【バトルロワイヤル】十二大戦、前哨戦【安価】 (81)


 ――



「本日はこの『四零前戦』にお越しいただき、誠にありがとうございます」


「ところでお客様、『十二大戦』はご存知ですか?」


「ああ、いえ。一応確認してみただけです」


「しかしもしもあなた十二大戦をご存じないのなら、
 そちらの『ブラウザバック』から退出された方がよろしいかと」


「はい、そうですね。もっともな疑問でございます。
 この質問の意図は、いわゆる年齢認証みたいなものでして」


「なにせこれから行われるのは、救いも何もあったものではない凄惨な殺し合いですからね。
 そして、その殺し合いで誰が生き残るのかを賭ける、という。
 控えめに言っても非日常的なイベントですから」


「もし、十二大戦に対してネガティブなご意見をお持ちなら、
 今回のイベント、『四零前戦』は見るに堪えない惨たらしいものであることでしょう」


「だからこうして確認しているわけです。
 今一度問います、『あなたは十二大戦をご存知ですか?』」


「・・・わかりました。そのお言葉、信用させていただきます。
 ではこちらの席へどうぞ」


「申し遅れました、私の名は『カリタス』。
 今宵ばかりの専属スタッフですが、どうかお見知りおきを」



カリタス「では、間もなく四零前戦開戦です。どうぞ心ゆく迄お楽しみくださいませ」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1526029378



    ベッド
「国を 賭け金に する」という、

 人類の中で最も欲深い戦争、『十二大戦』。


 代理戦争の頂点に座し、高い人気と求心力を博する十二大戦だが、
 あまりにも壮大な規模と12年にたった1度という性質上、
 何もかもが高速化した現代においてはあまりにも希少性が高く。


 もっと小規模で、もっと安価で、もっと高い頻度で行われる、
 小大会が望まれるのはある意味必然であった。



 十二大戦の前哨戦、もしくは場繋ぎ。

 正しくは資金調達の為のアルバイト、
 あるいは大戦の運営組織を維持するための継続的活動。

 そして、その真意は十二大戦のルールを考案するための試金石。


『四零前戦』。

 この戦いはそう呼ばれている。



 【四零前戦】


― 十二大戦との共通項 ―

・選ばれた戦士達が制限時間内に最後の1人になるまで殺し合いを行い、
 最後に残った1人が優勝。

・戦士達は何らかの形の特殊な才能を持っている。

・優勝者は運営側から、本人が望む願いを叶えてもらえる。

・本質は観覧者の存在を前提とした賭博行為である。


― 十二大戦との差異 ―

・戦士の数は、12人ではなく4人。

・優勝賞品は、戦士が望んだあらゆるものではなく、
 「事前に運営側が提示した範囲の中のもの」。

・ベッドされるのはあくまで大金や不動産、あるいは執政権であり、
 国単位という規模の賭け金がベッドされることは滅多にない。


【戦士作成】


一角の戦士

特徴:直接的な戦闘性


羽根の戦士

特徴:何らかの形の不死性


生爪の戦士

特徴:ある側面における不安定性


甲羅の戦士

特徴:精神の何れかの部位の熟達性




【安価】

※連取り無効、ID1つにつき1つ


一角の戦士

↓2 能力

↓4 固有武器

↓6 願い、「○○が欲しい」

↓8「どのように殺す」戦士か?

「つらぬき丸」
防御無視

「血見暴狂」

一度傷を負うと相手を殺すまで止まらない、止まれない


--

予想以上に人が少ないので、連取りを解禁します
>>1のフリーハンドで上下の安価を選ぶことがあります

大剣

十二大戦知らないけど取っていいのか?

>>9
どうぞ

安価下

一生遊んで暮らせるだけの金

追い詰めて[ピーーー]

一貫して殺す


【一角の戦士】



『私は我が国の平和と独立を守る国防軍の使命を自覚し、

 国家の正義を遵守し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、

 人格を尊重し心身を鍛え、技能を磨き、政治的活動に関与せず、

 強い責任感をもって専心その職務の遂行にあたり、

 事にのぞんでは危険をかえりみず、身をもって責務の完遂につとめ、

 もって国民の負託にこたえることを誓います。』



 入隊の際に誓った言葉だった。

 私はこれに反することはしてこなかったと、今を以ても断言できる。


 ――実際に守れていたのかどうかは、別の話だが。


 戦場にて。

 銃を持った敵だと思って、人を狙撃したことがある。


 実際には杖を突いていた老人だった。

 足が悪かったので、退避勧告を聞いても、

 自分の家から逃げることができなかったのかもしれない。


 そんな自分の行為に罪悪感を感じたこともあったが。

 何をやっているんだ自分は、と自らの意義を疑ったこともあったが。


 ここへ来れば、この中へ入れば。

 そんな雑念も全て忘れることができた。

 ここで過ごす時間だけが、自分の生きがいだった。

 自分の命を再確認できる甘い時間だった。


「おじさま、来てくれて嬉しいです」


「ははは。プレゼントを持ってきてくれて嬉しいです、の間違いだろう」


「そんな、私は――


「取り繕わなくてもいいさ。
 年頃の女の子が、こんないい歳したおっさんの相手をしていても退屈だろう。
 ・・・実際、君ぐらいの歳になると。
 男性に対して何らかの忌避感を持ち始めているものだ」


 まあ、反応は実に素直なものだった。

 目は口程に物を言うというか。


 お愛想を言わなければいけないのは当たり前だろう。

 私が扶養者なのだから。

 私のなけなしの俸給で、学校へ通うことができているのだから。


「それでね、おじさま。

 学校から進学先の調査票が回ってきたんです」


「ああ、そうか。そうだな、そういう時期だったな」


 都心の私立大学校へ通いたいと言い出したらどうしよう、

 私の中にそんな情けない恐怖がこみ上げてきた。


 もっと出世したかった、というのが正直な感想だった。

 もっと高い俸給が、高い士官手当が欲しかった。

 そうすれば、この子一人とは言わずに、もっと多くの子を・・・。


 そこまで考えて、頭を振った。

 やめよう、そんなことを言い出したらキリがない。


「士官学校に進学しようと思っているんです」


 思わぬ方向からの攻撃に、心臓が止まりそうになった。

 というか、一瞬止まっていたのだと思う。


 目は口程に物を言う。

 私の驚愕は、どうやらあの子にしっかりと伝わってしまったらしかった。


「あ、あの・・・おじさま・・・」


「理由を――」


 途切れ途切れの呼吸の中で、なんとかそんな言葉だけは絞り出せた。


「理由を、教えてもらってもいいかい?」


「あ、あの・・・!

