

理樹「やっと分かったよ。今日は二木さんそういう遊びがしたいんだね?」

理樹(そういえば二木さんも僕と付き合うようになって意外なユーモアがある事を思い出した。それは大抵の場合少し歪んでいて分かりにくいものだったが、おそらく今回のそれも同じに違いない。ならば僕もそれに乗っ取らなければ)

佳奈多「ひ、人を呼ぶわよ!」

理樹「分かったよ。悪かったね。風紀委員長殿」

佳奈多「ハァ……ハァ……失望したわ。あなたはもっと大人しくてこういう真似をする人じゃないと思っていたのに!……先生に報告してきます」

理樹(そこで僕はすかさず扉の前に立った)

理樹「まあ待ちなよ委員長」

佳奈多「退いて!」

理樹(無理やり出ようとするのを手で制して言った)

理樹「人が見かけによらないのは誰だってそうさ。例えば君も普段はツンケンして近寄り難いし、実際他の男子だって君の事は恐れおののいている」

佳奈多「ふん。むしろその方が都合がいいわ」

理樹「だけど、連中は勘違いしている。本当の君はもっと可愛いのに」

佳奈多「なっ!」

理樹(だんだんノリノリになってきた。気分はアメリカ映画のプレイボーイだ)

理樹「知ってるぜ。影でクドの世話を焼いていたり困っている人がいれば助けずにはいられない性格だってコト」

佳奈多「そ、それは委員長として当たり前のことよ……」

理樹「いいんだよそれで!委員長は強く、優しくないと務まらないものさ。だが、誰も君の本当の姿は知らない。ああ、なんて悲劇だ!」

理樹(僕は眉毛や口を大きく曲げたり、肩をすくめたりして若干大袈裟に感情を表現した)

佳奈多「わ、私は……別に…」

理樹「君は本当は愛されるべき人なんだ。だけど僕は他の人に君を理解されたくない」

佳奈多「なによ…結局あなたも私を……」

理樹「何故ならそれは君が好きだからさ」

佳奈多「へっ」

理樹「佳奈多さん。僕なら君を分かってやれる」

佳奈多「だ、だから下の名前で呼ばないでって……あっ」

理樹(僕はそこで佳奈多さんの背中に手を回し、抱きしめる形をとった)

佳奈多「あ、あなたの事、私ほとんど知らないのよ?」

理樹「これから知っていけばいいさ」

佳奈多「直枝……理樹」

理樹(とんでもない茶番だった。なんか佳奈多さんも顔を真っ赤にして目を閉じているがおそらくそろそろ恥ずかしくなっただけだろう。もし本当に僕らが初対面でこんな風に佳奈多さんが抱きしめられるのを拒否しないならちょろ過ぎるにも程がある)

佳奈多「私…どうかしてるわ……」

理樹(当然、こういう演技だから佳奈多さんも若干甘めにしているんだろうが本当にいきなりこんな男が現れてこんな言葉に気を許すようでは正にどうかしているものである)

理樹「じゃあ僕はこれで……」

佳奈多「あっ……」

理樹「そう残念そうにしないでよ。今日の夜、一緒にご飯を食べようね」

佳奈多「え、ええ……っ」

放課後

理樹部屋

理樹「は、恥ずかしいぃぃーーーー!!!」

真人「ど、どうしたんだ理樹?」

理樹(その後、時間が経つにつれ、朝に起きた出来事を冷静に客観視出来るようになった。その場のノリとは言え歯が浮くような台詞をよくもああポンポン言えたものだ。これは後々佳奈多さんからずっと弄られるぞ……!!)

理樹「い、いや…その……」

真人「なんだよ顔真っ赤にして。俺の筋肉美に見惚れたかい?」

理樹(とはいえ晩御飯の約束は守らなければそれこそ後が怖い。ここは腹をくくるしかないだろう)

理樹「はぁ……」

真人「……最近様子おかしいぞ。大丈夫か?」

理樹「ううん、いいんだよ。それより相変わらずナイス筋肉だね……」

真人「げへへ!あ、そう!?」

盗作者◆Jzh9fG75HA(ちゃおラジの作者)を語るスレ
245:名無しNIPPER[sage]
2018/07/05(木) 00:14:39.95 ID:3xRqK4+HO
>>240
とりあえず君が頭悪いのは理解出来た
カス(orクズ)をkasとかやってる時点で一生懸命覚えたんだなーと思えた
でもね?カスもクズもkasとは書かないんだよ可哀想だね
250:名無しNIPPER[sage]
2018/07/05(木) 00:27:36.24 ID:l9FJPpqzO
>>248
そんな人いたの?俺ここ2、3年くらいからの住民だから



食堂

恭介「あれ、理樹はいないのか?」

真人「ああ、なんか知らねえけど今回は俺たちとは食えねえってよ」

鈴「ふん。どうせしっかり絞られてるに決まってる」

ザワザワ……

「おい見ろよあれ……」

「う、嘘でしょ…!?」

謙吾「ん?なにやら騒がしいな………はっ!!」

恭介「どうした謙吾………うぉぉおおお!?」


…………………………………………

佳奈多「はい、あーん」

理樹「い、いや人が見て……うう…あ、あーん……」

…………………………………………

真人「り、理樹とあの委員長が……一体どうなってやがる……」

鈴「!?」

恭介「おい、もしかして誰か適当な世界構築したか?」

理樹(振り切った二木さんは凄かった。人目も気にせず僕を食堂に誘ったかと思うといきなりこんなアツアツの恋人地味た事をしてくるとは。僕は今いったい何を体験しているんだ)

佳奈多「ふふっ、美味しい?」

理樹「あ…うん……」

「こらーー!!」

理樹(そんな時、後ろからドタバタした足音と共に聞き慣れた声が聞こえた)

鈴「な、なにやってるんだ理樹!」

理樹「り、鈴!」

佳奈多「あら、棗さん。御機嫌よう」

鈴「ごきげんよーじゃない!理樹、今まではちょっとくらいなら我慢してたが、とうとうあたしも怒るぞ!」

理樹「え、ええっ?」

理樹(よく分からないが鈴がとてつもなく怒っているのだけは分かる。だけど何に対して?)

