白菊ほたる「もう雨あがりに虹が掛かることもないんでしょうか」 (51)

・モバマスss
・藍ほた
・百合
・独自設定、独自解釈
・世界滅亡

以上の要素を含有します


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1525154072

「ぜんまい仕掛けのおもちゃは、太陽が照っているから動くんだ」

「ええ? ちがうよお父さん。おもちゃはぜんまいが巻いてあるから動くんだよ」

「じゃあどうやってぜんまいは巻かれたんだい?」

「わたしが巻いたんだよ」

「それで、どうしてほたるは動けるんだい?」

「うーん……。ご飯を食べたから?」

「その食べ物は太陽が照っているから育つんじゃないか。つまり、すべてのものは太陽が照っているから動けるんだよ」


 小さいころ、お父さんとこんな会話をした覚えがあります。
 その時の私は、お父さんの言っていることを半分も理解していなかったけど、とにかくお日さまが大事なものなんだということはわかりました。

 同時に、不安な空想が湧いてきました。
 もし私の『不幸』が夜の闇になって溢れ出して、この青い空をすっぽりおおってしまったら……?
 そうして太陽もおおい隠してしまい、この地球の全てがピタリと停止してしまったら……?

 そんな子供じみた、恐ろしい空想。
 バカバカしいとは思うけど、一度生まれてしまった考えはなかなか消えてくれず、最後には泣き出してしまいました。
 お父さんは必死に慰めてくれました。
 でも、どうして泣き出したのかと訊かれても、この恐ろしい空想のことは結局言葉にできませんでした。

 もしも藍子さんなら、こう言うでしょうか。


「もしお日さまがなくなって朝が来なくなっちゃっても、昼間は見えなかったきれいな星空が見えるはずです。だから、きっと寂しくないんだよ」


 なんて。

 藍子さんはきっと、どんなときでも幸せを見つけられる天才なんです。
 そんな彼女に、私はずっと憧れていました。

 藍子さんこそ、私の太陽でした。

**


「高森藍子のゆるふわタイム。お相手は、パーソナリティの高森藍子と」

「ゲストの、白菊ほたるでした」

「それではまた明日お会いしましょう。ばいば~い♪」

「ばいばーい……!」


 高森藍子のゆるふわタイム。
 お昼のひとときをちょっと素敵に彩る、短いラジオ番組です。
 今日もゲストは私でした。

 一通り片付けて、放送機材の電源を切ります。
 今日のお仕事はこれでおしまい。


「それにしても、天気良くならないですねー」


 藍子さんが、いつもどおりのニコニコした顔で話しかけてきました。
 この笑顔を見るだけで、だいたいのことが大丈夫な気がしてきます。


「は、はい……。ええと、これって、天気がどうという問題なんでしょうか?」

「さあ?」


 天気が悪いといっても、曇り空とか嵐とか季節外れの吹雪とかそういうことではなく。
 一週間くらい前からもう全然お日さまが昇ってきていません。
 ずっと夜のままです。

 お日さまだって毎日昇っていたら疲れちゃうでしょうし、一日や二日くらい休んでもいいかもしれません。
 でもさすがに、なんにも言わずに一週間もおやすみしちゃうのはどうかと思います。

 藍子さんは、何も言わずに私の隣に座ってきました。
 すると、えへへと照れくさそうに笑って、私に抱きついてきました。


「今日は、寒いですからね。もうちょっとこのまま……」

「あ、はい……。えっと、よろしくおねがいします……?」


 お日さまが昇らなくなってから、ずっと寒くなっていく一方です。
 日付の上では四月ですが、もう真冬のようです。

 だからこうやってお互いに暖を取っています。
 最初は恥ずかしかったけど、もう慣れっこです。

 あったかくて、気持ちいい。
 寒さも、不安も、絶望も、全てが曖昧になって溶けていきました。

 私たちは今、東北地方のとある町にいます。
 東京ではもう桜は散ってしまったけど、この町では今が見頃のようです。

 私たちは番組の企画としてこの町の桜をPRすることになっていました。
 ちょうどその収録の日こそ、昼がなくなったあの日だったんです。

 それから一週間、いろいろなことがあった気がします。
 事務所の皆やプロデューサーとも連絡が取れなくなりました。
 車も電車も使えなくなって、東京にはもう帰れません。

 都会のほうでは社会が混乱して暴動とか略奪とかも起こったみたいですけど、よくわからないまま情報が途絶えてしまいました。

 生きるのに必死で、水や食料を求めて藍子さんと二人で歩き回っていたら、いつからか私たち以外には誰も見かけなくなりました。

 そうしているうちに見つけたこの高校を拠点にして、暮らすことにしたんです。

 放送室から出て、保健室(私たちのいつもの居住スペースです)に戻ってきました。


「それにしても、ほたるちゃんにこんな特技があったなんて思いませんでした」


 藍子さんは、窓の外を見て感心したように言います。
 視線の先には、校舎の反対側の屋上にある、大きな塔が見えました。
 月明かりに照らされて、不気味に輝いて見えます。

 あれは、藍子さんと二人で組み上げたアンテナでした。


「おかげで、また『ゆるふわタイム』が無事にオンエアできます。ありがとう、ほたるちゃん♪」

「いえ……。藍子さんが手伝ってくれたおかげです」


 それから数回、「ほたるちゃんのおかげです」と「藍子さんのおかげです」の押し問答を繰り返して、最後にはおかしくなって笑ってしまいました。

「ラジオ放送のやりかたなんて、どこで習ったんですか?」

「お父さんが、こういうのが好きだったんです。危ないからって私はただ見てただけでしたけど、こう……記憶をたよりに」

「わあ、すごいです!」

「それに、前までやっていた『ゆるふわタイム』の規模には全然及びません。この機材だと、多分……この町全体に届くか届かないかくらいです」

「へえ、そんなに届くんですか」


 私たちが今居るこの高校には、どうやら放送部があったみたいです。
 一通りの放送機材はもちろん、電波の送信機やアンテナの部品もたくさん置いてありました。私はこれを組み立てただけに過ぎません。

 それにこの送信機、見てみるとどうも変な改造がされているみたいで、出力がやけに高いんです。
 普通ならこのくらいの装置だったら頑張ってもせいぜい100mくらいしか届かなくて、町全体を覆うほどにはならないはずなんですが……。
 私は法律には詳しくないからよくわかりませんが、多分「でんぱほう?」とかに引っかかる違法改造だと思います。
 藍子さんにその話をしたら、「なんだかあうとろーですねー」とちょっと笑っていました。

 お昼(?)のラジオが終わったら軽くお昼ごはんを食べます。
 そのあと、午後は図書室でお勉強です。
 と言ってもただ二人で本を読むだけです。

 それから、歌やダンスの自主レッスンです。
 私たちの新曲の発売も迫っていることですし、最後の追い込み時期ですね。
 こうなってしまった以上、無期限延期ですが……。

 レッスンが終わったあとは、シャワーを浴びます。
 今はまだ水道が使えるので大丈夫ですが、これからどんどん寒くなっていくと、いつ使えなくなるかわかりません。
 なので今の段階から、ちょっとづつ慣らしていくために節水を心がけてます。

 シャワーの後は、晩ごはんです。
 日持ちする食材も少なくなってきたので、保存食や缶詰ばかりです。
 ちょっぴり味気ないですが、藍子さんと一緒なのでとってもおいしいです。
 何を食べるかじゃなくて、誰と食べるかが重要なんだって、どこかで聞いたことがあります。

 そして、眠りにつきます。
 明日もいい日になりますように。
 できれば、日が昇りますように……。

 "朝日"という最高の目覚ましを無くしてしまった以上、どうしてもちょっとお寝坊さんになってしまいます。
 目を覚まして窓の外を見ると、東の空にはひときわ目を引くオリオンの三ツ星がありました。


「藍子さん、藍子さん。起きてください……。朝ですよ。朝、なんでしょうか……? ……起きる時間ですよ」

「うーん……後五分……」


 ゆさゆさ、と。
 藍子さんを揺すって起こします。
 どうも寒いのが苦手みたいで、このところずっとこうです。


「おはようございます、藍子さん。もう朝ごはん出来てますよ」

「んん……ぉはよう……」


 目を覚ました藍子さんと、朝ごはんを食べます。
 今日も栄養満点の冷凍食品を食べられることに感謝です。

 それにしても、そろそろ食料の備蓄も無くなってきた気がします。


「そろそろ、『買い出し』に行ったほうがいいでしょうか……?」

「そうですね。あんまり気は進みませんけど、仕方ないです。でもその前に、まずはラジオですね♪」

「は、はい……!」

 いつものように、放送前の打ち合わせをします。
 話す内容の確認と機材のチェックが主です。

 スタッフさんもいないので、全部私たち二人だけでやらなきゃいけません。
 ちょっと大変ですけど、慣れてくると楽しいものです。


「ほたるちゃん、そっちは大丈夫ですか?」

「はい。校庭のスピーカーも、電波の送信機も特に不調も無いみたいで……」

「よかった。じゃあ、はじめよっか」

「はい、いきまーす。さん、にー、いち……」


 カチッとボタンを押し、放送がスタートします。
 学校の中と外に取り付けられているスピーカーと、私たち二人で取り付けたアンテナから、この町中に私たちの声を届けます。
 まだ誰か、聴いている人が居ると信じて。
 今日も、メッセージを届けます。


「高森藍子のゆるふわタイム。今日のゲストも、白菊ほたるちゃんです♪」

「はい、白菊ほたるです……。よろしくおねがいします」

**


 ラジオが終わり、お昼ごはんを食べたあとは、今日は藍子さんと『買い出し』に行きます。

 昨日と同じ満月が、煌々と輝いています。
 あの月が、怖い。

 もうこの惑星は死んでしまったんでしょうか。
 学校の外は張り詰めたように寒く、時が止まったみたいでした。

 それはまるで、幼い頃に想像した世界の終わりのようで。
 ふとした瞬間に、叫びだしたくなるような不安が――


「ううう、今日はいちだんと冷えますね」

「あ……、はい。そうですよね。寒いです……」


 藍子さんの声で、我に返りました。

 寒さをちょっとでもやわらげるために、藍子さんにぴったりくっついて歩きます。
 でもお互いに冬物の上着で完全に守られているので、少しも体温も感じません。ちょっとさみしいかもです。


「もう、ほたるちゃん。歩きにくいって」

「あ、ごめんなさい……。ダメでしたか?」

「ううん」


 日が昇らない以上、気温は下がる一方です。
 昨日よりも今日は、今日よりも明日は、もっと寒いでしょう。

 『買い出し』と言ってもお店はもうやっていないので、お店から勝手に商品を取っていくことになります。
 緊急事態とはいえ、私も藍子さんもあまりいい気分はしません。

 なので当面のルールとして、お金をちゃんと払って出ていくということに決めました。
 なんの意味もない自己満足ですが、私たちの心を守るためには大事なことだと思います。


「夜のスーパーって、なんだかちょっとわくわくしませんか?」

「えっと、そうでしょうか……?」

「うん。スーパーっていつでも明るいから、こうやって中の電気が消えているのが珍しくって」


 そんなことを話しながら、店内を回っていきます。
 時おり、前に来たときよりもちょっとだけ商品が減っているような気がすることがあります。
 気のせいかも知れませんが、もしも本当に減っていたとしたら、私たち以外にもまだ生きている人がいるかもしれない。
 そんな願望を話したりもしました。


「今回はこれくらいかな?」

「そうですね、あんまりたくさん買っても荷物が重くなって大変なので……」


 電卓を取り出して、すばやく計算していきます。
 本当はレジスターを使えたらいいんですけど、よく使い方がわからなくって……。
 藍子さんと私で計算結果をチェックしあって、ぴったり一致するまで検算します。
 見落としてたり、桁を一個間違えてたり、そういうおっちょこちょいもあるから、念入りに。

 この一万円札は、本当に一万円分の価値があるんでしょうか。
 もう社会も成り立っていないんだから、ただの紙切れに過ぎないんじゃないでしょうか。
 ただの紙切れよりも、新鮮な野菜や果物、お肉とかの方がよっぽど価値があるんじゃないでしょうか。
 お金を前にすると、今となってはそんなことを考えてしまいます。
 
 お金っていうのは、国がその価値を保証して、人々がその価値を信用することではじめて価値を持つんだって聞いたことがあります。
 これって、まるでアイドルのようです。
 だってアイドルも、その輝きを認めてくれる人がいてはじめてアイドルになれるから。
 だったら、保証してくれる人も輝きを認めてくれる人もいなくなったアイドルは、一体何になるんでしょうか。


「ほたるちゃん、どうかしました?」

「いえ、大丈夫です……。大丈夫」


 そう、大丈夫。
 藍子さんがいるから、頑張れます。


 帰り道。
 不安なことは一旦全部忘れて、ふたり寄り添って歩きます。
 ただ気温が低いだけで、冷たい風が吹いているわけではないというのが不幸中の幸いでしょうか。


「ほたるちゃん。明日、ちょっと行きたいところがあるんです。付き合ってくれますか?」

「はい、かまいませんけど……。どこに行くんですか?」

「ふふっ、内緒です」


 藍子さんは、一体どこに連れて行ってくれるんでしょう。
 楽しみです。

 こうしてまた、私たちの一日が終わります。
 窓の外には、相変わらず満天の星空が広がっていました。
 建物の隙間からわずかに見えるあの星座は、はくちょう座でしょうか。

 日の光が無い以上、いつ空を見ても美しい星空が見えます。
 一日中空を見ていれば、春、夏、冬の大三角を一日のうちに見ることもできるかもしれませんね。

 ベッドの中に入った後に気が付きました。
 星が回っている以上、地球は問題なく自転しつづけています。
 だから私たちは、丸一日かけて宇宙のほとんどの方向を目で見て確認しているということです。

 じゃあ、太陽はどこへ行ったんでしょうか。
 そして、あの月は、何の光を反射しているんでしょうか。

 ……。
 もう寝ます。
 おやすみなさい。

 次の日。
 ラジオの生放送を終えた私は、藍子さんに連れられて歩いていました。
 どこに向かっているかはやっぱり秘密だそうです。


「ここは……?」

「私は知らなかったんですけど、この町は知る人ぞ知る温泉地だそうです。ずっと学校のシャワーだけっていうのも落ち着かないですし、ゆっくり湯船に浸かって温まりましょう?」

「それは、そうですけど……」


 内緒ですって言っても、「着替えやタオルを持っていくといいかもしれませんね」なんて言われたら、なんとなくお風呂にでも行くのかなって想像はついちゃいます。
 でも、まさか本当にそうだとは……。


「えっと、藍子さん。これだけ寒いと、温泉にも入れないんじゃないですか?」

「さあ、それはどうでしょう。とりあえず入ってみましょうか」


 藍子さんに手を引かれて、建物に入っていきます。
 なんだか自信満々ですけど、本当に大丈夫なんでしょうか……?

「わあ……。すごい……!」


 中に入ってみると、温泉はもくもくと湯気をあげて湧いていました。
 もうずっと寒いままなのに、どうして……?


「ほたるちゃん、前に言ってましたよね。『全てのものは太陽があるから動く』って」


 藍子さんは、そう前置きしてから話し始めました。


「ずっと、違和感があったんです。本当にそうなのかなって。太陽がなくても……地球の中だけで起こることだって、あるんじゃないかなって。それが、温泉です」


 温泉……。
 つまり、火山活動。

 確かに、火山の活動は地球の内部……つまり太陽とは関係のないところで起きることです。
 たとえ太陽が無くなって、全部が凍ってしまったとしても、温泉だけは湧き続ける、ということでしょうか。
 なんだか想像しにくい話です。


「ほたるちゃん、背中流しますよ♪」

「ええっ、恥ずかしいですよ」

「いいからいいから」

 二人で背中を流し合ったあと、温泉に入りました。
 源泉かけ流しで、夜景と星空を堪能できる贅沢な露天風呂です。


「これは図書室で読んだ話なんですけど、何億年も前に地球全部が凍りついてしまったことがあるそうです」


 なんの話だろう、と思いましたけど、黙って続きを聞きます。


「その時にほとんどの生き物は絶滅しちゃったみたいですけど、その頃の生物たちは、海の底の温泉で生き延びたみたいです。彼らの遠い遠い子孫が、私たちなんですよ。これからもっと寒くなっていったら、ご先祖さまにならってこっちに引っ越しちゃうのもいいかもしれませんね」

「……そのときは、ラジオの機材もお引越ししちゃいましょう」

「ええっ、そんなことできるんですか?」

「はい。多分……。大丈夫です、鍛えてるんで」


 ぐっと、力こぶを作る仕草をします。
 これでも私はアイドルなので、体力はあると思います。
 アイドルなので、あんまり筋肉をつけすぎても良くないんですが……。


「おおっ、ほたるちゃんのうで、もちもちですべすべですね。うらやましい……」

「ひゃっ、あ、藍子さん」

 藍子さんは、どこまでも前向きです。
 明日のこともわからないこんな状況でも、ただ未来のことだけ見ています。
 だから、私も未来のことだけ話します。
 藍子さんに置いていかれないように。

 すべてのものは太陽が照っているから動けるそうです。
 だとしたら。
 あなたが私を照らすから、前に進めるんです、藍子さん。

 藍子さんは、星空を見上げていました。
 私もつられて見上げると、やっぱり月が輝いていました。
 日が昇らなくなってからは、この月こそが空で一番明るい星です。
 
 立ち込める湯気に遮られていてもなお、目がくらむほど眩しい光です。


「きれいですね」


 藍子さんはそう言うけど、私は何の返事も出来ませんでした。

 日が昇らなくなって以降あの月はずっと満月で、南の空から張り付いたように動きません。
 まるで、地上にいる私たちが慌てふためくのを見て楽しんでいる、意地悪な神のようです。

 古来、月は狂気をもたらすものだったそうです。
 ならこの狂ってしまった世界では、あの月が支配者なのでしょう。
 あるいは、狂ってしまったのは私なのでしょうか。

 あの月は私にとって、ずっと続くこの夜の象徴です。
 心の底から綺麗だと言うことは、きっと出来ないでしょう。


「私は……」

「……? どうしました、ほたるちゃん」

「いえ、ええと……」


 藍子さんが綺麗というものを、私は綺麗と言えない。
 そんなことがとても悲しくていたたまれなくて、ついはぐらかしてしまいました。
 かわりに、ずっと気になっていたことを言いました。


「藍子さんは、あの月はどうやって光っていると思いますか?」

「太陽の光を反射して……じゃないんですか?」

「もしあの月が、太陽の光を反射しているんだとしたら、太陽はまだ地球の裏側にあるはずです。でも、太陽が昇らなくなってからも、この地球はちゃんと自転しているんです。それなのに、太陽はどこにもありません」

「自転しているって、わかるものなんですか?」

「はい。この間、確認しました。どの星も、東から昇って西に沈んでいました」

「そうなんですか……。じゃあ、やっぱり太陽はもう無くなっちゃったんですね」


 藍子さんは、ちょっとだけ寂しそうに言いました。
 文字通り暗い話をしてしまったので、急いでごめんなさいと言うつもりでした。
 でも、それよりも早く藍子さんはこう続けました。


「だったら、あの月を照らしている星はひとつしかありませんね」

「ええと……。太陽じゃないなら、何が月を照らしているんですか……?」

「決まってるじゃないですか。地球ですよ」


 まるで、なんてこともない常識かのような口ぶりでした。
 地球が、月を照らしている……?


「地球は、恒星じゃなくて惑星です。ただの岩ですよ。地球が月を照らしているっていうのは……どういうことですか?」

「そのままの意味です。だってほら、地球って明るいでしょう? たくさんの星があるから」

「星……?」


 星があるのは、空であって地上じゃないはずです。
 そう思って思わずまた夜空を見上げましたが、すぐに気が付きました。

 星……。そう、星(スター)です。


「藍子さん、それって……」

「はい、私たちアイドルのことです」


 こともなげに、あまりにもいつもどおりの笑顔で言ったので、なにか私のほうが勘違いをしているのかと錯覚してしまいました。
 なにか、私の知らない物理法則があるんじゃないかって。
 もちろん、ただのジョークだってことはわかっているつもりですけど。


「なーんて♪」

「ふふふっ……。あはははは!」


 なんだかおかしくて、笑ってしまいました。
 月が『どうやって』輝いているかなんて、もはやあんまり関係ないのかもしれません。
 だってこの宇宙はもう、太陽が突然無くなっちゃうくらいにはめちゃくちゃなんですから。

 大事なのは、月が『なぜ』輝いているかだけ。
 そしてそれは、見上げる私たちが好きに解釈すればいいんです。

 大胆にも藍子さんは、地球が……ひいては私たちが月を照らしていると解釈しました。
 だったら、それもまた真実です。

「じゃあほたるちゃん。あの月が地球の光で照らされているっていうのを、ちょっと証明してみましょうか」


 藍子さんは、なにかとびっきりのいたずらを思いついたように言いました。

 提案されたその『証明』の方法は、今となってはあまりに荒唐無稽で、もしかしたら無意味なことのようにも思えました。
 でも、同時にこれ以上無いほどおもしろい提案だとも思ったんです。

 こうしちゃいられない、と温泉から出て学校に戻りました。
 明日以降やらなきゃならないことをリストアップして作戦会議です。

 楽しくなってきました。
 今日は眠れないかもしれないですね。

 そして、次の日――

「さて、そろそろお時間になってしまいましたが……その前に、告知です。ほたるちゃん、どうぞ♪」

「はい……。明日はこのラジオはお休みとなります。そのかわり、明日のこの時間、私たちのミニライブを行います。場所は、県立南高校の校庭です。明日も冷えるので、しっかりと暖かくしてお越しください」

「なんと、今回は新曲のお披露目ですっ。ぜひ来てくださいね」

「よろしくおねがいします」

「今日からは、ほたるちゃんを二人目のパーソナリティとしてお迎えして、番組をちょっとリニューアルしてお送りしました。それではお相手は、高森藍子と」

「白菊ほたるでした」

「ばいばーい♪」「ばいばーい!」

 藍子さんの提案は、至ってシンプルでした。
 校庭で、新曲お披露目のライブをする。
 それも、とびっきり素晴らしい最高に輝くライブを。

 ただそれだけです。

 あの月が地球の光で輝いているのなら、私たちが最高に輝けば月の光もより輝きを増すだろう、という論法です。
 もしかしたら、夜の闇を吹き散らして青空が戻ってくるかもしれない。
 そんな話すらしていました。

 非現実的な夢物語だってことは、もちろん私も藍子さんもわかっています。
 でもこの宇宙は太陽が無くなっちゃうくらいにはいい加減なんだから、なにが起こってもおかしくはないんです。

 そうは言ったものの、現実的には多くの障壁が待っていることは確かです。
 私たちの武器は、発売間近だったCDの音源と日々のレッスンで積み上げてきた技術だけ。
 衣装とか、照明とか、舞台の設営とか……そういった一切を私たちの手でやらなきゃいけません。

 そして最大の問題は、お客さんが来てくれるかどうかです。
 そもそもこの町にまだ人がいるんでしょうか、とすら思いますが、そこに関しては藍子さんには勝算があるみたいです。

 まずひとつに、お店の品物が確かに減っているということ。
 私はただの希望的観測だと思っていたんですが、藍子さんはちゃんと確認して言っていたみたいです。

 ふたつ目に、電気やガス、水道がまだ使えているということ。
 専門的なことはよくわかりませんが、何日も放置していて無事に済むということはないでしょう。
 誰かがまだ、保守をしているはずなんです。

 そういう理由で、「この町にはまだ人がいるんです」と藍子さんは断言しました。

 日に日に寒くなっていきます。
 冬の北海道でもここまで寒くはないでしょう。

 なので、ライブをやるなら早いほうが望ましいです。
 善は急げということで、早速ライブの告知をしました。
 期限は明日まで。
 私たちが今持っているものだけで、どこまでできるでしょうか。

 ライブをするために必要な衣装は、藍子さんが用意してくれました。
 スーパーの衣料品売り場にあった冬物の上着をリボンやフリルで装飾し、いろんな小物を散りばめた作品です。
 暗めの色の生地にスパンコールがきらめいていて、まるで星空のようです。
 藍子さんは手先が器用なので、仕上がりはプロ級にも思えます。

 いつものスーパーに寄ったついでにライブの告知ポスターを貼ってきました。
 もし誰かがここに通っているのなら、このポスターが目に留まることもあるかもしれません。

 舞台照明は校庭にある投光器を使うことにしました。
 夜でも運動部の皆さんが練習できるように取り付けられているものなので、光量は申し分ありません。
 でもその分小回りがきかないので、タイマー機能を使って曲に合わせてタイミングよく切り替えることにしました。
 この調整は何回も何十回もテストをして、何とか形になりました。

 着々と、舞台が出来上がっていきます。

 私たちが立つステージは、校庭に教壇を並べて作ることにしました。
 二人だとけっこう重たいので気合を入れて運ばなきゃいけません。


「こうやって、普段はなんでもないような場所が、なにか特別な場所に変わっていくのって、ちょっと不思議じゃないですか?」

「そうですね……。文化祭とか体育祭とか、非日常って感じがして好きでした」

「そう、非日常! こういう非日常から、日常の新たな良さに気がつくっていうのが好きなんです。なんだかこれって、アイドルに似てませんか?」

「ええと、どういうことでしょう」

「そうですね……。アイドルをはじめるまで、こうやって歌やダンスで誰かを笑顔にできるなんて思ってませんでした。アイドルになることで、私は私の新しい価値に気づけたんです。それに、私だけじゃなくって……プロデューサーさんや、事務所の仲間の皆や、ファンの皆さんたちが、私が知らない私の価値を見つけてくれるから、ただの普通の女の子だった私がアイドルになれるんです」


 藍子さんは、きらきらとした笑顔で言いました。


「うーん……なんだかよくわかんなくなっちゃいました。えへへ♪」

 ただの普通の女の子が、誰かに価値を見つけられてアイドルになる。
 きっと、これはアイドルに限った話ではありません。

 例えば、歌。
 本来ならただの音と言葉のつながりでしかないはずなのに、人の心はそこに『歌』という価値を見つけます。

 例えば、青い空。
 本来ならただ空気の粒が青い光を反射しているだけの物理現象なのに、なぜか青空を見ると幸せな気持ちになれます。

 例えば……思い出。
 何気ない日常や、幸せな日々。あるいは辛かったことなんかも、振り返ってみれば全部、私を形作る大事なピースです。

 そもそもこの宇宙さえ、ただの真空のなかに岩と火の玉が浮いているだけなんです。
 それを価値あるものにできるのは、人の心。
 私たちが世界に価値を見出したから、この世界は宝物なんです。 

 全てのものに価値は無く、そして全てのものが宝物。
 価値は全部、私たちの中にあったんです。


 藍子さんの言葉を聞いて、そんな思いつきが頭の中を駆け巡りました。
 気づけば私は、藍子さんに抱きついていました。


「わっ、ほたるちゃん、どうしたの?」

「いえ、ちょっと……」

「もう、甘えんぼさんですね」


 私には、この宇宙の全てが愛おしいものに思えてしかたなかったんです。
 そして今私の目の前にいるこの女性もまた、この上なく愛しい人に思えました。


「藍子さん。藍子さんは……幸せですか?」


 藍子さんは、ちょっとだけ考えて、すぐに言いました。


「うん、ほたるちゃんといっしょだから。私は幸せだよ」

「なら、私も幸せです」

「ふふっ、ほたるちゃんらしいね」


 ステージは完成しました。
 あとは開演時刻を待つだけです。

 舞台の設営に関しては、私たちは素人です。
 その上、準備時間は一日半ほどの突貫工事です。
 いろいろ頑張って準備はしましたが、お世辞にもいい出来だとは思えませんでした。

 これでライブが成立するんでしょうか。
 そもそも、誰か見に来てくれるんでしょうか……。
 ちょっと不安になってしまいます。


「大丈夫だよ、ほたるちゃん。私たちは、歌とダンスに関しては、プロなんだから」


 藍子さんが、平然と言います。
 いつもの声色だけど、だからこそ力強く思えました。

 できる範囲でやったけど、どうせ素人の仕事なんだから、深く考えずに私たちができることでカバーすればいいんです。
 だってそれしか出来なんだから。

 私たちは、アイドルです。
 だから今から、アイドルしに行きます。
 それだけです。


「ありがとうございます。大丈夫です、藍子さん」

「と言っても、ほんとは私も不安なんですよ。やっぱり私はほたるちゃんよりお姉さんですから、しっかりしたところを見せたいだけなんです」

「じゃあ、おそろいですね」

「はい♪」


 結局、私が人であるかぎり、不安なんて消えないんだと思います。
 不安を飼いならして、いっしょに生きる。
 そのためにレッスンをしてきました。

 だから、大丈夫。
 やると決めたからには、不安くらいで私たちのパフォーマンスは落ちません。

「じゃあ、行きましょう。ほたるちゃん」

「はい。藍子さん」


 舞台の幕が上がる。
 多分これは、地球最後のライブです。

 時間どおりにスピーカーから音楽が鳴り響きます。
 今までの私たちとは雰囲気が違う、激しい曲調です。

 それと同時に校舎から飛び出して、校庭にあるステージへと走り出します。
 藍子さんと相談した結果、こういった演出になりました。

 校舎からステージまでは、走って向かえばちょうど歌い出しの数小節前にたどり着く距離です。
 これは、昨日から何回も確認してきた段取りでした。

 その、はずでした。

 でも本番にトラブルは付き物のようです。
 私の場合は、特に。

 これがトラブルと言わずになんというのでしょうか。
 だって、おかしいでしょう。

 校舎を出た先が校庭じゃなくて、数万人規模のライブ会場だったなんて。

 変光星が、ゆらゆらと揺れています。
 まさに、満天の星空でした。
 あれは全部、私たちのために振られているサイリウムです。

 ステージも照明も全部、スタッフさんたちが用意してくれたもの。
 着ているものも藍子さんのてづくりではなく、薄手で動きやすく、それでいてかわいらしいデザインのアイドル衣装。

 驚きと困惑で一瞬動作が止まりますが、レッスンによって最適化された私たちの体はすぐに再起動し、音楽に合わせて半ば無意識に動きます。

 考えるだけ無駄なのかもしれません。
 だってこの宇宙は、太陽が無くなっちゃうくらいにはいい加減なんだから。

 状況がどう変わっても、アイドルとしてやることは変わりません。
 あの星一つ一つに、私たちの想いを届けるんです。

 新曲、「ムーンボウ」は、今までとは一線を画するものだ。

 曲を用意してくれたプロデューサーさんはそんな事を言っていました。
 確かにこの曲はテンポも速く、曲調も激しく、今まで歌ったことのないジャンルです。
 こういうのをロックというのでしょうか。

 この曲は、挫折している人、苦悩している人、絶望している人……そんな全ての人への応援歌です。
 夜の闇の中でも、空を見上げたら月の光があるかもしれない。
 冷たい雨にさらされても、雨あがりには虹が掛かるかもしれない。
 それが太陽の光じゃなく弱い月の光だったとしても、それでも祝福の虹はかかるはず。

 どんなときでも、小さな幸せはいつも人に寄り添うようにそこにある。
 そんな祈りを、叩きつけるように叫ぶ歌です。

 もちろん、現実はこの曲のようにうまく行きません。
 本当に辛い時には、夜空を見上げることすらままならないから。

 だから、私が道しるべになりたいんです。
 幸せはここにあるって、皆が気づけるように。

 いつかテレビで見た、あのアイドルみたいに……。

 一番のサビが終わる頃には、なんとなく察しがついていました。
 この夢のような舞台は、きっと何事もなくお日さまが昇っていれば実現したものなんだって。

 日が昇らなくなったあの世界と、何事もなく当たり前の日常を送っているこの世界。
 本当にちょっとした選択肢の違いで分岐していっただけの、同じものなんじゃないでしょうか。

 例えば右か左のどっちの足から歩き出すか、だとか、今日のお昼は何を食べよう、だとか。
 あるいは、丸いものの上にビー玉を置いて、どっちに転がっていくか、とか。

 そのくらい些細な違い。
 ただちょっと運が悪くて、この『私』がいる世界の方がおかしくなってしまった。
 それだけのことなんじゃないでしょうか。

 なら、こっちの正しい世界に戻ってこれたことを喜ぶべきなんでしょう。
 でも私にはそれは出来ません。
 だって、私たちは『あの町』でライブをするために一生懸命準備したんだから。

 それに、ここに用意されている舞台は『私』のためのものじゃありません。
 きっとこの世界にもともといた、こっちの『私』が立つべき舞台なんです。

 戻らなきゃ。
 私はそう思いました。

 ――本当に、戻るの?

 うん。

 ――誰も来てないかもしれないのに?

 それは、まだ確認してないからわかりません。

 ――あんなに寒いのに?

 ひとりぼっちじゃないから、寒くてもへっちゃらです。

 ――ふうん。じゃあ、いってらっしゃい。


 その声は、私の心の中の声なのか、あるいは神や悪魔のような超常的な声なのかはよくわかりませんでした。
 どうもその声の主からすると、私はおろかな選択をしているようです。

 二番のAメロに入る直前。
 振り付けとして、思いっきりジャンプするところがあります。
 どうやらそのタイミングで戻ってこれたみたいです。

 気づけばそこは、夜の校庭の即席ステージでした。
 衣装も藍子さんお手製のアレンジ冬服です。
 強烈な寒さに顔をしかめそうになるけど、我慢します。
 スピーカーから流れてくる曲も、少し音割れしていて聴きづらいかもしれません。
 何もかもあっちの世界とは大違いで、なんだかおかしくなってきます。

 月の光が眩しくて、夜空の星はあまり見えませんでした。
 かわりに、夜空よりもっと低いところに、変光星が見えました。
 およそ十個か、二十個くらい。

 やっぱり、藍子さんの予想は間違ってなかった。
 この街にもまだ人がいるんだって。
 私たちが、幸せを届けられる人がいるんだって。

 うれしくて涙が溢れそうになるけど、意志の力でせき止めます。 
 だってこの曲は、悲しい曲じゃなくて幸せを叫ぶ歌。
 涙は、似合わないんです。


 クルッと回って、ピタッ!
 曲のラスト。藍子さんと二人で、最後の決めポーズです。

 拍手と歓声が響いて、私たちのステージは終わりました。


「「ありがとうございました!」」


 見に来てくれたお客さんは、十三人でした。
 数万人を動員したあっちの世界とは比べものにならないけど。
 それでも私たちは、この人たちのためにアイドルとして輝きました。

「藍子さん。私、ライブの最中に夢を見たんです」

「ほたるちゃんもですか?」


 大きなライブ会場の夢を見たことを話しました。
 やっぱり、藍子さんもどうやら同じものを見たそうです。


「ああいう大きい会場も憧れですけど……。やっぱり私は、こっちのほうが好きです。ファンの皆さんとの距離が近いから」


 きっと藍子さんも、わざわざこっちを選んだんです。
 寒くて厳しい、こっちの世界を。


「行きましょうか、ほたるちゃん。ファンの皆さんが待ってます!」

「はい!」


 集まってくれた皆さんに、ごあいさつしに行きます。
 ここからの段取りは、なんにも決まっていません。

 握手会っていうのもありかもしれませんね。
 寒いから手袋越しの握手になっちゃいますけど、それでもいいでしょうか。

「ほたるちゃん、見て! ほら、雪が降ってます!」

「わあ……!」


 地球は、まだ生きていました。
 きっとこの雪は祝福なんでしょう。
 いいライブができたご褒美のようなものでしょうか。

 少なくとも私は、そう解釈しました。

 誰もが、空を見上げていました。
 星も、月も、舞い落ちる雪たちも、今まで見たこと無いくらい綺麗でした。

 きっと、もう雨あがりに虹が掛かることも無いのでしょう。
 でも、月の虹が掛かることはあるかもしれない。
 虹が掛からなくても、月の光が雪の粒を照らして、きらきら光る星になるかもしれない。

 結局、そこに大きな違いは無かったんです。
 大事なのは、どんな美しいものを見るかじゃなく、誰と一緒に見るか。

 月は、ただ月があるからきれいなんじゃないってことだったんです。
 その証拠に、ほら――


「藍子さん。月が、きれいです……!」

「……うんっ♪」


 今日の月は、とってもとってもきれいだと思えました。
 だってあの月は、私たち二人の輝きで光っているんだから。


「藍子さん、明日は何をしましょうか」

「そうですね、まず――」


 こうしてまた、私たちの一日が終わります。
 明日もきっと今日よりも寒いけど、今日よりいい日になるでしょう。

………………
…………
……

*


 今このラジオを聴いている人は、どれだけいるでしょうか。
 もしかしたら、もういないのかもしれません。
 でももしかしたらまだいるのかもしれないので、このラジオはまだまだ続きます。

 幸せって、とっても難しいものだと思うんです。

 もしも幸せな状況にあったとしても、きっとその時は一生懸命だから、幸せであることに気が付かない。
 過ぎ去ってしまってから、初めて幸福だったと気付くんです。
 それって、とっても不幸なことだと思います。

 私はずっと、不幸な人生を送ってきました。
 だから大きな幸せを望むよりも、小さな、ほんの小さな幸せたちを集めて、噛みしめるように生きてきました。
 それでも、全てが終わってしまった今振り返ってみると、見落としていた幸せも多かったように思うんです。

 独りでいると特にそうです。
 私は皆さんに不幸をうつしてしまうのが怖くて、人からちょっと距離を置いて生きていたことがあります。
 独りは、だめです。
 だって、独りなら小さな幸せにも気が付かないから。
 幸せであるためには、せめて幸せを認め合うために他の誰かが必要なんです。
 今の私なら、そう思います。

 これは私からのお願いです。
 もし、このラジオを聴いている誰かがいるのなら。
 幸せを諦めないで下さい。
 希望がなくても、絶望の真っ只中でも、小さな幸せは絶対どこかにあります。
 たった独りで、寂しくて、寒くて、幸せなんて見つからないっていう人がいるのなら、そのときは、私が何度でも言います。
 小さな幸せは、絶対にあるって。
 私が保証します。
 私が、認めます。

 だって私はアイドルですから。
 夢と希望を与えて、皆を幸せにするアイドルですから。

 これは私からのお願いです。
 どうか、幸せを諦めないで下さい。
 これを聴いているあなたが、小さな幸せを見つけられたなら、私も幸せです。
 私の幸せは、ほかの誰かが幸せでいられることだから。
 それが私の最初の願い。
 アイドルになりたいと思ったときからの、願いだったんです。

 もしこれを聴いているあなたが小さな幸せを見つけられたなら……。
 私たちはその願いで繋がって、ひとりぼっちじゃない。
 そう思うんです。

 さて、お時間になってしまいました。
 今日も特に大きなトラブルもなく放送を終えられて、一安心です。

 藍子とほたるのゆるふわタイム。
 パーソナリティの、白菊ほたるでした。
 それではまた明日、お会いしましょう。
 ばいばーい!

おしまいです
白菊ほたるさんと高森藍子さんに清き一票をお願いします
どうか、夢も奇跡も本物に

参考文献

R・P・ファインマン,大貫昌子訳(2000)『ご冗談でしょう、ファインマンさん』(岩波現代文庫)
田中ロミオ(2003)『CROSS†CHANNEL』(FlyingShine)
田近栄一(2009)『凍った地球 スノーボールアースと生命進化の物語』(新潮選書)

串田アキラ(1981)『太陽戦士サンバルカン』
BITE_THE_LUNG(2006)『太陽』
高森藍子(2016)『青空リレーション』
https://www.youtube.com/watch?v=stU33SK9vKE


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