 士官学校って、学費は全額お国が負担してくれるらしいんです!

 それに寮もあるし、生活手当も出るって――


 現実の自分の情けなさに、暴れ出してしまうのではないかと思った。

 自分の膝を握り潰してしまうのではないかというくらい、強く手を握りしめていた。

 金、金、金。

 結局、金が理由なのか。

 この歳の子供が、自分の人生と金を秤にかけてしまうのか。

 こんなに義を尽くしても、結局まだ金が足りないのか。


「そ、それに――」


「私も、おじさまみたいなカッコいい兵隊さんになりたいんです!」


 今度は心臓が撃ち抜かれたのかと思った。

 一瞬どころか一旦くらい止まってしまったのかもしれない。


「今度は私が誰かを守る側になりたいんです!!」


「今は保留にしておいてくれ」。

 そんな情けない言葉だけを残し、私は施設を後にした。

 あの日以来、1年半ほどそこには通っておらず、金だけを送り続けた。


 --


 熱砂の戦場。

 また、民間人を撃ち殺した。

 我が子を撃たれ、私を非難する母親の頭を撃ち抜いた。


 私の戦いが、あの子の人生の礎になっているのだ。

 それだけが、支えだった。

 そう思うことだけが、私の戦う意味だった。 


 いつか自分も死ぬのだろう、殺されて死ぬのだろう。

 今まで、自分が散々殺してきた彼らのように。

 そうすれば、あの子も。

 きっと私に失望し、兵隊になることを思い留まってくれるのかもしれない。


 自分の運命に、それなりに折り合いをつけているつもりだった。

 それなりに、死を覚悟しているつもりだった。


 あの日までは。


「ば、馬鹿な・・・!!」


 誉れある我が精鋭部隊が、私一人を除いて全滅していた。

 壊滅し、殲滅され、圧倒されていた。

 たった一人の猛者によって。

 しかも無手の達人によって。

 挙句の果てに―― 


「そんな、馬鹿な・・・」


 あの子とさほど変わらぬ年頃の女の子が、一体なぜ。

 銃火器で武装した、軍隊を相手に――


 彼女は悲痛を噛み殺したような表情になった。

 この世の矛盾に打ち伏せられたような、瞳になった。

 よもや、強いだけでなく。

 私に対してさえ、無常感を抱いているのか?


「逃げなければ」、そう思った。

 私の敵う相手じゃない、格が違い過ぎる。最早、疑いようもなかった。


 だが、「士官学校へ通いたい」と言っていたあの子の顔がふと思い浮かんだ。

 私が持ち場を離れて逃げ出せば、今度は別の者に赤紙が回る。

 私が逃げれば、別の者が戦わねばならぬことに。

 私が、私が、私が――


 そして私は突撃銃の引き金を引いた。

 自分を撃ち殺すつもりで、彼女を撃った。

 いや、「撃とうとした」が正確な表現なのだろう。

 実際には私は、攻撃さえ出来ていなかったのだから。

 私の右腕は、次の瞬間には突撃銃ごと吹き飛ばされていたのだから。


 --


 私は彼女に情けをかけられた。

 彼女は私の右手を奪ったが、命まで奪いはしなかった。

 まあ、それも正確なことはわからない。

 単に死んだのかと思っただけかもしれないし、

 もう脅威にはならないと無視されたのかもしれない。


 利き手を失った私は、あっさり兵役を免除された。

 持ち場を離れず最後まで戦った私には、きちんと傷痍軍人手当が支給された。

 そしてボロ人形のようになった私だけが残された。


 あの子は、結局。

 地方の公立大学に進学し、軍属ではない公務員に内定が決まったという。

 その報告を最後に、手紙さえ来なくなってしまった。

 まあ、私は一切返事を送っていなかったから、当然と言えば当然の帰結なのだが。


 4年という歳月は。

 屈強な兵士を廃人へと変えるのに、十分すぎる時間だった。


 --


 すっかり借金に縛り付けられていた私の下へ。

 ある日、借金の督促状ではなく、シルクハットの少年がやって来た。


「四零前戦に参加してみませんか?」


 彼は含めるような笑みを浮かべ、赤い手紙を私に差し出した。


「賞金3億円?」


「はい、この国の国民の生涯年収の平均額です。

 あなたが四零前戦に優勝出来たら、その金額を差し上げます」


 私は鼻で嘲笑った。


「なんとも不景気な話だな。

 四零前戦とは、あの十二大戦という都市伝説に倣ったものなのだろうが。

 それなのに優勝賞金がたった3億円とは。

 十二大戦の優勝者は、世界の半分さえ貰えるということではなかったか?」


「いやあ。そりゃ十二人の中から優勝するのと、

 四人の中から優勝するのは難易度が違いますし・・・」


「それに、失礼ですが。

 十二大戦の戦士とあなたとでは、ランクが違います。

 人間の命は平等ですが、人生の価値は平等ではありません」


「あなたと、他の戦士3人の人生を合算して。

 その上で適正な金額のはずです」


 ああ、その通りなのだろう。そう思った。

 あの日に見た彼女と、今や廃人となってしまった私では。

 どんなに贔屓目に見ても、同じ価値とは言えないのだろう。


「わかった、参加する」


「即答ですか、エクセレント!」


 少年はパチパチパチと白々しく拍手を送った。


「必要なものは、可能な限りこちらから支給します。

 なんでもなんなりと仰ってください」


「では、あなたにコードネームを進呈します。

 一角の戦士・『棄輪』。それが四零前戦中のあなたの名です!」


 シルクハットの少年は恭しく頭を下げた。


「健闘を祈りますよ、棄輪。

 あなたの未来は保証できませんが、

 これがあなたの最後の戦場であることだけは保証します」


『最後の戦場』。

 その言葉だけは、なんとも抗い難い程に魅力的だった。


 失われた私の右腕は、鋼鉄の斬馬刀と化した。

 その分厚い金属の刃は、突撃銃などよりもよっぽど強く私の心を奮い立たせた。

 磨かれた刃には、私の笑みが移っていた。


 ああ、私は戦場でもこんな顔をしていたのだろうか。

 だったら彼女からは、鬼畜か何かに見えていたのかもしれない。

 殺されても文句はない奴に見えても、しょうがなかったのかもしれない。


 生涯年収の平均額、3億円。

 真面目な奴が、真面目に働いて、真面目に生きて逝ける金額。

 この戦いに優勝できれば、ボロ人形のようになった私でも。

『普通の人生』という物を、取り戻すことができるのだろうか。


 自分を追い詰めて、相手を殺す。

 一角の戦士。

 いざ、最期の戦場へ。


『棄輪』

 一角の戦士:「追い詰めて殺す」

 願い:「一生遊んで暮らせるだけの金が欲しい」

 武器:一角包丁

 才能:「血気噴」
 一度傷を負うと自分が死ぬか、相手を殺すまで止まらない、止まれない。
 というかそもそも、最初から止まる気がない。


カリタス「とりあえず、今宵の語りはここまで
     お付き合いくださりありがとうございました」

カリタス「あと、見ての通り安価の内容は>>1の裁量で多少変更があります。ご了承下さい」

テンポをよくするため、一気に決めたいと思います。


羽根の戦士

↓2 能力

↓4 固有武器

↓6 願い、「○○が欲しい」

↓8「どのように殺す」戦士か?


生爪の戦士

↓10 能力

↓12 固有武器

↓14 願い、「○○が欲しい」

↓16「どのように殺す」戦士か?


甲羅の戦士

↓18 能力

↓20 固有武器

↓22 願い、「○○が欲しい」

↓24「どのように殺す」戦士か?

「半生半死」
自身の生命活動が停止した時、1/2の確率で負傷が回復した状態で生き返る

執着疫(しゅうちゃくえき)
自身の目標を達成するまではとにかく死にがたくなる

自分の露出した肉に物体をくっつけることで融合させる
単純に武器にしたり手数を増やしたりできるほか
失った部位を補うパーツとしても利用できる

ハンガー

安らかな死

飛ぶ鳥を落とす勢いで[ピーーー]

羽休めに殺す

今の自分の疲労や怪我を未来の自分に押し付ける

『近剥がし(スクラッチ)』
生爪一枚につき一箇所、最後に引っ掻き傷を付けた箇所の近くへランダムで瞬間移動する
つまり登録は最大で20箇所
爪が剥がれたり、指が切り離されたりして身体から離された生爪の登録箇所には瞬間移動できなくなる
一度瞬間移動したら、新たに引っ掻き傷を付けるまで瞬間移動できない

ksk

銃剣

ksk

十二大戦の参加資格

能ある鷹は爪を隠すように殺す

どっちつかず

安価下

炭酸拠点 (シェルターコーラ)
炭酸水を空間に固定し破壊不可の足場・防壁とする
効果は炭酸が抜けきるまで続く

サテライトキャノン

名前が欲しい

殺されずに殺す

豪快に焼き尽くす


― 戦士一覧 ―

『報応』

 羽根の戦士:「羽休めに殺す」

 願い:「人間らしい死」

 武器:凄惨ガス『青い鳥』

 才能:「執着疫」
 目標を達成するまでは、とにかく死に難くなる。
 運命干渉系の才能だが、報応自身はこの才能に気付いていない。

 
 

『澱雨』

 生爪の戦士:「どっちつかずのまま殺す」

 願い:「十二大戦への参加資格」

 武器:アサルトライフル『逆鱗』

 才能:「近剥がし(スクラッチ)」
 引っ掻いた場所に自らの生爪を残しておく才能。
 生爪の感覚は繋がっており、センサーのように使用することができる。
 また『爪弾き』という第二の使用方法がある。


『暦』

 甲羅の戦士:「豪華に焼き殺す」

 願い:「犬が欲しい、特にシェルティーが欲しい」

 武器:サテライトキャノン『璃空亀』

 才能:「重装拠点(シェルターソーダ)」

 炭酸水の中の二酸化炭素の分子結合力を強化し、強固な防壁を自在に作り出す。
 炭酸水から炭酸が抜けると、防壁は無力化する。



 陽が昇る、白い光が瘡蓋のように赤錆びた現実を照らし出す。

 運営委員会は、その『ラストベルト』としか言いようのない土地を格安で買い取った。

 20年前に遺棄された、かつては製鉄の為に稼働していた廃工場。


 ここが今回執り行われる、『四零前戦』のバトルフィールドだった。

 戦士達に配給された、古びたラジオから音が流れる。


《レディースエンド、ジェントルマン!》ザザ・・・


《自らこの四零前戦に参加すると名乗りを上げた勇気ある4人の戦士達よ!》


《私はあなた方の勇気を心からの称賛を送ります》


《クラップ、マイハンド!》パチパチパチ


《・・・》


《それでは、四零前戦のルールを説明します》


《今大会に参加した4人の戦士は、現時点では全員が首輪をつけています。

 開始の宣言の後、5時間以内に他の戦士達から首輪を3つ回収してください》


《ちなみに5時間というのはあくまでルールの上での制限時間でございまして》


《形状記憶合金製のその首輪は5時間を過ぎる前に、

 あなた方が呼吸出来なくなるほどに締まってしまう可能性があることは、念頭に置いておいてください》


《首輪を集める方法は特に問いません。

 ただし、5時間を過ぎても誰も首輪を4つ所持していなかった場合、

 あなた方全員の『願いを叶える権利』が失効してしまうことだけは確認しておきます》


《では健闘を祈ります。四零前戦、開戦を宣言します!!》


 朝日に照らされた煙突の上にて。

 青年のような見た目の戦士、暦が自らの首輪を指でなぞった。


「なるほど」


 鍵穴の無い、合金製の組み細工。外すのは至難の業だろう。

 鉄の融点は約1500℃。

 この合金がその温度で溶けてくれるのかどうかはわからないが、

 そんな温度に加熱したら喉の方が無事でいられるわけがない。

 これを取る目的なら、どう考えても斬首するのが一番手っ取り早い。


 おまけに形状記憶の性質を持ち、徐々に締まってくると来たものだ。

 勝負の放棄は絶対に許されないということなのだろう。


 カリタスの話では優勝賞品の副賞として、この首輪を外してくれるらしいが。

 それもどこまで信用していいものか分かったものではない。


「どう思う、ぼく」


『どうもこうもないよ。

 この四零前戦が十二大戦の叩き台になっていることはとっくに知っていただろう』


『何もかもが想定の範囲内だ、君はどうしたい』


「想定の範囲内、同感だ。やはり当初の予定通りに――


 暦の双眼鏡が、橙の光の点滅を確認した時だった。

 突如として複数の銃弾が暦の下へ飛来した。

 暦は元は研究職、マズルファイアを視認して銃弾を避けるという芸当などできるわけもなく。


「は・・・!?」


 胸を数発撃ち抜かれ、暦は煙突から落下した。


 ――


「くふふふふっ、馬鹿丸出しですねぇ。

 相手がどんな武器を持っているのかもわからないのに、

 高台のてっぺんに陣取るなんて」


 弾倉が空になると、アサルトライフル『逆鱗』は発砲を止めた。

 殺傷可能射程距離が500mである彼女にとって、暦は格好の的だった。

 まあ、ただの性格の悪い女子中学生である彼女が狙撃なんぞ真っ当にできるわけがないので。

 発射された20発の内、きちんと命中できたのは5発ほどだったが。


「あ、そういえばあそこ煙突でしたね。

 もしかしてお馬鹿さんじゃなくて煙さんだったんですかねぇ! くふふふふっ!」


 彼女は上機嫌に弾倉を取り換えると。

 ぴょこんと跳ねるように、椅子から飛び降りた。


「よっしゃ、早速ひとり! このままどんどん殺っちゃうぞー!」


「ほんと最高ですぅー! 誰からも咎められずに人を殺せるなんて最高ですぅー!

 よーし。じゃあここに『掻き傷』を残してー、とっととずらかっちゃいましょー!」


「あ、そういえば名乗らなきゃいけないんでしたっけ?」

 
 制服姿でアサルトライフルを持った彼女は、

 ふと思い出したように振り返ってニンマリと笑った。


「生爪の戦士『どっちつかずのまま殺す』、澱雨。

 今後ともよろしくお願いしますぅー、くふふふふっ!」


 - -

 数日前。

 友人『だった』クラスメイトの生爪を剥いだ某少女の前に、

 四零前戦への参加を持ちかける使者がやってきた。


「イケメン金持ち彼氏10人! いっせん億円! あと美少女化!

 あとあとー、それからそれからー!」


 シルクハットの少年、カリタスは苦々しく笑う。


「申し訳ありません。そこまでの賞品は、こちらでは準備できかねます」


「はあ、なんで!? 何でも願いを叶えてくれるって話だったじゃねーか!」


 詰め寄る少女に、カリタスは手を上げた。


「申し訳ありません、こちらも色々とひっ迫しておりまして。

 四零前戦ではなく十二大戦なら、そのような願いも全部叶えられるのですが・・・」


「十二大戦?」


「はい、我々の運営組織の至上目的のような戦争です。

 由緒ある12の名家の後継者の方達が一堂に会し、

 徹底的に殺し合うという人類最高の代理戦争です!」


「・・・」


 某少女はニンマリと笑った。


「いーね、じゃあさ。私が優勝したら十二大戦に出られるようにしてよ」


「え? いえ、でも十二大戦は・・・」


 出てきかけた言葉を黙殺して、カリタスは少し考えこんだ。


「そうですね、ではこうしましょうか。

 あなたが四零前戦に優勝出来たら、我々から十二の名家の何れかへあなたを推薦してみます」


「へえー。私、お嬢様になれるんだ?」


「はい、現在も養子を募集している家は幾つかありますから。

 ただそこから、参加資格を得られるようになるのかどうかはあなた次第ですよ」


「いーねいーね、超面白そうじゃん!」


 血みどろのラジオペンチを掲げ、某少女は高らかに笑った。


「よっしゃー! 張り切って全員ぶっ殺してやるぞー!」


 --


「え?」


 意気揚々と狙撃ポイントから離れた澱雨の下へ。

 金属の義手を付けた大男が現れた。


「戦場慣れしていないな、お嬢さん」


 金属の義手から包装が外れ、分厚い刃が展開された。


「銃声が、痛いほどに君の居場所を教えてくれた」


「っ!!」


 澱雨は反射的に、逆鱗の引き金を引いた。

 しかし慌てた故に照準が定まらず、跳ねる銃身にますます狙いが定まらずに。

 ただばら撒くように、20発の銃弾全てを浪費した。


「引き金を引いてから照準を合わせるのではなく、照準を合わせてから引き金を引くべきだ。

 特にフルオートで発砲する機関銃ならなおのことだ」


「・・・っ」


 大男が刃を掲げると、制服姿の少女もまた不敵に笑った。


「一角の戦士『追い詰めて殺す』、棄輪」


「生爪の戦士『どっちつかずのまま殺す』、澱雨」


 名乗りを終えた直後、大男は弾かれたように飛び出した。

 少女はニヤニヤと笑って指を鳴らす。


「『爪弾き』!! 今度はちゃんと照準定めてますよー!!」


「え?」


 澱雨の最後の手段、爪弾き。

 有効射程こそ短いものの、近接距離ならばその破壊力はライフル弾に匹敵する。

 岩をもぶち抜く奥の手だったが、棄輪の頭部を貫通することは能わなかった。


 頭部を撃ち抜かれてなお、棄輪は澱雨の下へ迫ってきていた。


「ああ、言っていなかったが――」


「私の頭蓋骨は金属製の器具によって覆われている。

 もっと重い銃弾ならダメージを与えられたのかもしれないが」


「ひっ・・・!!」


 澱雨は逆鱗を落として、逃げ出した。


「い、いやだ! 死にたくない!

 助けて、おかあ――


 一角包丁が一閃されると、顎から上を失った澱雨の身体はグラリと崩れ落ちた。


「君ほど覚悟を持っていなかった兵士に会ったのは、生まれて初めてだ」


 Drop out 【澱雨】


カリタス「今日はこれにておしまい、お付き合いくださりありがとうございました」


原作ばりにあっさり死んできますね


シェルターソーダは、何気に
重装備の拠点 + 重曹 + 重要拠点のトリプルミーミングやね

第1話、「爪の垢を煎じて飲ます」

終了。


--


生爪の戦士、澱雨


本名:柳沢 流々(やなぎさわ るる)
身長151センチ、体重43キロ。

元・母子家庭、一人っ子。父親は軍人で、流々が5歳の頃に戦死した。
小学校卒業を機に母親を殺害。
動機は「自分みたいな奴と二人暮らしなんて可哀想だから」。
背後から忍び寄って、カミソリで頸動脈を一撃だった。

その後は精神病院内の中学校へ進学。
持ち前のやる気と明るさで学級委員長の座に就く。

しかし院内学級の中でいじめが発生。
『可哀想な子供達だから』という理由で誰もいじめを咎めない状況に憤慨する。

その日の内に、友人でありいじめの首謀者だったクラスメイトを呼び出して椅子に縛り付け、
盗んだラジオペンチを用いて、約5時間にも渡る拷問を行う。

四零前戦の戦士は、戦闘の才能よりも、人間性を選抜の基準に置いているようである。




 第2話、「物も言いようで角が立つ」



一角の戦士、棄輪

本名:ハンス・ユニバース
身長180センチ、体重85キロ。

傷痍軍人、図体と真面目さが取り柄の男。
3人兄弟の次男で、他の兄弟は文字通り兄と弟。

その生真面目さと温和な性格を買われ、比較的若い年齢で軍曹の地位を得る。
しかし部隊長に就任して僅か一週間後、『獣のような獰猛さを持った少女』に遭遇。
部隊を壊滅させられ、自らも利き手を欠損するという重傷を負う。

その後は傷痍軍人手当に頼って細々とした生活を送っていた。
しかしそんなどん底の生活の中でも軍人としての誇りは失っていなかったようで、
厳しいトレーニングを重ね、いつか戦場に復帰することを目標にしていた。


 --


 甲羅の戦士、『暦』。

 彼のルーツを探るには、『平和主義者』の存在は避けて通ることはできないだろう。


「横暴です、いくらなんでも」


 暦(このタイムラインではまだ甲羅の戦士にはなっていないが、便宜上、彼の名前は『暦』としておく)は抗議の声を上げた。

 平穏だった彼の職場に、突如として『平和主義者』を自称する女性が殴り込んで来たのだ。


「横暴で横紙破りなのは承知しています。ですが、あなたのやっていることは明確な戦争犯罪です」


 返ってきた正論に暦は唸った。

 イリーガルでアンモラルな人体実験施設。

 暦が現在、所長を務めている職場はそういう場所だった。


『安価に強力な兵士を作り出す』、もっと言うならば市街に簡単に潜伏できる『特別な才能を持った兵士を作り出す』。

 暦の職場の目的は、そんなテロリズムまっしぐらなものだ。

 それでも、彼にとってはれっきとした仕事であることには変わりない。


 自分がこの座に就く前の所長が、戦争犯罪どころか人道犯罪染みたことをしていて、暦ですらドン引きしていたとしてもだ。


「ぼく達はちゃんと、政府の承諾を得て研究活動を行っています」


「国家の承諾は得られていても、国連の承認は得られていないんです。

 あなた達が海外では何と呼ばれているのか知っていますよね」


「・・・」


 平和主義者は狡猾に目を光らせた。


「わかりませんか? 今なら穏便に事を運んであげようって言ってるんです。

 話し合いで済ませてあげようって言ってるんです」


 暦は察した。

 この平和主義者は交渉をしに来たのではなく、脅迫をしに来たのだ。

 平和主義者、平和のためなら何でもする女。

 平和の為なら、国すらも殺す女。


 暦達の界隈では、この平和主義者は死神よりも恐れられていた。


 暦は額を掻くと、小さくため息をついた。


「とにかく、ぼくの一存で決めるわけにはいきません。

 あなたがぼく達をどう処断しようと考えているのかは関係なく、です」


 平和主義者は瞳を閉じて聞き入っていた。


「ぼくは所長ですが、政府から予算をいただいて活動しています。いわば雇われている身分です。

 上に話を通しますから、とりあえずそこで判断を仰がないと――


「あなたの部下も、同じことを言っていました」


 平和主義者は、暦の話の終わりを待たずに口を挟んだ。

 痛々しい笑みを浮かべながら。


「そして、私の力が及ぶ最後の領域は、あなたが限界なんです。

 私はあなたより上の立場の人間を動かすことができないんです」


「・・・」


 なんだそれは。

 なんだ、それは・・・。

 それではまるで、暦が研究に関わる人々の命運を握っているかのようではないか。


「正直なところ、私はあなたが所長になるのを待っていました。

 あなたの先代の所長が、失脚してしまうのを待っていました」


「あなたの先代はあなたと違って、情に流されてくれる人ではありませんでしたから」


 平和主義者は席を立って、床に三つ指をついた。

 人目も憚らず、土下座をした。

 その気になれば一国の軍隊さえも滅ぼせる恐るべき怪物が、震える声を上げて床に額を擦り付けていた。


「お願いします! どうか、どうか!

 この国の暴走を止めてください! あの子達にこれ以上戦争の業を押し付けないでください!

 あなただけが頼りなんです、あなたが最後の砦なんです!」


 ・

 その後、暦は政府に対して、研究所の破産申請を提出した。

 元々イリーガルでアンモラルな施設、綻びなんていくらでも見つかった。

 死ぬ気になれば、なんでもできた。


 それから後は、壮絶なバッシングとメディアリンチの嵐だった。

 数えきれない数の罪状を受け、3桁を超える年数の懲役を受けた。

 それでも暦は耐えた。

 自分は正しいことをしようとして、正しいことをしたのだと。

 そう言い聞かせることで、必死に耐えた。

 自分の犯してきた過ちを、自分を殺して受け入れた。


 そして罪悪感も自己嫌悪もまるごと背負い込み、彼の人格は真っ二つに分裂した。

 過去の自分の罪を全部『ぼく』へ押し付けて、『俺』はいけしゃあしゃあと生きていた。

 そして被害者ぶった偽善者面をして、この世の全ての戦争を憎む人間達へ宣言したのだ。

「過去の罪を償うために、戦争をこの世から無くすために、俺はこの命を使い切ることを誓います」と。



 --


 甲羅の戦士、暦は悪態をつきながら工場の内部へ入っていた。

 彼の才能『炭酸拠点』によって、

 炭酸水の浸み込んだ衣服は防弾の役目を果たし、そして落下の衝撃から彼の身を守っていた。


「とんでもない戦士がいたものだ、名乗りもせずに撃ってくるなんて」


『まあ、やるかやられるかの戦場で、お互いに名乗ってから戦うって方が異常なんだけれどね』


 暦は炭酸水の入ったペットボトルを開け、それを頭から被りながら会話していた。

 もう一人の自分と。

 愛すべき戦争犯罪人である『ぼく』と。


「それはそうだが、これは十二大戦の前哨戦の四零前戦だぞ。全く・・・」


 厳密には、彼女は名乗っていた。

 生爪の戦士、『澱雨』とちゃんと名乗っていた。暦には聞こえなかっただけで。

 つまり暦の憤慨は、ノーサイドなのである。


 工場の扉を開けた時、暦はふと不安に駆られた。

 この工場の内部に他の戦士が潜んでいる、そんな予感がした。


『気を付けなよ、ぼく。確実になんかあるよ、この中』


「言われるまでもない、俺は最初から最後まで油断はしていないつもりだよ」


 高台に陣取って狙撃された過去から暦は目を逸らした。

 いつものように、自分の過失から逃げた。


 暦は忍び足で油断なく、建物の中を進んでいく。

 こういう戦場では、普通自分からこういう逃げ場の限られた屋内に進むべきではないのだが。

 5時間のタイムリミットがある以上、そうも言っていられない。

 そんな悠長なことをしていられない。


 ましてや煙突から落ちた衝撃でまる1時間も身動きが取れなかった暦には、そんな余裕は全くないのである。

 なんとか追い打ちを食らわないよう、這い這いでその場から逃げ出したはいいものの。

 徐々に締まっていく首輪をつけながら1時間近く休息をとるのは、中々に来るものがあった。


 致命的すぎるタイムロス。

 そして他の戦士も動き出している以上、更に休んでいるわけにもいかなかった。

 それこそこういう屋内にトラップを張って籠城でもされたら、

 その時点で暦の勝ち目は完全に消えてしまうのだから。


 籠城しなくては、相手に籠城される前に。

 後ろを向いて前進するような思考で、暦は工場の中を探索していく。

 するとふと足元に、何かが落ちているのが見つかった。


「これは・・・、ネズミの死骸?」


 罠か、もしくは――。

 一つだけ息をつき、暦は部屋の扉を開けた。

 もしも何もなければ、暦はこの部屋で籠城をするつもりだった。



 勢いよく扉を開けた暦は目を見開き、

 とっさに扉の裏の壁へ身を隠した。


(戦士の死体・・・!?)


 暦が籠城をしようとした部屋には先客がいたのだ。

 すでに息絶えて、床に倒れ伏した先客が。


――Drop out 【棄輪】


 暦は荒い呼吸を何とか鎮め、すぐに思考を開始する


(おかしい、あんないかにも戦い慣れてそうな戦士があっさり死んでいるなんて・・・)

『ねえ、ぼく。あの死体、違和感がなかった?』

(違和感? 一体何が・・・)


 暦は推理する。

 人体実験施設の所長を務めていた聡明なる『ぼく』と一緒に。

 二人分の人格で、事のいきさつを推理する。


『綺麗すぎるというか、そう――』


(目立った外傷がなかった?)


 暦は恐る恐る扉越しに、改めて死体をもう一度確認すると。

 恐るべき考えが頭をよぎった。


『逃げろ! その場から離れろ、今すぐ!!』

「っ!!」


 暦は血相を変えてその場を離れ、曇った窓を叩き割ってその場から飛び出した。

 ここは2階だったが知ったこっちゃない、煙突のてっぺんから突き落とされるのに比べたらかわいいものだ。


 転がるように地面に着地した瞬間、

 暦は激しく咳き込み、足元が揺らめくような回転性の目眩に襲われた。


「少し『吸って』しまった・・・!!」


『ネズミの死骸! 外傷のない大男の死体! 変色した皮膚!

 あー、あー、もうっ! なんで気付かないかなー、すぐにわかることだろうに!!』


「うるさいな、仕方ないだろ!」


 暦はゲホゲホと咳きこみながら、遮蔽物となりそうな倉庫の裏に身を隠した。


(間違いない、あれは化学兵器による攻撃・・・)


『状況から判断するに、おそらく毒ガスだろうね』


「あれ、生きてた」


 その声に暦の方はビクリと跳ねた。

 とっさにその方を振り返ると、ポンチョのような白い外套を羽織った女性がにんまりと笑って立っていた。


「羽根の戦士。羽休めに殺す、『報応』」


「甲羅の戦士。豪華に焼き殺す、『暦』」


 機械的に歴はそう答えると。

 一つ息をついて、なんとかその場に踏みとどまった。

 目眩の悪化は何とか収まっていたが、相変わらず足元はトランポリンのように揺れていた。


「ずいぶんな余裕だね、あれをやったのは君だろう?」


 暦はどうにか余裕の笑みを浮かべ、先ほど自分が飛び降りた階を親指で指さす。

 額には脂汗が浮いていた。


「思うに、君が使っているのは暗殺や奇襲に向いている武器だ。

 こんな風に堂々と敵の前に現れるのは、慢心としか言いようがないんじゃないか」


「俺がもし拳銃やナイフのような、直接戦闘向きの武器を持っていたら、

 君は殺されても文句は言えないよ」


「やれば? どうせ無理だから」


 報応は両手を広げてくるくると回る。

 よく見てみると、体のあちこちに黒いベルトが巻かれていた。

 もしかしたら彼女が来ているのはポンチョではなく、拘束衣なのかもしれない。


「だーれも私を殺せない。私が持っているのはそういう才能だから」


「・・・」


『まさか運命干渉系の才能の持ち主・・・? だとしたら激レアだね』


 暦は自分の中で、もう一人の自分と作戦会議をする。


(ああ、彼女のデータは何が何でも欲しい。死んでも手に入れたい、文字通りに)


「あれ、生きてた」


 その声に暦の方はビクリと跳ねた。

 とっさにその方を振り返ると、ポンチョのような白い外套を羽織った女性がにんまりと笑って立っていた。


「羽根の戦士。羽休めに殺す、『報応』」


「甲羅の戦士。豪華に焼き殺す、『暦』」


 機械的に歴はそう答えると。

 一つ息をついて、なんとかその場に踏みとどまった。

 目眩の悪化は何とか収まっていたが、相変わらず足元はトランポリンのように揺れていた。


「ずいぶんな余裕だね、あれをやったのは君だろう?」


 暦はどうにか余裕の笑みを浮かべ、先ほど自分が飛び降りた階を親指で指さす。

 額には脂汗が浮いていた。


「思うに、君が使っているのは暗殺や奇襲に向いている武器だ。

 こんな風に堂々と敵の前に現れるのは、慢心としか言いようがないんじゃないか」


「俺がもし拳銃やナイフのような、直接戦闘向きの武器を持っていたら、

 君は殺されても文句は言えないよ」


「やれば? どうせ無理だから」


 報応は両手を広げてくるくると回る。

 よく見てみると、体のあちこちに黒いベルトが巻かれていた。

 もしかしたら彼女が来ているのはポンチョではなく、拘束衣なのかもしれない。


「だーれも私を殺せない。私が持っているのはそういう才能だから」


「・・・」


『まさか運命干渉系の才能の持ち主・・・? だとしたら激レアだね』


 暦は自分の中で、もう一人の自分と作戦会議をする。


(ああ、彼女のデータは何が何でも欲しい。死んでも手に入れたい、文字通りに)


 暦は決意した。

 報応の才能を探ることに全てのリソースを投入することを。

 勿論そのリソースの中には、自分の命も四零前戦に優勝する可能性も含まれている。


「オーケー、わかった。信じよう。

 君がそういう才能の持ち主だってことをね」


「うん?」


 報応は首を傾げた。

 どうやら暦の反応は、報応にとって予想外だったようだ。


「もし君の才能が本当にそういうものなのだとしたら。

 君を攻撃するのは自殺行為にしかならないだろう、だから攻撃しない」


 暦は降参の意思を示すように両手を挙げた。


「それに君にばっかり構ってるわけにもいかない。

 一人は死んだようだけれど、君の後に戦士はもう一人控えているんだから」


「ふーん」


 報応は暦を値踏みするかのように見つめると、再びニンマリと笑みを浮かべた。


「じゃあ、もう一人を殺すまで共同戦線を張ろうか。和平協定。

 もう一人を殺したら即解除ってことで」


「うん。俺としてはそれは非常にありがたい提案だ。

 勿論、参加するからには俺も優勝を目指しているわけだけれど。

 俺の第一目標は、戦士達の情報収集だからね」


「決まり。じゃあ仲良くしようね、暦くん」


 報応は笑顔で利き手を差し出した。

 暦は引きつった笑みを何とか保ちつつ、その手を取って堅く握手をした。


 暦はなんとか呼吸を保ち、報応の方を見返した。


「報応さん。君の信用を得るために、全て吐いてしまうけれど。

『どんな才能がこの世には存在するのか』。

 俺はそれを探るために、この四零前戦に送り込まれたんだ」


 もっと言うならば十二大戦へ向けての情報収集である。

 先んじて大戦の準備を始めた干支十二家の人間がいて、暦はその斥候として送り込まれたわけだが。

 今回の話にはあまり関わりがないので、その話は割愛する。


「そんな風に交渉を行ったっていうことは、

 君が持っているのは『直接戦闘に向いていない武器』ってことでいいのかな?」


「正解だよ、俺の武器は全く戦闘には向いていない。

 というか真っ当に勝負させる気のない武器を持たされている」


 加えて言うなら、自分は殺されても文句を言えないというか、

 殺されても文句は言わない人間でもあるけれど。

 これは聞かれてないので、敢えて言う必要はないだろうと暦は判断した。


「この四零前戦に参加する戦士は、みんな何か1つ武器を与えられているのは知ってるだろう?」


 暦は報応の武器が毒ガスだと知った上で交渉に臨む。

 それは彼なりのスタンスであり、処世術だった。


「俺の場合、それは『自爆スイッチ』なんだよ。

 まあ厳密には爆弾じゃないんだけれど、それでも発動したらほぼ死ぬっていうのは間違いない」


 報応は興味深そうに眼を見開き、首を突き出すかのように歴を見つめた。


「もっと詳しく聞かせてよ、私たち仲間でしょ?」


「オーライわかった。じゃあこれを見て」


 暦はハンドマイクのような形状の、

 百人に見せたら百人がスイッチかリモコンと答えるような、あからさまなスイッチを公開した。


「これはボイスレコーダー兼、サテライトキャノンの発射ボタン。

 ただし装弾数は一発、そしてロックオン機能がついてない。この意味はわかるよね?」


「わかんない、教えて」


 一つ溜め息をついて、暦は続けた。

 それは自分で言っていて悲しくなるような事実だった。


「照準は俺なんだよ。

 これを押すと俺に向けて、高出力のマイクロ波レーザーが成層圏から発射される。

 俺ごと敵を焼き尽くすためにね」


 あからさまな嫌悪を示すように、報応は表情を顰めた。


「そんなの、自爆装置どころか自殺装置じゃない。

 非人道的だよ、戦争犯罪だよ、断固抗議するべきだよ」


「だろうね、向こうもそのつもりだろう。俺自身も生きて帰れるとは思ってないし」


 暦はまるで他人事のように肩を竦めた。


「なんでそんなに落ち着いてられるのかな?

 死なない私が言えた義理じゃないけれど、そんな武器持たされて戦場に送られるなんて。

 遠回しに死ねって言われているようなものじゃない」


「そうだね。でも、その辺は俺もちゃんと納得しているよ。

 さて、それを納得してもらうにはどこから説明すればいいのやら――


 しかしその説明は中断された。

 納得のいく説明は果たされなかった。


 突如としてギロチンのように分厚い刃が、二人へ向けて放たれたからだ。


「ご、あっ・・・!?」


 炭酸拠点は発動し、暦の衣服を防刃チョッキへと変えてその身を守ったが。

 果たして甲羅の戦士の才能は、暦を守り切ることはできなかった。

 左腕をザックリやられていた、その刃は防刃チョッキを貫通したのだ。


 馬の嘶くような声を響かせ、その刃の持ち主は二人を威嚇した。

 その巨体に、暦は見覚えがあった。


(あの部屋の戦士、死んでいなかったのか!?)


『いや、瞳孔は拡大が確認できる、皮膚の変色も見られる。死んでいるのは間違いないよ』


(となると、残る可能性は・・・)


『死体を操る才能、かな』


 暦はチラリと報応の方を確認すると、報応の衣服はザックリと切られていたが。

 報応の肌には傷1つ残っていなかった。

 彼女の言う『不死性の才能』が彼女を守ったのか、はたまた別の要因が絡んだのか。

 現時点では判断できない。


『操っているのは誰だろうね』


(この戦士を殺害した報応か? 開戦直後に俺を撃ってきた未知の戦士か? それとも・・・)


『この戦士が、自分自身の死体を操っている、とか?』


(ネクロマンシー。噂には聞いていたけれど、まさか実在していたとは)


 暦の中で、知識欲旺盛なぼくが舌なめずりをした。


『これも、貴重なデータだね』



 死体の戦士の咆哮が響き渡り、刃を掲げて暦へ向けて突進する。

 暦は腰から炭酸水の入ったペットボトルを2本抜き取って投げつけると、

 死体の戦士の前で炸裂させた。


「報応さん、少し共同戦線の内容を変更しようか」


 炭酸水はまるで意思を持っているかのように死体の戦士へ纏わり付き、

 およそ炭酸水ではありえない粘着性を以って、死体の戦士の動きを鈍らせる。

 おかげで今度の刃は易々と回避できた。


「『もう一人を殺すまで』じゃなくて、『あと二人を倒すまで』に改訂しよう。

 この戦士に限っては、殺すだけでは戦うのをやめてくれなさそうだ」


「いいよー」


 報応はポンチョのような衣服を広げて答える。

 死体の戦士は炭酸水の拘束を引き千切るように振り返った。

 この様子だと、炭酸はあっという間に抜けてしまうだろう。


「甲羅の戦士。豪華に焼き殺す、『暦』」


「羽根の戦士。羽休めに殺す、『報応』」


 儀礼的な名乗りを聞き届けると、死体の戦士は譫言めいた声で答えた。

 まるで生物的な反射のように、応えた。


「一角の戦士。追い詰めて殺す、『棄輪』・・・」


『名乗ってくれるとは有り難い、解析班の仕事が楽になるだろうからね』


 死に体の戦士と、死ねない戦士と、死んでいる戦士の。

 四零前戦の中で初となる、まともな戦闘の幕がやっと開いた。


 ――


カリタス「今宵はここまでです、続きはまた別の日に」

乙です

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom