【艦これSS】始まりの前の出会いに (23)

男「俺はまだ大丈夫だっつってんだろ!こんな所に来てる暇なんてねえんだよ!」

看護士「暇は無くても必要だから連れてこられたんですよ、暴れないでください!」

男「おい、こら放せ!」

看護士「は~い、いい加減静かにしましょうね~」ゴスッ

男「ぐぁぁぁっ!」

看護士「全く、お腹に穴空いてるのになに言ってるんですか。死にたいんですか?」

男「ぐっ……そ、それが傷口に躊躇なくボディーブローかましたやつの言う台詞かよ……」

看護士「何度も騒ぐからです。患者は大人しくしていてくださいね」

男「しかしよ……」

看護士「……まだ説得が足りませんか?頭の方も治療した方がいいですか?」

男「スンマセン……」

看護士「いいですか?当分安静ですからね」

男「……ハイ」

看護士「それから、隣は女の子ですから覗いちゃダメですよ」

男「……ハイ」

看護士「でも何か有ったら助けてあげて下さい」

男「……ハイ」

看護士「じゃあ何かあったらこのナースコールで呼んで下さい」ガチャン

男「呼ばねーよ……たぶん」

男「クッソ、抜け出してや……っつ!……こりゃあの打撃で傷口が開いたんじゃねえのか?」

看護士「違いますよー」

男「うおわっ!いつの間に!?」

看護士「貴方のようなタイプは最初だけ生返事しといて脱走する何てのが良くありますからね」

男「ちっ!」

看護士「たまにこうやって見に来ますよ~。脱走とか考えないで下さいね」ガチャン

男「ちっ、仕方ねえ。少し休んで……それからにすっか」

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男「…………」

男「…………」

男「…………」

男「……だぁぁ!やっぱ静かにしてんのは性に合わねえな」

男「つっても何が出来るわけでもねえし……」

男「おーい、なんか暇潰せるものないのか?」

男「……必要な時に居ねえんだな、あいつ……」

男「そういや隣は女だっつってたな……」

男「…………ちっと見るだけなら……。ほら、助けなきゃいけない状況かもしれないし、な」

女の子「自分の獣欲が理由の行動なのに、言い訳がましく正当化してから行動に移るなんて、なっさけない男ね」

男「なっ!」

女の子「まったく、こっち見ないでくれる。視線で汚れてしまうわ」

男「カーテン越しなのになんで分かるんだよ」

女の子「あんたみたいなスケベの行動なんてお見通しなのよ。それにカーテンすら貫通して突き刺さって来るアンタの視線。ホント、視線だけで妊娠しそうだわ。ここまで下卑た視線の持ち主何てそういないわよ。これは絶対、豚みたいな顔してて体は熊みたいな筋肉ダルマね。あ~いやだいやだ」

男「……お、俺は豚みたいな顔してねーよ」

女の子「ならそれ以外は認めるって事ね。こっち見ないでくれる?こんな美少女を一目見たいって感情は理解できなくもないけど、見る事すらアンタには不釣り合いだと自覚なさい。いえ、出来る事なら息も止めてくれるかしら?同じ空気を吸いたくないのよ。今まで私の吐いた息を吸えたんだから満足でしょう?」

男「……しょ、初対面でいきなりそこまで言うか」

女の子「ふんっ、まだ対面してすらいないわよ。そうか、あんたの事だからカーテン越しでも私の事を妄想してみた気になったと言う事ね。うわぁ、こんなロリコンの変態だとか私の想像の遥か上を行っていたわ。絶対こっちに入ってこないでよ。いえ、何か撃退する対策を取らないと……拳銃とか貸し出してもらえるのかしら」

男「あのな……」

女の子「拳銃じゃだめね。マシンガンとか……いえ、大砲とかじゃないと止められないかもしれないわ」

男「俺は深海棲艦(あいつら)じゃねえよ……」

女の子「………………」

男「ったく、人を何だと思って……」

女の子「……ねえ」

男「ああ?」

女の子「深海棲艦に大砲って効かないの?」

男「いきなりなんだよ」

女の子「いいから答えなさい。それともその頭の横に付いているのは耳じゃなくて椎茸か何かなの?ああ、頭が空っぽだからそもそも理解できないのかしらね。ごめんなさい、私は日本語しか喋れないの。馬鹿語はちょっと……」

男「……お前ホント次から次へと出てくんのな。逆に感心するわ」

女の子「はんっ。私の話が聞こえなかったのかしら。たく」

男「へいへい……まあ、ほとんど効かねえよ。イ級でさえ迫撃砲しこたまぶち込んでようやく撃破できるかどうかって所だ。あ、迫撃砲ってのは……」

女の子「つまりは効くって事ね」

男「あれを効くとは言えねえだろうな……」

女の子「なんなの?はっきりしないわね」

男「深海棲艦に通常攻撃はほとんど効かないんだよ。途中で見えない壁みたいなもんに当たって消えちまうんだ」

女の子「何それ、魔法か何かでも使っているっていうの?」

男「分からん。だが、俺の場合はイルカ程度の大きさのイ級一体に、16式機動戦闘車と小銃隊と迫撃……あ~4、50人総がかりで撃ち込んでようやく撃破……した後に後から来たイ級二体に壊滅させられた」

女の子「…………」

男「こっちの攻撃はほとんど効かない。向こうの攻撃は防げない。ありゃあ戦ってるって言うのかね……。人的被害がほとんどなかったのが幸いっちゃ幸いだったか……」

女の子「でも、撃破できたんでしょ」

男「まあな。だからこんなとこに一秒でも居たくないんだが……」


女の子「だからでその後と話の内容が繋がっていない気がするんだけど」

男「こう見えても一応、自衛官なんでね。あいつ等に対抗……出来ちゃいねえから、ちっとでもなんかできねえかなって思ってな」

女の子「…………そう」

男「……そうだ」

女の子「…………アンタも……」ボソッ

男「…………」

女の子「ねえ」

男「あんだ?」

女の子「ロリコン変態妄想癖熊人間だと思ってるわ」

男「はぁ!?」

女の子「だから、ロリコン変態妄想癖豚顔筋肉ダルマって思っているわ」

男「地味に増えてんじゃねえか!急になんなんだ」

女の子「はぁ、健忘症も付け加えるべきね」

男「てめ……ちょっとしおらしそうにしたと思ったら……」

女の子「さっき、アンタが自分をどう思っているか聞いたんじゃない」

男「は?」

女の子「だから……私が聞いたことにアンタが答えたんだから、私も答えただけよ」

男「律儀なんだかひねくれてんだか分からんヤツだな」

女の子「べ、別に感謝してるわけじゃないんだからねっ!」

男「お、おう?感謝?」

女の子「だから違うって……。~~忘れろっ!」


男「って感じの訓練でな。いや、マジであの時は死ぬかと思ったぜ」

女の子「ふーん、そんなことするんだ。あ、そうだ。やっぱり鬼軍曹が、走れ!クソ虫ども!とか怒鳴ったりするの?」

男「いんや。昔はしてたみたいだが、今はそんな事するやつ滅多に居ねえな」

女の子「あら、意外ね。なんでかしら」

男「いい方法とは言えねえんだよ。怒鳴りつけて萎縮させていう事聞かせるよりも、乗せて難しい事に挑戦させる方がはるかに伸びる」

女の子「例えば?」

男「そうだな……。まずは本人に弱い自分を否定させるんだよ。てめえはクソ虫か?って感じにな」

男「まあ、教官が怖いもんだから、普通ここではい、クソ虫です!なんて答えられるヤツは居ねえ」

女の子「ぷっ、アンタなら言えるんじゃない?」

男「んなガッツがあるヤツなら最初っからこんな事言われたりしねえよ」

女の子「それもそうね。アンタ、体力だけはありそうだもの」

男「だけってなんだよ……。ったく、まあとにかくそうやって弱い自分を自分で否定させるわけだ。そして、それならこれぐらいできるはずだ。証明してみせろって感じに持っていく」

