魔女娘「あたしを弟子にして下さい!」手品師「なんで!?」 (141)

― バー ―

手品師「今、私の右手にはコインが握られております」グッ…

手品師「これがなんと!」パッ

手品師「左手に瞬間移動しちゃいました~!」



シーン…

「でさぁ~!」 「マジでぇ~!?」 「例の件だけどさ……」



店主「ご苦労さん。はい、今日のギャラ」

手品師「どうも……」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1525082697

― 夜道 ―

手品師(来る日も来る日も、手品なんかろくに見てない連中を相手にショーをして……)

手品師(ほとんどスズメの涙みたいなギャラをもらう……)

手品師(どうしてこうなった……。いつまでこんな生活すりゃいいんだ……)

ドンッ!

酔っ払い「……ってえな」

手品師「す、すみません」

酔っ払い「あら? オメー、さっき手品してた奴だろ」

手品師「あ、どうも! 覚えててくれたんですね!」

酔っ払い「ふうん……そうだ!」

酔っ払い「オイ、手品師なら、オレをどうにかして消してみろよ!」グイッ

手品師「な、なにを……! やめろ……!」

酔っ払い「手品師なら手品でどうにかしてみろよ! オラオラァ!」

手品師「で、できるわけない……! た、助けて……!」

「やめなさーいっ!」

手品師「!?」

酔っ払い「な……誰だ!?」

魔女娘「乱暴はやめなさい!」

酔っ払い「なんだ……女じゃねえか。どっから湧いてきやがった!」

酔っ払い「ちょうどいいや! お嬢ちゃん、ちょいと胸でも触らせてくれや!」

手品師「君……逃げろ! 近くの交番に駆け込むんだ!」

魔女娘「大丈夫です!」

魔女娘「吹っ飛べ!」パァァァ…

ドンッ!

酔っ払い「うぎゃ!?」ブオッ

ドザァッ…

酔っ払い「…………」ピクピク…

手品師(なんだ!? 手も触れないで、酔っ払いをふっ飛ばした!)

魔女娘「大丈夫ですか?」

手品師「は、はい……」

手品師「君は今……何をしたんだ? いわゆる、気功……みたいなやつ?」

魔女娘「いえ、あれは魔法です!」

手品師「魔法!?」

魔女娘「あたし、これでも魔女でして……つい最近、魔女の里で見習いを卒業させてもらったんです」

魔女娘「それで、人間の街にやってきたところなんです!」

手品師(なにいってるんだ、この子は……)

手品師(だけど、さっきの技、俺の目でもタネがあるようには見えなかった)

手品師(信じるしかない……この子は本当に魔女なんだろう)

手品師「ありがとう、助けられたよ。なにかお礼をしたいけど……」

魔女娘「いえいえ、お礼なんて! それより実はあたし、あなたにお願いがあって来たんです!」

手品師「お願い? 俺に?」

手品師(なんだろう……?)

手品師(なんたって魔女のお願いだし、まさか生贄になってくれ、とかじゃ……)

手品師(それもいいか……どうせこのまま生きてたって――)

魔女娘「あの……あたしを弟子にして下さい!」

手品師「…………」

手品師「…………?」

手品師「なんで!?」

魔女娘「なぜかというと、あたし、手品が大好きで……手品師になりたかったからです!」

手品師「手品が大好きって、君の方がよっぽどすごいことできるのに……」

魔女娘「お願いします!」ペコッ

手品師「…………」

手品師(本物の魔法を使える子が、手品ができるようになりたい? ……わけが分からん)

手品師(でも、さっきは助けられたわけだし……)

手品師(どうせ暇な時間は多いし、手品を教えることでいい気分転換になるかもしれない)

手品師「……いいとも。君を弟子にしよう」

魔女娘「本当ですか!? ありがとうございます!」

魔女娘「じゃ、じゃあ今から練習を……」

手品師「ちょっと待った! これでも俺は仕事を終えたばかりなんだ」

手品師「悪いけど、明日からにしてくれ」

魔女娘「あっ、そうですね! すみません!」

手品師「えぇと……手品グッズに紙とペンがあったはず……」ゴソゴソ

手品師「明日の昼、この地図の場所に来てくれ。ここが俺の家だから」サラサラ

魔女娘「分かりました!」

魔女娘「それじゃ明日、家にうかがわせていただきます!」サッ

ドヒュンッ!

手品師「…………」ポカーン…

手品師(ホウキに乗って飛んでった……もうあんな遠くまで……)

手品師(世界一の手品師でも、あんなことはできねえだろうなぁ……)

次の日――

― 手品師のアパート ―

手品師「ふあぁぁ……」

手品師(昨日の女の子はいったいなんだったんだろう……)

手品師(もしかしたら、俺は夢でも見てたのかもしれないな)

手品師(でも、記憶はしっかり残ってるし……一応、手品グッズを用意して待ってるか)

手品師「今日の朝飯は、目玉焼きだ」コツッ

パカッ ジュアァァァァ…

昼すぎになり――

手品師(……来ない)

手品師(やっぱりあれは夢だったのかもしれんなぁ)

手品師(あるいはからかわれただけかも。魔女が手品師の弟子になるなんておかしな話だし)



ピンポーン…



手品師「!」

手品師「はい」

ガチャッ…

魔女娘「す、すみません……道に迷っちゃって、遅くなりました」

手品師「あっ……!」

魔女娘「前にも来たことあるのに、人間の街はなかなか複雑で……」

手品師(夢じゃなかった……。ていうか、迷うような場所じゃないんだけど)

魔女娘「それじゃさっそく、稽古をつけて下さい!」

手品師「あ、ああ……分かったよ」

手品師(魔法使いに手品を教える……うーむ、不思議な気分だ)

手品師「じゃあ、簡単なマジックから教えよう」

魔女娘「はいっ!」

手品師「よし、いい返事だ」

手品師「右手にコインを握る……今、右手に入ってる……むむむ、と唱えると……」

魔女娘「むむむ……」

手品師「ほら、左手に瞬間移動にしてる!」パッ

魔女娘「すっごーい!」パチパチパチ

手品師(こんなすごい反応もらったの久しぶりだな……)

手品師「じゃあ、タネを教えるからやってみせてくれ」

魔女娘「え、教えてくれるんですか!」

手品師「当たり前だろ」

手品師「まず、右手にコインを握る」ニギッ

手品師「左手を動かしながら、まだ右手に入ってますよアピールをする」ヒラヒラ

魔女娘「ふむふむ」

手品師「この時、客に見えないように左手にパスするんだ」サッ

魔女娘「あっ!」

手品師「で、あとはいかにも念力でコインを瞬間移動させるような仕草をする」

手品師「あとは、もうとっくに左手に入ってたコインを見せるだけ」

手品師「タネというより、指先の速さや正確さが求められる手品だな」

魔女娘「なるほどー!」

手品師「じゃ、やってみせてくれ。最初はゆっくりでいい」

魔女娘「はいっ!」

魔女娘「ゆっくりと……」ノロノロ

魔女娘「あっ」ポロッ

チャリーンッ

魔女娘「ああ……」シュン…

手品師「初めてなんだから仕方ない。速くやろうとしないで。さ、もう一回だ」

魔女娘「は、はいっ!」

チャリンッ

チャリーンッ

チャリリーンッ

……

……

魔女娘「はぁ、はぁ、はぁ……」

手品師(こりゃかなり不器用だな……)

手品師「もしかして、魔法の習得もかなり手こずったりした?」

魔女娘「なぜそれを!? それも手品ですか!?」ギクッ

手品師(そりゃ分かるって……)

手品師「今日はこの辺にしておこうか」

魔女娘「いえ、まだやれます!」

手品師「焦ることはない。なにも期限が迫ってるって話じゃないんだろ?」

魔女娘「それは……そうですけど」

手品師「なぁに、練習すれば君も必ずできるようになる。手品ってのはそういうもんだ」

魔女娘「……あ、その言葉……」

手品師「ん?」

魔女娘「いえ! なんでもないです! はいっ!」

手品師「…………?」

手品師「それに、今日はもう仕事でね。ショーがあるんだ」

魔女娘「ショー!?」

手品師「だから、君はもう帰っていいよ」

魔女娘「いえ、あたしも行きます!」

手品師「いや、だけど……面白いもんじゃないよ?」

魔女娘「あたしも連れてって下さい! 弟子として! お願いします!」

手品師「そこまでいうなら、いいけど……」

― ショッピングモール ―

手品師「お買い物中の皆さま、これから手品を始めま~す!」

手品師「ぜひ足を止めてご覧になって下さいね!」



シーン…



手品師(いつもこうだ……)

手品師(みんな、ショッピングに夢中でこっちなんか見ちゃいないんだよなぁ)

手品師「ほら、布をこすったら……花が出てきました~!」サッ

魔女娘「わーっ! すごいすごい!」パチパチパチ…

手品師「お、おい……君が驚いてどうすんだ」

魔女娘「もっと! もっとやって下さい! アンコール!」

手品師「ああ……分かったよ」



「なんだ?」 「あそこ、えらく盛り上がってるな」 「ちょっと見てみるか……」

ワイワイ… ガヤガヤ…



手品師「あ……」

手品師「ふぅ~……それなりに客を集めることができたな」

魔女娘「お疲れ様でした!」

手品師「いや、疲れたのは君の方だろ」

手品師(一人で三十人分騒いでくれて……)

手品師「いつもは閑古鳥なんだけど、君のおかげで助かったよ……ありがとう」

魔女娘「?」

魔女娘(なんで、あたしがお礼いわれるんだろ?)

― 手品師のアパート ―

手品師「ほら、出来上がり」サッ

魔女娘「わぁっ、おいしそう!」

魔女娘「手品師さんって、お料理も得意なんですね!」

手品師「昔から手先が器用だったからな。こういうことは得意なんだ」

手品師「テレビでも見ながら、くつろいでてくれ」

魔女娘「では、お言葉に甘えて!」

魔女娘「あ、今日はテレビでマジックの特番があるんですよ! 見ちゃおっと!」

テレビ『さぁ、マジシャンさんの登場です!』

テレビ『ワァァ…! パチパチパチ…!』

テレビ『会場は大盛り上がり! 今や超売れっ子のマジシャンさん、華麗にステージへ降り立ち……』

魔女娘「あ、この人知ってます! 最近よくテレビに出てますよね!」

手品師「…………」ピッ

プツッ…

魔女娘「あっ……?」

手品師「悪いな、同業者の手品はあまり見ないことにしてるんだ」

魔女娘「あ、そうだったんですか。すみません……」

魔女娘「今日はごちそうさまでした!」

魔女娘「また明日から、よろしくお願いします!」

手品師「ああ、当面の目標は、コインの瞬間移動ができるようになることだな」

魔女娘「はいっ!」

ドヒュンッ!

手品師(ホウキで飛んでった……すごい速さだ。あ、でもちょっと危なっかしいな)

手品師(やっぱりまだ理解できん……魔女が手品を習うだなんて)

次の日――

― 手品師のアパート ―

魔女娘「今日もよろしくお願いします!」

手品師「元気がいいな。さっそく練習を始めよう」

魔女娘「はいっ!」

魔女娘「えいやぁぁぁぁぁっ!」ポロッ

チャリーンッ

魔女娘「あぐぅ……」

手品師「そんなに気合入れなくてもいいよ。さ、落ち着いてもう一度」

魔女娘「…………」モタモタ…

手品師「よし、今のは形はできてたぞ。それっぽかった」

魔女娘「ホントですか!?」

手品師「あとは今のを素早く出来るようになれば、人にも見せられる手品になる」

魔女娘「やったぁ! ありがとうございます!」

手品師「ハハ……」

手品師(こりゃ、一人前どころか半人前にするのも手こずりそうだ)

手品師「ところで、君は魔法を使えるんだろ?」

魔女娘「はいっ!」

手品師「魔法を使って、コインを瞬間移動させることはできる?」

魔女娘「できますよ!」

手品師「やってみせてくれる? たとえば、俺の手元に瞬間移動させるとか」

魔女娘「分かりました……えいっ!」パァァァ…

パッ

手品師「うわっ!?」

手品師(俺の手元に……コインが……!)

手品師「うーん、どう見ても君のやったことの方が、手品よりすごいと思うんだけど……」

手品師「なぜ手品を習いたいんだ?」

魔女娘「前にもいいましたが、あたし手品が大好きですから!」

手品師「どうして手品が大好きなの? なにかきっかけがあったの?」

魔女娘「そ、それは……は、恥ずかしいので秘密です! ――すみませんっ!」

手品師「いや、俺こそ変なこと聞いて悪かった。忘れてくれ」

手品師(ま、いいか……)

そんなある日――

― 手品師のアパート ―

手品師「今日の予定は、あるマジックショーに出演することだ」

魔女娘「おお~!」

手品師「といっても前座だがな。俺の後にもっとすごい人が控えてる」

魔女娘「前座でもすごいです。後にはどんな人が?」

手品師「それが……運営側からは知らされてないんだよ。まあ、知る必要もないが……」

手品師(久々の“まともな仕事”だ……腕がなるぜ)

― 会場 ―

ワイワイ… ガヤガヤ…

魔女娘「小さな会場ですけど、かなり人が集まってますね」

魔女娘「もしかして、手品師さん目当てで、皆さん駆けつけてくれたんじゃ!?」

手品師(そんなわけがない。しかし、この人の多さ……)

手品師(メインで出る演者は……まさか!)





「よぉ~、来てくれたのか! “前座”クン!」

マジシャン「久しぶりだな」バサッ

手品師「やはりお前か……!」

魔女娘(あっ、この人は……!)

魔女娘(今一番売れてる奇術師である……マジシャンさん! うーん、マントがかっこいい!)

マジシャン「わざわざ元ライバルの前座になってくれるなんて、本当にありがとう!」

マジシャン「同じ舞台に立つんだ。仲良くやろうぜ。ま、ギャラは何倍も違うだろうが」

手品師「お前の前座だと知ってたら、来なかったよ……」

マジシャン「そりゃそうさ。だからマネージャーに伝えないようにいっておいたんだからな」

魔女娘「…………」ドキドキ…

魔女娘(この二人、知り合いだったんだ……)

手品師「帰る」クルッ

マジシャン「仕事を引き受けておいてドタキャン~?」

マジシャン「おいおい、とうとうプロマジシャンとしての誇りもなくしたのか?」

手品師「冗談だ……手品はちゃんと演る」

マジシャン「そうこなくちゃな! じゃ、しっかり前座をこなしてくれよ!」

マジシャン「前座のレベルが低すぎると、かえって俺が引き立たないからな!」

手品師「……ああ」ギリッ…

魔女娘(こんなに険しい手品師さんの顔……はじめて見た……)

今回はここまでとなります
次回へ続きます

マジックショーが始まった――

パチパチ…

手品師「それでは、手品を始めていきたいと思いまーす!」

手品師「よっと」サッ

手品師「まずは花を取り出させていただきました~!」



パチパチ… パラパラ…



魔女娘(こんなにお客さんがいるのに、拍手がまばらだ……)

司会「どうも、ありがとうございましたー!」

パチパチ… パラパラ…

手品師「……くっ!」

手品師(精一杯やったが……全く盛り上がらなかった……)

魔女娘「手品師さん、お疲れ様でした! 飲み物とタオルです!」

手品師「ありがとう……」



司会「さぁ、それでは皆さんお待ちかね! グレートイリュージョニスト・マジシャンの登場です!」

マジシャン「待たせたね、みんな!」バッ

ワァァァッ!!!

マジシャン「こうして念じると……ほらっ、花束が出た!」サッ

マジシャン「う~ん、いい香りだ」クンクン

マジシャン「ほら、みんなも嗅いでくれよ!」ポイッ



ワァッ!!!

パチパチパチパチパチ…

ヒューヒュー… ピーピー…

「マジシャンさーん!」 「ステキーッ!」 「すっげぇ~! どうやってんだ!?」



魔女娘(やってること自体は、手品師さんとあまり変わりないのに……)

魔女娘(盛り上がり方が全然ちがう……!)

……

手品師「…………」ガックリ

マジシャン「ほら、今日のギャラだ。ありがたく受け取れよ」

手品師「…………」

マジシャン「どうした? あらためて実力差を目の当たりにして、自信喪失しちまったか?」

手品師「だ、誰が……!」

マジシャン「じゃあ、この盛り上がりの差をなんとも思ってないわけか」

マジシャン「なおさらどうしようもないな」

手品師「なんだと……!」

マジシャン「お前さぁ……もう手品師辞めろよ」

マジシャン「忍びないんだよ。かつて競い合い、憧れさえした男が落ちぶれるのを見るのは……」

マジシャン「もう分かってんだろ? 自分にはパフォーマーとしての才能がないって」

マジシャン「いわゆる普通の人生を歩むなら、今の年齢くらいがラストチャンスだ」

マジシャン「俺が今日、前座をやらせたのはだな。お前にそれを思い知らせるためだったんだよ」

手品師「ふざけるな! やめてたまるか!」

マジシャン「しょぼい手品師として、わびしい人生を終えるか……ま、それもお前の勝手だ」

マジシャン「狭いアパートの一室で、埃をかぶった手品道具に囲まれながら」

マジシャン「みじめに哀れに孤独に死んでいくんだろうなぁ……」

手品師「お前……!」

マジシャン「お、怒ったか? まだいっちょ前にプライドだけはあるようだな」

マジシャン「ほら、殴ってみろよ。手品師を引退するいい理由になるぜ」

手品師「…………」ググッ…



魔女娘「――ちょっと!」

魔女娘「いい加減にして下さい!」

魔女娘「ずっと黙ってましたけど……いくらなんでも言いすぎです!」

マジシャン「ん、なんだ君は?」

魔女娘「手品師さんに絡むのをやめないと……」ムクムク…

魔女娘「ガオォォォォォォッ!!!」

マジシャン「わわっ!?」ビクッ

マジシャン(顔だけライオンに!?)

魔女娘「さ、行きましょ!」スタスタ

手品師「あ、ああ……」スタスタ

マジシャン(なんだったんだ、今の……!? マジック……!?)

手品師「さっきのは……魔法か」

魔女娘「はい、顔だけライオンに化けたんです」

手品師(魔法ってのはそんなこともできるのか……ますます手品がみじめになる)

手品師「ありがとう、助かったよ」

魔女娘「いえ……」

手品師「今日はもう疲れただろう。ここで解散しよう」

魔女娘「あ、でもアパートまで……」

手品師「いや、解散しよう」

魔女娘「……お疲れ様でした!」

ホウキに乗る魔女娘――

ヒュー……

魔女娘(うーん……)

魔女娘(あたしが見たところ、手品師さんの腕はマジシャンさんにも負けてなかった)

魔女娘(なのに、お客の盛り上がりは全然違った……)

魔女娘(なんでだろう? 手品師さんとマジシャンさん、何が違うんだろう……)

― 魔女娘の小屋 ―

魔女娘「って、あっ、このところ留守がちだったからすっかりチラシが溜まってる!」

魔女娘「捨てないと……」ガサゴソ…

魔女娘「ん?」



『マジシャンのマジック講座!
 
 宴会やパーティーで使える簡単なマジック、お教えします!』



魔女娘(ふうん、マジシャンさんってこういうこともやってるんだ……)

魔女娘(手品師さんに教えてもらってばかりじゃなく、自分でも自習しなきゃ上達できないし)

魔女娘(これ……受けてみよう!)

週末――

― 教室 ―

ワイワイ… ガヤガヤ…

魔女娘「…………」コソコソ…



マジシャン「本日は大勢の方にお集まりいただき、ありがとうございます!」

マジシャン「短い時間ではありますが、いくつか簡単なマジックをご教授いたします!」

マジシャン「ご家族やお友達にぜひ披露して下さいね!」



パチパチパチパチパチ…

魔女娘(……なかなか勉強になったな)

魔女娘(“簡単なマジック”といっても、どれもあたしにとっては難しいのばかりだったけど)

魔女娘(じゃあ帰ろうかな……)

魔女娘(――あ)



マジシャン「…………」スタスタ



魔女娘(マジシャンさんがいる……!)

魔女娘(ようし!)

魔女娘「あのっ!」

マジシャン「君は! ……手品師と一緒にいた」

魔女娘「手品師さんの弟子、です。今日の講習で、勉強させて頂きました」

マジシャン「あいつに弟子がねえ……完全に腐ってたわけでもなかったか」

マジシャン「あのライオンのマジックは、あいつに教わったの?」

魔女娘「え!? まぁ、なんていうか……アハハ」

マジシャン「企業秘密ってところか」

魔女娘「それで……こちらは秘密なのに、誠に恐縮ですが、教えて頂きたいことがあるんです」

マジシャン「なんだい?」

魔女娘「もしよかったら……手品師さんに足りないものを教えて下さいッ!」

マジシャン「!」

マジシャン「…………」

マジシャン「いいとも」

魔女娘「いいんですか!?」

マジシャン「教えたところで、どうにかできるもんでもないしね」

マジシャン「俺にあって、あいつに足りないもの、それは――」

マジシャン「情熱だよ」

魔女娘「じょうねつ……」

マジシャン「実はね、俺とあいつは同門の同期なんだよ」

魔女娘「“同門”ってことは、一緒に練習したってことですよね?」

マジシャン「ああ、ある師匠のもとでね」

マジシャン「一門の若手の中で、あいつの才能はずば抜けてた」

マジシャン「師匠のマジックをあっという間に吸収し、いち早く一人前になってしまった」

マジシャン「若手大道芸のコンテストでも、毎回のように優勝や入賞してたっけ」

魔女娘(さすが手品師さん!)

マジシャン「だが――」

マジシャン「あいつは伸びなかった。そこで止まってしまった」

マジシャン「おそらく、あいつはあまりに簡単に数々の技をマスターしてしまったため」

マジシャン「マジックに対する情熱をなくしてしまったんだ」

マジシャン「マジックってこんなもんなのか……って」

マジシャン「そういうのって、観客も敏感に感じ取るもんさ」

マジシャン「だから、だんだんとあいつのマジックは客にウケなくなっていった」

マジシャン「当然、あいつはますます情熱をなくす」

マジシャン「そんな奴に仕事を回す人間はいないから、仕事もどんどん減っていく」

マジシャン「あいつは誰よりもマジックの才能があったが――」

マジシャン「誰よりも才能がなかったんだ……」

魔女娘「そ、そんな……」

マジシャン「情熱なんてもんは“取り戻そう!”と思って取り戻せるもんじゃないからね」

マジシャン「こればかりはどうしようもない」

マジシャン「君にこうしてあっさりタネをバラしたのも、どうしようもないって分かってるからさ」

魔女娘「…………」

マジシャン「まあ、これだけ忠告しておこう」

マジシャン「君も手品師として、マジシャンとして生きるなら……あいつから離れるべきだ」

マジシャン「あいつにくっついてても大成はできないよ」

魔女娘「あ、あたしは……離れません! 手品師さんじゃないとダメなんです!」

マジシャン「俺も近く自分の一門を持とうと思っていてね」

マジシャン「弟子入りしたいのなら、いつでも歓迎するよ」スタスタ…

魔女娘「あ、ありがとうございました……」

次の日――

― 手品師のアパート ―

魔女娘「ていっ!」パッ

手品師「まだだいぶぎこちないが、コインが瞬間移動してるように見えた。上達したな」

魔女娘「ありがとうございます!」

魔女娘「…………」ソワソワ…

手品師「ん? どうした?」

魔女娘「あの、実はあたし……週末にマジシャンさんの講習に行って……」

手品師「……情熱が足りない?」

魔女娘「は、はい……」

魔女娘「余計なことかと思ったんですけど……」

魔女娘「あのショーの後の手品師さん、あまりにも元気がなかったから……」

手品師「そうか、あいつにそんなこと聞いたのか……」

手品師「そしたら、ご親切にも教えてくれたってわけか。ふーん……」

魔女娘「きっと、マジシャンさんも手品師さんのことを気にかけて――」

手品師「…………」

手品師「ふざけるなッ!!!」

魔女娘「!」ビクッ

手品師「あいつにそんなこと聞くなんて、本当に余計なことしやがって!」

手品師「とんだ恥かいちまった! 売れてなくて悩んでますって告白するようなもんじゃねえか!」

魔女娘「いえ、そんな……」

魔女娘「だけど、こういうことはちゃんと聞かないと……」

手品師「聞いてどうなるもんでもないだろ! みじめさが増すだけだ!」

手品師「あ~……俺、前からずっと疑問だったんだ」

手品師「なんで、魔法を使えるお前が、俺なんかに弟子入りしたのかって」

手品師「お前さぁ……俺をバカにしたかったんだろ?」

魔女娘「え……」

手品師「お前、多分……魔女の中じゃあまり出来のよくない方なんだろう?」

魔女娘「え、それは、まぁ」

手品師「ほらやっぱりな!」

手品師「前々から、お前の魂胆にはうすうす気づいてたんだ!」

手品師「お前はきっと、魔女として伸び悩んで、スランプだったんだ」

手品師「どうにかして、自信を取り戻したい……」

手品師「だから、明らかに下の存在である手品師である俺に弟子入りするなんてからかって」

手品師「自信を取り戻そうとしてたんだろ?」

手品師「魔女であるあたしはやっぱりすごいんだー……ってな」

魔女娘「そ、そんな……ちが……」

手品師「だいたい、いくらなんでも覚えが悪すぎる」

手品師「魔法よりはるかに簡単なはずな手品をできないなんておかしい!」

手品師「お前からは真剣さが感じられないんだよ!」

手品師「『手品なんて覚える必要ないし~、魔法使えるし~』だなんて内心思ってるんだろ!?」

手品師「手品バカにすんじゃねえよ! この魔女がッ!」

魔女娘「…………!」

タタタッ… バタン…



手品師「ふん、返す言葉もないか! やっぱり図星だったかよ!」

手品師「…………」

手品師「これでよかったんだ……」

手品師(手品師として伸び悩んだ時、俺は自分に何が足りないか、どんな手を使っても探るべきだった)

手品師(下らないプライドなんか捨てて、マジシャンにだって頼るべきだった)

手品師(俺にはどうしてもそれができず、落ちぶれ……俺の出来なかったことをあの子がやってくれた)

手品師(それなのに、あの子が教えてくれた時、俺の心には……)

手品師(『恥をかかされた』『余計なことをされた』という思いしか浮かばなかった)

手品師(本来なら、『ありがとう』『よく教えてくれた』となるべきところなのに……)

手品師(俺には、人に何かを教える資格なんてない)

手品師(いや、人を楽しませる手品師である資格すらない)

手品師(いさぎよく引退しよう……)

今回はここまでとなります
次回へ続きます

手品師(夜になった……もうあの子は帰ってこないだろう……)

手品師(引退すると決めたら、なんだかスッキリしちまったな)

手品師(手品への情熱なんか……とっくの昔になくなってたってことだろう)

手品師(散歩にでも出かけるか……)スタスタ…

手品師(……ん?)



チャリーン…

チャリーン…



手品師(この音は……コイン?)

手品師(ま、まさか!?)

魔女娘「えいっ!」

魔女娘「あっ!」チャリーン

魔女娘「ダメだ……もう一回! どうしても、手品師さんのようにできない……!」





手品師(あいつ……!)

手品師(まさか、アパート飛び出してからずっと練習してたのか!?)

手品師「……おい」

魔女娘「あっ!」

手品師「何やってるんだ?」

魔女娘「えーと、自主トレです!」

魔女娘「さっき手品師さんを怒らせてしまったから、もっともっと練習しようと……」

手品師「…………」

手品師「あんだけなじられて、まだ手品をやろうだなんて……バカだな」

魔女娘「す、すみません! あたし、本当にバカで……。魔女の里でもいつも……」

手品師「なんでだ? なんでそんなに手品が好きなんだ?」

手品師「それに、手品を習うなら、もっといい人がいくらでもいるだろうに……」

手品師「さっきのやり取りで、俺がろくでなしだってのは分かっただろうに……」

魔女娘「それは……」

魔女娘「あたし、手品師さんに救われたことがあるからです」

手品師「え……!?」

魔女娘「魔女の里では見習い時代にも、人間の街で修行するしきたりがあるんです」

魔女娘「色んな経験をした方が、魔力も伸びるし、魔法も上達しますからね」

魔女娘「だけど、あたしは全然うまくいきませんでした。そんな時――」

――

――――

魔女娘『はぁ~、里を出たはいいけど、魔法がちっとも上達しない……』

魔女娘『このままじゃ、またみんなにバカにされる……』

手品師『ん?』

手品師『君、そんなところに座って、どうしたんだい?』

魔女娘『(人間の男の人!)あ、いえ……なんでもないです!』

手品師『そうか……よかったら、俺の手品を見てくれないか?』

手品師『今日もいくつか覚えたから、誰かに披露したくてウズウズしてたんだ』

魔女娘『手品……?』

魔女娘『まぁ、いいですけど』

手品師『ほらっ、猫のぬいぐるみがライオンのぬいぐるみになりました~! ガオーッ!』

魔女娘『わっ、すごーい!』パチパチパチ

魔女娘『魔力は感じられないのに……これは魔法なんですか?』

手品師『いや、魔法じゃないよ。これは手品さ』

魔女娘『これが……手品……』

手品師『もし、魔法というものがこの世にあるんなら、多分それは選ばれた人しか使えないんだろう』

魔女娘『その通り、です』

魔女娘(魔法を使えるのは、魔女の里に生まれた魔女だけ……)

手品師『だけど、手品は違う!』

手品師『手品にはタネがある。だから練習すれば誰だってできるようになる』

手品師『もちろん、手品によっては本当に難しいものもあるし、個々の素質の差もあるけどね』

魔女娘『あたしでも……できるようになりますか?』

手品師『もちろんだとも!』

手品師『もし、君も……何かができないと壁にブチ当たった時があったら、練習あるのみだ』

手品師『そうすれば、きっとできるようになる!』

魔女娘『ありがとうございます! あたし、おかげで元気が出ました!』

手品師『それはよかった』

――――

――

手品師「……そんなことが」

手品師(そういや、そんなことがあったって記憶はある)

手品師(あの頃はまだ、俺も落ちぶれてなく、手品が楽しかった頃だ……)

魔女娘「おかげであたしは、魔法の練習に身が入るようになり」

魔女娘「里に戻った後での試練で、ようやく見習い魔女を卒業できたんです」

魔女娘「そして、もう一度人間の街にやってきた時は――」

魔女娘「絶対手品師さんに弟子入りしよう、手品ができるようになろうって決めてたんです」

魔女娘「だから……あたしは手品が好きなんです。手品師さんじゃなきゃ、ダメなんです」

手品師「…………」

手品師「ごめんっ! ……本当にごめんっ!」

魔女娘「え!?」

手品師「君が本気で手品に取り組んでるってのに、俺は……! ずっと君を疑ってて……!」

手品師「さっきはあんなひどいことを……!」

手品師「手品をバカにしてたのは君じゃない……! 俺の方だ!」

魔女娘「いえ、そんな! あたしだって悪いんですから!」

手品師「さっき猛練習してる君を見て、俺はかつての自分や、修行時代のマジシャンを思い出したよ」

手品師「君のおかげで、俺も少しは情熱ってもんを取り戻せたかもしれない」

魔女娘「手品師さん……」

手品師「これからは君のことを、本気で指導していくぞ! 覚悟はいいな!?」

魔女娘「はいっ!」

手品師「いい返事だ!」

魔女娘「それじゃあ……」

魔女娘「これからは手品師さんのこと、先生って呼んでもいいですか?」

手品師「先生、か。ちょっと照れ臭いけど」

手品師「いいとも!」

魔女娘「やったぁ!」

手品師「う~ん、手品をやりたくてウズウズしてきた」

手品師「さっそくアパートに戻って、特訓だ! 魔女娘!」

魔女娘「はいっ、先生!」

― ショッピングモール ―

手品師「さぁさぁ! 手品を始めるよ~!」

魔女娘「見ないと損ですよ~!」



ワイワイ… ガヤガヤ…

「面白そうだな」 「ちょっと見ていこうか」 「いつもより雰囲気いいね」



手品師「破いた新聞紙が……はい、元通りっ!」サッ

魔女娘「うわっ!? どうなってるの!?」



オォ~……!

― 路上 ―

魔女娘「ううう……緊張する……」

手品師「路上でやるなら、とにかく目立たなきゃな。いつも以上に騒いでくれよ」

魔女娘「はいっ!」

手品師「さあさあ通行人の皆さん! 疲れた体にちょっとした手品はいかがですか~?」

手品師「さぁて、袖から栄養ドリンクでも出すか」サッ

魔女娘「キャーッ! すっごーい! タウリンたっぷり!」



ザワザワ… ワイワイ…

― バー ―

手品師「手に持ってる100円玉が、なんと……」

手品師「あららっ! ほら! 10000円札に!」パッ

手品師「これがホントにできりゃ、手品師なんかやってないんですけどねえ」



オォ~……! ハハハ…

「へぇ~、すごいもんだ!」 「楽しそうに演じてるな、あの人」 「いいぞーっ!」



店主「ご苦労さん。おかげで盛り上がったよ。次回も期待してる」

手品師「ありがとうございます!」

酔っ払い「……おい」

手品師「はい?」

手品師(ゲ、いつぞや俺に絡んできた……)

酔っ払い「さっきのあんたの手品、すごくよかったよ」

手品師「え……」

酔っ払い「前までは、どこかつまんなそうに手品してたから、正直ムカついてたんだが」

酔っ払い「今日のあんたは本当にすごかった……」

酔っ払い「まるで、子供の頃に戻ったように、手品を楽しめたよ」

酔っ払い「この前は……絡んだりして申し訳なかった!」

手品師「こちらこそ……どんなお酒より、酔える言葉をありがとうございます」

手品師(前までの俺は、小さな仕事に対してはふてくされた態度を取っていた……)

手品師(だけど今は、どんな仕事も楽しい! 手品をすること、見られることが楽しい!)

手品師(これも、魔女娘のおかげだ……)

……

― マジシャンの事務所 ―

マネージャー「……マジシャンさん」

マジシャン「なんだ?」

マネージャー「以前、前座に採用したあの手品師なのですが……」

マジシャン「とうとう引退したのか?」

マネージャー「いえ……このところ少しずつ評判を上げているようです」

マネージャー「地方紙ですが、新聞にも取り上げられていて……」バサッ

マジシャン「…………」

マジシャン「あの子、だな。俺も余計なことをしてしまったよ」

マジシャン「マネージャー」

マネージャー「はい」

マジシャン「俺が若手ナンバーワンといわれて数年……頂上からの景色ってのは実にいいもんだ」

マネージャー「は……?」

マジシャン「俺はこのまま独走を続けたい。俺を脅かす、強力なライバルなんか必要ない」

マネージャー「…………!」

マジシャン「俺のいいたいことが分かるな?」

マジシャン「ヤツは……俺の手でツブす!」

― 上空 ―

ビュオッ!

魔女娘「ふんふ~ん」

魔女娘(今日も先生のお手伝いをして、楽しかったな~)

「ずいぶんと楽しそうだこと」

魔女娘「はいっ、とても楽しいです!」

魔女娘(――って誰!? 今あたし、ホウキで空にいるのに!?)

金髪魔女「お久しぶり、半人前さん」

魔女娘「あっ……せ、先輩!」

魔女娘「どうしてここに……!?」

金髪魔女「出来の悪い後輩が、人間の街で男と遊んでるって聞いたから駆けつけてやったのよ」

金髪魔女「てっきり美少年アイドルとか、大会社の社長なんかをゲットしたのかと思ったら……」

金髪魔女「まさか、あんな冴えない男と仲良くしてるだなんてねえ」

魔女娘「先生は冴えない男なんかじゃありません!」

金髪魔女「ふん、金もない、地位もない、魔力の欠片もない男に、ずいぶん熱を上げてるじゃないの」

金髪魔女「いい? 魔女というのは、選ばれた人種なの。この世で一番の存在なの」

金髪魔女「だから男も最高クラスの男を選ばなきゃいけないわけ」

金髪魔女「あなたみたいなことされると、魔女全体の品位が落ちてしまうのよねえ」

魔女娘「ううう……」

魔女娘「あまり先生をバカにすると、先輩といえど許しませんよ!」

金髪魔女「あら、怒ったの? どうするつもり?」

魔女娘「風よ!」パァァァ…

金髪魔女「風よ!」パァァァ…



ビュオオオオオオッ!!!



魔女娘「きゃあああああああっ!」グルグルグルッ

金髪魔女「血迷った? 魔法で私に敵うわけないでしょ? 見習いを終えたばかりの半人前のくせに……」

魔女娘「ううっ……」ヨロヨロ…

金髪魔女「仮にも魔女ともあろう者が、あんなクズ男にほだされちゃって……」

金髪魔女「これは先輩として放っておくわけにはいかないわね」

金髪魔女「あなたの“先生”とやらがどれほど大したことない存在か、私自ら見定めてあげる!」

金髪魔女「オーッホッホッホッホ……!」



魔女娘(どうしよう……)

魔女娘(とんでもないことになっちゃった……)

今回はここまでとなります
次回へ続きます

はえ~読んでて、面白いなぁ。失礼ですが
書く時、どういうことを考えて書いてますか?

翌日――

― 手品師のアパート ―

手品師「来たか。入ってく――」

魔女娘「こんにちは……先生……」

手品師「? いつもの元気がないけど、どうした?」

魔女娘「今日は……連れがおりまして」

金髪魔女「うふふっ、間近で見るとますます大したことないわね。とんだダサ男だわ」

手品師「……この人は?」

魔女娘「あたしの……先輩にあたる人です」

手品師(う~む、派手な化粧に派手な衣装、魔女娘とは全然ちがうタイプの魔女だな……)

手品師(キレイはキレイだが、苦手なタイプだ……)

手品師「俺は魔女娘の手品の師匠です。よろしく」

金髪魔女「ふん、人間の男と挨拶する趣味はない」

手品師(なんだよ、この人……)

手品師「あの、なにかご用ですか?」

金髪魔女「手品とかいう子供騙しを、私に見せてみなさいな」

手品師「…………」

金髪魔女「この半人前をたぶらかした、下らないお遊戯を見せろといってるのよ」

金髪魔女「まあ、魔女の中でも特にエリートといわれる私を満足させることは」

金髪魔女「到底かなわないでしょうけどね」

手品師「たしかに、本物の魔法に比べたら手品なんてお遊びみたいなものでしょうね」

手品師「俺にはホウキで空を飛ぶことも、動物に化けることもできませんから」

金髪魔女「あら、よく分かってるじゃない」

金髪魔女「なんだったら、やめてもいいわよ?」

金髪魔女「そうすれば、恥をかかなくて済むしね」

手品師「いえ、やれといわれたら手品をしてみせるのが、手品師というものです」

金髪魔女「!」

手品師「さっそく手品をご覧に入れましょう!」

魔女娘「先生……!」

金髪魔女「いいわ……ただし、もしつまらなかったら魔法でオシオキしてあげる!」

魔女娘(先生が先輩の魔法を受けたら、ひとたまりもない……!)

魔女娘(いざとなったら、あたしが先生を守る!)グッ…

手品師「まずは小手調べ……コインを瞬間移動させます」

金髪魔女「ふん、魔力も使わず、そんなことできるわけないわ」

手品師「右手に握ったコインが……」ススッ…

手品師「左手へ!」パッ

金髪魔女「えっ!?」

金髪魔女「すっごーい! なんで!? どうなってるの!?」

手品師「え?」

魔女娘「え?」

金髪魔女「あっ……」

金髪魔女「ちょっと待って! 今のなし! もっと他のことをしてみなさい!」

手品師「は、はい……」

手品師「花を出します」パッ

金髪魔女「げぇっ!?」



手品師「あなたが持ってるトランプは……ハートのエースですね?」

金髪魔女「なんで分かったの!?」



手品師「袖から国旗を……」スルスル…

金髪魔女「どうなってんの!? 魔力は感知できないのに! 信じられない!」

手品師(魔女娘以上のリアクション女王だな……この人)

手品師「……こんなところでしょうか」

金髪魔女「…………」

魔女娘「先輩、先生の手品はいかがでした?」

金髪魔女「……まあまあね。魔女のパートナーに選ばれるだけのことはあるようだわ」

手品師「ど、どうも……」

金髪魔女「だけど、調子に乗らないことね! また手品を見に……いえ、監視に来てあげるから!」

ビュワオッ!

手品師(すごい速さで飛んでった……!)

手品師「嵐のような人だったな……」

魔女娘「すみませんっ! 先輩がご迷惑をおかけして……」

手品師「いや、いいけどね。あれだけ驚かれると気分もいいし」

魔女娘「性格は高飛車ですが、魔女としては本当にすごい人なんです」

魔女娘「あたしたちぐらいの年齢の魔女では、ダントツな実力の人で……」

手品師(それは去り際のあのスピードを見ても分かる)

手品師「とにかく、厳しい先輩からオシオキを受けずに済んでよかった」

魔女娘「あたしもほっとしてます……」

手品師「さ、気を取り直して、今日の練習を始めよう」

魔女娘「はいっ!」

それからしばらくして――

― 手品師のアパート ―

ピンポーン…

手品師「はい」

マネージャー「手品師さん、ですね?」

手品師「そうですが……。あなたは……たしかマジシャンの……」

マネージャー「はい、マネージャーをさせて頂いております」

手品師「どのようなご用件でしょうか?」

マネージャー「今度マジシャンが大ホールで、今までで最大規模のショーを行います」

マネージャー「それにあなたも出演して頂きたいのです」

手品師「仕事の依頼ですか。ありがとうございます」

手品師「前のように、前座でということですね?」

マネージャー「いえ……違うんです」

マネージャー「あなたにはいわゆる“大トリ”をやって欲しいのです」

手品師「…………!?」

手品師「私が最後? つまり、マジシャンが私の前座を?」

マネージャー「そういうことです」

手品師「…………」

手品師「分かりました、引き受けましょう」

マネージャー「……ホントですか!」

手品師「ただし、一つだけ条件があります」

マネージャー「なんでしょう?」

手品師「それは――」



…………

……

魔女娘「ええっ!? マジシャンさんのショーの大トリに!?」

魔女娘「すごいじゃないですか! やっぱりマジシャンさんは、先生を認めてたんですよ!」

手品師「いや、そうじゃないだろう」

手品師「あいつはこのショーで、俺のことを完全に叩き潰すつもりだ」

魔女娘「ど、どういうことです?」

手品師「前回のショーのことを思い返してみるといい」

手品師「もしも、大スターのマジシャンが最初にマジックをやって、客を大いに沸かせた後」

手品師「無名もいいとこの俺が手品をやったらどうなるか……」

魔女娘「あっ……」

手品師「当然、客はシラける。席を立つ人間も続出するかもしれない」

手品師「マジシャンのショーを白けさせたということで、俺の評判は地に落ちるだろう」

手品師「そうなると、俺に二度と大きな仕事が回ってくることはなくなる……」

手品師「いや、小さな仕事だってどうなるか……」

魔女娘「そ、そんな……」

魔女娘「だったらこの話、今からでも断った方がいいんじゃ……」

手品師「いや、断らない」

魔女娘「!」

手品師「たとえ、今俺のいったことが現実となるにしても、俺は逃げない」

手品師「きっちり仕事をやり切ってみせる……手品師として!」

魔女娘「先生……!」

手品師「そして、もう一つ。今回のショー、魔女娘にも出演してもらう」

魔女娘「え……」

魔女娘「え、え、え、え、え~~~~~~~~~~!?」

魔女娘「あたしもですか!?」

手品師「ああ、こんな大舞台めったにない。デビューにはうってつけだろ?」

魔女娘「そうですけど、あたし、まともにできる手品なんてまだ……」

手品師「時間はないが、なんとか仕上げるんだ」

魔女娘「先生ったらスパルタ~!」

魔女娘「いえ、もしかしたら一人じゃ心細いんじゃ……」ジロッ

手品師「バレたか! アッハッハ! ま、弟子なんだから巻き込まれてくれ!」

魔女娘「分かりました、巻き込まれてあげますよ!」

手品師「これでもし、客が全員帰っても俺は寂しくないわけだな!」

魔女娘「そしたら、あたしも帰りますからね!」

魔女娘(分かる……)

魔女娘(今の先生が、とても生き生きしてるのが……)

……

……

マジシャン「引き受けた? あっさりと?」

マネージャー「はい……意外でした。ギャラを吊り上げることもありませんでした」

マネージャー「ただし、弟子を一人参加させるとのことですが」

マジシャン「あの子か……。才能はあるようだが、とても大舞台をこなせるようには見えなかった」

マジシャン「大した助けにはならないだろ」

マジシャン「せいぜい腕を磨いてこい。かつての仲間、かつてのライバル」



マジシャン「悔いの残らないよう、大舞台で引導を渡してやる……!」

ショーの前日――

― 手品師のアパート ―

手品師「今日はこんなとこだろう」

魔女娘「ありがとうございました!」

魔女娘「明日は……頑張りましょうね!」

手品師「ああ」

手品師「魔女娘、君には本当に感謝している」

手品師「昔の俺だったら、おそらく今、こんな清々しい気分にはなれなかった」

手品師「大舞台に怯えて、こんな無茶な話を持ち込んだマジシャンを恨んだりしていただろう」

手品師「だけど今の俺は、明日が楽しみでしょうがないんだ!」

魔女娘「あたしもです、先生!」

手品師「それと一つだけ約束して欲しい」

魔女娘「はい?」

手品師「明日もし、俺の舞台が悲惨なことになっても、魔法によるヘルプは絶対しないで欲しい」

魔女娘「!」ギクッ

手品師「やっぱり……いざという時は、と考えてたか」

魔女娘「す、すみません」

手品師「君が魔法を使えば、ショーはうまくいくかもしれない」

手品師「手品じゃ絶対できないことをやれるし、観客だって操れるだろうからな」

手品師「だけど、それをやられてしまったら、俺の手品師としてのプライドはズタズタだ」

手品師「約束してくれ」

魔女娘「分かりました! 明日は絶対魔法を使いません!」

手品師「とはいえ、今は別だ」

魔女娘「へ?」

手品師「ここらで一発、景気づけに君の魔法を見せてくれないか?」

魔女娘「分かりました……じゃあ、とっておきのやつを!」

魔女娘「それっ! 星空よっ!」パァァァ…



キラキラキラ… キラキラキラ…



手品師「星空が生まれた……なんてキレイなんだ」

手品師「魔法ってのはやっぱすごいな!」

魔女娘「ありがとうございます……えへへ」

手品師「だけど、明日はこの星空に負けないような、かっこいい手品をしてみせる!」

魔女娘「はいっ! 先生ならやれます!」

― アパートの上空 ―

金髪魔女「うっふっふっ……」

金髪魔女「魔女娘ったら、あの魔法を使えるようになってるなんて、少しは腕を上げたようね」

金髪魔女「手品の練習のために意識を集中することが、魔力の増強につながってるのかもね」

金髪魔女「それにしても、大ホールでのショーか……なかなか面白いことになってるじゃない」

金髪魔女「この私も楽しませてもらうわよ」

今回はここまでとなります
次回へ続きます

>>83
あまり意識したことはないですが、
「こんな奴らがこの世のどこかにいたらいいなぁ」というようなことは頭にあると思います

当日――

― 大ホール ―

ワイワイ… ガヤガヤ…

「マジシャンさんのマジック、超楽しみ~!」

「なんかもう一人いるらしいけど、そっちはどうでもいいな」

「ほら、マジシャンのグッズ、こんなに買っちゃった! DVDに写真集に……」

ザワザワ… ガヤガヤ…



手品師「マジシャン目当ての客ばかりだな……」

魔女娘「むう……悔しいですね」

手品師「この方が気楽でいいさ。さ、控え室に行こう」

魔女娘「はいっ!」

控え室――

魔女娘「緊張してきました~……! 見て下さい、手の汗がすっごい!」ベットリ…

手品師「…………」

魔女娘「先生はさすがですね。すっごく落ち着いてます!」

手品師「そんなことない。心臓がバクバクいってるよ」

手品師「なにしろ今までの人生で一番といっていい大舞台だからな……」





金髪魔女「あら、ずいぶん情けないこといってるのね」

魔女娘「先輩!?」

金髪魔女「マジックショーとやらを見物に、飛んできたのよ」

手品師「警備もいたはずですが、どうやってここに?」

魔女娘「まさか、乱暴したんじゃ……」

金髪魔女「そんな二流魔女みたいなことするわけないでしょ?」

金髪魔女「魔法を使って、壁をすり抜けただけよ」スルッ

手品師「うわっ!」

魔女娘「あたしも覚えてない高等魔法!」

手品師(これから手品をやるって時に、こんなすごいの見せないで欲しい……)

金髪魔女「あなたたちがどんな手品を見せてくれるか、せいぜい楽しませてもらうわよ」

マジシャン「取り込み中、失礼するよ」

手品師「!」

魔女娘「マジシャン……さん」

マジシャン「弟子が一緒とはいえ、よく逃げずにやってきた……とりあえず褒めてやるよ」

手品師「ありがとう」

マジシャン「だが、今日お前は致命的な恥をかくことになる、と予言しておこう」

マジシャン「これが俺のマジックだ!」バサッ

手品師「…………」

金髪魔女「なんなのこいつ? 私が黙らせて――」

魔女娘「わーっ、先輩! ダメ! ダメ!」

手品師「たとえ、どんな恥をかくとしても、俺は逃げない」

手品師「自分の手品をきっちりやり通す……手品師としてな」

マジシャン「ふん……」

マジシャン「そうやって開き直って、どっしり構えてられるのも今のうちだ」

マジシャン「まずは俺がきっちり場を盛り上げてやる」

マジシャン「せいぜい、せっかく俺が盛り上げた場を冷まさないようにしてくれよ」

スタスタ…

金髪魔女「ずいぶんと高飛車な男ね! 私、ああいうタイプの人間が一番嫌いよ!」

魔女娘「先輩がいうかなぁ」ボソッ

金髪魔女「なにかいった?」ギロッ

魔女娘「いえいえっ!」

金髪魔女「いったわよね」パァァァ…

魔女娘「あだだだっ! 魔法で頬をつねらないでっ!」ギュゥゥゥ…

金髪魔女「それじゃ私も行くわ。観客席へね」

魔女娘「このショーのチケットは予約開始と同時に即完売したのに、よくチケット取れましたね~」

金髪魔女「客の一人を魅了してやったのよ。気前よくチケットをくれたわ」

手品師(やりたい放題だな、この人)

金髪魔女「この私にここまでさせたんだから、失望させたら怒るわよ」

ビュオアッ!

手品師「消えた……」

手品師「さて、俺たちもマジシャンのマジックを見ようか。これも勉強だ」

魔女娘「はいっ!」

― 舞台 ―

ワアァァァァァ……!

マジシャン「今日は一番手で登場、マジシャンです!」

マジシャン「順番間違えた? そんなことないない、今日はいきなりマジックをやりたかったんだ!」

マジシャン「さっそく始めていくよ!」

マジシャン「まずはみんなに、綺麗なバラをプレゼントだ!」パァッ



ワァァッ!!!



金髪魔女「なんてこと! この男も魔力を使わず、こんなことができるの!?」

金髪魔女(う~む、人間の男ってあなどれない……)

魔女娘「前回の時より、盛り上がりがすごい……! 新しいマジックも増えてる……!」

手品師「さすがマジシャンだ」

手品師「あいつは、自分は俺に劣るだなんていってたらしいが、そんなこと全くない」

手品師「あいつの実力は、これからのマジック界を引っぱっていくには十分すぎる」

魔女娘「そうですね……」

魔女娘「あたしも今は、マジシャンさんの凄さがもっともっと分かります」

手品師(だけど、俺も負けるつもりはない……勝負だ、マジシャン!)

マジシャン「みんなのおかげで、無事脱出できたよ!」バサァッ

マジシャン「どうもありがとーっ!」



ワァァァァァ……!

司会『奇跡を起こしてみせたマジシャンさんに、皆さま今一度、大きな拍手をお願いします!』

パチパチパチパチパチ… パチパチパチパチパチ…







手品師「さ、俺たちだ。行くぞ!」

魔女娘「はいっ!」

司会『続きまして、手品師さんの上演です!』


パチパチ… パチパチ…

「手品師って?」 「誰それ?」 「無名の新人かぁ~?」 「つか、もう帰ろうぜ」



金髪魔女(こいつら……会場ごとまとめて吹き飛ばしてあげたいけど)

金髪魔女(あの二人に免じて、やめといてあげるわ!)

手品師「さぁ、これより手品をご覧にいれます!」

手品師(出し惜しみは無しだ! いきなりクライマックス用の手品でいく!)

手品師(昨日の魔女娘からヒントを得て、急きょ用意した仕掛けを作動させる!)

手品師「観客の皆さま、まずは舞台に星空を作ります!」サッ



キラキラキラキラキラキラ…



オォ~……!



手品師(よし……! 電球がうまく作動してくれた!)

魔女娘「うわぁ……!」

手品師「?」

魔女娘「すっごいです! どうやったんですか、これ!?」

手品師「手に忍ばせてるスイッチで――って、聞くな! お前が驚いてどうする!」



どっ!!!

クスクスクス… ハハハハハ…

魔女娘「す、すみません!」

手品師「いやいや、つかみはオーケーだ。さすが俺の弟子!」

魔女娘「はいっ!」

手品師「さぁ、参ります!」

手品師「ここからは手品師の愉快な手品を、皆さまにご覧いただきましょう!」バッ

手品師「まずは……猫のぬいぐるみが……ライオンのぬいぐるみに!」

手品師「ガオーッ!」バッ



オォ~……!

「この人、結構すごくないか?」 「ああ……テクはマジシャンにも負けてない」 「おもしろーい!」

手品師「ワン、ツー、スリー!」バッ

手品師「はいっ、助手が持っていたリンゴがバナナに!」

魔女娘「あれぇぇぇぇぇ!?」

ワァッ!!!



魔女娘「ぶっ! あれぇ、ジュースが青汁になってる! ……まっずぅ」

手品師「もう一杯いるか?」

魔女娘「いりませんよ!」

ハハハハ… ハハハハハ…




手品師「私は魔法使いじゃないので、ホウキに乗って飛ぶことはできませんが……」

手品師「ホウキを浮かべることはできるんです!」フワァ…

ワアァァァァァ……!!!

金髪魔女「やるじゃない、二人とも!」

金髪魔女「ほら、あの助手いるでしょ! 私の後輩なのよ!? すごいでしょ!」

観客「は、はぁ……」

金髪魔女「さっきの奴に負けてないわよ、二人ともーっ!」

観客(さっきからこの人、うるさすぎる……!)

手品師「皆さん、楽しんで頂けましたでしょうか!」

手品師「最後に……私の弟子が、練習の成果を披露いたします!」

魔女娘「はいっ!」

魔女娘「コインを右手から左手に瞬間移動させます!」

魔女娘「右手のコインが……あらっ」ポロッ

チャリーンッ…

魔女娘「あっ……」

魔女娘(しまった……! 最後の最後で失敗しちゃった……!)

手品師「大丈夫!」

魔女娘「!」

手品師「あれだけ練習したんだ……必ずできる!」

魔女娘「先生……!」

手品師「さあ、気を取り直してもう一回! ほらっ、コインだ!」ピンッ

魔女娘「はいっ!」

魔女娘「右手のコインが……左手に!」パッ



ワアァァァァァ……!

パチパチパチパチパチ…



手品師「皆さん、ありがとうございました!」

魔女娘「ありがとうございましたー!」



ワアァァァァァ……

…………

……

マジシャン「…………」

マネージャー「マジシャンさん……」

マジシャン「あいつのところに……行ってくる」

マネージャー「では私も――」

マジシャン「ついてこなくていい。一人で行きたいんだ」

スタスタ…

控え室――

金髪魔女「ブラボー!」パチパチパチ

金髪魔女「二人とも! とてもよかったわよ! あの高飛車マジシャンに負けてないわ!」

魔女娘「ありがとうございます!」

手品師「ありがとう」

金髪魔女「そうだ! 祝福に黄金でも出してあげましょうか?」

手品師「いや、それはちょっと」





マジシャン「……手品師」

手品師「マジシャン……」

マジシャン「…………」

マジシャン「今回のショーは……俺の完敗だった」

マジシャン「まさか、この俺が……“前座”にされてしまうとは思わなかったよ」

マジシャン「みじめなもんだ。全力で叩き潰そうとして、返り討ちにされるなんてな」

マジシャン「いや、私怨でショーの順番を操作した時点で、俺はマジシャン失格だな」

手品師「おい、なにいって……」

魔女娘「あのー……」

マジシャン「ん?」

魔女娘「これも全て、マジシャンさんのマジックだったんですよね?」

マジシャン「え?」

魔女娘「昔のライバルである先生を焚きつけるために、色々と仕掛けを施したんですよね?」

魔女娘「きっとそうです! マジックだったんです!」

魔女娘「だって先生とマジシャンさんは、これからもお客を楽しませるんだから!」

マジシャン「…………」

マジシャン「……その通りさ!」

魔女娘「やっぱり!」

マジシャン「ライバルを復活させるマジックは大成功というわけだ!」

マジシャン「手品師! 俺たちの勝負はまだまだ続く! また会おう!」バサッ

手品師「あ、ああ」

マジシャン「ハーッハッハッハッハ!」

マジシャン(んなわけねーだろ! うわぁぁぁぁぁん!!!)タタタタタッ




魔女娘「ほら、やっぱりあの人なりに先生を気遣ってたんですよ!」

手品師「そうかなぁ……」

金髪魔女「…………」コソッ

マジシャン「まったく……あの弟子の子には調子を狂わされるよ」

マジシャン「ここは潔く引いてやる」

マジシャン「だが、次は負けん! 負けないからなぁぁぁっ!!!」タタタタタッ…



金髪魔女(ふうん、高飛車なだけかと思ったら、なかなか男らしいところもあるじゃない)

金髪魔女(派手なマジックも、私好みだったし……)

金髪魔女「私もいいオトコ見つけちゃったかも……♪」

手品師「俺の無茶ぶりに応えて、本当によくやってくれた。ありがとう」

魔女娘「いえ、そんな……最後に失敗しちゃって」

手品師「だけど、もう一回やったら大成功したじゃないか」

手品師「日頃の練習はウソをつかなかったんだよ」

魔女娘「あたし、嬉しいです……」

金髪魔女「そうよ~」ヌッ

魔女娘「きゃっ!」

金髪魔女「それに、昨夜の魔法を見たけど、あなた魔女としてもだいぶ成長したじゃない」

魔女娘「先輩も……応援ありがとうございます!」

金髪魔女「あなたはもう……立派な魔女よ!」

手品師「そして……立派な手品師だ!」

魔女娘「……はいっ!」



………………

…………

……

― 手品師のアパート ―

プルルルル…

手品師「はい、もしもし」

マジシャン『俺だ』

手品師「なんだ、またショーに出ろってか?」

マジシャン『いや、最近変な女につきまとわれて困ってるんだよ』

マジシャン『すごく美人でスタイル抜群なんだけど、勝手に家に押しかけてきてさ……』

マジシャン『俺の住所なんてファンも知らないのに、どうやって調べたんだか……』

手品師「そういうのは警察に相談しろよ」

マジシャン『いや、だけど話してみるとすごくいい女で、俺のマジックを喜んでくれてさ……』

手品師「自慢話なら切るぞ」

マジシャン『あっ、おいっ、待――』

手品師「……ふう。なんなんだ、いったい」

魔女娘「おはようございます!」

手品師「おはよう」

魔女娘「今日は遊園地での営業です! しっかりお客を楽しませましょうね!」

手品師「ああ」

手品師(しかし……昨日遅かったから寝坊しちゃって、時間が微妙なんだよな)

手品師(今からだと、相当うまく電車を乗り継がないと、間に合わないかも……)

手品師「あのさ……」

魔女娘「はい?」

手品師「今日は魔女娘のホウキに俺も乗せて、ひとっ飛びってわけにはいかないか?」

魔女娘「あれ、いいんですか?」

魔女娘「手品のことに関しては、魔法には頼らない主義だったんじゃ……」

手品師「う!」

手品師「いや、今日だけ! あくまで今日だけだから!」

手品師「それに、遅刻しちゃったら、みんなに迷惑かかるし……」

魔女娘「ふふっ、分かりました!」

魔女娘「じゃあ乗って下さい! しっかりつかまってて下さいよ!」

手品師「助かる!」

魔女娘「またがりましたか?」

手品師「こうでいいのかな……? 正直あまり乗り心地は……」

魔女娘「それじゃ、しゅっぱーつっ!」

ドヒュンッ!

魔女娘「遊園地へひとっ飛びーっ!」

手品師「わ、わわっ! あの、もうちょいスピード落として……!」



ビュゥゥゥゥゥン…







~ おわり ~

これで完結となります
レスくださった方々、大変励みになりました
本当にありがとうございました!

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom