【モバマス】文香「あさましさましまし」 (10)

文香(今日は叔父さんの書店で、一人で本棚整理です・・・)スッスッ

文香(脚立を使いながら、本の位置を確かめ、出したり仕舞ったりします)

P「こんちはー」ガチャッ

文香「いらっしゃいま・・・プロデューサーさん。どうしてここに?」

P「たまたま近くに寄る用事があってさ。今日は一人で店番しているって言ってたから、ちょっと様子を見に」

文香「そうですか・・・ありがとうございます」ペコリ

P「別に感謝されるような事じゃあ・・・」

文香(『ちょっと様子を見に』・・・何だか嬉しい言葉です)

文香(きっと、ふとした瞬間に私を思い出してくれたのでしょう。ただそれだけで、ここまで足を運んでくださったのです)

文香(それだけプロデューサーさんにとって私は、身近な存在なのだと思うと、心が浮足立つのを感じます)

P「いやぁ、書店で働いている文香は絵になるなぁ」

文香「そ、そうでしょうか・・・」

P「うん。アイドルの衣装を着てる時も可愛いけど・・・働いてる文香も、何か生き生きしてて、魅力的だ」

文香「そ、そうですか・・・ありがとうございます」カァァ

文香(プロデューサーさんの言葉は、恥ずかしいけれど、嬉しくて、本棚整理をする私を張り切らせました)セカセカ

P「お、おい。そんなに同時に何冊も取ったら危ないんじゃないか?」

文香「大丈夫です、慣れていますので。書店で働く文香ですので・・・」フンス

P「でも・・・」

文香(そんな見栄が仇となり)

文香「あっ・・・」グラッ

文香(私は体を床に、強かに打ち付ける事となりました)バターンッ

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P「文香っ!」タッ

文香「うぅ・・・」

P「だ、大丈夫か!?文香!」スッ

文香「え、えぇ・・・大丈夫です」

文香(打ち所が良かったのか、全体に鈍い痛みが残るものの、動きには何ら問題はありません)

文香「すいません。お見苦しい所をお見せして・・・」サスリサスリ

文香(その一瞬、私が足首をさすったのを、プロデューサーさんは見逃しませんでした)

P「や、やっぱり怪我してるんじゃないか!?」スッ

文香(プロデューサーさんが迅速に、かつ優しく私の足首を両手で掴みます)

文香「ひんっ」ビクンッ

P「や、やっぱり痛むのか!?」

文香(プロデューサーさんが、私の嬌声を痛みによる物だと勘違いしました)

文香「い、いえ、そういう訳では・・・」

文香(しかし、プロデューサーさんの両手が私の足首を這う感触で、少し感じてしまったとも言えず、プロデューサーさんの誤解は解けません)

P「ほら!やっぱり少し腫れてるじゃないか!」

文香(プロデューサーさんが私の足を見つめます。確かに、言われてみれば少し腫れているような腫れていないような・・・いえ、やはり腫れていません。これは間違いなく腫れていません)

文香「い、いえ、プロデューサーさん。これは腫れていな・・・」

P「強がるな文香。ちょっと待ってろ、今鞄から救急セットを持ってくるから」

文香(そうして誤解が解けないまま、プロデューサーさんの手当てが始まってしまいました)

P「ええと、足首を固定するように・・・」クルクル

文香(プロデューサーさんの手が慎重に、優しく、私の足首の周りを往復します)

文香(こそばゆくも、暖かい感触が、プロデューサーさんの手のひらから伝わってきます)

文香(大切にされているという感じがして・・・これは、とても良い物です)ホワホワ

P「よしっと・・・これで包帯はオッケーだ」

文香(何ということでしょう。プロデューサーさんの手当てに酔いしれていると、言い出すタイミングを逃してしまいました)

文香(本当は、足首を挫いてなどいないのに・・・)

文香「あ、あの、プロデューサーさん。私は・・・」

P「とりあえず、レジに座ろう。運ぶよ」

文香「は、運ぶよ・・・とは?」

P「今の文香を歩かせる訳にはいかないだろう?一番安全なのはおんぶだと思ってな」

文香「おんぶ・・・」

文香「よろしくおねがいします」オズオズ

P「よし。任せろ」ヨッコイショウイチ

文香(すみません、プロデューサーさん。おんぶをしてもらうために、私は嘘を吐きました・・・)

文香(Pさんの背中・・・大きくて暖かい・・・)ホワホワ

P「よっこらせ」スッ

文香「ありがとうございました・・・」スッ

文香(幸せでした・・・。しかし、どうしましょう。これで本格的に事実を打ち明け辛くなりました)

P「えっと、文香が整理してた棚はあそこだよな」スッ

文香「プロデューサーさん?何を・・・」

P「怪我しちゃった文香の代わりに、俺が本棚整理するよ」

文香「そ、そんな・・・!そこまで迷惑をおかけする訳には・・・」

P「いいんだ。元はと言えば、俺が作業中の文香に声をかけたのが原因なんだし」スタスタ

文香「プロデューサーさん・・・」

P「えー、このシリーズは丸ごと下に移して・・・」スッスッ

文香(い、言わなければ。このまま事実を言わず、プロデューサーさんに仕事を押し付けるのはやりすぎです)

文香(あぁ・・・でも)

P「ここはこうして・・・」スッスッ

文香(今の光景が『アイドルを辞めた後、結婚して夫婦で書店を開く』という私の妄想そのままでにやつきが止まりません・・・っ!)

文香(幸せ・・・)ホワホワ

P「よーし、あらかた終わったぞ」

文香(何ということでしょう。プロデューサーさんの仕事ぶりに酔いしれていると、言い出すタイミングを逃してしまいました)

文香(すみません。プロデューサーさん・・・この恩はいつか必ず・・・)

P「他にやることはないか?」

文香「いえ、叔父から頼まれたのは本棚整理だけで・・・それに、もう閉店時間ですし」

P「そうか」

文香「ええ、それでは・・・」

文香(・・・元々今日は会う予定などなかったのに、別れるとなると、何だかいつもより寂しさを感じます)

文香(こんなにプロデューサーさんに迷惑をかけたのに・・・私はいつからこんなに、わがままで欲張りな浅ましい人間になったのでしょう・・・)

P「それじゃあ、晩御飯作るか」

文香「!?」

P「今の文香じゃ長い時間台所に立つのは辛いだろ?・・・それとも、叔父さんの家を勝手に使うのはまずいかな」

文香「いえ、私もたまに泊まりますし、おそらく問題はありませんが・・・」

P「じゃあ台所まで背中から案内してくれ」スッ

文香(プロデューサーさんが再度おんぶ待機のポーズを取ります)

文香(しかし、二度も同じ誘惑に負けるほど、私は浅ましい人間ではありません。今度こそ事実を告げてみせます)

文香「よろしくおねがいします」スッ

P「あいよ」ヨッコイショウイチ

文香(駄目でした)

P「冷蔵庫借りるぞー」パカッ

文香「はい・・・」

文香(まんまと食卓まで運ばれてしまいました・・・)

文香(・・・そもそも、叔父さんの居ない日はカップ麵などですませているのですが・・・そんな事を言ったらプロデューサーさんに幻滅されかねません)

文香(それに・・・プロデューサーさんが私のために料理をしてくれている姿は・・・まるで私の夫になってくれたよう・・・)

文香(幸せ・・・)ホワホワ

P「出来たぞ」コトッ

文香「あ、ありがとうございます・・・」

文香(ここまでプロデューサーさんを騙し、ありとあらゆる至福を受け取りました)

文香(それも、もう、これまでにしなければなりません。然るべき断罪を受けねば・・・)

文香(しかし・・・どう打ち明けた物か・・・)

P「・・・どうした文香。食べないのか?」

文香「あ、いえ・・・」

P「も、もしかして、手首も怪我してるのか!?」スッ

文香「ひゃっ」ビクンッ

P「やっぱり・・・どうして隠していたんだ」

文香(あああ、また新たなる誤解が・・・)

P「ちょっと待ってろ。手首も手当てしてやるから」クルクル

文香(足首とは違い、手首の手当ては、より鋭敏にプロデューサーさんの手のひらの感触を味わえます)

文香(好きな人に手を握られるというのは・・・どうしてこうも、幸せなのでしょう・・・)ホワホワ

P「よし。手首の手当ても終わったぞ」

文香(何ということでしょう。プロデューサーさんの手当てに酔いしれていると、言い出すタイミングを逃してしまいました)

文香(ま、益々言い出し辛く・・・)

P「さぁ、改めて晩御飯を・・・」

P「・・・文香、その手じゃ晩御飯食べられないよな・・・」

文香「え?」

P「よし、あーんだ。ほら、あーん」

文香「え?え?」

文香(そ、そんな、早く事実を伝えないと。まさか、食事までプロデューサーさんのお世話になる訳にはいきません)

文香「あーん」

P「どうぞ」

文香「ふぁい」パクッ

文香(幸せ・・・)ホワホワ

P「さて、寝るか」

文香「!?」

P「無意識に寝返りして、より手足を痛めてしまうかもしれないだろう?そうならないように、誰かが添い寝して、抱きしめてあげないと」

文香「だ、抱きしめっ・・・」

文香(こ、これはいけません。いけませんよ。全くいけません。駄目になってしまいます)

文香「で、では、お願いします・・・」

P「よしきた」

文香(自分が信じられません・・・)



P「お邪魔しまーす」モゾモゾ

文香「はい・・・」モゾモゾ

P「よし」ギュッ

文香(プロデューサーさんが同じ布団の中、私を抱きしめます)

文香(ああ、同じ布団の中。何という密着率でしょう。これは暴力です。幸せの暴力です・・・)ホワホワ

P「どうだ?この体制、手足に負荷がかかってないか?」

文香(・・・プロデューサーさんの純粋に私を心配する暖かい声が、私の心に冷たく刺さります)

文香(どれだけ幸せを感じても、罪悪感を消し去ることなどできず、むしろより一層大きくなるようでした)

文香(ですが、今更全てが嘘だったなんて言えるはずもありません)

文香「Pさんは・・・浅ましい人間は嫌いですか?」

文香(それは抽象的で、真実を用いない、不誠実で身勝手な私の懺悔でした)

P「・・・どうした?急に」

P「もしかして、誰かにわがままな事をしたのか?」

文香「はい・・・」

文香(あなたに。とは、やはり言えませんでした)

P「そうか・・・」

文香(私は、次にどんな罵詈雑言が待ち構えているだろうと思いました。けれど、プロデューサーさんの言葉は丸っきり違ったものでした)

P「・・・別に、いいんじゃないか?文香は浅ましくても」

文香「え・・・?」

P「何でも一人で責任を持って行える人間なんて、いない。どんな人間でも、ある程度のわがままはしてしまう物だ」

P「けどな。優しい人間や、努力している人間は、それが許されると・・・俺は思う」

P「文香はただでさえ、一人で抱え込みがちな性格だしな。たまには、周りの人間に甘えるべきだよ」

P「例えば俺なんかは、文香みたいな可愛い女の子のわがままなら、いくらでも聞くからさ」

文香「Pさん・・・」

P「ほら、今日は疲れただろ?早く寝なさい・・・」

文香「はい・・・」スリ

文香(Pさんの腕の中・・・溢れんばかりの幸せを感じながら、静かに目を閉じました)

翌日



P「おはよう」

文香「ふわ・・・おはようございます」

P「どうだ?手足の調子は?」

文香「え、ええ。快調です」

P「それは良かった。もしまだ足が痛むようなら、事務所までおんぶしてやらなきゃいけない所だったよ」

文香(事務所までおんぶ・・・)

文香「あ、あいたたた・・・足首がまだ・・・あいたたた・・・」

P「なっ、何!?」

文香「すいませんプロデューサーさん。おんぶを・・・」

P「あ、あぁ・・・いや、待てよ?」

文香「?」

P「足が使えないならレッスンもできないよな・・・じゃあ事務所までおぶってく必要もないか」

文香「えっ」

P「というかさっきの痛がり方・・・昨日より悪化してないか?一応、病院行こうか」

文香「い、いえ、病院に行くほどでは・・・」

文香(噓がばれてしまいます・・・っ!)

P「いや、そうやって放っておくのは危ない。ほら、車までおんぶしてやるから。行こう」

文香(病院までおんぶ・・・まるで最後の晩餐を前にした囚人の気分です)

文香(浅ましい言動は、やっぱり控えよう。そんな教訓を胸に刻んだ、とある日の朝でした・・・)



  -終わり-


以上になります。

お風呂のシーンとパジャマに着替えるシーンは書き忘れました。
書き忘れただけで、文香ちゃんは今日も一日清潔に過ごしています。
でも風呂にも入らず普段着のまま布団に入っちゃう文香ちゃんも可愛い。
あなたの好きな方で脳内補完してください。

ありがとうございました。

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