剣と魔法と運送業 (858)

-5:30 西の王国-

-王立物流協会 事務所-

男「おはようございます」ガチャ

点呼係「おはようございまーす」

先輩「お、男か」

男「あ、先輩」スッ フーッ…

<カチッ ピンポーン

点呼係「はーい5時30分、今日は特に脇見運転注意でーす」

男「先輩もこれから出勤ですか?」

先輩「今帰ってきたとこだ…んー」ノビーッ

男「夜運行だったんですね、お疲れ様です」

先輩「お前は今日は?」

男「西の街へ行きます。夕べ積み込みしといたんでこのまま出発です」

先輩「そか。気ぃつけてな」

男「はい、じゃ行ってきます」ガチャ

点呼係「あっ男さん伝票忘れてますよー!」ペラッ

男「いけね」




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男「さて、今日も行きますか」バタンッ

キュルキュル…ブォン!

男「ナビ起動っと」ポチ

ブゥン…

[精霊ナビゲーションシステムヲ起動シテイマス…]

クルンッ…パッ!

ナビ『おっはよーさん♪』ピョンッ

男「おはよう。今日も元気だな」

ナビ『あったりまえやん!ナビちゃんはいつでも元気やで♪』ニシシ

ナビ『ほんで?今日はどこ行くん?』

男「今日の運行は、王立物流協会の倉庫(ここ)から西の街へ武器防具の搬入だ」

男「荷物はもう積み込んであるからこのまま出発する。所要時間出せるか?」

ナビ『待ってなぁ…西の街までおよそ150km、所要時間4時間ってとこかいな?』

ナビ『カーゴの状態も道路状況も問題なし!オールグリーンやで♪』

男「了解。それじゃ出発するか」

男「今日もよろしくな」

ナビ『はいなぁ♪ほなれっつごー♪』



ブォン!ブロロロ…

-07:30 道中-

ブロロロ…

男「…。」モグモグ

ナビ『朝ご飯?』

男「ん。最近ドライバーの間で流行ってる強壮剤入りのエナジーバーだ」

ナビ『なんや身体に悪そー…』ジト

男「まぁ多少はな。止まって食事出来る時ばかりじゃないから」ゴクンッ

男「西の街に着いたら少し落ち着いて食べられると思うから、それまでの繋ぎさ」

ナビ『あんま無理しやんでなー?途中どっか寄れるとこ探そかー?』

男「大丈夫だよ。今日は帰り荷もあるし、道が混み出す前に少しでも時間稼いでおきたいんだ」

ナビ『そかー。ほんならちょっとでも早く着けるようにルート再検索するわ♪』

ブゥン…

ナビ『再検索完了。こっから右手の山道を抜けると30分位まくれるでー♪』

男「街道を逸れるのか?魔物が出なければいいが…」

ナビ『そん時ゃそん時♪男ちゃん強いねんから大丈夫やろ!』

男「うーん…まぁ時間短縮出来るなら、行ってみるか?」

ナビ『そうこなくっちゃー!ほんならルート変更!ぶっちぎんでー♪♪』

男「おい!頼むから安全運転でな!」

[魔法石過給装置作動シマス…]

ガヒュン!ブォォォォ…!

男「おいおいおいおい」

ナビ『いっくでー♪♪♪』

バヒューーーーーン!

-09:00 道中-

ブロロロ…

男「死ぬかと思った」グッタリ

ナビ『大丈夫やて!どんだけぶっ飛ばしても魔法石のジャイロ機構で荷崩れしぃひんし♪』ニコッ

男「荷物はそうかも知れんが生身の俺はそうはいかん!」

ナビ『でも予定よりかなり時間まくれたで?街の門が開く前に着けそー♪』

男「それは良かったよ、…ただ予定より魔法石の残り容量が少ない」

男「帰り荷を積む前に充填が必要だな」

ナビ『過給装置フルパワーで回したったもんなぁ、あー気持ち良かった♪』ケラケラ

男「これでも一応燃費とか気にしてるんだぞ?」

男「協会からも毎月の燃費目標を掲げられてるんだし」

男「今や運送屋もエコの時代だ」

男「毎年の査定次第ではボーナスやなんかも云々…」クドクド

ナビ『あーもうごめんやて!』

男「まぁ早めに到着出来るのは助かるけどな」

ナビ『せやから男ちゃんもまともなご飯食べなあかんよ?』

ナビ『何の為にかっ飛ばしたと思ってるんや!』プンスカ

男「ふふっ、心配してくれてありがとな」

ナビ『もう…』

ブロロロ…

-11:00 西の街 正門-

守衛「男か、おはようさん」

男「おはようございます、今日は搬入です」ピラッ

守衛「はいよー」

守衛「ナビちゃんもおはよう!」

ナビ『おっちゃんおはよーさん♪』ピョコッ

守衛「やー今日も可愛いねー」

ナビ『やろー?』

ナビ『今日も元気で可愛いナビちゃんやで♪』クルッ

男「もう入れますか?」

守衛「ちょっと早いがまぁいいだろう」

守衛「いつもの第1倉庫で頼むよ」

男「了解です」

守衛「それじゃ開けるぞー」

ガコンッ!!ゴゴゴ…

((搬入車輌、入門シマス))

ピーッ、ピーッ

-11:15 西の街、第1倉庫-

ゴゥンゴウン…

ナビ『いつ来ても思うけど…』

ナビ『ほんまデッカい倉庫やなぁ』キョロキョロ

男「西の街は武器防具の流通拠点であると共に、王国陸軍の本拠地もある軍の街だからな」

男「今日積んで来てるのは民間用だけどな」

ナビ『民間用ってその辺の武器屋さんとかで売られとぉ奴ってこと?』

男「そうだよ」

男「ここへ搬入された武器防具は、武器商人によって各地の町や村の販売店に卸される」

ナビ『ほぇー、ほんならここにその武器商人さん?が来るんやー』

男「実際には来ないよ」

男「商品を運ぶのは武器商人に委託された物流協会(うち)のカーゴだから」

ナビ『あ、そうなん?』

男「俺達が今乗ってる4t車よりもう少し小さいサイズだけどな」

ナビ『同僚ちゃんの乗っとぉ奴やな!』

男「そそ」

男「そうして運ばれた武器防具が勇者達を始め、色んな人の手に渡るわけだな」

ナビ『武器一つ取っても色んな人の手で運ばれてるんやなぁー』ウンウン

ガラッ

倉庫主任「物流はあらゆる産業の根っこを支える仕事だからな」

男「あ、主任さんおはようございます」

倉庫主任「おはよう。今日も搬入ご苦労様」

ナビ『おはよーさんやで♪』

男「これ今日の搬入明細です」ピラッ

倉庫主任「また沢山来たなー」

倉庫主任「しかし今や、武器防具も勇者や軍人だけが使うわけでもないからな」

男「市街地での魔族との衝突も増えてるみたいですしね」

倉庫主任「今や市民が自衛の為に武器を取る時代さ」

倉庫主任「さて、それじゃ荷降ろしを始めるとするか!」

男「お願いします。ウイング開けます」

ポチッウィーン…

-11:30 西の街 食堂-


ガヤガヤ…

男「さてご飯にするか」

食堂おばちゃん「あら男くん、今日も搬入かい?」

男「おはようございます」

男「そうなんです今荷下ろし中で」

おばちゃん「いつもご苦労さん!」

おばちゃん「今日も日替わり定食かい?」

男「はい、お願いします」

<はい日替わりいっちょー

<はいよー

男「いただきます」

同僚「おっ男じゃねーかww」

同僚「隣いいかww?」

男「おーお疲れ様。隣どうぞ」

同僚「今日はナビちゃん一緒じゃねーのかww?」ガタッ

男「今荷下ろししてるとこだから」

同僚「そかw」

同僚「しかしナビシステム様様だよなーwww」

同僚「カーゴの事殆どお任せ出来ちゃうもんなwww」カチャカチャ

男「ほんとに助かってるよ」

男「昔は荷馬車で運んで人力でえんやこらしてたのが嘘みたいだ」もぐもぐ

同僚「今日は王立倉庫からだろw?」

同僚「途中魔族には出くわしたかww?」ガツガツ

男「いや、ナビの奴が山道でショートカットしたんだけど」

男「一度も遭遇しなかったな」

同僚「ナビちゃんまじ有能ww」

同僚「今朝も街道沿いで魔族と陸軍の小競り合いがあったらしいぞwww」

男「そうなのか?」

同僚「おかげで街道は大渋滞ww」

同僚「俺なんか予定より2時間も到着が遅れちまったんだからよwww」

男「そういえば今日同僚のやってる便だったら」

男「もう西の街を出発してる頃だもんな」

同僚「魔族まじ迷惑www」

同僚「まぁそれも勇者がいずれ何とかしてくれるんだろうがwww」

同僚「お前今日帰り荷はw?」

男「B級品の武器防具を積んで王立倉庫へ戻るよ」

同僚「しばらく街道沿いは避けた方がいいかも知れないぞw?」

同僚「戦闘であっちこっち道路が損壊してるらしいしww」

男「そうするよ、事前に聞けて助かった」

男「ありがとな」

同僚「なんてことねーさw」

同僚「あ、じゃあ今度飲み行く時ナビちゃん連れて来いよwww」

男「魔法石持ち出したら怒られるだろ…備品だぞ?」

同僚「ですよねーwwww」ケラケラ

同僚「いやマジな話、お前とナビちゃんが羨ましいよwww」

同僚「今朝の渋滞でうちのナビの奴ずーっと機嫌悪くてさww」

男「そんな事もあるのか」

同僚「だから羨ましいって言ってんのw」

同僚「はいごちそーさんとw」ガタッ

同僚「じゃあな男ww帰りも気ぃつけてなww」

男「そっちもな。じゃあまた」フリフリ

-12:00西の街、物流倉庫-


ゴゥンゴゥン…

ナビ『あ!男ちゃんおかえりー!』フリフリ

男「積み下ろしご苦労さん。無事に終わったか?」

ナビ『任してーな!帰り荷の積載も完了!』

ナビ『ま、ウチはウイング開け閉めするだけで、主任さんが積んでくれはるんやけどな』

男「それでもカーゴを預けられるのは助かってるよ、ありがとな」

ナビ『えーんやで♪』ニコッ

ナビ『男ちゃんもご飯ちゃんと食べたー??』

男「あぁ、おかげさまでゆっくり食事出来たよ」

キュルキュル…ブォン!

ナビ『おっけ♪ほんなら出発しよか!』

男「そうだな、帰りも頼むよ」

ナビ『はいなぁー♪』

ブォン!ブロロロ…

-道中-

ブロロロ…

ナビ『なぁなぁ男ちゃん男ちゃん』

男「んー?」

ナビ『あんなー?朝ウチらが積んできた武器防具って、そもそもどっから来たもんなん?』

男「あぁあれはな」

男「北の鉱山の麓に鍛治職人の里ってとこがあってな」

ナビ『ん?そこって男ちゃんの故郷やん』

男「そうだよ、話した事あったっけ?」

ナビ『そりゃ知っとぉやろそこは!』ビシッ

男「?まぁいいか」

ナビ『じゃあそっから王立倉庫までの物流も協会(ウチら)の仕事なん?』

男「もちろんだ」

男「里で作られた武器防具を倉庫まで運んだり」

男「それとは逆に、使い古されたB級品の武器防具を仕立て直す為に里へ持ち込んだり」

男「それらの運搬も王国からの委託で協会(うち)が一手に請け負ってるのさ」

ナビ『ほんならその鍛治職人の里へもいつか行くかも知れへんな!』

男「まぁ運行は基本ローテーションだから、そんな時が来るかもな」

ナビ『男ちゃんの故郷かぁ…♪』ウキウキ

ブロロロ…

-13:30 街道 山道との分岐点-


男「帰りも山道ルートで行くぞ」

ナビ『ほぇ?急いでるん?』

男「いや、今朝また街道沿いで魔族と陸軍の衝突があったらしくて」

ナビ『そうなん!?』

ナビ『なんやウチの判断は正しかったわけやな』ムネハリー

男「偶然とはいえ助かったよ、ありがとな」

ナビ『えっへへー♪』テレテレ

男「そういう訳で街道周辺はまともに走れないらしいから」

男「帰りも山道ルートで行こうか」

ナビ『りょーかいやで♪』

ナビ『あ、でも帰りはあんま飛ばさへんで?』

ナビ『帰り荷はバラ積みやからジャイロ効いてても危ないし』

男「そもそもお前が勝手にかっ飛ばしたんだろうが…」

男「まぁいいや、安全運転で頼むよ」

ナビ『あいあいさー♪』

ブロロロ…

ピピーッピピーッ!

[前方ニ移動性ノ障害物ヲ確認]

[距離2000、コチラニ接近シツツアリマス]

男「ちっ、こっちにも魔族か!」

ナビ『あわわ、男ちゃんどーする?』

男「ここは一本道だ…」

男「向こうがこっちに気づいていようがいまいが、どの道接触するだろう」

ナビ『迂回した意味…』

男「まぁそう言うなって」

男「このまま速度を落として進行。向こうの出方次第で戦闘だ」

ナビ『了解やで!事務所に連絡入れとこか』

男「頼む」

ピピッ

ナビ『緊急連絡。現在復路にて魔族と接触する可能性あり』

ナビ『対象を確認後、止むを得ない場合王国物流協定第39条に則り戦闘行為に移行する』

[障害物マデ500]

<グルルッ…ゴガァ…

男「オークの群れか…20体はいるな」

ピピッ カチャ

配車係「お疲れ様です、災難ですねー」

ナビ『ほんまやで…きた!接触まであと15秒!』

男「お疲れ様です男です」

男「帰り荷が少しばかり増えそうですが大丈夫ですか?」

配車係「構いませんよ」

配車係「怪我と過積載だけ気をつけて下さいね」

男「了解です」カチャ

男「ナビ、カーゴ頼むぞ!」チャキッ

ナビ『はいなぁ!』グッ

ナビ『男ちゃん頑張ってな!!』

男「あぁ!」バタンッ

ダダッ…

-13:35 山道-



男「ナビの言う通りだ、これじゃ迂回した意味がない」

オークの皆さん「ゴガァァァ」

男「お前達に恨みはないが、悪いな」

男「俺達は荷物を届けなきゃならないんだ」チャキッ

男「うおぉぉー!!」ダッ

バキッ!ドスッ!ザンッ!ザンッ…

オークの皆さん「グワァァァ」

-カーゴ運転席-

ゴゥンゴゥン…

ナビ『おー始まった』

ナビ『…。』

ナビ『…男ちゃんつよ!』

ナビ『…。』

ナビ『…暇や』ポリポリ

ナビ『…。』

ナビ『あ、終わったかいな?』

ザッザッザッ

男「おーい!ウイング開けてくれー!」

ナビ『ほいさー!』

ピッ!ウィーン…

ドサドサッ!ドサッ!ガコンッ!!

男「いいぞー」

ピッ!ウィーン…シュパッ

男「ふぅー何とか片付いたぞ」バタン

ナビ『おつかれさまー!男ちゃん相変わらず強いなぁー!』

ナビ『ドライバーなんかより剣士とかの方が向いてるんちゃうん?』

男「今時フリーの傭兵なんて食べていくのも大変だよ」ハハッ

男「それにこの仕事もなかなか悪くないしな」

ナビ『そうなん?』

ナビ『まぁウチは男ちゃんと一緒におるの好きやからえぇけど♪』

男「ありがとな」ニコッ

男「さて、時間ロスしちまったが戻るか」

ナビ『おっけー♪ほな出発!』

ゴゥンゴウン…ブロロロ…!

-17:00 物流倉庫-


ブロロロ…キキッ

男「ふぅ、到着」

ナビ『男ちゃんお疲れさま!』

ナビ『荷降ろしは倉庫の人達がやってくれるで、運行報告出し行こか♪』

男「了解。それじゃシステム落とすぞ」

ナビ『男ちゃんまた明日な!』ニコッ

男「あぁ、また明日な」

ナビ『おやすみぃー♪』フリフリ

[精霊ナビシステムヲ終了シテイマス…]ブゥン…

[魔法石ヲ取リ出シテクダサイ]ポンッ

-物流協会 事務所-

男「お疲れ様でーす」ガチャ

先輩「おー男か、おつかれ」ヒラヒラ

配車係「男さんお帰りなさい」

男「戻りました」

男「ってか先輩、朝も会った気が」チャッ

[魔法石ヲセットシテクダサイ]カパッ

先輩「まぁこの業界だとよくある事だわな」ワハハ

男「ありますねぇ…」

男「退勤から次の出勤まで最低8時間あけなきゃいけないルールを」ヒソヒソ

先輩「逆手に取った配車を組む奴がいるからな…」ヒソヒソ

先輩「8時間あけばオッケーでしょ!昼夜逆転でも!みたいな」ヒソヒソ

配車係「ごほん!!」

先輩「ってか、ここで顔合わせたのはお前の帰りがいつもより遅いからだぞ?」

先輩「何かあったのか?」

男「帰り道でオークの群れに出くわしまして」ピッピッ

[運行データヲ印字シテイマス…]ジジッ

先輩「あーそりゃ災難だったな」

先輩「戦闘したのか?」

男「えぇ、どうにか対処しました」

先輩「お前戦闘強いもんなー」ハハッ

先輩「実習いつもトップだったしな」

男「ナビにも言われましたけど大した事ないですよ」

男「それこそ元軍人の先輩と比べたら…」

先輩「その俺が言ってんだから間違いねぇよ」

先輩「お前の剣術は大したもんだ」ウンウン

男「ありがとうございます」テレ

男「まぁガキの頃から散々親父に鍛えられましたからねぇ」クスッ

先輩「里の親父さんか。それy配車係「それより男さん!」

配車係「速度オーバーD判定って何ですかこれ!!」

男「あ!やべ」

先輩「ナビちゃん飛ばすねー」ニヤニヤ

配車係「困りますよー!!」プンスカ

配車係「現行犯なら一発免停ですよ!?」

男「いやそれはそのナビが勝手に」アワアワ

配車係「言い訳になってません!!」

配車係「ナビを使用しているのはドライバーである男さんでしょ!!」

男「おっしゃる通りで…」

配車係「全く…」ギロリッ

配車係「今やこの業界もエコの時代なんですよ!?」

配車係「王国の監査でもつつかれるんですから」クドクド…

先輩「あーあ始まっちゃった」

先輩「そいじゃ行って来るわー」ガタッ

男「あっ先輩!ずるい!」

配車係「話は終わってません!」ムンズ

男「あぃ…」ゲンナリ

魔法石(ナビ)『男ちゃんごめん…』ボソッ

-02:00 物流倉庫-


ゴゥンゴゥン…

男「おはよう」

ナビ『ふぁぁ…おはようさん』ネムネム

男「眠そうだな」

ナビ『だって今日めっちゃ早いやん…』

ナビ『つか朝?夜?まだ真っ暗やで』

男「今日の運行は東の港へ海産物を積みに行くんだ」

男「漁船が港へ戻ってくる夜明け頃に到着しようとすると」

男「この時間には出発しなくちゃならん」

ナビ『あーそれで今日は食品用のカーゴなんやな』

男「そういう事。所要時間出るか?」

ナビ『あいあーぃ…距離250km、6時前には到着すんで』

男「ちょうどいいな、積んでいく物はないからすぐ出発だ」

ナビ『おっけー。ほんならチャチャっとやったるかいな!』フンス

男「今日も頼むぞ」

ナビ『あいあぃさー。ふぁぁ…』

ブォン!ブロロロ…

-04:00 海岸沿いの街道-


ブロロロ…

男「海沿いは気持ちいいなー」

ナビ『真っ暗でなんも見えへんわ!』ビシッ

ナビ『…まぁ、でもこの時間やとさすがに道空いててえぇな』

男「この調子なら予定より少し早く着けそうだ」

ブロロロ…

-05:45 東の港-

ナビ『着いたー!』

男「やはり早めに到着出来たな」

ナビ『男ちゃん見てみー?朝日めっちゃ綺麗やでー!!』

ナビ『水平線がキラキラ光っとぉー!』キャッキャ

男「元気出たみたいで良かったよ」ニコッ

ザッザッザッ

漁師「おう兄ちゃん!積みに来たのか?」

男「あっおはようございます、物流協会から海産物を積みに来ました」

ナビ『漁師さんや!おはよーさん♪』

ナビ『うはー筋肉半端ねー!』

漁師「ははっおもしれーお嬢ちゃんだな!」

漁師「積荷の準備は出来てるぜ!」

漁師「早速積んじまうかい?」

男「すごい…ケースに満載の魚がこんなに大量に」

ナビ『おっさかなー!!』

漁師「今日は大漁だったからな!気合い入れて積むぞ!」

漁師「おい野郎ども!」

ちぇーっす…ワラワラ…

漁師「兄ちゃんも頼むぜ!」

男「了解です。久々の手積みだな…」

ナビ『男ちゃん頑張って♪』グッ

ワイワイ…

-30分後 東の港-



男「疲れた…」グッタリ

漁師「なんだ兄ちゃんだらしねーな!」

漁師「俺らはこんなの毎日やってんだぜ!」ケロッ

漁師「普段ナビのお嬢ちゃんに頼ってばっかなんだろー?」ガハハ

男「確かに運動不足なのかも知れないですね…」

ナビ『男ちゃんお疲れ様♪』

ナビ『保冷装置作動よし!積み込み票印字完了やでー』ペラッ

男「おーありがと…漁師さん、じゃここにサインを」

漁師「あいよ!」カキカキ

男「ありがとうございます、じゃあこれ預かり証ですんで」

漁師「ありがとよ!」

漁師「で、これからどこまで運ぶんだ?」

男「物流協会(うち)の港湾倉庫です」

漁師「それならここから1時間もかかんねぇな!」

漁師「ま、気ぃつけてな!」ニカッ

男「ありがとうございます、それでは出発します」

ナビ『おっちゃんまたなー♪』フリフリ

漁師「あいよー!それじゃあな!」

バタン!ブロロロ…

-07:00 海岸沿いの街道-


ブロロロ…

ナビ『漁師のおっちゃんえぇ人やったなー!』

男「あぁ、それにたまには体を動かすのも悪くないな」

ナビ『最近はパレ積みばっかやもんなー』

男「昔は手積み手降ろしが基本だったからな」

男「さて、港湾倉庫に着いたら休憩だ」

男「こっちは倉庫の人が降ろしてくれるから助かる」

ナビ『海沿いでご飯やー♪』

ナビ『せや!荷物降ろしてくれはるんやったらウチもご飯連れてってーな!』

男「いいけどお前食事しないじゃないか」

ナビ『分かってへんなぁー』チッチッチ

ナビ『海見ながら男ちゃんとのんびりしたいねん!』

男「そうか?それならカーゴ停めたら一緒に行くか」

ナビ『やったー!』ピョンッ

ナビ『あ!でもあんまり魔法石揺らさんとってな?』

ナビ『あれ結構酔うねんかぁ』

男「カーゴに搭載してないとジャイロ効かないからな、了解」

ナビ『男ちゃんとごっ飯♪ごっ飯♪♪』ウキウキ

男「ふふっ。可愛い奴だな」

ブロロロ…

運送業の仕事を異世界物語に昇華させたのか
頑張れ

-07:20 物流協会港湾倉庫-



ナビ『とうちゃーく!』

男「漁師さんの言う通り近かったな」

港湾職員「おはようございます」

港湾職員「港から海産物の搬入ですね?」

男「はい、これが積み込み票です」

港湾職員「それでは3番のヤードに接車して下さい」

港湾職員「降ろしはこちらでやりますので」

男「よろしくお願いします」

男「降ろしてもらってる間魔法石(キー)抜いちゃっても大丈夫ですか?」

港湾職員「構いませんよ」

港湾職員「敷地内にカフェテリアがありますのでお食事や休憩に使って下さい」

ナビ『なーなー職員さん?』ヒョコ

ナビ『そこって海見えるん??』

港湾職員「もちろん、海っぺりですからね」

港湾職員「まぁ港なので砂浜とかはありませんけど」

ナビ『っしゃぁー!!』グッ

港湾職員「ふふっ。可愛らしいナビさんですね」

男「変わった奴でして…」タハハ

男「それじゃカーゴ付けますね、よろしくお願いします」

港湾職員「了解です」無線ピピッ

(ザザッ…3番に4tカーゴ付けます…はい、港からの海産物です…)

-08:00 港湾倉庫 カフェテリア-



男「それじゃ朝食にするか」

男「しかし朝定食でアクアパッツァが出てくるとは…」

魔法石(ナビ)『わぁー海キラッキラしとぉー!』パァ

魔法石(ナビ)『あっ見てみて!船がおるよ!』キャッキャ

男「楽しそうで何よりだ」モグモグ

魔法石(ナビ)『う◯ぃーはひろいぃーなおぉー◯ぃーなぁー♪』ユラユラ

男「自分で揺れる分には酔わないんだな」カチャカチャ

魔法石(ナビ)『なぁー男ちゃん?あの海の向こうには何があるん??』ユラユラ

男「隣国だな。絹織物が名産で、王国で流通している製品の殆どが隣国産なんだぞ」ズズッ

魔法石(ナビ)『そっかー!』ユラユラ

魔法石(ナビ)『ん?ほいじゃもしかして、その絹織物なんかの物流も…』ピタッ

男「その通り、協会(うち)の仕事だ」フキフキ

男「今はカーゴがそのまま乗り込める大型のシップがあるからな、海を跨いでの運行もいずれ回ってくるかも知れない」

魔法石(ナビ)『ほんまに!?』ピョンッ

男「おい跳ねるな割れちゃうだろ」

魔法石(ナビ)『えぇなー船旅!はよ回ってきぃひんかなー♪』ピョンピョンッ

男「楽しみだな」

魔法石(ナビ)『楽しみ楽しみ♪』ユラユラ

ピピッピピッ

男「お、事務所からだ」

男「お疲れ様です男です」

配車係「お疲れ様です。運行は問題ありませんか?」

男「はい。今港湾倉庫で荷降ろししてもらっているところです」

配車係「順調なようですね」

男「今日は帰り荷はないんですか?」

配車係「それなんですが…」

配車係「実は乗せてきてもらいたい人がいまして」

男「人?協会の職員か何かですか?」

配車係「そうです。こちらの事務局の人間なのですが」

配車係「ちょうど今港湾倉庫に出張っていまして」

男「ここに?それならちょうどいいですね」

配車係「こちらから男さんのカーゴで帰路につくよう連絡しておきますので」

男「了解です」

配車係「それではお気を付けて」

配車係「くれぐれも!安全運転で!お願いしますよ!?」

男「分かりました…」ゲンナリ

男「聞こえたか?」

ナビ『同乗者やろ?おっけー♪』

ナビ『旅は道連れ世は情けや!』ニコニコ

男「これからその人を乗せて物流倉庫へ戻るぞ」

ナビ『らーじゃー♪』

ナビ『どんな人なんやろー?』ウキウキ

男「そういえば名前聞いてないな」

ナビ『おっちゃんみたいなおもろい人やったらえぇなー♪』ウキウキ

-09:00 港湾倉庫-


ゴゥンゴウン…

男「と、いうわけで同乗者だ」

ナビ『…。』

男「こちら女。協会の事務局に所属していて」

男「血は繋がってないが、俺の姉貴だ」

女「はじめましてナビちゃん」ニコッ

ナビ『車両状態よーし。魔法石充填問題なーし。おーるぐりーんやでー。』ムスッ

男「おいどうしたんだよ、さっきまであんなに元気だったじゃないか」

ナビ『べっつにー。帰り荷も積んだんやしちゃっちゃと帰ろーや。』ムスーッ

男「帰り荷って…女は荷物じゃないぞ」

女「いいのよ男くん、私の方は準備出来てるから」

女「いつでも出発してくれて構わないわ」

男「すまない、とりあえず出発しよう」

男「ナビ、帰りも頼むぞ」

ナビ『あいあいさー。ほないくでー。』ムッスー

ブロロロ…

-09:30 海沿いの街道-


ブロロロ…

男「…。」

女「…。」

ナビ『…。』

女「…静かね」

男「突然どうしたんだ」

男「いつもはうるさい位にマシンガントークなのに」

ナビ『聞こえてんでー!誰がうるさいねん!』イライラ

男「いやそういう意味じゃないぞ?」

ナビ『そんなにウチが邪魔なんやったらえーわ!』フンッ

ナビ『回線オフっといたるからお二人で仲よぉー過ごしたえぇやん!』

ナビ『ほなごゆっくりー!』プチッ

男「おい勝手に回線切る!…な…遅かったか」

男「全く何なんだ…」フーッ

女「ふふっ。モテる男はツラいわね」

男「茶化すなよ…今日はこんなんだけど」

男「いつもはほんとにいい奴なんだぞ?」

女「そりゃそうでしょうね」

女「男くんの精霊ナビなんだから」

男「?そりゃどういう」

女「…それにしても本当に久しぶりね」

女「入社時の研修以来かしら」

男「そうなるともう3年も経つのか!」

男「あの時は大変だったなー」

女「そうね」クスッ

男「荷物を運ぶだけの気楽な商売かと思いきや」

男「まさか戦闘実習があるとは」

男「物流協会の前身が陸軍だったとはいえ…」

男「まさか剣を取る事になるとは」

女「ふふっ。事務局では魔法詠唱の実習もあるのよ?」

男「そうなのか?じゃあ女も魔法を?」

女「基礎的なものだけね。例えば」

[光よ 世界を照らす恵の粒よ]

ポワァ…

男「手の中に光が!凄いじゃないか!」

女「喜んでもらえて光栄だわ」ニコッ

男「なんだかこうして話してると小さい頃の事を思い出すなー」

男「毎日一緒だったもんな」

女「…そうね」


ブロロロ…

-14:00 王都東門-


ブロロロ…キキッ

女「運転お疲れ様。私はここで降りるわね」

男「あぁ、久しぶりに話せて楽しかったよ」

女「私もよ。ナビちゃんもお疲れ様」

女「邪魔してしまって悪かったわね」

ナビ『』オフラインデス

男「気にしないでくれ、あとでフォローしとく」

女「…彼女のこと、くれぐれもよろしくね?」

男「?まぁ、分かった」

女「それじゃ」バタンッ

男「お疲れ様」フリフリ

ナビ『』回線ヲ接続シマス…ブゥン

ナビ『…ごめん…。』シュン

男「お帰り」ニコッ

男「珍しいじゃないか、お前があんなに感情むき出しにするなんて」

男「何があったか話してくれるか?」

ナビ『うぅ…自分でもよぉ分からへんねん…』イジイジ

ナビ『あんな?あんな??』グズグズ

ナビ『男ちゃんとあの女さんって人の間に流れとぉ空気って独特やんか?』

ナビ『でな?あーこれウチ入っていかれへん奴や、ウチお邪魔虫やって思ったら…』ウルウル

男「そんな風に思ってたのか…」

ナビ『なぁウチをひとりぼっちにせんといて!?ウチには男ちゃんしかおれへんねん!』ウルウル

ナビ『ウチは実体のない精霊やからぁ!』

ナビ『もし男ちゃんが望んでもエッチな事とかしてあげられへんけどぉ!』シクシク

男「急に何を言い出すんだよ…」

ナビ『でも男ちゃんと一緒にいたいねん!』

ナビ『お仕事も頑張るからぁ!!』ブワッ

ナビ『お願い…一人は嫌やぁぁ…!!』ビエーン

男「ナビ…」

男「お前は俺の相棒だ」

男「いつも助けてくれて感謝してるし、これからも一緒にやっていきたいと思ってる」

ナビ『ぅん…ぅん』ヒックヒック

男「女とは血は繋がってないが家族だ」

男「それ以外何もないよ」

ナビ『ホンマに…?』ヒック

男「お前が心配するような事はないよ」

ナビ『ちゃうて…あったってえぇねん…』フルフル

ナビ『っていうかウチが口出しする事ちゃうって頭では分かってんねん…』

ナビ『けど…』ウルウル

男「とにかくお前を置いてどっかへ行っちまうなんて事はないよ」

男「そこは安心してくれ」

男「だからこれからもよろしく、な?」ポンポン

ナビ『えへ…触れられへんけど嬉しいなぁそれ』

ナビ『あったかいわぁ…』

男「ふふっ。落ち着いたか?」

ナビ『……うん、もう大丈夫やで♪』ニコッ

ナビ『困らせてごめんな?』ペコ

男「いいんだよ」ニコッ

男「よし!それじゃ仕事締めちまいますか」

ナビ『がってん承知!やで♪』ニカッ


ブロロロ…

-20年前 王国北西の村-



カンカン!カンカン!

ゴォォォォ…!!



<火事や!誰か水ー!!

<くそっ!火の勢いが治まらへん!!

<おい消防団はまだなんか!?

<俺の…俺の家がぁー!!



幼児「おとん!おかん!なんでや…!」オロオロ

村人「おいチビ!こんなとこにおったら焼け死ぬで!!」ダキッ

幼児「みんなー!!」ジタバタ

村人「まさか…まだ家の中に…!!」

村人「とにかくお前は逃げろ!今安全な所へ連れてくでな!!」ダッ

幼児「いややー!おとん!おかん!!」ジタバタ

幼児「うわぁぁー!!!!」

ブワァァァァ…!!



幼児「…ぉ…」ポロポロ

-3日後 王立物流倉庫-

-18:00-


ブロロロ…

男「という訳で早速現実になった」

ナビ『海やぁー!!お船に乗って隣国やぁー!!』ドンドンパフパフ

男「これからこの間の港湾倉庫で海産物を積んで、そのままシップに乗り込む」

ナビ『ほうほう』

男「隣国の倉庫で海産物を降ろしたら、名産品の絹織物を扱う別の倉庫へ向かう」

ナビ『ふむふむ』

男「そこで帰り荷を積んだら元来た道程を辿って王立倉庫へ戻ってくる、と」

ナビ『了解ちゃーん♪時間出そか?』

男「頼む」

ナビ『んーと?今18:00やんな?』ピコッ

ナビ『あーしてこーして…えっ物流倉庫(ここ)帰ってくんの明日の24:00!?』ガビーン

男「確かに長旅だなー」

男「とは言え、シップに乗ってる間は俺もお前もやる事がないから」

ナビ『あ、そっか』

男「拘束時間の割には負担は少ないと思うぞ」

ナビ『まぁ一応魔法石の充填は見とくわー』

ナビ『あ!男ちゃん協会員証(パス)持った?』

男「あ、いけね」

ナビ『頼むわ!それがないと入国でけへんやろ!』プンスカ

男「なんてな。実はちゃんと持ってる」ピラッ

ナビ『』スッ

[魔法石過給装置作動シテイマス…]

男「わーやめろやめろ!からかって悪かったって!」アセ

ナビ『ほんまにこの人は…』ハァ

ナビ『まぁえぇわ!準備おっけーばっちぐーって事で!』

ナビ『ほな出発すんでぇ♪』

男「今日もよろしく頼むぞ」

ナビ『はいなぁ♪』

ブロロロ…

-23:15 港湾倉庫 積み込みヤード-


ゴゥンゴウン…

ナビ『魚がかっちかちや』

男「ここの冷凍庫で凍らせてから、俺達の保冷カーゴに乗せて運ぶってわけだ」

ナビ『ぞっくぞk男「それ以上はいけない」

港湾職員「こんばんは」

男「あ、お疲れ様です」

男「隣国行きの海産物を積みに来ました」

港湾職員「準備出来てますよ」

港湾職員「それでは早速積み込みしましょうか」

男「よろしくお願いします」

ナビ『ウイングおーぷん♪』ピッ!シュイィィン…

-15分後-

ナビ『保冷装置作動よーし!』

男「おーさぶ。長旅だからな、大丈夫だとは思うが一応荷締めを確認しとくか」ガチャガチャ

男「シップは0:00に出航するから、このまま乗り込んじゃおうか」

ナビ『おっけー!お船っお船っ♪』ルンルンッ

港湾職員「それではこちらが伝票です。シップの乗り込み口で見せて下さい」ピラッ

港湾職員「道中お気をつけて」

男「ありがとうございます」ペコッ

ナビ『ほな行くでー!』

ブォン!ブロロロ…

-00:30 海上 シップ甲板-



ザァァァン…ァァァン…



魔法石(ナビ)『…ほぇー…。』ウットリ

男「海上は遮るものがないからな」シュポッ

魔法石(ナビ)『星がこんなに沢山見えるなんて…』

魔法石(ナビ)『ダイヤモンドぶちまけたみたいや』

魔法石(ナビ)『…。』

男「…。」





ザザァァァン…ァァァン…

魔法石(ナビ)『…なんか。』

魔法石(ナビ)『昼間の海はテンションめっちゃ上がるけど』

魔法石(ナビ)『夜はなんやこう…黙ってまうな』シミジミ

男「これはこれでいいよな」グビ

ナビ(魔法石)『あれ、男ちゃん何飲んでるん?』

男「修道院特製エールだよ」

魔法石(ナビ)『あー!仕事中にー!』

男「固い事言うなよ、運転してるわけじゃなし」フフッ

魔法石(ナビ)『…配車係さんには黙っといたるわ』フフッ

男「しかしいい眺めだ」

男「まさに天の光は全て星といったところか」グビ

魔法石(ナビ)『お酒飲みながらそれはアカンやつやて…』

ナビ(魔法石)『でもこの星空の下でってのが堪らんねやろなぁ♪』

魔法石(ナビ)『えぇなーウチも飲んでみたいなぁ』ユラユラ

男「酔ってみたいなら、ほれ」コロコロ

ナビ(魔法石)『いやぁぁ魔法石コロコロせんといて!酔う!酔うの意味が違う!!』コロコロ

ワイワイ…

-02:00 カーゴ寝台-


ゴゥンゴゥン…

男「zzz」

ナビ『男ちゃん寝よったか』

ナビ『ぷっ寝顔ぶっさいくやなー』ケラケラ

ナビ『…でもその顔安心するわぁ』ニコニコ

ナビ『いつも頑張ってるんやから、のんびり休んでな?』

ナビ『今日もおつかれさま。明日もよろしゅう♪』

チュッ…

ナビ『触られへんけど、気分だけ。な』

ナビ『おやすみっ♪』

-08:00 隣国港-



ナビ『着いたー!!』

男「んー良く寝た…」ノビーッ

男「さて、降ろし場は港のすぐ隣の倉庫みたいだから」

男「さっそく降ろしますか」

ナビ『あいあぃさー♪』

ブォン!ブロロロ…

-隣国港湾倉庫-

男「おはようございまーす!」

ナビ『かっちかちのお魚やでー!』

隣国港湾職員「あいおはようさん。王国からだね?」

男「はい、港湾倉庫から海産物を積んで来ました」

隣国港湾職員「そりゃご苦労さん。船旅はどうだったね?」

ナビ『夜空がめっっちゃ綺麗やったでぇー♪』ウットリ

隣国港湾職員「そいつは良かったねぇ」

隣国港湾職員「ここらの海は比較的に穏やかだからね」

隣国港湾職員「さっそく荷降ろししちまうかい?」

男「そうですね、お願いします」

隣国港湾職員「あーすまないんだけど、うちは王国ほど人手がないもんでね」

隣国港湾職員「ドライバーさんも一緒に降ろしてくれるかい?」

男「もちろんいいですよ。それでは降ろしましょうか!」

ナビ『男ちゃんふぁいと♪』グッ

-同刻 物流協会事務局-


カツカツカツ…

女「…。」

先輩「お、女ちゃんじゃないか」

女「あら先輩さん、おはようございます」ペコッ

先輩「おはよう、相変わらず美人さんだな」

女「ふふっ、先輩さんも相変わらずお上手ですね」

先輩「いやいやマジだって!」

先輩「ところでさ、最近男に会ったか?」

女「えぇ、港湾倉庫からこっちまでカーゴに乗せてきてもらいましたけど」

先輩「そうか」

女「今日は男くんは?」

先輩「隣国へのシップ便で運行中。そろそろ向こうの港に着く頃だろう」

先輩「しかしカーゴに同乗か、羨ましいなー男の奴」

女「私と男くんはそういう関係ではありませんわ」クス

先輩「そうかい?そこは別に心配してねぇんだが…」

女「…ナビの事ですか」

先輩「あぁ。この前ナビちゃんを泣かしちまったーって男が言ってたんだが」

先輩「女ちゃんの話を聞いたら何となく分かったよ」

女「…先輩さん、あなたはナビシステムについてどこまでご存知なんですか?」

先輩「俺か?まぁそもそも俺自身がナビ使ってないからなー」ポリポリ

先輩「一般的な知識以外大した事は知らないが」

先輩「それがどうした?」

女「そうですか…」

女「…。」

女「先輩さんに折り入ってお願いしたい事があるのですが」

先輩「何だ?金なら貸さねぇぞ」ケラケラ

女「違います!」

女「…男くんとナビの間で何か変わった事がありましたら、教えて頂けきたいのです」

女「お願い出来ますか?」

先輩「あぁ、構わねぇよ」

先輩「しかし本当に相変わらずだな女ちゃんは」

女「?それはどういう」

先輩「何でもねぇよ。全く男の奴が羨ましいなって話さ」

先輩「そうだ!情報を伝える報酬といっちゃ何だが」

先輩「今度メシでもどうだい?」

先輩「近くにいい店があるんだ」

女「先輩も本当に相変わらずですね…えぇ、いいですよ」ニコッ

先輩「よっしゃ!じゃあ楽しみにしてるからな」

女「私もです。それでは何かありましたら、お願いします」ペコッ

先輩「あぁ、任せとけ」

先輩「じゃあ俺これから運行だから。おつかれさん」フリフリ

女「お気をつけていってらっしゃい」フリフリ


女「…。」

-08:20 隣国港湾倉庫-



男「これでっ!最後っと!」ガスッ

男「ふぅ、終わった」

隣国港湾職員「いやぁ助かったよ。それじゃこれ伝票ね」

隣国港湾職員「それとこれは手伝ってくれたお礼に」スッ

男「いいんですか?ありがとうございます!」

隣国港湾職員「いいっていいって!」

隣国港湾職員「それでこれからどこまで?」

男「はい、このあと内陸の工場で絹織物を積んで帰る予定でして」

隣国港湾職員「それならここから街道をひたすら真っ直ぐだ」

隣国港湾職員「ただ、ここらは王国の街道と違って道路整備が行き届いているとは言えないから」

隣国港湾職員「道中気をつけるんだな」

男「分かりました、色々ありがとうございました」ペコッ

バタンッ

男「終わったぞー」フゥ

ナビ『男ちゃんおつかれさま♪』

ナビ『ん?それ何?』

男「あぁこれな、荷降ろし手伝ったお礼にって職員さんが」フワッ

男「隣国名産の絹で織ったストールだそうだ」

ナビ『へぇー!めっちゃ可愛いやん!』キャッキャ

男「俺が着けるのもアレだから、運転席にでも飾ろうかなと思って」

ナビ『あ!それやったらココなんかえぇんちゃう?』

男「助手席のヘッドレストか、悪くないな」マキマキ

ナビ『おぉー!いこくじょうちょやな?』ニコニコ

男「意味分かってんのか…?まぁいい、そろそろ出発するか」

男「所要時間出るか?」

ナビ『はぃな♪…んーざっと2時間半位かいな?』

男「了解。それじゃ出発だ」

男「頼むぞ」

ナビ『あいあぃさー♪』

ブォン!ブロロロ…

-09:00 隣国街道-



ブロロロ…ガタゴト

男「見渡す限りの田園風景だな」

ナビ『一面緑色やね!あれはなに育ててんねやろー?』

男「恐らく桑畑だろう、蚕の餌になるのさ」

ナビ『かいこ?』

男「蚕は蛾の一種で、そいつらが繭を作るのに吐き出す糸が絹織物の原料なんだよ」

ナビ『げー!かいこって蛾なん?』ブルッ

男「意外と可愛いんだぞ?」

男「翼を取るために養殖しているキメラなんかの方がよっぽどファンキーなビジュアルをしてるよ」ハハハ

ナビ『ってかキメラって養殖なんや…』



ブロロロ…ガタゴト

-11:00 織物工場-



ガタンッガタンッ…

男「こんにちはー!物流協会から織物を積みに来ましたー!」

工場職員「王国からですね?はるばるご苦労様です」

工場職員「製品がまだ全部揃っていないので少しお待ち頂けますか?」

男「そうですか、構わないですよ」

工場職員「午後一番には用意できますので、良かったら近くの町でゆっくりしてて下さい」

工場職員「カーゴは積み込みヤードに停めておいてもらって構いませんので」

男「ありがとうございます、じゃあそうさせて頂きますね」

ナビ『ご飯やご飯ー!』

男「一緒に来るか?」

ナビ『もちのろんやで♪』

男「了解」

ピピッ…ポンッ!

-11:30 織物工場近くの町-



テクテク…

魔法石(ナビ)『変わった街並みやなー』

男「真っ白な石造りの壁にとんがり屋根…この辺の伝統なんだろうな」

魔法石(ナビ)『可愛えぇなー?』キョロキョロ

男「さて、せっかくだからここらの名物を食べたいな」

魔法石(ナビ)『あ!なんか旗立っとぉで』

<ご当地名物!キメラ鍋! ヒラヒラ

男「…。」

魔法石(ナビ)『…。』

男「…ま、まぁせっかく来たんだ、ものは試し!」ガラッ

魔法石(ナビ)『せ、せやな!たのもー!!』

<イラッシャーイ

-店内-



グツグツ…

魔法石(ナビ)『なんやめっちゃぐつぐつしとぉな、案外美味しそぉやん♪』ウキウキ

男「あぁ。あのままのビジュアルで煮込まれていたらと心配したけど杞憂だったみたいだ」

男「それじゃ早速…いただきます」ハフッ

もぐもぐ

魔法石(ナビ)『どう?』

男「…美味い!!」ババーン

男「鍋というより煮込み料理だな、トマトがよく合う!」パクパク

男「そして肉は若干固めだが、噛めば噛むほど味が染み出てくる!」モグモグ

魔法石(ナビ)『良かったぁー!やっぱご当地名物やんなぁ♪』

ガラッ!

<ラッシャーイ

客「お!美味そうな匂いだな、おーいこっちもキメラ鍋ー!」アイヨー

男「人気の店みたいだな」モグモグ

魔法石(ナビ)『なー♪』

<オーイキメラシメトイテー

<アイヨー!



ダンッ!

<ギャーーーースッ!!



男「!」ビクッ

魔法石(ナビ)『!!!』ビクビクッ

男「…。」ゴクンッ

魔法石(ナビ)『なぁ、今のって』ビクビク

男「…我々は命を頂いて生きているという事だな」

男「感謝して食べねば!」ガツガツ

魔法石(ナビ)『さ、さすが男ちゃん』


-13:00 織物工場-



ガタンッガタンッ…

工場職員「お待たせしました、積荷の用意出来てますよ」

男「ありがとうございます、では早速積んでしまいましょう」

工場職員「ロールになってますので重機で積み込みます、ウイング開けてもらえばこっちでやりますんで」

男「了解です。ナビ、頼むよ」

ナビ『あいあぃさー!ウイングおーぷん!』ポチッウィーン


工場職員「お待たせしました、こちらが伝票です」ピラッ

男「ありがとうございます、それでは出発しますね」

工場職員「よろしくお願いします」ペコッ

ナビ『ほないくでー!』

ブォン!ブロロロ…

-13:30 隣国街道-



ブロロロ…ガタゴト…

ナビ『…けほっ』

男「どうかしたか?」

ナビ『ん…。ここらってあんま舗装良くないやんか?ちょっと酔ぉたかも…』クラッ

男「マジか、ジャイロ効いてないのか?」

ナビ『んーなんかな?カーゴ自体もちょっと調子良くない?んかなぁ』クラクラ

男「少し休憩するか?」

ナビ『んーん!大丈夫!』フリフリ

ナビ『シップの出航時間もあるし、乗ってもうたら休憩出来るんやし』

ナビ『このまま行けるで♪』ビシッ

男「そうか、どうしても辛くなったらすぐに言うんだぞ?止まるから」

ナビ『ありがとぉな♪』ニコッ

ナビ『…。』フラッ

ブロロロ…

-同刻 物流倉庫事務所-



ピピッピピッ

配車係「ん?アラート?」チラッ

配車係「この車番は男さんか」

[精霊ナビシステムニ問題発生]

[魔法石カラノ魔力供給が低下シテイマス]

配車係「魔力供給が低下?充填が不足しているのか?」

プルルッ…プルルッ…カチャ

男「お疲れ様です男です」

配車係「お疲れ様です。今こちらの管理システムで男さんのナビに異常ありと出ているんですが」

配車係「出発前に魔法石の充填は確認しましたか?」

男「えぇ、出発前に満タンにしました」

配車係「おかしいなぁ…どうやら魔法石からナビシステムの方に充分な魔力が供給されていないみたいなんです」

男「何ですって?」

男「おいナビ、何か分かるか?」

ナビ『!』ギクッ

ナビ『し、知らんし』アセッ

男「…お前、嘘つくとすぐ分かるな」ハァ

男「よくよく見れば魔法石の充填がかなり減ってるじゃないか」

男「どういう事なんだ?」

ナビ『え、えーっと』タラッ

男「ちゃんと答えろ!」ダンッ!

ナビ『!』ビクビクッ

キィィィィン…!

