鷹富士茄子「絶対に許しません」 (25)

プロデューサー×鷹富士茄子のSSです。
茄子さん総選挙の総合4位入賞おめでとうございます。

あらすじ
チャイルドスモックで幼児プレイしたり、流されてカーセックスしたり、子作りセックスしたりします。
実在の団体・個人とは、いっさい関係ありません。

※鷹富士茄子
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――私のこの喜びも、苦しみも、あなたのせいなのだから。
――責任とってください。じゃなきゃ、絶対に許しません。





外回りから事務所に戻った俺は、デスクに一枚の電話メモを見つけた。

「わぁ、局の方から私にオファーが入ったんですね! どんな番組だろう……楽しみです♪」

担当アイドル・鷹富士茄子が、俺がメモを見つけるのと同時に声を上げる。
『鷹富士茄子に番組のゲスト出演を頼みたい。詳細はメールで送った』
と書き残されていたので、メールボックスを開く。

番組名を見て、俺は頭を抱えた。

「あら、プロデューサー、何を……ちょっと見せてください。
 とときら学園――ああ、美城プロのテコ入れでやってるアレですね!」

俺の暗い内心と真逆で、茄子は明るい口調だった。



とときら学園。
十時愛梨と諸星きらりが先生(司会進行)役として、
視聴者から寄せられた悩みを生徒役のゲストと解決していくバラエティ番組。

だが「学園」という番組名と矛盾し、ゲストは幼稚園児じみた衣装に扮する。
これが背徳的な欲望をくすぐったのか――どうから知らないが、一躍話題となった人気番組だ。

しかし茄子のような成人済みアイドルにまで声をかけるとは。
ゲスト枠のチャイドルを使い尽くしてしまったのか。

「受けましょうプロデューサーっ。お悩み相談なら慣れてますし」

確かに、茄子はお悩み相談室的な番組を持っており、
茄子に悩みを相談すると必ず解決するとの評判をとっている。

「それに、一度お仕事でこの服を着てみたかったんです」
「本気で言ってるのか?」

茄子は机のそばに立って、舐めるように見下ろしてくる。

「まさか断るなんて言わないよね――パパに限って、ねぇ」

ローティーンに園児服を着せて番組を作る――このメールを差し出した狂気のディレクターも、
まさか思いもよらないだろう。



「またアレ着て、シたいですよね?」

アイドル・鷹富士茄子が、園児服でコスプレセックスに及ぶ女、などとは。



ところで、あの番組のディレクターは、茄子の園児服をどうやって用意するつもりなのか。

帽子は小さくても大丈夫だ。ワッペンとボトムスもなんとかなる。
だが妙齢の女性にあうサイズの、ライトブルーのスモックはなかなかない。
まさか特注だろうか。

「プロデューサーも、好きですよねぇ……♪」

俺はぴったりのサイズを用意できなかったので、スモックだけ茄子に作ってもらった。
両腕はだぶついているのに胸囲だけパツンパツンで、アンバランス極まりない。
幼児用の型紙を拡大したら、胸だけ合わなかったとのことだった。

「こーら、プロデューサーじゃないだろう?」
「わかりました……パーパっ」

目も輪郭も丸っこくて童顔な茄子が、甘ったるい猫なで声を出すと、
一回りも違わない彼女が、ほんの一瞬だけ自分の娘になった錯覚にとらわれる。

「ねぇパパ……幼稚園のお服、きつくなっちゃったみたいなの……見てくれる……?」
「んー、それはいけないな。どこがきついんだ?」

茄子が上半身をもぞつかせると、
チューリップ型の「かこ」と記されたワッペンが、胸の丘陵とともにゆさゆさ動く。

「えっとね、カコは……お胸が、苦しいの」
「それはいけないな、パパに見せてみなさいっ」

やり取りは完全に茶番だったが、茄子の姿は不釣り合いにいやらしかった。

小さく黄色い園児帽は斜めにかぶる。
スモックは丈が足りなくなっていて、膝丈のプリーツスカートとの境目の肌がチラチラ覗く。
スカートの下からレッスンで健康的に鍛えられた足がぐいっと延びて、
つま先は三つ折りソックスに収まっている。

「痛くないように、そーっと触るからな……」
「うん、パパ……」

双丘の麓を指で撫でると、スモックの丸首の間から、茄子がきゅっと緊張を孕む様が見えた。
ライトブルーの木綿に包まれたバストは、窮屈そうに布地を押し上げている。
下着をつけていないのか、もう乳首がうっすらと浮き出ている。

「んんっ……」
「どうしたの、苦しいの」

茄子の胸の輪郭をそっとなぞる。
それだけの刺激でも、茄子は吐息を漏らす。もみしだく必要などない。
こんな服装で愛撫を受けていると言うだけで、茄子を高ぶらせるには十分。
その火が吹き消えないよう、慎重にとろとろと育てていく。

「いやっ、それ、もっと、もっとっ」
「ここが、キツイのか?」
「んっ、ふぁっ、あぅうっ……!」

ぽてっと丘陵から浮き出た乳輪を中指で撫でると、茄子は唇を噛んで嬌声を押さえる真似をした。
木綿のざらつきごしに、体温がほのかに伝わってくる。それを薄く塗り拡げる。
スモックの繊維一筋一筋が茄子の肌に絡むように、丹念に擦る。



「苦しくないか?」
「そ、それぇ、パパっ、もっとくにくにって、してぇ」

茄子がスモックの裾を抑えながら胸を反らす。
布地がピンと張って、コリコリとした先端が陰をつくるほどくっきり浮き出る。
ツンと突き出た乳先は、俺の指を押し返すほどの弾力を得ていた。

「ここ、腫れてるなぁ。しっかりほぐさないと」
「あ、はぁ……♪ ち、ちくび、いいですっ」

汗の香りがしらじらと漏れ出ている。
茄子は胸も背中もふぅふぅと呼吸に揺るがせながら、体重を預けてくる。
そのじっとりと生暖かい重みをギュっと腕で支えしめつけると、
茄子は半分顔を隠した園児帽ごしに流し目を投げつけてくる。

「可愛いなぁ、茄子は」

それでも、まだかろうじて茄子は幼気な可愛らしさをまとっていた。
それをしゃりしゃりと踏み砕くように、スモックへ指を食い込ませる。

「あうっ、パパっ……もっと、ぎゅってっ」

着衣に包まれた乳房の膨らみは、背徳的なまでに豊かで、
思わず力を込めてしまう。なのに茄子は懇願混じりのため息で応じる。

「痛くないか?」
「痛く、して、せつないの」
「いけない子だな、茄子は」

茄子は頬がこぼれ落ちそうな笑みを浮かべた。
グラビア撮影より眩しい表情が後ろ暗い格好と、網膜に焼け残るほどコントラストを描いた。

「あっ、やっ♪ がりがりって! おむね、お胸がっ!」

これが皮膚だったら掻き壊してしまうほどに、スモックの生地ごしに荒っぽく乳首を責める。
ざりざりとした摩擦音が埃のように降り積もって、プレイに興じる余裕が曇っていく。

「胸が、どうなんだ――茄子っ」

スモックとプリーツスカートから延びる太腿は、今やグラグラと頼りなく、操り人形じみていた。

「も、う、ダメッ、わたし、お胸で、あ、あっ――」

操り人形の糸が切れて、茄子はがくんと上体をもたせかけてくる。
茄子は瞳を瞼の裏に見え隠れさせながら粗相を内腿に垂らし、ぱたぱたと足の間に雫をこぼした。

「いけない子だな、茄子は。お仕置き、してしまおうか?」

俺を見上げる茄子は、お仕置きと聞いても慄くどころか、白い歯を見せて笑いかけてきた。
どうやらこっぴどいお仕置きが欲しいらしかった。




◆◆◆◆◆

言い訳のようだが、俺は茄子と最初からセックスに及んでいたわけではない。
まして幼児プレイに興じるつもりなどなかった。

茄子は島根の古い神社を継ぐ家の娘で、上京して神職の資格をとっていたところを、
俺が渋谷の街角でスカウトした。今から2年ほど前の話になる。

『アイドルになれば、私の幸運をいっぱいの人に分けてあげることができるでしょうか?』

俺は最初、「幸運」という単語を聞き流した。
美人でありつつ丸っこくて人の良さそうな顔。服の上からでもわかるメリハリのきいたスタイル。
やわらかい印象の物腰――を見てスカウトしたのだ。それ以外は、あまり気にしていなかった。

しばらくして俺は気づいた。
茄子の幸運はオカルトじみていた。

『アイドルのお仕事で、みんなが幸せになってくださるのであれば、嬉しいですね!』

茄子が宣伝で訪れた場所は千客万来。紹介した商品はことごとくヒット。
そんなことが繰り返されるので、俺は茄子を開運アイドルとしてプロデュースした。
幸運の神通力は、意外と長く続いていて、今や茄子は女神のように崇められている。



アイドルとして(?)大成功を収めつつある茄子だったが、
プロデューサーとして一つ気にかかることがあった。

茄子はいずれ実家の神社を継がねばならなかった。
これは茄子の両親との約束だった。

茄子から芸能活動について同意を得てすぐ、俺は茄子とともに彼女の実家へ赴いた。
渋谷の喧騒とは程遠い、カエルや虫の鳴き声ぐらいしか聞こえない山の中だった。

茄子の両親は、ひとまず俺を面通ししてくれた。
父親はちょっと顔の丸い、人の良さそうな色男。白い狩衣がよく似合っている。
母親は良く言えば楚々とした、悪く言えば幸薄そうな女性。茄子は明らかに男親似だった。

『ほぉほぉ……茄子がアイドルに』

俺の説明を、父親の方は面白そうに、母親の方は胡散臭そうに聞いていた。これは珍しいパターンだ。
女性アイドルのデビューを説得する際、二親の反応が分かれることはよくある。
しかしたいていは女親が肯定的で、男親は否定的になる。茄子の両親は逆であった。

『血筋でしょうか。お父さんも昔、芸能界にスカウトされたことがありましたね』
『まぁまぁ、モテたからね。こう見えて』
『女運もたいへんよろしいですしね』
『またまた、僕は母さん一筋だよ』

茄子の母が、父をじろりと横目で睨んだ。
なるほど。彼女が妙に苦労人と見えるのは、モテる亭主を持つがゆえか。

『ところでプロデューサー君は、茄子の体質について知っているかい?』
『体質? 何かアイドルに支障をきたすご病気でも』
『いやいや、茄子はうちの事情もあって、ツイてる子なんだよ』

確かに、茄子は出会ったときから妙に幸運なところを見せていた。
クジのたぐいは必ず特等を当てる。仕事に出るときはいつも晴天。
宣材写真の撮影でカメラの都合が悪くなったときは、たまたま代わりのカメラを貸してもらえた。

このときの俺は「まだ」茄子を「なんとなく、めぐり合わせのいい子だな」としか思っていなかったが。


『ツイてるというのは、いいことばかりではありませんがね』
『禍福は糾える縄の如し、ですか』

母親は、まだ当たりが強い。

『幸運は妬みをうけます。私どものお社でお祭りする大国主大神様は、
 八上姫という美人の女神様と結婚するのですが』
『因幡の白兎で、兎を助けた優しさを見られていたのですよね』

当然このぐらいは茄子を通じて下調べしている。
俺が応じると、父親のほうは嬉しそうに笑った。

『その幸運を兄たちからねたまれて、熱した大岩をぶつけられ殺されてしまうのです」

赤猪(あかい)抱き、という逸話だ。
『古事記』にも記されている(茄子から教えてもらうまで、俺は知らなかったが)。

大国主大神(オオクニヌシ)は兄神から「赤いイノシシが突っ込んでくるから捕まえろ」と命じられた。
しかしやってきたのは、兄神が蹴落とした熱い大岩。大国主大神はひとたまりもなく死んでしまう。

『まぁまぁ、生き返らせてもらえるんだが』

ちなみに大国主大神はこの件で故郷・葦原中国(あしはらのなかつくに)を離れて、あちこちを放浪し現地妻を作る。

『その幸運を、アイドルとしてたくさんのファンに分け与えて欲しいのです』
『幸運を、分け与える?』

茄子にぶつけた口説き文句を、今度はその両親へぶつける。
あの頃の俺は、茄子の幸運について半信半疑だったが、
相手が信じているのであればそれに合わせて説得するまでだった。

『その発想は、僕にはなかったな。まぁまぁ、茄子が良いというのであれば』
『お父さんっ』

やっぱり、父親は乗り気である。

『ただ、プロデューサー君には二つだけ言っておく』

俺は父親の勿体に合わせて、せいいっぱい威儀を正した。

『うちの子は茄子一人だ。いずれこのお社を継いでもらう。
 茄子の幸運もいつかは失われるはずだ。そう長くは東京へやれないが、よろしいか?』
『承知しました。私が責任を持って、茄子さんの芸能活動を支えます』

俺はこの時、父親の言葉を深く考えていなかった。
まぁ、なんとかなりそうだろうと思っていた。

アイドルは長く続けられる稼業じゃないから、家業があるのはマイナスにならないし、
茄子をスカウトしたのは幸運とは関係ない。
幸運を当てにしなくても茄子は成功できる、と俺は確信していた。