佳奈多「よく分からないけど嫉妬なら他を当たってちょうだい。私達は今忙しいの」

鈴「に、にゃにぃ……!?」

恭介「おおい!やめとけ鈴!」

理樹(すると鈴を追ってきたのか恭介達3人もやってきた。鈴はともかくこの3人まで僕らの仲を知られると少し恥ずかしい)

謙吾「鈴!どうしたんだ急に2人を邪魔するような事をして」

鈴「だ…だって……!」

真人「まあまあ、ここは見守って退散しようじゃねえか鈴の姉御よぉ」

鈴「う……うう~~!やだ!」

ガシッ

理樹「えっ!?」

理樹(鈴がいきなり僕の手を掴んで身体をテーブルから引っ張りだした。恐ろしい力だった)

鈴「行くぞ理樹!」

佳奈多「ち、ちょっと!?」

理樹「り、鈴!?」

理樹部屋

鈴「………」

理樹「え、ええと……」

鈴「………」

理樹(あれから食堂を出た後、鈴は僕を連れて無理やり部屋に帰ったと思うと今度は扉を背に、三角座りで居座り、石像のように動かなくなった)

理樹「…何か答えてよ。僕が悪いことしたなら謝るからさ」

鈴「………分からないのかバカ理樹」

理樹「………」

理樹(色々考えてみたが心当たりはまったくない。しかし、今日一日はほとんど会ってなかったし昨日はまったく怒った様子はなかった。これでもし思い当たる節があるとすればさっきの食堂での事でしかないだろう)

理樹「もしかして、かな…二木さんとの事?」

鈴「…理樹。あたしはこういう事はよく分からないからもしかしたら普通の人はあたしみたいに怒らないかもしれない」

鈴「だけど、やっぱり理樹があたしより他の人とずっと仲良くしてたら嫌だ!最近、あたし達全然喋ってない……」

理樹「あ……」

理樹(なるほど、鈴は寂しがっていたのか!それもそうか。今までずっと幼馴染として一緒に過ごしてきたのに二木さんと共に仕事をするようになって全然恭介達の事を構ってなかったから……)

理樹「なるほど、そういう事だったんだ…ごめん、鈴。ちょっと目の前のことで頭がいっぱいで鈴達の事を考えきれてなかったみたいだ」

鈴「達…?う、うん」

理樹「……ふふっそれじゃあ今日はずっと遊び倒そうかっ」

鈴「さっきの人はいいのか?」

理樹「うん、もちろん後で謝っておくよ!」

理樹(そりゃ、しこたま怒られる事は目に見えている。だが、今だけは鈴や恭介達との友情を大事にしなくてはならない。僕にはそう感じた)

理樹「ようし、それじゃあ今からお祭りだ!サタデーナイトフィーバーだよっっ!」

鈴「……う、うん!」

……………………………………………………


……………………………


……

次の日



理樹部屋

真人「おーい理樹、起きろよ~……たく、昨日は鈴と消灯ギリギリまでずっと遊んでたらしいが朝飯のカツ丼は待ってくれねえぜ?」

理樹「う、ううーん……グッ………!?」

理樹(その日の朝、僕はとんでもない頭痛に起こされた)

理樹「あ……あああ!!」

真人「えっ、なっ、ど、どうした理樹!」

理樹(真人が心配したのか慌てて僕の肩を掴んできた)

理樹「痛っ……頭が痛い!」

理樹(痛すぎて何も考えられない。まるで脳の血管に小さな針が流れ込んできたかのような鋭い痛みが駆け巡ってきた)

真人「そ、そんなにカツ丼が行っちまうのが嫌なのかい!?おいしっかりしろ理樹っ!」

理樹(あと数秒でもこれが続くと僕はどうにかなってしまうだろう。そう思ったその時だった)

キンッ

理樹「ハッ……!」

真人「お……おい、どうしたんだよ?」

理樹「い、いや……」

理樹(嘘のように痛みが取れた。それも徐々に____ではなく、本当に最初からそんなものが無かったかのように)

理樹「……っつつ」

理樹(だけどその痛みの原因である頭の部分を触るとやっぱり少し痛かった……盛り上がりからして小さなタンコブが出来ていたようだ)

理樹「こ、これは……?」

真人「うわっちゃ~全然タンコブ治らねえな……またまた同じところぶつけたのか?」

理樹「え?ああ…うん。多分そう……かな?」

理樹(なるほど、おそらく寝ている間に頭を打ってタンコブが出来たんだろう。しかし何故真人は"またぶつけた"なんて言うんだ?別にここ最近ぶつけた覚えなんてないけど………)

理樹「ん…?いや、待て……」

真人「どうした?」

理樹「か、帰ってきた……のか?」

理樹(今、当たり前のように、まるで長い夢を見ていたように起き上がったが、ここはいったい"どこ"なんだ!?)

真人「……よく分からねえ事いうな。なんだよ、帰ってきたって」

理樹「ま、窓!」

真人「あ、おいっさっきの事もあったんだから急に立ち上がるなよっ。ほら、風が欲しいなら開けてやるからさ」

理樹(真人が窓を開けた。するとその景色は雪が降ったりなんて変な現象は何もなく、ただ普通の夏の景色が見えるだけだった)

理樹「………や、やっぱり……元の世界へ帰ってこれたのか……」

真人「理樹…お前……」

理樹「じ、じゃあ……!!」

理樹(そうなると一番に気になるのは彼女の存在だった)

理樹「来ヶ谷さん!」

理樹(僕はジャージ姿のまま扉から駆け出した)

真人「あっ、おい理樹!」

>>75ミス訂正↓

次の日



理樹部屋

真人「おーい理樹、起きろよ~……たく、昨日は鈴と消灯ギリギリまでずっと遊んでたらしいが朝飯のカツ丼は待ってくれねえぜ?」

理樹「う、ううーん……グッ………!?」

理樹(その日の朝、僕はとんでもない頭痛に起こされた)

理樹「あ……あああ!!」

真人「えっ、なっ、ど、どうした理樹!」

理樹(真人が心配したのか慌てて僕の肩を掴んできた)

理樹「痛っ……頭が痛い!」

理樹(痛すぎて何も考えられない。まるで脳の血管に小さな針が流れ込んできたかのような鋭い痛みが駆け巡ってきた)

真人「そ、そんなにカツ丼が行っちまうのが嫌なのかい!?おいしっかりしろ理樹っ!」

理樹(あと数秒でもこれが続くと僕はどうにかなってしまうだろう。そう思ったその時だった)

キンッ

理樹「ハッ……!」

真人「お……おい、どうしたんだよ?」

理樹「い、いや……」

理樹(嘘のように痛みが取れた。それも徐々に____ではなく、本当に最初からそんなものが無かったかのように)

理樹「……っつつ」

真人「本当に大丈夫かよ……前もそんな風に転がってたが、 怪我はもうないんだろ?」

理樹「け、怪我?いや……」

理樹(痛んだ箇所を撫でて見たが別に怪我をしているわけではなさそうだ)

理樹「よく分からないけどもう全然痛くないから心配しないでよ」

真人「にしたって前も……」

次から>>76の続き

…………………………………………………


教室

ガラッ

理樹「はぁ……はぁ……っ!」

用務員「あれ、どうしたの君?まだそこは掃除済んでないけど……」

理樹(いない……)



放送室

ガラッ

理樹「………っ」

理樹(ここにもいない……)

……………………………………




理樹(背中に冷たい血が流れていった。まだまだ学校の全部を見た訳でも、他の誰かに聞いた訳でもないがなんとなく来ヶ谷さんはもう……)

「死にそうな顔だな。何を探しているのかな?」

理樹「!」

理樹(心臓がまるでトンカチで殴られたかのように重く脈を打った)

理樹「ぃ……あ…」

理樹(頭をあげると辺りは雑草だらけだった。知らぬ間に外に出ていたようだ。この生い茂った丈の高い木々には見覚えがある)

「さあこっちに来たまえ。どうせ今からHRには間に合わないんだ、ここでゆっくりしよう」

理樹(僕は枝葉を掻き分け、声のする方へ進んだ)

ガサガサッ

来ヶ谷「ようこそ。私のカフェテラスへ」

理樹「……ああ」

理樹(人はそうぽんぽん泣くものじゃない。特に男の人は特別な時にしか泣いてはいけないものだ。しかし、今度も僕は抑えられなかった)

理樹「く……くるがや……さぁん…!」

理樹(そこには相変わらず美人で背が高くて自信に満ち溢れた彼女の姿があった)

カフェテラス


理樹「来ヶ谷さん!」

来ヶ谷「な、なんだ?」

理樹(会うなり突然僕が泣きながら走ってきたものだから来ヶ谷さんは少し困惑していた。僕は構わずイスに座った彼女へ跪くように抱きついた)

理樹「うぐっ……くぅ……っ!」

来ヶ谷「……どうしたんだ、いきなり。何かあったのか?君がこんなに取り乱すなんて」

理樹「当たり前だろぉ…うぅう……」

理樹(もう二度と会えないと思っていた。そんな彼女とこうして触れられている。僕ははっきり言って冷静になれなかった)

来ヶ谷「やれやれ、事情を聞くのは後にした方がよさそうだな」

理樹(来ヶ谷さんはそう言って彼女の制服を涙で濡らしている僕の頭を撫でた)

理樹「好きだ……っ!好きなんだよ来ヶ谷さん……!もうどこにも行かないでよ……生きていけないよ……」

来ヶ谷「!」

来ヶ谷「……り、理樹君…まさか…」

理樹「こ、怖い夢を見たんだ……あんなの二度とごめんだ……分かるかい?ないはずの事が起きて、いるはずの人がどこかへ消えていくことが……」

理樹(来ヶ谷さんのスカートを掴む手が寒さに震える子供のように震えていた)

来ヶ谷「可哀想に……大丈夫だ。心配をするな、私がここにいる」

いやお恥ずかしい

来ヶ谷「ふん…ふふふふふん…ふん…ふん…ふん……」

理樹「…………」

理樹(僕の顔を撫でたまま来ヶ谷さんは鼻歌を歌い始めた。その曲はどこか寂しげで、しかしどこか満ち足りたようなメロディだった。来ヶ谷さんが僕に宛てた曲だ。僕がそれに顔をはっとあげた時、何故か逆に来ヶ谷さんが一瞬面食らったような顔をした。まるで僕がその曲を知っていることに驚いたかのように)

理樹「………」

理樹(でも、どうでもよかった。そんなことは。今はただ来ヶ谷さんと一緒にいられるだけでとても幸せだったからだ)

理樹「なんでかな……さっきまで寝てたはずなのにまた眠たくなっちゃったよ」

来ヶ谷「泣き疲れたんだろう。それとも夢の中で頑張り過ぎたか?」

理樹「ああ……」

理樹(どっちでもいい。そろそろ難しい事を考えることすら嫌なくらい意識が遠のいてきた。それを察したかのように来ヶ谷さんは僕の身体をさらに寄せてくれた)

理樹「…………」

来ヶ谷「……やれやれ。あえて突き放すことも考えたが、今そんなことをすれば死んでしまいそうだな、君は」

来ヶ谷「……さて」

…………………………………………………



………………………………



……



食堂

恭介「……それで?」

来ヶ谷「寝ているよ。彼はやっぱり重たいな。私の部屋まで運ぶには少し苦労したよ……そして恭介氏はどう見る?」

恭介「分からん……実を言うと真人から少し奇妙な事を聞いてな」

来ヶ谷「奇妙な事?」

恭介「朝、起きるたびに頭痛を訴えるそうだ。すぐに収まるそうだが…流石にそれが何日も続いているそうだからそろそろ病院に診せた方がいいってな」

来ヶ谷「それと関係があるかどうか分からないが……とにかく様子を見てみるよ。またそちらに帰る時に連絡を寄越す」

恭介「分かった。もし完全に思い出しているようなら……」

来ヶ谷「それはその時に考えよう」

恭介「……ああ」

……


…………………


…………………………………………

夕方

来ヶ谷「理樹君」

理樹「……………」

理樹(来ヶ谷さんの声で目を覚ました。その瞬間、彼女がいる安心感が胸一杯に広がった)

理樹「おはよう……ここは?」

来ヶ谷「私の部屋だ。井ノ原少年に頼んで君にお馴染みのベッドで寝てもらおうかと思ったが、今の君だと私がいた方が安心するだろう?」

理樹(まるで子供のような扱いだった。しかし、何故かそこまで悪い気はしない)

来ヶ谷「申し訳ない事をした……"あの時"私は君を一人にさせようとしたね」

理樹「ううん、いいんだよ。こうしてまた喋っているんだから」

来ヶ谷「ふふ…」

理樹(そう言って僕はふと不安を覚えた)

理樹「……ま、また…どこかに行ったりしないよね?僕の前から消えたり……しないよね?」

理樹(度重なる酷使によって涙腺が緩み切ったのか、また目尻の方に涙が溜まった)

来ヶ谷「ぐぉっ……き、君という奴は犯罪的なまでに可愛………!」

理樹「えっ?」

来ヶ谷「い、いや。なんでもないよ……もちろん。これからは急に君の前からいなくなったりしないよ」

理樹「よかった……」

とても短い更新で悪いがだいぶと余裕が出てきたからちょくちょく書いていけるはずだ

…………………………………………………………



……………………………



……




理樹「……ご馳走さま」

来ヶ谷「このまま住み込むつもりじゃあないだろうな」

理樹「ははっ。それもいいね」

来ヶ谷「君はそろそろ帰った方がいい。門限もあるし、何より真人少年が寂しがっているだろう」

理樹「……今何時?」

来ヶ谷「はぁ……」

理樹(来ヶ谷さんはため息をついて時計をチラ見と見た。僕の考えはことごとく見透かされているらしい)

来ヶ谷「あと30分だけだぞ」

理樹「うん……」

来ヶ谷「………私もまだ甘いな」

理樹「えっ?」

来ヶ谷「いや、なんでも…とりあえず今日の所は君の良いようにしてあげるさ。君はそれだけの権利を持っているんだから」

理樹(よく分からない言葉だった。彼女の顔を見たがあまり理解させる気もなさそうだった)








理樹部屋

理樹「う、ううーん……グッ………!?」

理樹(その日の朝、僕はとんでもない頭痛に起こされた)

理樹「あ……あああ!!」

真人「理樹!」

理樹(真人が心配したのか慌てて僕の肩を掴んできた)

理樹「痛っ……頭が痛い!」

理樹(痛すぎて何も考えられない。まるで脳の血管に小さな針が流れ込んできたかのような鋭い痛みが駆け巡ってきた)

真人「やっぱり異常だぜ…っ!」

理樹(あと数秒でもこれが続くと僕はどうにかなってしまうだろう。そう思ったその時だった)

キンッ

理樹「ハッ……!」

真人「………痛みが、消えたのか?」

理樹「……う、うん」

理樹(真人の言うとおり嘘のように痛みが取れた。それも徐々に____ではなく、本当に最初からそんなものが無かったかのように)

真人「病院へ行こう」

理樹「えっ、いや大丈夫だよ!もう全然痛くないし……」

理樹(痛んだ箇所を撫でて見たが別に怪我をしているわけではなさそうだ)

真人「いやダメだ!」

理樹「!」

理樹(真人が珍しく厳しい声を出した)

真人「恭介と謙吾呼んでくる。大人しくしとけよ?」

理樹「……分かった」



教室

ガラッ……

理樹「お、おはようございます…」

理樹(授業中に入る自分の教室ってなんでこんなに小っ恥ずかしいんだろうか)

担任「おお直枝!どうだった?」

理樹(みんなが僕の方を見ている中、先生がチョークを置いて心配そうに近寄ってきた)

理樹「いや、色々調べてもらったんですけど特に問題はないそうです……とりあえずまた明日別の病院で検査するかもしれません」

理樹(検査には真人と恭介が同伴してくれて、何か色々と話していたらしい。病院から帰る時、少し複雑な表情をしていたのを覚えている)

担任「そうか……分かった。また何かあったら教えてくれ」

理樹「はい…」

理樹(そう返事したのと同時に昼休みのチャイムが鳴った)

謙吾「しかし、心配だな……今までにもあったんだろう?こういうことが」

理樹「えっ?いや、別に……」

真人「ああ……最初のうちはただ頭にぶつけただけだと思ってあんまり考えてなかったんだけどなぁ……」

理樹(と、後ろから真人が会話に入ってきた)

理樹「いや、だから……」

葉留佳「理樹君、大丈夫!?」

理樹「えっ!?あっ、うん!」

真人「げっ、三枝!もう耳に届いたのかよ…」

葉留佳「とーぜんですヨ!なんたって理樹君は私の……あっ」

謙吾「三枝の…?」

葉留佳「や、やはは……いや~なんでもないですヨ?」

理樹(葉留佳さんはそう言ってチラチラと僕の方を見てきた。よく分からない)

美魚「あの……直枝さんは……」

真人「おう!この通り今は元気だぜ!ただ、朝はやっぱり心配だな~」

来ヶ谷「次はもう少し大きな病院で診てもらった方がいいな。ちょうど良い病院を知っているよ」

理樹「そんなセリフ言える人初めて見たよ……」

ガラッ

佳奈多「な、直枝!」

葉留佳「お、お姉ちゃん!?」

理樹(その時、急にドアから二木さんが入ってきた。その場の数人が一瞬にして身構えた)

真人「や、やい!何の用だ!」

佳奈多「ご、ごほん……別になんでもないわよ……ただ、病院に運ばれたっていう生徒がいたっていうから元風紀委員として様子を見にきたって訳」

謙吾「ん?今、理樹の名前を言いながらドア開けなかったか?」

佳奈多「き、気のせいよ!」

鈴「でも元気そうでよかった」

クド「わふー!話を聞いた時はどういう事かと心配しましたよー!」

理樹「鈴、クド!」

理樹(なんだかんだ言って僕は幸せだ。こんなに心配してくれる人がいるというのはそれだけで心強い)

小毬「今日は大変だったみたいだね~!」

理樹(そう言って小毬さんがパタパタと走ってきた)

理樹「ああ……僕は大丈夫だよ。心配しないで小毬。お兄ちゃんがずっと側にいるからね」

美魚「えっ」

謙吾「なっ!」

真人「ん?」

鈴「なぁ!?」

来ヶ谷「ぶっ」

クド「わふー!?」

葉留佳「ノォ!?」

佳奈多「はぁーー!?」

小毬「…………ほえ?」

おやすみ

恭介「おいーすっ」

理樹(何故かみんなが固まったと思ったら恭介がするするとロープを伝って上の教室からうちの教室の窓に入ってきた)

恭介「理樹が帰って来たんだってな。下から聞こえてきたぜ?……ってあれ、どうしたお前ら?」

葉留佳「ど、どーしたもこーしたも……」

理樹「さ、とりあえずご飯食べに行こっか小毬」

恭介「!?」

小毬「う、うん……それはいいけど……」

理樹「どうしたの?お兄ちゃんとだけじゃ嫌?」

恭介「!?!?」

小毬「い、いや~~だから、その、お…お兄ちゃんってゆーのは……」

理樹「???……どうしたの小毬。なんか様子が変だけど……」

皆「「「お前じゃーーーー!!!!」」」

理樹(総ツッコミを食らった。ボケたつもりはないんだけど……)

恭介「お、お、お前……!なんだかよく分からないが羨ましいぞチクショウ!」

鈴「どーゆーことじゃ馬鹿兄貴!」

ゲシッ

恭介「痛い!」

クド「ま、まさか理樹は小毬さんのお兄さんだったんですかーー!?そ、それにしては似てないよーな…似てるよーな……」

葉留佳「いやいやいや!そんな訳でないでしょーに!」

美魚「や、やはり変態だったんですか……」

佳奈多「あ、あんたって人は私を差し置いて……」

来ヶ谷「………ハッ!そういう事か……」

恭介「……どうした?」

来ヶ谷「あとで説明する。とにかく今は私に合わせろ」

恭介「?」

理樹「ど、どーしたのさ皆?僕そんな変なこといった?」

鈴「むしろ変なことしか言ってないわ!」

来ヶ谷「まあ落ち着いてくれ鈴君。そういえば理樹君が今日病院で処方してもらった注射には副作用で少しの間、精神を錯乱させる効果があると言っていたな、恭介氏?」

恭介「あ、ああ……」

理樹「えっ?僕は別に注射なんて…」

来ヶ谷「そういうことだ皆!今日はたまに変な事を言うかもしれないが見逃してやってほしい!さ、とりあえずランチを楽しんできたまえ少年」

理樹「だから別に変なことなんか……まあいいけど。じゃあ行こうか小毬」

小毬「う、うん……」

バタンッ

葉留佳「な、なんだか狐につつまれた気分ですネ……」

鈴「なんだ注射でおかしくなったのか。ならしかたがないな!」

ゾロゾロ……

恭介「みんな行ったか………それにしてもどういうことだ来ヶ谷?」

謙吾「何かに気付いたんだろう?」

来ヶ谷「ま、そんな所だ」

真人「そりゃ理樹の頭痛と関係あるのか?」

来ヶ谷「そうだな……」



…………………………………………………………………………

屋上

理樹「ほら、小毬……こっちもあげる。あーんして」

小毬「あ、あーん……」

パクッ

理樹「ふふ……可愛いね」

小毬「う、ううん……やっぱりなんか変だよ~~!なんで急に呼び捨てにするの?……別にいいんだけど…」

理樹「なんでってそりゃ兄妹なんだから呼び捨ては当たり前でしょ?」

小毬「き、兄妹!?わ、私と理樹君がっ?」

理樹「当たり前じゃないか。それより理樹君じゃなくてお兄ちゃんって呼…………理樹君?」

小毬「ほえ?」

理樹「………………」

理樹「こ、こ、こ、小毬さん………?」

小毬「はい……」

理樹「………僕と小毬さんの関係って?」

小毬「友達だよ?」

理樹「嘘でしょ」







食堂

恭介(俺と真人と謙吾、そして来ヶ谷の4人でテーブルを囲むように座った。来ヶ谷がわざわざこのメンバーを指定してきたのだ)

来ヶ谷「さて・・・今から話すのはあくまで私の推理に過ぎないのだが、もしそれが当たっていたらここから先は慎重に動かなくてはならなくなるだろう」

真人「もったいぶってないで話せよっ。理樹はいったいどうなっちまってるんだ?」

来ヶ谷「そうだな。結論から話すと、おそらく理樹君は断片的にだが『例の世界』でのことがらを思い出しつつある」

恭介・真人・謙吾「「「!!」」」

恭介(それは驚きの言葉だった)

謙吾「そ、その例の世界っていうのは・・・!」

来ヶ谷「ああ、君たちが作った世界のことだ。そして今、少年は小毬君との世界を追体験しているんだろう」

恭介「何故、そう思ったんだ?」

来ヶ谷「それに至っては実にシンプルだ。・・・泣きついてきたんだよ昨日、私のところにな」

真人「ど、どういうことだ?」

来ヶ谷「君らの中にも結末を知っている者はいるかもしれないが、私のあそこでの”願い”というやつは少々複雑な末路を迎えたものでね。理樹君の言動はどうもその延長上にあるとしか思えないものだったのだよ」

謙吾「覚えていた・・・ということか?」

来ヶ谷「ああ」

恭介「ありえない!・・・なんて断言は出来ないな。あの時起こったことは果てしなく幻想に近いことだが、確かに”あったこと”だ。俺達は理樹や他のメンバーに忘れてはもらっていたが、ふとしたことで思い出すことは十分にあり得る」

恭介(だとしたら・・・・非常にまずいことになる)

来ヶ谷「非常にまずいことになりそうだ・・・とでもいいたげな顔だな。悲しいことにもうなっているんだよ」

真人「・・・・あっ!そうか、神北に言ってたお兄ちゃんって!!」

謙吾「えっ?あっ・・・・」

恭介「・・・・やっべぇ」

恭介(今頃はもう理樹も小毬が『普通』だということに気付いているだろうか・・・哀れな・・・)

理樹「こっ、ここここ小毬っつぁん・・・?」

小毬「ど、どうしたの理樹君・・・?なんかおかしいよさっきから・・・」

理樹「も、元に戻ったのか・・・?い、いつの間に・・・!」

小毬「やっぱりおかしい・・・さっきからぶつぶつ言ってるし・・・」

理樹「は、恥ずかしいーーーー!!!」

理樹(僕はまったくもって正常な小毬さんにお兄ちゃんごっこをしていたのか!?い、いったいいつから・・・!)

理樹「ご、ごめん小毬さん!べ、別に変な意味はなくて・・・ほ、ほら!僕も恭介と鈴の兄弟愛を見ていたら羨ましくなっちゃって・・・!」

小毬「えへへ・・・なんだ、そっかぁ。でもちょっと嬉しかったな。なんだか急に理樹君がお兄ちゃんになったみたいで。昔のこと思い出したよ」

理樹「小毬さん・・・」

小毬「最初はそういうのが好きなのかなって思ったけど」

理樹「ぐおおおおおおおおおおお」

来ヶ谷「おそらくその頭痛とやらが記憶を塗り替え、あらゆる”以前あった世界”を思い出させているんだろう。運がいいのか悪いのか複数の世界の思い出は同時に思い出してはいないようだが」

恭介「そ、そんな・・・」

謙吾「来ヶ谷・・・お前の口ぶりではこういった事はこうなったのは小毬やお前のことだけではないと言っているようだが・・・」

来ヶ谷「ああ、ここまで考えてからよくよく考えてみたんだが、鈴君の積極的な理樹君への行動、葉留佳君が理樹君に急にしおらしくなった事。他の生徒も日を追うごとに理樹君への反応が今まではとは少し違う・・・もうこれは結構取り返しのつかないことになっているに違いない」

真人「ま、待て・・・た、確か理樹ってあいつらと最後はだいたい良い感じになってなかったか?」

謙吾「その先の記憶を持っていて、なおかつ今のところ理樹が誰かにもの凄く嫌われたという話は聞かない。むしろなんか妙な空気になっている時が多々ある・・・」

恭介「つ、つまり理樹はそいつら全員と本人も知らぬ間に・・・」

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

恭介「な、なんだ!?」

真人「理樹だ!なんかすげえ叫びながら男子寮に向かっていったぜ!」

来ヶ谷「・・・とりあえず追ったほうがいいんじゃないか?」

理樹部屋前

理樹「ウウ・・・ハァ・・ハァ・・・!」

真人「おおーい理樹やい!どうしたんだよぉ!」

恭介(俺達が追いついたころにはちょうど理樹が部屋に入るところだった)

理樹「ごめん真人!!今日だけは一人で寝かせて!!」

恭介(理樹は顔真っ赤でそういうと勢いよく扉を閉めた。あとの行動は見なくても分かる)

真人「理樹!」

がちゃがちゃ

真人「あっ、鍵閉めた!」

恭介「真人、もう今日のところはいいだろう。どうせ呼びかけたって開けることはない」

真人「だけど・・・」

恭介「お前は女友達に向かって公然の前でいきなり呼び捨てにした挙句『お兄ちゃん』と自称してやっと我に返ったとして、平気な顔して帰れるのか?」

真人「・・・いや・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




・・・・



恭介部屋

恭介(結局真人と謙吾は作戦会議も兼ねて俺の部屋で寝ることとなった)

謙吾「見事に交流試合どころじゃなくなったな恭介・・・」

恭介「ああ・・・このままだとリトルバスターズの存在自体が危うい」

真人「今はまだぎりぎり奇跡的に上手くいってるからいいが、もし誰かがちらっとでも理樹と付き合ってるとでも言ってみろ・・・」

恭介「ああ・・・」



____________________________________________________

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




・・・・



恭介部屋

恭介(結局真人と謙吾は作戦会議も兼ねて俺の部屋で寝ることとなった)

謙吾「見事に交流試合どころじゃなくなったな恭介・・・」

恭介「ああ・・・このままだとリトルバスターズの存在自体が危うい」

真人「今はまだぎりぎり奇跡的に上手くいってるからいいが、もし誰かがちらっとでも理樹と付き合ってるとでも言ってみろ・・・」

恭介「ああ・・・」



____________________________________________________

暗く冷たい部屋の中で、直枝理樹はリトルバスターズの女子メンバーに囲まれていた
その多くが憎しみを顔に浮かべている
その後ろにいる恭介、真人、謙吾の三人はもはや見守ることしか出来なかった

葉留佳「理樹君!他の人とも付き合ってるってどーゆーことなんですカ!?私とはお遊びだったってこと!?」

佳奈多「私だけでなく葉留佳まで騙していたなんて・・・最低ね・・・最低!」

クド「わふー!もうリキなんか信じられません!」

美魚「見損ないました・・・二度と顔を見せないでください」

鈴「[ピーーー]ボケ。行こ小毬ちゃん」

小毬「う、うん・・・ごめん、理樹君・・・・」

来ヶ谷「・・・・・」

理樹「待ってよ皆!僕がなにをしたっていうんだよ・・・!」

理樹の悲痛な叫びはもはや誰にも聞こえなかった。涙を浮かべながら膝をつく理樹にもはやかつての覇気は感じられない

恭介「り、理樹・・・」

恭介達は理樹に駆け寄るもかける言葉が見つからなかった。もう少ししたら交流試合。それまでに再び野球が出来るメンバーを集めるのは不可能と言ってもよかった。

数日後


本拠地、グラウンドで迎えた交流戦
先発恭介が大量失点、打線も勢いを見せず惨敗だった
土手に響くファンのため息、どこからか聞こえる「流石に男四人以外全員猫は無理があったな」の声
無言で帰り始める選手達の中、恭介は独りベンチで泣いていた
例の世界で手にした喜び、感動、そして何より信頼できるチームメイト・・・
それを今のチームで得ることは殆ど不可能と言ってよかった

恭介「どうすりゃいいんだ・・・」

恭介は悔し涙を流し続けた
どれくらい経ったろうか、恭介ははっと目覚めた
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たいベンチの感覚が現実に引き戻した

恭介「やれやれ、帰って就活の準備をしなくちゃな」

恭介は苦笑しながら呟いた…立ち上がって伸びをした時、恭介はふと気付いた

恭介「あれ・・・?お客さんがいる・・・?」

ベンチから飛び出した恭介が目にしたのは、校庭まで埋めつくさんばかりの観客だった
千切れそうなほどに旗が振られ、地鳴りのようにリトルバスターズの応援歌が響いていた
どういうことか分からずに呆然とする恭介の背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた

「恭介、守備練習だ、早く行くぞ」

声の方に振り返った恭介は目を疑った

恭介「フィッシュ斉藤?」

「なんだ棗、居眠りでもしてたのか?」

恭介「スカイハイ斉藤?一話だけのネタキャラだったはずじゃ・・・」

「なんだ恭介、かってにスカイハイをゲストキャラ扱いしやがって」

恭介「ホップ斉藤・・・」

恭介は半分パニックになりながらスコアボードを見上げた
1番:ホップ斉藤 2番:コスモ斉藤 3番:コスモ斉藤 4番:棗 5番:マスク・ザ・斉藤 6番:フィッシュ斉藤 7番:スカイハイ斉藤 8番:ジェット斉藤 9番:斎藤隆
暫時、唖然としていた恭介だったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった

恭介「勝てる・・・勝てるんだ!」

ブッシュ斉藤からグラブを受け取り、グラウンドへ全力疾走する恭介、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・



翌日、ベンチで冷たくなっている恭介が発見され、謙吾と真人は病院内で静かに息を引き取った


___________________________________________________

恭介「う、うああああーーっっっ!!!」

真人「うおっ!?急にどうした恭介!?」

恭介「はぁ・・はぁ・・あ、あれ・・・」

恭介(あたりに目をやると謙吾と真人が心配そうな顔でこちらを見ていた)

恭介「ゆ、夢か・・・」

恭介(ひとまず安心した。しかし現状これが正夢にならないとも限らない)

謙吾「どうする?おそらく理樹はまた明日の朝すべてを忘れてまた別の人間と付き合っていた頃の記憶を思い出すぞ」

真人「しかも来ヶ谷から教えてもらった話から考えると次はたぶんクド公だ!」

恭介「確か能美の最後って結構ドラマチックだったよな・・・理樹が次にあったとしたら恐らく他の奴以上に愛をさらけ出すに違いない。バレるのは時間の問題だ!」

謙吾「理樹が部屋から籠っている以上、今はどうすることも出来ん。どう止める!?」

恭介「部屋に張り込むのは当然としても能美を求めて暴走した理樹を果たして俺達は止めることが出来るか!?」

真人「分からねえ・・・奴さんはあの時、俺達全員を倒したほどの男だぜ・・・」

恭介「よし!今から夜通しで理樹を止める作戦を考える!いいなお前ら!!」

真人・謙吾「「おお!!」」

恭介(それから俺達は数時間にも及び、ああでもないこうでもないと策を練った。すべてはリトルバスターズを、理樹を救うために)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・


・・・


次の日

チュンチュン

恭介「ううん・・・・」

恭介(さわやかな朝だ。さて今日も一日頑張るか・・・)

真人「んごご・・・」

恭介(ん?何故俺の足元に筋肉が転がってるんだ?・・・・ハッ!)

恭介「今は・・・ゲッ!もうこんな時間!おい、起きろ二人とも!」

謙吾「ふあぁ・・・まだ眠たいんだ・・・起こさないでくれ・・」

恭介「んなこと言ってる場合か!もう朝食の時間だ!今頃理樹は食堂にいるぞ!!」

すまん、えらく待たせた
続く(∵)



食堂

ガヤガヤ・・・

理樹「おはよう、みんな」

葉留佳「あっ、おはよー理樹君!」

佳奈多「・・・・おはよう」

小毬「お、おはよ~」

クド「ぐっともーにんぐ!なのです~!」

来ヶ谷「少年を野放しだと・・・?あれほど忠告したというのに・・・何かしくじったか?」

美魚「どうかしましたか来ヶ谷さん?」

来ヶ谷「いや、なに・・・」

理樹「・・・」

鈴「・・・どーした理樹、座らないのか?」

理樹「・・・うん、そ、そうだね・・・隣座ってもいい?」

鈴「変な理樹だな。いつも勝手に座ってるだろ」

理樹「・・・」



ダダダッ

恭介「理樹ーーっっ!」

真人「早まるなーーっ!」

来ヶ谷「来たかっ」

クド「わふー?」

恭介(理樹は、既に席に座っていた。一見なんでもない光景に見えるが、食堂に来ていると言うのになにも食べるものを持たずただうつむいて座っている。事情を知っている俺達からするとなにかしでかす前触れにしか見えなかった)

恭介「り、理樹・・・落ち着け、こんなところで告白なんてして何になる?ほら、もっとそういうのはムードのある夜とかにやるべきだろ!」

佳奈多「こ、告白!?」

葉留佳「えっ、もうこんなところで言うの!?」

鈴「やっとちゃんと言ってくれるのか」

美魚「なっ・・・わ、私は認めた訳じゃ・・・」

小毬「ほえ?どしたのみんな・・・」

来ヶ谷「・・・バカめ」

恭介「しまった・・・!」

恭介(大声で言ってしまったせいでリトルバスターズ(+何故か二木)にまで波が広がってしまった。こうなってしまっては何か決着がつかないと話を中断させて無理やり理樹を引き離す作戦が使えん!)

クド「ま、まさか理樹、好きな人がいるんですか・・・!?」

理樹「好きな人・・・?ああ、そうだね・・・」

理樹「みんなに言ってもしょうがないと思うけど、聞いてほしい。僕には好きな人がいるんだ」

謙吾「恭介!」

恭介(謙吾は理樹を背負って逃げるぞといったアイコンタクトを取ったが俺は首を横に振ることしか出来なかった)

恭介「手遅れだ・・・もう」

恭介(ここから先は理樹の愛の告白を聞くしかない)

理樹「その人とはある出来事から一緒に過ごすことが多くてさ、楽しいこともあれば辛いことも悲しいことも一緒に経験してきた・・・そして、そんな日々を過ごしているうちにその人が好きになったんだ」

真人「・・・っ」

謙吾「終わりだ・・・」

理樹「ずっとずっと好きだった。今だってこうして未練がましく心の中で想ってる!・・・でも、もうそれも終わりにすることにしたんだ」

全員「「「!?」」」

恭介「どういうことだ・・・?」

理樹「今日、朝起きたら頭が痛くてさ、その時ようやく自分の意識がはっきりしたんだ。そして、それと同時に僕はそんなになるまでずっと彼女のことを考えていたんだと」

理樹「僕はその人が好きすぎた。このまま好きでいるといつか壊れる。だからここでケジメを付けるためにも言うよ。もう僕はしばらく恋だの愛だのってやつはやめる。きっと彼女も分かってくれると思う」

葉留佳「り、理樹君・・・」

佳奈多「なるほど。”その人”を壊れる程愛してしまっているから落ち着くまでしばらく時間がほしいっていうことなのね」

鈴「仕方がないな・・・」

美魚「ほっ・・・」

小毬「よく分からないけど、理樹君辛そう・・・」

来ヶ谷「どういうことだ・・・?誰の時の記憶なんだ・・・?」

謙吾「そういうことか・・・」

恭介(謙吾がボソッと横で呟いた)

真人「何か分かったのか謙吾!?どうして理樹はあんなこと・・・」

恭介「もしかして理樹は記憶が全部戻って・・・」

謙吾「いや、違う。あくまで今までと同じような状態だ。ただ、理樹が思い出した世界は・・・例の奴のだ」

恭介「!!」

真人「・・・そういう・・・ことだったか・・・」

恭介「・・・道理で落ちこんでる訳だ」

理樹「・・・」

恭介(・・・・・・)

次の日



理樹部屋

恭介(その日、理樹はどうしてもしょうがない時以外はずっと簀巻きにされていた)

理樹「んむーー!!もごご!!」

恭介「ううーん今度こそ能美の日だったか」

真人「理樹をむりやり縛り上げるってのは心が痛かったが、まあしょうがないだろ・・・」

来ヶ谷「問題は明日だな。いったいどうなるのか分からない。もしまだ容体が回復しないようならもっといい病院に連れていくしか・・・」

謙吾「その辺は本当に明日まで分からないな」

来ヶ谷「そういえば・・・昨日の少年だが、いったいなにがあったんだ?」

恭介(来ヶ谷がそう言った瞬間、謙吾と真人が俺の顔を見た。判断は俺がやれということだろう)

恭介「・・・来ヶ谷、ええと」

恭介(と言ったところで来ヶ谷が言葉を遮った)

来ヶ谷「いや、やっぱり聞くのはやめておこう。上手く収まったのならそれでいい」

恭介「そう言ってもらえると助かる」

恭介(とにかくここまで来たら大抵の問題は片付いたと言っても過言ではないだろう。さっきも言った通り明日の理樹の状態しだいだが・・・)

次の日



理樹部屋

理樹「う、うわぁーーーーー!」

恭介(その日の朝、俺達はとんでもない叫び声に起こされた)

理樹「あ……あああ!!」

真人「どうした理樹!」

恭介(真人が心配し、慌ててベッドから飛び起きて理樹の側についた)

恭介「くそ、ダメか!謙吾、真人、もう一度簀巻きにするぞ!」

理樹「待って!」

真人「えっ?」

理樹「大丈夫・・・お、思い・・・出した・・・から」

恭介「思い出したってお前・・・」

謙吾「どうやら嘘はついていないようだぞ。見ろ理樹の顔を・・・」

恭介「うお・・・」

恭介(真っ赤だったおそらく本当に今まで自分がやってきたすべてを思い出したんだろう。見ているこっちが恥ずかしいレベルだった。もう言っている間にも涙目だし)

理樹「う、うう・・・いや・・・もう・・・むしろ簀巻きにしてください・・・」






恭介(こうして事件は今度こそ一見落着となった。一応そのあとの事を話すと、理樹はしばらくある特定の女子に対してまともに顔を出すことが出来なかった。もうしばらく俺や真人の背中越しでしか会話が出来ないといった有様で、まるで昔の鈴そのものだったな。まともなコミュニケーションが取れるのはいつになるやら。交流試合には間にあえばいいが・・・)



終わり

時系列的に来ヶ谷のトゥルーエンド版の記憶とさささルートは無くて申し訳ねえ

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom