アライちゃんのいる日常4 (504)

~登場人物~

・バイト(♀)
アライちゃんが大好きな女子高生。
愛でるのも大好き。虐めるのも大好き。
[ピーーー]のも大好き。食べるのも大好き。


・肉料理屋店主(♂)
肉料理屋の店主。筋肉モリモリのマッチョマン。
バイトと一緒にアライさん料理をたまに食べている。


・アラキレス(アライちゃん)
バイトのペット。
飼い主に愛され、よく躾られている。
アラキレスもまた飼い主が大好きなようだ。


・男児兄(♂)
男子小学生。活発でやんちゃ。

・男児弟(♂)
男子小学生。大人しくて慎重。

・男児母(♀)
アライさん駆除業者。
普段はおっとりしているが、極めて戦闘能力が高い。

・黒パーカーの少女(♀)
神出鬼没の少女。
ペットアライちゃんを駆除できるのは彼女だけ。

・工場男(♂)
うだつの上がらない男。特筆すべき点はない。

・狂人卍(♂)
仮面をつけているアラ虐動画投稿者。
アラ虐コミュニティ『ジェノサアライド』の元締め的存在らしい。

森アライちゃん1~3「「ぴいいぃぃ~~っ!」」ヨチヨチヘトヘトヨチヨチヘトヘト

疲労困憊で空腹な上に体の小さい森アライちゃん達。

余所アライちゃん1~5「「「「「のりゃ!のりゃ!なのりゃ~~!」」」」」ヨチヨチヨチヨチ

森アライちゃん達よりも二回り大きい余所アライちゃん達は、あっという間に追い付いた。

余所アライちゃん1~3「「「つかまえゆのりゃ!たあ~!」」」ガバッ

森アライちゃん1~3「「「ぴぎぃ!」」」ドサァ

余所アライちゃん4&5「「とったのりゃあ~!≧∀≦」」シッポフリフリ

森アライちゃん1~3は捕まった。

余所アライちゃん1「おかあしゃ!これからこいちゅらどーしゅゆのりゃ?」シッポフリフリ

余所アライちゃん2「まえのでっかいこどもみたいにあむあむしゅゆのりゃ?」シッポフリフリ

余所アライさん「そうなのだ!狩りの訓練なのだ!チビ達、そいつをお前達で仕留めて食べるのだ!」

森アライちゃん1~3「「「ぴいぃぃ~~っ!ぴいぃぃ~~っ!」」」ジタバタ

必死に暴れる森アライちゃん達だが…。

余所アライちゃん1「た!」

余所アライちゃん2「べ!」

余所アライちゃん3「ゆ!」

余所アライちゃん1~3「
「「のりゃ~っ!はぐがぶぅ!」」」ガブゥ

森アライちゃん1~3「「ぴぎいいぃぃ!?」」ジタバタ

余所アライさん「いいかチビ達!共食いするときは、確実にキズを負わずに殺せるうんと弱い奴だけを狙うのだ!『戦いが成立しないくらい強さに差がある奴』だけ襲うのだ」

余所アライさん「自分より大きかったり、少し小さいくらいの奴を襲うと、反撃で重傷を負って死ぬからなのだ!」

余所アライさん「そして!どんな奴も、姉妹の群れで襲うのだ!困難は群れで分け合うのだ!」

余所アライちゃん1~3「「「あぐ!あぐ!」」」ガブゥ

森アライちゃん1~3「「ぴいいぃぃ~っ!」」ジタバタ

https://i.imgur.com/oShGM06.jpg

森アライちゃん達は、食べられまいと必死の抵抗を試みる。
しかし対格差は歴然としていた。

余所アライちゃん達は、それから長時間森アライちゃん達をなぶり続けた。

残酷にいたぶって遊んでいるというのもあるが…

単純に、まだ爪と牙の鋭さ、顎の強さが未発達であるため、なかなか殺すのに手間取っているのである。

引っ掻き、噛みつき。
殴り、目をつぶし。
手足を引きちぎり、首を絞め…。
余所アライちゃん達は、森アライちゃん達で狩りと戦闘の訓練を楽しんでいた。

森アライちゃん達は、次第に血塗れになり、体がボロボロになっていく。

必死に母親を呼び、助けを求めて泣き叫ぶ森アライちゃん達。

だが…助けはこなかった。

これがインターンシップのルール。
人里から森へ戻ってきたり、森で育っている間に親を亡くしたアライちゃん達は…

成体アライさんとその一家の食糧となるのである。

これは、成体アライさんが貴重な食糧を確保し…

尚且つ、子供のアライちゃん達に狩りの訓練の経験を積ませ…

そして、劣等生のアライちゃんが森の限られた資源を食い荒らすのを妨げ、間引きするための…

個体数抑制のためのルールなのである。



余所アライちゃん1~5「「「「「ぜぇ、はぁ…」」」」」ハァハァ

森アライちゃん1「」グッタリ

森アライちゃん2「」グッタリ

森アライちゃん3「」グッタリ

森アライちゃん達は血塗れで倒れていた。

手足が取れている個体もいる。

余所アライさん「よくやったのだ、チビ達!立派に狩りできたのだ!」

余所アライちゃん1~5「「「おっにく!おっにく!おいちーおっにく♪」」」シッポフリフリ

余所アライちゃん達は、勝利のダンスを踊っている。

余所アライちゃん3「ぜーはー…。もーたべていいのりゃ?」シッポフリフリ

余所アライさん「まだなのだ!こいつらの毛皮を剥ぐのだ!」

余所アライちゃん4「なんでなのりゃ?」

余所アライさん「アライさんの毛皮は、巣材にしたらあったかいのだ!他にもいろいろ使い途があって、冬を越すにはもってこいなのだ!」

余所アライさん一家は、ぐったりしている森アライちゃん達から毛皮(服)を剥ぎ取った。

丸裸になった森アライちゃん1~3。

余所アライさん「う~ん、肉付きがいいのだ!母親に栄養あるものいっぱい食べさせて貰ってた証拠なのだぁ」

余所アライさん「まずはアライさんが腹を食い破ってやるのだ!アライさんも見ててお腹が空いてきたのだ!」ドタドタ

余所アライさん「はぐがぶぅっ!」ガブゥ

森アライちゃん1「」ブヂイィィ

余所アライさんは、森アライちゃん1の腹を食い破って、内臓を食べる。

余所アライさん「美味しいのだあ!さあチビ達!お肉パーティーなのだ!カーニバルなのだ!」

余所アライちゃん1~5「「「おにくぱーちーしゅゆの~りゃ~!」」」

余所アライちゃん3~5「「「はぐがぶぅ!」」」ガブゥ

余所アライちゃん達も、森アライちゃんに噛み付いた。

余所アライちゃん3~5「「「おいちいのりゃ~!(≧'u(≦ )」」」グチャグチャ

https://i.imgur.com/MYoCwrU.jpg

森アライさんが、雨の日も風の日も必死に餌をかき集め…
越冬の食糧を切り詰めてまで、手塩にかけて大切に愛情をこめて育てた森アライちゃん1~3。

だが、母親の元を離れた後の命は一瞬で終わった。
森アライさんが懸命に育んできたその小さな命は、
余所アライさん一家の食糧となって消えたのであった。

森アライちゃん1~3の骨「「」」カラン

余所アライさん「ふー食べたのだ」オナカサスリサスリ

余所アライちゃん1~5「「「おにくおいちかったのりゃ~♪」」」オナカパンパン

余所アライさん「毛皮のついでに、この骨もいくつか持って帰るのだ!おうちでおやつにするのだ!」ガシィ

余所アライさんは、森アライちゃん1~3の骨をいくつか運んでいった。

アライちゃんの骨は、加熱しなければ固いままだが…
それでも食べやすい部類だ。
きっとカルシウムを豊富に摂取し、顎を鍛えることができるであろう。

余所アライさん「帰るのだ!勝利の凱旋なのだ!」ドタドタ

余所アライちゃん1~5「「「なのりゃー!」」」ヨチヨチヨチヨチ

行進しながら家に帰って来た余所アライさん一家。

…ところで…。

この余所アライさん一家は、前に森アライさんから、落第アライちゃんを引き取ったはずである。

あの後、落第アライちゃんはどうなったのであろうか。

余所アライさんの家(木の穴)には…

既に巣材として、アライちゃんの毛皮が敷き詰められていた。

さらに、木の根元には、アライちゃんのものと思われる骸骨が落ちている。

そう。

落第アライちゃんもまた、食われたのである。

余所アライさんは、『お世話してやる』と言って落第アライちゃんを引き取ったが…

あれはつまるところ、森アライさんが自らの子供に手を下せなかったため、
余所アライさんが代わりに殺して子供達と一緒に食ったということである。

それ故に、取引の対価として余所アライさんはトウモロコシの餌場を森アライさんへ教えたのであった。

そして、対価(餌場を教わること)を受け取ったということは…

結局、森アライさんも、余所アライさんが自分の子供を預かってからどうする気なのか、とうに知っていたのである。



~森アライさんの巣穴~

森アライさん「ふぅ…。アライさんは、チビ達を立派に育て上げたのだ。優しくてたくましい、子供思いなお母さんなのだ」ピカピカガイジガオ

森アライさん「さーて…もうすぐ越冬のための巣穴が掘り終わるのだ」ザクザク

森アライさんは、斜面となっている地面に冬籠もり用の横穴を掘っている。

森アライさん「うーん疲れたのだ。少し木の上に登ってお昼寝するのだ…」ノソリノソリ

アライさんは夜行性というが、昼でも普通に起きてることはよくある。
睡眠の時間帯は気分次第であり、特に冬が近付き夜の気温が低下する時期になると、昼行性に近い活動サイクルにすらなる。

森アライさん「ちび…。むにゃむにゃ…くかー…」スヤスヤ

立派に(?)子供達を育て上げ、人里へ送り出した森アライさん。

立派に(?)親の務めを果たしたことに安堵すると、すやすやと寝息をたてて木の上で眠った。




突然、ばん、と大きな破裂音が鳴った。


森アライさん「のだっ!」ドサァ

森アライさんは、強い衝撃を腹部に感じ、木から落下した。

森アライさん「な…んなの…だ…!お腹が…いたくて…あづい…のだあぁ…!」ジワァ

森アライさんの腹は、ぽっかりと穴が空き、夥しい血が吹き出ていた。

森アライさん「ぎ…びっ…びぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいーーーーーーーっ!!!」ブシャアアア

森アライさん「いだいのだいだいのだいだいのだいだいいだいいぃいいーーーーっ!」ドグドグブシュウウゥウ

熟練猟師「フゥン、こいつがトウモロコシ畑を食い荒らした害獣やなぁ」ザッザッ

…銃を持った猟師が、猟犬を2匹連れて近づいてきた。

銃からは、煙が上がっている。

熟練猟師「農家のおっちゃんの恨み、はらさでおくべきかぁ!クソ害獣!」ジャキィ

熟練猟師は、ライフル銃を森アライさんの股間に押し当てる。

森アライさん「げぼっごぼっ…!ち、ちが、ちがう!アライしゃんじゃ、アライしゃんじゃないのだあ!盗みなんてやってないのだぁ!ごぶぅぅっ!」ブハァ

森アライさんは、血を吐きながら命乞いをする。

森アライさん「アライさんは悪くないのだああ!別の…ぐびいぃぃ!いだいぃ!だずげでぐだざいなのだあああ!」ブシャアアア

森アライさん「こっ…交尾!交尾してやるからあああ!だずげ…」

熟練猟師「死ねや!」バァン

森アライさん「ぼびゅっ!」ブシャアアア

ライフルの銃弾が、森アライさんの体内を股間から脳天まで貫いていった。

森アライさん「」ビグッビググッビククッジタバタビググッビクンビクン

熟練猟師「フゥー、回収回収」ガサガサ

森アライさんは、袋に詰められて運ばれていった。

確かに森アライさんは、トウモロコシ等の農作物を直接盗んではいない。

それどころか、余所アライさんに畑からトウモロコシを盗まないように諭したことさえあった。

『必ず駆除しなくてはならない存在』ではなかったかもしれない。

だが…

害獣アライちゃんを、人里へ放流する以上。

『駆除できるなら、駆除しておくに越したことはない』のである。

熟練猟師「さあて帰るか」

猟犬1「クンクン…」

猟犬2「ワンワン!」

熟練猟師「うん?どうした…?」

つづく

乙です
作者さん、色々とやらかしたことは確かだけど、次から感想とか、
その他色々自重するから、ここの読者たちを嫌いにならないで

>>30
元から嫌ってませんよ
Twitterとかピクシブ限定のアラ虐絵とかも上げてますので、興味があったらそっちも見てみてください

感想はどんなのでも嬉しいですよ
アラスコ終盤では「ショクエモン死ね!」なんて感想でも面白がって作中でネタにしましたからね
素直な感想をダイレクトにぶつけてもらって全然OKです

ただ、本作は他作品と比べてヘイトパートと呼ばれる部分がクソ長いですし、
そこを描くことを肝とさえしています
この路線は、今後も変える気はないです

また、アラスコと違って作中世界では「アライちゃんといえど、残酷にいたぶるのは悪趣味だ」という価値観を持った人が一般的です

なので、「早くヘイトパート終わらせて、残酷に虐ってほしい」という期待には
今後も応えるのが難しいかも、というだけです

『インターンシップ』…

日本国内にいる野良アライさん達の間に広まっているルールである。

起源は不明だ。
誰が考えて、どうやって野良アライさん達へ流布したか?誰にも分からない。

だが唯一確実なのは、このインターンシップというルールを生み出した何者かは…
学者や学会ですら未知の部分が多いアライさんという生命体のことを、
習性や生態などほぼ完璧なまでに知り尽くしていたということだ。

そのルールは、アライさんの個体数抑制と、厳しい環境で淘汰することによる、野良アライさんの品種改良が目的となっているようだ。

ルールの一例はこうだ。

育てているアライちゃんに乳歯が生えたら、簡単な狩りの訓練や生きる知恵を教え次第、両手に乗るサイズのうちに速やかに森から人里に放流しなくてはならない。

成体になるまでは、再び森に帰ってはいけない。

成体になったら、人間の畑から作物を獲ってはならない。

生きている人間は、赤ん坊でも老人でも襲って食ってはいけない。

森で親無しのアライちゃんを見つけたら、殺して食わなくてはいけない。

…などなど、色々とルールがある。
アライさんは人間の文字を勉強しないので、親から子への口伝てでしか引き継がれない。

そのため、アライさん達の間で完全なルールが抜け盛れなく広がっているわけではなく、
個体によって覚えているルールにばらつきがあるようだ。

もしもインターンシップのルールが無かったら…

アライちゃんは、森の中で高い運動能力を持ってから人里にやってくることになる。

また、大繁殖したアライさん達が森の恵みや野生動物を食いつくし、大規模な自然破壊につながる。

食べ物を求めて人里に今以上にたくさんのアライさん親子が押し寄せ、人間の作物にも人間の赤ん坊にも見境なく襲いかかる。

…等々、アライさんによる損害はさらに大きくなっていただろう。

…しかし、野良アライさん達の間で、律儀にインターンシップのルールが守られているのは何故だろうか?

何者かが全国の野良アライさん達を脅して無理矢理従わせているのであろうか?

あるいは、アライさんに自然を愛する善の心があり、自然環境を壊さないために律儀に守っているのだろうか?

その理由は2つ。

1つ目は…
『親アライさんにとって都合がいいルール』だから。

人里での厳しいインターンシップを生き残り、森に戻った成体のアライさん達は、
身体能力が著しく低いヨチラー時代を生き残れるだけの生まれ持った優秀な知能がある。

それ故に、人間の怒りを買うことがどれだけ恐ろしいことか理解しているのである。

もしもインターンシップのルールを守らなかったら、
森の資源が無くなり、嫌でも人里に食べ物を探しに行かなくてはならなくなる。

そうなれば、人間の強い武器で駆除される可能性は今より遥かに高くなる。

腹がへって人間の赤ん坊を襲ったりしたら、人間達はアライさんを滅ぼしに森へ攻めいって来るだろう。

人間が困ろうが環境が破壊されようだ知ったことではないが、
自分自身が困ることになるのは避けたい、というのが成体アライさん達の本心だ。


また、アライちゃんの育成には手間がかかる。
手のひらサイズのうちは、親の言うことに従順に従い、可愛がられようと甘えてくるので、育てるのは楽だ。

しかし大きく成長してくると、自己主張やワガママが激しくなり、食べる量もどんどん増す。

インターンシップでは、そうなる前に、アライちゃんを人里に放流する。

つまり、人間がペットアライちゃんを『ちっちゃくて可愛いうちだけ育て、大きくて反抗的になったら捨てる』のと同じように…

野良アライさんもまた、我が子を『ちっちゃくて可愛いうちだけ育て、大きくて反抗的になったら捨てる』のである。

そして2つめの理由。
それは…

『自分自身が、親にインターンシップを強制された』からである。

アライさんは、多産で、早熟で、長命だ。
そして産まれる子供はすべて雌だ。

それ故に、雄の野良アライグマが存在しない地域では、自力で繁殖することはできないが…

雄アライグマさえいれば、いち個体が一生の間に産む子供の個体数は、哺乳類では群を抜いてトップクラスといえる。

そのため、殖えすぎないようにするならば、
毎年産まれる子供のほとんどが厳しい環境の中で死ぬことになる。

しかし、アライさんにとって一番大事なものは自分の命である。

虫のようにウジャウジャ涌き出るアライちゃん達は、皆自分だけは死にたくないと思い、必死に生きている。

インターンシップに来たアライちゃんの多くは、最初の一ヶ月で餓死したり殺されたりする。

なぜなら、アライちゃんは親離れするには早すぎるほど、身体能力が未発達な状態で放流されるからだ。

アライちゃん達は、意気揚々と人里に来るものの、
そこで生きることの厳しさに苦しむことになる。

「母親がもっと大きく育ててくれれば、もっと速く逃げられるのに」

「母親が自分達を守ってくれれば、人間や野良猫に殺されないのに」

「自分はなんて不幸な生まれをしたんだ」

…そうやって、アライちゃん達は生きるには苦しすぎる自分の境遇を呪う。

思考せず、知恵を磨かず、本能の赴くままに生きる多くのアライちゃんは…

身体能力の未熟さ故に、人里で生き残れずに野垂れ死んでいく。

しかし、先天的に優秀な知能と学習能力を持って産まれた個体だけは、死と隣り合わせの日常で、姉妹の死を見届け、何度も死線を越えながら…

身体能力を知能によってカバーして生きるようになる。

未成熟で生存能力が弱い肉体で、いかにして生き残るべきか?

その体重比20%を超える異様にデカい頭で、必死に生存戦略を考え、学習する。

…そうして、大分部の平凡なアライさんは幼獣のうちに自然淘汰によって間引きされ…
必死に頭を使って生き延びた個体だけが、森へ戻って親となり、子を産むのである。

さて、ではこの親アライさん…。
インターンシップによって、いかに地獄の苦しみを味わうことになるか…
人生経験の中で嫌というほど身に染みているはずだ。

我が子をインターンシップへ送り出すことが、地獄の入り口へ我が子を突き落とす行為だと理解しているはずだ。

さて、親アライさんは…
自分の子供へ、インターンシップを強制したがるであろうか?

それが…
強制したがるのである。

アライさんの多くは、幼い我が子を本当に愛し、大切に育てる。

しかしながら、自分の子供が、自分より幸せになることを快く思わない。

『自分の子供を、自分より幸せに育てよう』と思わない。

自分は親にインターンシップを強制され、不幸な人生を送ってきた。

だから自分の子供といえど、同じようにインターンシップを強制しなくては、論理的にも感情的にも納得ができない。

『自分の子供には、自分と同じように不幸な人生で苦難を味わって貰わないと気が済まない』のである。

それ故に、親アライさんは何ら抵抗なく我が子をインターンシップへ送り出す。

たとえその先に、地獄が待ち受けていることになろうとも…。

そして、森にいる成体アライさん達もまた、楽々と自由気ままに暮らしているわけではない。

自然の恵みが非常に豊富であれば、アライさん同士でご近所付き合いをしたり、仲良く遊んだりすることもあるようだが…

自然が減ってくれば、成体アライさん同士でも縄張りや雄アライグマを巡った争いが起こる。

そうして、より身体能力が高く、高い知恵をもったアライさんが縄張りや雄アライグマを獲得し…

弱いアライさんは、命までは取られないが、自然の恵みが少ないヨソへ追いやられる。

そうして、優秀なアライさんは縄張りの中でたくさん餌を食べて子供を産み…

劣ったアライさんは、ひもじい思いをしながら、子を作らずひっそりと育つのである。

年々、人里にやってくるアライちゃん達は、少しずつ知能が狡猾になってきている、と言われている(別にそんなことないという声もある)。

たくさん産まれたアライちゃんのうち90%が死に、先天的に高い知能を持って産まれた才児だけが生き延びて子を産むのだから…

その連続で、さながら遺伝的アルゴリズムよろしく、
野良アライちゃんの知能は上がってきているのかもしれない。


ペットアライちゃん達が、『より甘えん坊で、成長が遅く、独立心が低い』…
いわば『独力での生存能力が低い』種へと人工的に品種改良されているのと同じように…

野良アライちゃん達もまた、『より狡猾で、成長が早く、独立心が強い』…
いわば『独力での生存能力が高い』種へと、自然淘汰の中で次第に『品種改良』されつつあるようだ…。

さて…

森アライさんの子供達を使って狩りの訓練を行い、肉を食った余所アライさん一家。

一家は巣である穴のあいた木の根元にいた。

木の穴の真下には、アライちゃん達が排泄した大便や糞尿、食った動物の骨などのゴミが山のように積み上がって悪臭を放っている。

鳥の巣の下よりずっと臭くて不潔である。

アライちゃん達が木から降りる時は、基本的に穴から真っ直ぐ下に降りたりはせず、横移動しながらキレイな地面に着地するようだ。

間違って穴から転落し、溜め糞に頭から突っ込むなんてことも稀にあるようだ。

余所アライさん「ふははー、チビ達!狩りの訓練はバッチリなのだ!あとは木登りが上手にできるようになれば、独り立ちできるのだ!」

余所アライちゃん1~5「「「なのりゃー」」」ヨジヨジ

余所アライちゃん達は、木登りの練習をしている。

余所アライちゃん1~4「「「わっちぇ!!わっちぇ!!」」」ヨジヨジ

余所アライちゃん5「わっちぇ…ぴぃ!?」ズルッ

木登りの最中に、余所アライちゃん5が手を滑らせた。

余所アライちゃん5「ぴいいぃいい!」ヒューン

https://i.imgur.com/4TEHfZp.png

余所アライちゃん5「ぴぎっ!」ボテッ

余所アライちゃん5は、柔らかい草の上に落ちた。

余所アライちゃん5「びえええーん!おがーしゃああーんっ!いぢゃいのりゃあああーーーっ!」ビエエエエン

余所アライさん「しっかり練習するのだ!きちっと受け身も取るのだ!」フフン

余所アライさん「よし、練習はもうバッチリなのだ!みんな、お昼寝するのだ!」

余所アライちゃん1「おひゆねしゅゆのりゃー!」ヨジヨジ スポッ
余所アライちゃん2~5「「おやしゅみなのりゃあ~」」ヨジヨジスポッ

余所アライちゃん達は、木の穴に潜った。

余所アライさん「アライさんのチビ達…立派に育ったのだ。こんだけたくましければ、きっと冬も越せるのだ」ウンウン

余所アライさん「アライさんも寝るのだ」ヨジヨジヨジヨジ

余所アライさんは、木を登り、木の枝の上で眠った。

https://i.imgur.com/xVsAB4e.png

余所アライさん「のだぁ…のだぁ…」zzz

しばらく眠っていると…

余所アライさん「んん!?」ビクゥ

突如、余所アライさんが目を覚ました。
どうしたのだろうか?

余所アライさん「…!」キョロキョロ

余所アライさんが、あたりを見回している。

すると…

蛇「シャー…」シュルシュル

…アライちゃん達がいる木の穴に向かって、蛇が這い登っているのが見えた。

余所アライさん「…」zzz

余所アライさんは、半目を開けて寝た振りをしている。

蛇「シャー…」シュルシュル

蛇が巣穴に入ろうとしたとき…

余所アライさん「今なのだ!たあー!」ドガァ

蛇「シャギャア!?」ボギィ

余所アライさんが、跳びながら蛇にキック放った。

蛇「ギシャア」ドサッ

地面に落ちる蛇。

余所アライさん「たあああ!」ヒューン ドカァ

蛇「ブギュ!」グシャア

蛇の首めがけて着地した余所アライさんの踵が、蛇の脛椎を破壊した。

蛇「」ビグビグジタバタ…

余所アライさん「お肉なのだ!後で食べるのだ!」ヨジヨジ

余所アライさんは、眠っている間にも、木からの振動を感じ取っている。

風のざわめき程度ならば起きたりはしないが、

『何かが這い登るような振動』に対しては、無意識に強く反応して目を覚ますようだ。

余所アライさん「チビ達は食べ物じゃないのだ、まったく…。ふわぁ…」

余所アライさんは、蛇が他に近付いていないことを確認し…

https://i.imgur.com/xVsAB4e.png

…再び昼寝した。

なんとたくましい野性であろうか。

もうすぐ冬がやってきそうだというのに、成長期の子供5匹を余裕綽々と育て…

寝ている間でも、枝に伝わった振動を感じ取り、外敵を排除する。

アライさんは全ての個体がこんな芸当ができるわけではない。

余所アライさんもまた、先天的に高い知能を持って産まれ、人里で自ら生きる知恵を学習し…
そうしてインターンシップという戦場から帰還した…

いわば、アライさんの中でも特別に優秀なエリートなのである。

余所アライさん「くかー…むにゃ…。ふふ、チビ…。いいこなのだあ…」zzz

余所アライさんは、木の枝の上で眠りながら、何やら寝言を言っている。






https://i.imgur.com/uZuM2Gl.png




…アライさんは、木から落下した。

余所アライさん「ごびゃあ!」ドシャア

地面に落ちた余所アライさんは身体中にいくつもの穴が空き、真っ赤な動脈血をどくどくと流している。

余所アライさん「ぎ…び…ぎゃああああああ!い…だいの…だああああっ…!げぼおぉっ!」ブシュウウゥドクドク

…一体どうしたのであろうか?

熟練猟師「こんなとこに、もう一匹いおったな」シュウウゥウ

猟犬1&2「「ハッハッハッ…」」ザッザッ

何が起こったかなど一目瞭然。

ブラックハウンドの犬種の猟犬が、匂いをたどってこの巣を探り当て…

熟練猟師が、ショットガンで余所アライさんを撃ったのである。

余所アライさん「いだい…いだい…のだああ…!ぎびいぃ…!だず…げ…で!」ブシュウウゥ

余所アライさんは、木からの振動を最大限に軽快していた。

だが、銃などの飛び道具は全く警戒していなかった。

余所アライさん「おま…えが…やった…のがぁ…!なんなのだ…それぇ…!があぁっ…!いだい…の…だぁあっ…!」ドクドク

それはそうだろう。

余所アライさんの母親は銃で撃たれたことなどないし、
余所アライさんもまた銃など見たことはない。

よって、余所アライさんは銃を知らないのである。

『愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ』という言葉がある。

余所アライさんの知識など、せいぜい自らの経験と、母親からの言伝のみで蓄積されたものにすぎない。

文字のないアライさんには、祖先から代々伝わる知識の蓄積…
いわば『歴史』など存在しない。

もしかしたら、全国のどこかのアライさんには、銃を見ても生き延びた個体がいたかもしれない。

その個体は、自分の子供に銃に気を付けるように教えるかもしれない。

だが、そこまでだ。
知識がそれ以上まわりに伝わるのは、せいぜいご近所さん程度。

基本的にあまり集団生活が得意でないアライさんに、知識の蓄積と共有などほぼ無縁である。

いかに個体としての才能が優れていようとも…

個体が自らの経験から学べる知見など、たかが知れたものでしかない。

熟練猟師「クソ害獣が!農家のニイちゃんが大事に育てた秋トウモロコシの仇!」ジャキィ

熟練猟師は、余所アライさんの顔にショットガンの銃口を向ける。

余所アライさん「ちがう…のだ…!ごぼっ…!きーろい…つぶつぶ…は…べつの、やつが…!ぶはぁ!やった…!あらい…さん…わるぐない…のだ…!ごぽぉ!」ゴブゥ

余所アライさんは自分は畑からの盗みをやってないと嘘をつき、森アライさんのせいにした。

https://i.imgur.com/zRFMAjp.png

余所アライさん「だず…げ…!あら…い…さん…には…!かわいい…ちびが…いる…のだぁ…!ぐぶっ…!」

余所アライさんは、必死で命乞いをしている。

熟練猟師「そいつを育てなきゃいかんから殺しちゃならんとか言うんか?」ジャキィ

余所アライさん「チビ…だぢを…!」ブルブル





余所アライさん「たべで…いいがら…!ごろざ…ないでぇ…!」ブルブル

熟練猟師「…」




https://i.imgur.com/NEBthFe.png

熟練猟師は無慈悲に引き金を引き、ショットガンで余所アライさんの頭を粉々にフッ飛ばした。

余所アライさん「」ブシュウウゥドクドク…

完全に頭が吹き飛んだ余所アライさんの胴体は、もはやゴキガイジムーブすらしなかった。

熟練猟師「『別のアライさんがやった』?そもそもなんでトウモロコシ泥棒がいたことを知っとんじゃボゲ。もっとマシな嘘つかんかい」ジャキィ

熟練猟師「つうか、そもそも最初から畑を荒らすなや!」

猟犬1「ハッハッハッ」シッポフリフリ

猟犬2「クゥン」

世界一鋭い嗅覚をもつ犬種であるブラックハウンドの猟犬は、木の穴の真下にこんもりと積み上げられた溜め糞の悪臭によってこの巣を嗅ぎ当てたようだ。

つまり、余所アライさんを仕留めたのは、熟練猟師の独力ではない。

熟練猟師は、余所アライさんと違って天才などではなく凡人である。

だが、熟練猟師は勤勉な男であった。

それに加え、ブラックハウンドという品種を作り上げた犬ブリーダーの努力…

さらび、ショットガンという武器を作り上げた武器職人達の努力…

それらの生み出した歴史がもつ力が重なりあって、余所アライさんの優秀な頭を打ち砕いたのである(物理的に)。

いかに余所アライさんが、生存能力に長けた天才であっても…

先人が必死に試行錯誤して残した膨大な知識を、必死に苦学して身に付けた凡人には、敵わなかったのであった。

熟練猟師「さて、ガキがおるって言うとったのう。そいつらも獲っておくか」カチャッ

熟練猟師は、木にハシゴを立て掛けた。
そしてトングを持ち、木の穴に向かって登った。

木の穴を覗くと…

余所アライちゃん1「さっきのおっきーおとなんだったのりゃ…?」

余所アライちゃん2「こあいのりゃ、おかーしゃにきーてみゆのりゃ!おかーしゃーん!」

余所アライちゃん3「おかーしゃん!さっきのおっきーおとは…うゆ!?なんかあらいしゃんたちのおうちのぞいてゆのりゃ!」

余所アライちゃん4「おかーしゃんじゃないのりゃ!だれなのりゃおまえ!ここありゃいしゃんのおうちだぞぉ!」フゥーッ

余所アライちゃん5「ごはんをとりにきたのか!?だめなのりゃ!このかえゆしゃんおにくはありゃいしゃんたちのなのりゃ!おまえのじゃなのりゃあ!」

https://i.imgur.com/YHH0lpi.png

余所アライちゃん1~5「「ふうぅ~~っ!きゅるるぅ!おかーしゃんはつよくておっかないんだぞぉ!」」フゥーッ

余所アライちゃん達は、熟練猟師を威嚇している。

熟練猟師「はーうぜぇうぜぇ…無視して回収するか」スッ

熟練猟師は、罵倒を無視してトングでアライちゃんを捕まえようとするが…

余所アライちゃん1「くゆなっていってゆのがわかんないのかぁ!このはげぇ!」フゥーッ

熟練猟師「」ピクッ

熟練猟師は、後退しつつある髪の生え際を指摘されて手が止まった。

余所アライちゃん2「うゆ!きーてゆのりゃ!やいやい!はげ!はげ!はーげぇ!!!」パチンパチン

余所アライちゃん2は、手を叩いてハゲ弄りをしている。

余所アライちゃん3「おーいはげ!いきててたのちーのか!?おまえなんかうんちいかなのりゃーはげー!」

余所アライちゃん4「はーげ!はーげぇ!かっこわゆいはーげ!はーげぇ!はーげ!ちゅゆぴかはーげぇ!」シッポフリフリ

余所アライちゃん5「でてけーはげ!ばーか!うんこ!かす!なめくじ!がいじ!はげ!はげ!はげえー!おかーしゃん!このはげどっかやってぇー!」ピギュルルルルル

余所アライちゃん1~5「「「はーげ!はーげ!はーげぇ!」」」

余所アライちゃん達は、執拗に熟練猟師のハゲを指摘し罵倒し続けた。

>>64訂正


熟練猟師「はーうぜぇうぜぇ…無視して回収するか。ひーふーみー…5匹もいらぁ、こいつぁ大猟だ」スッ

熟練猟師「生け捕りなら、ジビエモンのとこに持ってくかな?あーでも、ギョエモンも釣り餌に欲しがっとったか…。どっちにすっかなぁ~」カチンカチン

熟練猟師は、罵倒を無視してトングでアライちゃんを捕まえようとするが…

余所アライちゃん1「くゆなっていってゆのがわかんないのかぁ!このはげぇ!」フゥーッ

熟練猟師「」ピクッ

熟練猟師は、後退しつつある髪の生え際を指摘されて手が止まった。

余所アライちゃん2「うゆ!きーてゆのりゃ!やいやい!はげ!はげ!はーげぇ!!!」パチンパチン

余所アライちゃん2は、手を叩いてハゲ弄りをしている。

余所アライちゃん3「おーいはげ!いきててたのちーのか!?おまえなんかうんちいかなのりゃーはげー!」

余所アライちゃん4「はーげ!はーげぇ!かっこわゆいはーげ!はーげぇ!はーげ!ちゅゆぴかはーげぇ!」シッポフリフリ

余所アライちゃん5「でてけーはげ!ばーか!うんこ!かす!なめくじ!がいじ!はげ!はげ!はげえー!おかーしゃん!このはげどっかやってぇー!」ピギュルルルルル

余所アライちゃん1~5「「「はーげ!はーげ!はーげぇ!」」」

余所アライちゃん達は、執拗に熟練猟師のハゲを指摘し罵倒し続けた。

余所アライちゃん1「はーげ♪はーげ♪」シッポフリフリ

余所アライちゃん2「ちゅゆぴかはーげぇ♪」シッポフリフリ

余所アライちゃん3「はーげ♪はーげ♪」シッポフリフリ

余所アライちゃん4「もてないおーしゅぅ~♪」シッポフリフリ

余所アライちゃん1~5「「「やーい!やーい!ちゅゆぴかはーげ!はーげ!はーげ!ちゅゆぴかはーげ♪」」」シッポフリフリ

熟練猟師「…ッ」ワナワナ

余所アライちゃん5「おかーしゃーん!みゆのりゃ!はげあたまなのりゃ!のひゃひゃひゃひゃ!」ゲラゲラ

余所アライちゃん1「おかーしゃーん!みにくゆのりゃー!ぶしゃいくなのりゃー!」シッポフリフリ

余所アライちゃん2「うゆぅ?どーしたのりゃおかーしゃん?みにくゆのりゃー!」シッポフリフリ

余所アライちゃん3「やい!このはげ!おかーしゃんにわらわれたくなかったらかえれー!さっさとか・え・れー!」フゥーッ

余所アライちゃん1~5「「「かっえれ♪かっえれ♪はーげはかえれ♪かっえれ♪かっえれ♪ちゅゆぴかはーげ♪」」」パチン パチン パチン パチン パチン パチン

余所アライちゃん達は、手拍子して熟練猟師を煽る。

一体なぜ余所アライちゃん達は、これほど執拗に熟練猟師のハゲを罵るのだろうか?
アライちゃん達の性格が悪いからであろうか?

まあ、アライちゃんの性格が悪いかどうかはここでは論じないとして…

性格云々は、直接的な動機ではない。

余所アライちゃん達は、体の大きさ…つまり力がでは熟練猟師に敵わない。

そのため、言葉で攻撃することで、熟練猟師の心を傷つけて、撤退させようとしているのである。

熟練猟師「…」カツンカツンカツン…

熟練猟師は、執拗なハゲコールが効いたのか、ハシゴを降りていった。

余所アライちゃん1「やったのりゃ!にげてったのりゃ!」

余所アライちゃん2「ありゃいしゃんのおそろしさにびびってにげてったのりゃー!≧∀≦」シッポフリフリ

余所アライちゃん3「やーいやーい!はげー!すにかえっておかーしゃんになきつけー!」ノヒャヒャヒャヒャ

余所アライちゃん4「うゆぅ…?おかーしゃんはなんできてくれなかったのりゃ…?」クビカシゲ

余所アライちゃん5「なのりゃ!なのりゃ!なのなのりゃ!なのりゃ!なのりゃ!のりゃのりゃりゃ!≧∀≦」シッポフリフリ

余所アライちゃん達は、熟練猟師がハシゴを下りていったのを見て喜んだ。

執拗なハゲ弄りが、熟練猟師を退けたようだ。

だが。

その執拗なハゲ弄りが、逆に熟練猟師の逆鱗に触れた。

完全武装熟練猟師「…」カツンカツンカツン

熟練猟師は、ヘルメットと防具をつけて、再度ハシゴを登ってきた。

余所アライちゃん1「うゆ!?さっきのやちゅのにおいなのりゃ!」クンクン

余所アライちゃん2「やいはげ!そんなぴかぴかであたまかくちてもはげはなおんないぞぉ!」ゲラゲラ

余所アライちゃん3「はげっ!はげっ!やいやい!もっといわれたくなかったらさっさとかーえーれ!」フゥーッ

完全武装熟練猟師「おいお前…いまオレのこの頭のことなんつったッ!」

余所アライちゃん4「はげ!」

余所アライちゃん5「はげ!」

完全武装熟練猟師「オレの頭にケチつけてムカつかせたヤツぁ何もんだろうーとゆるさねえッ!!」ジャキィ

https://i.imgur.com/zryiWQi.png

熟練猟師は、余所アライちゃん達に向かってショットガンの銃口を向けた。

余所アライちゃん1「うゆぅ?そんなぼーきれ、おうちにいればぜんぜんあたらないのりゃー!≧∀≦」ゲラゲラ

余所アライちゃん2「はやくかえんないと!おーきくなってからぶっこよしゅぞぉー!≧皿≦#」フゥーッ

余所アライちゃん3「そーなのりゃ!ありゃいしゃんたち、おっきくなったらつよいんだぞぉ!」

余所アライちゃん4「ありゃいしゃんたち、いんたーちっぷいくのりゃ!いっぱいごはんたべておーきくなゆのりゃ!」

余所アライちゃん5「おまえもたべられたくなかったらかえれー!いまかえればおなさけかけてやゆぞぉー!」ピカピカガイジガオ

完全武装熟練猟師「ッ…!」ワナワナ




完全武装熟練猟師「…もう生け捕りなんて止めだァーーーッ!!」プッツン

完全武装熟練猟師「くたばりゃあァアアーーーーッ!!!!クソコバエウジムシ共ォァアアーーーッ!!!」ガチッ

熟練猟師は余所アライちゃん達へショットガンの銃口を向け、怒りを込めて引き金を引いた。

https://i.imgur.com/9XvPKtL.png

余所アライちゃん達は、ショットガンの弾を浴びて蜂の巣となったが、さらに巣穴の壁で跳弾した弾によって四方八方からブチ抜かれ粉微塵に粉砕された。

熟練猟師がショットガンの銃口から余所アライちゃんの巣へ一斉に大量射出した銀玉は、
巣穴の壁で跳ね返って音速を超える異様にピンボールを繰り広げ、幾度となく跳弾を繰り返し…

余所アライちゃんの血肉と残骸「」グッチャアアアドシャブチャアバシャアアアアアッ

巣穴から大量の残骸を排出し、見事なジャックポットを記録した。

完全武装熟練猟師「おっとっと」バシャッ グラッ…

大量の血肉やショットガンの跳弾をヘルメットやレインコート、防具に浴びた熟練猟師。

彼が乗るハシゴは、ショットガンを撃ち放った反動で後ろにぐらりと倒れた。

完全武装熟練猟師「ほっ!」クルクル シュタッ

熟練猟師は、ハシゴから跳んで宙返りをし、衝撃を殺しながら無事に着地した。

完全武装熟練猟師「慣れっこだもんネ」パシッ

そして、倒れてきたハシゴを手で受け止めた。

完全武装熟練猟師「イチチ…防具ありとはいえ、さすがにイテェな。痣つかねえかな」ヒリヒリ

巣穴の壁で跳ね返った跳弾が防具に当たったが、傷は負わなかったようだ。

熟練猟師「はぁー…。やっちまった、森の新鮮なアライちゃんを生け捕りできるチャンスだったのに」

熟練猟師「まあいいや…死骸を片付けるか。はーげんなりする」スッ

仕留めた獲物の死骸を森に残すのは猟師のルール違反である。

熟練猟師は、巣穴の中や地面から、散らばった余所アライちゃん達の残骸を拾い集め、ビニール袋へ回収した。

熟練猟師「さーて帰るか…」スタスタ

猟犬1&猟犬2「「ワン!」」ノソリノソリ



知能を駆使して自然の中でたくましく生きる余所アライさん一家であったが、
ショットガンには敵わなかった。

強いぞ、ショットガン!
凄いぜ、ショットガン!
負けるな、ショットガン!
害獣を打ち砕け!!!ショットガン!!!

続く

熟練猟師が帰ろうとした…その時。

?「」ガサッ

熟練猟師「!?」ビクゥ

猟犬1「ワゥ!?」ビクゥ

…木の下あたりから、何かが落下した音…
いや、何者かが着地した音が聞こえた。

熟練猟師「…!?」キョロキョロ

今の音は、おそらくアライさんくらいの重さの二足歩行の生き物が着地した音だ。

猿でないならば、アライさんの可能性が最も大きいだろう。

熟練猟師「…」ジーッ

音がしたあたりの草むらを猟師は注意深く観察したが…

何も動く気配はない。

そして、何者の姿も見えない。

熟練猟師「今の音は…いったい…!?」ゾクッ

熟練猟師は、最も恐ろしい想像をした。

アライさんは、自分から人を襲うことは滅多にないが…

自分の命を防衛しようとしたとき、襲いかかってくることがある。

接近戦であれば、猟師の銃の前に沈むであろうが…

最悪のケースでは、民間人から奪ったアライボウを放ってきたという事例があるらしい。

熟練猟師「逃げろ!」タタッ

猟犬1&2「「ワンワン!」」ザザザッ

熟練猟師は、仕留めた余所アライさん一家の死骸が詰まった袋を、『頭だけ』持って投げ捨て、その場から一目散に逃げ出した。




熟練猟師は、無事に自分の車へ逃げ込むことができた。

熟練猟師「さっきの音は…何だったんじゃ…?」ゼェハァ

熟練猟師「…ともかく、依頼主には頭だけ見せるとするかの…」ブロロー

熟練猟師「さて、バラエモンのとこで和食でも食いにいくかのう」ブロロー

そうして、熟練猟師は街へ去っていった…。



~ペットショップ~

レア動物マニア「こんちわー」ガラッ

店員「いらっしゃいませー」

ペットショップに、眼鏡をかけた男性が入店してきた。

彼はレア動物マニア。
珍しい動物を探して、写真を撮ったり、飼育するのが大好きである。

レア動物マニア「何か珍しい動物とか売ってないかな?」スタスタ

レア動物マニアは、ペット達を見ながら店内を回っている。

店員「珍しい動物をお探しですか?では、こちらのアライちゃんなんていかがでしょうか?」

店員は、レア動物マニアをアライちゃんコーナーへ案内する。

レア動物マニア「アライちゃん?珍しくも何ともないじゃないですか…」スタスタ

ノリャノリャノリャノリャノリャノリャノリャノリャノリャノリャノリャノリャノリャノリャノリャノリャノリャノリャノリャノリャノリャノリャノリャノリャヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチ♪ヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチ♪シッポフリフリシッポフリフリシッポフリフリ♪シッポフリフリ♪

レア動物マニアは、とりあえずアライちゃん達を見て回った。

すると…

レア動物マニア「ん?」ピタッ

レア動物マニアは、急に足を止めた。

店員「こちらの子なんて、とってもレア物ですよ!お安くなっておりますので、是非お買い求めください!」

レア動物マニア「こいつですか…?どこが珍し…」ジーッ

レア動物マニアは、指差されたケースの中のアライちゃんを見た。

https://i.imgur.com/IqvqwGX.png

レア動物マニア「…ん?何だ…なにか違和感があるぞ?」

アライちゃん「うゆ!おきゃくしゃんがみてゆのりゃあ!」

アライちゃんは、レア動物マニアに反応した。

アライちゃん「なのりゃ~!おきゃくしゃ~ん♪ありゃいしゃんのかいぬちになってほちいのりゃ~♪」ヨチヨチ

アライちゃんは客へ近寄り、ケースの透明な壁にくっついた。

その時、客はようやく違和感の正体に気づいた。

https://i.imgur.com/B8NvJSa.png

レア動物マニア「な…なんだ!これは!?」

店員「ね?レアでしょう!?」

レア動物マニアは、目を疑った。
こんなアライちゃんがいるなんて…!

双頭二尾アライちゃん「「な~のりゃ~♪」」シッポフリフリ

そう。
このアライちゃんは、二本の尻尾と二つの頭を持っていたのである。

レア動物マニア「す…すげえ…!こいつはレアだ…!」ゴクリ

右の頭「うゆ!ありゃいしゃんたち、れあなんだぞぉ!みんなにじまんできゆぞぉ~!」ピカピカガイジガオ

左の頭「ありゃいしゃんたち、『いんしゅたばえ』しゅゆぞぉ~!ぶよぐにのしぇれば、てれびでほーだいだぞぉ!」ピカピカガイジガオ

レア動物マニア「あ…あの…これって…ペットショップに並べていいものなんですか!?研究者に買い取って貰うべきでは!?」アセアセ

店員「うーん…それも考えたんですが、でもまあ、大した儲けになりませんし」

レア動物マニア「450円よか儲かるとは思うんですが…」

右の頭「かってかってかってかってかってかってかってかって!!!」シッポフリフリ

左の頭「おっきゃくしゃ~ん♪いちれんたくしょーなかよちしまいのかいぬししゃんになってなのりゃ~♪」シッポフリフリ

左右の頭「「のりゃ~♪」」コスリコスリ

レア動物マニア「仲いいんですね」

店員「ふふ、そうでしょう?」

左の頭「そーだ!ありゃいしゃんのなかのよさと、げーたっしゃなとこみせてあげゆのりゃ!」クルッ

右の頭「のりゃ!そーなのりゃ!ありゃいしゃんたちのすぺしゃるなだんしゅ、みせてあげゆのりゃ!」クルッ

双頭二尾アライちゃんは、体を重そうに動かして旋回し、客へ尻尾を向けてきた。

https://i.imgur.com/qn9Ruu8.png

店員「なにするの?」

左右の頭「「なかよちこしゅこしゅだんしゅなのりゃー!≧∀≦」」

双頭二尾アライちゃんは、なにかの芸を始めるつもりらしい。

左右の頭「「いくのりゃ!せーの…なのりゃ~!なかよちこよち、こしゅこしゅだんしゅ~♪」」

https://i.imgur.com/Om7Suux.gif

双頭二尾アライちゃんは、せわしなく尻尾を動かし始めた。

二本の尻尾「」コスリコスリコスリコスリコスリコスリコスリコスリコスリコスリコスリコスリ

レア動物マニア「う…おぉ…」

随分器用に動くものだ…
レア動物マニアは、その尻尾の動きに圧倒されていた。

左の頭「いっちれんたっくしょ~♪なっかよっちこっよち♪あっりゃいっしゃん♪」シッポコスコスコスコスコスコス

右の頭「げーたっしゃ~で♪みんなのあいどゆ、にんきもの~♪げっきれっあげっきれっああっりゃいっしゃん♪」シッポコスコスコスコスコスコス

左右の頭「「なっかよっちこっよち♪しっぽこしゅこしゅ、こしゅこしゅだんしゅ♪なのりゃー!≧∀≦」」シッポコスコスコスコスコスコス

双頭二尾アライちゃんは、二本の尻尾を器用に擦り合わせていく。

左の頭「しゅぴぃーどあっぷなのりゃあ!うゆゆぅ~!」コスコスコスコスコスコス

右の頭「うゆゆぅ~!!」コスコスコスコスコスコス

https://i.imgur.com/nLDrAj7.gif

尻尾を擦り合わせるスピードは、さらに上がっていく。

左の頭「ぜぇ…はぁ…」ゼェハァ

右の頭「ちゅかれたのりゃあ…」ゼェハァ

https://i.imgur.com/upKSsYe.gif

双頭二尾アライちゃんは、大分疲れたようで、尻尾の動きの激しさを緩めてきている。

左右の頭「「ぜぇ~はぁ~…」」ハァハァ ピタッ

店員「おぉ~!凄いですね!」パチパチパチパチ

店員は拍手を贈っていた。

店員「お気に召されましたか?この勢いで、お客様も飼ってみてはいかがでしょうか?」

レア動物マニア「……」

果たしてレア動物マニアの選択は…!?

続く

レア動物マニア「気持ち悪い…」ボソッ

左右の頭「「ぴいいぃぃっ!?」」

レア動物マニアの反応は冷ややかであった。

明らかに、『なかよちこよちこしゅこしゅだんしゅ』を見る前よりも盛り下がっている。

店員「お気に召されませんでしたか?」

レア動物マニア「うん…僕はですね、『珍しい種の動物』が好きなんであって…別に奇形マニアなわけじゃないんです。遺伝しないんでしょこれ?」

店員「ですね」

左の頭「き、きけーっていわないでなのりゃあっ!」シッポフリフリ

右の頭「ありゃいしゃんは、しゅぺしゃゆなのりゃあ!とくべちゅなんだぞぉ!しゅごいんだぞぉ!」

レア動物マニア「ともかく…、『ちゃんとした』レア動物がいいです」

店員「ああ~、『ちゃんとした』奴ですね、では…」スタスタ

店員は、レア動物マニアを連れ、昆虫コーナーへ行った。

左の頭「ぴいぃ!?ありゃいしゃんは!ちゃんとしてゆのりゃあ~!」ビエエエエン

右の頭「かってかってかってかってかってかって~~!」ビエエエエン

レア動物マニア「おぉ~、ニジイロクワガタ!レアですね、買います!」

店員「ありがとうございます」

左右の頭「「ありゃいしゃんのほーがいちおくまんばいれあなのりゃああ~~~っ!そんなのじゃなくありゃいしゃんをかってぇ~~っ!」」シッポフリフリシッポフリフリ

レア動物マニアは昆虫を一匹買い、去っていった。

店員「今回もだめだったかー…まあ、気を落とさないで…」

左の頭「う…」

右の頭「うゆうぅぅ~…!!」

左右の頭「「こいちゅがありゃいしゃんのからだにくっちゅいてゆかりゃなのりゃあああああっ!」」

左右の頭は、仲良く罵声をハモった。

左の頭「なにぃ!?おまえがありゃいしゃんのからだにくっちゅいてゆのがわゆいんだろぉお!!」フゥーッ

右の頭「それはこっちのせりふなのりゃーっ!これはありゃいしゃんのからだなのりゃあ!おまえなんかくっちゅいてこなけりゃよかったのりゃあ!」ガシイィグイイイ

左の頭「ひゅぎいぃ!」

双頭二尾アライちゃんの右手が、左の頭のほっぺたを引っ張った。

左の頭「なんてことゆーのりゃ!いっつもありゃいしゃんがちっぽのこしゅこしゅだんしゅしてやってゆのにぃ!かんしゃちろぉ!」ガシイィグイイイ

右の頭「ふぎゅぎゅぅ!それがきもちわゆくてへたくしょなんだろぉ!」

双頭二尾アライちゃんの左手が、右の頭のほっぺたを引っ張った。

https://i.imgur.com/srVUOhP.png

左右の頭「「ふんぎゅぎゅぎゅうぅぅ~~!ふうぅーーーっ!」」グイグイ

店員「喧嘩はやめなさい!」

売られアライちゃん1「またはじまったのりゃ…」
売られアライちゃん2「いちゅものなのりゃ…」
売られアライちゃん3「うゆちゃいのりゃあ!いっつもなかよくちろっていわれてゆだろぉ!」フゥーッ
売られアライちゃん4「けんかはめーなのりゃあ!」シッポフリフリ

他のケースに入っているアライちゃん達が、双頭二尾アライちゃんを嗜めている。

左右の頭「「ふぎゅぐぎぎゅぅ~~っ!」」ハァハァ

基本的に双頭二尾アライちゃんの首から下は、左右どちらの頭でも自由に動かせるが…

どうやら、部位によって支配権が微妙に異なるらしい。

左腕、両尻尾は左の頭が。
右腕、両脚は右の頭が高い支配権を有している。

実を言うと、先程の尻尾の芸は、元々は二匹が別々に動かしてやろうとしていたが…

あまりにもタイミングが合わなかったため、『仲良く二匹でやっている』という体のもと、左の頭が一匹で両尻尾をコントロールしているのである。

左の頭&右の頭「ありゃいしゃんにあやま…げほげほ…!」「おまえのせーでありゃ…ごほごほ!」

二つの頭は、同時に別のことを言おうとして咳き込んだ。

左の頭&右の頭「だったらおまえがちっぽの…げほげほ!」「おまえがもっとじょーたちゅ…ごほんごほん!」

どうやら双頭二尾アライちゃんは、
『左右の頭が交互に喋る』ことと、『同じことを左右で同時に喋る』ことはできるらしいが…

『別々のことを、左右同時に喋る』ことが難しいようだ。

それはそうだろう。
口と喉と声帯こそ2つあるものの、肺と横隔膜は1つしかない。
しかもその支配権はほとんど同等。
空気を口に送り出すタイミングがずれるため、両方同時に喋ることは困難なのである。

店員「仲良くしなさいって言ってるでしょ!そんなに仲悪くしてたらお客さんの買ってもらえないよ!」

左の頭「びええええーーーんっ!てんいんしゃああああんっ!もーこいつきってえええーーっ!ありゃいしゃんのからだからきってええーーーっ!」ビエエエエン

右の頭「こいちゅこそわゆいできものなのりゃあ!ありゃいしゃんをなおちてええっ!゛の゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ーーーーぁ゛あ゛あ゛あーーーんっ!」ビエエエエン

https://i.imgur.com/9SC46QE.png

双頭二尾アライちゃんは大声で泣いた。

店員「ダメだよ!切ったら死んじゃうに決まってるでしょ!それに片方切っても、首の生え際の変なバランスは治らないの。『ただの可愛くないアライちゃん』として、ただ気味悪がられるだけ!」

店員「だったら、今の物珍しさを前向きにアピールして、珍しいもの好きなお客さんに買ってもらうしかないでしょ!」

左右の頭「「なんでありゃいしゃん、こんなのがはえてうまれてきたのりゃあ~~っ!ほかのこうらやまちいのりゃああっ!」」ビエエエエン

左右の頭「「ありゃいしゃんがかわいそーーなのりゃあああっ!の゛お゛ぉ゛ーーぁ゛あ゛んっ!の゛ぁ゛あ゛ーーーあ゛ん゛っ」」ビエエエエン

左右の頭は、再び仲良くハモった。

店員(本当は…ペットアライちゃんを虐目的で買うっていう人も、ごく一部いるらしいけど…)

店員(そういう層は極僅かしかいないらしいからな…)

店員(確か…アライちゃんがいなかった頃で言う所の、『犬、猫、小鳥などのペットを虐待してた人達』か、『幼児を虐待してた人達』が、そのままペットアライちゃん虐待勢になってるらしいな…)

店員(都合よく、偶然そういう人が来れば売れるかもしれないけど…。厳しいだろうな…)

店員(…なんて…)

店員(そんな酷い目には、遭わせたくないな…)

店員(いくら売り物とはいえ、アライちゃんも犬、猫、ハムスターや小鳥と同じ愛玩動物なんだ)

店員(犬や猫なんかのペットが虐待されるなんて…胸糞悪い。吐き気がする。…アライちゃんもそれと同じだ)

店員(ペットアライちゃんは、虐待用のストレス解消グッズなんかじゃない。可愛がってあげるべき動物だ)

店員(虐待する人達は、『野良アライちゃんが害獣だから、ペットアライちゃんも害獣だ』なんて言って自分を正当化してるらしいけど…)

店員(野良犬も野良猫も害獣だ。だったら、ペットの犬や猫も虐待していいっていうのか…!?)

店員(…)

店員(できれば、そういう悪い人達に捕まらず、いい人に飼われてほしい…)

左右の頭「「びええええええーーーんっ!!!ぴいぃいーーーーっ!」」ビエエエエン

双頭二尾アライちゃんは、大声で泣き続けている。

客「ん?なんだこの声…?」ガララッ スタスタ

その時、ペットショップに客が入ってきた。

店員「あ、お客さん来たよ、ほら泣き止んで!」

右の頭「うっぐ…ひぐっ…」グスグス

左の頭「ひぐっ…ぐしゅっ…」シクシク

客はアライちゃんコーナーに近づいてくる。

左右の頭は、泣き止んだようだ。

店員「いらっしゃいませー!こちらの子はいかがでしょうか?とってもレアな子ですよ!」

左の頭「のりゃー♪おきゃくしゃ~ん♪ありゃいしゃんたち、かーいいかーいいなかよししまいといっしょにくらちてなのりゃ~♪」コスリコスリ

右の頭「さんにんでなかよくしよーなのりゃ~♪」コスリコスリ

https://i.imgur.com/B8NvJSa.png

双頭二尾アライちゃんは、新しく来た客に自分たちの仲の良さと可愛さを必死でアピールしている。

果たして、このアライちゃんが大きくなるまでに、買われる日は来るのだろうか…。

続く

~オマケ~

レア動物マニアが昆虫を買ってから、店を出る前までに、店員に質問をしていた。

レア動物マニア「そういえば結局、なんであの奇形アライちゃんは研究所とかに送らないんですか?大した儲けにならないって言ってましたけど…」

店員「以前、研究所にそういう話を持ち掛けたこともあったんですが…一言でいうと、『研究する価値がない』からだそうです」

レア動物マニア「価値がない…!?そんなバカな、かなりレアだと思うんですが」

店員「研究する価値というのは、要するに『研究によって得られる知識がどれだけ役に立つか』のことですよ」

店員「例えば、コンクリートや洗濯物によくくっつく、赤くて小さいダニ…『タカラダニ』。あれは未知の部分が多い生物でありながら、生態や体質などがほとんど研究されていない。何故か分かりますか?」

レア動物マニア「え?う、う~ん…?なんでだろ…」

店員「答えは、『たとえ未知でも、解明しても何の意味もない』からです。毒がないことさえ分かれば、タカラダニの生態や体質など誰も興味を持たないし、その研究報告は何の役にも立たない。時間の無駄なんですよ」

レア動物マニア「なるほど…」

店員「あの双頭アライちゃんも同じです。もしあれが、遺伝子レベルでの突然変異であれば、新種であるため研究する価値は大いにあるでしょう」

レア動物マニア「ああ…。あれはどう見ても遺伝子の変化による突然変異じゃなく、細胞分裂がうまくいかなかっただけの奇形ですね」

店員「…母胎内での発生過程になら研究の価値はあるかもしれません。しかし、産まれてしまった後では、別にアレから得られる知識なんてろくにないんです」

店員「色々実験や調査しても、せいぜいあの奇形個体1匹の体の構造が分かる程度です…。じゃあ、そこから得られた知識が、何かに役立つでしょうか?」

レア動物マニア「いや…。体の仕組みが分かっても、あの奇形アライちゃんが死んだらそれまででしょうね…。特に何かの役には立たないかも…」

店員「研究機関いわく、『万が一遺伝するものであるならば、アライさん遺伝子の解明に役立つかもしれないが、可能性は限りなく低い』だそうです」

レア動物マニア「…」

店員「『成長ホルモン等の脳から伝達される物質が、二匹分送られたらどう働くかは若干、多少興味がある』とのことで、一応研究所に売り飛ばせば僅な儲けにはなるそうです」

レア動物マニア「研究する旨味があまりない以上、やっぱ人の手に渡った方がいいんでしょうね」

店員「獣医さんからは、生きていくのに必要な臓器は全て揃ってると言われています」

店員「短命ではあるでしょうが…、アライちゃんは元々た…」ピタッ

レア動物マニア「ん?」

店員「…何でもありません。まあ、普通のアライさんよりは短命でしょうね」

レア動物マニア(何を言いかけたんだ…?)

そうしてレア動物マニアは店を去り、他の客たちとすれ違い、昆虫を持って帰宅した…。

つづく

※若干補足

アライさんの脳では不活性サンドスター(動物をフレンズ化させることができない)が生成され、胴体に送られています

そのため、双頭二尾アライちゃんは通常の二倍のサンドスターを生成できます

しかし、この世界ではまだサンドスターの観測技術がなく、発見すらしていないため、
この個体がサンドスターの性質解明に物凄い役立つことを気付けてすらいません



野良アライちゃんは、人里へインターンシップへ行き、過酷な環境で過ごす。

しかし、疑問に思わないだろうか?

足が遅く、人懐っこいアライちゃん達が、なぜ人里でサバイバル生活ができるのか。

もし人間に見つかったら、その場で皆一匹残らず残酷に痛め付けられて殺されるのでは…と、思わないだろうか?

あらゆる人間が皆、アライちゃんを見付け次第その場で殺すのであれば。
とても人里でなど、アライちゃんといえど生きてはいけないのではないか…と。

…しかし。
現に、いくらかのアライちゃん達は生き延び、成体へ成長している。

そして、その多くは、人間を『完全な外敵』とは思っていない。

一体なぜ、このようなことが起こっているのであろうか…。



~ギャルの家~

ギャル「ふぅ~いいお湯だった~」ガラッ

ギャルが風呂場から、バスタオルを巻いて出てきた。

ティアラアライちゃん「のりゃ!のりゃ!」ヨチヨチヨチヨチ

そこへ、首輪とティアラをつけたペットアライちゃんがやってきた。

ギャル「あら~ティアライ。ここまで来たの?もう、甘えん坊なんだから」ナデナデ

ティアライちゃん「なのりゃ~!のりゃあ!のりゃあああ!」スリスリギューッ

ギャル「な…何怖がってるの?」

ティアライちゃん「なのりゃあ!なのりゃあ~!」ヨチヨチヨチヨチ

ティアライちゃんは、ギャルをどこかに案内しようとしているようだ。

ギャル「ちょっと待ってて、今髪渇かして服着るから…」ゴォォー

ティアライちゃん「のりゃあ!のりゃあああ!」シッポフリフリ

ギャル「よし渇いた!どうしたの?」スタスタ

ギャルは、ヨチるティアライちゃんの後をついていく。

ギャルはリビングについた。

すると…

https://i.imgur.com/uTuLneH.png

野良アライちゃん1「ふははー!こののりものおもちろいのだぁ!」キャッキャッ

野良アライちゃん2「あっちにすすめー!こらー!ゆーこときくのだぁー!」バンバン

2匹のアライちゃんが、ルンバに乗って遊んでいた。

ティアライちゃん「の、のりゃ…」プルプル

ギャル「」

ギャルは固まった。

野良アライちゃん1「うゆ!ひとしゃんなのだ!?あらいしゃんのおうちになんかよーなのだ?」シッポフリフリ

野良アライちゃん2「いっしょにあそぶのか?それともごはんくれゆのだ?」シッポフリフリコスリコスリ

ギャル「」

ギャルは無表情で固まっている。

ティアライちゃん「う、うゆうぅぅ…」プルプル

ティアライちゃんは、ギャルの足首にしがみついて震えている。

目の前のアライちゃん達は、どこからどう見ても、家に隙間をあけて侵入してきた野良アライちゃんである。

ギャル「う、うわぁ…野良じゃん…最悪…」

ギャルはひきつった顔をしている。

野良アライちゃん1「おい!おまえ!なんかこたえゆのだぁ!」フゥーッ

野良アライちゃん2「ここはあらいしゃんのおうちなんだぞぉ!かってにはいってきたらこまゆのだぁ!」フゥーッ

野良アライちゃん1&2「「ふぅぅーlっ!のりゃ!のりゃ!」」シッポフリフリ

野良アライちゃん達は、ギャルを威嚇している。

ギャル「…」

ギャルは動けずにいる。

なぜさっさと野良アライちゃん達を殺さないのであろうか…。

ギャル「え、ど、どうしよ…」オロオロ

ティアライちゃん「うゆうぅ…」

ギャル「と、とりあえず、どっか追い出さないと…!どうしよう、どうしよう…!」アセアセ

ギャル「す、スマホで調べてみよっかな…」

ギャルはスマホで『野良アライちゃん 追い払い方』と検索した。

何故『殺し方』で検索しないのであろうか…。

野良アライちゃん1「うぅ?なんかいうのだぁ!もしかして、あらいしゃんのかぞくになりにきたのか?」シッポフリフリ

野良アライちゃん2「ごはんくれゆなら、あたまなでてもいーぞぉ!」フフン

ギャル「え、えっと…。追い払い方は…。『熱湯や催涙スプレーを噴射してひるませ、玄関まで蹴りながら追い払う…』?」

ギャル「…」

ギャル「む…」

ギャル「無理!!!スプレーとかないし!」

ギャル「それに、ね、熱湯…!?無理無理無理無理!!」アセアセ

ギャルは焦っている。

ギャル「で、出てってよぉ!ここあたしの家だし!」アセアセ

ギャルは、『どうせダメだろうなぁ』と思いながら、野良アライちゃん達へ言った。

野良アライちゃん1「うしょなのだぁ!おまえがくゆずっとまえから、あらいしゃんたちここにきたぞぉ!」フゥーッ

野良アライちゃん2「あらいしゃんたちのほーがえらいのだ!」フフン

ギャル「この家はあたしがお金払って借りてるの!あなた達が作ったわけじゃないでしょ!」アセアセ

https://i.imgur.com/6hrf0zt.jpg

ギャル「っ…」

やっぱりダメだった。
話が通じるはずがないのである。

ギャル「こ、こうなったら…」ガシィ

ギャルは傘を掴んだ。

ギャル「で、出ていかないと、た、叩くよ!」フルフル

ギャルは傘を剣のように構える。

野良アライちゃん1「うゆぅ!こいちゅ!ぼーよくにものをいわせゆちゅもりなのだ!やばんなのだ!」フゥーッ

野良アライちゃん2「こーしょーけちゅえちゅなのだ!こんなきょあくはやっつけるのだ!」フゥーッ

ギャル「ひっ…!」

ギャルは、明らかに自分より小さい相手に対してビビっている。

これだけの体格差があれば、十分にアライちゃんを嬲り殺すことができるはずだ。

野良アライちゃん1「たあ~!」ヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん2「たあ~!」ヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん達は、ギャルに突撃する。

ギャル「ひぃ!く、来るなあ!」ブンブン

ギャルは傘を下に向け、横に振っている。

傘の先端の軌道は半円を描き、まるでバリアのようだ。

野良アライちゃん1「うぅ~!それふりまわすのやめゆのだぁ!」ヨチヨチピタッ

野良アライちゃん2「うぬぬ~…!これじゃちかづけないのだぁ!」ヨチヨチピタッ

野良アライちゃん達は、傘の前で止まった。

野良アライちゃん1「うぅ~…!」フゥーッ

野良アライちゃん2「うぅ~…!」フゥーッ

ギャル「あ、あわわ…」ブンブン

ティアライちゃん「ぴいぃ…」ガクガクブルブル

場の状況は硬直している。

ギャルはやがて腕が疲れ、傘を振るのを止めた。

野良アライちゃん1「!いまなのだ!たあ~!」ピョンッ ヨジヨジヨジヨジ

野良アライちゃん2「とちゅげきなのだー!たあ~!」ピョンッヨジヨジヨジヨジ

なんと野良アライちゃん2匹は、ギャルが握る傘に飛び乗り、よじよじと手の方へとヨチ登ってきた。

ギャル「い、嫌ぁあ!」ポイッ

ギャルはアライちゃん達が乗っている傘を前方に投げた。

野良アライちゃん1「ぴぎっ!」ビターン

野良アライちゃん2「ぷぎゅ!」ビターン

野良アライちゃん達は、床に叩き付けられたが…
対してダメージはないようだ。

ギャル「はぁ、はぁ…!あたしの方が強いもん!出てってよぉ!」ハァハァ

野良アライちゃん1「うぅ~!でももうぶきはとったぞぉ!」フゥーッ

野良アライちゃん2「しゅてごよならまけないのだ!おねーしゃ、がったいわざでぶったおしゅのだ!」ヨチヨチ

野良アライちゃん1&2「「たああああ~~~!」」ヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリ

野良アライちゃん達は、勢いよくギャルに突撃してくる。

ギャル「や、やだ!やだああ!」ドタドタ

ギャルはティアライちゃんを抱っこしながら逃げる。

野良アライちゃん1「おいかけゆのだぁ!」ヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん2「よーしゃしないのだぁ!」ヨチヨチヨチヨチ

ギャル「こっ…来ないでぇ!」ドタドタドタドタ

ギャルは裸足のまま、必死で家の中を逃げる。

しかし、どう考えても体格や強さではギャルの方が上。

その気になれば、野良アライちゃん達を踏み潰すことくらい造作もないはずだ。

なぜ、強いはずのギャルが逃げているのであろうか?

アライちゃん恐怖症なのか?

それともアライちゃんを飼っているから、野良アライちゃんにも情が移り、手出しできないのであろうか?

あるいはギャルが優しいから、アライちゃんを殺すのを可哀想だと思い躊躇しているのか…?

そのどれでもない。

大抵の人は、蚊ぐらい小さな虫なら殺せても…

相手の体の大きさが大きくなるにつれて、殺すことへの心理的抵抗が大きくなっていくのである。

蚊より蝿の方が殺しづらい。

蝿よりゴキブリの方が殺しづらい。

ゴキブリより芋虫や大ムカデの方が殺しづらい。

芋虫や大ムカデより、ネズミの方が殺しづらい。

そして、ネズミよりアライちゃんの方が殺しづらい。

そう感じる人が大多数なのである。
女性ならなおのことそうだ。

怒っているならともかく、冷静に躊躇せずアライちゃんを殺せる人は、決して多くはないのである。

これまで作中では、野良アライちゃんを自らの手で殺す者たちがいた。

亀太郎の仇討ちと殉葬のために、手足の動きを封じて埋めた男児兄弟たち。

若干早い中二病とスプラッターホラー趣味のため、殺しを楽しめるオカルテツヤ君。

前からアライちゃん相撲とかやってた上、帽子を台無しにされたガキ大将。

駆除業者の男児母親。

店内を荒らされ、怒りに燃えたラーメン屋店主。

猟師の免許を持ち、アライさん狩りの場馴れしている肉料理屋店主とその仲間。

…彼らのように自らの手で野良アライちゃんの命を奪える者は、この世界では少数派なのである。

もっとも、相手がスズメバチや毒サソリ等のような、『自分の命をガチで奪おうとする敵』ならば、
生存本能が働くため、誰もが皆殺すつもりで立ち向かうことができるであろう。

もしもアライちゃん達が、人間を襲って食うような、害獣以上の狂暴な猛獣であれば…
ギャルとて自衛と自身の生存のために、野良アライちゃんを迷わず踏み潰せるであろう。

しかし。
野良アライちゃん達は、人を襲わない。

空腹で飢餓状態になったときに人に会っても、
餌をくれるまで食べ物をしつこくねだるだけで、噛みついたりはしない。

そう。
『アライちゃんは害獣だが、自分が殺されるわけではない』という微妙な安心感が、
生存本能による殺しのリミッター解除を妨げ、余計に野良アライちゃんを殺し辛くなっているのである。

ギャル「こ…来ないでぇ!」ガチャッ

ティアライちゃん「ぴいぃ…!」

ギャルはとうとう、ティアライちゃんと一緒にトイレの中に閉じ籠って鍵をかけた。

『うゆ!かくれたのだ!』

『にげてったのだ!』

『わぁーい!うれちーのだぁ!ありゃいしゃんたちがかったのだぁー!』

『しまいのきじゅなのしょーりなのだぁ!おねーしゃんだいしゅきなのだー!』

『あらいしゃんもたくまちーいもーとがいてうれちーのだぁ!』

『しょーり♪しょーり♪しょーりのだんしゅ♪』

『せーぎ♪せーぎ♪せーぎのぽーじゅぅ♪』

トイレの扉の向こうから、せわしなく嬉しそうな声が聞こえてくる。

ギャル「うぅ…もうやだ…!誰か助けて…!」ウルウル

ティアライちゃん「TДT」ブルブル…

ギャル「ん…あ、スマホ、持ってきてた…」サッ

ティアライちゃん「のりゃ!」

ギャルは、先程アライちゃんの追い払い方を検索しているときに、スマホを持ってきていた。

ギャル「誰にかけよっか?駆除業者さんに連絡して来て貰った方がいいかな…」

ギャル「…」ピタッ

ギャル「…いや、一人…いた」

ギャル「中学生の頃、学校で躊躇なくアライちゃんを踏み潰してドン引きされた子が…!」

ギャル「賭けるしか…ない!」ピポパ

ギャルは、誰かに電話をかけはじめた。

電話をかけた後…

ギャルはこっそりトイレを出て、玄関に来た。

しばらく経つと、玄関のドアがノックされた。

『ギャル、来たよ。私だよ。こんばんは』

玄関の扉の向こうから声が聞こえ始めた。

ギャル「あ、ああ、来てくれたんだ、ありがとう…」ブルブル ガチャッ

ギャルは玄関のドアを開け、人物を招き入れた。

「ティアラちゃん大きくなったねー。うちのアラキレスも、大分大きくなったよ」

ギャル「あ、あはは…」

「私を呼んでくれてありがとう。さ、捕まえに行くから、案内して」ガサガサ

ギャルは、その人物とともに家の中を歩き回り、害獣を探した。

「おぉーい、アライちゃんはいるかなー?可愛い可愛いアライちゃーん?」

その人物は、声を出してアライちゃんを呼び始めた。

ギャル「ちょ、逆に逃げるんじゃ…!?」

「さっき君たちのお家に勝手に入ってきた悪者は取っ捕まえたよー!君たちにお詫びがしたいから、食べ物たくさん持ってきたってー!」サッ

人物はにおいの強いチーズを取り出した。

「ごはんたーっぷりあるよ!出ておいでー!可愛い可愛いアライちゃーん!」

ギャル「そんなので騙されるのかな…」

野良アライちゃん1「のりゃーー!!」ヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん2「ごっはん♪ごっはん♪おいちーごっはん♪」ヨチヨチヨチヨチ

ギャル「ほんとに出てきた!」

「ほら、アライちゃん達。さっきの悪者はこいつでしょ?捕まえたよ」

野良アライちゃん1「うゆぅー!おまえいーやちゅなのだあ!うつわもおっぱいもでかいのだー!」シッポフリフリ

「後半のは余計だけど…。はい、ごはんあげるよ」スッ

ギャルが呼んだ人物…
ミニスカートの美少女は、Gカップ…いや、Fカップは余裕でありそうなぐらい豊満なバストを揺らしながら、チーズを床に撒いた。

野良アライちゃん1「のりゃーーーーーーーーーーーーーーん!!!!!」ヨチヨチヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん2「ごっはん♪ごっはん♪あっむあっむちたいのりゃー!」ヨチヨチヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん達は、チーズを食べ始めた。

野良アライちゃん1「んむんむんむ!あんむあんむあんむあんむあんむ!!!!」クッチャクッチャクッチャクッチャ

野良アライちゃん2「おいちーーのりゃ!おいちぃのりゃあーーーー!はむはむはむはむはむはむはむはむ!!!」クッチャクッチャクッチャクッチャ

野良アライちゃん達は、夢中でチーズを食べ漁っている。

ギャル「野良に餌付けして何の意味が…」

ティアライちゃん「だあ~だあ~」シッポフリフリ

「ティアラちゃんも食べる?」

美少女はティアライちゃんにもチーズを与えた。

ティアライちゃん「んみゅぅぅ~~~!!あんむあんむあんむ!!ごくん!!んみゃあ~!のりゃ~!なのりゃ~!≧∀≦」シッポフリフリシッポフリフリ

ティアライちゃんも、チーズを食べて美味しがっているようだ。

野良アライちゃん1「げぇえええーっぷ!おいちかったのりゃー!おねーしゃんしゅきしゅきなのりゃー!」スリスリ

野良アライちゃん2「もっとたべたいのりゃー!」スリスリ

「ふふ、可愛い…。私の家には、今のがたーーぷりあって食べ放題だよ。良かったら来てみる?」

野良アライちゃん1&2「「いくのりゃああ~~~!!≧∀≦」」ヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん達は「可愛い」と言われて喜んだ。

まだ未熟なうちに母親のもとを離れたため、寂しがりや人肌が恋しいのである。

そのため、人に可愛がられることは、野良アライちゃんにとって母親の愛情を受けるかのようなとても強い精神的充実感と幸福感が得られるそうだ。

「それじゃあ、行こっか。この中入って」ガサガサ

野良アライちゃん1&2「「なのりゃ~!≧∀≦」」シッポフリフリ

美少女は、アライちゃん達をビニール袋をいれると、持ち上げてリュックサックへ詰めた。

「これで完了。このアライちゃん達連れていくね」

ギャル「あ、ありがと…慣れてるね…」

「こちらこそ、呼んでくれてありがとう。また出たら呼んでね」

「そうだ。あと、ちゃんと業者さん呼んでどこから入ったか調べて塞いで貰った方がいいよ」

ギャル「や、やっぱ…?」

「今の時期、アライちゃん達は冬籠もりの寝床を探してるから。下手に隙間つくるとウジャウジャ入ってくるから。まあ、体が大きいアライしゃんとかは入ってこれないけど」

ギャル「わ、わかった…ありがと…」

ティアライちゃん「のりゃー」シッポフリフリ

「じゃあねー」スタスタ

リュックサック『『れっつごーなのりゃー♪』』ガサゴソ

こうして、ギャルが召喚した人物は去っていった。

果たして、連れてかれたアライちゃん達がどうなるのか…

それはギャルには分からない。

つづく



野良アライちゃんは人に会うと、個体にもよるが、人懐っこく甘えて餌をねだってくることがある。

しかし、疑問に思わないだろうか?

野良アライちゃんは人に会ったら、ギャルのように怯えて追っ払われるか、はたまた一部の人に殺されるだけなのではないか。

そして、野良アライちゃんと会った人の大多数が野良アライちゃんにそういう対応をしているなら…
野良アライちゃんといえど流石に、『人に会ったら攻撃される』と学習し、人を避けるようになるのではないだろうか?

人間のことを、『自分を攻撃してくる完全な敵』と認識するようになるのではないか?

にも関わらず、野良アライちゃん達のいくらかは、人に会うと相変わらず餌をねだる。

一体これは何故なのか?

痛い目に遭うと知りながら、僅な一縷の望みに賭ける、学習能力のないマヌケなアホだからであろうか?

はたまた、自分の魅力を過大評価しており、何度踏んだり蹴ったりされようとも、いつか誰かが自分の魅力に気付いてくれると盲信している救いようのないナルシストだからであろうか?

アライちゃんがマヌケでアホなナルシストであるか否かは、ここでは議論しないとして…

そんな判断をし続けるアライちゃん達が、今日まで生き延び続けてきたことは確かな事実なのである。

…公園の砂場…

女児1「お城つくろー」ザックザック

女児2「よいしょ、よいしょ」ザックザック

二人の幼い女の子が、公園の砂場で遊んでいた。

小さなスコップで、砂場を掘っている。

そこへ…

野良アライちゃん1「なのりゃ~」ヨチヨチ
野良アライちゃん2「なのりゃ~」ヨチヨチ

害獣が2匹やってきた。

女児1「わ!アライちゃんだ!」ビクゥ

女児2「え、ど、どうしよ…たしか危ないんだよね…」アセアセ

女児は驚いている。

野良アライちゃん1「きゅるるるるる!」スリスリ

野良アライちゃん2「ひとしゃーん♪いっしょにあそんでなのりゃ~♪」ヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん達は、女児たちの足下にすり寄ってくる。

女児達はどうするであろうか?

その小さなスコップで、アライちゃん達を退治するか…

はたまた、逃げて大人を呼ぶだろうか。

♪ ∧ー∧ <なのりゃー!
(( ハ↓ハ ))ゝ fヲ
cU≧∀≦Ucノスっ 《《 ヨチヨチヨチヨチ

♪ ∧ー∧ <なのりゃー!
(( ハ↓ハ ))ゝ fヲ
cU≧∀≦Ucノスっ 《《 ヨチヨチヨチヨチ


女児1「か…かわいい~!」ナデナデ

女児2「この子なついてくるよ!アラ太郎みた~い!」ナデナデ

野良アライちゃん1&2「「きゅるるるぅ~♪」」スリスリ

なんと意外なことに、女児達は野良アライちゃんを撫でた。

野良アライちゃん1「うゆ!なにしてゆのりゃ?」クビカシゲ

女児1「砂でお城作ってるんだよー」ザックザック

野良アライちゃん2「おしろ?おしろなんなのりゃ?」クビカシゲ

女児2「えっ…なんだろ?でっかいお家、みたいな?」

野良アライちゃん1「しゅぢゅくりちてゆのりゃ?ありゃいしゃんもしゅゆのりゃ~!≧∀≦」シッポフリフリ

女児1「みんなで遊ぼう!」

女児と野良アライちゃん1&2は、砂場でお城を作った。

女児1&2「「できたー!」」

野良アライちゃん1&2「「できたのりゃ~!ふはははー」」コスリコスリ

野良アライちゃんは手を擦り合わせて、砂の城を眺めている。

♪ ∧ー∧
(( ハ↓ハ ))ゝ <ふはははー
U≧∀≦U fヲ
cヾっとノ o コスリコスリコスリ

♪ ∧ー∧
(( ハ↓ハ ))ゝ <ふはははー
U≧∀≦U fヲ
cヾっとノ o コスリコスリコスリ

野良アライちゃん1「さっそくなかにはいゆのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチ スポッ

野良アライちゃん1は、砂の城のトンネルに潜った。

野良アライちゃん2「ありゃいしゃんはうえのぼゆぅ~!のぉーぼぉーゆぅー!」ヨジヨジヨジヨジ

野良アライちゃん2は、砂の城の上に登った。

女児1「かわいいー!」

女児2「ぜんぜん危なくないじゃん!いい子達だよー!」ナデナデ

野良アライちゃん1「もっとしたにとんねゆほゆのりゃ~!わっちぇ!わっちぇ!」ザクザク

野良アライちゃん2「おちろのてっぺんなのりゃー!」ピョンッピョンッ

野良アライちゃん2は、お城のてっぺんでぴょんぴょん跳ねた。

https://i.imgur.com/2dT91Nl.png


当然ながら、砂の城は崩れた。

野良アライちゃん2「ぴぃっ!」ポテッ

野良アライちゃん1『う゛ゆ゛う゛ぅ゛!?』ザラザラ

https://i.imgur.com/O0uzxm4.png

城の下でトンネルを掘っていた野良アライちゃん1は、砂の中に埋まった。

女児1&2「「あはははは!」」

崩れた砂の城『ぴぃーーっ!たちゅけてぇーーっ!』シッポブンブンブンブン

https://i.imgur.com/sf04G3K.png

女児達に賢明な判断ができるならば、そのまま生き埋めにするか、早くスコップで刺し殺すか、大人を呼んで駆除して貰うべきだろう。

女児1「掘ってあげよう!」ザックザック

女児2「うん!」ザックザック

野良アライちゃん2「のりゃ!のりゃっ!」ザックザック

しかし女児は、あろうことか害獣を救出しようとし始めたのである。

そのまま2人と一匹は、砂の城を掘り返した。





https://i.imgur.com/ArXUS9U.png

野良アライちゃん1「うゆぅ…しぬかとおもったのりゃ…」ゼェハァ

野良アライちゃん2「おねーしゃでれたのりゃ~!」シッポフリフリ

女児1&2「「よかったねー」」

害獣は助かってしまったようだ。

野良アライちゃん1「ふぅー…。ありゃいしゃん、おなかしゅいたのりゃ…」グーギュルルー

野良アライちゃん2「なにかたべものちょーだいなのりゃあ!≧∀≦」コスリコスリコスリコスリ

女児1「なんかある?」

女児2「あ、グミあるよ!みんなで食べよー!」ガサガサ

女児2は、ポーチからグミを取り出した。

女児2「はい、おたべ」スッ

女児2はグミを手のひらに乗せ、野良アライちゃん2へ差し出した。

野良アライちゃん2「あむあむあむあむあむあむあむあむ!くっちゃくっちゃ!んん~!おいちーのりゃあ!ぐちゃっぐちゃっ!」クッチャクッチャ

野良アライちゃん2は大きな咀嚼音を立てながら、グミを食べた。

女児2(うわ食べ方汚っ…)

野良アライちゃん2「おいちかったのりゃあ~!もっとちょーだいなのりゃあ!」スリスリ

女児1「可愛いー!私にもグミ貸して!…はい、どうぞ」

野良アライちゃん1「もぐっもぐっもぐっもぐっもぐっもぐっ!おいちーのりゃあ!」

おばさん「あら~アライちゃん達!女の子に遊んで貰ってるの!いいわねえ~!」スタスタ

そこへ、近所のおばさんがやってきた。

野良アライちゃん1「あ、おばしゃ~ん♪」ヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん2「おばしゃんしゅきしゅきなのりゃ~♪」ヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん達は、おばさんへ歩み寄ってくる。

おばさん「ほら、ごはんおたべ」パッパッ

おばさんは魚の骨などの残飯をアライちゃんの前に撒いた。

野良アライちゃん1「いただきましゅなのりゃ~!あむっ!あむあむあむあむあむあむあむあむ!!!」モグモグ

野良アライちゃん2「おいちぃ~!おいちいのりゃあ~!」ムシャムシャ

女児1&2「「可愛いねー」」

おばさん「ねー!この子達すっごく人なつっこくて可愛い子達なのよー!」ナデナデ

もしもアライちゃん達が、人に餌だけをねだる存在であれば…
こういった餌付けする人々は、もっと少なかったかもしれない。

しかし。
アライちゃん達には、厄介な習性がある。

野良アライちゃん1「おばちゃんしゅきしゅきなのりゃ~!だぁ~いしゅきなのりゃあ!≧∀≦」ゴロン

野良アライちゃん2「なでて~!おばしゃん!なでてなのりゃ~!≧∀≦」ゴロン

野良アライちゃん達は、腹を見せてその場に寝転んだ。

おばさん「なーでなで!」ナデナデナデナデナデナデナデナデ

野良アライちゃん1「のりゃ~!≧∀≦」

野良アライちゃん2「きもちーのりゃあ~!」

おばさん「お嬢ちゃん達も撫でる?」

女児1「なでる~!」ナデナデナデナデ

女児2「かわいいー!」ナデナデナデナデ

野良アライちゃん1&2「「しあわしぇなのりゃあ~!≧∀≦」」

このように野良アライちゃん達は、おばさんや女児に餌付けされた。

おばさん「さて、と。あっちの猫ちゃんや鳩ちゃん達にもご飯あげてこなきゃ。またね~」スタスタ

女児1「おばさんやさしいね~!」

女児2「動物たちきっと喜んでるよー!」

本来であれば大人達は、女児へ害獣へ餌付けしないように指導しなくてはならない。

しかし、世の中の大人達は皆が皆子供の道標となれる立派な者達というわけではない。

こういう、愚かな行為をして悪い見本となってしまう『ダメな大人』もいるのである。

アライちゃんの厄介な習性…
それは精神の未熟さ故に、餌だけでなく、愛情をねだるのである。

これは演技ではない。
精神が未熟なうちに母親のもとを去ったため、本能的に愛情を欲しているのである。

そして、そのあざとい仕草が、寂しがりやな人達の庇護欲を刺激するのである。

女児1&2「「じゃーねー!」」スタスタ

野良アライちゃん1「またあそんでなのりゃ~!」ヨチヨチ

野良アライちゃん2「うゆぅ…。もっとごはんたべたかったのりゃ…」ヨチヨチ

野良アライちゃん達は公園から出て、住宅街の路地裏をヨチヨチ歩く。

野良アライちゃん1「うゆ!あっちにおいしそーなやさいあゆのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん2「うゆぅ~!」ヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん達は何かを見つけたようだ。
それは…

ダリア「」

…民家の鉢に生えている、まだ花の咲いていないダリアであった。

野良アライちゃん1「これたべれゆのだ?わっちぇ!わっちぇ!」バッバッ
野良アライちゃん2「わっちぇ!わっちぇ!」バッバッ

野良アライちゃん達は、先程の砂場での砂遊びのように、鉢の土を掘り返した。

ダリアの球根「」ゴロゴロ

鉢からは、ダリアの球根がたくさん出てきた。

野良アライちゃん1「いただきましゅなのりゃ~!あむあむあむあむあむ!(≧'u(≦ )」シャリシャリシャリシャリ

野良アライちゃん2「うゆうぅ~!もぐもぐ!おいちいのりゃ!おばしゃんのごはんほどじゃないけどおいちいのりゃあ~!(≧'u(≦ )」シャリシャリシャリシャリ

野良アライちゃん達は雑食性である。
それ故に、肉食の野良猫にはない、『食害』がある。

野良アライちゃん1「ごちそーさまなのりゃあ!うぅー、おなかいっぱいなのりゃ」
野良アライちゃん2「ここでうんちしゅゆのりゃ!おちっこもしゅゆのりゃあ!」オシリフリフリ

野良アライちゃんは、鉢の上で踏ん張った。

野良アライちゃん1「うぅ~っ!」ブリブリブリブリ
野良アライちゃん2「うぅ~っ!」ブリブリブリブリ

野良アライちゃん1「おちっこもしゅゆのりゃ!ふわあぁ~…」ジョボボボボ
野良アライちゃん2「はーきもちいーのりゃあ~…」ジョボボボボ

鉢「」プーン

鉢は、大事なダリアの球根が食われただけでなく…
肉食寄りの動物特有の悪臭を放つ大便を乗せられた。

野良アライちゃん1「おしゃんぽおしゃんぽたのちーのりゃー♪」ヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん2「なかよちしまいでしゃんぽ♪しゃんぽ♪うゆー!」ヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん達は遠くへ去っていった。

花好きおばさん「さてと、表のダリアに水あげなきゃ…」ガラッ

民家から住人が出てきた。

花好きおばさん「ダリ…ア…」ピタッ

大便の乗った鉢「」プゥーン

花好きおばさん「…あたしが、4ヶ月一生懸命育ててきたダリアが…」ワナワナ

花好きおばさん「ずっとずっと、咲くの楽しみにして愛情注いで育ててきたダリアが…!」ワナワナ

鉢のまわりには、固い茎などの食べ残しが散らばっている。

しかし、球根を食われたのは致命傷。

これらの残骸はもう再生することはないのである。

花好きおばさん「アライちゃんの仕業かああああああああああああああああああああッッッッ!!!ぜってーーに許さねえーーーッ!!!」

花好きおばさん「はぁはぁ…くそ…。庭は無事か…?」スタスタ

花好きおばさんは、庭へ向かった。

庭へ行くと…
花は無事だったようだ。

花好きおばさん「はぁ、よかった。でも…」

野良猫の大量の糞「」プゥーン

…野良猫の集団が、どうやらこの庭をトイレ代わりにしているようだ。

どちらも、先程の公園おばさんによって餌を貰い、繁殖を助長されている害獣の仕業である。

花好きおばさん「ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!今度は野良猫ォオオオオオオオオ!!!!」

花好きおばさん「どこのどいつだぁ!!あのクソ垂れ害獣どもに餌やってんのはああああああああっ!!」

花好きおばさんは、泣く泣く野良猫達の大便を片付けた。

世の中には、自分にとって都合がよい存在を『善』とみなし、
自分にとって都合の悪い存在を『悪』とみなす者がいる。

周りの人への悪影響を何ら考えず、自分の感情だけで善悪を決めつける者達がいる。

そう。
先程の公園のおばさんのように…

アライちゃんだけに留まらず、野良猫達や、糞害をばらまく害鳥である鳩といた害獣・害鳥たちへ餌付けする者達が多くいるのである。

『食べてる姿が可愛いから、アライちゃんや野良猫達は良い子』

『なついてくれると幸せだから、アライちゃんや野良猫達は良い子』

『食害や糞害など自分には関係ない。だからアライちゃんや野良猫達は悪い子じゃない』

…そういった独善的な倫理観をもち 、『自分は動物達を幸せにしている善人だ』とはた迷惑な自己肯定をしている偽善者たちがいる。

そういった、『はた迷惑な倫理観を持ったダメな大人』達が、アライちゃん達の繁殖を助長している。

そしてそれ故に、アライちゃん達は人間を『完全な敵』とは決め付けず…
餌をねだりにくるのである。

…翌日…

野良アライちゃん1&2は、公園の中をヨチヨチと歩いていた。

野良アライちゃん1「ふぅー、きょうもおばしゃんやおんなのこたちとあしょんでもらったのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん2「きょーはこっちをたんけんしゅゆのりゃ!たんっけん♪たんっけん♪」ヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃんは、 毎日違った場所へ散歩し、餌を探しにいく。

虫などの動物性の食べ物はともかく、植物性の食べ物は、一度収穫したら無くなることを知っているからである。

そして、アライちゃんは自由気ままに散歩をするのが大好きである。

野良アライちゃん1「ん?くんくん…ふんふん…」クンクン

野良アライちゃん2「こ、このへん…」クンクン

野良アライちゃん1&2「「ねこのにおいがしゅゆのりゃあ!」」

まだ体が小さいうちは、野良アライちゃん達にとって野良猫は天敵といってよい。

野良アライちゃん2「うぅ…!ねこにちゅかまったら、またいもーとたちみたいにたべられゆのりゃあ…!」アセアセ

野良アライちゃん1「ねこいないとこにゆくのりゃあ!」ヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん1&2「「くんくん、ふんふん…!」」クンクンヨチヨチ

野良アライちゃん達は地面のにおいを嗅ぎながら、猫のにおいが少ないところを探して向かう。

野良猫「フニャアアアア!!」ガサガサ

野良アライちゃん1「でたのりゃあ!」ビクゥ

野良猫がアライちゃん達の前に現れた。

野良アライちゃん2「おねーしゃ!きのぼりしゅゆのりゃ!」ヨジヨジ

野良アライちゃん1&2「「わっちぇ!わっちぇ!」」ヨジヨジヨジヨジ

野良アライちゃん達は、木に登り始めた。
そのスピードは普段のヨチヨチ歩きよりも速い。

野良猫「フニャアアアア!」ヨジヨジヨジヨジ

野良猫も負けじと、野良アライちゃん2匹を追って木に登り始めた。
猫は猫で木登りが得意なのである。

野良アライちゃん1「いまなのりゃ!たあー!」バッ

野良アライちゃん1は、野良猫の真上から飛び降り、跳び蹴りを放った。

野良猫「フギャアア!?」ドガァ ヒュー

蹴りを顔面にくらい、落下する野良猫。

野良猫「フギュゥ」シュタッ

野良猫はうまく着地した。

野良アライちゃん1「たあ~!」ドカァ

野良猫「フギャア!」グハァ

野良アライちゃん2「ありゃいしゃんもぉ!たあ~!」ヒューン ドカァ

野良猫「ウニャアア!」ブハァ

野良アライちゃん1&2は、野良猫の真上に着地した。

野良アライちゃん1「ちゅかまえたのりゃ!ぶっこよちておにくにしゅゆのりゃあ~!」グイグイ

野良アライちゃん2「いもーとたちのかたきぃ!はぐがぶぅ!」ガブゥ

野良猫「ふ…ぎゃ…」グググ

野良アライちゃん達は、野良猫の首を絞め、仕留めようとしている。

野良猫「フゥ…ウニャアアアア!!」ブンブン

しかし野良猫は、大きくじたばたと暴れ、野良アライちゃん達を振りほどいた。

野良アライちゃん1「うゆっ!」ボテッ

野良アライちゃん2「なんてぱわーなのりゃ!」ボテッ

野良猫「ウニャアアアア…!」タタタタッ

野良猫は逃げていった。
先程木の上から飛びかかられたときのダメージが大きかったのだろう。

野良アライちゃん1「や…やったのりゃあ!」

野良アライちゃん2「おっぱらったのりゃあ!」シッポフリフリ

野良アライちゃん1&2「「ばんじゃーい♪ばんじゃーい♪しょーりのおどりだばんじゃーい♪」」シッポブンブン

野良アライちゃん達は、野良猫を追っ払えたことを喜んでいる。

と、次の瞬間。

鷲「クェー!」ガシィイ

野良アライちゃん1「うゆうぅ!?」ブラン

野良アライちゃん2「≦∀≧」!?

大きな体の鷲がやってきて、野良アライちゃん1の首の後ろを鷲掴みしたのである。

鷲「クェー!クェー!」バッサバッサ

野良アライちゃん1「い…いもーとぉおお!おかーしゃあああんっ!たしゅkwてええええっ!」ピギイイィィジタバタ

野良アライちゃん2「お、おねーしゃ!おねーしゃあ!」ヨチヨチヨチヨチ

鷲「…」バッサバッサ

野良アライちゃん1「ぴいいぃ…」

鷲は一瞬で飛び去り、どこか遠くへ運ばれていった。

野良アライちゃん2「お…おねー…しゃ…」ウルウル

野良アライちゃん2「っ…ぴいいぃぃ~~~~っ!おねえーしゃあああーーーんっ!」ビエエエエエエン

一緒に協力して餌を探し、辛いときは励まし合ってきた実の姉との、あまりに唐突な別れ。

5匹の姉妹のうち、3匹は様々な理由で死別した。

野良アライちゃん2は、姉妹で唯一の生き残りとなった。



夜。

公園の植え込みの中で、野良アライちゃん2が丸まっていた。

https://i.imgur.com/9FWCZLN.jpg

野良アライちゃん2「う…うゆうぅ…」ブルブル

野良アライちゃん2は、この植え込みを晴れの日の巣にしているようだ。

雨から身を守ることは全くできないが、人間や猫などの外敵からは身を隠せる。

野良アライちゃん2は、恐怖しながら巣にこもっていた。

野良アライちゃん2「うゆうぅ…おなかしゅいたのりゃ…」ブルブル

野良アライちゃん2「でも…おしょといったら、あのおっかないとりがきてたべらてゆかもしれないのりゃ…!」ブルブル

野良アライちゃん2「っ…」グーギュルルー

野良アライちゃん2「おねーしゃん…おばしゃん…おんなのこたち…!」ブルブル

野良アライちゃん2「ぴっ…ぴぃいいいいぃい~~~~っ!!!」ビエエエエエエン

野良アライちゃん2「もーおうぢがえりだいのりゃあああああーーーーっ!」ビエエエエエエン

野良アライちゃん2「の゛ーーーーーぁ゛あ゛あ゛んっ!!の゛お゛ぉーーーーぁ゛ぁ゛あーーんっ!」ビエエエエエエン

野良アライちゃん2「もーこわいのやなのりゃああああーーーっ!」ビエエエエエエン

野良アライちゃん2「おうぢがえりだいいいぃいーーーーっ!おがーしゃんになでなでだっこちてほじいのりゃああああーーーーっ!!おがあしゃあああーーーんっ!!」ビエエエエエエン

野良アライちゃん2「のぁあああーーーーーんっ!のおおおぉおおおおーーーーーぁああああああーーーーーーんっ!おーーなあああーあがああああああああーーーしゅいだあああああああああああーーーーーっ!!」ビエエエエエエン

野良アライちゃん2は泣いた。
ただひたすら泣きじゃくった。

※写真出展元:
https://blog.goo.ne.jp/sbito/e/855a83a158747c75fae9fc584231c8f6

つづく

野良アライちゃん2は泣き止んだようだ。

野良アライちゃん2「うゆぅ…!あした、おばしゃんとあったら、かぞくにしてもらうのりゃ…!」ヒックヒック

野良アライちゃん2「それまで、がまんしゅゆのりゃ…」プルプル

野良アライちゃん2「っ…!」プルプル

野良アライちゃん2「おなが…しゅいだのりゃあ…!たべものさがしゅのりゃあ…!」ヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん2は、夜の公園をよちよち歩く。

野良アライちゃん2「うゆ?くんくん…ふんふん…」クンクン

なにかの匂いに気づいたようだ。

野良アライちゃん2「あっちからおいちそーなにおいしゅゆのりゃ!」ヨチヨチヨチヨチ

野良アライちゃん2は、道路の方へ向かった。

そこには…




野良猫「ヴ…ニャ…」ピクピク



…車に轢かれ、内臓が飛び出して死にかけた野良猫が横たわっていた。

野良アライちゃん2「うゆ…!さっきのねこなのりゃあ!」シッポフリフリ

野良アライちゃん2「おまえー!おまえのせーでだいしゅきなおねーしゃんがつれてかれたのりゃ!はぐがぶぅ!」ガブゥ

野良猫「に…ぁ…」

野良アライちゃん2は、飛び出ている内臓に噛みついた。

野良アライちゃん2「くってやゆのりゃ!ふんぐぅぅーーーっ!」ミリミリ

野良猫「ぎ…にゃ…」

野良猫の腸を食いちぎろうとする野良アライちゃん2。
もしもこいつを追っ払ったとしても、もうこの野良猫が助かることはないだろう。

野良アライちゃん2「ふんぐぅぅ!」ブヂィ

野良猫「に…びゃ…」ブシュウドクドク

内臓の肉を噛みちぎった野良アライちゃん2。

野良アライちゃん2「くっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃくっちゃ!!!!!あぐあぐあぐあぐあぐあぐ!!がぶがぶもぐもぐもぐもぐ!!!」クッチャクッチャ

野良アライちゃん2は、野良猫の内臓を次々と食い漁る。

野良アライちゃん2「おいちーのりゃあ!おいちーのりゃああっ!もぐもぐ!うおー!おにくぱわーみなにゆのりゃあ!」クッチャクッチャ

野良猫「」

野良アライちゃん2は、野良猫の内臓を食べるのに夢中になっている。

野良アライちゃん2は普段、路上で死骸を食べるときは、物音に気をつけていた。

何故なら、かつて自分の妹のうちの一匹が、死骸を食べるのに夢中で車に轢かれ命を落としたのを見たからだ。

野良アライちゃん2「もぐもぐもぐ!おまえのせーなのりゃ、ねこ!おにくになってちゅぐなうのりゃあ!」クッチャクッチャ

姉妹で生活する野良アライちゃん達にとって、姉妹の数とは『残機』に近い。

姉妹の死と共に、死なないための術をひとつ身に付けていくのである。

野良アライちゃん2「うれちーのりゃ!おねーしゃのかたきをうてて!もぐもぐ!てんごくのおねーしゃが!おまえをのろったのりゃ!ばちがあたったのりゃー!」クッチャクッチャバリバリムシャムシャ

だが。
野良アライちゃん2は、感情が昂っていた。

野良アライちゃん2は、姉の死にショックを受け、鷲に脅えるとともに憎んでいた。
敵を討ちたいと、頭の片隅で思っていた。

だが、あんな大きな鷲に敵うわけがない。
そのため、姉が連れ去られたのは野良猫のせいだということにして、
野良猫を当面の倒すべき仇としていた。

野良アライちゃん2「ざまみろなのりゃうんこたれー!もぐもぐもぐもぐ!(≧'u(≦ )」クッチャクッチャ

野良アライちゃん2は、野良猫への憎しみ、姉の仇(?)へ自身の手で止めをさせる喜び、美味しい肉をたらふく食える喜びで、頭の中がこんがらがっていた。

だから接近する自動車に気付けなかった。

無灯火の電気自動車「」ヒュイィーーーーーーンッ

野良アライちゃん2の尻尾「」グチャアアア

野良アライちゃん2「ぴぎっ!?」ビグゥ

運転手「ん!?なんか轢いたか!?やべ、電気つけ忘れてた」チカッ

自動車は去っていった。

野良アライちゃん2「っ…」ブルブルズキズキ

尻尾の真ん中あたりがタイヤの下敷きとなり、ぺしゃんこになっていた。

野良アライちゃん2「っ…ぴっぎいいいいいいいいいいぃいいぃいいぃぃぃっぃい!!!!!!」ゴロンゴロン

野良アライちゃん2「いぢゃああああああああああああああいいいいいいいいいいいいいいいいーーーーーーーーっ!びぎゅううぅうぃいいいいいいーーーーーっ!」ブシャアアゴロンゴロン

野良アライちゃん2「いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいーーーーーーーーぢゃああああああああああああああああああああいいいいいいいいいいいいいいのりゃあああああああああああああーーーーーーっ!」ゴロンゴロン

野良アライちゃん2「の゛お゛お゛ぉ゛ぉーーーーーぁ゛あ゛んっ!!の゛お゛ぉ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーんっ!!!い゛い゛ぢゃあ゛あ゛い゛ぃーーーーっ!」ピギイイィィジタバタ

野良アライちゃん2は、尻尾の激痛でのたうち回っている。

なんたって、尻尾には神経も血肉も骨も脊髄も通っているのである。

…実際は、肉体と尻尾の間に体組織としての連続性はなく、『血肉の入った着け尻尾』のような状態らしいが…。

野良アライちゃん2「ぎびゃあああああああああ!ああいぢゃいい!いぢゃいいぃい!びぎゅううぅ!きゅるるうぅぅううっ!」ビエエエエエエン

野良アライちゃん2は大泣きしながら、激痛に苦悶している。

野良アライちゃん2「うゆ…うゆうぅう…!かえゆ…おうぢがえゆうぅぅ…!」ブルブルズキズキ

こんな状態では、野良猫の肉を食うどころの話ではない。

野良アライちゃん2はヨチって巣へ帰ろうとした。

しかし…

野良アライちゃん2「うゆうぅ…!?すすめない…すすめない…のりゃあっ…!」ブルブル

頭がアンバランスなほどデカいアライちゃんにとって、尻尾はヨチヨチ歩きするために必須の重心バランサーである。

それがない以上、野良アライちゃん2にヨチヨチ歩きはできないのである。

野良アライちゃん2「う…うゆうぅう…!もーだめなのりゃあ…!」ブルブル

野良アライちゃん2は、自分の尻尾がまた生えてくることを知らない。

故に、自分はもう一生歩けなくなったと勘違いしているようだ。

野良アライちゃん2「じにだぐないいいぃいい!しにだぐ…ないのりゃああっ…!」ゴロンゴロン

野良アライちゃん2は涙を流しながら、横にゴロンゴロンと転がって進む…。

~翌日、公園~

女児1「おばさんはペットは飼わないんですか?」スタスタ

公園おばさん「いや~ペットはねえ。家の中毛だらけになってお掃除大変だし。家の中でオシッコでもしたら最悪よ~」スタスタ

公園おばさんは、公園の野良動物への餌を持っている。

公園「それに私には、公園にいる可愛い可愛い猫ちゃん達やアライちゃん達がいるものね~」スタスタ

女児2「おばさん、ほんとーにどーぶつおもいで優しいね~!」

公園おばさん「そうでしょう、ふふん」スタスタ

そしていつもの餌付け場にいくと…

野良アライちゃん2「う…うゆうぅ…」ブルブル

公園おばさん「…!?アライちゃん!?どーしたのその傷!?」

…尻尾が潰れた野良アライちゃん2が倒れていた。

野良アライちゃん2「うゆうぅ…おばしゃ…!ありゃいしゃんの、ちっぽ…だめになっちゃったのりゃあ…!あゆけなくなっちゃったのりゃあ…!」ウルウル

公園おばさん「まあ、可哀想に…」

野良アライちゃん2「おねーしゃんは、おっきなとりにつれてかれちゃったのりゃ…!きっともうたべられてゆのりゃ…!」ウルウル

女児1「ひ、ひどい…!」

野良アライちゃん2「おねがいなのりゃあ…!ありゃいしゃん、このままじゃしんじゃうのりゃあ、ききなのりゃあ!だいしゅきなおばしゃん…!」ウルウル

野良アライちゃん2「かーいいかーいいありゃいしゃんを、たしゅけてぇ…!」ウルウルシクシク

公園おばさん「…」

女児2「…かわいそう…」

公園おばさんの選択は…

公園おばさん「もちろん良いわ!あたしが助けてあげるよ!おーよしよし」ガシィ

公園おばさんは、野良アライちゃん2をタオルでくるみ、籠へ入れた。
もう血は止まっているようだ。

野良アライちゃん2「う…ゆぅ…!おばしゃあん…!ありがとなのりゃあ…!おばしゃんはいのちのおんじんなのりゃあ…!」ウルウル

女児1「おばさん…ほんとに『善い人』だね…!」

女児2「優しい!」

公園おばさん「すぐにお家に行きましょ!おばさんが絶対、可愛い可愛いアライちゃんのこと助けてあげるからね!」スタスタ

公園おばさんは、野良アライちゃん2を籠へ入れ、自宅へ向かった。

野良アライちゃん2「う…ゆ…おばしゃん…おねがいあゆのりゃ…!」ウルウル

公園おばさん「何かな?」スタスタ

野良アライちゃん2「おかーしゃが…、もうしゅぐ、うんとさむくなゆって、いってたのりゃ…」ブルブル

野良アライちゃん2「もし、けががなおっても…、あったかくなゆまで、かぞくにちてほちいのりゃ…!」ウルウル

公園おばさん「いいよ!アライちゃんは優しくて良い子だからね!ちゃんと大人しくするんだよ!」スタスタ

野良アライちゃん2「やったのりゃあ!≧∀≦おばしゃんだーいしゅきなのりゃあ!」フリフ…

野良アライちゃん2は尻尾を振ろうとしたが…

潰れた尻尾「」ベギィ

野良アライちゃん2「いっっぢゃあああああいのりゃああああああっ!」ビエエエエエエン

尻尾の傷は悪化したようだ。

公園おばさん「待っててね!もう少しだから…!」タタタタッ

通行人「ん…あれは…?ああ、ペットが怪我したのかな…」スタスタ

公園おばさんは、通行人とすれ違った後、自宅へ入っていった…。

もしもこの世界に、あらゆる罪を絶対に裁く、機械仕掛けの神がいたならば…

野良アライちゃん2という、鉢のダリアを食い荒らした害獣は、天罰により裁かれていたであろう。


もしもこの世界に、あらゆるアライさんの運命を操り絶対に死へ誘うアライさん嫌いな神がいたならば…

野良アライちゃん2といわず、日本中の全てのアライさんが、今頃何らかの形で死んでいたであろう。


しかし、現実は違う。
毎年野良アライちゃんは繁殖し、インターンシップを生き残った野良アライちゃん達が森に戻って生息分布を広げている。

そう。
いくら野良アライちゃんが罪を重ねようとも、
いくら悪行をしようとも。
それを裁く神などいない。

生き残る奴は、生き残ってしまうのである。

そして、一度このように人間の保護下に入ってしまえば、外敵から守られるし、越冬も安全にできる。

もしもこの野良アライちゃん2が生き残り、成長し、森に戻って子供を産めば…
きっと自分の子にも、『人間は全てが敵というわけではない。うまく可愛がられれば味方になる』と教えるだろう。

こういった旨味があるから、野良アライちゃん達は、人に媚びるのである…。

花好きおばさん「……」スタスタ

花好きおばさんは、近くのスーパーに向かって歩いていた。

途中、何人かの通行人とすれ違った。

そこへ…

ギャル「お散歩たのしい?パンサー、ティアライ」スタスタ

豹柄の猫「にゃ~」トテトテ

ティアライちゃん「のりゃ!のりゃ!」ヨチヨチ

…猫とアライちゃんを連れたギャルが通りかかった。

どちらもきちんと首輪にリードが繋がれている。

花好きおばさん「…」

ギャルは通りすぎていった。

花好きおばさん「猫…アライちゃん…どっちも大嫌いだ。野良といわず、ペットも含めて全部いなくなればいいのに…」スタスタ

野良アライちゃんがいる限り、これからも花好きおばさんのような被害者が出るのであろうか…。



~防虫グッズメーカー~

メーカー営業社員「野良アライちゃんの対策グッズが欲しい、ですか?」

商社社員「はい。野良アライちゃんを叩いたり打撃で殺すのが苦手な人は大勢います」

商社社員「毒餌やアライホイホイ等のグッズはありますが、結局は罠ですし…。その場ですぐ殺せるものではありません」

メーカー営業社員「なるほど…どんな商品を希望されておりますか?」

商品社員「できれば、スプレータイプで…。お年寄りでも安全に、野良アライちゃんを駆除できるようなのが良いですね」

メーカー営業社員「分かりました!商品開発、やってみましょう!この案件、お引き受けいたします!」

メーカー営業社員は、『アライちゃん駆除スプレー』の開発依頼を引き受けた。

~メーカー本社~

開発チーフ「す…スプレー!?野良アライちゃんを駆除できるスプレー!?」

営業社員「うん。お年寄りでも使える安全なやつ。うちは結構防虫のノウハウあるし、いけるでしょ!?」

開発チーフ「…えー…作れるかなぁ、そんなの…」

営業社員「簡単なんじゃないの?」

開発チーフ「はぁ…。とにかく、色々なアプローチで実験してみよう」

【アプローチ① 既存の殺虫剤を使う】

~実験室~

実験用アライちゃん1「ぴ……ぴいぃ…!」ガクガクブルブル

研究員「よし、実験開始」スッ

スプレー「」プシュウウゥウ

研究員は、市販の殺虫スプレーをアライちゃんに向かって噴射した。

実験用アライちゃん1「ぴいいぃいい!?げほげほ、げほげほっ!」ゴホゴホ

実験用アライちゃん1「ぴいいぃいいいいい!ごほごほ!やなああああ!やーーーなあああーーーーっ!」ヨチヨチヨチヨチヨチヨチ

実験用アライちゃん1は激しく咳き込みながら、実験室内を必死にヨチヨチ走る。

研究員「逃げるな!」プシュウウゥウ

研究員は実験用アライちゃん1を追いかけ、顔面にスプレーを浴びせ続ける。

実験用アライちゃん1「びぎゃああああ!げほごほごほ!やべでえ!やああべでえええええっ!ごほごほごほごほっ!」ゲェッホゴホォッ

実験用アライちゃん1は苦しさで悶絶している。

開発チーフ『様子はどうだ?』

研究員「うーん…」

実験用アライちゃん1「げほげほげほっ!げぇっほげぇっほ!」ゴホゴホ

研究員「死にませんね…」

開発チーフ『まあそうだろうな…。市販の殺虫剤は、有効成分をかなり薄められている。しかも人間には効きづらく、虫に効きやすい成分を選んでいる』

開発チーフ『虫ならともかく、哺乳類…に近い、アライちゃん相手には殺すには至らないだろうな』

研究員「ですね…実験終了します」ガシィ

実験用アライちゃん1「げぇっほ!げほっ…!ひー…ひー…!」ゼェハァ

研究員「よいしょ」ポイッ ガシャン

実験用アライちゃん1「ぴいぃっ!」ポテッ

実験用アライちゃん1は、檻の中に戻された。

開発チーフ「安全性もいいが、まずは確実に殺せるようにしないと…」スタスタ

研究員「ですね…」スタスタ

実験用アライちゃん1「きゅるるるぅ!ぴぎゅるるうぅ!だぢで…だぢでええ!ぴぃ!ぴいいぃぃ!」ガァンガァン

実験用アライちゃん1は、檻を叩いたり噛んだりして、やかましく騒音をたてている。

開発チーフ「どういうアプローチでいく?少なくとも、既存の殺虫剤では効き目が薄いぞ」

研究員1「アライちゃんサイズの哺乳類を仕留めるとなると、毒ガスレベルの毒の強さが必要となります」

開発チーフ「それでやってみるか?」

研究員2「まさか!無理でしょう!密閉した室内で使えば、人間でさえ健康被害を受けかねません!」

研究員3「それに、アライちゃんのサイズって人間の乳児より若干小さいくらいですから。安全性に大きな問題が出てきます」

開発チーフ「…」

研究員1「む…無理じゃね…?この案件…」ヒソヒソ

研究員2「そんなの仕事取ってきた営業に言えよ…」ヒソヒソ

【アプローチ② アライちゃん致死量ギリギリ届いてる濃さのスプレーを使う】

~実験室~

実験用アライしゃん1「ううぅーー!はなすのだあああ!はなすのだああーーーっ!」ガッシャンガッシャン

実験用アライしゃん2「あらいさんはいつになったらおそとでれるのだああーーーっ!」ガッシャンガッシャン

実験用アライしゃん3「うぅ…なにするのだぁ…」ブルブル

実験用アライさん「うぐぐぅ…!もう、もう嫌なのだ…!苦しいのはもうやなのだ…!」ブルブル

実験室には、椅子に手錠で拘束されたアライしゃん3匹と、肘と膝から先が切断されているアライさん一匹がいた。

研究員1「こちらが、室内にいる人間のダミーとなります。これらのアライしゃん・アライさん達に健康被害があったら安全性はアウトです」

アライさんの肉体の構造は、人間とほぼ同じ。
よってアライさんは、薬剤の人体影響を調査するのに非常に役立つのである。

研究員2「実験用アライちゃん、持ってきました」ガラガラ

檻の中のアライちゃん達「「なのりゃー」」コスリコスリ

研究員2が持ってきた檻には、10匹程のアライちゃんが入っていた。

実験用アライさん「…」ジーッ

実験用アライさんは、檻の中のアライちゃん達を見ている。

実験用アライさん「…チビ…。アライさんが産んだチビ達は、今頃何してるのだ…」ションボリ

開発チーフ『実験開始するぞ!研究員達は、ただちにガスマスクを装着しろ!』

研究員1「…」カチャカチャ

研究員2「…」カチャカチャ

研究員達はガスマスクをつけた。
強力な毒ガスでも防げるスグレモノである。

開発チーフ『実験開始!』

研究員1「アライちゃんを部屋に放ちます!」ガチャッ ユサユサ

研究員1は檻の出口を開け、出口を逆さにして檻を上下に揺さぶった。

実験用アライちゃん1「のだっ!」ボテッ
実験用アライちゃん2「なのりゃー」ボテッ
実験用アライちゃん3「ぴぎっ!」ボテッ
実験用アライちゃん4「なのりゃー」ボテッ
実験用アライちゃん5「なのりゃー」ボテッ
実験用アライちゃん6「なのりゃー」ボテッ
実験用アライちゃん7「なのりゃー」ボテッ
実験用アライちゃん8「なのりゃー」ボテッ
実験用アライちゃん9「なのりゃー」ボテッ
実験用アライちゃん10「なのりゃー」ボテッ

檻の中からアライちゃん達がどさどさと落ちてきた。

実験用アライちゃん1「うゆぅー!にげゆのりゃー!」ヨチヨチヨチヨチ
実験用アライちゃん2「なのりゃー」コスリコスリ
実験用アライちゃん3「のりゃ」シッポフリフリ
実験用アライちゃん4「なのりゃー」ヨチヨチ
実験用アライちゃん5「なのりゃー」コスリコスリ
実験用アライちゃん6「くんくん、ふんふん…」ヨチヨチヨチヨチ
実験用アライちゃん7「なのりゃー!なのりゃー!」ヨチヨチヨチヨチ
実験用アライちゃん8「はぐはぐはぐはぐ…」ペロペロ
実験用アライちゃん9「なのりゃー」ヨチヨチヨチヨチ
実験用アライちゃん10「なのりゃー?」コスリコスリ

実験用アライちゃん達は、実験室内をヨチヨチと歩き回ったり、毛繕いをしたり、手を擦り合わせている。

研究員2「さて…」スタスタ

ガスマスクを装着した研究員2は、実験用アライちゃん達へ近付いた。

実験用アライちゃん1「きゅるるるるるぅ!ぴぎゅぅるるうるぅ!もーくゆじーのやなのりゃああーーーっ!おねがいもーやめでええーーーっ!こーびちてあげゆがりゃああーーっ!」

研究員2「心配するな、今日で最後だ。約束しよう」スタスタ

実験用アライちゃん1「ほ、ほんとなのりゃ…?」ウルウル

研究員2「ああ。この実験が終わったら自由にしてやる」スチャッ

開発チーフ『研究員2!余計な発言は慎め!』

研究員2「実験開始」スチャッ

研究員2は、実験用アライちゃん達に向かってスプレーを向けた。

つづく

研究員2「噴射!」プシュウウゥウ

研究員2が持つスプレーから、実験用アライちゃん達へ殺虫剤が噴射される。

実験用アライちゃん1「のびゃっ…う…ぐぎびいい、い、いいいいいい!くゆじいい!ぐうゆじぃいいいいいい!」ジタバタ

実験用アライちゃん2「のりゃ!のりゃ?…う、うぎゅうぅうううう!ぴぎゅううぅうう!」ジタバタ

実験用アライちゃん3「ぴぎゅ!うぷぎゅ!うぶぎゅうぅう!おえええええっ!」ゲボゲボ

実験用アライちゃん達はガスを浴びると、すぐに手足ががくがくと痙攣してひっくり返り、仰向けになってじたばたと手足を痙攣させた。

実験用アライちゃん4「がびゅ…ぐ…」ビクッビクッ

実験用アライちゃん5「ふ…ぎゅ……」ピクピク

実験用アライちゃん達は、そのうちぴくぴくと痙攣だけをするようになった。

実験用アライちゃん1「じ…ゆぅ…に…しで…やゆ…っで…う…しょぢゅ…ぎぃ…」ピクピク

研究員2「おお~すげー威力だ。どれ、ダミー達は?」クルッ

研究員2は後ろを振り返り、ダミー…
実験用アライしゃん1~3と実験用アライさんを見た。

これらのダミーに健康被害が出ないことが、安全性検証における最低必要条件である。

実験用アライしゃん1「えれえげー」ゲボゲボ

実験用アライしゃん2「うぐぎゅ!うぅうう!だぜえええ!ごごがらだぜええええ!ぎもぢわゆいいぃい!」ビグンビグン

実験用アライしゃん3「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!あだまいぢゃああいいいいいいいいいいいいいーーーーっ!!いいいーーーだああああああああいいいのだああああああああああーーーーーっ!!」ジタバタ

実験用アライさん「うっ…ぶ…ぐうぅ…ぎもぢ…わるい…ぐるじいっ…!」 ウプッ

研究員2「あー、安全性ダメですねこれ」

研究員1「ま、分かってましたけどね」

開発チーフ『ウーム…致死量ギリギリの毒性のガスでも、健康被害は免れない、か。…一旦、研究員達は実験室から出るように。検体たちの様子を観察する』

研究員達は実験室から出て、カメラを回してアライさん達の様子を記録した。

~数日後、研究室~

研究室には、たくさんの机、パソコン、レポートパッド、栄養ドリンクの空瓶等々が並んでいる。

開発チーフ「して、その後のダミー達の様子は?」

研究員1「アライちゃん達は、神経ガスによってあの場ですべて死亡しました」

研究員1「ダミーのアライしゃん達は、あの場では死にませんでしたが、重い神経麻痺が残りました。喋ることもできず、耐えず痙攣してばかり」

研究員1「自力で餌を食べることも水を飲むこともできず、そのまま衰弱死しかした」

研究員2「実験用アライさんは…嘔吐や下痢を繰り返し、二日間ずっと苦しんだ後、回復傾向が見られました」

研究員2「現在は喋ることはできませんが、自力で水を飲むことや、柔らかいものを飲み込みくらいはできるようになっています」

開発チーフ「なんて生命力だ…」

開発チーフ「しかし、手詰まりか…?アライちゃんを最低限殺せる威力で、この有り様だぞ…」

研究員1「毒ガス兵器以外の何者でもありませんね」

研究員2「はぁー…。誰だよ、こんな仕事引き受けた奴…」

研究開発は難航しているようだ…。

開発チーフ「一旦休憩するぞ…」

研究員1「はい…。チーフ、泊まり込みの間ヒゲ伸びてないでしょ。ヒゲ伸びすぎですよ、剃ったらどうです」

開発チーフ「そうするか…」フラフラ



開発チーフは、洗面所に行って鏡を見た。

開発チーフ「うおー…ヒゲ伸びてるな…」スッ

開発チーフは髭剃りを持った。
電気シェーバーではないやつだ。

開発チーフ「ん…そういや、髭剃りのジェルがないな…」

研究員1「ふぅー」スタスタ

開発チーフ「あ、おーい!研究員1!髭剃りジェル持ってないか?」

研究員1「ジェルは無いですが、これならありますよ」スッ

https://i.imgur.com/qEkZWWz.jpg

研究員1は、スプレー缶を取り出した。

開発チーフ「これは?」

研究員1「スプレータイプのクリームですよ。こんな感じです」シューッ

髭剃りクリーム「」シュウゥウウウウウウ

研究員1がスプレー缶の頭を押すと、ノズルから髭剃りクリームが飛び出た。

開発チーフ「」

研究員1「使ったことないんですか?これを手に取って、顔に塗って…」

開発チーフ「これだ…」

研究員1「え?」

開発チーフ「これだよ!!!!盲点だった!!スプレーと言われて、ずっとガス噴射だけに囚われていた!!!」

研究員1「ち、チーフ?」

開発チーフ「そうだ!!クリームタイプがあるじゃないか!!!これでいこう!!!」

研究員1「な、なにか名案が…!?」

開発チーフ「うおおおおおおおお!!!」ジョリジョリジョリジョリ

開発チーフは、凄まじい勢いでヒゲを剃った。

開発チーフ「フン!!」バシャア

そして顔を洗った。

続きはあとで



そして、試作1号ができた。

~実験室~

アライちゃん101「なのりゃ~」コスリコスリ
アライちゃん102「なのりゃ~」ヨチヨチ
アライちゃん103「のりゃ~」シッポフリフリ
アライちゃん104「くんくん、ふんふん…」ヨチヨチ
アライちゃん105「なのりゃ~」ヨチヨチ

実験室では、5匹のアライちゃん達がヨチヨチしている。

アライしゃん31「うぅー!のだー!のだー!」ガシャガシャ

アライさん「アライさんをほどくのだー!」ガシャガシャ

研究員2「よし、噴射!」プシュウゥーッ

研究員2は、アライちゃん達へ向かってスプレーを噴射した。

すると、ピンク色のクリームが地面に線を書いた。

アライちゃん101「?くんくん…のりゃ!のりゃ!」ヨチヨチ

アライちゃん達が、クリームへ近付いてきた。

アライちゃん102「ぺろっ…のりゃ!ぺろぺろぺろぺろ!」ペチャペチャ

アライちゃん103「ぺちゃぺちゃぺちゃ!!」ペロペロペチャペチャ

アライちゃん104「ぺろぺろぺろぺろぺろぺろ…」ペチャペチャ

アライちゃん105「あむあむぺちゃぺちちゃ…」ペチャペチャ

アライしゃん31「いーにおいなのだ…たべものなのか!?あらいしゃんもたべるのだ!」ガシャガシャ

アライさん「のだっ!のだっ!」ガシャガシャ

アライちゃん達は、床のクリームを熱心に舐めている。

1分くらい経つと…

アライちゃん101「なのりゃ~…う゛ゆ゛!?」ビクゥ

アライちゃん102「ぎ…ぎびっ…!びっ…!」ビグググッ

アライちゃん103「のりゃ…あ、あび、あびびびび、ぎゅる」ビグンビグン

アライちゃん104「きゅるるぅ…ぐびゅるるぅ…」ビグンビグン

アライちゃん105「う゛ゆ゛ぅ~~う゛ゆ゛うぅ~!ぐびゅっ…びぎゅ…」ビグンビグン

アライちゃん達は突然白目を剥き、激しく痙攣し始めた。

アライしゃん31「!?なんなのだ?」ビクゥ

アライさん「うぅ!?や、やくぶつなのか…!たべれなくてよかったのだ…」ホッ

研究員2「ふむ…。思った通りの効果ですね」カキカキ

アライちゃん101~105「「「」」」ビクゥビグググッ

このスプレーから噴射されたクリームには果実の匂いと味が含まれている。
しかし、中にはアライちゃん程度ならば1分でコロリと死ぬ神経毒が入っているのである。

その後、密室で30分が経過した。

アライしゃん31「いやなのだあ!あらいしゃんはあれいやなのだあ!」ジタバタ

アライさん「アライさんにも食わせる気かぁ!ぜぇーったい食わないのだ!」ジタバタ

研究員1「不揮発性の毒だから、密室で使ってもダミーに健康被害は無し。やぁー、これならいけそうですね!」

研究員2「これなら、一般向けに販売しても平気そうですかね」

開発チーフ「…待て」

研究員2「どうしました?」

開発チーフ「…もう一匹、アライちゃんをこの部屋に放ってみろ」

研究員2「かしこまり」ポイッ

アライちゃん106「の゛り゛ゃっ」ビターン

研究員2は、実験室内にアライちゃんを投げ入れた。

アライちゃん106「ぴぃ~!ぴぃぃ~!のりゃっ!のりゃっ!」ヨチヨチヨチヨチヨチヨチ

アライちゃん106は、部屋の中をヨチヨチしている。

研究員1「これがどうしたんですか?」

開発チーフ「よく見てみろ…」

アライちゃん106「のりゃ…のりゃ?くんくん、ふんふん…」クンクン

アライちゃん106は床のにおいを嗅いでいる。

アライちゃん106「ぺちゃぺちゃぺちゃ、ぺろぺろぺろぺろ…」ペチャペチャ

研究員1「あ、床にクリームが残ってたんですね」

そして1分後。

アライちゃん106「びぎ…ぎぃ…」ビグググッ

アライちゃん106も神経が麻痺した。じき死ぬだろう。

研究員2「おお!床に効き目が残るんですね!いいことじゃないですか!それが何か?」

開発チーフ「今度は、そこのアライさんの服を適当に切って、肌に直接スプレーしてみろ」

研究員1「了解」プシュウゥーッ

研究員1は、アライさんの腕にスプレーをかけた。

アライさん「や、やめるのだ!やめるのだああ!?」ジタバタ

…数分後…

アライさん「う゛…ぅ゛う゛う゛うぅっ!う、うでが、うでが…」ブルブル

アライさんの腕は、ぴくぴくと痙攣している。

研究員1「おお、粘膜だけじゃなく肌から吸収しても効くんですね!」

研究員2「素晴らしい!これはいけるんじゃないですか!?」

開発チーフ「…」

開発チーフ「…『逆』だ。ダメだ、これは」

研究員1「ええっ!?どうして!」

開発チーフ「つまりこれは、カーペットの上とかで使った場合、カーペットに染み込んで有効成分が持続するということだぞ?屋内で使ったら、住人の足が麻痺するかも」

研究員1「あ…」

開発チーフ「それに、これを床にぶちまけて…どうやって除去するんだ」

研究員2「ふ、拭き取るとか?」

開発チーフ「どうやってだ!素手で触ったら、肌から吸収するんだぞ!」

研究員1「…ゴム手袋と、ティッシュとかで…」

開発チーフ「果たしてそれが、『お年寄りにも安全に使える』と言えるだろうか…」

研究員2「…うぅ…。では、限定的な条件下で使うということで…」

開発チーフ「まだ問題点はある。そのスプレーを、そこのアライしゃんとアライさんに噴射してみろ」

研究員2「了解」テクテク

アライしゃん31「く、くるなあああ!」

アライさん「その薬剤をかけたらぶっ殺すぞおおおっ!」フシャアアア

研究員2は、アライしゃんとアライさんの顔にスプレーを噴射したが…
どちらもクリームを舐めなかった。

研究員2「…」

開発チーフ「このように。もしアライちゃんに、このスプレーが毒だと知られたら。もう舐めなくなってしまう」

研究員1「…うまくいけそうに見えて、けっこう穴だらけだなぁ…」

そうして、試作第一号「アライデリシャススプレー」はお蔵入りとなった…。

~研究室~

研究スタッフ達は、コーヒーで一服していた。

研究員1「くそ…。アライちゃんを殺すくらいの毒を安全に取り扱う方法がない…」

研究員2「殺鼠剤みたいな毒餌だって、結局は罠だし…。即効性もなく、アライちゃんが食わなかったら終わりだ」

開発チーフ「…毒…どうやって…即効性のある殺し方を…」ブツブツ

研究員1「うぅ~…」ゴクゴク

研究員1がコーヒーを飲むと…

研究員1「ごほっごほっ!」ゴホォ

研究員1がコーヒーでむせた。

研究員2「おいおい大丈夫か?ははは」

開発チーフ「」

研究員1「げほげほ…ぜーぜー…。コーヒーが気管に入った…」ゼーハー

研究員2「慌てる気持ちは分かるが…落ち着けよ。ですよね、チーフ?」

開発チーフ「」

研究員2「…チーフ?」

研究員1「フゥー死ぬかと思った…」ゼェハァ

開発チーフ「…そうか…」

研究員1「どうしたんですか?」

開発チーフ「…毒を使わなくていいんだ」

研究員1「え…?」




…という経緯があって、今から2年前に開発が始まって…

昨日、ようやく一般販売にこぎつけたのが、このスプレー…

『アライレイザーZ』です。

肉料理屋店主「…随分豪快な名前だな…」

早速使ってみましょうよ、オーナー。

肉料理屋店主「そうだな。丁度、アレをスプレーで駆除できたら良かったなーって思ってたとこなんだ。試してみようぜ、バイト」

…って、でも実験台のアライちゃんがいませんでしたね。

肉料理屋店主「あー、ちょっと待ってな。生ゴミ置き場の回りに罠仕掛けてっから。そっから一匹拾ってくるぜ」スタスタ

罠?どんなのですか?

肉料理屋店主「ああ…。ジェノサアライドのトラッシュパウンダーって動画投稿者から買った、『ゴミパンドラの箱』を仕掛けてんだ」

トラッシュパウンダー…。
ああ、名前は聞いたことあります。
凄い人らしいですね。

肉料理屋店主「知ってんのか」

はい。調べたので。
まあ、ジェノサアライド関連の動画を観るのはオーナーに禁止されてますけど。

肉料理屋店主「律儀に守ってるんだな、偉いぞ」

オーナーの禁止令。
略してオナき…

肉料理屋店主「略すな!」チョップ

んぅうううううんっ♥♥♥

肉料理屋店主「これがゴミパンドラの箱だ。実物は初めて見るか?」

ええまあ…。

…オーナーが指差した、『ゴミパンドラの箱』。

これはトラッシュパウンダーという動画投稿者が、個人で受注生産を行っている。

お値段は2万円もするという。

オーナー曰く、『その手のやつらにとっちゃ、ゲーム機以上の価値がある』という。

構造を簡単に言うと、バッテリー式携帯冷蔵庫の上に、入り口の空いた巣箱のようなものが取り付けられている。

巣箱の中には、アライちゃんが大好きなキャラメルコーンを餌として入れておく。

しばらく待っていると、アライちゃんが面白いくらいたくさん生け捕りにできるというのである。

肉料理屋店主「よし、開けるぞ。いいな」スッ

オーナーが、携帯冷蔵庫から巣箱を持ち上げて外そうとしている。

私はごくりと息を飲み、その中を覗いた。

携帯冷蔵庫の中には…

野良アライちゃん1「う…びゅうぅ…」ブルブル
野良アライちゃん2「しゃ…びゅ…いぃ…」ブルブル
野良アライちゃん3「っ…」ブルブルガチガチ
野良アライちゃん4「うゆぅ…うゆぅ…」zzz
野良アライちゃん5「しゅぴー…しゅぴー…」zzz
野良アライちゃん7「の…りゃ…」ブルブル
野良アライちゃん8「っ…」ブルブルガチガチ
野良アライちゃん9「ひと…しゃ…だち…て…」ブルブル
野良アライちゃん10「た…しゅけ…」ブルブルガチガチ

…野良アライちゃん達が凍えながら、身を寄せあって震えていた。

この子達は、上の巣箱をお家にするつもりで入ってきたのかな。

肉料理屋店主「そうだ。こいつらはいつも、居心地のいい家を探してるからな」

…しかし、みんな静かですね。

肉料理屋店主「これがゴミパンドラの箱の良いとこでな。普通の罠にかかった野良アライちゃん達は、ピギーピギーとうるさく騒ぎまくるよな」

はい。アライホイホイとか。

最初に罠にかかったアライちゃん達の鳴き声のせいで、次にやってきた他のアライちゃん達が罠を学習して帰っていくらしいんですよ。

肉料理屋店主「そうだ。普通は一度作動した罠は二回三回とは使えねえ…。二度以降に来た奴らに学習されるだけだ」

肉料理屋店主「ところがこいつはスグレモノで、上の巣箱にアライちゃん姉妹がひととおり入ると、センサーが感知してパカッと床が開き、下の冷蔵庫に落とす」

肉料理屋店主「アライちゃんは体温が奪われやすいから、無駄なエネルギーを消費しないように、大人しくなるんだよ。中には半冬眠状態になる奴もいる」

半冬眠状態…
涼しくなると越冬のためになるアレですね。

肉料理屋店主「で、『騒がなくなる』から…」

…二回目、三回目と、次々とアライちゃん姉妹が入ってくるんですね。

肉料理屋店主「そうだ。最初に罠にかかった奴らが寒くて騒げないから、次に来た奴らに罠だとバレない」

肉料理屋店主「他のアライちゃん達の匂いは、巣箱の下の冷蔵庫ん中にたまるから、『中に既にたくさんアライちゃんがいること』にも気付かない」

肉料理屋店主「だから、罠の仕組みを学習されることもない…ってわけだ」

なるほど…

肉料理屋店主「ちなみに、冷蔵庫の下は金網になってるんだ。アライちゃん達達の糞尿は金網をすり抜けて下の猫砂へ吸収される。だから糞尿の匂いも上の巣箱には漂ってこないぜ」

…トラッシュパウンダー。こんなの思い付くなんて、凄い人ですね。

肉料理屋店主「あ、名前間違えた。『トラッシュ』パウンダーじゃねえ。『トラップ』パウンダーだ」

…トラップパウンダー。

肉料理屋店主「そう。『トラッシュパンダをトラップ(罠)でパウンド(粉砕)!』が合言葉だな」

…ジェノサアライドの人達…業が深い…。

…ってか、何でそれ買ったんですか?
わざわざ生け捕りにする必要が?

肉料理屋店主「ワーミーの活き餌だ。冬になると、外で狩りしづらくなるだろうし」

成る程…。

肉料理屋店主「まあいい、お前が買ってきてくれたスプレーの効果を試すぜ」ヒョイ

オーナーは、冷蔵庫から2匹野良アライちゃんを取り出し、また蓋を閉めた。

肉料理屋店主「さーて、とりあえず…玄関で試す、かっ!」ポイッ

野良アライちゃん5「ふびゅ!」ドサァ
野良アライちゃん3「ぴぎぃ!」ドサァ

オーナーが、2匹のアライちゃんを玄関の床へ放り投げた。

野良アライちゃん5「う、うゆゆゆゆ…」ブルブルコスリコスリ
野良アライちゃん3「あ、あったかいのりゃ…。そこのおまえ、ありゃいしゃんとあたためあうのりゃ…」コスリコスリ

野良アライちゃん5&3「「おっしくらまーんじゅ!おっしゃれーてなーくなっ♪」」ギュウギュウ

野良アライちゃん達は、互いに暖めあっている。
どうやらこの2匹は姉妹ではなく赤の他人同士らしい。

野良アライちゃん5「あったかいのりゃ…なかよしなのりゃ…」ホカホカ
野良アライちゃん3「おともだちとのゆーじょーぱぅぁーであったかくなったのりゃ…」ホカホカ

野良アライちゃん5&3「「おともだちなのりゃー!≧∀≦」」スリスリ

肉料理屋店主「さ、スプレーを貸してくれ」

あ、ちょっと待ってください。
このスプレーは目に入ると危険なので、専用ユニットに装着して使うんですよ。

肉料理屋店主「専用ユニット?」

はい。
ちょっと待っててくださいね、今取り付けますので…。

続く

『ゴミパンドラの箱』ってこんな感じですかね?

https://i.imgur.com/0y5vRYW.png

https://i.imgur.com/earHSkL.png

アライさんは対比のために並べてるだけなんで。

>>298
トラップパウンダーが売っている2万円ゴミパンドラの箱でしたら、詳細スペックは↓です

・冷蔵庫はバッテリー式の携帯型なので、小さくて比較的軽量。
冷蔵庫部分の寸法はヨコ×タテ×高さ=50×70×40(cm)

・巣箱の高さは1m。ヨコとタテは冷蔵庫と同じ。

・使うときは、冷蔵庫の下に台などを挟み、入り口の高さが地面から1m以上になるように調整して仕掛ける。理由は、『アライちゃんは外敵から身を守るために、高いところに巣を作りたがるから』。

・冷蔵庫の底から巣箱の前までは、階段ではなく木の棒が取り付けられており、アライちゃん達はこれをわっせわっせと登る。理由は、『アライちゃんは外敵から身を守るために、若干登りづらいところに巣を作りたがるから』。

・巣箱入り口は穴になってて、覗けば『中に先客がいない』ことが分かるようになってる。

・巣箱の中には、天井から網で吊るされた匂いの強い餌が仕掛けられている。
アライちゃんがこれを取ろうとしてピョンピョン跳ねてるときに、ネットの真下の床が開く。

私はスプレーをユニットへ装着した。

肉料理屋店主「これはどういうユニットんだ?」

ユニットについて、簡単に説明しますと…

小さい缶を2つ、大きい缶を1つ装着します。

肉料理屋店主「それぞれ中身が違うわけか。…まあ、体積がかさばらないようにはなってるな」

スプレーの頭にはダイヤルがついており、ダイヤルには『吹』『硬』『ダブル』『除』の4つのマークがあります。

肉料理屋店主「時計盤でいうと12時、3時、6時、9時のとこに1つずつついてるな。ダイヤルで切り替えるのか」カチカチ

肉料理屋店主「で、どう使うんだ?」

まずは、そこのアライちゃん1匹に、『吹』にダイヤルを合わせて噴射してください。

顔を狙ってくださいね。

野良アライちゃん3「うゆぅ~、あったかくなってきたのりゃあ!≧∀≦」ギュッギュッギュッ

野良アライちゃん5「ふははー、ぽっかぽかなのりゃ~!≧∀≦」ギュッギュッギュッ

野良アライちゃん5「ひとしゃん、おまえがあのさみゅ~いおうちからだちてくれたのりゃ?ありがとなのりゃ!≧∀≦」コスリコスリ

野良アライちゃん3「いーやちゅなのりゃあ!ひとしゃん、しゅきしゅきなのりゃ~♪≧∀≦」スリスリ

野良アライちゃん3がオーナーの靴に頬擦りしている。

あー羨ましい。代わってほしい。
野良アライちゃん3に。

私があの子の代わりにオーナーの靴に頬擦りしたい。

肉料理屋店主「じゃ、やってみるか!よっと!」ゲシィ

野良アライちゃん3「ふびゅぅっ!?」ドカァゴロゴロ

野良アライちゃん5「≦∀≧」!?

オーナーは、野良アライちゃん3を蹴飛ばした。

野良アライちゃん3「い…ぢゃいのりゃああ!なにしゅゆのりゃあ!?」フゥーッ

野良アライちゃん5「ひ…ひいぃい!わゆいやちゅだったのりゃあ!にげゆのりゃあ~っ!」ヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリ

野良アライちゃん5は部屋の中を壁沿いに逃げ回っている。

残念だけどドアは空いてない出られないんだよなぁ。

肉料理屋店主「ダイヤルは『吹』だな。シュッ!」プシュウウゥウ

オーナーが持つスプレーから、霧状の液体が噴射された。

野良アライちゃん3「ぴゅううぅ!?…くんくん、いーにおいなのりゃあ!」クンクン

部屋の中には、フルーツ系の爽やかな香りが漂ってくる。

野良アライちゃん3「くんくん、くんくん!…ふんふん、ふんふん!(≧'u≦ )」クンクン

野良アライちゃん3は、スプレーの匂いを嗅いでいる。

逃げないのだろうか…?

肉料理屋店主「で、次はどうすればいいんだ?」

次は『硬』にダイヤルを合わせて、また吹き付けてください。

肉料理屋店主「こうか。おりゃ」プシュウウゥウ

先程とは別の液体が噴射される。

野良アライちゃん3「おぉ~!さっきとちがうにおいなのりゃ!くんくんくん!」クンクン

今度は、花みたいな香りが漂ってきた。

肉料理屋店主「あー、さっきの『吹』が一番でかい缶の中身で、今のは左の小さい缶の中身だな」プシュウウゥウ

野良アライちゃん3「くんくん…びっ!?」

オーナーがスプレーを吹き付けた数秒後、突如野良アライちゃんの顔面は、白いがさがさした膜で覆われた。

野良アライちゃん3「っ…!?!!ッ………ッ!!」ジタバタジタバタ

野良アライちゃん3は、仰向けにひっくり返ってじたばた暴れている。

声を出せないようだ。

肉料理屋店主「おお、効いたのか!これはどういう毒なんだ?」

そのスプレーは毒じゃありません。

肉料理屋店主「何?じゃあこれは…?」

これは簡単に言うと、すごく強力な接着剤です。

肉料理屋店主「なに…!?接着剤だって?」

1回目の『吹』の液体に、2回目の『硬』のガスが混ざり合うと、瞬時に硬化するんです。

これらはアライちゃんが自分から嗅ぎにくるように、フルーツや花の香料が混ぜられてます。

肉料理屋店主「俺らが嗅いだ匂いは、香料の匂いだから吸っても平気なわけか…」

野良アライちゃん3「ッ!ッ!………ッ………」ブルブル

野良アライちゃん3は苦しそうな表情で、必死に何かを吐き出そうとしている。

肉料理屋店主「…顔の表面のガサガサが接着剤か。で、やけに苦しそうにしてる理由は…?」

さっきこのアライちゃんは、1回目のスプレーの霧をたくさん吸ってましたよね。

あの液体は、水に凄く溶けやすい性質があります。

吸い込んだ時に、肺の内側の粘膜表面に浸透したんです。

肉料理屋店主「ってことは、アレは…。肺の内側が接着剤でビッシリ硬められてて、呼吸できねえってわけか!」

その通り。
ああなったらもう、窒息するだけですね。

野良アライちゃん3「ッ………ッ……」ビグッビグッビグッビグッビグッ

肉料理屋店主「白目剥いてやがる…。剥がれないのかこれ?」

一度硬化すれば、もう水には溶けません。

肺の内側から剥がれることはないですよ。

肉料理屋店主「ん…。床の表面にも結構接着剤が硬化してへばりついてるぞ。取るの大変そうだな…」

その説明は最後にします。

次は、向こうにいる野良アライちゃん5を仕留めましょう。

野良アライちゃん5「くゆな!くゆなあああ!のりゃっ!のりゃっ!」ヨチヨチヨチヨチヨチヨチ

肉料理屋店主「オーケー」スタスタ

オーナーは、野良アライちゃん5へ近寄っていく。

野良アライちゃん5「み…みてたぞぉ…!そ、それ、どくなんだろぉ…!」

肉料理屋店主「ほぉ。野良害獣ごときが毒の概念を知ってるとは驚きだ」スタスタ

オーナーは、野良アライちゃん5を部屋の角へ追い詰めた。もう逃げることはできないだろう。

野良アライちゃん5「あ、ありゃいしゃんわかったのりゃ!それすわなきゃいいのりゃ!」バッ

野良アライちゃん5は、両手で顔を覆った。

野良アライちゃん5「これでへーきなのりゃあ!」モゴモゴ

肉料理屋店主「…なんだこいつ?さっきの俺達の会話を聞いただけで、対策を思い付いたのか?…接着剤とかガスとか肺とか、全然知らないはずだろ」

…普通のアライちゃんより、頭の回転というか理解力が早いですね。

肉料理屋店主「つまりこの個体には、知識が不足してても、俺らの会話から意図や考えを読み取るコミュニケーション能力が備わってるってわけか」

インターンシップのせいで淘汰が加速されて、野良アライさん達の知能が高く進化してきているのかも。

肉料理屋店主「やべーよな。こいつまだ赤ん坊だろ?これが大人になったらどうなるんだ?想像すんのがこえーよ」

野良アライちゃん5「そ、そーなのりゃ!ありゃいしゃん、おっきくなって、かしこいこどもたくさんそだてゆのりゃ!」モゴモゴ

野良アライちゃん5は、顔を手で覆いながら喋る。

野良アライちゃん5「だがら!やべで!おまえたちをけらいにちてやゆかりゃあ!ありゃいしゃんおーきくなったらゆめがあゆからぁぁ!だぢゅげでえ…!」プルプル

これだけ頭が回るなら、害獣被害なんか出さず、もうちょっと人と共存しようとできないんでしょうかね。

肉料理屋店主「案外できるんじゃね?俺らが突っぱねてるだけで…」

オーナー?

肉料理屋店主「何でもねえよ」

野良アライちゃん5「そ、そーなのりゃ!ありゃ、ありゃいしゃん、ゆーしゅーなんだぞぉ!だから…」

肉料理屋店主「『だから殺す』んだよォ!てめーみてーな奴に殖えられちゃ困るんでな!ここで駆除してやる!」チャキッ

野良アライちゃん5「うゆぅう!ありゃいしゃんはいだいなのりゃあああああああああああああああああああああああああっ!」ヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリ

肉料理屋店主「あ!逃げた!」タタッ

野良アライちゃん5「それぜったいすわないのりゃあああ!」ヨチヨチヨチヨチヨチヨチ

肉料理屋店主「おいおい…。吸う気がないぞ。こうなったら、スプレー役に立たないんじゃねえのか?」

オーナー。
ダイヤルを『ダブル』に合わせて、アライちゃんの前方へ吹き付けてください。

肉料理屋店主「ダブルか!オラァ!」プシュウウゥウ

野良アライちゃん5「うゆぅ!すわない!すわないぞぉ!」クルッヨチヨチヨチヨチ

肉料理屋店主「逃げんな!くらえ!」プシュウウゥウ

野良アライちゃん5「わっぷ!」

スプレーが、野良アライちゃんの顔に当たった。

すると…

野良アライちゃん5「…ぴぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!おめめいぢゃいいいぃい!いいいぢゃあああああいいーーーーっ!!」コスリコスリ

肉料理屋店主「おお?必死で目を擦ってるぞ」

『ダブル』は、接着剤と硬化剤を同時に噴射するんです。

だから空中で硬化が始まります。

アライちゃんの顔に浴びせれば、たとえ吸わなくても、目の粘膜に浸透して、眼球表面を硬化させます。

反応熱は瞬間最高70℃ありますからね。目が熱くてたまらないでしょう。

あの体の小ささじゃ、もう失明でしょうね。

野良アライちゃん5「うぅーーー!うううぅうーーーー!ありゃいしゃんがなにしたってゆーのりゃあああーーっ!おまえになんかちたかああーーーっ!」ビエエエエン

野良アライちゃん5は、顔を手で覆いながら、体を丸めてうずくまっている。

野良アライちゃん5「ありゃいしゃんなんにもわゆいごどじでないだろおぉおおおお!こんなひどいごどしゅゆのはおがじいのりゃああああ!ひとごよちいいぃいいっ!」

肉料理屋店主「うずくまってるんだが…」

顔を狙って噴射してください。

肉料理屋店主「はいよー」プシュウウゥウ

野良アライちゃん5「うびゅうぅううう!ぜったいすわないぞお!むぐ!」

野良アライちゃん5「…!ッ!ッ……ッ………」モゾモゾ

野良アライちゃん5は、うずくまったままもぞもぞと暴れている。

肉料理屋店主「おお?声が止まったぞ」

だって顔を手で覆ってるだけでしょう。

手の上から噴射してやれば、手が顔にぴったり貼り付いて、結局呼吸する隙間を塞げるんですよ。

野良アライちゃん5「ッ!……………ッ!ッ!~~~ッ………!」ジタバタジタバタ

野良アライちゃん5は、仰向けにひっくり返った。

手は完全に顔面に接着されているようだ。

肉料理屋店主「とどめの目貼り」プシュウウゥウ

野良アライちゃん5「」ジタバタジタバタジタバタジタバタ

はい、おしまいです。
あとは窒息死を待つだけです。
あっちの子みたいに。

野良アライちゃん3「」

肉料理屋店主「さっきの奴は…死んだみたいだな。で…床が接着剤でガビガビなんだが…」

では、ダイヤルを『除』に合わせて、床で固まってる接着剤に吹き付けてください。

肉料理屋店主「こうか」プシュウウゥウ

無くなるの早そう

床の接着剤「」ジュワアアアアアア…

肉料理屋店主「ん?なんか炭酸水みたいに泡立ち始めたぞ」

『除』は3つめの缶のスプレー…分解剤です。

固まった接着剤にそれを吹き付けると、水と無害な気体へと分解されます。

肉料理屋店主「ファッ!?な…なんだって!?」

だから、固まった接着剤が完全に分解されるんですよ。

肉料理屋店主「…マジ?」

マジです。

肉料理屋店主「なあ、一言いいか」

どうぞ。

肉料理屋店主「これアライちゃん駆除なんかに使うの勿体なくね!?」

やっぱそう思います?

肉料理屋店主「おかしいだろコレ!!!アライちゃんとか関係なく、接着剤としての性能がクソやべえぞ!?」

殺虫剤メーカーの人達が、毒を使わずにアライちゃんを殺す方法を考えた結果…

最新最強の接着剤が誕生したわけです。

肉料理屋店主「これ、なんでもくっつくのか!?」

何でもってわけでは…。
プラスチックとか金属とか、表面がつるつるしたものにはあまりくっつかないそうです。

肉料理屋店主「オーバーテクノロジーというか…技術革新を見たよ…」

昔から『戦争は技術を進歩させる』って言いますね。

肉料理屋店主「それがまさか、アライちゃんとの戦いの最中だとはな…」

肉料理屋店主「でも、お高いんでしょう?」

真ん中の大きい『吹』の缶なら、600円で買えますよ。

無くなるのは早いですけど、うまく顔面にシュッとやるコツを身に付ければ長持ちしますよ。

肉料理屋店主「安全性は?」

ラベルの注意書きをちゃんと読めば…

『絶対に人の顔に向けて噴射しないで下さい』
『風の強い所では絶対に使用しないで下さい』

の2つさえ守れば安全かと。

肉料理屋店主「なるほど。お年寄りでも、まあ…使い方間違えなければ安全かもしれんが…」

何か懸念でも?

肉料理屋店主「これさ、窒息させるわけだから結構苦しむだろ?…一般ピーポーは、平気で使えるのか?」

友達のギャルちゃんにもプレゼントしましたよ。

肉料理屋店主「で、どう言ってた…?」



野良アライちゃん『なのりゃー』

ギャル『ひっ、出たあ!たあ!ダブル!』プシュウウゥウ

野良アライちゃん『っ…ぎびいいぃいいいいいい!おめめええいっぢゃあああいいいいいいいいいーーーー!』ピギィイイイイイ

ギャル『ひぃいいいい!さ、さっさと死んで!死んでよおぉお!』プシュウウゥウ

野良アライちゃん『のぉぁあああんっ!のぁああーーーー…ァ…!ッ………!』ビグッビグッ

ギャル『ひっ!?』

野良アライちゃん『』ビグッジタバタジタバタジタバタジタバタジタバタジタバタジタバタジタバタジタバタジタバタビグンビグンビッタンバッタンドタバタ

ギャル『嫌ぁああああああああああああ!怖い!怖いぃいい!』プシュウウゥウ




…のたうち回る姿を見て、泣くほど怖がってましたよ。

肉料理屋店主「やっぱ、パンピー目線じゃあ見てて気持ちいいもんじゃねんだろうな。俺は見ててスカっとするけど」

私は眺めてて興奮します。

肉料理屋店主「ジェノサアライドの連中なら、『ハエガイジェット』とか名付けそうだぜ…」

そうだ。

ギャルちゃんの家に呼ばれたときに、野良アライちゃん2匹捕まえましたよ。

肉料理屋店主「おっ、電話で言ってたアレか。持ってきてるか?」

モチのロンです。
店の奥に籠置いてあるんで、持ってきますね。

肉料理屋店主「おうよー。さて、害獣の死骸の始末するか…」

…私は籠を持って、オーナーの前に来た。

ルンバアライちゃん1「ちーぢゅおいちいのりゃー!≧∀≦」クッチャクッチャ

ルンバアライちゃん2「やぬしー!ありゃいしゃんのおちりなでなでちていいぞぉー!≧∀≦」オシリフリフリ

肉料理屋店主「へえ、こいつらが、そのギャルちゃんの家に湧いた害獣か。でけえな」

なんでも、初めて見たときはルンバの上に二匹で乗って遊んでたそうです。

肉料理屋店主「さーて。じゃあ予定通り。動画撮影始めるか」

はい。
私達、野食サークルことランチャーズのアラジビ動画、記念すべき1回目です!

肉料理屋店主「…分かってると思うけど、今回の動画は『料理』がメインだ。ジェノサアライドの奴らみたいな虐殺ショーじゃないからな」

わかってます。
屠殺のシーンは、実際にアップする動画ではカットするんでしたよね。

ショッキングに感じる人もいますから。

肉料理屋店主「まあ、動画でカットするだけで、実際にはちゃーんと屠殺すすけどな」

肉料理屋店主「…じゃ、動画撮影始めるぞ。俺はカメラ準備するから、エプロンと三角巾つけな」

…あの。何度も聞きますけど。
オーナーがやらなくていいんですか?

肉料理屋店主「あ?俺みたいなむさい男より、お前の方が動画映えするだろ」

いえいえ!オーナーはかっこいいですし、ガタイ凄いですし…
それに、アラジビ料理の腕前も私なんかよりずっと上です!

私よりオーナーが映った方がいいんじゃ…?

肉料理屋店主「いや、お前めっちゃ可愛いしさ。美少女に敵うもんはこの世にねえんだよ」

ッ………!!!!!!!!?!!?!?

肉料理屋店主「ど、どうした!?」アセアセ

オーナー。

女の子にそういうこと言うときは、きっちり責任取らなきゃダメなんですよ?

肉料理屋店主「え…え?」

何でもないです…さ、始めましょう。

肉料理屋店主「そうだな。よし、カメラ準備できたぜ。籠からアライちゃんを取り出しな」

ルンバアライちゃん1「やぬしー!こっからだすのだー!おそとであそぶのだー!」ガシャガシャ

ルンバアライちゃん2「ちーぢゅ!ちーぢゅもっとたべたいのだー!」ガシャガシャ

はいはい、それじゃあ籠から出ようね。

私は、籠からルンバアライちゃんを1匹取り出した。

https://i.imgur.com/jiZoanu.png

ルンバアライちゃん1「なのだー」

さあオーナー。
アラジビ動画の撮影、始めましょう!

続く

スプレー正式名称は『アライレイザーZ』ですが
好きな呼び方で呼んで頂いて大丈夫です

ちなみに、こちらがアライレイザーユニットの没案となります
https://i.imgur.com/i6nUZtW.png

当初は利便性を重視して、こういう拳銃型の形状にしようと考えていましたが、
アラ虐的には『殺虫剤スプレーと同じ形状』の方が、命を軽く扱う冒涜的な雰囲気が出やすいので、
ユニットを通常スプレーのノズルと同じような感じに変更しました

肉料理屋店主「ハンドルネームはもう考えてあるのか?」

はい。

肉料理屋店主「よし、わかった。じゃ、本名は名乗るなよ…録画スタート」ポチッ

オーケーはカメラの録画ボタンを押した。

…おほん。こんにちは。
野食サークル『ランチャーズ』のメンバー、てぃー茶ーだよ。

今日は、街中にいるアライちゃんの美味しいアラジビクッキングのやり方を…

肉料理屋店主「ストップ!!」

何ですか?

肉料理屋店主「…てぃー茶ー?それがハンドルネーム?」

はい。ブログでも使ってる名前です。
『ティー』と『茶』がかかってるんですよ。

肉料理屋店主「…止めて悪かった、続けてくれ」

私は、先程と同じように名乗りを上げた。

「皆さん、いつもランチャーズのブログを読んでくれてありがとう」

「アラジビ料理の記事で、アラジビに挑戦してみたくなった人もいるみたいだね」

「でも、街中のアライちゃんは、ちょっと臭みが強いよね」

「それに魚じゃないんだし、捌き方もよく分からない人も多いはずだ」

「そこで今日は、私ことT茶が、ランチャーズのジビエモンさんから直々に習った下ごしらえの仕方を紹介したいと思います」

そう言うと、私は革の厚い手袋を装着して、ルンバアライちゃん1をまな板に乗せた。

ルンバアライちゃん1「なのだー!やぬしー、きょーはおいしーごはんつくってくれるのか?わくわくなのだー!」シッポフリフリ

ルンバアライちゃん1は、可愛らしく尻尾を振っている。

…この子は体長30センチ程だろうか。

アラキレスより少し大きいぐらいだ。

きっとこの子も、アラキレスと同じように…
ここまで大きくなるために、厳しい環境の中で生きる術を思考して知恵をつけ、
姉妹の死を悲しみながら、必死に必死に生き延びてきたんだろう。

喜び、怒り、悲しみ、楽しみ…
己の人生を謳歌しているのだろう。

無論、『アラキレスと同じように』というのは、生き方の話ではない。

この野良アライちゃんは、人里の厳しい環境の中で…
己自身と姉妹以外も誰にも頼らず、自力で生き延びてきたのだろう。

一方でアラキレスは温室育ち。
今は私の部屋でお昼寝中だろう。
私の機嫌を損ねない限り、アラキレスが外的要因で死ぬことはない。

かといって、アラキレスはただ何もせず私に何もかも与えられてばかりいるわけではない。

アラキレスは、私に『お返し』しようとしてくれている。

石膏粘土オブジェ作りの腕を日々磨き、私を楽しませようとしてくれている。

私を喜ばせようとしてくれている。

…アラキレスの日々の様子を見る限り、そこには『餌を貰うため』とか『飽きて殺されたくないから』といった
打算的な様子はない。

アラキレスは明らかに、『私に愛され、可愛がられて、喜ばれること』それ自体を目的とするようになってきている。

尤も、私はアラキレスを甘やかさない。
その評価に対し、アラキレスは時に喜び、時に悲しむ…。

…なぜか関係ないアラキレス自慢が挟まってしまったが。

要するに、このまな板の上のルンバアライちゃん1も。
お部屋で寝ているアラキレスも。

命そのものに、絶対的な価値の高低はない。

命の重みなど、他者が勝手につけたものにすぎない。


…このルンバアライちゃん1は、己の人生を何より大事にし、必死で生きている…
れっきとした尊い命なのである。

天がアラキレスと、ルンバアライちゃん1と、私をこの世に生み出したとき…

そこに、命の価値に差をつけただろうか?

いいや、天は命の価値を決めない。
ただ、生まれる境遇というカードを無造作に配るだけだ。

もしかしたら、私がルンバアライちゃん1としてこの世に生を受け、まな板に乗せられていたかもしれない。

もしかしたら、私がペットアライちゃんとして工場で調教されていたかもしれない。

…そう考えると、天のディーラーにより『野良アライちゃん』という境遇のカードを配られたがために、
私に命を奪われようとしているルンバアライちゃん1は、なんと哀れなことだろうか。

そう…
生まれた境遇こそ違えど、ルンバアライちゃん1も、アラキレスも、私も。
命の尊さは平等なのである。

だが、その尊い命を…
私は今から奪う。

この子の人生を、動画撮影のために合意もなく身勝手に終わらせ、その肉を食らう。

ルンバアライちゃん1が必死に生き延びて、今日まで育んできた肉体は、
単なる食糧へ変わり、私に貪り食われるのである。

…私と全く等しい命の尊さを持つ、このルンバアライちゃん1の命を。

私は、この手で断つ。

…この尊きは、人生の最期にどんな顔を見せてくれるのだろうか?

どんな絶望の悲鳴をあげ、私をどんな言葉で呪ってくれるのだろうか?


ひとつの命を終わらせる背徳的な快感。
それを心待にし、私は胸を高鳴らせた。


肉料理屋店主「おい?バイト?手も口も止まってるぞ。どうした」

はっ。
ついぼんやりしていた。

>>357訂正

×…この尊きは、人生の最期にどんな顔を見せてくれるのだろうか?


○…この尊き命は、人生の最期にどんな顔を見せてくれるのだろうか?

オーナーがカメラを止めた。

肉料理屋店主「ちょっとそいつ籠に戻して…こっち来い」

は、はい。
私はルンバアライちゃん1をいったん籠へ戻して、オーナーのとこへ行った。

肉料理屋店主「…今、何考えてた?」

…今から私が殺すルンバアライちゃん1も、私と同じ、自分の人生を歩む命なんだなって。

肉料理屋店主「で、それを殺すことは…嫌じゃないのか?」

…言っても嫌わないでくれますか。

肉料理屋店主「ああ。絶対に嫌わない」

…ぞくぞくします。
私と同じ命の価値をもつ相手の、命を奪うことに。

肉料理屋店主「ッ………」

オーナーが難しい顔をしている。
やはり引かれてしまっただろうか。

肉料理屋店主「…ジェノサアライドの奴らの殆どは、アラ虐をするとき…。『自分より劣った、弱く無価値な命を、蹂躙すること』に悦びを感じる」

肉料理屋店主「ジェノサアライドに、お前のように…アライちゃんの命を、自分と対等に感じる奴はほぼいない。あの狂人卍以外、そういう奴はいない」

く…詳しいですね。
というか、卍さんもそのクチなんですか。

肉料理屋店主「世の中にはアライちゃんの命を、自分の命と対等だと考える奴もごく稀にいるが…。そういう奴は、同情し境遇を哀れむあまり、大抵アライちゃんを『殺せない』し、『傷つけられない』」

…私は、『異常』ですか?

肉料理屋店主「…異常とは言わねえ。ごくごく少数派だというだけだ。俺は卍とお前以外に、そういう価値観を持った奴を一人だけ知っている」

誰ですか?

肉料理屋店主「…そいつはもう死んだよ。凄惨な最期を迎えた。殺人鬼への道と善人への道の間で苦悩しながら、自ら死を選んだ」

肉料理屋店主「いっそ殺人鬼になってしまえれば、奴も気が楽だっただろう」

肉料理屋店主「だが奴は、『人を殺したい』という抗い難い欲望を持ちながら、同時に『誰も傷つけたくない』という良心も持っていた」

…。

肉料理屋店主「…アライちゃんがいる限りは平気だ。少なくとも、スケープゴートがいるうちはな」

…オーナー…。

肉料理屋店主「…あまりあいつらに同情するな。境遇を深く考えるな。…といっても、無理な話かな」

…こういう楽しみ方をするのは避けた方がいいということは分かりましたよ。

肉料理屋店主「上出来だ。さ、ジビエクッキングに戻るぜ」

はい。
私とオーナーは、再びキッチンの前に戻った。

つづく

気をとりなおして、私は動画撮影のためキッチンの前に立った。

「皆さん、いつもランチャーズのブログを読んでくれてありがとう。ランチャーズの紅一点…いや紅二点かな?…のT茶だよ」

「アラジビ料理の記事で、アラジビに挑戦してみたくなった人もいるみたいだね」

「でも、街中のアライちゃんは、ちょっと臭みが強いよね」

「それに魚じゃないんだし、捌き方もよく分からない人も多いはずだ」

「そこで今日は、私ことT茶が、ランチャーズのジビエモンさんから直々に習った下ごしらえの仕方を紹介したいと思います」

「今日使う食材は、この2匹だよ」スッ

私は、ルンバアライちゃんがいる籠を指差した。

ルンバアライちゃんは出たがっているようだ。

「まずは、仕留め方の説明です。最初に、鍋に水を入れてガスコンロで加熱し、鍋いっぱいのお湯を作ります」

「そしてこれを、キッチンシンクの流しに置くよ」

「さあ、それではアライちゃんの処理を始めようか」

ルンバアライちゃん1「はやくごはんよこすのだー!」ガシャガシャ

ルンバアライちゃん2「まだなのかー!?」ガシャガシャ

「このアライちゃん達は、餌を与えたから少しなついてます」

「でも、野良アライちゃんを捕まえてすぐ料理したいなら、なついてる例は良くないよね」

「だから、怒らせて暴れるようにしてみよう」

「アライちゃんの効率いい処理に必要な道具はこれ…唐辛子スプレー!」

「これを、籠に閉じ込めたアライちゃんの顔面に吹き付けます」シュシュ

ルンバアライちゃん1「くんく…!?び、びぎいいいいい!おめめえええいっぢゃああああいいいいーーーーっ!!」ガシャガシャ

ルンバアライちゃん2「げほげほぉ!なにしゅゆのりゃあああああーーーーっ!ぴぎいいぃいーっ!」ガシャガシャ

「そして、籠から尻尾を掴んで一匹アライちゃんを取り出します」スッ

ルンバアライちゃん1「いっぢゃああああああいいーーーーっ!おめめいっぢゃあああああああーーいいいいーーーーーっ!の゛ーーーぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー゛んっ!の゛ぉ゛ぉーーーぁああーーんっ!」ジタバタブランブラン

「さて、尻尾を掴んだら…」

「頭を100℃の熱湯に沈めます」ジャプン

ルンバアライちゃん1「!?ごぼごぼごごぼ!ぶはぁ!あぢゅ、ごぼ!ぶぐ!」ジタバタジタバタジタバタ

ルンバアライちゃん1「っ…ご…ぶ…」ビグッビグッ

「動きが弱くなってきたら、完全に死ぬ前にお湯から出しましょう。でないと心臓が止まって血抜きしづらくなりますからね」ザパァ

ルンバアライちゃん1「………ァ………ヴァ……ォ……」ビグッビグッ

「さて、これをまな板に乗せて、ここ。喉を横にまっすぐ切りましょう。首の骨は切らないようにしてくださいね」ザクザクザクザク

ルンバアライちゃん1「ぐ…ぶげ…!」ブッシュゥウウウウウドクドクドクドク

「血がたくさん出ますので、流し台に置いておきましょう」スッ

ルンバアライちゃん「ゴブ…ブグ…」ドクドクドクドクドクドク

「さて、もう一匹も、同じように処理していこう」スッ

ルンバアライちゃん2「ふんぐーっ!ひぐっ、ぐしゅっ!ぐゆなあああ!ちかぢゅいたらぶっこよしゅぞぉーーーっ!」ウルウルキュルルルル

「どうやら、唐辛子スプレーがあまりかかってなかったようだね」

「それじゃあせっかくだし、逃げるアライちゃんを捕まえるところから見ていこうか」スッ

私は籠の出口を開け、籠を逆さにしてゆさゆさ揺らした。

ルンバアライちゃん2「うきゅっ!」ボテッ

体長30センチあるから、床に落ちる音も大きいな。

ルンバアライちゃん2「にーーーげーーーゆーーーのーーーーだああああーーーーーーーーーっ!」ヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチヨチ

ルンバアライちゃん2は、姉の死を知ってか知らずか、必死のヨチヨチ歩きで床の上を這い回る。

ルンバアライちゃん2「こんなくそがいじのとこなんていられないのだーーーーーっ!おねーしゃどこなのだ!?いっしょにかえるのだあああーーーっ!」ヨチヨチシッポフリフリヨチヨチシッポフリフリ

どうやらルンバアライちゃん2は、姉の死に気付いていないらしい。

「さすがに体が大きいだけあって、けっこう速いですね」スタスタ

「でも、走れば追い付けるスピードです。先回りして顔面に唐辛子スプレーを吹き付けましょう」プシュウゥウ

ルンバアライちゃん2「びっ…ぎいいいぃいいい!おめめいぢゃああああああいいいいいいーーーーーっ!おねーーしゃあああああああ!だあぢゅげでえええええ!おがーしゃああああーーんっ!」ゴロンゴロン

「うーん、唐辛子スプレー。素晴らしい威力です。素手で仕留める度胸さえあれば、アライレイザー無しでこれだけで十分ですよね」

「さて、あとは尻尾を掴んで、さっきと同じです」ガシィ

ルンバアライちゃん2「ぴぃぎゅるっるるるるる!きゅるるるるる!はなぢでえええ!はなぢでええええええ!」ジタバタジタバタ

「流し台の鍋の熱湯へ、頭を沈めましょう」ジャプン

ルンバアライちゃん2「ぐぶぶぐぐぶごぼぶぐ!ぶはぁ!びぎ!だぢゅ…ごぼぼごぼ!」ジタバタジタバタバシャバシャ

ルンバアライちゃん2「…ぉ…ォゴ…」ビグッビグッ

「これでよし。半死半生のうちに、包丁で喉をかき切って頸動脈から血を抜きましょう」ザグゥ

ルンバアライちゃん2「ゴブギュ」ブシュウウウウウドグッドグッドグッドグッドグッドグッ…

「これでよし。頭が下になるように逆さ吊りにできれば、尚良しです…」

それから私は、オーナーに過去に教わった通りに、解説しながら…

アライちゃんから血で汚れた服を脱がせ。

冷水でよく洗い。

皮を剥ぎ取り。

内臓を肉を骨からひっぺがした。

我ながら、なかなか手際よくできたと思う。

「さて、アライちゃん2匹分の肉を解体したけど、冒頭で言った通り。街中のアライちゃんは、肉に臭みがあるんだよね」

「だから、臭み取りの方法を2通り試してみましょう」

「1つの肉は、塩水に1時間浸けます」

「もう1つの肉は、ヨーグルトへ一晩浸けます」

「さて、これらを冷蔵庫へ入れて…。臭みがどれだけ取れたか、後で食べ比べましょう!」

…。

肉料理屋店主「…カット!オッケーイ!」ピッ

…ふぅ。
オーナーがカメラを止めた。

おつです。
後は明日、冷蔵庫から肉を取り出すんですよね。

肉料理屋店主「ああ、料理パート撮影するのは明日だぜ」

肉料理屋店主「しかし、お前の解体の手際もほんと上達したな。怖いくらいだ」

えへへ。

肉料理屋店主「今回の動画は、きっと色んなとこの野食サークルが観てくれるだろう。アラジビの輪が広がるといいな」

…。

肉料理屋店主「どうした?」

なんか最近、ブログのコメント欄荒れてますよね。

肉料理屋店主「…だな」

『虐待パートが無いなんて、そんなのアラジビじゃない』…とか。

『狂人卍を差し置いて元祖アラジビを名乗るとか、恥知らずにも程がある』…とか。

『まともにアラ虐する気が無いならアラジビやめろ、検索妨害だ』…とか。

肉料理屋店主「…いい迷惑だぜ」

…やっぱり、ジェノサアライドの人達の仕業でしょうか?

肉料理屋店主「まあ、確かに層は被ってるかもしれねえが…。狂人卍は、他所に迷惑かけるなって呼び掛けてくれている」

肉料理屋店主「いい迷惑ってのは、俺達だけじゃねえ。狂人卍にとっても、クソコメント勢は『いい迷惑』ってことだ」

…オーナーは…。
ジェノサアライドのこと、けっこう否定的な感じに言ってますけど。

やっぱり嫌いなんでしょうか?

…ジェノサアライドの人達は、『悪い人達』なんでしょうか?

肉料理屋店主「…『悪い』奴らってわけじゃねえ。ただ『少数派』なだけだ」

…ペットのアライちゃんを、虐殺する人もいるのに。

一般的には、『非人道的』…だと思いますが。

肉料理屋店主「いいか、バイト。『悪い奴』っていうのはな…」

肉料理屋店主「『法律を意図的に破る奴』と、『罪のない人に迷惑をかけ続け、改善しようとしない奴』のことだ」

肉料理屋店主「ジェノサアライド…アライちゃんを虐殺するのが好きな奴らが、そのどっちかに当てはまるか?」

…いえ…。
あ、でも!アライちゃんが好きな人が、たまたま動画を観てしまうことがあったら、迷惑になるんじゃ?

肉料理屋店主「ジェノサアライド民の間じゃあ、動画ページに『虐殺が嫌いな奴は観るな』と警告を書くのは常識だ。それを無視する奴までは配慮しようがねえだろう」

う。
私がそのタイプです…。
動画の警告を読まずに、卍さんのペット虐殺動画を観てしまったことあります。

肉料理屋店主「そりゃ卍のせいじゃないだろ」

ほんとその通りですね…。

肉料理屋店主「むしろ逆にだぜ?誰にも迷惑かけず、法律にも違反していないジェノサアライド民共を…」

肉料理屋店主「『非人道的だ』とか『不快だ』とか『悪趣味だ』とか『ペットアライちゃんが可哀想だ』とかいう理由で潰しにかかる連中もいるんだ。そいつらのことはどう思う?」

…。
まあ、気持ちは分かるような気もしますけど。

肉料理屋店主「だが、その行動のどこに正当性がある?『非人道的』って何だ。そいつらは家畜の肉を食わないのか?」

肉料理屋店主「『不快だ』って何だ。そいつは自分の不快度が世界で最も強大なルールだとでも思ってんのか?何様のつもりだ」

肉料理屋店主「『悪趣味』とか言ったって、悪趣味なコンテンツは他に腐るほどあるだろ。なぜそっちには文句言わねえんだ」

肉料理屋店主「『ペットアライちゃんが可哀想だ』…まあ、これは分かる。現実の動物をいたぶってるわけだからな…」

肉料理屋店主「だが、それが法律に違反するか?人に迷惑かかってるか?そのどちらでも無いなら、単なる主観の押し付けにすぎない。…たとえそれが多数派の意見であってもな」

…。

肉料理屋店主「しっかりマナーさえ守っていれば、いかに非人道的で悪趣味で可哀想で不快なことしてようとも…」

肉料理屋店主「ジェノサアライド民は『悪人』でなく、『罪のない人々』ということになる」

肉料理屋店主「理解できなくとも、納得はできなくとも、共感できなくとも。多様性を尊重すれば、『共存』することはできるだろうよ」

肉料理屋店主「むしろ弾圧派の連中の方が、その『罪のない人々に迷惑をかけ続け、改善しようとしない奴』…」

肉料理屋店主「すなわち『悪』なんじゃねえか、と俺は思うね」

…。
な、なるほど…。
釈然としないようで、理屈に隙が無いですね…。

ちなみに、オーナーは…。

ジェノサアライドの動画は、『好き』なんですか?

肉料理屋店主「…」

オーナー?

肉料理屋店主「…たとえ、ジェノサアライドが悪で無いとしてもだ」

肉料理屋店主「多数派の人前で、声高らかに堂々と好きだと主張し、誰彼構わず薦めようとしたら、『不快』で『悪趣味』で『非人道的』という印象を持たれるのは避けられないだろうよ」

で…ですよね。

肉料理屋店主「もし自分が周りからそういう奴だと思われ、ドン引きされ孤立しても構わねえなら、別にいいだろうけど…。俺は嫌だな」

あ、やっぱり?

肉料理屋店主「だから、こっそりと…こっそりと、すこる。『分かる』奴らの間だけですこる」

肉料理屋店主「自分のことを少数派として尊重し配慮してほしいなら、自分自身もまた多数派の連中を尊重し、配慮するのは不可欠じゃねえか?」

それもそうですね…。
自分の都合ばかり人に押し付けるのでなく、他者の都合を受け入れるというのは、大事かも。

で?
結局好きなんですか?

肉料理屋店主「…この話はもうお仕舞いだ!」

素直じゃないなあ、オーナーは。

続く

>>386>>388の間にちょっと追加

肉料理屋店主「だいたい、アライちゃんを殺すのが可哀想だから駄目だというなら、昆虫採集はどうなる?」

虫ですか?

肉料理屋店主「虫を標本にするのだって、娯楽のために無駄に殺しているわけだ。法律の範囲内でな」

…ま、まあ…。意図的に苦しめたり痛め付けて楽しんではいませんけど。

肉料理屋店主「昆虫だって針を刺され、毒を注射されれば痛てえし苦しいだろうよ。ただアライちゃんと違って、声に出して訴えないだけで」

やっぱりそうなんでしょうかね…?

肉料理屋店主「ジェノサアライドには、アライちゃんを昆虫と同じように、苦しめることを楽しんだりせず剥製にする奴もいる。そいつは文句をつけられてないと思うか?」

いや…。
結局、『アライちゃんを標本にするなんて可哀想だ』って騒がれてると思いますよ。

肉料理屋店主「正解だ。結局そいつらの反応は、対象が昆虫かアライちゃんかで変わるのさ。理屈が合わねえよな、同じ生き物なのにさ」

肉料理屋店主「なんで昆虫採集には文句を垂れず、アライちゃんの虐殺には文句をつける?どちらも法律の範囲内で、生き物を娯楽のために殺して遊んでいるのに」

肉料理屋店主「結局のところ、連中はいかにもな大義名分を掲げて、『自分が気に食わないものだけを潰そう』としているに過ぎないのさ」

…昆虫採集愛好家に飛び火しないことを祈りますよ。

肉料理屋店主「俺がアラ虐をはっきりと『好き』と肯定しないのはな…。後ろめたい気持ちがあるからだ」

後ろめたい気持ち?
さっきはアラ虐は何も悪くない、って言ってませんでしたか?

肉料理屋店主「…野良どもを駆除するんならいいとしても…。ペットを虐殺すんのはな、ちょっと…色々ややこしいんだよ」

どういうことですか?

肉料理屋店主「一言で言うと、『良識的にはアウト』ってことだ」

…さっきと言ってること逆じゃありませんか?

肉料理屋店主「いや、俺がさっきペットアライちゃん虐殺について言ったのは、『違法性はなく、誰にも迷惑かけてないから、潰される謂れはない』ってことだけだ」

肉料理屋店主「『非人道的で、不快で、悪趣味で、可哀想だ』という点そのものは、全く否定なんぞしていない。むしろ、その通りだとさえ思ってるぜ」

…?頭がこんがらがってきました。

肉料理屋店主「例えばだ。ペットの熱帯魚の尾びれをちょん切ったり、カブトムシの角を折ったりしてる所を撮影して、動画投稿してる奴を見たらどう思うよ?」

…まあ、良識を疑いますね…。
普通にドン引きです。

肉料理屋店主「そうだろ。世間一般の奴らはそう思うだろう。そして当然、それをやるのが虫や魚はダメでもペットアライちゃん相手なら許す…なんて思う奴はほぼ居ない」

…んん?結局どっちなんですか?
オーナーはアラ虐肯定派なんですか?否定派なんですか?

肉料理屋店主「線引きが難しいところだな…。良識的にはアウトだと分かってても、それを俺自身がこっそり楽しんでいるっていうのが…後ろめたいとこなんだ」

…は、はぁ…。よく分かんないですね…。

肉料理屋店主「丁度いい機会だ。俺らがいるこの世界で、アライちゃんが法的にどう扱われてるか…なぜペットアライちゃん虐殺が合法なのか、解説しようか?」

はい、お願いします。

肉料理屋店主「まずは、論点の中心…。『動物愛護法』は知ってるか?」

何となくは。
動物を虐待しちゃいけないんですよね?

肉料理屋店主「虐待だけじゃなく飼育の放棄…ネグレクトもダメだな。じゃあ質問だが…ペットの錦鯉を虐待するのは違法だと思うか?」

に、錦鯉?
動物だからダメなんじゃないでしょうか。

肉料理屋店主「じゃあサメは?」

サメ…ダメなんじゃないでしょうか。

肉料理屋店主「ではクワガタムシはどうだ」

クワガタ虫…?
さっきは虫はセーフみたいなこと言ってましたけど…アウトっぽい感じがしますね。

肉料理屋店主「ならプラナリアは?あのクッソ再生能力高いやつだ」

ぷ、プラナリアですか。
やっぱ動物だからアウトのような気が…
でも、個人でざくざく体を切ってる人いますけど、罰せられてませんよね。

肉料理屋店主「ふむ…じゃあ、た●ごっちはどうだ。あれに餌やらずわざと死なせるのは?」

たま●っちは玩具じゃないですか!
違法なわけありませんよ。

肉料理屋店主「それじゃ、猫のぬいぐるみの尻尾や耳を引きちぎるのは?」

ぬいぐるみは生き物じゃないからセーフだと思いますね。

…それで、正解はどうなんですか?

肉料理屋店主「正解は…今言った奴らは、全員自分のペットなら、いくら虐待しようがブチ殺そうが法律上セーフだ」

え…ぇええええ!?
サメもいいんですか?ガッバガバじゃないですか!

肉料理屋店主「そもそも日本の法律上で、動物ってどういう定義かは知ってるか?」

え、えと…。動く生き物じゃないでしょうか?

肉料理屋店主「まあ、生物学的にはそうだ。しかし法律上での定義はもっと狭い。動物愛護法における動物の定義は、『哺乳類、鳥類又、爬虫類に属するものに限る』と定められている」

哺乳類、鳥類、爬虫類ですか。

肉料理屋店主「それに加え、『畜産農業に係るもの及び試験研究用又は生物学的製剤の製造の用その他政令で定める用途に供するために飼養し、又は保管しているものを除く』…と、除外されるパターンが定められている」

あ、暗記してるんですか?

肉料理屋店主「俺は狩猟免許持ってるからな。知ってて当然だ」

素敵です。それで?

肉料理屋店主「つまり、魚類、両生類、無脊椎動物は…。動物愛護法では『動物』という括りに入らず、保護対象外なんだよ」

え!?

肉料理屋店主「じゃなきゃお前、釣り餌の青イソメとか釣り針につけらんねーだろ」

ま、まあ、確かに…。

で、では。
虫や魚は、法律上ではいくらでも虐待し放題ってことなんですか?

肉料理屋店主「…さっきの括りは、動物愛護法のうち『第十条以降』に適用されるもんだ。それより前、第二条には、こういう文がある…」

肉料理屋店主「『動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない』…とな」

動物…。

肉料理屋店主「これは何かの罰則規定をするような文言じゃない。あくまでこの国における良識や、一般常識の指針を記したもんだ」

肉料理屋店主「文脈から考えたら…、二条でいう『動物』に、虫や魚が含まれるかどうかは、分かるだろ」

…たとえ法律上での罰則はなくとも、むやみに傷つけるのは良識に反するってことですね。

肉料理屋店主「正解だ」

…ん?あれ…じゃあ、アライちゃんは…?

肉料理屋店主「ペットアライちゃんはどうだと思う?虐待は違法かどうか」

えーと…
アライさんは赤ちゃんにおっぱいあげて育てますよね…。

哺乳類だから、アウトなんじゃないでしょうか?

肉料理屋店主「いいや、セーフだ。自分が飼ってるペットアライちゃんはどんだけこっぴどく虐殺しても、違法にはならない」

え…おかしくないですかそれ!?

ま…まさか。
動物愛護法で、『アライちゃんはいくら虐待しても罪に問われない』っていう例外が規定されているとか?

肉料理屋店主「なわけねえだろ!どんなディストピアだよ!」

えー!それしか考えられませんよ!

肉料理屋店主「理由は単純明快。アライちゃんは、『哺乳類じゃない』からだ」

…え゛?
哺乳類じゃない。

肉料理屋店主「そうだ」

脊椎ありますし、赤ちゃんを産みますし、授乳するでしょう…!
見た目は成体になればほとんど人と一緒ですし!

あれが魚類か両生類、もしくは無脊椎動物に含まれるっていうんですか!?

肉料理屋店主「そもそも、『動物』って何だ?法律上じゃなく、生物学的にだ」

えーと…。動く生物じゃないでしょうか。

肉料理屋店主「じゃあ生物ってなんだ」

ええ!?あうう…わかりません。

肉料理屋店主「明確な定義はないが…。『細胞という単位からなり、自己増殖・刺激反応・成長・物質交代などの生命活動を行うもの』とされている」

肉料理屋店主「動物・植物・菌類・原生生物・原核生物と5グループだな」

さ、細胞…。

肉料理屋店主「そう、細胞だ。細胞ってのは、細胞核の中にDNAが含まれることが大前提だ。つまりDNAを持たないウィルスやファージは、厳密には『生物』に当てはまらない。タンパク質でできた『モノ』だ」

ふむふむ…それで…?

肉料理屋店主「DNAってのは、デオキシリボース、リン酸、塩基からなる遺伝情報のことだ」

な、なんか話の着地点がわからなくなってきたんですが…。

肉料理屋店主「もうすぐ終わる。でだ、塩基ってのは普通、アデニン、グアニン、シトシン、チミンの四種だけだ。この四種だけで構成されるのがDNAと定義される」

肉料理屋店主「ウイルスがDNAを持たないのは、これに加えてウラシルを持つからだ。DNAじゃなく、RNAだな」

は、はあ…。

肉料理屋店主「では、アライさんの細胞核内の遺伝情報はどうか?」

肉料理屋店主「…研究の結果、通常の塩基構成物質の他に、『よくわからない何か』が大量に含まれていた」

え?
よ、よく分かんない何か?
何ですかそれは?

肉料理屋店主「それが分からないんだよ。電子顕微鏡で観察しても、その『何か』の正体が全く分からない。分子どころか、粒子ですらない」

肉料理屋店主「一応質量はあるっぽいが…。これまでに科学的に存在が証明されてきたあらゆる粒子と一致しない存在。まさしく『よく分からない何か』だ。まだ名前すらついていない」

…凄いんですね。

肉料理屋店主「さて、それがDNAに含まれるとなると…アライさんは『何』だということになると思う?」

『何』って…。うーん…?へんな動物…とか?

肉料理屋店主「アライさんの遺伝情報には、アデニン、グアニン、シトシン、チミンの四種以外の『何か』が含まれる。ということは、つまり…」

肉料理屋店主「アライさんは、DNAを持たない」

…DNAを持たない。

肉料理屋店主「ああ。そしてDNAでない遺伝情報を持つなら、アライさんの肉体の最小単位は『細胞ではない』」

…細胞ではない。

肉料理屋店主「そして、細胞を持たないということは、つまり…」

ま、まさか…!?

肉料理屋店主「そう。アライさんは…」




肉料理屋店主「そもそも根本からして『生物』の定義に当てはまらない…『モノ』だ」


アライさんは…せ…
生物じゃない!?

な、なっ…!?

肉料理屋店主「生物じゃないから動物じゃない。動物じゃなければ…哺乳類じゃない」

肉料理屋店主「故にアライさんは、生物学的にも、動物愛護法でも、『動物』の定義に当てはまらないんだ」

そ、そんな…!

で、でも!ペットアライちゃんはペットでしょう!

ペットなら『愛玩動物』…動物なんじゃないんですか!?

肉料理屋店主「じゃあお前、ペットボトルは動物か?あれも『ペット』だろう」

いやいや!名前にそう付いてるだけでしょう!愛玩動物じゃないです!

肉料理屋店主「…じゃあ、ペットアライちゃんはどうだ」

ペットアライちゃんは…。
…ん?あれ?

肉料理屋店主「そう。ペットアライちゃんは、製品名として『ペット』の名がついているだけだ。ペットボトルと同じく愛玩動物じゃない」

じ、じゃあ!
愛玩動物じゃなければ、何だっていうんですか!?

肉料理屋店主「ペットアライちゃんは…」

肉料理屋店主「無生物であり、工場で作られた娯楽用の工業製品。つまり、法律上の位置付けでは…」

肉料理屋店主「ペットアライちゃんは、侮蔑でも比喩でも何でもなく…正真正銘の『玩具』だ」

が…

っ…『玩具』!?

肉料理屋店主「そう。ペットアライちゃんは、●まごっちやぬいぐるみと同じ…玩具として販売されている」

ペットアライちゃんが…『玩具』!?そんなの…おかしくないですか!?

肉料理屋店主「釈然としないのは分かるけどさ。じゃあ、他にどう呼べっていうんだよ…。無生物で、娯楽用の工業製品なんだぞ。どう優しく言っても『玩具』以外の良いようがないだろ」

…あ、開いた口が塞がらない…。
ペットアライちゃんは…哺乳類どころか、動物ですらなく…『玩具』。

で…でも…。ペットショップで売られてるんですよ…。

玩具売り場じゃなく…。

肉料理屋店主「ペットショップでも、犬や猫用の玩具は売ってるだろ」

肉料理屋店主「ペットショップにおけるペットアライちゃんの扱いは、犬猫とも違う。魚とも違う。ミルワームとも違う。…ぬいぐるみや犬猫用の玩具と同格ということだな」

…うそでしょ…。
ごはん食べて、ウンチして…。
泣いて、笑って、寝て。喋ってくれるんですよ…。

肉料理屋店主「だが玩具だ」

肉料理屋店主「他人のうちのペットアライちゃんを傷付けたら、器物損壊で犯罪となるが…」

肉料理屋店主「自分が買ったぬいぐるみをいくら尻尾や耳、手足を引きちぎって破壊しようと違法じゃないだろ」

肉料理屋店主「自分が買ったたまごっ●にいくらネグレクトしようが違法じゃないだろ」

肉料理屋店主「それと同じ理屈だ。自分が買ったペットアライちゃんを、いくら尻尾や耳、手足を引きちぎって破壊しようが、ネグレクトしようが…違法じゃない」

肉料理屋店主「だから、ペットアライちゃんの虐殺は違法じゃないんだ」

…ひ、ひどい話だ…。

肉料理屋店主「全くだぜ」

あ、ということは…!?
オーナー、私凄いことに気付いちゃいました!

肉料理屋店主「なんだ?」

さっき言ってた、動物愛護法の第二条!

えーと…『何人も、動物の命をむやみに奪ってはいけない』っていう、良識の指針!

肉料理屋店主「…」

まさか、アライちゃんは動物じゃないから…。
動物愛護法第二条にも当てはまらないのでは?

『むやみに奪ってはいけない命』に当てはまらないのでは?

ペットアライちゃんをいくら殺しても、良識に反することにはならないのでは…?

肉料理屋店主「…」

肉料理屋店主「いや…。流石にそれは通らねえ」

え…。
と、通らないんですか?

続く

この世界における法律上でのアライちゃんの扱いは、3スレ目の>>313で一度書いていますが、
イマイチ印象薄そうだったので、その辺の事情を詳しく解説してみました

次回、もうちょっとだけ補足します

※バイトは一応、ペットアライちゃん虐待が罪にならないこと自体は知ってましたが、
なんで動物扱いにならないのか…ということはよく理解していませんでした
それ故、動物どころか生物扱いですらないことは今回の話で初めて知りました

肉料理屋店主「二条の方は、罰則を規定するものじゃねえ。あくまで『世間一般の良識』の方向付けをするものにすぎない」

肉料理屋店主「世間一般で、アライちゃんはどう扱われているか?…学界と同じように、石ころと同じ『自然物』として扱っている奴はほぼ皆無だ」

肉料理屋店主「殆どの人は皆、アライちゃんを『動物』として認識している。…そうだろ?」

まあ…そうですね。
私もさっきの話聞くまでは、なんだかんだで動物の一種だと思ってましたし。
『動物じゃない』と聞いてもピンと来なかったんですよね。

肉料理屋店主「というか…アレを『生物じゃない』と言い続けるのは流石に無理があるだろう。あくまで今の学問では生物としてカテゴリーできないだけに過ぎない」

肉料理屋店主「いずれ研究が進めば、アライちゃんが何らかの動物として分類され、それに合わせた法整備がされるのは明白だ」

時間の問題…ということでしょうか。

肉料理屋店主「実際、ペットアライちゃんちゃん飼い主の多くは『法律を改正しろ』『愛護法を適用しろ』って法務省にクレームをつけてるらしいからな」



肉料理屋店主「狂人卍のぺ虐エンターテイメントは、『ペットアライちゃん虐待』に違法性がないからこそ成り立っている」

…つまり現状は、『法律によってペットアライちゃんの虐待が明確に認可されている』のでなく。

法整備が遅れているが故の無法状態ゆえに、好き放題しているということなんですね。

…待ってください。法整備といえば…。

確かペットアライちゃんには、個人で買うならヨチライフ手術が義務付けられてますよね。

肉料理屋店主「法人や商用目的で飼育するなら、市の認可を受ければアライドール手術も選べるな」

…動物愛護法は適用されていないのに、ペットアライちゃんの販売・飼育に関する法律はあるなんて…

なんか順番がおかしくないですか?

肉料理屋店主「ペット以外の商品にだって、モノによっては販売に関する法規制はあるだろう?酒税法とか、タバコ事業法とか」

ありますね。

肉料理屋店主「ヨチライフ手術は『ペットアライちゃんという工業製品』の販売・購入に関する法律なんだ。ややこしいけどな」

どうして、動物愛護法は改正されてないのに…
ペットアライちゃん事業法が先に制定されたんでしょう?

肉料理屋店主「愛護法は野良の駆除との兼ね合いが面倒くさいんだよ。あとは狩猟法なんかも併せて改正しなきゃいけなくって、やることがすげー多いんだ」

肉料理屋店主「だから、即効性があって適用対象が絞られてて、なおかつ実害をきちんと防止できる『ペットアライちゃん事業法』が先に制定されたんだ」

…いろいろ難しいんですね。

肉料理屋店主「だな」

肉料理屋店主「ジェノサアライドの中でも、ペット虐待やってるのは狂人卍とそのフォロワーぐらいだ。極一部しかいねえ。他はみんな野良の駆除ついでだ」

肉料理屋店主「何故か分かるか?」

金銭的な敷居が高いからでしょうか。
ペットアライちゃんって安くはないでしょう?

肉料理屋店主「ああ。それもある。だが一番は…」

肉料理屋店主「『観る分には面白いが、自分がやるには気が退ける』からだ。つまり『良心の呵責』だよ」

良心の呵責…?

肉料理屋店主「そうだ。法律が許したって、己の良心が許さないってこともある」

肉料理屋店主「ジェノサアライドの野良専たちは、『害獣への制裁』という態度で野良アラ虐をやっている」

肉料理屋店主「何故なら、実害を出してる害獣の駆除なら、『自分の暴力を正当化しやすい』…つまり、『良心の呵責を抑えて暴力を振るいやすい』からだ」

…ゲームとかでも、悪者をやっつけるのは気軽に楽しめても、無害なNPCに理不尽な暴力を振るうのは楽しめないって人多いですからね。

ゲームですらそうなのに、現実なら尚更です。

肉料理屋店主「そうだ。そして、現状でペットとして売られている生き物(?)は、決して害獣じゃない。似てはいても、扱いは違う」

肉料理屋店主「ペットを虐待することになんて、一部の正義もありゃしない」

…害獣のドブネズミならいくら駆除しても、まあ正義と言い張れなくもないですが…

デグーなんかのペットネズミを虐待するのは、万に一つも正義なんてありませんからね。

肉料理屋店主「ああ。『同じネズミだから殺してもいいだろ』という訳にはいかないからな」

肉料理屋店主「同じように、『同じアライちゃんだから殺してもいいだろ』ってのは…。法律では許されたとしても…」

…『良識』ではマトモじゃないってことですね。

肉料理屋店主「…だから『好き』って言いづらいんだよ。そんな万に一つも善のない虐待を、俺は他人事だと思って娯楽として観ているわけだ」

…納得ですね。

…あ、ちなみに野良アライちゃんの駆除や、森の中のアライさんの『狩猟』は法律的にどういう扱いなんですか?

確か、動物愛護法では野生の鳥や哺乳類を殺すのは禁止されてますけど、狩猟法ではいくつかの動物は駆除が許されてるんですよね。

『こいつらは免許があれば殺していいよ』っていう。

肉料理屋店主「そうだな。熊やタヌキなんかは免許があれば狩猟できる。ドブネズミやモグラは免許無しで殺せるな」

では、野良アライさん達は?

肉料理屋店主「野良アライさん共は…。狩猟法では、一切何も言及がない」

無いんですか。

肉料理屋店主「だってそうだろ。自然物…ただの石ころを割ったりしても、何の罪にも問われないだろ」

肉料理屋店主「野良アライさんも無生物だ。アレを殺すのは、石ころを叩き割るのと全く違いはないんだ」

ひどい話だ…。

肉料理屋店主「だって、野良アライちゃんどもは害獣としての被害がデカいからな。畑を荒らすわ、家に糞するわ…。ネズミやモグラついでに殺せなきゃ、やってらんねえだろ」

自業自得ですね。

肉料理屋店主「ま、こんなとこか。法律的にどういう扱いになってるかは分かって貰えたか?」

よく理解できました。

肉料理屋店主「ややこしい話はここまでにしとこうぜ。さて…今日はうちの店は休みだが。どうするかな」

何か予定はありますか?

肉料理屋店主「いや、特にないが…」

なんか今の話聞いてたら、野良アライちゃん狩りがしたくなってきました。

ちょっと行ってきません?森まで。

肉料理屋店主「いやいやいや!今は秋だぞ!アライちゃん狩りのシーズンは春だ!見つからないって」

あー…やっぱりそうですかね。

肉料理屋店主「つか、今の話の流れで『アライちゃん狩りがしたくなってきた』って…怖いなお前」

そうですか?

肉料理屋店主「…」ジトー

オーナーが私の目を、ジト目で見ている。

もっと蔑むような目で見てもいいんですよ。

肉料理屋店主「…さて、と。俺はちょっとやることがある」ガシィ ヒョイ

オーナーが、ゴミパンドラの箱を持ち上げた。

ゴミパンドラの箱『うゆ…?』
ゴミパンドラの箱『うごいたのりゃ…?』
ゴミパンドラの箱『おかーしゃ…なのりゃ…?だちて…だちてえええええっ!』
ゴミパンドラの箱『さびゅぃいい…さびゅいのりゃああっ…!おがーしゃ…だぢゅげでぇ…!』
ゴミパンドラの箱『おうぢがえりだいぃぃ…』

…ゴミパンドラの箱の中のアライちゃん達は、箱が動いたのに気付いたのか、蚊の鳴くような小さな声で騒ぎ始める。

これがゴミパンドラの箱の特異性。

普通の罠は、アライちゃんを『殺す』ことに長けている。

しかしゴミパンドラの箱は、アライちゃんをわざわざ『生け捕り』にするために特化している。

そして『生け捕り』ができるからこそ、ジェノサアライドの野良虐動画投稿者達には大変重宝されているそうな。

…オーナーは、それどうするんですか?

肉料理屋店主「さっきも言ったが…ワーミーさんの活き餌だよ」

活き餌ですか。

肉料理屋店主「あいつはアライちゃん喰うのが大好きだからな。今朝も筆談で『肝臓食いたい』って言ってきたぜ」

筆談…?筆談ンン!?
ペットですよね!?ワーミーさんって!

肉料理屋店主「手話で話すゴリラだっているんだぜ。筆談で話せる鳥がいたっておかしくないだろう」

…どんな飼い方してるんですかオーナー…。

肉料理屋店主「さて、この害獣どもは適度に生かして、毎日ぽいぽい食わせるつもりだ」

日保ちするんですか?

肉料理屋店主「それがゴミパンドラの長所だ。閉じ込められたアライちゃん達は、1日もすればみんな半冬眠状態になって、代謝が抑えられる。このまま餌無しで一週間はもつぜ」

一週間。

肉料理屋店主「ああ。普通は冬眠前にしこたま食いだめして、冬を越せるだけのカロリーをつけるもんだが…こいつらはそんな事しとらんだろうしな」

…今からも、ワーミーさんへ?

肉料理屋店主「ああ。今からも一匹、食わせるつもりだが」

…オーナー。

肉料理屋店主「…こっちだ、来い」スタスタ

ああっ…言わなくても分かってくれるなんて。
素晴らしいですオーナー。

ゴミパンドラの箱『うごいて…ゆ!』ゴソゴソ
ゴミパンドラの箱『おがーしゃ…!あけ…て…!』ゴソゴソ
ゴミパンドラの箱『ご…はん…!ごは…んっ…!』ゴソゴソ
ゴミパンドラの箱『しゅぴー…しゅぴー…』ゴソゴソ

私達は、ワーミーさんの前に来た。

ワーミー「…」ギョロリ

…と、鳥籠に入れないんですか。
前にアラキレスと一緒に、男児父親さんのうちに預けたときは鳥籠に入ってましたけど。

肉料理屋店主「閉じ込められるの嫌いなんだよ。成体のアライさんみたいにな」

…逃げちゃうのでは?

肉料理屋店主「逃げねえよ。…たまに勝手に山まで飛んで、アライちゃん狩ってるみたいだけどな。よいしょっと」ガパッ

オーナーは、ゴミパンドラの箱を開けた。

野良アライちゃん4「う…ゆぅ…」ブルブルガチガチ
野良アライちゃん6「ひと…しゃ…だち…て…」ブルブルガチガチ
野良アライちゃん7「…しゅぴー…しゅぴー…」スヤスヤ
野良アライちゃん8「…しゅぴー…しゅぴー…」スヤスヤ
野良アライちゃん9「…しゅぴー…しゅぴー…」スヤスヤ
野良アライちゃん11「だち…てぇ…」ブルブルガチガチ

野良アライちゃん達は、みんなで一ヶ所に集まって互いを暖めあっているようだ。

肉料理屋店主「よっと」ガシィ グイイッ

オーナーは、アライちゃんを一匹掴んだ。

野良アライちゃん4「うびゅぅうう…ひとしゃ…たしゅけて…」プルプル

野良アライちゃん4は、オーナーに持ち上げられて震えている。

箱の中の野良アライちゃん達「「ひと…しゃ…ありゃいしゃん…も…だちてぇ…!」」ブルブルガチガチ

ゴミパンドラの箱の中の野良アライちゃん達は、自分も箱から出してほしいと要求している。

肉料理屋店主「よっと」ガポッ

だがオーナーは、無慈悲に蓋をしめた。

ゴミパンドラの箱『…!ぴぃ…!だち…て…!』ゴソゴソ

野良アライちゃん4「うぅぅ…あったかいのりゃ…ひとしゃ…たしゅけてくれてありがとなのりゃ…」ブルブルガチガチ

オーナーに持ち上げられている野良アライちゃん4は、震えながらオーナーへ感謝している。

これから餌になることも知らずに…

肉料理屋店主「ワーミー!」ポイッ

野良アライちゃん4「うゆぅっ」ポーン

野良アライちゃん4は、空中へ放り投げられた。

ワーミー「……」ヒュンッ ガシィ

野良アライちゃん4「うゆぅ」ブラン

ワーミーさんは音もなく羽ばたき、野良アライちゃん4を空中でキャッチした。

そして、地面へ押さえ付けた。

野良アライちゃん4「ぴぃ…ぃ…!とり…!ひとしゃ…だぢゅ…げ…!おが、しゃ…!」ブルブルガチガチ

野良アライちゃん4は、今までずっと冷蔵庫で冷やされていたせいで、うまく体を動かせないようだ。

ワーミー「…」ズガァ

野良アライちゃん4「ぴぎぃい!」

ワーミーさんは、クチバシで野良アライちゃん4のお腹をつついた。

ワーミー「…」ズガァズガァズガァズガァズガァズガァ

野良アライちゃん4「びぎぃい!びぎぃい!びぃぎゅるるるぅ!ふぎゅるるうぅうぅ!ぷぎゅぅううううっ!」ブシャアアア

野良アライちゃん4は痛みで絶叫している。

ワーミー「…」ガブゥ ブヂブヂブヂィイ

野良アライちゃん4「い…ぎゃ…ぁああああ゛あ゛ぃい゛ぃっ…!」ウゾウゾ

ワーミーさんは、野良アライちゃん4の腹を食い破り、内臓を引きずり出した。

ワーミー「モグモグ…」ムシャムシャ

野良アライちゃん4「はぎゅ…と…りしゃ…やべ…だべ…ないでぇ…!」ドグドグシッポフリフリ

野良アライちゃん4は、満足に抵抗すらできない。
尻尾をふり、命乞いをするしかできないようだ。

私好きこういうの
ゴミパンドラの箱はどうやって思いついたんか気になるわー

野良アライちゃん4「ひと…しゃ…この…とり…こよちて…ぇ…!うぐ、ぷぎゅぅ…!」ウルウル

野良アライちゃん4は、泣きながらオーナーへ助けを求めている。

肉料理屋店主「美味いか?ワーミー」

オーナー。この光景、動画に撮って投稿したら人気出そうですね。

肉料理屋店主「やめないか!野食サークルは健全路線なんだ」

ワーミー「…」ムシャムシャモグモグ

ワーミーさんは、いろんな臓器を引きずり出し、食べていった。

野良アライちゃん4「…お…がぁ…しゃ…」ブルブル

ワーミー「フング」ズガァズガァ

野良アライちゃん4「」ブシュゥウ

ワーミーさんは、野良アライちゃん4の頭をクチバシでつつき、穴を開けた。

ワーミー「…」ムシャムシャ

そして野良アライちゃん4の頭から、脳みそを引きずり出して食った。

肉料理屋店主「ワーミーは、アライちゃんの肝臓だけじゃなく脳も好物なんだよ」

あ、わかります。
アラジビって脳が一番美味しいですよね。

ワーミー「けふ」ゴクン

野良アライちゃん4の服「」

野良アライちゃん4は、骨と服以外全部食われた。

肉料理屋店主「いい食いっぷりだ」

いい食いっぷりですね。

肉料理屋店主「こんな感じで、一匹ずつ食わせていくんだ」

楽しそう。
オーナーの家に住んで観察したいです。

肉料理屋店主「はは」

…そういえば。

肉料理屋店主「どうした?」

アラキレスにも、アラジビ食べさせたら喜ぶでしょうかね?

肉料理屋店主「えぇ…。その発想は…どうかと思うんだが…」

オーナー。この野良アライちゃん、一匹ください。
厨房で捌いて持っていきます。

肉料理屋店主「…怪我しないようにな」

はい!
私はゴミパンドラの箱を開け、野良アライちゃん6を取り出した。

野良アライちゃん6「うぅぅ…ひとしゃ…たしゅかったのりゃあ…!しゅきしゅきなのりゃあ…」ブランブラン

うふふ。
野良アライちゃん6は、自分の運命も知らずに私に感謝している。




そして私は、野良アライちゃん6をまな板の上で…

野良アライちゃん6「ぴっぎぃいいいいい!い…ぢゃいいぃ…いぢゃいぃい…!やべ…でぇええ…!」ブシャアアアドグドグ

…ゆっくり、じっくり、ねっとり。
なるべく時間をかけて、長く苦痛を感じるように、捌いて解体した。

その晩。

アラキレス「はぐ!はぐっ!んん~~~っ!かいぬししゃん!このおにくおいちいのりゃあ~~っ!(≧'u(≦ )」ムシャムシャ

アラキレスは、私が作ったアラジビ味噌焼きを美味しそうに食べた。

アラキレス「かいぬししゃん!これおいちーのりゃ!んん~!もぐもぐ、なんのおにくなのりゃ?」モグモグ

野良害獣のお肉だよ。

アラキレス「のらがいじゅー!ありゃいしゃん、もっとのらがいじゅーたべたいのりゃあーっ!≧∀≦」シッポフリフリ

いいよ。
今度は、一緒に捕まえに行こうか?

アラキレス「なのりゃー!かいぬししゃん、だーいしゅき!なのりゃ~♪≧∀≦」シッポフリフリ

ああ…アラキレスは可愛いなぁ。
どんな顔をしていても可愛い。

喜んでる顔も。
怒ってる顔も。
泣いてる顔も。
笑ってる顔も。
寝ている顔も。
ぜんぶかわいい。

私は、自分の同族の肉を美味しそうに平らげるアラキレスの姿を見守った。

…私も買おうかな、ゴミパンドラの箱。

次スレへ続く

ちょっと早いですが、4スレ目はここでおしまいです


【告知】
突然ですが、本作はここで一度『アラ虐SS』というジャンルから抜けます

今後は『アライちゃんSS(過激な表現あり)』という括りにします

かといって、アラ虐表現が一切無くなるわけではありません
話の中身については、基本的に今まで通りのまま続きます

アライさんって雄アライグマと交尾して子作りするのは、卵子と精子の結合で受精卵になるのでは?
アライさんに遺伝子がないのなら、なぜ交尾して子ができるのかが知りたいです。
まあ、得体の知れない何かが作用して子ができる程度の説明ではぐらかされそうだけど。

本作をアラ虐SSでなくすることの意図について補足します

一言でいうと、アラ虐SSというジャンルには『アラ虐がメインでなくてはならない』という制約があるため、自由に話を書きづらくなったためです

なんとなく分かっていたとは思いますが、本作は元々アラ虐はメインではありません

そもそも、アライさんをただの駆除対象である悪役として扱い、一方的に優位な立場で殺しまくるSSは、アラスコ後半でもう書くのを飽きてました

アラスコ最後のスレで「次回作はアラ虐じゃないかも」と言ってたのはそのためです

しかし、アライちゃんを『駆除されるだけの悪役』でなく、『日常や自然の中で生きる主役』として書いてみたら面白そうだと思ったのが、本作を書くきっかけでした

しかし、アラ虐SSというジャンルに属している限り、アライちゃんに対しては『悪役として扱われて死ぬこと』が求められます

そして、悪役じゃないアライちゃんや、死なないアライちゃんが登場することは、多くのアラ虐読者がフラストレーションを感じることになります

『もっとアラ虐をメインにしてほしい』とか、『一匹も生き残らせないでほしい』とか、『淡々と殺さず拷問してほしい』とかの要望はあると思いますが、
本作は元々そういう作風じゃないので、その要望には応えられません

これはアニメの[たぬき]に対して「キテレツ大百科の方が好きだから、のび太が自分でひみつ道具作る話に変えてほしい」と要望を持っても応えられないのと一緒です

アラ虐メインにしてほしいという読者の需要と、アラ虐以外を書きたい作者の供給がズレている

今の状態は、作者にとっても読者にとっても良くないため、本作は『アラ虐SS』から外すことにしました

ついでに言うと、本作の基本的なストーリーは、既にラストまでほぼ完全に組上がっています

本作ではこれからも、登場したアライちゃんがその回で死なない話や、
ヘイトパートだけで終わるような『アラ虐的にはスッキリしない回』が
最低でも4話以上書くことを予定しています

『害獣を生き残らせないできっちり[ピーーー]ようにしてほしい』と、作中の人物でなく筆者に要求したとしても、
本作はもうアラ虐メインではないので、それに応じてストーリーや世界観をねじ曲げることはできません

アライさんを悪役として死なせる以外の展開が一切受け付けられない読者層の方は、
本作ではなく、アライちゃんを純粋に悪役としてのみ扱う他の作者様の作品を読むことをお勧めします

「これまで通りの作風でよい」と応援して下さる方は、次スレでも引き続き本作のストーリーをお楽しみください

>>476
交尾で子供ができることの原理は既に決めていますが、
まだ作中世界の科学がそれを究明してないので、まだ言えません
今後作中で説明するかも

もしかしたら説明する機会がないかもしれませんが、そのときは完結後に説明します

自分も、別ジャンル虐ものでも、生態メインとか考察メインとかの楽しめるタイプだからこれすこ
線引きを新たにするだけ、ってなら歓迎だわ
次スレへのリンクとかそういうのは、ここに置いてくれるの?別の形で告知?

アラ罪のダメなところはアライさんが死なないところじゃなくて作者のやり方が露骨で悪質だったところだと個人的に思ってるから、ここは大丈夫だろうと思ってる。

アラ罪は「アライさんが都合良く生き残る」ってところだけ注目されるけど
アラスコ全否定したり(これは作者公認だけど)、わたアラに荒らしけしかけたり、雑談スレで上がったアイデアをバカが信じ込んでいる妄想とこき下ろしたり、荒らしとマッチポンプして荒れたスレをネタにして「これがアラ虐民だ」みたいな展開を突然ねじ込んだり
しかもそれらを自覚した上で「自分は正しい」と言い続けてたところがやばい。
わたアラが自分のスレ荒らされた事に責任感じて謝ったらその件にはほとんど触れずに被害妄想撒き散らしながら「お前は間違っている。自分は正しい」と言わんばかりのコメント出してたのは人としてありえないなと思った。

アラ日はアライさんが絶対に死ぬわけじゃないssになっても、そうはならないと信じてる

俺はアラ虐SSっていうか作者兄貴の書く文章が好きなんで、多分どんな内容でも読むわ
アラ虐ファンってより作者ファンやな

>>465

・アライちゃんを楽にたくさん生け捕りにできる罠を考えよう

・寒くなると半冬眠する習性を利用すれば、眠らせて静かにしつつ、代謝を抑えて匂いも少なくなるのでは

・携帯冷蔵庫を使おう

・これ↓と組み合わせて作ろう
http://www.mcip.hokudai.ac.jp/cms/cgi-bin/index.pl?page=contents&view_category_lang=1&view_category=1724

・中に餌を吊り下げて、その下へ落とし穴を仕掛ければポンポン落とせるな

・これでいいかな?懸念事項は?

糞尿が箱の底に溜まるデメリットがあるな

金網をしき、下を猫砂にすれば解決だ

完成

こんな感じです

>>496
どうもです、励みになります

>>486
立てたらこのスレにリンク貼ります

新スレ立ちました

アライちゃんのいる日常5
アライちゃんのいる日常5 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1530611523/)


スレタイを『アライちゃんの生きる日常』に変えようかとも思いましたが、
それだとアライちゃん側に幸運バフがかかりそうなので今まで通りにしました

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