『よいよい、君を信じよう。僕はスサノオ様じゃないから、娘を預けるのに試練は与えないよ。
 どうせ茄子が助けてしまうだろうしね』
『お父さんったら、まるで私とプロデューサーが結婚するみたい』
『そのぐらいの覚悟でいてもらわねば困りますよ』

母親は俺にも釘を刺してきた。
良くも悪くも、俺は茄子の父親と似た者同士のように思われたようだ。
茄子のアイドルデビューは、両親のお墨付きを得た。それからは、トントン拍子である。



こうした茄子の両親の信頼に、俺はできるだけ応えてきたと思う。
仕事を神社の娘にふさわしいもののみを厳選してきた。
なので、とときら学園のようないかがわしい仕事は、本来いれたくなかった。

が、ある意味それが原因で、俺は茄子と肉体関係を結んでしまったともいえる。




茄子を最初に抱いたのは、秋深まる11月。プロ野球の日本シリーズ最終戦の日の夜だ。



『スターの球団の皆さん、優勝をお祈りしていますからね!』

なぜそんな覚え方をしているのかというと、俺がその日の茄子に、
日本シリーズに出場した「スターの球団」を応援する仕事を入れていたせいだ。

うちの事務所と「スターの球団」の親会社は関係が深く、定期的にアイドルが球場に来て華を添えていた。
今回は特に験を担いだ先方から、茄子のご指名があった。

『ヤマサキ投手! いつも応援してくださってありがとうございます。
 今夜はきっと、あなたが胴上げ投手になって、日本一になれますよ!』

球団一の茄子のファンは、チームの抑え投手らしい。
大一番の前にカチコチに緊張していたが、茄子に手を握られるとデレデレしていい感じに脱力していた。
彼が調子を落とし気味ということで、監督が気遣って茄子を呼ばせたのだそうだ。
さすがはリーグを制した監督だ、選手の心によく目を配っている。



試合は「スターの球団」が1点リードで、9回裏を迎えた。
ヤマサキ投手がリリーフカーでマウンドへ――しかし、素人目の俺にも、制球が安定していないとわかる。
フォアボールで無死一塁。次のバッターは甘い球を幸運にも打ち損ね――しかしライト前に落ちるポテンヒット。
シーズンではセーブ王になったこともある守護神が、泣きそうな顔でスコアボードを見ている。

タイム。投手コーチが駆け寄る。けれど、ここで交代されるようならクローザーではない。
無死一三塁。外野フライで同点、サヨナラ勝ちのランナーも出た。相手チームは勢いづく。

『だいじょうぶです! ど真ん中行ってください!』

関係者応援席から、茄子が大声をかける。
が、こんな状況でど真ん中など投げられるわけがない。

サイン交換、捕手はアウトローに構え――ヤマサキ投手が失投、ど真ん中に球が浮いてしまう。
鋭いスイングが一塁線を襲い――しかし一直、一塁ランナー戻りきれずダブルプレー。
球場に安堵と失望のため息が行き交う。二死三塁。スターの球団のベンチから選手が身を乗り出す。

『日本一まであと一つですよ! きっと勝てます、信じてください!』

相手の球団は代打の切り札を出してきた。
ヤマサキ投手が低めの直球で入る――しかしリードを読まれたのか、バットが一閃。
乾いた打球音が夜の浜風を切り裂き、打球はカクテル光線に溶ける。サヨナラか?
沸騰する相手チームの外野席に向かって放物線が延びる――しかしポールの根元、わずかに切れてファウル。

茄子が立ち上がる。

『次、次、行けますよ!』

セットポジションから投げ込まれた次の一球は、低いライナーでヤマサキ投手を強襲。
しかし彼の差し出したグラブに当たって弾かれ、白球は二塁手の正面に転々とする。
二塁手が捕球し一塁へ送球、アウト。セカンドゴロでゲームセット。
ヤマサキ投手は胴上げ投手となった。



ビールかけの間、インタビューに行った茄子は、まるで勝利の女神のように崇められていた。

『いやいや、私の力じゃありませんって、皆さんの努力のおかげじゃないですか』

茄子は笑った。選手も笑った。
茄子の笑いは、選手がビール酔いを深めるに連れて、苦くなった。

『すみません、鷹富士はそろそろ……』

俺はガタイのいい選手たちの渦に割り行って、溺れそうになりながら茄子を連れ戻した。
選手たちはよほど勝利の美酒に興奮していたのだろう、
俺と茄子が輪から離れる頃、俺たちは選手たちに負けないぐらいビールまみれになっていた。



『あはは、プロデューサー、まるで私のおかげで勝てたみたいに言ってますよ。不思議ですねぇ』
『茄子がまるで予言したように勝ったからなぁ』

歓喜に湧く横浜の町並みを、どうやって出たものか。
ひとまず球場の関係者駐車場にある社用車に戻り、シートに着いて暖房をかける。
が、ビールを浴びたせいで運転はできない。外の人だかりのせいでタクシーも呼べない。
俺たちは地下で、歓喜のとどろきにのしかかられていた。

『プロデューサーがそんなことを言うんですか。
 私をこんな風に仕立て上げた張本人じゃありませんか。これもラクじゃないんですよ』

助手席の茄子は口調を尖らせる。

『茄子のおかげで幸せになれた、っていうんならアイドル冥利じゃないか』

茄子は「あなたのせいで、みんなが私の幸運にすがっている」とでも言いたげだった。

『ファンから幸せにしてくれってすがられるのが、アイドルだろう。
 そう仕向ける側の俺までそうなっちゃ――なり切っちゃいけないのも、確かだが』
『いやいや。このままだと、あなたまであっち側のヒトになってしまいそうで』

ここ最近の茄子の崇められっぷりは――俺が仕向けたこととは言え――
アイドルというより、新興宗教の教祖のようになっている。

『なっちゃ、いかんのか』
『あなただけはダメですよ。知ってるでしょう? 私の幸運、永遠ではありませんよ』

茄子は、幸運ゆえに自分のアイドル業が成り立ってるのでは、と思ったのか。
たとえそうだとしても、幸運が尽きたらアイドルを辞める潮時が来ただけ、と俺は勝手に思っていた。

どうせ、茄子は神社を継がねばならないのだから、いつかは芸能界から去っていく。
いつか失われるなら、それまで精一杯利用させてもらわねば。

『たとえ一時でも、茄子の幸運がみんなの幸せになるなら、いいじゃないか』
『確かに、それを嬉しいと言ったこともありますけど』
『今夜の件で、あっちの球団のファンからいろいろ言われるだろうが、あまり気にするな』

茄子の幸運体質は、どうしても嫉妬を免れ得ない。
それなら幸運を分け与えて、嫉妬される以上に、崇められることができるならばいいじゃないか。
俺はそう都合よく考えていた。



『あなた幸せそうね、とは今まで何度も言われました。
 でも、君は人を幸せにできる、と言ってくれたのはあなただけなんです。
 確かに、私はプロデューサーのその誘いに乗りました。アイドルとして、それを楽しみにもしました』

運転するつもりがなかったので、俺も茄子もシートベルトをしていなかった。
茄子は助手席から俺の方に身を乗り出してきた。

『でもね、幸運がじきに失われるとしたら、どうでしょう』
『失われるって、どうして』

このときの俺は、茄子の言っていることが理解できなかった。

『あなたのおかげで、あなたのせいですよ』

いずれ幸運が失われることは聞いていても、なぜ失われるかは聞いていなかったから。
そして茄子は、俺に「なぜ」とは問わせなかった。

『アイドルとして、他のヒトの幸せを導けるのは嬉しいことです。だから、あなたとやってこれた。
 でも、幸運じゃなくなったらどうなるでしょう? それを考えると……』

茄子が勝つといえば必ず勝つ、売れると言えば必ず売れる。
今までそれにプロデューサーとして寄り掛ってきた俺に、疑問は許されなかった。

『私の幸運が失われたとしたら、きっとみんな離れていくでしょう。
 それは、まぁいいです。わかっていることだから。けれど、あなただけはダメ』

茄子はアイドルとして、プロ野球選手がプレッシャーで押しつぶされそうなほどの人数の期待の目を、
いつも浴び続けてきた――ひょっとしたらそれ以上かもしれない。
それを、俺はプロデュースの賜物として、さっきまで誇りに思っていた。

『私のこの喜びも、苦しみも、あなたのせいなのだから』

それは喜びであると同時に苦しみであった――茄子はそう告げてきた。
俺は反論を許されなかった。プロデューサーは裏方で、あの視線の重みを知る由もないのだから。

『責任とってください。じゃなきゃ、絶対に許しません』

茄子は俺に一蓮托生になれ、と迫ってきた。
お前はただ幸運にすがり利用するだけではいや、と。

プロデューサーから見て代えの効く担当アイドルの一人ではなく、
もっと重い立ち位置をよこせとねだってきた。

それをこの場で手っ取り早く証すのが、茄子を抱くことだった。



この4ドアは会社の営業車だから、茄子と仕事で乗り回したこともある。
茄子が仮眠のために持ち込んだ丸く大きなナスのクッションを、後部座席と背中との間に敷かせる。
たいがい二人きりの空間であった。地上は、まだ美酒に酔った人々がさざめいているようだ。

対して地下駐車場は晩秋の夜気にひんやりと沈んでいる。
車のエンジン音は小さなさざなみとなって静寂を乱す。俺は辺りをはばかって車中の灯りを消した。
それでも駐車場のライトが茄子の肌と服とをうっすらと照らして見えた。

狭いシートの中に身を寄せ合う。
茄子の衣服はビールの苦味と、それ以上に酔いを誘う甘い汗の味がした。

代えの服があるかと聞くと、茄子は『もうありません♪』と軽い口ぶり。
予備は一着だけ用意してあったが、ビールまみれにされて使ってしまった。
そうして茄子は俺のタイピンとネクタイを外してくる――『あなたもどうせ、ないでしょう』と。
『どうせなら、脱がせ合ってみませんか』――こんな手足も伸ばせないところで、ムチャを言ってくる。

『今はまだ、ムチャしても見つからずにいられますって』

茄子は大げさに体を振って、わざと車体をギシギシ揺らす。
幸運だから見つからないという確信か、あるいは見つかってしまえという開き直りか。
慌ててのしかかって押さえると、茄子は喜々として俺の耳に吐息を吹きかけてきた。

『もっと近くに……ドキドキ、しちゃいますね』

公称88のバストの弾力が俺を押し返し、意識が呑まれる。
シートと俺と衣擦れに紛れて唇を奪われる。
ナスの煮浸しみたいにちょっとしょっぱくて柔らかいなと思ったら、
顔に出てしまっていたのか、茄子に頬をつねられた。

『それなりに長い付き合いですもん。暗くたって、こんな近くならわかりますよ』

開き直った俺が舌を差し入れると、茄子は歯で甘噛みしてきた。
エナメル質の滑らかさとざらつきが混じった感触が、味蕾を痺れさせてくる。
現役アイドルをプロデューサーとして犯している。やっとその自覚が出てくる。

茄子の胸に手を寄せると、彼女の呼吸が変わる。肩口の肌がよれて、鎖骨の脆そうな硬さが浮き沈みする。
照明やレンズに曝しているそれとはまったく別の、熱っぽく汗ばんだ柔らかさを手のひらに抱く。

『プロデューサーも……触りたかったんでしょう?』

茄子はこれみよがしに首をのけぞらせて、膨らみを俺に押し付けてくる。
上着も下着もよれて、今見つかったら既にごまかせないだろう。
しなやかなウエストが、肋骨を感じられるほど強く当たってきて、反動を受けたクッションがふわりと空気を漏らす。

開き直って、下着と胸との間に手を突っ込むと、茄子から媚びた喘ぎが漏れてくる。
それが可笑しいながらも興奮は収まらず、手のひらから指の腹まで体温に埋めさせる。

『んんっ……プロデューサーったら、乱暴なんですからっ……』

柔らかい重さが、そのぶん快楽になった。
少し強張った先端を探り当ててそこをいじると、茄子が声を跳ねさせて追い打ちをねだってくる。
愛撫を重ねると、だんだん茄子の甘ったるさがビールの酒気を押しのけていく。

『ひあっ、んぁ、ああっ……あはっ、シちゃうんですね……♪』

頃合いを見た俺は、天井に背中をぶつけながら――痛みは感じなかったが、派手な音はしていた――茄子の体を開かせた。
茄子は俺に組み敷かれていながら、俺を見下ろすような目遣いで両腕を回してくる。



『プロデューサーが興奮してるの、直接触らなくても分かっちゃってますよ』

茄子と事に及ぼうとしている俺は、すべて手のひらで踊らされているのだろうか。
快楽にいいように乗せられて――なぜ乗せてくるのだろうか?――そんな気がしていた。
それが俺の罪悪感をちょうどよく薄れさせた。茄子のせいでも、ある・

『入れて……くれますよね?』

俺はにやけた。茄子もきっと笑った。
茄子も、楽しめないぶんの重みは俺に押し付けているだろう。
二人だとそういうことが出来てしまう。

『今更ダメって言っても聞かないからな、茄子』
『スキですよ、プロデューサーに呼ばれるの……もっと、カコって呼んで』

俺はじりじりと焦りながら、茄子の腿にペニスを押し付けた。
茄子が腰を浮かせてくれる。

『ゆっくりで……いいじゃないですか。せっかくなんだから、長く楽しみましょう』

それでも俺の焦燥は半分くらい残った。
狭く暗い視界で、触覚と茄子の反応だけを頼りに合わせて、ようやく辿り着く。

『プロデューサー……好きって言って、茄子って呼んで』

茄子のそこはぬるりと湿っていて、もう入れても支障なさそうだった。

『好きだ、茄子』

それでも、入れる前に言っておかなければならない気がして、茄子にささやいた。
茄子は俺に回してきた腕に力を込めて、俺は引きずり込まれるように腰を沈めた。

『言いながら、されると、ダメに、なっちゃうっ』

俺は車の狭さでろくに動けない代わりに、一突きごとに茄子の名を囁いた。
腰をぐりぐりと押し付けながら『好きだ』と声を上塗りした。
それらを繰り返すたびに、茄子の声は高く低く波打って、体は脱力と緊張を行ったり来たりする。

その往復のたびに、もうただのプロデューサーとアイドルには戻れないと自覚がじわじわと広がって、
心臓が重くなったが、その重さは暖かく、柔らかく、心地よいものだった。

茄子の中にキュッと引き締められて、熱とともに射精感がちらつく。
茄子の声は苦しげに切れ切れに、そのクセもっともっととせがんでくる。
肌と骨が食い込み合って、衝動に押しつぶされ一塊になってしまう――そうなってしまえと開き直る。

『ああうっ……も、もう……プロデューサーっ、わたし……』
『茄子――茄子っ、俺は……っ』

抜き差しも腰も辺りを気にしないで打ち込む。頭を派手にぶつけて目端に火花が散り、
それさえ茄子の中に一瞬で溶けていく。茄子を貪るだけの存在と化していた。

『あ――ふぁっ、あっ、あああっ!』

茄子の嬌声が何度か五線譜を突き抜けたあと、堪えきれなくなって射精した。
欲望を解放した。してしまった。茄子は俺と同じぐらいの間隔で、しばらく肩や胸を喘がせていた。

車が一台、エンジンの音を撒き散らしながら、近づいて、何事もなく遠ざかっていった。
隠さなければという気持ちもなかった。幸運だと感じる余裕もなかった。

『ねぇ、見つからなかったでしょう……? だから、もっと……♪』

茄子の声を引き金に、俺は抽送を再開した。

夜明けになる頃、クッションは無残にほつれ、
シートは俺たちの汗を吸ってじっとり重くなっていた。

それが茄子との関係の始まりだった。




アイドルとプロデューサーがセックスするのは、職業倫理上のタブーと分かっていた。
しかし茄子から「あなたが私をアイドル――あるいは女神もどき――にしたせい」と言われると、
不思議と自分自身に「しょうがないか」と違和感なく言い訳できた。

言い訳に慣れて、俺は茄子に溺れた。

茄子はアイドルとして女神のように崇められるほど、
それにふさわしくないセックスをしたがった。

セックスは、彼女が「幸運の女神ではない」ことを、
そして俺が「女神にすがる信者ではない」ことを、お互いに示す儀式だった。

だから、園児服でのコスプレセックスは――俺の趣味がエスカレートした結果ではあるが――
茄子の希望もちゃんと含まれている。

無論、俺に下心がなかったとは言わないが。



◆◆◆◆◆

スモックごしの胸責めで粗相した茄子を四つん這いにさせ、プリーツスカートをめくり上げる。
禁汁が張り付いた下着は、真っ白で大ぶりのフリルがついていた。
こんな子供っぽいデザインで、よく茄子の尻を収めるサイズがあったものだ。

「ねぇ、パパ、おしおき、するの……?」

俺は上に突き上げられた腰骨を、ぽんぽんと軽く叩いた。
大きく張り出した安産型の骨盤はゆったりと構えていて、
さきほど失禁した時の心細く震えていた太腿とは、同じ下半身なのに大違いだ。

「するぞ。泣いてもダメだ、この体に、粗相をしたらどうなるか、わからせてやる」

そのまま手を下げると、つきたての餅より柔らかくコシの強い尻肉を押し付けられる。
ただその感触は餅と違って一様ではなく、芯に深く指を食い込ませるほど強く反発される。

「怖いか?」
「ううん、カコは、パパにされるのなら、すき」
「お仕置きなのに、すきになっちゃいけないな」
「でも、カコはぁ」

甘えた声を遮って下着を下ろすと、臀部に対して慎ましい恥丘を見ることができた。
白い内腿から、恥じらうような薄茶のグラデーションがぴったりと閉じた女の入り口を彩る。
陰毛は産毛が濡れてきらめくぐらいしか見えない。
念入りに処理しているのか、それとももともと薄い体質なのか。
どちらにせよ、そこだけはスモックにふさわしい有様だった。

「ふぁああっ、ゆ、ゆびぃっ」

指を入れるとそこは、茄子のどこよりも熱くどこよりも潤んでいた。
中指を突っ込んで、親指と挟んで内と外から擦り上げ、クリトリスとともにこね回すと、
こちらも指を舐めしゃぶられている気分になるほどグニュグニュと反応する。
茄子は細い息をたなびかせ、膝をこすり合わせて下着をくしゃくしゃにした。

「もう粗相しないように、出し切っておかないとな」
「ひぁあ――あっ、んんんっ!」

クリトリスの裏側の壁を、指紋がつけばいいなぁと思いながらべたべた触っていると、
茄子の声は宙に糸を引く悲鳴に変わる。いやいやをするように頭を振る。お仕置きらしくなってきた。

「やあ! あああっ!そこだめぇ! でちゃうの! パパっ、でちゃう!」
「そうか――茄子は、いけない子だ。本当に、いけない子だ」

詰ってやると、茄子は尻の谷間も太腿もビクンビクンと震わせ、
腰を突き上げながら潮を噴いて雫で膝の間を叩いた。失禁のときよりもだいぶ景気がいい。

「と、とめてえええ! やだやだやだああぁ!!」

お仕置きなので、俺は快楽に逃げ回る茄子の尻を空いた片腕で拘束し、
腰ごと抱えあげてさらに膣責めを続ける。俺の腹や顔にまで生暖かい飛沫が散り広がる。

「あああああ!! いくいくいくぅぅぅううう!!!」

まだ指は止めない。茄子は両足が制御不能らしく、
跳ね回ってこちらが押し止めるのも苦労するほどだが、
俺も意地になってむしゃぶりつき続ける。

「やらぁあっ! こわれ、こわれ、ちゃううぅうっ!」

プリーツスカートとスモックは、涎に汗に涙に、愛液と潮……
とにかく茄子の体液のなにやらで半分くらい色が変わってしまっている。
スモックなら洗えば済むだろうが、プリーツスカートはもうダメかもしれない。

まだまだ茄子の秘所はじゅくじゅくと途切れ途切れに雫を散らし続けた。
さらにしつこく愛撫を続ける。くねくねと暴れる下肢を押さえつける。
悲鳴が鋭くなる。さらに責めを重ねる。指でくじる。爪先で引っ掻く。指と指の間で挟む。指関節で押し込む。

しばらくして指を抜くと、茄子は女陰をぱっくりとだらしなく開いたまま崩折れ、背中と腰を微痙攣させた。



こんな痴態を見せつけられて、俺のペニスは触れられずとも勃起ではち切れそうになっていた。
二目と見られないほど乱れきったチャイルドスモック姿の茄子にのしかかる。

「パパ……シちゃう、の?」

俺は唐突に、とときら学園に出演した茄子を想像した。
自分でも呆れるほどの優越感がこみ上げてくる。
茄子のスモック姿は世に拝ませても、それを穢せるのは俺だけなのだ。

「もう止めてほしいか?」
「やらぁ。シなきゃ、だめぇ」

茄子も余裕を取り戻してきたのか、頬を膨れさせて俺を睨んできた。
もう幸運もアイドルも、仕事もプロデューサーもあったものじゃない。

「む、くっ……ふぅう……♪」

俺は茄子の上半身をねじらせて唇を奪い、同時に挿入した。
そんな器用なマネはやったことがなかったのだが、
なぜか吸い寄せられるように自然に茄子の中へ入り込めた。

腰の動きは激しく出来ないが、そのぶん探り探り、ペニスで舐めるように、茄子の膣内を味わえる。
丸々と優しげな外面に似合わないキツさと肉襞で、俺を圧搾してくる。
スローな抽送を繰り返す。ぬちゃん、ねちゃんと水気が肌に触れる。
それを熱と粘膜と絡めてゆっくりとかき回す。お仕置きあとの慰めのようなセックス。

俺はペニスが少しでも抜けてしまうのがとても惜しく感じられて、
茄子の中に深く突っ込んだまま、奥の奥を右往左往した。
空いた手で茄子の園児帽をずらし、熱演をねぎらって頭をなでてやった。
とにかく茄子と1ミリでも広く密着していたかった。

抽送の代わりに、俺はもう片方の手を茄子の下半身に這わせる。
茄子の下っ腹ごしに自分のペニスの硬さを感じ取ると、本当に茄子と一つになっている実感が湧く。

クリトリスを軽く上から弾いてやると、不意の刺激に腟内がキリキリと締まる。
舌がわなないて、唇ごしに喘ぎを飲まされる。
あれだけ茄子に近いステージマイクでさえ拾えない、淫らな声。
それが俺の口粘膜から入って頭蓋にジトジトと響く。

茄子の中は俺を収縮したり捻転したりして急き立てる。
俺はそれをゆるい抽送で宥める。

このまま茄子と絡み合ったまま溶け果ててしまいたい。
精液どころか脳髄までビュッビュッと射精して頭を空っぽにしたらどんなに幸せだろうか。
全部茄子にゆだねてしまえば――その妄想は極楽で、それはきっと茄子にすべてをすがる人の安堵と同じだった。

けれどペースは次第に茄子へ引きずり込まれる。夢うつつの俺を茄子が足腰で窘(たしな)めてくる。
ぐいぐい押し付けられ、ねだられる――『あなたはこっち側ですよ』――そうだ、俺は茄子と一緒だった。




骨の半分抜けていた腰にカツを入れ、両手で茄子の尻をがっちりとホールドする。

「え、ふへ……もう、逃げられませんね……♪」

逃げられないのは、茄子のほうか、俺のほうか、それとも。
黄色い園児帽に半分隠れた茄子の顔は、年相応の妖しさで濡れて俺を照らす。

満身の力を込めて茄子に突き入れる――パンッ、と威勢よくやったつもりが、
肌と肌がしめっていて、オマケに骨と骨同士がぶつかって、グツっと鈍い音。
ただそんな不格好なストロークさえ、茄子は具合が良いようで、玉の汗を背中で行き来させる。

「茄子……っ、カコ……っ」

口が空いたので、茄子の名を唱える。
幸せの合言葉か、地獄の釜を開く呪文か。どっちでも良かった。

ただ茄子の名を呼べば、茄子が応じてくれて、茄子が自分のものである気がした。
茄子は上の口で園児帽を噛みながら、下の口で俺の声を催促した。

茄子の名をつぶやきながら奥底を叩く。そういえば、コンドームをつけた記憶がない。
このまま出したら、茄子は妊娠してしまうかもしれない。
茄子は幸運だから、孕まずに済むだろうか――あるいは孕んでしまうだろうか。

どっちにせよ、ここから引く気力も理性も俺には残されていなかった。
やっぱり脳髄まで茄子に吸われてしまった気がする。もうすべてどうでもよかった。

「茄子……も、う、いくっ……」
「プロデューサーっ」

俺はガクガクと腰砕け寸前になりながら射精した。
茄子の背中に倒れ込みそうになって、すんでのところで両手をついて体を支える。
が、間もなくその力も失われて、俺は茄子の上に体を横たえた。

「……すまん」
「いいえ、別に、むしろ、もっとこのままで」

俺は最後の気力で、茄子の体からずりずりと横に落ちた。
茄子と目があって、そのまま視界がぼやけていく。

「プロデューサーは……私が幸運でなくなっても――」

そこから先は、聞き取れなかった。



なお、とときら学園のオファーは受けた。
そしてそれがアイドル・鷹富士茄子の最後の仕事となった。

番組放映後まもなくして、茄子の妊娠が発覚したのだ。





茄子は、世間には真相を伏せて「実家を継ぐために勉学に専念する」との名目でアイドルを引退した。
俺もプロデューサーを辞めさせられた。

事務所は、茄子だけは辞めさせたくなかったらしいが、
茄子が「この子を堕ろせと? 何があっても知りませんよ」
と口にすると、みんな引き下がったらしい。触らぬ神になんとやら。

『もう茄子には、生き神じみた幸運はないだろうに』
『どうして、私が幸運でなくなったと思ったんですか。子供ができちゃったから? それがバレちゃったから?』

特に根拠はなかった。
ただ俺はかつて『でもね、幸運がじきに失われるとしたら、どうでしょう』と茄子から聞いていた。
それで『いつか幸運はなくなるものだ』と思っていた。

『確信はない。ただ、茄子がもう幸運体質じゃなくなってるほうが良いな、と思ってるだけだ。
 その方が、もうソレ目当てのお邪魔虫が茄子に寄ってこないから』
『あなた、自分がさんざんソレ利用してファン集めておいて』

茄子は破顔した。

もし、幸運にすがらないアイドルとして茄子をプロデュースできていたら、
こんな末路に――と考えて、やめた。そんなことを考えたら、それこそ茄子は俺を許すまい。

『そんなことより、茄子とこの子を食わせていく仕事を探してくる』と俺が言うと、
茄子は『幸運がなくなっても、それは心配ないですよ』と返してきた。



俺は、神職となるため勉強して茄子の母校に入った。
通学中に見た渋谷の街は、茄子をスカウトしたときと変わらぬ喧騒に包まれていた。

神職の世界は狭く、俺と茄子の醜聞は大学の教授にも学生にも知れ渡っていた。
斯界の名家に手を出しやがって、という視線をひしひしと感じたが、
ある意味で茄子が浴びてきた嫉妬と似たものだと思えば、むしろ心地よかった。

卒業して島根に帰ると、茄子と義父母と、アイドル引退のキッカケとなった娘が迎えてくれた。
あれから東京に何年もいたため、娘に顔を忘れられてやしないかと心配したが、杞憂だった。
茄子が写真や動画で俺の顔を見せていてくれていたらしい。

俺と茄子は鷹富士家の近くの空き家を借りて、神社の仕事を手伝っている。
神社は、茄子の全盛期ほどではないが、田舎にしては賑わっていて、それなりに忙しい。
商売繁盛のご祈願が激減し、代わりに子宝のご祈願が増えた。人の口には戸が立てられないようだ。



幸運体質とは、ご祭神・大国主大神様が、神社の守り人を受け継ぐ鷹富士家に対し、
家が断絶しないよう一族のもっとも若い者を対象に与えるご加護らしい。

『あなたからは、それ以外の幸運の使い途も教えてもらいましたけどねっ』

それゆえ、俺と茄子の間に子供ができた瞬間、茄子の幸運体質は俺との子に移った。
それで茄子が幸運を失って、俺たちの関係が露見し、芸能界を去ることになった。
確かに、あの業界にいると子育てはやりにくい。
俺たちがこの神社に戻るほうが、娘にとっての幸せなのだろう、

俺はようやく、義父母に最初に言われた言葉を理解できた。
「いずれ社を継ぐ」のと同じく、茄子が「幸運体質を失う」のも鷹富士家では既定路線だったのだ。


理解するのが遅すぎて俺の人生まで変わってしまったが、もう気にしなかった。
茄子と出会ってここまでこれたことが幸運だと思えた。
この幸運、茄子にも負けない自信がある。




お義父さんとお義母さんの手伝いに少し慣れてきた頃、俺は茄子に聞いてみた。

「なぁ、弟や妹ができたら、幸運体質がそっちに移って、あいつは悲しむかなぁ」

すると茄子は、

「私は幸運じゃなくなっても幸せですので、あの子もそう思えるようにしてあげましょう!」

と返してきた。



俺は次の休日、茄子と娘を遊園地へ連れていき、家族三人でたっぷり遊んだ。
その夜、娘は俺の目論見通りに深い寝息を立てていた。

「これからは夜の家族サービスです、旦那様♪」
「オヤジギャグみたいだぞ」

そう言いつつ、茄子は頬を上気させていた。
久しぶりのナマセックス宣言に、服を脱ぐ前から興奮しているのか。

「あの子も少しは手が離れてきて、そろそろ二人目を作っても良い頃ですものねっ」

夫婦の寝室。茄子はアイドルの衣装でもチャイルドスモックでもない、ネイビーのラフな寝間着。
その暗色がくつろげられて、豆ランプの橙色の光にぼうっと茄子の白い肌が浮かび上がる。

「アイドル時代と比べると、ちょっとだらしないかもしれないですけど」
「今のがいいさ。なにせ、俺がそうさせたんだから」
「……だらしないってとこ、否定してくれないんですね」

茄子はぷいっとむくれてみせた。茄子はハラリと寝間着を布団へ落とした。
むくれるだけの努力の跡が、茄子の曲線美を縁取っていた。

「減らず口叩くと、もっとだらしなくさせるぞ?」
「冗談です。いくらなんでも幼稚園児プレイよりは、だらしなくないでしょう」
「こいつーっ」

もうあんなモノ、なくったっていいんだ。

いや、たまのスパイスには欲しいかなぁ。



「ほーら、あの子を育てたおっぱいで、シて欲しいですか?」

茄子の挑発が弾んでいるのと同じくらい、俺のペニスにも調子づいて血が流れ込んでいた。
現役時代よりむっちりと重くなったバストが俺に向けられる。

「シてもらいたいけど、その前に手で触らせて欲しい。手が触らせろって言ってる」
「どうぞどうぞ♪」

一人の授乳を経た茄子の乳房は、果実でたとえるなら、
青く瑞々しいリンゴから、どっしりと熟れたマスクメロンへ変貌していた。

授乳時には見えていた静脈や乳腺は、橙色に照らされた肌の中に溶けているが、
ツンと蔕(へた)のように飛び出た乳首は、今にも乳を染み出させそうだ。
俺は女の色気とともに、母性への畏敬の念を抱いて、童貞のような気分で茄子の稜線に触れた。

「んっ――久しぶり……あなたの、手っ……」

大きな膨らみがかすかに上下し、鎖骨の周りの肌肉も連動して陰をうつろわせる。

ゆっくりと、茄子の呼吸を測りながら、温かい果実に指を沈ませる。
柔らかい中にも深いところにコリっとした土台らしき感触がある。
乳腺か、胸筋か、肋骨か、深くてよくわからないが、
そこをクイクイとやると、茄子は切なげな呻きを漏らす。

「痛いか?」
「心臓とか肺まで、掴まれちゃってる感じです」

俺は茄子の左胸に頬を寄せた。
耳では聞こえないが、肌と肌が重なっているところでは、茄子の心臓の鼓動がする。
そのまま乳首を口に含む。

「んあんっ……赤ちゃん、みたいっ……」

茄子がからかいながら俺の頭を優しくなでてくれる。
蔕は周りの肌より少し色が濃くて、舌先で撫でると甘じょっぱかった。

もう茄子の乳も俺だけのものじゃないんだなぁ――という呑気な感慨と、
これから俺の種で再びこいつをミルクタンクに作り変えてやる――という妙な征服欲が、目の前をぐるぐる取り巻く。

「吸って――噛んで、もっと、強く……っ」

茄子のおねだりに従って、味蕾のざらつきで乳輪を摩り、前歯で乳頭をいじめてやる。

「はぁうっ、んんぁあっ、あな、た――っ」

胸を吸っていると安らぐ。嬌声を聞いていると興奮する。
どっちがどっちやら。とにかくこのまま茄子を貪っていたい。

「はぁ――あ、っだ、めっ、ちくび……お胸、気持ち、よくて、私っ――」

茄子が俺を退けようと手を寄せてきて――それを俺は自分の手で阻む。
舌でしごく。唇で変形するほど挟む。吸い立てる――不意に、息ができないぐらい強く肌を押し付けられる。
茄子の早鐘が頬にキスしてくる。押し殺した喘ぎが頭上からハラハラと舞い落ちてくる。



「胸だけでイっちゃうなんて、淫乱みたいです……恥ずかしい」

そういいつつ、茄子は俺の頬を指でツンツン突いて「あなたのせい」と責任転嫁してきた。
こんな責任ならいくらでも引き受けたい。

「こんなイヤらしい胸になったの、旦那様のせいですよ……」

茄子は目を爛々と輝かせて、既に天井を向いていた俺のペニスを胸で包み込む。
茄子の唾液やら汗やら、俺の唾液やら汗やら先走りやらが、ヌメヌメと塗り拡げられていく。
圧倒的な乳圧で陰茎を抱かれるのと、乳先で肌をくすぐられるのがたまらず、俺は腰砕けになってしまう。

「出しちゃ、ダメですよ……せーえきは、私を孕ませるためにとっておいてもらわないと」

そう言いつつ、茄子は俺の堪え性を試すかのように、ズッズッと紅葉合わせ。
フェラチオや膣交に比べれば、刺激は平面的で単調である。
だが、女としての象徴を奉仕に饗させているシチュエーションが、俺を仰け反らせる。
射精どころか、ペニスそのものを根元から持っていかれそうだ。

「まぁ、もし弾切れしても、山芋とかオクラとか鰻とかおいしく食べさせて、元気にさせてあげますから♪」

たまらない。完全に茄子の所有物にされている。
女のシンボルを奉仕に饗させている――逆じゃないのか? 男のシンボルを征服されているのでは?
どちらでもよかった。どちらも両立しているんだ、きっと。

「安心してくださーい。あなたの気持ちいいように」

俺は茄子のパイズリに屈した。陰嚢が痺れ、欲望をぶっ放した。
今晩の第一射は茄子の頸や顎を叩いて弾け、
また茄子に当たらず反れたぶんは布団の向こうの畳まで飛んでしまった。

「んあぁあっ――わぁっ! すごいっ、こんなの初めてじゃありませんか?」
「茄子と最初にシてから、ここまで溜まってたことはなかったからな……」

茄子は俺の勢いと飛距離に無邪気な歓声を上げた。
シーツに迸った残滓を指でたどって、畳のほうまで行ってしまうと、
飛び散った雄液を指で弄ぶ――弄びながら、乳よりもなお大きく丸い尻を振る。

「今度はこっちに、くださいね」




仰向けの茄子の足を押し広げて挿入した瞬間、俺は「パイズリで絞られておいてよかった」と思った。

妻の腟内が気持ちよすぎる。
一人出産して熟(こな)れたのか、前より蠱惑的に俺を搾ってくる。
たくさんの指や舌でしごかれている。先に一発出していなかったら、三こすり半も持たなかっただろう。

「んくっ――はぁあぅ、んんんっ!」

対する茄子も、わずかな灯りでさえ見透かせるほど肌に血が滾っている。

「あの子が通りましたけど、あなたのカタチ、覚えてますよ……♪」

またこいつは、俺を煽り立てる台詞を。

「おいっ、俺は茄子がこんないいオンナだったなんて、知らなかったぞ!」
「あっ――はっ、んあぁああ、おく、おくすきぃ!」

挑発に応じて、俺は膣内の腹側をぐりぐりと責める。

「あはっ――あなたも、私の、ソコ、覚えて――ひぃぁっ……っ!」

ここを正常位でしつこいぐらいに責めていると、茄子は腰をびく、と跳ね上げる瞬間がやってくる。
彼女のナカの弱点――とはいえ、最初はすぐ脱力して、尻肉をぺたんと布団につけてしまう。

「ふぁうっ! ひくっ! あんぁあああっっ!」

それでも急かさず根気よくピストンを続ける。
お互いの両腿がべっちゃべちゃになるまで粘ると、茄子はビクビクと小刻みにに腰を揺すり始める。

「かこ……カコっ――」

茄子は腰を揺らす周期が長くなり、毛穴という毛穴から汗がざわりと吹き出す。
口を真ん丸に開けて息み始める。普段なら俺もこのあたりで行ってしまう。

でも、今夜はもっと先まで続けられる。

「ん゛あ゛ッ! オ、おくっ、あ、ンっ――くぅうう゛う゛ぅッ!」

もっとしつこく底を責めてやると、ふかふかした感触が亀頭に当たる。
そのふかふかが多分子宮口だと思う。ペニスの先で揉んでいるような。
本当に奥底に響いてしまっているのか、茄子の嬌声もみっともなく濁りだす。

「茄子、茄子、茄子……!」
「あ゛ぁー! あっ、あ゛っ、あッ―――」

名前を叫んでやった。その時だけ、茄子はこっちの方を見上げたような、見上げてないような。
それだけが人間の証だった。それ以外はただの生殖者と化していた。

いや、一心不乱に腰を使っている俺が、茄子を少しは観察できているように、
舌も回らず目も半分白くなっている茄子だって、案外こっちを見ているのかも知れない。

「今、出してやる……孕ませて、やるからなっ」

どちらかといえば、そのほうがいい。
一人目はいつの間にか出来ていたから、二人目はしっかり自覚を持って受精させたい。着床させたい。

「うあぁ、あっ、アッ……」

ああでも、また脳髄まで吸い付くされる。茄子の中も。
ペニスを食いしめられる。引きずり出される。茄子の方に。
見えない糸で捉えられる。しがみつく。息も吸えなくなる。
熱と重さ以外消えていく。茄子、茄子、茄子。

陰嚢の裏あたりがしびれる。射精できる。茄子を、孕ませられる。

「……っぐっ、いくっ、いく、いく……!!」

ペニスが満を持して子種を打ち込む。絶頂にむせぶ手と手を絡める。
シた。茄子に、やった。孕ませた――たぶん、きっと。まぁ、どっちでもいい。



ふと、娘に見つかったときの言い訳を考えようとした。思いつかない。
俺があの夜で覚えているのはそこまでだった。

(おしまい)


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