配車係「…っ!あの男さん、無線繋がってる時にあんまり大きい声は」イテテ

男「あ!すみません」

男「ちょっと状況確認して折り返します」プツッ

配車係「あっ!ちょ…!」プーップーッ

配車係「なんなんだよもう…」

-同刻 隣国街道-



シーン…

男「…つまり俺が寝ている間ずっとエンジンかけたままにしておいたと」

男「んで、帰りの充填が怪しくなってきたから自分への魔力供給を一時的にカットした…と」

ナビ『…ごめんなさい。』シュン

男「あのなぁ、カーゴの寝台にはちゃんと寝袋と毛布が積んであるんだから心配する事ないんだぞ?」

ナビ『だ、だって!海の上って綺麗やけどやっぱ冷えるし』アセアセ

ナビ『(それに、供給止めてでも男ちゃんと一緒におりたかったし…)』

ナビ『(なんて言われへんけど)』

男「俺の事を心配してくれたのは分かったよ」

男「気が付かなかった俺にも責任がある。ここから先はマニュアルで行くからお前は休んでろ」

ナビ『えっ!でも!!』

男「大丈夫だよ、積み込みは終わってるし来た道を戻るだけだから」

ナビ『(ちゃうねん…シャットダウンしたらお話でけへんやん…)』

男「魔力供給が低下した状態が続くと、お前の調子にも影響が出るかも知れないからな」

男「だから、な?」ポンポン

ナビ『うぅ…それズルいわぁ』ショボン

ナビ『了解やで。ほんなら男ちゃん気をつけてな』フリフリ

男「ははっ別に今生の別れでもあるまいし」

男「それじゃおやすみ」ポチッ

ナビ『あぃ、おやすみなさい…』フッ

[精霊ナビシステムヲ終了シテイマス…]

男「よし、行くか」

ブォン!ブロロロ…

-翌日 物流協会事務局-



女「そうですか、そんな事が…」

先輩「まぁ帰って来るだけなら男一人で何の問題もないけど」

先輩「一応大事を取ってナビちゃんは今日一日メンテナンスに出してるみたいだ」

先輩「しかし、愛だな」シミジミ

女「…。」

女「それでは、ナビが使えないなら男くんは今日はお休みですか?」

先輩「あぁ、あいつかー?」ニヤ




男「はぁ…はぁ…」タッタッタッ…




先輩「まぁペナルティって訳じゃねーんだが」スッ




男「ふぅ…ふぅ…」ガシッ




先輩「男は今日一日、同僚とコンビ組んで」シュボッ





男「ちわー!お届けものでーす!」ピンポーン





先輩「宅配だ」フゥーッ

-同刻 王都、街外れ-



ゴゥンゴゥン…

男「ミルクだの薪だの重量物を持っての階段の登り降り…」ハァハァ

男「宅配がこんなにキツいものだとは」フゥ

同僚「かーっwwなっさけねーなwww」ケラケラ

男「しかし…みんなして重たいモンばっか頼みやがって…」グッタリ

同僚「バーカwww重たいモンだから頼むんだろがwww」

同僚「この辺じーさんばーさん多いからなwwwしゃーないwww」

男「言われてみればそうだな…」

同僚「ほれ水分補給!気合い入れ直してもう一踏ん張りだwww」ポイッ

男「ありがとう…助かるよ」ゴキュ

同僚「それよかお前体力落ちたなーwww」

同僚「どうせナビちゃんに頼りっきりなんだろーwww」ケラケラ

男「否定はできんな…この前も手積みの仕事だったんだが昔よりキツく感じたし」プハ

同僚「戦闘だけはアホみてぇに強かったのになwww」

同僚「最初の戦闘研修の時どこの剣士が迷い込んだのかと思ったぞwwww」

男「みんなに言われるがそんなに大したもんじゃないぞ?所詮素人に毛が生えた程度のもんだ」

同僚「いーやwあの動きはとても素人じゃねぇよwww」

同僚「故郷の親父さん仕込みだったかw?ホントにただの武器職人なのかねwww」

男「そういや若い頃の話は聞いた事がないな」

同僚ナビ『お二人共、余裕ぶちかましておいでですが大丈夫なんですの?』

同僚ナビ『配達まだ20件以上残ってますのよ?』

男「いぃっ!?そんなに??」ゲゲッ

同僚「よゆーよゆーwww二人でやりゃあっちゅーまよwww」

男「お前ほぼ運転だけじゃんか!」

同僚「この王都中の街道から細かな路地に至るまでの道路網、番地、駐車禁止なんかの交通規制などなど…」

同僚「パーペキに把握している俺からハンドルを奪おうなど100万光年早いわwww」

男「光年は距離の単位だ…まぁいい、確かに細かな道まで知り尽くしているお前が運転する方が効率がいいな」

同僚「伊達に地元っ子じゃねぇっすよwww分かったら汗水たらしておきばりやすwwww」ケラケラ

男「あぁ、それじゃ行くか!」

同僚「れっつ脂肪燃焼www」

同僚ナビ『はーい出発致しますわ』

ブォン!ブロロロ…

-同刻 王立アカデミー研究室-



ブゥゥン…ブゥゥン…

魔法石(ナビ)『…。』コポコポ

女「…。」ジーッ

女「それで、ナビの状態は?」クルッ

研究室職員「幸い、魔力供給の低下が一時的なものだったのでダメージは軽微です」

研究室職員「記憶や人格などの各種データの損傷もありません」

女「そうですか…」ホッ

研究室職員「ただ、ついでにここ最近の蓄積情報を確認したんですが」

研究室職員「ナビシステムの人格情報に変化が見られますね」資料ペラッ

研究室職員「ここです」トントン

女「外的要因による強い不安状態…」

研究室職員「ナビシステムの心理グラフと男さんの運行データを照らし合わせると」

研究室職員「数日前、港湾倉庫から物流倉庫へ帰ってくる辺りで心理状態に激しい動きが見られます」

女(私が同乗した時ね…)

研究室職員「具体的に言うと、対外的な自己価値の喪失に対する不安…」

研究室職員「見捨てられ不安、といったところでしょうか」

女「見捨てられ不安…」

研究室職員「これは例えば過去…幼少期が多いんですが」

研究室職員「自分の周りにいるべき庇護者を何らかの形で失うといった体験が原因となる場合があります」

女「…っ。」

研究室職員「現時点ではナビシステムの運用上大きな問題とは言いにくいですが」

研究室職員「今後、人格構造に著しい変化が見られるようになった場合…」

女「何らかの対応が必要になる、という事ですね?」

研究室職員「仰る通りです」

女「分かりました」

研究室職員「ナビシステムの性質上、ベースとなる人格情報を書き換える事は難しいですが」

研究室職員「月日と共に蓄積されていく情報についてはその限りではありません」

女「情報の蓄積…」

研究室職員「はい。蓄積された情報によって思考パターンや心理構造が変化…成長していく」

研究室職員「それこそがナビシステムの大きな特徴ですから」

女「大変参考になりました」ペコッ



ガチャ バタンッ

カツカツカツ…



魔法石(ナビ)『…。』コポコポ

-翌日 04:00 物流倉庫-



ゴゥンゴゥン…

ナビ『たっだいまぁー!!』バーン

男「おかえり、調子はどうだ?」

ナビ『もうすっかりばっちりおーるおっけーやで♪』ピース

男「心配させやがって」

ナビ『ごめんなさいです…』フカブカー

男「まぁ、無事に戻ってきたなら何よりだ」ニコッ

ナビ『それよか男ちゃんは?昨日一日大丈夫やったん?』

男「助手として同僚の奴に散々こき使われたよ」

男「大変いい運動になった」ハハハ

ナビ『同僚ちゃんはどーちゃん共々加減知らんからなぁ』ケラケラ

男「どーちゃん?」

ナビ『同僚ちゃんのナビやからどーちゃんやで!』ビシッ

男「あぁそう…」

ナビ『んで!今日はどこまで行こか?』

男「今日は今から物流倉庫(ここ)でB級品の武器防具を積んで、鍛治職人の里へ搬入だ」

ナビ『男ちゃんの故郷キター!!』ドンドンパフパフ

男「期待してるとガッカリするぞ?何にもない田舎の里だから」

ナビ『そんなんえぇねん!男ちゃんの故郷って所が重要やねん!!』クワッ

男「わかったわかった、顔が近い」

男「そしたらパパッと積み込みして出発しようか」

男「今日からまた、よろしく頼むぞ」

ナビ『うん!よろしくな』ニパッ

ナビ『ほな始めますかぁ?』

ゴゥンゴゥン…

-11:30 鍛治職人の里-



カンッカンッカンッ…

男「着いたな」

ナビ『おぉーここが男ちゃんの故郷!』

男「鉄鉱石の採れる鉱山の麓には、ちょうど良く河も流れていて」

男「鍛治職人達にとってはうってつけの立地だったんだろうな」

守衛「男!?男じゃねーか!」

守衛「見ない間にずいぶん立派になりやがって!」バシバシ

男「いてて、お久しぶりです」

守衛「今日は仕立て直し用の武器防具だったな?男が運んできたとなりゃ親父さんも腕が鳴るってもんよ!」

守衛「お?今日は可愛い連れがいるのかい?」

ナビ『おっちゃんはじめまして!ナビちゃんやでー?』ピョンッ

守衛「おー元気いいな!」

ナビ『あったりまえやん!いつでも元気なナビちゃんやで?』ニコニコ

男「心配させといてよく言うよ」ハハハ

守衛「そしたら早速倉庫の方へ回ってくれるか?荷下ろし要員で若い衆集めといたからよ!」

男「ありがとうございます、それじゃ向かいますね」

ナビ『おっちゃんまたなー』フリフリ

守衛「はいよ!」

ブォン!ブロロロ…



守衛「あの訛り…北西の…」

-12:00 鍛治職人の里 倉庫-



男「大勢で下ろしたらあっという間に終わった」

男「皆さんありがとうございました」ペコッ

若者「いやだなー礼なんていいっすよ!」

若者「男さん、里の出身ですってね?同郷の仲間なんだからこの位なんて事ないっす!」ワハハ

男「…正直少し不安だったんです」

男「親父の跡を継がなかった俺の事、里の人はどう思っているのかと」

若者「…生き方は人それぞれです」

若者「俺は里出身ですけど、仲間内には他の町や村から移住してきた奴もいるんですよ?」

男「それは、鍛治職人に憧れて?」

若者「そうです!というか、大部分の奴は親父さんに憧れてってところですけど」ハハハ

若者「ちょうど休憩入ったとこだと思うんで、顔出してあげてって下さいよ!」

男「親父か…」

ナビ『…。』

男「そうですね、せっかく来たので親父とも少し話して行きます」

男「ありがとうございました」

若者「いえいえ!ではお気をつけて!」

ナビ『みんなばいばーい?』フリフリ

ブロロロ…

-鍛治職人の里 作業場-



シュボッ!スゥゥ…

親父「…久しぶりだな」プハァー

男「あぁ、元気そうで何よりだ」

親父「お前に心配される程まだ耄碌してねぇよ」ハハ

男「そういう意味じゃ…」

親父「冗談だ。仕事は上手くいってるのか?」

男「何とかね、色んな場所に行けるってのは俺の性に合ってるのかも知れない」

親父「…お前が鍛治職人に向いてねぇってのは初めから分かってた事だ」

親父「だからうちを継がなかった事なんざ気にしちゃいねぇからな?」グシグシ

男「…!」

男「親父には勝てないな」ハハ

親父「当たり前だ、それに最近じゃ鍛治職人になりたいなんて殊勝な奴がいるんだぜ?」

親父「そういうわけで跡取りには困ってねぇよ」ハハ

親父「….吸うか?」スッ

男「付き合うよ」シュボッ!スゥゥ

スパァァ…モクモク

親父「お前はお前の好きなように生きろ」

親父「背負って生まれちまったもんは仕方ない、だが」

親父「そんなもんに縛られる必要はない、お前の道を決めるのはお前自身だ」

親父「お前自身が決断して、責任はお前が取るんだ」

親父「いいな?」

男「?あ、あぁ何となく」

親父「苦しくなったらいつでも戻って来い」

親父「お前の居場所はここにある」

男「…ありがと」

親父「あの子にもそう言ってやれ」

男「(女の事かな?)あぁ、分かったよ」

親父「全く、たまには剣術の稽古でもつけてやろうと思ってたが」

親父「誰かさんが仕事をどっさり持って来てくれちまったからな」ハハハ

男「ふふ。みんな親父の事を尊敬してるみたいだな」

親父「まぁな、まだまだ落ちぶれるわけにはいかねぇって事よ!」フン

親父「そろそろ行くのか?」

男「あぁ、また来るよ」グシグシ

親父「帰り、気ぃ付けろよ」

男「うん」

テクテクテク…

親父「…。」グシグシ

-13:00 鍛治職人の里-



ゴゥンゴゥン…

ナビ『おかえりー』フリフリ

男「ただいま」バタン

ナビ『おとさん元気そうやったー?』

男「相変わらずな、俺の心配事なんてお見通しだったよ」ハハ

男「まだまだ親父には勝てないな」

ナビ『…そっか』

男「てっきりお前も付いてくるのかと思ってたんだけど」

ナビ『久しぶりの親子水入らずやん!やっぱ邪魔したアカンなーって』

ナビ『でも、男ちゃんの顔見てたら行かんで正解やったわぁ』

男「ん?俺どんな顔してる?」

ナビ『んとね、いつもより優しい顔しとぉよ♪』ニコ

男「…なんか恥ずかしいな」テレ

男「さて、そろそろ出発するか」

ゴゴゴゴゴゴ…



ナビ『ん?なんか揺れとぉな?』

男「地震かな?」



グラッ…グラグラッ!…ガガァン!!



男「!!!!」ガシッ

ナビ『何なんこれ!?カーゴが下から突き上げられとぉみたいな揺れや!!』グワングワン

ピピッピピッ

男「こんな時に何だ!?」カチャ

男「はい!」

配車係「男さん無事ですか!?」

男「今鍛治職人の里なんですけど!突然めちゃくちゃ地面がゆれd」配車係「大変なんですよ!!!!!!」キィィィン…

男「…っく!何が起こってるんですか?」イテテ

配車係「今、鉱山の上空で大規模な戦闘が行われています!」

ナビ『上空?飛行タイプの魔族でも出たんか!?』

配車係「詳細は分かりません!ただ、こちらからも感知できる程の強力な広域魔法が使われているようで」

男「空中…強力な広域魔法…」

男「…まさか!」ハッ

配車係「…可能性は高いです」

配車係「とにかく里の周辺は危険です!過給装置全開で出来る限り遠くへ避難して下さい!!」

男「了解!」カチャ

ゴゴゴゴゴゴ…

ナビ『なになに?何が起こってるん??』アワアワ

男「…魔族の中でも空を飛べる奴は多くない」

男「その上、遠く離れた物流協会から感知できるほど強力な広域魔法が使えるものと言えば…」

男「…魔王しかいない」

ナビ『ま、魔王…!』サァッ

男「そして、魔王と互角に戦える存在はたった一人…」

ナビ『じ、じゃあ今ウチらの頭の上で魔王と勇者が戦っとぉって事なん!?』

ナビ『ヤバいでヤバいでヤバいで!!すぐにこっから離れな!!』ピッ

[魔法石過給装置ヲ作動シテイマス…]ブォォォォ

男「待て!里の人達はどうする!?」

ナビ『分かっとぉけど!でもこのままじゃウチらも道連れや!!』

男「そりゃそうだけど…放ってはおけないだろ!!」ガンッ!



カッ………

…ッドカァァァァァン


男「うわっっ!」グワングワン

ナビ『ぐっ!…今は言い争いしとぉ場合やないやろ!!』キッ

ナビ『とにかく避難や!落ち着いたらまた助けに来よ!?な!??』

男「…そうするしかないか」ギリッ

ナビ『ほんなら行くで!しっかり掴まっとき!!』ブォン!

男「親父…みんな…無事でいてくれ」

バヒューーーーーン…!!!

-15:00 街道-



ブロロロ…

ナビ『この辺まで来れば大丈夫かぃな』



ブロロロ…キキッ

シィィィン…



男「…。」

ナビ『…謝らへんで』キッ

ナビ『男ちゃんの仕事をサポートすんのがウチの役目やもん。みすみす危ない橋渡らせるなんてでけへんよ』

男「…分かってるよ」フゥ

男「冷静さを欠いていたのは俺の方だ、お前がいなかったらあのまま死んでたかも知れない」

男「すまなかった」ペコッ

ナビ『…顔上げてーな』フルフル

ナビ『いきなりあんなんなったら誰でもテンパるよ』

男「…。」



シィィィン…

男「…戦争、なんだな」

ナビ『…ね。』

男「今まではただ目の前の仕事をこなして、例えば積荷が武器防具であろうが魔法石であろうが」

男「それが何の為のものか、何に使われてるかなんて考えもしなかった」

男「”それが仕事だから”」

男「そこで考える事をやめてしまっていた」

ナビ『男ちゃん…』

男「荷物を積んで、運んで、下ろして」

男「その先にあるものを想像する事すらしなかった」

ナビ『男ちゃん』

男「俺はこのままでいいのか…?」

ナビ『男ちゃんてば!』バンバン

男「!…悪い、どうした?」

ナビ『こーれ!』ツンツン

ピピッピピッ

[前方カラ移動体ガ高速デ接近中…距離1000]

男「っ!まさか別の魔族か!?」チャキッ

ナビ『…あ、待って?これは』

ナビ『…協会(うち)のカーゴやん!』パァァ

男「何だって!?」

ピピッピピッカチャ

男「はい!」

先輩「おー男!無事かー?」

-15:05 街道-



ゴゥンゴゥン…

男「来てくれたんですね!」

先輩「ちょうど運行終わって帰ってきたとこだったからな」

先輩「倉庫にあるモンで取り急ぎ役に立ちそうなのを片っ端から積んできた」

先輩「応急手当の出来る医療品、食べ物、燃料、あと毛布やなんかも」

ナビ『先輩はん…』ウルウル

男「ありがとうございます!!」ペコッ

先輩「倉庫の物品は一応客からの預かり物だが、なぁに」

先輩「金で解決できるモンはそれでいい。人命には代えられん」

先輩「さて…俺の大型カーゴじゃ里の中まで入って行けないだろうから」

先輩「里の人の手も借りてみんなで運び込むぞ」

先輩「手、貸してくれるな?」

男「もちろんです!」ナビ『やったんで!』

先輩「ははっ、ホントにお前ら息ピッタリだなー」

先輩「あ、そうそう」

先輩「女ちゃんから伝言頼まれたんだった」

男「女から?」

先輩「”必ず無事でいて下さい”」

先輩「”決して無鉄砲に助けに行こうなどしないように”」

先輩「だってよ」

ナビ『…っぷぷ』

男「見透かされてるなぁ…」ハァ

先輩「火災が発生してるかも知れないから、軍の消防隊も要請してある」

先輩「そいつらとも協力出来る事があればやろう」

先輩「そんなとこかなー、んじゃあ行くか!」

先輩「道案内よろしくー」バタンッ

男「了解です!よしナビ、行こう!」

ナビ『はいなぁ!ほな出発?』

ブォン!ブロロロ…

-17:00 鍛治職人の里入り口-



ゴォォ…モクモク…

ブロロロ…キキッ

ナビ『着いたー!』

男「…煙が上がってるな」チラッ

男「中がどうなってるか、入ってみなきゃ分からないか」ガチャ

男「ここからは手作業で運び込むから、カーゴは頼むぞ」

ナビ『了解!男ちゃん、気をつけてな』

男「あぁ、じゃあまた後で!」バタンッ



<ウイング開けるぞー

<台車持ってこーい

<いくぞ、せーのっ



ナビ『始まったわ』

ナビ『…おとさん、他のみんなも』

ナビ『無事でいてな…』



パチ…パチパチ…ボワッ!!



ナビ『!』ビクッ



<ダメだ、炉に燃え拡がる!

<おい毛布あったろ!

<水で濡らして持ってこい!



ナビ『あかん!火、が…!』

ナビ『男ちゃんに知らせなきゃ…う』



ズキン

ナビ『っ!…なんや?この感…じ』ゾクッ



ズキン…ズキン…



ナビ『この光景…見たことある…?』ブルブルッ



ボワッ!ブワァァァァ…!

<消防隊来たぞー!

<こっちだ!おーい!




ズキン…ズキン…



ナビ『うち…これ知っとぉ…火が』



ズキンズキンズキンズキンズキン



ナビ『いやゃ…こわい…なんnあぐgg??!あついあついあttttttたすけtttt』



ッパァァァァァ…



ナビ『!!!』

ナビ『いやあああああああああああ』




ピーーーーーーーーーーーーー

-3日後 物流協会事務局 女の執務室-



カリカリ…

[報告書(特)ナビシステムの不正シャットダウンと動作不良について]

女「現時点で判明しているのは、人格情報の基幹部(ベーシック)に一部損傷が見られる事、と」カリカリ

女「記憶情報の一部が内側からロックされている事…」カリカリ

女「ふぅ」カタンッ

コンコンッ

女「どうぞ」

先輩「おつかれさん」ガチャ

女「先輩さん!先日はありがとうございました」ペコッ

先輩「里での一件か?なんて事ないさ」

先輩「救援物資の運搬なんて運送屋がやらずに誰がやるんだ、ほい差し入れ」コーヒーコトッ

女「ありがとうございます」

先輩「ちゃんと休んでるか?少し痩せたんじゃないか?」ジーッ

女「ホントに相変わらずですね」クス

先輩「…ナビちゃん、どうだ?」

女「…。」フルフル

女「人格情報の基幹部(ベーシック)を外部から修復するのは難しいです」

女「というか、ほぼ不可能です」

先輩「そうなのか?」

女「…いただきます」ズズッ

女「…。」フゥ

女「ナビシステムの人格情報はゼロから作り出したものではないんです」

女「元となるデータは、被験者の人格情報…心を魔法石に写し取ったものなんです」

先輩「男自身の心ってことだな」

女「正確にはその一部ですが」

先輩「話には聞いていたが、実際そんな事が出来るのか?」

女「魔法石と、高度な能力を持った詠唱士の力があれば」

先輩「なるほどねー、人の心ん中なんて複雑過ぎて他人には計り知れんからなぁ」スッ…シュボッ

女「あ、この部屋禁煙です」

先輩「う、すまん」シマイ

女「修復する方法があるとすれば、元となった被験者の心と魔法石をもう一度リンクさせて」

女「損傷する前の人格情報をサルベージするしかありません」

先輩「…今のあいつに出来るかな」

女「やってもらうしかありません」

先輩「そうか…」

先輩「俺からも少し話してみるよ」

女「お願いします」

先輩「女ちゃん、一人で気負い過ぎるなよ?」

先輩「そんな顔してちゃ美人が台無しだ」ニコ

女「ありがとうございます」クス

-翌日 王宮 議事堂-



議員「…報告は以上です」

側近「ご苦労。さて、先日の鍛治職人の里での事故だが」

側近「救援に当たった軍の方から被害状況の報告を聞かせてもらおう」

側近「騎士長」

騎士長「はっ」ガタッ

騎士長「里の人的被害は死者はゼロ、軽傷者が数名出ている程度です」

側近「不幸中の幸いか」

騎士長「はい。しかし火災により炉の建屋が焼失、再建には時間が掛かるでしょう」

騎士長「それから、共同で救援に当たった物流協会からなんですが」チラッ

側近「申してみたまえ」

事務局長「では私から…」ガタッ

事務局長「えー里の人命保護を最優先と考え、物流倉庫での預かり品を持ち出しております」

事務局長「こちらが明細なんですが…」ペラッ

側近「どれどれ…むぅ」チラッ

国王「うむ」

側近「構わん。人命には代えられん」

側近「協会から王国宛に請求を上げたまえ」

事務局長「承知しました」

側近「しかし民間人に被害が出るなど本末転倒だ」

側近「勇者の力…早急に策を練らねばなるまいな」

…スクッ

国王「諸君」

国王「人は愚かな生き物だ」

国王「それは如何に強大な力を得ようと決して変わらぬ」

国王「いや、強大な力を持つに至ったが故に道を誤る事もままあるのだ」

国王「勇者による魔王の討伐は、民にとって希望の光」

国王「光は決して曲がらぬ」

国王「否、曲がってはならぬのだ」

国王「その事を肝に銘じてくれたまえ」

一同「はっ」

-10:00 王立修道院 礼拝堂前-



同僚「ちわーっすww物流協会でっすwww」

同僚「修道院名物の特製エールと薬草を積みに参りやしたーwww」
同僚「…おーいw」ダレカー



シイィィン…



同僚ナビ『人影がありませんね』

同僚「おっかしいなーw10時着の予定だったよな?」

同僚ナビ『はい。依頼書には確かに』



…ガタンッ!



同僚「!」ビクッ



…ガタガタッ!バタンッ!!



同僚「…誰かいるのか?」

同僚ナビ『扉の中からですわね』

同僚ナビ『見てきて下さいまし』

同僚「マジかw」

ソローリ…ギィィィィ



同僚「こんちわー…」チラッ

同僚「ぬぁぁ!!!」ビクビクッ

同僚ナビ『!どうしました!?』

同僚「ひ、人が…」

「ふぇぇぇぇぇ…」





同僚「寝てる」





修道女「うぇぇ…もう飲めませぇぇん…」ヒック

-10:30 修道院倉庫-



シスター長「いやはや誠にお恥ずかしい」フカブカ

同僚「いやいやいいんすよw誰だって飲まなきゃやってられない時ってありますからwww」

シスター長「あの子の場合そういう次元ではなくてですね…」



<うぇぇぇ気持ちわるいぃぃぃぃ

<オロロロ



同僚「あーぁwww」

シスター長「彼女…詠唱士としての資質は素晴らしいのですが、あの通り酒癖が最悪でして」



<神は留守です!有給取ってカジノへ行ってます!!

<なんちってwww



同僚「確かにひでぇなwww」

同僚ナビ『しかも若干同僚さんとノリが似てますわね』

シスター長「近く、高度な詠唱の依頼が来ているのですが本人があの有様で…」

同僚「まぁ能力が確かなら、酒さえ飲まなきゃいいんじゃね?って気もww」

同僚「それによく見りゃなかなか美人じゃんかwwうはww高まるwwww」

クルッ

修道女「んーなんれすかぁぁ?神の従者たる私をナンパれすかぁぁ???」グイッ

同僚「なんか来たwww」

修道女「まぁまぁそうカッカしないでくらさいよぉ」たゆん

同僚「!!!」カッ

修道女「お兄さんいい度胸してまふねぇぇ」ヘラヘラ

修道女「気に入った!まま、おひとつ」エールドゾー

シスター長「こら!いい加減になさい!」グイッ

同僚「や、やめろって!俺はこれから運転すんだから飲めねーよ!」アセッ

同僚「…チラッ」たゆーん

同僚ナビ『はぁ。同僚さんが草生やしてない時はマジトーンの時ですわ』

同僚ナビ『ちょっとお嬢さん。その辺で勘弁して頂けるかしら?』チョイチョイ


修道女「あぁん?何ですかこのちんちくりんの貧乳は」ケラケラ

同僚ナビ『!!!』ピキッ

同僚「あ、やべw」

同僚ナビ『人の気にしている事をぬけぬけと…酔っ払いだからと言って聞き捨てなりませんわ!!!』ムキー

修道女「おーこわwボリュームも足りなければ余裕も足りないみたいねww」アハハハ

シスター長「あぁもう何たる醜態を…」オロオロ

同僚「と!とにかく荷物は確かに預かりましたんで!あざーした!」バタンッ

キュルキュル…ブォン!

修道女「あ!ナンパしといて逃げるなー!!」ジタバタ

同僚ナビ『ちょっと同僚さん!あのホルスタインにぎゃふんと言わせないと気が済みませんわ!』プンスカ

同僚「女同士の諍いに巻き込まれるなんてごめんだっつーのwwwそれじゃどーもwww」マニュアルモードオン

同僚ナビ『あ!ちょっ!』

ブォン!ブロロロ…

-夕刻 王都酒場街-



ワイワイ…ガヤガヤ…

男「あーもう次から次へと!」グイッ

同僚「煮詰まってるねーwww」ごくごく

男「勇者と魔王の戦闘で里は半壊…」

男「親父が機転を効かせてくれたお陰で里の人達は擦り傷程度で済んだけど…」

同僚「さすが親父さんww」

男「炉は焼失しちまったからしばらくは鍛治仕事も開店休業だ…」

同僚「まぁそりゃ仕方ねーっしょw里の人が無事ならきっと建て直せるさwwww」

同僚「人間そんなに弱かねぇってwww」ぐび

男「それに加えて…ナビの奴」シュン

同僚「それなwwどうしちまったんだろ?火事場にビビったかwwww」

男「…。」グイッ

男「…そもそもナビシステムって何なんだ?そりゃ仕事は助かってるけど絶対に必要かって言ったら…」

同僚「そりゃお前あれだろ?物流協会(うちら)を実験台にしてデータでも取ってんじゃねwwww」

同僚「大方、ゆくゆくは軍事利用でもしようと思ってんじゃねーのwww」ぐびぐび

男「!っそうなのか!?」ガタンッ

同僚「ちーっと考えれば分かる事だろwww軍隊大好き国王陛下の考えそうな事じゃんかwwww」

男「どれもこれも戦争の為なのか…」ギリッ

ガチャ

先輩「だったらどうなんだ?」

男「え?」

同僚「あ、先輩ちーすwww」

先輩「おつかれ。あ、俺エールね」

同僚「おいっすww男は何飲むww?」

男「…タンカレー、ショットで」

同僚「あーあww了解ww」ガタッ

<乾杯!カチンッ



先輩「…さて、仮にナビシステムの運用が軍事利用を目的としたものだったとして」

先輩「それでお前とナビちゃんの関係は変わるのか?」

男「俺たちの関係?」

先輩「そうだ。コンビで色んな運行をして、色んな所で色んな人と関わって」

先輩「お互い助け合って色んな事を乗り切ってきたんだろ?」



ワイワイ…ガヤガヤ…



男「俺は…」

男「…。」グイッ

男「…何があろうと、ナビ(あいつ)が俺の相棒って事は変わらないです」

同僚「よく言ったwwいいぞー男www」

先輩「今ナビちゃんは何かに怯えて出てこれなくなってる」

先輩「手を差し伸べられるのはお前だけだ」

先輩「あの子とお前の心をもう一度リンクさせて、隠されてるものを見つけ来い」

男「俺の心と?どういう事ですか?」

同僚「お前インストールの時に説明あったろww」

同僚「ナビシステムは使用者の心を写し取って魔法石に閉じ込めたモンだってw」

男「全然覚えてない…」

先輩「俺は使った事ないからよく分からんが、インストールの際に記憶が飛ぶのはよくある事らしい」

同僚「あれ?先輩ナビシステム使ってないんですっけw」

先輩「選考に落ちたんだよ、あれも向き不向きがあるらしい」ぐび

先輩「とにかく、ナビちゃんと心を繋げられるのはお前だけだ」

先輩「今はそれだけ覚えとけ」

-深夜 王都酒場街-



<ありやしたー!

先輩「すっかり遅くなっちまったな」

男「すみませんご馳走になってしまって」

先輩「なに、一応年長者だからな」

先輩「こんな時ぐらいカッコつけさせてくれや」

同僚「先輩ごちでーすwwwやだかっこいいwwww」ケラケラ

先輩「こいつ酔っ払ってんなぁ…ちゃんと帰れるか?」

男「ははっこれで案外大丈夫なんですよ」

先輩「そうなのか…?」ジーッ

同僚「やだ照れちゃうwww」ケラケラ

先輩「はぁ…男は大丈夫そうだな」

男「はい。っていうか先輩と話してシャキッとしちゃいました」ハハ

先輩「まぁあんまり気負い過ぎんなよな」

先輩「気ぃつけて帰れよ」

男「はい!それではおやすみなさい」ペコッ

先輩「はいよ、お疲れさん」フリフリ

同僚「おつかれサマンサーwww」フリフリ

同僚「んだよ男の奴wさっさと帰りやがってwww」テクテク

同僚「微妙に飲み足りねぇなwwもう一軒行きますかwwww」

[BAR REQUIEM]

…カランッ

同僚「こんばんわっすw」ガチャ

同僚「お嬢さんお隣失礼しますよっとw」ストッ

女性「はいどうぞ…ん?」

修道女「あ!あなたは!」ビク

同僚「げっ!お前はこの前の酔いどれ(たゆんたゆん)シスター!」ビクッ

修道女「…その節は大変ご迷惑を…」フカブカ

同僚「あれw今日は普通じゃんw」

修道女「まだ来たばかりなので…」シュン

同僚「あーシラフだとそういうテンションなのねwwなら平気かwww」

同僚「むwしwろwww」チラッ

同僚「まぁ飲もうぜww俺フィディックをロックでwwwあんたは?」

修道女「ぼ、ボストンクーラーをお、お願いします」

<お待たせしました

<乾杯!カチンッ



同僚「つーかシスターが夜な夜な飲み歩いてていいのかよwww」クイッ

修道女「わ、私のところはエールを造っている位ですので」

修道女「その辺は緩いのです」クイッ

同僚「にしてもww緩いにも限度があんだろwwww」ケラケラ

修道女「あぁぁ…あの時の醜態はどうか忘れてくださいまし」シュン

同僚「インパクトあり過ぎて忘れらんねぇよwwwww」

同僚「つか聞いたぜ?詠唱士としての能力はマジモンだってww」

修道女「わ、私なんて全然大した事!」フルフル

同僚「いやいやwwwそうでなきゃ速攻追い出されてるだろwww」

修道女「うぅ…プレッシャーに弱いのです…」シュン

修道女「近々また高度な詠唱の依頼が来ていまして…」ハァ

同僚「んん?それってもしかして人とナビシステムを再リンクする的な奴だったりする??」

修道女「ご、ご存知なんですか?」

同僚「ご存知ご存知wwwだってその対象者って俺の同期の奴だもんwww」

修道女「そ、そうなんですか!?」

同僚「…ってな訳で、あんたの力を貸してちょーだいってことwwww」

修道女「…。」ウツムキ

同僚「どしたー?眠いのか?」チョイチョイ

修道女「…同僚さんっっ!」バッ

同僚「っな、何だよ」ビクッ

修道女「わたし…かんどーしました…」ウルウル

同僚「今の話のどこに感動要素があったんだよwww」

修道女「わたひ、がんばりまふ!」スクッ

修道女「ぜったいにおふたいを!さいかい!させてみせまふ!!」フンス

同僚「ちょww呂律が迷子www急に立ち上がるからwwww」

修道女「どーりょーしゃん!わたひ!わたひは!!」ジタバタ

同僚「あーもー分かった分かったwwマスターお会計wwうん一緒でwww」ヨッコラセ

<ありがとうございましたー

同僚「結局こうなるのねww」ヨイショ

修道女「えへへーwwどーりょーしゃんとみっちゃくwww」

同僚「肩貸して歩いてるだけだろがww…しかし」チラッ

修道女「…んー?どこ見てるのかなー???」クス

同僚「っ!いやあのべつにw」タジ

修道女「まー見られて減るもんでもないしww構わんよwww」ケラケラ

同僚「そう言われると逆に萎えるwww不思議www」ケラケラ

同僚「…。」テクテク

修道女「」スゥ…スゥ…

同僚「おぶった瞬間に寝やがったw」

修道女「」スゥ…スゥ…

同僚「まぁ、大変だとは思うが」

同僚「男の事、頼むぜ」

-3日後 王立アカデミー研究室-



ブゥゥン…ブゥゥン…

女「気分はどう?」

男「なんだか緊張するよ」

研究室職員「楽にしていて下さい」

研究室職員「これから男さんの精神と魔法石とを再リンクします」

研究室職員「まず男さんには深い睡眠状態に入ってもらい、ナビシステムの心の中へ入っていきます」

研究室職員「現状ナビシステムの人格情報に損傷が見られる為、普段とは性格が異なっている場合があります」

研究室職員「あまり気にしないように」

研究室職員「上手くコンタクトが取れたら、ロックの掛かっている記憶情報にアクセスしていただきます」

女「男くん、先に謝っておくわ」

男「?どうしたんだ急に」

女「あなたは忘れている、忘れていたかった…」

女「そういう記憶を直視する事になるからよ」

男「仕方ないよ、それに俺の記憶をナビの奴に肩代わりさせておくわけにもいかないし」

女「謝りたい事は他にもあるのだけれど…」

男「?」

女「いえ、直接その目で見てきて頂戴」

男「うん、分かったよ」

バタバタバタッ…ガチャ!

修道女「遅くなりましたー!」ハァハァ

研究室職員「詠唱士の方ですね?お待ちしておりました」

女「遅かったじゃない」

修道女「す、すみません!」ペコッ

修道女「あ、あなたが男さんですね?」

男「?はいそうですけど」

女「今回の再リンクには高度な呪文の詠唱が必須なの」

女「そこで王立修道院から選り抜きの詠唱士の方をお呼びした…のだけれど」チラッ

修道女「ど、同僚さんと約束しました!絶対にナビさんを呼び戻して来て下さいね!」たゆん

修道女「私、全力でサポートします!」たゆーん

男「同僚と?よく分かんないけど、あぁ」

男「必ずあいつを連れ戻して来るよ」

女「(負けた…)」クッ

-王立アカデミー 研究室-


ブゥゥン…ブゥゥン…

修道女「それでは詠唱を始めます」キリッ

スゥ…

[闇よ 月よ 全ての星々よ]

[夜の帳に舞い降りたる汝の名において]

[この者にひと時の安らかなる眠りを与え給え]

パァァァァ…

男「」zzzz

女「…寝たわね」

修道女「深い眠りです。フライパンでひっぱたいても起きません」

女「確かに」ペシペシ

修道女「続いて、男さんの精神と魔法石をリンクさせます」

女「頼むわ」

修道女「…」キッ

[数多の心の一欠片 全てを統べる金色の意志]

[夢と現の狭間に在りし 敬虔なる汝の名において]

[今ここに眠りし 小さき者達の魂を]

[慈愛の縁(えにし)で結び給え ]

パァァァァ…グワン!

修道女「…っく」ギリッ

男「」zzzz

女「(男くん…)」

女「(ごめんなさい…)」

研究室職員「魔法石とのリンクが始まりました!」

修道女「…。」ギリリッ

-魔法石内部 精神世界-


シィィィン…

男「…ん」パチ

男「ここが魔法石の中か…んっ」ノビーッ

男「まずはナビの奴を探すか」スクッ

男「ナビシステムを探すってのもおかしな表現だけども」クス

テクテク…

男「見渡す限り真っ白な世界だな」

男「動くものは何も見えないし、声も聞こえない」

ザザッ…ザザッ

女『男くん聞こえる!?』

男「女か?あぁ聞こえてるよ」

女『どうやらリンクは成功したみたいね』

女『どんな状況?周りに何か見えるかしら?』

男「いや、見渡す限り真っ白な…ん?」

女『何か見えるの?』

男「あれは」テクテク

男「間違いない、俺のカーゴだ」ペタペタ

女『…なるほどね、男くんとナビちゃんが最も長い時間を過ごしたのがカーゴの中ですものね』

男「とりあえず乗ってみるか」ガチャ

女『気をつけてね。精神世界は夢と想像力の世界』

女『なにが起こっても不思議じゃないわ』

男「…うん、さっそく実感してるよ」

女『!男くん!何があったの!?』



「あーもーうるさいなぁー」

「邪魔せんとって」

女『ちょっと!おt』プツッ

男「…探すまでもなかったな」

ナビ「ちゃーお?」フリフリ

男「久しぶりだな…心配したんだぞ?」

ナビ「…夢やってん、いや今も夢の中みたいなもんやけど」

男「?」

ナビ「男ちゃんの助手席に座んの?」ニコニコ

男「…ここでは実体があるんだな」

ナビ「せやでー?ほら見てみて!隣国でもらったストール巻いてみてん」フワッ

ナビ「なぁ似合うー??」

男「あぁ、よく似合ってるよ」ニコ

ナビ「えへへー?カラダがあるで、お望みならあんな事やこんな事も出来てまうでー?」ヘラヘラ

ナビ「とりあえず、触っとく?」モミ

男「バカ言ってんなよ…でも意外と元気そうで安心したよ」

ナビ「…そう思う?」


キュルキュル…ブォン!

ゴゥンゴゥン…

ナビ「男ちゃんはな、ウチの中に色々置き忘れてん」

ナビ「っていうかウチ自身も忘れててんけど」

ナビ「…忘れたまんまでいたかったけど。」ハァ

ナビ「見に行くんやろ?その為に来たんやもんな」

男「あぁ、お前に持たせたままじゃいられないからな」

ナビ「…言うたな?」

ナビ「ほんなら行こか。ウチらの思い出再発見ツアー?」

ナビ「しっかり掴まっとき。」

ブォン!ブワァァァァ…!

ブワァァァァ…

ナビ「男ちゃん、ちっちゃい頃の事覚えとぉ?」

男「里にいた頃か?親父に剣術を叩きこまれたり…」

ナビ「他には?友達の事とかは?」

男「友達?…いたはずだな、よく思い出せないが」

ナビ「…ほんならその前は?」

男「その前?」

ナビ「里に来る前の事。」

男「里に来る前?いやいや俺は里が地元で…」

ナビ「ちゃうで。」フルフル

ナビ「男ちゃんの…ウチらの産まれた場所は里やない。」

ナビ「ついでに、男ちゃんが親父って呼んどぉ人も」

ナビ「男ちゃんの本当の父親やない。」

男「っ!…おいおい何を言い出すんだ!俺は里の生まれで…」

ナビ「まぁまぁ。まずはそっからやな。」

ナビ「これからウチらの本当の生まれ故郷に行くで。」

ナビ「その場所が失われるその時へな。」

男「俺の本当の生まれ故郷…」

ナビ「そ。今から20年前の」カチッ

ガタンッブロロロ…

ナビ「北西の小さな村。」

ブロロロ…キキッ

ナビ「よぉ見とって。」

カッ…バヒューーーーーン…



ゴォォォォ…パチッパチッ


<おい!はよ逃げぇ!!

<がはっ!煙の勢いが…!

<誰か!まだ子供がおる!!


ブワァァァァ…!


男「ここは…」

ナビ「20年前、この北西の小さな村は焼失した。」

ナビ「この前の里ん時と同じ、勇者と魔王の戦闘の巻き添え食ぅてな。」

ナビ「殆どの村人が亡くなったんやけど、ウチらは奇跡的に助かった。」

ナビ「気ぃ失っとったおかげで煙をあんまり吸い込まんで済んだんや。」

ナビ「ほら、あれ見て。」



<いややー!おとん!おかん!

<来い!とりあえず安全な場所まで逃げるで!



男「おじさんが小さな子供を…!」

男「おい!あれが俺なのか!?」

ナビ「ちゃうで。よぉ聞いてて。」



<うぅ…おとん…おかん…

<お…とこくん…



男「っ!!!…今俺の名前を…」

ナビ「今燃えとぉあの家が、ウチらの本当の生家。」

ナビ「今おっちゃんに助け出されたあのちびっ子はな、女さん。」

男「女!?女だって!??」

ナビ「今ウチらはまだあの家ん中におんねん。」

ナビ「炎に巻かれて、逃げようにもどっちがどっちかも分からんよぉになって」

ナビ「ウチらの両親は亡くなった。」

男「そ、そんな…」ガクガク

ナビ「隣に住んでた女さんは、ウチら家族がまだ家の中におるのに気がついて」

ナビ「助け出そうとしたんや。」

男「女が…」

ナビ「でも無理やった。そらそうやろ?ちびっ子一人でどうにかなる訳ないやん」

ナビ「アホな女さん。」クスクス

男「な、お前、笑って…?」ゾクッ

ナビ「なぁ男ちゃん、こっから見てても始まらんわ。」

ナビ「話聞いとぉだけじゃ実感できひんやろ?今あん中におる男ちゃんの意識に繋げるから。見てきて。」

男「あ、あの中に!?」ガクガク

ナビ「だいじょーぶやて。これは記憶の世界やねんから」ケラケラ

ナビ「ほな行ってきて。」スッ

男「おい待てっ!」グワン…グワングワン



ゴォォォォ…ブワァァァァ…!

男「…っく!」パチ

男「熱っ!ここは…暖炉の中か…!」

ゴォォォォ…パチッ!パチッ!!

男「煙がひど…えほっげほっ!」

男「何とかここから逃げなきゃ…通れそうな場所h ガシャーン!

男「!!っくそ!閉じ込められたっ」ガンガンッ

男「ダメだ、頭がぼーっとしてくる…煙を吸ったせいか…」クラクラ

男「誰か気付いてくれ…俺はまだここに…あっ!」

男「瓦礫の隙間から人影が見える…あれが女か…!」

男「…げほっげほっ!声を出そうにもこの煙じゃ…!」ハァハァ

男「頼む…気付いてくれ…」ギュッ

ブワァァァァ…!



男「このままじゃ死ぬ…助からない」クラクラ

男「あ、おじさんが女の手を」

男「行かないでくれ…俺を」

男「俺を置いて行かんとってくれ…」

男「お願いや…誰か…!!」



<くん…! おとこくん…!



ゴォォォォ…!!

男「うぅ…もう…あかんか」パタッ

男「頼む…一人に…せんと…って」ポロポロ



キラッ …パァァァァ


男「光が…なんや、へへ、お迎え、か…」ポロポロ


ブワァァァァ…!!


パチンッ

男「!!!」ビクッ

ナビ「はーいおかえりちゃーん♪」

ナビ「どうやった?って聞くまでもないか」ケラケラ

男「…うぅ」ポロポロ

ナビ「怖かったやろー?しんどかったやろー??」ニヤニヤ

男「…っ」グシグシ

ナビ「ウチらはあのまま気ぃ失って、あのすぐ後軍の救助隊に助け出された。」

ナビ「両親が亡くなって、天涯孤独の身になってもうたんやけど」

ナビ「そんなウチらを女さん共々引き取ってくれたんが、里の親父さん達やったっけワケ。」

男「…なんで、お前…ずっと…」ポロポロ

ナビ「言わんかったかって?せやからウチも忘れててんもん」アハハ

ナビ「ホンマに思い出してたくなんてなかった。」

ナビ「でもあの時、里の炉が燃え上がったのを見て」

ナビ「ぜーんぶ思い出してもた。」

ナビ「燃え盛る炎の熱」

ナビ「煙で喉が焼かれる痛み」

ナビ「暖炉の中に閉じ込められて」

ナビ「誰も助けてくれへんかって」

ナビ「女さんの姿が見えたけど」

ナビ「呼んどぉ声も聞こえたけど」

ナビ「こっちの声なんか届くはずもなくて」

ナビ「そのうちに連れて行かれてもぉて」

ナビ「また一人取り残されて」

ナビ「痛くて」

ナビ「熱くて」

ナビ「怖くて」

ナビ「悲しくて」

ナビ「寂しくて」

ナビ「…。」キュッ

ナビ「分かったかいな?これがウチらの本当n」男「すまなかった!」ダキッ

ナビ「ちょ!ちょっと男ちゃん!こんなとこでアカンよぉ…///」カァァッ

男「お前一人に苦しい記憶を押し付けてしまって…俺…」ポロポロ

ナビ「…えぇんやで。」ナデナデ

ナビ「ウチこそ怖い思いさせてごめんな。」ナデナデ

ナビ「でもな?ほんまは知ってもらえて嬉しいねん。」ナデナデ

ナビ「知ってもらいたかってん。」

ナビ「ウチずっと…独りぼっちやったからぁ…うぅ」グスッ

男「…。」ポロポロ

ナビ「男ちゃぁん…ウチ…怖かった…」ポロポロ

ナビ「さびしかったよぉぉぉ」ポロポロ

男「…。」ギュッ

ナビ「うわぁぁぁあん…!!」ポロポロ

ナビ「ぐすっ。ごめんな。」グシグシ

男「いいんだ、好きなだけ吐き出してくれて」

ナビ「…うん、もう大丈夫。」ニコ

ナビ「さて男ちゃん、しゃんとしよか。」トントンッ

男「…あぁ」スッ

ナビ「たぶんな、女さんはこの時の事を今も引きずってると思う。」

男「女が?」

ナビ「ウチらを助けられへんかった、それどころか置いてってしもた」

ナビ「その思いにずぅーっと縛られとぉと思うねん。」

ナビ「赦してあげられるのは男ちゃんだけや。」

男「赦すも何も俺は…」

ナビ「ウチらはそうかも知れんけど、女さんにとってはそうじゃないねん。」フルフル

ナビ「だから戻ったら言うてあげて?もう自分を責めんといてって。」

ナビ「もう自分を赦してあげてって。」

ナビ「そう言うてあげて?いや、ちゃうな。」

ナビ「そう言うてあげよ?一緒に。」ニコ

男「…あぁ、分かった」

-王立アカデミー 研究室-



パァァァァ…

修道女「…っく…!」ビリビリ

女「(リンクが始まってかれこれ30分)」

女「(転移魔法…それも人間の精神を実質二人分扱うという情報量)」

女「(それに高度な幻惑魔法を複合した詠唱で、魔法石とのリンク状態を保ち続けている…)」

女「(伊達に修道院の選り抜きじゃない…この人、只者ではないわ)」

女「(でも、さすがに)」

修道女「…っ!はぁ…はぁ」ビリビリ

パァァァァ…

女「加勢するわ」スッ…パァァァァ

修道女「!?お、女さん転移魔法を!?」

女「あなたのような高度で大出力の詠唱は到底出来ないわ」

女「せいぜいあなたの魔力を補ってあげる位かしら…っく!」ビリビリ

女「すごい魔力消費ね…私一人じゃ5分と保たないわ」ビリビリ

女「でも、少しは足しになるかしら?」

修道女「大助かりです!ありがとうございます!!」ビリビリ

女「それにしてもその底無しの魔力…あなた一体何者なの?」

修道女「…じ、自分でもよく分からないんですよね」ヘラッ

女「どういう事?」

修道女「…。」ニコッ

修道女「ある日の朝、礼拝堂の入り口に揺り籠が置かれていて」

修道女「私はその中で寝息を立てていました」

修道女「そのまま修道院に引き取られた私は、シスター長さんの実の娘として育てて頂いたのです」

女「…辛い話をさせたわね、許して頂戴」

修道女「い、いえいえ!」ブンブン

修道女「…今のは、私が親に捨てられた話ではなく」

修道女「愛のある方に見つけて頂き、育てて頂いたという話」

修道女「私が、この世界から確かな愛をもらったという話なのです」

女「…!」

女「…愛、ね」

修道女「す、すみません!一応宗教家の端くれなものでこんな口調になってしまうのです」アセアセ

女「いいのよ。素敵なお話だったわ」

女「聞かせてくれてありがとう」

パァァァァ…

パァァァァ…

修道女「…女さんも一緒ですよ」ビリビリ

女「?どういう事かしら」ビリビリ

修道女「なんとなく分かります、目を見れば」

修道女「女さんにもきっと誰かの愛が注がれているはずです」

修道女「誰だって同じです、気付いていないかも知れませんが…」

女「…私に愛される資格なんてあるのかしら」ボソッ

修道女「?」

女「何でもないわ、それより中の様子はどうなのかしら」ビリビリ

女「だんだんキツくなってきたわ…」フゥ

修道女「ですね…上手くいってると良いのですが…っく!」ギリッ

パァァァァ…

…さん…なさん…!

女「!この声は!」

<女さん!ウチやで!

女「ナビちゃん!」

<心配かけてごめんなさい!ウチはもう大丈夫やでー!

女「そう…良かったわ」ホッ

<これから男ちゃんがそっちに戻るで!

<受け止めたってー!

修道女「す、すごい…!本当に魔法石の中に人の心が…!」

<んー?おねーさんだれー?

<まぁええか!ほなよろしくー!

パァァァァ…バシュンッッ!!

修道女「…っく!はぁぁぁぁ…」パタッ

女「ちょっと!大丈夫!?」ダキッ

修道女「さ、さすがに疲れましたぁ…」グッタリ

女「見事にやり遂げたわね、大したものだわ」

女「お疲れ様、ありがとう」ニコッ

修道女「え、えへへ…やったぁ」ニヘラ

男「…ん」パチ

女「男くん!」

男「やぁ、どうにか帰って来たよ」フラ

男「一時は焼け死ぬかと思ったけどな」ハハッ

女「…っ!!」

男「その話はあいつが戻ってから、な」

男「それよりその人大丈夫か?」

女「…かなり消耗しているわ、常人じゃそれこそ干からびる程の魔力を使い続けたのだから」

修道女「zzzz」スゥ…スゥ

スッ

男「初めて会ったけど、感謝しています」

男「あなたの力が無かったら、俺達は自分を取り戻せなかった」

男「本当にありがとう」ペコッ

修道女「zzzz」スゥ…スゥ…ニコッ

-夕刻 王都 市街地-


ブロロロ…

同僚「…なげーーーよwwwwwww」

同僚ナビ『あらそうですか?今日の配送はもう終わりでしてよ?』

同僚「つかスレタイ詐欺じゃねww魔法はともかく運送業どこいったwwww」

同僚ナビ『またわけの分からない事を…おや?事務所からですわ』ピピッピピッ

カチャ

同僚「おつかれサマンサwww」

配車係「…またわけの分からない事を」

同僚「んだよノリわりぃなwwどったの無線なんてwww」

配車係「ノリって…実は一件飛び込みで集荷の依頼がありまして」

同僚「でたでたww早く帰れると思った時に限ってこれだwww」

配車係「まぁそう言わないで下さいよ、なにしろ同僚さんご指名の依頼で」

同僚「俺指名ってマジかwww指名料取っていーのww?」

配車係「その辺はご本人と話して下さい、協会は関知しませんので」フフッ

同僚「ご本人?あぁ荷主って事かww」

配車係「荷主というか…まぁとにかく向かって下さい、積み地は王立アカデミーですので」

同僚「了解しまくりですwww」カチャ

同僚ナビ『珍しいですわね、同僚さんご指名の集荷依頼なんて』

同僚「つーか初めてじゃねww時代がようやく俺に追いついたかwww」

同僚ナビ『…まぁキャラはともかく、ドライバーとしてのスキルは私も認めておりますわ』

同僚ナビ『私としても誇らしいですわね』ニコ

同僚「だろwwwんじゃまー行きますかwwww」

ブォン!ブロロロ…

-1時間後 王立アカデミー正門-


修道女「…。」

同僚「…。」

修道女「ど、どーも」

同僚「まwたwお前wかwww」

同僚「しかし集荷なんてどったのwwしかもこんな所でwww」

同僚「あ、あれかwwさてはイケないおクスリでも製造して運ばせようってかwww」

修道女「…。」チョイチョイ

同僚「あん?で、荷物ってどれよww」

修道女「わ、私です…荷物」アハ

同僚「」

修道女「ダメ…ですかね?」ジッ

同僚「」

-王都 街道-


ブロロロ…

修道女「先日は誠に申し訳…」フカブカ

同僚ナビ『…顔を上げてくださいまし』ハァ

同僚ナビ『まぁお酒が入ってらしたのなら仕方ない…といえる範疇を超えてましたが』ジトッ

修道女「うぅ…」ビクビク

同僚ナビ『男さんとナビちゃんの一件、大変ご尽力いただいたとか』

同僚ナビ『ナビ(あの子)の友人としてお礼申し上げますわ』

同僚「俺からも言わせてくれ」

同僚「あいつらの為に頑張ってくれて、ありがとな」ニカッ

修道女「い、いえいえ」ニコッ

同僚ナビ『まーこれで前回の暴言についてはチャラにして差し上げますわ』

修道女「よ、良かったです…」ホッ

同僚「それにしても集荷依頼って何だよwww」ケラケラ

修道女「あ、あのその…」モジモジ

修道女「男さんとナビさんの事、同僚さんには一番先に伝えたくて…」

同僚「そーゆー事ねwwそういや連絡先とか知らんもんなwww」

修道女「それに…真っ先に会いたかったし」ボソッ

同僚ナビ『!』ピコーン

ササッ

同僚ナビ『(そういう事ですの?あなたも変わったご趣味を…)』ごにょごにょ

修道女「(そ、そうですかぁ?や、優しい所もあるんですよ?)」ごにょごにょ

同僚ナビ『(そこはまぁ分かりますが…とにかくそういう事なんですのね?)』ごにょごにょ

修道女「(どうやらそういう事みたいです…何しろこんな気持ち初めてで)」ごにょごにょ

ごにょごにょごにょごにょ

同僚ナビ『何でもありませんわ』シレッ

同僚ナビ『それより同僚さん、今回の件では修道女さんに大きなご恩があるのですから』

同僚ナビ『ここはひとつお礼の席でも設けて差し上げては如何でしょう?』

同僚「名案キタwwww素敵じゃないのwww」

同僚ナビ『男さん達の復帰祝いもありますしね』

同僚「お前さん頑張ってくれたしなwwみんなでぱーっとやるべwww」ポンポンッ

修道女「///」カァァッ

修道女「は、はい!ぜひ!」

同僚「協会(うち)の連中には俺から声掛けておくからよww」

修道女「お、お願いしちゃっていいんですか?」

同僚「まwかwせwろwww」ビシッ

修道女「じ、じゃあお願いしますね!」

同僚「おうよwwあ、そしたらお前さんの連絡先も聞いとくかww」

修道女「は、はい!」カキカキ

同僚ナビ『(まずは連絡先交換、次は大人数で…そこから徐々に距離を縮めて…)』

同僚ナビ『(いける…黄金パターンですわ)』ニヤリ

-後日 王都酒場街-


[BAR REQUIEM]

カランカランッ…

先輩「全員揃ったな」

同僚「おっけwそれじゃ始めますかww」

<乾杯!カチンッ…

同僚「ぷはwやっぱ一杯目はこれよねww」ぐび

男「そういえば今日は全員エールなんだな」

女「今回の功労者である修道女さんに敬意を表して、ね」ごく

修道女「な、なんだかすみません」アセ

同僚「でもこれ普通に美味いからなww」

先輩「修道女ちゃん達が製造したエールを、俺達運送屋が各地に運んで」

男「こうして色々な人の手に渡るわけか」

男「なんだか感慨深いな」グビ

女「あ!いけない忘れる所だったわ」

女「修道女さん」チラッ

修道女「は、はい!」ごそごそ

コトリッ…

同僚「んー?何だそのデカい魔法石はww易でも立てようってかwww」

女「修道女さんに情報転移魔法のコツを教えて頂いたの」パァァァァ

修道女「今日の主役の登場です!」パァァァァ

ナビ『やっほーみんな?』ピョンッ

男「おぉ!」

同僚ナビ『私もおりましてよ』スッ

同僚「お前もかwww」

女「ナビちゃん達のインストールされている本物の魔法石は協会の備品だから」

修道女「彼女達のデータだけを情報転移魔法で連れて来たんです」

先輩「また規則ギリギリな事を…」

女「まぁいいじゃないですか、始末書なら私が」

先輩「配車係の奴には黙っておくよ、ともかくこれで本当に全員揃ったわけだな」

同僚「それでは改めましてww」コホン

<乾杯!カチンッ…

修道女「本当に良かったです、男さんとナビちゃん…」シミジミ

同僚「過去との再会ねーw」

先輩「辛い記憶だとしても、今になって取り戻せたのならそれは何か意味のある事なんだと思う」

先輩「これからのあいつらの人生において、な」

修道女「む、無駄なものなんかないですよね!」ダンッ

先輩「だな、親父さんも喜ぶだろうよ」

同僚「あれ?先輩あいつの親父さんと知り合いなんすか?www」

先輩「直接面識はないけど、俺は元々軍出身だから」カランッ

先輩「親父さんの噂…伝説に近いな、そんな話はよく聞いたよ」

同僚「伝説wwwやっぱ只者じゃなかったかwwwあ、俺マッカランをロックでwww」

先輩「俺も同じのを。そうだな…何てったって先代勇者一行の一人だからな」グイッ

修道女「せせせ先代勇者一行!!?」

同僚「話がインフレし過ぎて一般庶民の俺にはついていけねぇwwwww」

先輩「俺だって同じさ、軍を抜けて今はただの運送屋」

先輩「世界の命運なんざ雲の上の話だ」

先輩「でも、修道女ちゃん程の能力があれば軍からも声が掛かりそうなもんだが…あ、何飲む?」

修道女「わ、私なんて全然っ!あ、アマレットジンジャーをお願いします」

同僚「ホントかなーwww女ちゃんが大絶賛してたぜ?お前さんの事www」

修道女「…な、ない訳でもなかったんですけど」アセ

同僚「やっぱなwww」

同僚「で?断っちまったのかwwwまぁシスターが軍の仕事出来ねぇわなwww」

修道女「ぎ、逆です」

先輩「逆?」

修道女「わ、私元々が孤児ですからね」ヘラッ

修道女「今はシスター長さんの娘という事になっていますけど」

修道女「軍の偉い方にそういうの気にされる人がいたんじゃないですかね…なんて」ハハ

先輩「…お役所って感じだな、出自なんざどうだっていい事だろうに」ハァ

同僚「全くふざけた話ですね、今のコイツには何の関係もねぇのに…」チッ

修道女「(あ、草生えてない)」

修道女「ま、まぁ私としては何か皆さんの力になれるならいつでも!って感じですので!」

修道女「困った事があったら言って下さいね?」ニコッ

先輩「ありがとな。まぁ詠唱に関する事だと、女あたりがまた世話になるかも知れん」

先輩「その時はよろしくな」ニコッ

修道女「は、はいです!」ビシッ

先輩「さて、んじゃそろそろ行きますか」スクッ

同僚「あれ先輩帰るんすかwww」

先輩「ちょっと他の奴とも話してくるのさ、まぁ…邪魔者は退散すっから」コソッ

先輩「(上手い事やれや、ジェントルマン)」ニヤ

修道女「?」

同僚「かーっwwwみんなそういうの好きねぇwwww」

ナビ『どーちゃん久しぶりやんか!』ハイタッチ

同僚ナビ『ふふっ元気そうで安心しましたわ』ハイタッチ

ナビ『心配かけてごめんな?』

同僚ナビ『いいんですのよ、無事に戻ってらっしゃったなら』フルフル

ナビ『色々あって引き篭もってもぉてんけどな』

ナビ『男ちゃんが来てくれてん!』ニコニコ

同僚ナビ『聞きましたわ』

同僚ナビ『元々男さんの中にあった過去の記憶が』

同僚ナビ『コピーされるのではなく、ナビ(あなた)の側にそっくり移動してしまっていた…』

同僚ナビ『そういう解釈でよろしいかしら?』

ナビ『そぉなんよー、何でそんな事になったかよぉ分かれへんねんけど』ウーム

ナビ『よっぽど辛かったんやろな、男ちゃん』

同僚ナビ『その時、男さんはまだ2歳位でしたのでしょう?』

同僚ナビ『深い心の傷となるのも頷けますわ』

ナビ『でもな?男ちゃんは来てくれてん』

ナビ『わざわざ見たくもない過去の記憶と向き合ぅて』

ナビ『ウチにだけ押し付けられへんからって』

ナビ『正直ね、嬉しかったんよ』

同僚ナビ『優しい人ですね』ニコッ

ナビ『せやろー!?ホンマ大好きやわぁ男ちゃん♪』ピョンッ

同僚ナビ『…あなたって人は』

ナビ『で、どーちゃんは最近どうなん?同僚ちゃんと上手くやっとぉ??』

同僚ナビ『私達は相変わらずですわ』フッ

同僚ナビ『彼と私は良い意味でのビジネスパートナー』

同僚ナビ『彼のドライバーとしての能力を認めこそすれ、特別な感情を抱いたりは致しませんわ…が』

ナビ『が?なになに??』グイッ

同僚ナビ『実は最近同僚さんにも…』ひそひそ

ナビ『ほんまかいな!あ、あの修道女さんって人!?』ワクワク

ナビ『同僚ちゃんもたゆんたゆん好きやかんなー』ケラケラ

同僚ナビ『むっ…いえ実は、彼女の方からなのですわ』ひそひそ

ナビ『まーじーでー!?』ノケゾリー

ナビ『やるやん同僚ちゃん!隅に置けへんなー!』ニシシッ

ナビ『で?どーちゃん的にはその辺どぉ思ってるん??』わくわく

同僚ナビ『そうですわねー』ウーム

同僚ナビ『彼女は修道女らしく、慈愛に満ちた素敵な方だとお見受けしますわ』

ナビ『ほうほう』

同僚ナビ『詠唱士としての能力も高く、将来的な事を考えても悪くないお相手かと』

ナビ『えーやんべた褒めやん!』キャッキャ

同僚ナビ『ただし…』

ナビ『ただし??』



<バカルディ!店にあるだけ持ってきて!!

<なんちってwww



同僚ナビ『…あれさえ無ければ』ハァ

ナビ『あららー絶好調やんなぁ』

ガララッ…

女「バーにテラス席とは珍しいわね」

男「夜風が気持ちいいな」ストンッ

女「私はブルームーンを」

男「エールおかわり」


<乾杯 カチンッ…

女「…見てきたのね」

男「あぁ、あの村が消えるその日をな」

女「…今更私から何も言う事は出来ないわ」フルフル

女「あの時の事が、まだ小さかったあなたの心をどれだけ傷つけたか」

女「私は生涯自分を赦す事は出来ないと思う」

女「何も出来なかった自分を」

女「それどころか、あなたを置き去りにしt男「もうさ、やめにしないか?」

女「男くん…」

男「俺さ、あの時の記憶を追体験してきて」

男「確かに怖かった」

男「誰にも見つけてもらえずに、ただ死ぬのを待つしかないってのは」

男「今思い出しても震えるよ」

女「…っ」ギュッ

男「でもな?そんな状況で、女だけは俺を助けようとしてくれた」

男「必死になって俺の名前を呼んでくれた」

男「あの時の俺にも、それはちゃんと聞こえてたんだぜ?」

女「っ!だけどっ…!私はっ…!」

男「あの時は気付けなかった女の優しい心に、今回の一件でやっと気付けた」

男「ずっと苦しませてごめん」ペコッ

男「それ以上に、助けてくれようとしてありがとうな」ニコッ

女「…っっ!!男くん…」ジワッ

男「女が自分を赦せなくても、俺は女を赦すよ」

男「それどころか、今は感謝の気持ちでいっぱいだ」

男「だから、な?少しずつでいいから」

男「女は女自身のこと、赦したってくれへんかなぁ…?」ポンポン

女「うぅ…男くん…」グスッ

女「ごめんな…ほんまに…」ポロポロ

男「えぇて。もう過ぎた事やんか」ナデナデ

女「うぅ…あぁ…」ポロポロ

ナビ『どーちゃんとの恋バナに夢中になって出遅れたけど』コソッ

ナビ『男ちゃん、しっかり伝えてくれたみたいやな』ウンウン

ナビ『…でも、あの頭ポンポン』ジトッ

ナビ『やっぱりちびっと妬けるわ…』ムムム

-深夜 王都酒場街-


男「今日は皆さんありがとうございました」ペコッ

ナビ『ました』ペコッ

同僚「いーって事よwwwパーっとやるいい口実だったわwwww」

同僚ナビ『またそんな憎まれ口を…』

先輩「明日から復帰だろ?気合い入れていけよ」

ナビ『まかしてーな!ウチらは最強のコンビやで♪』フンス

ナビ『な!男ちゃん!』クルッ

男「あぁ、これからもよろしく頼むぞ」

先輩「それじゃここらで解散とするか。みんな気をつけてな」フリフリ

同僚「おつかれさんでしたーwww」

男「みんなおやすみなさい」

女「先輩さん」タッタッ

先輩「お、どうだ気分は」

女「えぇすっかり、ご心配お掛けしました」

先輩「なぁに、男が付いてたんだから安心してたさ」スッ

シュボッ…

女「…先輩さん」

先輩「?」スゥ…

女「一本頂いても?」

先輩「あぁ構わねぇよ、ほい」スッ

先輩「えぇと火は」ごそごそ

女「ここにあるじゃないですか」グイッギュッ

先輩「お、おいおい」

ジジッ…ポワッ

スゥ…フゥゥ

先輩「シガーキスなんざ初めてだ…」ポリポリ

女「私もです」

女「…お嫌でしたか?」ジッ

先輩「うっ…全く女心ってのは分からんもんだなぁ」ポリポリ

女「ふふっ」スパァァ

第1部完となります
ありがとうございました

おもっっっっしろい。
続きも期待します

読んでくれてる方がいて嬉しいです
ありがとうございます
第2部は明日から順次投稿します
よろしくお願いします

竜と勇者と配達人

草生やすの止めてくれ
内容は良いのに不必要に草生えてて途中で読む気が失せる

じゃあ読まなきゃいい

と言って欲しそう

色んな言葉を頂けて嬉しいです
励みになります
ありがとうございます

第二部始めます

-3ヶ月後 王都 街道-


ブロロロ…

ナビ『♪』ルンルン

男「ご機嫌だな」

ナビ『今日めっちゃ順調やんかぁ!珍しく荷待ち無しで積めたし』ニコニコ

男「大体待たされるからな、あそこの倉庫は」クスッ

ナビ『ウチらの日頃の行いがえぇからやなー』ウンウン

男「そうだな…」

男「…。」ボーッ

ナビ『んー?どしたん??』クルッ

男「…里での一件以降も、あちこちで軍と魔族の衝突が起きてる」

男「小競り合いから一般人に被害が及ぶ規模のものまで様々だが」

ナビ『そういえば増えたな』

男「…戦争は続いていて」

男「戦闘の度に傷付くのは普通に生きてる人達だったりもして」

男「…でも、俺達の仕事や生活自体にあんまり変化はなくて」

男「…。」

男「里での出来事が心の中で風化しつつあるのを感じるんだ」フゥ

ナビ『過ぎてしまえば、自分の身に降りかからなければ』

ナビ『忘れてってまう…みんなそんなもんなんちゃう?』

男「分からんではないけど…それでいいのかなって思うんだよ」ウーム

ナビ『んー男ちゃんの言いたいことも分かんねんけどな?』

ナビ『ウチらは勇者やない、ただの一般人やから』

男「…世界の命運を憂いても仕方ない、そう言いたいのか?」

ナビ『そこまで言わんけどなぁ』

ナビ『やからこそ、普通の日常を大事に過ごさなアカンなーとは思うねんかぁ』

男「普通の日常か…それは確かにそうだけどな」

ナビ『ま、ウチは男ちゃんとおれればおーるおっけーやし♪』ニシシ

男「お前は気楽でいいよな…」ハァ

ブロロロ…

-19:00 王立倉庫事務所-



同僚「異動っすかww?」

所長「うんそう。運送屋だけに」ププッ

同僚「草枯れる」

所長「あ、でも異動はマジよ」

所長「異動ってか抜擢?やったじゃない同僚ちゃん」

所長「しかも新規事業の立ち上げメンバーだってよ??」グイッ

所長「いやー眩しいわー後光が差してるわー」

同僚「抜wwww擢wwwww」

同僚「新規www事業wwww」

所長「いよいよ時代が君に追いついてきたんじゃないのー?このこのー」ウリウリ

同僚「どうやらそのようですねwww」フッ

同僚「それで?新規事業って何やるんすかww?」

所長「え?知らない」

同僚「えっ」

所長「えっ」

所長「なんかねー事務局の上層部直々の辞令なんだよねー」ホジホジ

所長「外部から顧問も呼ぶー?みたいな話ー?だったけど」フーッ

所長「とりあえず女ちゃんがプロジェクトリーダーになるみたいだからさー」

所長「明日の運行後にでも女ちゃんのとこに顔出してみてくれるー?」

同僚「深まる謎wwとりあえず了解っすwww」

所長「よろしくちゃーん」スタスタ



同僚「なんだか上手いこと乗せられてる気がwww」

-同刻 物流協会事務局 女の執務室-


カリカリ…

女「先人の知恵もなんとやら、面倒がらずに古い文献も漁ってみるものね」ペラ

女「今の魔術経典からは削除されている、情報転移や位相転移の詠唱…」フムフム

女「この辺を応用すればいけそうね…」ペラッ

女「問題は動力源、か」パタン

ドサッ

[禁書指定 それいけ!転移ちゃん!]
[禁書指定 カバでも出来る位相転移]
[禁書指定 絶対殲滅!爆撃☆どかん]

コンコンッ

女「どうぞ」シマイッ

先輩「おーす、おつかれ」ヒョコ

女「あら、お疲れ様」

女「遅くまで残業か?肌に悪いぞ」コーヒーヒョイ

女「ご心配どうも。でも今日は残業じゃないのよ」スッ

先輩「あぁ、いつもの趣味か」

女「ライフワークと言って欲しいわね、魔術の世界がこんなにも奥深いものだったなんて」フゥ

先輩「…あんまり奥まで首突っ込んで噛みつかれても知らんぞ?」

女「深淵を覗くものはまた同時に、って奴かしら?」

女「構いやしないわ、この探究心を止める事は誰にも出来ないもの」クックッ

先輩「お前ちょっとこえーよ…」ヒキッ

先輩「だが、覗き込んでくるのは深淵だけじゃないかも知れないぞ?」

女「それこそ望むところだわ、鬼でも蛇でも出てきてみなさい」フフフ

先輩「…そんな可愛いモンだったらいいんだけどな」ボソッ

-鍛治職人の里 広場-


ワーワー!タンッ!タンタンッ…!

親父「おーし!今日の稽古はこれまでー!」

<ありがとーございましたー!

親父「ふぅ…ガキどもの相手もなかなかいい運動になるな」フキフキ

親父「しかし…あいつら見てっと」シュボッ!スゥ…

親父「思い出すなぁ」スパァァ…

-17年前-

<こいつしゃべれねーんだって!

<えーへんなの!

<おいなんかいってみろよ!

幼男「…」グスッ

幼女「こらー!またよわいものいじめしてー!」ダダッ

<わ!おんなだ!

<おとこおんながきたぞー!

<にげろー!

幼女「まったくあいつら…」プンプン

幼女「さ!男くんかえろ?」クルッ

幼男「…」コクリ

幼女「でねー?あいつらったらひどいのよ!」ペラペラ

親父「まーアホどもの相手してもしゃーねぇさ」ゲラゲラ

親父「なぁ男!」ガシッ

親父「焦んなくていいんだぞ?」グシグシ

親父「声なんざ出なくったってお前はお前だ、女共々俺の大事な家族だ」

幼女「おじさん…」

親父「お前達の居場所はここにある。それだけ忘れんな、いいな?」

幼男「…」コクリ

親父「よし!」ニカッ

親父「まーそのうちコイツみたいにペラペラしゃべれるようになっからよ!」ゲラゲラ

幼女「なんかむかつくー」プクー

ワイワイ…

親父「クリスマスかー!」

親父「お前ら何か欲しいもんあるか?あんまり高ぇもんはダメだかんな!」

親父「…って!サンタのじじいが!」

幼女「わ、わたし新しい本が欲しい!」

親父「女は本が好きだなー!分かった!ジジイに頼んどく!」

幼女「やったー!」

親父「男、お前はどうだ?」

親父「何か欲しいモンあったらこのサンタのカタログを指差してだな」ズイッ

幼女「おじさん!ゆめがこわれる!」

幼男「…お…お…」

親父・幼女「!!」

親父「…何だ?ゆっくりでいいから言ってみ?」ナデナデ

幼男「お、おと…さん、て」

幼男「よ、よんで…い?」

幼女「お、男くん…!」ウルウル

親父「…っ!」ジワッ

親父「…ったくおめぇは無欲だな!修行僧かっつーんだよ!」グシグシ

親父「当たり前だろーが!パパでも親父でも好きなように呼んでいいぜ!」

幼女「うーんでもぱぱってかんじじゃないかも」

親父「そうだな…それに親父も…俺まだ30だし」ウーム

幼男「おと…さん」

幼男「おとさん!」ニコッ

親父「おうよ!じゃ決まりだな」ニカッ


-王宮 国王執務室-


側近「…。」

国王「…。」

事務局高官「…。」タラッ

側近「気になるな…この、男といったか」ペラッ

側近「先日の鍛治職人の里での事故現場に居合わせた際、過去の記憶のフラッシュバックによりナビシステムがダウン」

側近「本人は平気な顔をしていたのに、なぜナビシステムだけが…」

事務局高官「アカデミー研究員の話によれば、過去のトラウマの引き金になる記憶そのものが」

事務局高官「魔法石内部のナビシステム側にそっくり移動していたのでは、とのことで」

側近「共有ではなく移動だと?」

事務局高官「はい、原因は定かではありませんが…」アセッ

側近「ふぅむ…」チラッ

国王「…。」

側近「その後はどうなっておる?」

事務局高官「はっ、男との再リンクにより人格情報と記憶情報の相互共有に成功しました後は」

事務局高官「特に問題なく運行を行っております」

側近「…ひとまず落着、と見るか」チラッ

国王「いや」ギロッ

事務局高官「っ!」ビクッ

側近「その後は問題なし、と言ったが」

側近「再リンク後、その職員とナビシステムの関係性はどうなのだ?」

事務局高官「関係性、ですか…」

事務局高官「目に付く事と言えば、再リンク後は運行中の燃費効率が向上していますね」ペラッ

事務局高官「同じ運行でも拘束時間の短縮が見られたり」

事務局高官「総じて業務効率が上がっています」

側近「効率が上がったという事は、両者の連携が取れているという事だな」

事務局高官「はい。事務局としては良い傾向と捉えております」ニコッ

側近「…。」チラッ

国王「うむ」

側近「この男という職員とナビシステムについては、今後も注意を怠るな」

側近「何か変化があればすぐに報告するように」

事務局高官「し、承知しました」

側近「行ってよいぞ」

事務局高官「し、失礼致します」ソソクサ

…バタンッ

側近「…記憶の補完が成された結果、この職員の本当の出身地が明らかになりました」

側近「北西の村の生き残りだそうです」

国王「涙の欠片、か…」

側近「可能性はあります」

国王「うむ。今はまだ可能性の段階だ」

国王「しかし備えは常にしておかねばなるまい」

側近「…あれから20年、早いものですね」

国王「…。」ギリッ

-日中 王都街道-



ブロロロ…

ナビ『ん?あれ同僚ちゃんのカーゴちゃう?』

男「ホントだ、ちょっと声掛けていくか」

キキッ

ナビ『同僚ちゃんやっほー♪』フリフリ

ナビ『…って、あれ?』

男「同僚の姿が見えないな、配達中か?」

同僚ナビ『あら男さん、お疲れ様です』

ナビ『どーちゃんおつかれ!』ハイタッチ

同僚ナビ『はいはいお疲れ様です…ふふ』ハイタッチ

男「同僚は配達中か?」

同僚ナビ『いえ、今日は別行動なのですわ』フルフル

ナビ『べつこーどー??』

同僚ナビ『元々私は同僚さんの記憶情報を共有しておりますので』

同僚ナビ『その気になれば私単体で運行する事も可能ですのよ』

男「そうか、あいつの頭ん中の道路についての情報を使ってって事か」

同僚ナビ『そういう事ですの』

同僚ナビ『ま、実際の積み下ろし作業は作業員の方にやって頂いてますが』

タッタッタッ…

作業員「お、お疲れ様でーす」ハァハァ

ナビ『おつかれちゃん!どーちゃんにこき使われてるんやなー?』ニヤニヤ

作業員「いやもうこのナビ…手加減ってもんを知らなくて…」ヘトヘト

同僚ナビ『情けないですわねーこの程度で』ジトッ

男「まぁまぁ…お手柔らかに頼むよ」

男「それで、同僚の奴は?」

同僚ナビ『事務局ですわ』

同僚ナビ『何でも新規事業の立ち上げメンバーに選ばれたとかで』

男「全然知らなかった、最近会ってなかったからなぁ」

ナビ『すごいやん!出世やん!』

同僚ナビ『…そう単純な話には思えないのですが』

男「そうなのか?」

同僚ナビ『何か気になるのです…男さんも話を聞いてみて下さいまし』

同僚ナビ『事務局に行けばいると思いますので』

男「分かったよ、お祝いの一つもしてやらなきゃだしな」

同僚ナビ『よろしくお願い致しますわ』


同僚ナビ『それでは私達まだ配達がございますので』

作業員「え!もう行くんすか!?」

同僚ナビ『ほら、ちゃっちゃと行きますわよ!』

作業員「うへぇ…」ゲンナリ


ブォン!ブロロロ…


男「あーぁ、大丈夫かなあの人」タラッ

ナビ『ホンマにドSやなどーちゃん…』

-物流協会事務局 大会議室-



修道女「マッピングシステム?」

同僚「噂のwww新規事業www」

女「これは、この世界のありとあらゆる場所の地図情報を網羅して」

女「転移魔法と組み合わせる事で物流コストを大幅に削減する試みなの」

同僚「でもよーww物流コスト=俺たちの給料だぜ?」

同僚「自分で自分の首締めてる気がしないでもないんだがwwww」

女「短期的に見ればそうかも知れないわ、でも情勢は常に変化しているの」

女「同僚くんには、その優れた空間把握能力を活かして」

女「マッピングシステムの元となる、全世界の詳細な地図情報を構築してもらうわ」

同僚「世界をこの手にww熱いwww」

女「そして、地図情報を元に荷物の転移を行うシステムを作る為に」

女「詠唱のスペシャリストである修道女さんにお越し頂いたってわけ」

修道女「す、スペシャリストだなんて私」アワアワ

女「ここに世界各地の地図を用意してあるわ」ドッサリ

同僚「おぅふww山のようwww」

女「これでも世界中を網羅するには全然足りていないの」

女「例えば人の手の及ばない高山や密林」

女「未発見の島なんかも出てくるでしょうし」

同僚「その情報いるww?そんなとこに荷物届けねぇだろwww」

女「いいから。そういった場所へは実際に行ってみて詳細な情報を集めてきてもらうわ」

修道女「で、では手元の地図情報で足りない部分へは同僚さんを転移魔法で派遣して…という事ですか?」

女「察しが良くて助かるわ」

同僚「俺に伊◯忠敬になれとwww」

女「もちろん、修道女さんの負担にならない範囲でなら」

女「一緒に行ってもらっても構わないわ」ニコッ

修道女「え、ええぇぇ!??」

女「あくまで仕事に支障の出ない範囲で、ね?」ウインク

修道女「ど、同僚さんと…二人旅…///」

同僚「お前らほんっっっとに好きねーそういうのwwww」

同僚「まぁ良く分かんないけど、せっかくコンビ組むんだしwww」

同僚「よろしく頼むぜww」ニコッ

修道女「は、はいですっ!」ニコッ

-深夜 王立倉庫事務所-



カタカタ…カリカリ…

配車係「王立倉庫所属の50台を超えるカーゴ…」フゥ

配車係「毎日変わる仕事内容を考慮しながら、各車への仕事の割り振りをしつつ」

配車係「各ドライバーの労働時間や各種手当のバランス配分も考えて配車組みをしなければならない…」ウーム

配車係「誰かが勤務超過になる一方で、手当が少なく割に合わない誰かが出たりする事は極力避けなければいけませんからねぇ」

配車係「それらと並行して、車両トラブルや客先トラブルの対応など…」ハァ

配車係「行ったらすぐ積める!って聞いてた場所で実は1時間待ち!とかザラですからね!?」

配車係「1時間位…と思われるでしょうが」

配車係「1時間変われば結構違ってくるんですよ…」ウーム

配車係「これ、文章にすると伝わりにくいですが」

配車係「なかなか骨の折れる作業なんですよ…」ハァ

配車係「なんて、独り言も増えてしまいますよね」ハハ

先輩「おはよーさん」ガチャ

配車係「あ、おはようございます」

フーッ…カチッピンポーン

配車係「今日は夜間便でしたね…と、23時30分です」

配車係「今日は特に過積載注意です」

先輩「はいよ」カキカキ

先輩「ん?そういうお前は夜勤ってわけでもないはずだが」

配車係「いやー配車組みが終わらなくて…」ハハ

先輩「大変そうだな…お前の仕事にこそナビシステムが必要な気もするよ」

配車係「ホントですよ!…同じ脳味噌を持ったパートナーがいたらどんなに楽か…」ハァ

配車係「あ、ナビシステムといえば男さん達はその後どうですか?」

先輩「再リンク後って事か?まぁ上手いことやってるみたいだな」

先輩「前にも増して息ピッタリ…ピッタリ過ぎる位にな」

配車係「ピッタリ過ぎる?」

先輩「あいつらな、最近会話が減ったんだと」

先輩「話さなくてもお互いの考えてる事が何となく分かるらしい」

配車係「なんだか熟年夫婦みたいですねそれ…」

先輩「まぁ運行が順調なら問題はないんだろうがな」

配車係「その辺はばっちりですね」ペラッ

配車係「最近の男さん、勤務時間や燃費効率が目に見えて向上してるんです」

先輩「同じ運行内容で拘束時間が短縮したり燃費が良くなったりしてるって事は」

先輩「それだけあいつらの連携が取れてるって事だもんな」

配車係「このまま安定してくれればいいんですけどねー」

先輩「お前にとっちゃ日々が平穏無事に過ぎる事が何より大事だもんな」

配車係「その為の配車係ですからね」ハハ

先輩「んじゃまぁ、行ってくるよ」フリフリ

配車係「はい!お気をつけてお願いします」ペコッ

配車係「と、もうひと頑張りだ」カタカタ

-物流協会事務局 大会議室-



バサァッ!…

同僚「とりあえず王都周辺はこんな感じかwww」

修道女「すごい…こんなに細かい道の事まで把握しているんですね」

同僚「宅配ドライバーなめんなwwwそれに王都は俺の地元だしなwww」

修道女「王国周辺に関しては協会発行の地図でほぼ事足りますね」ペラッ

同僚「まぁ協会のカーゴが毎日走り回ってるわけだからなww」

修道女「同じ理屈で隣国やその周辺までなら…問題はその向こうですか」

同僚「大陸中央部とその東、いわゆる極東地域ってとこだなwww」

同僚「ここらは独自の文化が根付いていて王国(こっち)とはあんまり交易が盛んじゃないのよwww」

修道女「独自の文化ですか」

同僚「簡単に言うとクセがすごいwww」

修道女「それから、極東地域から南に下った辺り…」

修道女「この辺に関しては地図情報そのものがありませんね」

同僚「南の果てねwww噂じゃ精霊が暮らす不思議アイランドがあるとかないとかwwww」

修道女「せ、精霊ですか?」

同僚「そういうリアクションになるよなwww精霊ナビシステムじゃなくてガチの精霊らしいよwww」

修道女「じ、実在するんですかね」

同僚「分からんwwwでも未だに地図が作れない位だから人智の及ばない何かがいても不思議じゃねーわなwwww」

修道女「い、行ってみたいですね…」ゴクリッ

同僚「詠唱士としては気になる所だよなwww」


同僚「まぁとりあえず近いとこからでいいんじゃね?例えば大陸中央部の北に謎エリアがあるしwww」トントン

修道女「そ、そうですね!何事も一歩ずつですよね!」

同僚「おっけwwwそれじゃ早速行きますかwww」ガタッ

修道女「はい!最初の目的地は大陸中央部!平原地帯の…ここです!」ビシッ



[風の息吹よ 大地の鼓動よ]パァァァァ…



同僚「なんかダー◯の旅みたいwwww wまぁ実際にぶっ飛ばされるのは俺なんだがwww」

修道女「転移します!」ビリビリ



パァァァァ…バヒューーーーーン…

-05:40 王立物流倉庫-


ゴゥンゴゥン…

男「と、いうわけで」

ナビ『どーゆーわけや』べしっ

男「同乗者だ」

同僚ナビ『おはようございます』

ナビ『おー!どーちゃんおはよーさん!』ハイタッチ

同僚ナビ『朝から元気ですわね』ハイタッチ

ナビ『今日はどしたん??』

同僚ナビ『同僚さんが例の新規事業にかかりきりでやる事がないのです』ハァ

同僚ナビ『今日は宅配もヒマそうでしたので、配車係さんに頼んで同乗させて頂きましたの』

男「たまには他の奴の仕事を見学するのも勉強になるんじゃないか?ってさ」

ナビ『そーゆーことね!どーちゃんなら大歓迎やで!』ニカッ

同僚ナビ『良かったですわ。それで今日はどちらに向かいますの?』

男「今日は西の街へ武器防具の搬入だ」

ナビ『最近多いなーこの運行』

男「軍と魔族の衝突がそれだけ増えてるって事なんだろうな」

男「それ自体は喜べる事じゃないが、軍備が整うことで傷付く人が減るのなら」

ナビ『ウチらの仕事も誰かの役に立ってるって事やもんな♪』

ナビ『うっし!ほんなら行きますかぁ』

男「あぁ、今日も頼むぞ」

ナビ『はいなぁ♪どーちゃんもよろしゅーね』ニコッ

同僚ナビ『勉強させて頂きますわ』

ブォン!ブロロロ…

-道中 街道-


ブロロロ…

男「…。」

ナビ『…。』

同僚ナビ『…。』


ナビ『…ん、はい』ポチッ

男「うん」

同僚ナビ『…。』


男「…。」

ナビ『…。』

同僚ナビ『…。』


男「…あ、あれ」

ナビ『はぃな』

同僚ナビ『…。』


男「…。」

ナビ『…。』

同僚ナビ『…あ、あの』

ナビ『んー?どしたん?』

同僚ナビ『さっきからお二人、ほとんど会話してないですわね』

男「そうかな?」

同僚ナビ『なのにお互いの意図を正確に把握出来ていて、連携も完璧…』

同僚ナビ『見ていて少し気持ち悪い位ですわ』

ナビ『ひどいなーどーちゃん!』ケラケラ

同僚ナビ『気を悪くなさらないで下さいまし…でも一体どうやって会話なしで意思疎通を図っているんですの?』

男「んー何となく、かな?」

ナビ『なー。何となく分かってしまうねん、お互いの考えとぉ事』

同僚ナビ『何となく、ですか?』

男「まぁ元々が同じ心を持ってるわけだしな」

ナビ『そーそー。で、この前の再リンクで更に絆が深まった的な?』ニコッ

同僚ナビ『まぁそれを言われれば…私と同僚さんとは全然違うもので驚いたのです』

ナビ『どーちゃん達はどんな感じなん?』

同僚ナビ『運行中ですか?んー同僚さんがあの調子ですからね』

同僚ナビ『カーゴの運転を含めて大まかな作業は同僚さんが行なって、私は配送時間の管理などのサポート的な役割ですわ』

男「分業制なんだな」

ナビ『なー!確かにウチらと全然違うかも』

同僚ナビ『そうですわね』

同僚ナビ『しかし配車係さんの仰るように、違う方の仕事ぶりを見るのも良い勉強になりますわ』

同僚ナビ『真似は出来そうにありませんが』クスッ

-大陸中央部 平原地帯-


ビュォォォォォ…

同僚「さんみぃぃぃぃぃぃぃぃwww」

同僚「おい聞いてねぇぞww王国じゃもうコートもいらねぇってのにwwww」ガクガク

同僚「とりあえず目標地点はもうちょい北の方かwww」

ザッザッ

同僚「ん?誰かいるぞww」

同僚「…ありゃここらで暮らしてる遊牧民じゃねぇかwwラッキーwww」

同僚「すんませーんwww」ブンブン

遊牧民「何だお前そんな薄着で、旅の者か?」

遊牧民「…ん?その紋章は…」ユビサシ

同僚「へ?あぁ協会員証(パス)かww」

遊牧民「という事は、お前さん西の王国の者か」

同僚「そーなんすよwwwいや話が早くて助かりますぅwww」ヘラヘラ

同僚「実はですねぇwww」

かくかくしかじか

同僚「てわけでwwその地図に載ってない場所を調べに来たんすわwww」

遊牧民「そうか。西の王国の者とあれば無碍には出来ん」

遊牧民「ついて来い、案内する」

同僚「あざーっすwwwお願いしますwww」

ザッザッ…

-物流協会事務局 大会議室-



カリカリ…

修道女「ふぅ、とりあえず王国周辺の地図情報の編纂はこんな所ですか」パサッ

修道女「でも…仮に世界中の地図情報を網羅出来たとして」

修道女「実際に品物を転移させるにはどうしたら良いのでしょう…?」

修道女「毎回私が転移魔法を使うわけにもいかないでしょうし」

修道女「女さんは転移システムと仰っていましたが」

修道女「そんなものを動かすのに一体どれだけ膨大な魔力が必要なのか…見当もつきません」ウーム

修道女「…それに」ペラッ

修道女「地図でいう北の果て」トントン

修道女「存在する全てが凍りつく極寒の地」

修道女「世界中を、と言うならここもその範囲に入るのでしょうか…」

修道女「こことも交易を…?まさかね」

-物流協会事務局 女の執務室-


女「国王陛下が?」キョトン

事務局高官「僕も驚いたよ、まさか一介のドライバーとナビの話で陛下に呼び出されるとはね」

女「同感です…それで、陛下は何と?」

事務局高官「とりあえず男くんとナビシステムの動向から目を離すな、との事だ」

事務局高官「口ぶりからすると、男くんとナビシステムの親和性…シンクロ率とでも言うか」

事務局高官「それが高まっている事を気にされているようだったな」

女「シンクロ率…心の距離を数値化する事は出来ませんが、そういえば」

女「再リンク以後、彼らの会話が極端に減っていると聞いています」

事務局高官「減ってる?増えてるんじゃなくて?」

女「もう言葉を交わさなくても大抵の事は理解し合えるようです」

事務局高官「それは凄いな、僕も女房とそんな風になれるといいんだが」ハハ

女「…それはさて置き、親和性が高まる事が何か問題になり得るのでしょうか?」

女「実際に男くんの業務効率は向上していますし、メリットしかない気がしますが」

事務局高官「さぁ、良いとも悪いとも言わなかったからねぇ」

事務局高官「ただ気にしているのは確かなんだろうけど」

女「一体何なんでしょう…」

事務局高官「今の段階では何とも。まぁ我々に出来る事はそう多くない」

事務局高官「とりあえず女くんも、彼らについて何か変化があれば教えて下さいね」

女「分かりました」

ガチャ カツカツカツ…

女「男くんとナビちゃんの親和性…」

女「さっぱり分からないわ、陛下は何を懸念しているの…?」

-14:40 王立物流倉庫-


ゴゥンゴゥン…

同僚ナビ『今日はありがとうございました』ペコッ

男「お疲れ様」

ナビ『どーちゃんおつかれ♪まぁウチらの仲の良さは是非とも覚えて帰ってや!』ニカッ

同僚ナビ『またあなたって人は…あ、そういえば男さん』

同僚ナビ『同僚さんの所へは行かれましたの?』

男「それがまだなんだ、何ならこれから事務局に顔を出そうと思っててさ」

同僚ナビ『あらそうなんですの?それなら私も一緒に連れて行って下さいませんか?』

ナビ『お!それならウチも行くー?』

男「おい遊びに行くんじゃないんだぞ?…でもまぁ同僚も喜ぶかもな」

ナビ『せやろ?なー連れてってー??』

男「分かったよ、運行報告上げるついでに配車係さんに声掛けて行こう」

ナビ『やったー!』キャッキャ

同僚ナビ『お手数お掛けしますわ』

男「いいって。それじゃ行こうか」ピッ

[運行データヲ記録シテイマス…]

-物流協会事務局 大会議室-


コンコン ガチャ

男「同僚お疲れ様…って、あれ?」

同僚ナビ『あら、あなたは』

ナビ『噂のたゆんたゆんハニー!』

修道女「み、皆さんお久しぶりです」ペコッ

修道女「と、いうわけなんですよ」

男「新規事業…なかなか壮大なスケールなんだな」

ナビ『同僚ちゃん大抜擢やん!』

同僚ナビ『確かに、彼の力が認められたと思えば』

同僚ナビ『私としても鼻が高いですわ』

男「修道女さんも、今回は顧問として呼ばれてるんですね」

修道女「い、今の所同僚さんの編纂作業のお手伝いしかしてませんけど」アハ

同僚ナビ『あなたには専門の分野があるのですから』

同僚ナビ『いずれ存分に力を発揮されるのでしょう』

ナビ『おねーさんカッコえぇなー!』

男「それで同僚は早速転移魔法で飛んでったわけかー」

修道女「はい、今ちょうど地図でいうこの辺りに」トントン

男「この辺…平原地帯か」

ナビ『こんなだだっ広いとこになんかあんのー?』

修道女「はい。大陸中央部の北のこの辺りだけ」グリグリ

修道女「地図情報がすっぽり抜け落ちているんです」

同僚ナビ『今ペンで囲った周辺はどうなんですの?』

修道女「あまり詳しくはないですが、少なくとも山や河などの情報は有ります」

男「そこだけ地図から抜け落ちてる…普通に考えれば…」ムム

ナビ『なにー?』

男「調査に入れないほど治安が悪い、とかか?」

修道女「」

ナビ『あー武装勢力とか?』

同僚ナビ『ア◯カイダとかイ◯ラム国みたいな感じですわね』

修道女「」

ナビ『まーでも新規事業!って言うてババーンとやってんねから』

男「そうだよな」

同僚ナビ『当然、それなりの装備でご出立したのでしょうね』

男・ナビ・どー「ねー」

修道女「あばばばば」ブクブク

男「ち、ちょっと修道女さん!」

-大陸中央 平原地帯-


ビュォォォォォ…

遊牧民「西の王国の軍隊には、昔に世話になったんだ」

遊牧民「今は鞍替えして運送屋なんぞやってるって話は聞いていたが」

爺「本当だったんだな」

同僚「協会員証(パス)がこんな所で役に立つとはwww」

同僚「持ってて良かったwww」

同僚「ん?しかしこんな遠い所まで王国の軍が派兵されたなんて聞いた事ないぞwww?」

遊牧民「この辺りの人間なら誰でも知ってる事さ」

遊牧民「20年前のあの時、文字通り焼け野原となったこの地に」

遊牧民「王国の軍がいち早く救援に駆けつけてくれたんだ」

遊牧民「俺達は受けた恩を忘れないのさ」

同僚「素敵wwwここ来て良かったwww」

遊牧民「それ以外も、な」ギロリッ

同僚「…へ?」

遊牧民「こんな暮らしをしている我々だが、一応国家という共同体を構えている」

遊牧民「そして我々の国家は、西の王国とは交易を結ばない事になっている」

同僚「何でよーwwwそんなに恩義を感じてくれてるのにwww」

遊牧民「…行けば分かるさ」ギリッ

遊牧民「ほら、見えてきたぞ」

遊牧民「あれが、お前さんの言ってた場所…」

遊牧民「勇者の落涙だ」

途中ですが今日はここまでとします
ありがとうございました


2部の主人公は同僚って感じなのかな?

投下します

-夕刻 物流協会事務局 女の執務室-


先輩「女ー?いるかー?」コンコンッ

シーン…

先輩「あれ、出掛けてるのか」

スタスタ

先輩「あ、なぁ君」

事務局職員「は、はい?」

先輩「女君どこへ行ったか知ってるかな?」

先輩「ちょっとナビシステムの事で聞きたい事があってさー」

事務局職員「女さんですか?」

事務局職員「女さんなら港湾倉庫へ管理簿を取りに行って、そのまま直帰の予定ですが」

先輩「あ、そーなんだー!」

事務局職員「何か伝言を残しておきましょうか?」

先輩「うーんそうだね」

先輩「じゃ"君の瞳に乾杯"とでも伝えておいてくれ」

事務局職員「え、えぇ!?」

先輩「ちゃんと気持ちを込めて言うんだぞ?」

先輩「なんだかんだ女性はそういうのに弱いものさ」ウインク

先輩「ほいじゃ失礼、ありがとねー」ヒラヒラ

事務局職員「な、なんだったんだ…」

先輩「管理簿なんて運行で訪れたドライバーにでも渡せばすむ話だろ」

先輩「しかも協会の書類を持って直帰って…んな訳あるか」

先輩「あいつ…何してるんだ?」

-翌日夜 王都酒場街-


[BAR REQUIEM]

カランッ…

女「わけが分からないわ」クイッ

先輩「国王陛下のお出ましとは穏やかじゃないな」グイッ

女「男くんとナビちゃんとの親和性…」

女「それが向上すると何かが起こる…?」

女「ダメ…足りないピースが多過ぎる」ウーン

先輩「そもそもナビシステムって何なんだろうな」カランッ

先輩「あ、俺アードベッグおかわりね」

先輩「君は?」

女「…マティーニ、うんとドライで」

先輩「あらら…」

<お待たせしました

女「…ナビシステムが本格的に運用され始めたのは約15年前」クイッ

女「噂では、私達の故郷である北西の村での事故を受けて開発が始まったらしいんだけど」

先輩「20年前のあれか」

先輩「それについてなら、俺も少し調べてみたんだが」

女「何か分かったの!?」ガタッ

先輩「まぁ落ち着けって…どうやら20年前のあの時、被害を受けたのは北西の村だけじゃないらしいんだ」

先輩「公式な記録には残っていないが世界各地…とりわけ大陸中央部での被害が甚大だったらしい」

女「大陸中央部?」

先輩「あぁ。正確には大陸中央部から北に向かったある一部のエリアが消失したらしい」グイッ

女「消えた?破壊されたのではなくて?」

先輩「俺も昔のよしみで軍の奴に聞いただけなんだけどな」

女「協会(うち)に来る前は軍にいたんですっけね」

先輩「で、その消失した場所…今でも地図には載ってないらしいが」

先輩「地元では"勇者の落涙"と呼ばれてるらしい」

女「勇者の落涙…聞いた事もないわ」

先輩「…と、いう話を伝えに昨晩君のオフィスへ行ったんだが」

先輩「タイミングが悪かったらしい」

女「昨晩?…あぁ、事務局の高官に急に呼び出されてね」

女「男くんとナビシステムの事、くれぐれも頼むぞって念を押されちゃった」クス

先輩「…そうか」

先輩「ま、とにかく20年前その場所で何かがあった」カランッ

先輩「恐らく勇者と魔王の大規模な戦闘だとは思うが」

女「そこでの被害を受けて、魔法石を用いたナビシステムの開発が始まった」

先輩「加えて言うなら、当時の陸軍が解体されて今の物流協会に再編成されたのもその頃だ」

女「…少しずつピースが揃いつつあるけど、まだ足りないわね」グイーッ

先輩「おいおい大丈夫か?」

女「大丈夫よ…ちょっと探究心に火がついてるだけ」フフッ

先輩「…そうなると止まらないからな、君は」

女「よく分かってるじゃない」ニコッ

先輩「…。」ハァ

先輩「そんなに気になるなら当事者に聞いてみればどうだ?」

女「当事者?…あっ」

-大陸中央部 平原地帯-


遊牧民「この丘の向こうだ」

遊牧民「歩いてすぐだから見て来るといい。俺はここで待ってる」

同僚「なんすかwwここまで来て一緒に行かないんすかwww」

遊牧民「あそこは気が滅入る」

同僚「なんだよつれねーなwww了解っすwじゃ見てきますよっとww」

ザッザッザッ…

遊牧民「…。」ジッ

-勇者の落涙-


…オォォォォォオォォォ…

同僚「でけぇぇぇwww」

同僚「小高い丘を登った先がクレーターみたいになっててw」

同僚「直径は…そーねー東◯ドーム位かしらんwww?」

同僚「で?その中は…www」ノゾキー





同僚「っ!?」ゾクッ

同僚「は、はい…!?」

一部はドライバー周辺の話だったのに
二部でいきなり王国の企みとか、地図作りに世界中を飛び回るとか出てきて困惑してる。もう少しゆっくり展開していかないと置いてけぼり感が半端ない。

同僚「意味が分からん…」ザッザッザッ

遊牧民「戻ったか」

同僚「…暗くて見えないとかってんじゃない」

同僚「クレーターの中の空間そのものがまるで切り取られたみたいに」

同僚「存在してない…」

同僚「なんだありゃ…何が起こったらこんな事になるんだ??」ガタガタ

遊牧民「…20年前のあの日、この地で勇者と魔王の大規模な戦闘があった」

遊牧民「恐らく、先代の勇者はそこで決着をつけるつもりだったのだろう」

遊牧民「持てる力の全てを出し尽くし、しかし魔王には深手を負わせたものの倒す事は出来ず」

遊牧民「その時の勇者の攻撃の残滓が、彼の失意の涙と共にこの地を抉った…」

遊牧民「そう言われている」

同僚「伝聞かいwww」

遊牧民「空間が消し飛ぶ程のエネルギーだぞ?近くで見物なぞ出来るわけなかろう」

同僚「それもそうかwww」

遊牧民「俺達は家を持たないから、勇者達がこの地に訪れると分かった時点で避難を始めた」

遊牧民「だがそれでも、少なくない数の同胞が巻き込まれて土地と共に消滅した」

同僚「し、消滅…!?」ギョッ

遊牧民「…いち早く駆けつけてくれた王国軍には感謝している」

遊牧民「勇者達の事も、仕方なかったと一定の理解はしている」

遊牧民「だが、結果として我々が同胞を…家族を失った事は確かだ」

同僚「…。」

遊牧民「勇者と、彼を擁立した王国…」

遊牧民「我々が王国と交易を結ばないのはそういった理由だ」

同僚「すんません…なんか、俺」シュン

遊牧民「気に病むな、お前さんを責めるつもりはない」肩ポンッ

遊牧民「かつてそういった歴史があった、という話だ」

遊牧民「そして、その時の残滓…涙の欠片が」

遊牧民「ここから世界各地に飛び散ったのだ」

同僚「涙の欠片?じゃあそれが…」

爺「王国の方でも被害があったんじゃないか?」

同僚「えぇ、俺の同期の奴の故郷に」

同僚「…勇者の落涙、か」ジッ

…オォォォォォオォォォ…

-05:00 隣国港-


ゴゥンゴゥン…

ナビ『えらい時間にえらい場所やな』

男「今日の運行は長丁場だからなー」

ナビ『えーと今日の積み地は…水の街?』ピラッ

男「街というか島だな」

男「街中に運河が張り巡らされているんだよ」

ナビ『運河って川?そんなとこカーゴで入っていけるん??』

男「いや、島内は車両通行禁止だ」

男「陸地から橋を渡った街の入り口近くに倉庫があって、そこで積むんだよ」

ブォン!ブロロロ…

-11:00 隣国 街道-


ブロロロ…キキッ

ナビ『すごーい!海の上に橋が架かっとぉー!!』

男「橋の全長は約10km、さすがに街の様子は見えないな」

ナビ『海の向こうへ続く橋…ロマンチックやけどちびっと怖いかも』ブルッ

男「…帰って来れなかったらどうする?」ニヤァ

ナビ『いやぁぁやめてぇぇ!!』ブンブン

男「冗談だよ」ケラケラ

男「それじゃ行こうか」

ナビ『うぅ…今日の男ちゃんいじめっ子やぁ…発進しますぅ』ウルウル

ブォン!ブロロロ…


ナビ『ほぇー…』ウットリ

ナビ『海の上を…飛んでるみたいや』

男「ホントだな、走ってるというより飛んでる感じだ」

ナビ『鳥や!ウチは鳥になったんや…!』トリー

男「おーい帰ってこーい」

ブロロロ…


-11:15 水の街 倉庫-


ブロロロ…キキッ

ナビ『とうちゃーく!』

男「港から6時間、なかなかの距離だったな…んー」ノビーッ

ナビ『男ちゃんおつかれさま!』

男「ナビもな。お疲れ様」ポンポン

ナビ『ん。へへっ♪』ニコッ

男「さて、早速荷物を積むか」

倉庫職員「おーいこっちこっち!」テマネキ

倉庫職員「バックで入って来ておくれー!」

男「了解でーす!」

ピーッ ピーッピーッ

倉庫職員「長旅ご苦労さん!これが今日積んでってもらうクリスタル細工だよ」

パカッ…キラキラッ

ナビ『わぁ…すっっげー!!!』キャッキャ

男「クリスタル細工といっても色のバリエーションが豊富なんですね」

倉庫職員「豊かな色味もここらのクリスタル細工の特徴なのさ」スッ

倉庫職員「ちょっと持ってみるかい?」ズイッ

男「え、いいんですか?」

倉庫職員「どの道王国までアンタに運んでもらうんだ」

倉庫職員「どんなモンか知っておいてもらって損はない、そうだろ?」ニコッ

男「そ、それじゃ失礼して…」ソーッ

ナビ『お、男ちゃん落としたアカンで!フリやないで!!』ハラハラ

男「おぉ…!びっくりする程軽い…!」

倉庫職員「クリスタルを薄く仕上げるのが職人の腕の見せ所なのさ」フフン

ナビ『そっか、薄ければその分軽くなるわけやな!』

倉庫職員「まぁ混ぜる色味によっても多少変わるんだけどね」

倉庫職員「どうだ、すごいだろ」ニカッ

男「す、すごいです」コクコク

ナビ『えぇなぁ…めっっちゃ綺麗…』ウットリ

倉庫職員「なんだいお嬢ちゃん、すっかり気に入ったみたいだねぇ!」

ナビ『こんなん女の子やったら誰でも惚れてまうって!』

倉庫職員「分かるよ!アタシも歳は食ったが心は女の子だからね!」ハハッ

倉庫職員「よし!ちょいとお待ち!」ゴソゴソ

男「?」

倉庫職員「さすがにグラス何かはちと厳しいけど、これならいいだろ」スッ

倉庫職員「クリスタル製の鈴だよ、お土産に持っていきな」チリンッ

男「えっ!いいんですか!?」

倉庫職員「可愛いお嬢さんには優しくってのがここらのやり方なのさ」ウインク

ナビ『うぉぉーマジかぃー!職員さんありがとぉー!!!』

チリンッ…


男「積み込み完了!」ゴトッ

ナビ『伝票印字中ー』ジジジ ペリッ

男「じゃあ確かにお預かりしました」

倉庫職員「頼んだよ!」

倉庫職員「そういやそろそろランチタイムだね、街で食べてくんだろ?」

男「出来ればそうしたいな、と」

ナビ『ご飯っご飯♪』ウキウキ

倉庫職員「だったらすぐそこの桟橋からヴァポレットに乗って行くといいね」

倉庫職員「カーゴは倉庫の脇に停めてって構わないから」

男「色々ありがとうございます」ペコッ

ナビ『ホンマにありがとー!!』

倉庫職員「なんて事ないさ!水の街へようこそってね!」ニカッ

-11:30 水の街 倉庫桟橋-



男「桟橋って事は舟か」

魔法石(ナビ)『職員さんの言ってはった…ば、ばぽ…』

男「ヴァポレットだったかな」

スーッ スーッ… ザブンッ

船長「あいお待ちどうさん」ゴトッ

男「すごい…手漕ぎなのか」

魔法石(ナビ)『カーゴがそこら中走り回っとぉ時代に…軽くカルチャーショックや』

スーッ スーッ… ザブンッ ザブンッ

男「座って乗って大人8人位が定員かな」

男「なるほど、手漕ぎだから本当に波の音しか聞こえない」

男「それと…」

魔法石(ナビ)『♪』チリンチリンッ

男「その鈴すっかりお気に入りだな」

魔法石(ナビ)『風に揺られる度にえぇ音が…ほんで可愛いし』ニコニコ

男「良かったな」ニコッ

魔法石(ナビ)『シップとは全然違うけど、こういうお舟もえぇな!ふぜーがあって!』ウキウキ

-11:40 広場桟橋-


スーッ スーッ… ザブンッ

船長「はいお疲れさん」ゴトッ

男「ありがとうございました」ストッ

魔法石(ナビ)『船長さんありがとー!』チリンッ

男「さて、何を食べようかなー」

チョイチョイ

男「ん?誰か引っ張ったか?」キョロキョロ

魔法石(ナビ)『男ちゃん、下や!』

男「下?」ミオロシー

仮面娘「」チョイチョイ

男「のわっ!!」ビクビクッ

魔法石(ナビ)『猫の仮面を被っとぉ女の子…めっちゃちっちゃいな』

仮面娘「お前に言われたくないぞ石っころ」

魔法石(ナビ)『な、なんやと!?』ムカッ

男「まぁまぁ、迷子かも知れない」シャガミ

男「どうしたの?家族とはぐれちゃったのかな?」ニコニコ

仮面娘「お前、光を見たな?」


男「?」

仮面娘「」クルッ

タタンッ… クルクルッ

仮面娘「嘆きの夜に星粒降った」♪

仮面娘「星の礫が島を屠った」♪

男「…な、なにを」

仮面娘「涙の欠片は揺るがぬ力」♪

仮面娘「その身を救うか」♪

仮面娘「食われて死ぬか」♪

仮面娘「どちらに転ぶか心次第」♪

クルッ タタタタッ…

魔法石(ナビ)『行ってもた』ジーッ

魔法石(ナビ)『しっかしなんやあのチビっ子!ウチを石っころ呼ばわりしてからに!』ムキーッ

男「…。」ポカーン

魔法石(ナビ)『おーい男ちゃーん?』チリンチリンッ

男「光…嘆きの夜…」

男「涙の欠片…?」

-13:00 水の街 倉庫-


男「…って事があったんですよ」

倉庫職員「あぁ嘆きの夜ね、20年前の」

男「20年前!?それって…!」

倉庫職員「ここから遥か北の大陸で勇者と魔王の戦いがあって、流れ弾が街に落ちたんだって」

倉庫職員「幸いこの街は運河や水路が張り巡らされてるから、大きな火災にはならなかったんだけど」

倉庫職員「それでも結構な人数が死んじまったもんだから、街の向こうの小島…まぁ本当に小さな島なんだけど」

倉庫職員「そこを丸ごと墓地にして埋葬したんだよ」

魔法石(ナビ)『島を丸ごと墓地に!?』

男「そうだったんですか…ちょうど同じ頃です、俺の故郷が同じような目に会ったのも」

倉庫職員「そうかい…まぁその頃は今より魔族の数も多かったって言うしねぇ」

男「あと、その女の子が"涙の欠片"って言ってたんですけど…」

倉庫職員「涙の欠片?そん時降ってきた流れ弾の事かねぇ」

倉庫職員「それは聞いた事ないねぇ、すまないけど」

男「いえいえ、色々とありがとうございます」ペコッ

倉庫職員「いいんだよ!」ニカッ

倉庫職員「あ、それとね」


魔法石(ナビ)『?』

倉庫職員「兄ちゃんさっき女の子って言ってたけど…ありゃ80過ぎのお婆さんだよ」

男「いいっ!??」

魔法石(ナビ)『う、嘘やろ…』ガビーン

倉庫職員「20年前に嘆きの夜に体験した事を、街を訪れる人に歌って聞かせて回ってるのさ」

倉庫職員「ま、20年前でも60過ぎだからやっぱりお婆さんなんだけどねぇ」ゲラゲラ

男「信じられん…てっきり迷子か何かだと」アゼン

魔法石(ナビ)『ホンマや…不思議な街やなぁココ…』ボーゼン

-鍛治職人の里 親父の家-




親父「女!久しぶりだな!」

女「すみません、全然顔も出せずに」

親父「なぁに気にすんな!若い奴が忙しいのはいい事だ」

女「おじ様も里の皆様も、お元気そうで安心しましたわ」

親父「ハハッ。あんなもんでくたばる程落ちぶれちゃいねぇよ」

親父「俺も、里の連中もな」ガハハ

親父「しかし珍しいじゃねぇか、事務局勤めだと運行には出ないんだろ?」スッ…シュボッ!

女「えぇ基本的には。今日はおじ様や里の皆様のご様子を伺いに」

親父「…って訳じゃねぇのは顔を見りゃ分かるぜ?」スゥ…スパァァ

女「…流石ですわ」

親父「そりゃ分かるさ、自分の娘の事だからな」ニコッ

女「…おじ様のその言葉、どんな時も私の心の支えです」ニコッ

親父「それで、今日はどうした?彼氏でも出来たか!」ケラケラ

女「ち、違いますわ!」

女「…それはまた改めて」ボソッ

親父「お、おいマジか…」タジッ

女「コホンッ!…今日はどちらかと言うと、おじ様のお話を伺いに来ました」

親父「俺の?」

女「おじ様…もとい、先代勇者一行の一人」

女「伝説の剣士様のお話を、です」

親父「…。」スパァァ…

-物流協会事務局 大会議室-


修道女「…。」ウツラウツラ

…バシュゥゥ!

修道女「っ!!」ビクッ

修道女「ど、同僚さん!?」

同僚「ただいまちゃーんwww」

修道女「お、おかえりなさい!」

同僚「いやぁ転移魔法って結構酔うのねコレwww」フラッ

修道女「ご、ご無事ですか!?」アタフタ

同僚「どうにかなwww運良く地元の人に案内してもらえたからよww」

修道女「じ、地元の人…!?」ビクッ

修道女「だだだ大丈夫でしたか!?首と胴体ちゃんと繋がってますか!??」グイグイ

同僚「何を縁起でもねぇwwwちょwwいってぇぇ引っ張るんじゃねぇぇwww」ジタバタ

同僚「なるほどなww男の意見の方が遥かに現実的だわwww」ウンウン

同僚「…現実より、な」

修道女「?」

同僚「さてw地図ぷりーずww」

修道女「は、はい!」ババッ

修道女「今回調査して来られたのは地図上でいうここ、大陸中央部の北端ですね」ツンツン

同僚「そうそうここねwwいやーありゃ地図には表せねぇよwww」

同僚「だって存在してねぇんだもんwww予想の斜め上過ぎwww」ケラケラ

修道女「そ、存在していない…?」ポカーン

同僚「まーそういうリアクションになるよねwww分かるーwww」

同僚「とりあえず勇者泣き過ぎィ!っていう話よwwwww」

修道女「何が何だかさっぱりです…」

同僚「だよねwwwまぁエールでも飲みながらゆっくり聞かせるよんww」

同僚「とりあえず今日もういいべwww飲んじゃうべwww繰り出しちゃうべwww」

修道女「し、しょうがないですねー!」

修道女「なんて。ホントにお疲れ様です」ニコッ

-19:00 隣国港-



サァァァァァ…



男「ダメみたいだな」ガチャ

ナビ『シップ動かんてー?』

男「あぁ、出航まで3時間は掛かるみたいだ」

ナビ『さ、3時間!?』

ピピッ

男「お疲れ様です男です、えぇそうみたいです、シップの故障で」

男「分かりました、はい了解です」カチャ

ナビ『配車係さん何てー??』

男「どの道待つしかないってさ」

ナビ『あちゃー』

男「その代わり、明日は仕事が少ないから休みにしてもらっちゃったよ」

ナビ『そっか、ならまぁえぇか』

男「のんびり待つとしよう」フフッ




サァァァァァ…

男「…。」ペラッ

ナビ『…。』チョコン


ナビ『(男ちゃんは時々本を読む)』

ナビ『(ウチは大体、男ちゃんの肩に乗っかって一緒に読む)』

ナビ『(おしゃべりでけへんのは寂しいけど)』

ナビ『(一緒に読みながら、男ちゃんの横顔をじっくり見られるこの時間が)』

ナビ『(案外好きやったりする)』ニヘ

男「…。」ペラッ

ナビ『(男ちゃん睫毛なが…)あっ』

男「ん?」ピタッ

ナビ『あ、ごめん』

男「ううん、どした?」パタン

ナビ『や、男ちゃん睫毛長いなーって』

男「えーそうか?」

ナビ『うん長い。でな?何で今まで気付かんかってんやろーって』

ナビ『…あ、眼鏡か。って』

男「そっか、仕事中はいつも眼鏡だもんな」スチャ

ナビ『おー眼鏡掛けるといつもの男ちゃんやー』

男「ははっそんなに変わるか?」

ナビ『うん変わる。なんや眼鏡してないと…エロい』

男「ぶっ!なんだよそれ」アハハ

ナビ『いやマジやて。あれは良くない』ウーム

男「良くないって…ダメって事なのか?」

ナビ『逆や!エロくて危ないねん』

男「…わけ分かんないなー」フフッ

ナビ『あっ本読むの邪魔してごめんな?』

男「平気だよ」

ナビ『ってか、一緒に読んでたけど』

ナビ『せつないお話やなぁ』

男「そうか?…うん、そうかもな」



サァァァァァ…



ナビ『雨、止まんね』

男「そうだな…」

サァァァァァ…


ペラッ

男「…。」

ナビ『…。』ストッ

男「(ナビとの会話が減ったのは、話さなくても分かり合える事が増えたのも確かにある)」

男「(でも、多分それだけじゃない)」ペラッ

男「(ナビは間違いなく、世界中の誰よりも俺の事を理解してくれている存在だ)」

男「(だけど、俺はどうだろう?)」

男「(俺は彼女の事をどれ程理解しているのだろう?)」

ナビ『♪』プラプラ

男「…おい、見えちゃうぞ」

ナビ『!』ババッ

ナビ『み、見た!?』

男「いや、惜しくも」

ナビ『っ…お、惜しいんかいな』カァァッ

男「ってかそれ、その、中までちゃんと」

ナビ『あ、当たり前やろ!ノーパンで居ろっちゅうんか!?』

男「いやそうじゃなくて…くふふっまぁいいや」ケラケラ

ナビ『なんや笑ろてるし…』ジトーッ

男「(…考え過ぎだろうか)」

男「(彼女は…俺の事…)」



サァァァァァ…

一旦切ります
後ほど投下します
ありがとうございました

投下します

-07:00 王都 街道-


ブロロロ…

男「んー今日の運行もようやく終わりかぁ…んー」ノビーッ

ナビ『今回は長旅やったなぁ…でも色んな事あって楽しかったわぁ♪』

男「そうだな、素敵なお土産も貰えたし」チリンッ

ナビ『ロリっ子みたいなおばあちゃんに会ぅたり』クスッ

男「あれには驚いたな」クスクス

ナビ『その後入ったお店で食べてたん何やったっけ?』

男「イカ墨スパゲティか、あれにも驚いたな!美味しかったけど」

ナビ『男ちゃん口の周りも中も真っ黒やねんもん!ゾンビなったか思ったわ!』ゲラゲラ

男「鏡見て自分でも思ったよ」ハハッ

ナビ『…なぁ男ちゃん?』チョコン

男「ん?」

ナビ『…いつまでもさ。こうしておれたらえぇな』

男「あぁ、そうだな」

ナビ『…。』ズキン

男「いつもありがとな、お前とのコンビは本当に仕事がやりやすいよ」ポンポン

ナビ『え、えへへ…せやろ?』ニコッ

男「本当にいつまでもこうしてやって行けたらいいな」

ナビ『せやな…』

ナビ『…。』

ナビ『…あんな?男ちゃん』

男「?」

ナビ『…好きやで』ボソッ

-深夜 王立倉庫事務所


ナビ『最近な?ズキズキすんねん。』

同僚ナビ『ズキズキ?システムに不具合でも?』

ナビ『そうなんかなー』

同僚ナビ『どんな時に症状が出ますの?それによってはまたメンテナンスして頂いた方が…』

ナビ『うんとね、男ちゃんの事を考えとぉ時。』

同僚ナビ『男さん?』

ナビ『うん、男ちゃんの事好きやなーって思っとぉ時。』

ナビ『でも、それが上手い事伝わらへんなーって時。』

ナビ『…ホンマは伝わったアカンねやろな、って思う時。』

ナビ『なんでウチ生身の女の子じゃないねやろ、な、って時、とか。』ウルッ

同僚ナビ『本当に…あなたって人は』

ナビ『人…って言うてくれんのどーちゃんだけやで。』ヘラ

ナビ『だって人間ちゃうもん。ウチら』

同僚ナビ『…よろしいですか?』フゥ

同僚ナビ『確かに私達は生身の人間ではありません』

同僚ナビ『しかし、例え誰かを元にした存在であっても』

同僚ナビ『私達がそれぞれ独自の"心"を持っている事は紛れも無い事実ですわ』

ナビ『こころ…』

同僚ナビ『そうです。私達はそれぞれ固有の心を持つ存在』

同僚ナビ『それがある限り、私達は少なくとも"限りなく人に近い存在"と定義されても間違いではない…』

同僚ナビ『と、私は考えていますが』

同僚ナビ『如何ですか?』

ナビ『限りなく人に近い存在かぁ…』

同僚ナビ『あなたの気持ち…恐らくは恋心と言うのでしょう』

同僚ナビ『それが本当の意味で叶うかどうか、私には分かりかねます』

同僚ナビ『ですが、少なくともそういう気持ちを抱く事それ自体は』

同僚ナビ『誰にも否定されるべきではないと思いますよ?』ニコッ

ナビ『どーちゃん…』ウルウル

ナビ『じ、じゃあ…えぇんかな?』

ナビ『ウチは男ちゃんのこと好きでいてえぇんかなぁ??』

同僚ナビ『そういう気持ちが芽生える事、それこそが』

同僚ナビ『私達に"心"がある何よりの証左でしょうからね』

ナビ『そ、そっかぁ…!』

ナビ『ウチ、男ちゃんのこと好きでいてえぇんや!』パァッ

同僚ナビ『…無責任な事は言えませんが』

同僚ナビ『友人として、あなたが幸福になれる未来が訪れる事を』

同僚ナビ『私は願っていますわ』ニコッ

ナビ『どーちゃぁぁん…ありがとぉ』ウルウル

配車係「(…思わず息を潜めちゃったけど)」

配車係「(ナビちゃん達にまで"いないもの"扱いされる僕の存在って…)」ハァ

配車係「(でも…ナビシステムの"心")」

配車係「(それが、人間のものに限りなく近づいている)」

配車係「(陛下の懸念されている事って…この事なのか?)」

-鍛治職人の里 広場-



ワーワー…ワイワイ…

親父「ここのガキ共はホントにタフだ」

親父「あんな事故があったのに、こうして元気に遊び回ってやがる」シュボッ…スゥゥ

女「子供達の笑顔を見るとホッとしますね」

親父「そうだな。同時に、何とかしてその笑顔を守ってやらなきゃと思う」

親父「…普通ってな、いいもんだ」スパァー

女「…。」

親父「…。」

女「勇者の落涙という場所についての噂を聞きました」

女「20年前、その場所は先代勇者と魔王の戦闘によって土地が消失したそうですね」

親父「…。」

女「加えて、先日男くんとナビシステムの関係について、国王陛下から事務局へ進言がありました」

女「一介のドライバーに対して国王陛下が直々に、です」

女「陛下は間接的ではありますが、彼らの親和性が高まっていく事を危惧されているような口ぶりでした」

女「勇者の落涙と、その直後から始まったナビシステムの開発」

女「軍の解体と再編成」

女「陛下が危惧されている、人と魔法石の接近」

女「これらは全て関連しているように私は思うのです」

女「そしてそこには、何かが隠されているように思えてならないのです」

女「…その何かは、ひいては男くんの身に起こるかも知れない何かを示唆しているのではないか、と」

親父「…。」グシグシ

親父「女は昔から知識欲が半端なかったよな」ニコ

女「…そうでしたか?」

親父「そうとも。他の子供が玩具やなんかを欲しがる中で」

親父「お前はいつも新しい本を欲しがった」

親父「今のお前を見てると、あん時沢山本を読ませてやれて本当に良かったと思うよ」

親父「その知識欲が今のお前を作ってるんだからな」ニカッ

女「感謝しています」ニコッ

親父「…。」シュボッ スゥ…

親父「やらずに後悔するよりもやって後悔しろ!なんて言葉があるが」

親父「そうとも限らねぇと俺は思う」

親父「やってしまった事、それも取り返しのつかない事を…」

親父「そういう後悔はいつまで経っても消えやしねぇんだ」

親父「女ならそれが分かるだろう?」

親父「お前はあの時、男が閉じ込められた火事場に助けに入れなかった」

女「っ…。」

親父「お前はその事を悔やんでいるようだが、もしあの時お前がそこに飛び込んでいたら」

親父「お前は死んでたかも知れない」

女「…っでも!それは!」

親父「俺はお前を連れて逃げてくれた村の奴に今でも感謝してるよ」グシグシ

女「おじ様…」

親父「…世の中な、知らねぇ方がいい事もあるんだ」

親父「まぁお前のことだ、俺が言わなくてもいずれ答えに辿り着いちまうんだろうが」

親父「今はまだその時じゃねぇよ」

女「おじ様!それはどういう」

親父「よく調べちゃいるが、まだピースが足りてねぇな」

親父「"もうすこしがんばりましょう"ってとこだ」ガハハ

女「…。」

親父「それにな、話の順序が違うのさ」

女「順序?」

親父「男の奴に伝えてくれ、たまには剣術の稽古に来やがれ!ってな」

親父「そろそろ、あのすっとぼけた顔に喝入れてやらなきゃならねぇ」ガハハ

-夜 王都 酒場街-



ワイワイ…ガヤガヤ…



<乾杯っ!カチーンッ

同僚「ぷはーwうめーwww」

修道女「ふふっ。一仕事終えた後の一杯は」

同僚「それなwww最高wwww」ニカッ

修道女「いつものREQUIEMも素敵ですけど、こういう気取らないお店もいいですねー」キョロキョロ

同僚「だろwwwここのフィッシュフライがまた美味いんだぜwww」

同僚「ちょっと待ってろwww」ガタンッ



同僚「おまたせちゃんwwwほら冷めないうちに食べなwww」ドンッ

修道女「わ!いただきます!」ハフハフ

修道女「んー美味しいー!スイートチリソースがまた合いますねぇ!」

同僚「分かるよその表情wwwどれw俺もいただきますwww」パクッ

同僚「エールが進むこと進むことwww」ゴクゴク

修道女「すごい場所だったんですね、勇者の落涙って」

同僚「すんごいわよホントww空間が無いってwwわけわかめwww」

修道女「でも、それ程の大きな爆発の渦中にいて」モグモグ

修道女「先代勇者様はどうなっちゃったんでしょうか?」

同僚「さすがに死んじまったんじゃねーのかwww?泣き疲れてwww」

修道女「またすぐ茶化すんだから…」

同僚「そもそもよwwいくら勇者とは言え空間を消し飛ばす程のエネルギーをぶちかますなんて可能なわけww?」パクッ

修道女「んーさすがに独力では不可能でしょうねー」

修道女「何か大きなエネルギー源…例えば巨大な魔法石とか」

修道女「そういった何かと勇者様の力が反応して、爆発を起こした…」

修道女「そう考えるのが自然ですね…ラス1もーらい」ヒョイ パクッ

同僚「あっww」

修道女「んーおいひー」もぐもぐ

同僚「ちょw慈愛の心はどこ行ったww」

修道女「美味しいものは別ですー」ニシシ

同僚「…ん?でもそうすると」グビ

修道女「何ですか?」ゴク

同僚「いやwその魔法石との反応が偶発的なモンだったとしたらよww?」

同僚「それって事故だよな?」

修道女「…!そうかも知れませんね」

同僚「魔王に本気と書いてマジの一撃を叩き込もうとしたらw」

同僚「偶然ビッグな魔法石と反応しちゃってドカーーンwwwて事だろww?」

同僚「先代勇者まじ不憫wwww」

修道女「今の仮説が正しいとしたら、王国はその事実を隠してるってことになりますよね?」

修道女「もしそうなら、冗談抜きで勇者様が不憫過ぎます…」

同僚「そしてその爆発に巻き込まれた奴らもな…」ギリッ

<ありやしたー!

ガラガラッ

同僚「ふぁーww美味かったww」

修道女「またいいお店教えてもらっちゃったー」フフッ

同僚「そういやお前さいきん飲んでもとっ散らからないのねwww」

修道女「私も少しずつ大人になってるって事ですよー!」ニコニコ

同僚「何よりですwww」

修道女「あ!ちょっと同僚さん!」ササッ

同僚「ちょw何ぞww」コソコソ

<やだもーウフフ

<ん…チュッ…


修道女「ま、街中でちゅっちゅしてますよー!」コソコソ

同僚「おやまぁお盛んなww」コソコソ

修道女「も、もしかして…」コソコソ

同僚「んww?」

修道女「ど、同僚さんもああいう事をその…あの…ご所望かな…なんt同僚「はい終了ww良い子は寝る時間よーっとwww」グイッ

修道女「あ!ちょっと!」

同僚「お子ちゃまには刺激が強いんじゃwww」グイグイ

修道女「そうやって子供扱いしてー!歳なんて大して変わんないじゃないですか!」ジタバタ

同僚「更に盗み見なんて趣味まで悪いwwwお天道様が見てますよwww」グイグイ

修道女「うぐ、それを言われると確かに…」


同僚「分かったなら良しwwんじゃ2軒目行くべwww」

同僚「とっ散らからないって約束出来るひとーww」

修道女「はーい!」シュタッ

同僚「よーしww」

修道女「れっこらごー!」ウキウキ



同僚「…。」フゥ

-西の街 第1倉庫-



ゴゥンゴゥン…

ナビ『積み込み終わったでー♪』

男「あぁ。さて次は…と、」

男「あれ、どこ行くんだっけ?」

ナビ『えー?今積んだB級品の武器防具を里の仮設工房へ持ってくんやろ?』

ナビ『もう頼むわぁ』ケラケラ

男「あーそうだった」

男「里の炉が治るまでの仮の施設を西の街の外れに作ったんだったな」

ナビ『そーゆー事!まぁここから1時間ちょっとやからすぐ着くけど』

男「了解。それなら早速行こう」

ナビ『はいなぁ♪ほな行きまっせー!』

ブォン!ブロロロ…

-道中-


ブロロロ…

男「ん?あれ」ゴソゴソ

ナビ『どないしたん?』

男「いや預かり伝票どうしたかなって」ゴソゴソ

ナビ『バイザーんとこは?男ちゃんいつもそこ挟むやん』

男「あ、あった」

男「わるいわるい」ハハ

ナビ『あんなぁ…』ハァ

ブロロロ…

-深夜 物流倉庫事務所-



配車係「男さんがボケた?」

魔法石(ナビ)『せやねん。疲れてるのかも知らんけど』ハァ

配車係「それは単に忘れっぽいとかって事じゃなくて、ですか?」

魔法石(ナビ)『んーそれもあんねん。けど、えっそれ忘れる!?みたいな事とか』

配車係「例えばどんな事でしょう?」

魔法石(ナビ)『この前なんて先輩さんの名前が出てこんくて10秒位フリーズしてもうて』

配車係「最近出番少ないですからね…」

魔法石(ナビ)『何わけ分からん事言うてんの…でもさーそんなん忘れる?』

配車係「そうですねー。あ、これは重要な事なのですが」

魔法石(ナビ)『なにー?』

配車係「男さんが忘れてしまっている事…例えば人の名前とか」

配車係「ナビちゃんはしっかり覚えている事なのですね?」

魔法石(ナビ)『もちろん。むしろ男ちゃんの事やのになんでウチが教えてあげなアカンねん!みたいな事もあるわ』

魔法石(ナビ)『ウチはオカンちゃうねんで!って』

配車係「母でもなければ嫁でもないぞ、と」

魔法石(ナビ)『よ、嫁かぁ…』テレテレ

配車係「おーいナビちゃーん」フリフリ

魔法石(ナビ)『!』ハッ

配車係「全く可愛いんだから…」クスクス

配車係「でも確かに気になりますね、ドライバーの体調管理も僕の仕事ですし」

配車係「僕の方からも少し聞いてみます」

魔法石(ナビ)『ホンマに?頼むわー!』

魔法石(ナビ)『ありがとな、配車係さんっ♪』ニコッ

配車係「(うっ…可愛い)」

配車係「(…僕もナビシステム欲しいな)」ハァ

-翌日 物流倉庫事務所-



先輩「男の物忘れ?」

配車係「はい。なんでも親しい人の名前まで出てこなくなるようで…先輩さんとか」

先輩「マジか」

同僚「最近出番少なかったからなwww」ケラケラ

ゴチンッ

同僚「いってぇwww脳天直撃セ◯サターンwwww」

先輩「全くお前は」ハァ

先輩「しかしそれはちょっと心配だな」

配車係「僕から本人には聞いてみようと思ってるんですが」

同僚「まぁアイツ元々ちょっと抜けてるとこあったっすけどねwww」

先輩「そうか?俺には割としっかりしてるように見えてたが」

同僚「だってアイツ、ナビシステムが自分の心を写し取ったモンだって事も覚えてなかったじゃないすかww

同僚「ほら酒場で話した時www」

先輩「あぁ再リンクの直前か、覚えてるぞ」

配車係「ナビシステムのインストールによる記憶障害は一時的なもので、だいたい半日もすれば回復するのが一般的なんです」

先輩「え、そうなのか?」

同僚「ですねwww俺もインストール直後は若干ありましたけどw次の日には治ってましたわwww」

先輩「じゃあ男の場合は元々そういう傾向があって、再リンク以降その症状が進んだって事か?」

配車係「かも知れません。ただ、ナビちゃんの方にはその記憶情報がしっかり残ってたりもしてるみたいで」

同僚「ナビちゃんにツッコまれながらもどうにかやってるわけかwww熟年夫婦かよwww」ケラケラ

先輩「むぅ….女にも話を聞いてみるか」

先輩「ってかお前、事務所にいるなんて珍しいじゃないか」

配車係「今日は同僚さんは内勤です」

同僚「報告書の作成wwwほらこの前新規事業のアレで飛んでった時のww」カキカキ

先輩「やっぱそういうの出さなきゃなんだな」

同僚「マジちょーめんどくせーっすwww大体地図の作成とか運送屋の仕事なんすかww?」カキカキ

先輩「抜擢された時はノリノリだったくせによく言うぜ」クスクス



配車係「物流協会(うち)は国営組織ですからねー、一応公務員みたいな扱いになるので」

先輩「単に運送業だけでなく、物流に関わるあらゆる仕事をするって訳だ」

同僚「まぁ色々やる事あんのは面白いからいいんすけどねww事務仕事は苦手だwww」

配車係「日がな一日事務所に缶詰め…日頃の僕の苦労が分かるでしょう」クックック

先輩「お前ちょっとこえーよ…」

-鍛治職人の里-


カンッ!カカンッ!ダダッ…!

男「うるぁっ!」ブンッッ

親父「ほい」カカンッ

親父「ほらよっ」ズバッ!

男「っく…!ぐぬぬ…」ガキンッ…ギリリッ

親父「ふっ。そんなモンかよっ」ギリリッ…バシッ!!

男「のわっ」ヨロケ

親父「そい」ビシィッ

ピタッ…シィィィン

男「…くっ。参った」タラーッ

親父「いやぁー俺もまだまだイケてるじゃねぇか」ガハハ

男「ガキの頃から比べれば腕も上がったと思ってたが…まだ親父には勝てないか」

親父「確かに、実戦で鍛えてる分動きは良くなってるぞ」シュボッ スゥゥ…

親父「ただ太刀筋に迷いがあるな」スパァァ

男「迷いか…」

親父「ほれ」スッ

男「ありがと」シュボッ スゥゥ



スパァァ…モクモク

親父「太刀筋の迷いは心の迷い」

親父「そこらのオーク位ならともかく、強い奴と対峙する時にそんなんじゃ」

親父「お前、死ぬぞ」

男「まぁ俺は運送屋だからな、そんなにヤバい魔物と遭遇する事はないだろうけど」ハハッ

親父「んなん分かるモンかよ、戦争中なんだぞ」

男「…そうだな」

親父「この前、女が来てな」

親父「お前の事えらく心配してたぞ」

男「女が?ナビとの再リンクも上手くいったし今更何を…」

親父「さぁな。お姉ちゃんはいつまで経っても弟の事が気掛かりなモンだ」ハハッ

親父「聞いたぞ、再リンクの事」

親父「全部思い出したんだろ?」

男「あぁ、北西の村での事からな」

親父「…そうか」

男「親父、ほんとうn親父「あーそういうのいい!パス!」

男「パスって…」クス

親父「俺はお前と女の父親だ。以上!」

男「…うん」フフッ

男「ちょっと聞きたいんだけど」

親父「んー?」

男「涙の欠片って知ってるか?」

親父「…どこで聞いた?」

男「この前、運行で水の街って所へ行ったんだけど」

男「そこで聞いたんだよ、先代勇者と魔王が戦った時の話に出てきて」

親父「水の街…運河の島か」

男「そうそう!その街に流れ弾が飛んで来たのもちょうど20年前だって言うから」

男「ちょっと気になってさ、大した話じゃないんだけど」

親父「…。」

-同刻 物流倉庫事務所-




ナビ『(男ちゃんの長い睫毛)』

ナビ『(華奢な指先…ハンドルを握っとぉ時の腕の筋肉)』

ナビ『(はねた癖っ毛…優しい声)』

ナビ『(…はぅ)』キュン

同僚ナビ『…完全にやられてますわね』

ナビ『…茶色がかった深緑色の瞳』

同僚ナビ『ついに声に出し始めましたわ』

ナビ『笑うと見える八重歯…!』

同僚ナビ『…そのうち"おぉロミオ!"とか言い出しそうな勢いですわね』

ナビ『…なんか、聞こえる』

同僚ナビ『へ?』

オォォォ…アァァァァ…



同僚ナビ『ほんとですわ…何ですの?この呻き声みたいな響きは』ゾクゾク

ナビ『遠くの方から…なんや苦しそうやなぁ…』

配車係「~♪」カキカキ

同僚ナビ『生身の人間には聞こえていないようですわね…』ゾクゾク

ナビ『ってか、いたんやな配車係さん』



オォォォ…アァァァァ…



同僚ナビ『気味が悪いですわ』

ナビ『うん。でもなんか可哀想…』

オォォォ…アァァァァ…



うぉぉぉぉぉぉ!!!!



ナビ『!』ビクッ

同僚ナビ『!』ビクビクッ

同僚ナビ『こ、今度は何ですの!?』

ナビ『さっきのとは違う…今のは…近いで』


グラ…グラグラ…

…ドカァァン!!!!

- 同刻 物流協会事務局 大会議室-



同僚「というわけでwwww」

修道女「早速次なる場所へ向かいましょう!」バサァッ

同僚「次は~ここwww」トントン

修道女「独自の文化を持つ極東地域…」

同僚「その中でも一際トンがった国らしいぜwwwなんでも卵を生で食うらしいwww」

修道女「げげ!マジですか!?」

同僚「更にww悪い事をした奴は自分で腹切って死ぬらしいwww」

修道女「どういう状況なんですかそれ…」

同僚「まぁそんなもんは序の口らしいけどなww何しろ情報があんまりないwww」

修道女「だからこそ調査が必要、って事ですもんね」

同僚「そーゆー事www今回はお前も一緒に行くぞwww」

修道女「はい!この日の為にばっちり準備してきましたから」グッ

同僚「準備?あぁ装備とか食糧とかって事ねwww」

修道女「(し、勝負パンツとか…)」

修道女「(なんて言えねーです!)」カァァッ

同僚「ほいじゃまー行きますかwww」

修道女「はい!詠唱始めます」スゥ

[風の息吹よ 大地の鼓動よ]パァァァァ…

[数多の空を駆け巡りし 勇壮なる汝の名において…]



グラグラ…グラ…グラグラ



同僚「ん?地震かwww?」



グラグラ…ガガァンッ!!!!



同僚「!!」ヨロッ

修道女「!!…っく」パァァァァ

同僚「おいおいなんかヤバそうだぞこれ」グラグラ…

ピピーッ!ピピーッ!

<緊急警報 建物内にいる職員は直ちに所定のシェルターへ避難して下さい

<繰り返します 緊急警報…

同僚「緊急警報!?な、何だってんだ!!」


ガガァン!!ドカァァン!!


同僚「うおっ!!お、おい!なんかヤバそうだぞ!!」アセアセ

修道女「…っ」フルフル

パァァァァ…

同僚「今更詠唱は止められねぇか…」

同僚「しゃーねぇ!俺も男だ!」ダキッ

修道女「!!」カァァッ

[無限に翔ける翼の力で 我らを導き給え]

修道女「て、転移します!」

同僚「いっけぇぇぇマ◯ナムぅぅぅ!!!」



バヒューーーーーン

今日はここまでにします
ありがとうございました

投下します

-同刻 王都 市街地-




ガラガラッ…モクモク…

陸軍警備隊長「くそったれ!奴ら王都に直接攻撃を仕掛けて来やがった!!」

隊員「そこら中に攻撃の痕が…しかし、魔族の姿が見当たりませんね」キョロキョロ

隊長「逃げ足の速い奴らめ!とにかく人命最優先だ!!」

隊長「第1から第3部隊までは救援活動に当たれ!!」

隊長「第4部隊は索敵!!俺について来い!!」

隊員「了解!!ぬぁぁ魔族の野郎どもー!!」

バタンッ ブォン!…ブロロロ…

-同刻 物流協会事務局-



事務局長「被害の状況は!?」

事務局高官「物流倉庫への被弾が2箇所、預り荷への被害はいずれも軽微です」

事務局高官「職員達への人的被害も今の所ありません」

局長「そうか…」ホッ

女「ただ…」

局長「女くんどうした?」

女「ちょうど攻撃の最中に、同僚くんと修道女さんが転移魔法を使用しました」

局長「マッピングシステムか」

女「はい。もし仮に、魔族からの攻撃が高い魔力を用いた詠唱だった場合…」

局長「修道女さんの転移魔法と干渉し、転移の到達点にズレが生じる可能性がある…」

局長「そういう事だね?」

女「仰る通りです」コクッ

局長「マズいな…」

-同刻 王宮 陸軍警備部 監視室-


ウゥー!ウゥー!

警備部長「どこから攻撃されたか分からないだと!?」

職員「はっ。今調べておりますが、王国全域にある120の警備用の魔法石…」カタカタ

職員「そのどこにも魔族の出現は感知されておりません!」カタカタ

警備部長「人間のする事だ、如何に万全な警備体制を敷いた所でそれらが破られる事はある…が」

職員「残念ながら。しかし、そもそも魔族の出現すら発見できないなどという事は…」

警備部長「理論上有り得ない、か」

警備部長「どうなってやがる…まさか王国内部に…?」

-同刻 鍛治職人の里-



<ドォォォン…!ドカァァン…!



親父「!」

男「!」



…モクモク



親父「…あっちは王都じゃねぇか」

男「ま、まさか!王都へ魔族の攻撃が!?」ダダッ

親父「っ!おい!待て!」ガシッ

男「こうしちゃいられない!協会や王都のみんなが…!」

親父「落ち着けって言ってんだよ!!!」クワッ

男「…っく」キィィン…

親父「ここから王都までどんなに急いだって2時間は掛かる、ドライバーやってりゃ分かんだろ!」

親父「王都には陸軍の奴らが常駐してるんだ、最悪の事態なんざそうそう起こねぇよ!」

男「で、でも…!」

親父「だから落ち着けって…!行くなとは言ってねぇ」

親父「ちょっと来い」スタスタ

男「…?」スタスタ

-親父の家-


親父「里の炉があんなんなっちまう直前にな」ゴソゴソ

親父「ずーっと手を入れてた剣がようやく完成したんだよ…っと」ゴソゴソ

男「剣…?」

親父「あったあった」ガサッ

スチャ…キランッ

親父「持ってけ」スッ

男「親父…これって」スチャ

親父「俺が昔使ってた剣だ」

親父「お前の体格や剣技に合わせて仕立て直してある」

男「今使ってるのより少し短い…そしてすごく軽い」ブンッ

親父「お前の手に馴染むハズだぜ?何せ俺が育てたんだからよ」

親父「剣も、剣士もな」ニカッ

男「ん?この柄の丸い凹みは…」

親父「いいか男」ズイッ

親父「迷いに克つんだ」

親父「剣に限らず、最後は腹括った奴が生き残る」

親父「勝とうとなんざ思うな」

親父「とにかく生き残れ」

親父「人間、生きててナンボだ」ニカッ

男「親父…分かったよ」

親父「気ぃつけて行ってこい」

親父「そして必ず無事で帰って来い」

親父「お前達の居場所はここにある」

男「あぁ…ありがとな」ニコ

-???-



…ヒュゥゥン…バシュッ!

ドサドサッ!!

同僚「のわっ!いってぇwww」

修道女「ち、着地失敗です…あ」

ぽよーん

修道女「あ、あの同僚さん…手をどけて頂けますか…///」

同僚「む、これは失敬wwまさにこれこそラッ◯ースケベwww」サッ

修道女「もう!むしろスケベの方を伏せて下さい!」

同僚「とりあえず手の残り香をばww」クンカクンカ

修道女「へ、変態!!」バシバシ

シィィィン…

同僚「…どこだここww?」

修道女「真っ暗で何も見えませんね、広い空間だという事は分かりますけど」

同僚「段々目が慣れてきたなw」

同僚「ん?あのデカいまん丸いのは何ぞww?」

修道女「岩、ですかね?それにしては…ま、まさか魔法石とか!?」

同僚「いやいやいやwww魔法石にしちゃデカ過ぎでしょwwww」

同僚「ア◯ファード位あんぞwww」

修道女「ですよね、こんな巨大な魔法石なんて聞いた事が」



バババッ

同僚「っ!?眩しwww」

修道女「急に灯りが…」

警備兵1「おい貴様ら!そこで何をやってる!!」ガチャ

警備兵2「ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!!どうやって侵入した!!」ドタドタ

同僚「やべwwいっぱい来たwww」

修道女「わ、私達完全に侵入者だと思われてますよ!!」アセアセ

同僚「まぁ間違ってないわなww故意じゃねぇけどww」

警備兵3「武器を捨てろ!!」スチャ

警備兵4「両手を上げて膝を付け!!」

同僚「あのーww俺ら王国物流協会のモンでしてww」

警備兵5「む?確かにそれは協会員証…」

警備兵6「騙されるな!偽造したものに違いない!!」

警備兵7「そうだ!大体こんな所へ届け物などあるものか!!」

同僚「確かにwwウチら空荷でーすwww」パタパタ

修道女「ふ、ふざけてる場合ですか!!」

グイッ

同僚「おい、ここから飛べるか?」ヒソヒソ

修道女「ど、どうでしょう…こういう場所では結界が張られている事も」ヒソヒソ

同僚「ってかよく見りゃアイツら王立騎士団じゃねぇか」ヒソヒソ

修道女「っ!という事はここって王国の中…!?」ヒソヒソ

同僚「どうやらそうみたいだな…とりあえずわけわかんねー外国じゃねぇなら」ヒソヒソ

同僚「どうにかなんだろ」ニカッ

同僚「あー皆さんwとりあえず身分証を提示するのでご覧遊ばせww」ポイッ

同僚「ほらお前もww」

修道女「は、はいです!」ポイッ

警備兵8「んーどれどれ…同僚…王都在住…お前写真写り悪いなぁー」

同僚「やめてww気にしてるのにww」

警備兵9「こっちの娘は王立修道院の者のようです!」

同僚「実は俺達、物流協会の新規事業の担当でしてwww」ヘーコラ

かくかくしかじか

同僚「…ってなわけでしてww」テモミ

警備兵10「そうか、あの騒ぎで転移に失敗したと」

警備兵11「物流協会事務局と連絡が取れました!この者たちの言っている事は本当です!!」

警備兵12「と、いうわけだ。疑ってすまなかったな」武器シマイ

警備兵13「しかし不法侵入には違いないぞ?物流協会とは言え、配達でもないんだからな」

同僚「仰る通りでww」ヘヘーッ

修道女「す、すみませんでした」シュン

警備兵14「まぁ事情は分かったから拘束はせん。速やかに立ち去るんだな」クルッ

同僚「ありがとうございますぅwww」フカブカー

修道女「か、感謝します!」フカブカー

同僚「あw失礼ついでに何ですけどww」

警備兵15「ん?何だ?」

同僚「俺達文字通り飛んで来たもんで、帰り道が分かんねーんすわwww」

同僚「ここって王国のどの辺なんすかねww?」

警備兵16「あぁそうか。ここはな、王宮の地下にある部屋」

警備兵17「巨石の間だ」

-翌朝 王都市街地-



ワイワイ…ガヤガヤ…

売り子「号外!号外!!」ペラッ



[王都襲撃は王国内部からの犯行か!?]

[暗躍するテロリストの影!!]




-物流協会事務局 女の執務室-


女「災難だったわね」

同僚「まったくひでぇ目に遭ったぜww転移した先が徒歩圏内とかwww」

修道女「ご迷惑をおかけしました」フカブカ

女「顔を上げて頂戴。2人のせいじゃないわ」フルフル

同僚「しかしあのデッカい魔法石www一体何なんだww?」

修道女「警備兵さんは巨石の間と仰っていましたけど…」

女「巨石の間…巨大な魔法石」

女「そんな話聞いた事もないわ」

修道女「私達の見たものが巨大な魔法石であるなら、私の詠唱と何らかの原因で干渉して」

同僚「転移魔法が邪魔されたってかwww」

女「そうね…と言うか、引き寄せられたのかも知れないわね」

修道女「引き寄せられた…それじゃ!」

女「まだ憶測だけれど」

女「何らかの意思が働いているのかも」

同僚「石だけにってかwww」ケラケラ

女「…。」

修道女「…同僚さん、一回ぶっていいっすか」ジトッ

-同刻 物流倉庫事務所-


男「みんな無事か!?」バタンッ!

魔法石(ナビ)『!お、男ちゃん…』ウルウル

魔法石(ナビ)『怖かったよぉぉぉぉぉぉ』ビエーン

男「あぁ、もう大丈夫だ」ナデナデ

配車係「お、男さん!」タタッ

男「配車係さん!無事で何よりです」

配車係「事務局を含めて、協会の職員は皆さん無事のようです」

男「そっか…良かったぁ」ホッ

配車係「市街地では軽傷者が出ているようですが、それでも大した被害は無かったようで」

男「親父の言ってた通りだ、さすが王国陸軍」

配車係「まぁそれはそうなんですが…」

男「どうしたんですか?」

配車係「…人で溢れて、かつ縦横に入り組んだ王都に攻撃が加えられて」

配車係「なのに1人の死者もない、というのは…」

男「不幸中の幸いでしたね」

配車係「…本当にそうでしょうか?」ペラッ

男「これは?」

配車係「市街地で配られているタブロイドの号外です」

男「王国内部…テロリスト!?」

男「じ、じゃあ外から攻撃をされたんじゃなくて」

配車係「分かりません。タブロイドなんて面白おかしく書き殴ってナンボですから」

配車係「ただ王都の人達は疑心暗鬼に陥っているようで…」

魔法石(ナビ)『ヒック…ヒック』ウルウル

男「仕方ないです、みんな…」

男「怖かったんですよ、な」ナデナデ

魔法石(ナビ)『うぅ…』ウルウル

-夜 物流協会事務局 大会議室-



男「さて、集まったな」

女「明日から復旧作業やら何やらで忙しくなると思うから」

女「今の内に情報を付き合わせておきましょう」

同僚「知りたがりのおねーさんだな全くwww」ヒソヒソ

男「悪いな、昔からなんだ」ヒソヒソ

女「コホン!聞こえてるわよ」

女「まずは同僚くんの見てきた勇者の落涙ね」

同僚「ありゃあスゴかったwww空間が消し飛ぶって何だそりゃwww」

修道女「私は直接見たわけではありませんけど、それだけの膨大なエネルギーを放出する事は」

修道女「いかに先代勇者様であっても、独力では不可能です」

女「何らかのエネルギー源と先代勇者の力が反応して、大爆発を起こした…」

女「そういう事ね」

修道女「その可能性はあります」

男「北西の村で起こったような事が、水の街でもあったらしいよ」

女「水の街って、クリスタル細工で有名な?」

男「そうそう、まさにそのクリスタル細工を積みに行ったんだけど」

男「そこに流れ弾が飛んで来たのもちょうど20年前らしいんだ」

女「それじゃあ、もしかしたら勇者の落涙による被害だったのかも知れないわね」

同僚「…人が亡くなったのか?」

男「…あぁ、水の街近くの小島を丸ごと墓地にしたらしい」

同僚「…そうか」ギリッ


男「そこへ来て、巨大な魔法石の登場か」

女「王宮地下の巨大な魔法石…巨石が、勇者の落涙を引き起こしたものだったとしたら」

女「事故後の王国軍の派兵、その後の軍の解体と再編成」

女「この辺りの辻褄が合うわね」

修道女「当時の王国軍が勇者の落涙から巨石を運び出して、その後事実関係を隠蔽する為に組織ごと解体した…」

同僚「展開が分かりやすくてwww」

男「でもさ、そこまでして巨石の存在をひた隠しにする意図は何だ?」

修道女「"不幸な事故がありました、原因はこの魔法石でした"」

修道女「先代勇者様はお気の毒ですが、それで話の筋は通りますもんね」

先輩「悪いな、お待たせ」ガチャ

同僚「先輩ちーっすwww」

男「お疲れ様です、運行だったんですね」

先輩「あぁ、男の代打で西の街へな」

先輩「帰って来て驚いたぞ、なんだこの有様は」

魔法石(ナビ)『なぁなぁ、ウチもえぇかな?』ピョンピョン

女「ナビちゃん、何かあるの?」

魔法石(ナビ)『あんな?攻撃が始まる直前に変な声が聞こえてん』

女「変な声?」

同僚ナビ『地の底から響くような、苦しげな呻き声でしたわ』

同僚ナビ『それも、私達だけに聞こえていたようで』

男「ナビ達にだけ…?」

ナビ『でな?呻き声の方はな?遠くから聞こえとぉ感じやってんけど』

同僚ナビ『そのすぐ後、今度はもっと近い場所から』

同僚ナビ『そう、本当に耳元で叫ばれているかのような声が聞こえましたの』

ナビ『あれはビビったなぁ…でもそっちは呻き声というよりは咆哮やな?』

同僚ナビ『えぇ、勇壮ささえ感じましたわ』

女「呻き声と咆哮…それらを合図にして」

女「王国内部に潜伏していた魔族が一斉に攻撃を仕掛けた…?」

男「でも警備網のどこにも魔族は引っ掛からなかったんだろ?」

先輩「俺もそう聞いてるぞ」

女「そこが分からないわね、魔族の反応がどこにも感知されないなんて」

同僚「そりゃやっぱアレじゃねww王国に反発するテロリスト集団www」

先輩「人間の敵は人間ってか、それもあり得ない話じゃないが…」チラッ

男「今のところ、全てが憶測か」

女「何かがまだ欠けているわね」ギリッ

-同刻 王宮 国王執務室-



側近「巨石の間に侵入者?」

騎士団長「はっ。物流協会の職員と王立修道院のシスターです」

騎士団長「話によると、物流協会の新規事業の一環で極東地域への魔法転移を試みたところ」

騎士団長「王都襲撃のタイミングと重なり、転移に失敗したとのことで」

側近「偶然迷い込んだという事か」

騎士団長「そのようです。彼らの身元と証言は物流協会へ照会済みです」

側近「そうか…むぅ」チラッ

国王「…騎士団長」ギロッ

騎士団長「っ!はっ」ゾクッ

国王「巨石の間の存在は極秘事項だ」スクッ

国王「我々と、私の近衛騎士団である君達以外には絶対に知られてはならん」

国王「その2名から情報が漏洩するような事は何としても避けるのだ」

国王「どんな手を使ってでも、な」

国王「言っている意味が分かるか?」ギロリ

騎士団長「は、はぁっ!」

側近「へ、陛下」

国王「構わん。事ここに至り、だ」

国王「侵入した2名と、その周囲の人間を監視せよ」

国王「公には手配を掛けるな、気取られぬよう秘密裏にだ」

国王「情報の漏洩を防ぐ為、止むを得ん場合は」

国王「…構わん、殺害しろ」

側近「よろしかったのですか?あのような踏み込んだご発言…」

国王「事ここに至り、と申しただろう」

側近「しかし…侵入者2人はマッピングシステムの担当者」

側近「今消してしまうのは些か早計かと」

国王「大義の為ならば止むを得まい、駒はまた足せばよいのだ」

国王「…巨石の秘密は何としても守らねばならん」

国王「我らが希望、神の雷(いかずち)の為にな」

-数日後 王都酒場街-

[BAR REQUIEM]



カランッカランッ…

同僚「ここよく無事だったなwww」

先輩「ホントだな」

男「なんだか…話が大事になってきましたね」グイッ

同僚「ホントそれww王国の秘密だテロリストだって話がインフレし過ぎwwwジ◯バブエかwww」グビ

男「俺達ただのドライバーだってのに」ハァ

先輩「全くな。あ、そういえば男さ」

男「何ですか?」

先輩「配車係とは話したのか?」

男「配車係さん?」

同僚「話した事すら忘れてたりしてwwww」ケラケラ

先輩「おい止めとけよ…いや何だ、お前最近その…」

同僚「物忘れの具合はどうですかーお爺ちゃんwwww」ケラケラ

男「物忘れ?」

ゴチンッ

同僚「」ピクピク

先輩「…配車係の奴がさ、ナビちゃんに相談されたんだと」

先輩「あの子、心配してるみたいだぞ?」

男「あぁそういう事ですか。いやぁお恥ずかしい」タハハ

先輩「そんなにしょっちゅう色んな事を忘れちまうのか?」

男「自分ではそれ程気にしてないんですけどね…まぁでも」

男「ナビに助けられてるから気にならないだけなのかなぁ」

先輩「疲れでも溜まってるんじゃないか?それとも何か悩みでもあるのか?」

男「悩み…うーん強いて言えば」

先輩「どうした?話なら聞くぞ?」

男「…ナビの事、ですかね」フッ

先輩「ナビちゃん?何かあったのか」グイッ

先輩「あ、俺アードベッグを」カランッ

男「グレンキンチーを」

<お待たせしました


先輩「そうか…ナビちゃんがね」

男「初めてですよ、女の子に好きだなんて言われたの」ハハッ

先輩「それで、お前はナビちゃんの事どう思ってるんだ?」

男「…。」グイッ

男「…好き、なんだと思います」ジッ

先輩「思いますじゃねぇだろ」バシッ

男「いてて…ですよね」

男「…でも考えちゃうんですよ、色々」

先輩「…。」グイッ

男「生身の人間である俺と、魔法石に宿った"心"だけのあいつと…」

男「もし仮に俺達の心が同じ方を向いていたとして、その先は?とか」

男「魔法石の耐用年数は大体150年…」

男「俺が死んだ後、あいつはどうするんだ?とか」

男「そもそも俺なんかがあいつの事、本当に幸せにしてやれるのか?とか」

先輩「…そういう事か」フゥ

先輩「あのな男、まずn同僚「まずお前、ちょっと勘違いしてねぇか?」

男「あ、起きた」

同僚「お前ナビちゃんの旦那になったわけでもねぇのに幸せにするだ何だってのはおかしくねぇか?」

男「そうは言うけどさ、考えちゃうんだよ」

同僚「そもそもよ、さっきから聞いてりゃデモデモダッテばっかじゃねぇか」フンッ

同僚「お前本当にナビちゃんの気持ちになって考えてるか?」

男「あいつの気持ち?」

同僚「そーだよ、お前が気にしてる事なんて全部自分の都合じゃんか」

男「そ、それは違うぞ」ムッ

同僚「違わないね。お前は自分が傷付かないように言い訳してるだけだ」

同僚「実体がない?先に死ぬ?んなこと関係あるかよ!」ダンッ

男「関係あるだろ!」カチン

男「1人取り残される気持ちはお前には分かんないよ!無責任な事言うな!」ダンッ

先輩「おいお前ら声がデカいぞ」シーッ

男「大体何だ?さっきから聞いてればお前の言ってる事は全部ブーメランじゃやいか」

同僚「何だと?」カチン

男「修道女さんとの事、お前どう思ってるんだよ」

同僚「あいつの話は今はかn」男「関係あるね!」

男「あれだけ真っ直ぐ気持ちを向けてくれてる人に対して、お前何やってんだよ!」

同僚「あいつは聖職者だぞ!俺なんかがおいそれと手を触れるわけにいくか!」

男「それこそ言い訳じゃないか!向こうはお前が手を取ってくれるのを待ってるんだぞ!」

同僚「うるせぇ!お前に何が分かる!」

男「何だと!?」ギロッ

同僚「何だよ!?」ギロリ

先輩「お前らいい加減にしろ!喧嘩するなら外で…ん?」



男「…っぷ」クスクス

同僚「…www」クスクス



男「っぷははは!」ケラケラ

同僚「これには大草原不可避www」ケラケラ

先輩「な、なんだぁ…??」ポカーン

男「何だよ俺達、腹割って話してみれば…」クスクス

同僚「まんま同じよーな事で悩んでやんのwww」ヒーヒー

男「似た者同士だなー」ニコッ

同僚「結局それなwww」ニカッ

男・同僚「マスター!お代わり!」

先輩「…ったくコイツらは」ハァ


-翌日 王都市街地-


ブロロロ…

同僚「久しぶりの本業だわさwww」

同僚ナビ『やっぱり運転席にあなたが居るのはしっくりきますわね』ニコッ

同僚「だろーwww?復旧工事で通れる道が限られてるがwww」

同僚「そこは地元民の意地www私めにお任せあれwww」

同僚ナビ『流石ですわね。時間管理はお任せ下さいませ』

同僚「頼むぜwwほんじゃ行きますかwww」

ブォン!ブロロロ…




ササッ

偵察兵「…。」

-同刻 王都外れ 北の街道-


ブロロロ…

男「今日は北の山脈まで木材を積みに行くぞ」

ナビ『王都の復旧工事に不可欠やかんな!』

男「…襲撃の時、一緒にいてやれなくてすまなかった」

ナビ『大丈夫やで。どーちゃんも配車係さんもおったし』フルフル

男「…王都が狙われた今、確実に安全と言える場所はない」

男「配車係さんに交渉して、退勤後も魔法石(キー)を持ち帰る事にしたよ」

男「これでいつでも一緒だ」ニコッ

ナビ『え!え!!えぇ!!!?』

男「俺はお前を守りたい。出来る限り側にいたい」

男「勝手に決めちゃったけど、いいかな?」

ナビ『お、男ちゃん…それって…』ウルウル

男「…ダメ、だったか?」

ナビ『んなわけあるかいな!おーるおっけーやで!!!』ピョンピョン

男「良かった、それじゃよろしく頼むよ」ニコッ

ナビ『ここ、こちらこそ不束者ですが』ペコ

男「ははっ何言ってんだよ」ケラケラ

ナビ『(男ちゃんと一緒…昼も夜も』ドキドキ

ナビ『(マジか…マジなんかぁ…)』ドキ
ドキ

ナビ『えへ…えへへぇ…』ニヤニヤ

ポチ

[魔法石過給装置ヲ作動シテイマス…]ブォォォォ

ナビ『あ』

男「おいおいおいおい」


バヒューーーーーン…!!!




ササッ

偵察兵「…。」

-同刻 王立修道院 正門-


修道女「んー久しぶりに帰って来ましたー」ノビーッ

シスター長「おかえりなさい。お元気そうで何よりです」ニコッ

修道女「ただいま戻りました!」ペコッ

修道女「王都の襲撃で新規事業はしばらくお休み…」

修道女「その間、またみんなと一緒に神に仕えたいと思います」ニコッ

シスター長「…。」ジーッ

修道女「?」

シスター長「その事なんですが…」ハァ

修道女「へ?何ですか??」

シスター長「…お茶でも淹れましょうか」スタスタ

修道女「わ、私やりまーす!」タッタッ

-修道院 中庭-


シスター長「…これは私の勘なのですが」トクトク スッ

シスター長「…。」ズズッ

修道女「…。」ズズッ

シスター長「…あなた、恋をしていますね?」

修道女「…っ!げほげほっ!」

シスター長「やはりそうですか…」ハァ

修道女「…あ、あのっ」チラッ

シスター長「私はあなたの育ての親ですよ?顔を見れば分かります」

修道女「うぅ…そう、ですよね」シュン

シスター長「…ふぅ」コトッ

修道女「…。」ビクビク

シスター長「あなたもご存知の通り、私達王国正教会のシスターは、清貧、貞潔、服従の誓願に従い日々の生活を送っています」

シスター長「まぁ清貧に関しては、修道院でエールの製造を伝統的に行なっておりますので」

シスター長「嗜む程度、の飲酒は認められておりますが…」

修道女「た、嗜む程度…ですよね」タハハ

シスター長「オホン!自覚があるのならば、ここでクドクド申しません」

修道女「はい…すみません」シュン

シスター長「問題は貞潔。我々シスターは結婚はもちろん、男性との交際も認められておりません」

修道女「神の花嫁たる存在、ですね」

シスター長「そうです。この掟は飲酒云々ほど寛容ではありません」

シスター長「そこは承知しておいでですね?」キッ

修道女「…はい」


…パタパタ…チュン…チュンチュン…

シスター長「あなたがここへ来て、もう20年ですか」

シスター長「早いものですね」

シスター長「今でも思い出します…」

シスター長「あなたが小さい頃はそりゃーもう大変でした」ニコニコ

修道女「そ、その節はご迷惑を…」

シスター長「とんでもない!」フルフル

シスター長「子供のいる信者の方達に教えを乞いながら、悪戦苦闘の子育て…」

シスター長「本来子を成す事のない私達が、偶然にも授かった…」

シスター長「幸せで満ち足りた時間でした」

シスター長「あなたと過ごした時間は、私の人生における宝物です」ニコッ

修道女「し、シスター長…」ウルッ

シスター長「…あなたは私達と違い、自らの意志で修道の門を叩いたわけではありません」

シスター長「ですから王国正教会の掟も、あなたを縛り付けることは出来ないのです」

修道女「…っ!そ、それって!」バッ

シスター長「最後まで聞きなさい」

シスター長「…とは言え、一度は神の従者として仕えた身」

シスター長「自らの道を歩むのならば、けじめはつけなければなりません」

修道女「け、けじめって…嫌」フルフル

シスター長「ベールを脱ぐのです」

修道女「い、嫌です!ここは私の家です!!」ブワッ

修道女「ここには!!私を愛してくれた神と…!!あなたが…!!」ポロポロ

シスター長「…家を捨てろ、神を捨てろ、などとは言っていません」ナデナデ

シスター長「ですがけじめとして、一度ここを離れる必要はあります」

修道女「…っく…ひっく…」ポロポロ

シスター長「安心なさい」ナデナデ

シスター長「あなたがどんな道を歩もうとも、神はあなたと共にあります」

シスター長「それは私も同じです」

修道女「し、シスター長ぉ…」ポロポロ

シスター長「あなたの家はここにあります。いつでも、いつまでも」ナデナデ

シスター長「結論を急ぐ必要はありません。じっくり考えてみると良いでしょう」

修道女「…はい」グスッ



ササッ

偵察兵「…。」

-西の街 陸軍第1倉庫-


ゴゥンゴゥン…

兵士「ホントなんですって!」

先輩「陰謀論とか好きだなーお前も」ケラケラ

兵士「陸軍内部ではもっぱらの噂ですよ!?例の襲撃事件が!」

先輩「国王の自作自演だってか?んな事して何になるってんだ」シュボッ!スゥ

兵士「あ、ここ禁煙…」

先輩「ん?ほれ」スッ

兵士「あ、こりゃどうも…」シュボッ スゥ

兵士「…じゃなくって!あの攻撃は開発中の新兵器の実験だったんじゃないかって話です!」

先輩「新兵器?」スパァァ

兵士「何でも地図情報と転移魔法を組み合わせて、狙った場所にピンポイントで攻撃を仕掛けるって寸法!」

兵士「らしいです!噂ですけど!」

先輩「地図情報と転移魔法…」

兵士「ただ、分からないのが動力源なんですよねー」

兵士「今回王都内で被弾したのが約30箇所…」

兵士「それだけの場所を同時に、転移魔法も併用しての攻撃ですからねー」ペラペラ

兵士「そこいらの詠唱士や魔法石じゃーとても無理ですもん!」ペラペラ

兵士「…って聞いてます?」

先輩「…あぁ」


ササッ

偵察兵「…。」

-第1倉庫 裏手-


偵察兵「…。」コソコソ

先輩「偵察兵ちゃんみーっけ!ぽこぺん!」タッチ

偵察兵「!!」バッ

先輩「待てよ」ガシッ

ギリギリッ…

偵察兵「…っく」

先輩「…元軍人を舐めんじゃねーぞボンクラ」ギロリ

先輩「何を探ってやがる?言え」ギリギリッ

偵察兵「…っ!」

先輩「その制服、騎士団だな」

先輩「軍とは別組織、国王陛下お抱えの私兵の登場か…」

先輩「おいおい陰謀論も捨てたもんじゃねぇってか?」

先輩「なんとか言えよクソネズミ」ギリギリッ

偵察兵「…ぅ」クラクラ

先輩「あぁ首締めてたらしゃべれねーか、悪い悪い」ユルメ

偵察兵「…っかは!げほげほ!」

先輩「ほれ緩めたぞ、言え」

偵察兵「…!」ババッ ダダダッ…

先輩「あっ!…逃げられちゃった」

先輩「何だよタッチしたじゃんかー」ケラケラ

先輩「でもま、大体ざっくりふんわりとは」

先輩「見えてきたんじゃねぇの?」ギロリ

-???-



ナビ「ここ…どこやろ」トボトボ

ナビ「真っ白でなーんも見えへんなぁ」トボトボ

ナビ「ん…?誰かおるな…」

ナビ「…男ちゃん?」

???「…。」

ナビ「なぁー男ちゃーん!ここどこ?」タタッ



???「…。」ギュッ

ナビ「っ!?ちょ、ちょっと男ちゃん!」カァァッ

ナビ「いきなりどしたん?寂しくなってもうたん??」アセアセ

???「…。」

ナビ「も、もう何か言うてぇな…間が持たんやん…」テレテレ

???「…。」

ナビ「なぁ男ちゃんってば…」チラッ

ナビ「…え?」

ナビ「あ、アンタ、誰や」ガクガク

???「…。」ギュッ

ナビ「い、いや!離して!!」ジタバタ

ナビ「嫌や!アンタと一緒には行かれへん!!」ジタバタ

???「…。」ニヤァ

ナビ「ひっ!いや…いやぁぁぁ!」

-王都 男の家-

魔法石(ナビ)『!!!』ビクッ

魔法石(ナビ)『…ゆ、夢』ガクガク

男「…ん、もう朝か」パチ

魔法石(ナビ)『っ!ご、ごめん起こしてもうた』

男「平気だよ…ふわぁー」ノビーッ

魔法石(ナビ)『(せ、せやった)』

魔法石(ナビ)『(夕べから、夜も男ちゃんと一緒におれる事になって)』

魔法石(ナビ)『(今日が初めての朝…やのに)』

魔法石(ナビ)『もう最悪やー』コロンッ

男「どうした?怖い夢でも見たか」

魔法石(ナビ)『だいせーかい。もう…せっかくの初夜やったのに』ブー

男「初夜って…まぁ間違ってないけど」

男「おはよう、ナビ」ニコッ

魔法石(ナビ)『うん…おはようさん。男ちゃん♪』ニコッ

-物流倉庫 事務所-


男「監視されてる?」キョトン

先輩「そうだ。俺とお前、恐らく同僚と修道女さんもな」

男「な、何で俺達が…?例の巨石の件ですか!?」

先輩「だろうな。とにかく国王陛下お抱えのネズミが出てきた以上、これは緊急事態だ」

男「き、緊急事態って言われても仕事もあるし…」

魔法石(ナビ)『せやで。これからまた港湾倉庫まで行くんやもん』

先輩「むしろ普通に仕事してろ、連中が気にしてるのは恐らく機密の漏洩だ」

先輩「なぁに、怪しい動きをしなきゃ何にもされねぇから安心しろ」

男「安心しろって言われても…なぁ?」

魔法石(ナビ)『見張られとぉって考えるだけで陰鬱な気になるわ…』

先輩「ははっ。まぁしばらくの辛抱だな」

先輩「むしろその位緊張感がある方がいいんじゃないかー?」ニヤニヤ

男「それは、どういう」

先輩「仕事中にイチャイチャすんのも程々にしろって事だよ」ニカッ

男「なっ…!」カァァッ

魔法石(ナビ)『ちょっ…!』カァァッ

先輩「お前らホントに息ピッタリだなー!」ワハハ

先輩「…まぁそれは冗談として」

先輩「もはや俺達の敵は魔族だけじゃないかも知れん。それだけ忘れんな」

男「…分かりました」

-王都 外れ 北の街道-



ブロロロ…

先輩「地図情報、転移魔法、動力源…」

先輩「地図情報は有る」

先輩「何せ王都の中なんだ、詳細な地図情報なんぞいくらでも用意できる」

先輩「動力源も有る」

先輩「魔法石の蓄積できる魔力はその大きさに依存する、らしい」

先輩「例の巨石を使えば問題ないだろう」

先輩「となると、残るは…転移魔法」

先輩「いくら膨大な魔力があろうと、術者がいなけりゃ詠唱は出来ない」

先輩「…攻撃の瞬間、修道女さんは同僚と一緒にいた」

先輩「と、なると…いや」

先輩「そんなワケはない…」

ブォン!ブロロロ…

-王都外れ 東の街道-


ブロロロ…

…ちゃん…とこちゃん…

男「…ん…」

ナビ『男ちゃんってば!!!』クワッ

男「!!」ビクッ


ブロロロ…キキッ

ゴゥンゴゥン…

ナビ『大丈夫?気分悪いんか??』

男「俺…今、寝て…?」クラクラ

ナビ『うぅん。たぶん眠ってはなかった』フルフル

ナビ『なんや目ぇ開いたまんまぼーーっとしとって』

ナビ『話し掛けても何も!心ここにあらずみたいな感じやったで!』

男「心が…」

ナビ『なぁホンマに大丈夫!?体調悪いなら無理せんと休も!?』

ナビ『それか配車係さんに言うて代わりの人を…』

男「…それはダメだ、ただでさえ復旧作業でドライバーは大忙しなんだから」

男「少し休めば良くなると思う…心配掛けてゴメンな」ヘラッ

ナビ『そんなんえぇて!なら路肩寄って休憩しよ?な?』カチッカチッ

男「あぁ…」クラクラ


ササッ

偵察兵「…。」ピピッ

-夜 物流協会事務所-



女「運転中に意識を?」

配車係「はい。今日の運行はナビちゃんのおかげで無事に終わりましたが」

配車係「僕としても、このまま男さんに業務に就いてもらうわけには」

女「分かりました。事務局の方で手配します」

女「まずは医療機関で検査を受けてもらいましょう」

魔法石(ナビ)『お、女さん…』オロオロ

女「大丈夫よ。人間もあなた達と一緒で、時々メンテナンスが必要なの」

女「きっとすぐに良くなるわ」ニコッ

魔法石(ナビ)『そ、そっかぁ…』ホッ

先輩「おつかれーっす」ガチャ

配車係「先輩さん、お疲れ様です」

女「あら、お帰りなさい」

先輩「おう、事務所(こっち)にいるなんて珍しいじゃないか」ヒラヒラ

女「男くんがね、運転中に意識を失ったらしいの」

先輩「男が?大丈夫なのか!?」

女「無事に帰って来てるわ、でもこのまま運行を続けるのは無理ね」

女「とりあえず明日にでも医療機関へ連れて行くわ」

先輩「それなら俺が連れてってやるよ、ちょうど明日休みだし」

女「ほんとに?助かるわ、それなら後で連絡するわね」

先輩「了解。あとさ、こんな時に何だが…この後空いてるか?」

女「ホント、こんな時にね」ジトッ

先輩「まぁいいじゃないか、男の事は今あぁだこうだ言っても始まらんさ」

女「そりゃそうだけど…」

先輩「まぁ…いいからよ」ニコッ

女「…?」

-王都 酒場街-


ワイワイ…ガヤガヤ…

女「こういう肩肘張らない店も悪くないわね」

先輩「たまにはいいだろ?ほいおまっとさん」コトッ


<乾杯…カチンッ

女「…で、どうしたの?」

女「一人酒が寂しいなんてガラじゃないでしょ?」

先輩「どうしても君と2人きりになりたくて、さ」ニコッ

女「ふふっ。その割には賑やかな店をチョイスしたものね」ニコッ

先輩「こんだけ騒がしきゃー盗み聞きもされねぇだろってな」ケラケラ

女「盗み聞き?…まさか」ハッ

先輩「そのまさかだ、監視されてる」

女「れ、例の巨石の件で…?」

先輩「そーゆー事。しかも相手は王立騎士団」グビグビ

女「騎士団って…じゃあ陛下が直接!?」

先輩「声がでけーよ。んで、こっからは噂を元にした俺の推測だが…」


かくかくしかじか

女「陰謀論がまさかのって感じね…」ハァ

先輩「だろー?何だか知らないが、俺達は相当デカい話に巻き込まれてるらしい」ニヤニヤ

女「もしその仮説が正しいなら、私達は兵器開発の片棒を担がされてる事になるじゃない!」

先輩「国王陛下とそのネズミが出てきたんだ、ほぼ決まりだろ」ニヤッ

女「…なんだか楽しそうね」ジトッ

先輩「そんな事ないさ」ニヤニヤ

女「どうだか…」ハァ

先輩「まぁそれはそれとして」

女「まだ何かあるの?」

先輩「海はどうだった?」ニコッ

女「…え?」

先輩「君、俺が訪ねてった時に留守だった事あったろ?」

女「あ…あぁ、あの時ね」ドギマギ

先輩「実はあの時そこらの職員に聞いててな、ホントは港湾倉庫に行ってたそうじゃないか」

ズイッ

先輩「…お前、何か隠してんだろ」ギロリッ

女「…店、変えましょうか」フイッ

[BAR REQUIEM]


カランッ…

先輩「アードベッグ」

女「私も」


<お待たせしました


先輩「…。」グイッ

女「…あなたに嘘はつけないわね」フゥ

先輩「おかしいと思ったんだ」フンッ

先輩「同僚達はともかく、俺や男まで呼び出して情報の付き合わせ…」カランッ

先輩「そんな事する必要あるか?」

女「…。」

先輩「何を知ってる?」

先輩「そして何を隠してる?」

女「…知ってる事はみんなと同じよ」

女「結果的には、ね」グイッ

先輩「結果的に?」

女「マッピングシステムで実際に荷物を運ぼうと思ったら、莫大なエネルギー源が必要になるわ」

女「それを賄う方策として、巨大な魔法石が用意されてるって事までは聞いてた」

女「ただ、それがどこから来たのか」

女「なぜ極秘にされてるのか」

女「探ってみたけどサッパリだったのよ」フルフル

先輩「その一環で港湾倉庫か」

女「えぇ。魔法石が海外から持ち込まれたのなら」

女「何らかの記録が残ってるんじゃないかと思ったのよ」

先輩「その調査は、事務局の仕事としてか?」

女「半分はね。もう半分は私の探究心」クスッ

先輩「全く君って奴は…」ハァ

女「みんなが日々の運行や何かで知り得た話…噂でも何でも」

女「とにかくカードを出し尽くしてみれば何か分かるかも、と思ったのよ」

先輩「俺達を偵察隊か何かと勘違いしてないか?」クスッ

女「気を悪くしないで頂戴。知りたがりなのは性分なの」

先輩「まぁいいさ、結果的に面白そうな展開になってきやがったしな」ニヤッ

女「やっぱり楽しんでるじゃない…怖い人」クスッ

先輩「同僚の調査で分かったのが勇者の落涙」

先輩「つまり巨石の出所だが」

女「あとは力の制御なのよ…ん」ノビーッ

先輩「詠唱が出来れば誰でもいいってモンでもないのか?」

女「精神が保たないわ」フルフル

女「そこまでの莫大な魔力を使いこなすことは普通の人間じゃ無理なの」

女「それこそ修道女さんレベルの詠唱士が何人も必要でしょうね」

先輩「…。」フゥ

先輩「そこについては教えてもらってないのか?」

女「"問題ない"の一点張りよ」ハァ

先輩「問題ないって言う時は、大体何かあるもんだ」ニヤッ

女「同感ね。彼らはまだ何か隠してる」

先輩「国王陛下に騎士団…」

女「これ以上何が出てくるって言うのかしら」

-翌日 王立診療所-


男「何だかすみません、わざわざ送ってもらっちゃって」ペコッ

先輩「気にすんな。まぁ医者にじっくり診てもらって」

先輩「バッチリ治してバリバリ働いてくれや」ニカッ

男「分かりました、それじゃ」ニコッ

先輩「お大事にな」ヒラヒラ

-検査室-

医師「事情は分かりました。脳の状態を調べますのでこちらのベッドに横になって下さい」

男「んしょ、と」ゴロンッ

医師「楽にしていて下さい」スッ

男「ん?その注射は…」

医師「弱めの安定剤です」

医師「男さんの場合、カーゴの運転等で無意識のうちに緊張状態が続いていた事がストレスになっていたと思われます」

男「ストレスですか」

医師「はい。心が安定した状態で検査をする為に、ご協力下さい」チクッ

男「んっ…」

医師「そのまましばらく安静にしていて下さいね」スクッ

ガチャ バタンッ

男「…ぅ…ぁ」ウトウト

男「」zzz

-王宮 国王執務室-


騎士団長「監視対象者の中に、同僚の同期である男という職員がいるのですが」

側近の「ふむ…どこかで聞いた名だ」チラッ

国王「涙の欠片か」

騎士団長「昨日体調を崩して、本日より王立診療所へ入院しています」

側近「何?」

騎士団長「報告によれば、運行中に一時的に意識を失った様で」

国王「…ほう」

騎士団長「念の為、催眠剤で昏倒させてあります」

騎士団長「向こう24時間は眠ったままです」

側近「仕事が早いな、流石だ」


騎士団長「ありがたきお言葉を賜った後で申し上げにくいのですが…」

側近「何だ?」

騎士団長「別の監視対象者…先輩という元陸軍所属の者に、偵察兵が接触されました」

側近「監視がバレた、という事か?」

騎士団長「誠に申し訳ございません」フカブカー

側近「お前らしくないな」チラッ

国王「まぁ、構わん」

国王「元陸軍という事は、偵察兵が騎士団の人間である事も見破ったのだろう」

騎士団長「仰る通りです」

国王「それがどういう意味を持つのか、さえな」

騎士団長「…無言の圧力、という事ですか」

側近「左様。旧陸軍からの選り抜きで組織された王立騎士団と」

側近「たかだか寄せ集めの現陸軍、ましてや退役者だ」

側近「どんな馬鹿でも喧嘩の相手は選ぶものだ」


国王「うむ…騎士団長」

騎士団長「はっ!」

国王「引き続き対象者の監視を続けろ」

国王「男に関してはそのまま診療所にて軟禁しろ、面会謝絶とでもしておけ」

国王「男のナビシステム、魔法石を入手しろ」

国王「時は近い、油断するな」

国王「今回の失態は不問に伏す。だが次はないぞ」ギロリ

騎士団長「は、はぁっ!」ビシッ

夜に続き投下します
ありがとうございました

投下します

-王立診療所 受付-



魔法石(ナビ)『面会謝絶ぅ!?』

女「どういう事ですか?」

受付係「検査の結果、男さんの症状を鑑みて」

受付係「過度なストレスを避ける為、一時的に面会謝絶するようにと」

受付係「先生のご指示です」

女「じ、じゃあ…」

医師「症状自体は重いですが」ガチャ

受付係「あ、先生」

魔法石(ナビ)『せんせー!?お、男ちゃんどうなるん!??』アセアセ

医師「今すぐ命に関わるとか、そういった事はありません」

魔法石(ナビ)『そ、そっかぁ…』ホッ

医師「ただ、彼には休養が必要なのです。ゆっくり一人の時間を過ごさせてあげて欲しいのです」

女「そういう事ですか…分かりました」

女「それじゃ男くんを宜しくお願いします」ペコッ

魔法石(ナビ)『せんせー、お願いします!』ペコッ

医師「はい。お任せ下さい」ニコッ

魔法石(ナビ)『ほんなら女さんどーするー?』チリンッ

女「事務局へ戻る前に食事でもしていくわ」

カツカツカツ…

ピピッ

医師「私です。例の魔法石は女という事務局職員が所持しています」

医師「えぇ、はい。あとはお任せ致します。」

-王都 酒場街-



魔法石(ナビ)『昼間っからお酒かいな!』

女「ふふっ違うわよ。ここら辺のパブはランチの営業もしてるの」カランッ


<いらっしゃいませー

魔法石(ナビ)『やば!フィッシュフライでか!』ピョンピョンッ

女「私の掌2つ分位かしら?ここのは肉厚で美味しいのよ」モグモグ

魔法石(ナビ)『それをまぁ3つも4つも…女さんどんだけ食べんねん』アキレ

女「あらそうかしら?」ケロッ



偵察兵「…。」ジーッ

<ありがとうございましたー


女「ふぅ美味しかった」

魔法石(ナビ)『しかしあんだけ食べた分どこへ行ってんねや…』ジロジロ

女「あら、私こう見えて…」ニコッ

女「欲しい所にはしっかり付いてるのよ?」チラッ

魔法石(ナビ)『っ!うおー!すげー!!』キャッキャ

女「ふふっ。…なんなら挟まってみる?」スポッ

魔法石(ナビ)『わ!わ!!わ!!!』

魔法石(ナビ)『アカン…ここが理想郷(ユートピア)か…』ドキドキ

女「大袈裟ね、女の子同士じゃない」クスクス

魔法石(ナビ)『って、てか、女さんキャラ変わってへん??突然どないしたん??』ドキドキ

女「…そこでじっとしててね」ダッ

魔法石(ナビ)『わっ!な、何!?』ユラ

偵察兵「…!」ダダッ

-街外れ 路地裏-

女「はぁ…はぁ…」

女「ここまで来たら撒いたかしら?」フゥ

魔法石(ナビ)『(揺れる度にあっちゃこっちゃでぽよんぽよんとまぁ)』ウットリ

魔法石(ナビ)『(住みたい…ここに)』

女「さて、ここからどうしようかしら…」ガシッ!

女「!」


偵察兵「…。」ガシッ ギリギリッ

女「痛っ!ちょっと離しなさいよ!」

偵察兵「…。」ギリギリッ

魔法石(ナビ)『な、何!?女さんどないしたん!??』

偵察兵「…魔法石を寄越せ」

女「男くんの魔法石!?それが目的なの!??」

偵察兵「…寄越せ」ギリギリッ

女「っく!…そんなの持ってないわよ!!」ジタバタ

ブロロロ…

同僚ナビ『さて次の配達は、と』

同僚「この先の路地裏だなw…あ」


ガチャン!ギュルル!!


同僚ナビ『っ!ちょっと急旋回ですわよ!一体どうしたんですの!?』

同僚「…配達やーめっぴ」ガコンッ!

同僚ナビ『ちょっと何言って…っあ!あれ!!』

同僚「急な集荷依頼にも即対応ってな!!」

ブロロロ…キキーッ!

女「っ!同僚くん!!」

同僚「集荷依頼はこちらですかーwww?」

女「こんの…!離せってば!!」ガブリ

偵察兵「!」バッ

女「出して!!」ガチャ バタンッ

同僚「毎度ありーwww」


ブォン!ブロロロ…


偵察兵「…。」ヒリヒリ

-王都 街外れ-



ブロロロ…

女「助かったわ同僚くん。ありがとう」フゥ

同僚「びっくりしたわーwwwでも先輩の言ってた事マジだったのねwww」

同僚ナビ『監視されているなんてちっとも…』

女「私も偶然気が付いただけよ」

女「でも彼の言ってたのと違って、向こうから手を出してきた…」

女「状況が変わった、って事なの?」

魔法石(ナビ)『あの、女さん?』

女「あらごめんなさい、狭かったでしょう」スポンッ

同僚「んなっ!?ナビちゃんお前なんという羨ましい所からwww」

魔法石(ナビ)『控えめに言うて天国やったで』ツヤツヤ

同僚「おいちょっと残り香よこせwww」クンカクンカ

魔法石(ナビ)『にぎゃー!気持ちわるーっ!!』ジタバタ

女「もう!バカな事言わないでよ!」

同僚ナビ『全くこの人は…』ハァ

ブロロロ…

-物流協会事務局 正門-



ブロロロ…キキッ

同僚「到着なりーwww」

女「ありがとね」

同僚ナビ『では私達は運行に戻りますわ』

女「えぇ、お気を付けて」フリフリ

魔法石(ナビ)『いってらっしゃーい!』

カツカツカツ…



ザッ

女「…あなた達もしつこいわね」ハァ

騎士団長「先程は私の部下がとんだご無礼を」

女「全く。騎士団の名に恥じない紳士的な方だったわ」ハァ

騎士団長「お恥ずかしい限りです」

騎士団長「ですのでここからは、あくまで紳士的に進めさせて頂きます」ペラッ

騎士団長「女、あなたを拘束する」

魔法石(ナビ)『た、逮捕状!?』

女「…どういう事?」ギロリッ

騎士団長「最近のあなたの動向を調べさせて貰いました」

騎士団長「ナビシステムの私的な持ち出し、並びに機密情報の閲覧」

騎士団長「これらは犯罪行為だ」

女「こ、これは協会にきちんと許可を取った行為です!」

魔法石(ナビ)『せやで!配車係さんにお願いしたんやもん!』

騎士団長「夜な夜な飲屋街へナビシステムのデータを持ち出す事もか?」

女「そ、それは…」

騎士団長「それに機密情報の閲覧。あなたは禁書指定されている魔術文献を入手されていますね」

女「…レディの部屋に忍び込むなんて、本当に紳士の鑑ね」ギリッ

騎士団長「捜査ですので。無礼をお許し下さい」

騎士団長「お連れしろ、手荒な真似はするな」バッ

偵察兵「…。」スッ

女「…っく、お優しいのね」ギロリッ

騎士団長「もはやその必要がないからだ」

魔法石(ナビ)『え!お、女さん!』アワアワ

騎士団長「所持品は後程お預かりします」

騎士団長「無論、魔法石もです」

女「ナビちゃん…!ごめんなさい…」

-王立診療所 男の病室-



魔法石(ナビ)『へ??お、男ちゃん!?』

男「」zzzz

騎士団長「今は薬で眠っている。命に別状はないし、身体は健康そのものだ」

魔法石(ナビ)『男ちゃーん!!会いたかったよぉぉー!!』ビエーン

騎士団長「お前達にはここでしばらく生活してもらう」

魔法石(ナビ)『ぐすんっ…ぐすん…え…なにそれ?』ウルウル

騎士団長「国王陛下の御命令だ。お前達をここに閉じ込め片時も離れさせるな、と」

魔法石(ナビ)『意味わかれへんわ…男ちゃんと一緒におれるのは嬉しいけど…』グスッ

コンコン ガチャ

側近「ご苦労。」

騎士団長「御足労頂き恐縮です!」ビシッ

魔法石(ナビ)『おっちゃんだれー?』

騎士団長「無礼者。この方は国王陛下の側近。この王国で陛下に次ぐ高位の方だ」

魔法石(ナビ)『側近さん?へぇー偉い人なんやー』

側近「成る程。これが魔法石に宿りし人の心…」

騎士団長「では、私はこれで」

側近「うむ。引き続き頼むぞ」

騎士団長「はぁっ!」ビシッ

ガチャ バタン


側近「…楽にしたまえ」ストッ

魔法石(ナビ)『わ!男ちゃんの胸の上!』キャッキャ

男「」zzzz

魔法石(ナビ)『呼吸に合わせて胸が動いとぉ…可愛い…』ニコニコ

魔法石(ナビ)『鼻のあなー♪ぷぷっローアングルやとおもろいなぁ』ケラケラ

側近「…。」ジッ

魔法石(ナビ)『側近さん?あんなぁ?』クルッ

側近「何だね?」

魔法石(ナビ)『ウチてっきり、怖い人達が男ちゃんとウチを引き離そうとしとるんやと思っててんかぁ』

魔法石(ナビ)『そーじゃないん?ウチら一緒におってえぇの?』

側近「あぁ。その通りだとも」

魔法石(ナビ)『なんだぁ…安心したぁ』
ホッ

魔法石(ナビ)『男ちゃん…えへへ、男ちゃん…』ニコニコ コロコロ

側近「…。」スクッ


ガチャ バタンッ

ガチャリ!パァァァァ…

-翌日 物流倉庫事務所-


先輩「うぃっすー」ガチャ

配車係「おはようございます」

女「あら、おはよう」フリフリ

先輩「…ん?下手こいて捕まったと聞いたが、釈放されたのか?」

女「お陰様で。元々逮捕容疑なんて取るに足らないものだったし…んー」ノビーッ

先輩「あー逮捕の為の逮捕って奴か」スッ フーーッ

カチッ ピンポーン

配車係「8時28分です、今日は特にかもしれない運転を心がけて下さい」

先輩「あいよ。で?エロい事でもされたか??」ニカッ

女「バカ言わないで。建前上は正規の手続きに則った拘束なのよ?」

女「事情聴取の上、厳重注意で釈放。ただ…」ギリッ

先輩「ナビちゃん、か」

女「没収されたわ。あの状況じゃ突っ撥ねる事も出来ないし」ハァ

先輩「成る程。分かった」グイッ

女「ち、ちょっと、何?」

先輩「折り入って話がある。お前の部屋で構わん」

女「…?えぇ、分かったわ」

配車係「え、ちょ、運行」

ガチャ バタンッ

-物流協会事務局 女の執務室-


バタンッ

女「それで?話っt ガバッ


ギュゥゥッ…


先輩「…心配させやがって」

女「心配、してくれたのね?」フッ

先輩「…守れなくてすまなかった」ギュッ

女「…気にしないで、私だっていい大人なんだk グイッ

チュッ…チュ…

女「んっ…ちょ…ん…」チュッ

先輩「っはぁ…んく…」チュッ


女「…っぷ、もう…」

女「本当に強引なんだから」クスッ

先輩「…俺の前では強がらないでくれ」

先輩「今回は守れなかったが…あぁっくそっ…!」ギリッ

先輩「お前が居ないのは…しんどいんだ」ギュッ

女「…ん、私も、です」フフッ

ギュッ…チュッ…

-王宮 国王執務室-



国王「涙の欠片と魔法石が揃ったか」

側近「はい。彼らの惹かれ合う心が、共依存の状態にまで高まるのは」

側近「もはや時間の問題かと」

国王「…20年か、彼にもよく働いてもらったが」

国王「この辺りが潮時だろう」

側近「…鍛治職人の里での暴発以降、力の制御は困難になる一方でした」

側近「今回の措置は良い梃入れになるかと」

国王「全ては民の為、王国の為…」

国王「ならば私は、悪にでもなろう」

側近「…。」

-鍛治職人の里-


ゴゥンゴゥン…

親父「男が入院!?」

先輩「運転中に一時的に意識を失ったそうで…」

先輩「命に別状はないそうですが、今は面会謝絶の状態です」

親父「むぅ…それで、魔法石はどうした?」

先輩「魔法石?…ナビちゃんですか」

先輩「…騎士団の連中に没収されました」ギリッ

親父「騎士団!?国王の私兵か!」

親父「あの野郎…何を企んでやがる」

親父「…まさか」ハッ

先輩「っ!?何か心当たりがあるんですか!?」

親父「クソッ!」ダダッ

先輩「あ!親父さん!」ダダッ

-親父の家-

親父「この前女が訪ねてきた時には余裕こいてはぐらかしちまったが」ゴソゴソ

親父「クソ野郎…まさか向こうから時計の針を進めてきやがるとは」ゴソゴソ

先輩「ど、どういう事ですか?」

親父「あった…女の奴、自分が知らない事には何にでも首突っ込みたがるだろ?」

先輩「えぇそうですね、学者肌というか」クス

親父「だからはぐらかしたのさ、危なっかしくて仕方ねぇからな」

親父「それに、アイツやお前らがいくら調べた所で最後のピースは見つからない」スッ

先輩「これは…写真?」

親父「勇者一行出立の時のだ、ホラ左のこれが俺で」

先輩「ホントだ、ははっ親父さん変わんないっすねー」ニコッ

親父「お世辞はいいからよ、んでこの右側の男…見た事あんだろ?」

先輩「ん?この人は…陛下の側近の!?」

親父「そうだ。20年前のあの時、俺と共に勇者の落涙で全てを目撃した男」

親父「そして、ナビシステムの開発指揮を採った男」

親父「賢者だ」

先輩「そうだったんですか…」

先輩「それでこの真ん中に写っているのが、勇者の落涙で命を落とした先代勇者なんですね」

親父「それだよ、最後のピースは」

先輩「?」

親父「勇者はな、代替わりなんざしちゃいねぇのさ」

-王立診療所 男の病室-


ピッ…ピッ…ピッ…

男「」zzzz

魔法石(ナビ)『』zzzz

側近「わざわざご足労頂き恐縮です」

修道女「い、いえいえ私こそき、恐縮です」アワアワ

側近「前回の男さんと魔法石との再リンクの一件、報告を読ませてもらいました」

側近「過去に前例のない処置にも関わらず、見事にやってのけたそうで」

側近「感服致しました」

修道女「いやー大した事ないですよぉぉ」テレテレ

修道女「そ、それで今回は…?」

側近「現在、男さんと魔法石は深い眠りについています」

側近「男さんの抱える心の問題…過度のストレスが原因という事にしていますが」

側近「実は別の問題があるのです」

修道女「別の問題…?そ、それじゃ前回の再リンクになにか不備が!」アセッ

側近「いいえ。修道女さんの詠唱は完璧でした」

側近「前回は魔法石側の不具合でしたが、どうやら今回は男さんの方の心に原因があるようなのです」

修道女「男さんの心に…?」

側近「…彼は20年前、北西の村で火災に巻き込まれた際に深い心の傷を負いました」フゥ

側近「幼き頃の心の傷というのは、成長し大人になったからと言って簡単に癒えるものではないのです」

修道女「そうだったんですね…男さん」

側近「今回は男さんの心へ魔法石をリンクさせ、再度心の補完をしてもらいたいのです」

側近「彼の絶望感や孤独感を、魔法石の人格情報によって癒してあげて欲しいのです」

側近「お力を貸して頂けますか?」

修道女「も、もちろんです!」グッ

側近「ありがとうございます」ニコッ

-王都へ向かう街道-



ブロロロ…

親父「20年前のあの時、俺達は魔王との戦いにケリをつけようと考えていた」

親父「勇者が最大火力の詠唱を使う間、俺と賢者であいつの守りを固めてた」

親父「当時はまだあの辺にゃドラゴンなんかがゴロゴロ居たからな」ケラケラ

先輩「ど、ドラゴンですか…」

親父「…あの場所に馬鹿でかい魔法石が埋まってたのは全くの偶然だったんだ」ギリッ

-20年前、大陸中央 北の荒野-


ビュォォォォォ…

[天空高く聳え立つ 神をも砕く雷の王]ゴワァァァァァ…

勇者「…っく」パァァァァ

剣士「おらぁぁ!」ザシュッ

賢者「ふんっ!」バシュゥゥ

[我と汝の力を以って 全ての愚かなる者に]ギュワァァァァ…

勇者「…!!」ギリギリッ

[清浄なる一撃を与え給え]

剣士「くるか!!」バッ

賢者「これで終わりだ!!」ババッ





-ドクンッ-

勇者「っ!!…何だ、この感じは」グワングワン

剣士「ど、どうした勇者!!」






-ドクンッ ドクンッ-

勇者「何かがおかしい…こんな…こんな膨大な力…」グワングワン

賢者「…ちっ!力が暴走したか!?」

剣士「暴走だと!?」






-ドクンドクンドクンドクンドクン-

勇者「漲ってくる…大いなる力…」ユラユラ

ギュワァァァァ…!!

剣士「おい!あぶねーぞ!!」

賢者「ダメだ…心が力に飲まれる!」

剣士「勇者!おいしっかりしろ勇者!!」

賢者「このままじゃ道連れだ…避難するぞ!」ガシッ

剣士「見捨てて行けるかよ!仲間なんだぞ!?」

賢者「一緒に死んでしまったら元も子もないだろう!!」

勇者「力が…ふふ…」ニヤニヤ

勇者「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」ギュワァァァァ…!!!





カッ…





親父「あの馬鹿でかい魔法石…巨石の力に魅了された勇者は」

親父「あの辺り一帯の空間を消し飛ばす程の爆発を起こしながら、消えた」

親父「…巨石に取り込まれたんだ」シュボッ スゥ

先輩「と、取り込まれた!??」

親父「事故の後、王国まで巨石を持ち帰った賢者は」

親父「勇者の心を宿した巨石の力を使い」

親父「魔族に反応して自動で攻撃をぶっ放つシステムを作ったんだ」

先輩「じ、じゃあ勇者は!!」

親父「巨石の中で今も戦ってるのさ」スパァァ

先輩「親父さん…あなた…全部知ってて…!」

親父「なんで勇者を助けに行かねぇかって?馬鹿だなお前」

親父「…あいつはな、多分利用されてる事にも気付いてるんだ」

先輩「知ってて…あえて?」ゴクリ

親父「力に魅了されてたって勇者は勇者だ」

親父「巨石の力を利用してでも、賢者や王国に利用されてでも…」

親父「魔王を討つという使命を果たそうとしてるんだ」

先輩「そんな…人としての存在を捨ててまで…」

親父「漢が一度決めた事だ、途中で邪魔しちゃ野暮ってモンだろ」

先輩「野暮って…」

親父「だがな、勇者の決意は俺の息子にゃ関係ねぇ話だ」ギロリッ

親父「賢者…お前の好きにはさせねぇぜ!」クワッ

今日はここまでとします
明日第二部終了予定です
ありがとうございました

投下します

-王宮地下 巨石の間-


ピッ…ピッ…ピッ

男「」zzzz

魔法石(ナビ)『』zzzz

修道女「こ、ここで詠唱するんですか!?」

側近「今回の詠唱は多大な魔力を必要とします」

側近「この巨大な魔法石であれば、修道女さんの魔力に大きな助けとなるでしょう」ニコッ

修道女「そ、それはまぁ…でも」

巨石「」シーン

修道女「(あの時は気付かなかったけれど、この魔法石…)」

修道女「(膨大な魔力以外の何かを内包している…これは…)」

オォォォォォ…オォォォ

修道女「(…声!?人の心!??)」ゾクッ

修道女「そ、側近さん!この巨石は…!」

側近「…これだけ膨大な魔力が一箇所に凝縮すると、思念のようなものを形成する事があります」

側近「心配いりません。善なる光で満ちたあなたの心ならば」

側近「巨石の力はきっとあなたの味方をしてくれますよ」ニコッ

側近「では私はこれで。詠唱の邪魔をしてはいけませんからね」クルッ

修道女「…あっ!側近さん!」

ガチャ バタン

修道女「行っちゃいました…」

修道女「…仕方ありませんか」フゥ

修道女「男さん、ナビちゃん」

修道女「今助けますからね」スッ

パァァァァ…

男「」zzzz

魔法石(ナビ)『…男ちゃん』ムニャムニャ

-男の精神世界-



ナビ「…ん」パチ

ナビ「んぁーよぉ寝た」ノビーッ

ナビ「…ここどこ?」キョロキョロ

ナビ「え、ウチまだ寝てるん??」ホッペギュー

ナビ「あったかいなぁ…」

ナビ「この感じ、この匂い」

ナビ「この前とは違う…うん、きっとここは男ちゃんの心ん中や!」

男「」zzzz

ナビ「男ちゃんみーっけ?」ニコッ

ナビ「くすっ。夢ん中でも寝てるってどんだけ寝るねん」ケラケラ

ナビ「髪の毛…やわっこいなぁ」サワサワ

ナビ「相変わらず睫毛なが…へへ」スッ

チュッ

男「…ん」パチ

ナビ「んむぅ!!!」ビクッ

男「…寝ている間に唇を奪われるとは」クス

ナビ「は、はわわ////」カァァッ

男「奪っておいて赤くなるなよ」ケラケラ

ナビ「だ!だってタイミング!!」

男「…足りないな」スッ

ナビ「にぎゃっ!??」ビクッ

パタッ

ナビ「…押し倒された」ドキドキ

男「…押し倒した」ドキドキ

ナビ「お、男ちゃん!?ウチな!??」

男「分かってる」ニコッ

ナビ「いやいや絶対分かって…へ…」


チュッ…チュ


ナビ「ん…」

男「んくっ…ナビ…」


ギュッ チュッ チュ

-物流協会事務局 女の執務室-


コンコン ガチャ

親父「よう」ニカッ

女「お、おじ様!??」

親父「職場訪問!…って場合じゃねぇ」

親父「時間がない、一緒に来てくれ」

女「ど、どうしたんですか!?どこへ行くんですか!??」

親父「巨石の…勇者の所だ」

-物流倉庫事務所-


先輩「同僚いるか?」ガチャ

同僚「あ、おつかれっすーwww」

先輩「ちょっとツラ貸せ」クイッ

同僚「なにそれ怖いwww」

先輩「時間がない。男が危ないかも知れない」

同僚「…っ!了解っす。なら診療所へ?」

先輩「いや…巨石の間だ」

-王宮 国王執務室-


側近「あのシスターの詠唱が上手く運べば、時を置かず心の補完は成就するでしょう」

国王「うむ。ではその瞬間をこの目で見届けるとしよう」スクッ

国王「贄を捧げる者の責任としてな」

ガチャ バタンッ

-男の精神世界-


ドクン…ドクン…

-なぁ男ちゃん?-

-ウチら色んな所に行ったなぁ?-

-シップの甲板から見上げた、ダイヤモンドぶちまけたような星空…-

-キラキラ光る朝の水平線…-

-どこまでも続く隣国の田園風景…-

-水の街へ続く、海に架かる橋…-

-里が襲われた時、すぐに逃げるかどうかで喧嘩したやんか?-

-くすっ。男ちゃんと喧嘩するなんてあれが初めてやったんちゃう?-

-どれもこれも、大事な思い出…-

-ウチの宝物やで-

-あんなぁ?あの時…-

-昔の記憶に押し潰されそうな時-

-男ちゃん、来てくれたやんか?-

-自分だって辛いのに-

-うぅん、自分の事やからこそ辛いのに-

-…あなたは来てくれた-

-嬉しかったぁ-

-もう一人やないんやって-

-見捨てられたと思ってた過去の記憶が、ようやく天に帰ってくみたいな?-

-上手く言われへんけど…-

-でな?あん時決めてんか-

-男ちゃんが好き-

-ずっと側におりたいって-

-男の精神世界-



ドクン…ドクン…

-俺はずっと寂しかった-

-俺には親父がいるし、女も、協会のみんなもいる-

-でも、心の奥にずっと埋まらない空洞があって-

-そこは冷え切った場所で-

-真っ暗で誰にも触れられない場所で-

-そこは多分、一生埋まらないんだろうなって…-

-ナビの中に置き忘れた、北西の村での記憶-

-あの時の孤独感や絶望感が空洞の正体なのかも知れない-

-再リンクでそれは分かったけど、分かったからって空洞が埋まるワケじゃない-

-俺はどうしたらいいんだろう?…-

-ナビ、お前が俺のこと好きだって言ってくれた時-

-本当は嬉しかったんだ-

-聞こえないフリしてゴメンな?-

-俺も、お前のことが好きだよ-

-でもこの好きって、本物なのか?-

-俺はただ、無条件に俺のことを受け止めてくれるお前に-

-寄りかかりたいだけなんじゃないか?-

-そういう思いが消えなかった-

-俺はこのまま踏み出してもいいのかな?-

-王宮地下 巨石の間-


パァァァァ…

バタンッッ!!

親父「遅かったか!!」ダダッ

女「し、修道女さん!??」

修道女「…っく!お、女さん!?」ビリビリ

先輩「男!ナビちゃん!無事か!?」

同僚「おい!お前何やってんだ!!」

修道女「同僚さん!?な、何って…」ビリビリ

側近「役者が揃ったようですね」ガチャ

親父「賢者!てめぇ俺の息子を!!」チャキ

側近「久しぶりですね剣士。そうか涙の欠片は貴方の…」

側近「昔話は後にしましょう、物騒なものは仕舞って下さい」

側近「国王陛下の御前ですよ」

国王「始まったようだな」ズイッ

女「へ、陛下!」

国王「…諸君には感謝している」

国王「此度の我らが計画に際し、その力を存分に発揮してくれた諸君らは」

国王「まさに王国民の鑑である」

先輩「力を貸した覚えなんてないが?」

側近「分からんか。ここに集いし諸君ら全員が力を合わせ、この計画を実現に導いてくれたのだ」

側近「私からも礼を言うぞ」

同僚「何が何やらさっぱりwww普通に生きてるだけですがwww」

側近「普通に、か」ニヤッ



男「…」zzzz

魔法石(ナビ)『…』zzzz

-男の精神世界-



-あんなぁ?心の空洞は無理に埋めんでもえぇんちゃうかなぁ?-

-埋めなくてもいい?-

-多分な、きっとみんな同じなんちゃうかなぁ?-

-同じ?誰の心にも空洞が?-

-多かれ少なかれ、な-

-でな?例えばそれを無理に埋めようとするやん?-

-誰かで、何かで…か-

-ぅん…でもきっと上手くいかへん。一瞬忘れる事は出来るかもやけど-

-…分かるよ、俺もそうだった-

-普通の人はみんなそう、でも…-

-普通の人は?-

-ウチと男ちゃんは特別なんやで-

-特別?-

-同じ心を持って、同じ痛みを抱えて…-

-こんなに分かり合える存在ないよ?-

-…確かにそうかも知れない-

-やろー?ウチら最強のコンビやもん♪-

-ふふ。久しぶりに聞いたな-

-えへへ。だからな?男ちゃん…-





-ウチと一つになろ?-

-王宮地下 巨石の間-




パァァァァ…

側近「ここまで力が高まれば問題あるまい」

側近「修道女さん、もう結構です」スッ


パァァァァ…バシュンッ!!


修道女「…っく!は!」フラッ

同僚「ないすきゃーっちwww」ダキッ

親父「賢者、お前…」ギロリッ

親父「俺の息子を生贄にするつもりだな!?」

側近「礎、と言ってくれ」

親父「ふざけんな!何が礎だ!!」

国王「剣士よ」

国王「側近…賢者は知恵を貸してくれたに過ぎん」

国王「全ての責は国王たる私にある」

国王「恨むならば私を恨め」

女「陛下!!男くんを生贄にってどういう事ですか!??」

親父「勇者が巨石に取り込まれて20年…」

親父「巨石の力に勇者の心が食い尽くされちまう前に」

親父「心の補充をしようって魂胆だよ!」スチャ

側近「無礼者!剣を仕舞え!」

女「そ、そんな…酷い…!」フルフル

国王「恨むならば私を、と、重ねて言おう」

国王「強大なる魔王の力を前に、人々を、世界を守る為」

国王「勇者を取り込んだこの巨石の力…」

国王「"神の雷"を制御する心が必要なのだ」

修道女「か、神の雷…!?」

側近「巨石の力を制御するには、揺るぎなき心の力が必要なのだ」

側近「20年前のあの日…勇者から飛び散った、悪を憎む善なる心の残留思念」

側近「"涙の欠片"を内包した男くんの心が、まさに適任だったのだ」

側近「が、火災により深い傷を負った彼の心だけでは不十分…」

側近「その為に彼の心の片割れたる魔法石との接近…心の補完が切望された」

国王「諸君らは、人の心という複雑で繊細な代物を上手く導き」

国王「彼らの心が惹かれ合うのを後押ししてくれたというわけだ」

女「そ、そんな…」

先輩「じ、じゃあ俺達がした事が…」

同僚「あいつとナビちゃんの為を思ってした事が…!?」

修道女「酷い…人の心を何だと思ってるんですか!??」ブワッ

親父「…まだだ」

側近「?」

親父「…俺の息子を舐めんな」ギロリッ

側近「愚弄などしていない。涙の欠片は…」

親父「俺の息子を変な名前で呼ぶんじゃねぇ!!!」クワッ

親父「男…とっとと目を覚ましやがれ」

男「…」zzzz

魔法石(ナビ)『…』zzzz

-男の精神世界-


-俺達が、一つに?-

-せやでぇ。…あ、エッチな意味ちゃうで!?-

-…ま、まぁ、それもえぇねんけど…-

-あんなぁ?ウチら一つになったらな?この寂しさも消えると思うねん-

-心の空洞だって埋まるかもしれへんし!な!?-

-俺は…-

-…ウチと一つになろ?そしたらこの力も…-

-力?-

-この巨石の力もウチらのもんや-

-おいナビ、何言ってるんだ?-

-こっちへ…こっちへ…-

-王宮地下 巨石の間-



パァァァァ…

女「っ!巨石が光り出した…!?」

側近「いよいよ始まるか…」

先輩「男ー!!目を覚ませー!!!」

修道女「あぁ…神よ…」

親父「…。」ギロリッ



男「…っく!」zzzz

魔法石(ナビ)『…。』

-巨石内部-


男「…ん」パチ

ナビ「…。」

男「…お前、誰だ?」ムクッ

ナビ「…。」

男「ナビをどこへやった!?」

ナビ「…。」ニタァ

男「っ!?」ビクッ

ナビ「…もう疲れたんだよ、俺は」


グニャァァァァ…


勇者「独りで戦い続ける事に、な」パァァァァ…

男「あなたは…先代勇者!?」

勇者「代替わりしたって事になってんのか…酷いモンだな」ハハッ

勇者「俺はここでずっと戦ってきた。ずっとな」

男「ここって…そもそもここは…?」

勇者「巨石の中さ。俺はあの日北の荒野で、巨石の力を制御し切れずに」

勇者「この中に取り込まれたんだ」

男「取り込まれた!?じ、じゃあナビシステムと同じ…?」

勇者「ナビシステムってのは人の心を魔法石に写し取ったものなんだろ?」スッ

魔法石(ナビ)『』チリンッ

男「な、ナビ!!」

勇者「俺の場合は生身の人間がそのまま取り込まれちまったワケだから、順序としちゃ逆だ」

勇者「でな?この中から力を振るうには、善を望む強い心が必要なのさ」

男「誰よりも崇高な魂を持つとされる勇者だからこそ出来る芸当か…」

勇者「お褒めにあずかりどうも。だがな、俺も人間だ」ポイッ

男「ナビっ!!」パシッ

勇者「枯れる事のない膨大な力の奔流に晒され続け…」

勇者「終わりの見えない戦いに力を振るい続ける事に、もう疲れちまったんだよ」

勇者「俺の心がな」

男「…不憫な話だとは思うが、しかし」

勇者「同情なんざいらねーよ」フンッ

勇者「…欲しいのはお前の心だ」チャキ

男「な、剣!?」

勇者「お前の心を寄越せ」

勇者「魔法石に入ってる分とセットでな」ニヤッ

魔法石(ナビ)『…。』

-王宮地下 巨石の間-



パァァァァ…

国王「巨石が輝いておる…」

側近「準備が整いました、陛下」

国王「うむ…騎士団長!」

騎士団長「ここに」ズイッ

ズラズラッ…

国王「あとは任せたぞ」クルッ

騎士団長「承知しました」チャキッ

親父「へっ…用が済んだら証拠隠滅って訳かよ」チャキ

女「くっ…!外道め!」

同僚「これw確実に消されるパティーンwww」

修道女「ひぃっ…!」ガクガク

先輩「…はいそうですかって、簡単に消されるとでも思ったか?」ギロリッ

チャキッ…ブンンッッ!!!

同僚「ちょwww先輩そんな大剣どっからwww」

先輩「クソネズミ共…前々から気に入らないと思っていたが」ギリギリッ

先輩「俺の女に手ぇ上げた阿保はどいつだ!?ここで根性叩き直してやっから腹決めろ!!!」ダンッッ!!

同僚「こぇぇぇぇ」ビクビク

女「もう…どさくさに紛れて何勝手に恋人宣言してるのよ」ハァ

女「…バカね」クスッ

親父「(今俺の女って言った!?ねぇ俺の女って言った!??)」

親父「…久し振りの実戦が、魔族じゃなく人間相手とはな」チャキ

親父「手加減しねぇからな…子を持つ親を舐めんじゃねぇ!!」ブンッ

親父「全員散開!男達と巨石を囲むように広がるんだ!」

先輩「了解!」バッ

女「やるしかないのね」タタッ

修道女「わ、私戦いなんて…!」ビクビク

同僚「回復役なら出来んだろwwとりあえずこっち来いwww」ズイッ

-巨石内部-


パァァァァ…

勇者「…。」チャキッ

男「俺を殺そうって言うのか?」

勇者「この中にいる限り死にゃしねぇから安心しろ」

勇者「ま、斬られりゃ普通に痛いだろうけどな」ニヤッ

男「…っく!」ギリッ

魔法石(ナビ)『…ん』コロンッ

男「な、ナビ!!」

魔法石(ナビ)『…男ちゃん、どうする?』

勇者「お、パートナーのお目覚めか」

男「ど、どうするって…」

魔法石(ナビ)『…あの人本気やで』ジッ

魔法石(ナビ)『形は歪んでしまっとぉけど、使命に燃える心はまだ残っとぉ』

魔法石(ナビ)『ウチらを取り込んででも…人の血で手を汚してでも』

魔法石(ナビ)『魔王を討ち取るつもりや』

勇者「そういう事だ。お前達には悪いが」

勇者「世界の平和という大義の為…」

勇者「お前達にはその礎となってもらう」

男「バカな!大義の為なら普通に生きてる民の犠牲は厭わないってのか!?」

勇者「"普通"ね…」ギロリッ

魔法石(ナビ)『男ちゃん!話して分かる相手やないで!とりあえずこれ!!』

パァァァァ…ポンッ!

パシッ

男「こ、これは親父がくれた剣…!」チャキッ

勇者「ようやくやる気になったか」

勇者「ならば行くぞ…!」ダダッ

魔法石(ナビ)『男ちゃん!来るで!』

男「っ…ぬぁぁ!」

ブゥンッッ!!!ガキンッ!!

男「っく!!なんて剣速…!」ギリギリッ

勇者「そう言いながらきっちり反応出来てるじゃねぇか」ニヤッ

勇者「久し振りの実戦、そうでなくちゃ面白くねぇや!!!」ババッ

勇者「ぅおりゃぁー!!」ブンッ

男「っく!!!このぉお!!」ブンッ

ガキンッ!!キンッ キィンッ

-男の精神世界-


男「…っはぁ…はぁ…」ギュッ

勇者「お前、さっき普通がどうとか言ったな?」スッ

勇者「…お前達の"普通"を守る為に、俺達がどれだけのモンを諦めなきゃならなかったか」シマイ

勇者「お前、考えた事あるか?」

男「…っく、どういう事だ」チャキッ

タタッ…

勇者「っはぁ!」ドカッ!バキッ!

男「ぐはっ!!」

勇者「剣士や賢者と違い、勇者はなろうと思ってなれるもんじゃねぇ」

勇者「ある日突然、啓示が下るのさ」ドカッ!バキッ!

勇者「それまで"普通"に暮らしてた俺は、啓示によってある日突然勇者に任命された」

勇者「そんな理不尽な事ってあるか?」

男「ぐっ…はぁはぁ」

勇者「それまでの生活を…」ギリッ

勇者「友達と遊んだり、喧嘩したり」ゴスッ

勇者「誰かに恋をしたり」バシッ

勇者「"かったりーなー"なんて言いながら仕事したり」ドカッ

勇者「仲間と酒を飲んだり」ゲシッ

勇者「そういう"普通"を全部捨てて!」

ドカッ!バキッ!!

勇者「ただの若造が、いつ殺されるか分からない戦いの渦中に突然放り込まれて!!」

ブンッ!ドゲシッ!!

勇者「俺が諦めなきゃならなかった"普通"を謳歌するお前達の為に!!!」

ガシッ!ギリギリッ…

勇者「ずっと戦ってきたんだ!!!」

男「が…は…」

魔法石(ナビ)『男ちゃん!!』

勇者「…でもそれも終わりだ」ニヤッ

ブンッッ ポイッ

男「ぐはぁぁ!!」ズシャーッッ

勇者「使命は果たす。魔王はこの手で討ち取る」チャキッ

勇者「お前達も道連れだ」

-王宮地下 巨石の間-


ガキィィン!! キィン! キィン!!

親父「おらぁ!」ブンッ

騎士「ぐはぁ!」

親父「へっ…しかし、誰かを守りながら剣を振るうなんざ」

親父「あの日以来だな!勇者!」

先輩「お前か、それともお前か?女に手を上げやがったのは…」ギロリッ

先輩「腹は決まったのかよ!」

ブゥンッッ…ドカァン!

騎士「うわぁぁ!」

女「修道女さん程ではない私の魔力でも、巨石の力を利用すれば…」パァァァァ…

女「こんな事も出来るのよ!」バシュゥゥ

ドッカーンッッ!!

同僚「おいおい女ちゃんwwここ室内www」

修道女「やたらと火炎属性の詠唱を用いるのは危険です!」

女「ふふっ…まだまだ」ニヤッ

同僚「あいつwwwしっかり魅了されてねぇかwww!?」

修道女「マズいです!いくら広いとは言え、室内であんな火力の詠唱は…」

同僚「みんなも何だかんだ戦い難そうだしな…あwww」ピコーン

同僚「おいちょっと耳貸せwww」

修道女「な、何か思い付きましたか!?」ササッ

同僚「はい女ちゃんも集合www」

女「何よ今いいところなのに」ブツブツ

同僚「あのな…www」ゴニョゴニョ

修道女「…そ、それなら何とかなるかもです!」スッ

女「いけそうね…私も手伝うわ!」スッ

パァァァァ…

グワァァァ…

同僚「巨石の力をレンタルしーのww」

同僚「ミラクルブースト転移魔法でwww」

女「巨石の間にいる私達を…」ビリビリ

修道女「騎士団の皆さん諸共まとめて転移させます!!」クワッ


パァァァァ…

バシュゥゥ!!!

男「(啖呵切ったはいいが…さてどうする…?」チャキッ

カチャ…ポロッ

勇者「ん?なんか落ちたぞ」

魔法石(ナビ)『ホンマや、剣の部品ちゃう?』

男「どれどれ…あ、柄の丸い凹みって穴を塞ぐキャップだったのか」

男「…あ」ピコーン

男「親父のくれた剣…キャップを外して出てきた丸い穴」スッ

男「これは多分、こう使うんだ」スポッ

カチャ…

魔法石(ナビ)『あらまぁなんと収まりのえぇ場所』スッポリ

パァァァァ…ブァン!!

オォォォ…

男「ナビと巨石の力を反応させて、強大な魔力を纏う魔法剣…」チャキッ

勇者「な、何だと…!?」

男「勇者さん」

男「これでもう一度勝負だ」チャキッ

-王都市街地-


…バシュゥゥ!!!

親父「な!?外に出た…?」ポカーン

先輩「転移魔法で全員外に放り出したのか!」

先輩「助かるぜ!これで思う存分…」チャキッ

騎士団長「っく!…こ、ここは市街地!?王宮から転移してきたのか」

騎士団長「まぁ良い!貴様らを討つ事に変わりはない!!」チャキッ

騎士団長「ゆくぞ!!!」ブゥンッッ

先輩「おらぁぁ!!」ブゥンッッ

ガキィィン!!キィン!キィンキィン!!

同僚「かーらーのーwww」スチャッ

親父「ん?まだ何かあんのか?」

同僚「親父さんwこれ持ってって下さいwww」ポイッ パシッ

親父「これは…通信用の魔法石?」

同僚「イッツ☆ショータイムwww」

ピピッ

-王宮 国王執務室-


国王「さて、そろそろ頃合いか」

タッタッタッ…バタンッ!

警備兵「陛下!!」

側近「なんだ騒がしい!」

警備兵「報告します!き、巨石の間から…」

警備兵「男を除く全員が消失しました!」

側近「消失?…転移魔法か」ギリッ

国王「何だと!?しかしそんな事が可能なのか?」

側近「恐らく巨石の力を借りた超出力の転移魔法で…」

側近「巨石の間にいた者全員を一気に転移させたものかと…」

国王「むぅ…閉鎖された空間で戦う事を避けたか、しかし一体どこへ?」

警備兵「分かりません、しかし…」

警備兵「現在、王都市街地の複数箇所で同時に戦闘が展開されていると報告が!」

国王「な、何だと!?」ダダッ

ガララッ!

<キィン…ドカンッ…

国王「おい…これは…」

側近「…むぅ…」

国王「…市民を人質に取ったか…」ゴクリ

側近「あいつら…」ギリリッ

-巨石内部-


勇者「そんな…バカな…っく」ボロッ

男「これで分かっただろ、俺はあんたにも負けない力がある」

男「だから…もういいんだよ」

勇者「…っくふふ、ふははは!!」

男「…?」

勇者「あーっははははは!!!!」

勇者「はは…はぁ…うっ…く…」ポロポロ

勇者「あぁ…あぁぁぁ」ポロポロ

男「…。」スッ

ギュッ…

男「…勇者様」サスサス

男「長い間、俺達の為に」サスサス

男「…本当にありがとうございました」サスサス ギュッ

勇者「俺は…俺は…!!」ポロポロ

勇者「うぉぉぉぁぁぁぁぁ」ポロポロ

魔法剣(ナビ)『…。』ウルッ

勇者「すまなかった、色々と」フカブカー

男「顔を上げて下さい」フルフル

男「あなたは元々、生身の人間ですから」

男「ここから出ようと思えば出られたはずなんです」

勇者「巨石の力に魅了された俺の弱さがそれを許さなかったって事か…」

勇者「俺も戦士だ!正々堂々戦って負けたのだから、お前の言葉に従うよ」

男「勇者さん…」

勇者「だが、俺は諦めないぜ!」

勇者「人間として失われた時間は長いが、それでも俺は俺…」

勇者「魔王討伐に向けて!今度は俺自身の力で!」

男「俺にも出来る事があればお手伝いします」

魔法剣(ナビ)『マジか!!』

男「お前も手を貸してくれるか?」

魔法剣(ナビ)『あったりまえやん!なんたってウチら…』

男「最強のコンビだからな」ニコッ

男「ですが、その前に…」

勇者「…だな」ギリッ

-王都 市街地-



…ブロロロ…

女「カーゴ…こんな時間に運行なんてあったかしら」

女「っていうかあれ…同僚くんのカーゴ!?」

ブロロロ…キキッ

同僚ナビ『集荷に参りましたわ!』

同僚「よう相棒wwささ乗った乗ったwww」グイグイ

修道女「え?え??」

女「今度は何をしようってのよ?」

バタンッ

同僚「騎士団狩りだよwww」

ブォン!ブロロロ…

先輩「ん?無線?同僚か」ピピッ

同僚ナビ『私です!同僚さんは運転中なので私が騎士団の位置と人数をナビゲートします!』

親父「そいつは助かるぜ!なにせこいつら人数が…っとりゃ!」キィン!キィン!

同僚ナビ『王立騎士団は総勢100人の大所帯…ですが』

同僚ナビ『王都の街並みを隅々まで知り尽くした私達ならば』

同僚「どこに隠れてたって逃がさねぇよんwww」

女「更に同僚くんコンビの索敵情報を使って、私と修道女さんの詠唱を組み合わせて…」

修道女「攻撃魔法をピンポイントで転移!」

先輩「よし!これなら行けるぞ!」ブンッッ!

同僚ナビ『先輩さん!2ブロック北に3人!』

先輩「了解!」ダダッ

同僚ナビ『剣士様はその先3ブロックに渡って2人ずつ計6人ですわ!』

親父「おうよ!剣士様なんてこっ恥ずかしいぜ!親父で構わねぇよ!」ニカッ

同僚ナビ『女さん!南6ブロック先に8人固まっています!』

女「了解!行くわよ修道女さん!」パァァァァ

修道女「了解です!」パァァァァ

同僚「そして俺は、そこら辺にいる騎士団の連中を追い回して一箇所に追い込む係www」

同僚「たかまるぅwwww」ガチャン

先輩「親父さん!」ピピッ

親父「おう!どした!」キィン!キィン!

先輩「この戦いが終わったら俺、親父さんに話が…!」ガキィン!

親父「あー聞こえない聞こえない!妙なフラグ立てんじゃねぇよバカ!!」

女「こっちには聞こえてるわよ…ホントにもう」クスッ

ブォン!ブロロロ…

-王宮 国王執務室-



勇者「お久しぶりです、陛下」ペコッ

男「…。」ペコッ

国王「勇者!?本当に勇者なのか!??」ガタッ

側近「…。」ギリッ

勇者「賢者も久しぶりだな、今は側近か」

勇者「何とか言ったらどうだ」

側近「…。」フンッ

男「陛下。20年前の勇者の落涙での一件」

男「そして、今回の俺とナビに降り掛かった出来事…」

男「全て公表して下さい」

男「勇者の命を犠牲にして、神の雷を作り出した事」

男「そしてその力を保つ為に、今度は俺とナビを…」

男「これは人の道に外れる行為です」

勇者「俺が巨石の力に魅力されてしまったのは俺の不徳の致すところだ」

勇者「だが賢者、お前はそれを好機と捉え」

勇者「俺を一人の人間ではなく、兵器として利用してきた」

勇者「…俺はまだいい」

勇者「巨石の中とは言え、魔王を討つという使命の為にやってきた事は同じだからな」

勇者「だが、彼らにしようとした事は違う」

側近「…。」

国王「勇者よ、そして男よ」スクッ

国王「そなた達は大義を前に小さき者を蔑ろにするな、と言うが」

国王「それは理想論だ…詭弁とも言える」

国王「誰一人傷付ける事無く、全てを守り抜く…」

国王「それが出来るならば私だってそうしたい」

国王「しかし現実を見よ」

国王「魔王を前に、我々人間の力はあまりにも無力だ」

国王「民を、世界を守る為」

国王「側近…賢者の考えは次善の策であると考え、私は支持したのだ」

男「陛下!それは違います!」

国王「違わんな。私は王国の為、世界の為」

国王「私は悪にでもなろうと覚悟を決めたのだ」

国王「そなたにその覚悟はあるか?」ギロリッ

ピピッ ピピッ

側近「こんな時に何だ!?」ガチャ

騎士団長『わ、私です…』

側近「おぉ騎士団長!城下の争いはどうなった?奴らを仕留めたのだろうな!??」

騎士団長『そ、それが…あっ』

親父『おいーっす』

側近「なっ!剣士か!」

親父『騎士団だっけか?コイツら全員制圧したぜ』

側近「何だと!??」

国王「か、代われ!」バッ

国王「私だ!おぬしら、まさか騎士団を全員…」ワナワナ

親父『国王陛下か!安心しろよ、全員生け捕りだ』

国王「い、生け捕り…」

親父『まさか市街地で人斬りをするわけにゃいかねぇだろ』

親父『それにな、アンタ達と同じ土俵に立つつもりはねぇんだ』

国王「…どういう意味だ」ギリッ

親父『っつーわけで、あとは俺の息子に委ねるとするか!』

親父『おい男!こんだけ騒がしきゃーさすがに目ぇ覚めたろ!!』

親父『そいつらにガツンと言ってやんな!!』ガチャ

国王「っく…」イテテ

男「親父ホントに声がデカいな…丸聞こえだぞ」クスッ

勇者「剣士…全然変わらないなあいつは!」ケラケラ

男「…外の騒ぎで、王都の人々も目を覚ましたことでしょう」

男「どちらにしろ早晩、みんなに説明しなきゃいけなくなるはずです」

勇者「陛下、俺はこいつらに教えられました」

勇者「力の使い方次第では、誰かを守りながら戦う事も出来ると…」

国王「…むぅ」

勇者「陛下!俺にもう一度チャンスを下さい!!」バッ

勇者「今度はこの手で!俺自身の力で!!」

勇者「魔王を討ち、平和を勝ち取ってみせます!!」

勇者「お願いします!!」フカブカー

男「俺からもお願いします!!」

-王宮 国王執務室-



国王「…分かった」

側近「へ、陛下!!」

国王「…おぬしらの言うことは所詮理想論」

国王「だが、国を統べるものとして」

国王「初めから完全無欠の答えを諦め、次善の策に甘んじた私は間違っていたようだ」

側近「陛下!それは違います!!」

側近「王国の…世界の将来を憂い、陛下は自ら道を踏み外してでも民を守ろうとした!!」

側近「そんな陛下を誰が非難できるでしょう!??」


国王「…側近よ、ありがとう」

国王「だが私は悟ってしまった」

国王「目的の為、自ら悪の道を歩まんとするような考え方は」

国王「魔王と何が違う?」

側近「そ、それは…」

勇者「答えが出たようですね」

国王「あぁ…勇者よ」

勇者「はっ!」

国王「私の最後の頼みだ」

国王「魔王を討て」

国王「平和を勝ち取ってくれ」

勇者「承知致しました!!」ビシィッ

国王「男くん、そして魔法石に宿りし心よ」

男「はい!」

魔法剣(ナビ)『はぃな!』

国王「勇者の力になってやってくれ」

男「分かりました!」

魔法剣(ナビ)『やったんで!』

側近「…くっ」ギリギリッ

-数日後 王都酒場街-


ワイワイ…ガヤガヤ…


<乾杯!!!カチンッ


同僚「ぷはーうめーwwwww」グビ

修道女「今回はまた大騒ぎでしたねー」ゴクッ

女「この一件で王立騎士団は解体…騎士団長は修行の旅に出るそうよ」

先輩「いい心がけだな、女性に手を上げるなんざ、紳士の風上にもだ」

先輩「あ、ラス1もーらい」パク

女「あ!私狙ってたのに!紳士の風上にも置けないわね!」

先輩「旨いもんは別だ」ニカッ

修道女「それは同感です」ケラケラ

親父「勇者!お前全然変わらないなー!!」バシバシ

勇者「剣士もな!見た目は老けたが中身は全然だ!!」バシバシ

親父「それ褒めてねぇだろー!」ワハハ

男「昨日、陛下から将来的な王制廃止の通達が出たな」グビ

同僚「陛下の気持ちも分からんではないが…やり方がマズかったな」

男「この国はこれからどうなるんだろうなー」

先輩「議会が中心になって、民主主義の国を作っていくそうだ」

修道女「色んなものが変わっていくんですねぇ…」

同僚「シリアスな顔しちゃってwwどうせ1時間もしたらとっ散らかっちゃうんだろwww」ケラケラ

修道女「また馬鹿にしてー!!」ムキー

-王都 酒場街-

ワイワイ…ガヤガヤ…



親父「エールおかわりお待ち!」ドンッ

勇者「お!サンキュー!」

勇者「それじゃ、かつての同士との…」

親父「再会を祝して…」


<乾杯!カチンッ

勇者「…しかし剣士が父親とはな!」グビグビ

親父「自分でも不思議だよ」フフッ

勇者「でも、さすが剣士の息子だな!巨石の中で剣を交えたが、強かったぞ!」

勇者「剣の腕はお前と並び立つんじゃないか?」

親父「だろー??ガキの頃から鍛えてっからよ!」ワハハ

親父「血は繋がっていないが、女共々自慢の子供さ」ニコッ

勇者「…すっかり父親の顔だな」フフッ

親父「お前、これからどうすんだ?」グイッ

勇者「陛下と約束したんだ、一から修行し直して」

勇者「今度こそ、魔王を討つ!」グッ

勇者「剣士はどうする?一緒に来るか?」

親父「俺は歳食っちまったからな…身体がもたんだろうよ」

親父「鍛治の仕事もあるしな、だからすまん」

勇者「いいんだよ、こうしてまた剣士に会えただけでも嬉しいんだ!!」

親父「あの頃は魔王討伐に必死で、酒なんか飲んでる余裕なかったしな」ニカッ

勇者「まったくだ」ケラケラ

親父「あ、だったら代わりにあいつ連れてけよ!」

勇者「男くんか…確かに一緒に来てくれたら心強いな!」

勇者「今は物流協会だっけ?陸軍を再編成して出来たんだよな」

勇者「来てくれないかなー」ギシッ

親父「まぁ本人の気持ちもあるだろうしよ、直接聞いてみろや」

勇者「そうするよ!いやぁ…しかし」シミジミ

親父「何だよ」

勇者「普通って、いいもんだな」ジワッ

親父「…勇者、おかえり」ポンポン

勇者「ははっ…ただいま」ニカッ

<おーし今日は飲むぞー!!

<店中の酒樽を空にする!!

ワイワイ…ガヤガヤ…

[BAR REQUIEM]


先輩「アードベッグを」

女「マルガリータを」


<お待たせしました

<乾杯…カチンッ


女「…あの時はビックリしたわ」フゥ

先輩「どうしても許せなくてな。君を傷付けようとしたあいつらが」

女「それにしたって…何もおじ様の前で啖呵切らなくても」クスッ

先輩「あれは勇み足だったか…」ハァ

先輩「だが、言った言葉に嘘はない」

先輩「俺は君の事、そういう風に思ってるんだ」グイッ

先輩「…君はどうなんだ?」

女「…。」カラカラッ

女「あなたの気持ちは嬉しいし、私の心も同じ方を向いてると思うわ」

女「でもね…自信がないの」ハァ

女「私に人を愛する…愛される資格なんてあるのか、って」

先輩「愛の資格か…」

先輩「そんなモン必要ない!と言っちまう事も出来るが…」

先輩「強いて言うなら、とっくに持ってるんじゃないのか?」

女「私がその資格を?」

先輩「君は親父さんの娘として生きてる、男の姉としても」

先輩「生きてるって事は、それ自体誰かに愛されてる証なんだ」

先輩「だから君も誰かを愛する事が出来る、愛される事を知っているからだ」

女「私が…」

先輩「今すぐじゃなくてもいい」

先輩「俺との事、少し考えてみてくれ」

女「…優しいのね」

先輩「強引になれないだけさ」グイッ

先輩「…戦闘みたいにはいかん」クスッ


同僚「修道院特製エールでww」

修道女「私も同じので!」


<お待たせしました

<乾杯!カチンッ


同僚「今回も大活躍だったなwww」

修道女「最後まんまと利用されましたけどね…側近様め」グヌヌ

同僚「そういや側近…賢者ってどこ行ったんだww?」グビ

修道女「姿を消したそうですね」

同僚「陛下はともかくあの野郎wwやりたいだけやってトンズラかよwww」

修道女「それと、王都襲撃の真相も結局分からずじまいですよね?」

同僚「先輩は女ちゃんを疑ってたみたいだけどなww」

修道女「まぁ勇者様と巨石の力が暴発したという事なんでしょうけど…」ウーム

同僚「あれだろ?ナビちゃん達が聞いたっつー呻き声www」

修道女「はい…一体何だったんでしょうねー」グビ

同僚「勇者にやられた魔族の亡霊とかだったりしてなwww」ケラケラ

同僚「しかし、ホント飲んでも散らからなくなったよなwww」

修道女「うぅ…こうして一生いじられるのね…」シクシク

同僚「だって初登場時の衝撃が強過ぎてwwww」ケラケラ

修道女「むぅ…でも散らからなくなったのは同僚さんのお陰でもあるんですよ?」

同僚「だろーwwもっと褒め称えてくれて構わんwww」

修道女「またすぐ茶化すんだから…」クスッ

同僚「シリアスなの苦手なんだもんwww」

修道女「いつも…ありがとうです」ニコッ

同僚「なんだよ急にww」

修道女「何でもないでーす」プイッ

同僚「…こちらこそ、だ」グビ

修道女「え?」

同僚「だから!…いつも助けてくれてありがとな」

修道女「…。」ポスッ

同僚「な、なんだよ急にもたれ掛かってきて…眠いのか?」

修道女「そうでーす。眠くて…もう死んでもいい位」フフッ

同僚「わけ分からん…」

同僚「なぁ、今度の休み空いてるか?」

修道女「(あ、また草生えてない)」

修道女「空いてますけど、どうしたんですかー?」

同僚「ちょっと行きたい所あるんだわ」

同僚「付き合ってくれや」

修道女「そ、そそそれって!でででデート的な!??」ガバッ

同僚「そういうんじゃねーよバーカww」クスッ

修道女「な、なんだ…」シュン

修道女「じゃあどこへ行くんですか?」

同僚「…ちょっとな」グビ


[BAR REQUIEM]



カランッ

男「ブルームーンで」

ナビ『あら珍しいやん』


<お待たせしました

<乾杯!

ナビ『男ちゃん具合は平気?』

男「全然平気だよ。っていうか今になってみれば…」

男「意識を失ったのだって騎士団が何かしたんじゃないかっ?て気もするけど」クイッ

ナビ『そこは何とも言われへんけどな、でも…』

男「でも?」

ナビ『さすがに物忘れを無理矢理させるってのは出来ひんちゃう?』

男「そうだよな…やっぱり疲れてたのかなー」

ナビ『あ、そういえば男ちゃん』

男「ん?」ゴクッ

ナビ『国王はんの前で啖呵きってもうたけど、ホンマに魔王を倒しに行くん?』

男「そーれーなーーー」ギシッ

ナビ『…悩んでんねや』チョコン

男「あぁ…いくら親父に鍛えられたとは言え、俺はただの一般市民だからな」

ナビ『せやんなー。怖いよな』プラプラ

男「魔界…魔王…」

男「勇者さん達以外、誰も見た事のない世界…」ギシッ

男「…そこへ行って自分が剣を振るうってのが、想像もつかないんだ」

ナビ『…ウチは男ちゃんについてくで』

ナビ『今まで通り、一緒にカーゴ乗るんでもえぇ』

ナビ『戦うって言うなら一緒に行く』

ナビ『おとさんのお陰で、魔法剣として一緒に戦う事も出来るようになったしな』ニカッ

男「…それは、相棒としてか?」

ナビ『それもあるけど、ウチは男ちゃんの事好きやから。』

男「…うん」

ナビ『…っ。もー煮えきらんなぁ』ムッ

ナビ『何?ほんなら修道女さんみたいに啖呵きったろか??』

ナビ『ウチは!男ちゃんの事が!!』ババーン

男「いいよいいよ!照れ臭い」アセッ

ナビ『なんやつまらんなー』ケラケラ

男「…。」

ナビ『…。』

ナビ『男ちゃんは人を赦せる人や。』

男「赦す…?」

ナビ『せやでー。今回も勇者はんの抱えとぉ苦しみとか悲しみとか…』

ナビ『ぜーんぶ受け止めたって、最後は巨石から引っ張り出したワケやん』

ナビ『誰にでも出来る事ちゃうで』ウンウン

男「そうかな?」

ナビ『そーなの!』

ナビ『それはね、慈しみやと思うの』

男「慈しみ…」

ナビ『同僚ちゃんとも、他の誰とも違う…』

ナビ『男ちゃんのそういう所が、ウチは大好きなんよ。』ニコッ

男「ナビ…」スッ

ナビ『…だーっ!ちょ!タイム!』ヒラリ

男「あ、避けられた」

ナビ『男ちゃんそういうトコあるよな?巨石ん中でもせやったけど!』プンスカ

ナビ『大事な事ちゃんと言わんと、勢いでその、そ、そういう事を…』カァッ

男「あ、あれやっぱりお前だったんだな?」

ナビ『へ?』

男「ほら途中からお前の姿に化けた勇者さんが出てきたからさ」

男「俺まさか男同士で…!?って心配してたんだよー!」ハハッ

男「やっぱりお前だったんだな、いやー良かった!安心したよ」ホッ

ナビ『ホッ…ちゃうわぼけ!』シャー

ナビ『そうやって大事な言葉をはぐらかすんはズルいよ!』

ナビ『女の子はな!?分かってても言葉で言って欲しいねん!!』プンスカ

男「すまん、じゃあちゃんと言うよ」スチャ

ナビ『…ぁ、眼鏡』ドキッ

男「ナビ…俺はお前の事がsナビ『あーっ!た、タイムタイム!!!』アセッ

男「…今度は何だ?」ハァ

ナビ『やっぱ今日はダメ!男ちゃんお酒入っとぉもん!!』

男「こんなんで酔っ払わないぞ?」カタムケ

ナビ『いーやアカン!酔っ払っとぉ人はみんなそう言うねん!!』

男「それはまぁ確かにありがちだ」スチャ

ナビ『よし眼鏡かけたな!?もう一生かけとけ!!』

男「なんだそりゃ」ケラケラ

ナビ『全く…せやから今度シラフん時にちゃんと言うて??』

ナビ『な?な??』ジーッ

男「…その視線こそズルいよ」ハァ

男「分かった。勝負は次回に持ち越しだ」

ナビ『何の勝負やねん…まぁほなそういう事で!』ニシシッ

ナビ『(何でそこで眼鏡取るねん!あの眼はエロい!直視でけへん!)』カァッ

ナビ『(あーモヤモヤするぅ…男ちゃんのあほ!エロメガネ!)』ドキドキ

第二部完となります
ありがとうございました


3部待ってんで

一週間かけて全部読んだ。
面白いから三部期待する!同僚いいキャラだな

第三部始めます
今日は少しだけですが、投下します

-1週間後 水の街 墓地の島-


サァァァァァ…


同僚「…。」

修道女「…。」

同僚「悪いな、辛気臭い用事に付き合わせちまって」テクテク

修道女「辛気臭くなんてないです。死者に祈りを捧げるのも私の大事な務めですから」ニコッ

同僚「しかし、墓地っていうからもっと荒涼とした場所を想像してたけどww」

修道女「あーTV版エヴ◯ンゲ◯オンに出てくるみたいな奴ですか?」

同僚「例えが古いwwまぁそういう事だけどwww」

修道女「ここはお花でいっぱいですねー!死者を想う気持ちが伝わってきます」

同僚「…こうして埋葬してやれただけ、違うだろうな」

修道女「お墓参りが出来るって大切な事です。気持ちに区切りをつける事ができますから」

同僚「前を向いて生きていく為にな」

修道女「そうです。だからこそ、勇者の落涙…そこに居合わせた人達は…」

同僚「…。」ギリッ

-物流協会事務局 局長室-


女「陸軍との合同任務ですか?」

事務局長「そうだ。巨石による防御機構が作動しない今、新たな守りを固める事は急務だ」

事務局高官「というか実は、前々からこういった案は出ていたんだよ」

先輩「あぁ、噂で聞いた事はあるな」

高官「物流協会(うち)の前身だった旧陸軍から組織された騎士団…無くなっちゃいましたけど」

高官「あそこが煩くてねー、"我々を差し置いて云々"って」

女「そうだったんですか…」

高官「ま、正直目の上のタンコブだったってわけ」

先輩「違いないな」クスッ

局長「ごほん!まぁ…否定はしないが」ニヤッ


局長「そういう訳で、陸軍と共同で国内各地、ひいては国外へも派兵を進める」

女「積荷は陸軍、降ろし地は世界各地…」

高官「あ、あと例のマッピングシステムですけど」

高官「あれ、継続案件だからね」ニコッ

女「えっ!アレって神の雷の為だったんじゃ…」

局長「話の出発点はそうなんだろうが、それも使い方次第だ」

局長「今後、いつ巨石の力が使えるようになるとも限らん」

局長「やがて来るその時の為に、備えだけはしておいてくれ」

高官「先輩くんには、物流協会(うち)と陸軍の橋渡し役をお願いしようと思っています」

局長「陸軍出身の君ならまさに適任だ、力を貸してくれ」

先輩「分かりました」

高官「女くんは引き続きマッピングシステムのプロジェクトリーダーと、派兵任務のサポートにもついてもらう」

局長「忙しくなると思うが、よろしく頼むよ」

女「承知しました」

-物流倉庫 事務所-


男「車種上げですか?」

配車係「男さんもだいぶ運転に慣れてきましたからね、ここらで挑戦してみましょう」

魔法石(ナビ)『車種上げって事は、先輩はんの乗っとぉような大型カーゴに乗るって事?』

配車係「そうです。今乗ってる4tカーゴが全長約8.5m…」ペラッ

配車係「大型になると全長約12mになります」

配車係「始めは近場の仕事からお願いしますので、チャレンジしてみてくれますか?」

男「分かりました、やってみます」

魔法石(ナビ)『よぉ言うた!ウチも一緒に頑張るで!』ビシッ

配車係「それじゃ早速練習してみます?ちょうど先輩さんのカーゴが空いてますから」

男「いいですか?じゃ行きます」

魔法石(ナビ)『おらーやったんでー!』オラオラオラ

ガチャ バタン

-西の街 陸軍本部-


大佐「本日付けでこの任務の担当となった、物流協会所属の先輩君だ」

大佐「全員、敬礼!」

ザッ…ビシッ!

先輩「…。」ビシッ

-大佐 執務室-


先輩「お久しぶりです」ビシッ

大佐「おかえり…と言っておこうか」

先輩「…考えないわけではないんですけどね」ハハッ

大佐「君が当時腹に据えかねた陸軍と騎士団の対立…」

大佐「今となっては懐かしい話だな」

先輩「騎士団自体が無くなってしまいましたからね」

大佐「国家…ひいては世界の命運の前に、組織間の諍いなど愚の骨頂だからな」ハハッ

大佐「今回の作戦…基本的には防御を固めることが目的であるが」

大佐「いつまでも防戦一方ではジリ貧だ」

先輩「いずれはこちらから仕掛けるべきだ…という事ですか」

大佐「そうだ。巨石による防御機構が働かなくなった一方、伝説の勇者殿が帰還された」

大佐「これは私の個人的な意見だが…仕掛けるなら今が好機だ」

-物流倉庫 駐車場-


男「近くで見るとやっぱりデカいな」

魔法石(ナビ)『長さもやけど車高も全然ちゃうな』

配車係「とりあえず乗ってみましょうか、僕助手席座るんで」ガチャ バタンッ

キュルキュル…ブォン!

ゴゥンゴゥン…

男「目線の高さが全然違う…」キョロキョロ

ナビ『同僚ちゃんのカーゴを見下ろせるもんな!』

男「でもミラーが湾曲してるから意外と後ろまで見えるもんなんだなー」ノゾキ

配車係「それではちょっとその辺走ってみましょうか」

男「了解です、練習だからマニュアルモードで行きます」ガチャ

ナビ『男ちゃん気ぃつけてな!』

ブォン!ブロロロ…

-王都 街道-


ブロロロ…

男「…。」ドキドキ

ナビ『男ちゃんめっちゃ緊張しとぉな』

配車係「最初はみんなそうですよ」フフッ

男「でも、運転してみると視点が高い分思ってたより快適だ」

配車係「車体が大きくなる分、路面からのショックも分散しますしね」

ナビ『確かに、ジャイロの針があんま振れんなぁ』チラッ

配車係「次の交差点を左折しましょう」

男「了解です」カチッカチッ

配車係「この街道は2車線なので、リアのオーバーハングに注意しつつ…」

ナビ『お、右車線の車途切れたで』

配車係「左後ろの内輪差による巻き込みも気にして下さい」

男「よし…」クルクル

グォォォ…

-物流倉庫 駐車場-


ブロロロ…

男「無事に帰って来れたな」フゥ

配車係「では最後に駐車の練習です」

ナビ『バックモニターおん!』ピッ

ピピーッ ピピーッ

配車係「後輪の通る位置をよく見て感覚を掴んで下さい」

男「了解です…よっ、ほっ」クイッ クイッ

ブロロロ…キキッ

プシューーッ

男「き、緊張した…」グッタリ

ナビ『男ちゃんお疲れさま!』

配車係「問題ないですね」ニコッ

男「ご、合格ですか?」

配車係「はい。今日言った注意点を忘れないようにして下さい」

ナビ『いよっしゃー!男ちゃんやったな!!』ピョンピョンッ

-夜 王都酒場街-


ワイワイ…ガヤガヤ…


<乾杯!カチンッ…


同僚「大型デビューおめっとさんwww」

男「ふふっありがと」ニコッ

同僚「しかしスゲェなwwあんなデカいの運転出来る気がしないwww」グビ

男「乗ってみると意外とって感じだぞ?4tカーゴと車幅は一緒だし」ゴクゴク

同僚「陸軍との共同任務が始まるからな、一回の輸送量を増やしたいんだろうよww」

男「なんだかな…」

同僚「まぁ、分かるよ」

男「こうして一般市民として生きてても、戦争に関わって行かざるを得ないんだな」

同僚「まぁお前の場合は勇者さんと渡り合う剣の腕前だからwww」

同僚「果たして一般市民枠に入れていいものかどうかwww」ケラケラ

男「入れておいてくれよ…渡り合えたのは魔法剣っていう奥の手使ったからだし」ハハッ

同僚「それなwwwご都合主義もいいとこだwww」

同僚「何かさ、こえーよな」

男「あぁ」

同僚「巨石の間での騒動からまだ一週間ちょっとだぞ?」

男「その間で、物流協会(うち)と共同での陸軍派遣が議決されて…」

同僚「王国内じゃもう実際に派兵が始まってるしよ」

男「世の中がどんどん戦争へ向かって行ってるよな」

同僚「どうなっちまうんだろうな」グビ

男「…。」

-鍛治職人の里 広場-


ガヤガヤ…

親父「というわけで勇者だ」

勇者「簡単な紹介だなー!」ワハハ

若者「伝説の勇者に対して何とぞんざいな扱い…さすが親父さん」

親父「まぁ今更説明する必要はないだろう!かつて俺と共に魔王と戦った伝説の漢だ!」

親父「この度20年ぶりに帰還したわけだが、住む所がない!」

親父「とりあえず俺の家で一緒に暮らす事にしたから、みんなよろしくな!」


<よろしくお願いしまーす!

<すげー!本物の勇者様だ!!

-親父の家-


グツグツ…ジュワァァ…

親父「おいそっちの鍋コイツでかき混ぜてくれ」スッ

勇者「おう!」クルクル

勇者「ソテー、そろそろいいか?」

親父「だな、皿出してくれ!戸棚の上から2番目だ」ユサユサ ジュワァァ

勇者「了解!」コトッ

ズラズラッ

勇者「上手いもんだな!野郎の一人暮らしとは思えん!」

親父「今は一人だが子供に食べさせてたんだぞ?栄養バランスとか考えてよー」コトッ

勇者「そうだったな、そりゃ上手になるか!あ、俺注ぐよ」

親父「お、悪ぃな」

トクトク…

勇者「やっぱ白身魚には白ワインだな」

親父「エールでも悪くないが食事と一緒はちと重いよな」

親父「それじゃ引越し祝いっつー事で」スッ

勇者「今日からよろしくな!」スッ


<乾杯!

親父「明日からどうすんだ?」モグモグ

勇者「修行はもちろんだけど、鍛治仕事を手伝わせてもらえたらと思ってる」パクパク

親父「鍛治仕事を?もちろん構わないが、どうしたんだ?」ゴクッ

勇者「男くんに教わったんだ、大義の前で小さきものを蔑ろにしてはいけないって」

勇者「俺が剣を振れるのは、鍛治職人が剣を仕立ててくれてるからだろ?」

勇者「そういう人の仕事をちゃんと知っておきたいんだ!」ニカッ

>>552
酉付け間違えましたが>>1です

短いですが本日ここまでとします
ありがとうございました

きてたー乙!
神の雷問題は解決したが賢者の行方に男のモノの度忘れなどまだわかってないこと多いな

今日も少しだけですが
投下します

-王立図書館 閲覧室-


シィィィン…

修道女「…。」ペラッ

修道女「やはり何処にもありませんね」パタンッ

女「えぇ…」ペラッ

-王立図書館 中庭-


女「どれだけ調べても公式な記録には残っていないわね」

女「勇者の落涙も、巨石についても」

修道女「…私ずっと疑問だったんですけど」

女「何かしら?」

修道女「勇者の落涙で消失した空間…まぁ土地ですよね」

修道女「一体どこへ行ったんでしょう?」

女「便宜上"消失"という言葉を使っているけれど」

女「実際には物体ってそう簡単に消え失せたりしないの」

女「水は沸騰すると気体になるけれど、消えて無くなったわけじゃないわ」

修道女「なるほどー」

-物流協会事務局 女の執務室-


修道女「じゃあ勇者の落涙にあった土地も、何処かへ移動したって事ですか?」

女「私はそう考えているわ」ゴソゴソ

女「これを読んでそう確信したの」スッ

[禁書指定 カバでも出来る位相転移]ドンッ

修道女「こ、これって禁書じゃないですか!」アセッ

女「大昔の魔法文献よ、位相転移魔法で亜空間と行き来をする方法が書かれているの」

修道女「じ、じゃあその位相転移魔法で土地が丸ごと亜空間へ行っちゃったという事ですか??」

女「恐らくね」

修道女「なるほどー」ペラペラッ

女「私はもう読んだから、良かったら持って行っても構わないわ」

修道女「ホントですか!?」パタンッ

女「今後の参考に、他にも何冊か見繕ってあげるわね」ゴソゴソ

修道女「ありがとうございます!!」

修道女「あ、でも」

女「何かしら?」

修道女「さすがにカバには無理じゃないですか?」

女「突っ込んだら負けよ」

-西の街 陸軍本部脇 工事現場-


カンカンッ… ガガガッ…


<オーライ!オーライ!はいオッケー!

<クレーン下げろ!ゆっくりなー!


局長「工事の進捗状況は?」ペラッ

現場監督「ほぼ予定通りです、2週間後には移設出来るかと」

局長「了解。建屋が完成次第、例の巨石をこっちに持って来るぞ」

現場監督「承知しました」

先輩「なるほど、王宮の地下に置いてたんじゃ使い勝手が悪いですからね」

局長「ここからなら陸軍の装備品が効率よく転移出来るからな」

先輩「あれ、でも巨石の力って普通の詠唱士じゃ制御出来ないって」

局長「今の段階ではな」

先輩「…まさかまた男を巨石の中へ放り込もうとか思ってませんよね?」ジロッ

局長「するわけないだろバカ!」ハハッ

先輩「良かった…」ホッ

局長「まぁ、色々考えているのさ」

-深夜 物流協会事務局 女の執務室-


カリカリ…バサッ

女「通常業務に加えて陸軍との共同任務…」カリカリ

女「更にマッピングシステムの進捗報告やら今後の進行予定組み…」カリカリ

女「とても手が足りないわ…」ハァ

女「大体これじゃライフワークである魔法研究が出来ないじゃない!」

女「どうにかして人手を確保しなくちゃならないわね」

-物流倉庫 事務所-


男「女がナビを?」

同僚「ついにドライバーデビューかwww」

女「ふふっ違うわよ」

女「今抱えてる案件が多過ぎて私一人じゃとてもこなし切れないの」

同僚「それでナビに手伝わせようってかwwwずりーなぁwww」

男「でもナビって物理的な仕事は出来ないぞ?魔法石に宿った心なんだから」

女「問題ないわ、私の仕事は事務方だからナビシステムとは相性がいいはずだもの」

同僚「お前は覚えてねぇかも知れないけどさwww」テクテク

男「?」

同僚「ナビシステムのインストールの時って記憶の混濁が起こるのよwww」

男「あぁ話には聞いたよ、自分の時の事は全然覚えてないけど」

同僚「アレw客観的に見てると面白いぞwww」ケラケラ

男「そうなのか?」

同僚「女ちゃんのインストールん時見に行ってみようぜwww」

-王立アカデミー 研究室-


ブゥゥン…ブゥゥン…

女「」zzzz

男「お、寝てる」コソッ

同僚「もうすぐ始まるぞwww」コソッ

先輩「どれどれ」コソッ

男「先輩!?」ビクッ

同僚「俺が誘ったwww一応筋としてwww」

先輩「ほーあの光ってるのが女のナビシステムになる魔法石か」ノゾキ

魔法石「」パァァァァ

同僚「そうっすww」

先輩「自分がナビシステム使ってないもんだから興味津々だ」

先輩「そもそもさ、ナビシステムって使う奴の心を写し取ったモンなんだろ?」

男「そうですよ」

先輩「それにしちゃ全然性格違くないか?例えば男とナビちゃんにしたって」

ガチャ

研究員「ナビシステムは、基本的に使用者とは違う性別で設定されます」

研究員「同性だとどうしても性格構造が似てきますので、生理的な嫌悪感を覚える事が多いからです」

同僚「自分のそっくりさんって実際居たらキモいよなww」

研究員「ですが、それ以外の部分は使用者の人格情報から引っ張ってきてるんですよ」

先輩「ん?じゃあ一見正反対の性格に見えても…」

研究員「実は使用者の心の一面が誇張されて表われている場合が殆どなんですよ」

男「なるほどー」

同僚「ホントかよwww」

研究員「っていうか、そんな所にいないで中へどうぞ」キィ

研究員「男さん、再リンクの時以来ですね」

男「その節はお世話になりました」ペコッ

同僚「あったな、過去との再会w」

男「あぁ、あれがあったから今の俺達があるんだ」

研究員「お役に立てて何よりです」ニコッ

研究員「さて、記憶の混濁は使用者の記憶情報を一からトレースする際に」

研究員「使用者自身も幼少期からの記憶を反芻する事が原因と考えられています」

先輩「自分の記憶を一からおさらいするみたいな感じか」

研究員「その通りです」

研究室職員「それではインストールを始めます」カタカタ

パァァァァ…グワングワン…

女「…うっ」

魔法石「」パァァァァ

先輩「さぁ、記憶の反芻とはいかなるものか」

同僚「普段あんだけキリッとしてっからなぁwww楽しみwww」

男「なんだか俺が緊張してきた…」ドキドキ

パァァァァ…フッ

ピピッピピッ

研究室職員「インストール完了です」

先輩「案外あっさりだな」

同僚「尺とかありますからねww」

研究室職員「魔法石の方は情報の定着まで12時間~24時間ほど掛かりますが」

女「…ん」ムニャ

研究室職員「使用者は程なく…女さん、おはようございます」

女「ん…んむ…」

先輩「女、目が覚めたか?」

女「…。」キョロキョロ

女「ここどこー?」キョトン

女「おっちゃんだれー??」ミアゲ

男「」

先輩「」

同僚「こwれwはwww」

研究員「ここは病院ですよ。女さんはお腹が痛くて診察に来たんです」

女「そうなん?ぜんぜんおぼえてへんわー」カシゲ

先輩「さすが研究員さん…慣れてる」

研究員「お薬で眠っていたのですが、ほら男さんがお見舞いに来てますよ」

女「あ!おとこちゃんやー!」ニパァ

女「おいでーな!ウチとあそぼーや!」キャッキャ

男「お、女…?」

同僚「ほら行ってやれww」グイッ

男「お…っと」ヨロケ

女「おとこちゃんつかまえたー♪」ダキッ

男「うおっ」

女「えへへー♪」ギューッ

先輩「っ!…ま、まぁ姉弟だからな」

同僚「先輩ww顔に出てますよwww」

先輩「むっ…ってかナビちゃんと口調がまんま一緒だな」

同僚「アイツwwwまさかのシスコンかよwww」ゲラゲラ

女「ふぁ…」クラッ

男「お、おい女どうした?!」

研究員「大丈夫です。次の記憶を反芻しているだけなので」

女「…っ!!!」ビクッ

女「お、おとこくん!??」ガシッ

女「ごめんなぁ…ウチ…ウチ…!!」ポロポロ

先輩「火災の時の記憶か」

男「…大丈夫だよ、ほら俺は無事だから」ニッコリ

女「ホンマに!?やけどとかしてへん!??」

男「あぁ、心配してくれてありがとな」サスサス

女「よかった…よかったよぉぉ」ビエーン

女「ほぇ…」クラッ

先輩「次はどんな記憶だ?」

女「…ん?男くん?」パチクリ

女「どないし…ど、どうしたの?くっついちゃって」ニコッ

男「里で暮らしてる頃か」

女「ウチ…私は別にかまへ…かまわないけど」

同僚「頑張って訛り直したんだww」

先輩「…ってかお前らいつまでくっついてんだよ」ジロッ

-夜 女の執務室-

女「死にたい…」ズーン

男「いや、なかなか可愛らしかったよ?」

同僚「いやー普段とのギャップが凄くてwww」ケラケラ

女「男くんに見られたのは別にいいのよ…家族なんだから」

女「何で同僚くんや彼まで来るのよ…」ハァ

同僚「これは是非とも色んな人に話したいwww吹聴したいwww世に広めたいwww」

同僚「スレでも建てるかww"ちょっと女を幼児退行させてみた"っつってwww」

女「…!」ギロリッ

[焔よ 闇夜を喰らう紅き怒りよ]パァァァァ

男「おい!やめろ!」アワワ

同僚「事務局がwww焼失するwww」


-翌日 王立アカデミー 研究室-


ブゥゥン…ブゥゥン…

研究員「女さんのナビシステム、仕上がってますよ」

女「ありがとうございます」

男「ついに出来たか」

先輩「果たしてどんなナビが生まれるのか…」

同僚「この流れだとなんとなく想像つくけどwww」ゾロゾロ

女「あなた達、仕事行きなさいよ!」クワッ

研究員「早速立ち上げますね」カタカタ

ピピッ …ブゥゥン

女ナビ『…ん』パチ

女「…おはようナビくん」

女ナビ『おはよ、おねーさん』ニコッ

同僚「ショタきたーwwww」

男「癖毛の美少年だ」

先輩「なんだかコイツ、ちっちゃい頃の男に似てないか?」

女「気のせいよ気のせい」

同僚「ってか男の子なのに女ナビってややこしいわwww」

男「確かに」

先輩「もうショタナビでいいんじゃないか?」

女「ちょっと勝手に決めないでよ!」

ショタナビ『ぼくは何でもいいよ?』

女「あーもう!」

-女の執務室-


女「やっと3人共運行に出たわ」ハァ

女「さて…改めて宜しくお願いね、ナビくん」ニコッ

ショタナビ『うん!よろしくねおねーさん!』ニコッ

ショタナビ『さっそくお仕事する?ぼくは何をすればいい?』

女「それじゃあデータの編纂をお願いするわね、これがここ3ヶ月の運行データなんだけど…」カチカチ

ショタナビ『カーゴ毎の燃費目標達成率をリスト化するんだね、おっけー!』ニコッ

女「凄い…一を聞いて十を知るとはこの事ね」ゴクリ

-王都 市街地-


ブロロロ…

同僚「よう相棒www久しぶりじゃねーかwww」

同僚ナビ『よく言いますわ!昨日は同僚さんがいなくて大変でしたのよ!?』プンスカ

同僚「主に助手が、だろwww」ケラケラ

同僚ナビ『助手さん"も"ですわ!』

同僚ナビ『それで、女さんのナビはどのような方なのでして?』

同僚「あーやっぱ気になるww?」

同僚ナビ『そりゃあ、これから肩を並べて仕事をするわけですからね』

同僚「だよなwww」

同僚「まぁ性格はまだ分からんけど、とりあえずビジュアルはwww」

同僚ナビ『えぇ』

同僚「癖毛のショタっ子だwww」

同僚ナビ『ショタっ子?』

同僚ナビ『次で最後の配達ですわね』

同僚「今日も順調じゅんちょーwwやっぱり俺達こそ最強のコンビなんじゃねww?」

同僚ナビ『光栄ですわ』フフッ

同僚「そういやお前とナビちゃんって仲良しだけど全然タイプ違うよなwww」

同僚ナビ『そうですわねー、不思議と馬が合うんですの』

同僚ナビ『というか、その図式って』

同僚「あんww?」

同僚ナビ『そのまま同僚さんと男さんにも当てはまるのでは?』

同僚「おーそういえばwww」

同僚ナビ『一見合わなさそうに見えても、話してみれば意外と…』

同僚ナビ『なんて、実は良くある事なのかも知れませんわね』クスッ

同僚「そうは言いつつww割と第一印象で決めちゃうタイプかもアタシwww」

同僚ナビ『そうなんですの?では男さんとも最初から?』

同僚「だなwwwだってあの朴訥としてんのに突っ込みどころ満載なカンジwww」ケラケラ

同僚「仲良くなるしかねーだろwww」ワハハ

同僚ナビ『突っ込みどころ満載なのはお互い様というか、同僚さんの場合は突っ込んだら負けというか…』

-翌日 王都 北へ向かう街道-


ブロロロ…

男「同僚の第一印象?」

ナビ『昨夜どーちゃんとそんな話になってん』

ナビ『ちなみにー?同僚ちゃんの抱いた男ちゃんの第一印象は…えっと』ポチ

ドロロロロロロロロ…ダンッ

ナビ『"朴訥としとぉのに突っ込みどころ満載な感じ"らしいで!』ワーワーパチパチ

男「なんのボタンだ今の…」

男「って言うか、そんな風に思ってたんだなアイツ」クスッ

ナビ『で?男ちゃんは?』

男「同僚の第一印象か?うーん…」

男「"あんなに人に気を遣ってて疲れないのかな?"って感じかな」

ナビ『あーそれな』ウンウン

-深夜 物流倉庫 事務所-


ナビ『やってー!』

同僚ナビ『彼独特の気遣いを一目で見抜くとはさすがですわね』

ナビ『気遣い(遣えているとは言ってない)みたいなトコあるしな』ケラケラ

同僚ナビ『ありますわね』クスクス

ナビ『女さんがナビを?』

同僚「そうらしいですわ、既に立ち上げまで済んでいるそうで」

ナビ『そーなんやー!ウチらの仲間が増えるんやなぁ♪』

同僚ナビ『お会いするのが楽しみですわね』

ナビ『なー!』ウキウキ

短いですが本日ここまでとします
ありがとうございました



魔法石はリミッターで押さえるなり周囲に魔方陣でも描いてそれでサポートするなり考えられるが…
そもそもこの世界にリミッターやら補助的な魔方陣が存在するかだな

投下します

-西の街 陸軍本部-


ゴゥンゴゥン…

先輩「賢者を見た?」

兵士「まぁ噂で聞いただけなんすけどね!」

先輩「お前ホント噂話好きだよなー」シュボッ スゥ

兵士「だからここ禁煙…」

先輩「ほれ」スッ

兵士「あ、いつもすんません」シュボッ スゥ

兵士「いや!だから!」

先輩「賢者…かつての側近の話だろ?行方不明の」スパァ

兵士「そうなんです!何でも北西地方に展開した陸軍の部隊が見たとかで」

先輩「北西地方…?」

兵士「その辺りの集落の一つに、最近引っ越してきた怪しい人物がいるって話で」

兵士「でもってその謎の人物は、人目を避けて何かの研究を行なっている…」

兵士「らしいです!噂ですけど!」

先輩「北西地方に現れた謎の人物ねぇ」

兵士「あー!絶対信じてないでしょ!」

先輩「んな事ないさ、むしろ…」

兵士「へ?むしろ?」

先輩「…。」スパァ

-王立修道院 修道女の部屋-


修道女「女さんが貸してくれた魔法文献…すごく興味深い」ペラペラッ

修道女「特に転移関連の詠唱は思わず試してみたくなりますねぇ」フムフム

修道女「…。」ウズウズ

修道女「…ち、ちょっとだけ」ガタッ

修道女「だ、誰も見てないですよね?」キョロキョロ

ガチャ

修道女「廊下もオッケー!」ノゾキ

パタンッ

修道女「そ、それじゃほんとにほんのちょっとだけ」スッ

修道女「えーと?転移対象とその転移先を視界に入れて、と」 パタンッ

[禁書指定 それいけ!転移ちゃん]

修道女「それではこの万年筆を転移させてみましょう」スッ

[時の狭間を駆け巡る意思よ]パァァァァ

[汝 手を取り 誘い給え]パァァァァ

ヒュン…パッ

ヒュン…パッ ヒュン…パッ ヒュン…パッ

ヒュン…コトッ

修道女「出来たぁ…」ワナワナ

修道女「掌の上からチェストの上、引き出しの中、クローゼットの奥、絨毯の下…」

修道女「一度に複数箇所への転移詠唱が出来るようになりました!」

-女の執務室-


女「すごいじゃない!一回の詠唱で高速の瞬間移動を繰り返すのね!」

修道女「あくまで視界に入る範囲だけみたいですけど」テレテレ

ショタナビ『おねーさん、この人だぁれ??』

女「修道女さんよ。魔法詠唱のエキスパートで、私の友人なの」

修道女「あ!この子が噂の女さんのナビくんですかー!」

修道女「はじめまして!修道女です」ニコッ

ショタナビ『はじめしてー!よろしくね』ニコッ

修道女「か、可愛いぃぃ…」キュン

女「可愛いだけじゃなくて優秀なのよ」フフッ

修道女「あれ?でもこの子の顔…どこかで見かけたような…」

女「気のせいよ気のせい」

-物流協会事務局 大会議室-


同僚「再調査ww?」

修道女「勇者の落涙をですか?」

女「えぇ、そうよ」

女「以前、修道女さんと話している中で思いついたの」

修道女「あ、位相転移の話ですか?」

同僚「なんだそりゃwww」

女「位相転移っていうのはね」

かくかくしかじか

女「という訳なの」

修道女「勇者の落涙から消失した土地が、そのまま何処かへ移動してるんじゃないかって仮説ですね」

同僚「ずいぶんとスケールのデカい話だなwwwでもそんなん調べてどうすんのww?」

女「位相転移がどのように起こったのか、それを調べる事で」

女「今後の物流協会の仕事にも大きく役立てられると思うの」

同僚「なんだかなーww」ジトッ

修道女「ホントですかー?」ジトッ

女「な、何よ二人して」

同僚「またいつもの知りたがり病なんじゃねーのーwww?」ジトッ

修道女「女さんの事は尊敬してますけど、そういう所はありますよね」ジトッ

女「…まさかこんなに息ピッタリに反論されるとは思わなかったわ」

同僚「あ、じゃあさwww」

女「何かしら?」

修道女「女さんも一緒に行きましょうよ!」

女「私も一緒に?」キョトン

女「構わないけれど、お邪魔じゃないかしら?」

同僚「またそういう流れに持ってこうとするwww」

修道女「私は全然オッケーですよ!むしろ軽く誘っちゃってますけど…」

女「仕事の心配なら平気よ、ナビくんがいてくれるから大分楽なの」

同僚「じゃー決まりだなwww」

修道女「マッピングチーム総出ですね!」ワクワク

-隣国 街道-


ブロロロ…

男「舗装の荒いこの辺の道でも快適だな」

ナビ『なー!大型カーゴはちゃうな』ニコニコ

男「今日は久し振りに絹織物を積みに行くぞ」

ナビ『ホンマに久しぶりやんなぁーこの運行♪』

ナビ『…それはえぇねんけど』チラッ

男「ん?…あぁ」チラッ

ズラズラッ… ゴゥンゴゥン…


ナビ『ここにもおるね、陸軍』

男「物流協会(うち)との共同任務はもう隣国まで進んでるのか」

ナビ『軍備の移送やら補給物資の運搬やら…』

男「今や俺達の仕事の大部分が軍関連になっちまった」

ナビ『なんか、怖いな…』

ナビ『ってか勇者さんが戻ってきはってから、展開めっちゃ早ない?』

男「勇者さんの帰還を、防御から攻撃に転じる好機と見てるらしいな」

男「今やどっちを見ても戦争一色だ」

ナビ『どうなってまうねやろな』

男「…。」

ナビ『(どうすんねやろ…男ちゃん)』

-王宮 王国議会-


大佐「国内への陸軍展開はほぼ完了しました」

大佐「物流協会の大型シップを使い、隣国の港周辺への派兵も完了しています」

議長「分かりました」コクッ

議長「陸軍派兵については隣国からさらに東、太陽の国辺りまでは滞りなく進むでしょう」

議長「問題はその向こうです」

大佐「荒野の国ですか」

議長「現状、荒野の国は我が軍の入国を拒否しています」

議長「その背景には何か、デリケートな問題が隠されていそうなのですが…」

議長「使節団の予定はどうなっていますか?」

議員「報告します」スクッ

議員「現在、荒野の国へ向かう使節団が出立の準備を進めています」

議員「しかし問題の本質となる部分が不明瞭な為、交渉は難航しそうです」

議長「芳しくないですね」ウーム

-鍛治職人の里 広場-


勇者「っはぁ!」ブンッ

親父「おらぁっ!」ヒュンッ

ブンッ キィンキィン!ブンッ ヒュンッ


若者「二人ともすげぇ剣速…太刀筋が見えない」アゼン

若者「俺の打った剣じゃとても耐え切れないだろうな…」

-鍛治場-


カンカンッ…カン カンッ

親父「お前と剣を打つ日が来るとはな!」ニカッ

勇者「振るうのはともかく作るのは初体験だ、よろしく頼む!」

親父「そしたら今ちょうど作りかけのがあるから、それで練習すっか!」

ゴォォォォ…

親父「コイツが刀身だ」ソーッ カタ

勇者「すげー!熱で真っ赤だ!」

親父「既に大まかに剣の形になってるが、コイツで叩いて…」カンカンッ

親父「少しずつ形を造っていくんだ」カンカンッ

勇者「おぉ、面白そうだ!」

親父「鉄が冷えてきたら暖め直して、また叩いての繰り返しだ」

親父「やってみるか?」

勇者「あぁ!やらせてくれ!」

カンッ!カンッカンッ!

親父「なぁ」ドッコイショ

勇者「んー?」カンッ

親父「あいつどこ行ったんだろな」スッ シュボッ

勇者「…賢者か」

親父「やり方はともかくよ」スパァ

親父「魔王討伐っていう根っこの部分は一緒なんだよな、俺達も賢者も」

勇者「…。」カンッ

親父「お前さ、やっぱ許せねぇか?」グシグシ

勇者「んー…分かんない」ヘラッ

親父「…そうか」

勇者「でもさ」カンッ

親父「ん?」

勇者「あいつもあいつなりに考えてる事があるんじゃないかな?」

親父「あいつなりの方法で魔王を、って事か?」

勇者「俺、思うんだ」

勇者「同じ場所を目指してるのなら」

勇者「俺達の道はまた交わるんじゃないかなって」ニコッ

親父「お前…」

カンッ!カンッカンッ!

-隣国 絹織物倉庫-


倉庫職員「積み込み完了です」

ナビ『積み込み票印字中ー♪』ジジジ ペリッ

男「それではお預かりしますね」

倉庫職員「お願いしまーす」ニコッ

ナビ『職員さんまたなー♪』フリフリ

-隣国 街道-


ブロロロ…

男「今日は魔力ケチってないだろうな」クスクス

ナビ『よ、よぉ覚えとぉなそんなん』アセッ

ナビ『だいじょーぶ!帰りの分もバッチリ残ってんで♪』ピース

男「了解。それなら安心だ…ん?」


ガヤガヤ…


ナビ『路肩に人だかり…なんや喧嘩かいな?』

男「片方は地元の人達っぽいな…もう片方は」

ナビ『王国陸軍やんか!』

キキッ プシューッ

男「ちょっと見てくる!」ガチャ

ダダッ

ガヤガヤ…

農民「うちの畑を接収するなんて聞いてないぞ!」

兵士「接収ではない!一時的に借りるだけだ!」

農民「どっちにしたって聞いてないもんは聞いてないぞ!」

兵士「分かってくれ、世界の平和の為なんだ!」

農民「畑が無くなったらどうやって生活してけってんだ!」

農民「そーだそーだ!世界平和の前に明日の生活がままならねぇや!」

男「ど、どうしたんですか?」

兵士「物流協会か、我々の宿営地を作るのにここらの畑を貸してもらおうと思っているのだが…」

農民「ふざけんじゃねーや!だいたいこんな田舎にテント張って何しようってんだ!」

兵士「だから我々はこの辺りを魔族から守る為にだな…」

農民「んなモン知るか!俺達は日々の暮らしで精一杯なんだよ!」

農民「そーだそーだ!戦争ごっこならてめぇの土地でやりやがれ!」

兵士「何だと貴様!黙って聞いていれば!!」

農民「うるせー!おいみんな!やっちまえ!!」

男「皆さん落ち着いて!落ち着いて!」

ガヤガヤ…

-15分後-


ゴゥンゴゥン…

男「…。」ガチャ バタン

ナビ『男ちゃんおかえり!何があったん??』

男「俺達は一体何をやってるんだろうな…」ハァ

ナビ『…話してぇな。どしたん?』チョコン

ブロロロ…

ナビ『陸軍と地元の人の衝突かぁ…』

男「どっちの言い分も分かるんだけどな…」

ナビ『大義の為に小さきものを…って、やってる事変わってへんやん!』プンスカ

男「確かに陸軍のやり方は良くない。いきなり行って畑貸せだなんて」フゥ

ナビ『せやせや!アホかっちゅうねん!』

男「…だけど地元の人にだって良くない部分はあると思うんだ」

ナビ『え?例えば?』

男「端的に言っちゃうと、自分の身の回りの事しか見えてないんだよ」

男「見えてないし、見ようともしてない」

ナビ『男ちゃん…怒っとぉ?』

男「勇者さんが人生を捧げて戦ってきたのも」

男「その戦いを支援する為の軍の派遣も」

男「軍の派遣活動を手助けする俺達物流協会の仕事も」

男「全て、普通に暮らす人達の為だ」

ナビ『せやな』ウンウン

男「なのに、当の自分達は何も差し出さず、協力もせず」

男「それどころか、誰かが必死になって頑張ってる現実を知ろうともせず!」

男「与えられた餌に文句を付ける事しかしない…」ギリッ

ナビ『男ちゃん、それは言い過ぎやで?』

男「」 ガンッ!!

ナビ『…。』

男「…ごめん。分かってはいるんだ」フルフル

ナビ『…。』ジッ

-荒野の国 勇者の落涙-


バシュゥゥ…!!

女「よっと」ストッ

修道女「ほっ」ストッ

同僚「とうっwww」ズコッ

ポロッ コロンコロン

修道女「同僚さん大丈夫ですか!?」

魔法石(同僚ナビ)『ちょっと!気を付けて下さいまし!』

修道女「あれ?どーちゃんも一緒だったんですか??」

魔法石(同僚ナビ)『あら修道女さん、ごきげんよう』ニコッ

魔法石(同僚ナビ)『それで、一体ここはどこですの?ウトウトしている間に妙な場所へ来たものですねー』

同僚「よう相棒www事務所に仕舞ってくるの忘れてたぜwww」

修道女「いいですよ、私がどーちゃん持ってますから」

同僚「あれどったの珍しいwww」

修道女「また落としたら危ないですからね…ほいっ」スポンッ

魔法石(同僚ナビ)『むぐっ!?何ですのこの包み込まれるような柔らかさは!』

同僚「お前ら何かっつーとそこに入れるよなwww」

女「備品を勝手に持ち出して…逮捕されても知らないわよ?」

同僚「余罪はないから大丈夫っすww」

女「うるっさいわね」

ザッザッザッ…

オォォォォォオォォォ…

同僚「また来ちまったな」

修道女「淵から覗き込むだけでも分かります…本当に空間がない…」ゾクッ

女「えぇ…ここで位相転移が起こったと見て間違いなさそうね」ノゾキ

同僚「おい女ちゃんwwあんま乗り出すと危ねぇぞwww」

修道女「そ、そうですよ!もし空間が消失してるところに落下でもしたら…」

修道女「ん?どうなるんでしょう?」

女「さぁ、どうなるのかしらね」ニヤッ

同僚「…おい女ちゃん」ジトッ

修道女「何か企んでますね?」ジトッ

女「ほんと息ピッタリなんだから」クスッ

女「さて…こうして見ていても、ここで何が起こったのかさっぱり分からないわ」

修道女「そうですねー、実際に見たら何か分かると思ったんですが」

女「…だから行くの、知りたいから」ピョンッ

修道女「っお!女さん!!」ガシッ クラッ

同僚「っおい!!バカ!!」ガシッ

コケッ

女「…っく!」

修道女「い、いやぁぁぁぁ」

同僚「のわぁぁぁぁ」

同僚ナビ『なななな何ですのぉぉぉ』

ヒューーーーーーン…

本日ここまでとします
スレの埋まり具合を鑑みて、1レスの文字数を少し増やしてみたりしてます
読み難い等あれば意見下さい
それではありがとうございました

次回待ってる

投下します

-王都 北へ向かう街道-


ブロロロ…

男「…。」

ナビ「…。」

男「(隣国での一件以降、なんとなくナビと気まずい)」

ナビ『(あん時の男ちゃん、珍しく本気で怒ってたなぁ)』

男「な、なぁナビ」

ナビ『な、なにー?』

男「…。」

ナビ『…。』

男「….その、まだ怒ってるのか?」

ナビ『へ?怒っとぉのは男ちゃんの方やろ?』

男「俺が?…あぁ、あの隣国の人達には正直思うところがあるけど」

ナビ『それは分かったんやけどな』

男「な、何だ?」

ナビ『うぅん。ただ、怒っとぉ時の男ちゃんめっちゃ怖かったんよ』

男「うっ…すまない」シュン

ナビ『まぁそんな顔もウチやから見せてくれるんかな、と思ったら…ね』フゥ

男「それはあると思う、少なくとも親父やなんかには絶対話せないよ」

ナビ『おとさんかぁ…おとさんやったらあん時何て言うたやろな』

男「どうだろう…何も言わないんじゃないかな」

ナビ『どゆこと?』

男「背中で語る…結果で示すしかないってさ」

ナビ『誰かに後ろ指さされても、やるべき事をやるだけやーって?』

男「多分な」

ナビ『なるほどなぁ、おとさんっぽいかも』

男「あぁ、親父はそういう人だ」

-北の山脈 麓 材木倉庫-


キキッ プシューッ

ナビ『とーちゃく♪』

男「こんにちはー物流協会でーす!」ガチャ

先輩「お、男か」テクテク

男「あれ?先輩!」

ナビ『ホンマや!先輩はんやっほー♪』

先輩「ナビちゃんやっほー♪」ニカッ

先輩「今日は何だ?」

男「補給物資の下ろしと、帰り荷で材木を積んでいきます」

先輩「そうか、補給物資はガンガンに積んでるのか?」

男「そうなんですよ、しかもバラ積みで…」ゲンナリ

先輩「大型乗ると手積みの仕事ってホント萎えるよなー」ワハハ

男「萎えますね…積むだけで1時間以上かかりましたもん」フゥ

先輩「まぁ仕方ないさ、よし!人集めてくるからちょっと待ってろ」スタスタ

男「陸軍の兵士がいっぱい来た」

先輩「みんな悪いな、だがみんなの為に積んできた補給物資だ」

先輩「一緒に下ろしてやってくれ」

兵士「了解っす!ドライバーさんもよろしくお願いするっす!」

男「もちろんです!ナビ頼む!」

ナビ『はぃなぁ♪ウイングおーぷん!』ポチ ウィーン


<それじゃ3人、荷台上がれ!

<持つぞ!せーのっ!

<台車でどんどん運べ!


-20分後-


男「終わった…」グッタリ

兵士「ドライバーさん!ありがとうございましたっす!」ビシッ!

男「い、いえ!こちらこそ!っす!」ビシッ

ナビ『男ちゃん口調が移っとぉ』クスッ

先輩「ほいお疲れさん、水分補給しとけ」スッ

男「ありがとうございます!」ゴキュゴキュ

男「っぷは!…あれ、先輩は今日は?」

先輩「俺は運行じゃないんだ、陸軍との共同任務の件でな」

男「そうだったんですね」ゴクゴク

先輩「それと、ちょっと小耳に挟んだ噂の真偽を確かめにな」ニヤッ

ナビ『うわさー??』

-??? 暗い坂道-


バシュゥゥ…!!

同僚「にぎゃっ」ドタッ

女「きゃっ」ドサッ

女「…っく、どうやら死んではいないようね」イタタ

同僚「…お、女ちゃ…重…」ピクピク

女「っ!あらごめんなさい」サッ



同僚「のし掛かられるのも悪くないなwww」ツヤツヤ

女「ホントにもう…さて」

同僚「ここはどこかしらーwww」キョロキョロ

女「目の前に荒れた登り坂が続いているわね」

同僚「っていうか、暗くてそれ以外なんも見えねぇなwww」

女「修道女さんはどこへ行ったのかしら」キョロキョロ

同僚「うちの相棒もなwwwどっか別んトコにいんのかww?」

女「位相転移が起こったとすれば、どこに飛ばされたのかは分からないわね」

同僚「マジかwwまぁとりあえず進んでみるかwww」

女「そうね…あ、ちょっと待って」シャガミ

同僚「どしたんwww」

女「この土質…荒野の国のものと似ているわね」サラサラ

同僚「…ホントだ」

同僚「女ちゃんの読みが正しかったかwww」

女「進んでみましょう」ダッ

-??? 白い砂浜-


バシュゥゥ…!!

修道女「ふぇっ」ドシャッ

修道女「…っ痛」ヒリヒリ

魔法石(同僚ナビ)『むぐー!もがー!』

修道女「あらら、ごめんなさい!」スポンッ

魔法石(同僚ナビ)『ふぅ苦しかった…ん?何ですの??』パァァァァ

パシュッ

同僚ナビ「…勝手に顕現しましたわ」パチクリ

修道女「ホントだ、カーゴと接続もしてないのに」

同僚ナビ「まぁこの方が動き安くていいのですけれど」ピョンッ

同僚ナビ「ちょっと肩に座らせて頂きますわね」チョコン

修道女「ふふっどうぞ…って、ん?」

ピトッ ツンツン

同僚ナビ「ちょっと何ですのくすぐったいですわ…って、あれ?」

修道女「触れる…実体がある!」

同僚ナビ「一体何なんですのこの場所は?」

修道女「分かりません…見えるのは青い海と真っ白な砂浜と」キョロキョロ

同僚ナビ「ん?あの林を抜けた奥に建物が見えますわ」ピョンッ

修道女「ホントですか?」

同僚ナビ「えぇ、あれは確かに建物…お城のようにも見えますわね」

修道女「ここでこうしていても仕方ないですし、とりあえず向かってみましょうか」

-??? 赤土の断崖-


同僚「登り切ったかwww」ハァハァ

女「歩きで行けるのはここまでみたいね…目の前には切り立った崖」ペタペタ

同僚「暗くて見えないけど、これかなり上まで続いてそうだぞww?」ミアゲ

女「困ったわね」ウーム

女「一応聞くけど、同僚くん登れそう?」

同僚「無理っしょwww俺バ◯ログ様じゃねぇしwww」



ザッ

「ここで何をしている?」

女「!」ビクッ

同僚「!!」クルッ

ザッザッ…

ローブの老紳士「何をしている、と聞いている」ザッ

女「…あなたは?」ジッ

ローブの老紳士「質問に質問で返すのはあまり賢いとは言えないな」

ローブの老紳士「まぁいい。私はこの場所の管理をしている者だ」

ローブの老紳士「そういう立場から改めて問う、ここで何をしている?」

女「くっ…同僚くん、どうする?」ヒソヒソ

同僚「…ここが位相転移でぶっ飛ばされた勇者の落涙だった場所なら」ヒソヒソ

女「見たところ、その可能性が高いと思うけど」ヒソヒソ

同僚「…なら考えがあるぜ」ヒソヒソ

同僚「はいはーいwww」キョシュ

ローブの老紳士「何だ」

同僚「俺達、荒野の国から飛んで来ましてwww」テモミ

ローブの老紳士「大陸中央部、遊牧民の暮らす国か」

ローブの老紳士「それで、ここへ何をしに来たのだ?」

同僚「…墓参りに来たんです」

-??? 明るい林-


ザッザッ

修道女「木漏れ日が気持ちいいですね…ん」ノビーッ

同僚ナビ「そもそもここ、とても暖かくありませんこと?」

修道女「そうなんですよ、勇者の落涙と比べると体感で20度以上違う気がします」

同僚ナビ「さっきのお話からすると、私達は勇者の落涙から」

同僚ナビ「どこか別の場所へ飛ばされてしまったという事なのかしら?」

修道女「恐らく…そして、あの場所から位相転移で飛ばされたのだとしたら」

修道女「ここがどこなのか、もはや見当も付きません」


パタパタ…

「ここは妖精の国よ、妖精使いさん」

妖精「こんにちは」パタパタ

修道女「!?な、ナビ…?」ビクッ

同僚ナビ「いいえ…少なくとも私達のような魔法石を用いたナビではなさそうですわ」

妖精「ナビ?魔法石?」キョトン

妖精「私は城のエルフ様に仕える妖精よ、あなたも妖精使いさんなのでしょ?」パタパタ

修道女「ど、どういう事でしょう」ヒソヒソ

同僚ナビ「よく分かりませんけど…何となく彼だったらどうするかと考えると」ヒソヒソ

修道女「…話を合わせるでしょうね」ヒソヒソ

修道女「は、はい!そうなんです」ニコッ

同僚ナビ「はじめまして、妖精さん」ニコッ

妖精「はじめまして!綺麗な黒髪ね、触ってもいい?」サワサワ

同僚ナビ「もう触ってるじゃないですか…別にいいですけれど」

妖精「お城へ行くのね?それならこの林を抜ければすぐよ」パタパタ

修道女「わ、分かりました!ご親切にありがとうございます」ペコッ

青い妖精「とんでもない!何か困ったらいつでも聞いてね」

同僚ナビ「ふふっありがとう、それではまた」フリフリ

-北の山脈 麓 材木倉庫-


男「側近…賢者さんが北西地方に?」

先輩「根も葉もない噂話だが、何となく引っ掛かるんだよ」

ナビ『確かに…北西地方ってとこが気になるなぁ』

男「あぁ、俺達の故郷…20年前に焼失した小さな村」

先輩「俺もそこが気になってな。賢者さんが何を考えているのかは分からんが」

先輩「ちょっと確かめに行こうと思ってな」ニカッ

男「気になったら即行動…なんだかそういうとこ、女と似てますね」クスクス

ナビ『っていうか、似てきたんとちゃう??』クスクス

先輩「むっ…何だよお前ら」

先輩「…でもまぁ、悪い気はしないな」フッ

男「女の方も最近ちょっと変わってきたんですよ?」フフッ

ナビ『なー!前より開けっぴろげになったっちゅーか!』

先輩「!?」

ナビ『…いや性格がやで?』ジトッ

先輩「分かってるよ!…む、じゃあそれって」

男「たぶん先輩の影響だと思います」

ナビ『仲良しやなーこのこのぉ♪』

先輩「お前らに言われたくないさ!」ワハハ

-??? 赤土の大岩-


ザッザッ…

ローブの老紳士「…。」

女「えっくし」クシュン

同僚「女ちゃん見かけによらずオッサンみたいなクシャミすんのねwww」ケラケラ

女「うるさいわねー」ジトッ

ザッザッ…

ローブの老紳士「ここだ」ザッ

亡骸「」

女「…。」

同僚「…。」

ローブの老紳士「これは一部だ。転移の衝撃でバラバラになったものもあった」

ローブの老紳士「ここには形を留めていたものが集めてある」

ローブの老紳士「我々には埋葬の習慣がない。死者は無に帰するという考え方があるからだ」

ローブの老紳士「お前たちがお前たちのやり方で弔いたいならば、それを止める事はしない」

女「見事に白骨化してるわね…ただ、衣服は少し残ってるわ」スッ

同僚「あの辺りの民族衣装だろうな、この独特の模様」ツマミ

ローブの老紳士「それらをどうする?持ち帰るのであれば簡単な箱位は用意出来るが」

女「是非お願いします」ペコッ

同僚「助かります」ペコッ

ローブの老紳士「構わん。少し待っていてくれ」

ザッザッ…


同僚「…これが理由なんだよ」ナデ

女「王国と荒野の国を隔てている心の障壁…」

同僚「それは同胞…家族を失った痛み、悲しみ、失意」

女「人の心を動かすのは人の心でしかないのね」

同僚「良くも悪くもな」フゥ

-??? 白亜の城-


修道女「こ、こんにちはー」オズオズ

同僚ナビ「人の気配がありませんわね」

ギィィ…

同僚ナビ「…っぷ、くふふ」クスクス

修道女「っ!?いきなり何笑ってるんですか!??」ビクッ

同僚ナビ「すみません、思い出し笑いですわ…」ククッ

同僚ナビ「あなたと初めてお会いした時とシチュエーションがそっくりだったものですから」クスッ

修道女「も、もう忘れて下さいよぉぉ」シクシク

修道女「あ、誰かいますよ」

同僚ナビ「すみません、ちょっと宜しいかしら?」

エルフ1「あら、お客さん?」ニコッ

エルフ2「ホントに!珍しいわねー人間のお客さんなんて」ニコニコ

修道女「あ、あの、すみません勝手に入って来ちゃって」ヘコヘコ

同僚ナビ「尖った耳に透けるような白い肌…お伽話に出てくるエルフそのものですわ」

エルフ1「気にする事ないわ。お客さんはいつだって歓迎するんだから」

エルフ2「しかも人間の妖精使いさんだなんて珍しい!」

修道女「あ、あの私達、実はこの地に迷い込んでしまってですね」かくかくしかじか

エルフ1「それは大変だったわねー」ウンウン

エルフ2「でも安心して!女王様ならきっと何とかしてくれるわ」ニコッ

修道女「じ、女王様ですか」

同僚ナビ「このお城の城主様といったところかしら」

エルフ1「そういう事!私達から話をしておいてあげるわね」

エルフ2「広間で待っていてくれるかしら?食事でもお持ちするわね」

修道女「そそそんな悪いですよ!」グーギュルル…

同僚ナビ「…お腹は正直なようですわね」

修道女「///」

エルフ1「ふふっ可愛い人間さんね」クスッ

エルフ2「ホントに!」クスクス

-白亜の城 広間-


修道女「ひ、広い…」ポツーン

同僚ナビ「50人は座れそうなテーブルに私達だけですからね」チョコン

修道女「で、でも優しそうなエルフさん達でしたね!」

同僚ナビ「…それはどうでしょう?」

修道女「へ?」

同僚ナビ「何となくいけ好かないんですの、彼女達…」ギリッ

修道女「そ、それはもしかして、彼女達のおっp同僚ナビ「」ギロリッ

修道女「で、でも少しずつ分かってきましたね」

修道女「ここは恐らく同僚さんの言ってた南の果て、伝説のエルフの島です!」

同僚ナビ「実在したんですのね…」

修道女「偶然とは言え、この場所に辿り着けるとは…!」ワナワナ

同僚ナビ「エルフと言えば魔法のエキスパート、詠唱士としては興味深いですわね」フフッ

<お客人!お待たせしました!


ズラズラッ

修道女「す、凄いご馳走が…!!!」

同僚ナビ「あの私、今実体があるんですの」ウズウズ

修道女「あ!もしかしたら食べられるかも知れないですね!!」

修道女「ちょっと待って下さいね!」キコキコ

修道女「はい!あーん!」ニコッ

同僚ナビ「あ、あーん」パクッ

同僚ナビ「…。」モグモグ

同僚ナビ「!!!!」

修道女「ど、どうですか??」

同僚ナビ「し、知らなかった…」ワナワナ

同僚ナビ「口の中を駆け抜ける"香り"」

同僚ナビ「滑らかな"舌触り"」

同僚ナビ「そして豊かな"味わい"…」

同僚ナビ「食事というものがこんなに素晴らしいものだったなんて…!」ウルウル

修道女「よ、良かったです…」ウルウル

同僚ナビ「さ!そうと分かればどんどん頂きましょう!!」クワッ

修道女「ですね!私もいただきまーす!!」

修道女「いやー美味しかったです!」マンプクー

同僚ナビ「初めての食事…堪能させて頂きましたわ」ツヤツヤ

修道女「ふわぁ…お腹いっぱいになったらなんだか眠く…」

同僚ナビ「話には聞いてましたが…ホントなのですね…ふわぁ」

修道女「ん…なんだか…変…で」zzzz

同僚ナビ「意識が…ぅ…」zzzz

本日ここまでとします
ありがとうございました

乙!やっぱオリジナルは面白いな

あとこういっちゃなんだが、ナビはもう一人の男のようなものでしょ?
つまり自分自身を好きになった、ようはナルS(飛ばされる音)

投下します

ザッザッ…ガラガラ…

同僚「わりぃっすねw台車まで貸してもらっちゃってwww」ガラガラ

ローブの老紳士「20年前、この大岩が出現した時」

ローブの老紳士「世は大きな戦いの最中であった」

ローブの老紳士「お前達がやって来たという荒野の国…そこに埋まっていた魔法石が、その力を暴発させ」

ローブの老紳士「辺り一帯の土地を丸ごと、この場所に転移させたのだ」

女「それまでこの場所には何があったんですか?被害を受けた方とか」

同僚「そうだな、いきなりこんな大岩が降ってきたら」ガラガラ

ローブの老紳士「案ずるな、ここには何も無い」フルフル

同僚「何もない?」

-??? 暗い坂道


ザッザッ…ガラガラ…

ローブの老紳士「見ろ」

女「坂道を下りきった先は…崖?」

同僚「だな…暗くてよく見えねーけど」

ローブの老紳士「見えぬのではない、存在しないのだ」パァァァァ

同僚「んなっ!?体が…!」フワッ

女「これは…飛行魔法!?」フワッ


スススーッ…


ローブの老紳士「見えるか」フワフワ

女「暗闇の中に大岩がポツンと…浮いてる??」フワフワ

同僚「なんだこりゃ…何なんだここは??」ポカーン

ローブの老紳士「ここは亜空間。お前達の住む場所とは理が異なる」

ローブの老紳士「土地は空間の中に点在し、魔法によって行き来をする」

ローブの老紳士「通常、お前達がここに入ってくる事はない」

ローブの老紳士「必要がないからだ」


同僚「俺達には用事があったんです」フワフワ

ローブの老紳士「理解出来る」コク

ローブの老紳士「我々には無い習慣だが、お前達が亡骸を埋葬する事は知識として知っている」

ローブの老紳士「それで、用事は済んだのか?聞きたい事があるなら聞くがいい」

女「亜空間…飛行魔法…点在する土地…そして」ブツブツ

同僚「女ちゃん、どした?」

女「…あ、あの」ガタガタ

ローブの老紳士「何だ?」

女「暗闇に点在する土地…うんと遠くに見える、一際大きなあの場所」ユビサシ

女「あそこに見える建造物は…?」ガタガタ

同僚「女ちゃん?震えて…?」

ローブの老紳士「あの場所は我らが頂」

スッ スルスル…

老ガーゴイル「我々魔族を統べる者、魔王様の城だ」

-白亜の城 応接間-


修道女「っ!!」パチ

同僚ナビ「っ!!」パチ

修道女「あれ…私達…眠って…?」グシグシ

同僚ナビ「…初めての事とは言え、あそこまで強烈な眠気に襲われるものなのでしょうか?」

修道女「いえ、さすがにあそこまでは」フルフル

同僚ナビ「となると、何かを盛られたという可能性が高いですわね」

ガチャ

「お目覚めになりましたか?」

女王「おはようございます」ニコッ

修道女「あ、おはようございますー」ペコッ

同僚ナビ「この度は素敵なおもてなしを賜り恐縮ですわ」キッ

女王「…私達の身を守る為、眠っている間に所持品を改めさせていただきました」

女王「島のみんなを守る為なの、気を悪くなさらないで頂戴」

同僚ナビ「分かりましたわ、では私達が危険な存在ではないとご理解頂けまして?」

女王「えぇ勿論、無礼をお詫びします」ペコッ

修道女「そ、そんな!分かって頂けたなら!」アワアワ

女王「…。」ジーッ

修道女「な、何でしょう」ドキドキ

女王「…あの子達の言った通りね」ジーッ

修道女「へ??」ドキドキ

女王「あなた、人間の匂いに混じって…私達と同じ匂いがするわ」

修道女「…そ、それって」

かくかくしかじか

修道女「私の出生についてはこんな所ですねー」

同僚ナビ「そうだったんですの…では修道院のシスター長さんが」

修道女「はい!血は繋がっていませんけど、私のお母さんです」ニコッ

女王「…。」

修道女「あ、あの、それが何か…?」

女王「…。」

女王「…20年前の戦乱の最中、私達の同胞の一人が人間の男性と恋に落ちました」

女王「当時はまだこの島も人間の世界との行き来がありましたからね」

女王「彼女は男性と共に島を去り、子を成しました」

修道女「…。」

同僚ナビ「その後はどうなったんですの?」

女王「元々彼女は体が弱く、加えて人間の世界の空気が合わなかったのでしょう」フルフル

女王「娘を出産した直後、亡くなったと聞いています」

修道女「そ、そんな…!」

女王「その後時を置かず、行商人をしていた男性も行方が分からなくなりました」

女王「戦乱の世です、珍しい事ではありませんでした」

女王「取り残された筈の娘がどうなったのかは、誰も知りません」

修道女「そ、それじゃ…私が…??」ポカーン

女王「…そちらの妖精さん、私達が使役する妖精とは違いますね?」

同僚ナビ「私は精霊ナビと言って、魔法石に人間の心を写し取った存在なのですわ」

同僚ナビ「今は何故か実体化して、食事まで出来ましたけれど」

女王「成る程」コク

女王「それは恐らくこの島に満ちている魔力と、修道女さんの魔力が共鳴した結果でしょう」

女王「あなたの中に流れる、エルフの血がそれを成したのでしょう」

修道女「私の中の…エルフの血…」

同僚ナビ「突然何の話をなさるのかと思えば…」

同僚ナビ「いきなりそのような話を聞かされて、彼女の気持ちをお考えでして!?」キッ

女王「驚かせてしまってごめんなさい」ペコッ

修道女「だ、大丈夫です…」フルフル

女王「ただ、分かって頂きたいの」

女王「もう二度と会う事はないと思っていた…私達の血を分けた仲間」ジワッ

女王「私は嬉しいのです…あなたが生きていてくれた事が」ポロポロ

修道女「…。」

同僚ナビ「…。」

女王「神よ…」ポロポロ

-北西地方 小さな集落-


ブロロロ…キキッ

先輩「小型カーゴも運転ラクでいいな」ガチャ

先輩「さて…噂の真偽や如何に」ザッザッ

先輩「すんませーん!」

老人「む?なんや物流協会か」

先輩「はい!ちょっと届け物で、最近この辺りに越して来た男性いますよね?」

老人「あぁ、あの偏屈な野郎な」フンッ

老人「そっちの林の近くにある家やな」

先輩「林の近くですね?ありがとうございます!」

老人「ん?でもあんた荷物らしいモンを持ってるようには見えへn先輩「そーだ!教えてくれたお礼に!」サッ

先輩「東の港名産!帆立の燻製です、スコッチと合うんですよー」ニコッ

老人「おぉこりゃ美味そうやな!なんや悪いなぁ」ニコニコ

先輩「いえいえ!ほんのお礼ですから」

先輩「それでは!」ソソクサ

-林の近く 小さな家-


先輩「いかにもって感じだな」

先輩「こんにちはー!物流協会でーす」コンコンッ

ギィィ

「何だ?荷物など届く覚えは…」

ガシッ

先輩「…お元気そうで何よりです、賢者殿」グイッ

賢者「っ!お前は巨石の間にいた…!」

先輩「俺はただのドライバーですよ」

先輩「もちろんあなたを逮捕する権限なんて有りませんからご安心を」ニコッ

賢者「…何の用だ?」ギロリッ

先輩「教えて下さい、あなたが何をしようとしているのかを」

-小さな家 ダイニング-


賢者「ウィッタードでいいか?」コポポ

先輩「まさか賢者殿にお茶を淹れて頂けるとは」

賢者「自分の置かれた状況くらい理解している、お前を追い返したところでデメリットしかない」コトッ

先輩「頂戴します」ズズッ

賢者「…。」ズズッ

先輩「…ふぅ。それで、ここでは何の研究をなさってるんですか?」

賢者「私の使命はただ一つ、魔王を討つ事だ」

先輩「…その為に、人の血で手を染める事になってもですか?」ギロッ

賢者「…神の雷と同じ威力、同じ規模の攻撃を人力のみで賄おうと思ったら」

賢者「陸軍など全員突っ込んでもまるで足りないのだ」フンッ

先輩「だからってあんたは勇者さんや男を…!」

賢者「…。」ズズッ

賢者「そして陸軍を全員投入するという事は、その全員の命を危険に晒すことだ」

賢者「遠隔攻撃である神の雷とは違い、戦う者全てを死なせる事になるやも知れん」

賢者「お前達の言っている事は、所詮甘っちょろい正義感や上っ面の理想論でしかないのだ」

先輩「そ、それは….!」ギリッ

賢者「質問に答えよう」

賢者「現状、巨石の力は沈黙したままだ」

賢者「勇者という強い心を持った、いわば"核"が欠落しているからだ」

賢者「私は新たな"核"を生み出す為にこの地で研究を続けている」

先輩「核…それは人の心という事か?」

賢者「それに限りなく近いものだよ、お前もよく知っているだろう」

先輩「まさか…ナビシステムか!?」

賢者「左様。それこそがナビシステム開発の当初の目的だったのだ」

賢者「人の心を写し取り、魔法石に封じ込める…」

賢者「勇者が巨石に取り込まれたのとは逆のプロセスだな」

先輩「じゃあ、あの巨石をそのままナビシステムとして使うって事か」

賢者「あぁ。だが、簡単な事ではない」

賢者「20年前のあの日、この地に落ちた涙の欠片…」

賢者「そういった、心を増強する何かが必要なのだ」

先輩「心を増強する何か…」

-亜空間 赤土の大岩付近-


同僚「いぃっ!!?ま、魔族!?」ゾクッ

女「やっぱりね…」ビクビク

老ガーゴイル「それが分かったとて、さて何とする?」

同僚「何とするって…ここでやるしかねぇのか?」

女「無理よ…今私達はあの魔族の飛行魔法で宙ぶらりんなのよ」フワフワ

同僚「確かにこの状態じゃ戦うっつってもな」フワフワ

女「そういう事。喧嘩にすらならないわ」

老ガーゴイル「考える事の出来る人間は嫌いではない」

老ガーゴイル「お前達はお前達の用事を済ませる為にここへ来た」

老ガーゴイル「そしてその用事は、無事に済ませた」

同僚「それに関しちゃ感謝してるぜ」

女「ど、同僚くん…」

老ガーゴイル「ここには我々の家があり、同胞があり」

老ガーゴイル「秩序があり、生活がある」

同僚「なんだ、人間と変わんねぇじゃねーか」

老ガーゴイル「そうだ。そして、お前達が我々に対して剣を抜くつもりがないのならば」

老ガーゴイル「私はこのまま、お前達を荒野の国へ送り届けよう」

女「っく…ど、同僚くん、どうする?」ヒソヒソ

同僚「どうしようもなくねww喧嘩にならねぇって言ったの女ちゃんじゃんww」ヒソヒソ

女「そりゃそうだけど」ヒソヒソ

同僚「分かったよオッサン」クルッ

同僚「俺と彼女はここでアンタに剣を抜かない、それは約束する」

老ガーゴイル「そうか」

同僚「だけど他の人間は分かんないぜ?アンタらをぶっ飛ばしたくて仕方ない奴がいっぱいいるんだ」

老ガーゴイル「どうしても戦争がしたいというのならば相手になろう」ギロリッ

女「っ!」ビクッ

老ガーゴイル「だが、わざわざ同胞の亡骸を拾いに来たお前達を蹂躙するような趣味はない」

パァァァァ

老ガーゴイル「帰ってよく話せ。意味のある選択とは何か、と」



バヒューーーーーン

女王「取り乱してしまってごめんなさい」ペコッ

修道女「い、いえいえ!」アセ

女王「人間の男性との間に生まれたとは言え、あなたが私達の同胞である事に変わりはありません」

女王「同胞…いえ、家族ですね」

修道女「か、家族…」

女王「私達はあなたを家族として迎える準備があります」

女王「あなたがもし望むのであれば、この島で一緒に暮らしましょう」

修道女「え、えぇっ!!?」

女王「勿論今すぐここで決めろ、とは言いません」

女王「ゆっくり考えて決めて下さい、私達はいつでも歓迎します」ニコッ

-白い砂浜-


ザッザッ…

女王「私達がこの島を結界により封じ込めたのは」

女王「人間と魔族との戦が激しさを増してきた頃です」

女王「私達エルフは魔法詠唱に長けていますが…主に回復や祝福、蘇生といった類に限られます」

女王「攻撃の手段を持たぬ私達は、ただその身を潜めるしか生き延びる術がなかったのです」

修道女「…。」

同僚ナビ「…。」


ザッ


女王「ここでお送りします」

修道女「…色々と、お世話になりました」ペコッ

同僚ナビ「…。」ペコッ

女王「最後にこれを渡しておきます」スッ

修道女「これは…ペンダント?」

女王「この島は通常の方法では行き来が出来ません」

女王「このペンダントを身につけて、転移魔法を詠唱すれば外からまた訪れる事が出来ます」

修道女「あ、ありがとうございます」ギュッ

女王「シスター長さん…あなたのお母様によろしくお伝え下さい」

修道女「…はい」コク

女王「ではお二人共お気を付けて、またお会い出来る事を望んでいます」ニコッ


パァァァァ…

バヒューーーーーン

-夜 王都郊外 煉瓦橋-


リンゴーン リーンゴーン…

男「」シュボッ スゥ

スパァ…

男「…ふぅ」

テクテク

同僚「どったのwこんな所で黄昏ちまってよwww」ニカッ

男「そんなんじゃないよ」フフッ

男「ここから見る時計塔が好きなんだ」

同僚「王国の象徴だかんなーw今日もビシっとキマってるぜwww」

男「…吸うか?」スッ

同僚「珍しいじゃんかwwじゃ付き合いましょーww」シュボッ スゥ

スパァ…モクモク

同僚「…えほっw」ゴホゴホ

男「おい大丈夫か?無理して吸わなくても」

同僚「いーんだよww同じ味吸ってたらよwww」

男「?」

同僚「同じ気持ちになれるかも知れないじゃんか」ニカッ

男「…ありがと」フッ

男「色々あったみたいだな」

同僚「お互いになーww」

同僚「うちの相棒に聞いたぜ?ナビちゃんの前でガチギレしたらしいじゃんww」

男「…なんか虚しくなっちゃってさ」ハァ

同僚「難しいよな、みんなどうしたって自分の事で精一杯になっちまうもんさ」

男「多分さ、ほんのちょっとした事なんだよ」

男「みんながほんの少しずつ優しくなれれば、世界はきっと…」

同僚「お前のそういうとこ、嫌いじゃないぜ」フフッ

同僚「なぁw煉瓦橋も時計塔も俺達王国民の誇りだけどよwww」

男「…もう一個あるってか?」クスッ

同僚「そのとーりwww」ビシッ

男・同僚「修道院特製エールと揚げたてのフィッシュフライ!!」

男「ハハッ!オッケー行くか!」ニコッ

同僚「そうこなくちゃよwww」ワハハ

王都 酒場街


ワイワイ…ガヤガヤ…

同僚「俺さ、協会には報告してねぇんだけどww」グビ

男「?」ゴクゴク

同僚「勇者の落涙からぶっ飛んでった場所で、魔族に会ったんだww」

男「ま、魔族!?大丈夫だったのか??」

同僚「なんかすげー聡明な奴でよww説教?されちまったwww」ケラケラ

男「説教?魔族に??」ポカーン

同僚「んで、なんか色々分かんなくなっちまったんだ」フゥ

同僚「俺アホだからさwww難しい事は分かんないのよwww」

男「よく言うよ」クスッ

同僚「いや、マジでさ」

同僚「お前、想像した事あるか?」

男「何を?」モグモグ

同僚「魔族にも心があるかも知れないって」

男「…お前の会った魔族ってどんな奴だったんだ?」

同僚「同胞の亡骸を拾いに来たお前らをわざわざぶっ殺す趣味はねーってよw」

男「そ、それって」

同僚「んで、最後に言ったワケw」

同僚「"意味のある選択とは何か、よく考えろ"ってな」

男「衝撃だな…」

同僚「だろーww?俺もうワケ分かんなくなっちゃってよwww」

男「うぅむ…」

同僚「なぁ、俺達のやろうとしてる事って正しいのか?」

男「…。」

-物流協会事務局 女の執務室-


カリカリ…

女「ナビくんがいてくれて本当に助かるわ」

ショタナビ『ほめられちゃった!へへー』ニコニコ

女「それにしてもあの魔族…」ペラッ

[禁書指定 全員集合!魔族大図鑑]

女「あの姿形から見て、ガーゴイルね」パラパラッ

女「"…ガーゴイルは人間並みの高い知能を持ち、魔法詠唱に長けているぞ!"」

女「"戦闘能力も高く、剣の一振りで岩をも砕く力を持っているぞ!"」

女「…やり合わなくて正解だったわね」ゾクッ

女「でも、人間並みの高い知能って事は」

女「あの時の話は、ともすれば私達を欺く為の嘘だったのかも…?」

女「いえ、だったらもっと手っ取り早くやられていたでしょうね」フルフル

女「何故私達に遺骨を拾わせて何もせずに送り返したの?」

女「あの魔族の話が本当だとしたら」

女「私達のやろうとしている事って…」

女「魔王についても書かれているわね」パラパラッ

女「しかしこんな文献誰が書いたのかしら…?」

女「"魔法はその存在全てが謎に包まれているぞ!"」

女「"太古の昔からの記憶を引き継ぎ、その聡明さは人間を遥かに凌ぐぞ!"」

女「"強烈な広域魔法を連続して使ってくるから要注意だ!"」

女「"この先は君自身の目で確かめてくれ!"…って」

女「最後まで教えなさいよ!」

ショタナビ『おねーさん怒ってる?』

本日ここまでとします
ありがとうございました

まあ確かに一部の魔族は敵対したかもしれないが=全ての魔族が悪とかとは限らないもんな…
魔族にだってそれぞれの個性や考え方もあるし生活だってあるだろうし
それに魔王だって実際に目にしたわけでもなく話でしか聞いてないから伝承=本当とも限らないもんなぁ
そう考えたら何を信じたらいいかも何が正解かもわかんないよね

-1週間後 王国議会-


議長「荒野の国から書簡が?」

局長「はい、物流協会の事務局宛てに」ペラッ

国王「…。」

局長「読み上げますか?」

議長「頼む」

局長「では…」コホン

"過去は変えられない、だが"

"貴君らは筋を通してくれた"

"彼の地を訪れ、我が同胞を連れ帰ってくれた事"

"誠に痛み入る"

"西の王国より打診された陸軍派遣について"

"世界の平和という大義の元に"

"これを承認しよう"

"これ以上、無益な骸を重ねる事のなきよう"

"くれぐれもお願いされたし"

"荒野の国 首領"

局長「以上です」

議長「どういう事だ…」ポカーン

国王「…。」

大佐「詳しい事は分からないが、ともかくこれで荒野の国への派兵が叶うわけだな」

局長「そういう事ですね」

議長「分かりました、それでは早速使節団を派遣して具体的な話し合いをしましょう」

国王「議長」スクッ

議長「はい、陛下」

国王「私も同行する」

議長「へ、陛下ご自身がですか!?」

大佐「荒野の国までは長旅です、魔族との衝突などの危険も考えられます」

国王「陸軍の護衛では不十分だと?」

大佐「い、いえ!決してそのような事は」

国王「向こうが心を開いたのならば、こちらもそれなりの態度を示さねばならん」

国王「これは王国の長である私の責任だ」

議長「わ、分かりました」

大佐「それでは陛下のご同行を加味した上で、日程の調整などを相談しよう」

局長「承知しました、こちらも手配を進めます」

国王「…。」

-王都 市街地-


ブロロロ…

同僚「…。」ガチャ

同僚ナビ『やけに静かですわね、拾い食いでもしてお腹壊したんですの?』

同僚「お前は俺をどういう目で見てんのよwww」

同僚ナビ『冗談ですわ』クスッ

同僚「…なぁ相棒」

同僚ナビ『何ですの?』

同僚「修道女の奴、何があったんだ?」

同僚「勇者の落涙で再会した時、ずっと塞ぎ込んでやがったが」

同僚「お前達がぶっ飛んでった先で何があったんだ?」

同僚ナビ『何かがあった、私に言えるのはここまでですわ』フゥ

同僚「それほぼ何も言ってなくねwww」

同僚ナビ『個人的なお話なので、ご本人にお聞きになって下さいませ』フイッ

同僚「…分かった」

同僚ナビ『あ、次の届け先また不在でしたわ』

同僚「もー自分で時間指定しといて不在とか何なのww忍びの者なのwww?」

ガチャ ブロロロ…

-物流倉庫 事務所-


男「荒野の国への運行ですか?」

ナビ『マジか』

先輩「ついに決まったか」

配車係「えぇ。一週間後に出発です」

配車係「まずシップで隣国へ渡り、向こうで展開している陸軍と合流して」

配車係「あとはひたすら東へ向かいます」

ナビ『ひゃー長旅やん!』

配車係「途中、何箇所か展開している陸軍の宿営地で補給を受けられますので」

先輩「それなら問題ないか」

男「…。」ギリッ

配車係「それと、今回の運行では国王陛下も同行します」

ナビ『こ、国王はん!?』

配車係「荒野の国との関係上、代理の者に行かせるわけにはいかないと」

配車係「陛下直々のご意向です」

先輩「陛下を乗せて行くのか、責任重大だな」

配車係「とりあえず、来週までは通常の運行も緩めに組みますので」

配車係「体調管理等、しっかり準備しておいて下さい」

-夜 王都酒場街-

[BAR REQUIEM]


カランッ

女「荒野の国への派兵が決まったようね」ゴク

先輩「あぁ、一週間後に出発だ」

女「…しばらく会えなくなるわね」

先輩「珍しいじゃないか、君がそんな台詞を吐くなんて」フフッ

女「あら、ご不満?」

先輩「大歓迎だとも」

女「…不安なのよ、何だか」

女「私達がやろうとしている事は、果たして本当に正しいのかしら?」

先輩「…どういう意味だ?」

女「…。」

-鍛治職人の里 広場-


親父「そうか、荒野の国への派兵が決まったか」

男「俺と先輩で行ってくるよ」

親父「気ぃ付けて行ってこいよ」ポンッ

男「うん…」

親父「…何だ、まだ腹が決まってねぇって顔してるな」ジーッ

男「なぁ親父、あのさ」

親父「んー?」シュボッ スゥ

男「…魔王って、どんな奴なんだ?」

親父「魔王か…」スパァ

親父「実は俺もよく分かんねぇんだ」

男「そうなのか?だって20年前に魔王討伐目前まで行ったんだろ?」

親父「強いて言うなら…ありゃ本当の魔物だ」

男「どういう意味だ?」

親父「姿は見えず、声も聞こえず」

親父「ただそこに在るだけで感じる、圧倒的な殺気…」

親父「空気が震える程のな」

男「そ、そんなのを相手に戦ってたのか…」ゾクッ

親父「勇者や賢者と旅する中で、強い奴には死ぬ程遭遇したが」

親父「あそこまでの恐怖を感じた事はなかったな」

男「…。」

親父「前にも言ったがな」シュボッ スゥ

男「とにかく生き残れ、だろ?」

親父「そういうこった」スパァ

親父「必ず生きて帰ってこい、いいな?」

男「あぁ、約束する」

-鍛治職人の里 入り口-


ゴゥンゴゥン…

ナビ『おとさん、はじめまして』ペコッ

親父「お前さんがナビちゃんか!はじめまして!」

親父「可愛らしい女の子じゃないか!」ワハハ

ナビ『ど、どーもです』カチコチ

男「なんだよお前緊張してるのか?」クスッ

ナビ『そ、そらするやろ!男ちゃんのおとさんやで!!』

親父「懐かしいなぁその北西訛り…女の小さい頃を思い出すぜ」ニコニコ

ナビ『え、ウチとちっちゃい頃の女さんって似てるん??』

親父「容姿は違うがな、よくしゃべる所とかはそっくりだ」ウンウン

ナビ『なんか複雑やな…』ジト

男「え?俺??」

親父「あとその"おとさん"ってのがまた…」ウルッ

男「な、なんだよ親父!急に泣くなよ!」アセッ

親父「泣いてねーよ!俺にとっちゃ大事な思い出なのさ」ニカッ

ナビ『ウチの中の記憶にあるおとさんの様子と全然変わらへん…ホンマに年とったん?』

親父「なんだよ勇者とおんなじ事をナビちゃんまで言うのかよ!褒めてねーからそれ!」ワハハ

男「まぁともかく、こいつが俺の相方なんだ」

ナビ『ふふっ。相方ってなんかえぇなぁ♪』

男「運行でもそうだし、今は魔法剣として一緒に戦う事も出来るからな」

ナビ『魔法剣なー!さすがおとさん♪あんなんよぉ思いついたわ』ウンウン

親父「魔法剣?なんだそりゃ」キョトン

男「いやいや、親父がくれた剣に魔法石を嵌める為の穴があるじゃないか」

親父「穴?あー柄のトコの穴か!」

ナビ『そーそー!ウチがぴったりハマんねん!』

親父「ありゃな、指を入れる穴だ」

男「へ?」

親父「俺の手癖というか、あそこに指を入れると手首のスナップで剣が振れるんだよ」クイックイッ

男「そうなの!?」ガビーン

ナビ『なんやそれ…』ズコーン

親父「なるほどな、そこに魔法石を仕込むわけか!よく思いついたな!」ワハハ

男「俺はその為の穴だとてっきり…」

親父「だって俺魔法使わねぇもん」アッサリ

ナビ『ほんなら、たまたまやったん??』

親父「玉(魔法石)だけにな」キリッ

男「そんな…」アゼン

ナビ『おとさん、そんなんいらんねん…』ボーゼン

親父「まぁ偶然とは言え、今後のお前の武器になり得るんじゃねぇか?」ニカッ

男「魔王の話を聞いたら尚更戦いたくなくなったけどな…」ゲンナリ

-夜 王都郊外 煉瓦橋-


リンゴーン リーンゴーン…

同僚「どうしたのよww勇者の落涙以降元気ないじゃんかwww」

修道女「へへ、そうですかね…」

同僚「そんなに分かりやすく元気なくなる人そういないぞwww」

修道女「…。」ウツムキ

同僚「…何かあったのか?」ポンポン

修道女「…っく、う…」ウルウル

修道女「うぅ…同僚さぁん…!」ポロポロ

同僚「おいおい何だよどうしたんだよ」アセッ

修道女「わたし…わたし…」ポロポロ

ヒシッ

同僚「…っ」ギュッ ポンポン

[BAR REQUIEM]


カランッ…

同僚「そうか、お前の出生がな」

修道女「私、いきなりそんな話をされてもう何が何だか…」フルフル

同僚「そりゃ困るわなwwwだってお前にとっての家族はよwww」

修道女「修道院の皆さんと…シスター長さんです」コクッ

同僚「だったらもう答えは出てるじゃねぇか」

修道女「そうなんですけどねー」ベター

同僚「カウンターに突っ伏すんじゃないわよ行儀悪いwww」

修道女「あの方…泣いてたんです」

同僚「?」

修道女「私が産まれてきて、生きてたって事が嬉しいって…泣いてくれたんです」ウルッ

同僚「…そっか」

修道女「今更家族になる事は難しいんですけど…何かしてあげたいんですよね」

同僚「何かって…肩揉みとかか?」

修道女「そこ草生やさないんですか」クスッ

同僚「冗談のつもりじゃなかったもんwww」

-王立図書館-



男「長旅に備えて多めに借りておくか」テクテク

魔法石(ナビ)『すんげー!本がいっぱいやぁ!』ウキウキ

男「まぁ図書館だからな」フフッ

魔法石(ナビ)『タイトルを見てるだけでも面白いなぁ♪』

男「あれとこれと…あ、それも読んでみたかった奴だ」

魔法石(ナビ)『あ!男ちゃんあれは?』

男「ほう、たまにはこういうジャンルも挑戦してみるか」スッ

テクテク

-深夜 物流倉庫 事務所-


カタカタ…

配車係「明日の配車組みはこんなもんか…んーっ」ノビーッ

ナビ『どーちゃん久しぶりやんな!』ハイタッチ

同僚ナビ『ふふっ。そういえばそうですわね』ハイタッチ

ナビ『あんなー?今日男ちゃんと図書館に行ってんかぁ』

同僚ナビ『男さんも読書家でしたわね、全く同僚さんにも見習って欲しいですわ』クスッ

ナビ『でなー?なんや面白そうなタイトルの本があってん!』

ガチャ

女「お疲れ様です」

配車係「あ、お疲れ様でーす」

ナビ『女さんや!やっほー♪』

女「はいはい、やっほー♪」ニコッ

ショタナビ『ふわぁ…おねーさん僕もう眠いかも』ムニャ

同僚ナビ『!!!』

ナビ『あ!その子が噂の!』

女「そういえば紹介してなかったわね、私のナビくんよ」コトッ

[魔法石ノ充填ヲ開始シマス…]パァァ

ナビ『ウチが男ちゃんのナビやで!よろしゅうね♪』ニコッ

同僚ナビ『なんと…可愛らしい…』ハァハァ

ショタナビ『こんにちは!あれ、こんばんは、か!間違えちゃった』テヘ

同僚ナビ『くっはぁ!!』ズキュゥゥン

ナビ『なぁなぁ女さん?』

女「何かしら?」

ナビ『今日男ちゃんと図書館行ってな?面白そうな本を借りてきてん!』

女「あぁこれかしら?もう机の上に出しっぱなしにして」スッ

ナビ『それヤバない?おんなじ名前の人が24人もおったらワケ分からんくなるやん!』ケラケラ

女「ふふっ、そうじゃないのよ」

女「これは解離性障害、いわゆる多重人格の人の話なの」

ナビ『たじゅーじんかく?』

女「一人の人間の中に、何人もの別々の心が生まれてしまうのよ」

ナビ『ぶっ飛んだ設定やんなー』

女「信じられないかも知れないけれど、この本はノンフィクションなの」

ナビ『マジで!?こわっ!』

同僚ナビ『さぁ坊や…お姉さんと遊びましょう…』ワキワキ

ショタナビ『おねーさんこのひと怖い』

ナビ『ありゃ、変なスイッチ入ってもた』

ナビ『ほんで?その人はどうなるん?』

女「統合と言って、バラバラになっていた人格達が一つになるの」

ナビ『ほぇーそうなんや…あ!』

ナビ『読む前に結末聞いてもた…』ガーン

女「あら、ごめんなさい」クスッ

ナビ『(でも…心が一つに、か)』

ナビ『(なんかえぇなぁ♪)』

本日ここまでとします
ありがとうございました

ガーゴイルの話ではあの場所に魔王城あるぽいが、特に何もしてくる気配ないし魔王は魔王で魔族と平和に暮らしていきたいだけって感じなのかな

魔王も実は人間側が攻めてきたから応戦しただけで本当は無害だとか?
今後魔王についてもわかるのだろうか期待乙

-一週間後 王宮前-


ゴゥンゴゥン…

男「ついにこの日が来たか」

ナビ『長旅やんなぁ』

先輩「長時間運転する時はこまめな休憩が必須だ」

先輩「法令では4時間ごとに30分と定められているが、多いに越した事はない」

国王「男くん、久しいな」

男「お久しぶりです、あの時は偉そうな口をききまして…」ペコッ

国王「構わんよ。君の言葉によって、大事な事に気付かされたのだ」

先輩「陛下、カーゴでの移動は身体に堪えます」

先輩「何かあればご無理をなさらず、いつでも仰って下さい」

国王「ありがとう。では宜しく頼むよ」

先輩「それでは出発します。男、ナビちゃん」

男「はい!」

ナビ『はぃなぁ!』

バタンッ

ブォン!ブロロロ…

-港湾倉庫-


キキッ…プシューッ

先輩「ここからシップに乗り込みます」

国王「これがシップか…迫力があるな」

先輩「ご覧になるのは初めてですか?」

国王「報告で知ってはいたがな、執務に追われて来れずじまいだった」



男「空荷で乗るのは初めてだな」

ナビ『向こうで陸軍の人らと合流やもんな、こっちで積んでけばえぇのに』

男「空荷の方が燃費がいいだろ?長距離だから少しでも充填回数を減らしたいのさ」

ナビ『なるほどなー』フムフム

-シップ甲板-


乗組員「総員!国王陛下に敬礼!」

ビシッ!

国王「いつも任務ご苦労。視察にも来られず不義理だった」

先輩「隣国まで約8時間の航行です、少しお休みになりますか?」

国王「いや、シップの運用について乗組員達の話を聞かせてもらうよ」

先輩「承知しました」

ナビ『昼間の海もえぇなー!あ、カモメが飛んでるで!』キャッキャ

男「お前はマイペースだな」アキレ

国王「ナビシステム…魔法石に宿りし人の心か」

-シップ内 カーゴ運転席-


男「…。」ペラッ

ナビ『…。』チョコン

ナビ『(難しい専門用語ばっかやな…)』ムム

男「….難しい専門用語が多いな」フゥ

ナビ『今おんなじ事考えとったわ』クスッ

ナビ『例えばこれなにー?』

男「解離性健忘か、平たく言うと酷い物忘れの事のようだな」フムフム

ナビ『なんや一時期の男ちゃんみたいやな』クスクス

男「酷いな、俺は至って健康だぞ?」

ナビ『冗談やてー。続き読も?』

男「あぁ、そうだな」

-夜 女の執務室-


同僚「男と先輩、行っちまったか」

女「えぇ、今頃隣国から山間を抜けてる頃かしらね」

同僚「…女ちゃん、この後ちょっといいか?」

女「別に構わないけど?」

-王都 酒場街-


[BAR REQUIEM]


カランッ…

同僚「何かさ、気になるんだ」

女「私達が出会った魔族についてね」

同僚「ぶっちゃけ女ちゃん、どう思う?」

女「分からないわ」フルフル

女「私なりに調べてみたんだけど、あの魔族は人間に匹敵する知性を持っているみたいなの」

同僚「じゃー嘘やハッタリじゃねぇって事だよな?あいつの言ってた事」グイッ

女「…なんだか自信なくなって来ちゃったわ」ハァ

女「私達のやろうとしている事って、本当に正しいのかしら…」カラカラ

同僚「…俺達が良かれと思ってした事でさ」

女「遺骨を持ち帰った事?」

同僚「それで戦争の駒を一つ進めちまったんじゃねぇか?って気がしててさ」

女「遺骨を持ち帰った事で荒野の国への派兵が認められ」

女「魔族に対する攻撃の準備が、また一つ進んだんですものね」

同僚「でもよ?遺された人達の事を考えたら放ったらかしになんて出来なかったんだ」

女「私も同じよ。その件で自分を責める必要はないわ」

同僚「どうなっちまうんだろうなー」ギシッ

女「…。」グイッ

-隣国 街道沿い 陸軍キャンプ地-


ザッザッ…

男「先輩お疲れ様です」

ナビ『あれ、国王はんはー?』

先輩「先にお休みになったよ、慣れない移動で疲れたんだろ」シャガミ

先輩「おーあったけぇ、やっぱりキャンプって言ったら焚き火だな」

パチ…パチ

先輩「…夜は冷えるな」ブルッ

男「そうかと思って、こんなのあるんですけど」スッ

先輩「お!気が効くじゃないか」ニカッ

ナビ『まーたお酒かいな!』

男「まぁ固い事言うなって」キュポ

先輩「そーそー、こういう時は体の中から暖めたほうがいいんだ」トクトク


<乾杯!


ナビ『』zzzz

男「…始まっちゃいましたね、荒野の国への派兵」ナデナデ

先輩「また一つ、駒が進んだな」グイッ

男「魔族の本拠地があると言われる北の果て、極寒の大地…」

先輩「荒野の国から北上していけば半日もかからない」

男「…。」

先輩「陛下の前で啖呵切ったんだろ?勇者さんのサポートをするって」

男「今も物流協会の一員としてサポートを…っていうんじゃダメですよね」

先輩「そういう意味で言ったんじゃないだろ」バシッ

男「いたた…はい、そうです」シュン

先輩「まぁ悩むのは分かる、だけど"その時"は着実に迫ってきてるんだ」

男「分かってます」

先輩「お前の剣技なら勇者さんの足手まといになる事はない、そこは自信持て」

男「ですかね」ヘラッ

先輩「…悩んでるのはそこじゃないんだろうな」

男「…。」グイッ

男「魔族…魔王…」

男「それらがどんな存在なのか分からないですけど」

先輩「…。」コク

男「それでも魔族と呼ばれる存在と…そのコミュニティを統べる存在がいて」

男「それで彼らの生活が上手く回っているのならば」

男「今、俺達がやろうとしてる事って…」

先輩「お前、それ俺に言うか?」アキレ

男「あのっ!気を悪くされたならすみません!」アセッ

先輩「冗談だよ。俺とお前の間に勘繰りなんぞ必要ない」クスッ

先輩「お前の考えも理解出来るよ」フゥ

先輩「話せば分かる奴を相手に、わざわざ軍事力で圧倒しようってのは」

男「…侵略、ですよね」ギリッ

先輩「なるほど。お前はこの戦争そのものの根幹に疑問を抱いているわけだな」

男「そうみたいですね…」

先輩「これは俺個人の考えだが」

男「?」

先輩「本当に守りたいものの為なら、俺は誰かを殺す事さえ厭わない」

男「…それは極論ですよ」

先輩「まぁな。だがな、俺達の両手の長さは限られてる」ノビーッ

先輩「ほらな、目一杯伸ばしてもこんなモンだ」ニカッ

男「…。」

先輩「だから、必然的に抱き締められるものの数も限られてくるんだ」

先輩「分かるか?」

男「…。」グイッ

男「分かるけど…納得は出来ないです」ギリッ

-翌朝-


ゴゥンゴゥン…

先輩「それでは出発します」

国王「うむ。陸軍兵士諸君、引き続き任務に当たってくれたまえ」

兵士「はっ!」

兵士「総員!国王陛下に敬礼!」

ビシッ!

ブォン!ブロロロ…

ナビ『山道が続くなぁ』

男「ここら辺を抜ければ、嫌って程真っ平らな道を延々走る事になるさ」ニコッ

ナビ『そっか…なぁ男ちゃん?』

男「んー?」

ナビ『やっとぉ事は戦争のお手伝いやけどさ』

男「…うん」

ナビ『ウチは男ちゃんとこうやってコンビ組んでるの、嬉しいねん』

男「ナビ…」

ナビ『戦争やもん、危ない事もあるかも知れんけどな?』

男「…その時は俺が守るよ」

ナビ『ちゃうやろ?一緒に戦うねんて!』ニシシッ

男「そうだったな」フフッ

ナビ『戦争はなくなって欲しいけど…』

ナビ『男ちゃんとはこうやっていつまでも一緒におりたいな♪』ニカッ

男「あぁ、俺もだ」ニコッ

ブロロロ…

-深夜 西の国 陸軍本部-


ザッザッ…

兵士1「交代だ」

兵士2「お、もうそんな時間か」

兵士2「となると陛下はもうすぐ荒野の国に着くんだな」

兵士1「夜明けごろにはってとこだろうな、ちょうどお前がハニーの夢でも見てる頃さ!」

兵士2「ハニー時々チリペッパーのあいつの夢か!そいつはスイートだな!」

兵士1・2「HAHAHA!!」


ザッ…


[闇よ 月よ 全ての星々よ]

[夜の帳に舞い降りたる汝の名において]

[この者達にひと時の安らかなる眠りを与え給え]

パァァァ…

兵士1「ん?な、なん…」バタッ

兵士2「急に眠気…が」バタッ


ザッザッ…


兵士1・2「」zzzz

-陸軍本部 巨石の間(仮設)-


警備用魔法石「」パァァ

スッ

警備用魔法石「」フッ…


[数多の心の一欠片 全てを統べる暗黒なる意志]

[夢と現の狭間に在りし 老獪なる汝の名において]

[我等が小さき魂を]

[誓いの縁(えにし)で結び給え ]

パァァァ…グワンッ!!

-北の果て 極寒の大地-


ビュオォォォォ…ヒュゥゥゥゥ…




…カッ




ドカァァァァァン!!!!!!

-荒野の国 国境付近 キャンプ地-


男「」zzzz

ナビ『男ちゃん…えへへぇ』zzzz

グラ…グラグラッ…

男「…ん」パチ

男「地震か?…いや」ムクッ

タッタッタッ ガンガン!

先輩「男!起きたか!」ガチャ

男「…あの揺れ方は前に経験があります」ムンズ

ナビ『ほぇ…男ちゃ…ふぎゃっ!』チリンッ



タッタッタッ…



先輩「な、何だ、ありゃ…」ゴクリ

男「き、北の空が…」

ナビ『燃えとぉ…』ゾクッ

-早朝 荒野の国との国境-


ゴゥンゴゥン…

先輩「これが、荒野の国の首領殿から頂戴した書簡です」スッ

警備兵「…確かに。その紋章がここを通過するのは実に20年ぶりの事ですな」

国王「…。」

警備兵「お通ししろ、カーゴ2台だ」クルッ

ブォン!ブロロロ…

男「何だったんだろう、昨夜の…」

ナビ『北の空が真っ赤に燃えとった…真夜中やのにまるで夕焼けみたいに』ブルッ

ナビ『協会とは連絡つかんの?』

男「王国からこれだけ離れてるとな」フルフル

男「陸軍の宿営地を何ヶ所か中継して連絡を取るから時間がかかるんだ」

ナビ『そう考えると転移魔法ってチートなんやなぁ』

男「これだけの物量と人数を転移させようと思ったら、それこそ巨石の力をフルパワーで使わなきゃ無理だろうな」

ピピッ

男「先輩、どうしました?」

先輩『緊急事態だ!』

男「き、緊急事態!?」

先輩『…巨石が作動した』

男「何ですって!!?」

-4時間前-

-西の街 陸軍本部 司令室-


ピピーッ!ピピーッ!


大佐「こんな朝っぱらから何事だ!!」バタンッ

兵士「ほ、報告します!」ビシッ

兵士「例の巨石から、突如高い魔力反応が!!」

大佐「何だと!?くそっ!!」

大佐「物流協会の局長へ連絡しろ!大至急だ!!」

大佐「私は巨石の間へ向かう!!」ダダッ

兵士「了解!」ビシッ

-巨石の間(仮設)-


大佐「何がどうなって…っ!?」バタンッ

大佐「な、なんだこれは…」ゾクッ


オォォォォォオォォォ…


大佐「この禍々しい殺気…妖しい煌めき…」

大佐「これが巨石の力なのか…」ゴクリ

警備兵「た、大佐!」

大佐「状況を説明しろ!」

警備兵「巨石からの魔力反応は依然上昇を続けています!」

警備兵「このままの状態で魔力の暴発が生じた場合…この場所は…!」

大佐「っく…とんでもないモノを押し付けられたもんだな」ギリッ

大佐「総員退避!!巨石から出来るだけ離れろ!!」

[総員退避!繰り返す、総員退避!]ファンファンファン

-物流協会事務局 局長室-


局長「一体何がどうなってるんだ!!」ダンッ

研究員「魔法石の性質から考えて、スタンドアローンで作動する事はあり得ません」

女「動く筈のないものが動いた…」

研究員「考えられる可能性は一つだけです」

局長「…誰かが作動させた、という事か」ギリッ

女「でも、そんな事出来るのって…もしかして勇者さんが?」

局長「可能性はゼロでもないが、勇者殿の性格を考えるとしっくり来ないな」

女「そうですね…正面から正々堂々と、という方ですから」コク

局長「…まさか」ハッ

カチャ

局長「私だ!大佐に再度連絡を取ってくれ!」

局長「大至急、北西地方の集落を当たってくれるよう頼むんだ!!」

女「勇者さん以外に巨石を作動させる事の出来る人って…まさか」

局長「あぁ、勇者殿でなければ彼しかいない」

局長「…賢者殿だ」



カッ…



ドカァァァァァン!!!!

-荒野の国 街道-


男「そ、それじゃ昨夜の赤い光は…!」

先輩『巨石の間と、隣接する陸軍本部を吹き飛ばして魔法攻撃をぶっ放ったらしい』

ナビ『な、なんやて!!?』

男「そ、それじゃ陸軍の人達は!!?」

先輩『大佐がすんでの所で避難させてくれた。爆風に巻き込まれて軽傷者が多数出ているみたいだがな』

先輩『死者は出なかったが、陸軍本部とその周りはめちゃくちゃだ』

男「で、でもなんで今頃になって…」

ナビ『せやな…勇者さん出てきてもぉてるのに』

先輩『俺に心当たりがある』

男「ホントですか!?」

先輩『というか、勇者さん以外に巨石を作動させられそうな人間なんて一人しかいないだろ』

男「まさか…賢者さんが!?」

先輩『恐らくな』

先輩『とにかく俺達はこのまま進むぞ、荒野の国の中心部に入れば少しは状況が掴めるだろう』

男「ここからあと4時間ってところですね、了解です!」カチャ

ナビ『なになに??何が起こってるん??』アワアワ

男「分からない、今はとにかく進むしか…ん?おいあれ何だ?」

ピピーッ ピピーッ

[9時ノ方向ヨリ高速移動体ガ接近中。距離1000、800、600…]

ナビ『な、なんやコレ!めちゃくちゃ速いで!!』

ゴォォッ…バサッ バサッ…

[距離300、200…]

男「あれは…!!」

ナビ『どどどドラゴン!!?』


グォォォォ!!

-物流協会事務局 局長室-


グラグラ…グラ…

局長「…っく、二人とも怪我はないか?」フラ

女「はい、何とか」ヨロケ

研究員「大丈夫です…」フラフラ

局長「しかし今の爆発音…」

研究員「巨石の力が暴発したと見て間違いありません」

ガチャ バタンッ

修道女「お、女さん!」ハァハァ

女「修道女さん!来てくれたのね!」

修道女「外を見て下さい!」

局長「っ!」窓ガララッ

女「北東の空に赤い光が…朝日にはまだ早いわね」

局長「あっちの方角は…北の果て、極寒の大地」

研究員「魔族の本拠地があるとされる地域ですね」

女「それじゃ賢者さんは魔族の本拠地に直接攻撃を…?」

局長「極寒の大地は荒野の国から程近い…賢者殿、なんていうタイミングで」ギリッ

修道女「な、何かとんでもない事が起こるんじゃないでしょうか…」

女「あるいは今の攻撃で何かが始まるか、ね」

女「修道女さん」キッ

修道女「は、はいです!」

-荒野の国 街道-


ゴゥンゴゥン…

男「ナビ!行くぞ!」チャキ

ナビ『はぃな!』ポンッ

ガチャ バタンッ


国王「こ、これがドラゴン…!」ゾクッ

先輩「陛下は車内にいて下さい!」ガチャ バタンッ



ドラゴン「…。」グルル

男「で、でかい…」ゴクリ

魔法石(ナビ)『これが…ドラゴン』ゾクッ

先輩「男!大丈夫か!?」ダダッ

ドラゴン「…人の子よ」

ドラゴン「爺の警告を聞いた筈だ」

男「爺って…あの同僚が会ったっていう…?」

ドラゴン「しかし警告は無視され、お前達は我等に刃を向けた」

ドラゴン「あまつさえ、我等ドラゴン族の根城たる極寒の大地へな」

先輩「警告?なんの事だ!」

ドラゴン「もはや猶予はない、賽は投げられたのだ」

ドラゴン「他でもないお前達自身の手によってな」

ドラゴン「覚悟はよいな?」グルル

先輩「男!来るぞ!」チャキッ

男「た、戦うしかないのか…」

先輩「もう迷ってる暇はないぞ!やらなきゃやられるだけだ!!」

魔法石(ナビ)『せやで男ちゃん!ここを切り抜けな先はないんや!!』

男「くっ…こうするしかないのかよ!」チャキッ

男「ナビ!!」カチャリ

魔法石(ナビ)『はぃな!!』スポッ

ブゥンッッ!パァァァ…

ドラゴン「人の子よ、我が同胞が受けた痛み」

ドラゴン「ここで償ってもらおう!」グォォォォ!!

先輩「おらぁぁぁ!!」ダダッ

男「いくぞ!ナビ!!」ダダッ

魔法剣(ナビ)『やったんでぇぇ!!』パァァァ

-早朝 北西地方 小さな家-


兵士1「ここか!!」バタンッ

兵士2「な、なんだこりゃ!魔法陣!?」ピョンッ

兵士1「禁呪の類か…む?見慣れぬ書物が」スッ

[DSM-5]

兵士2「おい!賢者殿がいたぞ!」


キィ…キィ…


兵士1「賢者殿!呑気に揺り椅子で寛いでる場合じゃ…!」ガシッ ユサユサ

兵士2「け、賢者殿!?」

賢者「ぅぅ…ぁぁ…」ポカーン

-物流協会事務局 局長室-


局長「見つかったか!それで…何だと」

局長「…分かりました、とにかく診療所へお連れして下さい」カチャ

女「賢者さんは!?」

局長「…話せる状態じゃないらしい」フルフル

女「どういう事ですか?」

局長「詳しくは分からないが、何を問いかけても反応がないらしい」

局長「一応生きてはいるが、心ここにあらずといった様子みたいだ」

修道女「心が…?」

局長「研究員さん、考えられる事は?」

研究員「恐らく、巨石に心を飲まれたのかと」

女「心を?じゃ、勇者さんと同じ…」

研究員「いいえ」フルフル

研究員「勇者殿の場合は、彼が人一倍強い善なる心を持っている事もありますが」

研究員「肉体ごと…つまり心と体がセットで取り込まれたので」

局長「…自我を保つのに却って好条件だったわけか」

研究員「恐らく、賢者殿は巨石に自らの心を…つまり巨石をそのままナビシステムとして用いようとしたのかと」

女「心だけをインストールしようとした結果、巨石の力に耐え切れず心を持っていかれた…」

修道女「で、でもそんな事が可能なんですか?」

研究員「理論上不可能ではありません」

研究員「しかし、巨石の力に対抗しうる心の強さが必要になります」

局長「賢者殿の家の中で、恐らく禁呪の類と思われる魔法陣が張られていたそうだ」

局長「そしてDSM-5という謎の書物…」

研究員「禁呪を使って心の増強を図ったという事ですか」

女「しかし失敗した…なんて事なの」フルフル


ブロロロ…キキッ

<プップー


女「来たみたいね」

局長「修道女さん、お願いします」ペコッ

局長「女くんも、気をつけてな」

修道女「はいです!」ダダッ

女「行ってきます!!」ダダッ

-王都郊外 煉瓦橋-


ブロロロ…キキッ

修道女「この辺なら大丈夫でしょう」

同僚「夜中の爆発音…一体何が起こってるんだ?」

同僚ナビ『あの揺れ方、覚えがありますわ…』ブルッ

女「その通りよ、巨石が再び動き出したの」

同僚「何だと!?」

修道女「今は説明してる時間が惜しいです!ここから男さん達の所へ転移します!」

同僚「転移って、荒野の国までカーゴごとか!?」

同僚ナビ『…例のペンダントですわね』

修道女「はい、エルフの強い魔力が込められたこのペンダントと」チャリン

修道女「ナビちゃんの一番の理解者であるどーちゃんと」

修道女「同じく男さんの親友である同僚さんの力を借りれば…!」

同僚ナビ『承知しましたわ!』

修道女「どーちゃん、ナビちゃんの事を強く意識して下さい!」

修道女「同僚さんは男さんの事を!」パァァァ

女「頼んだわよ!」パァァァ

同僚「お、おう!」ムムム

同僚ナビ『ナビさん…長い金髪、深緑色の瞳…』

同僚ナビ『細くて白い指先、よく通る声…』

同僚ナビ『真っ直ぐで純粋、汚れを知らない心…』

修道女「いきます!」キッ

[風の息吹よ 大地の鼓動よ]パァァァァ…

[数多の空を駆け巡りし 勇壮なる汝の名において]

[無限に翔ける翼の力で 我らを導き給え]

修道女「転移します!!」クワッ


バヒュゥゥゥン…!!

-荒野の国 街道-


グォォォォ!!

男「うおっ!」バシュッ

先輩「おらぁぁ!!」ブンッ ザシュッ!!

ドラゴン「痒いわ、人の子よ」ヒュンッ

先輩「な、尻尾で…ぐわぁ!」バシッッ

男「先輩!くそっこのぉぉ!!」チャキッ

ダダッ…ピョンッ

男「ぬぉぉぉ!!」

魔法剣(ナビ)『おりゃぁぁ!!』パァァァ…

ザシュッ!!

ドラゴン「くっ!なかなかやるじゃないか!」グルル

ドラゴン「ならばこれならどうだ…」コォォォ

魔法剣(ナビ)『男ちゃん!なんか来るで!!』

ドラゴン「」ゴワァァァ!!

男「炎を!?くっ…!!」ダダッ

先輩「懐がお留守だぞ!!」ザシュ!

ドラゴン「っ!小賢しいわ!!」

兵士「総員展開!!陛下の乗ったカーゴを守れ!!」ダダダッ



バシュゥゥ…!!


ドラゴン「!」

先輩「ど、同僚のカーゴ!?」

男「みんな!!」

-王立診療所 賢者の病室-


勇者「け、賢者!!」バッ

親父「…バカ野郎」ギリッ

賢者「」zzzz

医師「現状、賢者殿は薬で眠っています」

医師「しかし、薬が切れても意識が戻る事はないでしょう」

研究員「巨石の力に心酔し、ついに心までも食われてしまった…」

勇者「賢者!賢者!!あぁ…」ポロポロ

親父「…泣いてる暇はねぇぞ」グイッ

局長「巨石から放たれた魔法攻撃が極寒の大地へ向かったなら」

局長「魔族からの報復があるかも知れません」

局長「…ある、と考えた方がいいでしょう」ギリッ

親父「男の所へは女達が向かった」

親父「向こうで何が起こってるかは分からんが、今はあいつらを信じるしかねぇ」

局長「勇者殿」

勇者「…はい」スクッ

局長「王国の守りの要である陸軍本部が使い物にならない以上」

局長「今、この王国を魔族から守れるのは勇者殿と剣士殿だけです」

局長「陛下に代わってお願いします、どうか…この国を」フカブカ

研究員「…。」フカブカ

勇者「…任せて下さい」コクッ

勇者「人々を守る!それが勇者たる俺の使命です!!!」キリッ

親父「歳は食っちまったが、俺も手ぇ貸すぜ!!!」クワッ

-荒野の国 街道-


女「二人とも大丈夫!?」バッ

修道女「こ、これが本物のドラゴン…」

同僚「すごく…大きいです…」ゴクリ

同僚ナビ『ふざけてる場合じゃありませんわ!』

ドラゴン「援軍か」フンッ

男「みんな来てくれたのか!」

先輩「全員集合ってか」ニヤッ

ドラゴン「そんなに戦いたいのであれば相手になろうぞ」

バサッ…バサッ…

ドラゴン「我"等"でな」

男「おいおいまさか…」

魔法剣(ナビ)『そっちも援軍かいな!!?』ヒェッ

グルル…ゴガァ…

先輩「頭数を合わせてくれるとは律儀なドラゴン野郎だな」ハァ

女「余裕かましてるけど勝算はあるの?」

先輩「俺には勝利の女神がついてるからな」ニコッ

女「ホントにもう…」クスッ

男「同僚!修道女さん!」

同僚「来ちゃったww」

修道女「お二人共ご無事ですか!?」

同僚ナビ『絶対に凌がなければなりませんわよ、何しろ先輩さんのカーゴには…』チラッ

男「国王陛下が乗っているからな」ギリッ

修道女「どーちゃん!力を貸して下さい!」ギュッ

魔法石(同僚ナビ)『えぇ、喜んで!』

修道女「攻撃役のお二人に、私の新しい転移魔法を付与します!」パァァァ

修道女「いきます!高速転移!!」

男「なんだこれ…体が軽い!」

修道女「視界に入る範囲なら連続で高速転移が出来ます!」

先輩「こいつは凄い…よし、いけるぞ!」チャキッ

ヒュンッ ヒュンッ…

女「さ、同僚くん行くわよ」バタンッ

同僚「最近多いなこのコンビwww」ガチャン!

ブォン!ブロロロ…

同僚「しかし上空でグルグル旋回しちゃってwww」ミアゲ

同僚「まるでエ○ァ量産機だなww」

女「今時、旧劇場版見てる人の方が少ないわよ…そんな事より!」

女「陛下の乗ったカーゴを守るように走り回りつつ…」

同僚「女ちゃんの攻撃魔法で撹乱かwww」

女「それも進化バージョンでね」

同僚「その本なんぞwww?」

女「いくわよ!」パタンッ

[禁書指定 絶対殲滅!爆撃☆どかん]

男「おらぁぁぁ!!」ブンッ!

魔法剣(ナビ)『なぁらぁぁぁ!!』パァァァ

ドラゴン「ふんっ!!」ビシュッ

先輩「当たらないぞ、デカブツ!」ヒュンッ ヒュンッ

修道女「…!」パァァァ

同僚「急旋回からの急旋回そして急加速wwwたーのすぃーwww」ギュオン!ブロロロ…!!

女「喰らいなさい!」パァァァ


ズギャァァン!! ドカァァン!!


兵士「な、なんだこいつら」アゼン

兵士「物流協会って運送屋じゃないのかよ…」

男「はぁ…はぁ…」チャキッ

ドラゴン「やるではないか、人の子よ」ボロッ

先輩「お褒めにあずかりどうも」チャキッ

修道女「み、皆さんお怪我はありませんか!?」

女「えぇ大丈夫よ」

同僚「ようやく大人しくなったか量産機どもwww」

ドラゴン「王国の紋章、そしてその連携…」

ドラゴン「成る程。貴様達が新たなる勇者一行というわけか」グルル

男「へ?」

魔法剣(ナビ)『なんでやねん!』ビシッ

先輩「いやいや、俺達は運送屋で」

女「そうよ勇者だなんて」

同僚「ラブアンドピースがモットーですwww」

同僚ナビ『否定はしませんが鼻につきまくりますわね』ジトッ

修道女「し、シスターもいまーす!」

ドラゴン「新たなる勇者一行の実力、しかと見届けた!」グォォ!

ドラゴン「されば案内しよう、我ら魔なるものの始祖…」

ドラゴン「魔王様の御許へな」バサァッ!


バサァッ グルグル…


同僚「まーた始まったよ量産機コーナーwww」

女「魔王の所へ連れていくって行ってたけれど…」

先輩「向こうから案内してくれるなんて都合が良いじゃないか」ニヤッ

修道女「ま、まさかあの極寒の大地へ!?」

男「…。」ギリッ

魔法剣(ナビ)『男ちゃん、どしたん?』

男「…本当にこのまま戦い続けていいのか?」

魔法剣(ナビ)『男ちゃん…』

男「…。」フルフル

ドラゴン「見るがいい、この世界の理を」


パァァァ…


バヒュゥゥゥン…!!!

本日ここまでとします
ありがとうございました

輸送屋だから攻撃も輸送してます乙

投下します

-王都郊外 煉瓦橋-


カンカンッ!カンカンッ!

親父「逃げられる奴は今すぐ王宮へ逃げろ!」

親父「残ってる陸軍兵士は俺に続け!」

親父「腹が決まった奴だけな」ギロリッ

兵士1「お、俺は行くぞ!」チャキッ

兵士2「王国陸軍の誇りにかけて!剣士殿に遅れは取らん!」チャキッ


ヒュルルル…ズシィィン!!!


親父「っ!おいでなすったか!」チャキッ

ベリアル「…剣士か」フンッ

兵士1「で、でけぇ…」ガタガタ

兵士2「なんだよコイツ…」ブルブル

親父「おいビビってんじゃねぇ!!」クワッ

ベリアル「相手に不足はねぇな」ニヤッ

親父「お互いにな。それじゃ…」

親父「煉瓦橋の死闘と参りますか!」

-西の街 陸軍本部跡-


大佐「ゆ、勇者殿!」ダダッ

勇者「ここにも魔族の報復があるかも知れません」

勇者「手を貸してもらえますか?」

大佐「勿論!人々を守るという使命は我々陸軍も勇者殿と同じ!」

大佐「総員!戦闘配置!勇者殿を援護するんだ!!」


バサッ…バサッ …ズシンッ


デーモン「…現れたな、勇者」ギロリッ

勇者「人々の為!世界の平和の為!」チャキッ

勇者「俺は戦う!!」クワッ

-荒野の国 街道-


兵士1「あいつら全員消えちまった」ポカーン

兵士2「と、とにかく俺達は荒野の国の中心部へ向かうぞ!」ガチャ バタンッ

兵士1「えぇと、エンジンをかけて」キュルル…ブォン!

兵士1「クラッチを踏んで、ん?ギアどうやって入れるんだ?」スコスコ プシュン

兵士2「おいエンストしちまったぞ!何やってんだよ!」

国王「…貸してみろ」キュルル…ブォン!

国王「このタイプのカーゴはマニュアルモードに切り替えねばクラッチ操作は受け付けん」ピッ

国王「男くんはナビシステムを使ったオートモードで運転しているからな」ガチャン!

兵士1「お、おぉ」ナルホド

国王「先輩くんはマニュアルオンリーだから、今の操作は必要ない」

国王「こっちのカーゴは私が運転する、操作について質問はあるか?」

兵士1「だ、大丈夫であります!」ビシッ

兵士2「凄い…陛下もカーゴを運転出来るなんて」

国王「私は一国の王だ」キリッ

国王「では向こうのカーゴは頼むぞ、私が先行するから続くのだ」

兵士1・2「り、了解!」ダダッ

ブォン!ブロロロ…

-亜空間 小さな土地-


バシュゥゥ…!!

男「な、なんだここは」キョロキョロ

女「どうやら再び来てしまったようね」

同僚「ただいましたくなかったなーww」

先輩「なんだこりゃ!?地面が宙に浮いてるぞ!!」

修道女「魔族の本拠地って極寒の大地じゃないんですか!?」


『人の子よ』


男「っ!!」ビクッ

魔法剣(ナビ)『なんやこの声…頭の中に直接…?』

同僚ナビ『それに何ですの?このヒリつくような気配…』ゾクッ


『愚かなる人の子よ』


同僚「初対面で失礼しちゃうわねwwアホだって自覚はあるけどもwww」

先輩「この声が魔王なのか!?どこにいやがる!!」


『お前達は何故戦う?』


先輩「決まってるだろ!お前達魔族を倒して平和を勝ち取る為だ!」

男「…違う」フルフル

修道女「お、男さん?」


『奪う事 殺す事』

『それがお前達の言う平和か?』


女「今回、戦いの口火を切ったのは賢者さん…」

修道女「まさか、魔族はただ単に自衛を…?」


『戦いを望むのならば相手になろう』

『我の元へ来るがよい』


パァァァ…

-亜空間 魔王城-


オォォォォォオォォォ…

男「…ここが」ストッ

同僚「城というよりでっけぇ箱だなwww横○アリーナ位ありそうwww」

女「しかし不思議な場所ね、あれだけ詠唱して消耗した筈の魔力が」

修道女「そうなんです、完全に回復しています」

先輩「さて、どこから入るか」ペタペタ

女「入り口らしいものはないわね」ペタペタ

修道女「お、お二人とも気を付けて下さい!」

同僚「ホント似てきたよなこのカップルwww」

男「…。」ギリッ

魔法剣(ナビ)『男ちゃん?』

男「さっきの声…そして同僚が会ったという魔族の話」

男「やっぱりおかしい…この戦いは!」


『考える事の出来る者は幸いである』

『それが人の子の持つ、最も尊い力だ』


パァァァ ゴゴゴゴ…

先輩「壁が…開いていく」

女「中に入れって事ね」

-魔王城内部-


オォォォォォオォォォ…

先輩「な、何だこりゃ…」ゴクリ

男「巨石なんか比較にならない…」

修道女「なんて巨大な魔法石…!!」

同僚ナビ『ひ、ひぃっ…!』ガクガク

同僚「お、おいこれが魔王の正体だってのか!?」


『人の子よ』

『疑問を抱いた事はなかったか?』


女「疑問…?」


『魔族、魔力、そして魔法』

『全ての魔なる力は同じ始祖を持つ』

『汝らは、魔なる力を以って同じく魔なる存在たる我々と対峙してきたのだ』


先輩「そ、そんな…!」


『我が名は魔王』

『全ての魔なる者の母にして頂』

修道女「じ、じゃあ私達の魔法は元を正せば全て魔王の力…!?」

同僚「魔王というから魔族の親玉だと思ってたが…これじゃ殆ど神様じゃねぇか」

女「そんな…勝てない…勝てる筈がない…」フルフル

先輩「し、しかしここまで来て引き返すわけには!」チャキッ

男「…先輩」グイッ

先輩「…。」

男「俺が行きます」ズイッ

スポンッ カランカランッ…

魔法石(ナビ)『お、男ちゃん?』チリンッ

女「ちょっと男くん!?何言ってるの??」

先輩「剣を捨ててどうやって戦うってんだ!?」

男「…戦いません」フルフル

先輩「戦わない!?」

男「ナビ、付いて来てくれるか?」

魔法石(ナビ)『…当たり前やろ』フフッ

修道女「お、男さん!!」

同僚「…おい」

男「…。」

同僚「絶対戻ってこいよ」

男「あぁ、約束する」ニコッ


パァァァ…

パァァァ…

先輩「男とナビちゃんが…」

女「魔王の中へ吸い込まれていく…」

同僚「男ぉー!!ナビちゃーん!!」

修道女「あぁ…私は」フルフル

修道女「誰に祈ればいいの…?」

-魔王内部-


男「…ん」パチ

ナビ「…ここは?」パチ

『ここは我が胎内』

『全ての魔なる者の生まれ出ずる場所』

男「魔王…あなたは」

男「全部知っていたんですね?」

『我は悠久なる時を越え、全てを見てきた』

『汝ら人の子が、自らを傷つけ合いながらその血で綴った歴史の全てを』

男「人の歴史…魔族とだけじゃない、同じ人間同士での争い」ギリッ

『奪い、奪われ』

『殺し、殺され』

『その血塗られた歴史を連綿と紡いできた汝らに』

『平和を説かれるなど片腹痛いのだ』

男「…何も言い返せませんね」フゥ

男「それなら人間を滅ぼしますか?俺達はいなくなった方がいいと思いますか?」

ナビ「お、男ちゃん!何言うてんの!?」アセッ

『汝らがどう生きるのか、それは汝ら自身で考える事だ』

『考える事、それが汝ら人の子の希望にして』

『責任なのだ』

男「俺は…」

男「俺はただの運送屋です」

男「ただ荷物を積んで、運んで、下ろして」

男「その先にあるものを考えようとしなかった」

男「…里が燃え上がった、あの日までは」

ナビ「せや!里の襲撃は何やったん?魔王はんがやったんとちゃうん!?」

『汝らが手にした魔法石と、その中に取り込まれし善なる魂』

『その暴発の理由は明白、汝らには過ぎた力だったのだ』

男「…あの日から、ずっと考えてきた」

男「俺達は一体何と戦うべきなのかって」

ナビ「男ちゃん…」

男「俺には家族がいて、仲間もいる」

男「守りたい人がいて、守りたい場所がある」

男「その為に剣を抜かなきゃならないなら仕方ない」

男「でも魔王、あなたは…」

男「あなたは俺達が戦うべき敵じゃない」

『されば何とする?人の子よ』

『自らの事しか顧みぬ人の子の間にあって、その思いを貫けるのか?』

男「そ、それは…」

『汝のその欠けた心が砕けて折れてしまわぬと誓えるのか?』

『その弱き心で、本当に誓えるのか?』

ナビ「欠けた心…弱き心…」

男「時間はかかるかも知れません!でもいつか必ず!」

『ぬるいな』

パァァァ…

男「…っく!な、なんだこれは…!!」

ナビ「お、男ちゃん!?」

『汝に我が見てきた歴史を見せよう』

『人の子の、その血塗られた愚かな歴史を』

『これらを見ても尚、同じ事が言えるのか?』

パァァァ…

パァァァ…


<子供は!子供だけはっ!!

<いやぁぁ!!お母さん!!


男「っ!!や、やめろぉぉ!!」


<死にたくない…いやだぁぁ!!

<殺せ、死にたくないならな…


男「やめろ…やめてくれっっ!!」


<ガス室へ送れ、全員だ

<母は祖国、父は同士将軍です!


男「こ、こんな子供まで…」ポロポロ

『醜悪にして愚か』

『凄惨にして非情』

『目を背けるな』

『これが汝ら、人の子の歴史だ』

パァァァ…フッ

男「うぅ…こんなのって…」ポロポロ

ナビ「男ちゃん!!!」ユサユサ

男「うぅ…あぁ…」ポロポロ

『心が折れたか』

『汝の誓いなどそんなものか』

ナビ「か、考えるんや…!男ちゃんにしてあげられる事を!!」

ナビ「欠けた心…弱き心…」

ナビ「…そうか」ハッ

ナビ「男ちゃん…一人にはしぃひんで!!」 スッ

ナビ「」パァァァ

-男の精神世界-


ヒュゥゥ…

ナビ「…ん」パチ

ナビ「久しぶりやな、男ちゃんの心の中」

ナビ「男ちゃんの匂い…好きな匂い」フフッ

ナビ「でも、今は冷たい風が吹いとぉ」ブルッ

ナビ「…悲しみに潰されそうになってるんやな」

ナビ「今行くで!男ちゃん!!」ダダッ

ナビ「男ちゃん!!」

男「…。」ポロポロ

ナビ「…もう大丈夫やで」ニコッ

ギュッ

ナビ「悲しかったなぁ?苦しかったんやなぁ?」ナデナデ

男「俺…俺…」ポロポロ

ナビ「一人で苦しまんでえぇよ、ウチと半分こしよ?」ナデナデ

クイッ

男「ナビ…ん…」チュッ

ナビ「男ちゃ…っ」チュッ チュ…

パァァァ…

-男ちゃん?巨石の中で言った事覚えとぉ?-

-巨石の中で?

-ウチと一つになろ?って-

-あぁ、覚えてるよ-

-あれが答えやったんよ-

-答え?-

-男ちゃんの欠けてしまった心-

-何故かウチの中に置き去りにされてもた記憶-

-男ちゃんの物忘れも-

-運転中に意識を失ったんも-

-全部理由があったんよ-

-理由?-

-それはね…ウチ-

-ナビが理由?-

-そう、魔法石に男ちゃんの心を写し取る時-

-ウチという人格が生まれた…生まれてもた-

-だってナビシステムってそういうものじゃないか-

-ウチらの場合ちゃうねん、ウチはな?-

-男ちゃんの心の欠片、解離した人格-

-あの本に出てきた…-

-せやからな?一つにならなアカンねん-

-そしたら男ちゃん、乗り越えられるよ-

-この悲しみを、失意を-

-ウチな?男ちゃんから色んなモンいーっぱいもらってんかぁ-

-俺から?-

-せやでー。沢山の思い出や、色んな人との出会い-

-何より、胸いっぱいの慈しみ-

-ぜーんぶ男ちゃんがくれたモンや-

-ナビお前、何言って…-

-あったかい…男ちゃんの気持ち-

-ちゃんと返すからな?-

-心が一つになったら、男ちゃんはもう大丈夫-

-慈しみに満ちたその心が強さを兼ね備えられたら、もう最強や!-

-そんな…ナビ…お前-

-なんてったってウチらは最強のコンビやかんな♪-

-でも多分、一つになったらこうやってお話する事はで、出来ひんくなるから-

-おい!ナビ!何言って…!-

-さ、最後に…うぅ…!い、言わせて…な?-

-お、男ちゃん?いっぱいいっぱいありがとうな-



『愛してんで』



パァァァ…

-魔王内部-


男「っ!!!」ビクッ

男「な、ナビ!!」バッ

魔法石「」チリンッ

男「そんな…お前…!!」ポロポロ

男「…っく!…うっ…!!」ポロポロ

『欠けた心が一つになったか』

『されば再び聞こう、汝の答えを』

男「…っく!!!」ギリリッ

男「…。」グシグシ

男「…魔王、あなたは考える事こそが人間の最も尊い力だと言った」

男「だがな、人間にはもう一つ、大きな力があるんだ」

『大きな力?』

男「それは慈しみ…人を愛する心だ」

『愛…だと』

男「俺達は確かに愚かかも知れない」

男「過ちを繰り返して来たかも知れない」

男「…過去を変える事は出来ない」

男「だけど、未来を変える事は出来る」

男「誰かを愛する気持ちさえあれば、みんながほんの少しずつ優しくなれれば」

男「俺達は戦いを捨てて生きられるんだ!!」

『誓えるのか?我が前で』

男「あぁ、誓うよ」

男「時間は掛かっても、必ず成し遂げてみせる」

男「俺の相方と約束したんだ」ニコッ

『心に強さと慈しみが満ちたか』

『…汝の誓い、しかと聞いた』

『違えるでないぞ』


パァァァ…

-魔王城内部-


パァァァ…

男「」フワッ

ヒュルルル…ストンッ

同僚「お、男!!」ダダッ

先輩「お前…無茶しやがって!!」ヒシッ

男「…。」

修道女「で、でもご無事なようで何よりです」ウルウル

女「そうね…それで、どうなったの?」

男「…終わったよ」コクッ

先輩「終わった?戦いがって事か?」

同僚ナビ『あの…お、男さん…??』

修道女「どーちゃん、どうしましたか?」

同僚ナビ『ナビさんの気配が…ナビさんはどうなさったんですか!?』

魔法石「」チリンッ

女「え…ナビちゃん??」

『人の子らよ』

『その者の、愛で…慈しみで世界を変えるという誓い』

『しかと聞いたぞ』

『誓いを違える事の無きよう』

『忘れるな』

『我は見ている』


同僚ナビ『男さん!答えて下さいまし!!』

修道女「い、一体何があったんですか!?」

男「…っく…あぁ…」ポロポロ

男「あぁぁ…ナビぃぃ…!!」ポロポロ

男「うわぁぁぁ…!!」ポロポロ

-王都郊外 煉瓦橋-


キィン!ガキィィン!

親父「やるじゃねぇかよ…!」ギリギリッ

ベリアル「お前もな!…む」スッ

親父「のわっ!急に退くなよ!」ヨロッ

ベリアル「…剣士、貴様の息子が事を成したようだ」シマイ

親父「男が…?」

ベリアル「ここは退く。だが戦いたくなったらいつでも儂を呼べ」

ベリアル「老いて枯れる前にな」ニヤッ

親父「てめぇ!どういう意味だ!!」

ビュン!バサッ バサッ…

兵士1「い、行っちまった」

兵士2「勝ったのか!?」

親父「分からん…なんとも歯切れの悪い感じだが」シマイ

親父「王都は守れたみたいだな」フゥ

-西の街 陸軍本部-


デーモン「む?」ピタッ

勇者「な、なんだ急に!」

デーモン「…成る程、新たなる勇者が事を収めたそうだ」

勇者「新たなる勇者…男くん達か!」

デーモン「誓いを違えるなと、魔王様からの伝言だ」

勇者「ま、魔王と誓い!?」

デーモン「さらばだ」ヒュンッ

大佐「な、何がどうなってるんだ…?」ポカーン

勇者「分かりません…しかし最悪の事態は免れたみたいです」シマイ

勇者「剣士の息子達によって、ね」ニコッ

-3ヶ月後 物流倉庫 事務所-


先輩「ホントに行っちまうんだな」

男「魔王と約束しちゃいましたから」

女「賢者さんの抜けた穴…陛下の側近のポストを、まさか男くんが務めるとはね」

男「あ、でも所属はあくまで物流協会だからな?国の仕事はあくまで補佐で…」

配車係「本業の運送屋の傍ら、アルバイトで国の仕事って事ですか??」

女「普通逆でしょ」クスッ

男「そこは譲れないよ、俺はあくまで一般市民なんだ」

先輩「事の顛末を聞いた陛下からの直々のご指名だからな」

男「一般市民だからこそ分かること、感じる事…」

男「そういう事を国政にフィードバックして欲しいって仰ってました」

男「あ、それと荒野の国へ遺骨を届けた二人の事も気にしてたけど?」

男「王国議会はいつでも歓迎するってさ」クスッ

女「私はそんなガラじゃないわ、同僚くんなんか尚更でしょ」クスクス

男「…正直、どんな事が出来るのか分からないけど」チリンッ

男「こいつと一緒に頑張ります」ニコッ

-王都郊外 煉瓦橋-


リンゴーン リーンゴーン…

修道女「行っちゃいましたね男さん」テクテク

同僚「まぁ所属はあくまで物流協会なんだしよwwwなんも変わらんべwww」

修道女「女さんと同僚さんにもそういうお話があったと聞きましたけど…」

同僚「例の遺骨の件でな」

同僚「有難い話だが、国の仕事ってガラじゃねぇよ俺はwww」ケラケラ

修道女「意外と向いてるかも知れませんよ?」

同僚「マジでwww」

修道女「同僚さんの咄嗟の判断や機転は、まさに策士って感じじゃないですか」フフッ

同僚「それ褒められてんのかwww?」ケラケラ

テクテク

同僚「さて、ちゃんと答えてなかったけども」

修道女「?」

同僚「ってか気付いてすらいなかったけども」

修道女「??」

同僚「…月が綺麗だな」ニコッ

修道女「!」

修道女「…まだ昼間ですよ?」クスッ

同僚「うるっせーな」ニカッ

-物流協会事務局 局長室-


局長「巨石の魔力が消えた?」

研究員「はい、前回のように沈黙しているのではなく」

研究員「魔力反応が完全に消滅しました」

研究員「今やただの巨大な石ころです」

局長「一体何が…む!それじゃ賢者殿は!?」

-王立診療所 賢者の病室-


賢者「」zzzz

勇者「…。」ウツラウツラ

親父「花の替えを持ってきたぞ」ガチャ

勇者「…ん、おぉガーベラか」ノビーッ

親父「花言葉も加味して、な」

勇者「気が利いてるな」ニコッ

賢者「」zzzz

親父「…しかしいつまで寝てやがるんだか」ハァ

勇者「まぁのんびり待とうよ…ん?」

賢者「…っ、ここは」パチ

勇者・親父「!!!」

-西の街 陸軍本部跡-


カンッカンッ ガガガガッ…

兵士1「しかし見事に木っ端微塵だ」

兵士2「兵舎から何からな」

兵士1「でもま!何とかなるだろ!」

兵士2「あぁ!だって俺達生きてるんだからな」

『人の子よ』

『汝らが巨石と呼びし魔法石』

『やはり汝らには過ぎた力故』

『その魔力、貰い受けよう』

男「そろそろ昼時か…あ、ここのパブランチ美味しいんだっけ」テクテク



タッタッタッ

『その代わり』

『この先の道で汝の心が折れぬよう』

『巨石の魔力を以って』

『器を授けよう』

男「あーでもあっちのカフェもいいな、それとも…」



タッタッタッ…



「男ちゃん!!」

男「ん?」クルッ

少女「お、男ちゃん!!」ハァハァ

男「え…お、お前…」パクパク

少女「男ちゃーん!!」ガバッ

男「お前…まさか、本当にナビなのか…!!?」ギュッ

少女「当たり前やろ!この顔を見忘れたんか!?」プンスカ

男「だ、だってお前あの時!」

少女「男ちゃ…会いたかった…」グスッ

少女「会いたかったよぉぉ…!」ウルウル

男「あ!ちょ!タイム!!」

少女「な、なんやねん!」アセッ

男「…一人で全部決めちまいやがって」グスッ

男「勝手にいなくなっちまいやがって!」ウルウル

男「大事なこと!俺はまだ何も言えてないのに!!」クワッ

少女「ぅ…ごめん…」シュン

男「…いいよ」クスッ

少女「男ちゃん…ウチな?ウチな??」

男「最後は俺に言わせてくれよ」

男「…おかえりなさい」ニコッ





男「愛してるよ」



「剣と魔法と運送業」これにて完結となります
読んで頂いた方、ありがとうございました
レス下さった方、励みになりました
スレ少し残りましたので質問等ありましたらお答えします

先輩と女は付き合ってるの?
親父さんに正式に話をしに行った?


面白かった


最初は運送業ってなんぞって引かれて読み始めけど面白かった

完結しましたのでレス返していきたいと思います

>>26
26
初レスありがとうございます
昇華…出来ていたらいいのですが
最後まで読んで頂けていたら幸いです

>>164
レス遅くなりすみません
長ーいお話になってしまいましたが、読んで頂けていたら幸いです

>>164
修道女「所謂一目惚れ…という奴なんだと思います///」

同僚ナビ『通常のナビはご指摘の通り人工精霊をモチーフにしていますわ』

少女「ウチの場合はそれプラス解離性障害とか境界性パーソナリティ障害の要素とかも加わってるでー」

>>167
知りませんでしたが確かにタイトル似てますね
書籍化されている作品と並べて頂けるだけでも光栄です、ありがとうございます

>>171
同僚「確かに鬱陶しいっすよねwwサーセンww」

同僚「真面目な話をする時との落差をつける為なので、ご辛抱下さい!」ペコッ

>>172
フォローして下さり恐縮です
読む方によって様々な意見があると思うので、どちらの意見も真剣に受け取らせて頂きました

>>229
同僚「実は密かに狙ってたっすwww」

男「そうはさせない」ムムム

>>240
しっかり読み込んで下さり有難うございます
展開の性急さは自覚がありました…今後に活かしていきたいと思います
ご意見ありがとうございます

>>548
レスありがとうございます
無事に完結となりましたので、最後まで
読んで頂ければ幸いです

>>549
時間をかけて読み込んで下さりありがとうございます
すんごい長くなってしまいましたが、最後まで読んで頂ければ幸いです
同僚「でしょーwwwあざーすwww」

>>581
レスありがとうございます
ご指摘の伏線は一応回収しましたが、気になる点等あればご指摘下さい

>>621
レスありがとうございます
ご指摘の点は巨石についてですかね?
レス頂いた時点では理論上暴発の可能性はない、という判断から放置されていました
それが後々…という事でご理解頂ければ

>>661
レスありがとうございます
その一言がモチベーションになりました

>>687
レスありがとうございます
オリジナルは少数派なので読んで下さる方がいてくれて嬉しかったです

男「最後に触れましたけど、ナビは殆ど別人格のような存在なので…」

少女「まぁ男ちゃん見た目可愛いから、ナルでもえぇんちゃう?」ニヤニヤ

>>716
お話の世界に深く入り込んで下さりありがとうございます
ご指摘の点が、お話の中で伝えたい事の一つでした

>>739
真剣に考察して下さり感激です
もしかして>>716さんですかね?
魔王についてはああいう形での登場を当初から予定していたのですが、予想を上回れていたら嬉しいです

>>783
レスありがとうございます
気を抜くとすぐ運送業要素がどっか行っちゃうので入れてみました

>>826
女「結局おじ様の所へは行けずじまいだったわね」

先輩「というか俺は君からの返事を待ってたんだけどな」

女「あらそうだったわね、じゃこれで返事という事でいいかしら…んっ」チュ

先輩「んむっ…確かに頂戴しました」クスッ

>>827
レスありがとうございます
率直にそう言って頂けて嬉しいです

>>828
レスありがとうございます
運送業要素すぐどっか行っちゃうんですけどね…楽しんで頂けたなら幸いです

気が付いたものは拾ったつもりですが、もし抜けてたらすみません
「俺のレス無視すんなコラ!」って言って下さればお返事させて頂きます
これ以外にも乙レスいっぱい頂きました
重ねてお礼申し上げます

くぅ~疲れましたw これにて完結です!
実は、ネタレスしたら代行の話を持ちかけられたのが始まりでした
本当は話のネタなかったのですが←
ご厚意を無駄にするわけには行かないので流行りのネタで挑んでみた所存ですw
以下、まどか達のみんなへのメッセジをどぞ

まどか「みんな、見てくれてありがとう
ちょっと腹黒なところも見えちゃったけど・・・気にしないでね!」

さやか「いやーありがと!
私のかわいさは二十分に伝わったかな?」

マミ「見てくれたのは嬉しいけどちょっと恥ずかしいわね・・・」

京子「見てくれありがとな!
正直、作中で言った私の気持ちは本当だよ!」

ほむら「・・・ありがと」ファサ

では、

まどか、さやか、マミ、京子、ほむら、俺「皆さんありがとうございました!」



まどか、さやか、マミ、京子、ほむら「って、なんで俺くんが!?
改めまして、ありがとうございました!」

本当の本当に終わり

全レスは止めとけ

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