男「しかもうまい教官ならマジでギリギリを見抜いて課題を与えていくから、マジになればマジでできるレベルなんだよ……死にかけるがな……」

男「そして訓練が終わったら、出来たじゃないかとか言って褒めたり、明日も頑張れよって奢ってくれたりすんだよなぁ。あの飴はマジでズルいぜ……」

女の子「実感籠ってるわね~」

男「限界までそうやって鍛え抜かれたからな……。いかん、思い出したら寒気が……」

女の子「なっなけない男ねぇ……」

男「いや、そうは言うがな、きっつい訓練は誰だってトラウマの一つや二つ持つようになるって……」

女の子「そんなもんかしら……?」

看護士「は~い、お昼です!お昼はカレーですよぉ。美味しそうですねぇ」

男「おお!おかわりとかできるのか?」

看護士「無理ですね、残念でした」

男「うあぁ……量少なくて足んねえんだよなぁ」

看護士「いや~、餓えたケダモノみたいですね」

女の子「やだ、止めてよね。そんなのと隣同士だなんて……身の危険が……」

男「飢えたの意味がちげえよ!そんな方向に飢えて……飢えて……」

女の子「ねえ、そんな所で口ごもるとか止めてくれない?本気っぽくて引くんだけど。ねえ、この仕切りに穴とか開いてないかしら?」

看護士「ん~、とりあえずは見た感じだと大丈夫そうですね」

女の子「ソイツの両手両足に手錠付けておくとか、全身麻酔かけ続けるとか出来ないのかしら?」

看護士「ん~、それは難しいですけど感圧式のマットとかありますよ。ベッドから降りたらコールが鳴るヤツ」

女の子「ならそれをお願い」

男「待てぇ!俺を下半身がコントロールできない様なケダモノ扱いするんじゃないっ!」

看護士「え?」

女の子「は?アンタ本気で言ってんの?アンタ最初真っ先に覗こうとしたの、私は忘れちゃいないわよ」

男「ぐっ……」

看護士「え、そんな事しようとしてたんですか?……そういえば私も時折凄い目を向けられることが……はっ、まさか……」

女の子「いつ手を出してやろうかと獲物が隙を見せる瞬間を狙っている目ね」

看護士「やぁ~ん、どうしましょう///」

男「するかっ、そんな事!」

看護士「あれ、しないんですか?なぁんだ、残念」

女の子「え゛?」

男「え?ええっ?……いいの?」

看護士「冗談に決まってるじゃないですか。なに本気にしてるんですか。ほらやっぱりケダモノじゃないですか。聞きました?」

女の子「ええ、しっかりと。やっぱりそう判断した私は正しかったわ。即急にお願いね」

看護士「はい」

男「くっそー……言い返せねえ……。もういいから早く飯くれ……」

看護士「クスクス……。はい、分かりましたよ」


男「おっし、飯だ飯。これが一番の楽しみだな、やっぱ」

看護士「ゆっくりよく噛んで食べて下さいね」

男「あいよ」

看護士「じゃあこちらも……」

女の子「ありがとう」

看護士「はい。一人で食べられますか?」

女の子「赤ちゃんじゃあるまいし、平気よ」

看護士「……そうですか。では何かあったら呼んで下さいね」

女の子「むぐむぐ……りょうはひ……ゴクッ」

男「…………」もぐもぐ

女の子「…………」むぐむぐ

男「しかし、いつもは味が薄いが、カレーは意外にしっかり味がついてて美味いな」

女の子「ひょふね。んぐっ、びょふひんひょくふぉひふぇわにゃくぁにゃくぁ……」むぐむぐ

男「口に物入れたまんま喋ってんのか?何言ってんのか分かんねえよ」

女の子「……んくっ。……まったく、ちっちゃい男ねえ。男はそうだなって何でも頷いときなさい。その方がモテるわよ」

男「……そうだな」

女の子「よろしい」

男「……ったく」

女の子「さって……ふぐふぐ……」

女の子「あっ」カチャンッ

男「ん?なんだ、落としたか?」

女の子「……ええ、そうみたいね」

男「っと、待ってろ。今ひろって……」

女の子「止めて」

男「は?」

女の子「ゆ、床に落ちたの汚いし。どうせ看護士さん呼ぶから」

男「でも拾っといて邪魔にはなんないだろ」

女の子「いいって言ってるでしょ!」

男「……あ……」

看護士「はいはい、どうしましたか~?」

女の子「…………」

看護士「ああ、スプーン落としちゃったんですね。すぐ替えのヤツを持ってきますから待っててください」ひょいっ

女の子「ありがとう」

看護士「いいえ~」タッタッ…

女の子「…………」

男「…………」

女の子「……こんなとこ早く出たいわね」

男「……そうだな」

男「ふんっ……ふんっ……ふんっ……」ギシギシ

女の子「……ねえ」

男「……おうっ……ぷぅっ……なんだっ……」ギシギシ

女の子「アンタ、人の話聞くときくらいは筋トレやめなさいよ」

男「おう、すまん。三日も体動かしてないとさすがに不安でな。……で、なんだ?」

女の子「あんた、暇よね?」

男「そうだな。退屈で死にそうだ」

女の子「ちょっと手伝ってほしいことがあるのよ」

男「ああ、まあ構わんが」

女の子「そ、じゃあ……私が脱走する手伝いしてくんない?」

男「ぶっ!……な!?」

女の子「アンタね、デカい声出すんじゃないわよ。バレたらどうすんの」

男「いやいやいや、驚くなってのが無理だろ」

女の子「アンタも来た当初は脱走してやるって息巻いてたじゃない。何?口だけ?」

男「いや……そりゃまあ……最初はそう思ってたが……」

女の子「つまりは腑抜けで腰抜けって事ね」

男「はぁ?今なんつった?

女の子「腰抜けって言ったのよ」

男「俺の事は誰にも腰抜け何て言わせねえぞ。いいぜ、やってやんよ!」

女の子「……単純バカ……」ボソッ

男「ん?」

女の子「いえ、アンタ鍵とかどうにかできる?」

男「いや、ツールがねえと無理だな」

女の子「そう……じゃあドアは無理ね……」

男「だが窓ならドライバーさえありゃあ分解できるぜ」

女の子「そう。結局道具が必要なのね。じゃあ無理か……」

男「今持ってるぞ」

女の子「ホントにっ?」

男「ああ。まあ、なんだ。最初の頃はマジで脱走するつもりだったからな」

女の子「じゃあ考えとかあるのかしら?」

男「あたりめーだ。ここの緊急病室には中央にベッドを置いている以上、必然的にできる死角がある」

女の子「トイレ横の窓ね」

男「ああ。そして朝8時の交代時間付近に軽く朝会がある。その時は中央に集まって患者に対する監視の目も緩む。その時に……」

女の子「脱走って訳ね。やるじゃない」

男「幸いここは二階だからな。窓から逃げても怪我しない高さだ」

女の子「……私にはソレ難しそうなんだけど」

男「なに、俺が下で受け止めてやるさ」

女の子「……そう。ならお願いするわ」

女の子「……そろそろ?」

男「……ああ、大丈夫だ。ちょっとした金くらいは持っとけよ。家まで帰る足は必要だからな」

女の子「…………問題ないわ」

男「うっし、じゃあ、行くか」シャッ

女の子「ええ」ギシッ

男「そういや、お前の顔見るのは初めてにな……」

女の子「そうだったかしら?…………何よ、その表情は」

男「…………」

女の子「……アンタは同情しないって思ったのに。……最悪、いえ、最低ね。いいから行くわよ」

男「行けるわけねえだろぉが……」

女の子「は?今になって臆病風に吹かれたの?早くしなさい」

男「ちげえよ」

女の子「違わない。行くわよ」

男「行けるわけ、できるわけねえだろ……」

女の子「できる!」

男「じゃあ立ってみろ」

女の子「……っ……こ、これでいいでしょ」ギシッ

男「……左手、ベッドから放せよ」

女の子「うっさいわね。立ったんだからいいでしょ。早く……」

男「こっから窓まで掴まれるものなんてねえんだよ」

女の子「だからアンタが居るんでしょ。ウドの大木よりマシな働きしてみなさい」

男「……窓枠、掴んで体を支えられっか?」

女の子「……出来るわよ、その位」

男「無理だ」

女の子「やってみなきゃ分からないでしょ」

男「無理だ」

女の子「……くっ、この……。もういい、私一人でもやるわ」

男「でめえ、自分の状況は一番てめえ自身が分かってんだろ」

女の子「分かってるわよ。だから出来るって言ってんのよ」

男「……出来るはずねえだろうが。右手と右足がなくて、どうして脱走できると思うんだよ……」

女の子「……出来る」

男「出来ねえ!」

女の子「出来る!」

看護士「あの~……どうしたんですか?」

女の子「なんでもない。関係ないわ」

男「……スンマセン。脱走しようとしてました」

女の子「アンタ……このっ」フラッ

男「っと」ガシッ

看護士「うわっととと……」ガシッ

女の子「触るな!私に……触るな!」ジタバタ

男「今手を離したらあぶねえのはお前だろうが!」

看護士「そうです、いっぺん落ち着いて!」

女の子「うっさい!うっさい!!殴らせろ!!」

男「落ち着いたら殴られてやる!だから落ち着け!」

女の子「…………」

看護士「……ふい~、もう手を離していいですよ。後は私がしますから」

男「ああ」

看護士「じゃあちょっと失礼しますね~……」ヨイショ

女の子「…………」

看護士「はい、もう大丈夫ですよ。……それでなんですか、脱走って?」

男「…………」

女の子「…………」くいっくいっ

男「……なんだよ?」

女の子「……!」ゲシッ

男「イって!確かに殴っていいとは言ったが蹴るな!」

女の子「チッ……傷口狙ったのに」

男「お前な。一応俺は肝臓に鉄骨がぶっ刺さってた重病人なんだぞ」

看護士「そんな人が腹筋したりしないでください。馬鹿なんですか?」

男「…………」

女の子「ぷっ、ダサ……」

看護士「貴女も、脱走とか……あり得ませんよ」

女の子「…………うるさい」

看護士「…………」

女の子「……またその目。カワイソウナコ」

女の子「同情なんか要るかっ!」

看護士「……ごめんなさい……」

女の子「そうやって……もがっ」

男「ちっと声を小さくしろ。他の人に迷惑だ」

女の子「ん……ぷぁっ。アンタね、気安く触んないでよ」

男「お前が同情するなっつたろ?」

女の子「遠慮くらいはしなさい」

男「無作法ですまんな。話を戻すが、脱走はやめとけ」

女の子「…………」

男「そんな顔すんな。つっても今は、だ。その足と手じゃ無理だろうが」

女の子「そんなの、やってみなけりゃ分かんないじゃない」

男「いいか。いずれ待ってりゃ義足やらのリハビリが入る。そしたらそれパクってからでも遅くはねえだろうが」

看護士「ちょっと!」

女の子「…………」

男「なんだったらその時に脱走の手助けくらいしてやんよ。俺は、約束を必ず守る質なんだ」

看護士「あのね、そんな事になったら私が怒られるじゃないですか。せめて私が居ない所で悪だくみしてください」

男「……なんかどっかズレてねえか?」

女の子「…………」

男「なんでそんなに脱走したいか分からんが、今はやめとけって、な」

看護士「あの、ね。その……もしかしてご両親の事、探しに行きたいのかな……?」

男「両親?」

看護士「あ……えっと……行方不明になっているんですよ。その……」

女の子「……違うわよ」

看護士「じゃあ……」

女の子「復讐に決まってるでしょ」

看護士「…………」

女の子「あの爆撃に巻き込まれて生きてるなんて虫が良すぎる話、信じられるわけないでしょ」

男「MIA……か」

女の子「なにそれ」

男「ミッシング・イン・アクション。戦闘中行方不明ってヤツだ。生死が確認できないが存在も不明」

女の子「そう、そうね。つまり死体が確認できてないから行方不明ってヤツ。…………はっ」

看護士「…………」

女の子「だからね。私は奴らを、深海棲艦を、殺さないと気が済まないのよ」

男「……無理だ」

女の子「アンタね、さっきから無理無理ってそんなに否定ばっかすんな。私は……」

男「言ったろうが。あいつ等にはまともに銃が効かねえって」

女の子「たっぷり叩きつければ倒せるとも聞いたわよ。じゃあそれをするだけよ」

男「銃はどうやって手に入れるんだよ」

女の子「……こんなご時世だもの、闇市にでも流れてるわよ。なんだったらガソリンでも使って……」

男「自爆特効か?それでうまくいって一体殺せても、大量に居る深海棲艦のうち一体が死ぬだけだ。お前はそんな程度の為に自分の命を使うのか?」

女の子「くっ……。で、でもこんな所で燻ってるくらいなら死んだ方がマシよ。自爆?上等じゃない。むしろ本望だわ」

男「…………」

看護士「月並みだけれど、あなたのご両親はそんな事望んでないはずよ」

女の子「はっ、月並みすぎるわね。まあ、その通りだと思うわ」

看護士「だったら……」

女の子「でも私は復讐を望んでるの。これは私の意志よ。親だとか、そんなの関係ないわ」

女の子「ああ、そうだ。いいこと思いついたわ。ねえ、アンタはこれから退院してあいつ等と戦うのよね」

男「そのつもりだが」

女の子「じゃあ、戦って戦って、いっぱい殺して」

男「…………」

女の子「代わりに私をあげる」

看護士「なに……を……言ってるの……」

女の子「好きな事をしていいわよ。何でもしてあげる。どんなことだってしてあげるわ。ああ、少し傷ついてるけど、顔は悪く無いでしょ。十分な報酬になるはずよ。だから……」

男「…………」

女の子「アンタが嫌なら別のヤツを紹介して。そいつに戦ってもらうわ」

男「無理……だ……んな事……出来るわけねえだろうがよ……」

女の子「私はあいつ等が憎いの!憎くて憎くて憎くて憎くて憎くてたまらないのよ!!」

女の子「あいつ等を殺して!殺しなさいよ!」

女の子「それが出来ないのなら、私の邪魔をするなっ!」

女の子「私にあいつ等を……殺させろっ!」

男「……でき……」

??「貴女の復讐、私ならお手伝いできますよ」


男「は?」バッ

??「失礼、少々漏れ聞こえてしまったもので……」

男「……お、女?」

??「初めまして。私、故あって今は名乗れませんが政府の者です」

女の子「今の言葉、ホントなの?」

??「はい、少々資料を拝見させてもらったのですが、貴女にはとある手術への適合が認められます」

男「おい、うさん臭すぎるぞ。やめとけ」

女の子「うっさい!……それで?」

??「その無くなった腕を復元させ、とある手術を行う事で深海棲艦と戦闘できる体に……そうですね、改造、することが出来るようになりました。その為、政府は今被験者を必要としています。その被験者の一人として貴女を推薦することが可能です」

女の子「やる。やらせて」

男「待て待て、詐欺かなんかじゃねえのか。そんなモン聞いたことねえぞ」

??「貴方はなんですか、先ほどから」

男「俺か?俺は陸上自衛隊 第1水陸機動連隊所属の……」

看護士「あの、その方は本当に政府の人です。何度か再生治療だとかで色々と転院していった子たちが……」

??「陸自の方でしたか。残念ですが機密なのでお話しいたしかねます」

女の子「それで、私はどうすればいいの?」

??「あ、はい。少々お待ちください。記入していただきたい書類がありますので……。今取ってきますね」コツコツ…


男「止めろ。そんな事したら戻れなくなるぞ」

女の子「はあ?何正義漢ぶってんの?偽善者とか、止めてよね」

男「お前は復讐するために生まれて来たわけじゃねえだろうが」

女の子「そんなの、誰だってそうでしょ。言ってることが臭いのよ、アンタ」

男「勘違いすんな。あいつらを殺したこともある俺だぞ。命を奪う事は良くないとか言ったりはしねえよ。言える権利もねえ。だから復讐自体は止めねえよ」

女の子「…………」

男「だが復讐を生きる理由にするな。生きる目的にするな。その先には地獄しかねえよ」

女の子「だから何?私はそれをしないと死ぬの。私が、死ぬの!行っても地獄、立ち止まっても地獄、なら行くしかないじゃない」

男「お前は今極限状態に置かれて周りが見えなくなってるだけだ。お前は確かに不幸な目にあったかもしれん。しかしそうじゃないものもあるはずだ」

女の子「はっ、命がある事に感謝しろって?バッカじゃないの。私の事何にも分かってないアンタに他人の人生勝手に決めんな!」

男「そっちに行ったヤツを見て知ってるから言ってんだろうが!前線で戦って来た人間舐めんな!」

女の子「~~っだ、だとしても私の人生よ。どうなろうが私の勝手でしょ。それに私が留まったとして、その責任をアンタ取れんの?」

男「どうすりゃ取れる?」

女の子「は?」

男「何でもしてやるよ」

女の子「なに?私は別にアンタの体なんて欲しくないわよ」

男「お前がどっかに行きたいならどこでも連れてってやる。食いたいものがあったら何でも食わせてやる。好きな男が出来たら力づくでもお前とくっつけてやる」

女の子「あ、アンタね。自分で何言ってるか分かってんの?」

男「お前が言ったんだろ、責任とれるかって」

男「お前が不都合になった部分を俺のすべてで補ってやるよ。だから、行くな」

女の子「バッッカじゃないの!?出会って数日の女の子の奴隷宣言?変態にもほどがあるわよ、このロリコン!ストーカー!!気持ち悪い!!」

男「さ、最後のは地味に刺さるな……」

??「こちらになります」スッ

男「止めろ。アンタ、自分が何してっか分かってんのか?弱った心に付け込んで……」

??「ええ、きっと私も地獄に落ちるでしょうね。その代わりに他の人々は生き残るでしょうが」

男「くっ…………」

??「だから私はこの行動が正しいと信じていますよ。……ですから安心してくださいね。私も一緒ですから」

女の子「まるで悪魔のささやきね」

??「まるで、ではありませんよ。そのものです」


女の子「…………これでいい?」サラサラ

??「はい、大丈夫です」

男「……てめえの顔は忘れねえぞ」

??「…………そうですね」

男「……?」

??「私の顔は、『国際的な軍事機密』に当たりますので早く忘れた方がよろしいかと」

男「……!」

??「それでは失礼いたします。あ、お荷物はまとめておいて下さいね」

女の子「そんなのないわよ。誰も面会に来れなかったし……」

??「では身一つで?」

女の子「ええ、だからこのまま行けるわ。早く連れて行って」

??「……分かりました。車いすはお借り出来ますか?」

看護士「…………」

??「あの、車いすをお借りしてもよろしいですか?」

看護士「……っあ、は、はい。借用書を記入して下されば」

??「分かりました。ではお願いします」

看護士「…………」

??「お願いします」

看護士「……はい」


看護士「ねえ、酷いと思いません?あの人」

男「…………」

看護士「結構話してて気が合うと思ってたんだけどなぁ~。まさかあんな事するなんて……今度から黒幕メガネとか呼んでやろうかしら」

男「…………」

看護士「お~い?」

男「……無理を承知で聞くんだがな」

看護士「いいですよ」

男「おい、まだ何も言ってないぞ。変な願いだったらどうするんだ?」

看護士「この状況で聞いてくることなんて、一つしかないじゃないですか」

男「まあ、そうなんだが……」

看護士「私、あの子以外にも何人か知ってる子が転院していったんですよ。何をされてるのかすっごく気になります。気になりません?」

男「気になるから頼もうとしてるんだがな」

看護士「一応、勝手に書類とか覗いちゃうのバレたらクビなんですけどね」

男「無理しなくていいぞ」

看護士「無理します。だって、あの子たちがどうなってるか知りたいですもん」

男「そうか」

看護士「それに……あの子の事、叱ってやる人が必要だと思うんですよね」

男「そうだな、時間が経てば……」

看護士「それからロリコンのストーカーからあの子の貞操を守らないと」

男「…………」

看護士「ロリコンの!ストーカーから!」

男「聞こえてるよ!微妙に自覚あるからあんま弄らないでくれ。つーかそういう感情からの行動じゃねえよ……」

看護士「にひっ。でも啖呵切ったところはカッコ悪く無くも無くも無かったと思いますよ」


男「住所はここでいいのか……」

男「うっし、あってんな。んじゃ」ガチャリ

男「すまな……げ」

??「お久しぶりです。二等陸曹」

男「……俺の事は調査済みって訳か」

??「はい」

男「じゃあ俺がここに来ることも予想済みだったのか?」

??「ヒントは渡しましたよ?」

男「やっぱあれはヒントだったか」

??「ええ、気付いてくださってなによりです」

男「昔聞いたことあったからな。日本が憲法なんかを変えずに攻撃兵器を持つ方法って」

??「国連に予算ごと自衛隊を所属させ、指揮権は日本に持たせればいい。人間の国相手には絵空事ですが、人類の敵であれば……」

男「国防軍の完成って訳か。まあ、国連も深海棲艦のせいで有名無実化してっからできたんだろうけどな」

??「まったく、人類が滅びかけているというのに法律も何もないでしょうに……」

男「まったくだ」

??「それで、まだ編成されてもいない国防軍に何の用でしょうか二等陸曹」

男「ところで、その調査はちっとばかし古いみたいだな」

??「というと?」

男「辞表叩きつけて来たからな。古巣に迷惑かけてもいかん」

??「迷惑になるような事をするんですか?」

男「まさか。それで解決するならそうするが、現実はそんなうまくいかねえよ」

??「では何をしに来たんですか?」

男「これだ」ゴソゴソ

??「……これは……履歴書ですか?」

男「ああ、掃除でも事務員でもするから雇ってくれ」

??「ふふふふっ……」

男「なんだよ」

??「いえ、あの……ふふっ……あはっ」

男「…………」

??「あんなに大見え切った割にはやったことがこれって……ずいぶん現実的で小物っぽいなと思いまして……ふふふっ」

男「悪かったな。というか子供じゃねえんだから大暴れなんざするかよ」

??「やってることは凄くストーカーっぽいですけどね」

男「うるせえ、気にしてんだから笑うな」

??「ふふっ、分かりました。これは受け取ります。でも、ここで働いてるからって彼女に会えるとは限りませんよ?」

男「まあ、なんにせよ、な。まずは近くに居ねえと話になんねえだろうし」

??「そうですね。では……まずは新米少佐から始めてもらいましょうか」

男「なんだって?」

??「新米少佐です」

男「聞いたこともない階級だな」

??「はい、出来たばかりですから」

男「少佐ではあるのか?」

??「はい、ですので私たちの上官になりますね。これからは大淀とお呼び下さい」

男「大淀?それが君の名前なのか?」

大淀「正確にはそうなる予定ですが」

男「なんだかよく分からなくなってきたな……」

大淀「それはこれから学んでいってください」

男「というか、入ったばっかりの奴、それも何もしらない素人がいきなり上司って……君はいいのか?」

大淀「はい。そもそも、かつてない敵と、見た事も使ったこともない装備と人員で戦うんです。だれもが素人ですよ。だったら、上司くらい自分たちを大切にしてくれる人に任せたいと思いませんか?」

男「……もしかして……俺はハメられたのか?」

大淀「いいえ、まったくの偶然です。ですが個人的には一人の人間にも真剣になって下さる貴方が上司になって良かったと思っていますよ」

男「…………」

大淀「頑張ってくださいね。あ、こういう時は弱気な自分を自分で否定させるんでしたっけ?」

男「……何で知ってる」

大淀「彼女がよく貴方の事を話してましたよ」

男「よくって……三日くらいしか話してなかったんだがなぁ……。元気にしてるのか?」

大淀「はい。手も足も治って、今は訓練中ですよ」

男「そうか」

大淀「貴方の訓練も、始めましょうか。提督」



――あんたが司令官ね。ま、せいぜい頑張りなさい!――

以上、終了でございます
最後まで読んで下さりありがとうございました
こんな出会いがあったらなぁと、リアルに緊急病室に担ぎ込まれて死にかけながら考えていたネタです
はい、叢○のモデルは私です
だから右が使えないという…

それでは皆さん、5月9日は告白の日だそうですから皆さんも告白して玉砕して砕け散りましょう!
良い駆逐ライフを~

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